説明

ガスバリア性プラスチック容器、その容器用のプリフォーム及びその容器の製造方法

【課題】本発明は、プラスチック容器、特にポリ乳酸からなる容器について、ガスバリア性を有する薄膜の密着性と容器のガスバリア性を共に良好とすることである。
【解決手段】本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法は、プラスチック容器用のプリフォームの表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、プラズマ処理を施したプリフォームをブロー成形してプラスチック容器を得る工程と、ブロー成形によって得たプラスチック容器の表面のうち、プリフォームの段階でプラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有する。プラスチック容器に窒素ガスによるプラズマ処理を施してから、成膜を行なっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性プラスチック容器において、ガスバリア性を有する薄膜の密着性、ガスバリア性及び生産性の向上を図ることを目的に、成膜前におけるプラスチック容器の表面への窒素プラズマ表面処理の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック容器に薄膜を形成する技術が公知となっている(例えば特許文献1、2又は3を参照。)。
【0003】
特許文献1には、例えばポリ乳酸系のプラスチック容器の内表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を蒸着した容器の開示がある。
【0004】
特許文献2には、アセチレンを原料ガスとして、プラズマ化学気相成長法により、例えばポリ乳酸系のプラスチック容器の内表面にカーボン膜、特に水素との結合を含むカーボン膜を0.03μm以上0.2μm以下の膜厚でコーティングした容器の開示がある。
【0005】
特許文献3には、相溶性のある同一樹脂で外層容器と内層容器を一体成形しながら、必要に応じて分離することも可能なように、外層容器のプリフォームを成形した後、その内面に無機質の薄膜を形成し、さらにその内面に同種の樹脂を射出成形し、このプリフォームをブロー成形によって容器を作り、この容器の内表面にさらに無機質の薄膜を形成する技術が開示されている。この技術では、外層容器と内層容器との間に挟まれることとなる無機質の薄膜は外層容器と内層容器とが化学的な接合力を持たないようにするために設けられたものであり、また、ブロー成形した容器の内表面に形成された無機質の薄膜はガスバリア性や非吸着性能を持たせるために設けられる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−274521号公報
【特許文献2】特開2005−14966号公報
【特許文献3】特開2004−345646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、薄膜の原料ガス又は形成方法或いは被成膜体となるプラスチック材料の種類によって、薄膜の性能は異なる。ここで、薄膜の性能には、プラスチック材料と薄膜との密着性及び薄膜によって向上させるガスバリア性が含まれる。
【0008】
例えば、特許文献1の表2を参照すると、PLA(ポリ乳酸)単体ボトルとDLC膜を成膜したPLAボトルとを比較したガスバリア性の改善率は、せいぜい1.7〜2.3倍であり、ガスバリア性は十分に向上したとはいいがたい。
【0009】
また、特許文献2の図3を参照すると、ポリ乳酸単体ボトルと水素との結合を含むカーボン膜を成膜したポリ乳酸ボトルとにおいて、水を充填したときの1ヶ月の重量減少の比較が示されている。ここで、水素との結合を含むカーボン膜を施すことで、水の重量減少が約二分の一に減少したとの結果が示されているが、同様にガスバリア性は十分に向上したとはいいがたい。
【0010】
さらに、本発明者らがポリ乳酸で形成された容器に、アセチレンを原料ガスとしてプラズマCVD法によりDLC膜をコーティングした結果、ポリ乳酸とDLC膜との密着性が実用に耐えるレベルではなく、指で触れた程度でDLC膜が剥がれてしまうことが判明した。なお、特許文献1及び2では、密着性についての検討はなされていないが、本発明者らの結果から推測すると、ポリ乳酸とDLC膜との密着性は未だ実用レベルではないと考えられる。
【0011】
そこで本発明の目的は、ガスバリア性プラスチック容器において、プラスチック容器の表面側に内部よりも多くの窒素原子を分布させることで、薄膜の密着性と容器のガスバリア性を共に良好とすることである。また、プラスチック容器の表面側に内部よりも多くの窒素原子を容易かつ安価で分布させるために、プリフォームの段階で表面側に内部よりも多くの窒素原子を分布させた専用のプリフォームを提供することを目的とする。さらに本発明の目的は、ガスバリア性プラスチック容器の製造方法において、密着性とガスバリア性が共に良好なガスバリア性プラスチック容器を得ることである。ここで本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法には三つの形態がある。第一形態の目的は、成形済みの容器と比較してより大きな熱負荷に耐えるプリフォームに窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、短時間で濃密な表面処理を実現し、また、この表面処理工程とガスバリア性を有する薄膜の成膜工程とを時間的、空間的に分離して、短時間に連続したプラズマダメージを与えることを阻止し、かつ、成膜装置の大型化と成膜プロセスの長時間化を防止することである。また、プリフォームに表面処理を施すことで、表面粗さの増加といったプラズマダメージを延伸時に軽減することを目的とする。第二形態の目的は、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器に窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の表面に密着性が良好なガスバリア性を有する薄膜を成膜することである。第三形態の目的は、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器に、成膜装置を利用して窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、専用の表面処理装置を省略することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究開発したところ、窒素ガスによるプラズマ表面処理が薄膜の密着性とガスバリア性の向上に寄与することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るガスバリア性プラスチック容器は、プラスチック容器の内壁面又は外壁面或いはその両壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜したガスバリア性プラスチック容器において、前記ガスバリア性を有する薄膜が成膜されている側の容器壁が、その表面側に内部よりも多くの窒素原子を含有していることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器では、前記プラスチック容器と前記ガスバリア性を有する薄膜との界面領域における窒素濃度の最大値が、SIMS法で1×1020原子/cm以上であることが含まれる。
【0014】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器では、前記プラスチック容器がポリ乳酸により形成されていることを含む。ポリ乳酸は、生分解性プラスチックの中でも、(1)比較的低価格で、(2)ボトル等に成形することができ、(3)植物由来の原料で製造できる、など利点が多い。
【0015】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器では、前記ガスバリア性を有する薄膜は、炭素膜、珪素含有炭素膜、酸化珪素膜又は酸化アルミニウム膜であることを含む。
【0016】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器用のプリフォームは、ガスバリア性を有する薄膜の成膜対象となるプラスチック容器のプリフォームにおいて、該プリフォームの内壁又は外壁或いはその両壁が、その表面側に内部よりも多くの窒素原子を含有していることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器用のプリフォームでは、前記プリフォームの表面における窒素濃度の最大値が、SIMS法で1×1020原子/cm以上であることが含まれる。
【0018】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器用のプリフォームでは、前記プリフォームがポリ乳酸により形成されていることを含む。ポリ乳酸は、生分解性プラスチックの中でも、(1)比較的低価格で、(2)ブロー成形によりボトル等に成形することができ、(3)植物由来の原料で製造できる、など利点が多い。
【0019】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法(第一形態)は、プラスチック容器用のプリフォームの表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、プラズマ処理を施したプリフォームをブロー成形してプラスチック容器を得る工程と、ブロー成形によって得たプラスチック容器の表面のうち、プリフォームの段階でプラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法では、前記プリフォームとして、ポリ乳酸により形成されているプリフォームを使用することを含む。
【0021】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法では、前記プラズマ処理を施す工程において、常圧下で、プラズマトーチを用いてプラズマ処理を施すことが好ましい。大気圧プラズマトーチを用いることで、高面密度の表面処理を行なうことができ、プリフォームをその後ブロー成形しても十分に薄膜の密着性が確保できる。ここで、「常圧」とは、0.1気圧(10000Pa)以上の大気圧下または準大気圧下のことを指す。
【0022】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法では、前記プラズマ処理を施す工程において、前記プリフォームの内部空間を窒素ガスで置換し、該窒素ガスをプラズマ化させて前記プリフォームの内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施すことが好ましい。プリフォームの内壁面をプラズマ処理する場合には、容器内を置換した窒素ガスをプラズマ化することでも処理可能である。
【0023】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法(第二形態)は、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、プラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有することを特徴とする。各種ガスで表面処理できるが、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の場合には、特に窒素ガスによるプラズマ表面処理が有効である。
【0024】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法では、前記プラズマ処理を施す工程において、常圧下で、プラズマトーチを用いてプラズマ処理を施すことが好ましい。大気圧プラズマトーチを用いることで、高面密度の表面処理を行なうことができ、薄膜の密着性が確保できる。
【0025】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法(第三形態)は、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の内部空間を窒素ガスで置換し、該窒素ガスをプラズマ化させて前記プラスチック容器の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、前記プラスチック容器の内壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有することを特徴とする。各種ガスで表面処理できるが、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の場合には、特に窒素ガスによるプラズマ表面処理が有効であり、このとき、容器内を置換した窒素ガスをプラズマ化することでも処理可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器は、プラスチック容器の表面側に内部よりも多くの窒素原子を分布させたので、薄膜の密着性と容器のガスバリア性が共に良好である。また、本発明に係るガスバリア性プラスチック容器用のプリフォームは、プラスチック容器の表面側に内部よりも多くの窒素原子を容易かつ安価で分布させることができる。本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法は、密着性とガスバリア性が共に良好なガスバリア性プラスチック容器を得ることができる。ここで第一形態の製造方法では、成形済みの容器と比較してより大きな熱負荷に耐えるプリフォームに窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、短時間で濃密な表面処理を実現し、また、この表面処理工程とガスバリア性を有する薄膜の成膜工程とを時間的、空間的に分離して、短時間に連続したプラズマダメージを与えることを阻止し、かつ、成膜装置の大型化と成膜プロセスの長時間化を防止することができる。また、プリフォームに表面処理を施すことで、表面粗さの増加といったプラズマダメージを延伸時に軽減することができる。第二形態の製造方法では、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器に窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の表面に密着性が良好なガスバリア性を有する薄膜を成膜することができる。第三形態の製造方法では、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器に、成膜装置を利用して窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、専用の表面処理装置を省略することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。まず、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法を説明する。
【0028】
(第一実施形態)
第一実施形態に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法は、プラスチック容器用のプリフォームの表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、プラズマ処理を施したプリフォームをブロー成形してプラスチック容器を得る工程と、ブロー成形によって得たプラスチック容器の表面のうち、プリフォームの段階でプラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有する。成形済みの容器と比較してより大きな熱負荷に耐えるプリフォームに窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、短時間で濃密な表面処理を実現できる。また、この表面処理工程とガスバリア性を有する薄膜の成膜工程とを時間的、空間的に分離して、短時間に連続したプラズマダメージを与えることを阻止することができ、成膜プロセスの長時間化を防止できる。また、プリフォームに表面処理を施すことで、表面粗さの増加といったプラズマダメージを延伸時に軽減できる。
【0029】
プラスチック容器用のプリフォームは、その後、ブロー成形が行なわれ、容器に成形されるため、プラスチック容器の材質は、ブロー成形できる樹脂であればいかなる樹脂でも良い。ブロー成形用樹脂としては、例えば、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、或いは、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂がある。適宜、エチレンビニルアルコール共重合体、MXD6ナイロン又は無水マレイン酸変性ポリオレフィンを層間に入れて多層としても良い。また、生分解性プラスチック樹脂でも良い。生分解性プラスチックとは、生体内で,あるいは微生物の作用により分解される高分子であり、加水分解により、水、二酸化炭素、メタンなどに分解される。天然系高分子と合成系高分子とがある。天然系高分子の例としては,コラーゲン、デンプンなどのタンパク質や多糖類、合成系高分子の例としてはポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレンスクシナートなどの脂肪族ポリエステルがあげられる。このうちブロー成形できる樹脂が選択され、例えば、耐水性、経済性の観点からポリ乳酸(PLA)が好ましい。
【0030】
ここで、本発明者らの分析によると、ポリ乳酸からなる容器の表面にガスバリア性を有する薄膜を成膜した場合、密着性が得られ難い。そこで、プリフォームの表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す。DLC等の炭素膜を含むガスバリア性を有する薄膜がポリ乳酸に密着性良く成膜されない理由は、本発明者らが推測するに、次の通りである。ポリ乳酸は、化学式1に示す構造を有しているが、主鎖の炭素原子に2重結合で酸素原子が結合し、もう一つの主鎖の炭素原子に単結合でメチル基が結合している。ここで、2重結合で結合した酸素原子は、ガスバリア性を有する薄膜の密着性に寄与し、一方、単結合で結合しているメチル基は、当該薄膜の密着性に寄与しないと推測される。2重結合で結合している酸素原子の表面での分布が少ないので、ガスバリア性を有する薄膜が剥がれやすくなる。そこで、窒素ガスによるプラズマ処理を表面に施すと、単結合で結合しているメチル基がアミノ基等の窒素含有官能基に置換される。例えばアミノ基は、ガスバリア性を有する薄膜の密着性に寄与すると推測される。これにより、2重結合で結合している酸素原子と単結合で結合しているアミノ基が表面に分布し、表面未処理の場合と比較してガスバリア性を有する薄膜が剥がれにくくなる。
【0031】
【化1】

【0032】
なお、窒素ガスによるプラズマ処理は、密着性向上の効果が特に認められるポリ乳酸に限らず、上述のポリオレフィン系樹脂又はポリエステル系樹脂からなるプリフォームの表面に形成しても良い。また、空気等の酸素と窒素の混合ガス、純酸素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスでプラズマ処理を表面に施しても良い。ただし、これらのガスは、表面粗さを増大させることでガスバリア性を有する薄膜の密着性を向上させるものであり、化学的結合力に基づく密着性の向上を図るには窒素ガスによるプラズマ処理が好ましい。
【0033】
窒素ガスによるプラズマ処理をプリフォームの表面に施す方法は、例えば3形態ある。(1)常圧下で、プラズマトーチを用いてプリフォームの内壁面にプラズマ処理を施す形態、(2)常圧下で、プラズマトーチを用いてプリフォームの外壁面にプラズマ処理を施す形態、(3)プリフォームの内部空間を窒素ガスで置換し、窒素ガスをプラズマ化させてプリフォームの内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す形態、である。なお、プラズマ処理を施した壁面は、ガスバリア性を有する薄膜の成膜面とする。
【0034】
常圧下で、プラズマトーチを用いてプラズマ処理を施す場合、公知公用のプラズマトーチ装置を使用することができ、例えば、日本プラズマトーチ株式会社製1RD1004を使用することができる。プリフォームの内壁面にプラズマ処理を施す場合、トーチ先端ノズルをプリフォームの内部に差し込むことができる太さとする。これによって、プリフォームの底から口までプラズマ処理が可能となる。図1は、常圧下で、プラズマトーチを用いてプリフォームの内壁面にプラズマ処理を施す形態を概念図である。図1に示すように、例えば、吹き出し口54から吹き出させる窒素ガスプラズマ55をノズル53の主軸Xに対してわずかに傾けた状態となるノズル53を使用し、主軸Xを中心にノズル53を自転させつつ、プリフォーム50の底51から口52までプラズマ吹き出し口54が移動するようにノズル53を上下させる。この動作により、プリフォーム50の内壁面の全面にプラズマ処理を施すことができる。ノズル53を自転させる代わりに、プリフォーム50を自転させても良い。図2は、プラズマトーチを用いたプラズマ発生システム図の一例である。符号53はシングルジェットローテイションノズルRD1004、符号56はDC24VパワーサプライNT24、符号57はトランスフォーマーHTR12、符号58はジェネレーターFG1001、符号59はプレトランスフォーマーAC200V/230Vであり、いずれも日本プラズマトリート株式会社製である。また符号60は電源AC200V単相、符号61は窒素ガス供給手段である。
【0035】
プリフォームの外壁面にプラズマ処理を施す場合、トーチ先端ノズルをプリフォーム内に差し込む必要はないので、その形状には制約がない。図3は、常圧下で、プラズマトーチを用いてプリフォームの外壁面にプラズマ処理を施す形態を概念図である。図3に示すように、例えば、吹き出し口54から窒素ガスプラズマ55を吹き出させ、プリフォーム50の底51から口52までプラズマ吹き出し口54を上下に移動させつつ、プリフォーム50を自転させる。この動作により、プリフォーム50の外壁面の全面にプラズマ処理を施すことができる。プリフォーム50を自転させる代わりに、ノズル53を、プリフォーム50の主軸Yを中心に回転させても良い。図2に示したプラズマトーチを用いたプラズマ発生システムを同様に適用できる。
【0036】
プリフォームの内壁面にプラズマ処理を施す場合であって、プラズマトーチを使用しない形態としては、プリフォームの内部空間を窒素ガスで置換し、窒素ガスをプラズマ化させてプリフォームの内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す形態がある。図4は、プリフォームの内壁面を窒素ガスによってプラズマ処理を施すためのプラズマ処理装置の概略図である。図4のプラズマ処理装置は、後述する図5の装置の変形である。図5は、プラスチック容器の内壁面を窒素ガスによってプラズマ処理を施し、かつ、当該内壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する兼用装置の概略図である。図4は、成膜機能は付与されておらず、窒素ガスによってプラズマ処理をするための専用装置である。図4に示したプラズマ処理装置は、プリフォーム67を取り囲む外部電極63、絶縁部材64及び蓋65によって構成される真空チャンバー66と、プリフォーム67に挿入された中空の内部電極69と、内部電極69の中空部分に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段78と、真空チャンバー66の内部空間40を排気する排気ポンプ80と、外部電極63に高周波電力(高周波電源の周波数は、100kHz〜1000MHzであるが、例えば、工業用周波数である13.56MHzのものを使用する。)を供給するRF電源73と、マッチングボックス72とを有する。まず、上部外部電極62と下部外部電極61とを分離して、プリフォーム67を入れる。次に真空バルブ79を開として、排気ポンプ80を作動させ、真空チャンバー66内の内部空間40の空気を排気する。次に、窒素ガス発生源77から窒素ガスを流し、配管76、三方バルブ85、さらに内部電極69を介して、吹き出し口69aから窒素ガスを供給する。これにより、プリフォーム67の内部空間が減圧下(1〜20Pa程度)で窒素ガスに置換される。次に減圧状態(1〜100Pa程度)で窒素ガスが流れて一定となった状態で、RF電源73をオンとして、外部電極63に高周波電力(例えば、300〜1200W)を印加する。外部電極63と内部電極69との間にバイアス電圧がかかり、これにより、プリフォーム67内の窒素ガスがプラズマ化され、プリフォーム67の内壁面がプラズマ処理される。このときの処理時間は0.1〜5秒程度である。次いで、高周波電力の供給を停止し、真空バルブ79を閉とし、三方バルブ85を切り換えてプリフォーム67の内部空間に空気を導入し、リークする。上部外部電極62と下部外部電極61とを分離して、プリフォーム67を取り出す。
【0037】
以上の3形態のいずれかのプラズマ処理により、例えばポリ乳酸からなるプリフォームであれば、処理した表面にアミノ基等の窒素含有官能基が導入される。なお、3形態を組み合わせて、プリフォームの内壁面と外壁面の両方に窒素ガスによるプラズマ処理を施しても良い。
【0038】
次に、プラズマ処理を施したプリフォームをブロー成形してプラスチック容器を得る。プロー成形機は公知公用の一般的な装置を使用する。容器は、例えば炭酸飲料や発泡飲料等を充填するワンウェイ若しくはリターナブルで使用可能な飲料用容器、食品容器として使用される。
【0039】
次に、ブロー成形によって得たプラスチック容器の表面のうち、プリフォームの段階でプラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する。図5の成膜兼プラズマ処理装置を用いて、プラスチック容器の内壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する方法について説明する。なお、図5の成膜兼プラズマ処理装置は、プラスチック容器の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施すことができるが、その機能については本工程では使用しないため、説明は省略する。図5に示した成膜兼プラズマ処理装置は、プラスチック容器7を取り囲む外部電極3、絶縁部材4及び蓋5によって構成される真空チャンバー6と、プラスチック容器7に挿入された中空の内部電極9と、内部電極9の中空部分に原料ガスを供給する原料ガス供給手段18aと、真空チャンバー6の内部空間40を排気する排気ポンプ20と、外部電極3に高周波電力(高周波電源の周波数は、100kHz〜1000MHzであるが、例えば、工業用周波数である13.56MHzのものを使用する。)を供給するRF電源13と、マッチングボックス12とを有する。例えば特許文献4で記載された成膜装置と略同構成としたものである。図5は特許文献4の装置において、真空チャンバー6内に原料ガスに加えて窒素ガスも供給できる点で相違する。
【特許文献4】特開平8−53117号公報
【0040】
図5の成膜兼プラズマ処理装置において、まず、上部外部電極2と下部外部電極1とを分離して、プラスチック容器7を入れる。次に真空バルブ19を開として、排気ポンプ20を作動させ、真空チャンバー6内の内部空間40の空気を排気する。次に、原料ガス発生源17aから原料ガスを流し、配管16a、三方バルブ25a、さらに内部電極9を介して、吹き出し口9aから原料ガスを供給する。これにより、プラスチック容器7の内部空間40が減圧下(1〜20Pa程度)で原料ガスに置換される。次に減圧状態(1〜100Pa程度)で原料ガスが流れて一定となった状態で、RF電源13をオンとして、外部電極3に高周波電力(例えば、300〜1200W)を印加する。外部電極3と内部電極9との間にバイアス電圧がかかり、これにより、プラスチック容器7内の原料ガスがプラズマ化され、プラズマCVD法によって、プラスチック容器7の内壁面に原料ガス由来のガスバリア性を有する薄膜が成膜される。このときの成膜時間は0.1〜5秒程度である。次いで、高周波電力の供給を停止し、真空バルブ19を閉とし、三方バルブ25aを切り換えてプラスチック容器7の内部空間40に空気を導入し、リークする。上部外部電極2と下部外部電極1とを分離して、プラスチック容器7を取り出す。
【0041】
本実施形態では、ガスバリア性を有する薄膜の成膜装置及び成膜方法は上記の装置に限定されない。例えば、原料ガスをプラズマ化させる手段として高周波電源のみならず、マイクロ波電源を用いても良い。マイクロ波として例えば、2.45GHzを供給する。
【0042】
炭素系薄膜の原料ガスとして、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンなどのアルカン系ガス類、エチレン、プロピレン、ブチンなどのアルケン系ガス類、ブタジエン、ペンタジエンなどのアルカジエン系ガス類、アセチレン、メチルアセチレンなどのアルキン系ガス類、ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素ガス類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロアルカン系ガス類、シクロベンテン、シクロヘキセンなどのシクロアルケン系ガス類、メタノール、エタノールなどのアルコール系ガス類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系ガス類、フォルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド系ガス類がある。
【0043】
珪素系薄膜の原料ガスとして、例えば、ジメトキシ(メチル)シラン、エトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、エトキントリメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、アリルトリメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、トリルエチルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、テトラエトキシシラン、トリメトキシフェニルシラン、γ−グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、γ−グリシドキシプロピル(トリメトキシ)メチルシラン、γ−メタクリロキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、γ−メタクリロキシプロピル(トリメトキシ)シラン、ジヒドロキシジフェニルシラン、ジフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトライソプロポキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、ポリ(メチルハイドロジェンシロキサン)がある。
【0044】
Si−C−N系薄膜の原料ガスとして、例えば、テトラキスジメチルアミノシラン、トリスジメチルアミノシラン、ビズジメテルアミノシラン、ジメチルアミノシランなどのアミノシリコン化合物がある。
【0045】
Si−C系薄膜の原料ガスとして、例えば、ジメチルシラン、モノメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、モノエチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、テトラエチルシランなどのアルキルシリコン化合物がある。
【0046】
Si−C−O系薄膜の原料ガスとして、例えば、テトラエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルヘトサメトキシトリシランなどのアルコキシシリコン化合物がある。
【0047】
Al−C系薄膜又はAl-O系薄膜の原料ガスとして、例えば、R−Al、R−Al−X、R−Al−X (Rはアルキル基など、Xは水素、ハロゲン、アルコキシ、アミド基など)等の有機アルミニウム化合物がある。例えば、トリアルキルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムは、ジアルキルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ‐n‐ブチルアルミニウムである。また、(RO)−Al、(RO)−Al−R’、(RO)−Al−R’の構造を有していても良く、例えばジメチルイソプロピルアルミニウムを用いても良い。
【0048】
ガスバリア性を有する薄膜は、上記原料ガスをプラズマCVD法によって薄膜化したものであり、例えば、炭素膜、珪素含有炭素膜、酸化珪素膜又は酸化アルミニウム膜である。酸化珪素膜又は酸化アルミニウム膜は、炭素原子や窒素原子が含まれていても良い。むしろ、膜の密着性の観点では好ましい。炭素膜にはDLC膜が含まれ、珪素含有炭素膜には珪素含有DLC膜が含まれる。DLC膜又は珪素含有DLC膜には、酸素原子や窒素原子が含まれていても良い。DLC膜とは、iカーボン膜又は水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H)と呼ばれる膜のことであり、硬質炭素膜、ポリマーライクカーボンも含む水素含有率が0〜67%の炭素膜をいう。またDLC膜はアモルファス状の炭素膜であり、SP結合も有する。ガスバリア性を有する薄膜の膜厚は7〜100nmが好ましい。7nmよりも薄いとガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、膜厚が100nmよりも厚くても良いが、マイクロクラックの発生が生じる場合があり、また、得られるガスバリア性との関係から100nm以下とすることが好ましい。
【0049】
プラスチック容器の外壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する場合には、例えば特許文献5の成膜装置を使用すれば良い。
【特許文献5】特開2004−218079号公報
【0050】
(第二実施形態)
第二実施形態に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法は、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、プラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有する。ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の表面を窒素ガスによるプラズマ処理で改質することで、ガスバリア性を有する薄膜の密着性を高めることができる。
【0051】
まず、第一実施形態において、図1及び図2で示した常圧下でのプラズマトーチの構成により、プリフォームの内壁面に向けて窒素ガスプラズマ55を吹き出させ、窒素ガスによるプラズマ処理を施したが、プリフォームをポリ乳酸で形成されたプラスチック容器に置き換えることで、容易に容器の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施すことができる。また、図2及び図3で示した構成により、プリフォームの外壁面に向けて窒素ガスプラズマ55を吹き出させ、窒素ガスによるプラズマ処理を施したが、プリフォームをポリ乳酸で形成されたプラスチック容器に置き換えることで、容易に容器の外壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施すことができる。
【0052】
特許文献5の装置を用いて、原料ガスの代わりに窒素ガスを供給すれば、プラスチック容器の外壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施すこともできる。
【0053】
次に、プラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する。この工程については、第一実施形態で説明した場合と同様である。
【0054】
(第三実施形態)
第三実施形態に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法は、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の内部空間を窒素ガスで置換し、窒素ガスをプラズマ化させてプラスチック容器の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、プラスチック容器の内壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有する。ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器に、成膜装置を利用して窒素ガスによるプラズマ処理を施すことで、専用の表面処理装置を省略することができる。
【0055】
まず、プリフォームをブロー成形して、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器を準備する。次に、図5の成膜兼プラズマ処理装置を用いて、ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施すこともできる。図5の成膜兼プラズマ処理装置は、第一実施形態の欄で説明した成膜機能に加えて、さらに内部電極9の中空部分に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段18bを有する。図5の成膜兼プラズマ処理装置において、まず、上部外部電極2と下部外部電極1とを分離して、プラスチック容器7を入れる。次に真空バルブ19を開として、排気ポンプ20を作動させ、真空チャンバー6内の内部空間40の空気を排気する。次に、窒素ガス発生源17bから窒素ガスを流し、配管16b、三方バルブ25b、さらに内部電極9を介して、吹き出し口9aから窒素ガスを供給する。これにより、プラスチック容器7の内部空間が減圧下(1〜20Pa程度)で窒素ガスに置換される。次に減圧状態(1〜100Pa程度)で窒素ガスが流れて一定となった状態で、RF電源13をオンとして、外部電極3に高周波電力(例えば、300〜1200W)を印加する。外部電極3と内部電極9との間にバイアス電圧がかかり、これにより、プラスチック容器7内の窒素ガスがプラズマ化され、プラスチック容器7の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理が施される。このときの処理時間は0.1〜5秒程度である。次いで、高周波電力の供給を停止し、真空バルブ19を閉とし、三方バルブ25bを切り換えて真空チャンバー6の内部空間40に空気を導入し、リークする。上部外部電極2と下部外部電極1とを分離して、プラスチック容器7を取り出す。
【0056】
次に、プラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する。この工程については、第一実施形態で説明した場合と同様とし、プラズマ処理を施した内壁面にガスバリア性を有する薄膜の成膜を行なう。
【0057】
以上の三形態の製造方法により、プラスチック容器、特にポリ乳酸からなるプラスチック容器についても、ガスバリア性を有する薄膜の密着性とガスバリア性が共に良好なガスバリア性プラスチック容器が得られる。この容器は、ガスバリア性を有する薄膜が成膜されている側の容器壁が、その表面側に内部よりも多くの窒素原子を含有している。プラスチック容器の内部から容器壁に向かって徐々に窒素原子濃度が大きくなる変化が見られる場合が多い。ここで、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック容器では、プラスチック容器とガスバリア性を有する薄膜との界面領域における窒素濃度の最大値が、SIMS法で1×1020原子/cm以上である場合が含まれる。ここで、界面領域とは、プラスチック容器の樹脂領域とガスバリア性を有する薄膜の領域とに挟まれた中間領域であって、プラスチック容器とガスバリア性を有する薄膜との界面を含む領域をいう。界面領域は、プラスチック容器の表面がnmオーダーにおいて完全な平坦ではないこと等が理由となり、SIMS法等の分析では、深さ方向に幅を有する。また、SIMS法では、窒素濃度の最大値は、窒素原子の断面原子プロファイルのピーク高さとして求められる。
SIMS分析の測定条件は次の通りである。
測定装置:PHI社製ADEPT1010
一次イオン種:Cs
一次加速電圧:2.0kV
検出領域:100×100(μm×μm)
その他:濃度への換算、深さへの変換は、それぞれ多結晶ダイヤモンド・DLC標準資料を用いた。
図6及び図7にSIMS分析の結果を示す。図6では窒素ガスによるプラズマ処理を400Wで行ない、図7では窒素ガスによるプラズマ処理を1000Wで行なっている。また、図8は、バックグラウンドとするために窒素ガスによるプラズマ処理を行なわなかった結果を示した。図6〜図8のW数は、大きくなるにつれて、窒素ガスによるプラズマ処理の程度が大きいことを示す指標である。図6〜図8を比較すると、プラズマ処理の程度に応じて容器とDLC膜との界面領域に窒素原子が分布していることがわかる。この窒素原子は、窒素ガスによるプラズマ処理の際に導入されたアミノ基等の窒素含有官能基に由来すると推測される。そして窒素原子は、密着性の向上に寄与していると推測される。また、ガスバリア性の向上にも寄与していると推測される。なお、ガスバリア性を有する薄膜を成膜する前に容器の表面に窒素分子が吸着されているので、界面領域から薄膜側においても窒素原子が含有されている場合がある。なお、図6〜図8において、プラスチック容器の樹脂領域とガスバリア性を有する薄膜の領域は、水素原子と炭素原子(二次イオン強度)との濃度比がそれぞれほぼ一定となる領域であり、一方、界面領域は、これらの領域に挟まれ、当該濃度比が変化する領域として認識される。また、図6と図7では、窒素原子の断面原子プロファイルのピークが上記界面領域に現れている。
【0058】
また、ガスバリア性を有する薄膜の成膜対象となるプラスチック容器のプリフォームにおいて、窒素ガスによるプラズマ処理を施した壁面についても、その表面側に内部よりも多くの窒素原子を含有している。プリフォームの内部からプリフォームの表面壁に向かって徐々に窒素原子濃度が大きくなる変化が見られる場合が多い。ここで、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック容器用のプリフォームでは、前記プリフォームの表面における窒素濃度の最大値が、SIMS法で1×1020原子/cm以上である場合が含まれる。SIMS分析の測定条件は先に記載した条件と同じとした。この窒素原子は、窒素ガスによるプラズマ処理の際に導入されたアミノ基等の窒素含有官能基に由来すると推測される。プリフォームは、肉厚が厚く、プラズマ処理を十分に行なうことができるので、これをブロー成形した容器の表面においても、窒素ガスによるプラズマ処理の際に導入されたアミノ基等の窒素含有官能基が分布している。したがって、プリフォーム段階でプラズマ処理してもガスバリア性を有する薄膜の密着性が得られる。
【0059】
なお、プリフォーム又はプラスチック容器が当初から窒素原子を含有している場合には、内部における窒素原子含有量がベース値となり、窒素ガスによるプラズマ処理によって容器壁の表面側にはそのベース値よりも多くの窒素原子が含有されていることとなる。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
ポリ乳酸からなる500ml容器用のプリフォームを準備した。次に図1及び図2で示した常圧下でのプラズマトーチ(日本プラズマトーチ株式会社製1RD1004)の構成により、プリフォームの内壁面の全体に窒素ガスによるプラズマ処理を施した。処理時間は3秒間とした。次にブロー成形を行い、500mlの容器に仕上げた。次に、図5の成膜兼プラズマ処理装置を用いて、成膜機能だけを使用して、容器の内壁面の全体に、原料ガスをアセチレン、高周波電力を800W、成膜時間を2秒間として、プラズマCVD法によって厚さが30nmのDLC膜を成膜した。膜厚は、Veeco社DEKTAK3を用いて測定した。これを実施例1とした。実施例1の容器について、酸素透過度と密着性を次の通り評価した。結果を表1に示した。
(評価方法)
(1)酸素透過度
このフィルムの酸素透過度は、Modern
Control社製 Oxtran 2/20を用いて、23℃、90%RHの条件にて測定し、測定開始から20時間後の測定値を記載した。
(2)密着試験
DLC膜が、条件1のJISK5400の碁盤目テープ法によって剥離が生じるか否かの試験を行なった。切り傷によって100分割し、テープにより剥れなかった個数の割合として評価した。剥れなかった個数の割合が高いほど密着性が良好である。
条件1:切り傷の隙間は1mm、ます目の数は100。
【0061】
(参考例1)
ポリ乳酸からなる500ml容器用のプリフォームを、そのまま容器に成形した。ガスバリア性を有する薄膜をコーティングせずに、酸素透過度と密着性を評価した。結果を表1に示した。
【0062】
(実施例2)
ポリ乳酸からなる500ml容器用のプリフォームを準備し、ブロー成形を行い、500mlの容器に仕上げた。次に図5の装置を用いて、容器の内壁面の全体に窒素ガスによるプラズマ処理を施した。処理時間は3秒間とした。続いて、図5の成膜兼プラズマ処理装置を用いて、容器の内壁面の全体に、原料ガスをアセチレン、高周波電力を800W、成膜時間を2秒間として、プラズマCVD法によって厚さが30nmのDLC膜を成膜した。これを実施例2とした。実施例2の容器について、酸素透過度と密着性を評価した。結果を表1に示した。
【0063】
(比較例1)
ポリ乳酸からなる500ml容器用のプリフォームを準備し、ブロー成形を行い、500mlの容器に仕上げた。次に、プラズマ処理をせずに、図5の成膜兼プラズマ処理装置を用いて、容器の内壁面の全体に、原料ガスをアセチレン、高周波電力を800W、成膜時間を2秒間として、プラズマCVD法によって厚さが30nmのDLC膜を成膜した。これを比較例1とした。比較例1の容器について、酸素透過度と密着性を評価した。結果を表1に示した。
【0064】
(比較例2)
ポリ乳酸からなる500ml容器用のプリフォームを準備し、ブロー成形を行い、500mlの容器に仕上げた。次に図5の装置を用いて、容器の内壁面の全体に窒素ガスの代わりに酸素ガスによるプラズマ処理を施した。処理時間は3秒間とした。続いて、図5の成膜兼プラズマ処理装置を用いて、容器の内壁面の全体に、原料ガスをアセチレン、高周波電力を800W、成膜時間を2秒間として、プラズマCVD法によって厚さが30nmのDLC膜を成膜した。これを比較例2とした。比較例2の容器について、酸素透過度と密着性を評価した。結果を表1に示した。
【0065】
(比較例3)
ポリ乳酸からなる500ml容器用のプリフォームを準備し、ブロー成形を行い、500mlの容器に仕上げた。次に図5の装置を用いて、容器の内壁面の全体に窒素ガスの代わりに空気によるプラズマ処理を施した。処理時間は3秒間とした。続いて、図5の成膜兼プラズマ処理装置を用いて、容器の内壁面の全体に、原料ガスをアセチレン、高周波電力を800W、成膜時間を2秒間として、プラズマCVD法によって厚さが30nmのDLC膜を成膜した。これを比較例3とした。比較例3の容器について、酸素透過度と密着性を評価した。結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1と実施例2は、ガスバリア性が向上し、かつ、密着性が良好であることがわかる。それに対して、比較例1は、窒素ガスによるプラズマ処理を施さなかったので、ガスバリア性の向上は実施例1と実施例2と比較して少なく、また、密着性は不良であった。比較例2及び比較例3は、密着性は向上したものの、ガスバリア性はほとんど向上しなかった。以上のことから、窒素ガスによるプラズマ処理をプリフォーム又は容器に施すことで、ガスバリア性と密着性が共に向上することがわかった。
【0068】
なお、プリフォームの外壁面又は容器の外壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施した場合についても、プリフォームの内壁面又は容器の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施した場合と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】常圧下で、プラズマトーチを用いてプリフォームの内壁面にプラズマ処理を施す形態の概念図である。
【図2】図2は、プラズマトーチを用いたプラズマ発生システム図である。
【図3】常圧下で、プラズマトーチを用いてプリフォームの外壁面にプラズマ処理を施す形態の概念図である。
【図4】プリフォームの内壁面を窒素ガスによってプラズマ処理を施すためのプラズマ処理装置の概略図である。
【図5】プラスチック容器の内壁面を窒素ガスによってプラズマ処理を施し、かつ、当該内壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する兼用装置の概略図である。
【図6】窒素ガスによるプラズマ処理(400W)を行なったSIMS分析の結果である。
【図7】窒素ガスによるプラズマ処理(1000W)を行なったSIMS分析の結果である。
【図8】プラズマ処理を行なわなかったSIMS分析の結果である。
【符号の説明】
【0070】
1,61,下部外部電極
2,62,上部外部電極
3,63,外部電極
4,64,絶縁部材
5,65,蓋
6,66,真空チャンバー
7,プラスチック容器
8,68,Oリング
9,69,内部電極
9a,ガス吹き出し口
12,72,マッチングボックス
13,73,高周波電源
19,79,真空バルブ
25a,25b,85,三方バルブ
20,80,排気ポンプ
16a,16b,76,配管
17a,原料ガス発生源
17b,77,窒素ガス発生源
18a,原料ガス供給手段
18b,78,窒素ガス供給手段
40,内部空間
50,67,プリフォーム
51,プリフォームの底
52,プリフォームの口
53,ノズル
54,吹き出し口
55,窒素ガスプラズマ
X,ノズルの主軸
56,DC24VパワーサプライNT24
57,トランスフォーマーHTR12
58,ジェネレーターFG1001
59,プレトランスフォーマーAC200V/230V
60,電源AC200V単相
61,窒素ガス供給手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック容器の内壁面又は外壁面或いはその両壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜したガスバリア性プラスチック容器において、
前記ガスバリア性を有する薄膜が成膜されている側の容器壁が、その表面側に内部よりも多くの窒素原子を含有していることを特徴とするガスバリア性プラスチック容器。
【請求項2】
前記プラスチック容器と前記ガスバリア性を有する薄膜との界面領域における窒素濃度の最大値が、SIMS法で1×1020原子/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項3】
前記プラスチック容器がポリ乳酸により形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項4】
前記ガスバリア性を有する薄膜は、炭素膜、珪素含有炭素膜、酸化珪素膜又は酸化アルミニウム膜であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項5】
ガスバリア性を有する薄膜の成膜対象となるプラスチック容器のプリフォームにおいて、該プリフォームの内壁又は外壁或いはその両壁が、その表面側に内部よりも多くの窒素原子を含有していることを特徴とするガスバリア性プラスチック容器用のプリフォーム。
【請求項6】
前記プリフォームの表面における窒素濃度の最大値が、SIMS法で1×1020原子/cm以上であることを特徴とする請求項5に記載のガスバリア性プラスチック容器用のプリフォーム。
【請求項7】
前記プリフォームがポリ乳酸により形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のガスバリア性プラスチック容器用のプリフォーム。
【請求項8】
プラスチック容器用のプリフォームの表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、
プラズマ処理を施したプリフォームをブロー成形してプラスチック容器を得る工程と、
ブロー成形によって得たプラスチック容器の表面のうち、プリフォームの段階でプラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有することを特徴とするガスバリア性プラスチック容器の製造方法。
【請求項9】
前記プリフォームとして、ポリ乳酸により形成されているプリフォームを使用することを特徴とする請求項8に記載のガスバリア性プラスチック容器の製造方法。
【請求項10】
前記プラズマ処理を施す工程において、常圧下で、プラズマトーチを用いてプラズマ処理を施すことを特徴とする請求項8又は9に記載のガスバリア性プラスチック容器の製造方法。
【請求項11】
前記プラズマ処理を施す工程において、前記プリフォームの内部空間を窒素ガスで置換し、該窒素ガスをプラズマ化させて前記プリフォームの内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施すことを特徴とする請求項8又は9に記載のガスバリア性プラスチック容器の製造方法。
【請求項12】
ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の表面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、
プラズマ処理を施した面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有することを特徴とするガスバリア性プラスチック容器の製造方法。
【請求項13】
前記プラズマ処理を施す工程において、常圧下で、プラズマトーチを用いてプラズマ処理を施すことを特徴とする請求項12に記載のガスバリア性プラスチック容器の製造方法。
【請求項14】
ポリ乳酸で形成されたプラスチック容器の内部空間を窒素ガスで置換し、該窒素ガスをプラズマ化させて前記プラスチック容器の内壁面に窒素ガスによるプラズマ処理を施す工程と、
前記プラスチック容器の内壁面にガスバリア性を有する薄膜を成膜する工程と、を有することを特徴とするガスバリア性プラスチック容器の製造方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−302283(P2007−302283A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131476(P2006−131476)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】