説明

GaN系LED素子およびその製造方法

【課題】p電極にTCO膜を用いたGaN系LED素子に関して、その高出力化および信頼性向上の少なくともいずれかを実現すること。
【解決手段】n型GaN系半導体層の上にGaN系半導体からなる活性層とp型GaN系半導体層とを順次積層してなり、前記p型GaN系半導体層の前記活性層側の主面とは反対側の主面上に形成されたTCO膜と該TCO膜に接続されたp側ボンディングパッドとを含むp電極と、前記TCO膜の前記p型GaN系半導体層側とは反対側の主面上の一部に形成された抵抗制御膜と、前記p型GaN系半導体層と前記TCO膜との界面に形成されて前記抵抗制御膜の下方の領域において前記活性層を流れる電流を減少させる抵抗増加領域と、前記n型層に接続されたn側ボンディングパッドと、を有するGaN系LED素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型およびn型のGaN系半導体で発光素子構造を構成したpn接合型のGaN系LED素子とその製造方法に関し、とりわけ、p電極にTCO(Transparent Conductive Oxide;透明導電性酸化物)膜を用いたGaN系LED素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系半導体は化学式AlaInbGa1−a−bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)で表される化合物半導体であり、3族窒化物半導体、窒化物系半導体などとも呼ばれる。
現在一般的となっているGaN系LED素子は量子井戸構造の活性層を含むダブルヘテロpn接合型の発光素子構造を基本構造として有するものであり、典型的には、サファイア基板上にGaN系半導体からなるn型層と活性層とp型層を順次形成して積層し、p型層の表面と、一部露出させたn型層の表面に、それぞれp電極とn電極とを形成した構造を有している。この典型的なGaN系LED素子の構造は、基板平面を水平面と見立てたとき、素子の同一面側に設けられた2つの電極間を電流が水平方向に流れることから、水平電極型構造と呼ばれることがある。
活性層の材料にInGaNを用いたGaN系LED素子は緑色〜近紫外の光を発生することが可能であり、輝度も高いことから、信号機やディスプレイ装置等の用途で実用化されている。しかし、屋内外の照明や自動車のヘッドランプなどの用途に使用するためには、更なる高出力化が必要といわれている。
【0003】
GaN系LED素子の高出力化の一手段としてp電極をTCO膜で形成することが有効であることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−210867号公報
【特許文献2】特開平9−129922号公報
【特許文献3】国際公開第98/42030号パンフレット
【特許文献4】特開2000−164928号公報
【特許文献5】特開平10−341038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたGaN系LED素子は、p電極の構造として、p型層上を覆うようにTCO膜からなる透明電極(オーミック電極)を設け、その上の一部に金属ワイヤを接続するためのp側ボンディングパッドを設けた構造を有している。このような、p電極構造を有するGaN系LED素子では、活性層で生じる光をボンディングパッドが遮蔽することが従来から問題視されている。この問題を解決するためには、ボンディングパッド直下の領域において活性層を流れる電流を減少させて、該領域における発光を抑制すればよいので、そのための手段としてp型層とTCO膜との接触を防止するための絶縁膜をボンディングパッドの直下に設けた構成が考案されている(例えば、特許文献2、3、4)。
【0006】
それに対して、本発明者らはp電極にTCO膜を用いたGaN系LED素子において、従来技術とは全く異なる手段によって、活性層を流れる電流を特定の領域にて減少させ得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
本発明の具体的な目的は、p電極にTCO膜を用いたGaN系LED素子に関して、その高出力化および信頼性向上の少なくともいずれかを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態として、次に掲げるGaN系LED素子およびその製造方法を提供する。
(1)n型GaN系半導体層の上にGaN系半導体からなる活性層とp型GaN系半導体層とを順次積層してなり、
前記p型GaN系半導体層の前記活性層側の主面とは反対側の主面上に形成されたTCO膜と該TCO膜に接続されたp側ボンディングパッドとを含むp電極と、
前記TCO膜の前記p型GaN系半導体層側とは反対側の主面上の一部に形成された抵抗制御膜と、
前記p型GaN系半導体層と前記TCO膜との界面に形成されて前記抵抗制御膜の下方の領域において前記活性層を流れる電流を減少させる抵抗増加領域と、
前記n型層に接続されたn側ボンディングパッドと、
を有するGaN系LED素子。
(2)前記p側ボンディングパッドが前記TCO膜上に形成され、前記抵抗制御膜の少なくとも一部が前記p側ボンディングパッドと前記TCO膜との間の一部に挿入されている、前記(1)に記載のGaN系LED素子。
(3)水平電極型の素子構造が形成されるように前記n側ボンディングパッドが前記n型GaN系半導体層の一部露出面上に設けられ、前記TCO膜が前記p側ボンディングパッドと前記n側ボンディングパッドとの間に挟まれたパッド間領域を有しており、前記抵抗制御膜の少なくとも一部が前記パッド間領域上に形成されている、前記(1)または(2)に記載のGaN系LED素子。
(4)前記p側ボンディングパッドに覆われた領域を除く前記TCO膜上において、前記抵抗制御膜が前記パッド間領域の内側にのみ形成されている、前記(3)に記載のGaN系LED素子。
(5)前記抵抗制御膜が絶縁性無機材料からなる、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のGaN系LED素子。
(6)基板上にn型GaN系半導体層とGaN系半導体からなる活性層とp型GaN系半導体層とが順次積層されてなる積層体と、前記p型GaN系半導体層の前記活性層側の主面とは反対側の主面上に形成されたTCO膜と、を有する半導体ウェハを準備するステップと、
前記TCO膜の前記p型GaN系半導体層側とは反対側の主面上の一部に抵抗制御膜を形成するステップと、
前記TCO膜上にp側ボンディングパッドを形成するステップと、を有し、
前記抵抗制御膜が形成される部分に対応する領域において前記p型GaN系半導体層と前記TCO膜との界面の抵抗が上昇するように、前記抵抗制御膜を形成するステップでは前記抵抗制御膜を形成しようとする領域を除く前記TCO膜の露出面を保護膜で覆った状態で前記抵抗制御膜をスパッタリング法により形成する、
GaN系LED素子の製造方法。
(7)前記(6)に記載の製造方法を用いて形成されるGaN系LED素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、TCO膜をp電極に用いたGaN系LED素子に関して、その高出力化および信頼性向上の少なくともいずれかが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るGaN系LED素子の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るGaN系LED素子の構造を示す図であり、図2(a)は素子を電極配置面側から見た平面図、図2(b)は図2(a)のX−X線の位置における断面図である。
【図3】「パッド間領域」の定義を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るGaN系LED素子の構造を示す図であり、図4(a)は素子を電極配置面側から見た平面図、図4(b)は図4(a)のX−X線の位置における断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るGaN系LED素子の構造を示す図であり、図5(a)は素子を電極配置面側から見た平面図、図5(b)は図5(a)のX−X線の位置における断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るGaN系LED素子の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るGaN系LED素子の構造を示す断面図である。
【図8】参考実験例に係る方法を用いて作製した後、加速劣化条件下で連続点灯させたGaN系LEDチップに含まれるエピタキシャル層表面のカソードルミネッセンス像である。
【図9】参考実験例に係る方法を用いて作製したままのGaN系LEDチップに含まれるエピタキシャル層表面のカソードルミネッセンス像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(参考実験例)
通常のMOVPE法を用いて、直径2インチのc面サファイア基板上にバッファ層を介して膜厚4μmのアンドープGaN層、SiドープGaNからなる膜厚4μmのn型GaNコンタクト層、InGaN/GaN多重量子井戸活性層、MgドープAl0.1Ga0.9Nからなる膜厚170nmのp型クラッド層、MgドープAl0.03Ga0.97Nからなる膜厚40nmのp型コンタクト層を順次積層することにより、エピタキシャルウェハを作製した。
【0012】
次に、このエピタキシャルウェハのp型コンタクト層上に、p側のオーミック電極とするためのITO膜を、電子ビーム蒸着法を用いて約0.2μmの厚さに形成した。そして、形成後のITO膜に対し大気雰囲気中、500℃、20分間の熱処理を施した。熱処理後、塩酸エッチングにより不要部分を溶解除去することによって、このITO膜を所定の形状に成形した。
【0013】
次に、エピタキシャル層のn電極を形成すべき場所にRIE(反応性イオンエッチング)によって凹部を形成して、該凹部の底にn型コンタクト層を露出させた。
【0014】
次に、リフトオフ法を用いて、上記工程で露出させたn型コンタクト層表面へのn電極(ボンディングパッドを兼用)の形成と、ITO膜表面へのp側ボンディングパッドの形成とを、同時に行った。
【0015】
リフトオフ法はウェハ表面に目的の薄膜を所望のパターンに形成するための技法であり、当該技術分野においてはよく知られた技法であるが、簡単に説明すれば;
(i)ウェハ表面にフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィによりこのフォトレジスト膜に所定の開口部パターンを設けたうえで;
(ii)ウェハ上に目的の薄膜を形成し;
(iii)しかる後にフォトレジスト膜を除去する(このとき目的の薄膜のうちフォトレジスト膜上に形成された部分がリフトオフされる);
というステップを経ることによって、目的の薄膜を(i)でフォトレジスト膜に設けた開口部パターンと同じパターンに形成するというものである。
【0016】
本参考実験例においては厚さ6μmに形成したフォトレジスト膜を用いて、リフトオフ法によるn電極およびp側ボンディングパッドの形成を行った。フォトレジストにはナフトキノンジアジド−ノボラック樹脂系のポジ型フォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアル株式会社製、製品名:AZ P4620)を用いた。ウェハ表面に塗布したフォトレジストに対しては、100℃、30分間のベーキングを行った後、露光および現像を行った。現像後のフォトレジストのベーキングは行わなかった。電極(ボンディングパッド)用のメタル膜は、厚さ100nmのTiW膜の上に厚さ500nmのAu膜を積層した二層構造膜とした。従って、このメタル膜の膜厚に対してフォトレジスト膜の膜厚は10倍である。TiW膜とAu膜はいずれもスパッタリング法を用いて形成した。TiW膜を形成する際は、ターゲットにTi含有量が10wt%のTi−Wターゲット、スパッタガスにAr(アルゴン)を使用し、RF電力200W、スパッタガス圧1.0×10−1Paという条件でスパッタリングを行った。メタル膜の形成後、リムーバ液を用いてフォトレジスト膜をウェハから除去することにより、メタル膜は所定の電極形状に成形された。
【0017】
次いで、n電極およびp側ボンディングパッドの表面を除くウェハ表面に、電子ビーム蒸着法を用いて酸化ケイ素からなる保護被覆(パッシベーション膜)を形成した。その後、サファイア基板の裏面をラッピングしてウェハの厚さを80μmまで薄くしたうえで、スクライバーを用いてウェハを分割し、350μm角の板状のGaN系LEDチップを得た。このチップの順方向電圧Vf(20mA)は3.3Vであった。
【0018】
上記手順にて作製したLEDチップを加速劣化条件の下で劣化させた。具体的には、LEDチップをサブマウントを介してステム上にフリップチップ実装し、pn接合部の温度が230℃となるように、環境温度100℃、順方向電流114mAという条件で、1000時間連続点灯させた。このようにして劣化させた後、LEDチップをサブマウントから取り外し、酸を用いてエピタキシャル層の表面から保護被覆とITO膜を除去したうえで、エピタキシャル層の表面(p型コンタクト層の表面)のカソードルミネッセンス(CL)像を取得した。取得したCL像を図8に示す。
【0019】
図8に示されているように、連続点灯により劣化させたLEDチップに含まれるエピタキシャル層の表面では、転位欠陥が存在する部分に現れる暗点(発光再結合の効率が局所的に低いために暗く見える部分)の密度が、ボンディングパッドの直下の領域と、その周囲の領域とで明確に異なっていた。すなわち、転位欠陥の密度が、p側ボンディングパッド直下の領域ではその周囲の領域と比べて明らかに低かった。
【0020】
一方、同様にして取得した、作製したままのLEDチップに含まれるエピタキシャル層表面のCL像を図9に示す。図9から明らかなように、劣化していない状態では、エピタキシャル層の表面における転移欠陥の分布は一様であった。
【0021】
本発明者等は上記条件でLEDチップを点灯させたときのpn接合部の温度を熱電対を用いた方法により測定したが、p側ボンディングパッド直下とその周囲の領域との間に有意な温度差は認められなかった。このことから、連続点灯により劣化させたチップのエピタキシャル層に見られた、ボンディングパッド直下とその周囲の領域との間における明らかな転位密度の違いは、熱的な作用のみにより形成されたものではないと本発明者らは結論した。本発明者らの考えは、連続点灯に伴う欠陥密度の増加には電気的な作用が関与しており、p側ボンディングパッドの直下ではITO膜からp型層に注入されるキャリアの密度が低いために、欠陥密度の増加が抑えられたというものである。このボンディングパッド直下における注入キャリア密度の低下には、ボンディングパッドの形成方法が関係している。ボンディングパッドを構成するメタル膜をスパッタリングにより形成する際、ボンディングパッドを形成すべき領域以外では、ITO膜の表面は厚いフォトレジスト膜により保護されている。一方、ボンディングパッドを形成しようとする領域ではITO膜の表面が露出している。そのために、ボンディングパッドの形成時、この領域ではスパッタ粒子や高エネルギー粒子の衝撃によって、薄いITO膜に覆われただけのp型層の表面がダメージを受ける。その結果として、ITO膜とp型層との間の抵抗がボンディングパッドの直下において相対的に高くなり、ひいては、LEDチップに順方向電流を供給したときに、ITO膜からp型層へのキャリア注入がボンディングパッドの直下では起こり難くなる。
【0022】
ダメージ部における抵抗の増加は次のように説明される。即ち、GaN系半導体ではV族成分である窒素の蒸気圧が高いことに起因して、ダメージ部には窒素空孔が高濃度に形成される。この窒素空孔はドナーとなるので、p型GaN系半導体においては自己補償によるp型キャリア濃度の低下を引き起こす。それが原因となって、半導体の抵抗率や半導体−電極間の接触抵抗が上昇する。特に、ワイドギャップ半導体であるGaN系半導体では本質的にp型キャリアの生成効率が低い、即ち、p型層のキャリア濃度が基本的に低いことから、ダメージを受けることによってキャリア濃度の更なる低下が生じたときの接触抵抗の増加が著しいものとなる。
【0023】
本発明者らは、この参考実験例に基づき次のように考えた。
(ア)ボンディングパッド用の金属材料に代えて無機材料を使用し上記参考実験例と同様の条件で無機スパッタ膜を形成した場合には、該無機スパッタ膜の直下においてp型層/ITO膜界面に抵抗増加領域が形成されるであろう。そして、別途ITO膜上にボンディングパッドを形成してLED素子に通電した場合には、該無機スパッタ膜の直下においてp型層に注入されるキャリア密度の低下が生じるであろう。
(イ)上記参考実験例においてボンディングパッドをITO膜上にスパッタ形成する際にボンディングパッドとは別に金属スパッタ膜を同時に形成した場合には、ボンディングパッドを通じてLED素子に通電したときに、ボンディングパッド直下のみならず該金属スパッタ膜の直下においてもp型層に注入されるキャリア密度の低下が生じるであろう。
(ウ)p型層に注入されるキャリア密度が低下した領域の下方では、活性層を流れる電流も減少する。よって、TCO膜上へのスパッタ膜形成によってその直下におけるp型層/TCO膜界面の接触抵抗を制御し、それによって、その下方に、活性層を流れる電流が減少した領域を、該スパッタ膜の平面形状に略対応した形状に形成することが可能であろう。
(エ)スパッタ膜直下のp型層/TCO膜界面に一旦形成された抵抗増加領域は、後でこのスパッタ膜を除去しても残るので、スパッタ膜をLED素子に残留させることが好ましくない場合にはこれを除去することもできるであろう。
【0024】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係るGaN系LED素子の模式断面図を図1に示す。このGaN系LED素子10は、基板11上に、それぞれGaN系半導体からなるn型層12と活性層13とp型層14とを順次積層し、p型層14の表面にTCO膜15とp側ボンディングパッド16とからなるp電極を形成し、基板11の裏面にn側ボンディングパッド17を形成してなる構造を有している。電極構造の観点からいうと、このGaN系LED素子10は垂直電極型構造を有している。TCO膜15とp側ボンディングパッド16との間の一部には抵抗制御膜RFが挿入されている。
【0025】
抵抗制御膜RF直下におけるp型層14とTCO膜15との界面には、抵抗制御膜RFの形成時に形成された抵抗増加領域が存在している。この抵抗増加領域ではp型層14とTCO膜15との界面を横切る方向の電気抵抗が他の領域に比べて高くなっている。そのため、p側ボンディングパッド16とn側ボンディングパッド17を通してLED素子10に順方向電圧を印加したとき、p型層14とTCO膜15との界面を横切って流れる電流がこの抵抗増加領域では少なくなる。このことは、抵抗増加領域の下方において活性層13を流れる電流が減少することを意味する。このような抵抗増加領域がp側ボンディングパッド16に覆われた抵抗制御膜RFの下方に存在することから、GaN系LED素子10ではp側ボンディングパッド16の下方における活性層13の発光が抑制されている。
【0026】
GaN系LED素子10は次のようにして製造することができる。
まず、通常のMOVPE法を用いて基板11上にGaN系半導体結晶を成長させて、n型層12と活性層13とp型層14とを順次積層したエピタキシャルウェハを作製する。垂直電極型構造とするために基板11には導電性を有する基板を用いる。導電性基板としては、例えば、炭化ケイ素、ケイ素、GaN系半導体、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタンなどからなる単結晶基板が例示される。
【0027】
次に、上記形成したエピタキシャルウェハのp型層14上に、オーミック電極とするためのTCO膜15を真空蒸着法を用いて形成する。このTCO膜15の膜厚は例えば0.01μm〜0.2μmとすることができるが、好ましくは0.01μm〜0.15μmであり、より好ましくは0.01μm〜0.10μm、特に好ましくは0.01μm〜0.05μmである。TCO膜15の膜厚を小さくする程、後の工程にて抵抗制御膜RFの下方に形成される抵抗増加領域における、TCO膜とp型層14との間の抵抗が顕著に大きくなる。なぜなら、膜厚の減少とともに、抵抗制御膜の形成時にp型層表面を保護する保護材としてのTCO膜の作用が小さくなるからである。
TCO膜15は、成膜後、湿式または乾式エッチングによって不要部分を除去することにより所定の電極形状にパターニングする。パターニングの前または後にウェハに熱処理を行ってもよい。
【0028】
次に、リフトオフ法を用いて、後の工程でp側ボンディングパッド16を形成すべきTCO膜15上の領域の一部に、スパッタリングによって抵抗制御膜RFを形成する。
この工程では、抵抗制御膜RFが形成される部分に対応する領域においてp型層15の表面がスパッタリングに起因するダメージを受け、p型層14とTCO膜15との界面に抵抗増加領域が形成されるよう、スパッタリング条件を設定する。
【0029】
抵抗制御膜RFの材料はスパッタ膜を形成し得る金属または無機材料であればよく、GaN系LED素子の構成材料として必要な強度と耐久性を有するものの中から適宜選択することができる。望ましくは、できるだけ光吸収が小さい材料を選択する。金属材料であれば銀白色を呈するものが好ましく、特に好ましいものとしてAg(銀)、Al(アルミニウム)、Rh(ロジウム)、Pt(白金)が例示される。
無機材料であれば、活性層13のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する絶縁性無機材料が好ましく、とりわけ、化学的安定性の高い金属酸化物、金属窒化物または金属酸窒化物、具体的には酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブなどの材料が好ましく例示される。絶縁性材料に比べると短波長領域での光吸収が大きい点で劣るが、各種のTCOも使用可能である。
上記例示した中では、光吸収が小さいという点で、絶縁性無機材料が最も好ましい材料である。
【0030】
次に、TCO膜15上にp側ボンディングパッド16を形成する。p側ボンディングパッド16は抵抗制御膜RFを覆うように形成する。p側ボンディングパッド16は金属材料のみで構成してもよいが、好ましい実施形態では、TCO膜15および抵抗制御膜RFと接する下層部をTCOで形成し、その上に上層部として金属層を形成した積層膜としてもよい。
次に、エピタキシャル層の上面側からエッチングを行い、ウェハ上の各素子の少なくとも発光層13が独立するように素子間分離溝を形成する。
【0031】
次に、電子ビーム蒸着法を用いて、エピタキシャル層を形成した側のウェハ表面を全面的に覆う透明な保護被覆(図示せず)を形成する。保護被覆の材料は、好ましくは金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物などである。保護被覆の形成後、p側ボンディングパッド16の表面をドライエッチングにより露出させる。
次に、基板11の裏面上にn側ボンディングパッド17を形成する。n側ボンディングパッド17を基板11の裏面に直接形成しないで、それよりも面積の大きなTCO膜を介して形成してもよい。n側ボンディングパッド17の形成の順序に特に限定はなく、例えば、p電極の形成より先に行ってもよい。
最後に、ダイサー、スクライバーなどを用いた公知の方法によりウェハからGaN系LED素子10を切り出してチップとする。
【0032】
このようにして作製されるGaN系LED素子10は、フェースアップ実装して用い得ることは勿論、基板11が発光層13で生じる光に対して透過性を有する場合には、フェースダウン実装(フリップチップ実装、ジャンクションダウン実装などともいう)して用いることもできる。
【0033】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係るGaN系LED素子を図2に模式的に示す。図2(a)はLED素子を電極配置面側から見た平面図、図2(b)は図2(a)のX−X線の位置における断面図である。
このGaN系LED素子20は、基板21上に、それぞれGaN系半導体からなるn型層22と活性層23とp型層24とを順次積層し、p型層24の表面にTCO膜25とp側ボンディングパッド26とからなるp電極を形成し、エッチングにより一部露出したn型層22の表面にn側ボンディングパッド27(オーミック電極を兼用)を形成してなる構造を有している。電極構造の観点からいうと、このGaN系LED素子20は水平電極型構造を有している。
TCO膜25上の一部には抵抗制御膜RFが形成されている。
【0034】
GaN系LED素子20における抵抗制御膜RFは、図2(a)に示すように、TCO膜25のうち、p側ボンディングパッド26とn側ボンディングパッド27との間に挟まれた領域である「パッド間領域」上に形成されている。ここで、本明細書にいう「パッド間領域」は、素子を平面視したとき2つのボンディングパッドに接する接線を外縁とする領域とする。図3(a)はこれを説明するための図であり、図中の2本の二点鎖線がそれぞれ2つのパッドに接する接線を示している。パッド間領域は2本の二点鎖線の間に挟まれた領域に含まれる。
ボンディングパッドは金属ワイヤやハンダとの接続に主として用いる本体部に加えて、該本体部から細長く伸びるアーム部を有していてもよいが、ボンディングパッドがこのように本体部とアーム部とを有する場合には、図3(b)に示すようにアーム部を無視し、本体部のみを考慮してパッド間領域の外縁となる接線を定義する。
【0035】
TCO膜のパッド間領域は従来技術のGaN系LED素子においては電流集中が生じていた領域である(例えば、特開平10−341038を参照)。GaN系LED素子20ではTCO膜25のパッド間領域上に抵抗制御膜RFを形成することにより、その下方におけるp型層24とTCO膜25との界面に抵抗増加領域が形成されているために、TCO膜25のパッド間領域への電流集中が抑制されている。TCO膜の特定領域への電流集中を抑制することにより、活性層を流れる電流の面内分布を一様にすることができる。それによって、発光層の多くの部分を有効に利用できるようになるために、LED素子の発光効率が向上する。また、TCO膜や活性層の特定部位にかかっていた高い負荷が緩和されることにより、LED素子の信頼性が向上する。
【0036】
GaN系LED素子20は次のようにして製造することができる。
まず、通常のMOVPE法を用いて基板21上にGaN系半導体結晶を成長させて、n型層22と活性層23とp型層24とを順次積層したエピタキシャルウェハを作製する。基板21はGaN系半導体結晶のエピタキシャル成長に適したものであればよく、サファイア、スピネル、炭化ケイ素、ケイ素、GaN系半導体(GaN、AlGaNなど)、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛、LGO、NGO、LAO、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタンなどの材料からなる結晶基板(単結晶基板、テンプレート)を、好ましく用いることができる。透光性
の基板としては、当該素子の発光波長に応じて、サファイア、スピネル、炭化ケイ素、GaN系半導体、リン化ガリウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛、LGO、NGO、LAOなどから選択される材料で構成される基板を好ましく用いることができる。
【0037】
次に、上記形成したエピタキシャルウェハのp型層24上に、オーミック電極とするためのTCO膜25を真空蒸着法を用いて形成する。このTCO膜25の膜厚は例えば0.01μm〜0.2μmとすることができるが、好ましくは0.01μm〜0.15μmであり、より好ましくは0.01μm〜0.10μm、特に好ましくは0.01μm〜0.05μmである。TCO膜15の膜厚を小さくする程、後の工程にて抵抗制御膜RFの下方に形成される抵抗増加領域における、TCO膜とp型層14との間の抵抗が顕著に大きくなる。なぜなら、膜厚の減少とともに、抵抗制御膜の形成時にp型層表面を保護する保護材としてのTCO膜の作用が小さくなるからである。
TCO膜25は、成膜後、湿式または乾式エッチングによって不要部分を除去することにより所定の電極形状にパターニングする。パターニングの前または後にウェハに熱処理を行ってもよい。
【0038】
次に、エピタキシャル層のn側ボンディングパッド27を形成すべき場所にRIE(反応性イオンエッチング)によって凹部を形成して、該凹部の底にn型層22を露出させる。このとき同時に該凹部と同じ深さを有する素子分離溝を形成してウェハ上の各素子の発光層23を独立させる。
【0039】
次に、TCO膜25上へのp側ボンディングパッド26の形成と、上記工程で露出したn型層22表面へのn側ボンディングパッド27の形成を行う。これらは、いずれを先に形成してもよいが、好ましくは工程数を削減するために同時形成する。n側ボンディングパッド電極27はオーミック電極を兼用させる関係から、少なくともn型層22に接する部分を、n型GaN系半導体とオーミック接触する材料(Ti、W、TiW、V、Al、TCOなど)で形成する。あるいは、n側ボンディングパッド27をn型層22の表面に直接形成しないで、それよりも面積の大きなTCO膜を介して形成してもよい。各ボンディングパッドの少なくとも表層部は、金属ワイヤやハンダなどが良好に接合し得るように、金属材料で形成する。
【0040】
次に、リフトオフ法を用いて、TCO膜25のパッド間領域上にスパッタリングによって抵抗制御膜RFを形成する。抵抗制御膜RFが形成される部分に対応する領域においてp型層25の表面がスパッタリングに起因するダメージを受け、p型層24とTCO膜25との界面に抵抗増加領域が形成されるようスパッタリング条件を設定する点は、前述の実施形態1の場合と同じである。
【0041】
抵抗制御膜RFの材料はスパッタ膜を形成し得る金属または無機材料であればよく、GaN系LED素子の構成材料として必要な強度と耐久性を有するものから適宜選択することができる。望ましくは、光吸収が小さく、かつ、導電性を有さない材料を選択する。導電性材料を用いると抵抗制御膜RF自体が電流の拡散経路となるので、電流集中を抑制する効果が低下してしまう。よって、GaN系LED素子20における抵抗制御膜RFの最も好ましい材料は、活性層23のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する絶縁性無機材料である。その中でも、化学的安定性の高い金属酸化物、金属窒化物または金属酸窒化物、具体的には酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブなどの材料が特に好ましい点は、前述の実施形態1の場合と同じである。
抵抗制御膜RF、p側ボンディングパッド26、n側ボンディングパッド27の形成の順序に特に限定はなく、例えば、ボンディングパッドの形成より先に抵抗制御膜を形成してもよい。
【0042】
次に、電子ビーム蒸着法を用いて、エピタキシャル層を形成した側のウェハ表面を全面的に覆う透明な保護被覆(図示せず)を形成する。保護被覆の材料は、好ましくは金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物などである。保護被覆の形成後、p側ボンディングパッド26とn側ボンディングパッド27の表面をドライエッチングにより露出させる。
最後に、必要に応じて基板の裏面をラッピングしてウェハの厚さを薄くしたうえで、ダイサー、スクライバーなどを用いた公知の方法によりウェハからGaN系LED素子20を切り出してチップとする。
【0043】
このようにして作製されるGaN系LED素子20は、フェースアップ実装して用い得ることは勿論、基板21が発光層23で生じる光に対して透過性を有する場合には、フェースダウン実装して用いることもできる。あるいは、フェースダウン実装する場合において、特表2007−517404号公報(WO2005/062905号公報)に開示された技術を用いることにより、基板21をLED素子実装後に除去することができる。
【0044】
(実施形態3)
本発明の実施形態3に係るGaN系LED素子を図4に模式的に示す。図4(a)はLED素子を電極配置面側から見た平面図、図4(b)は図4(a)のX−X線の位置における断面図である。
このGaN系LED素子30は、基板31上に、それぞれGaN系半導体からなるn型層32と活性層33とp型層34とを順次積層し、p型層34の表面にTCO膜35とp側ボンディングパッド36とからなるp電極を形成し、エッチングにより一部露出したn型層32の表面にn側ボンディングパッド37(オーミック電極を兼用)を形成してなる構造を有している。2つのボンディングパッド36、37は、それぞれ本体部と該本体部から細長く伸びたアーム部36a、37aを有している。アーム部36a、37aは素子の面方向の電流拡散を補助するために設けられた部分であり、通常、金属ワイヤの接合部位として使用されることはない。電極構造の観点からいうと、このGaN系LED素子30は水平電極型構造を有している。TCO膜35上の一部には抵抗制御膜RFが形成されている。図4(a)においては、ボンディングパッド36の下に隠れた抵抗制御膜RFの輪郭線を破線で示している。
【0045】
本実施形態3に係るGaN系LED素子30が前述の実施形態2に係るGaN系LED素子20と異なる点は、前述の実施形態2に係るGaN系LED素子20では抵抗制御膜RFがTCO膜25のパッド間領域上のみに形成されているのに対し、GaN系LED素子30では抵抗制御膜RFがTCO膜35のパッド間領域上のみではなく、その一部がp側ボンディングパッド36に覆われた領域にも形成されている点である。このように構成されることにより、GaN系LED素子30においては、p側ボンディングパッド36の下方の領域における活性層33の発光が
抑制されるとともに、TCO膜35のパッド間領域への電流集中が抑制されている。
【0046】
(実施形態4)
本発明の実施形態4に係るGaN系LED素子を図5に模式的に示す。図5(a)はLED素子を電極配置面側から見た平面図、図5(b)は図5(a)のX−X線の位置における断面図である。
このGaN系LED素子40は、基板41上に、それぞれGaN系半導体からなるn型層42と活性層43とp型層44とを順次積層し、p型層44の表面にTCO膜45とp側ボンディングパッド46とからなるp電極を形成し、エッチングにより一部露出したn型層42の表面にn側ボンディングパッド47(オーミック電極を兼用)を形成してなる構造を有している。電極構造の観点からいうと、このGaN系LED素子40は水平電極型構造を有している。
TCO膜45上の一部には抵抗制御膜RFが形成されている。前述の実施形態3に係るGaN系LED素子30と同様に、GaN系LED素子40では抵抗制御膜RFが一部ではTCO膜45とp側ボンディングパッド46との間の一部に挿入されており、他の一部ではTCO膜45のパッド間領域上に形成されている。図5(a)においては、抵抗制御膜RFの輪郭線のうちボンディングパッド46の下に隠れた部分と反射膜49の下に隠れた部分を破線で示している。
【0047】
前述の各実施形態に係るGaN系LED素子とは異なり、GaN系LED素子40は、更に、TCO膜45上に抵抗制御膜RFの一部を挟んで形成された反射膜49を有している。反射膜49はTCO膜膜の電流拡散性に実質的な影響を与えないよう、少なくともTCO膜と接する部分が絶縁性材料で形成されている。反射膜49は誘電体多層膜型の反射膜であり得る。反射膜49はまた、誘電体膜(多層膜型の反射膜を含み得る)上に金属膜を積層した多層膜構造を有し得る。この場合の好ましい金属膜の材料は、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Rh(ロジウム)、Pt(白金)である。
本実施形態4に係るGaN系LED素子40は好適にはフェースダウン実装して用いる。フェースダウン実装後、特表2007−517404号公報(WO2005/062905号公報)に開示された技術を用いることにより、基板41を除去することができる。
【0048】
上記各実施形態において、抵抗制御膜を形成する工程で考慮すべき重要なポイントは次の2つである。
【0049】
第一のポイントは、TCO膜の表面に抵抗制御膜が堆積される領域に対応して、p型層とTCO膜との間の抵抗が部分的に増加した抵抗増加領域が形成されるよう、スパッタリング条件を設定することである。この抵抗の増加は、前述のようにスパッタ粒子や高エネルギー粒子の衝撃に起因して生じると考えられるので、例えば、スパッタリング雰囲気を低圧とすることによって、促進することができる。なぜなら、低圧雰囲気下では、スパッタ粒子や高エネルギー粒子が雰囲気ガス分子との衝突によりエネルギーを失うことなくウェハ表面に到達する確率が高くなるからである。一般的には、高エネルギー粒子は基板やスパッタ膜を損傷させるので、できるだけ基板に入射させないようにすることが好ましいとされるが、それとは対照的に、上記の抵抗増加領域の形成にあたっては、高エネルギー粒子の作用を好ましく利用することができる。
【0050】
第二のポイントは、リフトオフ用のフォトレジスト膜に覆われた領域では、p型層とTCO膜との間の抵抗が抵抗制御膜の形成の前後で実質的に変わらないよう、使用するスパッタリング条件に応じて十分な保護効果が生じるようにフォトレジスト膜の膜厚を決定することである。電界メッキ法によるバンプ(微小電極)形成などを主な用途とする、10μm以上の厚膜形成が可能なフォトレジストが市販されており、好ましく用いることができる。
【0051】
(変形実施形態1)
上記各実施形態では、TCO膜15、25、35、45が単層構造であるが、これを2層以上のTCO膜を積層した多層構造とすることができる。特に、TCO膜15、25、35、45を多層構造とする場合、任意の2層の間に抵抗制御膜RFを挟んだ構造を採用することが可能である。
一例として、上記実施形態2において、TCO膜25を下部層25aおよび上部層25bからなる2層構造としたGaN系LED素子の断面図を図6に示す。このLED素子では、TCO膜の下層部25aを薄く形成する(例えば、0.01〜0.02μm)ことによって、抵抗制御膜RFの下方に形成される抵抗増加領域におけるTCO膜25とp型層24との間の抵抗を十分に高くしつつ、TCO膜25が担うべき層方向(厚さ方向に直交する方向)の電流拡散機能が確保されるように、TCO膜の上層部25bの膜厚を設定することが可能である。
【0052】
(変形実施形態2)
上記各実施形態では、抵抗制御膜を形成する工程において、抵抗増加領域を形成しない領域の保護に用いる保護膜をLED素子構造から除去しているが、必須ではない。上記実施形態2を変形して、この保護膜を構造中に残したGaN系LED素子の断面図を図7に示す。
図7に示すGaN系LED素子は、ボンディングパッドの表面を除くLED素子の上面を覆う保護被覆28を有している。この保護被覆は、TCO膜25上を覆う一部分を除いて、下部被覆28aと上部被覆28bからなる2層構造となっている。このLED素子の製造工程では、下部被覆28aが、抵抗制御膜の形成工程において保護膜として利用される。即ち、この工程では、p型層24とTCO膜25の界面に抵抗増加領域を設ける予定の領域の上方に、開口部を有するパターンに、下部被覆28aを形成した後、その上から、スパッタリング法を用いて上部被覆28bを形成する。このとき、上部被覆28bのうち、下部被覆28aの開口部を通してTCO膜25上に直接堆積される部分が抵抗制御膜RFとして作用し、該部分の下方に抵抗増加領域が形成される。
【0053】
以下では、上記の各実施形態に係るGaN系LED素子の各部の好ましい態様について説明する。
上記の各実施形態において、GaN系半導体層のエピタキシャル成長に用いる基板は、表面にマスク層を形成したり、表面を加工して凹凸面にしたものであってもよい。それによって、GaN系半導体結晶中の転位密度の低減に有効なELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)やファセット成長を発生させることができる。
【0054】
GaN系半導体層(n型層、活性層、p型層)の形成方法はMOVPE法(有機金属化合物気相成長法)に限定されるものではなく、MBE法(分子ビームエピタキシー法)、HVPE法(ハイドライド気相成長法)、PLD法(パルスレーザデポジション法)、スパッタリング法など、GaN系半導体結晶のエピタキシャル成長に適した公知の方法を適宜用いることができる。
GaN系半導体結晶と格子整合しない基板を用いる場合には、基板とGaN系半導体膜との間にバッファ層を介在させることが望ましい。公知技術を参照して、GaN系半導体またはその他の材料からなる低温バッファ層、高温バッファ層(単結晶バッファ層)、超格子バッファ層などのバッファ層を、適宜選択して用いることができる。垂直電極型の素子構造を採用する場合には、基板とn型層とが電気的に接続される必要があることから、バッファ層にもドーピングを行って導電性を付与してもよい。
【0055】
基板上にGaN系半導体膜が積層された構造を得るための他の方法として、成長用基板の上にエピタキシャル成長法によりGaN系半導体膜を形成した後、エッチング、研削、研磨、レーザリフトオフなどの方法を用いてGaN系半導体膜から成長用基板を除去し、除去後のGaN系半導体膜に別途準備した基板を貼り合わせる方法も使用可能である。あるいは、成長用基板を除去したGaN系半導体膜の表面に電解メッキまたは無電解メッキによって金属層を50μm以上の厚さに堆積させ、該金属層を基板とする方法も採用可能である。
【0056】
n型層12、22、32、42は、Si、Geなどのn型不純物を添加したGaN、AlGaN、InGaN、AlInGaNで形成することができる。好ましくは、Siを1×1018cm−3〜1×1019cm−3の濃度に添加したAlaGa1−aN(0≦a≦0.05)を用いて、2μm〜6μmの厚さに形成する。
【0057】
活性層13、23、33、43は、ダブルヘテロ構造が構成されるようにそのバンドギャップエネルギーを定める。活性層は好ましくは量子井戸構造とし、更に好ましくは多重量子井戸構造とする。量子井戸構造における井戸層はInGaN、AlInGaNなど、Inを含む結晶で形成することが好ましい。
【0058】
p型層14、24、34、44は、Mg、Znなどのp型不純物を添加したGaN、AlGaN、InGaNまたはAlInGaNで形成することができる。好ましくは、Mgを2×1019cm−3〜1×1020cm−3の濃度に添加したAlaGa1−aN(0≦a≦0.2)を用いて、0.1μm〜2.0μm、より好ましくは0.1μm〜0.5μmの厚さに形成する。結晶成長工程でp型不純物が水素パッシベーションされた場合には、アニーリング処理などを行って水素を解離させて、p型不純物を活性化させる。
【0059】
n型層およびp型層のそれぞれは、厚さ方向に均質である必要はなく、各層の内部において不純物濃度、結晶組成などが厚さ方向に連続的または不連続的に変化していてもよい。
n型層またはp型層の内部、基板とn型層との間、n型層と活性層との間、活性層とp型層との間、などには、公知技術を適宜参酌して、キャリアブロック層、反射層、反射防止層、歪緩和層、応力緩和層、転位低減層、静電気破壊防止層、不純物拡散防止層、超格子層など、各種の目的、機能又は構造を有する層を設けることができる。
【0060】
p側ボンディングパッド16、26、36、46、n側ボンディングパッド電極17、27、37、47の表層部に用いる金属材料としては、Ag(銀)、Au(金)、Sn(錫)、In(インジウム)、Bi(ビスマス)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)などが好ましく例示される。ボンディングパッドの膜厚は、例えば、0.2μm〜2μmとすることができる。
【0061】
TCO膜15、25、35、45は、酸化インジウム系、酸化亜鉛系、酸化錫系、酸化チタン系など、公知となっている各種のTCOを用いて形成することができる。具体的には、ITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化錫)などが例示される。
【0062】
TCO膜の形成方法に限定はなく、公知技術を参照して適宜な方法を採用すればよい。具体的には、真空蒸着法の他、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法、CVD法、ゾル−ゲル法、スプレー法、スピンコート法、ディップ法などが例示される。スパッタリング法を用いることも妨げられるものではなく、スパッタリング雰囲気の圧力を高くするなどして、高エネルギー粒子がp型層の表面に入射するのを防止すれば、スパッタリング法でもp型層との抵抗が低いTCO膜を形成することが可能である。
【0063】
本発明は本明細書に明示的に記載した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10、20、30、40 GaN系LED素子
11、21、31、41 基板
12、22、32、42 n型層
13、23、33、43 活性層
14、24、34、44 p型層
15、25、35、45 TCO膜
16、26、36、46 p側ボンディングパッド
17、27、37、47 n側ボンディングパッド
28 保護被覆
RF 抵抗制御膜
49 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型GaN系半導体層の上にGaN系半導体からなる活性層とp型GaN系半導体層とを順次積層してなり、
前記p型GaN系半導体層の前記活性層側の主面とは反対側の主面上に形成されたTCO膜と該TCO膜に接続されたp側ボンディングパッドとを含むp電極と、
前記TCO膜の前記p型GaN系半導体層側とは反対側の主面上の一部に形成された抵抗制御膜と、
前記p型GaN系半導体層と前記TCO膜との界面に形成されて前記抵抗制御膜の下方の領域において前記活性層を流れる電流を減少させる抵抗増加領域と、
前記n型層に接続されたn側ボンディングパッドと、
を有するGaN系LED素子。
【請求項2】
前記p側ボンディングパッドが前記TCO膜上に形成され、前記抵抗制御膜の少なくとも一部が前記p側ボンディングパッドと前記TCO膜との間の一部に挿入されている、請求項1に記載のGaN系LED素子。
【請求項3】
水平電極型の素子構造が形成されるように前記n側ボンディングパッドが前記n型GaN系半導体層の一部露出面上に設けられ、前記TCO膜が前記p側ボンディングパッドと前記n側ボンディングパッドとの間に挟まれたパッド間領域を有しており、前記抵抗制御膜の少なくとも一部が前記パッド間領域上に形成されている、請求項1または2に記載のGaN系LED素子。
【請求項4】
前記p側ボンディングパッドに覆われた領域を除く前記TCO膜上において、前記抵抗制御膜が前記パッド間領域の内側にのみ形成されている、請求項3に記載のGaN系LED素子。
【請求項5】
前記抵抗制御膜が絶縁性無機材料からなる、請求項1〜4のいずれかに記載のGaN系LED素子。
【請求項6】
基板上にn型GaN系半導体層とGaN系半導体からなる活性層とp型GaN系半導体層とが順次積層されてなる積層体と、前記p型GaN系半導体層の前記活性層側の主面とは反対側の主面上に形成されたTCO膜と、を有する半導体ウェハを準備するステップと、
前記TCO膜の前記p型GaN系半導体層側とは反対側の主面上の一部に抵抗制御膜を形成するステップと、
前記TCO膜上にp側ボンディングパッドを形成するステップと、を有し、
前記抵抗制御膜が形成される部分に対応する領域において前記p型GaN系半導体層と前記TCO膜との界面の抵抗が上昇するように、前記抵抗制御膜を形成するステップでは前記抵抗制御膜を形成しようとする領域を除く前記TCO膜の露出面を保護膜で覆った状態で前記抵抗制御膜をスパッタリング法により形成する、
GaN系LED素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法を用いて形成されるGaN系LED素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−135743(P2010−135743A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185120(P2009−185120)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】