説明

MEMSセンサの製造方法

【課題】 特に、剥離応力を分散し最大剥離応力を低下させることが出来るMEMSセンサの製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 第1シリコン基板10の表面10a側に有底の凹部11を形成し、このとき、前記凹部11の側壁14に、開口側縁部11aから凹部11の底面11b方向に向けて前記凹部11の幅寸法を広げる方向へ後退する後退領域14aを設ける。続いて、第1シリコン基板10の表面、あるいは前記第2基板の表面の少なくとも一方に酸化絶縁層を形成する。続いて、前記第1シリコン基板10の表面と前記第2シリコン基板の表面とを接合し、前記凹部11を閉鎖空間とした状態で、熱処理を施す。側壁14の第2シリコン基板との接合側に後退領域14aを設けたことで、熱処理を施したときに凹部11の縁部付近に加わる剥離応力を分散でき、最大剥離応力を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1基板と第2基板とに囲まれた閉鎖空間が存在する状態で熱処理工程を有するMEMSセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、従来におけるMEMSセンサの製造工程の一例を示す断面図である。図15(a)では、第1シリコン基板1の表面1aに複数の有底の凹部2をドライエッチング等により形成する。図15(b)では、表面に熱酸化により酸化絶縁層(SiO2層)3が形成された第2シリコン基板4の表面4aと、第1基板1の表面1aとを常温接合する。その後、接合強度を上げるために熱処理を施す。図15(c)に示す工程では第1シリコン基板1の露出表面や側面の形をエッチングや研磨工程等により整え、さらに、第1シリコン基板1の凹部2が形成されている位置に、可動部と固定部とに分離されたセンサ部(図示せず)を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−322149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図15(b)に示す工程で熱処理を施すと、第1シリコン基板1と第2シリコン基板4との接合界面でSi原子が酸素を介して結合された結合状態から酸素がシリコン基板内に分散してSi原子間接合となり、これにより、第1シリコン基板1と第2シリコン基板4間の接合強度を効果的に向上させることができる。
【0005】
ところで、図15に示すMEMSセンサの製造方法では、図15(b)工程で第1シリコン基板1に形成された凹部2は、第1シリコン基板1と第2シリコン基板4とに囲まれた閉鎖空間となる。
【0006】
このとき接合強度を向上させるための上記の熱処理を施すと、図16(a)(部分拡大縦断面図)に示す第1シリコン基板1に形成された凹部2の酸化絶縁層3により塞がれる側の接合面側縁部2a付近に、非常に強い剥離応力が加わることがわかった。特に、この剥離応力は、図16(b)(凹部の部分平面図。なお凹部の周囲を斜線で示した)の矢印に示すように、凹部2の前記接合面側縁部2aの角部2b付近に最も強く加わることが後述する実験によりわかっている。
【0007】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するものであり、特に、剥離応力を分散し最大剥離応力を低下させることが出来るMEMSセンサの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明におけるMEMSセンサの製造方法は、
(a) 第1基板の表面側に有底の凹部を形成し、このとき、前記凹部の側壁に、開口側縁部から前記凹部の底面方向に向けて前記凹部の幅寸法を広げる方向へ後退する後退領域を設ける工程、
(b) 第1基板の表面、あるいは前記第2基板の表面の少なくとも一方に酸化絶縁層を形成する工程、
(c) 前記第1基板の表面と前記第2基板の表面とを接合し、前記凹部を閉鎖空間とした状態で、熱処理を施す工程、
を有することを特徴とするものである。
【0009】
上記により、(c)工程で、熱処理を施したときに、凹部の第2基板との接合により塞がれる側の縁部((a)工程での開口側縁部)付近に加わる剥離応力を分散でき、最大剥離応力を低減できる。
【0010】
本発明では、前記(a)工程にて、前記開口側縁部から底面方向の途中位置まで前記凹部の幅寸法が徐々に広がるように前記後退領域を形成することが好適である。
【0011】
また本発明では、前記(c)工程の次に、
(d) 前記第1基板に形成した前記凹部の位置に、前記第1基板あるいは前記第2基板の一方を加工して、可動部と固定部とに分離されたセンサ部を形成する工程、
を有することが可能である。これにより所望の物理量センサを製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のMEMSセンサの製造方法によれば、熱処理を施したときに凹部の第2基板との接合により塞がれる側の縁部付近に加わる剥離応力を分散でき、最大剥離応力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態におけるMEMSセンサの製造方法を示す工程図(縦断面図)、
【図2】図1(a)に示す凹部を形成する際の製造工程を示す拡大縦断面図、
【図3】(a)は、図1(b)の一部の拡大縦断面図、(b)は、凹部の第2シリコン基板に塞がれる側の縁部(開口側縁部)付近に加わる剥離応力を説明するための凹部の平面図、
【図4】別の実施形態における凹部付近の縦断面図、
【図5】本実施形態の加速度センサの平面図、
【図6】図5のA−A線から高さ方向に切断した加速度センサの縦断面図、
【図7】図6のアンカ部37付近を拡大して示した部分拡大縦断面図、
【図8】本実施形態の加速度センサの製造方法を示す工程図(縦断面図)、
【図9】別の実施形態の加速度センサの製造方法を示す工程図(縦断面図)、
【図10】スティッキング防止部付近を拡大して示した部分拡大縦断面図、
【図11】常温と熱処理時における、凹部(閉鎖空間)の体積と内部応力との関係を示すグラフ、
【図12】実験で使用したMEMSセンサの模式図、
【図13】図12のMEMSセンサに対し熱処理を施し、R部の曲率半径を変化させたときの剥離応力の分布図、
【図14】R部の曲率半径と最大剥離応力との関係を示すグラフ、
【図15】従来におけるMEMSセンサの製造方法を示す工程図(縦断面図)、
【図16】(a)は、図15(b)の一部の拡大縦断面図、(b)は、凹部の第2シリコン基板に塞がれる側の縁部(開口側縁部)付近に加わる剥離応力を説明するための凹部の平面図、
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態におけるMEMSセンサの製造方法を示す工程図である。図1の各工程図は、厚さ方向から切断して示した縦断面図で示されている。図2は、図1(a)に示す凹部を形成する際の製造工程を示す拡大縦断面図である。図3(a)は、図1(b)の一部の拡大縦断面図、図3(b)は、凹部の第2シリコン基板に塞がれる側の縁部(開口側縁部)付近に加わる剥離応力を説明するための凹部の平面図である。図4は、別の実施形態における凹部付近の縦断面図である。
【0015】
図1(a)の工程では、MEMSセンサを構成するシリコンで形成された第1シリコン基板10の表面10aにドライエッチング等により複数の有底の凹部11を形成する。
【0016】
図2(a)に示すように、第1シリコン基板10の表面10aに開口部12を有するマスク13を設ける。続いて、図2(b)に示す工程では、例えば、SF6ガス、C48ガス及びO2ガスを用いてマスク13の開口部12から露出する第1シリコン基板10の表面10aをドライエッチングで削り、有底の凹部11を形成する。図2(b)に示す工程では、開口部12直下のみならず、開口部12周辺のマスク13下の第1シリコン基板10もエッチングにて除去される。よって、凹部11の開口幅T1は、マスク13の開口部12の開口幅T2よりもやや広がる。さらに図2(b)に示すように、凹部11の側壁14に、凹部11の開口側縁部11aから底面11b方向に向けて凹部11の幅寸法を広げる方向へ後退する後退領域14aが形成される。なお、下記では、符号11aを接合面側縁部11aと表記する場合がある。
【0017】
また、この実施形態では、後退領域14aは、開口側縁部11aから底面11b方向への途中位置11cにまで形成され、途中位置11cから底面11bに向けて徐々に凹部11の幅寸法が狭まるように傾斜する裾領域14bが形成される。図2(b)には凹部11の最も大きくなる幅寸法の位置に幅寸法T3を明記した。
【0018】
図2(b)に示すように凹部11の側壁14は、全体的に窪んだ曲面状となる。このような形状とするには、SF6ガスの流量、C48ガスの流量、O2ガスの流量、マスク13の開口部12の開口幅T2、エッチング深さを調整することに行う。一例として、SF6ガスの流量を、500sccm、C48ガスの流量を、180sccm程度、O2ガスの流量を200sccm程度、マスク13の開口部12の開口幅T2を500μm程度、エッチング深さを1.0μm程度とする。また本実施形態と比較して後退領域が形成されない比較例の一例としては、SF6ガスが350sccm、C48ガスが150sccm、O2ガスが0sccmである。なお1sccm=1.667×10-8(m3/sec)(25℃で規格化)とした。
【0019】
そして、図2(c)の工程では、マスク13を除去する。ここで、凹部11の開口幅T1は、501〜502μm程度、凹部11内の最大幅寸法T3は、503〜505μm程度、底面11bの幅寸法T4は、500μm程度、凹部11の深さ寸法T5は1.0〜2.0μm程度である。
【0020】
次に図1(b)に示す工程では、第2シリコン基板20を用意し、第2シリコン基板20の表面20a全域に熱酸化により酸化絶縁層21(SiO2層)を形成する。
【0021】
次に、第1シリコン基板10の表面10aと第2シリコン基板20の表面20aとを対向させ常温接合する。この常温接合によっても第1シリコン基板10と第2シリコン基板20間をある程度強く接合することができるが、更に強い接合強度を得るため熱処理を施す。熱処理を施すと、第1シリコン基板10と第2シリコン基板20との接合界面でSi原子が酸素を介して結合された結合状態から酸素がシリコン基板内に分散してSi原子間接合となり、これにより、第1シリコン基板10と第2シリコン基板20間の接合強度を効果的に向上させることができる。
【0022】
図1(b)に示すように凹部11は第1シリコン基板10と第2シリコン基板20とに囲まれた閉鎖空間の状態で熱処理される。熱処理温度は、1000〜1100℃程度である。これにより、閉鎖空間である凹部11の内部圧力は理想気体の状態方程式(PV=nRT)に基づいて、常温時に比べて上昇するものの、常温時に比べてせいぜい数倍程度の大きさである。一方、応力について考察すると、図3(a)に示すように、凹部11の第2シリコン基板20の表面20a(酸化絶縁層21の表面)に塞がれる接合面側縁部(開口側縁部)11a付近には剥離応力が作用する。本実施形態では、図3(a)に示すように、凹部11の側壁14の第2シリコン基板20に塞がれる接合面側縁部11aから底面11b方向に向けて、凹部11の幅寸法を広げる方向に後退する後退領域14aを設けた。これにより、図3(b)(なお凹部11の周囲を斜線で示した)に示すように、前記剥離応力(矢印で示す)を、接合面側縁部11a付近の広い範囲にわたって分散でき、最大剥離応力を低減することが可能になる。
【0023】
凹部11の接合面側縁部(開口側縁部)11aの形状を限定しないが、本実施形態は、接合面側縁部(開口側縁部)11aに角部11dが形成されるような形態に特に有効である。角部11dは、隣り合う接合面側縁部(開口側縁部)11a間を繋ぐ部分である。図3(b)では、角部11dを介して繋がる接合面側縁部(開口側縁部)11aを直線的に図示しているが、接合面側縁部(開口側縁部)11aは曲面であってもよい。このとき角部11dの曲率半径は、接合面側縁部(開口側縁部)11aの曲率半径よりも小さくなっている。後述の実験結果でも示すように、角部付近に最大剥離応力が加わりやすいが、従来では、この最大剥離応力が非常に強かったのに対して本実施形態では、最大剥離応力を効果的に小さくすることが可能になる。
【0024】
図4に示す他の実施形態では、凹部11の側壁26と接合面側縁部11aとの間に後退領域としてのR部25を形成している。図面上では側壁26は高さ方向に直線状に延びているが多少傾斜する構成でもよい。また、後退領域が接合面側縁部11aから底面11bに至る側壁の全域に形成されてもよい。かかる場合、凹部11の縦断面は略台形状になる。
【0025】
図1(c)に示す工程では、第1シリコン基板10の露出表面や側面の形をエッチングや研磨工程等により整える。その後、第1シリコン基板10の凹部11が形成されている位置に、可動部と固定部とに分離されたセンサ部を形成する。
【0026】
本実施形態の製造方法により例えば図5,図6に示す加速度センサを製造できる。
図5は本実施形態の加速度センサを示すものであり、可動部と固定部および枠体層を示す平面図である。図6は、加速度センサの全体構造を示す断面図であり、図5をA−A線で切断した断面図に相当している。
【0027】
図6に示すように、加速度センサは、第1シリコン基板30と、第2シリコン基板31と、前記第1シリコン基板30と前記第2シリコン基板31の間に介在する酸化絶縁層32とを有して構成される。
【0028】
第2シリコン基板31には、第1の固定部33、第2の固定部34、可動部35および枠体層36が分離されて形成されている。第1の固定部33、第2の固定部34及び可動部35でセンサ部が構成されている。
【0029】
図5に示すように、第1の固定部33には、四角形のアンカ部37が接続されている。図6に示すように、アンカ部37は酸化絶縁層32によって第1シリコン基板30の表面に固定支持されている。また、第2の固定部34には、四角形のアンカ部38が接続されている。アンカ部38も、酸化絶縁層32によって第1シリコン基板30の表面に固定支持されている。
【0030】
図5に示すように、固定部33,44には、夫々、櫛歯状の複数の対向電極が形成されている。
【0031】
図5に示す加速度センサでは、四角形の枠体層36の内側が可動領域であり、可動領域では、前記第1の固定部33、第2の固定部34及び各アンカ部37,38,39,43を除く部分が可動部35として規定される。
【0032】
可動部35は、アンカ部39,43の位置で酸化絶縁層32を介して第1シリコン基板30に支持される(図6参照)。
【0033】
また図5に示すように、可動部35には、固定部33,34の対向電極間に位置する櫛歯状の可動対向電極が設けられる。
【0034】
この加速度センサに加速度が作用すると、その反作用により可動部が移動する。このとき、各可動対向電極と固定側の対向電極との対向距離が変化することで、静電容量が変化し、この静電容量の変化を電気回路で検出して、加速度の変化や加速度の大きさを検知することができる。
【0035】
図6に示すように、可動部及び固定部と、第1シリコン基板30の間には有底の凹部40が設けられる。
【0036】
図7は、図6のアンカ部37付近を拡大した拡大縦断面図である。図6に示すように凹部40の側壁41には開口側縁部40aから底面40bに向けて凹部40の幅寸法を広げる方向に後退する後退領域42が形成されている。
【0037】
図5ないし図7に示す加速度センサの製造方法について図8を用いて説明する。
図8(a)に示すように、第1シリコン基板30の表面30aに凹部40を形成する。この凹部40を、図2で説明したものと同様の製造方法により形成する。これにより凹部40の側壁41の開口側縁部40aから底面40bの途中まで凹部40の幅寸法を広げる方向へ後退する後退領域42を形成できる(図7参照)。
【0038】
次に図8(b)の工程では、第1シリコン基板30の表面30aを熱酸化して、酸化絶縁層32(SiO2層)を形成する。これにより、凹部40の側壁41から底面40bにかけても酸化絶縁層32が形成される。このとき、凹部40の後退領域42上に形成される部分の酸化絶縁層32の表面には、前記後退領域42に倣って後退領域が形成される。図1では、第2シリコン基板20側に酸化絶縁層21を形成したが、この実施形態では、第1シリコン基板30側に酸化絶縁層32を形成している。
【0039】
次に、図8(c)に示す工程では、第1シリコン基板30の表面と第2シリコン基板31の表面を常温接合する。このとき、凹部40は、第1シリコン基板30と第2シリコン基板31に囲まれた閉鎖空間になる。そして接合強度を上げるべく熱処理を施す。
【0040】
本実施形態では、凹部40の側壁41の接合面側縁部(開口側縁部)40a側に後退領域42を形成し、またそれに倣って酸化絶縁層32にも後退領域が形成されるので、酸化絶縁層32の接合面側縁部32a付近(図8(c)参照)に加わる剥離応力を分散でき、最大剥離応力を低減することが可能になる。
【0041】
続いて、図8(d)に示す工程では、ディープRIE(Deep RIE)を用いて、第2シリコン基板31に、可動部35、固定部33,34、アンカ部37,38,39,43さらには枠体層36を形成する。このとき、可動部35及び固定部33,34を、第1シリコン基板30に形成された凹部40と対向する位置に形成する。
【0042】
次に図8(e)の工程では、各アンカ部37,38,39,43及び枠体層36と第1シリコン基板30間の酸化絶縁層32を残して、その他の酸化絶縁層32を、ウエットエッチングやドライエッチングによる等方性エッチング工程にて除去する。
【0043】
ただし、可動部35と第1シリコン基板30との間に可動部35の移動空間を凹部40により十分な大きさで確保できれば、図8(e)の工程で酸化絶縁層32を除去しなくてもよい。すなわち図8(e)の工程を施さず、図8(d)の工程で完了することも出来る。
【0044】
図9は別の実施形態におけるMEMSセンサの製造方法を示す縦断面図である。
まず図9(a)に示す工程では、第1シリコン基板45の図示下側を向く表面45aに、エッチング加工により複数の凹部46を形成する。凹部46,46間に挟まれる凸部はスティッキング防止部55である。
【0045】
図9(a)の工程では図2と同様の製造方法を用いて凹部46をエッチングにて形成する。これにより図10に示すように、凹部46の側壁47には、開口側縁部46aから底面46bの途中まで、凹部46の幅寸法を広げる方向に後退する後退領域48が形成される。
【0046】
次に図9(b)の工程では、第1シリコン基板45の表面を熱酸化して、酸化絶縁層49を形成する。このとき、凹部46の後退領域48上に形成される部分の酸化絶縁層49の表面には、前記後退領域48に倣って後退領域が形成される。
【0047】
次に、図9(c)に示す工程では、第1シリコン基板45の表面と第2シリコン基板50の表面とを常温接合する。このとき図9(c)に示すように、凹部46は、第1シリコン基板45と第2シリコン基板50に囲まれた閉鎖空間となる。そして第1シリコン基板45と第2シリコン基板50間の接合強度を高めるべく熱処理を施す。本実施形態では、凹部46の側壁47の接合面側縁部(開口側縁部)46a側に後退領域48を形成し、またそれに倣って酸化絶縁層49にも後退領域が形成されるので、酸化絶縁層49の接合面側縁部49a付近(図9(c)参照)に加わる剥離応力を分散でき、最大剥離応力を低減することが可能になる。
【0048】
また図9(c)の工程では、第1シリコン基板45の上面を所定厚となるまで研削する。
【0049】
続いて、図9(d)に示す工程では、ディープRIE(Deep RIE)を用いて、第1シリコン基板45を、センサ部51を構成する可動部52と固定部53とに分離加工する。またこの実施形態ではセンサ部51の周囲にある第1シリコン基板45を枠体54として残している。
【0050】
続いて、図9(d)の工程では、センサ部51と第2シリコン基板50間にある酸化絶縁層49を、ウエットエッチングやドライエッチングによる等方性エッチング工程にて除去する。図9(d)では除去される酸化絶縁層3を点線で示している。
【0051】
このとき可動部52及び固定部53の下面52a,53aに図10に示す凸形状のスティッキング防止部55が残される。
【0052】
本実施形態のMEMSセンサの製造方法は加速度センサ以外の物理量センサ全般に適用可能である。
【実施例】
【0053】
図1に示す第1シリコン基板と第2シリコン基板の間に形成された閉鎖空間としての凹部に加わる内部応力を理想気体の状態方程式(PV=nRT)により求めた。
【0054】
図11のグラフは、常温(25℃時)での凹部11の体積と凹部11の内部応力との関係、1000℃に熱処理したときの凹部11の体積と凹部11の内部応力との関係である。
【0055】
凹部11の体積Vの変化により気体の物質量nも変化し、凹部11の体積変化によっても温度一定であれば凹部の内部応力に変化はない。
【0056】
ここで、温度を上昇させると、閉鎖空間としての凹部の内部応力は上昇するが、図11に示すように、1000℃の熱処理を施しても内部圧力はせいぜい約0.4MPa程度までしか上昇しない。
【0057】
その一方で、次のシミュレーション実験に示すように、第1シリコン基板と第2シリコン基板とを接合して形成された閉鎖空間には、局所的に強い剥離応力が作用する。
【0058】
実験では、図12に示す形状のMEMSセンサを想定し、Siのヤング率を130GPa、ポアソン比を0.28、SiO2のヤング率を72GPa、ポアソン比を0.25とし、さらに、初期圧力を101300(N/m2)とし、初期温度を25℃とし、気体定数を8.31(J/(K・mol))とし、熱処理温度を1000℃とした。また凹部の奥行き長さを250μmとした。
【0059】
実験では、凹部の側壁に図4に示したR部を設け、このR部の曲率半径を0.00μ、0.25μm、0.5μm、0.75μm及び0.9μmとしたときに、凹部の開口側縁部付近に加わる剥離応力の分布を求めた。図13に応力分布が図示されている。図13(a)は、R部の曲率半径を0.00μm(すなわちR部を形成していない)としたときの応力分布、図13(b)は、R部の曲率半径を0.50μmとしたときの応力分布、図13(c)は、R部の曲率半径を0.90μmとしたときの応力分布である。図13(a)に示すように凹部の側壁にR部を形成していない従来例では、凹部の接合面側縁部(開口側縁部)の角部付近に非常に強い剥離応力が作用することがわかった。
【0060】
一方、図13(b)(c)に示すように凹部の側壁の接合面側縁部(開口側縁部)側にR部を形成すると、剥離応力が分散し、最大剥離応力が弱まることがわかった。
【0061】
図14は、R部の曲率半径と、最大剥離応力との関係を示すグラフである。図14に示すように、R部を設けることで、最大剥離応力を低減でき、さらにR部の曲率半径を大きくすることで、より効果的に最大剥離応力を低減できることがわかった。
【符号の説明】
【0062】
10、30、45 第1シリコン基板
11、40、46 凹部
11a、40a、46a 開口側縁部(接合面側縁部)
13 マスク
14、41、47 側壁
14a、42、48 後退領域
20、31、50 第2シリコン基板
21、32、49 酸化絶縁層
25 R部
33、34、53 固定部
35、52 可動部
36 枠体層
37、38、39、43 アンカ部
55 スティッキング防止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 第1基板の表面側に有底の凹部を形成し、このとき、前記凹部の側壁に、開口側縁部から前記凹部の底面方向に向けて前記凹部の幅寸法を広げる方向へ後退する後退領域を設ける工程、
(b) 第1基板の表面、あるいは前記第2基板の表面の少なくとも一方に酸化絶縁層を形成する工程、
(c) 前記第1基板の表面と前記第2基板の表面とを接合し、前記凹部を閉鎖空間とした状態で、熱処理を施す工程、
を有することを特徴とするMEMSセンサの製造方法。
【請求項2】
前記(a)工程にて、前記開口側縁部から底面方向の途中位置まで前記凹部の幅寸法が徐々に広がる前記後退領域を形成する請求項1記載のMEMSセンサの製造方法。
【請求項3】
前記(c)工程の次に、
(d) 前記第1基板に形成した前記凹部の位置に、前記第1基板あるいは前記第2基板の一方を加工して、可動部と固定部とに分離されたセンサ部を形成する工程、
を有する請求項1又は2に記載のMEMSセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−245461(P2010−245461A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95377(P2009−95377)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】