説明

クリーニング方法、半導体装置の製造方法及び基板処理装置

【課題】 熱のみによって励起したクリーニングガスを用い、処理室内に付着した高誘電率膜を含む堆積物を高速に除去する。
【解決手段】 処理室内に処理ガスを供給して基板上に高誘電率膜を形成する処理を行った後の処理室内にBCl、HCl、Cl、SiCl、HBr、BBr、SiBr、およびBrからなる群から選択される一種以上のガスを含むハロゲン系ガスと酸素系ガスとを供給する工程と、処理室内を真空排気する工程と、を1サイクルとして、このサイクルを所定回数行うことで、処理室内に付着した高誘電率膜を含む堆積物を除去して処理室内をクリーニングする工程を有し、ハロゲン系ガスと酸素系ガスとを供給する工程では、ハロゲン系ガスおよび酸素系ガスに対する酸素系ガスの濃度を7%未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法、及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度化が進むDRAM等の半導体装置では、薄膜化されたゲート絶縁膜におけるゲートリーク電流を抑制するため、また、キャパシタの容量を増大させるため、ゲート絶縁膜やキャパシタ絶縁膜として高誘電率膜(高誘電率絶縁膜)が用いられるようになってきた。
【0003】
高誘電率膜を形成する際には、低温での形成が可能であること、形成される膜の表面が平坦であること、下地の凹凸部に対する被覆性や充填性が高いこと等が要求される他、膜内への異物の混入が少ないことが要求される。高誘電率膜は、基板を搬入した処理室内に処理ガスを供給することにより形成されるが、高誘電率膜を形成する際に、処理室の内壁や処理室内の基板支持具等の部材にも高誘電率膜を含む堆積物が付着し、付着した堆積物が処理室の内壁等から剥離して高誘電率膜中に混入してしまう可能性がある。そのため、異物の混入を抑制するには、堆積物からなる膜の膜厚が一定の膜厚に到達する毎に堆積物をエッチングにより除去することで処理室内や処理室内の部材をクリーニングする必要があった。
【0004】
堆積物をエッチングする方法としては、処理室を構成する反応管を取り外して洗浄液に浸漬するウエットエッチング法や、処理室内に励起したエッチングガスを供給するドライエッチング法が知られている。近年、反応管を取り外す必要のないドライエッチング法が用いられるようになってきた。ドライエッチング法としては、フッ素(F)系のガスや塩素(Cl)系のガスをプラズマにより励起してエッチングガスとして用いる方法や、Oを添加したBClガスをプラズマにより励起してエッチングガスとして用いる方法が開示されている(例えば非特許文献1,2、特許文献1から3参照)。これらプラズマを用いるエッチング方法は、プラズマ密度の均一性やバイアス電圧による制御の容易性から、枚葉式装置で行われることが多い。
【非特許文献1】T.Kitagawa,K.Nakamura,K.Osari,K.Takahashi,K.Ono,M.Oosawa,S.Hasaka,M.Inoue:Jpn.J.Appl.Phys.45(10),L297−L300(2006)
【非特許文献2】北川智洋、斧高一、大沢正典、羽坂智、井上實、大陽日酸技報 NO.24(2005)
【特許文献1】特開2006−179834号公報
【特許文献2】特開2006−339523号公報
【特許文献3】特開2004−146787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマを用いる上述のドライエッチング法(以後、プラズマエッチングともいう)では、エッチングガスを励起するためにプラズマ発生源を用意する必要があった。例えば、非特許文献2や特許文献1〜3においては、エッチングガスを励起するために、2.45GHzのマイクロ波プラズマを用いている。そのため、基板処理装置の製造コストや半導体装置の製造コストが増加してしまう場合があった。
【0006】
一方、プラズマを用いずに熱のみによってエッチングガスを励起してエッチングする方法(以下、サーマルエッチングともいう)も考えられる。しかしながら、かかる場合には高いエッチングレート(エッチング速度)を得られにくく、エッチング時間、すなわちクリーニング時間が長期化し、基板処理装置の生産性が低下してしまう場合があった。
【0007】
本発明は、熱のみによって励起したエッチングガスを用い、処理室内に付着した高誘電率膜を含む堆積物を高速に除去することが可能な半導体装置の製造方法、および基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、処理室内に基板を搬入する工程と、前記処理室内に処理ガスを供給して基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う工程と、処理後の基板を前記処理室内から搬出する工程と、前記処理室内にハロゲン系ガスと酸素系ガスとを供給して前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去し前記処理室内をクリーニングする工程と、を有し、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記ハロゲン系ガス及び前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を7%未満とする半導体装置の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う処理室と、前記高誘電率膜を形成する処理ガスを前記処理室内に供給する処理ガス供給系と、前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去して前記処理室内をクリーニングするハロゲン系ガスと酸素系ガスとを前記処理室内に供給するクリーニングガス供給系と、前記処理室内をクリーニングする際に、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度が7%未満となるように前記クリーニングガス供給系を制御するコントローラと、を有する基板処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる半導体装置の製造方法、および基板処理装置によれば、熱のみによって励起したエッチングガスを用い、処理室内に付着した高誘電率膜を含む堆積物を高速に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)はサーマルエッチングの評価に用いた実験装置の概略構成図であり、(b)はサーマルエッチングの評価方法を示すフロー図である。
【図2】エッチングレートの封入時間依存性に関する評価結果を示すグラフ図である。
【図3】エッチングレートの酸素濃度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、(a)はサーマルエッチングにおける評価結果を示し、(b)はプラズマエッチングにおける評価結果を示す。
【図4】サーマルエッチングにおけるエッチングレートの温度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、(a)はBClにOを添加した場合の評価結果を示し、(b)はBClを単独で用いた場合の評価結果を示す。
【図5】エッチングレートの真空度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、(a)はサーマルエッチングにおける評価結果を示し、(b)はプラズマエッチングにおける評価結果を示す。
【図6】(a)はサーマルエッチングにおける選択比の温度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、(b)はプラズマエッチングにおける選択比の真空度依存性に関する評価結果を示すグラフ図である。
【図7】本発明の実施例にかかる基板処理装置の斜透視図である。
【図8】本発明の実施例にかかる基板処理装置の側面透視図である。
【図9】本発明の実施例にかかる基板処理装置の処理炉の縦断面図である。
【図10】図9に示す処理炉のA−A線断面図である。
【図11】各種結合エネルギーの一覧を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の通り、サーマルエッチングでは高いエッチングレートを得られにくい場合があった。発明者等は、サーマルエッチングにおいてエッチングレートを増加させる方法について鋭意研究を行った。その結果、エッチング条件、例えばエッチングガス中の酸素系ガス濃度や、処理室内(被エッチング面)の温度や、処理室内の真空度(圧力)をそれぞれ所定の範囲内の値とすることで、サーマルエッチングにおけるエッチングレートを増加させることが可能であるとの知見を得た。
【0013】
そして、かかる知見に基づいて、処理室内に基板を搬入する工程と、前記処理室内に処理ガスを供給して基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う工程と、処理後の基板を前記処理室内から搬出する工程と、前記処理室内にハロゲン系ガスと酸素系ガスとを供給して前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去し前記処理室内をクリーニングする工程と、を有し、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記ハロゲン系ガス及び前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を7%未満とする半導体装置の製造方法を発明するに到った。なお、ハロゲン系ガスとは、ハロゲン元素を含むガスのことを意味しており、酸素系ガスとは酸素原子を含むガスのことを意味している。
【0014】
また、かかる知見に基づいて、基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う処理室と、前記高誘電率膜を形成する処理ガスを前記処理室内に供給する処理ガス供給系と、前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去して前記処理室内をクリーニングするハロゲン系ガスと酸素系ガスとを前記処理室内に供給するクリーニングガス供給系と、前記処理室内をクリーニングする際に、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度が7%未満となるように前記クリーニングガス供給系を制御するコントローラと、を有する基板処理装置を発明するに到った。
【0015】
以下に、発明者等が得た知見について詳しく説明する。
【0016】
図1(a)に、発明者等がサーマルエッチングの評価に用いた実験装置300の構成を示す。また、図1(b)に、発明者等が実験装置300を用いて行ったサーマルエッチングの評価におけるエッチングフローを示す。図1(a)に示すとおり、実験装置300は、気密に密閉された処理容器302を備えている。処理容器302内にはサーマルエッチングを行う反応室301が構成されている。
【0017】
処理容器302の側面には、評価対象である試料(サンプル)308を反応室301内外へ搬送する開口としての搬送口303が設けられている。試料308は、例えばALD法によりHfO膜が表面に形成された15mm×15mmの石英ガラス基板として構成されている。試料308は、図1(a)に示す実験装置とは異なる装置により別途作成される。また、搬送口303にはゲートバルブ304が設けられている。ゲートバルブ304は搬送口303を開閉可能なように構成されている。
【0018】
反応室301内には、搬送口303から搬入された試料308を保持する支持台305が設けられている。具体的には、支持台305の上部にはサンプルホルダ307が設けられており、試料308はサンプルホルダ307上に水平姿勢で保持されるように構成されている。サンプルホルダ307の下方であって支持台305内には、試料308を加熱するヒータ306が内蔵されている。
【0019】
搬送口303が設けられている側とは反対側の処理容器302の側面には、反応室301内に連通するガス供給ポート309が設けられている。ガス供給ポート309には、BClとOとを含むエッチングガスを供給するガス供給管310が接続されている。ガス供給管310にはバルブ311が設けられており、バルブ311を開閉することにより反応室301内へのエッチングガスの供給を開始あるいは停止することが可能なように構成されている。なお、ガス供給管310から供給されるエッチングガス中の酸素濃度、すなわち、BClとOとの総量に対するOの量の割合は、任意に調整可能なように構成されている。
【0020】
処理容器302の上面(天井壁)には、反応室301内に連通するパージガス供給ポート312が設けられている。パージガス供給ポート312には、パージガスとして例えばAr等の不活性ガスを供給するパージガス供給管313が接続されている。パージガス供給管313にはバルブ314が設けられており、バルブ314を開閉することにより反応室301内へのパージガスの供給を開始あるいは停止することが可能なように構成されている。
【0021】
処理容器302の底面には、反応室301内に連通する排気ポート315が設けられている。排気ポート315には排気管316が接続されている。排気管316には、上流側から順に、排気バルブ318、真空ポンプ317が設けられている。また、処理容器302の側面には反応室301内の圧力を検出する圧力計(Pressure Gauge)320が設けられている。排気バルブ318および圧力計320はそれぞれAPC(Auto Pressure Controller)319に接続されている。APC319は、圧力計320により検出された圧力値に基づいて排気バルブ318の開度を制御し、反応室301内の圧力を所望の圧力に調整するように構成されている。
【0022】
続いて、上述の実験装置300を用いたサーマルエッチングにおけるエッチングレートの評価方法について、図1(b)を参照しながら説明する。
【0023】
まず、バルブ311,314、排気バルブ318を閉じたままゲートバルブ304を開き、反応室301内を大気に開放する(e1)。そして、試料308を、搬送口303を介して反応室301内へ搬入し、サンプルホルダ307上に載置する。なお、試料308上に形成されたHfO膜の膜厚(初期膜厚)は搬入前に予め測定しておく。なお、膜厚の測定は、例えばエリプソメトリ(偏光解析法)等の手法により行うことが出来る。発明者等は、かかる測定にファイブラボ社製のMARRY102(光源波長632.8nm)を用いた。
【0024】
試料308を反応室301内へ導入後、ゲートバルブ304を閉め、真空ポンプ317を作動させるともに排気バルブ318を開けて反応室301内を真空排気する(e2)。そして、ヒータ306を作動させ、試料308の表面が設定温度、例えば350〜450℃となるように加熱する(e3)。
【0025】
続いて、排気バルブ318を閉じ、バルブ311を開けて、ガス供給管310から反応室301内にBClとOとを含むエッチングガスを供給する(e4)。反応室301内の圧力が所定の設定圧力に到達したら、バルブ311を閉じて反応室301内へのエッチングガスの供給を停止するとともに反応室301内にエッチングガスを封入する(e5)。そして、反応室301内にBClとOとを含むエッチングガスを封入した状態を所定時間維持することにより、試料308の表面に形成されたHfO膜をエッチングする(e6)。エッチングガスを封入した状態で所定時間が経過したら、排気バルブ318を開き、反応室301内を真空ポンプ317により真空排気する(e7)。
【0026】
そして、上述した工程e4からe7までを1サイクルとして、このサイクルを所定の回数繰り返す(サイクルエッチング)。その後、バルブ314を開いて反応室301内にパージガスを導入して反応室301内をパージした後、反応室301内にパージガスを導入した状態で排気バルブ318を閉じ、反応室301内を大気圧まで昇圧させる。そして、ゲートバルブ304を開き、エッチング後の試料308を反応室301内から搬送口303を介して反応室301外へ搬出し、エッチング後のHfO膜の膜厚(最終膜厚)を測定する。なお、膜厚の測定は初期膜厚の測定と同様に行う。
【0027】
上記において、工程e4から工程e5に到るまでの時間(エッチングガスを反応室301内に供給中の時間)を遷移時間とし、工程e5から工程e6が完了するまでの時間(反応室301内にエッチングガスを封入中の時間)を封入時間とする。つまり、遷移時間は、試料308の表面温度が一定であって、反応室301内の圧力が上昇中の時間をいい、封入時間は、試料308の表面温度及び反応室301内の圧力がそれぞれ一定である時間をいう。
【0028】
サイクルエッチングの1サイクルに注目すると、エッチングレート、すなわち、バルブ311を開けて反応室301内へのエッチングガスの供給を開始してから(e4)、排気バルブ318を開いて反応室301内を真空排気するまで(e7)の平均のエッチングレートは、以下の(1)式により求めることができる。
エッチングレート=(初期膜厚−最終膜厚)/(遷移時間+封入時間) ・・・(1)
【0029】
なお、エッチングは主に封入時間において行われることから、エッチングレートを(初期膜厚−最終膜厚)/封入時間とすることも考えられるが、その場合、僅かではあるが遷移時間においてもエッチングが行われていることを無視してエッチングレートを算出していることとなり、エッチングレートを過大評価していることとなる。発明者等は、エッチングレートを増加させる最適条件をより正確に求めるには、遷移時間や封入時間におけるエッチングレートを正確に算出する必要があると考え、これらのエッチングレートを以下のように求めることとした。
【0030】
まず、遷移時間におけるエッチングレート、すなわち、バルブ311を開けて反応室301内へのエッチングガスの供給を開始してから(e4)、バルブ311を閉めてエッチングガスの供給を停止するまで(e5)の平均のエッチングレートは、以下の(2)式により求めることとした。
遷移時間におけるエッチングレート=(初期膜厚−ガス供給停止後の膜厚)/遷移時間
・・・(2)
【0031】
また、封入時間におけるエッチングレート、すなわち、バルブ311を閉めて反応室301内にエッチングガスを封じ込めてから(e5)、排気バルブ318を開いて反応室301内を真空排気するまで(e7)の平均のエッチングレートは、上述の(2)式を用いつつ、以下の(3)式により求めることとした。
封入時間におけるエッチングレート={初期膜厚−(遷移時間のエッチングレート×遷移時間)−最終膜厚}/封入時間 ・・・(3)
【0032】
なお、上述の(1)〜(3)式は、いずれも1サイクルに注目した場合の式であるが、サイクルエッチング全体を通しての合計遷移時間(遷移時間×サイクル数)、合計封入時間(封入時間×サイクル数)を考慮すれば、サイクルエッチング全体を通しての平均エッチングレートを求めることもできる。
【0033】
以下に、サーマルエッチングにおけるエッチングレートの評価結果について、特許文献1にて開示されているプラズマエッチングのデータと対比しながら説明する。
【0034】
(封入時間の評価)
サイクルエッチングにおいては、1サイクルあたりのエッチング量が確定していれば、サイクル数に基づいて総エッチング量をより正確に制御することが可能となる。この際、封入時間におけるエッチングレートが大きいことに加え、1サイクル毎のエッチングレートが安定している(1サイクル毎のエッチング量の変動が少ない)ことが必要となる。また、エッチングレートを最適化させる条件(酸素濃度、温度、真空度など)を正確に求めるためにも、エッチングレートが安定していることが必要となる。そこで発明者等は、エッチングレートと封入時間との関係について注目し、その相関関係について評価を行った。
【0035】
その結果を図2に示す。図2の横軸は封入時間を示し、縦軸は封入時間におけるエッチングレートを示している。エッチングガスとしてはBClとOとを含むガスを用い、BClとOとの総量に対するOの量の割合は10%とした。エッチングレートは、上述の(3)式に基づいて算出した。また、封入時間における反応室301内の圧力は100Torrとし、試料308の表面温度は400℃とした。
【0036】
図2によれば、封入時間を1分としたときのエッチングレートは平均7nm/min程度であって比較的良好であるものの、封入時間を2分としたときのエッチングレートと比較してばらつきが大きくなってしまっていることが分かる。また、封入時間を5分としたときのエッチングレートは平均5nm/minを下回り、封入時間を2分としたときのエッチングレート(平均8nm/min程度)と比較すると大幅に低下してしまっていることが分かる。すなわち、エッチングレートと封入時間との関係は反応室301の容積等の諸条件によって変動する可能性があるものの、上述した実験装置300においては封入時間を2分とすることで高いエッチングレートを得られるとともに、1サイクルあたりのエッチングレートを安定させることが可能であることが分かった。そこで発明者等は、以下に示す評価においては封入時間を2分としてサイクルエッチングを行った。なお、封入時間を5分としたときのエッチングレートの低下については、反応室301内に封入されたエッチングガスがエッチング処理の進行に伴って消費されてしまい、エッチングガスの濃度が低下していることがその一因であると考えられる。
【0037】
(酸素濃度依存性の評価)
続いて、エッチングレートの酸素濃度依存性の評価結果について、図3を参照しながら説明する。
【0038】
図3は、エッチングレートの酸素濃度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、(a)はサーマルエッチングにおける評価結果を示し、(b)はプラズマエッチングにおける評価結果を示す。図3(a)、図3(b)ともに、横軸はBClとOとの総量に対するOの量の割合(酸素濃度)を示し、縦軸はエッチングレートを示している。なお、図3(b)は上述の特許文献1から抜粋した参考データである。
【0039】
図3(a)に示す評価では、エッチングガスとしてはBClとOとを含むガスを用い、BClとOとの総量に対するOの量の割合(酸素濃度)を0%から10%まで変化させて、それぞれの酸素濃度におけるエッチングレートを上述の(1)式に基づいて算出した。また、封入時間における反応室301内の圧力は100Torrとし、試料308の表面温度は400℃とした。
【0040】
図3(a)によれば、サーマルエッチングの場合、酸素濃度を0%より大きく7%より小さくするとBCl単独でのエッチングレート(10.7nm/min)を上回り、O濃度を7%より大きくするとBCl単独でのエッチングレートを下回ることが分かる
。なお、酸素濃度を10%とした場合、エッチングレートは8nm/minとなり、BCl単独でのエッチングレートを大きく下回った。以上により、発明者等は、酸素濃度を0%超であって7%未満とするのが好ましく、酸素濃度をかかる範囲内の値とすることで、BCl単独でのエッチングレートを上回るエッチングレートにてサーマルエッチングをすることが可能となるとの知見を得た。
【0041】
また、図3(a)によれば、サーマルエッチングの場合、酸素濃度が3.3%以上、5%以下の範囲で急激にエッチングレートが上がり、特に、酸素濃度が4%の場合にはエッチングレートが最大の13.6nm/minに達することが分かる。なお、酸素濃度が3.3%、5%の場合のエッチングレートはそれぞれ11.7nm/min、12.2nm/minであった。以上により、発明者等は、酸素濃度を3.3%以上であって5%以下とするのがより好ましく、酸素濃度をかかる範囲内の値とすることで、より高いエッチングレートにてサーマルエッチングをすることが可能となるとの知見を得た。
【0042】
また、酸素濃度が4%を超えるとエッチングレートが急激に下がり、7%に至るまでの範囲においては酸素濃度を4%以下とする場合と同等のエッチングレートとなる。以上により、発明者等は、酸素濃度は4%以下とするのがより好ましく、酸素濃度をこの範囲内の値とすれば、酸素添加量を必要最小限としつつ、より高いエッチングレートにてサーマルエッチングを行うことが可能であるとの知見を得た。
【0043】
なお、上述のように酸素濃度が4%を超えるとエッチングレートは急激に下がり、酸素濃度が7%を超えるとBCl単独でのエッチングレートを下回り、酸素濃度が10%の場合、エッチングレートは8nm/minとなる。図示はしていないが、さらにO濃度を15%としたところ、エッチングレートはO濃度を10%としたときのエッチングレート(8nm/min)を下回り、さらにO濃度を20%としたところ、エッチングレートはO濃度を15%としたときのエッチングレートをさらに下回ることが確認できた。すなわち、O濃度を4%超とした場合、少なくとも20%に至るまでの範囲においては、O濃度の上昇に伴いエッチングレートが低下する傾向があることが判明した。
【0044】
なお、図3(b)によれば、プラズマエッチングの場合、酸素濃度が0%の場合にはエッチングが行われず、堆積物が生じ、酸素濃度が10%、20%の場合には堆積物は生じずエッチングが行われることが分かる。また、酸素濃度を10%以上の範囲とするとエッチングレートはやや減少していくことが分かる。
【0045】
図3(a)と図3(b)とを比較すると、プラズマエッチングに比べ、サーマルエッチングではO濃度0%〜10%の範囲においても堆積物は生じず、エッチングが行われ、更に、上述のようにサーマルエッチングには、O濃度が4%の場合に特異的にエッチングレートが大きくなる等、プラズマエッチングにはない特徴がある。すなわち、プラズマエッチングとサーマルエッチングとでは酸素濃度依存性が大きく異なることが分かる。以下のサーマルエッチングの実験では、最もエッチングレートが増加した酸素濃度4%の条件をBClとOとの混合条件とした。
【0046】
(温度依存性の評価)
続いて、エッチングレートの温度依存性の評価結果について、図4を参照しながら説明する。
【0047】
図4はエッチングレートの温度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、(a)はBClにOを添加した場合のサーマルエッチングにおける評価結果を示し、(b)はBClを単独で用いた場合のサーマルエッチングにおける評価結果を示す。図4(a)、図4(b)ともに、横軸は試料308の表面温度を示し、縦軸には封入時間における
エッチングレートを示している。
【0048】
図4(a)、図4(b)に示す評価では、試料308の表面温度を350〜450℃の範囲で変化させて、また、封入時間における反応室301内の圧力を10Torr、50Torr、100Torrと変化させて、それぞれの表面温度及びそれぞれの圧力におけるエッチングレートを測定した。エッチングレートは上述の(3)式に示す方法で算出した。図4(a)中において、10Torrは▲印、50Torrは■印、100Torrは◆印でそれぞれ示している。図4(a)に示す評価では、エッチングガスとしてはBClとOとを含むガスを用い、BClとOとの総量に対するOの量の割合(酸素濃度)を4%とした。
【0049】
また、図4(b)に示す評価では、エッチングガスとしてはBClを単独で用いた(酸素濃度0%)。図4(b)中において、10Torrは△印、50Torrは□印、100Torrは◇印でそれぞれ示している。
【0050】
図4(a)、図4(b)によれば、いずれの場合にも高圧側および高温側でエッチングレートが増加することが分かる。また、図4(a)と図4(b)とを比較した場合、圧力10Torr,50Torrでは、375℃、400℃、425℃、450℃の何れの温度においてもO添加の場合のエッチングレートとO不添加の場合のエッチングレートとの間には大きな差は見られない。しかしながら、圧力100Torr(13300Pa)では、400℃、425℃、450℃の温度において、O添加の場合のエッチングレートとO不添加の場合のエッチングレートとの間に大きな差が確認された。すなわち、100Torr(13300Pa)、400℃以上の圧力、温度においては、O添加の場合のエッチングレートの方が、O不添加の場合のエッチングレートよりも大幅に大きくなることが確認された。具体的には、O添加の場合であって100Torrの場合、エッチングレートは400℃で13.6nm/min、425℃で20nm/min、450℃で30nm/minとなった。つまり、O添加効果は10〜50Torr程度の圧力では何れの温度においてもそれ程大きくないが、100Torr(13300Pa)、400℃以上の圧力、温度で顕著に見られることが確認できた。後述する図5(a)からも明らかと言える。これにより、エッチング温度は400℃以上、エッチング圧力は100Torr以上とするのが好ましい。
【0051】
なお、600℃を超える温度では、エッチング対象であるHigh−k膜(HfO膜)の結晶化が極度に進行し、エッチングレートが取れなくなる。すなわち600℃を超える温度では、エッチング対象であるHigh−k膜の結晶性が急激に変化し、エッチング反応が生じ難くなり、エッチングレートが急激に落ちることになる。よって、エッチング温度は600℃以下とするのが好ましい。
【0052】
また、圧力が高くなる程エッチングレートは上がるが、エッチングレートが上がりすぎると、均一にエッチングを行うことが難しくなる。よって、エッチング圧力は500Torr(66500Pa)以下とするのが好ましく、200Torr(26600Pa)以下とするのがより好ましい。
【0053】
試料308の表面温度、及び反応室301内の圧力をこの範囲内の値とすることで、BCl単独でのエッチングレートを上回るエッチングレートにてサーマルエッチングを行うことが可能となる。すなわち、プラズマを用いないサーマルエッチングであっても、被エッチング面の温度を所定温度に高めることにより、また、反応室301内の圧力を所定の圧力に高めることにより、プラズマエッチングに劣らず十分なエッチング速度を得ることが可能となる。
【0054】
(真空度依存性の評価)
続いて、エッチングレートの真空度(圧力)依存性の評価結果について、図5を参照しながら説明する。
【0055】
図5は、サーマルエッチングにおけるエッチングレートの真空度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、(a)はサーマルエッチングにおける評価結果を示し、(b)はプラズマエッチングにおける評価結果を示す。図5(a)、図5(b)ともに、横軸は反応室301内の真空度(圧力)を示し、縦軸は封入時間におけるエッチングレートを示している。なお、図5(b)は上述の特許文献1から抜粋したデータである。
【0056】
図5(a)に示す評価では、封入時間における反応室301内の圧力を10〜100Torrの間で変化させて、また、試料308の表面温度を400℃、450℃と変化させて、それぞれの圧力及びそれぞれの表面温度におけるエッチングレートを測定した。エッチングレートは上述の(3)式に示す方法で算出した。また、エッチングガスとしてBClとOとを含むガスを用いる場合と、BClを単独で用いる場合のそれぞれについて、上述のエッチングレートの測定を行った。図中においては、BClとOとを含むガスを用いる場合を●印で、BClを単独で用いる場合を■印でそれぞれ示している。
【0057】
図5(a)によれば、サーマルエッチングの場合、いずれの温度においても圧力が高くなる程、エッチングレートが増加することが分かる。また、いずれの温度においても、エッチングガスとしてBClを単独で用いた場合のエッチングレートよりも、エッチングガスとしてBClとOとを含むガスを用いた場合のエッチングレートの方が大きいことが分かる。特に、100Torr以上の高圧側において、両者のエッチングレートの差が大きくなることが分かる。
【0058】
なお、図5(b)は特許文献1から引用したデータであるが、プラズマエッチングの場合、エッチングガスとしてBClを単独で用いると、実線で示すとおり、5mTorr,6mTorrのように低い圧力では堆積が見られ、8mTorr以上になるとエッチングが観察されるものの次第に飽和し、10mTorr以上となるとエッチングレートが徐々に低下していく傾向が見受けられる。また、エッチングガスとしてBClとOとを含むガスを用いると、破線で示すとおり、圧力が低くても比較的高いエッチングレートが得られ、圧力を高めていってもエッチングレートは変化せず、圧力が10mTorr以上となるとエッチングレートが徐々に低下していく傾向が見受けられる。また、10mTorr以下の圧力では、エッチングガスとしてBClを単独で用いる場合よりもエッチングレートは大きいことも分かる。以上のことから、サーマルエッチングとプラズマエッチングとでは、真空度依存性が大きく異なり、サーマルエッチングにはプラズマエッチングにない特徴があることが分かる。
【0059】
(選択比の温度依存性の評価)
続いて、選択比の温度依存性等の評価結果について、図6を参照しながら説明する。
【0060】
クリーニングの対象となる基板処理装置の処理室を構成する反応管内には、実際には、HfOを含む堆積物が均一に付着していない場合がある。例えば堆積物の膜厚が局所的に薄かったり、局所的に厚かったりする場合がある。また、反応管内壁の表面温度が不均一であったり、処理室内のクリーニングガスの圧力が不均一であったりして、堆積物のエッチングレートが局所的に異なってしまう場合もある。このような場合、反応管内に付着した堆積物をすべてエッチングにより除去しようとすれば、石英ガラス(SiO)等で構成される反応管の内壁の一部の表面がクリーニングガスに長時間曝されてしまい、ダメージを受けてしまう場合がある。かかるダメージを減少させるには、反応管を構成する石英ガラスとHfO膜との選択比(すなわち石英ガラスのエッチングレートに対するHf
膜のエッチングレートの比)を高めることが有効である。発明者等は、被エッチング面の温度を所定の範囲内とすることで選択比を高めることが可能であるとの知見を得て、温度と選択比との相関関係について評価を行った。
【0061】
図6(a)はサーマルエッチングにおける選択比の温度依存性に関する評価結果を示すグラフ図であり、図6(b)はプラズマエッチングにおける選択比の真空度依存性に関する評価結果を示すグラフ図である。なお、図6(a)においては、横軸に試料308の表面温度を示し、左側の縦軸にエッチングレートを示し、右側の縦軸に選択比を示している。また、図6(b)においては、横軸に真空度(圧力)を示し、縦軸にエッチングレートを示している。なお、図6(b)は上述の特許文献1から抜粋したデータである。
【0062】
図6(a)に示す評価では、試料308の一部表面に、石英ガラスの代わりとしてTEOS−SiO膜を形成した。すなわち、試料308の表面にはHfO膜とTEOS−SiO膜とがそれぞれ露出しており、これらの膜は同一の条件でエッチングガスに曝されることになる。なお、エッチングガスとしてはBClとOとを含むガスを用い、BClとOとの総量に対するOの量の割合(酸素濃度)を4%とした。また、封入時間における反応室301内の圧力を100Torrとした。そして、試料308の表面温度を400℃、425℃、450℃とした場合のそれぞれについてHfO膜のエッチングレート、TEOS−SiO膜のエッチングレートを測定し、選択比(HfO膜のエッチングレート/TEOS−SiO膜のエッチングレート)を算出した。なお、エッチングレートは上述の(3)式に示す方法で算出した。図6(a)中において、測定したエッチングレートを柱状グラフで示し、エッチングレートから算出した選択比を◆印で示している。
【0063】
図6(a)によれば、試料308の表面温度を高めることでHfO膜のエッチングレートが増加するのに対し、TEOS−SiO膜のエッチングレートはほぼ変化しないことが分かる。すなわち、試料308の温度を高くする程、高い選択比が得られることが分かる。また、試料308の表面温度が450℃になれば、選択比は16に達し、高い選択比が得られることが分かる。
【0064】
なお、実際に石英ガラスに対するエッチング評価を行ったところ、石英ガラスのダメージは確認されなかった。すなわち、石英ガラス基板上にHfO膜を形成したサンプルを用意し、石英ガラス基板上のHfO膜を完全にエッチングした後、同じ時間だけ石英ガラス基板をオーバーエッチングしたところ、石英ガラス基板にダメージは確認されなかった。なお、エッチング条件は、図6(a)の評価と同様な条件とした。
【0065】
以上のことから、発明者等は、図6(a)の評価における条件であれば、HfO膜とTEOS−SiO膜との選択比(HfO/TEOS−SiO)を十分に確保することができ、また、HfO膜の完全除去後でも石英ガラス基板へダメージを与えることがないようにすることができ、反応管を構成する石英ガラスへのダメージを抑制することができるとの知見を得た。
【0066】
なお、図6(b)は特許文献1から引用したデータであるが、かかるデータはプラズマエッチングにおいて、HfO膜のエッチングレートとSi,SiOのエッチングレートとを処理室内の真空度を変えて測定したものである。図6(b)に示す評価において、被エッチング面の温度は室温である。図6(b)によれば、いずれの圧力においても、Si,SiOのエッチングは観察されず、HfO膜についてはエッチングが生じており、選択比が1を超える高い選択性を持ってエッチングできることが分かる。
【0067】
(3)考察
上述の評価結果から、酸素濃度を所定の範囲内とすることにより、また、試料308の表面(被エッチング面)の温度を高めることにより、また、反応室301内の圧力を高めることにより、サーマルエッチングにおけるエッチングレートを増加させることが可能であることが分かった。例えば、図4(a)に示すように、BClとOとの総量に対するOの量の割合(酸素濃度)を4%とし、試料308の表面温度を450℃とし、反応室301内の圧力を100Torrとすることで、30nm/minのエッチングレートを得られることが分かった。かかるエッチングレートは、図3(b)にて示した特許文献1にて開示されているプラズマエッチングのエッチングレート10nm/minと比べても大きく、実際の基板処理装置の処理室内のクリーニングに適用するに十分なエッチングレートである。一方、特許文献1に開示されているとおり、プラズマエッチングでは、BClとOとを含むエッチングガスを用いて酸素濃度を10%以上とし、被エッチング面を低温(室温)とし、処理室内の圧力を低圧とすることにより良好なエッチングレートが得られている。
【0068】
発明者等は、上述の評価結果を元に、サーマルエッチングとプラズマエッチングのメカニズムの差異について以下の通り考察を行った。
【0069】
(酸素濃度について)
堆積物としてのHfOをエッチングするには、Hf−O結合の切断、Hfの塩化物や臭化物のような蒸気圧の高い反応生成物の生成、かかる反応生成物の脱離といったプロセスを進行させる必要がある。かかるプロセスを進行させるには、まず、Hf−O結合を切断させるために、Hf−O結合よりも大きな結合エネルギー(Bond strength)を有する新たな結合を生成させることが必要となる。
【0070】
図11に、各種結合エネルギーの一覧を示す(出典:Lide.D.R.ed.CRC
Handbook of Chemistry and Physics,79thed.,Boca Raton,FL,CRC Press,1998)。図11によれば、Hf−Oの結合エネルギーは8.30eVと大きいことから、HfOはエッチングによる除去が比較的困難な材料といえる。これに対して、クリーニングガスとしてBClを含むガスを用いた場合には、BによるOの引き抜き反応により、B−O結合が形成されるが、このB−Oの結合エネルギーは8.38eVであってHf−Oの結合エネルギーよりも大きく、Hf−O結合を切断させることができ、上述のプロセスを進行させることが可能となる。
【0071】
HfOが付着した処理室内に、熱またはプラズマにより励起したBClを含むクリーニングガスを供給した場合、以下の(4)式に示すように、BClからClがリリースされる。そして、HfOを構成するHf−O結合からOが引き抜かれてB−O結合が形成されるとともに、反応生成物として揮発性の高いHfCl、BOCl、(BOCl)が生成され、かかる反応生成物が揮発(脱離)することによりエッチング反応が進行することになる。
HfO+2BCl → HfO+2BCl+4Cl → HfCl+2(BOCl) ・・・(4)
【0072】
なお、上述のエッチング反応の進行中において、BCl保護膜がHfOの表面に形成され、エッチング反応の進行を抑制してしまう場合がある。このような場合、サーマルエッチングにおいては、図3(a)にて示すように、HfOに供給するBClに酸素系ガスとして例えばOを少量混合することにより、エッチング反応の進行を加速させることができる。これは、以下の(5)式に示すように、BClとOとの反応により、揮発性の高いBOClや(BOCl)が生成され、表面反応抑制種BClの密度が減少して、BCl保護膜の形成が抑制されるとともに、HfOに対するBClやC
lの効果が大きくなり、エッチングレートが増加しているものと考えられる。
2BCl+O → BOCl+BCl+4Cl ・・・(5)
【0073】
ただし、BClにOを過剰に混合した場合には、図3(a)にて示すように、エッチング反応の進行が抑制されてしまう。これは、Oを過剰に混合したことによってBClやClが生成されずにBのような固体種が生成され、BCl保護膜がHfOの表面に形成され、エッチング反応の進行を抑制してしまうためであると考えられる。かかる反応の様子を(6)式に示す。
2BCl+3O → B+6Cl ・・・(6)
【0074】
なお、プラズマエッチングの場合には、図3(b)に示すように、酸素濃度を0%とすると被エッチング面にBCl保護膜が形成され、エッチング反応の進行が阻止されてしまっていた。これに対しサーマルエッチングの場合には、図3(a)に示すように、酸素濃度を0%としてもエッチングレートが極端に低下することはない。これは、サーマルエッチングの場合には、酸素濃度が0%であっても以下の(7)式に示すような分解反応が緩やかに進行し、BClを形成するには至らず、BClやClの効果を得られるためと考えられる。
BCl → BCl+2Cl ・・・(7)
【0075】
(被エッチング面の表面温度について)
図4(a)、図4(b)に示すとおり、サーマルエッチングの場合には、試料308の表面温度を高めることによりエッチングレートが増大することが分かる。これは、試料308の表面温度を高めることにより、上述の(5)式、及び(7)式の反応が進み、BClやClの効果を得やすくなったことが一要因であると考えられる。
【0076】
(処理室内の真空度について)
サーマルエッチングの場合には、図5(a)に示すとおり、反応室301内の圧力が高まるにつれてエッチングレートが増大することが分かる。これは、サーマルエッチングの場合には、BClから解離したBClラジカルのポテンシャルがプラズマにより発生したBClラジカルのポテンシャルほどには大きくないことから、BClから解離したBClラジカルがBCl重合体を形成せずに上述の(4)式に示すエッチングを進行させ、反応室301内の圧力を高めることによりエッチングレートを増大させているものと考えられる。
【0077】
一方、プラズマエッチングの場合には、図5(b)に示すとおり、酸素濃度が0%であって、処理室内が低圧であるときには、エッチング反応の進行が阻止されてしまう。これは、硼素の塩素化合物(Boron−Chlorinate compounds)であるBClが被エッチング面に堆積あるいは重合して保護膜を形成しているためであると考えられる。そのため、処理室内の圧力を高めてもエッチングレートは飽和してしまい、更に圧力を高めるとエッチングレートが減少してしまっているものと考えられる。
【0078】
以上のように、エッチングガスとしてBClとOとを含むガスを用いる場合、サーマルエッチングとプラズマエッチングとではそのエッチングメカニズムが大きく異なり、それゆえにエッチング特性も大きく異なる。したがって、同じエッチングガスを用いるエッチングであるものの、両者は別物といえる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。
【0080】
(1)基板処理装置の構成
まず、図7、図8を用いて、半導体装置の製造工程における基板処理工程を実施する基板処理装置101の構成例について説明する。図7は、本発明の実施例にかかる基板処理装置101の斜透視図であり、図8は、本発明の実施例にかかる基板処理装置101の側面透視図である。
【0081】
図7および図8に示すように、本実施例にかかる基板処理装置101は筐体111を備えている。筐体111の正面壁111aの下方には、筐体111内をメンテナンス可能なように設けられた開口部としての正面メンテナンス口103が設けられている。正面メンテナンス口103には、正面メンテナンス口103を開閉する正面メンテナンス扉104が設けられている。シリコン等からなるウエハ(基板)200を筐体111内外へ搬送するには、複数のウエハ200を収納するウエハキャリア(基板収納容器)としてのカセット110が使用される。正面メンテナンス扉104には、カセット110を筐体111内外へ搬送する開口であるカセット搬入搬出口(基板収納容器搬入搬出口)112が、筐体111内外を連通するように設けられている。カセット搬入搬出口112は、フロントシャッタ(基板収納容器搬入搬出口開閉機構)113によって開閉されるように構成されている。カセット搬入搬出口112の筐体111内側には、カセットステージ(基板収納容器受渡し台)114が設けられている。カセット110は、図示しない工程内搬送装置によってカセットステージ114上に載置され、また、カセットステージ114上から筐体111外へ搬出されるように構成されている。
【0082】
カセット110は、工程内搬送装置によって、カセット110内のウエハ200が垂直姿勢となり、カセット110のウエハ出し入れ口が上方向を向くように、カセットステージ114上に載置される。カセットステージ114は、カセット110を筐体111の後方に向けて縦方向に90°回転させ、カセット110内のウエハ200を水平姿勢とさせ、カセット110のウエハ出し入れ口を筐体111内の後方を向かせることが可能なように構成されている。
【0083】
筐体111内の前後方向の略中央部には、カセット棚(基板収納容器載置棚)105が設置されている。カセット棚105は、複数段、複数列にて複数個のカセット110を保管するように構成されている。カセット棚105には、後述するウエハ移載機構125の搬送対象となるカセット110が収納される移載棚123が設けられている。また、カセットステージ114の上方には、予備カセット棚107が設けられ、予備的にカセット110を保管するように構成されている。
【0084】
カセットステージ114とカセット棚105との間には、カセット搬送装置(基板収納容器搬送装置)118が設けられている。カセット搬送装置118は、カセット110を保持したまま昇降可能なカセットエレベータ(基板収納容器昇降機構)118aと、カセット110を保持したまま水平移動可能な搬送機構としてのカセット搬送機構(基板収納容器搬送機構)118bと、を備えている。これらカセットエレベータ118aとカセット搬送機構118bとの連続動作により、カセットステージ114、カセット棚105、予備カセット棚107、移載棚123の間で、カセット110を搬送するように構成されている。
【0085】
カセット棚105の後方には、ウエハ移載機構(基板移載機構)125が設けられている。ウエハ移載機構125は、ウエハ200を水平方向に回転ないし直動可能なウエハ移載装置(基板移載装置)125aと、ウエハ移載装置125aを昇降させるウエハ移載装置エレベータ(基板移載装置昇降機構)125bと、を備えている。なお、ウエハ移載装置125aは、ウエハ200を水平姿勢で保持するツイーザ(基板保持体)125cを備えている。これらウエハ移載装置125aとウエハ移載装置エレベータ125bとの連続動作により、ウエハ200を移載棚123上のカセット110内からピックアップして後
述するボート(基板保持具)217へ装填(チャージング)したり、ウエハ200をボート217から脱装(ディスチャージング)して移載棚123上のカセット110内へ収納したりするように構成されている。
【0086】
筐体111の後部上方には、処理炉202が設けられている。処理炉202の下端部には開口が設けられ、かかる開口は炉口シャッタ(炉口開閉機構)147により開閉されるように構成されている。なお、処理炉202の構成については後述する。
【0087】
処理炉202の下方には、ボート217を昇降させて処理炉202内外へ搬入搬出させる昇降機構としてのボートエレベータ(基板保持具昇降機構)115が設けられている。ボートエレベータ115の昇降台には、連結具としてのアーム128が設けられている。アーム128上には、ボート217を垂直に支持するとともに、ボートエレベータ115によりボート217が上昇したときに処理炉202の下端部を気密に閉塞する蓋体としてのシールキャップ219が水平姿勢で設けられている。
【0088】
ボート217は複数本の保持部材を備えており、複数枚(例えば、50枚〜150枚程度)のウエハ200を、水平姿勢で、かつその中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に保持するように構成されている。
【0089】
カセット棚105の上方には、供給ファンと防塵フィルタとを備えたクリーンユニット134aが設けられている。クリーンユニット134aは、清浄化した雰囲気であるクリーンエアを筐体111の内部に流通させるように構成されている。
【0090】
また、ウエハ移載装置エレベータ125bおよびボートエレベータ115側と反対側である筐体111の左側端部には、クリーンエアを供給するよう供給フアンと防塵フィルタとを備えたクリーンユニット(図示せず)が設置されている。図示しない前記クリーンユニットから吹き出されたクリーンエアは、ウエハ移載装置125a、ボート217を流通した後に、図示しない排気装置に吸い込まれて、筐体111の外部に排気されるように構成されている。
【0091】
(2)基板処理装置の動作
次に、本発明の実施例にかかる基板処理装置101の動作について説明する。
【0092】
まず、カセット110がカセットステージ114上に載置されるに先立って、カセット搬入搬出口112がフロントシャッタ113によって開放される。その後、カセット110が、工程内搬送装置によってカセット搬入搬出口112から搬入され、ウエハ200が垂直姿勢となり、カセット110のウエハ出し入れ口が上方向を向くように、カセットステージ114上に載置される。その後、カセット110は、カセットステージ114によって、筐体111の後方に向けて縦方向に90°回転させられる。その結果、カセット110内のウエハ200は水平姿勢となり、カセット110のウエハ出し入れ口は筐体111内の後方を向く。
【0093】
次に、カセット110は、カセット搬送装置118によって、カセット棚105ないし予備カセット棚107の指定された棚位置へ自動的に搬送されて受け渡され、一時的に保管された後、カセット棚105ないし予備カセット棚107から移載棚123に移載されるか、もしくは直接移載棚123に搬送される。
【0094】
カセット110が移載棚123に移載されると、ウエハ200は、ウエハ移載装置125aのツイーザ125cによって、ウエハ出し入れ口を通じてカセット110からピックアップされ、ウエハ移載装置125aとウエハ移載装置エレベータ125bとの連続動作
によって移載室124の後方にあるボート217に装填(チャージング)される。ボート217にウエハ200を受け渡したウエハ移載機構125は、カセット110に戻り、次のウエハ200をボート217に装填する。
【0095】
予め指定された枚数のウエハ200がボート217に装填されると、炉口シャッタ147によって閉じられていた処理炉202の下端部が、炉口シャッタ147によって開放される。続いて、シールキャップ219がボートエレベータ115によって上昇されることにより、ウエハ200群を保持したボート217が処理炉202内へ搬入(ローディング)される。ローディング後は、処理炉202にてウエハ200に任意の処理が実施される。かかる処理については後述する。処理後は、ウエハ200およびカセット110は、上述の手順とは逆の手順で筐体111の外部へ払出される。
【0096】
(3)処理炉の構成
次に、図9、図10を用いて、前述した基板処理装置101の有する処理炉202の構成について説明する。図9は、本実施例にかかる基板処理装置101の有する処理炉202の縦断面図である。図10は、図9に示す処理炉202のA−A線断面図である。
【0097】
図9に示すように、処理炉202は加熱手段(加熱機構)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板としてのヒータベース(図示せず)に支持されることにより垂直に据え付けられている。
【0098】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管としてのプロセスチューブ203が配設されている。プロセスチューブ203は、例えば石英(SiO)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料からなり、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。プロセスチューブ203の筒中空部には、基板としてのウエハ200上に高誘電率膜を形成する処理を行う処理室201が形成されている。処理室201は、ウエハ200をボート217によって水平姿勢で垂直方向に多段に整列した状態で収容可能に構成されている。
【0099】
プロセスチューブ203の下方には、プロセスチューブ203と同心円状にマニホールド(炉口フランジ部)209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス等からなり、上端および下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209は、プロセスチューブ203に係合しており、プロセスチューブ203を支持するように設けられている。なお、マニホールド209とプロセスチューブ203との間にはシール部材としてのOリング220aが設けられている。マニホールド209がヒータベースに支持されることにより、プロセスチューブ203は垂直に据え付けられた状態となっている。プロセスチューブ203とマニホールド209とにより反応容器が形成される。
【0100】
マニホールド209には、高誘電率材料としての高誘電率膜を形成するための成膜ガス(処理ガス)を処理室201内に供給する成膜ガス供給系(処理ガス供給系)と、処理室201内に付着した高誘電率膜を含む堆積物を除去するためのクリーニングガスを処理室201内に供給するクリーニングガス供給系と、がそれぞれ接続されている。成膜ガス供給系は、成膜ガスとして、成膜原料及び酸化剤を処理室201内に供給するように構成されている。また、クリーニングガス供給系は、クリーニングガスとして、エッチングガスであるハロゲン系ガス及び添加ガスを処理室201内に供給するように構成されている。
【0101】
具体的には、マニホールド209には、第1ガス導入部としての第1ノズル233aと第2ガス導入部としての第2ノズル233bとが、それぞれ処理室201内に連通するように接続されている。第1ノズル233a、第2ノズル233bには、それぞれ第1ガス供給管232a、第2ガス供給管232bが接続されている。また、第1ガス供給管23
2a、第2ガス供給管232bには、それぞれ第3ガス供給管232c、第4ガス供給管232dが接続されている。このように、処理室201へは複数種類、ここでは4種類のガスを供給するガス供給経路として、4本のガス供給管232a、232b、232c、232dと、2本のノズル233a、233bが設けられている。第1ガス供給管232aと第2ガス供給管232bとにより成膜ガス供給系が構成され、第3ガス供給管232cと第4ガス供給管232dとによりクリーニングガス供給系が構成される。
【0102】
第1ガス供給管232aには、上流方向から順に、流量制御器(流量制御手段)である第1マスフローコントローラ241a、気化器250、及び開閉弁である第1バルブ243aが設けられている。第1マスフローコントローラ241aは、成膜原料としての常温で液体である液体原料の液体流量を制御する液体マスフローコントローラとして構成されている。また、第1ガス供給管232aの第1バルブ243aよりも下流側には、不活性ガスを供給する第1不活性ガス供給管234aが接続されている。この第1不活性ガス供給管234aには、上流方向から順に、流量制御器(流量制御手段)である第3マスフローコントローラ241c、及び開閉弁である第3バルブ243cが設けられている。また、第1ガス供給管232aの先端部(下流端部)には、上述の第1ノズル233aが接続されている。第1ノズル233aは、処理室201を構成しているプロセスチューブ203の内壁とウエハ200との間における円弧状の空間に、プロセスチューブ203の下部より上部の内壁に沿って、また、ウエハ200の積載方向に沿って設けられている。第1ノズル233aの側面には、ガスを供給する供給孔である第1ガス供給孔248aが設けられている。この第1ガス供給孔248aは、下部から上部にわたってそれぞれ同一の開口面積を有し、更に同じ開口ピッチで設けられている。
【0103】
第2ガス供給管232bには、上流方向から順に、流量制御装置(流量制御手段)である第2マスフローコントローラ241b、開閉弁である第2バルブ243bが設けられている。また、第2ガス供給管232bの第2バルブ243bよりも下流側には、不活性ガスを供給する第2不活性ガス供給管234bが接続されている。この第2不活性ガス供給管234bには、上流方向から順に、流量制御装置(流量制御手段)である第4マスフローコントローラ241d、及び開閉弁である第4バルブ243dが設けられている。また、第2ガス供給管232bの先端部(下流端部)には、上述の第2ノズル233bが接続されている。第2ノズル233bは、処理室201を構成しているプロセスチューブ203の内壁とウエハ200との間における円弧状の空間に、プロセスチューブ203の下部より上部の内壁に沿って、また、ウエハ200の積載方向に沿って設けられている。第2ノズル233bの側面には、ガスを供給する供給孔である第2ガス供給孔248bが設けられている。この第2ガス供給孔248bは、下部から上部にわたってそれぞれ同一の開口面積を有し、更に同じ開口ピッチで設けられている。
【0104】
第1ガス供給管232aの第1不活性ガス供給管234aとの接続部よりも下流側には、上述の第3ガス供給管232cが接続されている。この第3ガス供給管232cには、上流方向から順に、流量制御器(流量制御手段)である第5マスフローコントローラ241e、及び開閉弁である第5バルブ243eが設けられている。
【0105】
第2ガス供給管232bの第2不活性ガス供給管234bとの接続部よりも下流側には、上述の第4ガス供給管232dが接続されている。この第4ガス供給管232dには、上流方向から順に、流量制御器(流量制御手段)である第6マスフローコントローラ241f、及び開閉弁である第6バルブ243fが設けられている。
【0106】
第1ガス供給管232aからは、例えば、高誘電率材料からなる高誘電率膜を形成するための成膜原料としてハフニウム有機物材料であるTEMAH(Hf[(C)(CH)N]、テトラキスエチルメチルアミノハフニウム)を気化したハフニウム原料ガ
スが、第1マスフローコントローラ241a、気化器250、第1バルブ243a、第1ノズル233aを介して処理室201内に供給される。
【0107】
また、第2ガス供給管232bからは、例えば、酸化剤としてのオゾンガス(O)が、第2マスフローコントローラ241b、第2バルブ243b、第2ノズル233bを介して処理室201内に供給される。
【0108】
また、第3ガス供給管232cからは、例えば、クリーニングガス(エッチングガス)としてのハロゲン系ガスである三塩化ホウ素ガス(BCl)が、第5マスフローコントローラ241e、第5バルブ243e、第1ガス供給管232a、第1ノズル233aを介して処理室201内に供給される。
【0109】
また、第4ガス供給管232dからは、例えば、クリーニングガス(エッチングガス)としてのハロゲン系ガスの添加剤としての酸素ガス(O)が、第6マスフローコントローラ241f、第6バルブ243f、第2ガス供給管232b、第2ノズル233bを介して処理室201内に供給される。
【0110】
なお、これらのガスを処理室201内に供給する際、同時に、第1不活性ガス供給管234aから、第3マスフローコントローラ241c、第3バルブ243cを介して第1ガス供給管232a内に不活性ガスを供給するようにしてもよいし、また、第2不活性ガス供給管234bから、第4マスフローコントローラ241d、第4バルブ243dを介して第2ガス供給管232b内に不活性ガスを供給するようにしてもよい。不活性ガスの供給により、上記各ガスの希釈や、不使用配管のパージを行うことができる。
【0111】
マニホールド209には、処理室201内の雰囲気を排気する排気管231が設けられている。排気管231の下流側、すなわちマニホールド209との接続側の反対側には、圧力検出器としての圧力センサ245および圧力調整器としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ242を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。そのため、排気管231は、処理室201内の圧力が所定の圧力(真空度)となるよう真空排気し得るように構成されている。なお、APCバルブ242は、弁を開閉して処理室201の真空排気・真空排気停止ができ、更に弁開度を調節することにより処理室201内の圧力調整が可能なように構成された開閉弁である。
【0112】
上述したように、マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、マニホールド209の下端に垂直方向下側から当接されるようになっている。シールキャップ219は、例えばステンレス等の金属からなり、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219の処理室201と反対側には、ボート217を回転させる回転機構267が設けられている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267を作動(回転)させることで、ボート217およびウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、プロセスチューブ203の外部に垂直に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115を昇降させることで、ボート217を処理室201に対し搬入搬出することが可能なように構成されている。
【0113】
基板保持具としてのボート217は、例えば石英や炭化珪素等の耐熱性材料からなり、上述したように、複数枚のウエハ200を水平姿勢でかつ互いに中心を揃えた状態で整列
させて多段に保持するように構成されている。なお、ボート217の下部には、例えば石英や炭化珪素等の耐熱性材料からなる断熱部材218が設けられており、ヒータ207からの熱がシールキャップ219側に伝わりにくくなるよう構成されている。なお、断熱部材218は、石英や炭化珪素等の耐熱性材料からなる複数枚の断熱板と、これらを水平姿勢で多段に支持する断熱板ホルダとにより構成されていてもよい。
【0114】
図10に示すように、プロセスチューブ203内には、温度検出器として温度センサ263が設けられている。この温度センサ263により検出された温度情報に基づき、ヒータ207への通電具合を調整することで処理室201内の温度が所定の温度分布となるようになっている。
【0115】
また、本実施例にかかる処理炉202は、制御部(制御手段)であるコントローラ280を備えている。コントローラ280は、第1〜第6のマスフローコントローラ241a、241b、241c、241d、241e、241f、第1〜第6のバルブ243a、243b、243c、243d、243e、243f、気化器250、APCバルブ242、ヒータ207、真空ポンプ246、回転機構267、ボートエレベータ115等に接続されている。コントローラ280は、第1〜第6のマスフローコントローラ241a、241b、241c、241d、241e、241fの流量調整、第1〜第6のバルブ243a、243b、243c、243d、243e、243fの開閉動作、気化器250の気化動作、APCバルブ242の開閉及び圧力調整動作、ヒータ207の温度調整、真空ポンプ246の起動・停止、回転機構267の回転速度調節、ボートエレベータ115の昇降動作等を制御するように構成されている。
【0116】
(4)高誘電率膜の形成方法、及びクリーニング方法
次に、上述の基板処理装置101の処理炉202を用いて半導体装置(デバイス)の製造工程の一工程として、処理室201内でウエハ200上に高誘電率材料からなる高誘電率膜を形成する方法、および、処理室201内をクリーニングする方法について説明する。成膜方法としては、成膜原料としてハフニウム有機物材料であるTEMAHを用い、酸化剤としてオゾンガス(O)を用い、ALD(Atomic Layer Deposition)法により、ウエハ200上に高誘電率膜として酸化ハフニウム膜(HfO、ハフニア)を成膜する例について説明する。また、クリーニング方法としては、クリーニングガスとしてBClガスとOガスとを用いて、熱化学反応により処理室201内をクリーニングする例について説明する。なお、以下の説明において、基板処理装置101を構成する各部の動作は、コントローラ280により制御される。
【0117】
まず、処理室201内でウエハ200上に高誘電率材料からなる高誘電率膜を成膜する方法について説明する。
【0118】
ALD(Atomic Layer Deposition)法は、ある成膜条件(温度、時間等)の下で、成膜に用いる少なくとも2種類の原料となる反応性ガスを1種類ずつ交互に基板上に供給し、1原子単位で基板上に吸着させ、表面反応を利用して成膜を行う手法である。このとき、膜厚の制御は、反応性ガスを供給するサイクル数で行う。例えば、成膜速度が1Å/サイクルとすると、20Åの膜を形成する場合、20サイクル行う。以下、これを具体的に説明する。
【0119】
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、図9に示すように、複数枚のウエハ200を保持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201に搬入(ボートローディング)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。
【0120】
処理室201内が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力に基づきAPCバルブ242がフィードバック制御される。また、処理室201内が所望の温度となるようにヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。続いて、回転機構267によりボート217が回転されることで、ウエハ200が回転される。その後、後述する4つのステップを順次実行する。なお、ボート217、すなわちウエハ200は回転させなくてもよい。
【0121】
(ステップ1)
第1ガス供給管232aの第1バルブ243a、第1不活性ガス供給管234aの第3バルブ243cを開き、第1ガス供給管232aに成膜原料としてのTEMAHを、第1不活性ガス供給管234aにキャリアガスとしての不活性ガス(N)を流す。不活性ガスは、第1不活性ガス供給管234aから流れ、第3マスフローコントローラ241cにより流量調整される。TEMAHは、第1ガス供給管232aから流れ、液体マスフローコントローラである第1マスフローコントローラ241aにより液体状態で流量調整され、気化器250で気化された後、流量調整された不活性ガスと混合されて、第1ノズル233aの第1ガス供給孔248aから処理室201内に供給されつつ、排気管231から排気される。この時、APCバルブ242を適正に調整して、処理室201内の圧力を13.3〜1330Paの範囲であって、例えば300Paに維持する。液体マスフローコントローラである第1マスフローコントローラ241aで制御するTEMAHの供給量は、0.01〜0.1g/minの範囲であって、例えば0.05g/minとする。TEMAHにウエハ200を晒す時間は、30〜180秒間の範囲であって、例えば60秒とする。このとき、ヒータ207の温度は、ウエハ200の温度が180〜250℃の範囲であって、例えば250℃になるよう設定する。TEMAHを処理室201内に供給することで、TEMAHがウエハ200上の下地膜などの表面部分と表面反応し、化学吸着する。
【0122】
(ステップ2)
第1ガス供給管232aの第1バルブ243aを閉じ、TEMAHの供給を停止する。このとき、排気管231のAPCバルブ242は開いたままとし、真空ポンプ246により処理室201内を20Pa以下となるまで排気し、残留したTEMAHガスを処理室201内から排除する。このときN等の不活性ガスを処理室201内へ供給すると、残留したTEMAHガスを排除する効果が更に高まる。
【0123】
(ステップ3)
第2ガス供給管232bの第2バルブ243b、第2不活性ガス供給管234bの第4バルブ243dを開き、第2ガス供給管232bに酸化剤としてのOを、第2不活性ガス供給管234bにキャリアガスとしての不活性ガス(N)を流す。不活性ガスは、第2不活性ガス供給管234bから流れ、第4マスフローコントローラ241dにより流量調整される。Oは第2ガス供給管232bから流れ、第2マスフローコントローラ241bにより流量調整され、流量調整された不活性ガスと混合されて、第2ノズル233bの第2ガス供給孔248bから処理室201内に供給されつつ、排気管231から排気される。この時、APCバルブ242を適正に調整して、処理室201内の圧力を13.3〜1330Paの範囲であって、例えば70Paに維持する。第2マスフローコントローラ241bで制御するOの供給量は、0.1〜10slmの範囲であって、例えば0.5slmとする。なお、Oにウエハ200を晒す時間は、1〜300秒間の範囲であって、例えば40秒とする。このときのウエハ200の温度が、ステップ1のTEMAHガスの供給時と同じく180〜250℃の範囲であって、例えば250℃となるようヒータ
207の温度を設定する。Oの供給により、ウエハ200の表面に化学吸着したTEMAHとOとが表面反応して、ウエハ200上にHfO膜が成膜される。
【0124】
(ステップ4)
成膜後、第2ガス供給管232bの第2バルブ243bを閉じ、Oの供給を停止する。このとき、排気管231のAPCバルブ242は開いたままとし、真空ポンプ246により処理室201内を20Pa以下となるまで排気し、残留したOを処理室201内から排除する。このとき、N等の不活性ガスを処理室201内へ供給すると、残留したOを排除する効果が更に高まる。
【0125】
上述したステップ1〜4を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返すことにより、ウエハ200上に所定膜厚のHfO膜を成膜することができる。
【0126】
所定膜厚のHfO膜を成膜した後、処理室201内を真空引きし、その後、処理室201内にN等の不活性ガスを供給しつつ排気して、処理室201内をパージする。処理室201内をパージした後、処理室201内がN等の不活性ガスに置換されるとともに、処理室201内の圧力が常圧に復帰される。
【0127】
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降されて、マニホールド209の下端が開口されるとともに、処理済のウエハ200がボート217に保持された状態でマニホールド209の下端からプロセスチューブ203の外部に搬出(ボートアンローディング)される。その後、処理済のウエハ200はボート217より取出される(ウエハディスチャージ)。
【0128】
次に、処理室201内をクリーニングする方法について説明する。
【0129】
上記成膜を繰り返すと、プロセスチューブ203の内壁等に膜が付着するが、この内壁等に付着した膜の膜厚が所定の厚さに達した時点で、プロセスチューブ203内のクリーニングが行われる。クリーニングは次のように行われる。
【0130】
まず、空のボート217、すなわちウエハ200を装填していないボート217が、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201に搬入(ボートローディング)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。
【0131】
次いで、処理室201内が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力に基づきAPCバルブ242がフィードバック制御される。また、処理室201内が所望の温度となるようにヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。続いて、回転機構254によりボート217が回転される。なお、ボート217は回転させなくてもよい。
【0132】
次いで、第3ガス供給管232cの第5バルブ243eを開き、第3ガス供給管232cにクリーニングガス、すなわちエッチングガスとしてのハロゲン系ガスであるBClを流す。BClは、第3ガス供給管232cから流れ、第5マスフローコントローラ241eにより流量調整され、第1ガス供給管232aを通り、第1ノズル233aの第1ガス供給孔248aから処理室201内に供給される。
【0133】
エッチングガスは、100%から20%程度にN等の不活性ガスで希釈した濃度で用
いてもよく、エッチングガスを希釈して使用する場合には、第1不活性ガス供給管234aの第3バルブ243cをも開とする。不活性ガスは、第1不活性ガス供給管234aから流れ、第3マスフローコントローラ241cにより流量調整される。BClは、第3ガス供給管232cから流れ、第5マスフローコントローラ241eにより流量調整され、流量調整された不活性ガスと第1ガス供給管232aにおいて混合されて、第1ノズル233aの第1ガス供給孔248aから処理室201内に供給される。
【0134】
また、エッチングガスとしてのハロゲン系ガスであるBClの添加剤としてOを添加するため、第4ガス供給管232dの第6バルブ243fをも開とする。Oは、第4ガス供給管232dから流れ、第6マスフローコントローラ241fにより流量調整され、第2ガス供給管232bを通り、第2ノズル233bの第2ガス供給孔248bから処理室201内に供給される。Oは、処理室201内においてBClや不活性ガスと混合される。
【0135】
このとき、処理室201内へのBClやOの供給、排気管231からの排気を間欠的に行う。すなわち、図1(b)で説明したサイクルエッチングによるクリーニングを行う。具体的には、次のステップC1〜C4を1サイクルとして、このサイクルを所定回数繰り返すことでクリーニングを行う。
【0136】
(ステップC1)
APCバルブ242を開いた状態で処理室201内を真空排気する。処理室201内の圧力が第1圧力に到達した後、APCバルブ242を閉じる。これにより排気系を封止する。
【0137】
(ステップC2)
その状態、すなわちAPCバルブ242が閉じられ処理室201内の圧力が第1圧力となった状態で、第5バルブ243e、第6バルブ243fを開き、処理室201内へBClおよびOを一定時間供給する。このとき、第3バルブ243cを開き、処理室201内へN等の不活性ガスを供給してエッチングガスを希釈するようにしてもよい。処理室201内の圧力が第2圧力となったところで第5バルブ243e、第6バルブ243fを閉じ、処理室201内へのBClおよびOの供給を停止する。このとき、N等の不活性ガスを供給していた場合は、第3バルブ243cも閉じ、処理室201内への不活性ガスの供給も停止する。これにより供給系を封止する。このとき、全てのバルブ、すなわち第1〜第6のバルブ243a、243b、243c、243d、243e、243fおよびAPCバルブ242が閉じられた状態となる。すなわち、ガス供給系および排気系が共に封止された状態となる。これにより、処理室201内が封止され、処理室201内にBClおよびOを封じ込めた状態となる。
【0138】
(ステップC3)
その状態、すなわち、ガス供給系および排気系を封止することで処理室201内を封止し、処理室201内にBClやOを封入した状態を所定時間維持する。
【0139】
(ステップC4)
所定時間経過後、APCバルブ242を開き、排気管231を通して処理室201内の真空排気を行う。その後、第3バルブ243cまたは第4バルブ243dを開き、処理室201内にN等の不活性ガスを供給しつつ排気管231より排気し、処理室201内のガスパージを行う。
【0140】
以上のステップC1〜C4を1サイクルとして、このサイクルを所定回数繰り返すことでサイクルエッチングによるクリーニングを行う。このように、クリーニングの際、AP
Cバルブ242を一定時間閉じるステップと、APCバルブ242を一定時間開くステップと、を所定回数繰り返すようにする。すなわち、APCバルブ242の開閉を間欠的に所定回数繰り返すようにする。サイクルエッチングによるクリーニングによれば、1サイクルあたりのエッチング量を確認しておくことで、サイクル回数によりエッチング量を制御することができる。また、連続的にエッチングガスを流してクリーニングする方式に比べ、ガスの消費量を少なくすることができる。
【0141】
処理室201内に導入されたBClやOは、処理室201内全体に拡散し、処理室201内、すなわちプロセスチューブ203の内壁やボート217に付着した高誘電率膜を含む堆積物と接触する。このとき、堆積物とBClやOとの間に熱的な化学反応が生じ、反応生成物が生成される。生成された反応生成物は、排気管231から処理室201の外部へ排気される。このようにして、堆積物が除去(エッチング)され、処理室201内のクリーニングが行われる。
【0142】
予め設定された回数だけ上記サイクルが行われると、処理室201内を真空引きし、その後、処理室201内にN等の不活性ガスを供給しつつ排気し、処理室201内をパージする。処理室201内をパージした後、処理室201内がN等の不活性ガスに置換される。
【0143】
なお、上記サイクルエッチングによるクリーニングの処理条件としては、
処理温度:300〜600℃、好ましくは400〜450℃、
第1圧力:1.33〜13300Pa、
第2圧力:13.3〜66500Pa、好ましくは13300〜26600Pa、
BCl供給流量:0.1〜10slm、
供給流量:0.1〜10slm、
酸素濃度(O/(BCl+O)):7%未満、好ましくは3%以上5%以下、より好ましくは4%以下、
ガス供給時間(遷移時間):0.1〜15min、
ガス封入時間(封入時間):0.1〜15min、
排気時間:0.1〜10min、
サイクル数:1〜100回、
が例示され、それぞれのクリーニング条件を、それぞれの範囲内のある値で一定に維持することでクリーニングがなされる。
【0144】
処理室201内のクリーニングが完了したら、再び上述したウエハ200に対する高誘電率膜の成膜を実施する。すなわち、複数枚のウエハ200が装填されたボート217を処理室201内に搬入し、ステップ1〜4を繰り返してウエハ200上に高誘電率膜を形成し、処理後のウエハ200を装填したボート217を処理室201外へと搬出する。なお、かかる高誘電率膜の成膜を繰り返し、プロセスチューブ203の内壁等に付着した膜の膜厚が所定の厚さに達したら、再び上述のクリーニングを実施する。
【0145】
(5)本実施例にかかる効果
本実施例によれば、以下に挙げる一つまたはそれ以上の効果を奏する。
【0146】
本実施例にかかるクリーニング方法では、プロセスチューブ203の内壁等に付着した膜の膜厚が所定の厚さに達した時点で、プロセスチューブ203内のクリーニングを行い、処理室201内に付着したHfO膜を含む堆積物を除去している。その結果、HfO膜の成膜中に処理室201内に付着した堆積物が剥離してHfO膜内に混入してしまうことを抑制できる。
【0147】
また、本実施例にかかるクリーニング方法では、プラズマを用いずに熱のみによってクリーニングガスを励起して処理室201内に付着した堆積物をエッチングしている。すなわち、クリーニングガスを励起するためのプラズマ発生源を基板処理装置に別途用意する必要がなく、基板処理装置の製造コスト、および半導体装置の製造コストを低減できる。
【0148】
また、本実施例にかかるクリーニング方法では、サーマルエッチングによるクリーニングを実施する際に、酸素濃度や、処理温度や、圧力等の諸条件を上述の範囲としている。その結果、HfO膜に対するエッチングレートを高め、処理室201内に付着したHfO膜を含む堆積物を高速に除去することが可能になる。
【0149】
また、本実施例にかかるクリーニング方法では、処理室201内にクリーニングガスを封入した状態を所定時間維持することによりエッチングを行っている。すなわち、処理室201内にクリーニングガスを供給した後、ガス供給系および排気系を封止し、クリーニングガスの供給および排気を一時的に停止している。その結果、クリーニングガスの使用量を削減することが可能となる。
【0150】
また、本実施例にかかるクリーニング方法では、クリーニングガスの間欠供給・排気によりエッチング処理を行っている。すなわち、上述のステップC1〜C4を1サイクルとして、このサイクルを所定回数繰り返すことでクリーニングを行っている。そのため、1サイクルあたりのエッチング量を予め確認しておくことで、サイクル数に基づいて総エッチング量を正確に制御することが可能となる。
【0151】
また、本実施例にかかるクリーニング方法では、クリーニングガスの封入時間を上述の範囲としている。その結果、1サイクル毎のエッチングレートを安定させることが可能となり、サイクル数に基づいて総エッチング量をより正確に制御することが可能となる。
【0152】
また、本実施例にかかるクリーニング方法では、処理温度を上述の範囲としている。上述したように、BClとOとを含むクリーニングガスを用いたサーマルエッチングでは、処理温度(非エッチング面の温度)を高めることでエッチングの選択比(HfO膜のエッチングレート/石英ガラスのエッチングレート)を高めることが可能となる。すなわち、処理室201を構成するプロセスチューブ203へのダメージを低減させることが可能となる。
【0153】
<本発明の他の実施形態>
上記実施例では、高誘電率膜としてHfO膜(酸化ハフニウム膜)を成膜する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えばこれ以外に、ZrO膜(酸化ジルコニウム膜)、Al膜(酸化アルミニウム膜)、HfSi膜(ハフニウムシリケート膜)、HfAl膜(ハフニウムアルミネート膜)、ZrSi膜(ジルコニウムシリケート膜)、及びZrAl膜(ジルコニウムアルミネート膜)(x及びyは0より大きい整数または小数)を成膜する場合にも本発明を適用できる。
【0154】
また、上記実施例では、ALD法により高誘電率膜を形成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、特にMOCVD(Metal Organic Chemical
Vapor Deposition)法により高誘電率膜を形成する場合にも本発明を適用できる。
【0155】
また、上記実施例では、クリーニングの際に、ハロゲン系ガスとしてBClを用いる例について説明したが、ハロゲン系ガスとしては、例えばこれ以外に、HCl、Cl、SiCl、HBr、BBr、SiBr、及びBr等を用いてもよい。ハロゲン系
ガスとしては、高誘電率酸化物を揮発性の高い化合物に転化させやすいという性質を持つ点から、BCl、HCl、Cl、SiCl、HBr、BBr、SiBr、およびBrからなる群から選択される一種以上のガスであるのが好ましい。そのなかでも、還元性あるいは酸素を引き抜く性質を持つ点から、BClがより好ましい。ハロゲン系ガスを用いることにより、上記高誘電率酸化物からなる堆積物または付着物を、ハロゲン化物(HfCl、HfBr、AlCl、AlBr、ZrCl、ZrBr、SiCl、SiBrなど)に転化させることができ、これらのハロゲン化物は揮発性が高いため、チャンバー(処理室)内からこれらを容易に除去することができる。
【0156】
また、上記実施例では、クリーニングの際に、添加剤としてOを用いる例について説明したが、添加剤としては、例えばこれ以外に、O、HO、H、CO、SO、NO、及びNO(xは1以上の整数)等の酸素系ガスを用いてもよい。また、酸素系ガスとしては、O、O、HO、H、CO、SO、NO、及びNO(xは1以上の整数)からなる群から選択される一種以上のガスであるのが好ましい。そのなかでも、酸素ラジカルを生成しやすいという点から、Oがより好ましい。
【0157】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0158】
本発明の一態様によれば、処理室内に基板を搬入する工程と、前記処理室内に処理ガスを供給して基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う工程と、処理後の基板を前記処理室内から搬出する工程と、前記処理室内にハロゲン系ガスと酸素系ガスとを供給して前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去し前記処理室内をクリーニングする工程と、を有し、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記ハロゲン系ガス及び前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を7%未満とする半導体装置の製造方法が提供される。
【0159】
好ましくは、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を3%以上5%以下とする。さらに好ましくは、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を4%以下とする。
【0160】
また好ましくは、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記処理室内に前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給して封じ込める工程と、前記処理室内を真空排気する工程と、を1サイクルとして、このサイクルを複数回繰り返す。
【0161】
また好ましくは、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記処理室内を真空排気して前記処理室内の圧力を第1圧力とする工程と、前記第1圧力とされた前記処理室内に前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給して前記処理室内の圧力を第2圧力とし、その状態で前記処理室内を封止することで、前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを前記処理室内に封じ込める工程と、を1サイクルとして、このサイクルを複数回繰り返す。
【0162】
また好ましくは、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記処理室内の温度を400℃以上600℃以下とし、前記処理室内の圧力を13300Pa以上66500Pa以下とする。
【0163】
また好ましくは、前記処理室内をクリーニングする工程では、前記処理室内の温度を400から450℃とし、前記処理室内の圧力を13300〜26600Paとする。
【0164】
また好ましくは、前記ハロゲン系ガスが、硼素(B)とハロゲン元素とを含むガスであ
る。さらに好ましくは、前記ハロゲン系ガスが、硼素(B)と塩素(Cl)とを含むガスである。さらに好ましくは、前記ハロゲン系ガスが、BCl、HCl、Cl、SiCl、HBr、BBr、SiBr、およびBrからなる群から選択される一種以上のガスである。さらに好ましくは、前記ハロゲン系ガスがBClである。
【0165】
また好ましくは、前記酸素系ガスがOである。さらに好ましくは、前記酸素系ガスが、O、O、HO、H、CO、SO、NO、およびNO(xは1以上の整数)からなる群から選択される一種以上のガスである。さらに好ましくは、前記ハロゲン系ガスがBClであり、前記酸素系ガスがOである。
【0166】
また好ましくは、前記高誘電率膜が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)のうち少なくとも何れか1つの元素を含む膜である。さらに好ましくは、前記高誘電率膜が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)のうち少なくとも何れか1つの元素を含む酸化膜である。
【0167】
本発明の他の態様によれば、基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う処理室と、前記高誘電率膜を形成する処理ガスを前記処理室内に供給する処理ガス供給系と、前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去して前記処理室内をクリーニングするハロゲン系ガスと酸素系ガスとを前記処理室内に供給するクリーニングガス供給系と、前記処理室内をクリーニングする際に、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度が7%未満となるように前記クリーニングガス供給系を制御するコントローラと、を有する基板処理装置が提供される。
【符号の説明】
【0168】
101 基板処理装置
200 ウエハ(基板)
201 処理室
232a 第1ガス供給管(処理ガス供給系)
232b 第2ガス供給管(処理ガス供給系)
232c 第3ガス供給管(クリーニングガス供給系)
232d 第4ガス供給管(クリーニングガス供給系)
280 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内に処理ガスを供給して基板上に高誘電率膜を形成する処理を行った後の前記処理室内にBCl、HCl、Cl、SiCl、HBr、BBr、SiBr、およびBrからなる群から選択される一種以上のガスを含むハロゲン系ガスと酸素系ガスとを供給する工程と、
前記処理室内を真空排気する工程と、
を1サイクルとして、このサイクルを所定回数行うことで、前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去して前記処理室内をクリーニングする工程を有し、
前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給する工程では、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を7%未満とすることを特徴とするクリーニング方法。
【請求項2】
前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給する工程では、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を5%以下とすることを特徴とする請求項1に記載のクリーニング方法。
【請求項3】
前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給する工程では、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を4%以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載のクリーニング方法。
【請求項4】
前記酸素系ガスが、O、O、HO、H、CO、SO、NO、およびNO(xは1以上の整数)からなる群から選択される一種以上のガスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のクリーニング方法。
【請求項5】
処理室内に処理ガスを供給して基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う工程と、
前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去して前記処理室内をクリーニングする工程と、を有し、
前記処理室内をクリーニングする工程では、
前記処理室内にBCl、HCl、Cl、SiCl、HBr、BBr、SiBr、およびBrからなる群から選択される一種以上のガスを含むハロゲン系ガスと酸素系ガスとを供給する工程と、
前記処理室内を真空排気する工程と、
を1サイクルとして、このサイクルを所定回数行い、前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給する工程では、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を7%未満とすることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
基板上に高誘電率膜を形成する処理を行う処理室と、
前記高誘電率膜を形成する処理ガスを前記処理室内に供給する処理ガス供給系と、
BCl、HCl、Cl、SiCl、HBr、BBr、SiBr、およびBrからなる群から選択される一種以上のガスを含むハロゲン系ガスと酸素系ガスとを前記処理室内に供給するクリーニングガス供給系と、
前記処理室内を真空排気する排気系と、
前記基板上に前記高誘電率膜を形成する処理を行った後の前記処理室内に前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給する処理と、前記処理室内を真空排気する処理と、を1サイクルとして、このサイクルを所定回数行うことで、前記処理室内に付着した前記高誘電率膜を含む堆積物を除去して前記処理室内をクリーニングし、前記ハロゲン系ガスと前記酸素系ガスとを供給する処理では、前記ハロゲン系ガスおよび前記酸素系ガスに対する前記酸素系ガスの濃度を7%未満とするように、前記クリーニングガス供給系および前記排気系を制御するコントローラと、
を有することを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−94903(P2012−94903A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16729(P2012−16729)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【分割の表示】特願2007−298552(P2007−298552)の分割
【原出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 半導体・集積回路技術 第71回シンポジウム 講演論文集
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】