説明

グリーンシートの処理方法、および被印刷物の配置状態判定方法

【課題】グリーンシートの印刷・積層プロセスにおけるグリーンシートの配置ミスを防止し、併せて積層精度を向上させる方法を提供する。
【解決手段】印刷に先立ち、グリーンシートに印刷および積層における配置指標として、グリーンシートの印刷範囲外に、第1と第2の基準穴H1、H2を第3の基準穴H3を設け、印刷装置のステージに、グリーンシートが正しく固定された状態で第3の基準穴と連通する検知用吸引孔を設けるとともに、印刷装置に、吸引孔の空気を吸引する吸引手段と、吸引孔における圧力状態を検知するセンサとを設け、センサが負圧を検知したときにステージに被印刷物が正しく配置されていないと判定するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートの印刷および積層に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサなどのセンサ素子を初めとする種々のデバイスなどの作製手法として、セラミックス粉末と有機物との混合物であるスラリーを所定のフィルム上に塗布・乾燥させることによって作製した複数枚のセラミックグリーンシート(以下、単にグリーンシートとも称する)を、必要に応じてそれぞれにスクリーン印刷等によって所定の回路パターンを形成したりあるいはキャビティを形成したうえで積層し、これによって得られる積層体を焼結させる手法(グリーンシートプロセス)が広く知られている。
【0003】
グリーンシートプロセスにおいては、印刷やキャビティ形成などがなされた複数のグリーンシートを積層する場合の積層精度を確保するために、使用するグリーンシートにあらかじめ位置決め用の基準穴を設けておき、印刷時にグリーンシートを配置するステージや積層に用いる治具などに設けておいたピンなどの突起部に対しグリーンシートの位置決め用の基準穴を嵌合させた状態で印刷や積層などを行う手法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−175099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、印刷等を行う前のグリーンシートであるブランクシートであって、位置決め用の複数の基準穴を上下2つ設けるとともに、位置評価用(測定用)の基準穴を併せて設けたものが開示されている。
【0006】
しかしながら、グリーンシートは、伸びやしわなどの変形を起こしやすいため、特許文献1に開示されているように上下2つの基準穴を設けただけでは、グリーンシートが十分に拘束されないために印刷時や積層時に印刷位置ずれや積層ずれが発生しやすいという問題がある。
【0007】
また、印刷時や積層時にステージあるいは積層治具に対してグリーンシートを人手によりセットする場合、誤ってグリーンシートを所定の状態から180°反転した状態でセットしようとしたり、あるいは表裏反転した状態でセットしようとしたりするミスが起こり得る。例えば、特許文献1に開示されているような態様で基準穴が設けられたグリーンシートの場合、グリーンシートにわずかな変形が生じることで、このような態様にてグリーンシートがセットされたことに気づかずにそのままで印刷や積層を行ってしまうことがあり得る。このような誤ったプロセスで作製された製品は当然に不良であるので、製品歩留まりの向上や工程ロスの低減のためには、そもそもそうしたミスが生じないように、あるいはさらに、仮にミスが生じたとしても後段の工程でできるだけ速やかに発見できるようにあらかじめ手立てをとっておくことが必要である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、グリーンシートの印刷・積層プロセスにおけるグリーンシートの配置ミスを防止し、併せて積層精度を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、印刷装置において少なくとも1つの印刷対象グリーンシートに印刷を行う印刷工程と、前記少なくとも1つの印刷対象グリーンシートを含む複数のグリーンシートを積層して積層体を形成する積層工程と、を備えるグリーンシートの処理方法であって、前記印刷工程に先立って前記少なくとも1つの印刷対象グリーンシートを含む前記複数のグリーンシートに前記印刷工程および前記積層工程における配置の指標となる配置指標を形成する配置指標形成工程、をさらに備え、前記配置指標形成工程においては、前記複数のグリーンシートのそれぞれの外周部の印刷範囲外に、第1と第2の基準穴を、当該グリーンシートの一の中心線上にて互いに対向させて設けるとともに、前記第2の基準穴を通り前記一の中心線と直交する直線上に第3の基準穴を設け、前記印刷工程において前記少なくとも1つのグリーンシートに対し印刷を行う印刷装置のステージに、前記第1と第2の基準穴に嵌合する第1と第2の基準ピンと、前記少なくとも1つのグリーンシートが正しく固定された状態で前記第3の基準穴と連通する検知用吸引孔を設け、前記印刷装置に、前記吸引孔の空気を吸引する吸引手段と、前記吸引孔における圧力状態を検知するセンサとを設け、前記印刷工程においては、前記センサが負圧を検知したときに前記ステージに前記被印刷物が正しく配置されていないと判定する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のグリーンシートの処理方法であって、前記積層工程において前記複数のグリーンシートの積層に用いる積層治具に、前記第1と第2の基準穴に嵌合する第1と第2の基準ピンと、前記複数のグリーンシートのそれぞれが正しく積層された状態で前記第3の基準穴と嵌合する位置決め用のピンとを設ける、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のグリーンシートの処理方法であって、前記複数のグリーンシートのそれぞれが平面視略矩形形状を有するものであり、前記配置指標形成工程においては、前記複数のグリーンシートのそれぞれの四隅に、扇形状の切り欠きを、前記四隅のうちの3つにおける前記切り欠きの形状が異なるように設けるとともに、前記印刷装置と前記積層治具の少なくとも一方の、前記複数のグリーンシートのそれぞれの前記四隅に対応する位置に、前記四隅の形状に応じたコーナーピンをあらかじめ設けておく、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載のグリーンシートの処理方法であって、前記配置指標形成工程においては、前記印刷範囲外であって前記一の中心線に対して前記第3の基準穴と非対称な位置に、第4の基準穴を設ける、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項3に記載のグリーンシートの処理方法であって、前記配置指標形成工程においては、前記複数のグリーンシートのそれぞれの前記中心線に平行な辺に切り欠きをさらに設ける、ことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、印刷装置においてシート状の被印刷物に対し印刷を行う際の、前記被印刷物を固定するステージへの前記被印刷物の配置状態を判定する方法であって、印刷に先立って、前記被印刷物の外周部の印刷範囲外に、第1と第2の基準穴を、前記被印刷物の一の中心線上にて互いに対向させて設けるとともに、前記第2の基準穴を通り前記一の中心線と直交する直線上に第3の基準穴を設け、前記ステージに、前記被印刷物が正しく固定された状態で前記第3の基準穴と連通する検知用吸引孔を設け、前記印刷装置に、前記吸引孔の空気を吸引する吸引手段と、前記吸引孔における圧力状態を検知するセンサとを設け、前記センサが負圧を検知したときに前記ステージに前記被印刷物が正しく配置されていないと判定する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項6に記載の被印刷物の配置状態判定方法であって、前記被印刷物が平面視略矩形形状を有するものであり、前記被印刷物の四隅に、扇形状の切り欠きを、前記四隅のうちの3つにおける前記切り欠きの形状が異なるように設けるとともに、前記印刷装置の前記被印刷物の前記四隅に対応する位置に、前記四隅の形状に応じたコーナーピンをあらかじめ設けておく、ことを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項7に記載の被印刷物の配置状態判定方法であって、前記印刷範囲外であって前記一の中心線に対して前記第3の基準穴と非対称な位置に、第4の基準穴を設ける、ことを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、請求項7に記載の被印刷物の配置状態判定方法であって、前記被印刷物の前記中心線に平行は辺に切り欠きをさらに設ける、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1ないし請求項9の発明によれば、吸引孔における吸引状態に基づいてグリーンシートあるいは被印刷物の配置状態を判定することで、単に配置状態を視認することによってのみ配置のミスを検知する場合に比して、確実にミスを検知することができる。
【0019】
また、請求項2の発明によれば、グリーンシートを180°反転や表裏反転して積層することが、好適に抑制される。
【0020】
また、請求項3ないし請求項5、および請求項7ないし請求項9の発明によれば、グリーンシートあるいは被印刷物を誤った状態で無理に配置することが難しくなり、また、そのような配置が行われようとしている状態が容易に視認されるので、配置のミスが生じていることをより検知しやすくなる。
【0021】
また、請求項4、請求項5、請求項8、および請求項9の発明によれば、グリーンシートあるいは被印刷物を誤った状態で配置しようとしていることがさらに視認容易となるので、配置のミスが生じていることをより検知しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ブランクシートS0を例示する図である。
【図2】積層体の形成に用いる積層用シートS1を例示する図である。
【図3】積層用シートS1を印刷装置1のステージ10に正しく配置した状態を示す図である。
【図4】積層用シートS1を表裏反転して載置した場合の図3(a)のA−A’断面における様子を示す図である。
【図5】積層用シートS1を積層治具30に正しく配置した状態を示す図である。
【図6】実施例に係る積層体の垂直断面の様子を例示する図である。
【図7】積層ズレの測定結果をA層からE層の各層について示す図である。
【図8】それぞれの実施例および比較例における積層ズレの標準偏差σを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<グリーンシート>
図1は、成型後、何らの加工も施されていないセラミックグリーンシートである、ブランクシートS0を例示する図である。本実施の形態においては、ブランクシートS0は上面視長方形をなすものとする。なお、便宜上、該長方形の長手方向(図1において図面視左右方向)をx軸方向とし、該長方形の短手方向(図1において図面視上下方向)をy軸方向とする(以降においても同様)。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態において積層体の形成に用いる積層用シートS1を例示する図である。積層用シートS1は、ブランクシートS0に対し所定の金型を用いた打ち抜き加工を行うことによって種々の基準穴および切り欠きを設けたものである。係る積層用シートS1は、必要に応じて回路パターンの印刷等が施された上で、積層処理に供される。積層処理においては、それぞれに印刷処理等が施された複数種類の積層用シートS1が所定の順序で積層され、一体化される。
【0025】
積層用シートS1には、印刷時に印刷範囲外となるその周縁部の各所に、それぞれに役割の異なる5種の基準穴(第1基準穴H1〜第5基準穴H5)と4種の切り欠き(第1切り欠きN1〜第4切り欠きN4)とが設けられてなる。これらの切り欠きは、後述する印刷時や積層時に積層用シートS1を所定位置に配置する際の配置指標(目印)となる。なお、本実施の形態においては、積層用シートS1を上面視した場合に、それぞれの基準穴および切り欠きが図2に示す位置関係にある状態が、印刷時および積層時において積層用シートS1が正しく配置された状態であるとする。ただし、積層用シートS1に対して裏面印刷がなされる場合は、例外的に、図2に示す位置関係にある積層用シートS1を、y軸方向を反転軸として表裏反転した状態が、積層用シートS1が正しく配置された状態であるとする。以降、係る場合について説明する場合はその旨を特記する。
【0026】
第1基準穴H1および第2基準穴H2は、積層用シートS1の図面視上下2辺の近傍であって、x軸方向の中点部分に設けられてなる。図2に示すように、積層用シートS1のx軸方向のサイズをXとすると、第1基準穴H1および第2基準穴H2と積層用シートS1のx軸方向端部との距離はX/2である。換言すれば、第1基準穴H1および第2基準穴H2は、y軸方向において対向配置されてなる。係る態様にて配置された第1基準穴H1および第2基準穴H2は、印刷時および積層時において、積層用シートS1の位置決めの基準として用いられる。
【0027】
第3基準穴H3と第4基準穴H4は、間に第2基準穴H2を挟んでx軸方向において同一直線上に設けられてなる。換言すれば、第3基準穴H3と第4基準穴H4とは、第1基準穴H1と第2基準穴H2とを通る直線と直交する直線上に設けられているともいえる。ただし、第3基準穴H3と第4基準穴H4は、前者と第2基準穴H2との距離x3と、後者と第2基準穴H2との距離x4とが異なるように設けられてなる。すなわち、第3基準穴H3と第4基準穴H4とは、第2基準穴H2に対して(より厳密には積層用シートS1のx軸方向の中点に対して)、非対称の位置にある。係る第3基準穴H3と第4基準穴H4は、印刷時および積層時において、積層用シートS1の180°反転および表裏反転を防止する目的で設けられてなる。
【0028】
第5基準穴H5は、積層用シートS1の周縁部に離散的に多数設けられてなる。第5基準穴H5は、積層用シートS1の寸法評価その他を行う際の基準(マーカー)として用いられる。第5基準穴H5の配置位置や個数は図2に示すものに限られない。
【0029】
第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3は、積層用シートS1の四隅に扇形状に設けられてなる。第3切り欠きN2は2つ設けられており、x軸方向において対向配置されてなる。第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3は、金型においてそれぞれの切り欠きを形成する打ち抜き部分の半径を違えることで、それぞれに異なる形状を有するように形成されてなる。これも、印刷時および積層時に誤って180°反転されてしまうことを防止するためである。
【0030】
第4切り欠きN4は、積層用シートS1の図面視右側の辺に矩形状に設けられてなる。第4切り欠きN4は、積層用シートS1の180°反転を防止する目的で設けられてなる。
【0031】
<印刷時のグリーンシート配置>
次に、積層用シートS1に対し印刷を行う際の積層用シートS1の配置および固定について説明する。図3は、積層用シートS1を印刷装置1のステージ10に正しく配置した状態を示す図である。図3(a)は、上面図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A’断面図である。図4は、積層用シートS1を表裏反転して載置した場合の図3(a)のA−A’断面における様子を示す図である。
【0032】
印刷装置1は、ステージに配置固定された積層用シートS1に対して、例えば公知のスクリーン印刷法などによって、印刷を行う装置である。
【0033】
印刷装置1において、ステージ10には、第1コーナーピン11、第2コーナーピン12、および第3コーナーピン13が設けられてなる。第1コーナーピン11、第2コーナーピン12、および第3コーナーピン13は、それぞれ、積層用シートS1が正しくステージ10に配置された状態で、第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3と当接するように、設けられてなる。上述したように、第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3の形状は相異なるので、これに対応して、第1コーナーピン11、第2コーナーピン12、および第3コーナーピン13の形状もそれぞれに異なっている。
【0034】
また、ステージ10にはさらに、第1基準ピン14と第2基準ピン15とが設けられてなる。第1基準ピン14と第2基準ピン15とは、それぞれ、積層用シートS1が正しくステージ10に配置された状態で、第1基準穴H1と第2基準穴H2とに嵌合するように、設けられてなる。
【0035】
さらに、印刷装置1は、配置された積層用シートS1を吸引固定するように構成されている。具体的には、図3(b)に示すように、ステージ10には多数の吸引孔16が設けられている。吸引孔16は、吸引経路17によって、例えばロータリーポンプなどの吸引手段18と通じている。積層用シートS1がステージ10に正しく配置された状態で吸引手段18を作動させ、これらの吸引孔16の空気を吸引して吸引孔16に負圧を与えることによって、積層用シートS1をステージ10に吸引固定させることができる。
【0036】
加えて、印刷装置1には、検知用吸引孔19およびセンサ20が設けられてなる。これらは、積層用シートS1が正しく配置されていないことを検知するために設けられている。検知用吸引孔19とセンサ20の詳細については後述する。
【0037】
係る構成を有する印刷装置1においては、第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3が第1コーナーピン11、第2コーナーピン12、および第3コーナーピン13と正しく当接し、かつ、第1基準穴H1と第2基準穴H2とにそれぞれ第1基準ピン14と第2基準ピン15とを嵌合することで、積層用シートS1を正しく配置したことになる。すなわち、積層用シートS1は、その外周部分の随所において配置位置が規定された状態で、ステージ10に吸引固定されることになる。これにより、積層用シートS1においては伸びやしわなどの変形が生じにくくなるとともに、積層用シートS1が予定された位置に正しく配置されるようになっている。その結果、積層用シートS1の印刷予定位置に正しく印刷が行われることになる。
【0038】
また、本実施の形態においては、積層用シートS1が誤って180°反転もしくは表裏反転の状態でステージ10に配置されようとする場合にこれが確実に検知できるよう、積層用シートS1の形状および印刷装置1の構成に以下のような工夫がなされている。
【0039】
第1には、積層用シートS1の四隅に設ける第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3と、これらに対応させて印刷装置1に設ける第1コーナーピン11、第2コーナーピン12、および第3コーナーピン13とを、それぞれに相異なる形状としている。
【0040】
積層用シートS1が180°反転もしくは表裏反転されて配置される場合、第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3は、正しく配置されるときとは異なるコーナーピンのところに位置することになる。そのため、積層用シートS1を配置しようとしても、端部がステージ10から浮いてしまうなどして、正しく配置することができなくなる。無理に配置しようとした場合には、積層用シートS1が折れ曲がってしまうことも起こり得る。作業者が手作業で積層用シートS1を印刷装置1にセットする場合、積層用シートS1の配置状態にそのような不具合が生じていることは容易に視認されるので、自らが誤った配置を行おうとしていることに気付きやすくなる。
【0041】
第2には、積層用シートS1において、第4切り欠きN4と、第3基準穴H3および第4基準穴H4とを、非対称に配置している。
【0042】
積層用シートS1を180°反転させた場合や、反転軸をy軸方向として表裏反転した場合は、正しくは右端部にあるべき第4切り欠きN4が左端部に位置するとともに、第3基準穴H3と第4基準穴H4とのx軸方向の中点に対する配置関係が逆転する。これらは、印刷装置1に積層用シートS1をセットする作業者に対して、積層用シートS1の配置のミスを視覚的に把握させる効果がある。あるいは、本来配置されるべき位置におけるこれらの切り欠きや基準穴の有無を画像処理によって判別することも可能である。
【0043】
第3には、印刷装置1に検知用吸引孔19およびセンサ20を設けている。
【0044】
検知用吸引孔19は、積層用シートS1が正しく配置された状態において第3基準穴H3と連通する位置および形状にてステージ10に設けられている。検知用吸引孔19は、吸引孔16と同様に吸引経路17によって吸引手段18と通じているが、検知用吸引孔19と接続された吸引経路17にのみ、センサ20が、検知用吸引孔19における圧力状態を検知する目的で設けられている。センサ20には、公知のものを適用可能である。
【0045】
センサ20は、積層用シートS1が配置された状態において負圧を検知すると積層用シートS1の配置状態に正常ではないと判定するよう構成されている。図3(b)に示すように、積層用シートS1が正常に配置された場合、検知用吸引孔19と第3基準穴H3とは連通するので、検知用吸引孔19は解放状態にあり、吸引手段18が作動しても負圧は生じない。一方、積層用シートS1を表裏反転して載置した場合、図4に示すように、検知用吸引孔19は、積層用シートS1によって塞がれるために、吸引手段18が作動している状態では負圧状態となる。180°反転した場合も同様である。これらの場合、センサ20が係る負圧状態を検知し、積層用シートS1の配置状態に異常があると判定する。この判定は、積層用シートS1の状態を直接に視認しているか否かによらず行われるので、作業者に見落としがあるような場合であっても、確実に配置状態の異常を検知することができる。また、ステージ10への積層用シートS1のセット作業を自動化している場合であっても、確実に配置状態の異常を検知することができる。
【0046】
なお、検知用吸引孔19は第4基準穴H4と連通する態様にて設けられていてもよい。
【0047】
また、裏面印刷を行う印刷装置においては、積層用シートS1がその場合の正しい配置にあるときにそれぞれの構成要素が上述のような関係をみたすように構成されている。
【0048】
以上、説明したように、本実施の形態においては、積層用シートに上述のような態様にて基準穴や切り欠きを設けるとともに、印刷装置もこれに対応する構造とすることで、印刷時の積層用シートS1の配置のミスを複数の手段で並行して検出できるようになっている。特に、検知用吸引孔における吸引状態に基づいて積層用シートの配置状態を判定することで、単に配置状態を視認することによってのみミスを検知する場合に比して、確実にミスを検知することができる。
【0049】
また、複数の切り欠きや基準穴を併用して積層用シートの配置位置を外周部分の随所において規定することで、積層用シートに伸びやしわなどの変形が生じにくくなるとともに、積層用シートが予定された位置に正しく配置されるようになっている。これにより、積層用シートの印刷予定位置に正しく印刷が行われることになる。
【0050】
なお、これまで説明した積層用シートS1の印刷時における配置ミス防止の手法は、必ずしも積層用シートS1に対してのみ適用されるわけではなく、被印刷物を所定のステージに配置固定して印刷を行う場合に一般に適用が可能である。
【0051】
<積層時のグリーンシート配置>
次に、複数の積層用シートS1を積層する際の積層用シートS1の配置および固定について説明する。図5は、積層用シートS1を積層治具30に正しく配置した状態を示す図である。図5(a)は、ある積層用シートS1が配置された状態における上面図であり、図5(b)は、全ての積層用シートS1が積層された状態における図5(a)のB−B’断面図である。
【0052】
図5(b)に示すように、積層治具30においては、その基台31の上において下型(下側金型)32と上型(上側金型)33との間に挟み込む態様にて積層用シートS1を順次に積層する。なお、下型32と積層用シートS1との間、および上型33と積層用シートS1との間にはそれぞれ保護部材34、35を介在させてなる。
【0053】
積層治具30には、第1コーナーピン41、第2コーナーピン42、および第3コーナーピン43が設けられてなる。第1コーナーピン41、第2コーナーピン42、および第3コーナーピン43は、それぞれ、積層用シートS1が正しく積層された状態で、第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3と当接するように、設けられてなる。印刷装置1の第1コーナーピン11、第2コーナーピン12、および第3コーナーピン13と同様に、積層治具30においても、第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3の形状が相異なることに対応して、第1コーナーピン41、第2コーナーピン42、および第3コーナーピン43の形状はそれぞれに異なっている。
【0054】
また、積層治具30には、第1基準ピン44と第2基準ピン45とが設けられてなる。第1基準ピン44と第2基準ピン45とは、それぞれの積層用シートS1が正しく積層された状態で、それぞれの積層用シートS1の第1基準穴H1と第2基準穴H2とに嵌合するように、設けられてなる。
【0055】
加えて、積層治具30には、複数のサイドピン46が、積層用シートS1の各辺に対応させて設けられてなる。なお、図5においては、積層用シートS1の短手方向の辺に1つ、長手方向の辺に2つのサイドピン46が設けられている場合を例示しているが、サイドピン46の数および配置はこれに限られない。
【0056】
サイドピン46は、積層用シートS1の積層位置をその外周側から規定する目的で設けられてなる。積層治具30においては、それぞれの積層用シートS1は、各辺がサイドピン46と略当接する態様でのみ、積層可能とされてなる。
【0057】
また、積層治具30の、積層用シートS1が正しく配置された状態において第3基準穴H3が位置する箇所には、位置決めピン47が備わっている。
【0058】
位置決めピン47は、積層用シートS1の積層ズレを抑制するとともに、積層の向きを一義的に定める目的で設けられる。すなわち、積層用シートS1を仮に180°反転もしくは表裏反転した状態で積層しようとしても、位置決めピン47が貫通する穴が存在しないため、そのような態様での積層は好適に阻止されることになる。例えば、第4基準穴H4と第3基準穴H3とは非対称に配置されているので、反転軸をy軸方向として表裏反転したとしても第4基準穴H4に位置決めピン47が嵌合することはない。
【0059】
なお、図5に示す場合においては、第3基準穴H3が位置する箇所に位置決めピン47が設けられるが、これに代わり、第4基準穴H4が位置する箇所に位置決めピン47が設けられる態様であってもよい。
【0060】
これらサイドピン46と位置決めピン47の作用によって、本実施の形態においては、積層用シートS1が正しい向きに積層されるとともに、積層ズレが好適に抑制される。なお、本実施の形態において、「積層ズレが抑制される」とは、単に積層用シートS1がずれることなく積層されるということのみを意味しているのではなく、上述のように印刷予定位置に対し正しく印刷パターンが形成された積層用シートS1を積層対象とすることで、積層体における印刷パターンの位置精度が確保されていることを意味している。
【0061】
また、積層用シートS1の第1切り欠きN1、第2切り欠きN2、および第3切り欠きN3と、積層治具30の第1コーナーピン41、第2コーナーピン42、および第3コーナーピン43との関係や、第4切り欠きN4の非対称配置については、印刷装置1の場合と同様であるので、これらに基づく不具合が生じた場合にこれを容易に認識できることは上述の通りである。
【0062】
すなわち、印刷時の配置ミス防止のために積層用シートに設けた基準穴や切り欠きを積層時のミス防止のためにも利用できるよう、積層治具が構成されており、積層用シートの積層のミスを確実に検出できるようになっている。
【0063】
以上、説明したように、本実施の形態においては、積層用シートの反転に伴う印刷および積層のミスが好適に防止されてなるとともに、積層用シートを積層して積層体を形成する際に積層ズレが生じることが、好適に抑制されてなる。
【実施例】
【0064】
上述の実施の形態のように切り欠きおよび基準穴を形成した5枚の積層用シートS1を作製し、それぞれに対して印刷装置1によって印刷を行い、それらを、積層治具30を用いて積層することで、実施例1〜実施例5の5つの積層体を作製した。
【0065】
一方、第1基準穴H1と第2基準穴H2のみを設けた5枚の積層用シートを用意し、同様に印刷および積層を行って、比較例1〜比較例5の5つの積層体を得た。
【0066】
なお、各実施例および各比較例においては、積層体を構成する積層用シートにそれぞれ、積層体の左右端部の中点位置を基準点とする同一形状のパターンを印刷している。
【0067】
得られた積層体を、該印刷パターンが形成された位置において垂直にカットし、それぞれの印刷パターンについて、その中央位置の基準点からのズレ(積層ズレ)を測定した。図6は、係る場合の各積層体の垂直断面の様子を例示する図である。なお、個々の積層用シートによって形成された5つの層を下から順にA層、B層、C層、D層、およびE層と称することとする。図6に示す場合であれば、距離ΔがA層についての積層ズレとなる。
【0068】
図7は、積層ズレの測定結果をA層からE層の各層について示す図である。また、図8は、それぞれの実施例および比較例における積層ズレの標準偏差σを示す図である。図7によれば、実施例1〜実施例5では、どの層においても概ね±0.05mm以下に収まっているのに対して、比較例1〜比較例5においては、0.05mm以上0.10mm程度までの積層ズレが存在する。係る結果を反映して、図8に示すように、実施例1〜実施例5においては総じて、比較例1〜比較例5よりも標準偏差σの値が小さくなっている。
【0069】
係る結果は、上述の実施の形態のように積層用シートを形成し、さらに印刷および積層を行うことで、積層ズレが抑制されていることを示している。
【符号の説明】
【0070】
1 印刷装置
10 ステージ
11、41 第1コーナーピン
12、42 第2コーナーピン
13、43 第3コーナーピン
14、44 第1基準ピン
15、45 第2基準ピン
16 吸引孔
18 吸引手段
19 検知用吸引孔
20 センサ
30 積層治具
31 基台
32 下型
33 上型
34、35 保護部材
46 サイドピン
47 位置決めピン
H1〜H5 第1基準穴〜第5基準穴
N1〜N4 第1切り欠き〜第4切り欠き
S1 積層用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷装置において少なくとも1つの印刷対象グリーンシートに印刷を行う印刷工程と、
前記少なくとも1つの印刷対象グリーンシートを含む複数のグリーンシートを積層して積層体を形成する積層工程と、
を備えるグリーンシートの処理方法であって、
前記印刷工程に先立って前記少なくとも1つの印刷対象グリーンシートを含む前記複数のグリーンシートに前記印刷工程および前記積層工程における配置の指標となる配置指標を形成する配置指標形成工程、
をさらに備え、
前記配置指標形成工程においては、前記複数のグリーンシートのそれぞれの外周部の印刷範囲外に、第1と第2の基準穴を、当該グリーンシートの一の中心線上にて互いに対向させて設けるとともに、前記第2の基準穴を通り前記一の中心線と直交する直線上に第3の基準穴を設け、
前記印刷工程において前記少なくとも1つのグリーンシートに対し印刷を行う印刷装置のステージに、前記第1と第2の基準穴に嵌合する第1と第2の基準ピンと、前記少なくとも1つのグリーンシートが正しく固定された状態で前記第3の基準穴と連通する検知用吸引孔を設け、
前記印刷装置に、前記吸引孔の空気を吸引する吸引手段と、前記吸引孔における圧力状態を検知するセンサとを設け、
前記印刷工程においては、前記センサが負圧を検知したときに前記ステージに前記被印刷物が正しく配置されていないと判定する、
ことを特徴とするグリーンシートの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のグリーンシートの処理方法であって、
前記積層工程において前記複数のグリーンシートの積層に用いる積層治具に、前記第1と第2の基準穴に嵌合する第1と第2の基準ピンと、前記複数のグリーンシートのそれぞれが正しく積層された状態で前記第3の基準穴と嵌合する位置決め用のピンとを設ける、
ことを特徴とするグリーンシートの処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のグリーンシートの処理方法であって、
前記複数のグリーンシートのそれぞれが平面視略矩形形状を有するものであり、
前記配置指標形成工程においては、前記複数のグリーンシートのそれぞれの四隅に、扇形状の切り欠きを、前記四隅のうちの3つにおける前記切り欠きの形状が異なるように設けるとともに、
前記印刷装置と前記積層治具の少なくとも一方の、前記複数のグリーンシートのそれぞれの前記四隅に対応する位置に、前記四隅の形状に応じたコーナーピンをあらかじめ設けておく、
ことを特徴とするグリーンシートの処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載のグリーンシートの処理方法であって、
前記配置指標形成工程においては、前記印刷範囲外であって前記一の中心線に対して前記第3の基準穴と非対称な位置に、第4の基準穴を設ける、
ことを特徴とするグリーンシートの処理方法。
【請求項5】
請求項3に記載のグリーンシートの処理方法であって、
前記配置指標形成工程においては、前記複数のグリーンシートのそれぞれの前記中心線に平行な辺に切り欠きをさらに設ける、
ことを特徴とするグリーンシートの処理方法。
【請求項6】
印刷装置においてシート状の被印刷物に対し印刷を行う際の、前記被印刷物を固定するステージへの前記被印刷物の配置状態を判定する方法であって、
印刷に先立って、前記被印刷物の外周部の印刷範囲外に、第1と第2の基準穴を、前記被印刷物の一の中心線上にて互いに対向させて設けるとともに、前記第2の基準穴を通り前記一の中心線と直交する直線上に第3の基準穴を設け、
前記ステージに、前記被印刷物が正しく固定された状態で前記第3の基準穴と連通する検知用吸引孔を設け、
前記印刷装置に、前記吸引孔の空気を吸引する吸引手段と、前記吸引孔における圧力状態を検知するセンサとを設け、
前記センサが負圧を検知したときに前記ステージに前記被印刷物が正しく配置されていないと判定する、
ことを特徴とする被印刷物の配置状態判定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の被印刷物の配置状態判定方法であって、
前記被印刷物が平面視略矩形形状を有するものであり、
前記被印刷物の四隅に、扇形状の切り欠きを、前記四隅のうちの3つにおける前記切り欠きの形状が異なるように設けるとともに、
前記印刷装置の前記被印刷物の前記四隅に対応する位置に、前記四隅の形状に応じたコーナーピンをあらかじめ設けておく、
ことを特徴とする被印刷物の配置状態判定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の被印刷物の配置状態判定方法であって、
前記印刷範囲外であって前記一の中心線に対して前記第3の基準穴と非対称な位置に、第4の基準穴を設ける、
ことを特徴とする被印刷物の配置状態判定方法。
【請求項9】
請求項7に記載の被印刷物の配置状態判定方法であって、
前記被印刷物の前記中心線に平行は辺に切り欠きをさらに設ける、
ことを特徴とする被印刷物の配置状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−96868(P2011−96868A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249716(P2009−249716)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(509302663)エヌジーケイ・セラミックデバイス株式会社 (20)
【Fターム(参考)】