説明

PCBの処理法および装置

【課題】猛毒なダイオキシン類の発生を抑制するために、PCBを一重項酸素などの活性酸素種を含んだ電子化空気によって、200℃前後の低温でガス化させることにより安全に処置できる構造と操作が簡単な処理法および処理装置を提供する。
【解決手段】攪拌機2と流動媒体を内装する反応器1にPCBトを供給し、放電針と電磁誘導コイルの組み合わせによって構成される空気の電子化装置9から発生する電子化空気ロに水蒸気ニを混合して200℃前後に加熱した活性空気ホを作り、それを反応器に吹き込んで、加熱された活性空気の酸化力によってPCBを加水分解して脱塩素化を図り、その加水分解物(ガス状物質)を800℃以上の高温度で焼却してダイオキシン類の発生が抑制されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCBの処理法およびその処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフエニル)は、化学合成された有機塩素化合物の一種である。一般式はC12HnCL(10−n)(0≦n≦9)で表され、置換塩素数と位置により計算上209種の異性体が存在し、略してPCB(ピーシービー)と呼ばれる。PCBは、熱に対して安定で、電気絶縁性が高く、耐薬品性に優れているため、加熱や冷却用熱媒体、変電機やコンデンサーといった電気機器の絶縁油、可塑剤、塗料、ノンカーボン紙の溶剤などに幅広く用いられていた。しかし、1968年に起きたカネミ油症事件を機にPCBの毒性が社会問題となり、1973年に制定された「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」により製造、輸入、使用が原則として禁止された。また、平成3年の廃棄物処理法の改正で、PCB廃棄物は「特別管理産業廃棄物」として厳格に管理することが義務付けられた。したがって、PCB廃棄物は有害な特定産業廃棄物として厳重に保管されているが、日本各所で保管されているPCB廃棄物は膨大な量となり、その処理対策を図ることが急務とされている。
【0003】
PCBは、油状の物質である。熱で分解され難く、水に溶けず、不燃性で化学的に安定な性質を有することから、化学物性としては安定した物質である。しかし、PCBを石油や油脂などのように通常の燃焼炉で焼却処理することが出来ない。それは、PCBがダイオキシン類の一種であり、それを燃焼させると猛毒なダイオキシン類が発生して蔓延被害をもたらす危険性があるためである。そのような背景から日本では長い間、PCBを含む廃棄物の処理基準や施設は公的に定められないままであったが、1990年代以降に安全な処理法が検討された結果、処理法の多様化が認められ、2000年代に入ると商業的な処理技術の立証を視野に入れた処理が実験的に行なわれるようになった。
【0004】
それらの方法は、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、還元熱化学分解法、プラズマ分解法、光分解法などである。何れも、PCBの分子を構成している塩素をアルカリ剤で処理したり、超臨界水で加水分解したり、高温で熱分解したり、プラズマで分解したり、紫外線で分解する脱塩素分解法によるものである(引用文献1)。
【0005】
引用文献1:出典フリー百科事典『ウイキペデイア(Wikipedia)』ポリ塩化ビフエニル
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それらの従来の方法は、有機塩素化合物である塩素を脱塩素化するためのもので、その脱塩素化のために高温・高圧、光化学反応、プラズマ照射など操作的に難しい処理方法を駆使して行なわれ、それらの反応を掌る反応器は、高温、高圧、強酸、強アルカリ、高電圧など過酷な条件に耐えられる構造と材質が必要であり、反応操作も難しいものであった。そこで、本発明はPCBの分解を高温、高圧で行なわず、酸やアルカリを使わず、200℃前後の低い温度域で処理することができて、その結果として操作が易しく、鉄板やステンレス板などの安価な材料によって製作できる簡易な装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その課題を解決するために、200℃前後の低温でPCBを加水分解できる方法と装置を開発した。その方法は、PCBを低い温度で分解する化学反応物質として一重項酸素などの活性酸素種を含む空気を用いて加水分解するものである。
【0008】
本発明者は、既に本発明の基本技術となる空気中の酸素分子を電磁的に励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を発生させるための空気の電子化装置(参考資料1)を考案している。
【0009】
参考資料1:実用新案登録証 登録第3133388号公報
【0010】
この電子化装置は、高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻き付け、そのコイルの中心部に空気を流し込むことで空気中の酸素分子を電磁的に励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を発生させる空気の電子化装置である。
【0011】
一重項酸素などの活性酸素種は極めて酸化力が強いことが知られている(参考文献1)。
【0012】
参考文献1:活性酸素(P13〜P25) 中野 稔他 共立出版 1988年
【0013】
活性酸素種は、老化や過酸化脂質を伴う血管障害などの病気発生をもたらす極めて酸化力が強いものとして知られているが、様々な有機物を酸化分解する作用も注目されている。そこで、本発明者は活性酸素種の高エネルギー的に作用するラジカル反応がPCBの脱塩素化に活用できるのではないかと考えた。すなわち、空気の電子化装置により作り出されるラジカルな活性酸素種によってPCBを炭化水素と塩化水素などに分解するものである。その独創により、本発明者は本発明者が考案した空気の電子化装置がPCBの脱塩素化に活用できるのと考えた。そこで、本発明者が考案した空気の電子化装置を用いて、該電子化装置から発生する電子化空気をPCBに吹き付けたところ、200℃前後で分解して、ガス化されることが分った。
【0014】
周知のごとく、熱に対して安定で、化学的にも安定なPCBは200℃程度の温度では分解しない。それを熱で分解させるためには、350℃以上に加熱しなければならない。特に、燃焼させるためには600℃以上の燃焼温度が必要であり、燃焼ガス中にダイオキシンが含まれない状態にするためには800℃以上の高温度が必要である(参考文献2)。
【0015】
参考文献2:流動床式焼却炉におけるダイオキシン類の生成に関する研究、 日本機械学会論文集B編(2001)、Vol67、No664、平岡正勝、吉原福全、西脇一宇ほか
【0016】
すなわち、熱的に安定なPCBを熱分解し、脱塩素化するためには、高温・高圧下での超臨界処理、アルカリ処理、光化学反応、プラズマ照射反応などによらなければならず、その反応装置は高温・高圧、高濃なアルカリ剤、光化学反応、プラズマ照射に耐えられる特殊な金属によって施工される必要であった。しかし、本発明により200℃前後の低い温度でPCBを脱塩素化し、酸化分解することができれば、熱間圧延された厚さ2mmから6mm程度の軟鋼板(鉄板)やステンレス板などで反応装置が作られる。
【0017】
本発明は、鉄板などで筒型の密閉容器を作って反応器とし、反応器内部に流動媒体を入れ、その流動媒体を攪拌するための攪拌機を取り付け、反応器の底部に多孔板を被せた箱型の炉床器を取り付け、本発明者が考案した電子化装置から供給される電子化空気と水蒸気発生器から供給される水蒸気が炉床器内部で混合され、そして加熱され、その加熱された混合気(活性空気)が多孔板から反応器に供給される構造にした反応装置である。
【0018】
該反応装置において、反応器に流動媒体を攪拌しながら、それに処理すべき液状のPCBを滴下すると、反応器の多孔板から供給される200℃前後に加熱された活性空気によりPCBが加水分解されてガス化する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反応器の中にPCBを入れることで200℃前後に加熱された活性空気(電子化空気と水蒸気の混合気)により難分解性のPCBを加水分解することができる。そのPCBを加水分解する方法は、一重項酸素などの活性酸素種によってPCBの分子結合(共有結合)を切り離すものである。一重項酸素は、酸素分子に紫外線や磁力線を照射すると発生するが、その一重項酸素に遊離電子が加わるとスーパーオキシド(・O)になり、スーパーオキシドに水素イオンが加わると過酸化水素(H)になって、ヒドロキシルラジカル(HO)が生成されることが知られている(資料1)。
【0020】
資料1:活性酸素種、一重項酸素による環境浄化、呉地域オープンカレッジネットワーク会議、地域活性化研究報告書(2004)、広島大学大学院圏科学研究科・生物生産部、目瀬友一朗、年徳優一、藤村彩子、小野 歩ほか
【0021】
スーパーオキシド(・O)やヒドロキシルラジカル(HO)は酸化力が極めて強い活性酸素種である。その酸化力は、酸素電子のエネルギー準位が高いために起こるラジカル反応で、PCBの結合形体である炭素と炭素の共有結合(C−C、C=C、C≡C)、炭素と水素の共有結合(C−H)、炭素と塩素の共有結合(C−cl)が低い温度で解離されるのが特徴である。
【0022】
本発明の方法で、難分解性のPCBが分解されるのは、空気の電子化装置によって作り出される電子化空気の強い酸化力によるものである。特に、スーパーオキシド(・O)が含まれる電子化空気に水蒸気を混合すると酸化力が極めて強いヒドロキシルラジカル(HO)が生成されるが、本発明ではその仕組みを意図的に作り出しており、反応装置で産生されるヒドロキシルラジカル(HO)になって難分解性のPCBが分解されると想定している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1および図2は、本発明の実施形態を示す概要図である。
【0024】
図1において、軟鋼板(鉄板)やステンレス板で筒状に製作した反応器1に攪拌羽根3が固定されている攪拌機2を取り付ける。そして、反応器1の底部に多孔板4で被われた炉床器7を取り付ける。さらに、送風機8から供給される空気(イ)が電子化装置9を通って電子化空気(ロ)になったものを炉床器7へ導入し、蒸気発生器10から供給される水蒸気(ニ)が炉床器7の内部で混合し、炉床器7の内部にヒーター6を取り付け、その混合気が200℃前後に加温されて活性空気(ホ)となって多孔板4から反応器1に吹き上げられる構造にする。
【0025】
反応器1の内部に流動媒体5を充填し、その流動媒体を攪拌機2で攪拌しながら貯留槽13に貯えられるPCB(ト)をポンプ14で反応器1に定量的に滴下させると処理すべきPCBが流動媒体5に吸収される構造にする。
【0026】
電子化装置9には、非電導性の材料で作られた放電管18に放電針16と対面極17が固定されている。その放電管18の先端に電磁コイル20を巻き付けた空芯ボビン19を接続して一体化する。そして、放電針16と対面極22に高電圧電源装置21を接続し、電磁コイル20に電流電源装置22を接続する。
【0027】
この電子化装置9の形態において放電針16に数万ボルトの高電圧を掛け、電磁コイル20に数アンペアの電流を流して空気(イ)を送入すると、その空気の流れに乗じて放電針16から放射される自由電子が空芯ボビン19の中を通過する過程で電磁コイル20から発生する磁界に曝され、空芯ボビン19の中心部を空気流に沿って直進する磁力線の作用を受けて、その電磁誘導で激しくスピンする状態となり、空気中の酸素分子を電磁的に励起させて一重項酸素などの活性酸素種を含んだ電子化空気(ロ)が発生する。
【0028】
この電子化装置9によって活性酸素種を発生させるためには放電針16に対して空気流を激しく吹き付ける必要があるが、この電子化装置では送風機8から供給される空気(イ)の流れをもって、それを達成させている。
【0029】
電子化装置9から発生する活性酸素種は大量の自由電子を含んだ一重項酸素であるが、導管に永久磁石を取り付けて発生させられる一重項酸素種とは異なったものである。永久磁石によって励起される空気は俗に磁化空気と称されるもので、非ラジカルな酸素分子である。すなわち、分子の電子構造から見ると、空気中の基底状態の酸素分子は三重項酸素分子であり、磁力線によって酸素分子の最外軌道電子が不対電子(1)(Σ)から対電子

性酸素の酸化力は、非ラジカル状態の磁化空気よりも酸化力が強いものである(資料2)。
【0030】
資料2:酸素原子と酸素分子の電子構造、引用文献:酸素電子構造(平成15年)
(http//members.jcom.home.ne.jp/chiekamada/sansodensikozoh.htm)
【0031】
本発明では、さらに電子化空気に水蒸気を付加させている。その目的は、スーパーオキシド(O・−)に水素イオン(水蒸気)を付加させて過酸化水素(H)様の活性酸素を作り出すものである。その過酸化水素は、鉄などの重金属イオンの作用を受けると活性酸素種の中で最も酸化力が強いとされているヒドロキシルラジカル(HO)が生成される。本発明では、PCBを吸収させるために流動媒体5を反応器1へ充填するが、その流動媒体に酸化第1鉄を混合することでヒドロキシルラジカル(HO)が産生されるよう工夫している。
【0032】
一般に、化学反応を伴う反応装置では、耐蝕性を考慮してステンレス板を使用するが、反応器1の材質は鉄製でもよい。本発明の利点として熱延鋼や冷延鋼(鉄板)を使用することができる。PCBを加水分解すると塩化水素が発生するので、通常は塩化水素の腐蝕性を考慮してチタン、タンタルなどの耐蝕性金属を使用する。しかし、本発明によると塩化水素の腐蝕性が軽減される。その理由は不明だが、実際に200℃前後の反応解操作で数ヶ月間の運転に耐えられることを経験している。また、反応器1の形状は円筒形、角形でもよく、横型や縦型構造であってもよい。
【0033】
多孔板4は、反応器1に充填されている流動媒体5を保持して、炉床器から供給される活性空気(ホ)が反応器1の底部から全域に拡散して吹き上がる役割を果たすものである。その形状は、活性空気(ホ)の噴気と流動媒体5が支えられる構造であれば、どのような形状でもよい。また、多孔板4に開けられる穴の大きさ、形状、数、材質などは規定されない。
【0034】
流動媒体5は珪酸質の粘土を造粒して焼結した多孔質のセラミックボールを使用するとよい。その種類や粒径は限定されない。
【0035】
反応器1の温度調整は、反応器に温度指示調節器を取り付けて、その温度指示によってヒーター6を作動させる温度調節機能を設けるとよい。
【0036】
反応器内部の温度低下を防ぐために、保温材12を施工する。その保温材の種類や厚さは限定されない。
【0037】
本発明の目的は、化学的に安定なPCBを200℃前後の低い温度で加水分解して、PCBを脱塩素化し、ガス化することである。本発明により、PCBは活性酸素種の強い酸化力を受けてPCBの骨格構造である六環構造のベンゼン核が2分子結合したポリ塩化ビフエニル構造は破壊されて、炭酸ガスとメタン、エタン、エチレン、メタノール、エタノール、アルデヒド、ケトン、塩化水素などのガス状物質になる。その結果、ダイオキシンの構造が破壊されて、ダイオキシン含有量が低減する。処理すべきPCBの種類と濃度によるが、1000μgI−TEQ程度までは処理される。そのため、ガス化されたPCBの処理物を直接大気中へ放出することはできない。それを無害化するためには、燃焼装置などによって後処理することが必要となる。
【0038】
有機体の塩素化合物や低濃度のダイオキシン含有物質は、焼却によって無害化することができる。ダイオキシンの発生メカニズムは多くの研究者によって研究されている。その研究結果によると、多量の塩素が含有される塩化ビニールなどであっても完全燃焼すればダイオキシン類は生成されない(参考文献3)。
【0039】
参考文献3: 産業廃棄物の焼却に伴うダイオキシン類の発生挙動解明と抑制技術に関する研究(国立環境研究所年報[平成13年度])、安原昭夫、橋本俊次、中宮邦近
【0040】
国が定めるダイオキシン類対策特別措置法では、焼却炉を設置する事業者の届出義務と排出基準の遵守が課せられている。その法律では、廃棄物を処理する焼却炉の排出ガス中のダイオキシン類は焼却炉の能力により定められており、その能力が4トン/時以上の場合は0.1ng−TEQ/Nm、2トン/時以上から4トン/時未満の場合は1ng−TEQ/Nm、2トン/時未満では5ng−TEQ/Nmとなっている。
【0041】
先の文献(参考文献2)によれば、ダイオキシン類の発生は焼却炉の不完全燃焼が主因であり、廃棄物中の塩素含有量には依存しないとされている。例え、廃棄物中の塩素(cl)含有量が0.04%であっても、一酸化炭素(CO)ピークが頻発する燃焼状態ではダイオキシン類が生成され、cl含有量が2%であってもCOの発生を抑制することでダイオキシン類の生成も抑制されるとしている。特に、過剰空気で燃焼される完全燃焼と800℃以上の高温燃焼ではダイオキシン類は生成されないとされている。そのような技術的背景から、国の定めた焼却炉の適正運転条件は、温度800℃以上、燃焼滞留時間2秒以上、空気との十分な混合(空気過剰率λ:2以上)、そして、焼却後の燃焼ガスを200℃以下に急冷すること、焼却によって排出される飛灰をバグフイルターなどで捕集することが行政指導の指針となっている。
【0042】
そのような状況を踏まえると、PCBを分解した後に発生するガス化物質を後処理する方法は、800℃以上の燃焼温度を維持しながら二次燃焼させる方法となる。本特許は、PCBの分解とガス化を目的としているので、その後処理については特定の方法に限定されないが、その一例として図3にその処理法を示す。
【0043】
図3において、電熱ヒーター26と白金触媒27と二次燃焼器28から構成された燃焼器本体25を設ける。これに、反応器1で処理されたPCBの分解ガス(ヌ)を導入して800℃以上の燃焼温度と燃焼滞留時間2秒以上を維持しながら燃焼させる。ついで、燃焼ガス(ル)をエジェクター29に導いて、洗浄ポンプ31から噴射される洗浄溶液(タ)によって急冷して洗浄する。洗浄塔30には燃焼ガス(ル)を化学洗浄するための薬剤(レ)と水(カ)が補給される。化学洗浄のための薬剤(レ)は、主に燃焼ガス(ル)中に含まれる塩化水素(Hcl)を中和する苛性ソーダー(NaOH)を使用する。さらに、洗浄塔30で処理された洗浄ガス(オ)を集塵器33へ導いて内設されるバグフイルター34で洗浄ガス(オ)中に含まれる粉塵を捕取する。そして、その処理ガスを排気(ワ)として排気塔35から大気中へ排出する。
「実施形態の効果」
【0044】
この実施形態によれば、反応器1へ滴下したPCBは電子化空気(ロ)と水蒸気(ニ)の混合で作られる活性空気(ホ)の強い酸化力により加水分解されてガス状の反応ガス(ヘ)になる。この反応は、200℃前後に温められた活性空気(ホ)によって流動媒体5が温められ、そこへポンプ15からPCBが滴下されると、滴下されたPCBが流動媒体15に吸収された状態となり、加温された活性空気(ホ)と接触することにより第1鉄イオンの存在下でフエントン反応を起こして、PCBのビフェニル基と塩素(cl)との結合が破壊されて、遊離の炭化水素、二酸化炭素、塩化水素(Hcl)などに分解されるものである。
【0045】
本発明による第1の効果は、200℃前後の低い温度でPCBが分解できることである。400℃以下の温度では分解されなかったPCBが200℃前後の低い温度で炭酸ガス、炭化水素、塩化水素に加水分解させられると、その分解により猛毒なPCBの化学構造を破壊して毒性を低減させることができる。そして、加水分解されたガス状の物質を800℃以上の高温度で焼却し、その焼却ガスを水で冷却し、洗浄して、さらにバグフイルターで集塵処理すると、燃焼ガス中に含まれるダイオキシン類の濃度は国が定める廃棄物焼却炉の大気基準値まで低減させることができ、大気放出が可能となる。
【0046】
本発明のもう一つの効果は、200℃前後の低い温度で操作できる本発明では、反応器1などを鉄板などの加工しやすい安価な材料で製作できる。そのことにより、従来の高温、高圧、耐薬品性などを考慮して作られる高価な装置に比べて製作コストが安くなり、この種の装置の普及の妨げになっていた製作コストの低減化を図ることができる。
【0047】
PCBの加水分解で生成される反応ガス(ヘ)には、数百PPMの塩化水素が含まれる。このような反応ガスは腐蝕性が強いので、鉄製の鋼板では使用に耐えられないが、塩化ビニール廃材を処理した半年間の実証試験に耐えた実績がある。腐蝕されなかった理由は定かでないが、実際に耐えられたという事実があることから、その要因を推測すると、大量の電子を含んだ電子化空気によってもたらされる強い還元作用によるものか、反応により生成されるタール状物質が鉄板の表面を被うので、そのコーティング作用によってもたらされる防蝕効果ではないかと予想している。
「他の実施形態」
【0048】
本発明は、図1の実施形態で示されるとおり、本発明者が既に考案した実用新案登録証登録第3133388号の空気の電子化装置を使用するものである。しかし、自由電子が含まれる電子化空気、一重項酸素、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルなどの酸化力が強い活性酸素種を発生させる機能をもった装置であれば本発明と同様の形態と機能を作り出すことができる。そのような機能を持った電子化装置を該発明の電子化装置9に換えて実施形態にしてもよい。その場合は、反応器1に取り付けられる多孔板4から噴気される活性空気(ホ)が200℃前後に加熱されるよう電熱ヒーターなどの加熱装置を取り付けることが必要である。
【0049】
本発明による装置は、反応器1の内部に攪拌機2を取り付けるが、その攪拌機2の攪拌羽根3の構造は図1に示すような平板構造ではなく、スクリュー型、パドル型、棒型などの流動媒体5が掻き混ぜられる構造であれば、どのような形でもよい。また、ロータリードラムのような反応器1が回転する構造でもよく、反復運動する型式でもよい。
【0050】
反応器1に滴下するPCBが液状ではなく、小型コンデンサー(電気部品)などの有形なものであってもよい。その場合は、有形物を破砕するか、有形物を有姿のまま反応器1へ投入してもよい。有姿のまま残る処理物を反応器1から系外へ取り出すためには、反応器1の側面に取出口を設けるとよい。
【0051】
反応を促進させるために、PCB以外の有機物(プラスチック破砕物、木材破砕物など)を反応器1へ投入してもよい。また、同類の塩素化合物であるポリ塩化ビニール(PVC)などを投入して同時に処理することも可能である。さらに、ポリウレタン(PU)、ポリカーボネイト(PC)、ペンタクロロフェニール(PCP)、ポリビニリデンクロライド(PVDC)、塩ビモノマー(VCM)などの他の有機塩素化合物の分解処理にも適用できる。
【実施例】
【0052】
図1および図3に示す構造の試験装置により資料1の条件でPCBを処理したところ、資料2のような結果が得られた(資料3および資料4)。
【0053】
資料3: 試験装置の作動条件
【0054】
資料4: ダイオキシン類分析結果
【0055】
この試験では、管理と処理が法的に厳しく規制されているPCBを単独で処理することができなかったので、PCBが絶縁油として使われている古い電解用コンデンサーを収集し、それを有姿のままPVCの破砕物に混ぜて処理した。その効果を確認するために、試験に先駈けて反応器へ仕込んだ資材の一部を小量採取して、試験用の電気炉で焼成(650℃)したところ、黒い煙が発生したので、その煙を採取して煙中に含まれるダイオキシン量を測定(JIS K 0311−1999)したところ、測定限界値(1万ng−TEQ/Nm)を超えていた。それを本発明の方法で処理したところ、燃焼器15の排気塔35から排気される排気(ワ)を分析結果のとおり、ダイオキシン類は大気基準値の新設施設基準(0.1ng−TEQ/Nm)以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
PCBおよびPCBを含む廃棄物は、国が対策法を決定するまでの間、使用者が安全に保管するよう義務付けられている。しばらくの間、PCBを含む廃棄物の処理や処理基準は公に定められないままであったが、19年前に安全な対策法について検討された結果、処理方法の多様化が認められ、商業的な処理技術の立証化を目指して実験的に処理が行なわれるようになり、今日を迎えている。本発明は、そのような公的状況を踏まえて懸案したもので、価格的に安価でハンディーな装置の普及を目指して開発したものである。このことは、PCBの保管と移動、処理に多額な費用が掛っている現状を大きく改善するもので、特に廃棄物処理の大原則である発生者による発生者対策が具現化できる一つの方法であると判断している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】 本発明の一実施形態を示す概要図である。
【図2】 空気の電子化装置の形態を示す構造図である。
【図3】 本発明の後処理に使用する反応ガスの焼却装置を示す概要図である。
【符号の説明】
【0058】
1 反応器
2 攪拌機
3 攪拌羽根
4 多孔板
5 流動媒体
6 ヒーター
7 炉床器
8 送風機
9 電子化装置
10 蒸気発生器
11 駆動機
12 保温材
13 貯留槽
14 ポンプ
15 燃焼器
16 放電針
17 対面極
18 放電管
19 空芯ボビン
20 電磁コイル
21 高圧電源装置
22 電流電源装置
23 吸気管
24 送気管
25 燃焼器本体
26 電熱ヒーター
27 白金触媒
28 二次燃焼器
29 エジェクター
30 洗浄塔
31 洗浄ポンプ
32 送風ブロワー
33 集塵器
34 バグフイルター
35 排気塔
イ 空気
ロ 電子化空気
ハ 水
ニ 水蒸気
ホ 活性空気
ヘ 反応ガス
ト PCB
チ 反応ガス
リ 排気ガス
ヌ 分解ガス
ル 燃焼ガス
オ 洗浄ガス
ワ 排気
カ 給水
ヨ 洗浄水
タ 洗浄溶液
レ 薬剤
ソ 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化酸素種を含む電子化空気によりPCBを200℃前後の低い温度で分解して脱塩素化する方法において、流動媒体と攪拌機を内装する反応器と、空気に自由電子を照射して電子化空気を作るための電子化装置と、電子化空気に水蒸気を混合して活性空気を作る炉床器と、活性空気を200℃前後に昇温するヒーターと、PCBを貯留して反応器へ供給するポンプとを備えていることを特徴とするPCBのガス化装置。
【請求項2】
請求項1によるPCBのガス化装置において、反応器に流動媒体を充填し、それに鉄または鉄化合物を加えて攪拌しながら、電子化装置から供給される電子化空気に水蒸気を加えて200℃前後に加温して活性空気をつくり、その活性空気を反応器に吹き込んで、反応器に投じられるPCBを加水分解してガス化することを特徴とするPCBの処理方法。
【請求項3】
請求項2によるPCBの処理において、ガス化したPCBの分解物を800℃以上の高温度で焼却し、その焼却ガスを水で急冷して水洗浄し、その洗浄ガスをバグフイルターで脱塵処理することによって排気中のダイオキシン類の濃度を国が定める廃棄物焼却炉の大気基準値まで低減させられることを特徴とするPCBの処理方法。
【請求項4】
請求項1および請求項2および請求項3の処理により塩素含有有機物をガス化して、焼却するなどして無害化されることを特徴とする塩素含有有機物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−223569(P2010−223569A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98454(P2009−98454)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(598132211)有限会社公郷生命工学研究所 (1)
【出願人】(509106120)
【Fターム(参考)】