説明

コバルトカルボニル錯体組成物及びコバルト膜の形成方法

【課題】コバルト前駆体の保存安定性に優れ、長期保存後に化学気相成長法に供した場合であっても昇華残存物の少ないコバルト前駆体組成物及びコバルト前駆体の使用効率の高い、化学気相成長法によるコバルト膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】上記組成物は、コバルトカルボニル錯体及び溶媒を含有する組成物であって、前記溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度が0.001〜1重量%であることを特徴とする。上記方法は、上記のコバルトカルボニル錯体組成物に由来するコバルトカルボニル錯体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルトカルボニル錯体をコバルトに変換することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトカルボニル錯体組成物及びコバルト膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の電子デバイスにおいて、更なる高性能化を目的として配線や電極の構造の微細化、複雑化が進んでおり、これらの形状に精度の向上が要求されるようになってきた。
電子デバイスに電極、配線を形成するには、基体上の配線又は電極となるべき部位にトレンチを形成し、当該トレンチ内に配線又は電極となるべき金属材料を埋め込み、余剰の部分を化学機械研磨等により除去する方法が一般的である。
従来からトレンチ埋め込みにおける電極材料、配線材料として、高い導電性を持つ利点を有する銅が広く用いられてきた。トレンチへ銅を埋め込む方法としては、アスペクト比の大きいトレンチに対しても高い充填率をもって銅の埋め込みを行うことができる利点を有するメッキ法によることが有利である(特許文献1及び2)。
ここで、トレンチを有する基板が導電性を持たない絶縁体である場合(例えば酸化ケイ素等を材料とする基板である場合)には、メッキを行うに先立って基板表面にメッキの下地膜となるべき導電性膜(シード層)を形成しておくことが必要となる。また、銅が酸化ケイ素に代表される絶縁体と接触すると、銅原子が銅層から絶縁体へと移動する現象(一般に、「マイグレーション(migration)」といわれる。)が知られている。電子デバイスにおける銅と絶縁体の界面でこのような銅原子のマイグレーションが起こると、デバイスの電気特性を害することとなるため、電子デバイスにおける絶縁体と銅との間に、バリア層を設ける必要がある。
【0003】
近年、トレンチへのメッキ法による銅埋め込みのためのシード層となり、同時に絶縁体と銅との界面におけるバリア層としても機能する材料としてコバルトを使用し、特殊な化学気相成長方法を用いることにより上記目的を達成しようとする技術が提案された(特許文献3)。この技術は、コバルト膜を形成すべき第一の基体とコバルト前駆体を乗せた第二の基体とを近接して対向配置し、前記第二の基体から昇華したコバルト前駆体を第一の基体上に供給し、該第一の基体上でコバルト前駆体をコバルトに変換することにより、コバルト膜を形成するものである。そして、特許文献3にはコバルト前駆体として、オクタカルボニルジコバルト等が記載されている。この技術により、アスペクト比の高いトレンチを有する基体の場合であっても、トレンチの内部まで均一な厚さであり、且つ高い密着性を有するコバルト膜を容易に形成することが可能となり、上記目的は一応達成された。
しかし、オクタカルボニルジコバルト等の一般的なコバルト前駆体は、保存安定性に問題があり、保存中に昇華性の低い安定錯体に徐々に変換してしまうことが知られている。化学気相成長法において、かかる安定錯体を含むコバルト錯体を前駆体として用いると、安定錯体が昇華せずに残存物となるため、化学気相成長法に供する前駆体の量としては、形成するべきコバルト膜の重量から逆算した理論値を大きく超える量を準備することが必要となる。そして、前記残存物は、化学気相成長法におけるコバルト前駆体として再利用することができないから、化学気相成長法によるコバルト膜の形成には、必要以上のコストがかかることとなる。
【特許文献1】特開2000−80494号公報
【特許文献2】特開2003−318258号公報
【特許文献3】特開2006−328526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コバルト前駆体の保存安定性に優れ、長期保存後に化学気相成長法に供した場合であっても昇華残存物の少ないコバルト前駆体組成物及びコバルト前駆体の使用効率の高い化学気相成長法によるコバルト膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、本発明の上記目的及び利点は、第一に、
コバルトカルボニル錯体及び溶媒を含有する組成物であって、
前記溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度が0.001〜1重量%であるコバルトカルボニル錯体組成物によって達成される。
本発明の上記目的及び利点は、第二に、
上記コバルトカルボニル錯体組成物に由来するコバルトカルボニル錯体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルトカルボニル錯体をコバルトに変換する、コバルト膜の形成方法によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物は保存安定性に優れ、該組成物に含有されるコバルトカルボニル錯体は安定錯体に変換されることなく長期間その昇華性を維持することができる。従って、本発明のコバルトカルボニル錯体組成物に由来するコバルトカルボニル錯体を前駆体として用いる本発明のコバルト膜の形成方法は、良質のコバルト膜を簡易な方法で形成できるばかりでなく、前駆体の使用効率が高いからコバルト膜形成のコスト削減にも資する。
本発明のコバルト膜の形成方法により形成されたコバルト膜は、例えばメッキのためのシード層として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物は、コバルトカルボニル錯体及び溶媒を含有し、前記溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度が0.001〜1重量%であることを特徴とする。
<コバルトカルボニル錯体>
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物に含有されるコバルトカルボニル錯体は、カルボニルを配位子として有するコバルト錯体であり、例えば下記式(1)乃至(4)のうちのいずれかで表されるコバルト錯体等を挙げることができる。
Co(CO)・・・(1)
Co(CO)CZ・・・(2)
(ここで、Zは水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基である。)
Co(CO)12・・・(3)
Co(CO)12・・・(4)
【0008】
上記式(2)で表されるコバルトカルボニル錯体としては、例えば下記式(i)で表される錯体を挙げることができる。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物に含有されるコバルトカルボニル錯体としては、上記のうち、上記式(1)又は(4)で表される錯体が好ましく、特にオクタカルボニルジコバルトが好ましい。
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物におけるコバルトカルボニル錯体の濃度としては、好ましくは0.1〜50重量%であり、より好ましくは1〜30重量%である。
【0011】
<溶媒>
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物に含有される溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテル、ケトン、ハロゲン化炭化水素等を挙げることができ、これらのうちから選択される少なくとも一種を使用することが好ましい。
上記脂肪族炭化水素としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等;
上記脂環族炭化水素としては、例えばシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等;
上記芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等;
上記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等;
上記エーテルとしては、例えばジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、p−オキサン等;
上記ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルケトン等;
上記ハロゲン化炭化水素としては、例えば塩化メチレン、テトラクロロエタン、クロロメタン、クロロベンゼン等、をそれぞれ挙げることができる。
【0012】
これらのうち、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、キシレン及びトルエンよりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒を使用することが好ましく、n−ヘキサン及びトルエンよりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒を使用することが特に好ましい。
溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度は、0.005〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。更にこの溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度は、コバルトカルボニル錯体の1モルに対して、0.001〜100モルであることが好ましく、0.01〜10モルであることがより好ましく、0.05〜5モルであることが更に好ましく、0.1〜1モルであることが特に好ましい。溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度が上記の範囲にあることにより、溶液中のコバルトカルボニル錯体の安定性が著しく高まり、コバルトカルボニル錯体組成物を長期間保存しても、安定錯体への変換が起こりにくいこととなる。コバルトカルボニル錯体組成物を保存する際の温度としては、−30〜80℃であることが好ましく、10〜50℃であることが好ましく、35〜50℃であることが特に好ましい。このようなコバルトカルボニル錯体組成物を用いて化学気相成長方法によりコバルト膜を形成した場合には、コバルトカルボニル錯体の使用効率が高くなるとの利点を有する。
溶媒に溶存する酸素の濃度は、500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましく、特に10ppm以下であることが好ましい。
【0013】
<その他の成分>
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物は、上記の如きコバルトカルボニル錯体及び溶媒を含有し、前記溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度が0.001〜1重量%であるが、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意的にその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば界面活性剤、シランカップリング剤、ポリマー等を挙げることができる。
【0014】
<コバルトカルボニル錯体組成物の製造方法>
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物は、例えば
溶媒に一酸化炭素を含むガスをバブリングする工程と、
前記工程によって得られた溶媒にコバルトカルボニル錯体を溶解する工程と、
を含む製造方法、又は
溶媒にコバルトカルボニル錯体を溶解してコバルトカルボニル錯体溶液を製造する工程と、
得られたコバルトカルボニル錯体溶液に一酸化炭素を含むガスをバブリングする工程と、
を含む製造方法によって製造することができる。本発明のコバルトカルボニル錯体組成物が上記その他の成分を含有するものである場合には、該その他の成分は上記工程中の任意の時点で添加することができる。
上記において、溶媒又はコバルトカルボニル錯体溶液に一酸化炭素を含むガスをバブリングする工程における溶媒の温度としては、−80〜100℃であることが好ましく、−30〜50℃であることがより好ましく、更に−10℃〜30℃であることが好ましい。
一酸化炭素を含むガスとしては、一酸化炭素のみからなるガス、一酸化炭素と他のガスとの混合ガス等を挙げることができる。後者の場合に使用することのできる他のガスとしては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを好ましく使用することができる。一酸化炭素を含むガスとして一酸化炭素と他のガスとの混合ガスを使用する場合、該混合ガス中に含まれる一酸化炭素の濃度としては、10体積%以上であることが好ましく、25体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることが更に好ましく、特に75体積%以上であることが好ましい。
一酸化炭素を含むガスは、酸素が実質的に含まれていないものであることが好ましい。具体的には、該ガス中の酸素濃度が500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましく、特に10ppm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のコバルトカルボニル錯体組成物中には、酸素が実質的に溶存していないことが好ましい。具体的には、組成物中に溶存する酸素の濃度として、500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましく、特に10ppm以下であることが好ましい。組成物中の溶存酸素濃度を低減する方法としては、溶媒として、実質的に酸素を含まないガスを用いて予めバブリングした溶媒を用いる方法、加熱等により予め脱気処理を行った溶媒を用いる方法等が挙げられる。前者の場合、バブリングに用いるガスとして上記の如き一酸化炭素を含むガスを使用することが、本発明のコバルトカルボニル錯体組成物を製造するための工程数を減少できる点で好ましい。
【0016】
<コバルト膜の形成方法>
本発明のコバルト膜の形成方法は、上記の如きコバルトカルボニル錯体組成物に由来するコバルトカルボニル錯体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルトカルボニル錯体をコバルトに変換することを特徴とする。これにより、使用したコバルトカルボニル錯体組成物に含まれていたコバルトカルボニル錯体を、高い効率で昇華してコバルトに変換することが可能となる。
コバルトカルボニル錯体組成物に由来するコバルトカルボニル錯体を昇華するには、該組成物から溶媒を除去した後にその残存物からコバルトカルボニル錯体を昇華してもよく、あるいは該組成物から溶媒を気化するとともにコバルトカルボニル錯体を昇華してもよい。
前者の方法による場合、コバルトカルボニル錯体組成物からの溶媒の除去は、例えば該組成物中に不活性ガス若しくは還元性ガス又はこれらの混合ガスを通気する方法、該組成物を加熱する方法、該組成物を減圧下におく方法等を挙げることができる。これらのうち、コバルトカルボニル錯体組成物中に不活性ガス若しくは還元性ガス又はこれらの混合ガスを通気する方法が好ましい。ここで使用される不活性ガス及び還元性ガスとしては、それぞれ上記と同じものを挙げることができる。通気の際の組成物の温度は、10〜50℃に維持することが好ましい。続いて行われるコバルトカルボニル錯体の昇華は、溶媒除去後の残存物を好ましくは、25℃以上、より好ましくは40〜500℃、更に好ましくは40〜300℃に加熱することにより行うことができる。
一方、後者の、コバルトカルボニル錯体組成物から溶媒を気化するとともにコバルトカルボニル錯体を昇華する方法としては、該組成物を好ましくは25〜150℃、より好ましくは30〜100℃、更に好ましくは35〜50℃の温度に、好ましくは0.1〜60分、より好ましくは1〜20分おくことにより行うことができる。溶媒除去の際の雰囲気としては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス若しくは水素、一酸化炭素等の還元性ガス又はこれらの混合ガスの雰囲気下が好ましい。
上記のうち、コバルトカルボニル錯体組成物から溶媒を除去した後にその残存物からコバルトカルボニル錯体を昇華することが好ましい。この場合において、コバルトカルボニル錯体組成物から除去された溶媒は、系外に排出されることが好ましい。
【0017】
上記コバルトカルボニル錯体の昇華物を基体上に供給するには、上記のコバルトカルボニル錯体の昇華を基体の近傍で行う方法、コバルトカルボニル錯体の昇華を基体の遠方又は別の反応器(チャンバー)内で行い、発生した昇華物を適当なキャリアガスまたは圧力差を利用して基体の近傍まで運搬する方法等を挙げることができる。
上記コバルトカルボニル錯体の昇華を基体の近傍で行う方法は、具体的には例えばコバルトカルボニル錯体組成物を適当な容器に入れた状態で基体の近傍に置いた状態でコバルトカルボニル錯体を昇華する方法、コバルト膜を形成するべき基体とは別の基体の表面上に上記組成物を配置したうえで、コバルト膜を形成すべき基体の面と上記別の基体の組成物を配置した面とを対向配置した状態でコバルトカルボニル錯体を昇華する方法等によることができる。この際、上記別の基体上に配置されたコバルトカルボニル錯体組成物は、予め溶媒を気化させておくことが好ましい。
上記方法のうち、後者の別の基体を用いる方法が好ましい。上記別の基体としては、上記コバルトカルボニル錯体組成物の塗膜を塗布法により形成でき、且つコバルトカルボニル錯体を昇華するための加熱に耐えるものであれば特に限定はなく、後述するコバルト膜が形成される基板と同様の材料からなるものを使用することができる。別の基体の形状に特に制限はないが、コバルト膜が形成される基体のコバルト膜が形成される部分(面)の少なくとも一部と契合する面を有する形状が好ましい。別の基体の表面上にコバルトカルボニル錯体組成物を配置するには、例えば該別の基体の表面に上記コバルトカルボニル錯体組成物を塗布する方法等によることができる。
一方、コバルトカルボニル錯体の昇華を基体の遠方又は別の反応器(チャンバー)内で行い、発生した昇華物を適当なキャリアガスで基体の近傍まで運搬する方法による場合、使用されるキャリアガスとしては、不活性ガス若しくは還元性ガス又はこれらの混合ガス等を挙げることができ、これらの具体例としては、それぞれ上記と同じものを挙げることができる。また、コバルトカルボニル錯体の昇華を基体の遠方又は別の反応器(チャンバー)内で行い、発生した昇華物を圧力差により基体の近傍まで運搬する方法による場合、反応室内の圧力を真空ポンプ等を用いて減圧することで反応室内にコバルトカルボニル錯体を運搬することができる。
【0018】
基体上に供給されたコバルトカルボニル錯体は、基体上でコバルトに変換され、これにより基体上にコバルト膜が形成される。基体上におけるコバルトカルボニル錯体のコバルトへの変換は基体表面を加熱することにより行うことができる。
コバルトカルボニル錯体をコバルトへ変換するための基体表面の温度としては、好ましくは50〜300℃であり、より好ましくは50〜250℃であり、更に50〜150℃であることが好ましい。
本発明の方法により形成されるコバルト膜の膜厚は、1〜1,000nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。
上記コバルト膜が形成される基体を構成する材料としては、例えばガラス、金属、金属窒化物、シリコン、樹脂、絶縁膜等を挙げることができる。上記ガラスとしては、例えば石英ガラス、ホウ酸ガラス、ソーダガラス、鉛ガラス等;
上記金属としては、例えば金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄等;
上記金属窒化物としては、例えば窒化チタン、窒化タンタル、窒化タングステン等;
上記樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン等;
上記絶縁膜としては、例えば酸化シリコン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、「SOG」と呼ばれる絶縁膜、CVD法により形成された低誘電率の絶縁膜等、をそれぞれ挙げることができる。
【0019】
上記酸化シリコンとしては、例えば熱酸化膜、PETEOS(Plasma Enhanced TEOS)膜、HDP(High Density Plasma Enhanced TEOS)膜、BPSG(ホウ素リンシリケート)膜、FSG(Fluorine Doped Silicate Glass)膜等を挙げることができる。上記熱酸化膜は、シリコンを高温の酸化性雰囲気に置くことにより形成される。PETEOS膜は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を原料とし、促進条件としてプラズマを利用した化学気相成長法によって成膜される。HDP膜は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を原料とし、促進条件として高密度プラズマを利用した化学気相成長によって成膜される。BPSG膜は、例えば常圧CVD法又は減圧CVD法により得ることができる。FSG膜は、促進条件として高密度プラズマを利用した化学気相成長によって成膜される。上記「SOG」とは、「Spinon Glass」の略称であり、一般に、前駆体たるケイ酸化合物を有機溶剤に溶解又は分散した液状の混合物をスピンコート法等により基体に塗布した後、加熱処理して得られる低誘電率の絶縁膜をいう。前駆体たるケイ酸化合物としては、例えばシルセスキオキサン等を挙げることができる。「SOG」と呼ばれる絶縁膜の市販品としては、例えばCoral(NuvellusSystem社製)、Aurola(日本エーエスエム(株)製)、Nanoglass(Honeywell社製)、LKD(JSR(株)製)等を挙げることができる。上記のうち、基体を構成する材料としては、酸化シリコン、「SOG」と呼ばれる絶縁膜又はCVD法により形成された低誘電率の絶縁膜が好ましく、酸化シリコンがより好ましく、PETEOS膜、BPSG膜又はFSG膜が更に好ましい。
上記基体は、その表面にバリア層が形成されたものであってもよい。ここで、バリア層を構成する材料としては、例えばタンタル、チタン、窒化タンタル、窒化チタン等を挙げることができ、このうち、タンタル又は窒化タンタルが好ましい。
コバルト膜が形成される基体は、トレンチを有している場合に本発明の有利な効果がより発揮される。トレンチは、上記の如き材質からなる基体に、公知の方法、例えばフォトリソグラフィー等、によって形成される。
トレンチは、どのような形状、大きさのものであってもよいが、トレンチの開口幅(基体表面に開口した部分の最小距離)が10〜300nmであり、かつトレンチのアスペクト比(トレンチの深さをトレンチの開口幅で除した値)が3以上である場合に、本発明の有利な効果が最大限に発揮される。上記トレンチの開口幅は更に10〜200nmであることができ、特に10〜100nmであることができ、就中10〜50nmであることができる。上記トレンチのアスペクト比は、更に3〜40であることができ、特に5〜25であることができる。
【0020】
上記の如き本発明のコバルト膜の形成方法は、後述の実施例からも明らかなようにコバルトの前駆体であるコバルトカルボニル錯体を、高効率で昇華してコバルトに変換することができ、しかも基体上に形成されるコバルト膜は均一な膜厚を有する高品位のものである。
【実施例】
【0021】
<コバルトカルボニル錯体組成物の安定性試験>
実施例1
(1)コバルトカルボニル錯体組成物の調製
オクタカルボニルジコバルト20gを、25℃において流速1L(NTP)/分の一酸化炭素を2分間バブリングしたヘキサン180gに溶解し、オクタカルボニルジコバルト濃度が10重量%のコバルトカルボニル錯体組成物を調製した。これら作業は、すべて一酸化炭素雰囲気中で行った。ここで溶媒として使用した上記ヘキサンに 溶存している一酸化炭素の濃度を、ガスクロマトグラフィー(Agilent Technologies社製6890N)により測定したところ、0.12重量%であった。また、ヘキサン中の酸素の濃度は、1ppmであった。
(2)コバルトカルボニル錯体組成物の保存
一酸化炭素雰囲気中で、500mL容器に上記コバルトカルボニル錯体組成物200gを入れ、フタを閉め密封した。これを40℃のオーブンに1ヶ月間静置して保存した。
(3)保存後のコバルトカルボニル錯体組成物の分析
窒素雰囲気中で、上記容器から内容物の一部を取り出し、重水素化トルエンとn−ヘキサンを重量比で1対1に混合した溶媒に溶解し、濃度は5重量%の溶液とした。この溶液につき、59Co−NMR測定を行い、オクタカルボニルジコバルトとドデカカルボニルテトラコバルトとの存在比を調べた。保存後の組成物中にドデカカルボニルテトラコバルトは観測されず、オクタカルボニルジコバルトのドデカカルボニルテトラコバルトへの変化率(保存後の組成物中に含有されていたコバルト錯体の全重量に対するドデカカルボニルテトラコバルトの重量割合)は0%であった。
【0022】
実施例2
実施例1の「(1)コバルトカルボニル錯体組成物の調製」において、溶媒に対するバブリングガスを一酸化濃度75体積%および窒素25体積%からなる混合ガスとし、作業を一酸化濃度75体積%および窒素25体積%からなる混合ガスの雰囲気中で行ったほかは実施例1と同様にして、コバルトカルボニル錯体組成物を調製した。使用した溶媒中の一酸化炭素濃度は0.09重量%であり、酸素濃度は1ppmであった。
上記組成物につき、実施例1と同様にして1ヶ月間保存し、分析したところ、保存後のオクタカルボニルジコバルトのドデカカルボニルテトラコバルトへの変化率は0%であった。
【0023】
実施例3
実施例1の「(1)コバルトカルボニル錯体組成物の調製」において、溶媒に対するバブリングガスを一酸化濃度50体積%および窒素50体積%からなる混合ガスとし、作業を一酸化濃度50体積%および窒素50体積%からなる混合ガス雰囲気中で行ったほかは実施例1と同様にして、コバルトカルボニル錯体組成物を調製した。使用した溶媒中の一酸化炭素濃度は0.06重量%であり、酸素濃度は1ppmであった。
上記組成物につき、実施例1と同様にして1ヶ月間保存し、分析したところ、保存後のオクタカルボニルジコバルトのドデカカルボニルテトラコバルトへの変化率は1%であった。
【0024】
比較例1
実施例1の「(1)コバルトカルボニル錯体組成物の調製」において、溶媒に対するバブリングガスを窒素とし、作業を窒素雰囲気中で行ったほかは実施例1と同様にして、コバルトカルボニル錯体組成物を調製した。使用した溶媒中の一酸化炭素濃度は0.00重量%であり、酸素濃度は1ppmであった。
上記組成物につき、実施例1と同様にして1ヶ月間保存し、分析したところ、保存後のオクタカルボニルジコバルトのドデカカルボニルテトラコバルトへの変化率は10%であった。
【0025】
<コバルト膜の形成>
実施例4
コバルト膜を形成する基体として厚さ50nmの窒化タンタル膜を有するシリコンウェハ(第一の基体)を、別の基体としてシリコンウェハ(第二の基体)を、それぞれ準備した。
(1)第二の基体上へのコバルトカルボニル錯体の膜の形成
窒素雰囲気中で第二の基体の片面に、コバルトカルボニル錯体組成物として上記実施例1で1ヶ月間静置保存した後のコバルトカルボニル錯体組成物をスピンコート法によって塗布 することにより、第二の基体上に厚さ約3μmのコバルトカルボニル錯体の均一な膜を得た。この膜の重量は30mgであった。
(2)第一の基体上へのコバルト膜の形成及び評価
次いで、窒素雰囲気下で上記第一の基体の窒化タンタル膜を有する面と、上記第二の基体のコバルトカルボニル錯体の膜を有する面とを、距離2.0mmで対向させて配置した。このとき、第一の基体が上側になり、第二の基体が下側になるように配置した。第一の基体の背面をホットプレート面に接触させて、この基体を120℃で10分間加熱した。加熱された第一の基体からの輻射熱により、第二の基体上のコバルトカルボニル錯体が加熱されて昇華し、第一の基体上に厚さ200nmの銀白色の膜が形成された。この膜につき、SIMS分析を行ったところ、この膜はコバルト金属からなる膜であることがわかった。このコバルト膜の比抵抗は18μΩ・cmであった。
コバルト膜形成後に、第二の基体上に残存したコバルトカルボニル錯体の重量は0mgであり、残存率は0%であった。
【0026】
実施例5
上記実施例4において、コバルトカルボニル錯体組成物として上記実施例2で1ヶ月間静置保存した後のコバルトカルボニル錯体組成物を使用したほかは実施例4と同様にして、第一の基体上にコバルト膜を形成した。
その結果、得られたコバルト膜の膜厚は200nmであり、比抵抗は18μΩ・cmであった。
コバルト膜形成後に、第二の基体上に残存したコバルトカルボニル錯体の重量は0mgであり、残存率は0%であった。
【0027】
実施例6
上記実施例4において、コバルトカルボニル錯体組成物として上記実施例3で1ヶ月間静置保存した後のコバルトカルボニル錯体組成物を使用したほかは実施例4と同様にして、第一の基体上にコバルト膜を形成した。
その結果、得られたコバルト膜の膜厚は200nmであり、比抵抗は18μΩ・cmであった。
コバルト膜形成後に、第二の基体上に残存したコバルトカルボニル錯体の重量は0mgであり、残存率は0%であった。
【0028】
比較例2
上記実施例4において、コバルトカルボニル錯体組成物として上記比較例1で1ヶ月間静置保存した後のコバルトカルボニル錯体組成物を使用したほかは実施例2と同様にして、第一の基体上にコバルト膜を形成した。
その結果、得られたコバルト膜の膜厚は190nmであり、比抵抗は20μΩ・cmであった。
コバルト膜形成後に、第二の基体上に残存したコバルトカルボニル錯体の重量は4mgであり、残存率は13%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトカルボニル錯体及び溶媒を含有する組成物であって、
前記溶媒に溶存する一酸化炭素の濃度が0.001〜1重量%であることを特徴とする、コバルトカルボニル錯体組成物。
【請求項2】
コバルトカルボニル錯体が、下記式(1)乃至(4)のうちのいずれかで表されるコバルトカルボニル錯体である、請求項1に記載のコバルトカルボニル錯体組成物。
Co(CO)・・・(1)
Co(CO)CZ・・・(2)
(ここで、Zは水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基である。)
Co(CO)12・・・(3)
Co(CO)12・・・(4)
【請求項3】
溶媒が、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテル、ケトン及びハロゲン化炭化水素よりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のコバルトカルボニル錯体組成物。
【請求項4】
コバルト膜形成用である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコバルトカルボニル錯体組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のコバルトカルボニル錯体組成物の製造方法であって、
溶媒に一酸化炭素を含むガスをバブリングする工程と、
前記工程によって得られた溶媒にコバルトカルボニル錯体を溶解する工程と、
を含むことを特徴とする、コバルトカルボニル錯体組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のコバルトカルボニル錯体組成物の製造方法であって、
溶媒にコバルトカルボニル錯体を溶解してコバルトカルボニル錯体溶液を製造する工程と、
得られたコバルトカルボニル錯体溶液に一酸化炭素を含むガスをバブリングする工程と、
を含むことを特徴とする、コバルトカルボニル錯体組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のコバルトカルボニル錯体組成物に由来するコバルトカルボニル錯体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルトカルボニル錯体をコバルトに変換することを特徴とする、コバルト膜の形成方法。
【請求項8】
コバルト膜を形成すべき基体とは別の基体上に上記コバルトカルボニル錯体組成物を配置する工程と、
上記基体のコバルト膜を形成すべき面と上記別の基体のコバルトカルボニル錯体組成物を配置した面とを対向配置してコバルトカルボニル錯体を昇華する工程と
を含む、請求項7に記載のコバルト膜の形成方法。
【請求項9】
形成されるコバルト膜の膜厚が1〜1,000nmである、請求項7又は8に記載のコバルト膜の形成方法。
【請求項10】
形成されるコバルト膜がメッキのためのシード層である、請求項7〜9のいずれか一項に記載のコバルト膜の形成方法。

【公開番号】特開2010−150656(P2010−150656A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267296(P2009−267296)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】