説明

EGR装置付き過給エンジンの制御装置

【課題】EGR装置付きの過給エンジンにおいて、ドライバからの加速要求があったときのエンジンの加速レスポンスを向上させる。
【解決手段】エンジンに対する加速要求が有り、且つ、吸気通路10内の圧力が排気通路16内の圧力よりも高い場合にはEGR弁24を開いた状態にする。これにより、吸気通路10から排気通路16へEGR通路22を通って空気を吹き抜けさせ、タービン8に流れ込むガスの体積流量を増大させる。その際には冷却水弁40を閉じ、EGRクーラ26A、26BによるEGR通路22を通過するガスの冷却を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR装置とターボ過給機とを備えるエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004−100508号公報には、EGR装置付きの過給エンジンにおけるEGR制御に関する技術が開示されている。この公報に開示された技術は、吸気圧が排気圧よりも高い状況ではEGR弁を閉じ、それにより吸気通路から排気通路への空気の逆流を防止することで、エンジンにおける空気過剰率の低下を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−100508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ターボ過給機を備えた過給エンジンには、自然吸気型のエンジンに比較して、ドライバからの加速要求に対するレスポンスが良くないという問題がある。この問題に関しては、ターボ過給機の改良などの様々なアプローチによって改善が試みられている。本発明が達成しようとする課題もこの問題に関するものであり、具体的には、EGR装置付きの過給エンジンにおいて、そのEGR装置を有効に利用することによってエンジンの加速レスポンスの向上を図ることが本発明の達成しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、上記の課題を達成するため、排気通路のタービンよりも上流の部位を吸気通路に接続するEGR通路と、同EGR通路に設けられたEGR弁とを有するEGR装置付きの過給エンジンの制御装置において、
前記エンジンに対する加速要求の有無を判定する手段と、
前記吸気通路内の圧力と前記排気通路内の圧力のどちらが高いかを判定する手段と、
前記加速要求が有り、且つ、前記吸気通路内の圧力が前記排気通路内の圧力よりも高い場合に、前記EGR弁を開いた状態にするEGR弁制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、
前記EGR装置は前記EGR通路に設けられたEGRクーラをさらに有し、
前記制御装置は、前記EGR弁制御手段によって前記EGR弁が開いた状態にされる場合には、前記EGRクーラによる前記EGR通路を通過するガスの冷却を制限するEGRクーラ制御手段をさらに備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明によれば、吸気通路から排気通路へEGR通路を通って空気が吹き抜けるようになるので、タービンの回転数が引き上げられ、それによりエンジンの加速レスポンスが向上する。
【0008】
第2の発明によれば、吸気通路から排気通路へEGR通路を通って吹き抜ける空気の体積流量の減少が抑えられ、タービンに流入するガスの体積流量の低下を抑えることができるだけでなく、吹き抜ける空気の温度低下を抑制することによってタービン温度の低下を抑制することもできる。これにより、第1の発明によって得られる効果が小さくなるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態の制御装置が適用されるEGR装置付き過給エンジンの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態にて実行されるEGR弁制御の内容を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態にて実行される冷却水弁制御の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態の制御装置が適用される過給エンジンの構成を示す概略図である。この過給エンジンのエンジン本体2はガソリンエンジンでもよいしディーゼルエンジンでもよい。図1には複数のラインが描かれているが、このうち実線で示すラインはガス(空気及び排気ガス)が流れるラインであり、点線で示されるラインは冷却水が流れるラインである。
【0012】
本実施の形態にかかる過給エンジンは、排気ガスのエネルギを利用して空気(新気)を圧縮するターボ過給機4を備えている。ターボ過給機4のコンプレッサ6は吸気通路10に配置され、タービン8は排気通路16に配置されている。吸気通路10におけるコンプレッサ6の下流にはインタークーラ12が取り付けられ、さらにその下流にはスロットル14が配置されている。また、本実施の形態にかかる過給エンジンは、排気通路16から吸気通路10へ排気ガスを再循環させるEGR装置20を搭載している。EGR装置20は、排気通路16のタービン8よりも上流の部位を吸気通路10のスロットル14よりも下流の部位に接続するEGR通路22と、EGR通路22に設けられるEGR弁24、EGRクーラ26A、26B及びEGR触媒28によって構成されている。EGR弁24は最も吸気通路10に近い位置に配置され、EGR触媒28は排気通路16に近い位置に配置されている。EGRクーラ26A、26Bは、EGR弁24とEGR触媒28の間に配置されている。なお、後述するように、EGRクーラ26A、26Bは、冷却水の供給系統が異なるEGRクーラ26AとEGRクーラ26Bの集合体である。
【0013】
本実施の形態にかかる過給エンジンは、2系統の冷却システム30、50を備えている。一方の冷却システム30は主としてエンジン本体2を冷却するための冷却システムであり、比較的高水温の冷却水が流れるようになっている(以下、高水温冷却システムという)。もう一方の冷却システム50は主としてインタークーラ12を冷却するための冷却システムであり、比較的低水温の冷却水が流れるようになっている(以下、低水温冷却システムという)。
【0014】
高水温冷却システム30はメインラジエータ32を備え、また、メインラジエータ32とエンジン本体2とを巡る冷却水通路42を備えている。メインラジエータ32の出口には冷却水をエンジン本体2に送り出すための電動ポンプ34が設けられ、メインラジエータ32の入口にはサーモスタット36が設けられている。サーモスタット36にはメインラジエータ32をバイパスして電動ポンプ34の入口側に接続されるバイパス通路46が接続されている。サーモスタット36は、冷却水通路42を流れる冷却水の温度に応じて、冷却水が流れる方向をメインラジエータ32からバイパス通路46へ、或いは、バイパス通路46からメインラジエータ32へと切り替える。また、冷却水通路42の途中には、エンジンの始動時に冷却水を加熱して温めるためのヒータ38が取り付けられている。さらに、高水温冷却システム30は、冷却水通路42の途中から分岐してEGRクーラ26A内を通り、そして、電動ポンプ34の入口側に接続される冷却水通路44を備えている。冷却水通路44におけるEGRクーラ26Aの上流の部位には冷却水弁40が設けられている。
【0015】
低水温冷却システム50は、メインラジエータ32よりも小型のサブラジエータ52と、サブラジエータ52で冷却された冷却水が循環する冷却水通路56とを備えている。冷却水通路56は、サブラジエータ52、インタークーラ12、EGRクーラ26B、そして、ターボ過給機4を巡るように配管されている。サブラジエータ52の出口には冷却水をインタークーラ12に送り出すための電動ポンプ54が設けられている。電動ポンプ54によって送り出される冷却水は、インタークーラ12を通った後にEGRクーラ26Bを通り、さらに、ターボ過給機4を通って再びサブラジエータ52に戻るようになっている。
【0016】
本実施の形態にかかる過給エンジンは、その運転を図示しないECU(Electronic Control Unit)によって制御される。ECUによって行われる過給エンジンの制御には、EGR弁24の制御が含まれている。また、冷却水弁40の制御もECUによって行われる過給エンジンの制御のうちの1つである。以下、これらの制御の内容についてフローチャートを用いて説明する。
【0017】
図2は、本実施の形態にて実行されるEGR弁制御の内容を示すフローチャートである。最初のステップS11では、ドライバからのエンジンに対する加速要求の有無が判定される。加速要求の有無は、具体的には、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量とその踏み込み速度から判断することができる。加速要求が無い場合には、現在のEGR弁24の開度がそのまま維持される。なお、ECUは、本フローチャートによるEGR弁24の制御とは別に、目標EGR率に基づいたEGR弁24の制御も行っている。EGR弁24は、通常は実EGR率が目標EGR率になるように操作されているが、ステップS11と次に述べるステップS12の条件が整った場合にのみ、後述のステップS13の操作が割り込みで行われる。
【0018】
ドライバからの加速要求が有る場合には、次のステップS12において、吸気通路10内の圧力(吸気圧)と排気通路16内の圧力(排気圧)のどちらか高いか判定される。これらの圧力はセンサによって直接計測することもできるし、モデルを用いた計算によって推測することもできる。排気圧が吸気圧よりも高い場合には、EGR弁24を開くことで、排気通路16から吸気通路10へ排気ガスの再循環が行われるようになる。本フローチャートによれば、排気圧が吸気圧よりも高い場合には、現在のEGR弁24の開度がそのまま維持される。
【0019】
一方、吸気圧が排気圧よりも高い場合には、本フローチャートによれば、EGR弁24は開いた状態にされる(ステップS13)。EGR弁24が開いた状態であれば、吸気通路10から排気通路16へEGR通路22を通って空気が吹き抜けるようになる。これにより、タービン8に流入するガスの体積流量が増大し、タービン8の回転数が引き上げられる。つまり、本フローチャートによるEGR弁制御によれば、ドライバからの加速要求があったときにはEGR通路22内の空気の逆流を利用してタービン8の回転数を引き上げることができ、それによりエンジンの加速レスポンスを向上させることができる。
【0020】
図3は、本実施の形態にて実行される冷却水弁制御の内容を示すフローチャートである。最初のステップS21では、エンジンの始動時かどうか判定される。エンジンの始動時とは、例えば、エンジンの始動スイッチがオンにされてから冷却水通路42を循環する冷却水の温度が所定の基準値を超えるまでの間とすることができる。始動スイッチがオンにされることで、高水温冷却システム30と低水温冷却システム50の双方において電動ポンプ34、54の作動がオンにされて冷却水の循環が開始される。そして、現在がエンジンの始動時に含まれる場合には、冷却水弁40は開いた状態とされる(ステップS25)。冷却水弁40が開かれていることで、冷却水の一部は冷却水通路42から冷却水通路44に流れてEGRクーラ26A内を通過する。その際、EGRクーラ26Aで回収された排気ガスの廃熱が冷却水に受け渡される。これにより冷却水の温度が高まり、エンジン本体2の暖機が促進されることになる。
【0021】
冷却水の水温が上昇してエンジンの始動時を脱した場合には、次に、EGR触媒28の床温が計測され、その計測温度が所定の基準温度を超えているかどうか判定される(ステップS22)。その判定の結果、EGR触媒28の床温が基準温度を超えている場合には、冷却水弁40は開いた状態とされてEGRクーラ26Aに冷却水が通される(ステップS25)。EGR触媒28の過熱による浄化性能の低下を防ぐためである。
【0022】
EGR触媒28の床温が基準温度を超えていないのであれば、次に、軽負荷で定常走行しているかどうか判定される(ステップS23)。軽負荷で定常走行している場合には排気圧が吸気圧よりも高くなるため、排気通路16から吸気通路10へ排気ガスの再循環が行われる。
【0023】
軽負荷定常走行時、すなわち、排気ガスの再循環時には、再循環される排気ガス(EGRガス)の温度が所定の閾値を超えているかどうか判定される(ステップS24)。EGRガスの温度はEGRクーラ26Bの出口に取り付けられた図示しない温度センサによって計測される。EGRガスの温度の閾値以下であるならば、冷却水弁40は閉じた状態とされる(ステップS26)。冷却水弁40が閉じられることで、冷却水通路42から冷却水通路44への冷却水の流れ込みがなくなり、その分、電動ポンプ34の負荷は下げられる。電動ポンプ34の負荷を減らすことでエンジン全体としての燃費は改善する。この場合、EGRクーラ26Aへの冷却水の供給は停止されるが、低水温冷却システム50の電動ポンプ54は作動しているので、低水温側のEGRクーラ26Bへの冷却水の供給は続けられる。EGRガスの温度が閾値を超えているのであれば、冷却水弁40は開いた状態とされて高水温側のEGRクーラ26Aにも冷却水が通される(ステップS25)。
【0024】
一方、ステップS23の判定の結果が軽負荷定常走行ではない場合、すなわち、ドライバによって加速が要求されている場合には、次のような処理が行われる。
【0025】
前述のEGR弁制御によれば、ドライバからの加速要求が有る場合には、吸気圧が排気圧よりも高い状況においてEGR弁24が開かれ、EGR通路22を吹き抜けた空気によってタービン回転数を上げることが行われている。その際、EGR通路22を吹き抜ける空気がEGRクーラ26A、26Bで冷却されると、空気の体積流量が減少するとともに温度も低下し、空気の導入によるタービン回転数の引き上げ効果は低下してしまう。したがって、エンジンの加速レスポンスを向上させるという観点からは、EGRクーラ26A、26BによるEGR通路内ガスの冷却は制限したい。
【0026】
そこで、加速が要求されている場合には、冷却水弁40は閉じられてEGRクーラ26Aへの冷却水の供給は停止される(ステップS26)。これにより、EGR通路22を吹き抜ける空気の冷却は制限されるので、空気の体積流量の減少と温度低下は抑えられ、空気の導入によるタービン回転数の引き上げ効果を高く維持することが可能となる。つまり、本実施の形態にて実行される冷却水弁制御によれば、前述のEGR弁制御との組み合わせによって、ドライバからの加速要求があったときのエンジンの加速レスポンスを向上させることができる。
【0027】
以上が本発明の実施の形態についての説明である。ただし、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、ドライバからの加速要求が有り、且つ、吸気圧が排気圧よりも高い場合に限り、低水温冷却システム50の側においても一時的に電動ポンプ54を停止させ、EGRクーラ26Bへの冷却水の供給を停止するようにしてもよい。或いは、EGRクーラ26Bをバイパスする冷却水通路を別に設け、ドライバからの加速要求が有り、且つ、吸気圧が排気圧よりも高い場合には、EGRクーラ26Bをバイパスして冷却水が流れるようにしてもよい。EGRクーラ26Aに加えてEGRクーラ26Bへの冷却水の供給も停止することで、冷却による空気の体積流量の減少をより抑えることができ、空気の導入によるタービン回転数の引き上げ効果をより高めることができる。
【0028】
また、上述の実施の形態では、冷却水の系統が異なる2つのEGRクーラが設けられているが、何れか一方のみを設けることでもよい。さらに、実施の形態のように2系統の冷却システムを有するエンジンではなく、冷却システムを1系統のみ有するエンジンにも本発明は適用可能である。その場合、EGRクーラはエンジン本体やインタークーラ等の他の要素とともに、その1系統の冷却システムにて冷却されることになる。さらに、本発明はEGRクーラを備えないエンジンにも適用することができる。加速レスポンスを向上させるという課題は、前述のEGR弁制御のみでも達成することができるからである。
【0029】
2 エンジン本体
4 ターボ過給機
6 コンプレッサ
8 タービン
10 吸気通路
12 インタークーラ
14 スロットル
16 排気通路
20 EGR装置
22 EGR通路
24 EGR弁
26A EGRクーラ(高水温)
26B EGRクーラ(低水温)
28 EGR触媒
30 高水温冷却システム
32 メインラジエータ
34 電動ポンプ
40 冷却水弁
50 低水温冷却システム
52 サブラジエータ
54 電動ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路のタービンよりも上流の部位を吸気通路に接続するEGR通路と同EGR通路に設けられたEGR弁とを有するEGR装置付きの過給エンジンの制御装置において、
前記エンジンに対する加速要求の有無を判定する手段と、
前記吸気通路内の圧力と前記排気通路内の圧力のどちらが高いかを判定する手段と、
前記加速要求が有り、且つ、前記吸気通路内の圧力が前記排気通路内の圧力よりも高い場合に、前記EGR弁を開いた状態にするEGR弁制御手段と、
を備えることを特徴とするEGR装置付き過給エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記EGR装置は前記EGR通路に設けられたEGRクーラをさらに有し、
前記制御装置は、前記EGR弁制御手段によって前記EGR弁が開いた状態にされる場合には、前記EGRクーラによる前記EGR通路を通過するガスの冷却を制限するEGRクーラ制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のEGR装置付き過給エンジンの制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−202315(P2012−202315A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68373(P2011−68373)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】