説明

MEMSの製造方法及び熱型光検出器の製造方法並びに熱型光検出器、熱型光検出装置及び電子機器

【課題】 熱コンダクタンスを低減させる連結構造または支持構造の加工に最適なMEMSの製造方法等を低起用すること。
【解決手段】 固定部60上に形成された、第1空洞部30を有する被エッチング層22を加工するMEMSの製造方法は、被エッチング層22の露出面のうち、被エッチング層22が第1空洞部30に臨む少なくとも側壁22Aに、マスク層24を形成する第1工程と、マスク層24の表面24A側の第1空洞部30内に供給されたエッチャントを、マスク層24の裏面24B側に導いて被エッチング層22を等方性エッチングして、第1空洞部30に連通する第2空洞部32をマスク層24の裏面24B側に形成して被エッチング層22を加工する第2工程とを有する。被エッチング層22はアンダーカット形状またはアーチ形状に加工される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSの製造方法及び赤外線検出器等の熱型光検出器の製造方法並びに熱型光検出器、熱型光検出装置及び電子機器等に関する。
【背景技術】
【0002】
熱型光検出装置として、焦電型またはボロメータ型の赤外線検出装置が知られている。赤外線検出装置は、赤外線吸収膜に吸収された赤外線の発熱に基づいて、熱型赤外線検出素子にて起電力を生じさせるか(焦電型)、または抵抗値を変化させて(ボロメータ型)、赤外線を検出している。赤外線検出素子は支持部材に支持され、支持部材と基板との間には、熱分離のための空洞部が形成されている。
【0003】
熱型赤外線検出素子からの熱の散逸を低減することを考慮すると、支持部材が基板と連結される支持アーム部分は、細く長くして熱コンダクタンスを下げ、熱容量を小さくした方が良い。しかし、支持アームを細く長く形成すると剛性が不足する。支持アームの
剛性が不足すると、プロセス時に空洞部の底面に支持部材が付着して離れなくなり(スティッキング)、あるいは使用時に検出素子の向きが変わって受光効率が落ちてしまう。
【0004】
このため、支持アームは、縦断面視で見て断面二次モーメントを増大させる面取り部や段部等が形成され、曲げ剛性を高めることが提案されている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−31197号公報
【特許文献2】特開2007−71885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱コンダクタンスを下げるために細く長く形成した支持アームの断面形状を如何に加工しても、支持アームの曲げ剛性を高めるには限界がある。
【0007】
本発明の幾つかの態様によれば、熱コンダクタンスを低減させる連結構造または支持構造の加工に最適なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の製造方法及び熱型光検出器の製造方法を提供することができる。
【0008】
本発明の他の幾つかの態様によれば、アームを固定部に連結し、または支持する構造を改良して、熱型赤外線検出素子からの放熱を低減することができる熱型光検出器、熱型光検出装置を提供することができる。
【0009】
本発明のさらに他の幾つかの態様によれば、アームを固定部に連結する構造を改良して、熱型赤外線検出素子からの放熱を低減すると共に支持強度を高めることができる熱型光検出器、熱型光検出装置及び電子機器を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、
固定部上に形成された、第1空洞部を有する被エッチング層を加工するMEMSの製造方法であって、
前記被エッチング層の露出面のうち、前記被エッチング層が前記第1空洞部に臨む少なくとも側壁に、マスク層を形成する第1工程と、
前記マスク層の表面側の前記第1空洞部内に供給されたエッチャントを、前記マスク層の裏面側に導いて前記被エッチング層を等方性エッチングして、前記第1空洞部に連通する第2空洞部を前記マスク層の裏面側に形成して前記被エッチング層を加工する第2工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様によれば、被エッチング層の露出面うち、被エッチング層が第1空洞部に臨む側壁はマスク層に覆われているので、側壁の等方性エッチングはマスク層に阻止されて、当初は進行しない。等方性エッチングが進むにつれ、エッチャントがマスク層の表面側から端部を辿って裏面側に廻り込んで供給され、第2空洞部の領域を拡大してゆく。これにより、被エッチング層は、第1空洞部の深さ方向にて深い側から浅い方向に向けて、深さ方向にて逆向きに等方性エッチングが進行する。被エッチング層には、第1空洞部の深さ方向にて深度の大きい位置ほどエッチング量が大きくなり、アンダーカット形状が形成される。
【0012】
本発明の一態様に係るMEMSの製造方法は、前記第1工程では、前記被エッチング層が前記空洞部に臨む底壁にも前記マスク層を形成することができ、前記第1工程と前記第2工程との間に、前記エッチャントが通過するエッチャント供給孔を前記マスク層に形成する工程をさらに有することができる。
【0013】
こうすると、エッチャント供給孔の数、位置、大きさ等を選定することで、連結部に形成されるアンダーカット形状を所望に制御することができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る熱型光検出器の製造方法は、
固定部上に形成された、第1空洞部を有する被エッチング層の露出面のうち、前記被エッチング層が第1空洞部に臨む少なくとも側壁に、マスク層を形成する工程と、
前記第1空洞部内に犠牲層を形成する工程と、
前記被エッチング層及び前記犠牲層の上に、支持層を形成する工程と、
前記支持層上に、熱型光検出素子を形成する工程と、
前記支持層を異方性エッチングして、前記熱型検出素子を支持する支持部材に加工して、前記犠牲層を露出させる工程と、
前記犠牲層を等方性エッチングにより除去して、前記第1空洞部を露出させる工程と、
前記マスク層の表面側の前記第1空洞部内に供給されたエッチャントを、前記マスク層の裏面側に導いて前記被エッチング層を等方性エッチングして、前記第1空洞部に連通する第2空洞部を前記マスク層の裏面側に形成して、前記被エッチング層を、前記支持部材と前記固定部とを連結する連結部の形状に加工する工程と、
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様に係る熱型光検出器の製造方法によれば、上述したMEMSの製造方法の原理を用いて、連結部にアンダーカット形状を形成することができ。また、第1空洞部を一旦犠牲層で埋め込むことで、第1空洞部の上方に支持部材や熱型光検出素子を形成でき、その後犠牲層を除去した後に、上述したMEMSの製造方法を採用することができる。また、この方法によれば、連結部は、支持部材側よりも固定部側での横断面積を小さく形成できるので、後述の通り、連結部の支持強度を向上させ、熱コンダクタンスを下げることができる。
【0016】
本発明の他の態様に係る熱型光検出器の製造方法においても、前記マスク層形成工程では、前記被エッチング部位が前記空洞部に臨む底壁にも前記マスク層を形成することができ、前記マスク層の形成後であって、前記被エッチング層の等方性エッチング工程の前に、前記エッチャントが通過するエッチャント供給孔を前記マスク層に形成する工程をさらに有することができる。この場合にも、エッチャント供給孔の数、位置、大きさ等を選定することで、連結部に形成されるアンダーカット形状を所望に制御して、連結部の支持強度や熱コンダクタンスを調整することができる。
【0017】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出器は、
固定部と、
熱型光検出素子と、
第1面及び前記第1面と対向する第2面を有し、前記第1面と前記固定部との間には熱分離のための空洞部が形成され、前記第2面に前記熱型光検出素子を支持する支持部材と、
前記支持部材を前記固定部に連結する連結部と、
を有し、
前記連結部は、前記支持部材側よりも前記固定部側での横断面積が小さく形成されていることを特徴とする。
【0018】
この熱型光検出素子では、例えば支持部材側を上方と定義すると、連結部は、支持部材側よりも固定部側での横断面積が小さく形成されることでアンダーカット形状となる。このアンダーカット形状によれば、支持部材の被連結端部を支える面積を広く確保することができるので、応力分散させることで支持強度が向上する。しかも、固定部側の横断面積が小さく絞られているので、横断面積に比例させて熱コンダクタンスを下げることができ、熱源である赤外線検出素子から支持部材及び連結部を経て固定部側に移動する熱量を低減できる。つまり、連結部の横断面積が小さく形成されることで、連結部に熱抵抗増大部を確保することができる。
【0019】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出器では、前記支持部材は、前記熱型光検出素子を搭載する搭載部材と、前記搭載部材に接続された基端より被連結端部に向けて延びる少なくとも1本のアームと、を含むことができ、前記連結部は、前記少なくとも1本のアームの前記被連結端部と前記固定部とを連結する第1の連結部を含むことができる。
【0020】
つまり、上述した連結部の形状を、アーム端部の被連結端部と固定部とを連結する第1の連結端部に適用して、アーム端部での支持強度と熱コンダクタンスの低下を確保することができる。
【0021】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出器では、前記第1の連結部は、前記少なくとも1本のアームの延在方向に沿った縦断面にて、前記被連結端部側と接する第1辺よりも前記固定部側と接する第2辺を短く形成することができる。
【0022】
こうすると、第1の連結部にて、第1,第2辺と直交する方向の幅が一定であっても、第1,第2辺と平行な長さが変化するので、幅×長さの横断面積を、支持部材側よりも固定部側にて小さくすることができ、熱抵抗増大部を形成できる。
【0023】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出器では、前記第1の連結部は、前記縦断面にて、前記第1辺と前記第2辺とを結んで前記空洞部に臨む第3辺が湾曲していることが好ましい。
【0024】
こうすると、第1の連結部はアーチ形状となり、支持部材80側からの荷重は軸方向圧縮として伝達され、上部や側壁102に生じる曲げモーメントは大幅に低減されるので、より支持強度を高く確保できる。
【0025】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出器では、前記連結部は、前記被連結端部以外の位置で前記支持部材と前記固定部とを連結する、前記空洞部内にて柱状に形成された第2の連結部をさらに含むことができる。
【0026】
この第2の連結部は、アームの被連結端部以外の中間位置にてアームを固定部に連結することで、細く長いアームが曲げ剛性不足により撓むことを防止できる。しかも、第2の連結部も第1の連結部と同様に熱伝達経路となるので、第2の連結部も、支持部材側よりも固定部側での横断面積が小さく形成されることで、熱抵抗増大部を確保できる。
【0027】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出器では、前記第2の連結部は、前記第2の連結部の縦軸中心線に対して、縦断面の形状を線対称とすることができる。第2の連結部を加工する前の柱状部分の全周から等方性エッチングを進行させることで、線対称の縦断面形状は容易に形成される。全周から等方性にエッチングされて横断面積が縮小され、高い熱抵抗を確保できる。
【0028】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出器では、前記被連結端部以外の位置で、前記支持部材側の基端より前記固定部側の自由端部に向けて、前記空洞部内にて柱状に延びるスペーサー部材をさらに有することができ、前記スペーサー部材の前記自由端部と前記固定部との間に前記空洞部と連通する空隙が形成することができる。
【0029】
こうすると、支持部材と固定部との間の固体熱伝達経路を完全に遮断しながら、支持部材と固定部との間隔をスペーサー部材により維持できる。また、空隙はほぼ最終工程である等方性エッチング工程にて形成できるので、それ以前の製造工程中では支持部材と固定部とを連結させておくことができ、スティッキングを確実に防止できる。
【0030】
本発明のさらに他の態様に係る熱型光検出装置は、上述した熱型光検出器を、直交二軸方向に沿って二次元配置して構成することができる。この熱型光検出装置は、光(温度)分布画像を提供できる。このとき、1セルの熱型光検出器の面積効率が高いと、緻密な画像を提供できる。
【0031】
本発明のさらに他の態様に係る電子機器は、熱型光検出装置を有することで、光(温度)分布画像を出力するサーモグラフィー、車載用ナイトビジョンまたは監視カメラの他、物体の物理情報の解析(測定)を行う物体の解析機器(測定機器)、火や発熱を検知するセキュリティー機器、工場などに設けられるFA(Factory Automation)機器などに最適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のMEMSの製造方法の実施形態を示す図である。
【図2】図2(A)〜図2(C)は、図1に示す等方性エッチングの過程を示す図である。
【図3】比較例の等方性エッチングを示す図である。
【図4】図4(A)及び図4(B)は、本発明の熱型光検出器の実施形態を示す平面図及び断面図である。
【図5】図5(A)〜図5(E)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法のうちの前半工程を示す断面図である。
【図6】図6(A)〜図6(E)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法のうちの後半工程を示す断面図である。
【図7】図7(A)〜図7(C)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法の工程を示す平面図である。
【図8】図8(A)〜図8(C)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法のうち、図7(A)〜図7(C)に続く工程を示す平面図である。
【図9】アームの被連結端部以外の中間位置の連結部に本発明方法を適用した実施形態を示す図である。
【図10】アームの被連結端部以外の中間位置のスペーサー部材に本発明方法を適用した実施形態を示す図である。
【図11】熱型光検出素子の一例を示す断面図である。
【図12】電子機器の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0034】
1.MEMSの製造方法
本願発明のMEMSの製造方法の一実施形態について、図3の比較例と比較しながら図1及び図2(A)〜図2(C)に基づいて説明する。従来の等方性エッチングは、図3に示すように被エッチング層10の表面にパターン化されたマスク層12を形成し、被エッチング層10に対して選択比の高いエッチャントをドライまたはウェット方式で供給していた。
【0035】
この等方性エッチングにより、被エッチング層10には空洞部14が形成される。この際、マイク層12の下方(裏面側)の被エッチング層10も等方性エッチングされるので、空洞部14はマスク層12の下方にも形成される。この結果、マスク層12の下方には、被エッチング層10が空洞部14に臨む側壁10Aが形成される。
【0036】
この側壁10Aの形状は、ほぼ4分の1円弧である。例えば被エッチング層10の左端から側壁10Aまでの長さは、マスク層12と接する上辺で最小値L21となり、その上辺よりも下方の長さL22は最小値L21よりも徐々に大きくなっている。この傾向は、特許文献1の図1及び特許文献2の図2等と同一である。
【0037】
一方、本実施形態に係るMEMSの製造方法では、図1に示すように、例えばエッチングストップ層として機能する固定部である基板20上に形成された、第1空洞部30を有する被エッチング層22の露出面のうち、被エッチング層22が第1空洞部30に臨む少なくとも側壁22Aに、マスク層24を形成する第1工程を有する。図1では、被エッチング層22の上表面にもマスク層24を形成しているが、例えば、上表面に他の層が形成され、その他の層がエッチャントに対して選択比が低い場合等では、被エッチング層22の上表面にマスク層24を形成することは必ずしも必要ではない。
【0038】
また、図1では被エッチング層22が第1空洞部30に臨む底壁22Bは露出しているが、マスク層24に近い側の底壁22Bを露出させる開口(エッチャント供給口)を残してマスク層24にて底壁22Bを被覆しても良い。開口はマスク層24の形成後にマスク層24の一部を例えばエッチング等により除去して形成できる。
【0039】
また、図1ではエッチャントに対して選択比の低いエッチングストップ層20の上に被エッチング層22が形成されているが、これに限定されない。なお、エッチングストップ層20は、例えば基板等の基体(固定部)とすることができ、基板上にエッチングストップ層20を有していても良い。
【0040】
本実施形態では、図1のマスク層24の表面24A側の第1空洞部30内にエッチャントが供給され、マスク層24の裏面24B側に導いて被エッチング層22を等方性エッチングする第2工程を有する。この第2工程では、第1空洞部30に連通する第2空洞部32をマスク層24の裏面24B側に形成して、被エッチング層22の例えば垂直な側壁22Aを側壁22Cの形状に加工する。なお、加工前の側壁22Aは必ずしも垂直であるものに限らず、傾斜又は湾曲していても良い。
【0041】
完全な等方性エッチングであれば、被エッチング層22のエッチングされた側壁22Cは、縦断面において、マスク層24の下端隅部を中心にほぼ一定の半径の円弧を呈する。換言すれば、被エッチング層22はいわゆるアーチ形状に加工される。
【0042】
さらに換言すれば、被エッチング層22は、エッチングストップ層20を下側としたとき、被エッチング層22のエッチングされた側壁22Cは第2空洞部32によってアンダーカット形状となる。例えば被エッチング層22の左端から側壁22Cまでの長さは、マスク層24と接する上辺(第1辺)で最大値L11となり、その上辺よりも下方にある中間位置にて最小長さL12となり、さらに下方のエッチングストップ層20と接する下辺(第2辺)で長さL13(L12<L13<L12)となっている。このため、被エッチング層22は、第1空洞部30の深さ方向にて、深さが浅い位置よりも深い位置での横断面積が小さく形成されている。
【0043】
このアンダーカット形状は、図3にてエッチングされた側壁10Cや、特許文献1の図1及び特許文献2の図2等に開示された側壁とは本質的に異なり、この側壁形状の相違は等方性エッチングが進む向きの相違に起因している。図3では、等方性エッチングが進行する方向は、マスク層12の下方領域では下方及び側方に進行するのみである。
【0044】
これに対して図1では、被エッチング層22のうち、第1空洞部30に臨む側壁22Aがマスク層24に覆われているので、側壁22Aの等方性エッチングはマスク層24に阻止されて、当初は進行しない。側壁22Aを覆うマスク層22よりも下方領域の等方性エッチングが進むにつれ、図2(A)〜図2(C)に示すように、側壁22Aはその下方から上方に向けて(第1空洞部30の深さ方向にて深い側から浅い方向に向けて)等方性エッチングが進行し、図2のエッチングされた側壁22Cの形状に至る。その過程で、エッチャントがマスク層24の表面24Aから端部(下端)を辿って裏面24Bに廻り込んで供給され、第2空洞部32の領域を拡大してゆく。それにより、被エッチング層22は、第1空洞部30の深さ方向にて深度の大きい位置でのエッチング量が大きくなり、アンダーカット形状が形成される。
【0045】
2.熱型光検出器
2.1.熱型光検出器の全体構造
上述したMEMSの製造方法を熱型光検出器の製造方法に適用した実施形態に付いて説明する。図4(A)及び図4(B)は、熱型光検出器50を概略的に示す平面図及び断面図である。
【0046】
図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器例えば赤外線検出器50は1セルを示しており、1セル分の赤外線検出器が直交二軸方向に沿って基板上に二次元配置されることで、赤外線検出装置を構成することができる。
【0047】
赤外線検出器50は、図4(A)及び図4(B)に示すように、基板60と、赤外線吸収膜(広義には光吸収膜)を含む赤外線検出素子(広義には熱型光検出素子)70と、赤外線検出素子70を支持する支持部材(メンブレム)80と、を含んでいる。基板60と支持部材80とは空洞部90を介して熱分離されている。赤外線検出素子70は、支持部材80が空洞部90と面する第1面(図4(B)の下面)と対向する第2面(図4(B)の上面)に搭載されている。なお、赤外線検出素子70の詳細については後述する。
【0048】
この赤外線検出器50では、入射赤外線が赤外線吸収膜にて吸収され、吸収された赤外線による発熱が、赤外線検出素子70にて起電力を生じさせ、または抵抗値を変化させることで、赤外線を検出することができる。この際、赤外線検出素子70を搭載する支持部材80と、熱容量の大きい基板60との間には空洞部90が存在している。このため、赤外線検出素子70と基板60とは熱分離され、熱損失を少なくして赤外線を検出することができる。
【0049】
具体的には、支持部材80は、赤外線検出素子70を搭載する搭載部材82と、基端84Aが搭載部材82に連結され、被連結端部84Bが基板60側に連結支持された少なくとも1本のアーム84、例えば2本の第1,第2アーム84を有することができる。本実施形態では、2本のアーム84は搭載部材82の中心に対して例えば点対称位置に配置されている。この2本のアーム84には、熱型光検出素子70と接続される配線層(図示せず)を形成することができる。なお、アーム84を1本設け、配線層を1本のアーム84に形成しても良い。
【0050】
基板60と支持部材80とを熱分離するために、基板60の表面には2本の端部連結ポスト(広義には連結部または第1の連結部)100が立設され、その2つのポスト100に2本のアーム84の被連結端部84Bが支持されている。端部連結ポスト100は、アーム80の被連結端部84Bの直下に形成されている。このように、端部連結ポスト100により、基板60と支持部材80との間を含む領域を空洞部90とすることができる。支持部材80は体積の小さな端部連結ポスト100を介して基板60に支持されるので、支持部材80から基板60に向う熱伝達経路の熱コンダクタンスは低く、赤外線吸収膜を含む赤外線検出素子70からの熱の散逸を低減できる。なお、アーム84は、図4(A)に示すように一方向に沿って直線的に延びる形態の他、例えば特許文献2の図1(a)のように矩形の搭載部82の二辺に沿って延びるように、細く長く形成することができる。
【0051】
また、1セルの赤外線検出器50の輪郭には、端部連結ポスト100と同一層により形成される枠部110が設けられているが、この枠部110は必須ではない。なお、本実施形態では基板60が固定部に相当するが、基板60と端部連結ポスト100との間に、マスク層24を含む他の層(例えば、基板上にMOSトランジスタを形成する場合のゲート酸化膜など)が介在しても良く、その場合には基板60及び他の層が固定部を構成する。
【0052】
2.2.端部連結ポスト(連結部または第1の連結部)の構造
本実施形態の赤外線検出器50は、端部連結ポスト100の側壁102が上述したMEMSの製造方法によって形成される。このため、端部連結ポスト100の側壁102はアンダーカット形状に形成されている。換言すれば、端部連結ポスト100は、支持部材80側よりも固定部60側での横断面積が小さく形成されている。換言すれば、端部連結ポスト100は、アーム84の延在方向(長手方向)に沿った図4(B)に示す縦断面にて、アーム84の被連結端部84B側と接する第1辺の長さL11よりも、固定部である基板60側と接する第2辺の長さL13が短く形成されている。
【0053】
端部連結ポスト100のアンダーカット形状によれば、アーム84の被連結端部84Bを支える面積を広く確保することができるので、応力分散させることで支持強度が向上する。しかも、固定部である基板60側の横断面積が小さく絞られているので、横断面積に比例する熱コンダクタンスを下げることができ、熱源である赤外線検出素子70から支持部材80及び端部連結ポスト100を経て基板60側に移動する熱量を低減できる。つまり、アンダーカット形状により、端部連結ポスト100に熱抵抗増大部を形成することができる。
【0054】
なお、図3にてエッチングされた側壁10Bや、特許文献1の図1及び特許文献2の図2等に開示された連結部は、アンダーカット形状とは逆の形状であるので、熱コンダクタンスは同等かもしれないが、アーム端部を支える面積は狭くなるので応力集中し、支持強度を高く確保できない。
【0055】
特に、本実施形態では、図4(B)に示す縦断面にて、長さL11の第1辺と長さL13の第2辺とを結んで空洞部90に臨む側壁102に沿った第3辺が湾曲しているので、端部連結部100Bはアーチ形状を呈している。
【0056】
アーチ形状の端部連結ポスト100では、支持部材80側からの荷重は軸方向圧縮として伝達され、上部や側壁102に生じる曲げモーメントは大幅に低減されるので、より支持強度を高く確保できる。
【0057】
3.熱型光検出器の製造方法
図5(A)〜図5(E)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法のうちの前半工程を示す断面図であり、図6(A)〜図6(E)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法のうちの後半工程を示す断面図である。図7(A)〜図7(C)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法の工程を示す平面図であり、図8(A)〜図8(C)は、図4(A)及び図4(B)に示す熱型光検出器の製造方法のうち図7(A)〜図7(C)に続く工程を示す平面図である。
【0058】
3.1.マスク層を形成する工程
この工程は、固定部である基板60上に形成された連結層(被エッチング層)100Aに第1空洞部30が加工されることで形成される少なくとも側壁100B2にマスク層24を形成する工程である。先ず、図5(A)に示すように、基板例えばシリコン基板60上に例えばSiOの連結層100Aが形成される。SOI(Silicon On Insulator)を用いても良い。
【0059】
次に、図5(B)に示すように、連結層100Aに第1空洞部30を形成する。第1空洞部30は、連結層100Aの表面にレジストマスクを形成し、連結層100Aを例えば異方性エッチングすることで形成する。例えばエッチング時間を制御することで、第1空洞部30の深さが制御される。図7(A)に示すように、第1空洞部30の平面形状を示しており、異方性エッチングにより、連結層100Aが加工されて、枠部110と、垂直な側壁100B2を有する端部連結ポスト100Bとが形成される。端部連結部100Bは、垂直な側壁100B2に続く表面100B1を有し、第1空洞部30は側壁100B2と底壁100B3とで規定される。
【0060】
図5(C)及び図7(B)が、マスク層24の形成工程を示している。本実施形態では、端部連結部100Bの表面100B1と、第1空洞部30を規定する側壁100B2及び底壁100B3の全面にマスク層24が形成される。マスク層24は、たとえばAlにて形成される。さらに本実施形態では、図5(C)及び図7(B)のA部拡大図に示すように、端部連結部100Bの側壁100B2を囲むように、マスク層24にエッチャント供給(開口)26を形成している。このエッチャント供給孔26は、後の工程にて、端部連結部100Bの垂直な側壁100B2を等方性エッチングして、アンダーカットされた側壁102を有する端部連結ポスト100を形成する際のエッチャントの供給のために形成されている。
【0061】
3.2.犠牲層を形成する工程
この工程は、第1空洞部30内に例えば犠牲層120を形成する工程であり、図5(D)及び図7(C)に示されている。犠牲層120は、例えば多結晶シリコンにて形成され、第1空洞部30内に埋め込み形成され、第1空洞部30よりはみ出た余分な犠牲層120はエッチバックにより除去される。この犠牲層120は、第1空洞部30を埋めることで、第1空洞部30上に他の膜形成を可能とし、他の膜が形成された後に除去される。
【0062】
3.3.支持層を形成する工程
この工程は、被エッチング層である端部連結部100B及び犠牲層120の上に、支持層80Aを形成する工程である。図5(E)に示すように、端部連結部100B及び犠牲層120の上の全面に、例えばSiN膜から成る支持層80AがスパッタまたはCVD等にて形成される。
【0063】
3.4.熱型光検出素子を形成する工程
この工程は、支持層80A上に、熱型光検出素子である赤外線検出素子膜70Aを形成する工程である。赤外線検出素子膜70Aの詳細については後述する。赤外線検出素子膜70Aは図6(B)及び図8(A)のようにパターニングされ、1セルの中心位置に所定の受光面積が確保できるように、赤外線検出素子70が形成される。
【0064】
3.5.犠牲層を露出させる工程
この工程は、支持層80Aを異方性エッチングして、赤外線検出素子70を支持する支持部材80に加工して、犠牲層120を露出させる工程である。図6(B)及び図8(A)に示すように、支持層80Aが異方性エッチングされることで、赤外線検出素子70を搭載する搭載部材82と、搭載部材82から被連結端部84Bまで延びる例えば2本の第1,第2アーム84が形成される。また、この異方性エッチングにより、支持層80Aが除去された領域では、支持層80Aの下層にあった犠牲層120が露出されることになる。なお、支持層80A(SiN)に対する選択比が高いエッチャントとして、例えばCF4と酸素との混合ガスに窒素や塩素を添加したエッチングガスや、フッ素と酸素との混合ガスに窒素を添加したエッチングガスを用いて実現できる(例えば特開平10−261616号公報参照)を挙げることができる。
【0065】
3.6.犠牲層を除去する工程
この工程は、犠牲層120を、ウェット式またはドライ式の等方性エッチングにより除去して第1空洞部30を露出させる工程である。図6(C)及び図8(B)に示すように、露出していた犠牲層120の他、支持部材80の下方に隠れていた犠牲層120も、等方性エッチングにより除去される。この際、マスク層24はエッチングストップ層として機能し、マスク層24に覆われた端部連結ポスト100や枠部110はエッチングされない。また、エッチャント供給孔26を介して露出した連結層(SiO2)は、エッチャントに対する選択比が低いので、同様にエッチングされることはない。犠牲層120の材料である例えば多結晶シリコンに対する選択比が高いエッチャントとして、例えばフッ素系ガスであるSF、CF、XeF等を挙げることができる。
【0066】
3.7.連結部をアンダーカットに加工する工程
この工程は、マスク層24の表面24A側の第1空洞部30内に供給されたエッチャントを、マスク層24の裏面24B側に導いて被エッチング層である端部連結部100Bを等方性エッチングする工程である。この際、図6(D)及び図8(C)に示すように、第1空洞部30に連通する第2空洞部32をマスク層24の裏面24B側に形成して、被エッチング層である端部連結部100Bを、支持部材80と固定部である基板60とを連結する端部連結ポスト100(連結部または第1連結部)をアンダーカット形状に加工する。この等方性エッチング工程により、図6(D)に示すように、端部連結ポスト100はアーチ状に加工される。この等方性エッチングは、図2(A)〜図2(C)と同様の過程を経て実施される。また、被エッチング層である連結端部100Bの下層のシリコン基板60はエッチングストップ層として機能し、シリコン基板60はエッチングされない。被エッチング層である連結端部100Bの材料である例えばSiOに対する選択比が高い等方性エッチャントとして、例えばHFを挙げることができる。
【0067】
3.8.マスク層を除去する工程
この工程は、図6(D)に示すように第1,第2空洞部30,32に残存しているマスク層24を、図6(E)に示すように除去する工程であり、必要により実施される。この工程は、図6(D)の等方性エッチング工程とは別工程としても良いが、例えばバリア膜24と連結端部100Bとに対する選択比を調整することで、図6(D)の等方性エッチング終了時にマスク層24も除去されるようにしても良い。
【0068】
4.第2の連結部の加工方法
本発明の他の実施形態では、連結部は、図4(B)に示すアーム84の被連結端部84B以外の中間位置にも形成したものである。図9に示すように、支持部材80と固定部である基板60とを連結するための、空洞部90内にて柱状に形成された中間連結ポスト(第2の連結部)130をさらに含むことができる。本実施形態では、中間連結ポスト130は、アーム84の基端部84Aと被連結端部84Bとの間の中間位置84Cの1箇所を基板60と連結している。これに限らず、アーム84の複数の中間位置を連結するように複数の中間連結ポスト130を設けても良いし、中間連結ポスト130により搭載部82と基板60とを連結しても良い。
【0069】
中間連結ポスト130は、アーム84の被連結端部84B以外の中間位置にてアーム84を基板60に連結することで、細く長いアーム84が曲げ剛性不足により、製造過程や完成品後に撓むことを防止するものである。しかし、中間連結ポスト130も端部連結ポスト100と同様に熱伝達経路となるので、端部連結ポスト100と同じく熱抵抗増大部を確保する必要がある。
【0070】
そこで、図9に示すように中間連結ポスト130にもアンダーカット形状が形成されている。中間連結ポスト130にアンダーカット形状が付与される前に、図5(B)の工程にて、被エッチング層100Aを異方性エッチングして第1空洞部30を形成する際に、第1空洞部30内に円柱又は角柱等の柱状の中間連結ポストを形成しておく。中間連結ポストの周囲の底壁100B3が露出するように、マスク層24に例えばリング状のエッチャント供給孔を形成しておく。図6(D)の工程にて、そのリング状のエッチャント供給孔を介してエッチャントを供給することで、円柱又は角柱等の柱状の中間連結ポストを図9に示すアンダーカット形状の周壁132を有する中間連結ポスト130を形成できる。
【0071】
このとき、中間連結ポストの全周からエッチャントが供給されると、中間連結ポスト130は縦軸中心線に対して縦断面の形状が線対称となる。このように、中間連結ポスト130は、その全周から等方性にエッチングされて横断面積が縮小されるので、高い熱抵抗を確保できる。なお、エッチャント供給口の大きさや位置に依存して中間連結ポスト130の形状を変化させることができ、中間連結ポスト130の形状は必ずしも縦軸中心線に対して縦断面の形状が線対称としなくても良い。
【0072】
5.スペーサー部材の加工方法
本発明のさらに他の実施形態では、連結部は、図4(B)に示すアーム84の被連結端部84B以外の中間位置で、支持部材80側の基端140Aより固定部である基板60側の自由端部140Bに向けて、空洞部90内にて柱状に延びるスペーサー部材140をさらに有することができる。
【0073】
本実施形態では、スペーサー部材140は、アーム84の基端部84Aと被連結端部84Bとの間の中間位置84Cの1箇所より基板60に向けて突出している。これに限らず、アーム84の複数の中間位置にてスペーサー部材140を設けても良いし、搭載部82の下面にスペーサー部材140を設けても良い。
【0074】
中間連結ポスト130は、熱抵抗増大部を有するとはいえ、支持部材80と基板60との間の固体熱伝達経路を完全に遮断することはできない。そこで、スペーサー部材140の自由端部140Bと基板60との間に、空洞部90と連通する空隙92を形成している。こうすると、支持部材80と基板60との間の固体熱伝達経路を完全に遮断することができる。よって、中間連結ポスト130の一部又は全部をスペーサー部材140に置き換えても良いし、中間連結ポスト130に加えてスペーサー部材140を増設しても良い。
【0075】
このスペーサー部材140は、支持部材80と基板60との間で所定の長さで介在するので、支持部材80と基板60との間隔を維持する機能を有する。また、空隙92はほぼ最終工程である図6(D)の工程にて形成されるので、それ以前の製造工程中では支持部材80と基板60とを連結させておくことができ、スティッキングを確実に防止できる。
【0076】
なお、スペーサー材140のアンダーカット形状の周壁142と空隙92は、図6(D)に示す等方性エッチング工程にて形成できる。中間連結ポスト130とスペーサー材140、は図6(D)に示す等方性エッチング工程にて同時に形成でき、例えばエッチャント供給口の大きさを変えることで中間連結ポスト130かスペーサー材140の何れとするかを選択できる。エッチャント供給口が大きければ、等方性エッチングの進行が速く、スペーサー部材140を形成できる。
【0077】
6.熱型光検出素子
上述した図面では熱型光検出素子の詳細構造を省略したが、熱型光吸収素子としてボロメータ型と焦電型とが知られている。ボロメータ型は、光例えば赤外線の熱によって抵抗値を変化させて赤外線を検出するものであり、赤外線検出素子膜は温度依存性のある抵抗で構成できる。以下では、焦電型赤外線検出素子について、図11を参照して説明する。
【0078】
図11に示すように、赤外線検出素子70は、キャパシタ200を含んでいる。キャパシタ200は、搭載部材82に搭載されるPt等の第1電極(下部電極)200Aと、第1電極200Aと対向配置されるPt等の第2電極(上部電極)200Bと、第1,第2電極200A,200B間に配置される焦電材料としてのPZT等の強誘電体膜200Cとを含んでいる。第1電極200Aは一方のアーム84上のAl等の配線層210に、第2電極200Bは他方のアーム84の配線層212に接続される。キャパシタ200は、赤外線に起因した発熱に基づいて自発分極し、その自発分極による電荷を取り出すことで、赤外線を検出することができる。赤外線検出法としては、例えば、機械式チョッパーで赤外線を断続させて交番する電気分極現象として取り出すか、あいるは、自発電極の向きに対して表面電荷を引き寄せる極性の電圧を印加し、電圧印加停止後に引き寄せられた電荷に応じて変化したキャパシタ両端電圧を検出することができる。
【0079】
このキャパシタ200の側面と天面は、例えば、強誘電体膜200Cの還元による劣化を防止するためのAl等の水素バリア膜220を介在させて、電気的絶縁膜230により覆うことができる。例えばSiO2、SiN、SiCNまたはTiN等の赤外線吸収膜240は、電気的絶縁膜230を覆って形成されている。この水素バリア膜220と絶縁膜230に形成されたコンタクトホール(開口)にプラグ(電極コンタクト)250が埋め込み形成され、プラグ250を介して第2電極200Bと配線層260とが電気的に接続される。
【0080】
なお、赤外線吸収膜240、支持部材80、配線層210,212を含む赤外線検出器の表面側は、図では省略されているが、製造過程で空洞部90に配置されていた犠牲層120をエッチングにより形成する際のマスク層として機能する上部保護膜により覆うことができる。
【0081】
7.電子機器
図12に本実施形態の熱型光検出器や熱型光検出装置を含む電子機器の構成例を示す。この電子機器は、光学系400、センサーデバイス(熱型光検出装置)410、画像処理部420、処理部430、記憶部440、操作部450、表示部460を含む。なお本実施形態の電子機器は図12の構成に限定されず、その構成要素の一部(例えば光学系、操作部、表示部等)を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
【0082】
光学系400は、例えば1又は複数のレンズや、これらのレンズを駆動する駆動部などを含む。そしてセンサーデバイス410への物体像の結像などを行う。また必要であればフォーカス調整なども行う。
【0083】
センサーデバイス410は、上述した本実施形態の光検出器を二次元配列させて構成され、複数の行線(ワード線、走査線)と複数の列線(データ線)が設けられる。センサーデバイス410は、二次元配列された光検出器に加えて、行選択回路(行ドライバー)と、列線を介して光検出器からのデータを読み出す読み出し回路と、A/D変換部等を含むことができる。二次元配列された各光検出器からのデータを順次読み出すことで、物体像の撮像処理を行うことができる。
【0084】
画像処理部420は、センサーデバイス410からのデジタルの画像データ(画素データ)に基づいて、画像補正処理などの各種の画像処理を行う。
【0085】
処理部430は、電子機器の全体の制御を行ったり、電子機器内の各ブロックの制御を行う。この処理部430は、例えばCPU等により実現される。記憶部440は、各種の情報を記憶するものであり、例えば処理部430や画像処理部420のワーク領域として機能する。操作部450は、ユーザが電子機器を操作するためのインターフェースとなるものであり、例えば各種ボタンやGUI(Graphical User Interface)画面などにより実現される。表示部460は、例えばセンサーデバイス410により取得された画像やGUI画面などを表示するものであり、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの各種のディスプレイにより実現される。
【0086】
このように、1セル分の熱型光検出器を赤外線センサー等のセンサーとして用いる他、1セル分の熱型光検出器を直交二軸方向に二次元配置することでセンサーデバイス(熱型光検出装置)410を構成することができ、こうすると熱(光)分布画像を提供することができる。このセンサーデバイス410を用いて、サーモグラフィー、車載用ナイトビジョンあるいは監視カメラなどの電子機器を構成することができる。
【0087】
もちろん、1セル分または複数セルの熱型光検出器をセンサーとして用いることで物体の物理情報の解析(測定)を行う解析機器(測定機器)、火や発熱を検知するセキュリティー機器、工場などに設けられるFA(Factory Automation)機器などの各種の電子機器を構成することもできる。
【0088】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【0089】
本発明は、熱型光検出器に広く適用でき、焦電型に限らずボロメータ型の熱型光検出器にも適用できる。検出対象も赤外線に限らず、他の波長帯域の光であっても良い。
【符号の説明】
【0090】
20 エッチングストップ層、22 被エッチング層、22A エッチング前の側壁、22B エッチング後の底壁、22C エッチングされた側壁、24 マスク層、24A 表面、24B 裏面、30 第1空洞部、32 第2空洞部、50 赤外線検出器(熱型光検出器)、60 基板(固定部)、70 赤外線検出素子(熱型光検出素子)、70A 赤外線検出素子膜、80 支持部材、80A 支持層、82 搭載部、84 アーム、84A 基端部、84B 被連結端部、84C 中間位置、90 空洞部、100 端部連結ポスト(連結部または第1の連結部)、100A 被エッチング層(連結層)、100B 端部連結部、100B2 垂直な側壁、102 エッチングされた側壁、110 枠部、120 犠牲層、130 中間連結ポスト(第2の連結部)、140 スペーサー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部上に形成された、第1空洞部を有する被エッチング層を加工するMEMSの製造方法であって、
前記被エッチング層の露出面のうち、前記被エッチング層が前記第1空洞部に臨む少なくとも側壁に、マスク層を形成する第1工程と、
前記マスク層の表面側の前記第1空洞部内に供給されたエッチャントを、前記マスク層の裏面側に導いて前記被エッチング層を等方性エッチングして、前記第1空洞部に連通する第2空洞部を前記マスク層の裏面側に形成して前記被エッチング層を加工する第2工程と、
を有することを特徴とするMEMSの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1工程では、前記被エッチング層が前記空洞部に臨む底壁にも前記マスク層が形成され、
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記エッチャントが通過するエッチャント供給孔を前記マスク層に形成する工程をさらに有することを特徴とするMEMSの製造方法。
【請求項3】
固定部上に形成された、第1空洞部を有する被エッチング層の露出面のうち、前記被エッチング層が第1空洞部に臨む少なくとも側壁に、マスク層を形成する工程と、
前記第1空洞部内に犠牲層を形成する工程と、
前記被エッチング層及び前記犠牲層の上に、支持層を形成する工程と、
前記支持層上に、熱型光検出素子を形成する工程と、
前記支持層を異方性エッチングして、前記熱型検出素子を支持する支持部材に加工して、前記犠牲層を露出させる工程と、
前記犠牲層を等方性エッチングにより除去して、前記第1空洞部を露出させる工程と、
前記マスク層の表面側の前記第1空洞部内に供給されたエッチャントを、前記マスク層の裏面側に導いて前記被エッチング層を等方性エッチングして、前記第1空洞部に連通する第2空洞部を前記マスク層の裏面側に形成して、前記被エッチング層を、前記支持部材と前記固定部とを連結する連結部の形状に加工する工程と、
を有することを特徴とする熱型光検出器の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記マスク層形成工程では、前記被エッチング部位が前記空洞部に臨む底壁にも前記マスク層が形成され、
前記マスク層の形成後であって、前記被エッチング層の等方性エッチング工程の前に、前記エッチャントが通過するエッチャント供給孔を前記マスク層に形成する工程をさらに有することを特徴とする熱型光検出器の製造方法。
【請求項5】
固定部と、
熱型光検出素子と、
第1面及び前記第1面と対向する第2面を有し、前記第1面と前記固定部との間には熱分離のための空洞部が形成され、前記第2面に前記熱型光検出素子を支持する支持部材と、
前記支持部材を前記固定部に連結する連結部と、
を有し、
前記連結部は、前記支持部材側よりも前記固定部側での横断面積が小さく形成されていることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項6】
請求項5において、
前記支持部材は、
前記熱型光検出素子を搭載する搭載部材と、
前記搭載部材に接続された基端より被連結端部に向けて延びる少なくとも1本のアームと、
を含み、
前記連結部は、前記少なくとも1本のアームの前記被連結端部と前記固定部とを連結する第1の連結部を含むことを特徴とする熱型光検出器。
【請求項7】
請求項6において、
前記第1の連結部は、前記少なくとも1本のアームの延在方向に沿った縦断面にて、前記被連結端部側と接する第1辺よりも前記固定部側と接する第2辺が短く形成されていることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1の連結部は、前記縦断面にて、前記第1辺と前記第2辺とを結んで前記空洞部に臨む第3辺が湾曲していることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかにおいて、
前記連結部は、前記被連結端部以外の位置で前記支持部材と前記固定部とを連結する、前記空洞部内にて柱状に形成された第2の連結部をさらに含むことを特徴とする熱型光検出器。
【請求項10】
請求項9において、
前記第2の連結部は、前記第2の連結部の縦軸中心線に対して、縦断面の形状が線対称であることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかにおいて、
前記被連結端部以外の位置で、前記支持部材側の基端より前記固定部側の自由端部に向けて、前記空洞部内にて柱状に延びるスペーサー部材をさらに有し、
前記スペーサー部材の前記自由端部と前記固定部との間に前記空洞部と連通する空隙が形成されていることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項12】
請求項5乃至11のいずれかに記載の熱型光検出器を、直交二軸方向に沿って二次元配置したことを特徴とする熱型光検出装置。
【請求項13】
請求項5乃至11のいずれかに記載の熱型光検出器を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項14】
請求項12に記載の熱型光検出装置を含むことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−153889(P2011−153889A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15123(P2010−15123)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】