説明

エンジン制御装置及びエンジン制御方法

【課題】車両の位置と設定経路との関係に応じて、触媒コンバータの触媒酸素吸蔵量を的確に制御することができるエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】CPUが、制御切り替え情報(車両の位置情報)を用いて、車両が案内予定ルートから第1の距離以上逸脱したか否かを判断し(ステップS32)、逸脱したと判断された場合に、第1の制御から第2の制御に切り替える(ステップS38)ので、車両が設定経路(又はその近傍)を走行している間は、第1の制御により、触媒酸素吸蔵量制御手段が触媒コンバータの触媒酸素吸蔵量を、変化するであろう触媒酸素吸蔵量の変化量を見越して予め変化するように制御することで、今後の車両状態に対応した的確な制御が実現でき、また、車両が設定経路の近傍から外れた位置を走行している間は、第2の制御により、適切でない制御が行われるのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン制御装置及びエンジン制御方法に関し、特に混合気を吸気するエンジンおよびエンジンから排出された排気ガスを触媒により浄化する触媒コンバータを備えた車両にて、エンジンを制御するエンジン制御装置及びエンジン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染などによる近年の地球温暖化の防止策の1つとして、車両のエンジンから排出された排気ガス中の有害成分を低減させることが挙げられている。エンジンにて燃焼された排気ガスの中には、さまざまな有害成分が含まれているが、その主なものは、ガソリンの不完全燃焼時により発生されるCO(一酸化炭素)と、減速時などの過濃混合気による失火・不完全燃焼により燃えずに排出されるHC(炭化水素)と、燃焼温度が高いときに空気中の窒素が酸素と結合して発生するNOx(窒素酸化物)とである。
【0003】
このような有害成分を低減するには、エンジンに供給される空気と燃料との割合である空燃比を理論空燃比、つまり、燃料が完全燃焼するのに理論上必要な空気量と燃料量との比に近づけるような制御が行われており、たとえば排気ガスに含まれる酸素量に基づいて吸入空気量または燃料量を制御する空燃比制御が行われている。しかし、その空燃比は、通常の負荷の場合、理論空燃比となるように混合気の燃料を制御するが、低負荷の場合、燃料消費率を考慮し、理論空燃比よりも混合気の燃料を少なくしたリーン状態にするのがよく、逆に、高負荷でエンジン出力を高めるには、混合気の燃料を多くしたリッチ状態にする方が望ましい。このため、車両の走行状態によって有害な排気ガスが排出されてしまうので、そのような排気ガスに対して浄化を行うのが触媒装置である。
【0004】
触媒装置においても、その浄化能力を最大に発揮するには、混合気の空燃比が理論空燃比でないと、化学反応が正常に行われない。このため、たとえば、空燃比が理論空燃比からリッチ側またはリーン側に所定時間継続した場合に、空燃比をリーン側またはリッチ側へ変転させることによって、触媒装置の浄化能力を最大限に維持させることが行われている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、触媒装置においては、そのような空燃比の変動を吸収するために、酸素吸蔵放出能に優れた触媒が用いられている。このような触媒は、酸素過剰雰囲気での燃焼状態では、酸化反応により過剰の酸素を吸収し、還元雰囲気においては、還元反応により酸素を放出する。この触媒が吸着している酸素の量は、触媒酸素吸蔵量(OSA:Oxygen Storage Amount)と呼ばれている。触媒装置の浄化能力を維持するには、排ガス中のCOおよびHCに対する酸化反応とNOxに対する還元反応とをバランスよく行わせる必要があり、そのためには、OSAは適度な値に保たれていなければならない。すなわち、車両がある走行状態にあるときに、OSAが触媒最大酸素吸蔵量または触媒最小酸素吸蔵量の近傍にあったとした場合、空燃比がリッチ状態またはリーン状態への移行に際して行われる酸化還元反応に対して酸素の過不足が発生する可能性があるので、空燃比の変動に対応するには、OSAは触媒最大酸素吸蔵量の半分の値に保たれているのが好ましい。
【0006】
しかるに、たとえば、車両が長い坂路を走行する場合のように、混合気のリーンまたはリッチの状態が長い期間継続される場合、OSAもその間継続して増減していくことになるが、OSAを常に触媒最大酸素吸蔵量の半分になるように制御していると、リーンまたはリッチ状態への移行時点から酸素の吸蔵または放出が継続できる許容範囲は、触媒最大酸素吸蔵量の半分に制限され、それ以降、触媒装置は、排気ガスの浄化能力を十分発揮できないという問題点があった。そこで本出願人は、今後の車両の走行状態が予め推測できる場合に、その走行状態に応じて触媒装置による排気ガスの高い浄化能力を長く維持することが可能なエンジン制御装置及びエンジン制御方法に関する発明について、先に出願している(特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−344621号公報
【特許文献2】特開2007−255392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2では、ナビゲーションシステムなどを用いて車両状態予測情報を取得し、これに基づいて車両が今後通過する経路における車両の状態を予測することとしている。しかるに、車両は、予測された経路から外れて走行したり、経路を変更して走行する可能性がある。
【0009】
このため、エンジン制御装置において、これらの事情が発生した場合に、予測された経路に基づいた制御を続けると、触媒装置による排気ガスの浄化能力を高く維持することができないおそれがある。
【0010】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、車両位置と設定経路との関係に応じて、触媒コンバータの触媒酸素吸蔵量を的確に制御することができるエンジン制御装置及びエンジン制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のエンジン制御装置は、混合気を吸気するエンジン及び前記エンジンから排気された排気ガスを触媒により浄化する触媒コンバータを備えた車両にて、前記エンジンを制御するものであり、前記車両が今後通過する経路における車両の状態を予測するための車両状態予測情報を取得する情報取得手段からの車両状態予測情報に基づき、前記経路における車速変化量を推定し、前記車速変化量に基づき、所定地点での前記触媒コンバータの推定触媒酸素吸蔵量を算出することにより、前記触媒コンバータの状態を推定する触媒コンバータ状態推定手段と、前記推定触媒酸素吸蔵量に基づき、前記所定地点より前の地点で目標とする前記触媒コンバータの目標触媒酸素吸蔵量を設定し、前記触媒コンバータの現状の触媒酸素吸蔵量が前記目標触媒酸素吸蔵量になるように制御する一の制御と、前記一の制御とは異なる他の制御とのいずれかを実行する触媒酸素吸蔵量制御手段と、前記車両が設定経路から逸脱していたと判断された場合に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を前記一の制御から前記他の制御に切り替える切り替え手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
これによれば、切り替え手段は、設定経路から車両が逸脱したと判断された場合に、触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を一の制御(触媒コンバータの現状の触媒酸素吸蔵量を、推定触媒酸素吸蔵量に基づいて設定した目標触媒酸素吸蔵量に近づける制御))から当該一の制御とは異なる他の制御に切り替えるので、車両が設定経路(又はその近傍)を走行している間は、触媒酸素吸蔵量制御手段が触媒コンバータの触媒酸素吸蔵量を、変化するであろう触媒酸素吸蔵量の変化量を見越して予め変化するように制御することで、今後の車両状態に対応した的確な制御が実現でき、一方、車両が設定経路の近傍から外れた位置を走行している間は、過度な制御を行わないので、過度な制御による弊害(触媒コンバータの浄化能力を低下させる方向の制御)の発生を抑制することができる。
【0013】
この場合において、前記切り替え手段は、前記車両が前記設定経路から第1の距離以上逸脱したと判断された場合に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を前記一の制御から前記他の制御に切り替え、前記車両が、前記設定経路から第1の距離以上逸脱した状態から、前記設定経路から前記第1の距離よりも小さい第2の距離以内に入ったと判断された場合に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を、前記他の制御から前記一の制御に切り替えるようにすることができる。ここで、第1の距離としては、車両の位置情報の計測精度(例えばナビゲーションシステムによる位置計測精度)の数倍(例えば3〜4倍)程度とすることができる。また、第2の距離としては、車両の位置情報の計測精度(例えばナビゲーションシステムによる位置計測精度)と同一程度とすることができる。かかる場合には、設定経路(又はその近傍)への復帰後、触媒酸素吸蔵量制御手段の制御が、他の制御から一の制御に切り替えられるので、早期に的確な制御を再開することができる。
【0014】
また、本発明のエンジン制御装置では、前記切り替え手段は、前記車両が、前記設定経路から第1の距離以上逸脱した状態から、前記設定経路が再設定され、当該新たな設定経路から前記第1の距離よりも小さい第2の距離以内に前記車両が入った状態で所定時間経過した際に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を、前記他の制御から前記一の制御に切り替えるようにすることもできる。かかる場合には、設定経路が再設定された場合、車両の搭乗者は、その新しい設定経路に従わないこともあり、ある一定の間は設定経路を再度外れる可能性もあるので、第2の距離以内に車両が入ったまま所定時間経過した段階(すなわち、搭乗者に、新しい設定経路に沿って目的地に向かう意志があると判断できる段階)で一の制御に切り替えることにより、適切なタイミングで的確な制御を再開することができる。
【0015】
また、本発明のエンジン制御装置では、前記車両が前記設定経路から前記第1の距離以上逸脱した後の触媒酸素吸蔵量と、前記触媒コンバータの触媒最大酸素吸蔵量との関係に応じて、前記エンジンにより吸気される混合気の空燃比を変更する空燃比変更手段を備えることができる。かかる場合には、車両が設定経路から第1の距離以上逸脱した直後における排気ガスの触媒による浄化効率を向上することができる。
【0016】
本発明のエンジン制御方法は、混合気を吸気するエンジン及び前記エンジンから排気された排気ガスを触媒により浄化する触媒コンバータを備えた車両にて、前記エンジンを制御する方法であり、前記車両が今後通過する経路における車両の状態を予測するための車両状態予測情報を取得する情報取得手段からの車両状態予測情報に基づき、前記経路における車速変化量を推定し、前記車速変化量に基づき、所定地点での前記触媒コンバータの推定触媒酸素吸蔵量を算出することにより、前記触媒コンバータの状態を推定する推定ステップと、前記推定触媒酸素吸蔵量に基づき、前記所定地点より前の地点で目標とする前記触媒コンバータの目標触媒酸素吸蔵量を設定し、前記触媒コンバータの現状の触媒酸素吸蔵量が前記目標触媒酸素吸蔵量になるように制御する一の制御と、前記一の制御とは異なる他の制御とのいずれかを実行する制御ステップと、前記車両が前記設定経路から逸脱していたと判断された場合に、前記制御ステップの制御を前記一の制御から前記他の制御に切り替える切り替えステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
これによれば、切り替えステップでは、設定経路から車両が逸脱したと判断された場合に、制御ステップの制御を一の制御(触媒コンバータの現状の触媒酸素吸蔵量を、推定触媒酸素吸蔵量に基づいて設定した目標触媒酸素吸蔵量に近づける制御))から当該一の制御とは異なる他の制御に切り替えるので、車両が設定経路(又はその近傍)を走行している間は、触媒コンバータの触媒酸素吸蔵量を、変化するであろう触媒酸素吸蔵量の変化量を見越して予め変化するように制御することで、今後の車両状態に対応した的確な制御が実現でき、一方、車両が設定経路の近傍から外れた位置を走行している間は、過度な制御を行わないので、過度な制御による弊害(触媒コンバータの浄化能力を低下させる方向の制御)の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車両の位置と設定経路との関係に応じて、触媒コンバータの触媒酸素吸蔵量を的確に制御することができるエンジン制御装置及びエンジン制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
まず、エンジンを制御するエンジン制御システムのシステム構成について説明する。
図1はエンジン制御システムのシステム構成を示すブロック図である。
【0020】
エンジン制御システムは、エンジン10およびこれを制御するエンジン制御装置11を備えている。エンジン10には、空気および燃料の混合気を吸入する吸気通路12およびその混合気を燃焼した排気ガスを排出する排気通路13が設けられており、その排気通路13の途中には、スタートキャタリスト(SC)14およびアンダフロアタイプキャタリスト(UF)15が設置されている。
【0021】
これらのSC14およびUF15は、排気ガスを触媒により浄化する触媒コンバータであり、容量の大きなSC14が主として排気ガスを浄化し、そこで完全に浄化することができなかった排気ガスを容量の小さなUF15が浄化する構成にしている。
【0022】
SC14の上流側の排気通路13には、エンジン10から排出された排気ガスの空燃比を検出する第1の空燃比センサ16が設けられ、下流側の排気通路13には、浄化された排気ガスの空燃比を検出する第2の空燃比センサ17が設けられ、SC14には、その触媒床温を検出する温度センサ18が設けられていて、それぞれの出力は、エンジン制御装置11に接続されている。これにより、エンジン制御装置11は、第1の空燃比センサ16によりSC14に入る排気ガスの酸素濃度を知ることができ、第2の空燃比センサ17によりSC14を出た排気ガスの酸素濃度を知ることができ、温度センサ18によりSC14の触媒床温に応じて触媒が最大限酸素を吸蔵できる係数を知ることができる。
【0023】
エンジン10の吸気側の吸気通路12には、エアフローセンサ19およびインジェクタ20が設けられており、それぞれエンジン制御装置11に接続されている。エアフローセンサ19は、エンジン10に吸入される空気量を検出する。この空気量に基づき、エンジン制御装置11は、インジェクタ20により吸気通路12に噴射される燃料量を制御し、混合気の空燃比を制御する。また、エンジン10とSC14との間の排気通路13には、エンジン制御装置11によって制御されるエアインジェクタ21が設けられている。このエアインジェクタ21は、エンジン10から排出された排気ガスに噴射量が制御された空気を送り込むものである。さらに、エンジン制御装置11には、制御切り替え情報や、今後の車両の状態を予測するための車両状態予測情報が入力されている。制御切り替え情報は、ナビゲーションシステムから得られる設定ルートの情報、車両の現在位置の情報などを含んでいる。また、車両状態予測情報は、ナビゲーションシステムから得られるカーブの情報、下りまたは上りの坂路角度情報などの地図情報、道路交通情報通信システムなどから得られる渋滞、交通規制、信号機などの情報、車車間通信システムから得られる先行する車両の速度情報などを含んでいる。
【0024】
このようなエンジン制御システムによれば、エンジン制御装置11は、第1の空燃比センサ16により検出されたSC14に入る排気ガスの空燃比と、第2の空燃比センサ17により検出されたSC14から出た排気ガスの空燃比とを比較することにより、SC14に吸着されているOSAを把握している。エンジン制御装置11は、車両状態予測情報から車速やトルクが変化して空燃比がどのように変化するか、また、SC14のOSAもどのように変化するかを推定し、その推定に基づき、インジェクタ20を制御して混合気の空燃比を予め制御しておくことで、車速やトルクが変化した後のSC14のOSAを制御することができる。たとえば、エンジン制御装置11は、車速やトルクが変化した後のSC14のOSAを触媒最大酸素吸蔵量付近になるように制御することができる。また、例えばOSAが触媒最大酸素吸蔵量のほぼ半分になるように制御してもよい。
【0025】
次に、エンジン制御装置11のハードウェア構成について説明する。
図2はエンジン制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
エンジン制御装置11は、マイクロコンピュータ(マイコン)30を備え、このマイコン30は、エンジン制御装置11内のバス31に接続されていて、I/F(Interface)32を介して車載ネットワークのような外部の信号ライン33に接続されている。
【0026】
マイコン30は、CPU(Central Processing Unit)34を有し、CPU34には、ROM(Read Only Memory)35およびRAM36がマイコン30内のバス37によって相互に接続されている。また、CPU34は、バス37を介してエンジン制御装置11のバス31に接続されている。
【0027】
CPU34は、エンジン制御装置11全体を制御する。RAM36には、CPU34が実行するOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM36には、CPU34の処理に必要な各種データが格納される。ROM35には、OSのプログラムやアプリケーションプログラムなどが格納される。
【0028】
このアプリケーションプログラムは、エンジン制御装置11が実行するスタートキャタリスト状態推定処理(SC状態推定処理)および触媒酸素吸蔵量制御処理(OSA制御処理)のためのプログラムなどを含んでいる。
【0029】
次に、図2のハードウェア構成により実現されるエンジン制御装置11の機能構成について説明する。
図3はエンジン制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【0030】
エンジン制御装置11は、切り替え手段としての制御切り替え部39と、第1の制御部38と、第2の制御部43とを備えている。制御切り替え部39は、ナビゲーションシステムなどから入力される制御切り替え情報に基づいて、第1の制御部38と第2の制御部43のいずれを用いてOSA制御を行うかを決定する。
【0031】
第1の制御部38は、図3に示すように、情報取得部40、スタートキャタリスト状態推定部(SC状態推定部)41および触媒酸素吸蔵量制御部(OSA制御部)42を有する。
【0032】
情報取得部40は、ナビゲーションシステムなどを用いて車両の位置および経路情報などの車両状態予測情報を取得する。
【0033】
SC状態推定部41は、車両状態予測情報に基づき、車速がどのように変化をするかを表わす車速変化量を予測し、車両が予測通り車速やトルクを変化させて走行した場合にOSAがどのように変化するかを推定する。さらに、SC状態推定部41は、第1の空燃比センサ16および第2の空燃比センサ17がそれぞれ検出した排気ガスの空燃比からSC14の今後のOSAを推定し、温度センサ18が検出したSC14の触媒床温からSC14が吸蔵し得る最大のOSAを推定する。
【0034】
OSA制御部42は、SC状態推定部41の推定結果に基づいて、インジェクタ20により燃料量を予め制御することにより、またはエアインジェクタ21により排気ガスの酸素量を予め制御することにより、車速やトルクが変化した後のSC14のOSAを制御する。たとえば、OSA制御部42は、車速やトルクが変化した後のSC14のOSAが触媒最大酸素吸蔵量のほぼ半分になるように制御する。
【0035】
すなわち、第1の制御部38のSC状態推定部41およびOSA制御部42は、具体的には、以下に示すように、今後、車速やトルクが変化した結果、OSAがどのように変化するかを表わす推定OSAを算出し、その推定OSAに応じて現状のOSAを予め変化させておくときの目標値を示す目標OSAを設定し、現状のOSAが目標OSAになるようSC14のOSAを制御している。
【0036】
次に、第1の制御部38によるOSA制御(第1の制御)の概略について説明する。
図4はトルクの変化およびOSAの変化を示す図であって、(A)は予測した車速変化時のトルク変化を示し、(B)は走行予定地点の推定OSAの変化を示し、(C)は走行予定地点の目標OSAの変化を示している。
【0037】
まず、図4の(A)において、車両は、現在、平坦地を走行していて、走行予定のA地点からB地点まで登坂路を走行していくものとする。この場合、図4の(A)に示したように、現地点からA地点までは、車速変化量はなくトルクの変化もない。登坂開始のA地点からB地点までは、車速が低下するので、トルクを増加させることになる。
【0038】
このような状況のとき、SC14のOSAは、図4の(B)に示したように、現地点からA地点まで所定値を維持し、A地点からB地点までの登坂路では、トルクを増加させるために、混合気をリッチ状態に制御するはずなので、その場合は、エンジン10から排出される排気ガスもリッチ状態になって酸素不足状態になることから、SC14におけるOSAは低下し、車両がB地点に到達するときには、OSAはΔOSAだけ低下することになる。このため、B地点では、OSAの低下により、SC14における混合気の空燃比が理論空燃比でなくなってリッチ状態になり、有害成分の酸化反応が起こりにくくなり、触媒による浄化能力が小さくなってしまう。
【0039】
これに対し、本発明では、B地点で予めSC14のOSAが低下することがわかっているならば、図4の(C)に示したように、OSA制御部42は、現地点の段階で先行してB地点の前の経過地点であるA地点でのOSAを多くするよう目標OSAを設定し、その目標OSAになるよう混合気をリッチ状態に制御し、B地点に到達したときにOSAが大幅に低下しないようにして、SC14の浄化能力が小さくならないようにする。なお、A地点は、トルクが高負荷に切り替わる地点、たとえば上りの坂路の開始地点としてもよいし、B地点より所定距離だけ離れた地点としてもよい。また、B地点は、上りの坂路の終了地点としてもよいし、推定OSAが最小になる地点としてもよい。
【0040】
次に、SC状態推定部41によるSC14の状態を推定する処理について説明する。
図5はSC状態推定処理を示すフローチャート、図6は車両のカーブ半径に対応する車速の変化を示す図、図7は車速変化に対応する空燃比の変化を示す図、図8は坂路角度に対応する空燃比の変化を示す図、図9はトルクの変化に対応する触媒床温の変化を示す図である。
【0041】
SC状態推定部41は、SC状態推定処理プログラムにより以下のステップに従って処理を繰り返し実行する。
[ステップS11]CPU34は、車速変化量やトルクの変化を推定するための車両状態予測情報を取得する。この車両状態予測情報は、カーナビゲーションなどを用いて取得された車両の位置および経路情報などである。たとえば、CPU34は、車両が今後通過する一定区間の経路におけるカーブ半径、坂路角度などを取得する。
【0042】
[ステップS12]CPU34は、ステップS11の処理で取得されたカーブ半径、坂路角度などに応じ、車速変化量を推定する。
ここで、車両は、図6に示したように、カーブ半径が小さくなると減速せざるをえないので、CPU34はその特性のデータを格納しているROM35を参照し、カーブ半径に対応した車速を取得し、この取得された今後の車速と現状の車速との差分から今後の車速変化量を算出する。なお、この現状の車速は、エンジンを制御している電子制御ユニットなどから取得されている。
【0043】
また、図示はしないが、上りの坂路角度が大きくなると減速するので、その車速変化量を補うようトルクを増加させ、下りの坂路角度が大きくなると加速するので、その車速変化量を補うようトルクを減少させるので、CPU34はその特性のデータを格納しているROM35を参照し、坂路角度に対応した今後の車速変化量を取得することになる。
【0044】
[ステップS13]CPU34は、ステップS12の処理で算出された今後の車速変化量に応じ、今後の混合気の空燃比の変化量を算出する。
ここで、図7に示したように、加速させる場合、混合気の空燃比が減少してリッチ状態になり、減速させる場合は、混合気の空燃比が増加してリーン状態になるので、CPU34はその特性のデータを格納しているROM35を参照し、今後の加減速による車速変化量に対応した混合気の空燃比を取得し、この取得された今後の混合気の空燃比と、第1の空燃比センサ16が検出した現状の混合気の空燃比との差分から、今後の混合気の空燃比の変化量を算出する。
【0045】
なお、上記の説明では、カーブ半径または坂路角度から車速変化量を推定し、その車速変化量から今後の混合気の空燃比の変化量を取得しているが、図8に示したように、上り坂の場合、トルクを増加するため、混合気はリッチ状態に、逆に、下り坂の場合は、リーン状態になるというように坂路角度と空燃比との間には相関関係があるので、坂路角度から直接今後の混合気の空燃比を取得するようにしてもよい。
【0046】
[ステップS14]CPU34は、ステップS13の処理で算出された今後の混合気の空燃比の変化量に応じて、今後のOSAの変化量(ΔOSA)を算出する。すなわち、今後の混合気の空燃比の変化量をΔA/Fとし、触媒吸着酸素係数をKとすると、ΔOSAは、
ΔOSA=ΔA/F×K
により算出される。たとえば、図4の(B)に示したように、A地点からB地点までの間に変化するであろうOSAのΔOSAが算出される。
【0047】
[ステップS15]CPU34は、今後のOSAを示す推定OSAを算出する。すなわち、第1の空燃比センサ16により検出されたSC14に入る排気ガスの空燃比と、第2の空燃比センサ17により検出されたSC14から出た排気ガスの空燃比とから、現状のOSAが算出されていて、その現状のOSAにステップS14の処理で算出されたΔOSAを加減算することにより、推定OSAを算出する。
【0048】
[ステップS16]CPU34は、ステップS12の処理で算出された今後の車速変化量に応じ、今後の車速を実現するために必要とされるトルクを推定する。
[ステップS17]CPU34は、ステップS16の処理で推定されたトルクの増減に対応して、今後、SC14の触媒床温がどこまで変化するかをあらわす触媒床温の変化量を取得する。
【0049】
ここで、図9に示したように、トルクが上昇すると混合気の空燃比の状態がリッチ状態になってそのリッチ状態の混合気が燃焼されて触媒床温も上昇するので、CPU34はその特性のデータを格納しているROM35を参照し、今後のトルクに対応した触媒床温の変化量を取得する。
【0050】
[ステップS18]CPU34は、今後の触媒床温を算出する。すなわち、温度センサ18が検出した現状の触媒床温に、ステップS17の処理で取得された今後の触媒床温の変化量を加減算することにより、今後の触媒床温を算出する。
【0051】
[ステップS19]CPU34は、ステップS18の処理で算出された今後の触媒床温に応じ、今後における最大のOSAである触媒最大酸素吸蔵量(Cmax)を算出する。すなわち、温度センサ18が検出した現状の触媒床温に基づいて、その温度のときにSC14が吸蔵し得るCmaxが算出されていて、そのCmaxに今後の触媒床温に対応して変化する係数を乗算し、今後のCmaxを算出する。なお、触媒床温が高くなるとSC14が吸蔵し得るCmaxは増加するので、温度が高くなるとSC14は酸素を吸蔵しやすくなる。
【0052】
以上の処理により、カーナビゲーションなどを用い、車両状態予測情報から車速やトルクがどのように変化するかが推定され、この推定結果に応じて車速変化終了時にSC14が吸蔵しているはずの推定OSAが算出される。また、車速変化量に対応するトルクが推定され、このトルクに応じて、今後、触媒床温がどのように変化するかが算出され、変化したときの触媒床温に対応するCmaxが算出される。
【0053】
次に、OSA制御部42によるOSAを制御する処理について説明する。
図10はOSA制御処理を示すフローチャート、図11はΔOSAと目標OSAとの関係を示す図である。
【0054】
OSA制御部42は、SC状態推定処理の後に、OSA制御処理プログラムにより以下のステップに従って処理を実行する。
[ステップS21]CPU34は、推定OSAがOSA変動許容範囲の下限値である所定値A1よりも小さいか否かを判定する。推定OSAが所定値A1よりも小さい場合、処理はステップS22に進み、大きい場合、処理はステップS23に進む。
【0055】
[ステップS22]CPU34は、推定OSAが所定値A1よりも小さい場合にはOSAが変動許容範囲を下回ることが推定されるので、速度変化開始時の目標OSAをCmax/2よりも大きく設定する。たとえば、図4の(B)のB地点にてOSAが減少することが推定されるので、CPU34は、図4の(C)のA地点における目標OSAをCmax/2よりも大きく設定する。
【0056】
ここで、OSA制御部42は、図11に示したように、推定OSAがΔOSAだけ低下すれば、速度変化開始時の目標OSAを上げるよう制御するが、そのときのΔOSAに対応した目標OSAを、CPU34がΔOSAと目標OSAとの関係を表わすデータを格納しているROM35から取得する。たとえば、CPU34は、図4の(B)のB地点においてOSAがΔOSA低下すると推定した場合に、速度変化開始時のA地点に到達するまでOSAをどれだけ増やしておくかの目標OSAを、ΔOSAと目標OSAとの関係から取得することになる。
【0057】
[ステップS23]CPU34は、推定OSAがOSA変動許容範囲の上限値である所定値A2よりも大きいか否かを判定する。推定OSAが所定値A2よりも大きい場合、処理はステップS24に進み、小さい場合、処理はステップS25に進む。
【0058】
[ステップS24]CPU34は、推定OSAが所定値A2よりも大きい場合、OSAの増加が推定されるので、目標OSAをCmax/2よりも小さく設定する。
[ステップS25]CPU34は、推定OSAがOSA変動許容範囲内に入っているときは、予めOSAを変化させておく必要はないので、目標OSAをCmax/2に設定する。
【0059】
[ステップS26]CPU34は、現状のOSAが目標OSAになるようにするため、インジェクタ20を制御することにより、エンジン10に吸入される混合気の空燃比を制御して排気ガスの空燃比を制御する。または、エアインジェクタ21を制御することにより、排気通路13における排気ガスの空燃比を制御する。このように排気ガスの空燃比を制御することにより、SC14のOSAを制御する。
【0060】
上記のような第1の制御を行うことにより、たとえば、混合気の燃料が少なくて燃費を向上させることができる成層運転が長時間実施したり、フューエルカットが多く実施されたりすることが予めわかっている場合は、現状のOSAを予め減少させるよう混合気の空燃比が制御される。また、たとえば、道路の地形的な要因などでトルクを上昇させる必要性が予めわかっている場合には、それによるOSAの不足に対処するために、OSAを予め増加させるよう混合気の空燃比が制御される。これにより、OSAがSC14で常に保持しておきたい触媒最大酸素吸蔵量の半分の値に最適に制御されることになるのでSC14の浄化能力を大きくすることできる。
【0061】
また、エンジン制御装置11は、上記OSA制御に従って制御していて、リッチ状態またはリーン状態が長時間実施されても、予め混合気の空燃比を制御してOSAを所定の目標OSAになるよう制御しているので、実際の空燃比が理論空燃比より外れる機会が少なくなり、SC14を浄化能力の大きな状態に維持することができ、浄化能力が大きくなった分、SC14の容量を小さくすることが可能になる。
【0062】
図3に戻り、第2の制御部43による制御(第2の制御)は、上記ステップS25と同様の処理を常に行うものであり、より具体的には、CPU34が、目標OSAをCmax/2に設定するというものである。
【0063】
次に、図12に基づいて、図3の制御切り替え部39による第1の制御と第2の制御の切り替え処理につき説明する。
【0064】
[ステップS30]CPU34は、エンジン制御装置11において第1の制御を実施しているか否かを判定する。第1の制御を実施している場合、処理はステップS32に進み、第2の制御を実施している場合、処理はステップS34に進む。
【0065】
[ステップS32]CPU34は、現在地点と、案内予定ルート(設定ルート)の現在地点から最も近い地点との間の距離が、第1の距離より大きいか否かについて判定する。ここで、第1の距離は、車両の測位精度に応じて決定することができる。例えば、車両の測位精度が50mであれば、その3〜4倍程度の150〜200m程度の値を第1の距離に設定することができる。この判定が肯定された場合(すなわち、車両が案内予定ルートから大きく外れている場合)には、ステップS34に進み、否定された場合(すなわち、車両が案内予定ルートに沿って走行していると推定される場合)には、ステップS52に進む。なお、車両が案内予定ルートから第1の距離よりも大きく逸脱する場合としては、例えば、車両の運転者が道を間違えて、目的地までのルートを外れた場合や、地図が間違えていた場合などが想定される。
【0066】
[ステップS34]CPU34は、現在のOSAとCmax/2の差の絶対値が、所定値よりも大きいか否かを判定する。ここで、所定値としては、例えば、触媒最大酸素吸蔵量の25%程度の値を採用することができる。この判定が肯定された場合(すなわち、現在のOSAがCmax/2から大きく乖離している場合)には、ステップS36に進み、否定された場合(すなわち現在のOSAがCmax/2付近の値である場合)には、ステップS38に進む。
【0067】
[ステップS36]CPU34は、現在のOSAがCmax/2から大きく乖離している場合、それ以上乖離させないようにするために、リーンバーン制御あるいはリッチスパイク制御を禁止する。この場合、現在のOSA値がCmax/2よりも大きい場合に、リーンバーン制御を禁止し、現在のOSA値がCmax/2よりも小さい場合に、リッチスパイク制御を禁止する。
【0068】
[ステップS38]CPU34は、第2の制御部43を用いて前述した第2の制御(目標OSAをCmax/2に設定する制御)を実行する。
【0069】
[ステップS40]CPU34は、現在地点と、案内予定ルートの現在地点から最も近い地点との間の距離が、第2の距離より小さいか否かについて判定する。ここで、第2の距離は、車両の測位精度に応じて決定することができる。例えば、車両の測位精度が50mであれば、その値(50m)を第2の距離に設定することができる。この判定が肯定された場合(すなわち、車両が案内予定ルートに沿って走行していると推定される場合)には、ステップS52に進み、否定された場合(すなわち、車両が未だに案内予定ルートを外れていると推定される場合)には、ステップS42に進む。
【0070】
[ステップS42]CPU34は、ナビゲーションシステムにおいて、案内予定ルートが再設定(リルート)されたか否かを判定する。この判定が肯定された場合には、ステップS44に進み、否定された場合には、ステップS40に戻る。
【0071】
[ステップS44]CPU34は、タイマーをONにする(計時を開始する)。
【0072】
[ステップS46]CPU34は、車両が、新たに設定された案内予定ルート内(第2の距離の範囲内)を走行しているか否かを判定する。この判断が肯定された場合ステップS50に進み、否定された場合ステップS48に進む。
【0073】
[ステップS48]CPU34は、前のステップS46において、車両が新たな案内予定ルートに沿って走行していないと判定しているため、タイマーの計時をOFFにする。
【0074】
[ステップ50]CPU34は、タイマーが所定時間計時したか否かを判断する。本ステップは、ナビゲーションシステムにおいて案内予定ルートが新たに設定されたとしても、車両はそのルートに沿って走行しない可能性も高いため、所定時間継続して走行したか否かを判定することにより、車両の搭乗者(運転者)に、そのルートに沿って目的地に向かう意志があるか否かを判断するというものである。この所定時間としては、例えば5分を設定することができる。この判定が肯定された場合には、ステップS52に進み、否定された場合には、ステップS46に戻る。
【0075】
[ステップ52]CPU34は、第1の制御部38を用いて前述した第1の制御を実行する。
【0076】
これまでの説明から分かるように、本発明における情報取得手段は、情報処理部40により構成され、本発明における触媒コンバータ状態推定手段は、SC状態推定部41により構成され、本発明における触媒酸素吸蔵量制御手段は、OSA制御部42及び第2の制御部43により構成されている。
【0077】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、CPU34が、制御切り替え情報(車両の位置情報)を用いて、車両が案内予定ルートから第1の距離よりも大きく逸脱したか否かを判断し、逸脱したと判断された場合に、触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を第1の制御から第2の制御に切り替えるので、車両が設定経路(又はその近傍)を走行している間は、第1の制御により、触媒酸素吸蔵量制御手段が触媒コンバータの触媒酸素吸蔵量を、変化するであろう触媒酸素吸蔵量の変化量を見越して予め変化するように制御することで、今後の車両状態に対応した的確な制御が実現でき、また、車両が設定経路の近傍から外れた位置を走行している間は、過度な制御を行わないので、過度な制御による弊害(触媒コンバータ(14,15)の浄化能力を低下させる方向の制御)の発生を抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態によると、案内予定ルートに車両が復帰した直後に、第2の制御から第1の制御に切り替えられるので、早期に的確な制御を再開することができる。
【0079】
また、本実施形態によると、案内予定ルートが再設定された場合、案内予定ルート(第2の距離の範囲内)に沿って車両が走行した状態で所定時間(例えば5分)経過した段階で第1の制御に切り替えることとしているので、搭乗者に、新しい設定経路に沿って目的地に向かう意志があると推定された適切なタイミングで、的確な制御を再開することができる。
【0080】
なお、上記実施形態では、第2の制御として、目標OSAをCmax/2に設定する制御を採用した場合について説明したが、これに限らず、その他の制御を採用しても良い。
【0081】
また、上記実施形態では、案内予定ルートから所定距離逸脱した場合に、制御を切り替える場合について説明したが、これとともに、車両の進行方向が、案内予定ルートから外れる方向に向いている場合にも、制御切り替え部39は、第1の制御から第2の制御への切り替えを行うこととしても良い。
【0082】
なお、上記の実施の形態では、車両状態予測情報をナビゲーションシステムを用いて取得しているが、車両と車両との間で互いに通信することができる車車間通信システムにより車両が今後通過する一定区間の経路における、他車の過去の所定期間の平均車速を取得するようにしてもよい。このとき、自車の車速が今後他車の車速に近づくことが推定され、現状の自車の車速と他車の車速との差分から今後の車速変化量を算出することができる。たとえば、他車の車速から今後走行するであろう経路が渋滞していることや信号機などにより自車が今後停車することが予測される場合、車両は現状の状態から減速状態に移行することが予測され、移行前と移行後との車速の差分から今後の車速変化量を算出することができる。また、信号機により停車状態から発車することが予測される場合、車両は停車状態から加速状態に移行することが予測され、移行前と移行後との車速の差分から今後の車速変化量を算出することができる。これらの車速変化量に応じて今後の混合気の空燃比の変化量を算出し、その混合気の空燃比の変化量に応じて今後のΔOSAを算出するようにしてもよい。ここで、所定の状況で実際に算出されたΔOSAが所定回数蓄積された場合には、それらのΔOSAの平均値と今回算出されたΔOSAとの差分を、今回算出されたΔOSAに対して一定割合反映させるようにしてもよい。
【0083】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】エンジン制御システムのシステム構成を示すブロック図である。
【図2】エンジン制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】エンジン制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【図4】トルクの変化およびOSAの変化を示す図であって、(A)は予測した車速変化時のトルク変化を示し、(B)は走行予定地点の推定OSAの変化を示し、(C)は走行予定地点の目標OSAの変化を示している。
【図5】SC状態推定処理を示すフローチャートである。
【図6】車両のカーブ半径に対応する車速の変化を示す図である。
【図7】車速変化に対応する空燃比の変化を示す図である。
【図8】坂路角度に対応する空燃比の変化を示す図である。
【図9】トルクの変化に対応する触媒床温の変化を示す図である。
【図10】OSA制御処理を示すフローチャートである。
【図11】ΔOSAと目標OSAとの関係を示す図である。
【図12】制御切り替え部による制御の切り替え処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
11 エンジン制御装置
39 制御切り替え部
40 情報取得部
41 SC状態推定部
42 OSA制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気を吸気するエンジン及び前記エンジンから排気された排気ガスを触媒により浄化する触媒コンバータを備えた車両にて、前記エンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記車両が今後通過する経路における車両の状態を予測するための車両状態予測情報を取得する情報取得手段からの車両状態予測情報に基づき、前記経路における車速変化量を推定し、前記車速変化量に基づき、所定地点での前記触媒コンバータの推定触媒酸素吸蔵量を算出することにより、前記触媒コンバータの状態を推定する触媒コンバータ状態推定手段と、
前記推定触媒酸素吸蔵量に基づき、前記所定地点より前の地点で目標とする前記触媒コンバータの目標触媒酸素吸蔵量を設定し、前記触媒コンバータの現状の触媒酸素吸蔵量が前記目標触媒酸素吸蔵量になるように制御する一の制御と、前記一の制御とは異なる他の制御とのいずれかを実行する触媒酸素吸蔵量制御手段と、
前記車両が設定経路から逸脱していたと判断された場合に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を前記一の制御から前記他の制御に切り替える切り替え手段と、を備えるエンジン制御装置。
【請求項2】
前記切り替え手段は、
前記車両が前記設定経路から第1の距離以上逸脱したと判断された場合に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を前記一の制御から前記他の制御に切り替え、
前記車両が、前記設定経路から第1の距離以上逸脱した状態から、前記設定経路から前記第1の距離よりも小さい第2の距離以内に入ったと判断された場合に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を、前記他の制御から前記一の制御に切り替えることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記切り替え手段は、
前記車両が、前記設定経路から第1の距離以上逸脱した状態から、前記設定経路が再設定され、当該新たな設定経路から前記第1の距離よりも小さい第2の距離以内に前記車両が入った状態で所定時間経過した際に、前記触媒酸素吸蔵量制御手段の制御を、前記他の制御から前記一の制御に切り替えることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記車両が前記設定経路から前記第1の距離以上逸脱した後の触媒酸素吸蔵量と、前記触媒コンバータの触媒最大酸素吸蔵量との関係に応じて、前記エンジンにより吸気される混合気の空燃比を変更する空燃比変更手段を備える請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
混合気を吸気するエンジン及び前記エンジンから排気された排気ガスを触媒により浄化する触媒コンバータを備えた車両にて、前記エンジンを制御するエンジン制御方法であって、
前記車両が今後通過する経路における車両の状態を予測するための車両状態予測情報を取得する情報取得手段からの車両状態予測情報に基づき、前記経路における車速変化量を推定し、前記車速変化量に基づき、所定地点での前記触媒コンバータの推定触媒酸素吸蔵量を算出することにより、前記触媒コンバータの状態を推定する推定ステップと、
前記推定触媒酸素吸蔵量に基づき、前記所定地点より前の地点で目標とする前記触媒コンバータの目標触媒酸素吸蔵量を設定し、前記触媒コンバータの現状の触媒酸素吸蔵量が前記目標触媒酸素吸蔵量になるように制御する一の制御と、前記一の制御とは異なる他の制御とのいずれかを実行する制御ステップと、
前記車両が前記設定経路から逸脱していたと判断された場合に、前記制御ステップの制御を前記一の制御から前記他の制御に切り替える切り替えステップと、を含むエンジン制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−221897(P2009−221897A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64864(P2008−64864)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】