説明

ゴムブッシュ

【課題】インナー及びアウター部材と、これら部材間に介在するゴム状弾性体を備えたゴムブッシュにおいて、上記部材のゴム状弾性体間との摺動面にDLCのような硬質炭素薄膜を形成し、このような硬質炭素薄膜に好適な特定の潤滑油組成物と組合わせることによって、極めて優れた低摩擦特性を示すゴムブッシュを提供する。
【解決手段】枠材3(アウタ部材)に取付けられたゴム状弾性体4の挿通孔4a内に回転自在に支持された軸2(インナー部材)の表面に硬質炭素薄膜を被覆する一方、ゴム状弾性体4に、OH基を有する添加剤を含有する潤滑油組成物を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のサスペンション装置の連結部などにおいて使用されるゴムブッシュに係り、とくに耐摩耗性、摩擦特性、摺動性能に優れたゴムブッシュに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のサスペンション機構等においては、ロッドやアーム等を車体側若しくは車輪側部材に対して揺動可能に防振連結せしめるために、一般に、径方向に所定距離を隔てて同心的に配されたインナ部材とアウタ部材とを、それらの間に介装された筒状の弾性部材にて一体的に連結せしめて成る構造のブッシュが用いられる。
すなわち、かかるゴムブッシュにあっては、その弾性部材の弾性によって、軸直角方向の入力振動を吸収すると共に、該弾性部材の軸心回りのねじり変形によってインナ−アウタ部材間における軸心回りの相対的回動を許容するようになっているのである。
【0003】
近年、車両の乗り心地に対するユーザーの要求が高まっており、乗り心地向上のためには、サスペンション機構摺動部位の摩擦抵抗を低減することが有効であり、ゴムブッシュにおいてはインナ部材−弾性部材間、ないしはアウタ部材−弾性部材間の回動トルクを低減する必要がある。
ゴムブッシュにおける回動トルクを低減策としては、例えば特許文献1及び2に記載された技術が知られている。
【特許文献1】特開平04―46230号公報
【特許文献2】特開2004−257541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1においては、インナ部材の外周部側にポリフッ化エチレン繊維等の低摩擦材料から成る筒状の摺動布を配置することにより回動トルクを低減しているが、特にインナ部材に摩擦低減効果が最も高いポリフッ化エチレンを選定した場合、ポリフッ化エチレンは非着性を示すことから、弾性部材ないしはインナ部材との接合は困難となり、接合部側にポリエステル繊維が現れるように交織した二重繊維等を適用するなどの工夫が必要となり、大幅なコストアップとなってしまう。また、ポリフッ化エチレン以外の繊維を用いた場合には、回動フリクションの低減効果が小さくなってしまい、所定の性能が得られない。
【0005】
一方、上記特許文献2においては、インナ部材と摺動する弾性部材内側のみに、不飽和脂肪酸アミド等を含有させた自己潤滑ゴムを適用することにより回動トルクを低減しているが、上記引用文献1に比較して回動トルク低減効果が小さいという課題が存在する。また、不飽和脂肪酸は摺動回数がある程度の回数に達すると、摺動表面に析出し難くなるため、回動トルク低減効果を持続させることが困難である。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、インナー及びアウター部材と、これら部材間に介在するゴム状弾性体を備えたゴムブッシュにおいて、上記部材のゴム状弾性体間との摺動面にダイヤモンドライクカーボンのような硬質炭素薄膜を形成すると共に、このような硬質炭素薄膜に好適な潤滑油組成物と組合わせることによって、極めて低い回動トルクを示すゴムブッシュを提供し、車両の乗り心地改善に貢献することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ゴム状弾性体との摺接面に硬質炭素薄膜から成る被覆を施すと共に、上記ゴム状弾性体に特定の添加剤を含有する潤滑油組成物を添加・混合することによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のゴムブッシュは、上記知見に基づくものであって、軸状をなすインナ部材と、該インナ部材の外方に配設されたアウタ部材と、これらインナ部材及びアウタ部材の一方に取付けられ、他方と相対的に摺動するゴム状弾性体を備えたものであって、上記インナ部材又はアウタ部材のゴム状弾性体との摺接面に硬質炭素薄膜が被覆されている一方、上記ゴム状弾性体中にはOH基を有する添加剤を含有する潤滑油組成物が混合されていることを特徴としている。
【0009】
そして、本発明のゴムブッシュにおける好適形態においては、上記硬質炭素薄膜の水素含有量が0.5原子%以下であることを特徴とし、他の好適形態においては、OH基を有する上記添加剤が脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のゴムブッシュにおける別のさらに他の好適形態においては、上記潤滑油組成物のゴム状弾性体への添加量が質量比で3〜50%の範囲であり、さらに他の好適形態においては、上記ゴム状弾性体がニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムの何れかの材料から成るものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インナー及びアウター部材と、これら部材間に介在するゴム状弾性体を備えたゴムブッシュにおいて、例えば脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤のようなOH基含有添加剤を含む潤滑油組成物をゴム状弾性体に添加・混合し、このような潤滑油組成物の存在下でDLCのような硬質炭素薄膜を被覆したインナー部材あるいはアウター部材と摺動するようにしているので、潤滑油を外部から供給しなくても、長期に亘って優れた摩擦特性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0013】
図1(a)及び(b)は、本発明のゴムブッシュの一般的な形状例を示すものであって、図に示すゴムブッシュ1は、インナー部材としての軸2と、アウター部材として枠材3を有し、該枠材3の内側には、ドラム状をなし、後述する合成ゴムなどの弾性材料から成るゴム状弾性体4が取付けられている。
上記ゴム状弾性体4には、その中心部に挿通孔4aを備えると共に、この挿通孔4aから外周に達するスリット4bが形成されており、当該挿通孔4aに上記した軸2が回転自在に支持され、軸2の回転に伴う振動がゴム状弾性体4によって吸収される構造となっている。
【0014】
本発明のゴムブッシュ1においては、上記軸2の表面におけるゴム状弾性体4との摺接面に、例えばDLCのような硬質炭素薄膜から成る被覆が施してあると共に、上記ゴム状弾性体4には、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤のようなOH基を有する添加剤を含有する潤滑油組成物が添加され、混合されているので、上記硬質炭素薄膜との間で、耐摩耗性及び低摩擦特性が発揮され、外部から潤滑油を供給しなくても摩擦係数及び摩耗量が大幅に減少することになる。
【0015】
なお、図1においては、ゴムブッシュの代表例として、上記ゴム状弾性体4をアウター部材である枠材2に取付けた例を示したが、場合によっては、インナー部材の側に取付けられてアウター部材と摺接することもないとは言えず、この場合にはアウター部材のゴム状弾性体4との摺接面に硬質炭素薄膜を形成することになる。
【0016】
インナー部材あるいはアウター部材におけるゴム状弾性体4との摺接面を被覆するための硬質炭素薄膜としては、炭素を含有する結晶質又は非晶質の薄膜、特にダイヤモンド薄膜やDLC薄膜を用いることができる。
上記DLC薄膜は、いわゆるDLC材料から構成されるものであって、このDLC材料は、非晶質のものであって、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP結合)とグラファイト結合(SP結合)の両方から成る。
【0017】
具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、チタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCなどを好適に用いることができる。
【0018】
一般に、硬質炭素薄膜に含まれる水素量は、成膜方法により左右されるが、本発明においてゴム状弾性体4との摺接面を被覆する硬質炭素薄膜については、水素原子の含有量を0.5原子%以下とすることが望ましい。
すなわち、被膜中の水素原子の含有量が増加すると摩擦係数が増加し、水素原子含有量が0.5原子%を超えると、潤滑油中での摺動時に摩擦係数を十分に低下させることが難しくなる傾向があることによる。
【0019】
このような水素原子含有量の低い硬質炭素薄膜は、例えばスパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法によって成膜することによって得られる。
この場合、成膜時に水素を含まないガスを用いるだけでなく、場合によっては反応容器や基材保持具のベーキングや、基材表面のクリーニングを十分に行ったうえで成膜することが被膜中の水素量を減らすために望ましい。
【0020】
また、上記硬質炭素薄膜の表面粗さについては、Rz(最大高さ粗さ)で5μm以下とすることが望ましく、これによって上記添加剤を含有する潤滑油組成物のもとで、ゴム状弾性体4に対する摺動状態が長期に亘って安定に維持されるようになる。このとき、最大高さ粗さRzが5μmを超えると、ゴム状弾性体4の摺接面への攻撃性が増すため、摩擦係数が増大しやすくなることによる。
なお、硬質炭素薄膜の表面粗さについては、成膜前の素材表面粗さによってほぼ決定され、成膜面の表面粗さが実質的に硬質炭素薄膜の表面粗さとなることから、上記のような表面粗さを備えた硬質炭素薄膜を得るためには、成膜前のインナー部材あるいはアウター部材の表面粗さをRzで5μm以下とすることが上で望ましい。
【0021】
上記ゴム状弾性体4を構成する材料としては、例えばブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)の何れかの材料を主成分とする材料を用いることが望ましい。ここで、「主成分とする」とは、80%以上含有することを意味する。
【0022】
次に、本発明において、上記ゴム状弾性体4に混合する潤滑油組成物について詳細に説明する。
上記潤滑油組成物は、潤滑油基油に、OH基を有する添加剤、例えば脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有させたものが用いられる。
【0023】
ここで、上記潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂及びこれらの混合物など、潤滑油組成物の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系又はナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用でき、溶剤精製、水素化精製処理したものが一般的であるが、芳香族分をより低減することが可能な高度水素化分解プロセスやGTL Wax(ガス・トウー・リキッド・ワックス)を異性化した手法で製造したものを用いることがより好ましい。
【0024】
合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン(例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(例えば、ジトリデシルグルタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジオクチルセバケート等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンイソステアリネート等のトリメチロールプロパンエステル;ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のペンタエリスリトールエステル)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフイン又はその水素化物が好ましい例として挙げられる。
【0025】
本発明に用いる潤滑油組成物における基油は、鉱油系基油又は合成系基油を単独あるいは混合して用いる以外に、2種類以上の鉱油系基油、あるいは2種類以上の合成系基油の混合物であっても差し支えない。また、上記混合物における2種類以上の基油の混合比も特に限定されず任意に選ぶことができる。
【0026】
潤滑油基油中の硫黄分について、特に制限はないが、基油全量基準で、0.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下、さらには0.05%以下であることが好ましい。特に、水素化精製鉱油や合成系基油の硫黄分は、0.005%以下、あるいは実質的に硫黄分を含有していない(5ppm以下)ことから、これらを基油として用いることが好ましい。
【0027】
また、潤滑油基油中の芳香族含有量についても、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油組成物として長期間低摩擦特性を維持するためには、全芳香族含有量が15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらには5%以下であることが好ましい。即ち、潤滑油基油の全芳香族含有量が15%を超える場合には、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、ここで言う全芳香族含有量とは、ASTM D2549に規定される方法に準拠して測定される芳香族留分(aromatics fraction)含有量を意味している。
【0028】
潤滑油基油の動粘度にも、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油として使用する場合には、100℃における動粘度が2mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm/s以上である。一方、その動粘度は、20mm/s以下であることが好ましく、10mm/s以下、特に8mm/s以下であることが好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度が2mm/s未満である場合には、十分な耐摩耗性が得られない上に蒸発特性が劣る可能性があるため好ましくない。一方、動粘度が20mm/sを超える場合には低摩擦性能を発揮しにくく、低温性能が悪くなる可能性があるため好ましくない。本発明においては、上記基油の中から選ばれる2種以上の基油を任意に混合した混合物等が使用でき、100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内に入る限りにおいては、基油単独の動粘度が上記以外のものであっても使用可能である。
【0029】
また、潤滑油基油の粘度指数にも、特別な制限はないが、80以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、特に内燃機関用潤滑油として使用する場合には、120以上であることが好ましい。潤滑油基油の粘度指数を高めることでよりオイル消費が少なく、低温粘度特性、省燃費性能に優れた内燃機関用潤滑油を得ることができる。
【0030】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0031】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0032】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明に用いる潤滑油組成物に含まれる脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると潤滑油組成物への溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易いので、好ましくない。
【0034】
一方、本発明に用いる潤滑油組成物は、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】

で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0037】
さらに、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0038】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記般式(1)又は(2)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが最も好ましいものとして挙げられる。
【0039】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。
【0040】
なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルポン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる
【0041】
なお、本発明に用いる潤滑油組成物において、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることが好ましい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0042】
更にまた、本発明に用いる潤滑油組成物は、次の一般式(3)
【0043】
【化3】

で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR、R、R及びRは、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0044】
上記R、R、R及びRとしては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基、プロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基、等が例示できる。
【0045】
なお、R、R、R及びRがとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0046】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0047】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、潤滑油組成物全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材と鉄基部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0048】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、例えば、上記R、R、R及びRに対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五二硫化りんと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
本発明においては、上記一般式(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0049】
上述のように、本発明に用いる潤滑油組成物は、DLCなどの硬質炭素薄膜との摺動面に用いた場合に、極めて優れた低摩擦特性を示すものであるが、さらに、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、他の無灰摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤若しくは極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0050】
上記金属系清浄剤としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用できる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独で又は複数種を組合せて使用できる。ここで、上記アルカリ金属としてはナトリウム(Na)やカリウム(K)等、上記アルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等が例示できる。また、具体的な好適例としては、Ca又はMgのスルフォネート、フェネート及びサリシレートが挙げられる。
なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択できる。通常、全塩基価は、過塩素酸法で0〜500mgKOH/g、望ましくは150〜400mgKOH/gであり、その添加量は潤滑油組成物全量基準で、通常0.1〜10%である。
【0051】
また、上記酸化防止剤としては、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物を使用できる。例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、並びにこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。また、かかる酸化防止剤の添加量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜5%である。
【0052】
さらに、上記粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。
【0053】
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜40.0%であることが望ましい。
【0054】
さらにまた、他の無灰摩擦調整剤としては、ホウ酸エステル、高級アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
また、他の無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3500のポリブテニル基を有するポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、数平均分子量が900未満のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド等及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0055】
さらに、上記磨耗防止剤又は極圧剤としては、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、炭素数2〜20の炭化水素基を1〜3個含有するリン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
更にまた、上記防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0056】
また、上記非イオン系界面活性剤及び抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
さらに、上記金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
更にまた、上記消泡剤としては、シリコーン、フルオロシリコーン、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0057】
なお、これら添加剤を本発明に用いる潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、他の摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤又は極圧剤、防錆剤、及び抗乳化剤については0.01〜5%、金属不活性剤については0.005〜1%、消泡剤については0.0005〜1%の範囲から適宜選択できる。
【0058】
本発明において、上記潤滑油組成物のゴム状弾性体への混合量については、質量比で3〜50%の範囲内とすることが望ましい。
これは、潤滑油組成物のゴム状弾性体中の混合量が3%に満たないと、所期の潤滑効果が得られず、50%を超えるとゴム状弾性体の成形性や強度に悪影響が生じ、特に強度低下によって所定の防振効果がえられなくなることによる。
【0059】
また、本発明においては、インナー部材又はアウター部材のゴム状弾性体との摺接面を硬質炭素薄膜で被覆する一方、ゴム状弾性体側の摺接面にも硬質炭素薄膜としてDLCを被覆することが必要に応じて望ましく、これによって、耐摩耗性及び低摩擦特性がより一層向上し、摩擦係数及びゴム状弾性体の摩耗量がさらに減少することになる。
なお、ゴム状弾性体にDLC薄膜を被覆するに際しては、プラズマCVD法を適用する。このような方法によれば、弾性材料にもDLCを容易に成膜することができる。
【0060】
さらに、上記ゴム状弾性体には、そのインナー部材又はアウター部材との摺接面に、ディンプル状の窪みを設けることもでき、当該窪みが油だまりとして機能することから、摩擦係数及び摩耗量のさらに一層の減少を図ることができる。
なお、このディンプル状窪みは、摺接面の全体に形成しても、その一部にのみ形成してもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例と比較例によって、さらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
〔1〕円盤試験片
ベースオイルとしてのポリアルファオレフィンに、エステル系無灰摩擦調整剤としてグリセリンモノオレートを1.5%添加して潤滑油組成物とし、これを全配合量に対する質量比が10%となるまでNBR(ニトリルゴム:AN量20%、硬度70Hs)中に添加し、混練した。
次に、混練後のNBR生地をプレス加硫し、厚さ2mmのゴムシートとし、該ゴムシートから24mm径の円盤を打ち抜き、円盤試験片とした。
〔2〕円柱試験片
高炭素クロム軸受鋼としてJIS G 4805に規定されるSUJ材から成る円柱片(直径18mm、長さ22mm、表面粗さRz:約2μm)の表面に、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素原子量が0.5原子%以下であって、ヌープ硬度Hk=2170kg/mm、厚さ0.5μmのDLC薄膜を被覆して円柱試験片とした。
【0063】
(実施例2)
〔1〕円盤試験片
実施例1と同じ円盤試験片の表面に、5mm幅、5mm間隔に縞状のマスキングを施し、この試験片をプラズマCVD装置にセットし、真空引きの後、Hプラズマで洗浄し、CHプラズマによってDLC薄膜を成膜した。なお、DLC薄膜の膜厚は1.0μmとした。
〔2〕円柱試験片
実施例1と同様の円柱試験片を使用した。
【0064】
(実施例3)
〔1〕円盤試験片
片面にディンプル加工を施したプレス加硫用金型を用意し、実施例1と同一材料を用いて表面にディンプル状の窪みを有するゴムシートを作製し、この窪みを有する表面に、実施例2と同様のマスキングを施し、実施例2と同様にDLC薄膜を成膜した。
〔2〕円柱試験片
実施例1と同様の円柱試験片を使用した。
【0065】
(比較例1)
〔1〕円盤試験片
一般的な配合のNBR(AN量20%、硬度70Hs)に潤滑油を添加することなくそのままプレス加硫し、厚さ2mmのゴムシートとした後、このゴムシートから24mm径の円盤を打ち抜き、円盤試験片とした。
〔2〕円柱試験片
表面にDLC薄膜を形成することなく、高炭素クロム軸受鋼としてJIS G 4805に規定されるSUJ材から成る上記円柱片(直径18mm、長さ22mm、表面粗さRz:約2μm)をそのまま円柱試験片として使用した。
【0066】
(比較例2)
〔1〕円盤試験片
比較例1と同じ円盤試験片を使用した。
〔2〕円柱試験片
実施例1と同様の円柱試験片を使用した。
【0067】
(性能評価)
この摩耗試験に使用したSRV試験機の概要を図2に示す。
当該SRV試験機は、上面に円盤試験片Sdを固定する円盤試験片ホルダー11と、円柱状試験片Scを固定する円柱試験片ホルダー12から主に構成され、円柱試験片ホルダー12は、円盤試験片ホルダー11に固定された円盤試験片Sdに対して、所定の荷重を負荷しながら、円柱状試験片Scを摺動させるようになっている。
なお、図2において、符号14は、円柱状試験片Scをホルダー12に固定するためのねじである。
【0068】
上記SRV試験機を用いて、負荷荷重:20N、振幅:±3mm、周波数:50Hz、試験温度:室温、試験時間:2時間の試験条件のもとに摩耗試験を実施し、2時間後の摩擦係数及び円盤試験片Sdの摩耗量を測定した。この結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】(a)本発明のゴムブッシュの構造を示す正面図である。 (b)図1(a)の線B−Bについての縦断面図である。
【図2】本発明の実施例において摩耗試験に用いたSRV試験機の構造を示す概略図である。
【符号の説明】
【0071】
1 ゴムブッシュ
2 軸(インナー部材)
3 枠材(アウター部材)
4 ゴム状弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状をなすインナ部材と、該インナ部材の外方に配設されたアウタ部材と、これらインナ部材及びアウタ部材の一方に取付けられ、他方と相対的に摺動するゴム状弾性体を備え、上記インナ部材又はアウタ部材のゴム状弾性体との摺接面に硬質炭素薄膜が被覆されていると共に、上記ゴム状弾性体中にOH基を有する添加剤を含有する潤滑油組成物が混合されていることを特徴とするゴムブッシュ。
【請求項2】
上記硬質炭素薄膜に含まれる水素原子量が0.5原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴムブッシュ。
【請求項3】
硬質炭素薄膜で被覆されるインナ部材又はアウタ部材の表面粗さが、最大粗さRzで5μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴムブッシュ。
【請求項4】
上記添加剤が脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のゴムブッシュ。
【請求項5】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤が炭素数6〜30の炭化水素基を有し、組成物全量基準で0.05〜3.0%含まれていることを特徴とする請求項4に記載のゴムブッシュ。
【請求項6】
上記潤滑油組成物がポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のゴムブッシュ。
【請求項7】
上記ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量が組成物全量基準で0.1〜15%であることを特徴とする請求項6に記載のゴムブッシュ。
【請求項8】
上記潤滑油組成物がジチオリン酸亜鉛を含有し、その含有量が組成物全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載のゴムブッシュ。
【請求項9】
上記潤滑油組成物の混合量が質量比で3〜50%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載のゴムブッシュ。
【請求項10】
上記ゴム状弾性体がニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムの何れかの材料を主成分としていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のゴムブッシュ。
【請求項11】
上記ゴム状弾性体のインナ部材又はアウタ部材との摺接面の少なくとも一部にプラズマCVD法により成膜されたダイヤモンドライクカーボン薄膜が被覆されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載のゴムブッシュ。
【請求項12】
上記ゴム状弾性体のインナ部材又はアウタ部材との摺接面の少なくとも一部にディンプル状の窪みを設けたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つの項に記載のゴムブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−16830(P2007−16830A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196944(P2005−196944)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】