説明

Hilbert位相画像処理のためのシステムと方法

【課題】細胞内で起こる高速現象を測定する装置を提供する。
【解決手段】ヒルベルト位相顕微鏡を使用し、透光性物体に関連した高解像度位相情報から、一フレーム毎の形状、体積のようなパラメータを得、ミリ秒の時間スケールで取得した多数の画像をもとに、ダイナミックな変動をナノメートルオーダーの分解能で定量化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はHilbert位相差顕微鏡(HPM)を参照した定量的位相画像処理のためのシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡は医学及び生物学で普通に用いられる調査方法であった。生きた細胞を含めて、多くの生物学的サンプル(sample)は可視光の照明下で非常に透光性であり、実質的に位相オブジェクトとしての挙動を行う。位相のコントラスト(contrast)及びNomarski顕微鏡のような技術が、位相情報を光度分布に変換することにより、ほぼ見えないサンプル(sample)にコントラストを与える。それゆえ、生物系の構造的詳細を明らかにする。しかしながら、照明フィールドと関連する位相の移動についてのこれらの技術と共に得られた情報は定性的に過ぎない。高い精度と低いノイズ(noise)の透光性オブジェクトから定量的位相情報を収集することで、構造及び動力学の生物学的調査内で測定を行なえる。干渉測定と非干渉測定の両方の技術が、生物学的サンプルの定量的位相画像処理のために提案されている。さらに、フーリエ(Foulier)位相差顕微鏡(FPM)が極端に低ノイズの位相画像処理の方法として開発されている。長期間に亘るサブ・ナノメートル(sub−nanometer)の位相の安定性により、FPMは数秒から細胞の寿命までの時間の規模までの生物系の動力学を調査するのに適している。
【発明の概要】
【0003】
細胞骨格の動力学、細胞膜の変動及び神経活動を含む細胞レベルで生じる多くのプロセスがミリ秒の範囲までの短い期間に生じる。それゆえ、kHzのフレーム・レート(frame rates)でフルフィールド(full−field)の定量的位相画像を取得できる顕微鏡が生物系の定量化を行なえる。
【0004】
時間の異なるフィールドの複素解析信号の形成が光学系の広い用途を見いだしている。特に、複素解析信号の実数部と虚数部の間のHilbert変換の関係が、一回の撮影による一時的な干渉撮影の位相の移動を収集するのに用いられる。本発明はHilbert位相差顕微鏡(HPM)を参照した定量的位相画像処理のためのシステムと方法に関する。これにより、一回の撮影による立体干渉撮影からフル・フィールドの位相画像を収集できる。
【0005】
HPMでは、一回の撮影による位相画像処理は、画像処理センサーのような記録装置によってのみフレーム取得レートを制限される。画像処理センサーは、電荷結合素子(CCD)、又は、CMOS画像処理アレー(array)のようなデジタル画像処理検出器を含む。これは位相移動技術とコントラストになっていて、その中で、単一の位相画像を収集するために、多数の記録を必要とする。さらに、HPMは非ラップド(unwrapped)位相を提供する。これが光の波長より非常に大きな位相対象の研究を可能にする。画像処理装置は好ましくは少なくとも20万画素を有し、少なくとも、10フレーム/秒、好ましくは100フレーム/秒以上を集めることができる。
【0006】
好ましい実施例は、単一光源からの光を基準経路とサンプル経路に沿って、分割する。サンプル経路に沿った光がサンプル又は測定オブジェクトを通過する方向にして、基準経路に沿った光は変調要素により変調されるので、サンプルからの光が変調された基準光と結合したとき、干渉パターン(pattern)が生じ、画像処理センサーにより検出される。例えば、変調要素は回転ミラー(mirror)又は可動レンズとしうる。本発明
の好ましい実施例には、光ファイバーを含めて、光を画像処理される組織のようなオブジェクト上に光を結合しうる。レーザー(lasers)又は種々の波長の非常にコーヒーレント(coherent)の光源を使用できる。コンピューター又は他のデータ処理装置又は画像処理装置を、画像データの処理のために、画像処理装置の出力に接続できる。好ましい実施例では、データ処理装置は最初に画像を処理するために、ソフトウエア・プログラムを用いてプログラムされて、基準として、視野内で選ばれたポイント(point)を用いて、ノイズ(noize)を除去する。そして、画像にHilbert変換を行って画像の処理を行う。干渉撮影にフーリエ変換を行ってその後フィルター(filter)をかけて、フィルター処理済み画像データを得る。この後で、逆フーリエ変換を行ってラップド(wrapped)及び非ラップド(unwrapped)位相画像を得る。これが関心を持っているオブジェクトの定量的位相画像になる。
【0007】
本発明の好ましい実施例には本発明に基づくHilbert位相画像処理の構造を含めることができ、その中で、光学的幾何学が透過又は反射の画像処理のために設定される。好ましい実施例では、倒立顕微鏡の形態をビームスプリッタと共に使用して、基準及びサンプルの画像を結合できる。
【0008】
細胞膜に対するポリスチレン・ビーズ(polystyrene beads)のような反射性材料を取付けることにより、反射測定を実施できる。それで、コーヒーレント(coherent)光をこの材料から反射でき、干渉写真を得る。これにより、剪断率又は曲げ率のように、膜の機械的特性を測定するのに使用できる。ここに示した手順はヒト又は哺乳動物の組織又は液にインビトロ(in−vitro)で、又は、例えば、他の組織であるヒトの目にインビーボ(in−vivo)で使用できる。
【0009】
本発明は生物学的応用だけでなく、非生物学的応用も行なえる。例えば、本発明は光ファイバー、及び(又は)、他の透光性又は半透光性のオブジェクト又は結晶構造を含む材料の位相プロフィール(profile)を研究するために提供できる。
【発明の詳細な記述】
【0010】
本発明の好ましい実施例を図1に示す。この実施例で、HeNeレーザーがMach−Zender干渉計20の画像処理をするための光源10として用いられる。第一のビームスプリッタ12が光源10からのビームを分割して、干渉計の2本のアーム(arm)を形成する。そのアームはそれぞれ基準ビーム14とサンプル・ビーム16から成っている。ミラー18がサンプル・ビーム16をサンプル又はオブジェクト25上に向ける。干渉計20の各アームで2系統の伸縮システムがあり、例えば、倍率M=20で、各伸縮システムがオブジェクト22、24及びレンズ26、28から成っている。第二のミラー30が基準フィールドを第二のビームスプリッタ32上に送る。基準フィールド40の向きを調節できる。例えば、その調節はミラー30の回転可能な動きにより、基準フィールド40を傾斜させるために行われる。CCDのような画像センサー42をレンズ26、28の共通フーリエ面内に配置でき、サンプル・フィールド44の正確な(拡大された)複製が形成される。基準フィールド40は、ビームスプリッタ32によりCCD画像センサー42の上に向けられ、CCD画像センサー42のX及びYの軸に対して45°を向くように均一な干渉縞構造を作るために、サンプル・ビーム44に対して僅かに傾斜させる。この実施例で用いられたCCD(C770 浜松フォトニクス(Hamamatsu Photonics)は、480x640画素のフル解像度で、291フレーム/秒の画像取得速度を有している。より高い解像度と取得速度も使用できる。画像データは、解析及び表示のために、センサー42からプロセッサー(processor)又はコンピューター120に送られる。
【0011】
与えられたサンプル25の場合、x軸とy軸に亘る画像面で空間的に変化する放射照度
が以下の形をとる。
【0012】
【数1】

【0013】
ここで、IRとISは、それぞれ、基準及びサンプルの放射照度の分布である。qは干渉縞の空間周波数である。φは量が問題になっているオブジェクト25と関連し、空間的に変化する位相である。式1はMichelson及び他の干渉計での一時的干渉の説明に類似している。その中で、qは音響・光変調器又は可動ミラーにより導入された周波数移動に対応する。ここで関心のある透光性オブジェクトの場合、Is(x)はxへの弱い依存性を有すると期待されている。システムの倍率を調節することにより、空間周波数qは、計器の開口数により可能になる最大周波数と合致するか、超えるように選ぶことができ、回折を制限した解像度を維持される。正弦項
【0014】
【数2】

【0015】
をフーリエ高域フィルターリング(filtering)により分離できる。その後、実数関数u(x)と関連する複素解析信号z(x)が以下として得られる。
【0016】
【数3】

【0017】
式2で、右側の虚数部分が主値(P)の積分を意味していて、u(x)のHilbert変換として識別できる。それゆえ、位相スペクトルφ(x)は複素解析信号z(x)と関連していて、以下のように計算される。
【0018】
【数4】

【0019】
z(x)は周波数qによる高速位相変調を示し、それゆえ、φが強くラップドされている。しかしながら、オブジェクトの空間周波数成分よりqが高いので、非ラッピング(wrapping)手順が有効に機能する。最後になるが、オブジェクトφ(x)と関連した位相が以下のように単純に抽出される。
【0020】
【数5】

【0021】
この手順が、例えば、光ファイバーの位相プロフィールを収集するために、使用できる。好ましい実施例で、本発明は、以下の数値を有する光ファイバーの位相プロフィールを収集するための装置と方法を提供している。その光ファイバーはコア(core)の直径100ミクロン、反射係数が1.457で、その一方で、クラディング(cladding)の場合、直径110ミクロンを有し、反射係数1.452である。この例では、光ファイバーはグリセロール(glycerol)に浸漬され、位相オブジェクトを模倣しやすくしている。このサンプルの透過度の画像(図2a)が低コントラスト(contras
t)を示し、それがサンプルの透過度の表示になっている。図2b−dが位相再構築の手順内の中間ステップを示し、かつ、図2aに示されている長方形領域に対応している。この領域がグリセロール/クラディングとクラディング/コアの境界を包んでいる。CCD(図2b)により記録された干渉撮影は、フーリエの変換と高域フィルターリングであり、正弦波信号が得られる(図2c)。この実数の信号と関連して、複素解析信号を得るために、2次元フーリエ変換を計算し、負の空間周波数を抑制する。逆フーリエ変換の操作で、複素2次元信号が得られ、図2に示すようにオブジェクトの位相についての情報を独自に提供する。強いラップド及び非ラップドの位相画像がそれぞれ図2d及び図2eに示されている。光ファイバーの定量的位相画像が、直線的位相を減算することにより得られ、図2fに示されている。その一方で、図2gには断面が示されている。連続線がモデルとされたフィット(fit)を示し、変動パラメーターとして、グリセロールの反射指数を用いている。最良のフィットのためのグリセロールの反射指数はn=1.467の値を有し、ほぼ既知の値である。
【0022】
本発明の好ましい実施例では、例えば、全血の塗布部からの赤血球のような組織又は体液の位相画像のための定量化パラメーターのような生物学的測定のためにHPMを用いる。図2hはそのような画像の一例を示す。その中で、個々の細胞及び細胞集団を容易に識別できる。核が無い赤血球及び主要な細胞小器官を光学的に均質なオブジェクトとしてモデル化できる。それゆえ、HPM画像からの位相情報を厚み情報に変換でき、細胞の形状と体積のようなパラメーターを直接提供する。この例で、データが10.3ミリ秒で記録され、サンプルは全血の液滴を2枚のカバー・スリップ(cover slips)の間に挟むことにより調製された。
【0023】
それで、本発明の好ましい実施例に基づいて、HPMは透光性のサンプル内の定量的な位相画像を提供できる。さらにこの方法は、照明光の波長よりずっと高い位相プロフィールを用いて位相のオブジェクトを測定できる。この重要な特徴は画像に課せられる高い空間変調による。位相画像上で良く定義されたラッピング(wrapping)ポイントを生じ、それゆえ、非ラッピング手順を容易にしている。それゆえ、1回限りの撮影による測定から定量的位相画像を得るためのHPMの能力が透明又は透過性のシステム内の高速動的なプロセスを監視できる。
【0024】
本発明の別の実施例では、例えば、ミクロン・サイズの液滴の蒸発を分析するような透光性媒体の高速プロセスを研究するために用いられる。図3aは顕微鏡スライド上に散布された水滴のFPM画像を示している。z軸の情報は、これらの液滴の厚みがその横断方向の寸法よりも有意に小さいことを示している。この蒸発現象を監視するために、一連の333枚の位相画像が10.3ミリ秒の間隔で記録された。各位相画像が1件のCCD記録から得られているので、2本の干渉計のアーム(arms)の間のノイズを除去する必要が無く、位相移動技術で有意な利点を与える。連続的フレーム間のノイズは位相画像を不明瞭にせず、視野内の固定点を各画像の基準とすることにより便利に表示できる。この基準点を“R”により図2aに記す。位相画像シリーズ内に存在する横断方向の残留ノイズを定量化するために、図3aに示されているポイントOと関連した一時的経路の長さの変動が記録された。画像処理オプティックス(optics)の回折制限スポット(spot)に対応した領域に亘ってこれらの変動を平均化した(0.45 x 0.45μm)。これらの変動の標準偏差は1.32nmの値を有し、示されているように、ミリ秒の時間目盛上でナノメートルの経路の長さの感度を得られることを示している。図3cは、HPM画像から計算されたように、この記録の間に水滴の質量の変化を示す。回折を制限した横断方向の解像力及び現在の位相感度にとって、HPMは10−18リットルのオーダーで驚くほど小さな水の蒸発体積に鋭敏である。さらに、定量的位相画像がこれらの均質な構造についての詳細な三次元情報を提供する。そして、水滴の蒸発と関連する最大厚みの一時的依存性を容易に算定できる(図3d)。これらの曲線は質量の時間的変化よ
りも有意に不規則である(あるときに非単調性)。質量の時間的変化は、蒸発中の形状変化の不連続性を示す。
【0025】
本発明の好ましい実施例は利点を与える。例えば、本発明に基づくHilbert位相差顕微鏡はナノメートル・レベルの感度を用いて、1回だけの測定から高い横断的解像度による定量的位相画像を収集できる。空間領域に複素解析信号を適用することは電磁場の一時的・空間的変動を示す方程式の間に存在する類似性に基づいている。HPMは生物系及び生きた細胞のダイナミックス(dynamics)を含めて、透光性媒体内の高速現象を測定する方法を提供している。
【0026】
ここで図4を見て、本発明の別の好ましい実施例はHilbert位相差顕微鏡の原理を倒立形状で、高速・高感度の定量的位相差顕微鏡60に提供している。倒立形状は特に生きた細胞の調査に適している。定量的生物顕微鏡の方法が、赤血球の形状及び変動をミリ秒の時間的スケールでナノメートルの経路の長さの感度で定量化することにより実証されている。
【0027】
図4を参照すると、好ましい実施例が倒立顕微鏡60を組込むことによりHPMを拡張している。光源50は、例えば、HeNeレーザー(λ=632nm)のようなもので、第一ミラー52と第二ミラー54を結合して、1×2のシングルモード(single mode)の光ファイバーのカプラー56とし、ファイバースプリッタ58により分割して基準アーム64に送る。それは第一の光ファイバーのカプラー出力66とコリメータ74から成っている。第一出力フィールドはサンプル・アームを通して提供され、100xの対物レンズ88を装備した倒立顕微鏡80用照明フィールドとして機能する。チューブ・レンズ(tube lens)90はサンプル85の画像がビームスプリッタ・キューブ(beam splitter cube)92を経由して画像センサーCCDの面100に形成される。第二のファイバー・カプラーの出力66が、コリメーター68により平行光にされ、第二の顕微鏡用対物レンズ70とチューブ・レンズ(tube lens)90から成っている伸縮システムにより拡張されている。この基準フィールドのビームは平面波により近似しうる。平面波はサンプル画像フィールド96により干渉される。基準フィールド94はサンプルフィールド94に対して傾斜している(例えば、コリメーター68を調節することにより)。それで、CCD100のx軸及びy軸に対して45度の角度で均一な干渉縞が生じる。CCDは(C7770 浜松フォトニクス)を用いていて、640x480画素のフル解像度で291フレーム/秒の取得速度を有している。CCD100はコンピューター120に接続され、かつ、制御される。この例では基準アームの対物レンズ70とズームレンズ90の焦点間の焦点距離fは250mである。
【0028】
1方向を横断した干渉撮影と関連する空間的放射照度が上記図1に示されている。ここでIとI(x)はそれぞれ基準及びサンプルの照度分布である。gは干渉縞の空間周波数であり、φ(x)はオブジェクト85と関連した空間的に種々の位相であり、φ(x)は解析で重要な又関心のある量である。上記のように正弦波の項
【0029】
【数6】

【0030】
を分離するために、空間的高域フィルタリングを用いて、又、複素解析信号z(x)を得るために、上記の式2のように、Hilbert変換を用いると、(及び、それによる式3による位相スペクトラムφ(x))、さらに式4により、値φ(x)を1回だけの撮影画像の各ポイントについて収集できる。
【0031】
倒立形状により新しいHPM顕微鏡が生きた細胞の定量的調査には特に適している。ミリ秒とナノメートルの目盛での細胞構造を定量化する新しい計器の能力を実証するために、赤血球(HBCs)の時間で分解するHPM画像を得た。追加の調製無しの全血の液滴をカバー・スライド(cover slide)の間に挟んだ。図5は生きた血液細胞の定量的位相画像を示している。分離された又凝集状態の両方の赤血球の両方が容易に識別される。白血球(WBC)も視野に存在する。細胞と周辺の血漿の屈折率に1.40と1.34をそれぞれ用いることにより、RBCsと関連した位相情報を細胞トポグラフィ(topography)のナノメートル目盛の画像に容易に変換できる。さらに、個々の細胞の体積を評価でき、図5で(フェムトリットルの単位で)測定した体積を個々の赤血球の下に表示している。
【0032】
逐次のフレーム間の長手のノイズを無くすために、各位相画像について、Rで示した細胞を含まない視野内の領域に亘って平均値を参照した。細胞トポグラフィの動的変化に対する計器の安定性及びそれゆえ感度を定量化するために、100枚の画像セットが記録された。それぞれが10.3msかかり、ノイズ分析が視野内の第二の空白領域で行われた。この領域(図5aで0と表示)に亘って経路の長さの変動を空間的標準偏差σsには一定の時間内変動があり、それで、一時的平均<σs>を特徴とする。σsの時間依存性が図5bにプロットされた。一方、平均値<σs>対平均フレーム数が図5cに示されている。特に、<σs>は、2件の逐次フレームのみを平均した1nmの値未満に低くなっている。このノイズ評価は、本発明の好ましい実施例に基づく倒立HPM測定がサブ・ナノメートルの目盛で、RBCsのような生物系の構造と動力学についての定量的情報を提供できると言うことを実証している。
【0033】
生きた赤血球の有意な動的変化の例が、図6a及び図6cに示す。その位相画像は図5aに示された赤血球に対応し、10.3ミリ秒離れて取得していて、1,000フレームのデータ・セット内の最初と最後のフレームを代表している。図6bと6dは、ナノメートルの精度で2ステージ(stages)での水平と垂直の細胞プロフィールを示している。面白いこととして、細胞形態の有意な変化は、画像の左下のコーナー(corner)での隣接する白血球との高速の相互作用による(さらに図5aにWBCと表示)。これにより、HPMにより容易に定量化しうる高速の非対称の形状変化となる。この顕著な結果を原子の力のような技術又は電子顕微鏡により定量化できる。
【0034】
ヘモリシス(赤血球の溶解)は、赤血球の膜が破壊して、細胞がヘモグロビン成分を失う現象である。このプロセス(process)は最近光学的浄化の分野で最近研究されている。HPM技術を用いて、自然分解の結果として、細胞の変化を動的に定量化するために、10.3ミリ秒の取得時間で、一連の1,000枚の位相画像を用いた。図7a−7eはヘモリシスの種々の段階の間に細胞の体積が減少することを示している。細胞の異常に平坦な形に注目されたい。排出されたヘモグロビンによる位相の移動を図7f−7hで観察できる。グレー・スケール(gray−scale)の飽和を避けるために、細胞を囲む領域のみが示されている。図7f−7hの非対称性が示すように、膜の破壊が非常に局部的に生じている。そして、ヘモグロビンは細胞の点源から拡散しているように見える。RBCの体積がその処理中に評価され、その一時的依存性が図7iにプロットされている。この非常に動的なプロセスの間、細胞の体積が4秒以内に50%低下する。(信号は2フレームに亘って平均化された。他方、細胞付近のポイントと関連する位相の移動が約1秒以内に、定常状態の最大値が約9nmに達する。この超高感度測定の信号対ノイズを改善するために、11×11画素を超えるスペース及び10フレームを超える時間内で信号の平均を求めた。これらのデータから得られた標準偏差は0.09nmという著しく低い値に達した。測定された位相の移動はヘモグロビンの局部的濃度に直線的に比例している。それゆえ、約1500msの後で、経路の長さの移動がほぼ一定に達したことは、細胞からの分子の発生とその拡散プロセスの間の平衡状態の結果として解釈できる。
【0035】
Hilbert位相差顕微鏡の好ましい実施法は図8の処理手順200に示されている。この処理はコンピューター上のソフトウエア・プログラムを用いて実施できる。第一に、校正ステップ202がオプション(option)として、既知のサンプルの画像を得ることにより実行できる。そして、そして、システム内のバックグラウンド・ノイズ(background noise)の除去に使用できる。そして測定されるサンプルはホルダー(holder)内に取付けられる。サンプルの1以上の干渉撮影画像が集められる204。そして、フーリエ変換が各画像に適用される。その後、画像のフィルタリング(filtering)208が行われる。そして、逆フーリエ変換が適用され210,その後ノイズ除去212が行われる。位相非ラッピング・ステップ214とサンプルの他の定量的特性の決定が実現できる216。
【0036】
本発明の好ましい実施例には、本発明に基づくHilbert位相画像処理の構造を含めることができる。その中で、透過及び反射のモードのために光学的ジオメトリー(geometry)が設定される。
【0037】
本発明は生物学的用途だけでなく、非生物学的用途にも対応している。例えば、本発明は、光ファイバー及び(又は)他の透光性又は半透光性のオブジェクト又は材料の位相プロフィールの研究に対応できる。本発明の好ましい実施例が、光源オプティックス(optics)の一部としてレーザー(laser)又は他のコーヒーレント(coherent)の光源を使用しうる。電磁スペクトラム(spectrum)の紫外線、可視光線、赤外線の領域からの波長を使用できる。
【0038】
本発明の利点には、定量的画像データを得ることの速度と簡便性が含まれる。倒立Hilbert位相差顕微鏡はサブ・ナノメートル及びミリ秒の目盛で、細胞の定量的位相画像を測定できる。倒立形状が定量的細胞生物学、例えば、それに限定しないが、赤血球の膜構造の非接触特性のような非接触特性を探る新手段になる。
【0039】
生きている細胞のような生物学的構造は特に明るいフィールド照明の下で透光性である。位相コントラスト(PC)及び微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡が外因性コントラスト因子を必要とせずに細胞の形態的特徴を詳細に推定するのに用いられる。これらの技術は、最終画像の強度分布に画像処理フィールドの位相内に符号化された情報を伝送する。それで、与えられたサンプルを通じた光学的位相移動を強力な内因性コントラスト因子と見なすことができる。それがサンプルの厚みと屈折率の両方についての情報を含んでいるからである。この観点から成熟した赤血球(red blood cells or
RBCs)は非常に特殊なタイプの構造で、細胞核と主要な細胞小器官が欠落している。それで、RBCsは光学的に均質なオブジェクトとしてモデル化できる。即ち、それらは、局部的、光学的、厚みに比例した位相の移動を生じる。それゆえ、赤血球の定量的位相画像は、光学的波長の非常に小さな部分に対応した精度で細胞の厚みプロフィールを提供する。ナノスケール(nanoscale)の形態学的情報が、細胞の生物物理的特性及び健康状態の洞察を提供する。核又は光学的不透明成分を有する細胞を前記の反射プロセスを用いて測定できる。
【0040】
本発明の好ましい別の実施例は、フーリエ位相差顕微鏡(FPM)の技術的補完として、Hilbert位相差顕微鏡を用いて、ミリ秒の目盛のRBC膜の変動のような高速の生物学的現象を定量化する方法を提供している。HPMは複素解析信号の概念を空間的領域に拡張し、1回のみの空間的干渉撮影記録から定量的位相画像を測定する。その一回だけ撮影の性質により、HPMの取得時間は記録装置によってのみ制限される。又、多くの関連する生物学的現象を生じているミリ秒の時間目盛で、ナノメートル・レベルの経路の長さの移動を正確に定量化するのに使用できる。画像は好ましくは1秒未満の間隔で、多
くの用途では100ミリ秒未満の適用で得られる。結果として、動的事象のビデオ記録を分子レベルで記録できる。
【0041】
本発明は特定の方法及び装置と関連させて示されているけれども、説明は同等の装置及び方法の例示によっているが、本発明の範囲を限定せず、それは請求項に示されていることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に基づく画像処理システムの好ましい実施例を示す。
【図2】以下を含む得られた画像を示す。a)伝送強度の画像;b)干渉撮影;c)正弦波の信号;d)a)に示された長方形領域から測定されたラップド位相;e)フル・フィールドの非ラップド位相;f)フル・フィールドの定量化された位相画像;g)模型化したフィットを示す連続線を付けたf内の位相画像を横断した輪郭;h)全血塗布部のHPM画像(倍率40)、5ミクロンの目盛線が示されていて、グレースケールの線でa−cに対して強度を示し、d−hに対してラジアン単位の位相を示す。
【図3】a)水滴のHPMを、色付き線はミクロン単位の厚みを、目盛線は10ミクロン単位で示している;b)図3aのポイントOの経路の長さの変動を示す;c)蒸発中の水滴質量の一時的変化(フェムト・グラム(femto−gram)の単位、);d)蒸発中の水滴の最大厚み、3.4秒の間隔で集めたデータと継続的フレーム(frames)の間の10.3msを用いている。
【図4】本発明に基づく画像処理システムの好ましい実施例を示す。
【図5】以下を含めて得られた画像とデータを示す。a)全血塗布部の定量的位相画像、RBCs(赤血球)がフェムト・リットルで示されている、色付き線はラジアン単位である;b)領域oに関連した立体標準偏差の一時的変動;c)平均フレーム(frame)の関数として一時的平均のシグマ・サブ・エス(sigme.sub.s)。
【図6】10秒間の赤血球と関連した形状変化の定量的評価を示す。
【図7】以下を含めて得られた画像とデータを示す。a−e)4秒間のヘモリシス(hemolysis)の種々の段階;f−h)示されているように、t=0.5秒、1.0秒、1.5秒に対応した細胞から除去されたヘモグロビン(hemoglobin)の位相画像;i)4秒の間、(図7fに矢印で示された)細胞の外側のポイントと関連した細胞体積の変化と、光学的経路の長さの移動。
【図8】本発明の好ましい実施例に基づいて画像データを処理するソフトウエア・プログラムで用いられる処理手順である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源、画像処理すべきオブジェクトを有する第一の光学的経路、第二の基準光学的経路、及び第一の光学的経路及び第二の基準光学的経路の組み合った部分に沿う方向を向いた光を受けるように配置された画像処理装置、
画像処理装置にて検出可能な干渉縞構造を形成するために第二の基準光学的経路に対して第一の光学的経路が角度を置いて傾斜されるように光源からの光を配置する調節要素、及び
画像処理装置から画像データを受けてオブジェクトのフルフィールド空間的位相画像を設けるように画像データのヒルベルト(Hilbert)位相変換を実施するコンピュータプログラムでプログラム組みされたプロセッサー、
を具備するヒルベルト(Hilbert)位相画像処理装置。
【請求項2】
光源から第一の光学的経路及び第二の基準光学的経路に光を結合する光ファイバー装置を更に備えている請求項1記載の装置。
【請求項3】
ビームスプリッタが、調節された基準画像とサンプル画像とを結合している請求項1記載の装置。
【請求項4】
調節装置が可動ミラー又はレンズを有している請求項1記載の装置。
【請求項5】
サンプルホルダーにより倒立顕微鏡に対してサンプルが取付けられている請求項1記載の装置。
【請求項6】
倒立顕微鏡が、サンプルホルダー、対物レンズ、ビームスプリッタ、及び共通フーリエ面内に位置されている画像処理装置上に光を結ぶレンズを有している請求項5記載の装置。
【請求項7】
光ファイバースプリッタ、ファイバーカプラー、第一コリメータ、第二コリメータ及び第二対物レンズを更に有している請求項2記載の装置。
【請求項8】
プロセッサーが、画像データにフーリエ変換を実行し、変換された画像データにフィルターを適用し、フィルター処理された画像データに逆フーリエ変換を実施するプログラムを有している請求項1記載の装置。
【請求項9】
画像処理装置が、少なくとも480×640の画素を有し且つ少なくとも10フレーム/秒で動作するCCD又はCMOS画像処理装置を備えている請求項1記載の装置。
【請求項10】
光源、画像処理すべきオブジェクトを有する第一の光学的経路、第二の基準光学的経路及び画像処理装置を提供する過程と、
画像処理装置を第一の光学的経路及び第二の基準光学的経路の組み合った部分に沿って位置決めする過程と、
画像処理装置において干渉縞構造を形成するために第二の基準光学的経路に対して角度を置いて傾斜される第一の光学的経路を配置する過程と、
画像処理装置でオブジェクトのフルフィールド画像を検出する過程と、
空間位相画像データを得るために検出された画像のハイベルト(Hilbert)変換を行うようにコンピュータで画像を処理する過程と、
を有するオブジェクトの画像処理方法。
【請求項11】
画像処理装置の直交軸に対して45°の角度で干渉パターンの縞構造を配置する過程を
有する請求項10記載の方法。
【請求項12】
生物学的材料または組織サンプルを画像処理する過程を有している請求項10記載の方法。
【請求項13】
レーザー光源を設ける過程を有し、画像を検出する第一光学的経路及び第二位光学的経路のフーリエ面内に画像処理装置が配置されている請求項10記載の方法。
【請求項14】
複素解析信号の実数部の正弦波信号成分を得るために測定されたスペクトルデータのフーリエ変換及び高域フィルタリングし、2次元フーリエ変換を計算し且つ負の周波数を抑制することによって正弦波信号と関連した複素解析信号を得て、ラップされていない位相情報を含むオブジェクトに関する位相情報を提供する複素二次元信号を得るために逆フーリエ変換を行い、且つ直線の位相を減算することにより空間的位相画像を定量的に得ることによって、オブジェクトの空間的位相画像を得る過程を更に備えている請求項10記載の方法。
【請求項15】
測定のために哺乳動物の身体から採取した組織又は血液を画像処理する過程を有している請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−211902(P2012−211902A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93061(P2012−93061)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【分割の表示】特願2008−503231(P2008−503231)の分割
【原出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591275056)マサチユセツツ・インスチチユート・オブ・テクノロジイ (9)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【Fターム(参考)】