説明

アイドリングストップ制御装置

【課題】従来よりもアイドリングストップの時間帯を長くして一層燃費を向上するとともに、エンジンの自動始動による車両発進時の安全性を向上したアイドリングストップ制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンにクラッチを介して変速機を連結し、エンジンを自動停止および自動始動するアイドリングストップ制御装置であって、始動条件は、クラッチが断状態とされ、かつブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなることを必要条件として含み、自動停止中にブレーキ操作部材の操作量に関わらず所定の制動力を発生して保持する手段(S29)と、自動停止中に始動条件が成立したか否かを判定する手段(S21〜S28)と、始動条件が成立するとエンジンを自動始動する手段(S30)と、ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから所定の保持時間が経過すると所定の制動力を解除する手段(S34、S36)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が一時停止するときにエンジンのアイドリング自動停止および自動始動を制御するアイドリングストップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行中の車両が赤信号などで一時停止するときにエンジンのアイドリングを自動停止し、発進時にエンジンを自動始動するアイドリングストップ機能が広まりつつある。この機能により、アイドリングを停止した分だけ燃費が向上し、二酸化炭素排出量の削減による環境保護や排気ガスおよび騒音の削減による歩行者や近隣への配慮などの効果も生じる。アイドリングストップ機能では、運転者の意図を早く正確に察知し、意図に従ってエンジンを制御することが重要である。この種のアイドリングストップ機能を行う制御装置の一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1のエンジンの自動停止始動制御装置は、自動停止条件および自動始動条件に従ってエンジンを制御する。自動停止条件は、車速が零を含まない設定値以下で、かつアイドルスイッチがオンで、かつ変速機のギヤポジションがニュートラルであることとされている。また、自動始動条件は、クラッチが解放状態に変化し、または変速機のギヤポジションがニュートラル以外であり、またはアイドルスイッチがオフであり、またはブースタ負圧であることとされている。これにより、運転者の意思を反映した違和感のない自動停止および自動始動制御が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−188480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、自動停止条件に、変速機がニュートラルである条件が含まれている。仮に変速機が走行レンジに入っていてクラッチが係合状態にあると、エンジンから駆動輪までが連結されて回転体の慣性が大きくなり、スタータによる自動始動ができなくなるからである。このため、運転者が走行レンジのままでクラッチペダルおよびブレーキペダルを踏み込んで車両を一時停止させると、アイドリングストップ機能が作動しない。
【0006】
また、特許文献1では、自動始動条件に、クラッチが解放状態に変化する条件と、変速機がニュートラル以外である条件が含まれている。このため、クラッチペダルの踏み込み操作あるいは変速機の走行レンジへのシフト操作でエンジンが自動始動するが、ブレーキペダルが解放されて車両が発進するまでには或る時間を要する。つまり、或る時間に相当する分だけ無駄な燃料を消費してしまうことになる。
【0007】
一方、アイドリングストップ機能では、エンジンを自動始動したときの車両の急発進(飛び出し)やエンジン停止(エンスト)を回避し、また、登坂路発進時の車両の後退(ずりさがり)を防止して高い安全性を確保することも非常に重要である。
【0008】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、従来よりもアイドリングストップの時間帯を長くして一層燃費を向上するとともに、エンジンの自動始動による車両発進時の安全性を向上したアイドリングストップ制御装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する請求項1に係るアイドリングストップ制御装置の発明は、車両に搭載されたエンジンにクラッチを介して係脱可能に変速機を連結し、前記エンジンのアイドリング中に所定の停止条件が成立すると前記エンジンを自動停止し、前記エンジンの自動停止中に所定の始動条件が成立すると前記エンジンを自動始動するアイドリングストップ制御装置であって、前記始動条件は、前記クラッチが断状態とされ、かつブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなることを必要条件として含み、自動停止中に前記ブレーキ操作部材の操作量に関わらず所定の制動力を発生して保持する制動力保持手段と、自動停止中に前記始動条件が成立したか否かを判定する始動判定手段と、前記始動条件が成立すると前記エンジンを自動始動する自動始動手段と、前記ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから所定の保持時間が経過すると前記所定の制動力を解除する制動力解除手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから前記保持時間よりも短い所定の許容時間が経過する以前に前記クラッチが前記断状態から係合を開始するミート状態に向けて操作されると、前記始動条件が成立していても前記エンジンの始動を禁止する始動禁止手段を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2において、前記ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから前記許容時間が経過しかつ前記保持時間が経過する以前に前記クラッチが前記断状態から前記ミート状態まで操作されると、直ちに前記所定の制動力を解除する発進許容手段を有することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記停止条件は、前記車両の走行速度が所定の速度以下あるいは前記エンジンの回転数が所定の回転数以下であることを必要条件として含み、前記車両の走行中に前記停止条件が成立したか否かを判定する停止判定手段と、前記停止条件が成立すると前記エンジンを自動停止する自動停止手段と、前記エンジンの自動停止後に前記走行速度がゼロになると前記所定の制動力を発生する停止時制動力発生手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係るアイドリングストップ制御装置の発明では、始動条件としてブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなることを必要条件としているので、運転者の発進の意図を確実に察知してエンジンを自動始動できる。したがって、できるだけ長くエンジンを自動停止しておいて発進の直前にエンジンを自動始動でき、従来よりも燃費が向上する。また、始動条件としてクラッチの断状態を必要条件としているので、変速機から駆動輪に至る回転体をエンジンから切り離した状態として、エンジンを自動始動する。したがって、スタータによる始動が確実に行えてエンストを回避できる。さらに、ブレーキ操作部材の操作量に関わらず所定の制動力を発生して所定の保持時間にわたり保持するので、運転者が意図しない車両の急発進を回避できる。
【0014】
請求項2に係る発明では、ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから許容時間が経過する以前にクラッチがミート状態まで操作されると、始動条件が成立していてもエンジンの始動を禁止する。つまり、運転者がブレーキ操作部材の解放後にクラッチの係合操作を急ぎ過ぎた場合には、エンジンの始動を禁止する。これにより、クラッチ係合状態でのエンジン始動のおそれがなくなり、急発進やエンストを回避できる。
【0015】
請求項3に係る発明では、ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから許容時間が経過しかつ保持時間が経過する以前にクラッチがミート状態まで操作されると、直ちに所定の制動力を解除する。これにより、エンジンが自動始動した後に運転者が意図するタイミングで車両を発進でき、従来よりも燃費が向上する。また、発進の直前にクラッチがミート状態になるまで制動力が作用するので、登坂路発進時の車両のずりさがりを防止できる。
【0016】
請求項4に係る発明では、停止条件として車両の走行速度が所定の速度以下あるいはエンジンの回転数が所定の回転数以下であることを必要条件としており、車両が停止していなくともエンジンを自動停止できる。したがって、従来よりも燃費が向上する。また、車両の走行速度がゼロになると、ブレーキ操作部材の操作量に関わらず所定の制動力を発生するので、一時停止時のずりさがりを確実に防止でき、また、いつエンジンを自動始動しても車両の飛び出しを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両に装備された実施形態のアイドリングストップ制御装置の機能構成をパワートレインの構成とともに説明する図である。
【図2】アイドリングストップ制御装置によるエンジン自動停止の制御フローチャートを示す図である。
【図3】アイドリングストップ制御装置によるエンジン自動始動の制御フローチャートを示す図である。
【図4】アイドリングストップ制御装置によりエンジンを自動停止したタイムチャートの例を模式的に示す図である。
【図5】アイドリングストップ制御装置によりエンジンを自動始動したタイムチャートで通常の操作時の例を示している。
【図6】アイドリングストップ制御装置によりエンジンを自動始動したタイムチャートでクラッチのミート状態への操作が遅れた例を示している。
【図7】アイドリングストップ制御装置によりエンジンを自動始動するときのタイムチャートでクラッチの早すぎる操作により自動始動できなかった例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態のアイドリングストップ制御装置1について、図1〜図7を参考にして説明する。図1は、車両に装備された実施形態のアイドリングストップ制御装置1の機能構成をパワートレインの構成とともに説明する図である。図1において、矢印は、計測値や指令などの制御の流れを示している。図示されるように、車両のパワートレインは、エンジン91、クラッチ92、変速機93、などで構成されている。エンジン91には、始動電動機からなるスタータ915が設けられている。クラッチ92は、エンジン91に変速機93を係脱可能に連結している。変速機93の出力軸は、図略の車軸を介して駆動輪に連結されている。
【0019】
エンジン91への混合気の供給量を操作するためにアクセルペダル911が設けられ、アクセルペダル911の踏み込み操作量を検出するアクセル開度センサ912が設けられている。また、クラッチ92を操作するためにクラッチペダル921が設けられ、クラッチペダル921の踏み込み操作量を検出するクラッチペダルストロークセンサ922が設けられている。クラッチ92は、運転者がクラッチペダル921を踏み込むと断状態になり、踏み込み操作量が減少すると係合が始まるミート状態になり、踏み込み操作量が無くなると完全な係合状態になる従来タイプのものである。また、変速機93は、運転者がシフトレバーを操作して前進走行段DやリバースR、ニュートラルNなどの設定ポジションを変更する手動変速機である。変速機93には、シフトレバーの設定ポジションを検出するシフトポジションセンサ932が設けられている。
【0020】
一方、車両には各車輪に制動力を付与するブレーキシステム94が装備されている。ブレーキシステム94には、作動油のブレーキ圧を用いて各車輪に制動力を付与する従来のシステムを用いることができる。ブレーキシステム94を駆動するためのブレーキ操作部材としてブレーキペダル941が設けられ、ブレーキペダル941の踏み込み操作量を検出するブレーキスイッチ942が設けられている。また、ブレーキシステム94は、ブレーキペダル941から独立して作動するブレーキ圧発生手段945を内蔵している。ブレーキ圧発生手段945は、ブレーキペダル941の踏み込み操作量に関わらず所定の制動力を発生できるようになっている。ブレーキ圧発生手段945には、例えば、電動式油ポンプやアキュームレータタンクを用いることができる。
【0021】
アイドリングストップ制御装置1は、車両状態検出手段2、エンジン制御手段3、およびブレーキ制御手段4を有している。この3手段2、3、4は、適宜電子制御装置(ECU)およびセンサを組み合わせて構成することができる。
【0022】
車両状態検出手段2は、エンジン91の作動状態および回転数を検出するエンジン状態検出手段21およびエンジン回転数検出手段22と、車両の走行速度(車速)を検出する車速検出手段23とを有している。さらに、車両状態検出手段2は、アクセル開度センサ912からアクセルペダル911の踏み込み操作量を信号として受け取る。同様に、車両状態検出手段2は、クラッチペダルストロークセンサ922からクラッチペダル921の踏み込み操作量、シフトポジションセンサ932から変速機93のシフトレバーの設定ポジション、ブレーキスイッチ942からブレーキペダル941の踏み込み操作量をそれぞれ信号として受け取る。
【0023】
エンジン制御手段3は、車両状態検出手段2からエンジン91の作動状態および回転数と車両の走行速度の情報を受け取り、また、各ペダル911、921、941の踏み込み操作量および変速機93のシフトレバーの設定ポジションの情報を受け取る。そして、エンジン制御手段3は、受け取った情報に基づいてエンジン91を自動停止する停止条件および自動始動する始動条件が成立しているか否かを判定する。さらに、エンジン制御手段3は、判定結果に基づき必要に応じて自動停止および自動始動の制御信号をエンジン91およびスタータ915に送信する。エンジン91およびスタータ915は、受信した制御信号にしたがい自動停止および自動始動を実施する。
【0024】
ブレーキ制御手段4は、エンジン制御手段3と同様に車両状態検出手段2から各情報を受け取る。そして、ブレーキ制御手段4は、受け取った情報に基づいて必要な制動力を判断し、制御信号をブレーキシステム94に送信する。ブレーキシステム94は、受信した制御信号にしたがい必要な制動力を発生して車輪に付与する。なお、ブレーキ制御手段4により全制動力を制御する構成としてもよく、あるいは、ブレーキ制御手段4による制御とブレーキペダル941から直接ブレーキシステム94を駆動して制動力の一部を発生させる制御とを併用する構成としてもよい。
【0025】
次に、アイドリングストップ制御装置1が有する各機能手段について、フローチャートを参考にして説明する。図2はアイドリングストップ制御装置1によるエンジン91自動停止の制御フローチャートを示す図であり、図3はアイドリングストップ制御装置1によるエンジン91自動始動の制御フローチャートを示す図である。
【0026】
図2のエンジン自動停止におけるステップS1で、エンジン91が作動中であることを前提条件とする。つまり、アイドリングストップでなく運転者の操作によりエンジン91が停止された場合、アイドリングストップ制御装置1は機能しない。エンジン91が作動中のとき、アイドリングストップ制御装置1は、ステップS2で車両の走行速度すなわち車速Vが所定速度V0以下であるか判定する。所定速度V0は、エンジン91がアイドリング状態で維持する回転数に対応する速度と同一に設定する。車速Vの条件が成立すると、ステップS3でアクセルペダル911の解放、ステップS4でブレーキペダル942の踏み込みの条件が判定され、これらの条件が成立するとステップS5に進む。
【0027】
ステップS5で、クラッチペダル921の踏み込みの有無、すなわちクラッチ92の断接状態を判定し、断状態でステップS6に進み、係合状態でステップS7に進む。ステップ6で変速機93のシフトレバーの設定ポジションSPを確認し、設定ポジションSPがリバースR(後進変速段R)以外である場合に、ステップS8に進んでエンジン91を自動停止する。また、ステップ7で変速機93のシフトレバーの設定ポジションSPを確認し、設定ポジションSPがニュートラルNである場合に、ステップS8に進んでエンジン91を自動停止する。
【0028】
ステップS2〜S7の間で、いずれかの条件が成立しない場合は全てステップS1に戻る。ステップS2〜S7は停止判定手段に相当し、ステップS8は自動停止手段に相当する。ここで、ステップS2で車両の走行速度(車速V)が所定速度V0以下であることが、エンジン91の自動停止の必要条件となっている。なお、ステップS6で、クラッチ92が断状態でシフトレバーの設定ポジションSPがリバースR(後進変速段R)である場合は、車庫入れ時の切り換え操作などが推定されるので、煩雑さを避けるためエンジン91の自動停止は行わない。また、ステップS7で、クラッチ92が係合状態でシフトレバーの設定ポジションSPがニュートラルN以外の場合は、再加速などの運転者の意図が推定されるので、やはりエンジン91の自動停止は行わない。
【0029】
ステップS8でエンジン91を自動停止した後、ステップS9で車速Vがゼロになるのを待つ。車速Vがゼロになると、ステップS10で、ブレーキ協調制御により所定の制動力を発生する。つまり、ブレーキペダル941の踏み込み操作量に関わらず、ブレーキ圧発生手段945を駆動制御して所定の制動力を発生させる。ステップS9およびS10は停止時制動力発生手段に相当する。
【0030】
図3のエンジン自動始動のフローチャートにおけるステップS21で、まず車速Vを確認する。車速VがゼロでないときステップS22に進んで、車速発生中のエンジン91始動を従来の方法により行う。このようなケースは、例えば、信号が赤で一時停止しようとしたときに信号が青に変わって再加速する場合に発生し、図2ではステップS9の時点で発生する。車速Vがゼロである条件が成立すると、ステップS23でアクセルペダル911の解放の条件が判定され、この条件が成立するとステップS24に進み、成立しないとステップS21に戻る。ステップS24で、変速機93のシフトレバーの設定ポジションSPがニュートラルNでない場合に運転者の発進の意図が推定されるのでステップS25に進み、ニュートラルNである場合にステップS21に戻る。また、次のステップS25でシフトレバーの設定ポジションSPがリバースRである場合はステップS26で直ちにエンジン91を始動する。なぜなら、リバースRに切り替えた時点で発進の意思ありとみなせるからである。
【0031】
ステップS25でシフトレバーの設定ポジションSPが前進走行段Dなどの場合は、ステップS27でクラッチペダル921の踏み込みの有無、すなわちクラッチ92の断接状態を判定し、断状態でステップS28に進み、係合状態でステップS21に戻る。ステップS28では、ブレーキペダル942の踏み込み操作量が減少しているか判定され、条件が成立するとステップS29に進み、成立しないとステップS21に戻る。ステップS29では、所定のブレーキ圧を保持していることを確認し、不足している場合にはブレーキ圧発生手段945を駆動制御して所定の制動力を発生させる。通常、所定のブレーキ圧は、図2のエンジン自動停止におけるステップS10で発生し保持されている。続くステップS30で、スタータ919によりエンジン91を自動始動する。
【0032】
ここで、ステップS27およびS28の条件が成立しない場合はステップS1に戻る。つまり、クラッチ92の断状態とブレーキペダル941の操作量の減少とが、エンジン91を自動始動する必要条件となっている。ステップS21〜S28は始動判定手段に相当し、ステップS29および図2のステップS10は制動力保持手段に相当し、ステップS30は自動始動手段に相当する。
【0033】
ステップS30でエンジン91を自動始動した後、ステップS31で許容時間B以内にクラッチペダル921が解放方向に操作され、クラッチ92が断状態からミート状態に向けて操作されるか否かを判定する。許容時間Bは、ステップS28におけるブレーキペダル942の踏み込み操作量の減少開始を基準時刻とし、エンジン91の始動遅れを考慮して、クラッチ92が係合を開始するミート状態よりも先にエンジン91が始動を終えるように設定する。許容時間B以内にクラッチペダル921の解放操作が開始されたときはステップS32に進んでスタータ919を停止し、ステップS33でエンジン91を停止する。この後、ステップS21に戻って、再度エンジンの自動始動を行う。このようなケースは、例えば、運転者がブレーキペダル941の解放(ステップS28)後にクラッチペダル921の解放操作(クラッチ92の係合操作)を急ぎ過ぎた場合に発生する。ステップS32およびS33は始動禁止手段に相当する。
【0034】
ステップS31で許容時間B以内にクラッチペダル921が操作されなかったときは、ステップS34に進んでクラッチ92のミート状態への操作を待ち、ミート状態になるとステップ36に進んで直ちに所定のブレーキ圧を解除する。これにより車両は発進する。このように、クラッチ92のミート状態を待ってブレーキ圧を解除することにより、車両の飛び出しやずりさがりを防止できる。ステップS34およびS36は発進許容手段に相当する。
【0035】
また、ステップS34でミート状態を待つ間、ステップS35で経過時間を計時し、保持時間Aに達した時点でステップ36に進んで所定のブレーキ圧を解除する。これにより、いつでも発進できる状態となり、運転者がクラッチ92を係合させると車両は発進する。保持時間Aは、ステップS28におけるブレーキペダル942の踏み込み操作量の減少開始を基準時刻とし、通常の操作でクラッチ92がミート状態に達する所要時間よりも長めに設定する。
【0036】
次に、実施形態のアイドリングストップ制御装置1の動作、作用、および効果について例示説明する。図4は、アイドリングストップ制御装置1によりエンジンを自動停止したタイムチャートの例を模式的に示す図である。図5は、アイドリングストップ制御装置1によりエンジンを自動始動したタイムチャートで通常の操作時の例を示している。また、図6は、アイドリングストップ制御装置1によりエンジンを自動始動したタイムチャートでクラッチ92のミート状態への操作が遅れた例を示している。さらに、図7は、アイドリングストップ制御装置1によりエンジンを自動始動するときのタイムチャートでクラッチ92の早すぎる操作により自動始動できなかった例を示している。図4〜図7でそれぞれ、横軸は共通の時間軸tである。
【0037】
図4のタイムチャートに示されるグラフは、上側から順番に車速V、アクセルペダル911の操作量、ブレーキペダル941の操作量、ブレーキシステム94内のブレーキ圧、クラッチペダル921の操作量、変速機93のシフトレバーの設定ポジション、およびエンジン91の作動状態をそれぞれ示している。図示される例では、時刻t0でシフトレバーは前進走行段Dでエンジンの作動中にアクセルペダルが踏みこまれて走行しており、車速Vが徐々に減少している。時刻t1でアクセルペダル911が解放され、時刻t2でブレーキペダル941が踏み込まれてブレーキ圧が発生し、時刻t2で同時にクラッチペダルが踏み込まれている。そして、時刻t3で、車速Vが所定速度V0まで低下する。このとき、アイドリングストップ制御装置1は、図2のステップS1〜S6までの全ての条件が満たされているので、エンジン91を自動停止する。
【0038】
この後、各ペダル911、921、941は操作されず、時刻t4で車速Vがゼロになると、同時にブレーキ協調制御が開始される。つまり、時刻t4に到達すると、アイドリングストップ制御装置1は、ブレーキ圧発生手段945を駆動制御して所定の制動力を発生させる。
【0039】
本実施形態によれば、車速Vが所定速度V0以下になった時点でエンジン91を自動停止できる。したがって、車両停止後にエンジンを自動停止する従来装置よりも燃費が向上する。また、車速Vがゼロになると所定の制動力を発生するので、一時停止時のずりさがりを確実に防止でき、また、いつエンジン91を自動始動しても車両の飛び出しを回避できる。
【0040】
図5の通常の操作による自動始動のタイムチャートに示されるグラフは、上側から順番にブレーキペダル941の操作量、ブレーキシステム94内のブレーキ圧、クラッチペダル921の操作量、およびエンジン91の作動状態をそれぞれ示している。なお、図6および図7においても、図5と同じ項目のグラフが示されている。図5に示される例では、時刻t10でブレーキペダル941は踏み込まれており、これに関わらず所定のブレーキ圧が発生しており、クラッチペダル921が踏み込まれてクラッチ92が断状態で、エンジン91が自動停止し、車速Vもゼロになっている。また、図示されていないシフトレバーの設定ポジションSPは前進走行段Dに設定されている。
【0041】
そして、時刻t11で運転者がブレーキペダル941を開放すると、図3のステップS21からステップS28までの全ての条件が満たされているのでステップ29に到達する。さらに、図5に示されるように、ブレーキ圧が発生しているのでエンジン91を自動始動する。なお、時刻t11以降ではブレーキペダル941は解放されているが、ブレーキ圧はブレーキ圧発生手段945を駆動制御して発生させたものであるため、解除されない。この後、許容時間Bを経過(時刻t13)し保持時間Aが経過(時刻t15)する以前の時刻t14でブラッチペダル921が操作されてクラッチ92がミート状態まで操作されると、ブレーキ圧が解除されて車両が発進する。
【0042】
本実施形態では、ブレーキペダル941の操作量が減少する直前までエンジンを自動停止しておいて発進の直前にエンジンを自動始動できる。これに対して、特許文献1では変速機93のシフトレバーが走行変速段Dに設定されたタイミングでエンジンが自動始動される。したがって、本実施形態によれば、シフトレバーを走行変速段Dに設定してからブレーキペダル941を解放するまでの間アイドリングを省略することができ、従来よりも燃費が向上する。また、ブレーキペダル941の操作量に関わらず所定の制動力を発生して所定の保持時間Aにわたり保持するので、運転者が意図しない車両の急発進を回避できる。さらに、発進の直前にクラッチ92がミート状態になるまで制動力が作用するので、登坂路発進時の車両のずりさがりを防止できる。
【0043】
また、図6のタイムチャートに示されるグラフは、図5と比較してクラッチ92のミート状態への操作が遅れた例である。図6では、時刻t11でブレーキペダル941が開放されたのち保持時間Aを経過した時刻t15でブレーキ圧が解除され、その後の時刻t16でブラッチペダル921が操作されてクラッチ92がミート状態まで操作されている。このように、クラッチ92の操作が遅れても、エンジン91の自動始動に引き続いて、車両を発進できる。
【0044】
さらに、図7のタイムチャートに示されるグラフは、図5と比較してクラッチ92のミート状態への操作が早すぎた例である。図7では、時刻t11でブレーキペダル941が開放されたのち許容時間Bを経過する以前の時刻t12で、クラッチペダル921の解放操作(すなわちクラッチ92のミート状態に向けての操作)が開始されたため、エンジン91の始動が禁止されている。したがって、クラッチ92の係合状態でのエンジン91始動のおそれがなくなり、急発進やエンストを回避できる。なお、この場合、保持時間Aを経過した時刻t15でブレーキ圧を解除せずに、次回のエンジン91の自動始動を実施する。
【0045】
なお、実施形態において保持時間Aおよび許容時間Bは、ブレーキペダル942の踏み込み操作量の減少開始を基準時刻としているが、特定操作位置の通過タイミングを基準時刻としてもよい。また、エンジン91の自動停止および自動始動の条件として、実施形態で説明した以外に様々な必要条件を組み合わせることができる。その他、本発明は様々な応用、変形が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1:アイドリングストップ制御装置
2:車両状態検出手段
21:エンジン状態検出手段 22:エンジン回転数検出手段
23:車速検出手段
3:エンジン制御手段
4:ブレーキ制御手段
91:エンジン 915:スタータ
92:クラッチ 93:変速機
94:ブレーキシステム 945:ブレーキ圧発生手段
SP:シフトレバーの設定ポジション
D:前進走行段 R:リバース(後進変速段) N:ニュートラル
A:保持時間 B:許容時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンにクラッチを介して係脱可能に変速機を連結し、前記エンジンのアイドリング中に所定の停止条件が成立すると前記エンジンを自動停止し、前記エンジンの自動停止中に所定の始動条件が成立すると前記エンジンを自動始動するアイドリングストップ制御装置であって、
前記始動条件は、前記クラッチが断状態とされ、かつブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなることを必要条件として含み、
自動停止中に前記ブレーキ操作部材の操作量に関わらず所定の制動力を発生して保持する制動力保持手段と、
自動停止中に前記始動条件が成立したか否かを判定する始動判定手段と、
前記始動条件が成立すると前記エンジンを自動始動する自動始動手段と、
前記ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから所定の保持時間が経過すると前記所定の制動力を解除する制動力解除手段と、
を有することを特徴とするアイドリングストップ制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから前記保持時間よりも短い所定の許容時間が経過する以前に前記クラッチが前記断状態から係合を開始するミート状態に向けて操作されると、前記始動条件が成立していても前記エンジンの始動を禁止する始動禁止手段を有することを特徴とするアイドリングストップ制御装置。
【請求項3】
請求項2において、前記ブレーキ操作部材の操作量が減少しあるいは無くなったときから前記許容時間が経過しかつ前記保持時間が経過する以前に前記クラッチが前記断状態から前記ミート状態まで操作されると、直ちに前記所定の制動力を解除する発進許容手段を有することを特徴とするアイドリングストップ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、
前記停止条件は、前記車両の走行速度が所定の速度以下あるいは前記エンジンの回転数が所定の回転数以下であることを必要条件として含み、
前記車両の走行中に前記停止条件が成立したか否かを判定する停止判定手段と、
前記停止条件が成立すると前記エンジンを自動停止する自動停止手段と、
前記エンジンの自動停止後に前記走行速度がゼロになると前記所定の制動力を発生する停止時制動力発生手段と、
を有することを特徴とするアイドリングストップ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−92775(P2012−92775A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242296(P2010−242296)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】