説明

シリル化治療剤を結合したインプラント

本発明は、その表面に治療剤分子が結合したインプラントを対象とする。治療剤分子は、インプラントに隣接、近接または付着している細胞と相互作用する。共有結合した治療剤分子は、インプラントに隣接している細胞に特有のpH変化または酵素によって、インプラント表面から放出されてもよい。好ましくは、共有結合した薬剤が細菌によってインプラント表面から放出される抗生物質を含み、このようにして、細菌のコロニー形成およびバイオフィルム形成のいずれの中心としても作用すると思われるインプラント上の部位に、抗生物質が確実に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリル化治療剤を結合したインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
(0001)インプラント付随感染は、異物、例えばステント、カテーテル、静脈送達用チューブ(ヒックマン(Hickman))、心臓弁、歯科インプラント、電気機械装具、補綴装具、グルコースセンサ、または整形外科用の釘およびピンなどの安定化装具などの挿入に伴う、今なお存在する破壊的な合併症である。このような感染の原因には、創傷時の異物の導入、手術室での微生物の導入、留置カテーテルへの定常的な接触、ならびにインプラントから遠位の部位で起こる血行性感染が挙げられる。一般に、インプラントに付随する感染は、現在のところ医薬による患者の全身治療を要する。
【0003】
(0002)衝撃外傷による開放骨折創も重大な健康上の問題であり、現場で外部固定した後、内部固定することにより骨折の治癒を促す必要がある。このような創傷では、感染する確率が非常に高い。感染抑制の長期処置およびその後の長引く治癒期間のために、能力障害が長期化し、治癒が不完全となる場合が多く、また医療費負担を生じることになる。
【0004】
(0003)一般に、開放骨折管理の原則として、緊急かつ適切な創傷壊死組織の切除(多くは数回に及ぶ)、不動化(多くは外部固定による)、抗生物質療法、および創傷の二次的閉鎖または被覆が挙げられる。釘の髄内挿入による徹底した骨折管理は、十分な軟組織の修復が起こるまで待つことになる。開放骨折全般および高エネルギー銃創は、迅速かつ精力的な洗浄および壊死組織切除によって、衣類や弾薬筒詰め綿などの微視的および巨視的な汚染物を除去する必要が特にある。しかし、迅速な外科的介入にもかかわらず、創傷が感染することも多い。動物試験では、60%もの創傷がこのような外傷の12時間以内に感染し得る。抗生物質の早期投与で、壊死組織切除の遅れに付随する細菌増殖を阻害すると同時に、その後の組織壊死を抑えることが重要である。
【0005】
(0004)整形外科処置後の補綴物周辺感染は極めて医療費が高く、長期の能力障害を起こす頻度が高い。滅菌技術が改良され、処理能力の高い多くの施設ではその罹患率が1%未満まで低下した。しかし、術後感染の症例はなお非常に多い。各症例には、最低限精力的な抗生物質治療と、多くは少なくとも1回の追加手術が必要である。遺憾ながら、このような感染に最も頻繁に罹る集団、すなわち老人、糖尿病患者および免疫不全患者にとって、このような手術は患者を大きなリスクに曝すことになる。
【0006】
(0005)一般に、インプラント付随感染には2つの原因がある。その第1の原因のいわゆる血行性感染は、体内の他の場所に存在する感染部によるものである。この感染由来の細菌は、部分的に被包され/部分的に一体化したインプラントの周りの保護された環境に日和見的に生息する。感染の第2の原因は、手術中の微生物の導入である。感染の導入を最小限に抑えるために、宇宙服、ろ過空気および層流区域の使用を含む非常に厳格な条件が、手術室のために開発されてきた。その上、手術室は抗生物質溶液で常に洗浄され、術後には全身的な予防処置がなされる。
【0007】
(0006)病因にかかわらず、抗生物質および/または手術により患者を精力的に治療することができる。補綴物周辺感染に対しては、手術には最低限、骨の壊死組織切除による付着微生物の除去、およびポリマー部品の取替えが含まれる。多くの状況では、空洞を安定化するための治療用量の抗生物質を送達可能なスペーサー・ブロックの配置、また
は補綴物を固定するための抗生物質放出性セメントの使用を含む、もっと精力的な処置を採用する。通常、このような措置は骨幹の損傷を起こす。すなわち、難治性感染では、関節固定または切断が必要となることもある。したがって、インプラント付随感染一般および特に整形外科性感染を制限または防止する手法は何であれ、医療費を削減し、苦痛を最小限に抑え、罹患患者の生活の質を改善することに関して多大な影響を及ぼすことができる。
【0008】
(0007)補綴物の外科的埋め込みにより、線維性血餅が形成され、その後炎症を様々な程度に伴った該異物の線維性被包が生じる。その結果、インプラントの90%もの部分が線維膜に包囲される。遺憾ながら、線維膜による被包によって、細菌繁殖に理想的な保護された微小環境ができる。細菌のコロニー形成の初期段階に、運動性・浮遊性細菌から不活性表面に付着する細菌への切り替えが起こる。細菌数が増加するにつれ、細菌は、大きなバイオフィルムを形成しうるコロニーへと組織化される。インプラント表面のこのような部位は、免疫系が十分に接近できず、また、抗生物質から化学的に保護されている。
【0009】
(0008)補綴物周辺感染の大多数は、共にグラム陽性細菌の黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌によって起こる。グラム陰性細菌による感染の頻度はもっと少ない。黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌のいずれも、手術室の環境中に普通に存在し、補綴物、ステントおよび他の生体材料製インプラントを伴った感染に関与する。いずれの細菌種も生体材料表面に付着し、急速に繁殖し、この増殖中にバイオフィルム前駆体の粘液を生成する。バイオフィルムの特徴をなす、多糖に包まれた細菌凝集塊の生成により、細菌表面への抗生物質の接近を抑制する処理過程が完了する。このバイオフィルムは多くの抗生物質を有効に固定化することにより、浸透して細菌と相互作用しうる治療剤分子の数を減少させることができる。黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌のいずれも、このようなバイオフィルムを形成する。バイオフィルムが形成された場合、補綴用構成要素の完全な除去および壊死組織の切除は外科的経験に掛かっている。コロニー形成の早期またはそれ以前の段階で抗生物質を放出できれば、バイオフィルムの形成を妨げ、感染を絶やすことにより、外科的介入の必要性を回避することができることは明らかである。
【0010】
(0009)関節形成術後の感染は、経済的かつ精神的な負担が厖大な破壊的合併症である。生体の排出系、空気層流、予防的抗生物質および他の多様な予防措置の使用を含む有効な手段によって、補綴物周辺感染の発生を低減することに成功してきた。このようなあらゆる手段にもかかわらず、1〜5%の関節置換術ではなおその後の深在性感染が発生している。その発生率は、糖尿病患者、遠隔位に感染歴のある患者、炎症性関節症患者などの「リスクを有する」一部の患者では遥かに高い。一般に、補綴物周辺感染の管理の原則には、特定の症例における緊急の壊死組織切除および洗浄、切除関節形成術、ならびに微生物を根絶させるまでの再埋め込みの遅延が挙げられる。複数回の手術に合わせた抗生物質による長期治療の結果、患者の能力障害の期間は長引く。このような外科的介入の成功には、多数の要因が影響する。最も重要な要因は、抗生物質を局所組織に送達する有効性、および周辺骨の造骨能に関するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(0010)インプラントを有する患者の感染予防/感染治療には、抗生物質による全身治療、および通常は手術直後の期間における抗生物質の制御放出可能なインプラントの使用を含み得る、頑健な措置が必要である。手術直後の期間、または埋め込みからさらに経過した時期のいずれであれ、感染が定着しつつある時期に活性化されうる抗生物質または他の治療剤分子のリザーバを保持するインプラントを提供することが望ましいと思われる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(0011)本発明は、抗生物質などの治療剤分子が表面に結合したインプラントであって、該インプラントに隣接、近接または付着している細胞と相互作用するインプラントである。治療剤分子は、酸不安定結合、インプラントと繋がれる治療剤分子との間に細胞膜可溶部を含む共有結合、リガンドとの高親和性結合を介して治療剤分子が担持されているリガンドとの共有結合、および酵素不安定結合のうち少なくともいずれかによってインプラント表面に結合していてもよい。酵素、酸、または細胞もしくはその活性を特徴付ける内因性リガンドが、インプラント上に結合した治療剤分子と相互作用してもよいし、または同分子を開裂してもよい。治療剤分子は、これらの細胞の増殖を改変するために使用されてもよく、インプラントは、これらの細胞の付着および成熟化を促進するために使用されてもよい。該表面修飾インプラントは、インプラントの細胞環境に応答して制御放出される治療剤分子のリザーバを提供する。
【0013】
(0012)本発明の1実施形態は、哺乳動物用のインプラントである。該インプラントは、表面の少なくとも一部が有機シランでシリル化された生体適合性表面を有する。1または複数のこれらの有機シランが治療剤分子に結合しており、該治療剤分子がインプラント表面に隣接する細胞と相互作用してもよい。有機シランと治療剤分子との結合は、共有結合であってもよいし、酸不安定結合または酵素不安定結合を含むことによって細胞が産生する酵素または酸との相互作用により有機シランから治療剤分子が放出されるようになっていてもよい。また、治療剤分子が有機シランに競合的に結合し、細胞の内因性リガンドとの交換によって放出されてもよい。治療剤分子には、ペプチド、治療用オリゴヌクレオチド、抗生物質、細胞増殖因子、化学療法剤、血栓溶解剤、抗炎症剤、骨活性因子およびこれらの分子の組合せが挙げられる。インプラントに共有結合した治療剤分子は、血管形成を改変するため、またはインプラントに隣接する細胞もしくは組織における細菌増殖を減少させるために使用することができる。該生物活性表面は、疾患の危険性がなくなるまで活性を維持するのが好ましい。
【0014】
(0013)本発明の1実施形態は、表面が生体適合性の哺乳動物用インプラントである。該表面の少なくとも一部分は、有機シランでシリル化されており、1または複数の有機シランが連結基の第1末端に共有結合している。連結基の第2末端は、インプラント表面に隣接する細胞と相互作用する治療剤分子に結合してもよい。治療剤分子には、ペプチド、治療用オリゴヌクレオチド、抗生物質、細胞増殖因子、化学療法剤、抗血栓溶解剤、抗炎症剤、骨活性因子およびこれらの組合せが挙げられる。治療剤分子は、細胞膜または細胞壁に進入し、またはそこを通過することのできる連結基に結合していてもよい。有機シランに結合するリンカーには、アミノ酸、ペプチド、またはオリゴ(エチレングリコール)などのスペーサーが挙げられる。リンカーは、酸不安定部分であるメチルマレアミド、ヒドラゾンおよびその組合せを含んでもよい。共有結合している治療剤分子が細胞性の酸または酵素によりリンカーから不安定化されることにより、治療剤分子がインプラントから放出されて細胞と相互作用し、好ましくは、インプラント上への細胞の付着および成熟化を促進するために使用され得るペプチドが該表面に共有結合したままとなる。治療剤分子がリンカーに競合的に結合していてもよく、細胞の内因性リガンドと交換されてもよい。インプラントに結合した治療剤分子は、血管形成を改変するため、またはインプラントに隣接して細菌が増殖するのを低減させるために、細胞と相互作用させてもよい。
【0015】
(0014)本発明の1実施形態は、1または複数の連結基の第1終端がシリル化インプラント表面に共有結合した、哺乳動物用インプラントである。1または複数の連結基の第2(または反対側の)終端は、インプラントの表面に隣接する細胞との相互作用のために使用される抗生物質と結合することができる。インプラント表面に結合する連結基は、好ましくはインテグリン結合性ペプチド配列を含み、リンカーから抗生物質分子を不安定
化することにより、骨細胞の付着および成熟化を促進するペプチドが提供されるように、酸または酵素に不安定な結合を含むことができる。抗生物質は、長くて柔軟な部分的に膜可溶性のリンカーを介してインプラントに繋がれてもよいし、または、抗生物質がリンカーに競合的に結合し、細胞の内因性リガンドとの競合的結合によって放出されてもよい。抗生物質は、グラム陰性細菌に対して活性でもよく、グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の双方に対して活性でもよいが、グラム陽性細菌に対して活性であることが好ましい。抗生物質には、ミノサイクリン、チゲサイクリン、グリシルサイクリン、バンコマイシンとその類縁体、リファンピンとその類縁体、ゲンタマイシンとその類縁体、またはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0016】
(0015)本発明の1実施形態は、哺乳動物を治療する方法であって、哺乳動物の骨折部、動脈または体腔などの部位にインプラントを挿入することを含む方法である。該インプラントは、有機シランでシリル化され、1または複数の該有機シランが治療剤分子に結合している生体適合性表面を有する。治療剤分子は、哺乳動物体内でインプラント表面に隣接する細胞と相互作用する。治療剤分子は、インプラントに結合したままで細胞と相互作用してもよいし、または、細胞由来の酸、酵素もしくはリガンドとの反応により有機シランから放出されてもよい。インプラント由来の治療剤分子により、インプラントの部位で細胞の増殖を改変することができる。インプラントが骨折固定中に骨統合を促進し、インプラントに結合した治療剤分子が骨折固定部位での細菌増殖を防止する抗生物質を含むことが好ましい。抗生物質を繋ぐことによる表面修飾インプラントは、哺乳動物患者(患畜)において細菌が初期にインプラント表面に付着した後の細菌増殖を阻害するために使用できる。
【0017】
(0016)好ましい実施形態では、抗生物質は、酵素的に分解するか、様々なpH条件下で不安定である部位または部分を有する有機シランリンカーによって、チタンなどの金属に共有結合または錯結合していてもよい。好ましい実施形態では、インプラント近傍の細菌またはインプラントに付着した細菌から放出される物質が抗生物質とリンカーとの結合を開裂させることにより、インプラントから局所濃度の高い抗生物質を放出し、感受性細菌を死滅させることができる。さらに一層好ましくは、インプラント上の表面修飾部が、骨芽細胞の増殖を維持しながら、細菌数を低下させる。
【0018】
(0017)これらの修飾インプラント表面の総合的活性は、細菌がインプラント表面にコロニー形成を始める感染の最も早い時期に、該表面が反応するように仕立てることができる。増殖中の細菌に伴う局所的pH変化によりリンカーから抗生物質を放出するか、細胞の酵素放出によるリンカーの開裂によって抗生物質を放出するか、または細胞の内因性リガンドにより連結部から競合的に抗生物質を放出することのできる表面に、付着細菌を遭遇させることが好ましい。あるいは、リンカーの膜溶解性により細胞が抗生物質を内部に取込んでもよい。内部に取込まれたこの抗生物質は、バンコマイシンの場合に当てはまるように、活性を示しながらも依然インプラントに結合していてもよい。あるいは、該生物活性分子を開裂する酵素が細菌壁中、細胞膜中、または細胞環境中に存在する場合は、細菌または細胞に関わる酵素が、リンカーから生物活性部分を開裂させることにより該生物活性部分を細胞内に放出させる。このような抗生物質の指向性放出により、付着細菌、すなわちバイオフィルム形成を開始するために表面にコロニー形成しつつある細菌の選択的殺滅が行われるであろう。
【0019】
(0018)修飾インプラント表面からの抗生物質などの治療剤分子の放出は、細菌のコロニー形成の関数として発生し、したがって、細菌の存在によって活性化されるまで、該生物活性部分は潜在したままである。そのような装具は、インプラント関連感染の予防のため、インプラント挿入直後においても、より長期の血行性感染予防のためにも使用できる。
【0020】
(0019)インプラント表面での細菌のコロニー形成を予防することにより、残存するあらゆる細菌は免疫系の対処により一掃可能となる。本発明のインプラント表面修飾は、その活性を必要としない条件下では不活性であり、細菌がインプラントを汚染し始めると活性となる。このことは、該表面が細菌付着により放出の合図を受けるまでは活性な抗生物質を放出しないという点で、現行技術より明らかに有利である。その上、このような修飾インプラントは、長期間安定であるように処方可能であり、したがって、二次感染のリスクを低減するための抗生物質の即時対応リザーバを備えることができる。本発明の表面修飾インプラントは、癌、再狭窄、骨喪失、血栓症などの状態の治療のために、表面に繋いだ他の治療剤分子を含むように作製されてもよい。
【0021】
(0020)本発明に対する1用途は、バイオフィルム形成により極めて頻繁に汚染されるインプラント表面、たとえば補綴物、骨折固定に用いる釘、および留置カテーテル表面などを抗生物質で修飾することである。該殺菌性表面を、危険性が相対的に低いインプラントの場合、たとえば、感染頻度は低いが、一旦感染すると破壊的結果をもたらし得る整形外科的関節形成およびステント配置などの場合に、インプラント表面を修飾するために使用することもできよう。
【0022】
(0021)本発明の実施形態の他の態様、特徴、便益および利点は、以下の説明、添付の請求の範囲、および付属図面を考慮して、ある程度明らかにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
(0032)本発明の組成物および方法について説明する前に、本発明は、記載した特定の分子、組成物、手順または処方に制限されず、変更可能であることを理解されたい。また、説明に用いる用語は、特定の例または実施形態についてのみ説明するためのものであって、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定できることも理解されたい。
【0024】
(0033)また、本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形である「1つの(「a」、「an」および「the」)」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数についての言及を含むことにも注意しなければならない。したがって、たとえば1つの(「a」)「細胞」と述べる場合は、1または複数の細胞、および当業者に既知のその相当物などへの言及である。別途規定しない限り、本明細書に用いるすべての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等のいずれの方法および材料も、本発明の実施形態の実施または試験に使用できるが、好ましい方法、装具および材料についてここでは説明する。本明細書に記載のすべての公表資料は援用される。本明細書中のいずれの事項も、本発明が先行発明による開示に先立つ資格がないと容認するものとみなすべきではない。
【0025】
(0034)本発明は、哺乳動物における骨折固定、補綴物、カテーテルまたはモニタ用センサに使用される埋め込み可能な基材の表面に治療剤分子を結合させることに関する。該治療剤分子は、修飾インプラント表面近傍の細胞による細胞活性に応答して同分子を放出する連結によってインプラント表面に結合させてもよい。
【0026】
(0035)治療剤分子がインプラントの表面に結合している、本発明の非限定的実施形態の概略図を図1に示してある。インプラント表面は、他の分子をインプラント表面にカップリングするために使用し得る有機基を有する有機シランを用いてシリル化される。該有機基には、1または複数のアミン基、エポキシド、カルボン酸、またはチオール基が挙げられるが、それらに限定されない。インプラントのシリル化は、図1の構造のTi−
O−Si(CH2)3NH部分(A)によって表される。連結基の第1の末端または終端は、有機シランの有機基に共有結合している。これは、図1に示すように、有機シランのアミノ末端と、ペプチド配列RGDS(配列番号2)部分(B)を形成するアミノ酸を含む細胞接着配列を備えた代表的リンカーのカルボキシル末端とのカップリングであってもよい。他のリンカーは、その他のアミノ酸や、サイズの異なる柔軟なオリゴエチレングリコール・スペーサーを含んでもよいし、または該連結基の終端に異なる反応性基を含んでもよい。代表的リンカーの第2または反対側の終端は、図1ではアミノ末端であるが他の基を使用してもよく、代表的な不安定結合に結合している。図1には、酸に不安定なメチルマレアミド連結部が部分(C)として示されている。他の不安定結合には、酵素に不安定な結合が挙げられるが、それに限らない。図1の代表的治療剤分子(D)であるチゲサイクリンは、酸不安定部分(C)に結合している。この治療剤分子は、インプラントの表面に隣接する細胞と相互作用する。図1はチタン製インプラント修飾表面の各部分(B)、(C)および(D)を例示しているが、本発明はこの構造に限らない。たとえば、セグメント(B)、(C)および(D)が1つの単位として相互に共有結合で連結しており、シリル化インプラント表面とカップリングされてもよい。あるいは、不安定基が有機シランと直接カップリングしてもよいし、治療剤分子が有機シランと直接共有結合して、この分子がインプラント表面をシリル化するために用いられてもよいであろう。
【0027】
(0036)本発明の実施形態では、治療剤分子がインプラントの表面に結合している。リンカーおよび有機シランをインプラント表面に接続する結合は、好ましくは共有結合である。治療剤分子は、共有結合または競合的結合により、リンカーまたは有機シランと結合してもよい。インプラント表面と治療剤分子との結合には、リンカーから治療用部分までの不安定結合が挙げられる。この結合は、酸や酵素を含むと思われる細胞分泌物によって開裂し得る。治療剤分子は、図5に概略的に示すように、分泌物を放出する細胞のすぐ近傍に、その細胞を活性の目標とするために放出されることになる。図5では抗生物質バンコマイシンが酸に不安定なリンカーを介してTi表面に繋がれている。リンカーから治療用部分までの不安定でない安定結合、たとえばオリゴ(エチレングリコール)鎖のスペーサーであれば、治療剤分子は細胞壁または細胞膜を通って進入または通過し、細胞空間内に達することが可能となろう。この場合、たとえば図6に概略的に示すような抗生物質バンコマイシンなどの治療性部分は、繋がれたまま活性を維持している。あるいは、治療剤分子は、インプラントの表面に共有結合している連結基または有機シランと、競合的に結合してもよい。次いで、連結基または有機シランに競合的に結合している治療剤分子は、細胞壁または細胞膜を通過し得る。連結基または有機シランに競合的に結合する、細胞の内因性リガンドは、図7のバンコマイシンで概略的に示すように、細胞内に治療剤分子を放出する。また、表面修飾インプラントは、治療剤分子に隣接し、細胞壁または細胞膜を貫通することのできる不安定結合を有するリンカーまたは有機シランを含んでもよい。リンカーの不安定結合は、細胞内酵素により開裂され、その結果細胞内に該薬物またはペプチドが放出され、その特異作用が示されるであろう。このような細胞内酵素の非限定的な例は、キナーゼ阻害剤であろう。
【0028】
(0037)治療剤分子は、有機シランまたは有機シランに結合した連結基を介してインプラント表面に繋ぐか、または結合してもよい。リンカーまたは有機シランは、酸不安定部位、酵素開裂部位、メタロプロテイナーゼ、プラスミン、トロンビンまたは組織プラスミノーゲン活性化因子による認識配列を有してもよい。リンカーまたは有機シランは、治療剤分子に直接共有結合している、部分的に膜可溶性の柔軟で長い鎖でもよい。たとえば、有機シラン基がインプラント表面上でオリゴ(エチレングリコール)リンカーとカップリングし、該リンカーの他端が図6に示すバンコマイシンなどの治療剤分子と共有結合するために使用されてもよい。別例として、部分的に膜可溶性の柔軟な鎖は、限定するものではないが、図7に示す(D−Ala−D−Ala)などの配列のような高親和性の競合的に結合したリガンドを介して、または、該柔軟鎖中に酵素開裂部位を導入することに
よって、細胞内に治療剤分子を放出してもよい。酸不安定または酵素不安定なリンカーおよび有機シランが開裂して治療剤分子を放出することによって、細胞増殖を支持するRGD(配列番号1)などのペプチド配列を露出させることもできる。
【0029】
(0038)抗生物質などの治療剤分子が約40nm2の空間を占めることに基づくと、付着した細菌または他の細胞が1μm2を占めるならば、細菌表面に直接放出するために抗生物質の治療剤分子約25,000個を繋ぐことができよう。多孔性インプラント表面の間隙または相互接続領域内に該生物活性分子を結合することにより、局所濃度の増加効果、治療剤分子の容量増加、ならびに追加の治療剤分子のための表面積の増大が可能となることによって、インプラント表面に繋がれる治療剤分子の濃度を増大させることができる。1部位当たり複数の治療剤分子を繋ぐために、多官能性結合を使用してもよい。このような分岐したリンカーは、インプラント表面とリンカーとの1つの結合により、該表面に多数の抗生物質または他の治療剤分子を繋ぐために役立てることができる。
【0030】
(0039)リンカーまたは有機シランは、オリゴ−エチレングリコール(OEG)など(これに限定はされない)の柔軟で膜可溶性の鎖であってもよいし、天然および非天然アミノ酸、ならびにそのようなアミノ酸を含むペプチド配列を含んでもよい。オリゴ−エチレングリコールで末端処理された表面は、タンパク質の吸着に対して抵抗性を示し、反復単位を2〜20個有してもよい。図10に概略的に示すように、RGD(配列番号1)などの接着増強ペプチドを、チゲサイクリンなどの治療剤分子に連結したTi含有インプラント基材に繋ぐか、結合するために、シラン連結部を使用してもよい。インプラントの表面を修飾する1または複数の治療剤分子を、リンカーまたは有機シランを介してインプラント表面全体または一部に結合させてもよい。1または複数の異なる連結部または有機シランをインプラント表面の異なる部分に使用してもよいし、連結部または有機シランの混合物を同様にインプラント表面の修飾に使用してもよい。連結部および有機シランは、細胞と相互作用するアミノ酸およびペプチド配列、たとえば、これに限らないがRGD(配列番号1)およびRGDS(配列番号2)を含んでもよく、または、AEEA、ポリエチレングリコール(PEG)、OEGなどの非ペプチド連結部を含んでもよい。本発明におけるリンカーとして有用な別のペプチド配列には、RGES(配列番号3)、DGEA(配列番号4)、EGEA(配列番号5)などのECMペプチド模倣体に使用されるもの、ならびにその内容の全体が本明細書に援用される米国特許第6,428,579号に開示された生物活性ペプチドが含まれる。
【0031】
(0040)治療剤分子は、これだけに限らないが、ペプチド、治療用オリゴヌクレオチド、あるいは、抗生物質、抗真菌剤、血栓溶解剤、抗炎症剤、骨活性因子または化学療法剤のような分子であってもよいが、これだけに限らない。治療剤分子は、疾患の危険性がなくなるまで、あるいは細胞が生成した酸や酵素などの細胞由来分泌物または活性細胞タンパク質によって放出されるまで、7.4近傍の生理的範囲においてインプラントの寿命期間中、インプラント表面との結合を維持すべきである。治療剤分子に結合した連結部または有機シラン中の酸不安定部分には、それだけに限らないが、アミド結合、エステル結合、メチルマレアミドまたはヒドラゾン結合が挙げられる。メチルマレアミドおよびヒドラゾン結合は、生理的pHでは安定であるが、pH5〜6の弱い酸の中で容易に加水分解する。酸に不安定な結合は、pH5〜6において最初の60分で治療剤分子の約50%を放出させるのが好ましい。酵素開裂性の結合は、所望の酵素濃度において最初の60分で治療剤分子の約50%を放出させるのが好ましい。好ましい実施形態では、修飾インプラント表面は、低レベルの細菌感染がある場合もない場合も、骨芽細胞の増殖および成熟化を支持する。バンコマイシンのリガンドであるD−Ala−D−Ala(Ti−Si−Ala)を末端に有するオリゴ(エチレングリコール)を含むリンカーは、図7に例示するように作製できる。バンコマイシンはそのリガンドに高い親和性を有するので、こうしてリガンドと複合体形成させることにより表面に結合できよう。細菌の存在下では、オリ
ゴ(エチレングリコール)リンカーによって、リガンド−抗生物質複合体が細胞壁を通過することが可能となり、バンコマイシンが競合的に放出されてペプチドグリカン合成を阻害することになろう。他の適当な抗生物質/親和性リガンド複合体をインプラント表面に繋ぐことも可能であり、インプラント表面における抗生物質を種々の結合と組合せることもできる。
【0032】
(0041)本発明の基材は生体適合性材料であり、有機シランと縮合生成物を形成する。このようなインプラント材料には、それだけに限らないが、補綴物用、外科用、歯科用および整形外科用のチタンおよびその合金を含む合金が挙げられるが、好ましくはTi6Al4Vである。インプラントは、インプラント上にスパッタリング加工または蒸着したチタンを含む層を有してもよい。他の有用な材料には、それだけに限らないが、タンタル、CoCrMo合金、ステンレス鋼、コバルト、クロム、アルミニウム、ジルコニウム、金、珪素およびこれらの合金、テフロン(登録商標)/PTFE、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン、シリコーン、シリカ、ガラスおよびポリスチレンが含まれる。ジルコニアなどのセラミック材料も、インプラントとして使用可能である。生体適合性のインプラント材料は、有機シランと縮合生成物を形成しうる表面を有するのが好ましい。このような材料は、水和していても、表面上に1もしくは複数の水酸基を有していてもよいし、またはそのような表面を形成するために処理されてもよい。このような材料は、特定のインプラント用途のために成形、機械加工または造形可能であり、一体品、発泡体などの多孔性材料、焼結ビーズ、織物表面、メッシュ、ならびに、表面積、多孔性、液体交換性および相互連結性を高めるように設計されたその他の材料であってもよい。
【0033】
(0042)本発明の治療剤分子を、有機シランを用いてインプラント表面に共有結合させて、インプラント上に修飾シリル化表面を形成してもよい。本発明において有用な有機シランRnSiX(4−n)は、加水分解可能な基Xがハロゲン、アルコキシ、アシルオキシまたはアミンであり、Rが非加水分解性の有機基であって、Rが治療剤分子、あるいは後に治療剤分子またはリンカーと共有結合するために使用できる化学官能基を有するものを含む。有機シランは、表面上に酸化物基または水酸基のうち少なくともいずれかを有する材料と安定な縮合生成物を形成する。理論に拘るつもりはないが、有機シランの各珪素からの1または複数の共有結合は、図1に概略的に示すように、基材表面と結合を形成する。表面上にある有機シランの単分子層が好ましいが、使用する有機シランの濃度に応じて、多層ポリシロキサンが形成されてもよい。好ましい有機シランには、それだけに限らないが、Rがアミン、カルボン酸、エポキシド、シアニドまたはスルフヒドリル基を含むものが挙げられる。このような有機シランの例には、それだけに限らないが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)、3−カルボキシプロピルトリエトキシシラン(CPTS)、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(GPTS)および3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTS)が挙げられる。APTS表面を無水コハク酸で処理することにより、カルボン酸末端インプラント表面も形成してもよい。たとえば、APTSシリル化インプラント表面は、リン酸フッ化物で基材をエッチングすることにより調製し、次いでヘキサン中0.2〜1.0mMの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)で45〜90分処理して表面をシリル化すればよい。次いで、インプラント基材をヘキサン浴中で超音波処理して過剰の反応剤を除去できる。アミノまたはカルボキシ基材は、リンカー、アミノ酸およびバンコマイシンなどの治療剤分子のFmocカップリング用の土台を提供できる。
【0034】
(0043)本発明の表面修飾インプラントからの治療剤分子、ペプチドまたは薬物の放出を誘発するために、哺乳動物患者における細胞の活性、細胞分泌物、または他の生理的事象を使用してもよい。このような分泌物または細胞事象の非限定的例には、細菌が放出する酸、癌細胞に特有のメタロプロテイナーゼ、骨の癒着不能に付随する凝血塊由来の酵素、ステントに付随する凝血塊由来の酵素、ならびに、インスリン濃度、グルコース濃
度、プロスタグランジン濃度の変化など特定事象に基づく薬物放出が含まれる。より具体的には、癌細胞の場合の新規な1つの応用は、転移または骨肉腫から生じる骨腫瘍に対するものである。この場合、転移性腫瘍に特有であり細胞外マトリックスの分解に用いられる酵素のメタロプロテイナーゼが高濃度で分泌されると放出可能な、繋がれた化学療法剤でインプラントを修飾することになろう。次いで、この装具を、その部位における腫瘍の再定着に対する有効な防御として役立てることができよう。骨癒着不能の場合にも、骨形成タンパク質(BMP)などの骨誘導因子を繋いだインプラントを、プラスミン配列などの凝血塊分解に付随する酵素活性をこの場合も使用して、埋め込みに付随する凝血塊の溶解時にBMPを放出するように設計できる。反対に、インプラントの緩みを防止するために、骨溶解の初期段階において増殖因子を放出するべくインプラントを設計することができよう。その上、組織プラスミノーゲン活性化因子やアニストレプラーゼなどの血栓溶解剤を凝血塊形成部位で放出することにより、ステント内での凝血塊形成を阻害できよう。
【0035】
(0044)治療中に抗生物質に対する患者の耐性が発現するのを最小限とするために、リファンピンなどの多くの抗生物質は、イソニアジドやエタンブトールなどの他の薬物との併用療法薬として通常投与される。追加の薬物を、インプラントにやはり化学結合している繋ぎ鎖に共有結合させることによって、抗生物質または化学療法剤と結合させて、それにより補綴物周辺感染または癌の治療に最大の効力を実現することができる。
【0036】
(0045)インプラントの長期安定性をもたらす骨統合および骨成長の機構において、いくつかの要因が特定されてきた。類骨芽細胞は、標準的な組織培養用ポリスチレン製表面より金属表面に速やかに付着し、付着速度は表面の粗さと関係している(多孔性コーティング面>粗面>グリット研磨面)。インプラントへの細胞付着の増加は、骨芽細胞の成熟化、マトリックスの生成および無機化の促進を伴う。表面の化学的性質は、骨芽細胞の付着において役割を果たす(Ti6Al4V>CoCr)。細胞付着の増加は、マトリックスタンパク質であるフィブロネクチンおよびその同族膜受容体のα5β1インテグリンの発現増加によって媒介されるようである。フィブロネクチン−インテグリン相互作用は、付着を媒介するだけでなく、細胞内シグナル伝達の役割も果たし、骨活性因子のTGF−β1およびBMP−2は、フィブロネクチンおよびα5β1インテグリンの発現増加を介して骨芽細胞の付着を刺激する。本発明のインプラント表面は、可能であれば、その表面上にこのような物質、形態および因子を取り入れるのが好ましい。
【0037】
(0046)バンコマイシンは、図6に示す(Ti−O−Si−OEG−VAN)ように、開裂せずにバンコマイシンを細胞内に配する柔軟な連結部を用いて、たとえばTi表面などの埋め込み可能な基材表面に繋ぎ得る治療剤分子である。このような連結は、オリゴ(エチレングリコール)リンカーに繋いだバンコマイシンを含むことができ、該リンカーはTi表面に結合するための柔軟なリンカーへと続く。バンコマイシンは、細胞膜の外表面上で起こる過程であるペプチドグリカン合成を阻害することによって、細菌細胞壁の合成を阻害する。膜に固定されたバンコマイシンは、耐性微生物に対する活性が増加すると予想されよう。不安定でない柔軟な疎水性リンカー上の固定化バンコマイシンは、Ti表面から放出されずに殺菌性を示すことができよう。バンコマイシンに隣接してオリゴ(エチレングリコール)リンカーが存在することにより、図6に概略的に示すように、Ti表面との接触をなおも維持しながら、細菌細胞壁の通過が可能となる。
【0038】
(0047)チゲサイクリンは、Tiインプラント表面に繋ぐことのできる抗生物質である治療剤分子である。チゲサイクリンは、テトラサイクリンに感受性および抵抗性の細菌に対して効力のあるミノサイクリンから誘導されたグリシルサイクリンであり、したがって広範囲のグラム陽性およびグラム陰性細菌に対して活性を示す。チゲサイクリンは、30Sリボソーム・サブユニットを阻害してタンパク質合成を撹乱することにより作用する。in vitroでは、チゲサイクリンは、黄色ブドウ球菌を含む大抵の菌株に対し
て0.25mg/mL未満のMIC90を有する。E.faecalisおよびE.faeciumに対しては、この低いMICは、活性がリネゾリドの約8倍で、キヌプリスチン−ダルフォプリスチンの32倍であることと相まっている。pH感受性の結合を用いて、図1に示すように、Ti合金表面などのインプラント上のRGDS(配列番号2)やRGD(配列番号1)などのリンカー、および酸不安定部分のメチルマレアミドに、チゲサイクリンを繋いでもよい(Ti−O−Si−RGD(配列番号1)−mTIG)。このメチルマレアミドは、弱酸性条件(pH5〜6)下で開裂でき、チゲサイクリンが細菌粘液中に放出され、そこで付着微生物を殺滅できる。酸不安定リンカーが開裂して抗生物質が放出されると、図9(A)および図9(B)に例示するようにRGD(配列番号1)配列が露出し、骨芽細胞の増殖が支持されることになる。細菌が生成する細胞外の酸が、酸に不安定なメチルマレアミドを開裂する結果、チゲサイクリンが細菌細胞壁に放出されうる。感染は、時間および部位に特異的にその根源で除かれる。抗生物質は、グラム陰性細菌に対して活性でも、グラム陽性およびグラム陰性細菌の双方に対して活性でもよく、好ましくはグラム陽性細菌に対して活性である。インプラント表面に結合される他の抗生物質治療剤分子には、それだけに限らないが、ミノサイクリン、チゲサイクリン/GAR−396、テトラサイクリンおよびグリシルサイクリン等の抗生物質、バンコマイシンおよびその類縁体、リファンピシンおよびその同族物質、メトシリンおよびその類縁体、ゲンタマイシンおよびその類縁体、ならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0039】
(0048)治療剤分子のラパマイシン(商品名)は、ストレプトマイセス・ハイ グロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)が産生する、シクロフィリン受容体に結合する大環状トリエン抗生物質であり、血管平滑筋細胞の増殖を阻害することが判明している。ラパマイシンは、哺乳動物において、特に生物学的または機械的な血管傷害の後の、平滑筋細胞の血管内膜過形成、再狭窄および血管閉塞の治療に利用できる。このような傷害は、血栓性および炎症性の反応を開始する。血小板由来増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、トロンビンなどの、血小板、浸潤性マクロファージおよび/または白血球から、あるいは平滑筋細胞から直接放出される細胞由来増殖因子は、内側の平滑筋細胞に増殖性および移動性の反応を引き起こす。娘細胞は、動脈平滑筋の血管内膜層に移動し、さらに増殖し続け、かつ著しい量の細胞外マトリックスタンパク質を分泌し続ける。ラパマイシンは、平滑筋細胞の増殖を阻害するように機能し、血管壁の再内皮化を妨害しない。このような分泌物は、ステントなどのインプラント表面に結合したラパマイシンの放出を誘発して再狭窄を防止するために使用できよう。
【0040】
(0049)有効な抗凝血剤であること以外に、ヘパリンは、in vivoで平滑筋細胞の増殖を阻害することも実証されている。したがって、ヘパリンは、血管疾患の治療において、インプラント表面に結合した治療剤分子として、ラパマイシンと共に有効に利用できる。ラパマイシンとヘパリンとの併用により、ヘパリンの抗凝血剤としての作用以外に、本質的に2種の機構を介して平滑筋細胞の増殖を阻害できる。
【0041】
(0050)抗炎症剤分子も、シラン化インプラント表面との反応によって、インプラント基材に結合できる。非ステロイド抗炎症剤分子は、プロスタグランジンの合成を阻害するものを含むことが好ましい。抗炎症剤分子には、それだけに限らないが、アセチルサリチル酸、インドメタシン、イブプロフェン、アセトアミノフェン、アパゾン、セレコキシブおよびロフェコキシブが挙げられる。
【0042】
(0051)オリゴヌクレオチドも、単独で、または他の治療剤分子と組み合わせてインプラントの表面に結合してもよい。たとえば、RGD(配列番号1)ペプチド・モチーフは、インプラントに治療用オリゴヌクレオチドを固定化するためのリンカーの一部として役立ててもよい。RGD(配列番号1)とオリゴヌクレオチドとの連結は、癌細胞によって放出されるマトリックス・メタロプロテイナーゼに対して不安定であって、その結果
治療用オリゴヌクレオチドがインプラント近傍の癌細胞に向けて放出されると、さらに骨統合を促進するためにRGD(配列番号1)が露出されるように設計してもよい。マトリックス・メタロプロテイナーゼによって特異的に開裂されるペプチド配列は、RGD(配列番号1)モチーフと治療用オリゴヌクレオチドとの間に配置することができる。連結ペプチド中の様々なアミノ酸がインプラントに結合した治療用オリゴヌクレオチドの放出に及ぼす効果は、RGD(配列番号1)モチーフ兼アンカーの両側にある隣接アミノ酸の数および種類を、Ti表面に共有結合したオリゴヌクレオチドの放出に関して、漸次変えることによって決定できる。
【0043】
(0052)シリル化インプラント表面に結合できる治療用オリゴヌクレオチドには、それだけに限らないが、がん遺伝子MYCを標的とした抗がん剤オリゴヌクレオチドが挙げられる。このような治療用オリゴヌクレオチドは、修飾塩基、修飾糖および修飾されたヌクレオチド間結合の各種組合せで構成されてもよい。より具体的には、治療用オリゴヌクレオチドは、修飾された塩基、糖または結合を備えた、天然および修飾されたDNA、RNAおよびその誘導体を含む各種核酸で構成されてもよく、その非限定的例の一部はPNA、LNAおよびモルホリノホスホロジアミデートである。好ましい1実施形態では、がん遺伝子MYCを標的とした治療用オリゴヌクレオチドは、ペプチド核酸(PNA)残基からなり、マトリックス・メタロプロテイナーゼにより特異的に開裂されるペプチド配列によって、Ti−RGD(配列番号1)と、細胞取り込みに資する塩基性ペプチド配列とに連結されてもよい。
【0044】
(0053)血管形成は、体内における新たな血管の成長であり、創傷治癒中の組織の修復または再生に必要である。小血管の形成ができないと、心臓発作後に心筋の組織死を起こすことになる。がんでは、血管形成によりがんが肥大し、広がる。血管壁は血管内皮細胞によって形成されるが、血管形成はその細胞を刺激して、分裂させることができる。がんでは、2種のタンパク質、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が、腫瘍成長の維持に最も重要であると思われる。細胞上の適当な受容体にVEGF、bFGFのいずれかが結合することにより、内皮細胞の核内にシグナルを伝達する一連のリレー・タンパク質が活性化される。核シグナルは、最終的に、一群の遺伝子を促して新たな内皮細胞の増殖に必要な生成物を生産するように促す。このようなシグナルを、インプラント表面に隣接または付着した上皮細胞の血管形成を改変するために使用可能な、インプラント表面に結合した治療剤分子の放出を誘発するために使用できよう。
【0045】
(0054)リンカーまたは有機シランに結合できる他の治療用の分子およびペプチドは、インプラント表面を修飾するために使用してもよい。このような分子の例には、それだけに限らないが、Taxol(登録商標)(CAS 33069−62−4)、カンプトテカンなどの化学療法剤、エルロチニブ、フラボピリドール、ゲフィチニブ、イマチニブなどのキナーゼ阻害剤、シロリムス(CAS 53123−88−9)、タクロリムス(CAS 104987−11−3)などの再狭窄を防止する拒絶反応抑制剤、細胞増殖因子、血栓溶解剤および骨活性因子が挙げられる。治療用の分子およびペプチドは、シリル化インプラント表面から伸びる有機ペンダント基と容易にカップリングできる部分を有するのが好ましい。このような基が利用できない場合、インプラント表面上の有機シランまたはリンカーに共有結合するための部位を設けるために、治療用の分子およびペプチドを化学修飾してもよい。たとえば、リファンピンの17−ヒドロキシルを、2−メチル−4−チオエチルアミドマレイン酸とエステル化してスルフヒドリル基を形成することによって修飾してもよい。このスルフヒドリル基を、エポキシド基を有するシリル化インプラント表面と直接反応させてチオエーテルを形成することができる。インプラント表面に結合した、このような修飾治療剤分子は、本明細書に開示した方法によって治療活性について特徴づけられてもよい。治療剤分子上に存在する反応性基がシリル化インプラント表面
と不適当なカップリングを起こす場合は、C末端カルボキシル基などの適当な基だけがカップリングに利用できることを確実にするために、保護基を使用してもよい。
【0046】
(0055)治療剤分子、ペプチドまたは治療用オリゴヌクレオチドは、標準的Fmocカップリングまたは他の既知の方法を用いて、末端にアミノ、スルフヒドリルまたはカルボキシル基を有する有機シラン修飾インプラント表面に共有結合させてもよい。たとえば、5倍モル過剰量のFmoc−アミノエトキシエトキシ酢酸リンカー(AEEA、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems))を、Fmoc試薬を用いてシリル化Ti−O−Si(CH2)3NH2基材にカップリングすればよい。シリル化基材を、レイニン(Rainin)社のPS3ペプチド合成機、アプライド・バイオシステムズ社の430Aペプチド合成機、またはExpedite(商標)8909 DNA/RNA/PNA合成機に搭載した研究室製反応カラム中で無水条件下にて支持してもよい。まず、AEEAリンカー2個を添加できる。リンカー2個ではその酸不安定リンカーが十分に利用できなければ、3〜5個を添加してもよい。末端Fmoc保護基をピペリジンで除去した後、N末端アミンを5当量の2−メチルマレイン酸無水物と1当量のジメチルアミノピリジン(DMAP)を加えた乾燥CH3CN中、1時間反応させることができる。末端にマレイン酸メチルを備えたTi基材をジメチルホルムアミド(CH3)2NCHOで洗浄し、次いでCHCl3中の1,2−ジアミノエチン10当量+N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DPC)2当量と無水条件下で反応させるこができる。5倍モル過剰量のバンコマイシンを、生成した末端アミンとFmoc試薬を用いてカップリングし、(CH3)2NCHOで最終洗浄後に所望の安定な酸不安定Ti−O−Si(CH2)3NH−AEEA−AEEA−mVANを得ることができる。
【0047】
(0056)固相カップリングを用いて、バンコマイシンまたは他の治療剤化合物をオリゴ(エチレングリコール)−Ti表面に共有結合させてもよい。たとえば、5倍モル過剰量のAEEAを、固相法によってTi−アミノ基材に無水条件下でFmocカップリングできる。まずAEEAリンカー5個を添加できる。リンカー5個ではバンコマイシンが十分に利用できなければ、6〜10個を添加できる。あるいは、米国オハイオ州パウエル(Powell)所在のクワンタ・バイオデザイン(Quanta Biodesign)から入手できる5倍モル過剰量のN−Fmoc−amide−dPEG4、MW 478.5をAPTSシリル化チタン表面とカップリングし、Ti−O−Si(CH2)3NH−OEGを得ることができる。末端Fmoc保護基をピペリジンで除去した後、5倍モル過剰量のバンコマイシンをFmoc試薬とカップリングし、(CH3)2NCHOで最終洗浄後に、図6に概略的に示すように所望の(Ti−Si−OEG−VAN)Ti−O−Si(CH2)3NH−OEG−VANを得ることができる。
【0048】
(0057)バンコマイシンまたは他の治療剤分子に対する競合的リガンドは、D−Ala−D−Alaをオリゴ(エチレングリコール)−Ti表面と固相カップリングすることによって調製してもよい。たとえば、5倍モル過剰量のアミノエトキシエトキシ酢酸t−ブチルエステル(AEEAtBu)を、固相法によってTi−カルボキシ基材に無水条件下でFmocカップリングできる。まずAEEAリンカー3個を添加できる。リンカー5個では非共有結合により結合したバンコマイシンが十分に利用できなければ、4〜8個を添加できる。あるいは、米国オハイオ州パウエル所在のクワンタ・バイオデザインから入手できるN−Fmoc−amide−dPEG4、MW 478.5をAPTSシリル化チタン表面とカップリングし、Ti−O−Si(CH2)3NH−OEGを得ることができる。末端t−ブチル保護基または末端Fmoc保護基をピペリジンで除去した後、5倍モル過剰量の未保護α−アミノ−D−Ala−D−Ala−t−ブチルエステルをFmoc試薬とカップリングし、(CH3)2NCHOで最終洗浄後、(Ti−Si−Ala)Ti−O−Si(CH2)3NH−OEG−D−Ala−D−Alaを得ることができる。このカップリング済みのインプラント基材を、PBSで2回洗浄し、次いでPBS中
1mMバンコマイシンの10倍過剰量で30分飽和することにより、図7に概略的に示すような所望の(Ti−Si−Ala−VAN)、Ti−O−Si(CH2)3NH−OEG−D−Ala−D−Ala*(VAN)を生成させた後、PBSで3回洗浄して未結合バンコマイシンを除去すればよい。
【0049】
(0058)インプラント基材表面に繋がれた部分の化学的決定は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法によって決定できる。修飾バンコマイシンのフラグメント化から生じる分子イオンの特性決定を、非修飾バンコマイシンから得られる値および公表された文献値と比較することにより、金属との連結およびバンコマイシンの修飾が起こっていることを確認できる。シナピン酸マトリックスで被覆した誘導体化Tiディスクを、分析前に、サイファージェン(Ciphergen )製試料チャンバ中にて30分間高真空下で脱気できる。分子イオンの形成は、338nmのレーザーをTiインプラントの表面上に発射し、結合の分解および親イオンの放出を起こすことによって、実現できる。分子イオンの固有電荷のために、親イオンおよび任意のフラグメントを加速して、飛行時間を分子イオンの質量の関数とし得る質量分析計の中に導入することができる。Ti−Si−mVAN、Ti−Si−OEG−VANおよびTi−Si−OEG−D−Ala−D−Alaの分子イオンのコンピュータによる同定は、バンコマイシンについての報告値および誘導体化していないバンコマイシン単独の場合に生成するパターンとの比較に基づいて行うことができる。
【0050】
(0059)Tiインプラントに結合したバンコマイシンなどの酸不安定な治療剤分子の量および密度の検出は、分光蛍光分析および落射蛍光顕微鏡観察によって決定できる。たとえば、繋がれたバンコマイシンを、バンコマイシンに対するモノクローナル抗体(ユーエス・バイオロジカルズ(US Biologicals)、1:100希釈)と共に1%ヤギ血清含有Tris緩衝生理食塩水中で25℃、60分インキュベートした後、ヒツジの抗マウスFITC結合二次抗体(モレキュラー・プローブズ(Molecular Probes)、1:80希釈)と25℃、60分反応させることができる。量は、fmol〜mmolの範囲の既知バンコマイシン量と比較することによって、推算できる。Ti表面上のバンコマイシン密度は、バンコマイシン抗体に対するTRITC連結二次抗体を用いて、落射蛍光顕微鏡によって決定できる。チタン表面の像形成をするために、共焦点走査レーザー顕微鏡を用いてデジタル画像を集めることができる。共焦点性により、該金属表面からの異相反射光を除去できる。
【0051】
(0060)インプラント基材表面に結合している繋ぎ状態または複合状態の生物活性分子または治療剤分子について安定性および放出を特性解析するために、表面を弱酸とインキュベーションすることができる。たとえば、Ti−バンコマイシンのハイブリッドをPBS(pH5.0〜8.0)中、1〜180分インキュベートすればよい。PBSのpHは、イオン強度を一定に保ちながら、H3PO4:Na2HPO4比を用いて調節できる。pH5.0、5.5および6.0であろう最も「活性な」pH値、ならびに生理的pH7.4を経時的に評価し、抗生物質の放出を1、2、3および24時間の時点で測定してもよい。
【0052】
(0061)共有結合した、不安定な、または複合状態の治療剤分子で表面を修飾されたインプラント基材の活性は、細胞(この細胞と相互作用させるために前記分子が選択されている)の存在下でインキュベーションすることによって測定できる。たとえば、繋がれたバンコマイシンの黄色ブドウ球菌感染に対する殺菌活性を測定できる。このような表面の殺菌活性は、初期接種量103〜約106個の黄色ブドウ球菌に対して試験することができ、前記接種量は修飾Tiディスク試料177mm2の1%未満を占有できる濃度である。対照表面によって、Ti単独上での細菌の増殖、溶解バンコマイシンの細菌繁殖に対する効果、リンカー単独の効果、ならびに最後に、OEGを用いずに不可逆的に固定化
されたバンコマイシンの細菌繁殖に対する効果を試験することができる。細菌の増殖曲線は、DNAの抽出およびPCRを用いた測定によって、60分毎に4時間で決定すればよい。細菌の個数は、既知数の細菌から単離したDNAを用いるPCRシグナルとの比較によって、推定できる。さらに、細菌繁殖の結果としてpHの全体的変化が起こっているか否かを判定するために、pH測定を行うとよい。最後に、連続希釈物を寒天プレート上に播種した後に細菌数を直接計数によって測定できる。コロニー形成は、写真撮影後の細胞計数によって評価可能であり、コロニー総数を計算できる。これらの値は、PCRで決定した数値と比較できる。モレキュラー・プローブズの「Live/Dead(登録商標)BacLight(商標)」キットを使用して、示差染色に基づいて細菌生存率を可視化してもよい。
【0053】
(0062)修飾または未修飾のインプラント基材またはその一部をUV光照射により滅菌し、24ウェル組織培養プレートのウェル中に入れることができる。10%FBS含有DMEMを0.5mL添加し、培地に103〜106感染単位の黄色ブドウ球菌を接種できる。接種物をロータリー・シェーカーで攪拌して5分間混合した後、普通の組織培養条件下、すなわち攪拌せずに5%CO2の加湿インキュベーター内で、37℃でインキュベートすることができる。細菌の増殖を、時間(1〜24時間)の関数として測定できる。
【0054】
(0063)付着細菌および非付着細菌からのDNAの単離。非付着細菌は、上清中に集め、ペレットにし、PBS100μL中に再懸濁できる。表面上の付着細菌はPBS100μL中に浸すことができる。細胞の溶解は、4回の凍結・融解サイクル後に遠心分離することによって実現できる。この上清をPCRによる細菌数の決定に使用できる。
【0055】
(0064)細菌数の決定にはPCRが使用できる。論文に記載のように、10〜20μLの上記DNA溶液を、Tris−KCl−MgCl2緩衝液とAmpliTaq(登録商標)とを用いた反応容積100μL中に用いればよい。プライマーを16S rRNAに対するものとし(順方向:CGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG、逆方向:GGTTGCGGCCGTACTCCCCAGG)、30〜35サイクル後に881bpの生成物を得る。アガロースゲル電気泳動による分画後、臭化エチジウムまたはSybrGreen(商標)IIで染色することにより検出を実施できる。
【0056】
(0065)黄色ブドウ球菌数の希釈法による決定。黄色ブドウ球菌を含む前記の培養物から上清を取り、化学修飾表面をDMEM2mLで洗浄し、同一培養物からの上清と共にプールするとよい。攪拌した後、細菌数を決定するために、この上清をLB寒天プレート上に0、102、104、106の希釈倍率で播種できる。プレート上のコロニー数が計数できるように、追加の希釈倍率を適宜使用できる。表面を写真撮影し、細胞数を細胞の直接計数によって決定することもできる。その決定は、別々の研究者2名以上で行うことができる。
【0057】
(0066)付着および浮遊している生菌および死菌の可視化。Live/Dead BacLightシステム(モレキュラー・プローブズ)を用いて、生菌および死菌をSYTO9+ヨウ化プロピジウムで染色できる。生細胞が緑色蛍光を発する一方、膜が損傷した細胞は赤色蛍光を発することができる。表面付着菌および浮遊菌をデジタル画像で記録し、生菌/死菌の比を任意の視野中で二重免疫蛍光法を用いて決定できる。
【0058】
(0067)各種治療剤分子の活性およびその生体適合性は、修飾インプラント表面上での標的細胞の増殖および成熟化を測定することによって決定できる。たとえば、本発明の繋がれたバンコマイシンの殺菌活性および生体適合性は、細胞の存在下で決定できる。骨折の治癒に重要な細胞種である軟骨細胞および骨芽細胞の増殖および成熟化に対する効
果が測定できる。重要なことは、設計した表面が、細菌の存在下で軟骨細胞および骨芽細胞のいずれの増殖に対しても安定である、すなわち、好ましくは適宜抗生物質を放出することである。活性表面とともにインキュベートされると殺滅された2種類の細菌濃度を用いて、ATDC5軟骨前駆細胞およびMC3T3−El類骨芽細胞を含む培養物の効果を決定できる。これらの細胞は、細菌の接種と同時にインプラント基材1.77cm2あたり細胞1×104個の濃度で播種すればよい。
【0059】
(0068)酸不安定結合については、酸性溶液により、バンコマイシンなどの繋がれた治療剤分子を有意に時間依存的に放出させることができる。中性のpH範囲では、インプラントからの治療剤分子の放出は極めて遅いか、最小限となり得る。OEG−VANなどの共有結合、およびAla表面などの複合化生物活性分子に対しては、結合はpHに安定なはずである。酸不安定結合が抗生物質を即座に放出する場合は、該結合の酸不安定性を低下させるために修飾してもよい。このことは、開裂部位の電子密度を低減してプロトン化し難くすることによってなし得る。治療剤分子の修飾部位は、該分子の活性が低下しない部位であることが好ましい。該分子の活性部位は、当業者には公知であろう。
【0060】
(0069)基材近傍の細胞に作用するのに必要な、インプラント表面に繋がれた治療剤分子の量および分子数密度は、付着細菌および浮遊細菌または他の細胞の数をPCRおよびコロニー形成検定で測定することにより、決定できる。細菌などの生細胞または死細胞に特異的な色素を用いた、表面修飾基材の表面上および溶液中の細胞の生死比も使用できる。表面結合した治療剤分子が、インプラント表面近傍の細胞および細胞コロニーと相互作用するには不十分であるならば、多価結合を用いて該分子の表面濃度を増加させてもよい。
【0061】
(0070)本発明の実施形態には、臨床上の重要な用途を有する表面が含まれる。第1の表面は、治療剤分子とインプラント表面とを接続するリガンドまたはリンカーを介してインプラント表面と繋がれた、または結合した治療剤分子を含んでいる。このような表面をさらに発展させるために、他の部位特異的送達系を付加するような追加の修飾が可能である。
【0062】
(0071)動物モデルにおける髄内釘などの基材に適用される共有結合により修飾または誘導体化された表面を試験することにより、誘導体化インプラントがin vivoで治療上の(化学療法、抗炎症、増殖または殺菌の)活性を維持し、骨折の治癒またはセンサ機能の発揮に作用するか否かを確認することができる。基材、例えばそれだけに限らないが埋め込み可能な基材上の繋がれた治療剤分子の層などを、動物試験を用いて評価してもよい。限定するものではなく、単に例示のためであるが、適当な治療剤分子には抗生物質が、埋め込み可能な基材には髄内釘が挙げられる。
【0063】
(0072)発生途上の骨折仮骨の構造的性質と治癒中の海綿骨における小柱骨の形成とを評価するために、定量的マイクロCTを使用できる。微小断層撮像による評価は、従来の組織形態計測で評価した指標と極めてよく一致し、骨の特質および強度の優れた予測指標である。骨の治癒、構造および機械的強度を、動物実験の過程にわたって動的にモニタするために、in vivoのマイクロCT分析を使用しうる。感染した骨折部は適切に治癒することができず、マイクロCTを使用して、定着しつつある感染を示し、表面修飾基材の性能を示すことができる。
【0064】
(0073)共有結合で修飾した髄内釘をウィスター・ラットの大腿骨に埋め込み、アインホーン(Einhorn)の手順を用いてその大腿骨を骨折させうる。放射線検査により骨折を確認後、黄色ブドウ球菌などの感染性細菌を骨折部位に注入できる。敗血症を防止するために、黄色ブドウ球菌の濃度を非常に低く(1〜50cfu)維持するとよい
。ラット10匹を試料群とし、片側に処理釘を挿入し、対照の反対側に未処理釘を挿入すればよい。この一般的試験法を用いて、リンカーおよび治療剤分子の共有結合で修飾したインプラント表面の作用を評価することも可能である。骨折部位は、7、14および21日目にモニタできる。これらの時点で動物を屠殺し、骨治癒を従来の組織検査および形態計測によって評価できる。全身感染および抗生物質の血清中濃度を、これらの時期に評価してもよい。0、7、14および21日目に骨治癒をモニタし、かつ骨の機械的強度に関する情報を得るためにも、マイクロCTを使用できる。実験終了時に、骨をX線撮影し、採集し、その機械的性質を測定することも可能である。
【0065】
(0074)体重300〜500gの骨格的に成熟した雄性ウィスター・ラットを、ケタミン(20〜60mg/kg)およびキシラジン(2.5mg/kg)からなる麻酔薬の腹腔内注射によって麻酔できる。次いで、後肢の毛を剃り、Betadine(登録商標)(ポビジン(Povidine)−ヨウ素)で洗浄し、無菌条件下で、内側傍膝蓋関節切開を行い、膝蓋骨を側方に脱臼させることができる。髄内腔に顆間切痕から18ゲージ針を挿入し、髄内腔を広げることができる。修飾または未修飾の髄内釘は、1.14×26mmのキルシュナー鋼線(米国テネシー州メンフィス所在のスミス・アンド・ネフュー・リチャード・インコーポレイティッド社(Smith and Nephew Richard, Inc.))から作製できる。この釘を前記腔内に挿入し、膝蓋骨を元に戻し、軟組織を4.0ナイロン縫合糸で閉じ、皮膚をステープルで閉じることができる。この固定した大腿骨を3点曲げ装置中に配置し、500gの重りが35cm落下する力により大腿骨を骨折させることができる。すべての動物において、両側とも骨折させることができる。X線分析を用いて各骨折の位置および方向を確認できる。骨幹の中央部8mmの外側の骨折、および斜行骨折またはらせん骨折は、本試験から除外できる。動物を屠殺した後、大腿骨の関節を外し、骨治癒を評価するためにX線写真を撮ることができる。各骨折標本の仮骨成熟度を再検査し、段階1を癒着なし、段階2を癒着の可能性あり、段階3をX線映像上で癒着あり、とする分類法に従って分類できる。
【0066】
(0075)マイクロCTで骨折を確認した後、100μL中に黄色ブドウ球菌約104〜約106cfuを含んだ分量を髄腔内に注入できる。
(0076)すべての釘はぴたりと適合しており、術後に他の固定は実施できない。麻酔から回復後、ラットはケージ内で自由に移動でき、適切な骨折の固定化および疼痛からの解放の指標として、活動および体重増加を毎日観察するとよい。すべての大腿骨について、反対側の大腿骨を対照に用いて、屠殺時に再度撮像可能である。7、14および21日目、すなわち屠殺時に、細菌および抗生物質の血中濃度を測定するために、血液試料を収集できる。採集した組織も、細菌感染について評価することができる。7、14および21日目に、試験動物から採った血液の一定分量について、抗生物質の負荷量および黄色ブドウ球菌の有無を評価することができる。
【0067】
(0077)当業者に公知の組織学的分析および形態計測分析のために、各試料からの動物5匹の大腿骨が利用できる。動物を屠殺した直後、骨折仮骨を取り出し、10%中性ホルマリン緩衝液中で2〜3日間、次いでBouin溶液中に2日間固定した後、10%酢酸、0.85%NaClおよび10%ホルマリンの溶液中で脱灰するとよい。釘は一体化できないので無菌的に回収し、抗生物質の負荷量、感染状態および表面特性の試験を行うとよい。標本をパラフィン中に包埋し、長さ方向に切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシン、またはMassonのトリクロームで染色できる。各標本における骨治癒の進行は、仮骨中の線維組織、軟骨、網状骨および成熟骨の相対的割合に基づいて等級を割り付ける尺度を使用して測定できる。等級1は線維組織、等級2は主に線維組織とある程度の軟骨、等級3は線維組織と軟骨が等量、等級4はすべて軟骨、等級5は主に軟骨とある程度の網状骨、等級6は軟骨と網状骨が等量、等級7は主に網状骨とある程度の軟骨、等級8は完全に網状骨、等級9は網状骨とある程度の成熟骨、ならびに等級10は層板(成熟
)骨を示す。各骨折の検査にはスライド4枚を使用するとよい。
【0068】
(0078)小柱骨構造および軟骨細胞の特性の組織形態計測による評価は、オステオ・メトリック(Osteo Metric)の画像分析ソフトウェア・システム[米国ジョージア州アトランタ(Atlanta)所在]で実施できる。小柱骨構造ならびに肥大軟骨細胞のサイズおよび個数(細胞密度)の測定は、界面領域(膜内骨形成により生じた骨膜下新生骨下方の領域および骨折大腿骨の末端)で行うことができる。肥大軟骨細胞の測定は、この界面から約258.5μm以内にある軟骨中で行うことができる。評価対象のパラメータには、細胞サイズ(mm2)および細胞密度(個数/mm2)が含まれる。軟骨内の骨の評価には、(1)類骨および新生骨で覆われた石灰化軟骨の針骨からなる小柱骨が占める面積、(2)これらの小柱骨の厚さ、ならびに(3)これら小柱骨中の骨および石灰化軟骨の割合、が含まれる。
【0069】
(0079)マイクロCT撮像のために、ラット生体の未処理の骨折骨について、0、7、14および21日目に扇ビーム式小型断層撮影装置(スイス国バッセルスドルフ(Bassersdorf )所在のスカンコ・メディカル・アーゲー(Scanco Medical AG ))を用いて評価できる。典型的な検査は、造影視野、検査体積の選択、自動的位置決定、測定、オフライン再構成および評価からなることができる。各試料に対して、骨折骨の全長4mmにわたり、スライス増し分14μmの微小断層撮影スライスを合計286片獲得することができる。ラット肢1本当たりの全検査時間は、14cm3のボクセルサイズに対して約30分とすることができる。その後の分析のために、当初測定したデータの部分体積を選択できる。この選択された関心領域(VOI)は、骨折部位の中心に位置付けることができる。VOIの大きさは、4mm3(286×286×286ボクセル)に設定することができる。次の段階で、骨組織は、閾値化手順を用いて骨髄から区別できる。フィルター幅、フィルター支持体および閾値(最大可能濃淡値の約10.2%)に対する同じパラメータを用いて、全試料を2値化することができる。3D可視化のために、拡張MC(marching cube)法アルゴリズムを使用してもよい。試験の完了時および動物の屠殺後に、治癒骨を従来技術によって評価することもできる。
【0070】
(0080)バイオフィルム形成を最小限とするためにインプラント上に共有結合したバンコマイシンなどの繋がれた生物活性分子の効力は、動物試験の最後にインプラントを回収してLB培養液中でインキュベートすることにより決定できる。インプラント表面に残存する細菌の個数を決定するために、連続希釈法を使用してもよい。反対側の未処理の釘を対照として使用できる。感染は全身性なので、いずれの釘も存在する細菌に等しく曝露されるはずである。
【0071】
(0081)インプラント表面に共有結合したバンコマイシンなどの繋がれた治療剤分子のin vivo条件での安定性は、表面修飾インプラント釘の回収後に決定できる。回収した誘導体化または修飾インプラントは、十分に洗浄し、次いで、たとえばバンコマイシンに対する抗体と反応させることができる。FITC標識二次抗体との反応および共焦点走査レーザー顕微鏡による撮像によって、in vivoインキュベーション後に残存する抗体の密度を大まかに推定できる。対照として、修飾済みだが埋め込んでいない基材釘も可視化して、バンコマイシンの表面密度を決定できる。
【0072】
(0082)標本を湿った状態に維持し、生理食塩水を染み込ませたガーゼに包み、試験日まで4℃の気密容器中に保存できる。試験日に、大腿骨を湿らせたまま室温に戻し、15mm長の骨幹を残して骨セメント中に載せ、機械的試験に掛けることができる。
【0073】
(0083)各大腿骨には、正確な位置合わせが確実で、インストロン油圧材料試験機を用いて並進移動を角移動に変換するように設計された治具を用い、破断するまで15度
/分のねじれを掛けてもよい。荷重−移動曲線は、プロッター上に連続的に記録し、平台型スキャナを用いてデジタル化し、Scion Imageベータ版3b(米国メリーランド州フレデリック所在のサイオン・コーポレーション(Scion Corporation ))を用いて分析できる。トルク最大量(N−m)、剛性(N−m/度)(比例範囲内で測定した荷重−変形曲線の傾き)、変形して破断する角度(度)、および破断エネルギー吸収(N−m×度)(荷重−変形曲線下の面積)が、計算できる。全体破断パターンを目視で検出でき、(I)骨折部位および隣接する母体骨を介した破断、または(II)骨折と無関係な破断(すなわち、母体骨だけを介するもの)として分類できる。
【0074】
(0084)すべてのデータを、群および時点間の統計的有意差(p<0.05)を検定するために、一元配置および二元配置ANOVAによって分析できる。群および時点間の多重事前計画比較を直交対比(SYSTAT、米国イリノイ州エバンストン所在のシスタット・インコーポレイテッド(Systat,Inc. ))を用いて実施できる。
【0075】
(0085)長骨の機械的性質と骨折部位における組織形態計測パラメータとの時間変化の相互依存性/関連性を調べるために、相関関係を算定できる。各組織形態計測パラメータに対する各機械的性質についてピアソンの積率相関係数rを経時的に決定できる。1実験群・1時点当たりの各変数の平均値を使用できる。帰無仮説、すなわち無相関は、有意水準5%に対して排除できる。
【0076】
(0086)細菌感染、埋め込みステントでの再狭窄、治療済み腫瘍での腫瘍再発、センサの汚染、または他の細胞状態を防止するために治療剤分子で修飾したインプラントについては、動物実験の結果は、望ましくない細胞が存在しないかまたは実質的に細胞数の減少した表面が得られるであろう。骨折骨または象牙質を修復するためのインプラントの場合には、インプラント表面上に望ましくない細胞が存在せずに、骨折が治癒する結果となろう。特に、抗生物質で修飾した髄内インプラントについては、感染を伴わない骨折治癒、マイクロCTおよび組織検査で評価される正常骨構造、ならびに組織検査で評価したときの生体適合性という結果となろう。
【0077】
(0087)結果の第1の尺度は、感染を伴わない骨折治癒にあるとすることができる。骨折部位に注入された細菌は、正常な骨治癒を撹乱すると思われ、インプラント表面に共有結合した特定のリンカーおよび治療剤分子が有効か否かをモニタするために使用し得る。有意の感染が骨腔中に存在する場合、治癒が遅延し、恐らく癒着が不能となり得る。したがって、感染に関しては、無菌対照に対する骨治癒度の評価が、表面修飾または表面誘導体化の有効性の尺度となる。たとえば、骨採集時に直ちに黄色ブドウ球菌の感染の有無を調べた試験結果を、細菌の存在が骨治癒に影響するか、ならびに、表面修飾が21日目までの感染除去に成功するかを直接測るために使用できる。骨構造は、マイクロCTおよび組織検査の使用によって治癒中に評価できる。組織評価は、治癒期間全体を通して該動物の小集団について、ならびに試験終了時に残りの動物について行うことができる。組織検査のデータをマイクロCTと相関させて、インプラント表面に共有結合した抗生物質および連結部の関数として、小柱骨構造、仮骨形成、機械的強度および細菌負荷量の相対的差異を評価できる。具体的には、骨折に関してマイクロCTの支援を用いると、釘との骨界面の密着性が決定できる。感染および骨折の場合、有効でないインプラント表面修飾は、釘周りの空間の増大、治癒不良および軟組織の損傷を示すと予想される。埋め込まれたセンサの場合、動物に試験量の薬剤を注入する動物試験期間中のセンサの感度は、センサ上の不都合な細菌増殖による汚染を除くように設計されたリンカーおよび治療剤分子を有する修飾埋め込みセンサ表面について、活性および機能を評価するために使用できる。本発明の実施形態は、以下の非限定的実施例を参照することにより、さらに理解することができる。
【実施例1】
【0078】
(0088)この実施例は、インプラント表面に生物活性ペプチドを共有結合させることによってインプラントを誘導体化できることについて説明する。
(0089)アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)リンカーを使用して、ペプチドまたはペプチド様部分を含む分子の反応を可能にすることができる。具体的には、APTSを誘導体化剤として使用して、RGD(配列番号1)ペプチドをシリコンウェハに共有結合させた。表面上のRGD(配列番号1)の存在は、飛行時間型二次イオン質量分析で決定し、表面粗さはAFMで測定した。APTS単独では、APTS連結RGD(配列番号1)との反応に比べて、粗さの上昇が大きかったが、これはおそらくAPTSが多層であった結果と思われる。(CH3)2NCHOによる洗浄およびシラン化処理ステップ後の超音波処理を含めることにより、確実に、共有結合したAPTS有機シランのみが表面に残存し、非結合のAPTSが除去される。この実験は、RGD(配列番号1)がAPTSリンカーを介してシリコンウェハに直接結合することを示している。
【0079】
(0090)骨芽細胞を修飾表面に結合させた。回転ディスク技術を使用して、加えた求心力の関数として細胞接着強度を測定することができる。骨芽細胞の接着強度は、細胞にかかる剪断応力(回転ディスクの中心からの距離の関数としての回転ディスクの速度)を計算することによって測定した。共有結合したRGD(配列番号1)は、物理吸着したRGD(配列番号1)、APTS修飾シリコンおよびシリコン単独と比べて、接着強度が有意に高かった。これらのRDG表面に播種した骨芽細胞は、大きな斑状の接着斑とインテグリンの発現の上昇を特徴とする十分延展した形態を示した。一方、対照表面に播種した骨芽細胞は延展が有意に低かった。さらに、インテグリン抗体で骨芽細胞の接着を阻害すると細胞接着が阻害された。
【0080】
(0091)理論に拘泥することは望まないが、RGD(配列番号1)処理表面への骨芽細胞の接着により骨芽細胞の成熟と石灰化が促進される可能性がある。RT−PCRで評価すると、修飾表面に播種した細胞では、骨芽細胞成熟の表現型マーカーの発現が増加した。さらに、アルカリホスファターゼおよびアリザリン染色も増加した。FTIR分析は、沈着した無機質が生体アパタイトであることを示した。
【実施例2】
【0081】
(0092)この実施例は、抗生物質である治療剤分子をどのようにしてインプラント表面に共有結合で固定できるかを示している。抗生物質をTi表面に固定することができ、繋がれた抗生物質はその抗菌活性を維持している。代表的な抗生物質としてバンコマイシンを使用することができる。
【0082】
(0093)この目的のために、350メッシュのTi6Al4V粒子の試料4.37gを5mLの50%MeOH/50%濃HClで室温にて20分間清浄化したが、この間、0、5、12、15および20分の時点で20秒間渦流混合(ボルテックス)した。粒子を二重脱イオン水5mLで2回洗浄し、次いで無水ジメチルホルムアミド[(CH3)2NCHO]5mLで4回洗浄した。残存している(CH3)2NCHO上清を除去した後、バキューム・アトモスフェア(Vacuum Atmosphere )のMO−20Mグローブ・ボックスの入口チャンバ内で真空下にて粒子を終夜乾燥させた。翌朝、粒子をグローブ・ボックスのアルゴン雰囲気チャンバに取り、無水トルエン10mLで2回洗浄し、ステンレス鋼スパチュラで再懸濁させた。次いで、粒子を5%(v/v)APTSの無水トルエン溶液5mLで60分間修飾したが、この間、0、10、30および60分の時点でステンレス鋼スパチュラにて粒子を攪拌した。次いで、粒子を10mLの無水(CH3)2NCHOで2回洗浄し、ステンレス鋼スパチュラで再懸濁させた。上清を除去し、グローブ・ボックスの入口チャンバ内で真空下にて粒子を終夜乾燥させた。
【0083】
(0094)翌朝、粒子をグローブ・ボックスの入口チャンバから取り出し、0.1168gの試料をアミン含量についてアッセイした。試料を0.35mM SnCl2、0.1Mクエン酸Na(pH5)1mLに再懸濁させ、次いで4%(w/v)ニンヒドリンEtOH溶液1mLと混合した。懸濁液を沸騰水浴に15分間浸漬し、2分間冷却後、5mLの60%EtOH/40%H2Oで希釈した。上清7mLの内の1mLを9mLの60%EtOH/40%H2Oで希釈した。この10倍希釈物のA570は0.324となった。ε570=1.5×104/M cmを使用して計算すると21.6μMとなり、これは修飾Ti6Al4V(ロット番号030712−01)について13.0μmol/gのアミノプロピル誘導体化に相当した。Ti6Al4Vのアミノプロピル修飾粒子は、リンカー、異常アミノ酸およびバンコマイシンのFmocカップリング用の支持体を提供することになる。
【0084】
(0095)グレン・リサーチ(Glen Research )の固相合成カラムにアミノプロピル−Ti6Al4V(ロット番号030712−01)を1.29g入れ、図1に示すレイニン(Rainin)PS3ペプチド合成装置のポジション2に挿入した。該支持体を5mLの無水(CH3)2NCHOで2回洗浄し、4倍モル過剰のN−[(ジメチルアミノ)−1−H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−l−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウムヘキサフルオロホスフェートN−オキシドで活性化した、4倍モル過剰のFmocアミノエトキシエトキシ酢酸リンカーと自動的にカップリングさせ、次いで20%ピペリジン/80%(CH3)2NCHOで自動的にFmocを脱保護した。脱保護済みの溶液および洗浄液を集めて、紫外線吸収分光分析を行った。2番目のAEEAリンカーをカップリングさせ、2番目のFmoc脱保護溶液と洗浄液を集めて、分析した。同様に、4倍モル過剰のバンコマイシンを同じ手順で自動的にカップリングさせた。
【0085】
(0096)3回目のカップリング後、カラムを5mLの無水(CH3)2NCHOで2回洗浄し、次いで真空下で終夜乾燥させた。脱保護溶液の吸収スペクトルから、Fmoc脱保護の9−ピペリジノジベンゾフルベン生成物に特徴的な301nmのピークが明らかとなった。ε301=7.78×103/M cmを使用すると、アミノプロピル−Ti6Al4V支持体に対して量的に2つのAEEAリンカーが付加されたものと計算された。VAN−AEEA−AEEA−NH−Pr−Ti6Al4V調製物(Van−Ti)(ロット番号030718−01)は、MALDI−TOF質量分析で分析し、次いでそのペプチドグリカン結合能および黄色ブドウ球菌成長阻止能について試験することができる。
【0086】
(0097)Ti粒子に繋げた部分の化学的決定は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析で分析した。分析前に、2,5−ジヒドロキシ安息香酸マトリックスで被覆した誘導体化Ti粒子を、サイファージェン試料チャンバ内で高真空下にて30分間脱気した。Tiの表面上への338nmレーザーの発射により分子イオンが形成され、結合の破壊と生成イオンのスペクトルの放出を誘導したが、この生成物イオンは強磁場により質量分析器内に加速導入された。観察された質量スペクトルを図2に示す。この状況での飛行時間は、分子イオンの質量の関数である。Ti表面からVAN断片をスパッタリングするこの最初の試みでは、多くの小さなピークが生じた。既知の質量、すなわちバンコマイシンの1449DaとAEEAリンカーの163Daに基づいて、推定上のVAN−AEEA−AEEA−NH−Pr−Ti6Al4Vの分子イオン本体の帰属を試みた。構造から、1537DaのピークはVAN−NH−EtOEtOHであり、1472DaのピークはNa+VANであり、1402Daのピークは脱カルボキシル化VANである可能性がある。
【0087】
(0098)Lys−D−[14C]Ala−D−[14C]Ala可溶性ペプチドグリカンのVAN−Tiへの結合。空のポリプロピレンバイアルおよび、Ti6Al4V、
アミノプロピル−Ti6Al4V(ロット番号030712−01)およびVAN−AEEA−AEEA−NH−Pr−Ti6Al4V(ロット番号030718−01)の試料100mgを1mLのPBSに再懸濁させ、室温で1時間揺動させた。上清を除去し、2.5nCiのLys−D−[14C]Ala−D−[14C]Ala可溶性ペプチドグリカンと置換し、2時間揺動させた。上清を除去し、ベックマン(Beckman )のLS 6000SCシンチレーション分光光度計で10mLのAquasol(商標)II(パーキンエルマー・ライフサイエンス社(PerkinElmer Life Sciences ))中で計測した。VAN−Ti調製物は、アミノプロピル−Ti6Al4Vおよび非修飾Ti6Al4V(15%)よりも多くの(50〜60%)標識ペプチドグリカンを結合した。非特異的結合の可能性を低減させるために、洗浄工程のPBSを0.1%(w/v)ウシ血清アルブミンのTBST溶液に置き換えて実験を繰り返した。試料を室温で4時間、さらに4℃で終夜揺動させた。PBSで3回洗浄して未結合の標識を除去した後、上清を除去して、計測した。アルブミンによるブロッキング工程後に、各試料で結合量は減少した。バンコマイシン含有誘導体は25%の標識を結合したが、他の2種の誘導体は5%以下しか結合しなかった。
【実施例3】
【0088】
(0099)この実施例は、インプラント表面に結合した治療剤抗生物質分子バンコマイシンVAN−Tiの黄色ブドウ球菌感染に対する殺菌活性について説明する。
(00100)Tiに接ぎ木された抗生物質の殺菌活性を評価するために、以下の実験を実施した。黄色ブドウ球菌の終夜培養物10μLをLB/1%デキストロース2mLに接種し、激しく通気撹拌しながら37℃で2時間インキュベートし、ペレット化し、1mLに再懸濁させ、この培養物10μLを使用して、PBS/1%デキストロースとAPTS誘導体化Ti、VAN−TiまたはPBSのみを200μLを含むウェルに接種した(修飾Ti試料は使用前に3回PBSで洗浄した)。試料を37℃で1時間インキュベートし、PBSで洗浄し、Live/Dead(登録商標)BacLight(商標)細菌生存率用キット(モレキュラー・プローブ社(Molecular Probes))で染色した。生菌および死菌を共焦点顕微鏡で可視化した。この処理から得られた代表的視野の結果を図3に示す。リンカーAPTSで誘導体化したTi上でインキュベートした黄色ブドウ球菌を上段(A)および(B)に示す。ほとんどの細菌は緑色(淡灰色)に染まり、死細胞のみが赤色蛍光(淡灰色)を示す。多くの細菌が明らかに生きており、どの細菌の培養でも予想されるように少量の赤色の染色が認められる。下段(C)および(D)は、バンコマイシンを繋いだ表面(VAN−OEG−APTS−Ti)上でインキュベートした黄色ブドウ球菌を示している。生菌の菌叢が減少して大部分が黒色であること(C)と同時に、赤色蛍光の死菌の数の増加(淡灰色(D))に留意されたい。この結果は明らかに、バンコマイシンで誘導体化したTi表面はその抗生物質活性を維持しており、付着した黄色ブドウ球菌を殺滅することを示している。この結果は、活性抗菌表面がインプラント上に創製されたこと、このようなインプラントは補綴物周辺の感染の治療または予防に有用であることを示している。
【実施例4】
【0089】
(00101)この予測的実施例は、治療剤分子がインプラント表面に結合した表面の調製および特性決定について示すものであり、該表面は、血行性感染源から生じる感染細菌を根絶するための長期リザーバを保持しながら、骨細胞の付着を増強し、それにより組織とインプラントとの一体化を促進する。
【0090】
(00102)該インプラントは、Tiに対して共有結合したRGD(配列番号1)含有ペプチドを含み、ペプチド−Tiハイブリッドを創製してもよい。このことは、一部のRGD(配列番号1)モチーフが治療剤分子チゲサイクリンを固定化するためのリンカーの一部として機能すると思われるので、混合型表面を提供しうる。RGD(配列番号1)
とチゲサイクリンとの連結は不安定なため、該抗生物質が放出されると骨統合を促進するための追加のRGD(配列番号1)が露出するであろう。
【0091】
(00103)骨統合を増強するために、RGD(配列番号1)ペプチド・モチーフを使用できる。RGDペプチド・モチーフは、最も一般的な細胞結合性リガンドであり、主要な骨タンパク質(たとえば、I型コラーゲン、オステオポンチンおよび骨シアロタンパク質)内に含まれている。細胞と表面とをじかに接続するだけでなく、RGD(配列番号1)含有ペプチドとインテグリン受容体との相互作用は、骨芽細胞の機能および骨発生の調節に重要な役割を演じている。骨においては、これらのマーカーには、アルカリホスファターゼ活性の上昇、オステオカルシン、オステオポンチンおよびI型コラーゲンの発現増加、ならびに無機質沈着の徴候が含まれる。RGD(配列番号1)モチーフの結合活性は、隣接するアミノ配列によって調節される。たとえば、フィブロネクチンの結合部のループ領域は、RGD(配列番号1)、ならびに、それだけに限らないが、(PGVDYTITVYAVTGRGDSPASSKPVSINYR)(配列番号6)などの隣接アミノ酸を含んでいる。このような隣接アミノ酸配列の作用は、Tiディスクに共有結合した該修飾ペプチド上のRGD(配列番号1)モチーフおよび固定部の各側にある隣接アミノ酸の個数および種類を漸次増加させることによって決定してもよい。
【0092】
(00104)細胞をRGD(配列番号1)修飾表面上に播種し、細胞の結合性と分化とを評価する。細胞の結合性は、細胞結合アッセイおよび回転ディスク手法を用いて評価し、分化は、骨芽細胞表現型マーカーのRT−PCR評価、ならびにアルカリホスファターゼ活性および無機質沈着の測定を用いて評価する。試験対照には、RGE、RGES、スクランブル化されたペプチドなどのモチーフ、ならびに非修飾Tiおよびリンカー修飾Tiが含まれることになる。
【0093】
(00105)スペクトルの広い新世代抗生物質であるチゲサイクリンをこの接着タンパク質の背景にある金属に繋ぐことによって、骨形成性であり殺菌性でもある表面が生成する。図8に示すような酸不安定なマレアミドまたはヒドラゾンの連結部によって、図9(A)に例示するように、チゲサイクリンをTi−RGD(配列番号1)に連結してもよい。メチルマレアミド、ヒドラゾンのいずれの連結部も、生理的pHでは安定性を示すが、pH5〜6の弱酸中で容易に加水分解する。Tiインプラント周辺の保護された環境中では、細菌の増殖によりpHの低下した区域ができる(溶液中では、この低下は>4pH)。これらのリンカーは、弱酸性条件下(pH5.0〜6.0)で開裂し、チゲサイクリンを細菌粘液中に放出し、該粘液中ではチゲサイクリンが付着微生物を殺滅するであろう。チゲサイクリンが活性を示すには、Ti表面から放出され、細菌によって取り込まれねばならない。Ti表面からのチゲサイクリンの放出は、酸性の細菌性微小環境によって誘発される。放出されたこの抗生物質は、次いでこれらの細菌を標的とすることになる。したがって、感染は、時間および部位に特異的にその根源で除去される。酸不安定リンカーの開裂による抗生物質の放出によって、図9(B)に例示するように、RGD(配列番号1)モチーフが露出される。
【0094】
(00106)修飾Ti表面を、抗生物質の安定性および/または酸性条件下での放出速度、ならびに付着した黄色ブドウ球菌に対する殺菌活性について評価できる。該修飾表面が骨芽細胞の増殖および成熟化を支持するか否かを、低レベルの細菌感染が存在する場合としない場合の両方の状態において判定するために、該修飾表面の特性決定を実施してもよい。
【0095】
(00107)Ti合金(Ti6Al4V)は、外科処置に用いるものと同じ高度研磨ディスクとして、米国ニュージャージー州アレンデール(Allendale )所在のストライカー・ハウメディカ・オステオニクス(Stryker Howmedica Osteonics )から購入される。
表面を使用前にHCl/MeOHで清浄化して、SEMで表面の平滑性を評価する。
【0096】
(00108)Ti表面の修飾。RGD(配列番号1)ペプチドを、活性化した平滑なTi表面にシラン化学反応を用いて共有結合させる。手短に述べれば、ディスクを無水トルエンで洗浄後、1.0〜5.0mMの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)のトルエン溶液で45〜90分処理する。次いで、ディスクをトルエン中、さらにジメチルホルムアミド(CH3)2NCHO中で超音波処理して、過剰の反応剤を除去する。このアミノ・ディスクは、リンカー、異常アミノ酸およびチゲサイクリンをFmocカップリングするための基盤を提供する。
【0097】
(00109)酸不安定チゲサイクリンのTi表面への固相カップリング。5倍モル過剰量のFmoc−アミノエトキシエトキシ酢酸リンカー(AEEA、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems))を、レイニン社のPS3ペプチド合成機に搭載した研究室製反応カラム中に担持されたTi−アミノ・ディスクに、Fmoc試薬を用いて無水条件下でカップリングする。RGD(配列番号1)もしくはRGDS(配列番号2)配列、またはさらに延長した配列、あるいは対照配列を、通常のFmocカップリングによってリンカーのN末端から組み込む。酸不安定なチゲサイクリン誘導体を0.5当量だけ添加することにより、図10(A)に例示するように、RGD(配列番号1)またはRGDS(配列番号2)ペプチドの少なくとも50%が確実に最初から遊離しているようにする。
【0098】
(00110)最後のアミノ酸Fmoc保護基をピペリジンで除去した後、N末端アミンを、無水(CH3)2NCHO中の0.5当量の2−メチルマレイン酸無水物+1当量のジメチルアミノピリジン(DMAP)と1時間反応させる。次いで、未反応の過剰N末端を無水酢酸でキャッピングする。末端にメチルマレイン酸を有するTiディスクを、(CH3)2NCHOで洗浄後、(CH3)2NCHO中の1,2−ジアミノエタン1当量+N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DPC)2当量と無水条件下で2時間反応させ、その後(CH3)2NCHOで2回洗浄する。(CH3)2NCHO中のカルボキシレート形チゲサイクリン2当量を、生成した末端アミンとFmoc活性化剤HATUを用いてカップリングさせることにより、(CH3)2NCHOで最終洗浄の後、所望の酸不安定なTi−Si−RGDS(配列番号2)−mTIGが産生される。
【0099】
(00111)最後のアミノ酸Fmoc保護基をピペリジンで除去した後、N末端アミンを無水(CH3)2NCHO中の0.5当量のコハク酸無水物+1当量のジメチルアミノピリジン(DMAP)と1時間反応させる。次いで、未反応の過剰N末端を無水酢酸でキャッピングする。コハク酸を有するTiディスクを(CH3)2NCHOで洗浄後、(CH3)2NCHO中のt−ブチルカルバゼート(Boc−NHNH2)1当量+N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DPC)2当量と無水条件下で2時間反応させ、その後(CH3)2NCHOで2回洗浄する。Boc保護基を、(CH3)2NCHO中の20%CF3CO2Hで分解させる。生成したヒドラジドを、次いで(CH3)2NCHO中のエチルケトン形チゲサイクリン2当量と24時間カップリングさせて、(CH3)2NCHOで最終洗浄の後、所望の酸不安定なTi−Si−RGDS(配列番号2)−hTIGを産生する。
【0100】
(00112)MALDI−TOF質量分析。Ti表面に繋いだ部分の化学的決定は、pH2の0.1% CF3CO2H水溶液でディスクから取り出した生成物のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析によって決定する。修飾チゲサイクリンのフラグメント化から生じる分子イオンの特性決定は、非修飾チゲサイクリンから得られる値および公表された文献値と比較することにより、金属との連結およびチゲサイクリンの修飾が意図した通りに起こっていることを確認する。酸洗浄済
みTiディスク上に残存するペプチドの特性を決定するために、Tiディスクをシナピン酸マトリックスで被覆し、分析前に30分間、サイファージェンの試料チャンバ中で高真空にて脱気する。分子イオンの形成は、338nmのレーザーをTi表面上に発射し、結合の分解および親イオンの放出を引き起こすことによって実現される。分子イオンの固有電荷のために、親イオンおよび任意のフラグメントが加速されて質量分析計内に導入され、質量分析計では飛行時間が分子イオンの質量の関数となる。チゲサイクリンおよびRGDS(配列番号2)ペプチドの分子イオンのコンピュータ処理による同定は、チゲサイクリンについての報告値および誘導体化していないチゲサイクリン単独で生成するパターンとの比較に基づいて行う。
【0101】
(00113)修飾Tiの表面の特性を、原子間力顕微鏡(AFM)および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて決定する。AFM撮像は、流体条件下でDimension(商標)Bioscope(商標)原子間力顕微鏡を用いて行う。トポグラフィ画像は、公称バネ定数20〜100N/mの一体型カンチレバー上のシリコン・チップを用いたタッピングモードで得る。画像は、別の日に調製した少なくとも2種の試料、および各試料上の肉眼的に別々の少なくとも3つの区域から得る。走査区域は、10nm×10nmから10mm×10mmの範囲とする。SEM画像は、電界放射電子銃(FEG)を備えた日本電子株式会社(Jeol)の6300FVを用いて得られる。FEGのために、際立った分解能が0.5keVもの低い加速電圧で実現でき、それによって、コーティングを必要とせずに細胞などの非電導性材料を撮像することができる。1keVでの点間分解能は7nmで、30keVでは1.5nmになる。Tiとペプチドとのハイブリッドの厚さおよび化学量論比は、ラザーフォード後方散乱分光法で決定する。5SDH加速器(米国ウィスコンシン州ミドルトン(Middleton )所在のエレクトロスタティックス・コーポレーション(Electrostatics Corporation))は、試料に衝突する0.5〜5MeVのα粒子を生成する。後方散乱粒子のエネルギーを、エネルギー分解能15keVの固体検出器で検出する。散乱の幾何学的特徴に応じて10nm〜1nmの範囲の深度分解能を有するRUMP(米国ニューヨーク州イサカ(Ithaca)所在のコンピュータ・グラフィック・サービス(Computer Graphic Service))ソフトウェアを用いて、該エネルギーを深さに変換する。酸化チタンならびに不純物(およそ原子%)の厚さおよび化学量論比は、標準物質なしに決定できる。N(アミン)、O(酸化物)およびC(APTS)の濃度および空間分布は、オージェ電子分光法(AES)によって決定する。AESスペクトルは、パーキンエルマー(Perkin-Elmer)のPhi 600走査型オージェマルチプローブシステムで得られる。試料を、電流0.1mAで3keVの電子ビームで照射する。方位分解能は100nmである。表面電荷は、接触角の角度測定で評価する。水との静的接触角を、自家製の接触角角度計を用いて測定する。試料台の上方に支持されたマイクロリッター・シリンジの先端から、水滴2mLを垂らす。水滴の画像を捉え、その接触角をエーティーアイマルチメディア(ATI Multimedia)およびサイオン・イメージ(Scion Image )のプログラムを用いて測定する。
【0102】
(00114)RGD(配列番号1)の定量。ペプチド分布を2つの方法で定量する。第1法は、放射標識RGD(配列番号1)を使用することであろう。手短に述べると、RGD(配列番号1)含有ペプチドを125Iで放射標識する。放射標識したRGD(配列番号1)含有ペプチドを、前記のように表面中に導入する。ペプチドの分布および密度は、オートラジオグラフィーおよびシンチレーション計測で決定する。第2法は、蛍光標識RGD(配列番号1)を使用することであろう。手短に述べると、市販の合成ペプチドを、末端クロロアセチル基の代わりに蛍光タグを付けて生成する。シグマ(Sigma )から購入したペプチドを、Alexa Fluor(登録商標)標識キット(米国オレゴン州ユージーン(Eugene)所在のモレキュラー・プローブズ(Molecular Probes))を用いて蛍光標識する。ペプチドをカラムで分離した後、上昇HETLC(72)を用いて展開する。次いで精製ペプチドを前記のようにTiディスク中に導入し、共焦点顕微鏡を用いて密
度および分布に関して定量化する。
【0103】
(00115)Ti上の酸不安定チゲサイクリンの量および密度の検出は、分光蛍光分析および落射蛍光顕微鏡観察によって決定できる。繋がれたチゲサイクリンを、チゲサイクリン固有の蛍光を用いて撮像する。fmol〜nmol範囲の既知量のチゲサイクリンとの比較によって、量を推定する。出願人らがかつてTi表面を撮像するために成功裏に使用したノーラン・インスツルメンツ(Noran Instruments )の共焦点走査レーザー顕微鏡を用いてデジタル画像を収集する。共焦点性により、金属表面からの異相反射光を除去できる。
【0104】
(00116)Tiとチゲサイクリンとのハイブリッドを、PBS(pH5.0〜8.0)、弱酸中で1〜180分インキュベートしてもよい。PBSのpHは、イオン強度を一定に保ちながら、H3PO4:NaHPO4比を用いて調節される。この試験の結果は、繋がれた分子を放出するために最も「活性な」pH(たとえば、pH5.0、5.5、6.0、ならびに生理的pH(7.4))を示すであろう。放出は経時的に評価してもよく、その場合抗生物質の放出を1、2、3および24時間の時点で測定する。
【0105】
(00117)繋がれたチゲサイクリンの黄色ブドウ球菌感染に対する殺菌活性。このような表面の殺菌活性を、初期接種量103〜106の黄色ブドウ球菌に対して試験するが、この初期接種量は、これらの実験に用いる修飾Tiディスク試料177mm2の1%未満を占める濃度である。修飾または未修飾のディスクをUV光照射により滅菌し、24ウェル組織培養プレートのウェル中に入れる。10%FBSを含有するDMEM0.5mLを添加し、培地に103〜106感染単位の黄色ブドウ球菌を接種する。接種物をロータリー・シェーカーで5分間通気攪拌して混合した後、通常の組織培養条件下、すなわち攪拌せずに5%CO2の加湿インキュベーター内で37℃にてインキュベートする。細菌の増殖を、時間(1〜24時間)の関数として測定する。対照表面によって、Ti単独上での細菌の増殖、可溶性チゲサイクリンの細菌繁殖に対する作用、およびリンカー単独の作用を試験する。細菌の増殖曲線は、60分毎に4時間、DNAの抽出およびPCRを用いた測定によって決定する。付着していない細菌を回収し、ペレット化し、100mLのPBS中に再懸濁する。表面上の付着細菌は、100mLのPBS中に浸漬させる。細胞の溶解は、4回の凍結/融解サイクル後、遠心分離することによって実現できる。上清は、PCRによる細菌数の決定に使用する。手短に述べると、当業者に公知のように、上記DNA溶液10〜20mLが、Tris−KCl−MgCl2緩衝液およびAmpliTaq(登録商標)を用いる100mL反応容積中に使用される。プライマーを、30〜35サイクル後に881bpの生成物を生じるような、16S rRNAに対するものとする(順方向:CGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG、逆方向:GGTTGCGGCCGTACTCCCCAGG)。検出は、アガロースゲル電気泳動による分画後、臭化エチジウムによる染色によってなされる。さらに、細菌繁殖の結果としてpHの全体的変化が起こっているか否かを判定するために、pH測定を行う。並行して、細菌数を、連続希釈液を寒天プレート上に播種した後の直接計数によって測定する。前記の黄色ブドウ球菌を含む培養物から上清を除き、表面をDMEM2mLで洗浄し、同一培養物からの上清と合わせる。攪拌した後、この上清を、細菌数を決定するために、0、102、104、106の希釈倍率でLB寒天プレート上に播種する。プレート上のコロニー数を計数できるように、追加の希釈倍率を適宜使用する。モレキュラー・プローブズ(Molecular Probes)の「Live/Dead BacLight」キットを、示差染色に基づいて細菌生存率を可視化するために使用できる。Live/Dead BacLightシステム(モレキュラー・プローブズ)を用いて、生菌および死菌をSYTO9+ヨウ化プロピジウムで染色する。生細胞が緑色蛍光を発する一方、膜が損傷した細胞は赤色蛍光を発する。デジタル画像を記録し、生菌:死菌の比を任意の視野中で二重免疫蛍光法を用いて決定する。
【0106】
(00118)繋がれたチゲサイクリンの生体適合性。生体適合性は、抗生物質が繋がれた表面上でMC3T3類骨芽細胞を培養することによって決定される。MC3T3−E1細胞を、10%FBS、アスコルビン酸25mg/mLおよびβ−グリセロリン酸5mMを含むDMEM中で維持する(石灰化試験のため)。1、5および10日目に、付着細胞の個数をBCECF−AMアッセイで決定し、実際の細胞数をDNA分析で測定する。骨芽細胞の表現型の発現を分析するために、Osf−2、オステオカルシンおよびI型コラーゲンの発現をRT−PCRで評価する。7および14日目の細胞の機能状態を、アルカリホスファターゼの活性を測定することによって決定する。石灰化能は、FT−IRにより細胞層をアパタイト形成の徴候について調べることによって評価する。
【0107】
(00119)細胞存在下における繋がれたチゲサイクリンの殺菌活性および生体適合性。修飾表面は、骨芽細胞の増殖を許容し、かつ細菌存在下でのみ抗生物質を放出すべきである。前記試験の結果に基づき、2種類の濃度の細菌をMC3T3−E1類骨芽細胞と共に培養する。骨芽細胞の表現型および機能に対する作用を前記のように評価し、細菌の生存性も評価する。
【0108】
(00120)結果の尺度には、Tiに繋いだ修飾チゲサイクリンの表面密度、および表面に結合したチゲサイクリン誘導体の組成が含まれる。Ti表面へのチゲサイクリンの全体的な結合率は、80〜90%になり得る。提案された反応で修飾されるのに十分な反応性を有しているアミド基は1つだけなので、主として1つの反応生成物、すなわち本明細書に記載の生成物が形成されると予想される。この予測は、MALDI−TOF質量分析で試験される。他の基が誘導体化される場合には、代替の保護基を用いて、そのアミド基だけがTi−リンカー末端アミンとの反応に利用可能であることを保証する。チゲサイクリンのTi表面への結合後、十分な洗浄操作を採用することにより、該表面が、活性を有し、未修飾で、繋がれていない抗生物質を含まないようにする。化学量論量未満のカップリングの場合、リンカーだけが金属表面上に繋がれている場合もある。該処理によって80〜90%の修飾が起こると予想されるので、未反応リンカーの濃度は、修飾チゲサイクリンの濃度に比べて低くなる。Ti表面上の抗生物質の実際の密度が不均一であれば、新たな均一なTi表面を確実に得るために、追加の被覆法が採用される。酸不安定な結合について、酸性溶液が有意かつ時間依存性のチゲサイクリン放出を起こすと予想される。中性pH領域では、抗生物質の放出が最小限となるべきである。いずれかの酸不安定な結合が速すぎる放出を起こすならば、その結合を修飾して電子密度を低下させ、プロトン化を起こし難くしてもよい。新規な抗生物質が生成するように、該結合を、他の抗生物質をTi表面に繋ぐために使用してもよい。このような操作によって、生物活性物質を固体合成表面中に導入するための送達系がもたらされる。
【0109】
(00121)RGD(配列番号1)/抗生物質で修飾された表面によって細菌増殖が抑制されるはずである。本質的に二次元の系において殺菌作用を提供するのに必要な抗生物質濃度の決定は、上記の実験から決定されよう。抗生物質が約40nm2を占めるということに基づいて、付着細菌が1mm2を占めるとすれば、約25,000個の抗生物質分子が、直接細菌表面で放出/相互作用のために繋がれている状態になる。予備的データに基づけば、この繋がれた抗生物質の数は、殺菌性感染を根絶するのに十分なはずである。詳述した実験により、PCRおよびコロニー形成アッセイによる付着細菌および浮遊細菌の個数の測定が可能となり、また生菌または死菌に特異的な色素を用いて、表面上および溶液中の生菌/死菌比を可視化することも可能となる。繋がれた抗生物質分子の個数が不十分であれば、RGD(配列番号1)/APTS結合を介する多価結合を使用して、チゲサイクリン濃度を増大させてもよい。
【0110】
(00122)RGD(配列番号1)表面は、Ti表面上での骨芽細胞の成熟化を増強
するはずである。ペプチドが接ぎ木された表面に抗生物質を付加することによって、細胞の接着または骨芽細胞の成熟化が阻害されないはずである。この予測は、表面上にはるかに高濃度の抗生物質が固定化された他の抗生物質含有表面がこのような成熟化を支持するという事実に基づいている。修飾表面が骨形成を遅らせる場合は、骨形成を促進するために異なる表面濃度の抗生物質を使用することになろう。
【0111】
(00123)RGD(配列番号1)ループ領域の結晶構造は、このモチーフがフィブロネクチン分子内の伸長したβヘアピン様ループ上にあることを示している。このループ領域に基づいて、より長いRGD(配列番号1)ペプチドを使用することにより、細胞の接着および成熟化をさらに促進するための三次元配置の修飾が可能と思われる。この場合、Tiへの骨芽細胞の結合に最適な、必要なループ領域の長さを決定することが可能と思われる。
【実施例5】
【0112】
(00124)この実施例では、細菌からの分泌物が細胞活性の指標として使用可能であり、化学修飾表面から治療剤分子を放出させることを、細菌増殖と全体pHの変化との関係を使用して説明する。
【0113】
(00125)付随するpH変化および細菌増殖を測定するために、無血清DMEMに大腸菌を接種し、この細菌の増殖と溶液のpHを6時間にわたり37℃において、細菌用シェーカー中で監視した。この間、細菌は対数増殖期のままであり、溶液のpHはpH4単位分よりも減少し、DMEMはその標準的な弱塩基性のpHから5.0未満のpHになった。これらの結果は再現可能であった。放出される酸は、生理的状態の分泌物に応答して治療剤分子を放出する修飾表面を有するインプラントを設計するのに活用可能な、いくつかの環境上の手がかりの一例である。
【実施例6】
【0114】
(00126)この予測的実施例では、抗生物質リファンピンなどの治療剤分子を、Ti酸化物表面を備えたインプラント表面にカップリングするのに使用可能な方法および組成物について記載する。このカップリングについて、弱酸に不安定な結合を使用してさらに説明する。そのような修飾インプラント表面およびそれらの放出速度を特徴付けるのに使用する方法および手順について詳述する。
【0115】
(00127)リファンピン(C43H58N4O12、822.95Da)は、大きな多環式抗生物質の一例である。抗生物質リファンピン((2S*,12Z,14E,16R*,17R*,18S*,19S*,20S*,21R*,22S*,23R*,24E)−5,6,9,17,19,21−ヘキサヒドロキシ−23−メトキシ−2,4,12,16,18,20,22−ヘプタメチル−8−[N−(4−メチル−1−ピペラジニル)ホルムイミドイル]−2,7−(エポキシペンタデカ[1,11,13]トリエンイミノ)ナフタ[2,1−b]フラン−1,11−デオン21−アセテート)の非活性な17−OH基を、2−メチル−4−チオエチルアミドマレイン酸とのエステル化により修飾してもよい。この反応は、標準として反応物質を使用してTLCで監視し、生成物はHPLCおよび質量分光法で特性決定してもよい。修飾リファンピン(sm−Rif)を、Ti−Sの生成を介して、またはAPTSの化学反応を使用して、滑らかな活性化Ti合金表面に共有結合させてTi−O−SiRが結合した基を生成することが可能である。反応後、Ti上の抗生物質の表面密度ならびに固定の程度を特性決定してもよい。表面密度は、蛍光能を有するトップダウン式マイクロタイター・プレート・リーダーを使用して測定してもよい(Ti表面で乾燥させた既知量のリファンピンと比較することによって量を決定できる)。sm−Rifの分布は落射蛍光顕微鏡を使用して決定してもよい。表面に繋がれた部分の特性決定はマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALD
I−TOF)質量分析で決定できる。sm−Rifのフラグメント化から得られる分子イオンの特性決定は、非修飾リファンピンから得た値および公表された文献値と比較すればよい。
【0116】
(00128)sm−Rifなどの繋がれた分子の、Ti表面との連結の安定性およびTiからの放出は、時間とpHの関数として決定しうる。種々の時間における表面からの抗生物質の放出速度に対するpHの影響を測定することが可能である。pHの変化によって放出された全ての溶解リファンピンを、分光光度計または分光蛍光計で決定してもよい。繋がれた分子の生物活性を、黄色ブドウ球菌の菌叢を使用するディスク拡散アッセイを使用して測定してもよい。このアッセイでは、表面誘導体化インプラントまたは化学修飾インプラント上の活性抗生物質は、ディスクの周囲に増殖阻害帯域を生成し、既知濃度の抗生物質との比較によりインプラント表面の抗生物質の活性濃度が推定される。
【実施例7】
【0117】
(00129)この予測的実施例では、リファンピンの修飾についての特定の条件および修飾リファンピンのチタンディスクへの結合について開示する。
(00130)合成反応をすべて滅菌溶液で実施して、その後の細胞培養前のUV滅菌を最小限にすることが可能である。シグマ社(Sigma )またはバイオモル・リサーチ・ラボラトリーズ社(BIOMOL Research Laboratories)から、推定純度>95%のリファンピンを得ることができる。
【0118】
(00131)smRifの合成。2−チオエチルアミンを、乾燥CH3CN中の2−メチルマレイン酸無水物1.5当量とジメチルアミノピリジン(DMAP)0.1当量と共にグローブ・ボックス中、アルゴン下25℃で攪拌しながら、2−メチルマレイルチオエチルアミドに完全に変換するまで反応させることが可能である。変換は70%CHCl3/30%MeOHで展開するシリカTLCで測定できる。未反応の2−メチルマレイン酸無水物は水性NaHCO3を加えることによって加水分解できる。次いで、2−メチルマレイルチオエチルアミド生成物を溶液から1容のCHCl3で2度抽出すればよい。有機層を水性NaHCO3で再び洗浄し、次いで2容のペンタンに加えて、2−メチルマレイルチオエチルアミド生成物を沈殿させることが可能である。この生成物はTLCおよび質量分光法で特性決定できる。少なくとも90%純粋な生成物を、乾燥CHCl3中、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)1.2当量を加えてリファンピン0.5当量の17−OHにエステル化することができるが、アルゴン下25℃で攪拌しながら17−(2−メチル−4−チオエチルアミドマレイル)リファンピン(sm−Rif)に完全に変換させ、50%CHCl3/50%MeOHで展開するシリカTLCでアッセイすればよい。得られるN,N’−ジシクロヘキシル尿素を沈殿させることが可能であり、次いでこの溶液を1容のジエチルエーテルで抽出すればよい。次いでCHCl3相を2容のペンタンに加えて、sm−Rif生成物を沈殿させることが可能である。この生成物はC18逆相HPLCおよびMALDI−TOF質量分光法で特性決定できる。
【0119】
(00132)生成物形成のHPLCによる監視。Sm−Rifを、夾雑しているリファンピンおよび2−メチルマレイルチオエチルアミドから精製することが可能であり、該精製には、10×250mmのAlltima(商標)C18カラムでのアルゴンフラッシュ逆相液体クロマトグラフィーで、30分間の10%CH3CN/90%H2Oから90%CH3CN/10%H2Oまでの勾配を用いて、238nmで監視しながら2mL/分で溶離すればよい。
【0120】
(00133)新たなTi表面を、滑らかなTiディスクを硝酸中でインキュベートして酸化物コーティングを除去し、次いで窒素雰囲気中、脱気した無酸素PBSで十分にすすぐことによって生成できる。この新たなTi表面と、無酸素PBSに溶解したsm−R
ifを、不活性雰囲気中30分間25℃で反応させることが可能である。Tiへのチオールの結合は、酸素不在下で効率よく進行する好ましい反応である。対照として、2−メチルマレイルチオエチルアミド前駆体も新たなTi表面と反応させることが可能である。
【0121】
(00134)別例として、sm−Rifを、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(GPTS)でシリル化したチタン表面とカップリングして、チオエーテルTi−O−Si(CH2OH)(CH2)−Sm−RIFを形成してもよい。
【0122】
(00135)非加水分解性Ti−Rifを同様のエステル化経路で合成可能であり、3−チオプロパン酸をリファンピンの17−OHと縮合してから上記の通り精製および特性決定すればよい。Ti表面への結合は上記の通りでよい。
【0123】
(00136)分光測光法または蛍光法によるTi上のリファンピンの量および密度の検出。リファンピンは、酸化後の蛍光法により検出できる。固定化したリファンピンを含有する表面またはリファンピンを含有する溶液のいずれかをPBS中の6%H2O2で5分間酸化することができる。次いで等容のPBS、pH7.9を加え、インキュベーションを25分間続ければよいが、このときにリファンピンの蛍光は最適である。蛍光はさらにおよそ30分間持続し、常時行われ得る酸化の数を制限する。表面でのリファンピンの酸化および蛍光検出は、インプラント表面に共有結合したリファンピンの量の決定に使用できる。溶解したリファンピンの測定には、感度0.1μg/mLの範囲の上記の蛍光法、または分光測光法(λ=334nm、ε=27000g−モル/l)のいずれかを使用できる。
【0124】
(00137)MALDI−TOF質量分光法。シナピン酸マトリックスで被覆した誘導体化Tiディスクを、分析前に、高真空下にてサイファージェン試料チャンバ内で30分間脱気するとよい。338nmのレーザーをTi表面に照射して、結合を切断して親イオンを放出させることによって、分子イオンを生成することが可能である。分子イオンの固有電荷により、親イオンおよび任意のフラグメントは加速されて質量分析計内に入り、質量分析計では飛行時間が分子イオンの質量の関数となり得る。Ti−smRifによる分子イオンのコンピュータ処理による同定は、リファンピンの報告値、および非誘導体化リファンピンのみによって生成したパターンとの比較に基づいて実施することができる。
【0125】
(00138)Ti−smRifハイブリッドをPBS(pH5.0〜8.0)中で1〜180分間インキュベートすることが可能である。PBSのpHは、イオン強度を一定に保持しながら、H3PO4:NaHPO4比を使用して調節することが可能である。最も「活性な」pH値は、この結合に関してはpH5.0、5.5および6.0と予想され他の結合では異なると思われるが、抗生物質の放出を1、2、3および24時間の時点で測定できる時間経過で決定するとよい。同時に、該表面をPBS(pH7.4)中でインキュベートして、標準の生理学的pH下での放出速度を決定することも可能である。
【0126】
(00139)ディスク拡散アッセイ。6mmの滅菌フィルター・ディスクを黄色ブドウ球菌(ATCC25923)培養物の十分に増殖した菌叢上に直接置き、既知容量(20μL)の希釈した抗生物質溶出物をそのディスク上にピペットで分注できる。終夜インキュベーションした後に得られた、細菌が増殖していない隣接する清浄な帯域の面積を測定し、標準的な一連の既知用量のリファンピンで清浄化された領域と比較することが可能である。リファンピンの1μg/mL溶液は4〜5cmの清浄な帯域を与えるはずである。このアッセイの感度の下限は、10ng/mLの範囲であると予想される。
【0127】
(00140)抗生物質をTi表面に結合させた後、徹底した洗浄手順を用いて、表面が非修飾で繋がれていない活性な抗生物質を含有しないようにすることが可能である。弱
酸性条件下で修飾インプラント基材から放出された活性抗生物質の測定は、黄色ブドウ球菌を標的細菌として使用するディスク拡散アッセイで測定してもよい。
【実施例8】
【0128】
(00141)この予測的実施例では、本発明の組成物からの抗生物質の放出により骨芽細胞の増殖および成熟化を維持しながら細菌数が低下するか否かを判定するために用いる操作、方法および組成物について説明する。
【0129】
(00142)感染が成立する際、その部位に存在する細菌数は、最初は非常に少ない。これらの実験における初期接種量は、2つのパラメータによって決定できる。PCRを用いて細菌数を数時間にわたって推定できるだけの十分な細菌が、存在すべきである。当業者に公知のPCR条件を用いて、1×103より多数の細菌を測定することが可能である。存在する細菌数が、表面の小区域を被覆するのに十分でさえあれば、表面修飾が予備単分子層に及ぼす効果を評価することが可能となり得る。細菌を1〜5μm2のサイズと想定すれば、103〜106個の細菌が、24ウェル・プレート用ディスクの総面積の1%未満を占めると思われ、したがって試験対象の範囲内に入るはずである。接種は、10%FBSを含む0.5mLのDMEM中に黄色ブドウ球菌約103〜106個を用いてなされることになる。
【0130】
(00143)この細胞接種量を用いて、Ti−smRif表面または他の機能化表面の殺菌活性を試験できる。3種の対照表面、すなわち未修飾Ti±1μg/mL Rif(浸漬用培地中)、リンカーだけで修飾したTi(Ti−sm)および不可逆的に結合したリファンピンで修飾されたTi(Ti−Rif)を、浸漬用培地として10%FBSを含むDMEMを用いてTi−smRifと同時に試験できる。前記対照表面によって、Ti単独での細菌の増殖、可溶性Rifの細菌繁殖に対する作用、リンカー単独(結合開裂後に残存しうる部分である)の骨芽細胞および細菌の増殖に対する作用、ならびに最後に、不可逆的に固定化したリファンピンの細菌増殖に対する作用をそれぞれ試験することができる。約4時間にわたる細菌の増殖曲線を、DNAの抽出およびPCRを用いた測定によって、60分毎に決定するとよい。細菌の個数は、既知数の細菌から単離したDNAを用いたPCRシグナルとの比較によって、推定できる。その上、細菌繁殖の結果として、pH測定を行うことができる。細菌数は、直接計数によっても測定できる。細菌の連続希釈液を作製し、LB寒天上に播種すればよい。コロニー形成を、写真撮影後の細胞計数によって評価し、コロニー総数を計算できることもできる。これらの値を、PCRで決定した数値と比較してもよい。この比較によって、PCR実験で決定した数値が、さらに増殖する能力のある細菌を反映する(または、最適条件下では細菌感染の真の治療を表す)ことを保証できる。
【0131】
(00144)活性表面とともにインキュベートすると死滅すると予想される2種類の細菌濃度を用いて、類骨芽細胞Saos−9との共培養の効果を決定できる。これらの細胞を、細菌の接種と同時に細胞数1×104個/1.77cm2ディスクの密度で播種するとよい。次いで、Ti−smRifまたは他の抗生物質結合表面が、細菌の接着、増殖および成熟化を妨げるか否かを決定できる。骨芽細胞数および骨芽細胞の表現型の発現の測定を約14日間継続することにより、アルカリホスファターゼの活性および無機質の形成を含む機能指標を評価してもよい。対照の条件には、Ti表面およびTi−sm表面上の骨芽細胞を含めてもよい。
【実施例9】
【0132】
(00145)この予測的実施例では、本発明の修飾インプラント表面からの抗生物質の放出が、骨芽細胞の増殖および成熟化を維持しながら細菌数を低下させるか否かを判定するために使用し得る、特定の操作および条件。
【0133】
(00146)修飾または未修飾のディスクをUV光照射により滅菌し、24ウェル組織培養プレートのウェル中に入れればよい。0.5mLの10%FBS含有DMEMを添加し、培地に恐らくは103〜106感染単位の黄色ブドウ球菌を接種できる。接種物をロータリー・シェーカーでの攪拌によって5分混合した後、通常の組織培養条件下、すなわち攪拌せずに5%CO2加湿インキュベーター内で、37℃でインキュベートすることができる。細菌増殖は、時間(1〜24時間)の関数として測定できる。
【0134】
(00147)付着していない細菌を上清中に集め、ペレットにし、PBS100μL中に再懸濁すればよい。表面上の付着細菌はPBS100μL中に浸すことができる。細胞の溶解は、4回の凍結/融解サイクルによって実現できる。凍結はドライアイス・エタノール中で、融解は各サイクルに対して65℃、1分で行うことができる。付着試料からのDNAをエッペンドルフチューブに移し、ディスクを追加のPBS100μLでさらにリンスして、表面になお付着しているDNAを除去できる。凍結/融解サイクル後、試料を微量遠心管中で2分間遠心分離し、その上清をPCRによる細菌数の決定に使用できる。
【0135】
(00148)細菌数の決定にはPCRが使用できる。手短に述べると、10〜20μLの上記DNA溶液を、Tris−KCl−MgCl2緩衝液とAmpliTaq(登録商標)とを用いた反応容積100μL中に使用できる。プライマーを16S rRNAに対するものとし(順方向:CGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG、逆方向:GGTTGCGGCCGTACTCCCCAGG)、881bpの生成物を得る。PCR条件は以下の通りである。すなわち、変性を94℃で1分;アニーリングを55℃で1分;伸張を72℃、2分として30〜35サイクルとする。検出は、アガロースゲル電気泳動による分画後、臭化エチジウムで染色することにより実施できる。
【0136】
(00149)希釈法による黄色ブドウ球菌数の決定。黄色ブドウ球菌を含む培養物から上清を除き、表面をDMEM2mLで洗浄し、同一培養物からの上清と共にプールすることができる。攪拌した後、細菌数を決定するために、この上清をLB寒天プレート上に0、102、104、106の希釈倍率で播種すればよい。LB表面上のコロニー数が計数できるように、追加の希釈倍率を適宜使用できる。表面を写真撮影し、細胞数を細胞の直接計数によって決定できる。決定は、別の研究者2名で行うとよい。
【0137】
(00150)Saos−9細胞の接着、増殖および成熟化の決定。Tiを採集し、PBS中で3回洗浄することにより、細菌を除去できる。細胞を、0.05%トリプシンで5分処理することによりTi表面から取り外し、200×gで10分間の遠心分離によって集めることができる。細胞の洗浄および再沈殿を3回実施するとよい。この操作により、付着細菌がほぼすべて除去されよう。付着細胞数はBCECF−AMアッセイによって決定できる。生存しているSaos−9細胞の数はMTTアッセイによって決定可能であり、実際の細胞数はDNA分析によって測定できる。骨芽細胞の表現型の発現を評価するために、Osf−2、オステオカルシンおよびI型コラーゲンの発現をRT−PCRによって評価できる。5、10および14日目の細胞の機能状態は、アルカリホスファターゼの活性を測定することによって決定できる。石灰化能力は、培地中に5mMのβ−グリセロリン酸を含め、FTIRによりアパタイト形成の証拠について細胞層を調べることによって評価できる。
【実施例10】
【0138】
(00151)この実施例は、他の治療剤分子に結合可能であり、RGD(配列番号1)アミノ酸配列により骨芽細胞の成熟化を起こすことのできる、金属表面に対する生物活性ペプチドの固定化を例示する。
【0139】
(00152)ペプチドRGD(配列番号1)を、シランの表面化学反応を用いて表面にカップリングした。ペプチドカップリングの表面に対する影響を、原子間力顕微鏡観察を用いて、かつ該ペプチドが付着骨芽細胞の分化に及ぼす効果によって調べた。原子間力顕微鏡写真により、処理の結果基材の表面粗さがわずかに変化することが明らかになる。細胞は直ちに膜に結合し、増殖することが認められた。材料表面上で8日後、骨芽細胞が高度のアルカリホスファターゼ染色を表し、細胞が成熟化していることが示された。アリザリン赤染色およびフーリエ変換赤外(FTIR)分光法により、細胞が形成した無機物は生物性アパタイトであることが示された。トリペプチドRGE上に維持された対照細胞は、評価期間内にこれらの効果を示さなかった。この実施例は、繋ぎペプチドはアミノ酸を3個だけしか含んでいなくても材料表面上で生物活性を保持していることを明示している。
【実施例11】
【0140】
(00153)この予測的実施例は、治療剤分子がインプラント表面に共有結合した表面であって、骨細胞の接着を増強することにより組織とインプラントとの一体化を促進するとともに、局所的または血行性供給源(すなわち転移性細胞)から生じる骨肉腫または他のがんの再発を根絶するために、治療剤オリゴヌクレオチドの長期リザーバを保持する表面の調製および特性決定について示す。
【0141】
(00154)骨統合を増強するために、RGD(配列番号1)ペプチド・モチーフを前記実施例4のように使用できる。該インプラントは、Ti表面に共有結合したRGD(配列番号1)含有ペプチドを含み、ペプチドとTiとのハイブリッドを創製しているとよい。このことにより混合型表面が提供されうる。というのも、RGD(配列番号1)モチーフのいくつかが治療剤オリゴヌクレオチドを固定化するためのリンカーの一部として機能すると思われるからである。RGD(配列番号1)とオリゴヌクレオチドとの連結は、がん細胞によって放出されるマトリックス・メタロプロテイナーゼに対して不安定なため、該治療剤オリゴヌクレオチドが放出されたときに、骨統合を促進するための追加のRGD(配列番号1)が露出することになる。マトリックス・メタロプロテイナーゼによって特異的に開裂されるペプチド配列が、RGD(配列番号1)モチーフと治療剤オリゴヌクレオチドとの間に配置されることになる。このような隣接アミノ酸配列の効果は、Ti表面に共有結合した修飾ペプチド上のRGD(配列番号1)モチーフ兼アンカーの各側にある隣接アミノ酸を、漸次増加させることによって決定できる。
【0142】
(00155)MYCがん遺伝子を標的とした治療剤オリゴヌクレオチドは、広範な抗がんオリゴヌクレオチドの一例である。治療剤オリゴヌクレオチドは、修飾塩基、修飾糖およびヌクレオチド間修飾結合の各種組合せで構成されうる。MYCがん遺伝子を標的とした治療剤オリゴヌクレオチドは、マトリックス・メタロプロテイナーゼによって特異的に開裂されるペプチド配列、および細胞内取り込みに資する塩基性ペプチド配列によって、Ti−O−Si(CH2)3NH−RGD(配列番号1)に連結されたペプチド核酸(PNA)残基を含んでもよい。メタロプロテイナーゼ感受性の結合は、インプラントの部位で増殖するがん細胞が分泌するマトリックス・メタロプロテイナーゼによって開裂される。遊離した塩基性ペプチド−PNAキメラは、がん細胞の細胞質中に速やかに取り込まれ、MYC mRNAの翻訳を阻害するであろう。その結果、Mycタンパク質の産生は有意に低下するであろう。Mycタンパク質は細胞増殖において重要な役割を演じるので、直ぐ隣接するがん細胞の増殖が低下するであろう。
【0143】
(00156)インプラント用のTi合金(Ti6Al4V)表面は、実施例4に記載のように得られ、修飾され、特性決定される。
(00157)修飾Ti表面を、培養液中に骨肉腫細胞が存在した状態でのオリゴヌク
レオチドの放出速度、および骨肉腫細胞に対する抗増殖活性について評価できる。該修飾表面が転移性がん細胞の存在下および非存在下で骨芽細胞の増殖および成熟化を支持するか否かを判定するために、該修飾表面を特性決定してもよい。
【0144】
(00158)本発明について、ある種の好ましい実施形態に関してかなり詳細に説明してきたが、他の変形形態も可能である。たとえば、まもなく我々は、環境上の手掛かりまたは細胞分泌に対する感応性を維持しながら、表面の安定性を高める条件を確定することに集中することができる。酸不安定な連結は、本発明において有用な連結の一例に過ぎない。たとえば、バイオフィルム粘液は、バイオフィルム形成のために環境を改変するべく用いられうる細菌からの分泌酵素と同様に、繋ぎ用リンカーを不安定化するためにも使用し得る、エキソポリサッカライドからなる。したがって、添付の特許請求の範囲の思想および範囲は、前記記載に限定すべきではなく、好ましい変形形態も本明細書の中に含まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】表面への分子の共有結合により修飾されたインプラント表面の一般化学構造を示す図。
【図2】2,5−ジヒドロキシ安息香酸(2,5−DHBA)マトリックスに由来する推定上のVAN−AEEA−AEEA−NHPr−Ti6Al4VのMALDI−TOF質量分析の図。
【図3】Tiに繋がれたバンコマイシンが付着黄色ブドウ球菌を死滅させることを示す図。Ti表面に繋がれたバンコマイシンを黄色ブドウ球菌と共に1時間インキュベーションし、染色して細菌生存率を測定した。生菌は緑色(薄灰色)に染色される。バンコマイシンが繋がれた表面(C)(VAN−OEG−APTS−Ti)上の生菌数が少ないことに留意されたい。死菌は赤色(薄灰色)に染色される。バンコマイシンが繋がれたTi表面(D)上の死菌数が多いこと留意されたい。
【図4】シリル化したインプラント表面と結合するために、17−OHをMPTSで修飾してジスルフィドを形成、またはGPTSで修飾してチオエーテルを形成した抗生物質17−(2−メチル−4−チオエチルアミドマレイル)リファンピンの概略図。
【図5】(A)金属インプラントへの連結が酸に不安定で、インプラント表面近傍の細菌が分泌する酸と反応する生物活性分子バンコマイシンの概略図。(B)細菌と相互作用する修飾インプラントから放出されたバンコマイシンを示す図。
【図6】(A)インプラント表面への共有結合による連結で不可逆的に繋がれた生物活性分子バンコマイシンの概略図。(B)膜可溶性結合を用いる生物活性分子の細胞壁の通過により、バンコマイシンが細胞内の作用部位に配置されることを示す図。
【図7】(A)インプラント表面に接続した親和性リガンドに結合した生物活性分子バンコマイシンの概略図。(B)細菌中の天然基質との競合的結合により放出されるバンコマイシンを示す図。
【図8】R1と、酸不安定部分のマレアミドおよびヒドラゾンとで表示される、インプラント表面に結合した連結部の化学構造を示す図。R2およびR3は治療剤分子を表す。
【図9】(A)隣接する細菌が分泌する酸で開裂する酸不安定結合によってTi−RGD(配列番号1)に連結された抗生物質チゲサイクリンの概略図。(B)放出された抗生物質が細菌と相互作用し、チゲサイクリンの放出によりインプラント表面に結合したRGD(配列番号1)モチーフが露出したことを示す図。
【図10】(A)共有結合した酸不安定なチゲサイクリン生物活性治療剤分子が、インプラント表面に連結したRGD(配列番号1)ペプチドの一部に結合した、修飾インプラント表面の概略図。(B)細胞が放出する酸に応答してチゲサイクリンを放出する、修飾表面の概略図。(C)骨芽細胞の付着、インテグリンのクラスター形成および細胞外マトリックスタンパク質の沈着を示す修飾インプラント表面の概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その一部が有機シランでシリル化された生体適合性の表面を有する、哺乳動物用のインプラントと、
治療剤分子と結合した1または複数の前記有機シランと、前記治療剤分子が前記インプラントの表面に隣接した細胞と相互作用することと
からなる埋め込み可能な物品。
【請求項2】
酸に不安定または酵素に不安定な結合を含み、前記治療剤分子が前記細胞との相互作用によって前記有機シランから放出される、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項3】
前記治療剤分子が、ペプチド、治療用オリゴヌクレオチド、抗生物質、細胞増殖因子、化学療法剤、血栓溶解剤、抗炎症剤および骨活性因子からなる群から選択される、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項4】
前記治療剤分子が、RGD(配列番号1)配列を含むペプチドを介して前記有機シランに結合している、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項5】
前記治療剤分子が前記有機シランに共有結合している、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項6】
前記治療剤分子が前記細胞と相互作用することにより、血管形成を改変するか、または前記インプラント付近の細菌増殖を減少させる、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項7】
前記治療剤分子が、有機シランで処理されたインプラント表面に共有結合している、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項8】
前記治療剤分子が、細胞内の酵素または酸によって前記有機シランから開裂される、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項9】
前記治療剤分子が、前記細胞の内因性リガンドと交換される、請求項1に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項10】
その一部が有機シランでシリル化された生体適合性の表面を有する、哺乳動物用のインプラントと、
連結基の末端と共有結合した1または複数の前記有機シランと、
治療剤分子と結合した1または複数の前記連結基と、前記治療剤分子が前記インプラントの表面に隣接した細胞と相互作用することと
からなる埋め込み可能な物品。
【請求項11】
前記治療剤分子が、前記細胞の膜に進入するか、または前記細胞の壁を通過する、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項12】
前記治療剤分子が、ペプチド、治療用オリゴヌクレオチド、抗生物質、細胞増殖因子、化学療法剤、血栓溶解剤、抗炎症剤および骨活性因子からなる群から選択される、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項13】
前記リンカーがペプチドを含む、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項14】
前記治療剤分子が前記リンカーから不安定化されることによって、前記表面に共有結合
し、細胞の接着および成熟化を促進するペプチドが残される、請求項13に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項15】
前記リンカーがオリゴ(エチレングリコール)を含む、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項16】
前記インプラントがチタンを含む、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項17】
前記リンカーが酸または酵素に不安定な結合を含み、前記治療剤分子が前記細胞との相互作用によって前記リンカーから放出される、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項18】
前記治療剤分子が、RGD(配列番号1)配列を含むペプチドを介して前記有機シランに結合している、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項19】
前記治療剤分子が、前記有機シランに共有結合している、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項20】
前記治療剤分子が前記細胞と相互作用することにより、血管形成を改変するか、または前記インプラント付近の細菌増殖を減少させる、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項21】
前記治療剤分子が、細胞内の酵素または酸によって前記リンカーから開裂される、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項22】
前記治療剤分子が、前記細胞の内因性リガンドと交換される、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項23】
前記リンカーが、メチルマレアミド、ヒドラゾンおよびそれらの組合せからなる群から選択される酸不安定な結合を含む、請求項10に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項24】
シリル化インプラント表面に共有結合した1または複数の連結基の末端と、抗生物質に結合した1または複数の前記連結基の反対側の末端と、前記抗生物質が前記インプラントの表面に隣接した細胞と相互作用することと、からなる埋め込み可能な物品。
【請求項25】
前記インプラント表面に結合した前記連結基が、インテグリン結合性ペプチド配列を含む、請求項24に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項26】
前記インプラント表面がチタンを含む、請求項24に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項27】
前記連結が酸不安定または酵素不安定な結合を含む、請求項24に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項28】
前記リンカーからの前記抗生物質分子の不安定化によって、骨細胞の接着および成熟化を促進するペプチドが提供される、請求項24に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項29】
前記抗生物質が、ミノサイクリン、チゲサイクリン、グリシルサイクリン、バンコマイシンおよびその類縁体、リファンピンおよびその類縁体、ゲンタマイシンおよびその類縁体、またはそれらの組合せからなる群から選択されるものを含む、請求項24に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項30】
前記リンカーが骨統合を促進する、請求項24に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項31】
前記抗生物質が前記リンカーと競合的に結合している、請求項24に記載の埋め込み可能な物品。
【請求項32】
哺乳動物を治療する方法であって、
前記哺乳動物においてインプラントが必要な部位にインプラントを挿入することからなり、前記インプラントが有機シランでシリル化された生体適合性の表面を有し、前記有機シランの1または複数が治療剤分子に結合しており、前記治療剤分子が前記哺乳動物中の前記インプラントの表面に隣接する細胞と相互作用することを特徴とする方法。
【請求項33】
前記治療剤分子が抗生物質を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記インプラントが骨折固定のために使用される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記インプラントが骨統合を促進する、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記治療剤分子が細菌増殖を防止する、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記治療剤分子が、細胞由来の酸、酵素またはリガンドとの反応によって前記リンカーから放出される、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記インプラントが、前記インプラントの部位における細胞の増殖を改変する、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−505697(P2007−505697A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526981(P2006−526981)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/030096
【国際公開番号】WO2005/027990
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506088894)
【氏名又は名称原語表記】WICKSTROM,Eric
【出願人】(506088908)
【氏名又は名称原語表記】HICKOK,Noreen J.
【出願人】(506088919)
【氏名又は名称原語表記】PARVIZI,Javad
【Fターム(参考)】