説明

グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受

【課題】水による腐食及び水から発生する水素に起因する剥離を抑える効果に優れ、更に耐フレッチング性にも優れるグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入してなり、水との接触及び走行に伴う振動に対する耐性に優る車両用ハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】鉱油及び合成油の少なくとも一種からなる基油に、増ちょう剤として芳香族ジウレア、防錆剤としてカルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種、摩耗防止剤として有機亜鉛化合物または硫黄−リン系化合物を配合してなることを特徴とするグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入した車両用ハブユニット軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と接触する環境で使用される軸受に封入される耐水性を有するグリース組成物に関する。また、本発明は、自動車や鉄道等に組み込まれる車両用ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道車両等の車両用軸受として、例えば図1に示すような、シール付の密封タイプの所謂「ハブユニット軸受」が多用されている。図示されるハブユニット軸受において、内輪素子1と共に内輪相当部材を構成するハブ2の外端部(図中の左端部)外周面には、車輪(図示せず)を固定するための外向フランジ3が形成され、中間部外周面には内輪軌道4aと段部5とが形成されている。また、ハブ2の中間部内端寄り(図中の右寄り)外周面には、その外周面に同じく内輪軌道4bが形成された内輪素子1が、その外端面(図中の左端面)を段部5に突き当てた状態で外嵌支持されている。
【0003】
また、ハブ2の内端寄り部分には、雄ねじ部6が形成されている。そして、この雄ねじ部6にナット7を螺合し、更に緊締することにより内輪素子1がハブ2の外周面の所定部分に固定される。ハブ2の周囲に配置した外輪8の中間部外周面には、この外輪8を懸架装置(図示せず)に固定するための、外向フランジ状の取付部9が設けられている。また、外輪8の内周面には、それぞれが各内輪軌道4a,4bに対向する外輪軌道10a,10bが形成されている。そして、内輪軌道4a,4bと一対の外輪軌道10a,10bとの間に、それぞれ複数個ずつの転動体11,11を設けて外輪8の内側でのハブ2の回転を自在としている。尚、これら各転動体11,11は、各列毎にそれぞれ保持器12,12により転動自在に保持されている。
【0004】
また、外輪8の外端部(図中の左端部)内周面と、ハブ2の外周面との間には、ニトリル系ゴム組成物に代表される弾性材料からなるシールリング13が装着されており、このシールリング13により外輪8の内周面と、ハブ2及び内輪素子1の外周面との間に存在し、複数個の転動体11,11を設けた空間15の外端開口部28を塞いでいる。更に、外輪8の内端(図中の右端)開口部はカバー14で塞がれており、この内端開口部から空間15内への塵芥や雨水等の異物の侵入防止及びこの空間15内に充填したグリース(図示せず)の漏洩防止が図られている。
【0005】
尚、自動車では、図示されるような複列玉軸受のユニット軸受が使用されるが、大型自動車では図1の転動体11として円すいころを用いた複列円すいころ軸受のユニット軸受が、また、鉄道車両では同様の円すいころ軸受のユニット軸受、あるいは転動体11として円筒ころを用いた複列円筒ころ軸受のユニット軸受が使用されることが多い。
【0006】
一方、封入グリースは、ハブユニットが雨水や洗浄時の水と接触するため、耐水性を有することが要求されている。封入グリースに水分が混入すると、軸受寿命を大きく低下させることが知られており、例えば、古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入しない場合に比べて転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1にまで低下することを報告している(古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal、No.636、pp.1-10、1977)。また、Schatzbergらは、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで鋼の転がり強さが32〜48%も低下することを報告している(P.Schtzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication、Wear 12、pp.331-342、1968)。
【0007】
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばれる金属剥離を引き起こすことが考えられている。このような剥離を防ぐために、亜硝酸ナトリウム等の不動態酸化剤を添加したグリース(例えば、特許文献1参照)、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリース(例えば、特許文献2参照)、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリース(例えば、特許文献3参照)等のように、グリースを改良することが行われている。これらは、転がり接触部に添加剤に由来する被膜を生成して軸受材料への水素の浸入を防いでいるが、被膜が形成されるまでの間に振動や速度変化による転動体の滑りが起こると、転がり接触部で金属剥離が起こる場合がある。
【0008】
グリースの改良以外の対策として、軸受材料にステンレス鋼を使用したり(例えば、特許文献4参照)、転動体をセラミックス製にすること(例えば、特許文献5参照)等が提案されているが、これら材料からなる軸受は一般に高価となる。
【0009】
また、軸受鋼のような鉄は、水により容易に腐食(錆)が生じ、軸受から異音が発生するという問題がある。水の混入が考えられるハブユット軸受では、耐腐食性を有することも非常に重要であり、上記と同様の方法により耐腐食性を同時に付与することがなされているが、錆の発生を抑制する効果が十分に得られていない。
【0010】
しかも、車両等では運転に伴う振動が軸受にも伝達されるため、転動体11と内外輪軌道4a,4b,10a,10bとの間で繰り返し衝撃に起因するフレッチング摩耗が発生しやすい。しかし、従来の鉱油−リチウム系グリースは、このフレッチング摩耗に対する耐久性(耐フレッチング性)が十分とはいえず、今後とも要求が高まることが予測される高温・高荷重での運転に対応しきれないおそれがある。
【0011】
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特許第3512183号公報
【特許文献3】特開平9−169989号公報
【特許文献4】特開平3−183747号公報
【特許文献5】特開平4−244624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、水による腐食及び水から発生する水素に起因する剥離を抑える効果に優れ、更に耐フレッチング性にも優れるグリース組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなグリース組成物を封入してなり、水との接触及び走行に伴う振動に対する耐性に優る車両用ハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は以下に示す耐水性グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受を提供する。
(1)鉱油及び合成油の少なくとも一種からなる基油に、増ちょう剤として芳香族ジウレア、防錆剤としてカルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種、摩耗防止剤として有機亜鉛化合物または硫黄−リン系化合物を配合してなることを特徴とするグリース組成物。
(2)有機亜鉛化合物がジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛であり、硫黄−リン系化合物がトリフェニルホスホロチオエートであることを特徴とする上記(1)記載のグリース組成物。
(3)アミン系防錆剤をグリース全量の0.1〜3質量%配合したことを特徴とする上記(1)または(2)記載のグリース組成物。
(4)内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のグリース組成物を封入してなることを特徴とする車両用ハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐水性グリース組成物は、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種を含有するため、これまでより優れた耐水性が得られ、水による腐食及び水から発生する水素に起因する剥離をより抑制できる。また、増ちょう剤の芳香族ジウレアにより、フレッチング摩耗をより効果的に防止できる。従って、このような耐水性グリース組成物を封入してなる車両用ハブユニット軸受も耐水性、耐フレッチング性により優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明のグリース組成物の基油には、鉱油及び合成油を用いる。鉱油は、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
【0017】
合成油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、更にはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、更にはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これらの潤滑油は、単独または混合物として用いることができる。
【0018】
また、基油は、低音起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が10〜400mm/sであることが好ましく、より好ましくは20〜250mm/sであり、更に好ましくは40〜150mm/sである。
【0019】
増ちょう剤には、運転に伴う振動により生じるフレッチング摩耗を考慮し、芳香族ジウレアを用いる。芳香族ジウレアの種類には制限がなく、公知のものを使用できる。また、芳香族ジウレアの配合量は、グリース全量の5〜40質量%が好ましい。配合量が5質量%未満では、グリース状態を維持することが困難とない、40質量%を超えるとグリースが硬くなりすぎて潤滑状態を十分に発揮することが困難となり、何れも好ましくない。
【0020】
また、グリース組成物には、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種が添加される。これら3種の防錆剤を組み合わせることで、これまでよりも耐水性を向上させることができる。添加量は、グリース全量に対し、カルボン酸系防錆剤は0.1〜5質量%、カルボン酸塩系防錆剤は0.1〜5質量%、アミン系防錆剤は0.1〜3質量%である。何れの防錆剤も、下限値を下回ると十分な効果が得られず、上限値を超えて添加しても効果が飽和するとともに、軸受部材表面への付着量が多くなりすぎてグリース由来の酸化膜等の生成を阻害するおそれがある。
【0021】
尚、カルボン酸系防錆剤としては、モノカルボン酸では、ラウリン酸、ステアリン酸等の直鎖脂肪酸、並びにナフテン核を有する飽和カルボン酸が挙げられる。また、ジカルボン酸では、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド等のコハク酸誘導体、ヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体、並びにワックスやペトロラタムの酸化物等の酸化ワックス等が挙げられる。中でも、コハク酸ハーフエステルが好適である。
【0022】
また、カルボン酸塩系防錆剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体の各金属塩等が挙げられる。尚、金属元素としては、コバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅等が挙げられる。中でも、ナフテン酸亜鉛が好適である。
【0023】
また、アミン系防錆剤としては、アルコキシフェニルアミン、脂肪酸のアミン塩、二塩基性カルボン酸の部分アミド等を挙げることができる。中でも、脂肪酸のアミン塩が好適である。
【0024】
更に、グリース組成物には、摩耗防止剤として有機亜鉛化合物または硫黄−リン系化合物が添加される。有機亜鉛化合物としてはジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)及び亜鉛フェネート等が挙げられるが、中でも下記一般式(I)で表されるZnDTCが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
(I)式中、R1、R2は、同一基であってもよく、異なる基であってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基から選択される。R1、R2として特に好ましい基としては、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、1,1,3,3−テトラメチルヘキシル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−メチルウンデカン基、1−メチルヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−ヘプチル基、4−メチルシクロヘキシル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソプロピル基、イソヘプチル基、イソペンチル基、ウンデシル基、エイコシル基、エチル基、オクタデシル基、オクチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、シクロペンチル基、ジメチルシクロヘキシル基、デシル基、テトラデシル基、ドコシル基、ドデシル基、トリデシル基、トリメチルシクロヘキシル基、ノニル基、プロピル基、ヘキサデシル基、ヘキシル基、ヘニコシル基、ヘプタデシル基、ヘプチル基、ペンタデシル基、ペンチル基、メチル基、第三ブチルシクロヘキシル基、第三ブチル基、2−ヘキセニル基、2−メタリル基、アリル基、ウンデセニル基、オレイル基、デセニル基、ビニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプタデセニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、第三ブチルフェニル基、第二ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、第三オクチルフェニル基、イソノニルフェニル基、n−ドデシルフェニル基、フェニル基、ベンジル基、1−フェニルメチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、1,1−ジメチルベンジル基、2−フェニルイソプロピル基、3−フェニルヘキシル基、ベンズヒドリル基、ビフェニル基等が挙げられ、また、これらの基はエーテル基を有していてもよい。
【0027】
また、硫黄−リン系化合物としてはトリフェニルフォスフェート系化合物やジチオフォスフェート系化合物等が挙げられるが、中で下記一般式(II)で表されるトリフェニルホロチオエート(TPPT)が好ましい。
【0028】
【化2】

【0029】
有機亜鉛化合物及び硫黄−リン系化合物とも、添加量はそれぞれグリース全量の0.1〜5質量%が好ましい。添加量が0.1質量%未満では十分な効果が得られず、5質量%を超えて添加しても効果の向上が得られない。
【0030】
グリース組成物には、各種性能を更に向上させるために、所望によりその他の添加剤を添加してもよい。例えば、酸化防止剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して添加することができる。
【0031】
酸化防止剤は、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられるが、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤が好適である。アミン系酸化防止剤としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。また、フェノール系酸化防止剤としては、p−t−ブチル−フェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4、4´−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス〔メチレン−3−(3´,5´−ジ−t−ブチル−4´−ヒドキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4、4´−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0032】
また、油性向上剤としては、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミンやセチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、動植物油等が挙げられる。
【0033】
また、極圧剤としては、有機モリブデン等が挙げられる。
【0034】
また、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0035】
これらその他の添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば制限はないが、通常はグリース全量の0.1〜20質量%である。添加量が0.1質量%未満では添加効果が十分ではなく、20質量%を超えて添加しても効果が飽和するとともに、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0036】
本発明のグリース組成物は上記の各成分を含有するが、その製造方法には制限がないが、一般的には基油中で芳香族ジウレアの原料を反応させた後、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種、有機亜鉛化合物または硫黄−リン系化合物をそれぞれ定量添加し、ニーダやロールミル等で十分に混練して得られる。尚、この処理に際し、加熱することも有効である。また、その他の添加剤を添加する場合は、3種の防錆剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【0037】
また、本発明は、上記のグリース組成物を封入してなる車両用ハブユニット軸受を提供する。車両用ハブユニットには制限がなく、例えば図1に示したものを例示でき、空間15内に上記のグリース組成物を封入すればよい。また、円すいころ軸受や円筒ころ軸受のユニット軸受とすることもできる。グリース組成物の封入量にも制限がなく、従来と同様で構わない。
【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0039】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
表1に示す配合にて試験グリースを調製した。そして、試験グリースを用いて下記に示す(1)耐水性試験、(2)高速四球試験、(3)耐フレッチング試験及び(4)防錆試験を行った。結果を表1に併記する。
【0040】
(1)耐水性試験
転がり四球試験により、試験グリースの耐水性を評価した。即ち、直径15mmの軸受用鋼球を3個用意し、底面の内径36.0mm、上端部の内径31.63mm、深さ10.98mmの円筒状容器内に正三角形状に置き、試験グリースに水を20%混入させたものを20g塗布し、更に3個の鋼球で形成される窪みに直径5/8インチの軸受用鋼球を1個置き、室温で、直径5/8インチの軸受用鋼球を面圧4.1GPaの負荷を加えながら1000rpmで回転させた。これにより、3個の直径15mmの軸受用鋼球も自転しながら公転するが、剥離が生じるまで連続回転させた。剥離が生じた時点の総回転数を寿命とし、1000×10回転以上を合格とした。
【0041】
(2)耐摩耗性試験
ASTM D2596に規定された高速四球試験により、試験グリースの耐摩耗性を評価した。即ち、試験グリースで充満された試験容器に3個の固定球を正三角形状に固定し、3個の鋼球で形成される窪みに、回転軸に取り付けた1個の回転球を置き、ある荷重を加えながら1770rpmで10秒間回転させ、そのときに固定球に生じた摩耗痕を測定した。そして、摩耗痕の平均直径がASTM D 2596に記された補償摩耗痕径値より小さくなるときの荷重(最大非焼付き荷重)を求めた。また、回転球を同様にして回転させ、溶着が生じたときの荷重(溶着荷重)を求めた。最大非焼付き荷重は490N以上、溶着荷重は1236N以上をそれぞれ合格とした。
【0042】
(3)耐フレッチング試験
試験グリースについて、ASTM D4170に規定された試験方法により耐フレッチング試験を行い、試験前後の重量差を測定し、下記3ランクに分類した。自動車用としてはAランク及びBランクが好ましいとされており、本試験でもAランク及びBランクを合格とした。
Aランク:重量減が3mg以下
Bランク:重量減が3mg超5mg未満
Cランク:重量減が5mg以上
【0043】
(4)防錆試験
試験軸受として日本精工(株)製玉軸受「608」を用い、各試験グリースを空間容積の20%となるように封入し、恒湿恒温槽(温度80℃、湿度90%)に入れ、一週間放置した後、目視にて内輪の錆の有無を確認した。錆の個数により、以下のようにランク分けを行った。錆の発生の無いAランクを合格とした。
Aランク:錆の発生無し
Bランク:1〜5個の錆発生
Cランク:6個以上の錆発生
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、増ちょう剤として芳香族ジウレア化合物を用い、更に防錆剤としてカルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種、摩耗防止剤として有機亜鉛化合物または硫黄−リン系化合物を配合することにより、防錆剤を全く含有しないもの(比較例1)、他の防錆剤を用いたもの(比較例2)、前記3種の防錆剤を含有するものの前記摩耗防止剤を含有しないもの(比較例3)、更には前記3種の防錆剤及び前記摩耗防止剤を含有するものの増ちょう剤が脂肪俗ジウレア化合物であるもの(比較例4)に比べて、耐剥離性、耐摩耗性、耐フレッチング性及び耐腐食性に総合的に優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明及び従来の車両用ハブユニット軸受の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 内輪素子
2 ハブ
4a,4b 内輪軌道
5 段部
6 雄ねじ部
7 ナット
8 外輪
10a,10b 外輪軌道
11 転動体
12 保持器
13 シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び合成油の少なくとも一種からなる基油に、増ちょう剤として芳香族ジウレア、防錆剤としてカルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種、摩耗防止剤として有機亜鉛化合物または硫黄−リン系化合物を配合してなることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
有機亜鉛化合物がジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛であり、硫黄−リン系化合物がトリフェニルホスホロチオエートであることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
アミン系防錆剤をグリース全量の0.1〜3質量%配合したことを特徴とする請求項1または2記載のグリース組成物。
【請求項4】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、前記内輪と前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1〜3の何れか1項に記載のグリース組成物を封入してなることを特徴とする車両用ハブユニット軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2008−88386(P2008−88386A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274055(P2006−274055)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】