説明

エポキシ系樹脂組成物、エポキシ樹脂系接着剤組成物、フレキシブルプリント回路基板用カバーレイ、フレキシブルプリント回路基板用銅張積層板、フレキシブルプリント回路基板、プリプレグ、銅張積層板、感光性ドライフィルム、感光性液状レジスト、プリント配線板

【課題】 エポキシ系樹脂からなる各種電子材料において、マイグレーションの発生を抑制する。
【解決手段】 エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有することを特徴とするエポキシ系樹脂組成物を用いる。ジカルボン酸の含有量は、エポキシ系樹脂組成物中の固形分の総量を1として、10〜50000ppmの範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ系樹脂組成物、エポキシ樹脂系接着剤組成物、フレキシブルプリント回路基板用カバーレイ、フレキシブルプリント回路基板用銅張積層板、フレキシブルプリント回路基板、プリプレグ、銅張積層板、感光性ドライフィルム、感光性液状レジスト、プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高密度化に伴い、フレキシブルプリント回路基板(FPC基板。FPC=flexible printed circuit)上に形成される銅回路パターンの高精細化が進み、回路間隔が非常に狭くなってきている。また、FPC基板が用いられた製品の使用環境に対する要求も厳しくなり、高温、高湿下での信頼性も要求されている。
通常、FPC基板は、ポリイミド等の絶縁性樹脂からなり可撓性を有する絶縁層が銅箔に積層されてなる銅張積層板(CCL=copper−clad laminate)を材料として用い、銅張積層板の銅箔をエッチングして回路パターンを形成し、その上に、可撓性を有するカバーレイ(CL=cover lay)を接着して回路パターンを覆うことにより製造されている。ここで、銅張積層板は、ポリイミド等からなるベースフィルムに銅箔を接着剤で接着するか、銅箔の片面にポリイミドワニスを塗布して乾燥する等の方法により製造されている。また、カバーレイとしては、ポリイミド等からなる絶縁フィルムの片面に接着剤層を設けたものが多用されている。すなわち、FPC基板においては、銅張積層板側の銅回路間の銅箔除去面にカバーレイ側の接着剤が入り込み、該接着剤によって銅回路間が絶縁された構造となっている。
【0003】
カバーレイの接着に使用される接着剤としては、従来から種々のものが提案されており、例えば、エポキシ系樹脂にアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を添加してなるエポキシ系樹脂/NBR接着剤組成物、エポキシ系樹脂にアクリル系エラストマを添加してなるエポキシ系樹脂/アクリル系エラストマ接着剤組成物などのエポキシ系接着剤が使用されている。とりわけ、分子構造中にカルボキシ基を有するカルボキシ化NBRを含有するエポキシ系接着剤は、接着強度、耐熱性、絶縁性などの特性のバランスがとれた良好な接着剤となるため、一般的に使用されるようになっている。
ところで、NBRを用いたエポキシ系接着剤は、マイグレーション特性が悪いことが知られていたが、回路基板における回路間隔が比較的広い場合には、実用上問題がなかった。しかし、近年の急速な高精細化に伴う回路間隔の狭ピッチ化(ピッチが100μm以下)により、マイグレーションは大きな問題となっている。ここで、マイグレーションとは、回路基板に電圧を印加した状態において、配線の銅が接着剤中をプラス側からマイナス側に移行して、そこで銅が樹木状析出物(デンドライト)として析出することにより、回路間の絶縁抵抗が著しく低下してしまう現象のことをいう。さらに、マイグレーションは高温、高湿下で促進されるので、使用環境の過酷化によっても、マイグレーション特性は大きな問題となる。
【0004】
マイグレーションの問題を解決するため、例えば下記の技術が提案されている。
(1) 接着剤塗膜の凝集力を高めることにより、マイグレーションを抑制しようというもの(例えば特許文献1、2参照)。
(2) Na、K、Clなどのイオン性不純物が少ないラジカル重合により合成されたアクリル系エラストマを用いることにより、マイグレーションを抑制しようというもの(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2679316号公報
【特許文献2】特許第1985201号公報
【特許文献3】特開平7−235767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記(1)、(2)の方法はともに、アクリル系エラストマを用いているため、接着強度が低くなる傾向にある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、マイグレーションの発生を抑制することが可能なエポキシ系樹脂組成物、エポキシ樹脂系接着剤組成物、フレキシブルプリント回路基板用カバーレイ、フレキシブルプリント回路基板用銅張積層板、フレキシブルプリント回路基板、プリプレグ、銅張積層板、感光性ドライフィルム、感光性液状レジスト、プリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有することを特徴とするエポキシ系樹脂組成物を提供する。
上記エポキシ系樹脂組成物において、前記ジカルボン酸の含有量は、エポキシ系樹脂組成物中の固形分の総量を1として、10〜50000ppmの範囲内が好ましい。
【0008】
また、本発明は、エポキシ系樹脂と、エラストマと、硬化剤と、ジカルボン酸を含有することを特徴とするエポキシ樹脂系接着剤組成物を提供する。
上記エポキシ樹脂系接着剤組成物においては、前記エラストマがカルボキシ化されたエラストマであることが好ましい。とりわけ、前記エラストマがカルボキシ化アクリロニトリル―ブタジエンゴムであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、絶縁フィルムの片面に接着剤層を設けてなるフレキシブルプリント回路基板用カバーレイにおいて、前記接着剤層を構成する接着剤組成物が、エポキシ系樹脂と、エラストマと、硬化剤と、ジカルボン酸を含有するものであることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板用カバーレイを提供する。
また、本発明は、ベースフィルムと銅箔との間に接着剤層を設けてなるフレキシブルプリント回路基板用銅張積層板において、前記接着剤層を構成する接着剤組成物が、エポキシ系樹脂と、エラストマと、硬化剤と、ジカルボン酸を含有するものであることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板用銅張積層板を提供する。
また、本発明は、上述のフレキシブルプリント回路基板用カバーレイが、絶縁層上に形成された銅箔からなる回路を被覆してなることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板を提供する。
【0010】
また、本発明は、エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物が含浸されたガラスクロスからなることを特徴とするプリプレグを提供する。
また、本発明は、エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物が含浸されたガラスクロスを複数枚積層してなる積層板を基材とすることを特徴とする銅張積層板を提供する。
また、本発明は、エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物から得られることを特徴とする感光性ドライフィルムを提供する。
また、本発明は、上述の感光性ドライフィルムでオーバーコートされたことを特徴とするプリント配線板を提供する。
また、本発明は、エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物から得られることを特徴とする感光性液状レジストを提供する。
また、本発明は、上述の感光性液状レジストでオーバーコートされたことを特徴とするプリント配線板を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエポキシ系樹脂組成物によれば、ジカルボン酸を含有するので、デンドライトの形成による回路間の絶縁抵抗の低下、すなわちマイグレーションを抑えることができる。
本発明のエポキシ樹脂系接着剤組成物によれば、ジカルボン酸を含有するので、デンドライトの形成による回路間の絶縁抵抗の低下、すなわちマイグレーションを抑えることができる。優れたマイグレーション特性を備えるので、接着剤が銅と接触するような条件で使用される接着剤組成物として好適である。
本発明のフレキシブルプリント回路基板用カバーレイによれば、ジカルボン酸を含有する接着剤組成物からなる接着剤層によって銅回路間が絶縁保護されるので、マイグレーション特性の優れたフレキシブルプリント回路基板を得ることができる。
本発明のフレキシブルプリント回路基板用銅張積層板によれば、ジカルボン酸を含有する接着剤組成物からなる接着剤層によってベースフィルムと銅回路とが接着されているので、マイグレーション特性の優れたフレキシブルプリント回路基板を得ることができる。
【0012】
本発明のプリプレグによれば、ジカルボン酸を含有するエポキシ系樹脂組成物が含浸されているので、マイグレーション特性の優れたプリント配線板を得ることができる。
本発明の銅張積層板によれば、ジカルボン酸を含有するエポキシ系樹脂組成物が含浸されているので、マイグレーション特性の優れたプリント配線板を得ることができる。
本発明の感光性ドライフィルムによれば、ジカルボン酸を含有するエポキシ系樹脂組成物から得られるので、マイグレーション特性の優れたプリント配線板を得ることができる。
本発明の感光性液状レジストによれば、ジカルボン酸を含有するエポキシ系樹脂組成物から得られるので、マイグレーション特性の優れたプリント配線板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明のエポキシ系樹脂組成物の実施形態について説明する。
本発明のエポキシ系樹脂組成物に用いられるエポキシ系樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、アクリル酸変性エポキシ樹脂(エポキシアクリレート)、リン含有エポキシ樹脂、およびこれらのハロゲン化物(臭素化エポキシ樹脂など)や水素添加物などが挙げられる。これらのエポキシ系樹脂は、1種類を単独で用いても良いし、または複数種類を適宜の配合比で組み合わせて使用しても良い。臭素化エポキシ樹脂などは、接着剤に難燃性が要求される場合に、特に有効である。
アクリル酸変性エポキシ樹脂(エポキシアクリレート)は、感光性を有するので、エポキシ系樹脂組成物に光硬化性を付与するために有効である。
【0014】
本発明のエポキシ系樹脂組成物は、上記エポキシ系樹脂を主成分として(少なくとも50質量%以上)含有するものが好ましいが、エポキシ系樹脂組成物の特性を著しく損なわない範囲で、エポキシ系樹脂以外の熱硬化性樹脂やエラストマなどを配合することもできる。他の熱硬化性樹脂を併用する場合、他の熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂と架橋するノボラック型フェノール樹脂、ビニルフェノール樹脂、臭素化ビニルフェノール等が挙げられる。
【0015】
本発明のエポキシ系樹脂組成物においては、ジカルボン酸が添加される。ジカルボン酸とは、分子内にカルボキシ基を2個有する化合物である。本発明におけるジカルボン酸は、置換又は無置換のジカルボン酸でよく、また、飽和又は不飽和のジカルボン酸でよい。本発明に利用可能なジカルボン酸の代表的なものとしては、コハク酸、マロン酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸などが挙げられる。
本発明のエポキシ系樹脂組成物は、ジカルボン酸を含有するので、デンドライトの形成を抑制し、マイグレーション特性に優れたものとなる。ジカルボン酸がマイグレーションを抑制する機構は明らかではないが、本発明者は、電子回路を構成する金属のイオン(例えばCu2+やNi2+などの二価金属イオン)をキレート形成によって捕捉する作用や、カルボン酸の酸性による電子回路の金属表面を改質する作用などを推測している。
前記ジカルボン酸の含有量は、エポキシ系樹脂組成物中の固形分の総量を1として、10〜50000ppmの範囲内であることが好ましい。これにより、ジカルボン酸によるマイグレーションの抑制効果を高く発揮することができる。ジカルボン酸の含有量が過多であると、金属(CuやNi等)が溶解されてしまい、かえってマイグレーションを促進するおそれがあるので、好ましくない。
【0016】
本発明において、エポキシ系樹脂組成物に添加されるジカルボン酸は、カルボキシ基間の鎖長(炭素原子の数)が0〜2の範囲内であるものが好ましい。なお、上記具体例におけるカルボキシ基間の鎖長は、シュウ酸の場合は0、マロン酸の場合は1、コハク酸、酒石酸、マレイン酸の場合は2である。
また、ジカルボン酸がアミノ基や置換アミノ基を含む場合、アミノ基や置換アミノ基の塩基性のためにカルボン酸の反応性が影響を受けるおそれがあるため、アミノ基も置換アミノ基も含まないジカルボン酸が好ましい。
また、エポキシ系樹脂への分散性が良いジカルボン酸が好ましく、この点では、分子内の炭素原子数が2〜6の範囲である脂肪族のジカルボン酸が好ましい。
【0017】
さらに、本発明のエポキシ系樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の任意成分を配合することができる。本発明のエポキシ系樹脂組成物に添加され得る任意成分としては、例えばエラストマ、充填剤、難燃剤、その他が挙げられる。
エラストマとしては、エポキシ樹脂中に分散するものであれば特に制限はないが、アクリロニトリル―ブタジエンゴム(NBR)やアクリルゴム(AER)などが挙げられる。特に、これらをカルボキシ化したエラストマが好ましく、とりわけ、カルボキシ化アクリロニトリル―ブタジエンゴム(カルボキシ化NBR)が好ましい。カルボキシ化NBRの例としては、日本ゼオン社製のニポール1072やニポールFN3703、バイエル社製のテルバンXTなど(以上、いずれも商品名)が挙げられる。
充填剤としては、例えばシリカ、マイカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウムなどが挙げられる。難燃剤としては、一般に知られているものは特に制限なく使用できるが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモンなどの無機系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤、無機臭素系難燃剤、有機臭素系難燃剤、有機塩素系難燃剤等が挙げられる。
その他の添加剤としては、シランカップリング剤やイミダゾール等が挙げられる。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂系接着剤組成物(以下、これを単に「本発明の接着剤組成物」という場合がある。)は、熱硬化性ベースポリマー(A)と、エラストマ(B)と、硬化剤(C)と、ジカルボン酸とを必須成分として含有するエポキシ系樹脂組成物である。
【0019】
本発明の接着剤組成物は、第1の必須成分として、熱硬化性ベースポリマー(A)を含有する。この熱硬化性ベースポリマー(A)としては、例えばエポキシ系樹脂やアクリル樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。特に、エポキシ系樹脂が好ましい。熱硬化性ベースポリマー(A)に用いられるエポキシ系樹脂としては、上述したように、本発明のエポキシ系樹脂組成物に使用可能なエポキシ系樹脂を特に制限なく用いることができる。
【0020】
熱硬化性ベースポリマー(A)としては、上記エポキシ系樹脂を主成分として(少なくとも50質量%以上)含有するものが好ましいが、接着剤組成物の特性を著しく損なわない範囲で、エポキシ系樹脂以外の熱硬化性樹脂などを配合することもできる。他の熱硬化性樹脂を併用する場合、他の熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂と架橋するノボラック型フェノール樹脂、ビニルフェノール樹脂、臭素化ビニルフェノール等が挙げられる。
【0021】
本発明の接着剤組成物は、第2の必須成分として、エラストマ(B)を含有する。エラストマ(B)は、接着剤組成物に柔軟性を付与するため添加されるものであり、エポキシ樹脂中に分散するものであれば特に制限はないが、アクリロニトリル―ブタジエンゴム(NBR)やアクリルゴム(AER)などが挙げられる。特に、これらをカルボキシ化したエラストマが好ましく、とりわけ、カルボキシ化アクリロニトリル―ブタジエンゴム(カルボキシ化NBR)が好ましい。カルボキシ化NBRの例としては、日本ゼオン社製のニポール1072やニポールFN3703、バイエル社製のテルバンXTなど(以上、いずれも商品名)が挙げられる。
本発明の接着剤組成物中のエラストマ(B)の添加量は、特に限定されるものではないが、熱硬化性ベースポリマー(A)100質量部に対して20〜100質量部の範囲内が好ましい。エラストマ(B)の配合量が上記の範囲内であることにより、優れたマイグレーション特性が得られるとともに、接着強度も充分強いものとなる。
【0022】
本発明の接着剤組成物は、第3の必須の成分として、硬化剤(C)を含有する。硬化剤(C)としては、熱硬化性ベースポリマー(A)中のエポキシ系樹脂の硬化に用い得るものであれば、特に制限なく使用することが可能であるが、例えば、脂肪族アミン、脂環式アミン、第2級アミン、第3級アミン、イミダゾール、酸無水物、フェノール樹脂などが例示される。なお、フェノール樹脂は、熱硬化性ベースポリマー(A)と硬化剤(C)とを兼ねる成分として用いることができる。
硬化剤(C)は、1種類を単独で用いても良いし、または複数種類を適宜の配合比で組み合わせて使用しても良い。硬化剤の種類や配合量などは、通常の使用範囲内において、成形条件や特性などに応じて選択される。
【0023】
さらに、本発明の接着剤組成物には、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の任意成分を配合することができる。本発明の接着剤組成物に添加され得る任意成分としては、例えば充填剤、難燃剤、その他が挙げられる。
充填剤としては、例えばシリカ、マイカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウムなどが挙げられる。難燃剤としては、一般に知られているものは特に制限なく使用できるが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモンなどの無機系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤、無機臭素系難燃剤、有機臭素系難燃剤、有機塩素系難燃剤等が挙げられる。
その他の添加剤としては、回路との接着力を向上させるために、シランカップリング剤やイミダゾール等が挙げられる。
【0024】
本発明の接着剤組成物を対象物に塗布して接着剤層を形成するには、この接着剤組成物に有機溶剤(D)を加えて接着剤溶液とし、得られた接着剤溶液を対象物に塗布し、乾燥させる。これにより、この接着剤組成物を硬化してなる接着層が形成される。
接着剤溶液の調製に用いられる有機溶剤(D)としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、トリクロロエチレンなどが挙げられる。接着剤溶液中の固形分濃度は、好ましくは5〜70質量%の範囲内であり、より好ましくは、10〜50質量%の範囲内である。接着剤溶液の固形分濃度が5質量%未満では、塗工むら(接着剤層厚さのばらつき)が発生しやすくなる。一方、70質量%を超えると、粘度が上昇し、また、固形分と有機溶剤との相溶性低下によって塗布性が劣化するおそれがある。
【0025】
本発明の接着剤組成物は、熱硬化性ベースポリマー(A)、エラストマ(B)、硬化剤(C)、有機溶剤(D)などの構成材料を所定量配合し、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミルなどを用いて攪拌混合することにより調製することができる。
本発明の接着剤組成物は、有機溶剤を加えて得られる接着剤溶液を対象物に塗布し、乾燥および硬化させることで、対象物の接着や封止などを行うために用いることができる。この接着剤組成物の乾燥および硬化に際しては、例えば20〜200℃程度の温度下で行うことができる。
【0026】
上述の接着剤組成物は、種々の用途に好適に用いることができるが、とりわけ、フレキシブルプリント回路基板(FPC)等の製造に用いられるカバーレイ(CL)や銅張積層板(CCL)等の電子材料用の接着剤材料として特に好適である。特に、少なくともカバーレイ側の接着剤として適用すれば、接着剤層が銅回路間の隙間に入り込むことにより回路間の絶縁保護ができ、しかも接着剤層の製造に用いられた接着剤組成物が本発明の接着剤組成物であることにより、マイグレーション特性に優れ、デンドライトの形成による回路間の絶縁抵抗の低下を抑える等の優れた効果を奏する。
【0027】
本発明のフレキシブルプリント回路基板用カバーレイ(以下、これを単に「本発明のカバーレイ」という場合がある。)は、絶縁フィルムの片面に、本発明のエポキシ樹脂系接着剤組成物からなる接着剤層が設けられてなるものである。
カバーレイ用の絶縁フィルムとしては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート樹脂)などからなる厚み10μm〜150μm程度のフィルムなどを用いることができる。カバーレイ側の接着剤層の厚み(乾燥後)は、例えば1μm〜100μm程度とすることができる。本発明の接着剤組成物から接着剤層を形成する方法は、上述したように、塗布などの方法によることができる。
【0028】
本発明のフレキシブルプリント回路基板用銅張積層板は、本発明のエポキシ樹脂系接着剤組成物からなる接着剤層がベースフィルムと銅箔との間に設けられてなるものである。
ベースフィルムとしては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などからなる厚み10μm〜150μm程度のフィルムなどを用いることができる。
銅張積層板側の接着剤層の厚み(乾燥後)は、例えば1μm〜50μm程度とすることができる。導体層としての銅箔としては、特に限定されるものではないが、電解銅箔、圧延銅箔などの厚み5μm〜100μm程度のものを用いることができる。
【0029】
本発明のフレキシブルプリント回路基板は、本発明のカバーレイにより、絶縁層上に形成された銅箔からなる回路が被覆されてなるものである。ここで、カバーレイが積層される回路としては、例えば、銅張積層板の銅箔に導体パターンが形成されてなる回路板が例示される。
本発明のフレキシブルプリント回路基板の製造に用いられる銅張積層板としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリイミド等からなるベースフィルムに銅箔を接着剤で接着してなる3層CCLや、銅箔の片面にポリイミドワニスを塗布して乾燥してなる2層CCL等を用いることができる。3層CCLに用いられる接着剤は特に限定されるものではないが、ジカルボン酸を含有する本発明のエポキシ樹脂系接着剤組成物を用いると、信頼性の一層の向上が期待されるので、好ましい。
銅箔に回路や配線を構成する導体パターンを形成する方法は特に限定されるものではないが、例えばエッチングなどにより行うことができる。
カバーレイと回路板との積層は、カバーレイの接着剤層側と回路板の銅箔面側とが向かい合うように対向させて重ね合わせ、熱プレスなどにより一体化させる。熱プレス条件としては、例えば、加熱温度を140〜200℃程度、加熱時間を0.1〜3時間程度とすることができる。
このようにしてカバーレイと回路板とを積層一体化することにより、本発明のフレキシブルプリント回路基板を得ることができる。
【0030】
本発明のフレキシブルプリント回路基板用カバーレイによれば、これを銅回路の上に積層したときに、ジカルボン酸を含有する接着剤層によって銅回路間が絶縁保護されるので、マイグレーション特性の優れたフレキシブルプリント回路基板を得ることができる。
本発明のフレキシブルプリント回路基板用銅張積層板によれば、ジカルボン酸を含有する接着剤層によって、ベースフィルムと銅回路とが接着されているので、マイグレーション特性の優れたフレキシブルプリント回路基板を得ることができる。
本発明のフレキシブルプリント回路基板によれば、ジカルボン酸を含有するカバーレイ側接着剤層によって銅回路間が絶縁保護されるので、デンドライトの形成による回路間の絶縁抵抗の低下を抑えることができる。特に、回路間ピッチが100μmである狭ピッチ回路を用いた場合でもマイグレーションの発生を防止することができ、高密度の回路パターンを備えたFPC基板を製造することができる。この結果、電子機器の小型化が可能となるため、産業の発展に寄与することができる。
【0031】
次に、本発明のプリプレグおよび銅張積層板について説明する。
本発明のプリプレグは、本発明のエポキシ系樹脂組成物を、ガラスクロスに含浸させ、加熱により半硬化させることにより製造することができる。
本発明の銅張積層板は、本発明のプリプレグを複数枚積層するとともに、該プリプレグ積層体の両面または片面に銅箔を貼付し、加熱加圧してエポキシ系樹脂組成物を硬化させ一体化することにより、製造することができる。本発明の銅張積層板は、リジッドタイプのプリント配線板の製造に利用することができる。
本発明のプリプレグおよび銅張積層板は、ジカルボン酸を含有するエポキシ系樹脂組成物が含浸されているので、マイグレーション特性の優れたプリント配線板を得ることができる。
【0032】
次に、本発明の感光性ドライフィルムおよび感光性液状レジストについて説明する。
本発明の感光性ドライフィルム(ドライフィルムレジストともいう。)および感光性液状レジストは、感光性レジストとして使用されるものであり、エポキシ樹脂として、感光性を有するエポキシアクリレートを含有することが好ましい。
本発明のエポキシ系樹脂組成物は、未硬化状態のものを液状レジストとして利用することが可能である。また、本発明のエポキシ系樹脂組成物を乾燥させてフィルム状とすることにより、ドライフィルムとして利用することができる。ドライフィルムを製造する際、適当なプラスチックフィルムや金属板等の支持体上に塗布し、乾燥後、支持体より剥がして単独のフィルムとして取り扱ってもよいし、PET等のフィルムの上に積層された状態のままとすることもできる。
本発明の感光性ドライフィルムおよび感光性液状レジストは、例えば、プリント配線板にオーバーコートする用途に利用することができる。
本発明の感光性ドライフィルムおよび感光性液状レジストは、ジカルボン酸を含有するエポキシ系樹脂組成物から得られるので、マイグレーション特性の優れたプリント配線板を得ることができる。
【実施例】
【0033】
<接着剤溶液の調整>
以下の手順により、各実施例および比較例に係る接着剤溶液を調製した。
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名「エピコート828EL」)100質量部、エラストマとして、カルボキシ化NBR(日本ゼオン社製、商品名「ニポール1072」)を50質量部、硬化剤として4,4′−ジアミノジフェニルスルホン30質量部からなる接着剤組成物を調製し、これをメチルエチルケトン(MEK)に溶解分散させて、固形分濃度が30質量%の接着剤溶液を作製した。
試験例1〜7においては、さらに、ジカルボン酸としてコハク酸を接着剤組成物に添加した。コハク酸は、純水に溶解して、5質量%水溶液として接着剤組成物に添加した。
試験例8〜9においては、さらに、ジカルボン酸としてマレイン酸を接着剤組成物に添加した。マレイン酸は、純水に溶解して、5質量%水溶液として接着剤組成物に添加した。
試験例10〜12においては、キレート剤としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を接着剤組成物に添加した。
ジカルボン酸およびキレート剤の配合量は、表1,表2に示すとおりである。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
<マイグレーション特性評価用FPC基板サンプルの製造>
厚さ25μmのポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名「K−100V」)に対して、前記接着剤溶液を乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布し、さらに150℃、20分間乾燥することにより、カバーレイを得た。また、銅張積層板としては、ラインピッチが80μmのマイグレーション特性評価用クシ型電極パターンを含む評価用回路パターンが形成された2層CCL(有沢製作所製、商品名「PKW1018RA」)を用いた。前記カバーレイを前記銅張積層板と重ね合わせ、160℃、60分間、圧力5MPaでプレス接着することにより、マイグレーション特性評価用FPC基板サンプルを製造した。
【0037】
<マイグレーション特性の試験方法>
マイグレーション特性評価用FPC基板サンプルを、温度85℃、相対湿度85%RHの高温高湿下に置き、導体間に50Vの直流電圧を印加して、電極間の絶縁抵抗を測定した。良否の判定は絶縁抵抗値に基づいて行い、電圧の印加を試験開始後1000時間継続した後においても絶縁抵抗値が10Ω以上の場合を優良(表1,表2中、○で示す)と判定した。
表1,表2の「マイグレーション特性」の欄に示す数字は、試験開始後、絶縁抵抗値が10Ω未満に低下するまでの時間(単位h)である(ここではこの時間を「短絡時間」という場合がある)。表1,表2中、「○」と評価された試験例では、上記の評価基準によれば、短絡時間は1000時間以上ということになる。短絡時間が500時間以上1000時間未満のものは、「△」と評価した。また、短絡時間が500時間のものは、「×」と評価した。
【0038】
<評価結果>
試験例1〜5の結果から明らかなように、ジカルボン酸の含有量が接着剤粗性物中の固形分の総量を1として10ppm以上50000ppm以下である場合には、1000時間電圧を印加しても絶縁抵抗の低下は認められず、極めて高いマイグレーション特性を示した。それに対して、ジカルボン酸酸の含有量が10ppm未満、あるいは50000ppmを超える場合には、やや絶縁抵抗の低下が認められるものの、従来以上に長い短絡時間を示し、ジカルボン酸を添加したことによる短絡時間の延長(すなわち長寿命化)の効果が認められた。
キレート剤であるEDTAを添加した試験例では、短絡時間は十分といえず、有効性が認められなかった。
本実施例において、絶縁抵抗の低下が、接着剤中へのジカルボン酸の添加により著しく抑制された理由については、本発明者は以下のように考えている。すなわち、実施例では接着剤中の何らかの成分により銅回路から溶出した銅イオンが、接着剤中のジカルボン酸により捕捉され、安定なキレート化合物となるなどの効果により、陰極側での銅の析出(デンドライトの生成)が抑えられたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、種々の電子機器やその部品等を構成する電子材料に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有することを特徴とするエポキシ系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸の含有量が、エポキシ系樹脂組成物中の固形分の総量を1として、10〜50000ppmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ系樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ系樹脂と、エラストマと、硬化剤と、ジカルボン酸を含有することを特徴とするエポキシ樹脂系接着剤組成物。
【請求項4】
前記エラストマがカルボキシ化されたエラストマであることを特徴とする請求項3に記載のエポキシ樹脂系接着剤組成物。
【請求項5】
前記エラストマがカルボキシ化アクリロニトリル―ブタジエンゴムであることを特徴とする請求項3に記載のエポキシ樹脂系接着剤組成物。
【請求項6】
絶縁フィルムの片面に接着剤層を設けてなるフレキシブルプリント回路基板用カバーレイにおいて、
前記接着剤層を構成する接着剤組成物が、エポキシ系樹脂と、エラストマと、硬化剤と、ジカルボン酸を含有するものであることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板用カバーレイ。
【請求項7】
ベースフィルムと銅箔との間に接着剤層を設けてなるフレキシブルプリント回路基板用銅張積層板において、
前記接着剤層を構成する接着剤組成物が、エポキシ系樹脂と、エラストマと、硬化剤と、ジカルボン酸を含有するものであることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板用銅張積層板。
【請求項8】
請求項6に記載のフレキシブルプリント回路基板用カバーレイが、絶縁層上に形成された銅箔からなる回路を被覆してなることを特徴とするフレキシブルプリント回路基板。
【請求項9】
エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物が含浸されたガラスクロスからなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項10】
エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物が含浸されたガラスクロスを複数枚積層してなる積層板を基材とすることを特徴とする銅張積層板。
【請求項11】
エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物から得られることを特徴とする感光性ドライフィルム。
【請求項12】
請求項11に記載の感光性ドライフィルムでオーバーコートされたことを特徴とするプリント配線板。
【請求項13】
エポキシ系樹脂とジカルボン酸とを含有するエポキシ系樹脂組成物から得られることを特徴とする感光性液状レジスト。
【請求項14】
請求項13に記載の感光性液状レジストでオーバーコートされたことを特徴とするプリント配線板。

【公開番号】特開2006−137838(P2006−137838A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328119(P2004−328119)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】