説明

シリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法

【課題】シリコン膜の製膜時において、基板表面へのHラジカルの供給量を減らさずに、プラズマから基板表面へ入射する不要なイオンの量及びエネルギーを低減する。
【解決手段】(a)基板(34)が設置された第1電極(33)と前記第1電極(33)から離れて設置された第2電極(32)との間に、シラン系ガスと水素ガスと酸素ガスとを含む製膜ガス(51)を供給するステップと、(b)前記第1電極(33)と前記第2電極(32)との間に交流電力を印加し、所定の範囲の割合で負イオンを含むプラズマを発生させながら、前記基板(34)上にシリコン系の膜を製膜するステップと、前記製膜の途中で、前記製膜ガスのうち前記酸素ガスの供給を停止するステップとを具備するシリコン膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法に関し、特に、特性がより向上した膜を製膜することが可能なシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系の膜を基板上に積層して製造される太陽電池が知られている。そのシリコン形の膜として、例えば、アモルファスシリコン(以下、a−Siと記す)や微結晶シリコン(以下、微結晶Si)が知られている。微結晶Siは、数nm〜数十nmの結晶シリコン粒からなる物質である。微結晶Siの製造方法は、アモルファスシリコンと同じプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)を用いることができ、基本的にa−Siの製膜方法の延長線上にある。
【0003】
微結晶Siは、一般的にはSiHガス(モノシランガス)を多量のHガス(水素ガス)で希釈(通常10倍〜100倍程度)した状態の原料ガスを用いる。その原料ガスを、基板を設置した一方の電極とそれに対向する電極との間に供給する。両電極間にa−Siよりも高めの高周波電力(電極面積あたり数十〜数W/cm)を印加し、その原料ガスをプラズマ化して、基板上に製膜する。高周波電力の周波数は、通常用いられている13.56MHzの商用周波数よりも高い数十MHzを用いる方が、高品質の微結晶Siが得やすいことが知られている。
【0004】
微結晶Siは、a−Siに比べ長波長領域での光感度を持つ。このためa−Siと微結晶Siを組合わせたタンデム型の太陽電池は1994年に発表されて以来、高効率のSi系薄膜太陽電池として注目を集めいている(J.Meier,R.Flueckinger,H.Keppner and A.Shah、Appl.Phys.Lett.Vol.65(1994)p.860)。図1は、タンデム型の太陽電池の構造を示す断面図である。この太陽電池1は、ガラス基板(又は透明フィルム)2上に透明電極4、a−Siセル10、微結晶Siセル20及び金属電極6がこの順に積層されている。a−Si(トップ)セル10は、p型a−Si1−X:H層(p層)11、i型a−Si1−Y:H層(i層)12、i型a−Si:H層(i層)13及びn型a−Si:H層(n層)14がこの順に積層されている。微結晶Si(ボトム)セル20は、微結晶(シリコン)p層21、微結晶(シリコン)i層22、微結晶(シリコン)n層23がこの順に積層されている。
【0005】
微結晶Si(ボトム)セル20の光吸収層である微結晶i層22は、その光吸収係数がa−Siセル10に比べ小さい。そのため、a−Si(トップ)セル10と出力電流をマッチングさせるにはi型a−Si:H層(i層)13の膜厚の数倍の膜厚が必要である。このため、この種の太陽電池を商業的に成り立たせるためには、膜質を落とさずに微結晶i層22の製膜速度を上げその生産性を上げることが必須である。
【0006】
その方法として、産業技術総合研究所から、従来に比べ製膜時のガスの圧力を高くし、且つ、基板と対向電極との間隔(以下、電極間隔と記す)を狭くして製膜する方法が提案されている(T.Matsui、M.Kondo and A.Matsuda、Jpn.J.Appl.Phys.、Vol.42(2003)p.L901−L903)。通常、電極間隔を狭くした場合、プラズマ中の電子が電極表面へ拡散し、損失となる割合が増えることから、プラズマは低電子密度・高電子温度化することが知られている。電子温度が高くなるとプラズマのシース理論によりプラズマ電位が高くなる。そのため、プラズマ中から基板表面へ入射するイオンのエネルギーが大きくなる。高品質の微結晶Siの成長には、Hラジカルの基板面への供給だけではなく、このイオン衝撃を抑制させることが重要であることは良く知られた事実である。このため、前述の産業技術総合研究所では圧力を高くし、中性ガス分子と電子の衝突頻度を上げる。それにより、電子温度を下げ、イオン衝撃を抑制させる。結果として、高速且つ高品質の微結晶Siが成長できるとしている。
【0007】
ただし、圧力を高くして中性ガス分子の密度を上げた場合、電極近傍で生成されたHラジカルも、電子と同様に中性ガス分子との衝突頻度が増加する。そのため、基板表面へのHラジカルの供給量は圧力とともに低下する。従って、Hラジカルを供給する上で、高圧力化はマイナスの効果があり、この方法には限界がある。
【0008】
膜質を落とさずに微結晶i層の製膜速度を上げ、その生産性を向上することが可能な技術が求められる。製膜時において、基板表面へのHラジカルの供給量を減らさずに、プラズマから基板表面へ入射する不要なイオンの量及びエネルギーを低減することが可能な技術が望まれる。高効率の微結晶型太陽電池を生産性よく生産する技術が求められる。
【0009】
微結晶i層の製造方法に関連する技術として、特開2003−142712号公報に太陽電池の製造方法の技術が開示されている。この太陽電池の製造方法は、透明絶縁性基板上に第1透明電極と、pin構造またはnip構造を持つ微結晶シリコン層または多結晶シリコン層と、第2透明電極と、裏面電極とを順次形成し、前記透明絶縁性基板側から光を入射させる太陽電池を製造する。その際、反応容器と、この反応容器に原料ガスを供給するためのガス供給手段と、前記反応容器内のガス排出するための排出手段と、前記反応容器内に配置された放電用はしご型電極と、この放電用はしご型電極にグロー放電発生用電力を供給するための電源と、前記反応容器内に前記放電用はしご電極と離間して平行に配置され、加熱用ヒーターを内蔵した指示電極とを備えるCVD装置を用いる。前記pin構造またはnip構造を持つ微結晶シリコン層または多結晶シリコン層のうち、少なくともi型の微結晶シリコン層または多結晶シリコン層は、前記CVD装置の支持電極に前記透明絶縁性基板を有する被処理物を支持させて加熱し、SiHとSiHCl、SiHCl及びSiClから選ばれる少なくとも一つの塩素化ケイ素化合物ガスとHとの混合ガスを前記原料ガスとして前記ガス供給手段から前記反応容器内に供給し、前記電源からはしご型電極に周波数60MHz以上のグロー放電発生用高周波電力を供給して前記反応容器内にグロー放電を起こしてプラズマを発生させることにより製膜されることを特徴とする。
【0010】
プラズマから基板へ入射するイオンを低減しながら製膜を行う技術として、特開2002−313788号公報にプラズマ処理方法の技術が開示されている。このプラズマ処理方法は、電子サイクロトロン共鳴により過熱された電子を用いてプラズマを生成し、このプラズマをミラー磁場に閉じ込めて基板上に供給しプラズマ処理を行う。前記ミラー磁場の磁束密度が極小の位置よりも、前記プラズマが生成される領域と反対側の位置に前記基板を配置してプラズマ処理を行う。
【0011】
【特許文献1】特開2003−142712号公報
【特許文献2】特開2002−313788号公報
【非特許文献1】J.Meier、R.Flueckinger、H.Keppner and A.Shah、Appl.Phys.Lett.、Vol.65(1994)p.860
【非特許文献2】T.Matsui、M.Kondo and A.Matsuda、Jpn.J.Appl.Phys.、Vol.42(2003)p.L901−L903
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、膜質を落とさずにシリコン膜の製膜速度を上げ、その生産性を向上することが可能なシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、製膜時において、基板表面へのHラジカルの供給量を減らさずに、プラズマから基板表面へ入射する不要なイオンの量及びエネルギーを低減することが可能なシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の更に他の目的は、高効率の微結晶型太陽電池を生産性よく生産するシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下に、発明を実施するための最良の形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための最良の形態との対応関係を明らかにするために括弧付きで付加されたものである。ただし、それらの番号・符号を、特許請求の範囲に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0016】
上記課題を解決するために本発明のシリコン膜の製造方法は、(a)基板(34)が設置された第1電極(33)と第1電極(33)から離れて設置された第2電極(32)との間にシラン系ガスと水素ガスと酸素ガスとを含む製膜ガス(51)を供給するステップと、(b)第1電極(33)と第2電極(32)との間に交流電力を印加し、所定の範囲の割合で負イオンを含むプラズマを発生させながら、基板(34)上にシリコン系の膜を製膜するステップと、前記製膜の途中で、前記製膜ガスのうち前記酸素ガスの供給を停止するステップとを具備する。
プラズマ中で負イオンになり易い酸素ガスを製膜初期に導入することで、プラズマ中により容易に負イオンを生成できるので、プラズマ電位を低下させることができ、それにより基板(34)面へのイオン衝撃を低減させることができる。これは、製膜初期に特にイオン衝撃を低減することができる。そして、高速で高品質の太陽電池用のシリコン系膜を製膜することが可能となる。ここで、シラン系ガスとは、モノシラン、ジシラン、或いはそれらに結合する水素の一部を他元素に置換したガスに例示される。シリコン膜としては、太陽電池のp層、i層、n層に用いる(微)結晶シリコン膜、アモルファスシリコン膜に例示される。
【0017】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、そのプラズマ中のその負イオンの濃度が18%以上48%以下の範囲で存在する。
本発明の参考例では、プラズマ中のその負イオンの濃度をこの範囲にすることで、高速で高品質の太陽電池用のシリコン膜を製膜することが可能となる。
【0018】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、その製膜ガスの圧力が280Pa以上1500Pa以下の範囲である。
本発明の参考例では、その製膜ガスの圧力をこの範囲にすることで、負イオン濃度を上記範囲にでき、高速で高品質の太陽電池用のシリコン膜を製膜することが可能となる。
【0019】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、そのプラズマのプラズマ電位が3V以上20V以下の範囲である。
本発明の参考例では、そのプラズマのプラズマ電位をこの範囲にすることで、負イオン濃度を上記範囲にでき、高速で高品質の太陽電池用のシリコン膜を製膜することが可能となる。
【0020】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、その交流電力の周波数が20MHz以上120MHz以下の範囲である。
本発明の参考例では、その交流電力の周波数をこの範囲にすることで、プラズマ電位を上記範囲にでき、高速で高品質の太陽電池用のシリコン膜を製膜することが可能となる。
【0021】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、(a)ステップは、(a1)第1電極(33)と第2電極(32)との間に、そのシラン系ガスとその水素ガスとプラズマ化した場合に負イオンを作りやすい負性ガスとを含むその製膜ガスを供給するステップを備える。
本発明の参考例では、プラズマ中に所定の濃度(割合)の負イオンを積極的に発生させて、プラズマ電位を低下させることができ、それにより基板(34)面へのイオン衝撃を低減させることができる。そして、高速で高品質の太陽電池用のシリコン系膜を製膜することが可能となる。
【0022】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、その負性ガスは、ハロゲンガス及びハロゲンを含むガスの少なくとも一つを含む。
ハロゲンガス等は、プラズマ中に負イオンを形成しやすい点で好ましい。
【0023】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、そのハロゲンガスは、Cl及びFの少なくとも一方を含む。
ハロゲンガスとしては、Cl及びFがその特性やコストの面からより好ましい。
【0024】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、Cl及びFガスの少なくとも一方の流量は、シラン系ガスと水素ガスの合計流量に対して0.5%以上5.5%以下の範囲である。
この濃度の範囲にすることで、高速で高品質の太陽電池用のシリコン膜を製膜することができる。
【0025】
上記のシリコン膜の製造方法の参考例において、そのハロゲンを含むガスハロゲンガスは、SF、SiF及びNFの少なくとも一方を含む。
ハロゲンを含むガスとしては、SF、SiF及びNFがその特性やコストの面からより好ましい。
【0026】
上記のシリコン膜の製造方法において、酸素ガスの流量は、シラン系ガスと水素ガスの合計流量に対して0.4%以上1.5%以下の範囲である。
この濃度の範囲にすることで、高速で高品質の太陽電池用のシリコン膜を製膜することができる。
【0027】
本発明のシリコン膜の製造方法は、(a)基板(34)が設置された第1電極(33)と前記第1電極(33)から離れて設置された第2電極(32)との間に、シラン系ガスと水素ガスとを含む製膜ガス(51)を供給するステップと、(b)前記第1電極(33)と前記第2電極(32)との間に交流電力を印加し、前記プラズマに所定の範囲のエネルギーを有する電子ビームを照射して、所定の範囲の割合で負イオンを含むプラズマを発生させながら、前記基板(34)上にシリコン系の膜を製膜するステップとを具備する。
本発明では、プラズマ中により容易に負イオンを生成できるので、プラズマ電位を低下させることができ、それにより基板(34)面へのイオン衝撃を低減させることができる。そして、高速で高品質の太陽電池用のシリコン系膜を製膜することが可能となる。
【0028】
上記のシリコン膜の製造方法において、第1電極(33)と第2電極(32)との距離は、4mm以上10mm以下である。
本発明では、このような電極間隔が小さい場合でも、基板(34)面へのイオン衝撃を低減させることができる。そして、高速で高品質の太陽電池用のシリコン系膜を製膜することが可能となる。
【0029】
上記課題を解決するために本発明の太陽電池の製造方法は、(c)基板(2)上に電極層(4)を形成するステップと、(d)電極層(4)上に複数の半導体層(21(a)、22(a)、23(a))を有する光電変換層(20)を形成するステップとを具備する。ここで、複数の半導体層(21(a)、22(a)、23(a))のうちの少なくとも一層(22(a))は、上記のいずれか一項に記載のシリコン膜の製造方法を用いて形成される。
本発明では、プラズマ中に所定の割合で負イオンを発生させるので、高速で高品質の太陽電池用のシリコン膜を製膜することができる。それにより、高効率の太陽電池を生産性よく生産することが可能となる。ここで、シリコン膜としては、太陽電池のp層、i層、n層に用いる(微)結晶シリコン膜、アモルファスシリコン膜に例示される。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、シリコン膜の製膜時において、基板表面へのHラジカルの供給量を減らさずに、プラズマから基板表面へ入射する不要なイオンの量及びエネルギーを低減することができる。そして、膜質を落とさずにシリコン膜の製膜速度を上げ、高効率の微結晶型太陽電池を生産性よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(第1の参考例)
以下、本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の第1の参考例について、添付図面を参照して説明する。
【0032】
まず、本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の第1の参考例において用いるプラズマ化学蒸着装置について説明する。
図2は、プラズマ化学蒸着装置の構成の一例を示す図である。プラズマ化学蒸着装置30は、ガス排出管39を有する真空容器31、基板34を支持可能な基板ホルダー33、ラダー電極32とガス供給部38とシールド板40を有する製膜ユニット35、マッチングボックス36、及びVHF電源37を備える。実験用に、ラングミュアプローブ41が、基板34とラダー電極32との間に形成されるプラズマの状態を計測可能なように設置されていても良い。
【0033】
真空容器31は、製膜を行う室であり、その圧力、雰囲気を調整可能である。圧力は、ガス供給部38から供給される製膜ガス51と、ガス排出管39の先に接続された圧力調整バルブ(図示されず)及び真空ポンプ(図示されず)により排気される排出ガス52とのバランスにより調節される。雰囲気は、ガス供給部38から供給される製膜ガス51により調整される。
【0034】
基板ホルダー33は、真空容器31内に、ラダー電極32との間で所定の電極間隔を有するように保持される。製膜時にラダー電極32に対向する電極として機能する。基板ホルダー33は、製膜を行う基板34(基板2)を支持する。
【0035】
ラダー電極32は、製膜時に基板ホルダー33に対向する電極として機能する。平行に並んだ一対の横方向電極棒との間に、はしご状に平行に複数の縦方向電極棒が設けられた構造を有する。ラダー電極の技術は、例えば、特開平4−236781号公報や、特開平11−111622号公報、特開2002−322563号公報などに開示されている。それらは、高高周波(30〜800MHz)の電源を用いて、大面積の基板上に成膜を行う場合、特に有用である。製膜する膜の面積が小さい場合には、ラダー電極32に替えて通常の平板の電極を用いることができる。
【0036】
ガス供給部38は、ラダー電極32の下部からその隙間を介して、ラダー電極32と基板ホルダー33(基板34)との間の空間へ製膜ガス51を供給する。シールド板40は、製膜ガス51を効率良く上記空間へ向けて流すようにする。
【0037】
VHF電源37は、出力側のインピーダンスの整合をとるマッチングボックス36を介して、ラダー電極32へ高高周波(例示:60MHz)の交流電力を供給する。それにより、ラダー電極32と基板ホルダー33(基板34)との間の空間において、製膜ガス51のプラズマが形成される。
【0038】
ラングミュアプローブ41は、プローブ法によるプラズマ状態の計測を行うための測定子である。ラングミュアプローブ41を用いる場合、基板34及び基板ホルダー33にちょうどラングミュアプローブ41が入る程度の小孔を開け、基板間隔が狭い場合でもプラズマの計測が出来るようにしている。
【0039】
次に、上記プラズマ化学蒸着装置を用いる本参考例のシリコン膜の製造方法でのプラズマの状態について説明する。
図3は、製膜時の圧力とプラズマの電子温度との関係を示すグラフである。縦軸はプラズマの電子温度(eV)、横軸は製膜時の圧力(Pa)である。黒丸は電極間隔が5mmの場合、白丸は34mmの場合を示す。プラズマの電子温度は、プローブ法を用いて計測されている。図3に示すように、電極間隔を狭くした場合、電極間隔が広い場合と比較して電子温度は高くなる。その傾向は、圧力を高くしても変わらない。
【0040】
ただし、電子温度は以下のようにして求めている。高周波電界が存在する場合、プラズマの空間電位が高周波電界に追随して変動する。そのため、ラングミュアプローブ41で計測した電流−電圧特性は変形され、正しいプラズマパラメータを表わさない場合がある。ここでは、プローブ回路にフィルターを挿入し、電流−電圧曲線を計測した。電子温度はエネルギー分布をMaxwell分布と仮定して求めた。このようにして計測された実際のプローブの電流−電圧特性は、特性に歪みもなく、また指数関数にほぼフィッティングできることから、電子エネルギー分布はMaxwell分布から大きく逸脱していないことが確認できている。
【0041】
図4は、製膜時の圧力とプラズマのプラズマ電位との関係を示すグラフである。縦軸はプラズマ電位(V)、横軸は製膜時の圧力(Pa)である。白四角は理論値、黒丸は実験値を示す。いずれも電極間隔が5mmの場合を示す。図4に示すように、計測された電子温度(図3、黒丸)に基づいてシース理論を用いて求められる理論値と異なり、実験により求めた実験値は圧力の増加に伴い大きく低下していることが分かる(その後、少なくとも500Paまでは単調減少)。このプラズマで形成される微結晶のシリコン膜の品質は、280Pa以上の圧力(プラズマ電位20V以下)で高品質になっていた。これらのことから、プラズマ電位の低下と、製膜時の圧力の増加に伴う微結晶の高品質化とは相関があることが分かる。すなわち、従来考えられていたモデルとは全く現象が異なることを見出した。
【0042】
ただし、文献(H.Amemiya,J.Phys.D,23(1990)p999、又は、N.St.Brithwaite and J.E.Allen,J.Phys.D,21(1988)1733)を参照して、プラズマ電位の理論値は下記式にて求めている。
【0043】
【数1】

κ:ボルツマン定数、q:電子の電荷、e:素電荷、me:電子の質量、mi:イオンの質量、Te:電子温度
【0044】
ここでVは、壁(電極や基板)との電位差で、プラズマ電位をVp、基板の電位をVsとするとV=Vp−Vsとなる。このように、実際にはVとプラズマ電位は違うが、基板は接地されているのでVs=0とし、V=Vpとする。
【0045】
図5は、製膜時の圧力とプラズマ中の負(マイナス)イオンの割合との関係を示すグラフである。縦軸は負イオンの割合(%)、横軸は製膜時の圧力(Pa)である。電極間隔が5mmの場合を示す。図5に示すように、250Pa以上の圧力で負イオンが増加し始め、280Pa以上で負イオンの割合が18%以上になっている(その後、少なくとも500Paまでは単調増加)。従って、図4で示す現象は、図5に示すような負イオンの割合が増加しているために起こっていることが見出された。
【0046】
ここで、プラズマ中の負(マイナス)イオンについて、負イオン濃度、負イオン密度の導出方法を説明する。一つの方法は、プローブ特性のイオン飽和電流と電子飽和電流から求める方法である。このとき、負イオン密度N及び負イオン濃度Cは、下式で表される。
【0047】
【数2】

【0048】
ここで、Nはプローブ特性のイオン飽和電流から求めたプラズマ密度である。Nは電子飽和電流から求めた電子密度を表している。
【0049】
また、別の方法は、以下の方法である。Shindo等(M.Shindo,S.Hiejima,Y.Ueda,S.Kawakami,N,Ishii and Y.Kawai、Thin Solid Films,435(1999)p130)によれば、(a)プラズマの電気的中性条件、(b)負イオンの有無によりシース厚さがほとんど変わらない、と仮定した場合、以下の式が成り立つ。
【0050】
【数3】

【0051】
ここで、Iisはイオン飽和電流、Iesは電子飽和電流、mはイオンの質量、Teは電子温度をそれぞれ表す。この式では、反応性プラズマにおける負イオン密度Nを、アルゴンプラズマ(Ar)、反応性ガスプラズマ(X)におけるイオン飽和電流Iis(Ar)、Iis(X)、電子飽和電流Ies(Ar)、Ies(X)をそれぞれ求めることにより計算することができる。この式を変形すると負イオン濃度Cは以下のようになる。
【0052】
【数4】

【0053】
微結晶Siの製膜条件は、水素で大量に希釈されたガスを使用するため、XはHプラズマとなる。負イオン濃度、負イオン密度は、このアプローチの異なる2つの方法のいずれかにより求めることができる。必要に応じて、両者の比較による評価の確認を行っている。
【0054】
本参考例では、プラズマ中に負イオンを発生させてプラズマ電位を低下させることで、イオンがプラズマから基板へ向かうことを抑制し、基板上へのイオンダメージを低減する。そして、より高速で高品質の微結晶Siを成長させることができる。それにより、高効率の微結晶型太陽電池を生産性よく生産することが可能となる。
【0055】
次に、本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の第1の参考例について説明する。図6は、シングル型の微結晶Si型の太陽電池の構造を示す断面図である。ここでは、図1に示したa−Si/微結晶Si積層(タンデム)型の太陽電池1のうち、微結晶Si型の太陽電池の構成を有する太陽電池について説明する。ただし、a−Si/微結晶Si積層(タンデム)型の太陽電池1に対しても適用可能である。
【0056】
最初に、所定の洗浄を行ったガラス製の基板2上に、酸化スズに例示される透明電極4を、スパッタ装置で製膜する。透明電極4は、入射した光を太陽電池内に閉じ込め、それらを有効に使用することができるように、凹凸が設けられている。次に、微結晶Siの製膜条件のような水素による還元雰囲気では、酸化スズは還元され黒化してしまう。そのため、これを防止するために、この透明電極4上に、Gaをドーピングした10nmの酸化亜鉛8をスパッタ装置で製膜する。
【0057】
続いて、透明電極4及び酸化亜鉛8を形成した基板2を上記のプラズマ化学蒸着装置30の基板ホルダー33に設置する。そして、この酸化亜鉛8の上に、微結晶p層21a、微結晶i層22a及び微結晶n層23aを有する光電変換層(発電膜)20aを形成する。ただし、各層の製膜前には装置内の圧力が5×10−5Pa以下になるまで真空ポンプで排気し、基板温度を所定温度(180℃ないし200℃)とする。電極間隔は5mmとする。電極間隔は、4mm以上10mm以下が好ましい。より好ましくは、4mm以上〜7mm以下である。短すぎると放電が不安定となり、離れすぎると製膜速度の増加が不十分になるからである。単にイオン衝撃を問題にするのであれば、電極間隔に特に制限は無い。投入電力は、数十〜数W/cmである。ただし、ラダー電極34に例示される棒を組み合わせた電極の電極面積は、その電極の基板ホルダー33への投影面積を用いる。
【0058】
微結晶p層21aを形成するときは、製膜ガス51:SiH、H、希釈率(=流量比):H/SiH=100倍、ドーピングガス:Bとする。微結晶i層22aを形成するときは、製膜ガス51:SiH、H、希釈率:H/SiH=30倍とする。微結晶n層23aを形成するときは、製膜ガス51:SiH、H、希釈率:H/SiH=45倍、ドーピングガス:PHとする。これらの製膜ガス51を基板ホルダー33とラダー電極32との間に供給し、VHF電源37により基板ホルダー33とラダー電極32との間に交流電力を印加する。これにより、各層のシリコン膜が形成される。各層の膜厚は、微結晶p層21a:20nm、微結晶i層22a:1.5μm、微結晶n層23a:30nmとした。なお、モノシラン以外のシラン系のガスを用いることも可能である。
【0059】
この光電変換層(発電膜)20a上に、Gaドープされた酸化亜鉛9と銀に例示される金属電極9とを、スパッタ装置でこの順に製膜する。各層の膜厚は、酸化亜鉛9:80nm、金属電極9:300nmである。
【0060】
以上のプロセスにより、シングル型の微結晶Si型の太陽電池1aが製造される。
【0061】
ただし、光電変換層20aの微結晶i層22aを製膜する際、本参考例のシリコン膜の製造方法を適用した。具体的には、製膜時のプラズマ中の負イオン濃度を電極間距離、製膜時の圧力、プラズマ励起周波数を調整することに制御する。
【0062】
図4及び図5から、負イオンが増加するのは圧力280Pa以上の場合であり、プラズマ電位は20V以下になっている。
【0063】
図7は、製膜時のプラズマ励起周波数とプラズマ電位との関係を示すグラフである。縦軸はプラズマ電位(V)、横軸はプラズマ励起周波数(MHz:VHF電源37の周波数)である。製膜圧力350Pa、電極間隔が5mmの場合を示す。図7に示すように、プラズマ電位が20V以下になるのは、プラズマ励起周波数が20MHz以上の場合であることが分かる。プラズマ電位は、その後少なくとも60MHzまでは単調減少)。従って、プラズマ励起周波数は、20MHz以上が好ましいことが分かる。上限はプラズマの特性上は特に制限は無いが、周波数が高すぎると給電ロスで電力供給が不安定となるため、概ね120MHz以下が好ましい。
【0064】
図8は、変換効率とプラズマ中の負イオンの割合との関係を示すグラフである。縦軸は太陽電池1aの変換効率(%)、横軸は負イオン濃度(%)である。ここでは、微結晶i層22aの製膜速度をできるだけ1.5nm/s前後になるように調整している。従来、負イオン濃度は10%未満であり、このような高速製膜では変換効率は7%以下と低かった。しかし、負イオンの濃度が高くなると効率が向上し、負イオン濃度が30%程度で8.9%の効率が得られた。8%以上の変換効率を目標と考えると、図8から負イオン濃度は18%以上が好ましい。上限としては、図から概ね55%程度と見積もられる。
【0065】
図9は、図8の場合の実際の製膜速度とプラズマ中の負イオンの割合との関係を示すグラフである。縦軸は製膜速度(nm/sec)、横軸は負イオン濃度(%)である。負イオン濃度が30%を超えると、プラズマ中の電子密度の低下が大きくなる。そのため、図9で示すように、電子衝突によるガス分解が低下し、製膜速度が徐々に低下したと考えられる。1.4nm/sec以上の製膜速度を目標とするならば、図9から負イオン濃度は35%以下が好ましい。
【0066】
以上から、電極間距離:5mmの場合、変換効率との関係(図8)から、負イオン濃度は18%以上55%以下が好ましい。上記負イオン濃度の好ましい範囲と、圧力との関係(図5)から、圧力は280Pa以上が好ましい。上限としては、負イオンの割合からは制限は無いが、膜厚分布や放電の制御性の面から1500Pa以下が好ましい。より好ましくは800Pa以下である。上記負イオン濃度の好ましい範囲と、プラズマ電位との関係(図4)から、プラズマ電位は2V以上、20V以下が好ましい。上記プラズマ電位の好ましい範囲とプラズマ励起周波数との関係(図7)とから、プラズマ励起周波数は20MHz以上が好ましく、給電ロスから120MHz以下が好ましい。
【0067】
更に、1.4nm/sec以上の製膜速度を目標とするならば、図9から負イオン濃度は18%以上35%以下が好ましい。そのとき、電極間距離:5mmの場合、変換効率との関係(図8)から、負イオン濃度は18%以上35%以下が好ましい。上記負イオン濃度の好ましい範囲と、圧力との関係(図5)から、圧力は280Pa以上、400Pa以下が好ましい。上記負イオン濃度の好ましい範囲と、プラズマ電位との関係(図4)から、プラズマ電位は6V以上、20V以下が好ましい。上記プラズマ電位の好ましい範囲とプラズマ励起周波数との関係(図7)とから、プラズマ励起周波数は20MHz以上が好ましく、給電ロスから120MHz以下が好ましい。
【0068】
シングル型の微結晶Si型の太陽電池1aにて8.9%が得られた条件で、本参考例のシリコン膜の製造方法を、図1に示すa−Si/微結晶Si積層型の太陽電池1のボトムセルである微結晶i層22に適用した。その結果、トップセルi型a−Si:H層13:290nm、ボトムセル微結晶i層22:2.0μmの条件にて、太陽電池の変換効率として初期13.2%が得られた。このように負イオンを発生させることにより従来と比べ高速製膜条件においても高い変換効率が得られる。
【0069】
本参考例によれば、光電変換層を構成する微結晶i層の微結晶シリコン膜を製膜する際、負イオンを発生させて電子温度を上げプラズマ電位を低下することにより、ガスの分解効率を高め且つ基板表面へのイオンダメージを低減できる結果、従来と比べて高速製膜条件においても従来に比べ変換効率が高い微結晶シリコン太陽電池を提供できる。
【0070】
また、本参考例によれば、a−Si/微結晶Si積層型太陽電池において、アモルファスi層の数倍の厚さが必要である微結晶i層をアモルファスi層と同程度の製膜時間で製造できるようになるので、従来と比べ生産性を向上しえるa−Si/微結晶シリコン積層型太陽電池を提供できる。
【0071】
(第2の参考例)
以下、本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の第2の参考例について、添付図面を参照して説明する。
【0072】
本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の第2の参考例において用いるプラズマ化学蒸着装置については、第1の参考例と同じであるのでその説明を省略する。
【0073】
本参考例のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法は、上記プラズマ化学蒸着装置でプラズマを生成する際、プラズマ化した場合に負イオンを作りやすい負性ガスを製膜ガス51中に含ませる点で、第1の参考例と異なる。これにより、プラズマ中に負イオンを発生させ易くなり、プラズマ電位を低下させ易くなる。その結果、イオンがプラズマから基板へ向かうことを抑制し、基板上へのイオンダメージを低減することが可能となる。そして、より高速で高品質の微結晶Siを成長せしめ、ひいては高効率の微結晶型太陽電池を生産性よく生産することが可能となる。
【0074】
プラズマ化した場合に負イオンを作りやすい負性ガスとしては、ハロゲンガス、ハロゲンを含むガス、酸素ガス、又はこれらの組み合わせを含むガスに例示される。ハロゲンガスは、Cl及びF、又はこれらの組み合わせに例示される。例えば、FやClはプラズマ分解されて負イオン(FやCl)を発生する。ハロゲンを含むガスハロゲンガスは、SF、SiF及びNF、又はこれらの組み合わせに例示される。
【0075】
次に、本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の第2の参考例について説明する。ここでは、図6に示すシングル型の微結晶Si型の太陽電池1aについて説明するが、図1に示したa−Si/微結晶Si積層(タンデム)型の太陽電池1に対しても適用可能である。
【0076】
プラズマ化学蒸着装置30で光電変換層20aの微結晶i層22aを製膜する際、Fを添加した製膜ガス51を用いた。すなわち、微結晶i層22aを形成するときは、製膜ガス51:SiH、H、F、希釈率:H/SiH=30倍、F流量/(SiH+H)流量×100=0〜10%とする。この場合、電極間距離が5mmであること以外の条件は、通常の製膜条件と同様である。
【0077】
その他の製造方法については、第1の参考例と同様であるのでその説明を省略する。
【0078】
図10は、変換効率と製膜ガスにおけるF(フッ素ガス)の濃度(F流量/(SiH+H)流量×100)との関係を示す図である。縦軸は太陽電池1aの変換効率(%)を示し、横軸は製膜ガスにおけるF(フッ素ガス)の濃度を示す。
その結果、図10に示すように、Fを添加しない場合(0%)に比べ、Fを添加すると徐々に効率が向上する。そして、SiH+Hに対して5%のFを添加した時に効率が最大の9.0%となった。このときの製膜速度は1.5nm/s、微結晶i層22aの膜厚は上述のように1.5μmであることから、従来に比較して非常に高い効率が得られた。このように、適正なFを添加することにより、従来と比べ高速製膜条件においても高い変換効率が得られる。8%以上の変換効率を目標と考えると、図10からSiH+Hに対するFの濃度は0.5%以上5.5%以下が好ましい。これは、Clを用いた場合もほぼ同様であった。
【0079】
シングル型の微結晶Si型の太陽電池1aにて9.0%が得られた条件で、本参考例のシリコン膜の製造方法を、図1に示すa−Si/微結晶Si積層型の太陽電池1のボトムセルである微結晶i層22に適用した。その結果、トップセルi型a−Si:H層13:290nm、ボトムセル微結晶i層22:2.0μmの条件にて、太陽電池の変換効率として初期13.2%が得られた。このように負イオンを発生させることにより従来と比べ高速製膜条件においても高い変換効率が得られる。
【0080】
この場合も、第1の参考例と同様の効果を得ることができる。加えて、負性ガスを製膜ガスに導入することで、負イオン濃度の制御をより容易に行うことが可能となる。
【0081】
(実施の形態)
以下、本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0082】
本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の実施の形態において用いるプラズマ化学蒸着装置については、第1の参考例と同じであるのでその説明を省略する。
【0083】
本実施の形態のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法は、上記プラズマ化学蒸着装置でプラズマを生成する際、プラズマ化した場合に負イオンを作りやすい負性ガスを製膜ガス51中に含ませる点で、第1の参考例と異なる。加えて、負性ガスとして酸素ガスを用いる点で第2の参考例と異なる。酸素ガスは、第2の参考例で説明したような負性ガスの効果を有する一方で、酸化作用により膜が酸化されて膜質が悪くなる。ただし、酸化作用のため微結晶i層22aの製膜の全工程を通して使用することはできないが、微結晶で重要となる初期結晶核の形成までの工程には使用できる。従って、本実施の形態では、微結晶i層22aの初期結晶核の形成までの工程において、製膜ガス51中に負性ガスを含ませる。これにより、微結晶i層22aの初期結晶核の形成の段階で、プラズマ中に負イオンを発生させ易くなり、イオンがプラズマから基板へ向かうことを抑制し、基板上へのイオンダメージを低減することが可能となる。従って、初期結晶核の形成が促進され、良質な初期結晶核を形成することができる。そして、より高速で高品質の微結晶Siを成長せしめ、ひいては高効率の微結晶型太陽電池を生産性よく生産することが可能となる。
【0084】
次に、本発明のシリコン膜の製造方法及び太陽電池の製造方法の実施の形態について説明する。ここでは、図6に示すシングル型の微結晶Si型の太陽電池1aについて説明するが、図1に示したa−Si/微結晶Si積層(タンデム)型の太陽電池1に対しても適用可能である。
【0085】
プラズマ化学蒸着装置30で光電変換層20aの微結晶i層22aを製膜する際、製膜初期の段階にのみ酸素ガスを添加した製膜ガス51を用いた。すなわち、微結晶i層22aを形成するときは、製膜初期の段階において製膜ガス51:SiH、H、O、希釈率:H/SiH=30倍、O流量/(SiH+H)流量×100=0〜3%とする。その後、製膜ガス51への酸素ガスの添加を停止し、製膜ガス51:SiH、Hとする。この場合、電極間距離が5mmであること以外の条件は、通常の製膜条件と同様である。
【0086】
その他の製造方法については、第1の参考例と同様であるのでその説明を省略する。
【0087】
図11は、変換効率と酸素ガスを添加した微結晶i層の膜厚との関係を示すグラフである。縦軸は変換効率(%)を示し、横軸は酸素ガスを添加した微結晶i層の膜厚(nm)を示す。ここでは、添加する酸素の濃度をSiH+Hの0.5%、微結晶i層22aの全膜厚を1.5μmとした。図11に示すように、4nmまでは酸素ガス添加の膜厚を厚くすると効率が向上し、酸素ガスを添加した微結晶i層の膜厚4nmで、効率が最大の8.2%となった。8%以上の変換効率を目標と考えると、図11から酸素ガスを添加した微結晶i層の膜厚は2nm以上6nm以下が好ましい
【0088】
図12は、変換効率と製膜ガスにおける酸素ガスの濃度との関係を示すグラフである。縦軸は太陽電池1a変換効率(%)を示し、横軸は製膜ガスにおける酸素ガスの濃度(O流量/(SiH+H)流量×100)を示す。ここでは、酸素ガスを添加した微結晶i層の膜厚を4nmに固定した。図12に示すように、酸素ガス濃度が1%で最大の変換効率8.6%が得られた。このように膜厚を適正に調整することにより初期核の形成を促進し負イオンによるプラズマ制御の効果を得られ、従来と比べ高速製膜条件においても高い変換効率が得られる。8%以上の変換効率を目標と考えると、図12からSiH+Hに対する酸素ガスの濃度は0.4%以上1.5%以下が好ましい。
【0089】
シングル型の微結晶Si型の太陽電池1aにて8.6%が得られた条件で、本発明のシリコン膜の製造方法を、図1に示すa−Si/微結晶Si積層型の太陽電池1のボトムセルである微結晶i層22に適用した。その結果、トップセルi型a−Si:H層13:290nm、ボトムセル微結晶i層22:2.0μmの条件にて、太陽電池の変換効率として初期13.0%が得られた。このように負イオンを発生させることにより従来と比べ高速製膜条件においても高い変換効率が得られる。
【0090】
この場合も、第1の参考例と同様の効果を得ることができる。加えて、負性ガスを製膜ガスに導入することで、負イオン濃度の制御をより容易に行うことが可能となる。
【0091】
本発明において、負イオンを発生させる方法としては、水素の電子付着断面積に合わせて電子ビームをプラズマに投入する方法がある。すなわち、プラズマに向かって、所定の範囲のエネルギーを有する電子ビームを照射する方法である。例えば、真空容器31の側面に電子ビーム照射装置(図示されず)を設置し、基板ホルダー33とラダー電極32との間に形成されるプラズマへ電子ビーム照射装置から所定のエネルギーの電子ビームを照射することで実施できる。
【0092】
図13は、電子付着断面積と電子エネルギーとの関係を示す図である。縦軸は電子付着断面積(×10−20cm)、横軸は電子ビーム中の電子のエネルギーを示す。ここで、電子付着断面積は、分子やラジカルやイオンに電子が取り込まれ(捕獲され、付着して)負イオンが生成する反応の反応断面積である。この図から、電子により負イオンを発生させる場合、電子付着断面積が0.8×10−20cm以上であることが好ましい場合、電子ビームのエネルギーは、8.6〜12.1eV又は13.2eV以上のエネルギーが好ましい。それ以外の範囲では、水素ガスの電子付着断面積が小さすぎ負イオンが増え難い。上限は特に無いが、あまり高すぎるとプラズマが不安定になり膜の品質が低下することから、他の製膜条件で決定される。
【0093】
この場合も、第1の参考例と同様の効果を得ることができる。加えて、電子ビームを製膜ガスに照射することで、負イオン濃度の制御をより容易に行うことが可能となる。
【0094】
以上詳述したように本発明によれば、光電変換層を構成する微結晶i層のシリコン膜を製膜する際に負イオンを発生させて電子温度を上げプラズマ電位を低下することによりガスの分解効率を高め且つ基板製膜面へのイオンダメージを低減できる結果、従来と比べて高速製膜条件においても従来に比べ変換効率が高い微結晶シリコン太陽電池を製造することが可能となる。
また、本発明によれば、a−Si/微結晶シリコン積層型太陽電池においてアモルファスi層の数倍の厚さが必要である微結晶i層をアモルファスi層と同程度の製膜時間で製造できるようになるので、従来と比べ生産性を向上しえるa−Si/微結晶シリコン積層型太陽電池を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、タンデム型の太陽電池の構造を示す断面図である。
【図2】図2は、プラズマ化学蒸着装置の構成の一例を示す図である。
【図3】図3は、製膜時の圧力とプラズマの電子温度との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、製膜時の圧力とプラズマのプラズマ電位との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、製膜時の圧力とプラズマ中の負イオンの割合との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、シングル型の微結晶Si型の太陽電池の構造を示す断面図である。
【図7】図7は、製膜時のプラズマ励起周波数とプラズマ電位との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、変換効率とプラズマ中の負イオンの割合との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、実際の製膜速度とプラズマ中の負イオンの割合との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、変換効率と製膜ガスにおけるFの濃度との関係を示す図である。
【図11】図11は、変換効率と酸素ガスを添加した微結晶i層の膜厚との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、変換効率と製膜ガスにおける酸素ガスの濃度との関係を示すグラフである。
【図13】図13は、電子付着断面積と電子エネルギーとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 太陽電池
2 (ガラス)基板
4 透明電極
6 金属電極
8、9 酸化亜鉛
10 a−Siセル
11 p型a−Si1−X:H層(p層)
12 i型a−Si1−Y:H層(i層)
13 i型a−Si:H層(i層)
14 n型a−Si:H層(n層)
20、20a 微結晶Siセル
21、21a 微結晶(シリコン)p層
22、22a 微結晶(シリコン)i層
23、23a 微結晶(シリコン)n層
30 プラズマ化学蒸着装置
31 真空容器
32 ラダー電極
33 基板ホルダー
34 基板
35 製膜ユニット
36 マッチングボックス
37 VHF電源
38 ガス供給部
40 シールド板
41 ラングミュアプローブ
51 製膜ガス
52 排出ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板が設置された第1電極と前記第1電極から離れて設置された第2電極との間に、シラン系ガスと水素ガスと酸素ガスとを含む製膜ガスを供給するステップと、
(b)前記第1電極と前記第2電極との間に交流電力を印加し、所定の範囲の割合で負イオンを含むプラズマを発生させながら、前記基板上にシリコン系の膜を製膜するステップと、前記製膜の途中で、前記製膜ガスのうち前記酸素ガスの供給を停止するステップと
を具備する
シリコン膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン膜の製造方法において、
前記酸素ガスの流量は、前記シラン系ガスと前記水素ガスの合計流量に対して0.4%以上1.5%以下の範囲である
シリコン膜の製造方法。
【請求項3】
(a)基板が設置された第1電極と前記第1電極から離れて設置された第2電極との間に、シラン系ガスと水素ガスとを含む製膜ガスを供給するステップと、
(b)前記第1電極と前記第2電極との間に交流電力を印加し、前記プラズマに所定の範囲のエネルギーを有する電子ビームを照射して、所定の範囲の割合で負イオンを含むプラズマを発生させながら、前記基板上にシリコン系の膜を製膜するステップと
を具備する
シリコン膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン膜の製造方法において、
前記第1電極と前記第2電極との距離は、4mm以上10mm以下である
シリコン膜の製造方法。
【請求項5】
(c)基板上に電極層を形成するステップと、
(d)前記電極層上に複数の半導体層を有する光電変換層を形成するステップと
を具備し、
前記複数の半導体層のうちの少なくとも一層は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン膜の製造方法を用いて形成される
太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−57636(P2009−57636A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251215(P2008−251215)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【分割の表示】特願2004−53749(P2004−53749)の分割
【原出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】