説明

III族窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】III 族窒化物半導体発光素子において、光取り出し効率を向上させること。
【解決手段】発光層14上に、MOCVD法によってp−AlGaNからなるpクラッド層15を形成する。圧力30kPa、Mg濃度は1.5×1020/cm3 とする。これにより、III 族元素極性の結晶に窒素極性の領域が多数生じ、pクラッド層15の表面は六角柱状の凹凸形状となる。次に、pクラッド層15上に、MOCVD法によって凹凸形状に沿って膜状にGaNからなるpコンタクト層16を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光取り出し効率が向上されたIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体発光素子の光取り出し効率を向上させるために、光出射面に凹凸形状を設ける手法が提案されている。
【0003】
凹凸形状を設ける方法として、極性反転層を利用する方法が知られている。III 族窒化物半導体は、通常+c軸方向に成長してIII 族元素極性となるが、極性反転層は、少なくとも一部領域にIII 族元素極性とは反対の極性である窒素極性の領域を含む層である。この極性反転層は、結晶中に高濃度にMgをドープすることにより形成することができる(たとえば特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1では、pクラッド層上にp−GaN層を形成し、p−GaN層上に極性反転層を形成し、極性反転層をウェットエッチングすることにより、窒素極性の領域をエッチングして、凹凸形状を形成している。
【0005】
特許文献2では、III 族元素極性のIII 族窒化物半導体からなるp型の第1半導体層上に極性反転層を形成し、極性反転層上に窒素極性のIII 族窒化物半導体からなるp型の第2半導体層を形成し、第2半導体層表面をウェットエッチングすることで凹凸形状を形成している。また、第1半導体層は、エッチングストッパとして機能し、過剰にエッチングしてしまうことを防止することが記載されている。
【0006】
他にも、加工によって凹凸形状を設ける方法や、オフ角の大きな基板を用いてステップ成長による段差を利用する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−49395
【特許文献2】特開2010−62493
【特許文献3】特開2003−101149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1、2の方法では、いずれも極性反転層を形成する工程と、ウェットエッチングする工程とが少なくとも必要となる。そのため製造工程が多工程で複雑となってしまい、製造コストの増加につながってしまう。
【0009】
また、加工によって凹凸形状を設ける方法では、結晶成長後の工程が増えて製造コストの増加につながる他、III 族窒化物半導体の硬度が高いために結晶にダメージが残ったり、特殊なエッチングが必要となる。また、加工のため最表面であるpコンタクト層を厚くする必要があるが、p型のIII 族窒化物半導体を良好な結晶性を維持しつつ厚く成長させることは困難である。
【0010】
また、ステップ成長を利用する方法では、基板に積層させるすべての層に凹凸ができるため、界面の急峻性が損なわれ、発光効率が低下してしまうおそれがある。また、基板のオフ角を大きくすると、結晶性が大きく損なわれてしまうという問題もある。
【0011】
そこで本発明の目的は、III 族窒化物半導体発光素子の光出射面に、簡易に凹凸形状を形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、pクラッド層とpコンタクト層を有したIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、pクラッド層は、Mgをドープして結晶成長させることにより、結晶の少なくとも一部の極性を反転させて表面に凹凸形状を有するように形成し、pコンタクト層は、pクラッド層上に凹凸形状に沿って形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0013】
ここで、III 族窒化物半導体とは、一般式Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1)で表される化合物半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。n型不純物にはSi、p型不純物にはMgが通常用いられる。より一般的には、Gaを少なくとも含むGaN、InGaN、AlGaN、AlGaInNを示す。
【0014】
また、III 族窒化物半導体の極性は、結晶のc軸に垂直な面が+c面となるIII 族元素極性と、−c面となる窒素極性があり、本発明に言う極性の反転とは、III 族元素極性である結晶の少なくとも一部(多数の微小領域)においてN極性の領域が生じていることをいう。
【0015】
pクラッド層のMg濃度は、1.2×1020/cm3 以上とすることが望ましい。凸部の密度が高くなり、凹凸の高低差も大きくなるため、より光取り出し効率の向上を図ることができるからである。また、pクラッド層のMg濃度は1×1021/cm3 以下とすることが望ましい。これよりも大きいとpクラッド層の結晶性が悪化してしまうからである。さらに望ましいpクラッド層のMg濃度は、1.2〜5×1020/cm3 である。なお、Mg濃度は、凹凸形状とならず平坦な膜となる場合のMgドープ量とMg原料ガス供給量との比例関係をあらかじめ求め、Mg原料ガス供給量の比例換算で特定した。
【0016】
pクラッド層の成長圧力は、1〜100kPaであることが望ましい。この範囲であれば凸部の密度が高く、凹凸の深さが大きな凹凸形状を形成することができ、光取り出し効率の向上を図ることができる。さらに望ましくは5〜70kPaである。
【0017】
pクラッド層の材料は、発光層よりもバンドギャップの大きな材料であれば任意であるが、AlGaNとすることが望ましい。また、pクラッド層は単層だけではなく複数の層によって構成してもよい。また、pコンタクト層も単層に限らず、複数の層によって構成されていてもよい。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、pクラッド層のMgドープ量は、1.2×1020/cm3 以上であることを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0019】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、pクラッド層は、AlGaNであることを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0020】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、pクラッド層は、1〜100kPaで成長させる、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、光取り出し効率を向上させるための凹凸形状を容易に形成することができる。そのため、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図。
【図2】実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造工程を示した図。
【図3】pコンタクト層16表面を撮影したAFM像。
【図4】pクラッド層15のMg濃度と光出力との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
図1は、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図である。実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板10を有する。そのサファイア基板10上に、AlNからなるバッファ層(図示しない)を介して、n−GaNからなる厚さ4μmのn型コンタクト層11、厚さ300nmのi−GaNと厚さ30nmのn−GaNからなる静電耐圧層12、i−InGaNとi−GaNとn−GaNを1組として15組積層させた多重層である厚さ約64nmのnクラッド層13、厚さ3nmのInGaNからなる井戸層と厚さ4nmのGaNからなるバリア層とが交互に8組積層されたMQW構造の発光層14、が順に形成されている。発光層14上には、p−AlGaNからなる厚さ12nmのpクラッド層15、p−GaNからなる厚さ72nmのpコンタクト層16が順に形成されている。pコンタクト層16のMg濃度は、8×1019/cm3 である。pコンタクト層16表面の一部領域には、その表面からnコンタクト層11に達する深さの溝が形成されていて、その溝の底面に露出したnコンタクト層11表面にはn電極19が形成されている。また、pコンタクト層16表面の溝が形成されていない領域にはITOからなる透明電極17が設けられ、透明電極17上にはp電極18が設けられている。
【0025】
ここで、pクラッド層15の厚さは、後述のように凹凸形状の形成によって成長形態が変化するため、平坦な膜が得られた場合のものである。
【0026】
pクラッド層15の表面は、六角柱状の凹凸が多数見られる凹凸形状を有している。pコンタクト層16は、この凹凸形状に沿って膜状に形成されており、pコンタクト層16の表面もまた、凹凸形状を有している。実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子は、この凹凸形状により光取り出し効率が向上されている。
【0027】
次に、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造工程について説明する。
【0028】
まず、c面を主面とするサファイア基板10上に、MOCVD法によってAlNからなるバッファ層(図示しない)を形成し、そのバッファ層を介してnコンタクト層11、静電耐圧層12、nクラッド層13、発光層14を順に形成する(図2(a))。キャリアガスには水素と窒素を用い、窒素源にはアンモニア、Ga源にはTMG(トリメチルガリウム)、Al源にはTMA(トリメチルアルミニウム)、In源にはTMI(トリメチルインジウム)、n型ドーパントガスにはSiH4 (シラン)を用いる。
【0029】
次に、発光層14上に、圧力は30kPa、温度850℃としてMOCVD法によってp−AlGaNからなるpクラッド層15を形成する(図2(b))。Mg濃度は1.5×1020/cm3 とする。キャリアガス、原料ガスは前述のものと同様であり、p型ドーパントガスにはビスシクロペンタジエニルマグネシウムを用いる。これにより、III 族元素極性の結晶に窒素極性の領域が多数生じ、pクラッド層15の表面は六角柱状の凹凸形状となる。過大なMgドープによる極性反転層の形成と、減圧成長によるAlの結晶取り込みのよさが、このような凹凸形状の形成要因であると考えられる。
【0030】
なお、pクラッド層15表面に上記のような凹凸形状を形成するために、圧力を上記値とする必要はなく、圧力は常圧よりも低い圧力であればよい。より望ましい圧力の範囲は、1〜100kPa、さらに望ましくは5〜70kPaである。また、Mg濃度は1×1021/cm3 以下とするのが望ましい。Mg濃度をこれ以上とすると、結晶性が悪化し望ましくない。pクラッド層15のより望ましいMg濃度の範囲は、1〜10×1020/cm3 であり、さらに望ましくは1.2〜5×1020/cm3 である。
【0031】
次に、pクラッド層15上に、MOCVD法によって凹凸形状に沿って膜状にGaNからなるpコンタクト層16を形成する(図2(c))。圧力は常圧とし、Mg濃度は8×1019/cm3 とする。キャリアガス、原料ガス、ドーパントガスはpクラッド層15の形成時と同様である。これにより、pクラッド層15の凹凸形状を残したまま、pコンタクト層16が形成される。
【0032】
次に、pコンタクト層16の一部領域に透明電極17を形成し、pコンタクト層16表面の透明電極17を形成していない領域に、nコンタクト層16に達する深さの溝を形成し、その溝の底面にn電極19、透明電極17上にp電極18を形成する。以上により図1に示した実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。
【0033】
実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子では、極性反転層を利用して光取り出し効率向上のための凹凸形状を形成しているが、従来のような、ウェットエッチングなどの後工程を必要とすることがない。また、凹凸形状は、Mg原料ガスの供給量のみを変更することによって形成している。そのため、製造工程が簡略で容易に凹凸形状を形成することができ、製造コストを低減することができる。
【0034】
図3は、pコンタクト層16表面を撮影したAFM像である。図3(a)はpクラッド層15のMg濃度を0.9×1020/cm3 、図3(b)は1.2×1020/cm3 、図3(c)は1.5×1020/cm3 、図3(d)は1.8×1020/cm3 、図3(e)は2.1×1020/cm3 、図3(f)は2.4×1020/cm3 とした場合である。いずれも20×20μmの範囲を示している。これらMg濃度は、pクラッド層が平坦な膜となる場合のMgドープ量とMg原料ガス供給量との比例関係を求め、Mg原料ガス供給量から比例換算することで特定したものである。図3のように、pクラッド層15のMg濃度が0.9×1020/cm3 では、その表面は平坦であるが、Mg供給量が増加するにしたがって表面平坦性が悪化し、凹凸の深さもより深くなっていくことがわかる。また、図3(c)〜(f)の場合は、図3(a)、(b)に比べて凹凸の密度が高くなっていることがわかる。また、Mg供給量が増加するにしたがって、凹凸の六角柱状がよりはっきりとしていくことがわかる。光取り出し効率の向上を図るためには、凹凸の密度が高く、凹凸の深さが深いことが望ましいが、図3を見ると、pクラッド層15のMg濃度が1.2×1020/cm3 以上であればよいことが推察される。
【0035】
図4は、pクラッド層15のMg濃度と光出力の関係を示した図である。光出力は基板垂直方向におけるものである。図4のように、Mg濃度が増大するにつれて光出力が向上していることがわかる。特に、Mg濃度が1.8×1020/cm3 以上では、Mg濃度を0.9×1020/cm3 とした場合(pクラッド層15表面が平坦な場合)に比べておよそ20%光出力を向上することができている。
【0036】
また、pクラッド層15のMg濃度を変化させた場合の順方向電圧について調べたところ、大きな変化は見られなかった。この結果から、Mg濃度を増加させて凹凸の深さが深くなっていっても、pクラッド層15はすべての領域にわたって形成されており、発光層14上にpクラッド層15の形成されていない領域はないものと考えられる。
【0037】
なお、実施例1ではpクラッド層15としてAlGaNを用いたが、これに限るものではなく、発光層14よりもバンドギャップの大きいIII 族窒化物半導体であればよい。また、pクラッド層15を単層ではなく複数の層により構成してもよい。また、pコンタクト層16についても、凹凸形状に沿って膜状に形成するのであれば、複数の層により構成してもよい。
【0038】
また、本発明は、pクラッド層15およびpコンタクト層16の製造工程に特徴を有するものであり、他の層については従来知られた構造、製造工程を採用することが可能である。たとえば、nコンタクト層11をSi濃度の異なる複数の層で構成したり、pコンタクト層16をMg濃度の異なる複数の層で構成したりしてもよい。また、サファイア基板10以外に、SiC、Si、ZnO、スピネル、GaNなどを基板として用いてもよい。また、基板にはストライプ状、ドット状などの凹凸加工が施されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により製造されるIII 族窒化物半導体発光素子は、照明装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10:サファイア基板
11:nコンタクト層
12:静電耐圧層
13:nクラッド層
14:発光層
15:pクラッド層
16:pコンタクト層
17:透明電極
18:p電極
19:n電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pクラッド層とpコンタクト層を有したIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
前記pクラッド層は、Mgをドープして結晶成長させることにより、結晶の少なくとも一部の極性を反転させて表面に凹凸形状を有するように形成し、
前記pコンタクト層は、前記pクラッド層上に前記凹凸形状に沿って形成する、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記pクラッド層のMgドープ量は、1.2×1020/cm3 以上であることを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記pクラッド層は、AlGaNであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記pクラッド層は、1〜100kPaで成長させる、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−4846(P2013−4846A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136197(P2011−136197)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】