FePt系磁性層を備える積層体構造物およびそれを用いた磁気抵抗効果素子
【課題】 300℃以下の温度において、L10構造FePt規則合金が得られるFePt系磁性層を備える積層体構造物を提案する。
【解決手段】 積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成される。
【解決手段】 積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FePt系磁性層を備える積層体構造物に関し、特に、FePt合金の規則化温度を300℃以下に低減することができ、かつ、高保磁力を備えることを可能にする積層体構造物に関するものである。本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物は、例えば、磁気抵抗効果素子用のバイアス磁界印加用のハードマグネット、マイクロウェブアシスト記録の発振素子、次世代の磁気記録媒体等に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
巨大な一軸結晶磁気異方性を有するL10構造FePt規則合金は、ナノサイズの超微細粒子であっても強磁性を維持することができるため、次世代の超高密度磁気記録媒体材料として注目を集めている。
【0003】
また、FePt規則合金は、その高い一軸磁気異方性を有するがゆえに、磁石としての用途も有望視されている。FePtはNdやSm系などの希土類磁石と比較して、耐食性および耐酸化性に優れるというメリットもある。
【0004】
L10構造FePt規則合金は室温において熱力学的に安定である。しかしながらスパッタ法等によって成膜されたFePt薄膜は、その成膜過程において高温に存在する規則−不規則変態点を経ていないために、規則構造に変態すること(規則化すること)ができない。このため、L10規則構造を得るために、加熱した基板の上に成膜をおこなったり、あるいは、成膜後に不規則合金薄膜を熱処理するなど、通常、500℃を超える高温プロセスが必要とされる。
【0005】
しかしながら、例えば、薄膜磁気ヘッドを備えるハードディスク装置などに使用されている構成材料は、せいぜい300℃前後までの耐性を有するに留まり、500℃を超える高温プロセスに対する耐性は備えていないのが現状である。従って、300℃以下の温度において、L10構造FePt規則合金が得られる、FePt系磁性層を備える積層体構造物の提案が要望されている。
【0006】
本願発明の積層構造に特に関連があると思われる先行技術として、特開2003−313659号公報がある。このものは、支持基板の上に、シード層、下地層、L10規則合金膜を順次積層した構造を開示している。この提案によれば、規則化温度は下地材料にかかわりなく、残留酸素濃度で制御できることが言及されており、具体的な構成および作用が、本願発明の構成とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−275722号公報
【特許文献2】特開2001−210989号公報
【特許文献3】特開2005−285207号公報
【特許文献4】特開2003−51411号公報
【特許文献5】特開2003−313659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような実状のもとに本願発明は創案されたものであって、その目的は、300℃以下の温度において、L10構造FePt規則合金が得られるFePt系磁性層を備える積層体構造物を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本願の積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成される。
【0010】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、L10構造FePt規則合金を主成分として構成される。
【0011】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、保磁力6000Oe以上の物性を備えるように構成される。
【0012】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、成膜後に300℃以下の熱処理がなされて構成される。
【0013】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、成膜後に200〜300℃の熱処理がなされて構成される。
【0014】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記Ta層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記金属酸化物層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、少なくとも10nm以上の膜厚を有してなるように構成される。
【0015】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記Ta層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記金属酸化物層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、10〜50nmの膜厚を有してなるように構成される。
【0016】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、Fe原子とPt原子の総和量を少なくとも80at%以上含んでなるように構成される。
【0017】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、添加物としてCuを含有し、そのCu含有量が5〜30at%であるように構成される。
【0018】
本発明の磁気抵抗効果素子は、非磁性中間層と、この非磁性中間層を挟むようにして積層形成され、フリー層として機能する第1の強磁性層およびフリー層として機能する第2の強磁性層とを有する磁気抵抗効果部を備え、この磁気抵抗効果部の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子であり、前記磁気抵抗効果部の後部には、第1の強磁性層および第2の強磁性層の磁化方向の実質的な直交化作用に影響を与える直交化バイアス用磁石が形成されており、前記直交化バイアス用磁石が、上記記載の積層体構造物を備えて構成される。
【0019】
本発明の薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面と、前記記録媒体からの信号磁界を検出するために前記媒体対向面の近傍に配置された上記記載の磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流すための一対の電極と、を有してなるように構成される。
【0020】
本発明のヘッドジンバルアセンブリは、上記の薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、前記スライダを弾性的に支持するサスペンションと、を備えてなるように構成される。
【0021】
本発明の磁気ディスク装置は、上記記載の薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、前記スライダを支持するとともに前記記録媒体に対して位置決めする位置決め装置と、を備えてなるように構成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成されているので、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度において、L10構造FePt規則合金を得ることができる。
【0023】
従って、当該積層体構造物は、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度という高温の制約を受ける素子の磁性体部分の役割を十分に担うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物の断面図である。
【図2】図2は、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物を、磁気抵抗効果素子のバイアス磁界印加用の磁石に応用した例であって、当該磁気抵抗効果素子の要部の構造を概略的に示した斜視図である。
【図3】図3は、図2を上方から見た平面図であり、X−Y平面の図面である。
【図4】図4は、図2を上方から見たX−Y平面の平面図であり、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗効果変化が得られる磁化の状態変化を、外部磁界に応じて示したモデル図である。
【図5】図5は、図2を上方から見たX−Y平面の平面図であり、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗効果変化が得られる磁化の状態変化を、外部磁界に応じて示したモデル図である。
【図6】図6は、図2を上方から見たX−Y平面の平面図であり、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗効果変化が得られる磁化の状態変化を、外部磁界に応じて示したモデル図である。
【図7】図7は、第1の強磁性層および第2の強磁性層の磁化が互いに反平行となるように非磁性中間層を介して交換結合されている状態を示す斜視図である。
【図8】図8は、磁気抵抗効果素子のABS(Air Bearing Surface)から見た斜視図である。
【図9】図9は、磁気抵抗効果素子のセンサー領域を含む磁気抵抗効果部を拡大して示した模式図である。
【図10】図10は、第1のシールド層および第2のシールド層の構成を、さらに発展させた態様示した斜視図である。
【図11】図11は、図10の媒体対向面側であって、磁気抵抗効果部が位置するフロント枠構成部の周辺を示す斜視図である。
【図12】図12は、フリー層として機能する第1の強磁性層と第2の強磁性層の互いの磁化を反平行とさせるために、反強磁性層によりピン止め制御された一部のシールド層の磁化を活用するように構成した素子を説明するための媒体対向面側からの図面である。
【図13】図13は、いわゆるエアベアリング面(ABS)に平行な薄膜磁気ヘッドの断面図を示したものである。
【図14】図14は、本発明の一実施の形態におけるヘッドジンバルアセンブリに含まれるスライダを示す斜視図である。
【図15】図15は、本発明の一実施の形態におけるヘッドジンバルアセンブリを含むヘッドアームアセンブリを示す斜視図である。
【図16】図16は、本発明の一実施の形態における磁気ディスク装置の要部を示す説明図である。
【図17】図17は、本発明の一実施の形態における磁気ディスク装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明は、FePt系磁性層を備える積層体構造物に関し、特に、FePt合金の規則化温度を300℃以下に低減することができ、かつ、高保磁力を備えることを可能にする積層体構造物に関するものである。
【0027】
本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物は、例えば、磁気抵抗効果素子用のバイアス磁界印加用のハードマグネット、マイクロウェブアシスト記録の発振素子、次世代の磁気記録媒体等に使用することが可能である。
【0028】
図1を参照しつつ本発明の積層体構造物の構成を説明する。
【0029】
図1に示されるように積層体構造物90は、アモルファス状態のTa層91と、このTa層91の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93と、この金属酸化物層93の上に形成されたFePt系磁性層95と、を有して構成される。最上層の符号97は保護膜である。
【0030】
上記の説明からも分るように、積層体構造物90の具体的な積層態様は大きく分けて2つ存在する。すなわち、
(1)Ta層91/ZnO金属酸化物層93/FePt系磁性層95、および
(2)Ta層91/MgO金属酸化物層93/FePt系磁性層95、
の2通り積層体構造物90の積層態様が存在する。
【0031】
このような積層体構造物90は、通常、AlTiC、Si等の基板の上に、順次、成膜される。なお、本願発明の必須の構成要件は、上記の(1)(2)に具体的に記載されたとおりであり、基板の種類によって、特に制約を受けるものではない。また、符号97の保護膜の種類によって、特に制約を受けるものではない。
【0032】
Ta層91の説明
Ta層91は、少なくとも2nm以上の膜厚を備えて構成される。好ましくは、2〜10nmの膜厚、より好ましくは4〜6nmの膜厚を有して構成されるのが良い。Ta層91の膜厚が2nm未満となると、本願発明の効果を発現させることが困難となる。
【0033】
Ta層91は、アモルファスの薄膜として形成される。Ta層91は、この上に形成される特定の金属酸化物層93との組み合せによって、はじめて、相乗的な効果が発現する。すなわち、2つの下地層の特別な組合せによって、本願発明の特別顕著な効果を創出する相乗的な効果が発現するのである。あくまでも推測ではあるが、Ta層91の存在によって、これと相性のよい特定の金属酸化物層93(酸化亜鉛(ZnO)層、または酸化マグネシウム(MgO)層)の結晶配向性が向上するのではないかと考えることができる。
【0034】
Ta層91は、スパッタにより成膜され、上述のごとくアモルファス状態の薄膜として成膜される。
【0035】
金属酸化物層93の説明
Ta層91の上には、酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93が成膜される。
【0036】
金属酸化物層93は、少なくとも2nm以上の膜厚を備えて構成される。好ましくは、2〜10nmの膜厚、より好ましくは4〜6nmの膜厚を有して構成されるのが良い。金属酸化物層93の膜厚が2nm未満となると、本願発明の効果を発現させることが困難となる。前述したように、特定の酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93と、この下に敷設されるTa層91の組み合せによってのみ、本願発明の300℃以下の温度において、L10構造FePt規則合金が得られるという特別顕著な効果が発現することが実験的に確認されている。
【0037】
金属酸化物層93は、スパッタにより成膜される。スパッタ成膜の際には、基板温度を250℃前後、特に、200〜300℃の範囲に加熱しておくことが望ましい。加熱しながら成膜することにより、酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93の結晶性を高めるという効果が期待できる。
【0038】
FePt系磁性層の説明
金属酸化物層93の上には、FePt系磁性層95が形成される。
【0039】
本願発明におけるFePt系磁性層95は、Ta層91と、酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93との組合せ積層体下地層の存在により、成膜後、300℃以下の熱処理によって、L10構造FePt規則合金を主成分として構成される。つまり、FePt系磁性層95は、保磁力6000Oe以上(特に、8000〜12000 Oe)の物性を備えて構成される。
【0040】
保磁力6000Oe以上の必要性は以下のとおり。
【0041】
従来の高保磁力材料として一般的に使用されているCoPtは、その保磁力が3000〜4000Oe程度である。それと比べて、FePtは保磁力6000Oe以上の物性を有する。例えば、発振素子や媒体に高保磁力材料が使用される場合、将来的に、小型化や記録密度の上昇のために、保磁力3000Oe程度では不十分になりつつあるといえる。そこで、保磁力3000Oeを超える6000Oe以上の高保磁力材料であるFePtの使用が望まれているが、その材料をうまく使いこなすには、上記の従来技術で説明したような問題が生じている。そこで、本願発明の積層体構造物を提案し、300℃以下の熱処理によって、L10構造FePt規則合金を主成分として構成させて、保磁力6000Oe以上を実現させている。
【0042】
FePt系磁性層95は、少なくとも10nm以上の膜厚を備えて構成される。好ましくは、10〜50nmの膜厚、より好ましくは15〜40nmの膜厚を有して構成されるのが良い。FePt系磁性層95の膜厚が10nm未満となると、FePtの規則化が進みにくいという不都合が生じ得る。
【0043】
FePt系磁性層95は、スパッタにより成膜される。FePt系磁性層95は、Fe原子とPt原子の総和量を少なくとも80at%以上、特に、80〜95at%含むものが好ましい。
【0044】
FePt系磁性層95は、添加物としてCuを含有することが望ましく、そのCu含有量は5〜30at%、特に、8〜20at%とされる。添加されるCuは、FePt中に分散するとともに、凝集してCuクラスターを形成すると考えられている。
【0045】
なお、上述してきたFePt系磁性層を備える積層体構造物は、成膜後に、磁界を一定方向にかけながら300℃以下の温度でアニール処理する、いわゆる磁場中アニール処理することによって、FePt系磁性層の着磁方向を制御することが可能となる。
【0046】
〔積層体構造物を、磁気抵抗効果素子のバイアス磁界印加用の磁石に態様した場合の説明〕
上述してきた積層体構造物90を、磁気抵抗効果素子のバイアス磁界印加用の磁石90(直交化バイアス用磁石90)として用いた好適な適用態様について、以下、図2〜図13を参照しつつ説明する。
【0047】
以下の説明において、各図面に示されるX軸方向の寸法を「幅」、Y軸方向の寸法を「長さ」、Z軸方向の寸法を「厚さ」とそれぞれ表記する。
【0048】
また、Y軸方向のうちのエアベアリング面(記録媒体と対向する薄膜磁気ヘッド側の面であり、ABSと記す場合もある)に近い側を「前方」、その反対側(奥域側)を「後方」と表記する。また、素子の積層膜を積み上げる方向を「上方」または「上側」、その反対方向を「下方」または「下側」と称する。
【0049】
図2の概略概念図に示されるように、磁気抵抗効果素子は、非磁性中間層40と、この非磁性中間層40を挟むようにして積層形成され、フリー層として機能する第1の強磁性層30およびフリー層として機能する第2の強磁性層50とを有する磁気抵抗効果部8を備え、この磁気抵抗効果部の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子である。
【0050】
図2や図3に示されるように磁気抵抗効果部8の後部には、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の磁化方向の実質的な直交化作用を働きかける直交化バイアス用磁石90が形成されている。この直交化バイアス用磁石90が、実質的に上述してきた積層体構造物90から構成されている。
【0051】
直交化バイアス用磁石90を機能させる前の状態が、図2や図3に示されている。この状態では直交化バイアス用磁石90に直交化バイアスを作用させる磁化は発生しておらず、磁気機抵抗効果素子は、第1の強磁性層30(フリー層30)の磁化方向131と、第2の強磁性層50(フリー層50)の磁化方向151とが、互いにトラック幅方向(図面のX軸方向)に沿った反平行状態となっている。
【0052】
つまり、直交化バイアス用磁石90の着磁操作(例えば、FePt系磁性層を備える積層体構造物に対して、磁界を一定方向にかけながら300℃以下の温度でアニール処理する、いわゆる磁場中アニール処理操作)が行われず、その機能を発揮させる前の状態においては、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50は、それぞれ、互いの磁性層30,50の磁化方向131、151が逆方向となる反平行状態が形成されている。磁化方向131、151が逆方向となる反平行状態を形成する手法にはいくつかの態様が考えられる。それらの具体的な方法については、後述する。
【0053】
図4に示されるように、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の後方(奥域側:Y方向)に設置された直交化バイアス用磁石90が、例えば、媒体対向面であるABSから、奥域側のY方向に着磁99される。これを『ABS IN 磁化』と称す。磁化方向91はABSに対し、奥側に向けて垂直方向とされる。この着磁は、前述したようにFePt系磁性層を備える積層体構造物に対して、磁界を一定方向にかけながら300℃以下の温度でアニール処理する、いわゆる磁場中アニール処理操作により実現される。この着磁99により、いままで反平行状態を形成していた第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の互いの磁化方向131、151は、トラック幅方向(図面のX軸方向)に対して約45度傾いた初期の状態を作り出す(イニシャルの状態)。従って、磁化方向131、151は、実質的に直交する関係となる。実質的に直交する関係とは、90°±20°の範囲をいう。理想的には、90°が好ましい。
【0054】
このイニシャルの磁化状態にある2つの強磁性層30、50が、媒体からの信号磁界を検出すると、まるでハサミが紙を切る時の動作のように磁化方向が変化し、結果として素子の抵抗値が変化する。すなわち、図5に示されるように、ABSから素子側に流入する方向の外部磁界D1を検出すると、第1の強磁性層30の磁化131、および第2の強磁性層50の磁化151は同じ方向を向く傾向となり、素子の抵抗は小さくなる。
【0055】
この一方で、図6に示されるように、ABSから離れる方向の外部磁界D2を検出すると、第1の強磁性層30の磁化135、および第2の強磁性層50の磁化151は双方で反対の方向を向く傾向が生じ、素子の抵抗は大きくなる。
【0056】
このような外部磁界に対する一連の抵抗変化を測定するによって、外部磁界を検出することができる。
【0057】
なお、図4に示されるイニシャルの磁化方向131、151の適正な直交化を図るためには、直交化バイアス用磁石90の磁化強度を調整したり、フリー層として機能する強磁性層30、50の磁化方向の動き易さを調整したりすること等により行われる。
【0058】
また、直交化バイアス用磁石90の磁化方向は、上述した『ABS IN 磁化』に代えて、180°磁化方向を反転させた『ABS OUT 磁化』としてもよい。すなわち、直交化バイアス用磁石90は、奥域側から媒体対向面であるABSに向けたY方向に着磁させてもよい。
【0059】
〔磁性層30、50の磁化方向131、151が逆方向となる反平行状態を形成する手法〕
図2や図3に示されるように、直交化バイアス用磁石を機能させる前の状態(バイアスが印加されていない状態)で、2つのフリー層30、50の磁化方向がトラック幅方向に沿った反平行状態とすることは素子の作用上、極めて重要である。その態様について以下説明しておく。
【0060】
第1の態様:
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50は、直交化バイアス用磁石90(積層体構造物90)からのバイアス磁界が印加される前の状態で、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の磁化が互いに反平行となるように非磁性中間層40を介して交換結合されている状態が第1の態様として例示できる。
【0061】
この状態は、例えば、図7に示されており、第1の強磁性層30の磁化131と、第2の強磁性層50の磁化151とが非磁性中間層40を介して交換結合され、互いに反平行状態となっている。
【0062】
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50に用いられる材料としては、NiFe、CoFe、CoFeB、CoFeNi、Co2MnSi、Co2MnGe、FeOx(Feの酸化物)、CoOx(Coの酸化物)等を例示することができる。各層の厚さは、それぞれ、0.5〜8nm程度とされる。
【0063】
これらの層は、外部から印加された磁界の影響を受けて、各層の磁化の方向が変化するいわゆるフリー層としての機能を有している。
【0064】
非磁性中間層40に用いられる材料としては、Ru、Ir、Rh、Cr、Cu、Zn、Ga、ZnO、InO、SnO、GaN、ITO(Indium Tin Oxide)等を例示することができる。
【0065】
厚さは、0.5〜5nm程度とされる。2つの強磁性層30、50(Free Layer)の磁化を反強磁性結合させるために、用いる非磁性中間層40の材質や、その膜厚の設定には制約がある。
【0066】
第2の態様:
図8に示されるように、磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果部8と、この磁気抵抗効果部8を、実質的に、上下に挟むようにして配置形成される第1のシールド層3(下部シールド層3と呼ぶ場合もある)および第2のシールド層5(上部シールド層5と呼ぶ場合もある)と、を有している。そして、磁気抵抗効果部8の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子である。
【0067】
第1のシールド層3および第2のシールド層5は、それぞれ、磁化方向制御手段により磁化方向が制御されており、図8に示される実施形態では、第1のシールド層3は、図面右側から左側に向く、マイナスの幅方向(−X方向)に磁化35が固定されている。この一方で、第2のシールド層5は、図面左側から右側に向く、プラスの幅方向(+X方向)に磁化51が固定されている。好適には、第1のシールド層3および第2のシールド層5は、それぞれ、磁化方向制御手段により単磁区化されている。
【0068】
磁気抵抗効果部8は、非磁性中間層40と、この非磁性中間層40を挟むようにして積層形成される第1の強磁性層30および第2の強磁性層50とを有している。第1の強磁性層30、非磁性中間層40および第2の強磁性層50の積層体が、センサー領域であり、その積層体のトータル厚さは、10〜20nm程度とされる。
【0069】
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50は、それぞれ、外部磁界に応答して磁化方向が変化する、いわゆるフリー層として機能する。
【0070】
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50には、それぞれ、前記第1のシールド層3および前記第2のシールド層5の磁気的作用の影響を受けて、互いの磁化方向が逆方向となる反平行磁化状態が形成される作用が働いている。なお。ここで、「反平行磁化状態が形成される作用が働いている」との記述を用いているのは、実際に使用に供される素子では、前述したように直交化バイアス用磁石90からのバイアス磁界の印加によって、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の磁化方向は、実質的な直交化が図られていることを考慮したためである。
【0071】
上記の反平行の磁化状態を実現させるために、第1のシールド層3と第1の強磁性層30との間には、第1の交換結合機能ギャップ層300が介在されており、第2のシールド層5と第2の強磁性層50との間には、第2の交換結合機能ギャップ層500が介在されている。つまり、第1の強磁性層30は、磁化方向が制御された前記第1のシールド層3と、第1の交換結合機能ギャップ層300を介して、間接的に磁気的な結合がなされているのであり、第2の強磁性層50は、磁化方向が制御された前記第2のシールド層5と、第2の交換結合機能ギャップ層500を介して、間接的に磁気的な結合がなされているのである。
【0072】
第1の交換結合機能ギャップ層300の構成の一例について図9を参照しつつ説明する。ただし、以下の説明の構成に限定されるものではない。
【0073】
第1の交換結合機能ギャップ層300は、第1のシールド層3側から、交換結合伝達層101、ギャップ調整層111、交換結合調整層121を有して構成される。ギャップ調整層111は強磁性体から構成される、いわゆる強磁性層である。
【0074】
交換結合伝達層101は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第1のシールド層3の磁化35と、ギャップ調整層111の磁化111aの磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第1のシールド層3の磁化35と磁気結合するギャップ調整層111の磁化111aの方向も定まる。つまり、磁化が互いに逆の方向を向いて磁気的結合する反強磁性的(antiferromagnetically)結合となるのか、あるいは磁化が互いに同じ方向を向いて磁気的結合する強磁性的(ferromagnetically)結合となるのかが定まる。
【0075】
交換結合調整層121は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれ設定によって、ギャップ調整層111の磁化111aと、第1の強磁性層130の磁化135の磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、ギャップ調整層111の磁化111aと磁気結合する第1の強磁性層30の磁化131の方向も定まる。つまり、反強磁性的結合となるのか、あるいは強磁性結合となるのかが定まる。
【0076】
第1の交換結合機能ギャップ層300の厚さは、1.5〜6.0nm程度に設定される。
【0077】
同様に、第2の交換結合機能ギャップ層500の構成の一例について、図9を参照しつつ説明する。ただし、以下の説明の構成に限定されるものではない。
【0078】
第2の交換結合機能ギャップ層500は、第2のシールド層5側から、交換結合伝達層105、ギャップ調整層115、交換結合調整層125を有して構成される。ギャップ調整層115は強磁性体から構成される、いわゆる強磁性層である。
【0079】
交換結合伝達層105は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第2のシールド層5の磁化51と、ギャップ調整層115の磁化115bの磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第2のシールド層5の磁化51と磁気結合するギャップ調整層115の磁化115bの方向も定まる。つまり、反強磁性的結合(磁化が互いに逆の方向を向いて磁気的結合)となるのか、あるいは強磁性的結合(磁化が互いに同じ方向を向いて磁気的結合)となるのかが定まる。
【0080】
交換結合調整層125は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、ギャップ調整層115の磁化115bと、第2の強磁性層150の磁化151の磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、ギャップ調整層115の磁化115bと磁気結合する第2の強磁性層150の磁化151の方向も定まる。つまり、反強磁性的結合となるのか、あるいは強磁性的結合となるのかが定まる。
【0081】
第2の交換結合機能ギャップ層500の厚さは、1.5〜6.0nm程度に設定される。
【0082】
図中の符号4は絶縁層である。
【0083】
第3の態様:
上記第2の態様における第1のシールド層3および第2のシールド層5の構成を、さらに発展させたものが第3の態様として図10に例示されている。
【0084】
図10に示されるように、磁気抵抗効果部8の下方に位置する第1のシールド層3、および上方に位置する第2のシールド層5は、それぞれ、素子の幅方向と長さ方向で規定される平面形状(X−Y平面)が、枠形状体に形成されている。
【0085】
このような第1のシールド層および第2のシールド層の枠形状体は、それぞれ、前方の媒体対向面側であって、磁気抵抗効果部が位置する近傍に配置されるフロント枠構成部31、51と、フロント枠構成部の端部から後方に向かうサイド位置に配置されるサイド枠構成部35、55を有している。
【0086】
図11に示されるように、磁気抵抗効果部8を構成する第1の強磁性層30および第2の強磁性層50には、それぞれ、第1のシールド層3のフロント枠構成部31および第2のシールド層5のフロント枠構成部51の磁気的作用の影響を受けて、互いの磁化方向が逆方向となる反平行磁化状態が形成される作用が働くように構成されている。
【0087】
図10に示されるように、第1のシールド層3のサイド枠構成部35は、第1非磁性ギャップ層153と第1バイアス磁界印加層154との組合わせ体を部分的に備えている。第1非磁性ギャップ層153は、第1バイアス磁界印加層154から発せられる磁束154aを、効率よく第1のシールド層3のフロント枠構成部31側まで送り出す作用をするように設計配置されている。第1非磁性ギャップ層153と第1バイアス磁界印加層154との組合わせ体は、第1のシールド層3を構成する枠形状体を磁束がぐるりと回る閉磁路を形成するとともに、前記第1のシールド層のフロント枠構成部31の磁化を単磁区化し、かつ磁化方向を制御するように構成されている。
【0088】
同様に、第2のシールド層のサイド枠構成部55は、第2非磁性ギャップ層155と第2バイアス磁界印加層156との組合わせ体を部分的に備えている。第2非磁性ギャップ層155は、第2バイアス磁界印加層156から発せられる磁束156aを、効率よく前記第2のシールド層5のフロント枠構成部51側まで送り出す作用をするように設計配置されている。第2非磁性ギャップ層155と第2バイアス磁界印加層156との組合わせ体は、第2のシールド層5を構成する枠形状体を磁束がぐるりと回る閉磁路を形成するとともに、第2のシールド層5のフロント枠構成部51の磁化を単磁区化し、かつ磁化方向を制御するように構成されている。
【0089】
磁気抵抗効果部8の構成は、上述した第2の態様の場合のそれと同様である。
【0090】
図11に示されるように、磁気抵抗効果部8を構成する第1の強磁性層30は、磁化方向が制御された前記第1のシールド層3と、第1の交換結合機能ギャップ層300を介して、間接的に磁気的な結合がなされている。
【0091】
磁気抵抗効果部8を構成する第2の強磁性層50は、磁化方向が制御された前記第2のシールド層5と、第2の交換結合機能ギャップ層500を介して、間接的に磁気的な結合がなされている。
【0092】
第1の交換結合機能ギャップ層300および第2の交換結合機能ギャップ層500は、それぞれ、前述した第2の態様における第1の交換結合機能ギャップ層300および第2の交換結合機能ギャップ層500と同様な構成とすればよい。
【0093】
第4の態様:
フリー層として機能する第1の強磁性層30と第2の強磁性層50の互いの磁化を反平行とさせるために、反強磁性層によりピン止め制御された一部のシールド層の磁化を活用した第4の態様の例が図12に示される。
【0094】
すなわち、図12に示されるように、第1のシールド層3を、下側から例えば、1000〜2000nm厚さのNiFeからなる主シールド層(3a)/6nm厚さのIrMnからなる反強磁性層(3b)/1.5nm厚さのCoFe層(3b)と20nmの厚さのNiFe層(3c)の組合せ積層体からなる磁界印加層、との積層体構造とする。そして、第2のシールド層5を、上側から例えば、1000〜2000nm厚さのNiFeからなる主シールド層(5a)/6nm厚さのIrMnからなる反強磁性層(5b)/1.5nm厚さのCoFe層(5c)と20nmの厚さのNiFe層(5d)の組合せ積層体からなる磁界印加層、との積層体構造とする。
【0095】
このような構造からなる第1のシールド層3および第2のシールド層5を用い、第1の交換結合機能ギャップ層300および第2の交換結合機能ギャップ層500をそれぞれ介して、磁気抵抗効果部8を挟むように構成して、フリー層として機能する第1の強磁性層30と第2の強磁性層50の互いの磁化を反平行とさせる。
【0096】
上述してきた磁気抵抗効果素子は、一般に、ウエハプロセスによって、薄膜磁気ヘッドの磁気情報の読取りセンサーとして使用される。磁気抵抗効果素子を含む薄膜磁気ヘッドの全体構造について、以下簡単に説明しておく。
【0097】
〔薄膜磁気ヘッドの全体構造についての説明〕
図13には、いわゆるエアベアリング面(ABS)に平行な薄膜磁気ヘッドの断面図(Y−Z平面での断面)が示されている。
【0098】
図13に示される薄膜磁気ヘッド100は、媒体進行方向Mに移動する例えばハードディスクなどの記録媒体10に磁気的な処理を施すために、例えばハードディスクドライブなどの磁気記録装置に搭載されて使用される。
【0099】
図面に例示されている薄膜磁気ヘッド100は、磁気的処理として記録処理および再生処理の双方を実行可能ないわゆる複合型ヘッドであり、その構造は、図13に示されるように、例えばアルティック(Al2O3・TiC)などのセラミック材料より構成されたスライダ基板1の上に、磁気ヘッド部101が形成された構成を有している。
【0100】
磁気ヘッド部101は、磁気抵抗(MR:Magneto-Resistive)効果を利用して記録された磁気情報の再生処理を行う再生ヘッド部100Aと、例えば、垂直記録方式の記録処理を実行するシールド型の記録ヘッド部100Bとが、積層された構成を有している。
【0101】
以下さらに詳細に説明する。
【0102】
第1のシールド層3と第2のシールド層5は、スライダ基板1の側面1aに略平行となるように形成された平面的な層であり、また、これらの層3、5は、媒体対向面70であるABSの一部を形成している。
【0103】
磁気抵抗効果部8は、第1のシールド層3および第2のシールド層5に挟まれるように配置されており、媒体対向面70の一部を形成している。そして、媒体対向面70に垂直方向(Y方向)のハイトがMRハイト(MR−h)となる。
【0104】
第1のシールド層3および第2のシールド層5は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき等によって形成される。なお、図面では明示してないが、第1のシールド層3および第2のシールド層5は、上述してきた本発明の作用効果を発現するように構成されている必要がある。
【0105】
磁気抵抗効果部8は、スライダ基板1の側面1aに略平行となるように形成された積層膜であり、媒体対向面70の一部を構成している。
【0106】
磁気抵抗効果部8は、例えば、その積層面と垂直方向にセンス電流が流れる膜面垂直型(CPP(Current Perpendicular to Plane))の積層膜であり、前述したような構成とされる。
【0107】
また、図13に示されるように、第2のシールド層5と記録ヘッド部100Bとの間には、第2のシールド層5と同様の材料からなる素子間シールド層9が形成されている。
【0108】
素子間シールド層9は、センサーとして機能する磁気抵抗効果部8を、記録ヘッド部100Bより発生する磁界から遮断して、読み出しの際の外来ノイズを防止する役割を果たしている。また、素子間シールド層9と記録ヘッド部100Bとの間に、さらにバッキングコイル部が形成されていてもよい。バッキングコイル部は、記録ヘッド部100Bから発生して磁気抵抗効果部8の上下電極層を経由する磁束ループを打ち消す磁束を発生させるものであり、磁気ディスクへの不要な書き込み、または消去動作である広域隣接トラック消去(WATE)現象の抑制を図るように作用する。
【0109】
磁気抵抗効果部8の媒体対向面70とは反対側の第1および第2シールド層3、5の間隙;並びに第1および第2シールド層3、5、および素子間シールド層9の媒体対向面70とは反対側である後方部位;並びに第1のシールド層3とスライダ基板1との間隙;並びに素子間シールド層9と記録ヘッド部100Bとの間隙、にはそれぞれアルミナ等から形成された絶縁層4、44が形成されている。
【0110】
記録ヘッド部100Bは、垂直磁気記録用として構成されることが好ましく、図13に示されるように、主磁極層15、ギャップ層18、コイル絶縁層26、コイル層23、および補助磁極層25を有している。
【0111】
主磁極層15は、コイル層23によって誘導された磁束を、書き込みがなされる磁気記録媒体10の記録層まで収束させながら導くための導磁路として構成される。ここで主磁極層15の媒体対向面70側の端部において、トラック幅方向(図13のX軸に沿った方向)の幅、および積層方向(図13のZ軸に沿った方向)の厚さは、他の部分に比べて小さくすることが好ましい。この結果、高記録密度化に対応した微細で強い書き込み用磁界を発生させることが可能となる。
【0112】
主磁極層15に磁気的に結合した補助磁極層25の媒体対向面70側の端部は、補助磁極層25の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部を形成している。図13に示されるように、補助磁極層25は、アルミナ等の絶縁材料により形成されたギャップ層18、およびコイル絶縁層26を介在させて、主磁極層15の媒体対向面70側の端部と対向配置されている。
【0113】
このような補助磁極層25を設けることによって、媒体対向面70近傍における補助磁極層25と主磁極層15との間において磁界勾配をより急峻にさせることができる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読み出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0114】
補助磁極層25は、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて、例えば、厚さ約0.5〜5μmに形成される。使用材料としては、例えば、Ni、FeおよびCoのうち、いずれか2つ若しくは3つからなる合金を用いたり、あるいは、これらを主成分として所定の元素が添加された合金等から構成される。
【0115】
ギャップ層18は、コイル層23と主磁極層15とを離間させるように形成される。ギャップ層18は、例えばスパッタリング法、CVD法等を用いて形成された、例えば、厚さ0.01〜0.5μm程度のAl2O3、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等から構成される。
【0116】
また、実施の形態では、基体側に再生ヘッド部を形成し、その上に、垂直記録ヘッド部を積層した構造の薄膜磁気ヘッドについて説明したが、この積層順序を逆にしてもよい。また、再生専用の薄膜ヘッドとして用いる場合には、再生ヘッド部だけを備えた構成としてもよい。
【0117】
〔ヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置についての説明〕
次いで、上述してきた薄膜ヘッドが搭載されて使用されるヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置の一例について説明する。
【0118】
まず、図14を参照して、ヘッドジンバルアセンブリに含まれるスライダ210について説明する。ハードディスク装置において、スライダ210は、回転駆動される円盤状の記録媒体であるハードディスクに対向するように配置される。このスライダ210は、主に基板およびオーバーコートからなる基体211を備えている。
【0119】
基体211は、ほぼ六面体形状をなしている。基体211の六面のうちの一面は、ハードディスクに対向するようになっている。この一面には、媒体対向面70が形成されている。
【0120】
ハードディスクが図14におけるz方向に回転すると、ハードディスクとスライダ210との間を通過する空気流によって、スライダ210に、図14におけるy方向の下方に揚力が生じる。スライダ210は、この揚力によってハードディスクの表面から浮上するようになっている。なお、図14におけるx方向は、ハードディスクのトラック横断方向である。
【0121】
スライダ210の空気流出側の端部(図14における左下の端部)の近傍には、本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドが形成されている。
【0122】
次に、図15を参照して、本実施の形態に係るヘッドジンバルアセンブリ220について説明する。ヘッドジンバルアセンブリ220は、スライダ210と、このスライダ210を弾性的に支持するサスペンション221とを備えている。サスペンション221は、例えばステンレス鋼によって形成された板ばね状のロードビーム222、このロードビーム222の一端部に設けられると共にスライダ210が接合され、スライダ210に適度な自由度を与えるフレクシャ223と、ロードビーム222の他端部に設けられたベースプレート224とを有している。
【0123】
ベースプレート224は、スライダ210をハードディスク262のトラック横断方向xに移動させるためのアクチュエータのアーム230に取り付けられるようになっている。アクチュエータは、アーム230と、このアーム230を駆動するボイスコイルモータとを有している。フレクシャ223において、スライダ210が取り付けられる部分には、スライダ210の姿勢を一定に保つためのジンバル部が設けられている。
【0124】
ヘッドジンバルアセンブリ220は、アクチュエータのアーム230に取り付けられる。1つのアーム230にヘッドジンバルアセンブリ220を取り付けたものはヘッドアームアセンブリと呼ばれる。また、複数のアームを有するキャリッジの各アームにヘッドジンバルアセンブリ220を取り付けたものはヘッドスタックアセンブリと呼ばれる。
【0125】
図15は、ヘッドアームアセンブリの一例を示している。このヘッドアームアセンブリでは、アーム230の一端部にヘッドジンバルアセンブリ220が取り付けられている。アーム230の他端部には、ボイスコイルモータの一部となるコイル231が取り付けられている。アーム230の中間部には、アーム230を回動自在に支持するための軸234に取り付けられる軸受け部233が設けられている。
【0126】
次に図16および図17を参照して、ヘッドスタックアセンブリの一例と本実施の形態に係るハードディスク装置について説明する。
【0127】
図16はハードディスク装置の要部を示す説明図、図17はハードディスク装置の平面図である。
【0128】
ヘッドスタックアセンブリ250は、複数のアーム252を有するキャリッジ251を有している。複数のアーム252には、複数のヘッドジンバルアセンブリ220が、互いに間隔を開けて垂直方向に並ぶように取り付けられている。キャリッジ251においてアーム252とは反対側には、ボイスコイルモータの一部となるコイル253が取り付けられている。ヘッドスタックアセンブリ250は、ハードディスク装置に組み込まれる。
【0129】
ハードディスク装置は、スピンドルモータ261に取り付けられた複数枚のハードディスク262を有している。各ハードディスク262毎に、ハードディスク262を挟んで対向するように2つのスライダ210が配置される。また、ボイスコイルモータは、ヘッドスタックアセンブリ250のコイル253を挟んで対向する位置に配置された永久磁石263を有している。
【0130】
スライダ210を除くヘッドスタックアセンブリ250およびアクチュエータは、本発明における位置決め装置に対応しスライダ210を支持すると共にハードディスク262に対して位置決めする。
【0131】
本実施の形態に係るハードディスク装置では、アクチュエータによって、スライダ210をハードディスク262のトラック横断方向に移動させて、スライダ210をハードディスク262に対して位置決めする。スライダ210に含まれる薄膜磁気ヘッドは、記録ヘッドによって、ハードディスク262に情報を記録し、再生ヘッドによって、ハードディスク262に記録されている情報を再生する。
【0132】
本実施の形態に係るヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置は、前述の本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドと同様の効果を奏する。
【実施例】
【0133】
以下に、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物に関する具体的実験例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0134】
〔実験例I〕
DCスパッタ装置を用いて、ALTIC基板の上に、下記表1に示されるような組成および厚さの下地層を形成し、この下地層の上に厚さ35nmのFePt系磁性層を形成した。なお、FePt系磁性層は、14at%のCuを含むFePtから構成され、Fe/Pt原子比は1とした。
【0135】
このようなFePt系磁性層の上に、さらに、厚さ5nmのTa保護層を形成した。しかる後、FePtを規則化するために、250℃、3時間の条件でアニール処理した。
【0136】
このようにして作製した各種の積層体構造物サンプルについて、VSMでFePt系磁性層の保磁力Hcを測定した。結果を下記表1に示した。
【0137】
【表1】
【0138】
上記表1の結果より、本発明のサンプルでは、250℃で、FePtの良好な規則化が実現されていることがわかる。
【0139】
〔実験例II〕
上記の実験例Iにおけるサンプル作製要領において、アニール処理温度を250℃以外に、100℃、150℃、200℃、300℃、350℃、400℃、450℃、500℃、および550℃の各サンプルを作製し、各サンプルに対して同様に保磁力Hcを測定した。
結果を下記表2に示した。
【0140】
【表2】
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
【表5】
【0144】
以上の実験結果より、本発明のサンプルは、アニール温度200〜300℃で保磁力Hcが6000 Oe以上であり、他の比較例サンプルと比べて格段と高い。
【0145】
比較例サンプルでは、300℃以下のアニール温度で保磁力Hcが6000 Oe以上のものは皆無である。
【0146】
また、保磁力Hcが6000 Oe以上であれば、FePtの規則化は、ほぼ満足できる程度に進んでいるものと考えられる。
【0147】
上記の結果より、本発明の効果は明らかである。
すなわち、本発明の積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成されているので、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度において、L10構造FePt規則合金を得ることができる。
【0148】
従って、当該積層体構造物は、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度という高温の制約を受ける素子の磁性体部分の役割を十分に担うことができる。
【0149】
なお、前述したように、比較例として列挙した構成においては、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度においては、保磁力が極めて小さく、L10構造FePt規則合金が得られていないことが分る。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の産業上の利用可能性として、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物は、例えば、磁気抵抗効果素子用のバイアス磁界印加用のハードマグネット、マイクロウェブアシスト記録の発振素子、次世代の磁気記録媒体等に適用可能であり、これらの電子部品産業に利用できる。
【符号の説明】
【0151】
90…積層体構造物
91…アモルファス状態のTa層
93…金属酸化物層
95…FePt系磁性層
97…保護膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、FePt系磁性層を備える積層体構造物に関し、特に、FePt合金の規則化温度を300℃以下に低減することができ、かつ、高保磁力を備えることを可能にする積層体構造物に関するものである。本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物は、例えば、磁気抵抗効果素子用のバイアス磁界印加用のハードマグネット、マイクロウェブアシスト記録の発振素子、次世代の磁気記録媒体等に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
巨大な一軸結晶磁気異方性を有するL10構造FePt規則合金は、ナノサイズの超微細粒子であっても強磁性を維持することができるため、次世代の超高密度磁気記録媒体材料として注目を集めている。
【0003】
また、FePt規則合金は、その高い一軸磁気異方性を有するがゆえに、磁石としての用途も有望視されている。FePtはNdやSm系などの希土類磁石と比較して、耐食性および耐酸化性に優れるというメリットもある。
【0004】
L10構造FePt規則合金は室温において熱力学的に安定である。しかしながらスパッタ法等によって成膜されたFePt薄膜は、その成膜過程において高温に存在する規則−不規則変態点を経ていないために、規則構造に変態すること(規則化すること)ができない。このため、L10規則構造を得るために、加熱した基板の上に成膜をおこなったり、あるいは、成膜後に不規則合金薄膜を熱処理するなど、通常、500℃を超える高温プロセスが必要とされる。
【0005】
しかしながら、例えば、薄膜磁気ヘッドを備えるハードディスク装置などに使用されている構成材料は、せいぜい300℃前後までの耐性を有するに留まり、500℃を超える高温プロセスに対する耐性は備えていないのが現状である。従って、300℃以下の温度において、L10構造FePt規則合金が得られる、FePt系磁性層を備える積層体構造物の提案が要望されている。
【0006】
本願発明の積層構造に特に関連があると思われる先行技術として、特開2003−313659号公報がある。このものは、支持基板の上に、シード層、下地層、L10規則合金膜を順次積層した構造を開示している。この提案によれば、規則化温度は下地材料にかかわりなく、残留酸素濃度で制御できることが言及されており、具体的な構成および作用が、本願発明の構成とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−275722号公報
【特許文献2】特開2001−210989号公報
【特許文献3】特開2005−285207号公報
【特許文献4】特開2003−51411号公報
【特許文献5】特開2003−313659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような実状のもとに本願発明は創案されたものであって、その目的は、300℃以下の温度において、L10構造FePt規則合金が得られるFePt系磁性層を備える積層体構造物を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本願の積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成される。
【0010】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、L10構造FePt規則合金を主成分として構成される。
【0011】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、保磁力6000Oe以上の物性を備えるように構成される。
【0012】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、成膜後に300℃以下の熱処理がなされて構成される。
【0013】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、成膜後に200〜300℃の熱処理がなされて構成される。
【0014】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記Ta層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記金属酸化物層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、少なくとも10nm以上の膜厚を有してなるように構成される。
【0015】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記Ta層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記金属酸化物層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、10〜50nmの膜厚を有してなるように構成される。
【0016】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、Fe原子とPt原子の総和量を少なくとも80at%以上含んでなるように構成される。
【0017】
また、本発明の積層体構造物の好ましい態様として、前記FePt系磁性層は、添加物としてCuを含有し、そのCu含有量が5〜30at%であるように構成される。
【0018】
本発明の磁気抵抗効果素子は、非磁性中間層と、この非磁性中間層を挟むようにして積層形成され、フリー層として機能する第1の強磁性層およびフリー層として機能する第2の強磁性層とを有する磁気抵抗効果部を備え、この磁気抵抗効果部の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子であり、前記磁気抵抗効果部の後部には、第1の強磁性層および第2の強磁性層の磁化方向の実質的な直交化作用に影響を与える直交化バイアス用磁石が形成されており、前記直交化バイアス用磁石が、上記記載の積層体構造物を備えて構成される。
【0019】
本発明の薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面と、前記記録媒体からの信号磁界を検出するために前記媒体対向面の近傍に配置された上記記載の磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流すための一対の電極と、を有してなるように構成される。
【0020】
本発明のヘッドジンバルアセンブリは、上記の薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、前記スライダを弾性的に支持するサスペンションと、を備えてなるように構成される。
【0021】
本発明の磁気ディスク装置は、上記記載の薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、前記スライダを支持するとともに前記記録媒体に対して位置決めする位置決め装置と、を備えてなるように構成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成されているので、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度において、L10構造FePt規則合金を得ることができる。
【0023】
従って、当該積層体構造物は、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度という高温の制約を受ける素子の磁性体部分の役割を十分に担うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物の断面図である。
【図2】図2は、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物を、磁気抵抗効果素子のバイアス磁界印加用の磁石に応用した例であって、当該磁気抵抗効果素子の要部の構造を概略的に示した斜視図である。
【図3】図3は、図2を上方から見た平面図であり、X−Y平面の図面である。
【図4】図4は、図2を上方から見たX−Y平面の平面図であり、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗効果変化が得られる磁化の状態変化を、外部磁界に応じて示したモデル図である。
【図5】図5は、図2を上方から見たX−Y平面の平面図であり、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗効果変化が得られる磁化の状態変化を、外部磁界に応じて示したモデル図である。
【図6】図6は、図2を上方から見たX−Y平面の平面図であり、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗効果変化が得られる磁化の状態変化を、外部磁界に応じて示したモデル図である。
【図7】図7は、第1の強磁性層および第2の強磁性層の磁化が互いに反平行となるように非磁性中間層を介して交換結合されている状態を示す斜視図である。
【図8】図8は、磁気抵抗効果素子のABS(Air Bearing Surface)から見た斜視図である。
【図9】図9は、磁気抵抗効果素子のセンサー領域を含む磁気抵抗効果部を拡大して示した模式図である。
【図10】図10は、第1のシールド層および第2のシールド層の構成を、さらに発展させた態様示した斜視図である。
【図11】図11は、図10の媒体対向面側であって、磁気抵抗効果部が位置するフロント枠構成部の周辺を示す斜視図である。
【図12】図12は、フリー層として機能する第1の強磁性層と第2の強磁性層の互いの磁化を反平行とさせるために、反強磁性層によりピン止め制御された一部のシールド層の磁化を活用するように構成した素子を説明するための媒体対向面側からの図面である。
【図13】図13は、いわゆるエアベアリング面(ABS)に平行な薄膜磁気ヘッドの断面図を示したものである。
【図14】図14は、本発明の一実施の形態におけるヘッドジンバルアセンブリに含まれるスライダを示す斜視図である。
【図15】図15は、本発明の一実施の形態におけるヘッドジンバルアセンブリを含むヘッドアームアセンブリを示す斜視図である。
【図16】図16は、本発明の一実施の形態における磁気ディスク装置の要部を示す説明図である。
【図17】図17は、本発明の一実施の形態における磁気ディスク装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明は、FePt系磁性層を備える積層体構造物に関し、特に、FePt合金の規則化温度を300℃以下に低減することができ、かつ、高保磁力を備えることを可能にする積層体構造物に関するものである。
【0027】
本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物は、例えば、磁気抵抗効果素子用のバイアス磁界印加用のハードマグネット、マイクロウェブアシスト記録の発振素子、次世代の磁気記録媒体等に使用することが可能である。
【0028】
図1を参照しつつ本発明の積層体構造物の構成を説明する。
【0029】
図1に示されるように積層体構造物90は、アモルファス状態のTa層91と、このTa層91の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93と、この金属酸化物層93の上に形成されたFePt系磁性層95と、を有して構成される。最上層の符号97は保護膜である。
【0030】
上記の説明からも分るように、積層体構造物90の具体的な積層態様は大きく分けて2つ存在する。すなわち、
(1)Ta層91/ZnO金属酸化物層93/FePt系磁性層95、および
(2)Ta層91/MgO金属酸化物層93/FePt系磁性層95、
の2通り積層体構造物90の積層態様が存在する。
【0031】
このような積層体構造物90は、通常、AlTiC、Si等の基板の上に、順次、成膜される。なお、本願発明の必須の構成要件は、上記の(1)(2)に具体的に記載されたとおりであり、基板の種類によって、特に制約を受けるものではない。また、符号97の保護膜の種類によって、特に制約を受けるものではない。
【0032】
Ta層91の説明
Ta層91は、少なくとも2nm以上の膜厚を備えて構成される。好ましくは、2〜10nmの膜厚、より好ましくは4〜6nmの膜厚を有して構成されるのが良い。Ta層91の膜厚が2nm未満となると、本願発明の効果を発現させることが困難となる。
【0033】
Ta層91は、アモルファスの薄膜として形成される。Ta層91は、この上に形成される特定の金属酸化物層93との組み合せによって、はじめて、相乗的な効果が発現する。すなわち、2つの下地層の特別な組合せによって、本願発明の特別顕著な効果を創出する相乗的な効果が発現するのである。あくまでも推測ではあるが、Ta層91の存在によって、これと相性のよい特定の金属酸化物層93(酸化亜鉛(ZnO)層、または酸化マグネシウム(MgO)層)の結晶配向性が向上するのではないかと考えることができる。
【0034】
Ta層91は、スパッタにより成膜され、上述のごとくアモルファス状態の薄膜として成膜される。
【0035】
金属酸化物層93の説明
Ta層91の上には、酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93が成膜される。
【0036】
金属酸化物層93は、少なくとも2nm以上の膜厚を備えて構成される。好ましくは、2〜10nmの膜厚、より好ましくは4〜6nmの膜厚を有して構成されるのが良い。金属酸化物層93の膜厚が2nm未満となると、本願発明の効果を発現させることが困難となる。前述したように、特定の酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93と、この下に敷設されるTa層91の組み合せによってのみ、本願発明の300℃以下の温度において、L10構造FePt規則合金が得られるという特別顕著な効果が発現することが実験的に確認されている。
【0037】
金属酸化物層93は、スパッタにより成膜される。スパッタ成膜の際には、基板温度を250℃前後、特に、200〜300℃の範囲に加熱しておくことが望ましい。加熱しながら成膜することにより、酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93の結晶性を高めるという効果が期待できる。
【0038】
FePt系磁性層の説明
金属酸化物層93の上には、FePt系磁性層95が形成される。
【0039】
本願発明におけるFePt系磁性層95は、Ta層91と、酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層93との組合せ積層体下地層の存在により、成膜後、300℃以下の熱処理によって、L10構造FePt規則合金を主成分として構成される。つまり、FePt系磁性層95は、保磁力6000Oe以上(特に、8000〜12000 Oe)の物性を備えて構成される。
【0040】
保磁力6000Oe以上の必要性は以下のとおり。
【0041】
従来の高保磁力材料として一般的に使用されているCoPtは、その保磁力が3000〜4000Oe程度である。それと比べて、FePtは保磁力6000Oe以上の物性を有する。例えば、発振素子や媒体に高保磁力材料が使用される場合、将来的に、小型化や記録密度の上昇のために、保磁力3000Oe程度では不十分になりつつあるといえる。そこで、保磁力3000Oeを超える6000Oe以上の高保磁力材料であるFePtの使用が望まれているが、その材料をうまく使いこなすには、上記の従来技術で説明したような問題が生じている。そこで、本願発明の積層体構造物を提案し、300℃以下の熱処理によって、L10構造FePt規則合金を主成分として構成させて、保磁力6000Oe以上を実現させている。
【0042】
FePt系磁性層95は、少なくとも10nm以上の膜厚を備えて構成される。好ましくは、10〜50nmの膜厚、より好ましくは15〜40nmの膜厚を有して構成されるのが良い。FePt系磁性層95の膜厚が10nm未満となると、FePtの規則化が進みにくいという不都合が生じ得る。
【0043】
FePt系磁性層95は、スパッタにより成膜される。FePt系磁性層95は、Fe原子とPt原子の総和量を少なくとも80at%以上、特に、80〜95at%含むものが好ましい。
【0044】
FePt系磁性層95は、添加物としてCuを含有することが望ましく、そのCu含有量は5〜30at%、特に、8〜20at%とされる。添加されるCuは、FePt中に分散するとともに、凝集してCuクラスターを形成すると考えられている。
【0045】
なお、上述してきたFePt系磁性層を備える積層体構造物は、成膜後に、磁界を一定方向にかけながら300℃以下の温度でアニール処理する、いわゆる磁場中アニール処理することによって、FePt系磁性層の着磁方向を制御することが可能となる。
【0046】
〔積層体構造物を、磁気抵抗効果素子のバイアス磁界印加用の磁石に態様した場合の説明〕
上述してきた積層体構造物90を、磁気抵抗効果素子のバイアス磁界印加用の磁石90(直交化バイアス用磁石90)として用いた好適な適用態様について、以下、図2〜図13を参照しつつ説明する。
【0047】
以下の説明において、各図面に示されるX軸方向の寸法を「幅」、Y軸方向の寸法を「長さ」、Z軸方向の寸法を「厚さ」とそれぞれ表記する。
【0048】
また、Y軸方向のうちのエアベアリング面(記録媒体と対向する薄膜磁気ヘッド側の面であり、ABSと記す場合もある)に近い側を「前方」、その反対側(奥域側)を「後方」と表記する。また、素子の積層膜を積み上げる方向を「上方」または「上側」、その反対方向を「下方」または「下側」と称する。
【0049】
図2の概略概念図に示されるように、磁気抵抗効果素子は、非磁性中間層40と、この非磁性中間層40を挟むようにして積層形成され、フリー層として機能する第1の強磁性層30およびフリー層として機能する第2の強磁性層50とを有する磁気抵抗効果部8を備え、この磁気抵抗効果部の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子である。
【0050】
図2や図3に示されるように磁気抵抗効果部8の後部には、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の磁化方向の実質的な直交化作用を働きかける直交化バイアス用磁石90が形成されている。この直交化バイアス用磁石90が、実質的に上述してきた積層体構造物90から構成されている。
【0051】
直交化バイアス用磁石90を機能させる前の状態が、図2や図3に示されている。この状態では直交化バイアス用磁石90に直交化バイアスを作用させる磁化は発生しておらず、磁気機抵抗効果素子は、第1の強磁性層30(フリー層30)の磁化方向131と、第2の強磁性層50(フリー層50)の磁化方向151とが、互いにトラック幅方向(図面のX軸方向)に沿った反平行状態となっている。
【0052】
つまり、直交化バイアス用磁石90の着磁操作(例えば、FePt系磁性層を備える積層体構造物に対して、磁界を一定方向にかけながら300℃以下の温度でアニール処理する、いわゆる磁場中アニール処理操作)が行われず、その機能を発揮させる前の状態においては、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50は、それぞれ、互いの磁性層30,50の磁化方向131、151が逆方向となる反平行状態が形成されている。磁化方向131、151が逆方向となる反平行状態を形成する手法にはいくつかの態様が考えられる。それらの具体的な方法については、後述する。
【0053】
図4に示されるように、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の後方(奥域側:Y方向)に設置された直交化バイアス用磁石90が、例えば、媒体対向面であるABSから、奥域側のY方向に着磁99される。これを『ABS IN 磁化』と称す。磁化方向91はABSに対し、奥側に向けて垂直方向とされる。この着磁は、前述したようにFePt系磁性層を備える積層体構造物に対して、磁界を一定方向にかけながら300℃以下の温度でアニール処理する、いわゆる磁場中アニール処理操作により実現される。この着磁99により、いままで反平行状態を形成していた第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の互いの磁化方向131、151は、トラック幅方向(図面のX軸方向)に対して約45度傾いた初期の状態を作り出す(イニシャルの状態)。従って、磁化方向131、151は、実質的に直交する関係となる。実質的に直交する関係とは、90°±20°の範囲をいう。理想的には、90°が好ましい。
【0054】
このイニシャルの磁化状態にある2つの強磁性層30、50が、媒体からの信号磁界を検出すると、まるでハサミが紙を切る時の動作のように磁化方向が変化し、結果として素子の抵抗値が変化する。すなわち、図5に示されるように、ABSから素子側に流入する方向の外部磁界D1を検出すると、第1の強磁性層30の磁化131、および第2の強磁性層50の磁化151は同じ方向を向く傾向となり、素子の抵抗は小さくなる。
【0055】
この一方で、図6に示されるように、ABSから離れる方向の外部磁界D2を検出すると、第1の強磁性層30の磁化135、および第2の強磁性層50の磁化151は双方で反対の方向を向く傾向が生じ、素子の抵抗は大きくなる。
【0056】
このような外部磁界に対する一連の抵抗変化を測定するによって、外部磁界を検出することができる。
【0057】
なお、図4に示されるイニシャルの磁化方向131、151の適正な直交化を図るためには、直交化バイアス用磁石90の磁化強度を調整したり、フリー層として機能する強磁性層30、50の磁化方向の動き易さを調整したりすること等により行われる。
【0058】
また、直交化バイアス用磁石90の磁化方向は、上述した『ABS IN 磁化』に代えて、180°磁化方向を反転させた『ABS OUT 磁化』としてもよい。すなわち、直交化バイアス用磁石90は、奥域側から媒体対向面であるABSに向けたY方向に着磁させてもよい。
【0059】
〔磁性層30、50の磁化方向131、151が逆方向となる反平行状態を形成する手法〕
図2や図3に示されるように、直交化バイアス用磁石を機能させる前の状態(バイアスが印加されていない状態)で、2つのフリー層30、50の磁化方向がトラック幅方向に沿った反平行状態とすることは素子の作用上、極めて重要である。その態様について以下説明しておく。
【0060】
第1の態様:
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50は、直交化バイアス用磁石90(積層体構造物90)からのバイアス磁界が印加される前の状態で、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の磁化が互いに反平行となるように非磁性中間層40を介して交換結合されている状態が第1の態様として例示できる。
【0061】
この状態は、例えば、図7に示されており、第1の強磁性層30の磁化131と、第2の強磁性層50の磁化151とが非磁性中間層40を介して交換結合され、互いに反平行状態となっている。
【0062】
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50に用いられる材料としては、NiFe、CoFe、CoFeB、CoFeNi、Co2MnSi、Co2MnGe、FeOx(Feの酸化物)、CoOx(Coの酸化物)等を例示することができる。各層の厚さは、それぞれ、0.5〜8nm程度とされる。
【0063】
これらの層は、外部から印加された磁界の影響を受けて、各層の磁化の方向が変化するいわゆるフリー層としての機能を有している。
【0064】
非磁性中間層40に用いられる材料としては、Ru、Ir、Rh、Cr、Cu、Zn、Ga、ZnO、InO、SnO、GaN、ITO(Indium Tin Oxide)等を例示することができる。
【0065】
厚さは、0.5〜5nm程度とされる。2つの強磁性層30、50(Free Layer)の磁化を反強磁性結合させるために、用いる非磁性中間層40の材質や、その膜厚の設定には制約がある。
【0066】
第2の態様:
図8に示されるように、磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果部8と、この磁気抵抗効果部8を、実質的に、上下に挟むようにして配置形成される第1のシールド層3(下部シールド層3と呼ぶ場合もある)および第2のシールド層5(上部シールド層5と呼ぶ場合もある)と、を有している。そして、磁気抵抗効果部8の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子である。
【0067】
第1のシールド層3および第2のシールド層5は、それぞれ、磁化方向制御手段により磁化方向が制御されており、図8に示される実施形態では、第1のシールド層3は、図面右側から左側に向く、マイナスの幅方向(−X方向)に磁化35が固定されている。この一方で、第2のシールド層5は、図面左側から右側に向く、プラスの幅方向(+X方向)に磁化51が固定されている。好適には、第1のシールド層3および第2のシールド層5は、それぞれ、磁化方向制御手段により単磁区化されている。
【0068】
磁気抵抗効果部8は、非磁性中間層40と、この非磁性中間層40を挟むようにして積層形成される第1の強磁性層30および第2の強磁性層50とを有している。第1の強磁性層30、非磁性中間層40および第2の強磁性層50の積層体が、センサー領域であり、その積層体のトータル厚さは、10〜20nm程度とされる。
【0069】
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50は、それぞれ、外部磁界に応答して磁化方向が変化する、いわゆるフリー層として機能する。
【0070】
第1の強磁性層30および第2の強磁性層50には、それぞれ、前記第1のシールド層3および前記第2のシールド層5の磁気的作用の影響を受けて、互いの磁化方向が逆方向となる反平行磁化状態が形成される作用が働いている。なお。ここで、「反平行磁化状態が形成される作用が働いている」との記述を用いているのは、実際に使用に供される素子では、前述したように直交化バイアス用磁石90からのバイアス磁界の印加によって、第1の強磁性層30および第2の強磁性層50の磁化方向は、実質的な直交化が図られていることを考慮したためである。
【0071】
上記の反平行の磁化状態を実現させるために、第1のシールド層3と第1の強磁性層30との間には、第1の交換結合機能ギャップ層300が介在されており、第2のシールド層5と第2の強磁性層50との間には、第2の交換結合機能ギャップ層500が介在されている。つまり、第1の強磁性層30は、磁化方向が制御された前記第1のシールド層3と、第1の交換結合機能ギャップ層300を介して、間接的に磁気的な結合がなされているのであり、第2の強磁性層50は、磁化方向が制御された前記第2のシールド層5と、第2の交換結合機能ギャップ層500を介して、間接的に磁気的な結合がなされているのである。
【0072】
第1の交換結合機能ギャップ層300の構成の一例について図9を参照しつつ説明する。ただし、以下の説明の構成に限定されるものではない。
【0073】
第1の交換結合機能ギャップ層300は、第1のシールド層3側から、交換結合伝達層101、ギャップ調整層111、交換結合調整層121を有して構成される。ギャップ調整層111は強磁性体から構成される、いわゆる強磁性層である。
【0074】
交換結合伝達層101は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第1のシールド層3の磁化35と、ギャップ調整層111の磁化111aの磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第1のシールド層3の磁化35と磁気結合するギャップ調整層111の磁化111aの方向も定まる。つまり、磁化が互いに逆の方向を向いて磁気的結合する反強磁性的(antiferromagnetically)結合となるのか、あるいは磁化が互いに同じ方向を向いて磁気的結合する強磁性的(ferromagnetically)結合となるのかが定まる。
【0075】
交換結合調整層121は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれ設定によって、ギャップ調整層111の磁化111aと、第1の強磁性層130の磁化135の磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、ギャップ調整層111の磁化111aと磁気結合する第1の強磁性層30の磁化131の方向も定まる。つまり、反強磁性的結合となるのか、あるいは強磁性結合となるのかが定まる。
【0076】
第1の交換結合機能ギャップ層300の厚さは、1.5〜6.0nm程度に設定される。
【0077】
同様に、第2の交換結合機能ギャップ層500の構成の一例について、図9を参照しつつ説明する。ただし、以下の説明の構成に限定されるものではない。
【0078】
第2の交換結合機能ギャップ層500は、第2のシールド層5側から、交換結合伝達層105、ギャップ調整層115、交換結合調整層125を有して構成される。ギャップ調整層115は強磁性体から構成される、いわゆる強磁性層である。
【0079】
交換結合伝達層105は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第2のシールド層5の磁化51と、ギャップ調整層115の磁化115bの磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、第2のシールド層5の磁化51と磁気結合するギャップ調整層115の磁化115bの方向も定まる。つまり、反強磁性的結合(磁化が互いに逆の方向を向いて磁気的結合)となるのか、あるいは強磁性的結合(磁化が互いに同じ方向を向いて磁気的結合)となるのかが定まる。
【0080】
交換結合調整層125は、Ru、Rh、Ir、Cr、Cu、Ag、Au、Pt、Pdのグループから選択された少なくとも1つの材料から構成され、これらの中から選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、ギャップ調整層115の磁化115bと、第2の強磁性層150の磁化151の磁気的結合の強さを調整できるように作用している。また、選定した材質と厚さのそれぞれの設定によって、ギャップ調整層115の磁化115bと磁気結合する第2の強磁性層150の磁化151の方向も定まる。つまり、反強磁性的結合となるのか、あるいは強磁性的結合となるのかが定まる。
【0081】
第2の交換結合機能ギャップ層500の厚さは、1.5〜6.0nm程度に設定される。
【0082】
図中の符号4は絶縁層である。
【0083】
第3の態様:
上記第2の態様における第1のシールド層3および第2のシールド層5の構成を、さらに発展させたものが第3の態様として図10に例示されている。
【0084】
図10に示されるように、磁気抵抗効果部8の下方に位置する第1のシールド層3、および上方に位置する第2のシールド層5は、それぞれ、素子の幅方向と長さ方向で規定される平面形状(X−Y平面)が、枠形状体に形成されている。
【0085】
このような第1のシールド層および第2のシールド層の枠形状体は、それぞれ、前方の媒体対向面側であって、磁気抵抗効果部が位置する近傍に配置されるフロント枠構成部31、51と、フロント枠構成部の端部から後方に向かうサイド位置に配置されるサイド枠構成部35、55を有している。
【0086】
図11に示されるように、磁気抵抗効果部8を構成する第1の強磁性層30および第2の強磁性層50には、それぞれ、第1のシールド層3のフロント枠構成部31および第2のシールド層5のフロント枠構成部51の磁気的作用の影響を受けて、互いの磁化方向が逆方向となる反平行磁化状態が形成される作用が働くように構成されている。
【0087】
図10に示されるように、第1のシールド層3のサイド枠構成部35は、第1非磁性ギャップ層153と第1バイアス磁界印加層154との組合わせ体を部分的に備えている。第1非磁性ギャップ層153は、第1バイアス磁界印加層154から発せられる磁束154aを、効率よく第1のシールド層3のフロント枠構成部31側まで送り出す作用をするように設計配置されている。第1非磁性ギャップ層153と第1バイアス磁界印加層154との組合わせ体は、第1のシールド層3を構成する枠形状体を磁束がぐるりと回る閉磁路を形成するとともに、前記第1のシールド層のフロント枠構成部31の磁化を単磁区化し、かつ磁化方向を制御するように構成されている。
【0088】
同様に、第2のシールド層のサイド枠構成部55は、第2非磁性ギャップ層155と第2バイアス磁界印加層156との組合わせ体を部分的に備えている。第2非磁性ギャップ層155は、第2バイアス磁界印加層156から発せられる磁束156aを、効率よく前記第2のシールド層5のフロント枠構成部51側まで送り出す作用をするように設計配置されている。第2非磁性ギャップ層155と第2バイアス磁界印加層156との組合わせ体は、第2のシールド層5を構成する枠形状体を磁束がぐるりと回る閉磁路を形成するとともに、第2のシールド層5のフロント枠構成部51の磁化を単磁区化し、かつ磁化方向を制御するように構成されている。
【0089】
磁気抵抗効果部8の構成は、上述した第2の態様の場合のそれと同様である。
【0090】
図11に示されるように、磁気抵抗効果部8を構成する第1の強磁性層30は、磁化方向が制御された前記第1のシールド層3と、第1の交換結合機能ギャップ層300を介して、間接的に磁気的な結合がなされている。
【0091】
磁気抵抗効果部8を構成する第2の強磁性層50は、磁化方向が制御された前記第2のシールド層5と、第2の交換結合機能ギャップ層500を介して、間接的に磁気的な結合がなされている。
【0092】
第1の交換結合機能ギャップ層300および第2の交換結合機能ギャップ層500は、それぞれ、前述した第2の態様における第1の交換結合機能ギャップ層300および第2の交換結合機能ギャップ層500と同様な構成とすればよい。
【0093】
第4の態様:
フリー層として機能する第1の強磁性層30と第2の強磁性層50の互いの磁化を反平行とさせるために、反強磁性層によりピン止め制御された一部のシールド層の磁化を活用した第4の態様の例が図12に示される。
【0094】
すなわち、図12に示されるように、第1のシールド層3を、下側から例えば、1000〜2000nm厚さのNiFeからなる主シールド層(3a)/6nm厚さのIrMnからなる反強磁性層(3b)/1.5nm厚さのCoFe層(3b)と20nmの厚さのNiFe層(3c)の組合せ積層体からなる磁界印加層、との積層体構造とする。そして、第2のシールド層5を、上側から例えば、1000〜2000nm厚さのNiFeからなる主シールド層(5a)/6nm厚さのIrMnからなる反強磁性層(5b)/1.5nm厚さのCoFe層(5c)と20nmの厚さのNiFe層(5d)の組合せ積層体からなる磁界印加層、との積層体構造とする。
【0095】
このような構造からなる第1のシールド層3および第2のシールド層5を用い、第1の交換結合機能ギャップ層300および第2の交換結合機能ギャップ層500をそれぞれ介して、磁気抵抗効果部8を挟むように構成して、フリー層として機能する第1の強磁性層30と第2の強磁性層50の互いの磁化を反平行とさせる。
【0096】
上述してきた磁気抵抗効果素子は、一般に、ウエハプロセスによって、薄膜磁気ヘッドの磁気情報の読取りセンサーとして使用される。磁気抵抗効果素子を含む薄膜磁気ヘッドの全体構造について、以下簡単に説明しておく。
【0097】
〔薄膜磁気ヘッドの全体構造についての説明〕
図13には、いわゆるエアベアリング面(ABS)に平行な薄膜磁気ヘッドの断面図(Y−Z平面での断面)が示されている。
【0098】
図13に示される薄膜磁気ヘッド100は、媒体進行方向Mに移動する例えばハードディスクなどの記録媒体10に磁気的な処理を施すために、例えばハードディスクドライブなどの磁気記録装置に搭載されて使用される。
【0099】
図面に例示されている薄膜磁気ヘッド100は、磁気的処理として記録処理および再生処理の双方を実行可能ないわゆる複合型ヘッドであり、その構造は、図13に示されるように、例えばアルティック(Al2O3・TiC)などのセラミック材料より構成されたスライダ基板1の上に、磁気ヘッド部101が形成された構成を有している。
【0100】
磁気ヘッド部101は、磁気抵抗(MR:Magneto-Resistive)効果を利用して記録された磁気情報の再生処理を行う再生ヘッド部100Aと、例えば、垂直記録方式の記録処理を実行するシールド型の記録ヘッド部100Bとが、積層された構成を有している。
【0101】
以下さらに詳細に説明する。
【0102】
第1のシールド層3と第2のシールド層5は、スライダ基板1の側面1aに略平行となるように形成された平面的な層であり、また、これらの層3、5は、媒体対向面70であるABSの一部を形成している。
【0103】
磁気抵抗効果部8は、第1のシールド層3および第2のシールド層5に挟まれるように配置されており、媒体対向面70の一部を形成している。そして、媒体対向面70に垂直方向(Y方向)のハイトがMRハイト(MR−h)となる。
【0104】
第1のシールド層3および第2のシールド層5は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき等によって形成される。なお、図面では明示してないが、第1のシールド層3および第2のシールド層5は、上述してきた本発明の作用効果を発現するように構成されている必要がある。
【0105】
磁気抵抗効果部8は、スライダ基板1の側面1aに略平行となるように形成された積層膜であり、媒体対向面70の一部を構成している。
【0106】
磁気抵抗効果部8は、例えば、その積層面と垂直方向にセンス電流が流れる膜面垂直型(CPP(Current Perpendicular to Plane))の積層膜であり、前述したような構成とされる。
【0107】
また、図13に示されるように、第2のシールド層5と記録ヘッド部100Bとの間には、第2のシールド層5と同様の材料からなる素子間シールド層9が形成されている。
【0108】
素子間シールド層9は、センサーとして機能する磁気抵抗効果部8を、記録ヘッド部100Bより発生する磁界から遮断して、読み出しの際の外来ノイズを防止する役割を果たしている。また、素子間シールド層9と記録ヘッド部100Bとの間に、さらにバッキングコイル部が形成されていてもよい。バッキングコイル部は、記録ヘッド部100Bから発生して磁気抵抗効果部8の上下電極層を経由する磁束ループを打ち消す磁束を発生させるものであり、磁気ディスクへの不要な書き込み、または消去動作である広域隣接トラック消去(WATE)現象の抑制を図るように作用する。
【0109】
磁気抵抗効果部8の媒体対向面70とは反対側の第1および第2シールド層3、5の間隙;並びに第1および第2シールド層3、5、および素子間シールド層9の媒体対向面70とは反対側である後方部位;並びに第1のシールド層3とスライダ基板1との間隙;並びに素子間シールド層9と記録ヘッド部100Bとの間隙、にはそれぞれアルミナ等から形成された絶縁層4、44が形成されている。
【0110】
記録ヘッド部100Bは、垂直磁気記録用として構成されることが好ましく、図13に示されるように、主磁極層15、ギャップ層18、コイル絶縁層26、コイル層23、および補助磁極層25を有している。
【0111】
主磁極層15は、コイル層23によって誘導された磁束を、書き込みがなされる磁気記録媒体10の記録層まで収束させながら導くための導磁路として構成される。ここで主磁極層15の媒体対向面70側の端部において、トラック幅方向(図13のX軸に沿った方向)の幅、および積層方向(図13のZ軸に沿った方向)の厚さは、他の部分に比べて小さくすることが好ましい。この結果、高記録密度化に対応した微細で強い書き込み用磁界を発生させることが可能となる。
【0112】
主磁極層15に磁気的に結合した補助磁極層25の媒体対向面70側の端部は、補助磁極層25の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部を形成している。図13に示されるように、補助磁極層25は、アルミナ等の絶縁材料により形成されたギャップ層18、およびコイル絶縁層26を介在させて、主磁極層15の媒体対向面70側の端部と対向配置されている。
【0113】
このような補助磁極層25を設けることによって、媒体対向面70近傍における補助磁極層25と主磁極層15との間において磁界勾配をより急峻にさせることができる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読み出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0114】
補助磁極層25は、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて、例えば、厚さ約0.5〜5μmに形成される。使用材料としては、例えば、Ni、FeおよびCoのうち、いずれか2つ若しくは3つからなる合金を用いたり、あるいは、これらを主成分として所定の元素が添加された合金等から構成される。
【0115】
ギャップ層18は、コイル層23と主磁極層15とを離間させるように形成される。ギャップ層18は、例えばスパッタリング法、CVD法等を用いて形成された、例えば、厚さ0.01〜0.5μm程度のAl2O3、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等から構成される。
【0116】
また、実施の形態では、基体側に再生ヘッド部を形成し、その上に、垂直記録ヘッド部を積層した構造の薄膜磁気ヘッドについて説明したが、この積層順序を逆にしてもよい。また、再生専用の薄膜ヘッドとして用いる場合には、再生ヘッド部だけを備えた構成としてもよい。
【0117】
〔ヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置についての説明〕
次いで、上述してきた薄膜ヘッドが搭載されて使用されるヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置の一例について説明する。
【0118】
まず、図14を参照して、ヘッドジンバルアセンブリに含まれるスライダ210について説明する。ハードディスク装置において、スライダ210は、回転駆動される円盤状の記録媒体であるハードディスクに対向するように配置される。このスライダ210は、主に基板およびオーバーコートからなる基体211を備えている。
【0119】
基体211は、ほぼ六面体形状をなしている。基体211の六面のうちの一面は、ハードディスクに対向するようになっている。この一面には、媒体対向面70が形成されている。
【0120】
ハードディスクが図14におけるz方向に回転すると、ハードディスクとスライダ210との間を通過する空気流によって、スライダ210に、図14におけるy方向の下方に揚力が生じる。スライダ210は、この揚力によってハードディスクの表面から浮上するようになっている。なお、図14におけるx方向は、ハードディスクのトラック横断方向である。
【0121】
スライダ210の空気流出側の端部(図14における左下の端部)の近傍には、本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドが形成されている。
【0122】
次に、図15を参照して、本実施の形態に係るヘッドジンバルアセンブリ220について説明する。ヘッドジンバルアセンブリ220は、スライダ210と、このスライダ210を弾性的に支持するサスペンション221とを備えている。サスペンション221は、例えばステンレス鋼によって形成された板ばね状のロードビーム222、このロードビーム222の一端部に設けられると共にスライダ210が接合され、スライダ210に適度な自由度を与えるフレクシャ223と、ロードビーム222の他端部に設けられたベースプレート224とを有している。
【0123】
ベースプレート224は、スライダ210をハードディスク262のトラック横断方向xに移動させるためのアクチュエータのアーム230に取り付けられるようになっている。アクチュエータは、アーム230と、このアーム230を駆動するボイスコイルモータとを有している。フレクシャ223において、スライダ210が取り付けられる部分には、スライダ210の姿勢を一定に保つためのジンバル部が設けられている。
【0124】
ヘッドジンバルアセンブリ220は、アクチュエータのアーム230に取り付けられる。1つのアーム230にヘッドジンバルアセンブリ220を取り付けたものはヘッドアームアセンブリと呼ばれる。また、複数のアームを有するキャリッジの各アームにヘッドジンバルアセンブリ220を取り付けたものはヘッドスタックアセンブリと呼ばれる。
【0125】
図15は、ヘッドアームアセンブリの一例を示している。このヘッドアームアセンブリでは、アーム230の一端部にヘッドジンバルアセンブリ220が取り付けられている。アーム230の他端部には、ボイスコイルモータの一部となるコイル231が取り付けられている。アーム230の中間部には、アーム230を回動自在に支持するための軸234に取り付けられる軸受け部233が設けられている。
【0126】
次に図16および図17を参照して、ヘッドスタックアセンブリの一例と本実施の形態に係るハードディスク装置について説明する。
【0127】
図16はハードディスク装置の要部を示す説明図、図17はハードディスク装置の平面図である。
【0128】
ヘッドスタックアセンブリ250は、複数のアーム252を有するキャリッジ251を有している。複数のアーム252には、複数のヘッドジンバルアセンブリ220が、互いに間隔を開けて垂直方向に並ぶように取り付けられている。キャリッジ251においてアーム252とは反対側には、ボイスコイルモータの一部となるコイル253が取り付けられている。ヘッドスタックアセンブリ250は、ハードディスク装置に組み込まれる。
【0129】
ハードディスク装置は、スピンドルモータ261に取り付けられた複数枚のハードディスク262を有している。各ハードディスク262毎に、ハードディスク262を挟んで対向するように2つのスライダ210が配置される。また、ボイスコイルモータは、ヘッドスタックアセンブリ250のコイル253を挟んで対向する位置に配置された永久磁石263を有している。
【0130】
スライダ210を除くヘッドスタックアセンブリ250およびアクチュエータは、本発明における位置決め装置に対応しスライダ210を支持すると共にハードディスク262に対して位置決めする。
【0131】
本実施の形態に係るハードディスク装置では、アクチュエータによって、スライダ210をハードディスク262のトラック横断方向に移動させて、スライダ210をハードディスク262に対して位置決めする。スライダ210に含まれる薄膜磁気ヘッドは、記録ヘッドによって、ハードディスク262に情報を記録し、再生ヘッドによって、ハードディスク262に記録されている情報を再生する。
【0132】
本実施の形態に係るヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置は、前述の本実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドと同様の効果を奏する。
【実施例】
【0133】
以下に、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物に関する具体的実験例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0134】
〔実験例I〕
DCスパッタ装置を用いて、ALTIC基板の上に、下記表1に示されるような組成および厚さの下地層を形成し、この下地層の上に厚さ35nmのFePt系磁性層を形成した。なお、FePt系磁性層は、14at%のCuを含むFePtから構成され、Fe/Pt原子比は1とした。
【0135】
このようなFePt系磁性層の上に、さらに、厚さ5nmのTa保護層を形成した。しかる後、FePtを規則化するために、250℃、3時間の条件でアニール処理した。
【0136】
このようにして作製した各種の積層体構造物サンプルについて、VSMでFePt系磁性層の保磁力Hcを測定した。結果を下記表1に示した。
【0137】
【表1】
【0138】
上記表1の結果より、本発明のサンプルでは、250℃で、FePtの良好な規則化が実現されていることがわかる。
【0139】
〔実験例II〕
上記の実験例Iにおけるサンプル作製要領において、アニール処理温度を250℃以外に、100℃、150℃、200℃、300℃、350℃、400℃、450℃、500℃、および550℃の各サンプルを作製し、各サンプルに対して同様に保磁力Hcを測定した。
結果を下記表2に示した。
【0140】
【表2】
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
【表5】
【0144】
以上の実験結果より、本発明のサンプルは、アニール温度200〜300℃で保磁力Hcが6000 Oe以上であり、他の比較例サンプルと比べて格段と高い。
【0145】
比較例サンプルでは、300℃以下のアニール温度で保磁力Hcが6000 Oe以上のものは皆無である。
【0146】
また、保磁力Hcが6000 Oe以上であれば、FePtの規則化は、ほぼ満足できる程度に進んでいるものと考えられる。
【0147】
上記の結果より、本発明の効果は明らかである。
すなわち、本発明の積層体構造物は、アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有して構成されているので、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度において、L10構造FePt規則合金を得ることができる。
【0148】
従って、当該積層体構造物は、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度という高温の制約を受ける素子の磁性体部分の役割を十分に担うことができる。
【0149】
なお、前述したように、比較例として列挙した構成においては、300℃以下(特に、200〜300℃)の温度においては、保磁力が極めて小さく、L10構造FePt規則合金が得られていないことが分る。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の産業上の利用可能性として、本発明のFePt系磁性層を備える積層体構造物は、例えば、磁気抵抗効果素子用のバイアス磁界印加用のハードマグネット、マイクロウェブアシスト記録の発振素子、次世代の磁気記録媒体等に適用可能であり、これらの電子部品産業に利用できる。
【符号の説明】
【0151】
90…積層体構造物
91…アモルファス状態のTa層
93…金属酸化物層
95…FePt系磁性層
97…保護膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有してなる積層体構造物。
【請求項2】
前記FePt系磁性層は、L10構造FePt規則合金を主成分として構成される、請求項1に記載の積層体構造物。
【請求項3】
前記FePt系磁性層は、保磁力6000Oe以上の物性を備える、請求項1または請求項2に記載の積層体構造物。
【請求項4】
前記FePt系磁性層は、成膜後に300℃以下の熱処理がなされている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項5】
前記FePt系磁性層は、成膜後に200〜300℃の熱処理がなされている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項6】
前記Ta層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記金属酸化物層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、少なくとも10nm以上の膜厚を有してなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項7】
前記Ta層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記金属酸化物層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、10〜50nmの膜厚を有してなる、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項8】
前記FePt系磁性層は、Fe原子とPt原子の総和量を少なくとも80at%以上含む、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項9】
前記FePt系磁性層は、添加物としてCuを含有し、そのCu含有量が5〜30at%である、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項10】
非磁性中間層と、この非磁性中間層を挟むようにして積層形成され、フリー層として機能する第1の強磁性層およびフリー層として機能する第2の強磁性層とを有する磁気抵抗効果部を備え、この磁気抵抗効果部の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子であり、前記磁気抵抗効果部の後部には、第1の強磁性層および第2の強磁性層の磁化方向の実質的な直交化作用に影響を与える直交化バイアス用磁石が形成されており、
前記直交化バイアス用磁石が、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の積層体構造物を備えて構成されることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
記録媒体に対向する媒体対向面と、
前記記録媒体からの信号磁界を検出するために前記媒体対向面の近傍に配置された請求項10に記載された磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流すための一対の電極と、
を有してなることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項12】
請求項11に記載された薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、
前記スライダを弾性的に支持するサスペンションと、
を備えてなることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項13】
請求項11に記載された薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、
前記スライダを支持するとともに前記記録媒体に対して位置決めする位置決め装置と、
を備えてなることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項1】
アモルファス状態のTa層と、このTa層の上に形成された酸化亜鉛(ZnO)または酸化マグネシウム(MgO)からなる金属酸化物層と、この金属酸化物層の上に形成されたFePt系磁性層と、を有してなる積層体構造物。
【請求項2】
前記FePt系磁性層は、L10構造FePt規則合金を主成分として構成される、請求項1に記載の積層体構造物。
【請求項3】
前記FePt系磁性層は、保磁力6000Oe以上の物性を備える、請求項1または請求項2に記載の積層体構造物。
【請求項4】
前記FePt系磁性層は、成膜後に300℃以下の熱処理がなされている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項5】
前記FePt系磁性層は、成膜後に200〜300℃の熱処理がなされている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項6】
前記Ta層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記金属酸化物層は、少なくとも2nm以上の膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、少なくとも10nm以上の膜厚を有してなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項7】
前記Ta層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記金属酸化物層は、2〜10nmの膜厚を有し、前記FePt系磁性層は、10〜50nmの膜厚を有してなる、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項8】
前記FePt系磁性層は、Fe原子とPt原子の総和量を少なくとも80at%以上含む、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項9】
前記FePt系磁性層は、添加物としてCuを含有し、そのCu含有量が5〜30at%である、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の積層体構造物。
【請求項10】
非磁性中間層と、この非磁性中間層を挟むようにして積層形成され、フリー層として機能する第1の強磁性層およびフリー層として機能する第2の強磁性層とを有する磁気抵抗効果部を備え、この磁気抵抗効果部の積層方向にセンス電流が印加されてなるCPP(Current Perpendicular to Plane)構造の磁気抵抗効果素子であり、前記磁気抵抗効果部の後部には、第1の強磁性層および第2の強磁性層の磁化方向の実質的な直交化作用に影響を与える直交化バイアス用磁石が形成されており、
前記直交化バイアス用磁石が、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の積層体構造物を備えて構成されることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
記録媒体に対向する媒体対向面と、
前記記録媒体からの信号磁界を検出するために前記媒体対向面の近傍に配置された請求項10に記載された磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流すための一対の電極と、
を有してなることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項12】
請求項11に記載された薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、
前記スライダを弾性的に支持するサスペンションと、
を備えてなることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項13】
請求項11に記載された薄膜磁気ヘッドを含み、記録媒体に対向するように配置されるスライダと、
前記スライダを支持するとともに前記記録媒体に対して位置決めする位置決め装置と、
を備えてなることを特徴とする磁気ディスク装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−199539(P2010−199539A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223869(P2009−223869)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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