エンジン自動停止再始動制御装置
【課題】エンジン再始動時の車体の前後方向の振動をより抑制することができるエンジン自動停止再始動制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン再始動を行う際に、ショック抑制ブレーキ制御を行い、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間の差である変化速度差に応じた制動トルクを発生させる。これにより、エンジン再始動時に生じる振動トルクを抑制することが可能となり、車体のショックを抑制することが可能となる。
【解決手段】エンジン再始動を行う際に、ショック抑制ブレーキ制御を行い、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間の差である変化速度差に応じた制動トルクを発生させる。これにより、エンジン再始動時に生じる振動トルクを抑制することが可能となり、車体のショックを抑制することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定条件を満たした場合にアイドリングストップを行うべく、走行駆動源となるエンジン(内燃機関)を停止するアイドリングストップ制御(以下、IS制御という)を実行するエンジン自動停止再始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、エンジン再始動時に車両に発生する前後方向の揺れ(前後加速度)を解消することを目的とした制御装置が提案されている。エンジン再始動時にエンジン回転速度の不安定およびクラッチの係合状態に基づいて、車両に前後方向の揺れ(前後加速度)が発生する。このため、特許文献1に記載の制御装置では、駆動力の回復に合せて駆動力の減少のタイミングおよび減少のさせ方を決定することで、前後方向の揺れを解消している。具体的には、エンジン再始動時において、制動力の減少開始タイミングをエンジン回転速度がアイドル回転速度の落ち着く前の最大回転速度到達から一定時間経過した時点とし、制動力の減少速度を停車保持制動力の大きさに基づいて決定している。これにより、車両の飛び出しの抑制と、後退の防止を両立させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−313253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発進応答性向上のニーズからエンジン再始動時間を短縮していくと、エンジン回転速度の最大回転速度のピークも高くなり、それに伴うショックも大きくなる傾向にある。そして、上述した特許文献1に示される制御では、そのショックが最大となる最大回転速度の時には、制動力が十分に掛かった状態となっているため、エンジントルク以外の振動トルクが車軸トルクに加わって、駆動系に振動的なショックが生じ、車体を前後方向に振動させるという問題がある。すなわち、トランスミッションが係合された状態でエンジンを早期再始動すると、エンジンの吹上がりが大きくなることで、通常始動時よりも瞬間的な大トルクを発生させる。この瞬間的な大トルクが車両に備わるトランスミッション、サスペンション、タイヤなどに共振を起こし、車体を前後方向に振動させるという問題を発生させるのである。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、エンジン再始動時の車体の前後方向の振動をより抑制することができるエンジン自動停止再始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、自動停止再始動制御手段(100、200、300)にて、車両の走行駆動源となるエンジン(1)を停止および再始動させるエンジン自動停止再始動制御装置において、実車軸トルク変化速度演算手段(361、371)にて、エンジン(1)の再始動時に、実際に発生させられる実車軸トルクの変化速度を演算すると共に、理想車軸トルク変化速度演算手段(362、372)にて、エンジン(1)が発生するエンジントルクに対応する理想車軸トルクの変化速度を演算し、変化速度差演算手段(363、373)にて、実車軸トルクの変化速度と理想車軸トルクの変化速度との差である変化速度差を演算する。そして、振動抑制制御手段(365、366、374)により、変化速度差に基づいて制動トルクを付与する振動抑制制御を実行することを特徴としている。
【0007】
このように、エンジン再始動を行う際に、振動抑制制御を行い、実際の車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間の差である変化速度差に応じた制動トルクを発生させるようにしている。これにより、エンジン再始動時に生じる振動トルクを抑制することが可能となり、車体のショックを抑制することが可能となる。
【0008】
例えば、請求項2に記載したように、エンジン(1)を停止させているときに、停車状態になると、該停車状態を保持するための停車保持トルク以上のトルクを制動トルクとして付与する停車保持ブレーキ制御手段(262)を備えている場合、振動抑制制御手段(365、366、374)にて、変化速度差が減少する際に、停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している停車保持トルク以上のトルクに代えて変化速度差に基づく制動トルクを付与することができる。
【0009】
この場合、請求項3に記載したように、振動抑制制御手段(365、366、374)は、停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している停車保持トルク以上のトルクに代えて変化速度差に基づく制動トルクを付与したのち、変化速度差が減少しなくなると、該変化速度差の減少が止まったときの制動トルクを保持するようにしても良い。
【0010】
請求項4に記載の発明では、停車保持ブレーキ制御手段(262)は、エンジン(1)を再始動するときのエンジン回転数の吹上がりトルクと停車保持トルクとを比較し、吹上がりトルクが停車保持トルクよりも大きいときには、該吹上がりトルクを停車保持トルク以上のトルクとして付与することを特徴としている。
【0011】
このように、エンジン回転数の吹上がりトルクに対応して、エンジン再始動時の車体のショックを抑制するのに必要な制動トルクを満たすように、制動トルクとして吹上がりトルクを設定している。これにより、エンジン再始動時に車体のショックの抑制を十分に行うことができる大きさの制動トルクを発生することが可能となる。
【0012】
請求項5に記載の発明では、変化速度差がピークに至ったか否かをするピーク判定手段(364)を有し、振動抑制制御手段(365、366、374)は、ピーク判定手段(364)にて変化速度差がピークに至ったと判定されるまでは停車保持トルク以上のトルクを付与し、ピーク判定手段(364)にて変化速度差がピークに至ったと判定されたときから、変化速度差が減少する際には、停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している停車保持トルク以上のトルクに代えて変化速度差に基づく制動トルクを付与することを特徴としている。
【0013】
このように、予め停車保持トルク以上のトルクが付与されている状況においては、変化速度差がピークに至った時、つまり変化速度差に基づいて設定される振動抑制のための制動トルクのピークから制動トルクを減少させるようにすれば、停車状態に応じたショック抑制が行える。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるIS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が適用された車両制御システムの全体構成図である。
【図2】エンジンECU20が実行するIS制御処理のフローチャートである。
【図3】図2中のエンジン稼動中の処理を示したフローチャートである。
【図4】図2中のエンジン停止処理を示したフローチャートである。
【図5】図4中の停車保持ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図6】図2中のエンジン停止中の処理を示したフローチャートである。
【図7】ショック抑制ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図8】(a)は、エンジン再始動時のエンジン回転数の時間変化を示した図、(b)、(c)は、エンジン回転数の時間変化に対応する理想車軸トルクと理想車軸トルク変化速度の時間変化を示した図、(d)、(e)は、ショック抑制ブレーキ制御を行っていないときの実際の車軸トルクと車軸トルク変化速度の時間変化を示した図である。
【図9】(a)は、ショック抑制ブレーキ制御を行わない場合の車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との関係、および、これらの差に基づくショック抑制ブレーキ制御後の車軸トルク変化速度を示す図、(b)は、ショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示した図、(c)は、停車中のショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示した図である。
【図10】停車状態のときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(1)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図11】停車状態ではないときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(2)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図12】実車軸トルク変化速度演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図13】理想車軸トルク変化速度演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図14】パターン(1)のショック抑制ブレーキ制御が実行された場合を説明するためのタイミングチャートである。
【図15】パターン(2)のショック抑制ブレーキ制御が実行された場合を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるIS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が適用された車両制御システムの全体構成図である。ここでは、エンジン1が前方に搭載され、後輪RR、RL側を駆動輪とするFR車両に対して本発明の一実施形態となるエンジン自動停止再始動制御装置を適用した場合について説明するが、前輪FR、FL側を駆動輪とするFF車両等、他の形態の車両についても同様に適用可能である。
【0018】
図1に示されるように、FR車両の駆動系は、エンジン1、トランスミッション2、プロペラシャフト3、デファレンシャル4およびドライブシャフト5にて構成され、これらを通じて駆動輪となる後輪RR、RLに駆動力を付与する。具体的には、アクセルペダル6の操作量に基づいて発生させられたエンジン出力(エンジントルク)がトランスミッション2に伝えられ、トランスミッション2で設定されたギア位置に応じたギア比で変換されたのち、プロペラシャフト3に駆動力が伝達される。そして、プロペラシャフト3に対し、デファレンシャル4を介して接続されたドライブシャフト5を通じて、後輪RR、RLに駆動力を付与する。
【0019】
また、制動系は、ブレーキペダル7の操作量に応じてM/C8内にブレーキ液圧を発生させると共に、それを各車輪FR〜RLに伝えることで制動力を発生させるブレーキシステムにより構成されている。このブレーキシステムには、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10および各車輪FR〜RLそれぞれに対して備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)11FR、11FL、11RR、11RL、キャリパ12FR、12FL、12RR、12RL、および、ディスクロータ13FR、13FL、13RR、13RLが備えられている。そして、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10にてW/C11FR〜11RLに加えられるブレーキ液圧(以下、W/C圧という)を制御することにより、キャリパ12FR、12FL、12RR、12RL内に備えられたブレーキパッドによるディスクロータ13FR、13FL、13RR、13RLの挟持力を調整し、各車輪FR〜RLの制動力を制御できる構成とされている。
【0020】
例えば、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10は、W/C11FR〜11RLの圧力を増圧、保持、減圧するための各種制御弁や減圧時にW/C11FR〜11RL内のブレーキ液を収容するリザーバ、リザーバに収容されたブレーキ液をM/C8側に戻すポンプおよびこのポンプを駆動するモータなどを備えた構成とされている。このような構成により、ノーマルブレーキ時にはM/C8とW/C11FR〜11RLとの間を接続することで、ブレーキペダル7の操作量(ストローク量もしくは踏力)に応じた制動力を各車輪FR〜RLに発生させる。そして、各車輪FR〜RLのスリップ率がABS制御開始閾値を超えるとABS制御を開始し、W/C圧を制御することでロック傾向を回避する。具体的には、ABS制御時には、各種制御弁を駆動すると共に、モータを駆動してポンプを作動させることで、W/C圧を増圧、保持、減圧し、各車輪FR〜RLのスリップ率を所望のスリップ率に制御して、ロック傾向を回避できるようにしている。
【0021】
また、本システムでは、駆動系を制御するためのエンジンコントローラ(以下、エンジンECUという)20やトランスミッションコントローラ(以下、T/M−ECUという)30および制動系を制御するためのブレーキコントローラ(以下、ブレーキECUという)40が備えられている。
【0022】
エンジンECU20は、基本的にはエンジン1の制御を行うものであるが、本実施形態の場合、IS制御も実行する部分として機能する。本実施形態では、このエンジンECU20と後述するブレーキECU40が一体となって本発明のエンジン自動停止再始動制御装置を構成している。
【0023】
エンジンECU20は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することでエンジン出力(エンジントルク)を制御し、後輪RR、RLに発生させられる駆動力を制御する。例えば、エンジンECU20は、アクセルペダル6の操作量をペダルセンサ6aの検出信号より入力し、アクセルペダル6の操作量に基づいて燃料噴射装置を調整して燃料噴射量を調整する。これにより、エンジン出力が制御され、駆動力が制御される。また、本実施形態では、このエンジンECU20によってIS制御も行っており、エンジン1に対してエンジン停止要求の出力を行うと共に、スタータ1aに対してエンジン始動要求の出力を行っている。エンジン停止要求やエンジン始動要求は、各種条件を満たしたときに出力される。この各種条件については、後述する。
【0024】
また、エンジンECU20は、T/M−ECU30からのATポンプ2aの始動要求(以下、ATポンプ始動要求という)を入力すると共に、ブレーキECU40からブレーキ・車速情報を入力している。ATポンプ2aは、エンジン1の駆動に伴って駆動されるトランスミッション2を駆動するためのものである。このATポンプ2aを駆動する際には、エンジン1を駆動することが必要になるため、T/M−ECU30からエンジンECU20に対してATポンプ始動要求を出力することで、エンジンECU20を介してエンジン1の始動要求を出力させるようにしている。また、IS制御におけるエンジン停止要求を出力する条件として、後述するようにブレーキ圧やABS制御中であるか否かの情報および車速を用いている。このため、ブレーキECU40からエンジンECU20にブレーキ情報としてブレーキ圧やABS制御中であるか否かの情報を伝えると共に車速情報を伝えることで、IS制御に利用できるようにしている。
【0025】
さらに、エンジンECU20は、バッテリ21の電圧(バッテリ電圧)に関する情報を入力している。このバッテリ電圧についても、IS制御におけるエンジン始動要求を出力する条件として用いているため、エンジンECU20に入力することで、IS制御に利用できるようにしている。
【0026】
T/M−ECU30は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することでトランスミッション2のギア位置の選択等を行う。T/M−ECU30は、エンジンECU20と情報交換を行っており、トランスミッション2のギア位置をエンジンECU20に伝えている。このため、上述したエンジンECU20では、アクセルペダル6の操作量に加えて、このT/M−ECU30から伝えられた情報に示されたトランスミッション2のギア位置を考慮に入れて、エンジン出力を演算する。また、T/M−ECU30は、ATポンプ2aを駆動するときにはATポンプ始動要求を出力し、エンジンECU20にその旨を伝えている。
【0027】
ブレーキECU40は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することで、任意の制動力を各車輪FR〜RLに対して発生させる。
【0028】
また、ブレーキECU40は、各種センサの検出信号に基づいて各種演算を行っている。例えば、ブレーキペダル7の操作量に応じて発生させられるM/C8内のM/C圧を圧力センサ8aによって検出し、M/C圧を時間微分することでブレーキ圧変化速度を演算している。また、ブレーキECU40は、前後加速度(以下、前後Gという)センサ41の検出信号を入力し、この前後Gセンサ41の検出信号に基づいて車両減速度を演算している。また、ブレーキECU40は、車載カメラ42が撮影した映像に基づき、道路上の温度や路面種類(アスファルト路面、コンクリート路面、積雪路、凍結路などの種類)を公知の手法によって識別することで路面μを検出している。さらに、ブレーキECU40は、各車輪FR〜RLに備えられた車輪速度センサ14FR、14FL、14RR、14RLからの検出信号を受け取り、各車輪速度を求めると共に、求めた各車輪速度に基づいて公知の手法によって推定車体速度(以下、単に車速という)を演算したり、車速と各車輪速度との差を車速で割ることで、各車輪FR〜RLのスリップ率を演算している。そして、スリップ率がABS制御の開始閾値を超えると、ブレーキECU40がブレーキ液圧制御用アクチュエータ10に対して制御信号を出力することにより、制御対象輪のW/C11FR〜11RLに発生させられるW/C圧を制御し、該当車輪の制動力を制御することでロック傾向を回避する。
【0029】
なお、ここでは詳細については図示していないが、エンジンECU20には、ブレーキ圧以外の他の始動要求として、ATポンプ始動要求以外にも様々なECUからの始動要求が入力されるようになっている。すなわち、エンジン1によって駆動されるような装置を使用する際には、エンジン1を再始動しなければならなくなるため、そのような装置の制御を行っているECUからの始動要求がエンジンECU20に入力される。例えば、図1中に示したように、バッテリ21に対して充電を行うために駆動されるオルタネータ50やエアコンを利用する際に駆動されるコンプレッサ60も、エンジン1によって駆動されるものであるため、これらを駆動する場合にはエンジン1を再始動しなければならない。したがって、例えば、オルタネータ50の制御を司る電源ECUやエアコンの制御を司るエアコンECUから始動要求が出力されることで、ブレーキ圧以外を理由とする始動要求がエンジンECU20に入力されるようになっている。
【0030】
このようにして、IS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が備えられた車両制御システムが構成されている。続いて、本実施形態の車両制御システムが行うIS制御について、図を参照して説明する。
【0031】
図2は、本実施形態のエンジン自動停止再始動制御装置として機能するエンジンECU20が実行するIS制御処理のフローチャートである。この図に示される処理は、例えば図示しないイグニッションスイッチがオンされた場合において、所定の制御周期ごとに実行される。
【0032】
まず、ステップ100では、エンジン稼動中であるか否かを判定する。イグニッションスイッチがオンされている場合において、エンジンECU20がエンジン停止要求を出力してエンジン1を停止しており、かつ、その後に始動要求を出力してエンジン1を再始動させていない状況であれば、エンジン1は停止中である。また、エンジン回転数がアイドル時に想定される所定回転数以上であれば、エンジン1は稼動中である。エンジンECU20は、自分自身でこれらの情報を扱っているため、これらいずれかの情報に基づいてエンジン稼動中であるか否かを判定することができる。
【0033】
そして、ステップ100で肯定判定されれば、ステップ200に進んでエンジン稼動中の処理を行う。また、ステップ100で否定判定されれば、ステップ300に進んでエンジン停止中の処理を行う。
【0034】
図3は、エンジン稼動中の処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン稼動中の処理について説明する。
【0035】
まず、ステップ210では、ブレーキ圧以外のアイドルストップ許可条件が成立しているか否かを判定する。ブレーキ圧以外のアイドルストップ許可条件とは、アイドルストップを許可する条件として決められている諸条件であり、例えばアクセルオフかつ車速が所定速度(例えば10km/h)以下であること、バッテリ電圧が確保できていること(バッテリ電圧が閾値以上有ること)などが挙げられる。
【0036】
アクセルオフかつ車速が所定速度以下であることは、ドライバが車両を停止させる意志があることを示している。アクセルオフについては、アクセルペダル6の操作量の検出を行うペダルセンサ6aの検出信号に基づいて検出され、車速については、ブレーキECU40から伝えられる。アイドルストップは、ドライバが車両を停止させる際に燃費向上を図るために実行されるのであり、車両を停止させずに走行させる可能性が有る場合には実行することが好ましくない。このため、アクセルオフかつ車速が所定速度以下を条件としている。
【0037】
また、バッテリ電圧が確保できていることは、アイドルストップしたときにエンジンECU20がエンジン1をバッテリ電圧の回復のために再始動させるような状況ではないことを示している。つまり、バッテリ電圧低下が生じると、オルタネータ50を駆動するために始動要求が出され、エンジン1が再始動させられる可能性がある。この場合には、ABS制御の制御性を確保できなくなる可能性があるため、バッテリ電圧が確保できていることを条件としている。なお、バッテリ21の電圧低下については、バッテリ21の電圧が所定の閾値以上あるか否かを判定することで、確保できているか否かを判定できる。
【0038】
ここで否定判定されれば、アイドルストップを実行するタイミングではないため、ステップ220に進み、エンジン停止禁止処理として、アイドルストップを禁止して、本制御周期での処理を終了する。したがって、アクセルオンもしくは車速が所定速度を超えているときのように、車両を停止させずに走行させる可能性がある場合にはアイドルストップが禁止される。また、バッテリ電圧が確保できていない場合にもアイドルストップが禁止され、アイドルストップ中にブレーキ圧以外の条件でエンジン1が再始動されるような場合にも、アイドルストップが禁止される。
【0039】
一方、ステップ210で肯定判定されればステップ230に進み、ブレーキ圧が第1の閾値以上であるか否かを判定する。第1の閾値は、アイドルストップを許可する閾値であり、車両が減速するブレーキ圧であって、ドライバがブレーキの意思が有ると想定されるブレーキ圧に設定される。ここでいうブレーキ圧は、W/C圧のことを示しているが、ABS制御実行中でなければ、M/C圧をブレーキ圧として用いても良い。M/C圧については、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10に圧力センサ8aが備えられるため、その圧力センサの検出信号に基づいてブレーキECU40で演算することができる。この演算結果がブレーキECU40からエンジンECU20に伝えられるようにすることで、エンジンECU20にM/C圧が伝えられるようにしている。なお、ここではW/C圧そのものの検出を行っていないが、各W/C11FR〜11RLに圧力センサを備えることで各W/C圧を検出することもできる。
【0040】
ここで、肯定判定されればステップ240に進み、否定判定されればステップ220に進んで上述したエンジン停止禁止処理を実行して処理を終了する。
【0041】
ステップ240ではブレーキ圧が第2の閾値以上であるか否かを判定する。第2の閾値は、第1の閾値よりも高い値であって、アイドルストップを許可する条件を満たしたものの、仮にアイドルストップを行ったとすると、その後、何らかの始動要求によってエンジン1が再始動させられたときのバッテリ電圧低下によってABS制御の制御性を確保できなくなる可能性がある高さのブレーキ圧に設定される。例えば、第2の閾値以上のブレーキ圧が発生している状況下において、アイドルストップが実行され、その後ABS制御が開始されることがある。この場合において、エンジン1が再始動されることによるバッテリ電圧低下が発生すると、高いブレーキ圧が印加されることによる過大なポンプ負荷がABS制御用のモータの作動に影響を及ぼすため、ABS制御の制御性を確保できなくなる。このため、このような可能性がある場合には、ステップ220に進み、上述したエンジン停止禁止処理を実行して処理を終了する。
【0042】
ステップ250では、ABS制御中であるか否かを判定する。ABS制御中であるか否かは、ブレーキECU40から伝えられるブレーキ情報中に含まれるABS制御中であるか否かの情報に基づいて判定される。例えば、ブレーキECU40では、ABS制御の開始条件を満たしたときに、車速が停止もしくはブレーキ操作が解除されるまでABS制御中フラグをセットするようにしている。このABS制御中フラグがセットされているときにはエンジンECU20にABS制御中であるという情報が伝えられ、リセットされていればエンジンECU20にABS制御中でないという情報が伝えられる。
【0043】
ABS制御中に、何らかの始動要求が出されてエンジン1が再始動させられることになると、実行中のABS制御が制御性良く実行できなくなる可能性がある。このため、ABS制御中には、アイドルストップを実行するよりもABS制御が優先して行われるようにする方が好ましい。したがって、本ステップで肯定判定されるとステップ220に進んでアイドルストップを禁止し、否定判定されればステップ260に進む。このように、ABS制御中と判定されたときにはアイドルストップが禁止され、ABS制御が終了後に再びアイドルストップが許可される。
【0044】
ステップ260では、アイドルストップを許可する。アイドルストップの許可が出されると、エンジンECU20からエンジン停止要求が出力され、エンジン1が停止させられる。したがって、燃料噴射装置の調整によって燃料噴射量が0とされるため、燃費向上を図ることが可能となる。また、エンジン停止処理を行う。
【0045】
図4は、エンジン停止処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン停止処理について説明する。
【0046】
まず、ステップ261では、停車状態であるか否かを判定する。この判定は、車速が0であるか否か等に基づいて判定することができる。エンジンECU20は、ブレーキECU40から車速情報を入力しているため、この車速情報に基づいて本判定を行うことができる。そして、停車状態と判定されれば、ステップ262に進む。また、停車状態でなければそのまま処理を終了する。
【0047】
次に、ステップ262では、停車保持ブレーキ制御処理を実行する。この停車保持ブレーキ制御処理では、基本的には、停車状態を維持するために必要な制動トルクを発生させるための処理を行う。
【0048】
図5は、停車保持ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図を参照して、停車保持ブレーキ制御処理について説明する。
【0049】
まず、ステップ262aでは、エンジンECU20に備えられた図示しない停車保持ブレーキ制御中フラグをオンし、停車保持ブレーキ制御中であることを記憶しておく。そして、ステップ262bに進み、M/C圧、路面勾配、クリープトルクに基づいて、停車状態を維持するために必要となる制動トルクに相当する停車保持トルクを演算する。M/C圧については、圧力センサ8aの検出結果を用いている。路面勾配については、図示しない前後Gセンサ41の検出信号に重力加速度成分が含まれているため、停車状態の際の前後加速度センサの検出信号から周知の手法により求めている。クリープトルクについては、エンジンECU20で扱っているクリープ走行時のエンジントルクであるため、それを用いている。これらに基づいて、車両の前進方向に寄与するトルクから車両の後進方向に寄与するトルクを差し引き、その差分を抑えつつ停車状態が維持できる大きさの制動トルクを停車保持トルクとして設定している。
【0050】
続く、ステップ262cでは、エンジン始動時のエンジン回転の吹上がりトルクよりも停車保持トルクが大きいか否かを判定する。吹上がりトルクについては、予め実験などによって求めておくことにより想定できる。このため、ステップ262bで演算した停車保持トルクと吹上がりトルクを大小比較し、停車保持トルクの方が吹上がりトルクよりも大きければステップ262dに進み、吹上がりトルクの方が停車保持トルクよりも大きければステップ262eに進む。
【0051】
そして、ステップ262dでは、停車保持トルクを出力して処理を終了し、ステップ262eでは、吹上がりトルクを出力して処理を終了する。すなわち、吹上がりトルクの方が停車保持トルクよりも大きい場合、その停車保持トルクでは、後述するショック抑制ブレーキ制御(振動抑制制御に相当)処理の際に抑制したいエンジン再始動時の車体のショックを抑制するのに必要な制動トルクに満たないことを意味している。このため、ステップ262eでは、エンジン回転数の吹上がりトルクに対応して、エンジン再始動時の車体のショックを抑制するのに必要な制動トルクを満たすように、制動トルクとして吹上がりトルクを設定している。これにより、エンジン再始動時に車体のショックの抑制を十分に行うことができる大きさの制動トルクを発生することが可能となる。
【0052】
続いて、上述した図2のステップ300におけるエンジン停止中の処理について説明する。図6は、エンジン停止中の処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン停止中の処理について説明する。
【0053】
まず、ステップ305では、ABS制御中であるか否かを判定する。この判定は、上述した図3のステップ250と同様にして行われる。ここで肯定判定されれば、ABS制御の制御性が悪化することを抑制するために、ステップ310に進み、再始動禁止処理を実行する。つまり、エンジン1を再始動することによってバッテリ電圧低下が発生し、ABS制御用のモータの作動に影響を及ぼし、ABS制御の制御性を確保できなくなる可能性があることから、ABS制御中には再始動禁止処理を実行し、エンジン1が再始動されないようにする。
【0054】
続いて、ステップ305で否定判定された場合にはステップ315に進み、ABS作動予測があるか否かを判定する。この判定は、図示しない別フローで実行されるABS制御が実行されることを予測するABS作動予測判定処理に基づいて行われる。ABS作動予測判定処理では、車速がABS開始許可車速である場合に、スリップ率が閾スリップ率以上であること、車輪減速度が第1閾減速度以上であること、ブレーキ圧変化速度が閾変化速度以上であること、車体減速度が第2閾減速度以上であること、路面μが閾μ値以下であること、等の判定を行い、これらいずれかが該当していればABS作動予測ありと判定している。ここで、ABS作動予測があると判定されるとステップ310に進み、ABS作動予測がないと判定されるとステップ320に進む。
【0055】
ステップ320では、ブレーキ圧による再始動要件を満たしたか否かを判定する。ここでいうブレーキ圧による再始動要件とは、ドライバがブレーキペダル7を離した、もしくはドライバに制動意思が無いと想定されるまでブレーキペダル7を緩めたと考えられる程度に、ブレーキ圧が低下したことを意味している。具体的には、ブレーキ圧が第1、第2の閾値よりも小さい解除閾値以下になったことをブレーキ圧による再始動要件として上記判定を行っている。
【0056】
ここで肯定判定される場合にはブレーキが解除されると想定され、ABS制御が実行されることは無く、車両が発進する可能性もあるため、ステップ330に進んで再始動許可処理およびショック抑制ブレーキ制御処理を実行する。また、ここで否定判定された場合にはステップ325に進み、ブレーキ圧以外の再始動要求があったか否かを判定する。ブレーキ圧以外の再始動要求とは、ATポンプ始動要求などの始動要求のことを意味している。このようなブレーキ圧以外の再始動要求があった場合にも、ステップ330に進んでスタータ1aに対して始動要求を出力してエンジン再始動の許可を出し再始動許可処理を実行する。また、この再始動許可処理と共にショック抑制ブレーキ制御処理を行う。
【0057】
図7は、ショック抑制ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図を参照してショック抑制ブレーキ制御処理について説明する。
【0058】
まず、ステップ340では、エンジン再始動中であるか否かを判定する。スタータ1aに対して始動要求を出してから所定期間中は、エンジン再始動のために車体を前後方向に振動させるというショックを発生させる可能性がある。このため、エンジン再始動中であることを検知し、そのときにショック抑制ブレーキ制御が実行されるようにしている。エンジン再始動中であるか否かについては、エンジンを再始動させることを示すフラグやエンジン回転数に基づいて判定している。エンジンを再始動させることを示すフラグは、図6のステップ330でエンジン再始動の許可を出す時にセットされるもので、エンジン再始動の許可を出した後にエンジン回転数が吹上がり時に想定されるピーク値に至ったときにリセットされる。このフラグがセットされており、かつ、エンジン回転数がエンジンが再始動されたときに想定されるアイドル回転数よりも小さな閾値以下であれば、エンジン再始動中であると判定している。ここで否定判定された場合には、車体にショックが発生する可能性がないため、そのまま処理を終了し、肯定判定された場合には、ステップ350に進む。
【0059】
ステップ350では、停車保持ブレーキ制御が実行されているか否かを停止保持ブレーキ制御中フラグがオンしているか否かに基づいて判定する。ここで肯定判定されればステップ360に進んで、ショック抑制ブレーキ制御のパターン(1)の制御処理を実行し、否定判定されればステップ370に進んで、ショック抑制ブレーキ制御のパターン(2)の制御処理を実行する。ここで、ショック抑制ブレーキ制御のパターンとして、パターン(1)とパターン(2)を設けているが、パターン(1)は停車中におけるショック抑制ブレーキ制御を示したものであり、パターン(2)は停車していない状態におけるショック抑制ブレーキ制御を示したものである。つまり、停車中には、すでに制動トルクとして停車保持トルク(もしくは吹上がりトルク)が設定された状態となっているため、その状態でのショック抑制のための制御を行い、停車していない状態では、ブレーキ操作に対応する制動トルクは発生させられている可能性があるものの、決まった制動トルクは設定されていない状態となっているため、その状態でのショック抑制のための制御を行う。
【0060】
ここで、ショック抑制ブレーキ制御の詳細について説明する前に、ショック抑制ブレーキ制御による車体のショックの抑制方法の考え方について説明する。
【0061】
図8(a)は、エンジン再始動時のエンジン回転数の時間変化を示した図であり、図8(b)、(c)は、エンジン回転数の時間変化に対応する理想的な車軸トルク(以下、理想車軸トルクという)と理想車軸トルク変化速度の時間変化を示した図であり、図8(d)、(e)は、ショック抑制ブレーキ制御を行っていないときの実際の車軸トルク(以下、実車軸トルクという)と車軸トルク変化速度の時間変化を示した図である。
【0062】
エンジンを再始動させる際に、図8(a)に示すようにエンジン回転数は再始動の瞬間に大きく立ち上がったあと、徐々にアイドル回転数に落ち着いていく。これに対し、車軸トルクについては、図8(b)に示すようにエンジン回転数よりも緩やかに変化させ、車軸トルク変化速度については、図8(c)に示すように再始動の瞬間にのみ発生させた方が、飛び出し感を抑え、且つ素早く車軸トルクをクリープトルクとすることができるので、理想的である。
【0063】
しかしながら、実際には、図8(d)、(e)に示すように、エンジンの再始動に伴うエンジントルク以外の振動トルク(共振)が生じるため、実車軸トルクおよび実車軸トルク変化速度は振幅波形となる。これは、車体にショックを発生させていることを示している。
【0064】
このように、理想車軸トルクや理想車軸トルク変化速度と実車軸トルクや実車軸トルク変化速度との差に起因して車体にショックが発生している。このため、理想車軸トルク変化速度と実車軸トルク変化速度の差に基づいて振動トルクを抑制することで、実車軸トルクの振幅を抑制して理想車軸トルクに近づけることが可能となり、車両のショックを抑制することが可能にできる。
【0065】
図9(a)は、ショック抑制ブレーキ制御を行わない場合の車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との関係、および、これらの差に基づくショック抑制ブレーキ制御後の車軸トルク変化速度を示している。また、図9(b)は、ショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示しており、図9(c)は、停車中のショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示している。
【0066】
図9(a)に示すように、車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間に差が生じる。このため、理想車軸トルク変化速度を予め決めた車両モデルから規範モデルとして求め、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との差に基づいて、図9(b)に示すような振動トルクを抑制するための制動トルク(以下、ショック抑制制動トルクという)を連続的に決定し、そのショック抑制制動トルクを付与することで、制御後の車軸トルクを理想車軸トルクに近づけることが可能となる。また、エンジン再始動を行うとき、停車状態であれば、既に制動トルクとして停車保持トルク(もしくは吹上がりトルク)が発生させられている。このため、図9(c)に示すように、既に発生させられている制動トルクとショック抑制制動トルクを重ね合わせ、ショック抑制制動トルクのピークから制動トルクを減少させるようにすれば、停車状態に応じたショック抑制が行える。このような方法に基づいて、ショック抑制ブレーキ制御処理を行うことで、車両のショックを抑制することができる。
【0067】
図10は、停車状態のときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(1)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。また、図11は、停車状態ではないときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(2)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。これらの図を参照して、ショック制御ブレーキ制御の各パターン(1)、(2)の制御処理の詳細について説明する。
【0068】
まず、パターン(1)の場合には、ステップ361において、実車軸トルク変化速度を演算する。この実車軸トルク変化速度の演算は、図12に示す実車軸トルク変化速度演算処理により行われる。具体的には、図12のステップ361aに示すように、規範モデルに基づいて車軸トルク変化速度を推定している。ここで、規範モデルとは、実車計測によって得られたエンジン回転数と駆動系の振動成分を含んだ車軸トルク変化速度との関係をマップ等に示したものである。ここでは、エンジン回転数を表す信号を上記マップに近似させた2次振動系フィルタに通過させることにより、エンジン回転数に同定した車軸トルクを求め、これを微分することにより車軸トルク変化速度を演算している。例えば、2次振動系フィルタとして、所定周波数以下の周波数帯を通過させるローパスフィルタを用いることで、エンジン回転数を表す信号から駆動系の振動成分を含む車軸トルクを抽出している。
【0069】
次に、ステップ362において、理想車軸トルク変化速度を演算する。この理想車軸トルク変化速度の演算は、図13に示す理想車軸トルク変化速度演算処理により行われる。具体的には、図13のステップ362aに示すように、理想の応答を示す規範モデルに基づいて理想車軸トルク変化速度を算出している。ここで、理想の応答を示す規範モデルとは、エンジン回転数と駆動系の振動成分を含まない理想車軸トルク変化速度との理想的な関係をマップ等に示したものである。計測結果によれば、車軸系が数Hz(例えば約4Hz)の共振を示すため、車軸の共振周波数より低いカットオフ周波数(例えば約3Hz)を持つ二次のローパスフィルタを用いることで、エンジン回転数に同定した理想車軸トルクを求めることができるため、これを微分することにより理想車軸トルク変化速度を演算している。
【0070】
続いて、ステップ363では、ステップ361で演算した実車軸トルク変化速度とステップ362で演算した理想車軸トルク変化速度との差(以下、単に変化速度差という)を演算する。そして、ステップ364において、変化速度差がピークになっているか否かを判定する。ここで、変化速度差のピークとは、変化速度差が最大値を取ることを意味している。変化速度差がピークになっているとの判定は、演算した変化速度差が制御周期毎に増加していたものが低下したとき、もしくは、ステップ362で求められる理想車軸トルク変化速度の変化の傾向に基づいてエンジン再始動時の変化速度差のピークが予測できるため、その予測したピークに達したときに行われる。
【0071】
このステップ364で肯定判定されれば、ステップ365に進んで変化速度の差をトルク換算し、それを出力する。ただし、差が減少している時以外は、そのときに設定されているトルクを保持する。一方、否定判定されれば、ステップ366に進んで停車保持トルクを出力する。
【0072】
一方、パターン(2)の場合には、ステップ371〜373において、パターン(1)におけるステップ361〜363と同様の処理を行う。そして、ステップ374において、パターン(1)のステップ365と同様に、変化速度の差をトルク換算し、それを出力する。
【0073】
図14および図15は、パターン(1)、(2)それぞれのショック抑制ブレーキ制御が実行された場合を説明するためのタイミングチャートである。これらの図のうち、制動トルクについては、ショック抑制ブレーキ制御が実行された場合のタイミングチャートを示しており、エンジン回転数、車軸トルク、車軸トルク変化速度および車軸トルク変化速度差については、ショック抑制ブレーキ制御が実行されていない場合のタイミングチャートを参考として記載したものである。
【0074】
図14に示されるように、停車状態になっているため、エンジン再始動前から停車保持制動トルク(もしくは吹上がりトルク)が発生させられている。この状態から、時点T1をエンジン再始動が要求されたエンジン再始動タイミングとして、エンジンが再始動させられる。これにより、エンジン回転数の増加に伴って実車軸トルクと理想車軸トルクとの間に差が発生し、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間にも差(変化速度差)が発生する。このときの変化速度差が時点T2においてピークになったとき以降、変化速度差に基づいて決まる制動トルクが減少し始めるため、それに基づいて発生させる制動トルクが減少させられ、変化速度差に基づいて決まる制動トルクが発生させられる。
【0075】
時点T3において変化速度差が0になると、制動トルクの減少も終了させられ、再び変化速度差が発生する時点T4までその前に発生させられていた制動トルクが保持される。そして、時点T5から時点T6において時点T3から時点T4と同様の動作が行われ、変化速度差の低下に伴って制動トルクも減少していき、最終的に制動トルクが0となる。このように、変化速度差に基づいて制動トルクを設定することで、振動トルクを抑制することが可能となり、車両のショックを抑制することが可能となる。
【0076】
また、図15に示されるように、停車状態でないときには基本的にブレーキ操作が為されているときにIS制御におけるエンジン停止が行われるため、ブレーキ操作に対応した制動トルクが発生させられた状態となっている。この状態から、時点T1〜T7において、図14と同様の動作が行われる。このとき、基本的には停車状態のときと同様の動作が行われるが、先に設定された停車保持トルク(もしくは吹上がりトルク)が発生させられている状態ではないため、時点T1〜T2の間においても、変化速度差に応じた制動トルクが発生させれる。なお、ここではブレーキ操作に対応した制動トルクが発生させられている場合を想定しているため、変化速度差に応じた制動トルクがブレーキ操作に対応した制動トルクに加算されて発生させられることになる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態に示すエンジン自動停止再始動制御装置では、エンジン再始動を行う際に、ショック抑制ブレーキ制御を行い、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間の差である変化速度差に応じた制動トルクを発生させるようにしている。これにより、エンジン再始動時に生じる振動トルクを抑制することが可能となり、車体のショックを抑制することが可能となる。
【0078】
(他の実施形態)
上記実施形態では、吹上がりトルクを加味して、停車保持トルクが吹上がりトルクより小さい場合に、吹上がりトルクを制動トルクとして発生させるようにしている。つまり、ショック抑制ブレーキ制御を行うに際し、エンジン回転数の吹上がり時に、そのときに発生する吹上がりトルクよりも大きな制動トルクを発生させた状態にしておき、その後、変化速度差に基づいて、制動トルクを減少させるという制御を行っている。これに対して、制動トルクの減少だけでなく、制動トルクの増加も組み合わせても良い。例えば、吹上がりトルクを加味した制動トルクを予め発生させておくだけでなく、仮に停車保持トルクが吹上がりトルクよりも小さかったとしても、その停車保持トルクを発生させておいた上で、エンジン回転数の吹上がり時に、変化速度差に基づいて吹上がりトルクに相当する制動トルクとなるように制動トルクを増加させても良い。また、一旦制動トルクを減少させた後でも、変化速度が再び大きくなったときに、それに応じて制動トルクを増加させることもできる。
【0079】
また、上記実施形態では、図12に示す実車軸トルク変化速度の演算や図13に示す理想車軸トルク変化速度の演算に規範モデルを用い、それに近似した二次のフィルタを用いる場合について説明した。しかしながら、これも一例を示したにすぎず、フィルタではなく、規範モデルから求められるエンジン回転数と実車軸トルク変化速度もしくは理想車軸トルク変化速度の関係を示すマップを用いて、計測したエンジン回転数と対応する実車軸トルク変化速度や理想車軸トルク変化速度を算出しても良い。また、マップではなく、そのマップに相当する関数式を用いて、計測したエンジン回転数と対応する実車軸トルク変化速度や理想車軸トルク変化速度を算出しても良い。また、実車軸トルク変化速度に関しては、実際に車軸トルクを計測し、その値を用いても良い。
【0080】
また、上記実施形態では、図3のステップ220におけるエンジン停止禁止処理でアイドルストップ禁止を行っているが、ステップ210、230〜260の判定結果によっては、直ぐにステップ270のエンジン停止処理でアイドルストップ許可となる可能性がある。このため、エンジン停止禁止処理でアイドルストップ禁止が出されてからエンジン停止処理に移行してきた場合に、エンジン停止処理に移行してきてからの経過時間をカウントし、繰り返しエンジン停止禁止処理に至ることなくエンジン停止処理に至る状況が続いた場合に、初めてエンジン停止処理としてアイドルストップ許可が実行されるようにすることもできる。このように、判定時間を持たせることで、アイドルストップ禁止からアイドルストップ許可への移行で、無駄にエンジン停止されることを抑制することが可能となる。
【0081】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、ステップ100、200、300の処理を実行する部分が自動停止再始動制御手段、ステップ262の処理を実行する部分が停車保持ブレーキ制御手段、ステップ361、371の処理を実行する部分が実車軸トルク変化速度演算手段、ステップ362、372の処理を実行する部分が理想車軸トルク変化速度演算手段、ステップ363、373の処理を実行する部分が変化速度差演算手段、ステップ364の処理を実行する部分がピーク判定手段、ステップ365、366、374の処理を実行する部分が振動抑制制御手段に相当する。また、上記実施形態では、各種処理を実行する各機能部をエンジンECU20とブレーキECU40に分けて備えた形態としたが、エンジンECU20のみに備えても良いし、エンジンECU20とは別にIS制御用のECUを備え、このECUにすべての機能部を備えても良い。勿論、車両用のLANによって、各種データの受け渡しが可能であるため、複数のECUに各機能部が分散されて備えられた形態であっても構わない。
【符号の説明】
【0082】
1…エンジン、1a…スタータ、2…トランスミッション、2a…ATポンプ、6…アクセルペダル、7…ブレーキペダル、10…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、20…エンジンECU、21…バッテリ、40…ブレーキECU、50…オルタネータ、60…コンプレッサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定条件を満たした場合にアイドリングストップを行うべく、走行駆動源となるエンジン(内燃機関)を停止するアイドリングストップ制御(以下、IS制御という)を実行するエンジン自動停止再始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、エンジン再始動時に車両に発生する前後方向の揺れ(前後加速度)を解消することを目的とした制御装置が提案されている。エンジン再始動時にエンジン回転速度の不安定およびクラッチの係合状態に基づいて、車両に前後方向の揺れ(前後加速度)が発生する。このため、特許文献1に記載の制御装置では、駆動力の回復に合せて駆動力の減少のタイミングおよび減少のさせ方を決定することで、前後方向の揺れを解消している。具体的には、エンジン再始動時において、制動力の減少開始タイミングをエンジン回転速度がアイドル回転速度の落ち着く前の最大回転速度到達から一定時間経過した時点とし、制動力の減少速度を停車保持制動力の大きさに基づいて決定している。これにより、車両の飛び出しの抑制と、後退の防止を両立させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−313253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発進応答性向上のニーズからエンジン再始動時間を短縮していくと、エンジン回転速度の最大回転速度のピークも高くなり、それに伴うショックも大きくなる傾向にある。そして、上述した特許文献1に示される制御では、そのショックが最大となる最大回転速度の時には、制動力が十分に掛かった状態となっているため、エンジントルク以外の振動トルクが車軸トルクに加わって、駆動系に振動的なショックが生じ、車体を前後方向に振動させるという問題がある。すなわち、トランスミッションが係合された状態でエンジンを早期再始動すると、エンジンの吹上がりが大きくなることで、通常始動時よりも瞬間的な大トルクを発生させる。この瞬間的な大トルクが車両に備わるトランスミッション、サスペンション、タイヤなどに共振を起こし、車体を前後方向に振動させるという問題を発生させるのである。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、エンジン再始動時の車体の前後方向の振動をより抑制することができるエンジン自動停止再始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、自動停止再始動制御手段(100、200、300)にて、車両の走行駆動源となるエンジン(1)を停止および再始動させるエンジン自動停止再始動制御装置において、実車軸トルク変化速度演算手段(361、371)にて、エンジン(1)の再始動時に、実際に発生させられる実車軸トルクの変化速度を演算すると共に、理想車軸トルク変化速度演算手段(362、372)にて、エンジン(1)が発生するエンジントルクに対応する理想車軸トルクの変化速度を演算し、変化速度差演算手段(363、373)にて、実車軸トルクの変化速度と理想車軸トルクの変化速度との差である変化速度差を演算する。そして、振動抑制制御手段(365、366、374)により、変化速度差に基づいて制動トルクを付与する振動抑制制御を実行することを特徴としている。
【0007】
このように、エンジン再始動を行う際に、振動抑制制御を行い、実際の車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間の差である変化速度差に応じた制動トルクを発生させるようにしている。これにより、エンジン再始動時に生じる振動トルクを抑制することが可能となり、車体のショックを抑制することが可能となる。
【0008】
例えば、請求項2に記載したように、エンジン(1)を停止させているときに、停車状態になると、該停車状態を保持するための停車保持トルク以上のトルクを制動トルクとして付与する停車保持ブレーキ制御手段(262)を備えている場合、振動抑制制御手段(365、366、374)にて、変化速度差が減少する際に、停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している停車保持トルク以上のトルクに代えて変化速度差に基づく制動トルクを付与することができる。
【0009】
この場合、請求項3に記載したように、振動抑制制御手段(365、366、374)は、停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している停車保持トルク以上のトルクに代えて変化速度差に基づく制動トルクを付与したのち、変化速度差が減少しなくなると、該変化速度差の減少が止まったときの制動トルクを保持するようにしても良い。
【0010】
請求項4に記載の発明では、停車保持ブレーキ制御手段(262)は、エンジン(1)を再始動するときのエンジン回転数の吹上がりトルクと停車保持トルクとを比較し、吹上がりトルクが停車保持トルクよりも大きいときには、該吹上がりトルクを停車保持トルク以上のトルクとして付与することを特徴としている。
【0011】
このように、エンジン回転数の吹上がりトルクに対応して、エンジン再始動時の車体のショックを抑制するのに必要な制動トルクを満たすように、制動トルクとして吹上がりトルクを設定している。これにより、エンジン再始動時に車体のショックの抑制を十分に行うことができる大きさの制動トルクを発生することが可能となる。
【0012】
請求項5に記載の発明では、変化速度差がピークに至ったか否かをするピーク判定手段(364)を有し、振動抑制制御手段(365、366、374)は、ピーク判定手段(364)にて変化速度差がピークに至ったと判定されるまでは停車保持トルク以上のトルクを付与し、ピーク判定手段(364)にて変化速度差がピークに至ったと判定されたときから、変化速度差が減少する際には、停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している停車保持トルク以上のトルクに代えて変化速度差に基づく制動トルクを付与することを特徴としている。
【0013】
このように、予め停車保持トルク以上のトルクが付与されている状況においては、変化速度差がピークに至った時、つまり変化速度差に基づいて設定される振動抑制のための制動トルクのピークから制動トルクを減少させるようにすれば、停車状態に応じたショック抑制が行える。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるIS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が適用された車両制御システムの全体構成図である。
【図2】エンジンECU20が実行するIS制御処理のフローチャートである。
【図3】図2中のエンジン稼動中の処理を示したフローチャートである。
【図4】図2中のエンジン停止処理を示したフローチャートである。
【図5】図4中の停車保持ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図6】図2中のエンジン停止中の処理を示したフローチャートである。
【図7】ショック抑制ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図8】(a)は、エンジン再始動時のエンジン回転数の時間変化を示した図、(b)、(c)は、エンジン回転数の時間変化に対応する理想車軸トルクと理想車軸トルク変化速度の時間変化を示した図、(d)、(e)は、ショック抑制ブレーキ制御を行っていないときの実際の車軸トルクと車軸トルク変化速度の時間変化を示した図である。
【図9】(a)は、ショック抑制ブレーキ制御を行わない場合の車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との関係、および、これらの差に基づくショック抑制ブレーキ制御後の車軸トルク変化速度を示す図、(b)は、ショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示した図、(c)は、停車中のショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示した図である。
【図10】停車状態のときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(1)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図11】停車状態ではないときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(2)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図12】実車軸トルク変化速度演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図13】理想車軸トルク変化速度演算処理の詳細を示したフローチャートである。
【図14】パターン(1)のショック抑制ブレーキ制御が実行された場合を説明するためのタイミングチャートである。
【図15】パターン(2)のショック抑制ブレーキ制御が実行された場合を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるIS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が適用された車両制御システムの全体構成図である。ここでは、エンジン1が前方に搭載され、後輪RR、RL側を駆動輪とするFR車両に対して本発明の一実施形態となるエンジン自動停止再始動制御装置を適用した場合について説明するが、前輪FR、FL側を駆動輪とするFF車両等、他の形態の車両についても同様に適用可能である。
【0018】
図1に示されるように、FR車両の駆動系は、エンジン1、トランスミッション2、プロペラシャフト3、デファレンシャル4およびドライブシャフト5にて構成され、これらを通じて駆動輪となる後輪RR、RLに駆動力を付与する。具体的には、アクセルペダル6の操作量に基づいて発生させられたエンジン出力(エンジントルク)がトランスミッション2に伝えられ、トランスミッション2で設定されたギア位置に応じたギア比で変換されたのち、プロペラシャフト3に駆動力が伝達される。そして、プロペラシャフト3に対し、デファレンシャル4を介して接続されたドライブシャフト5を通じて、後輪RR、RLに駆動力を付与する。
【0019】
また、制動系は、ブレーキペダル7の操作量に応じてM/C8内にブレーキ液圧を発生させると共に、それを各車輪FR〜RLに伝えることで制動力を発生させるブレーキシステムにより構成されている。このブレーキシステムには、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10および各車輪FR〜RLそれぞれに対して備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)11FR、11FL、11RR、11RL、キャリパ12FR、12FL、12RR、12RL、および、ディスクロータ13FR、13FL、13RR、13RLが備えられている。そして、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10にてW/C11FR〜11RLに加えられるブレーキ液圧(以下、W/C圧という)を制御することにより、キャリパ12FR、12FL、12RR、12RL内に備えられたブレーキパッドによるディスクロータ13FR、13FL、13RR、13RLの挟持力を調整し、各車輪FR〜RLの制動力を制御できる構成とされている。
【0020】
例えば、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10は、W/C11FR〜11RLの圧力を増圧、保持、減圧するための各種制御弁や減圧時にW/C11FR〜11RL内のブレーキ液を収容するリザーバ、リザーバに収容されたブレーキ液をM/C8側に戻すポンプおよびこのポンプを駆動するモータなどを備えた構成とされている。このような構成により、ノーマルブレーキ時にはM/C8とW/C11FR〜11RLとの間を接続することで、ブレーキペダル7の操作量(ストローク量もしくは踏力)に応じた制動力を各車輪FR〜RLに発生させる。そして、各車輪FR〜RLのスリップ率がABS制御開始閾値を超えるとABS制御を開始し、W/C圧を制御することでロック傾向を回避する。具体的には、ABS制御時には、各種制御弁を駆動すると共に、モータを駆動してポンプを作動させることで、W/C圧を増圧、保持、減圧し、各車輪FR〜RLのスリップ率を所望のスリップ率に制御して、ロック傾向を回避できるようにしている。
【0021】
また、本システムでは、駆動系を制御するためのエンジンコントローラ(以下、エンジンECUという)20やトランスミッションコントローラ(以下、T/M−ECUという)30および制動系を制御するためのブレーキコントローラ(以下、ブレーキECUという)40が備えられている。
【0022】
エンジンECU20は、基本的にはエンジン1の制御を行うものであるが、本実施形態の場合、IS制御も実行する部分として機能する。本実施形態では、このエンジンECU20と後述するブレーキECU40が一体となって本発明のエンジン自動停止再始動制御装置を構成している。
【0023】
エンジンECU20は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することでエンジン出力(エンジントルク)を制御し、後輪RR、RLに発生させられる駆動力を制御する。例えば、エンジンECU20は、アクセルペダル6の操作量をペダルセンサ6aの検出信号より入力し、アクセルペダル6の操作量に基づいて燃料噴射装置を調整して燃料噴射量を調整する。これにより、エンジン出力が制御され、駆動力が制御される。また、本実施形態では、このエンジンECU20によってIS制御も行っており、エンジン1に対してエンジン停止要求の出力を行うと共に、スタータ1aに対してエンジン始動要求の出力を行っている。エンジン停止要求やエンジン始動要求は、各種条件を満たしたときに出力される。この各種条件については、後述する。
【0024】
また、エンジンECU20は、T/M−ECU30からのATポンプ2aの始動要求(以下、ATポンプ始動要求という)を入力すると共に、ブレーキECU40からブレーキ・車速情報を入力している。ATポンプ2aは、エンジン1の駆動に伴って駆動されるトランスミッション2を駆動するためのものである。このATポンプ2aを駆動する際には、エンジン1を駆動することが必要になるため、T/M−ECU30からエンジンECU20に対してATポンプ始動要求を出力することで、エンジンECU20を介してエンジン1の始動要求を出力させるようにしている。また、IS制御におけるエンジン停止要求を出力する条件として、後述するようにブレーキ圧やABS制御中であるか否かの情報および車速を用いている。このため、ブレーキECU40からエンジンECU20にブレーキ情報としてブレーキ圧やABS制御中であるか否かの情報を伝えると共に車速情報を伝えることで、IS制御に利用できるようにしている。
【0025】
さらに、エンジンECU20は、バッテリ21の電圧(バッテリ電圧)に関する情報を入力している。このバッテリ電圧についても、IS制御におけるエンジン始動要求を出力する条件として用いているため、エンジンECU20に入力することで、IS制御に利用できるようにしている。
【0026】
T/M−ECU30は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することでトランスミッション2のギア位置の選択等を行う。T/M−ECU30は、エンジンECU20と情報交換を行っており、トランスミッション2のギア位置をエンジンECU20に伝えている。このため、上述したエンジンECU20では、アクセルペダル6の操作量に加えて、このT/M−ECU30から伝えられた情報に示されたトランスミッション2のギア位置を考慮に入れて、エンジン出力を演算する。また、T/M−ECU30は、ATポンプ2aを駆動するときにはATポンプ始動要求を出力し、エンジンECU20にその旨を伝えている。
【0027】
ブレーキECU40は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従った各種演算や処理を実行することで、任意の制動力を各車輪FR〜RLに対して発生させる。
【0028】
また、ブレーキECU40は、各種センサの検出信号に基づいて各種演算を行っている。例えば、ブレーキペダル7の操作量に応じて発生させられるM/C8内のM/C圧を圧力センサ8aによって検出し、M/C圧を時間微分することでブレーキ圧変化速度を演算している。また、ブレーキECU40は、前後加速度(以下、前後Gという)センサ41の検出信号を入力し、この前後Gセンサ41の検出信号に基づいて車両減速度を演算している。また、ブレーキECU40は、車載カメラ42が撮影した映像に基づき、道路上の温度や路面種類(アスファルト路面、コンクリート路面、積雪路、凍結路などの種類)を公知の手法によって識別することで路面μを検出している。さらに、ブレーキECU40は、各車輪FR〜RLに備えられた車輪速度センサ14FR、14FL、14RR、14RLからの検出信号を受け取り、各車輪速度を求めると共に、求めた各車輪速度に基づいて公知の手法によって推定車体速度(以下、単に車速という)を演算したり、車速と各車輪速度との差を車速で割ることで、各車輪FR〜RLのスリップ率を演算している。そして、スリップ率がABS制御の開始閾値を超えると、ブレーキECU40がブレーキ液圧制御用アクチュエータ10に対して制御信号を出力することにより、制御対象輪のW/C11FR〜11RLに発生させられるW/C圧を制御し、該当車輪の制動力を制御することでロック傾向を回避する。
【0029】
なお、ここでは詳細については図示していないが、エンジンECU20には、ブレーキ圧以外の他の始動要求として、ATポンプ始動要求以外にも様々なECUからの始動要求が入力されるようになっている。すなわち、エンジン1によって駆動されるような装置を使用する際には、エンジン1を再始動しなければならなくなるため、そのような装置の制御を行っているECUからの始動要求がエンジンECU20に入力される。例えば、図1中に示したように、バッテリ21に対して充電を行うために駆動されるオルタネータ50やエアコンを利用する際に駆動されるコンプレッサ60も、エンジン1によって駆動されるものであるため、これらを駆動する場合にはエンジン1を再始動しなければならない。したがって、例えば、オルタネータ50の制御を司る電源ECUやエアコンの制御を司るエアコンECUから始動要求が出力されることで、ブレーキ圧以外を理由とする始動要求がエンジンECU20に入力されるようになっている。
【0030】
このようにして、IS制御を実行するエンジン自動停止再始動制御装置が備えられた車両制御システムが構成されている。続いて、本実施形態の車両制御システムが行うIS制御について、図を参照して説明する。
【0031】
図2は、本実施形態のエンジン自動停止再始動制御装置として機能するエンジンECU20が実行するIS制御処理のフローチャートである。この図に示される処理は、例えば図示しないイグニッションスイッチがオンされた場合において、所定の制御周期ごとに実行される。
【0032】
まず、ステップ100では、エンジン稼動中であるか否かを判定する。イグニッションスイッチがオンされている場合において、エンジンECU20がエンジン停止要求を出力してエンジン1を停止しており、かつ、その後に始動要求を出力してエンジン1を再始動させていない状況であれば、エンジン1は停止中である。また、エンジン回転数がアイドル時に想定される所定回転数以上であれば、エンジン1は稼動中である。エンジンECU20は、自分自身でこれらの情報を扱っているため、これらいずれかの情報に基づいてエンジン稼動中であるか否かを判定することができる。
【0033】
そして、ステップ100で肯定判定されれば、ステップ200に進んでエンジン稼動中の処理を行う。また、ステップ100で否定判定されれば、ステップ300に進んでエンジン停止中の処理を行う。
【0034】
図3は、エンジン稼動中の処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン稼動中の処理について説明する。
【0035】
まず、ステップ210では、ブレーキ圧以外のアイドルストップ許可条件が成立しているか否かを判定する。ブレーキ圧以外のアイドルストップ許可条件とは、アイドルストップを許可する条件として決められている諸条件であり、例えばアクセルオフかつ車速が所定速度(例えば10km/h)以下であること、バッテリ電圧が確保できていること(バッテリ電圧が閾値以上有ること)などが挙げられる。
【0036】
アクセルオフかつ車速が所定速度以下であることは、ドライバが車両を停止させる意志があることを示している。アクセルオフについては、アクセルペダル6の操作量の検出を行うペダルセンサ6aの検出信号に基づいて検出され、車速については、ブレーキECU40から伝えられる。アイドルストップは、ドライバが車両を停止させる際に燃費向上を図るために実行されるのであり、車両を停止させずに走行させる可能性が有る場合には実行することが好ましくない。このため、アクセルオフかつ車速が所定速度以下を条件としている。
【0037】
また、バッテリ電圧が確保できていることは、アイドルストップしたときにエンジンECU20がエンジン1をバッテリ電圧の回復のために再始動させるような状況ではないことを示している。つまり、バッテリ電圧低下が生じると、オルタネータ50を駆動するために始動要求が出され、エンジン1が再始動させられる可能性がある。この場合には、ABS制御の制御性を確保できなくなる可能性があるため、バッテリ電圧が確保できていることを条件としている。なお、バッテリ21の電圧低下については、バッテリ21の電圧が所定の閾値以上あるか否かを判定することで、確保できているか否かを判定できる。
【0038】
ここで否定判定されれば、アイドルストップを実行するタイミングではないため、ステップ220に進み、エンジン停止禁止処理として、アイドルストップを禁止して、本制御周期での処理を終了する。したがって、アクセルオンもしくは車速が所定速度を超えているときのように、車両を停止させずに走行させる可能性がある場合にはアイドルストップが禁止される。また、バッテリ電圧が確保できていない場合にもアイドルストップが禁止され、アイドルストップ中にブレーキ圧以外の条件でエンジン1が再始動されるような場合にも、アイドルストップが禁止される。
【0039】
一方、ステップ210で肯定判定されればステップ230に進み、ブレーキ圧が第1の閾値以上であるか否かを判定する。第1の閾値は、アイドルストップを許可する閾値であり、車両が減速するブレーキ圧であって、ドライバがブレーキの意思が有ると想定されるブレーキ圧に設定される。ここでいうブレーキ圧は、W/C圧のことを示しているが、ABS制御実行中でなければ、M/C圧をブレーキ圧として用いても良い。M/C圧については、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ10に圧力センサ8aが備えられるため、その圧力センサの検出信号に基づいてブレーキECU40で演算することができる。この演算結果がブレーキECU40からエンジンECU20に伝えられるようにすることで、エンジンECU20にM/C圧が伝えられるようにしている。なお、ここではW/C圧そのものの検出を行っていないが、各W/C11FR〜11RLに圧力センサを備えることで各W/C圧を検出することもできる。
【0040】
ここで、肯定判定されればステップ240に進み、否定判定されればステップ220に進んで上述したエンジン停止禁止処理を実行して処理を終了する。
【0041】
ステップ240ではブレーキ圧が第2の閾値以上であるか否かを判定する。第2の閾値は、第1の閾値よりも高い値であって、アイドルストップを許可する条件を満たしたものの、仮にアイドルストップを行ったとすると、その後、何らかの始動要求によってエンジン1が再始動させられたときのバッテリ電圧低下によってABS制御の制御性を確保できなくなる可能性がある高さのブレーキ圧に設定される。例えば、第2の閾値以上のブレーキ圧が発生している状況下において、アイドルストップが実行され、その後ABS制御が開始されることがある。この場合において、エンジン1が再始動されることによるバッテリ電圧低下が発生すると、高いブレーキ圧が印加されることによる過大なポンプ負荷がABS制御用のモータの作動に影響を及ぼすため、ABS制御の制御性を確保できなくなる。このため、このような可能性がある場合には、ステップ220に進み、上述したエンジン停止禁止処理を実行して処理を終了する。
【0042】
ステップ250では、ABS制御中であるか否かを判定する。ABS制御中であるか否かは、ブレーキECU40から伝えられるブレーキ情報中に含まれるABS制御中であるか否かの情報に基づいて判定される。例えば、ブレーキECU40では、ABS制御の開始条件を満たしたときに、車速が停止もしくはブレーキ操作が解除されるまでABS制御中フラグをセットするようにしている。このABS制御中フラグがセットされているときにはエンジンECU20にABS制御中であるという情報が伝えられ、リセットされていればエンジンECU20にABS制御中でないという情報が伝えられる。
【0043】
ABS制御中に、何らかの始動要求が出されてエンジン1が再始動させられることになると、実行中のABS制御が制御性良く実行できなくなる可能性がある。このため、ABS制御中には、アイドルストップを実行するよりもABS制御が優先して行われるようにする方が好ましい。したがって、本ステップで肯定判定されるとステップ220に進んでアイドルストップを禁止し、否定判定されればステップ260に進む。このように、ABS制御中と判定されたときにはアイドルストップが禁止され、ABS制御が終了後に再びアイドルストップが許可される。
【0044】
ステップ260では、アイドルストップを許可する。アイドルストップの許可が出されると、エンジンECU20からエンジン停止要求が出力され、エンジン1が停止させられる。したがって、燃料噴射装置の調整によって燃料噴射量が0とされるため、燃費向上を図ることが可能となる。また、エンジン停止処理を行う。
【0045】
図4は、エンジン停止処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン停止処理について説明する。
【0046】
まず、ステップ261では、停車状態であるか否かを判定する。この判定は、車速が0であるか否か等に基づいて判定することができる。エンジンECU20は、ブレーキECU40から車速情報を入力しているため、この車速情報に基づいて本判定を行うことができる。そして、停車状態と判定されれば、ステップ262に進む。また、停車状態でなければそのまま処理を終了する。
【0047】
次に、ステップ262では、停車保持ブレーキ制御処理を実行する。この停車保持ブレーキ制御処理では、基本的には、停車状態を維持するために必要な制動トルクを発生させるための処理を行う。
【0048】
図5は、停車保持ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図を参照して、停車保持ブレーキ制御処理について説明する。
【0049】
まず、ステップ262aでは、エンジンECU20に備えられた図示しない停車保持ブレーキ制御中フラグをオンし、停車保持ブレーキ制御中であることを記憶しておく。そして、ステップ262bに進み、M/C圧、路面勾配、クリープトルクに基づいて、停車状態を維持するために必要となる制動トルクに相当する停車保持トルクを演算する。M/C圧については、圧力センサ8aの検出結果を用いている。路面勾配については、図示しない前後Gセンサ41の検出信号に重力加速度成分が含まれているため、停車状態の際の前後加速度センサの検出信号から周知の手法により求めている。クリープトルクについては、エンジンECU20で扱っているクリープ走行時のエンジントルクであるため、それを用いている。これらに基づいて、車両の前進方向に寄与するトルクから車両の後進方向に寄与するトルクを差し引き、その差分を抑えつつ停車状態が維持できる大きさの制動トルクを停車保持トルクとして設定している。
【0050】
続く、ステップ262cでは、エンジン始動時のエンジン回転の吹上がりトルクよりも停車保持トルクが大きいか否かを判定する。吹上がりトルクについては、予め実験などによって求めておくことにより想定できる。このため、ステップ262bで演算した停車保持トルクと吹上がりトルクを大小比較し、停車保持トルクの方が吹上がりトルクよりも大きければステップ262dに進み、吹上がりトルクの方が停車保持トルクよりも大きければステップ262eに進む。
【0051】
そして、ステップ262dでは、停車保持トルクを出力して処理を終了し、ステップ262eでは、吹上がりトルクを出力して処理を終了する。すなわち、吹上がりトルクの方が停車保持トルクよりも大きい場合、その停車保持トルクでは、後述するショック抑制ブレーキ制御(振動抑制制御に相当)処理の際に抑制したいエンジン再始動時の車体のショックを抑制するのに必要な制動トルクに満たないことを意味している。このため、ステップ262eでは、エンジン回転数の吹上がりトルクに対応して、エンジン再始動時の車体のショックを抑制するのに必要な制動トルクを満たすように、制動トルクとして吹上がりトルクを設定している。これにより、エンジン再始動時に車体のショックの抑制を十分に行うことができる大きさの制動トルクを発生することが可能となる。
【0052】
続いて、上述した図2のステップ300におけるエンジン停止中の処理について説明する。図6は、エンジン停止中の処理を示したフローチャートである。この図を参照してエンジン停止中の処理について説明する。
【0053】
まず、ステップ305では、ABS制御中であるか否かを判定する。この判定は、上述した図3のステップ250と同様にして行われる。ここで肯定判定されれば、ABS制御の制御性が悪化することを抑制するために、ステップ310に進み、再始動禁止処理を実行する。つまり、エンジン1を再始動することによってバッテリ電圧低下が発生し、ABS制御用のモータの作動に影響を及ぼし、ABS制御の制御性を確保できなくなる可能性があることから、ABS制御中には再始動禁止処理を実行し、エンジン1が再始動されないようにする。
【0054】
続いて、ステップ305で否定判定された場合にはステップ315に進み、ABS作動予測があるか否かを判定する。この判定は、図示しない別フローで実行されるABS制御が実行されることを予測するABS作動予測判定処理に基づいて行われる。ABS作動予測判定処理では、車速がABS開始許可車速である場合に、スリップ率が閾スリップ率以上であること、車輪減速度が第1閾減速度以上であること、ブレーキ圧変化速度が閾変化速度以上であること、車体減速度が第2閾減速度以上であること、路面μが閾μ値以下であること、等の判定を行い、これらいずれかが該当していればABS作動予測ありと判定している。ここで、ABS作動予測があると判定されるとステップ310に進み、ABS作動予測がないと判定されるとステップ320に進む。
【0055】
ステップ320では、ブレーキ圧による再始動要件を満たしたか否かを判定する。ここでいうブレーキ圧による再始動要件とは、ドライバがブレーキペダル7を離した、もしくはドライバに制動意思が無いと想定されるまでブレーキペダル7を緩めたと考えられる程度に、ブレーキ圧が低下したことを意味している。具体的には、ブレーキ圧が第1、第2の閾値よりも小さい解除閾値以下になったことをブレーキ圧による再始動要件として上記判定を行っている。
【0056】
ここで肯定判定される場合にはブレーキが解除されると想定され、ABS制御が実行されることは無く、車両が発進する可能性もあるため、ステップ330に進んで再始動許可処理およびショック抑制ブレーキ制御処理を実行する。また、ここで否定判定された場合にはステップ325に進み、ブレーキ圧以外の再始動要求があったか否かを判定する。ブレーキ圧以外の再始動要求とは、ATポンプ始動要求などの始動要求のことを意味している。このようなブレーキ圧以外の再始動要求があった場合にも、ステップ330に進んでスタータ1aに対して始動要求を出力してエンジン再始動の許可を出し再始動許可処理を実行する。また、この再始動許可処理と共にショック抑制ブレーキ制御処理を行う。
【0057】
図7は、ショック抑制ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図を参照してショック抑制ブレーキ制御処理について説明する。
【0058】
まず、ステップ340では、エンジン再始動中であるか否かを判定する。スタータ1aに対して始動要求を出してから所定期間中は、エンジン再始動のために車体を前後方向に振動させるというショックを発生させる可能性がある。このため、エンジン再始動中であることを検知し、そのときにショック抑制ブレーキ制御が実行されるようにしている。エンジン再始動中であるか否かについては、エンジンを再始動させることを示すフラグやエンジン回転数に基づいて判定している。エンジンを再始動させることを示すフラグは、図6のステップ330でエンジン再始動の許可を出す時にセットされるもので、エンジン再始動の許可を出した後にエンジン回転数が吹上がり時に想定されるピーク値に至ったときにリセットされる。このフラグがセットされており、かつ、エンジン回転数がエンジンが再始動されたときに想定されるアイドル回転数よりも小さな閾値以下であれば、エンジン再始動中であると判定している。ここで否定判定された場合には、車体にショックが発生する可能性がないため、そのまま処理を終了し、肯定判定された場合には、ステップ350に進む。
【0059】
ステップ350では、停車保持ブレーキ制御が実行されているか否かを停止保持ブレーキ制御中フラグがオンしているか否かに基づいて判定する。ここで肯定判定されればステップ360に進んで、ショック抑制ブレーキ制御のパターン(1)の制御処理を実行し、否定判定されればステップ370に進んで、ショック抑制ブレーキ制御のパターン(2)の制御処理を実行する。ここで、ショック抑制ブレーキ制御のパターンとして、パターン(1)とパターン(2)を設けているが、パターン(1)は停車中におけるショック抑制ブレーキ制御を示したものであり、パターン(2)は停車していない状態におけるショック抑制ブレーキ制御を示したものである。つまり、停車中には、すでに制動トルクとして停車保持トルク(もしくは吹上がりトルク)が設定された状態となっているため、その状態でのショック抑制のための制御を行い、停車していない状態では、ブレーキ操作に対応する制動トルクは発生させられている可能性があるものの、決まった制動トルクは設定されていない状態となっているため、その状態でのショック抑制のための制御を行う。
【0060】
ここで、ショック抑制ブレーキ制御の詳細について説明する前に、ショック抑制ブレーキ制御による車体のショックの抑制方法の考え方について説明する。
【0061】
図8(a)は、エンジン再始動時のエンジン回転数の時間変化を示した図であり、図8(b)、(c)は、エンジン回転数の時間変化に対応する理想的な車軸トルク(以下、理想車軸トルクという)と理想車軸トルク変化速度の時間変化を示した図であり、図8(d)、(e)は、ショック抑制ブレーキ制御を行っていないときの実際の車軸トルク(以下、実車軸トルクという)と車軸トルク変化速度の時間変化を示した図である。
【0062】
エンジンを再始動させる際に、図8(a)に示すようにエンジン回転数は再始動の瞬間に大きく立ち上がったあと、徐々にアイドル回転数に落ち着いていく。これに対し、車軸トルクについては、図8(b)に示すようにエンジン回転数よりも緩やかに変化させ、車軸トルク変化速度については、図8(c)に示すように再始動の瞬間にのみ発生させた方が、飛び出し感を抑え、且つ素早く車軸トルクをクリープトルクとすることができるので、理想的である。
【0063】
しかしながら、実際には、図8(d)、(e)に示すように、エンジンの再始動に伴うエンジントルク以外の振動トルク(共振)が生じるため、実車軸トルクおよび実車軸トルク変化速度は振幅波形となる。これは、車体にショックを発生させていることを示している。
【0064】
このように、理想車軸トルクや理想車軸トルク変化速度と実車軸トルクや実車軸トルク変化速度との差に起因して車体にショックが発生している。このため、理想車軸トルク変化速度と実車軸トルク変化速度の差に基づいて振動トルクを抑制することで、実車軸トルクの振幅を抑制して理想車軸トルクに近づけることが可能となり、車両のショックを抑制することが可能にできる。
【0065】
図9(a)は、ショック抑制ブレーキ制御を行わない場合の車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との関係、および、これらの差に基づくショック抑制ブレーキ制御後の車軸トルク変化速度を示している。また、図9(b)は、ショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示しており、図9(c)は、停車中のショック抑制ブレーキ制御による制動トルクの例を示している。
【0066】
図9(a)に示すように、車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間に差が生じる。このため、理想車軸トルク変化速度を予め決めた車両モデルから規範モデルとして求め、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との差に基づいて、図9(b)に示すような振動トルクを抑制するための制動トルク(以下、ショック抑制制動トルクという)を連続的に決定し、そのショック抑制制動トルクを付与することで、制御後の車軸トルクを理想車軸トルクに近づけることが可能となる。また、エンジン再始動を行うとき、停車状態であれば、既に制動トルクとして停車保持トルク(もしくは吹上がりトルク)が発生させられている。このため、図9(c)に示すように、既に発生させられている制動トルクとショック抑制制動トルクを重ね合わせ、ショック抑制制動トルクのピークから制動トルクを減少させるようにすれば、停車状態に応じたショック抑制が行える。このような方法に基づいて、ショック抑制ブレーキ制御処理を行うことで、車両のショックを抑制することができる。
【0067】
図10は、停車状態のときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(1)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。また、図11は、停車状態ではないときに実行されるショック抑制ブレーキ制御のパターン(2)の制御処理の詳細を示したフローチャートである。これらの図を参照して、ショック制御ブレーキ制御の各パターン(1)、(2)の制御処理の詳細について説明する。
【0068】
まず、パターン(1)の場合には、ステップ361において、実車軸トルク変化速度を演算する。この実車軸トルク変化速度の演算は、図12に示す実車軸トルク変化速度演算処理により行われる。具体的には、図12のステップ361aに示すように、規範モデルに基づいて車軸トルク変化速度を推定している。ここで、規範モデルとは、実車計測によって得られたエンジン回転数と駆動系の振動成分を含んだ車軸トルク変化速度との関係をマップ等に示したものである。ここでは、エンジン回転数を表す信号を上記マップに近似させた2次振動系フィルタに通過させることにより、エンジン回転数に同定した車軸トルクを求め、これを微分することにより車軸トルク変化速度を演算している。例えば、2次振動系フィルタとして、所定周波数以下の周波数帯を通過させるローパスフィルタを用いることで、エンジン回転数を表す信号から駆動系の振動成分を含む車軸トルクを抽出している。
【0069】
次に、ステップ362において、理想車軸トルク変化速度を演算する。この理想車軸トルク変化速度の演算は、図13に示す理想車軸トルク変化速度演算処理により行われる。具体的には、図13のステップ362aに示すように、理想の応答を示す規範モデルに基づいて理想車軸トルク変化速度を算出している。ここで、理想の応答を示す規範モデルとは、エンジン回転数と駆動系の振動成分を含まない理想車軸トルク変化速度との理想的な関係をマップ等に示したものである。計測結果によれば、車軸系が数Hz(例えば約4Hz)の共振を示すため、車軸の共振周波数より低いカットオフ周波数(例えば約3Hz)を持つ二次のローパスフィルタを用いることで、エンジン回転数に同定した理想車軸トルクを求めることができるため、これを微分することにより理想車軸トルク変化速度を演算している。
【0070】
続いて、ステップ363では、ステップ361で演算した実車軸トルク変化速度とステップ362で演算した理想車軸トルク変化速度との差(以下、単に変化速度差という)を演算する。そして、ステップ364において、変化速度差がピークになっているか否かを判定する。ここで、変化速度差のピークとは、変化速度差が最大値を取ることを意味している。変化速度差がピークになっているとの判定は、演算した変化速度差が制御周期毎に増加していたものが低下したとき、もしくは、ステップ362で求められる理想車軸トルク変化速度の変化の傾向に基づいてエンジン再始動時の変化速度差のピークが予測できるため、その予測したピークに達したときに行われる。
【0071】
このステップ364で肯定判定されれば、ステップ365に進んで変化速度の差をトルク換算し、それを出力する。ただし、差が減少している時以外は、そのときに設定されているトルクを保持する。一方、否定判定されれば、ステップ366に進んで停車保持トルクを出力する。
【0072】
一方、パターン(2)の場合には、ステップ371〜373において、パターン(1)におけるステップ361〜363と同様の処理を行う。そして、ステップ374において、パターン(1)のステップ365と同様に、変化速度の差をトルク換算し、それを出力する。
【0073】
図14および図15は、パターン(1)、(2)それぞれのショック抑制ブレーキ制御が実行された場合を説明するためのタイミングチャートである。これらの図のうち、制動トルクについては、ショック抑制ブレーキ制御が実行された場合のタイミングチャートを示しており、エンジン回転数、車軸トルク、車軸トルク変化速度および車軸トルク変化速度差については、ショック抑制ブレーキ制御が実行されていない場合のタイミングチャートを参考として記載したものである。
【0074】
図14に示されるように、停車状態になっているため、エンジン再始動前から停車保持制動トルク(もしくは吹上がりトルク)が発生させられている。この状態から、時点T1をエンジン再始動が要求されたエンジン再始動タイミングとして、エンジンが再始動させられる。これにより、エンジン回転数の増加に伴って実車軸トルクと理想車軸トルクとの間に差が発生し、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間にも差(変化速度差)が発生する。このときの変化速度差が時点T2においてピークになったとき以降、変化速度差に基づいて決まる制動トルクが減少し始めるため、それに基づいて発生させる制動トルクが減少させられ、変化速度差に基づいて決まる制動トルクが発生させられる。
【0075】
時点T3において変化速度差が0になると、制動トルクの減少も終了させられ、再び変化速度差が発生する時点T4までその前に発生させられていた制動トルクが保持される。そして、時点T5から時点T6において時点T3から時点T4と同様の動作が行われ、変化速度差の低下に伴って制動トルクも減少していき、最終的に制動トルクが0となる。このように、変化速度差に基づいて制動トルクを設定することで、振動トルクを抑制することが可能となり、車両のショックを抑制することが可能となる。
【0076】
また、図15に示されるように、停車状態でないときには基本的にブレーキ操作が為されているときにIS制御におけるエンジン停止が行われるため、ブレーキ操作に対応した制動トルクが発生させられた状態となっている。この状態から、時点T1〜T7において、図14と同様の動作が行われる。このとき、基本的には停車状態のときと同様の動作が行われるが、先に設定された停車保持トルク(もしくは吹上がりトルク)が発生させられている状態ではないため、時点T1〜T2の間においても、変化速度差に応じた制動トルクが発生させれる。なお、ここではブレーキ操作に対応した制動トルクが発生させられている場合を想定しているため、変化速度差に応じた制動トルクがブレーキ操作に対応した制動トルクに加算されて発生させられることになる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態に示すエンジン自動停止再始動制御装置では、エンジン再始動を行う際に、ショック抑制ブレーキ制御を行い、実車軸トルク変化速度と理想車軸トルク変化速度との間の差である変化速度差に応じた制動トルクを発生させるようにしている。これにより、エンジン再始動時に生じる振動トルクを抑制することが可能となり、車体のショックを抑制することが可能となる。
【0078】
(他の実施形態)
上記実施形態では、吹上がりトルクを加味して、停車保持トルクが吹上がりトルクより小さい場合に、吹上がりトルクを制動トルクとして発生させるようにしている。つまり、ショック抑制ブレーキ制御を行うに際し、エンジン回転数の吹上がり時に、そのときに発生する吹上がりトルクよりも大きな制動トルクを発生させた状態にしておき、その後、変化速度差に基づいて、制動トルクを減少させるという制御を行っている。これに対して、制動トルクの減少だけでなく、制動トルクの増加も組み合わせても良い。例えば、吹上がりトルクを加味した制動トルクを予め発生させておくだけでなく、仮に停車保持トルクが吹上がりトルクよりも小さかったとしても、その停車保持トルクを発生させておいた上で、エンジン回転数の吹上がり時に、変化速度差に基づいて吹上がりトルクに相当する制動トルクとなるように制動トルクを増加させても良い。また、一旦制動トルクを減少させた後でも、変化速度が再び大きくなったときに、それに応じて制動トルクを増加させることもできる。
【0079】
また、上記実施形態では、図12に示す実車軸トルク変化速度の演算や図13に示す理想車軸トルク変化速度の演算に規範モデルを用い、それに近似した二次のフィルタを用いる場合について説明した。しかしながら、これも一例を示したにすぎず、フィルタではなく、規範モデルから求められるエンジン回転数と実車軸トルク変化速度もしくは理想車軸トルク変化速度の関係を示すマップを用いて、計測したエンジン回転数と対応する実車軸トルク変化速度や理想車軸トルク変化速度を算出しても良い。また、マップではなく、そのマップに相当する関数式を用いて、計測したエンジン回転数と対応する実車軸トルク変化速度や理想車軸トルク変化速度を算出しても良い。また、実車軸トルク変化速度に関しては、実際に車軸トルクを計測し、その値を用いても良い。
【0080】
また、上記実施形態では、図3のステップ220におけるエンジン停止禁止処理でアイドルストップ禁止を行っているが、ステップ210、230〜260の判定結果によっては、直ぐにステップ270のエンジン停止処理でアイドルストップ許可となる可能性がある。このため、エンジン停止禁止処理でアイドルストップ禁止が出されてからエンジン停止処理に移行してきた場合に、エンジン停止処理に移行してきてからの経過時間をカウントし、繰り返しエンジン停止禁止処理に至ることなくエンジン停止処理に至る状況が続いた場合に、初めてエンジン停止処理としてアイドルストップ許可が実行されるようにすることもできる。このように、判定時間を持たせることで、アイドルストップ禁止からアイドルストップ許可への移行で、無駄にエンジン停止されることを抑制することが可能となる。
【0081】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、ステップ100、200、300の処理を実行する部分が自動停止再始動制御手段、ステップ262の処理を実行する部分が停車保持ブレーキ制御手段、ステップ361、371の処理を実行する部分が実車軸トルク変化速度演算手段、ステップ362、372の処理を実行する部分が理想車軸トルク変化速度演算手段、ステップ363、373の処理を実行する部分が変化速度差演算手段、ステップ364の処理を実行する部分がピーク判定手段、ステップ365、366、374の処理を実行する部分が振動抑制制御手段に相当する。また、上記実施形態では、各種処理を実行する各機能部をエンジンECU20とブレーキECU40に分けて備えた形態としたが、エンジンECU20のみに備えても良いし、エンジンECU20とは別にIS制御用のECUを備え、このECUにすべての機能部を備えても良い。勿論、車両用のLANによって、各種データの受け渡しが可能であるため、複数のECUに各機能部が分散されて備えられた形態であっても構わない。
【符号の説明】
【0082】
1…エンジン、1a…スタータ、2…トランスミッション、2a…ATポンプ、6…アクセルペダル、7…ブレーキペダル、10…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、20…エンジンECU、21…バッテリ、40…ブレーキECU、50…オルタネータ、60…コンプレッサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行駆動源となるエンジン(1)を停止および再始動させる自動停止再始動制御手段(100、200、300)と、
前記エンジン(1)の再始動時に、実際に発生させられる実車軸トルクの変化速度を演算する実車軸トルク変化速度演算手段(361、371)と、
前記エンジン(1)が発生するエンジントルクに対応する理想車軸トルクの変化速度を演算する理想車軸トルク変化速度演算手段(362、372)と、
前記実車軸トルクの変化速度と前記理想車軸トルクの変化速度との差である変化速度差を演算する変化速度差演算手段(363、373)と、
前記変化速度差に基づいて制動トルクを付与する振動抑制制御を実行する振動抑制制御手段(365、366、374)と、を有していることを特徴とするエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項2】
前記エンジン(1)を停止させているときに、停車状態になると、該停車状態を保持するための停車保持トルク以上のトルクを制動トルクとして付与する停車保持ブレーキ制御手段(262)を有し、
前記振動抑制制御手段(365、366、374)は、前記変化速度差が減少する際には、前記停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している前記停車保持トルク以上のトルクに代えて前記変化速度差に基づく制動トルクを付与することを特徴とする請求項1に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項3】
前記振動抑制制御手段(365、366、374)は、前記停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している前記停車保持トルク以上のトルクに代えて前記変化速度差に基づく制動トルクを付与したのち、前記変化速度差が減少しなくなると、該変化速度差の減少が止まったときの制動トルクを保持することを特徴とする請求項2に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項4】
前記停車保持ブレーキ制御手段(262)は、前記エンジン(1)を再始動するときのエンジン回転数の吹上がりトルクと前記停車保持トルクとを比較し、前記吹上がりトルクが前記停車保持トルクよりも大きいときには、該吹上がりトルクを前記停車保持トルク以上のトルクとして付与することを特徴とする請求項2または3に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項5】
前記変化速度差がピークに至ったか否かをするピーク判定手段(364)を有し、
前記振動抑制制御手段(365、366、374)は、前記ピーク判定手段(364)にて前記変化速度差がピークに至ったと判定されるまでは前記停車保持トルク以上のトルクを付与し、前記ピーク判定手段(364)にて前記変化速度差がピークに至ったと判定されたときから、前記変化速度差が減少する際には、前記停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している前記停車保持トルク以上のトルクに代えて前記変化速度差に基づく制動トルクを付与することを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1つに記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項1】
車両の走行駆動源となるエンジン(1)を停止および再始動させる自動停止再始動制御手段(100、200、300)と、
前記エンジン(1)の再始動時に、実際に発生させられる実車軸トルクの変化速度を演算する実車軸トルク変化速度演算手段(361、371)と、
前記エンジン(1)が発生するエンジントルクに対応する理想車軸トルクの変化速度を演算する理想車軸トルク変化速度演算手段(362、372)と、
前記実車軸トルクの変化速度と前記理想車軸トルクの変化速度との差である変化速度差を演算する変化速度差演算手段(363、373)と、
前記変化速度差に基づいて制動トルクを付与する振動抑制制御を実行する振動抑制制御手段(365、366、374)と、を有していることを特徴とするエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項2】
前記エンジン(1)を停止させているときに、停車状態になると、該停車状態を保持するための停車保持トルク以上のトルクを制動トルクとして付与する停車保持ブレーキ制御手段(262)を有し、
前記振動抑制制御手段(365、366、374)は、前記変化速度差が減少する際には、前記停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している前記停車保持トルク以上のトルクに代えて前記変化速度差に基づく制動トルクを付与することを特徴とする請求項1に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項3】
前記振動抑制制御手段(365、366、374)は、前記停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している前記停車保持トルク以上のトルクに代えて前記変化速度差に基づく制動トルクを付与したのち、前記変化速度差が減少しなくなると、該変化速度差の減少が止まったときの制動トルクを保持することを特徴とする請求項2に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項4】
前記停車保持ブレーキ制御手段(262)は、前記エンジン(1)を再始動するときのエンジン回転数の吹上がりトルクと前記停車保持トルクとを比較し、前記吹上がりトルクが前記停車保持トルクよりも大きいときには、該吹上がりトルクを前記停車保持トルク以上のトルクとして付与することを特徴とする請求項2または3に記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【請求項5】
前記変化速度差がピークに至ったか否かをするピーク判定手段(364)を有し、
前記振動抑制制御手段(365、366、374)は、前記ピーク判定手段(364)にて前記変化速度差がピークに至ったと判定されるまでは前記停車保持トルク以上のトルクを付与し、前記ピーク判定手段(364)にて前記変化速度差がピークに至ったと判定されたときから、前記変化速度差が減少する際には、前記停車保持ブレーキ制御手段(262)が付与している前記停車保持トルク以上のトルクに代えて前記変化速度差に基づく制動トルクを付与することを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1つに記載のエンジン自動停止再始動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−25193(P2012−25193A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162787(P2010−162787)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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