説明

ステージ装置

【課題】半導体製造分野で用いられるSEMの試料ステージで要求されるような高いレベルでの位置決め精度やドリフトの低減を簡易な構造で可能とするステージ装置の提供。
【解決手段】ステージ装置は、ベースに支持されて移動するテーブルを備えるとともに、そのテーブルに組付けられる制動機構17xを備えている。制動機構17xは、押圧作動力を発生させる押圧アクチェータ41、ベースに設けられた制動面19xを押圧作動力に応じた押圧力で押圧する押圧部材43、および押圧部材に押圧作動力を伝達する動力伝達部材42を有し、押圧部材は、押圧力を制動面の法線Pに対し傾けて作用させるようにされ、それにより押圧力から法線方向の分力として制動力52を得るとともに、制動面内の分力として推力53を得るようにされ、そして推力により、当該推力に応じた移動距離についてテーブルに移動を生じさせることで高精度な位置決めをなさせるとともに、制動力によりテーブルの停止状態を安定化させるようにされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置に関し、特に、半導体製造分野で検査などに用いられる走査型電子顕微鏡の試料ステージ用などとして好適なステージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、ウェーハに形成されている素子や集積回路における各種パターンの形状や寸法を高い精度で検査して評価する必要があり、その検査に測長機能付きの走査型電子顕微鏡(以下、適宜にSEMと記す)が用いられている。SEMによるウェーハの検査では、ウェーハに電子線を照射して得られる二次電子信号を画像化処理して二次電子像を取得し、その明暗の変化からパターンの形状を判別して寸法を導き出す。このようなSEMは、試料ステージを備えており、その試料ステージでウェーハを保持して位置決めさせるようになっている。
【0003】
ところで、近年における半導体素子の微細化には著しいものがあり、それに伴ってSEMにはより厳しい要求が課され、特に試料ステージに対する要求が厳しくなってきている。例えば35nmノードのデザインルールに対応することが要求され、30万倍以上といったような高い観察倍率において、よりノイズの少ない二次電子像を得ることが重要な課題となっており、また像を何枚も重ね合わせてコントラストを向上させることができるようにすることが要求されている。そしてこのような要求に応えるために試料ステージには、振動やドリフト(時間経過と共に停止位置がずれていく現象)をナノメートルオーダで抑えることが求められている。
【0004】
SEMの試料ステージは、一般に、リニアモータなどが用いられる駆動機構で移動を行わせるようにした複数のテーブルを備え、その内の1つのテーブルにウェーハを保持させるようにされており、サーボ制御により各テーブルに位置決めを行わせることでウェーハの位置決めをなすようにされている。すなわちウェーハの位置決めにおけるテーブルの目標位置とテーブルの現在位置の偏差に基づいてフィードバック制御を行いながら各テーブルを移動させて位置決めさせ、それによりウェーハの位置決めをなすようにされている。
【0005】
こうしたサーボ制御は、一般的には高精度な位置決めを可能とする。しかし、ナノメートルオーダでは、無視できない振動を試料ステージに発生させており、その振動によりウェーハの位置が変動し、また試料ステージの振動でSEM全体が加振され、それにより二次電子像に悪影響が及ぶこともある。
【0006】
SEMにおける試料ステージあるいは一般的なステージ装置における位置決め制御あるいは振動やドリフトの低減に関する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に開示の例が知られている。
【0007】
特許文献1の「リニアディスクブレーキ」は、テーブルにばねブレーキを設けている。ばねブレーキは、固定台に設けられているプレート部材をばね力で挟み込むこと制動作用を発揮するようにされるとともに、駆動シリンダによりプレート部材に対する挟み込み状態を解除することで制動作用を解除できるようにされている。このため、テーブルを停止させるのに合せてばねブレーキに制動作用を発揮させることで、テーブルを高精度に位置決めさせることが可能となり、またドリフトの低減も可能となる。
【0008】
特許文献2の「ステージ装置」は、ステージ駆動機構により移動可能な粗動ステージ、および粗動ステージ上で同方向に移動可能な微動ステージを備え、制御装置は、粗動アルゴリズムによりステージ駆動機構を制御して粗動ステージの粗動位置決め制御を行った後、微動アルゴリズムにより微動ステージの微動位置決め制御を行う。このため、ナノメートルオーダの精度による位置決めが可能とする。
【0009】
【特許文献1】特開2001−88695号公報
【特許文献2】特開2001−225241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1や特許文献2の技術は、精度の高い位置決めを可能とするという点では優れているものの、それぞれ問題を残している。例えば特許文献1の技術では、ばねブレーキによる制動作用を発揮させた際にテーブルが動いて目標位置からの位置ずれを生じる場合がある。そしてそのような位置ずれが生じた場合、高精度な位置決めが要求される条件下では再度位置決めを行う必要があり、このことが位置決め時間の増大につながり、スループットの低下という問題を招くことになる。また特許文献2の技術では、粗動ステージと微動ステージを備える必要があり、そのために装置構造が複雑になり過ぎ、それに伴って過大なコスト増を招くという問題がある。
【0011】
本発明、以上のような事情を背景になされてものであり、その課題は、半導体製造分野で用いられるSEMの試料ステージで要求されるような高いレベルでの位置決め精度やドリフトの低減を簡易な構造で可能とするステージ装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、上記課題を解決するために、案内手段により拘束されて静止体上を一定の方向に移動できるようにされたテーブルおよび前記テーブルの移動を駆動する駆動機構を備え、前記テーブルの移動を制御することで前記テーブルの目標位置への位置決めを行うようにされているステージ装置において、押圧作動力を発生させる押圧作動手段、前記静止体に設けられた制動面を前記押圧作動手段からの前記押圧作動力に応じた押圧力で押圧する押圧部材、および前記押圧部材に前記押圧作動力を伝達する動力伝達部材を有し、前記押圧部材は、前記押圧力を前記制動面の法線に対し傾けて作用させるようにされ、それにより前記押圧力から前記法線方向の分力として制動力を得るとともに、前記制動面内の分力として推力を得るようにされ、そして前記推力により、当該推力に応じた移動距離について前記テーブルに移動を生じさせた後、前記制動力により前記テーブルの停止状態を安定化させるようにされてなる制動機構を備えていることを特徴としている。
【0013】
このようなステージ装置では、制動機構の押圧部材が静止体の制動面を押圧することで得られる制動力と推力を利用することより、ナノメートルオーダの精度でのテーブルの位置決めが可能となるとともに、ナノメートルオーダでドリフトを抑えることが可能となる。またその制動機構は、押圧部材を静止体の制動面に押圧させるという構造であることから、例えば粗動ステージと微動ステージを設ける装置構造に比べて、簡易な装置構造を簡易なもので済ませることができる。
【0014】
また本発明では、上記のようなステージ装置について、第1の位置決め制御の行った後に第2の位置決め制御を行うことで前記テーブルの目標位置への位置決めを行うようにし、前記第1の位置決め制御は、前記目標位置から所定距離だけ離れた位置を仮目標位置とし、前記駆動機構による前記テーブルの移動を制御して前記テーブルを前記仮目標位置に位置決めさせるようにしてなし、前記第2の位置決め制御は、前記第1の位置決め制御による位置決め状態で前記制動機構を作動させることで前記テーブルを前記仮目標位置から前記目標位置へ移動させることでなすようにすることを好ましい形態としている。このような形態とすることで、制動力と推力をともに与えるという制動機構の特性をより有効に活かすことができる。
【0015】
また本発明では、上記のようなステージ装置について、前記第2の位置決め制御では、前記押圧作動力を調整することで前記テーブルの移動量を制御するようにし、前記目標位置への位置決めがなされた後は当該位置決め時点での押圧作動力を保持し、その保持押圧作動力に応じた制動力により前記テーブルの停止状態を安定化させるようにすることを好ましい形態としている。このような形態も制動力と推力をともに与えるという制動機構の特性をより有効に活かす上で有効である。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明によれば、半導体製造分野で用いられるSEMの試料ステージで要求されるような高いレベルでの位置決め精度やドリフトの低減を簡易な構造で可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明によるステージ装置は、様々な分野で用いることができ、特に半導体製造分野で検査などに用いられるSEMの試料ステージとして有用である。したがって以下ではSEMの試料ステージとして用いられるステージ装置の実施形態について説明する。図1に、一実施形態によるステージ装置1の全体的な構成を模式化して示す。ステージ装置1は、ステージ機構2、位置検出器3、および位置決め制御装置4を備えている。
【0018】
図2に、ステージ機構2の構成例を模式化して示す。ステージ機構2は、静止体である方形のベース11の上に移動可能なテーブルとそれを駆動するための駆動機構などを搭載した構成とされ、テーブルとしてYテーブル12y、Xテーブル12x、およびトップテーブル12tが設けられている。なお、ステージ機構2に対しては図2中に示すようなXYZ座標を仮想するものとする。
【0019】
Yテーブル12yは、XYZ座標におけるY方向で移動するテーブルであり、案内手段としてベース11に固定して設けられたレール状のYガイド13yに拘束されてY方向に移動できるようにされている。この場合、Yガイド13yは、ベース11のY方向側端部に1系統ずつ、合計2系統で設けるのが通常である。
【0020】
このYテーブル12yには、後述のような第1の位置決め制御におけるY動(Y方向移動)をYテーブル12yに行わせるためのY駆動機構14yが設けられている。Y駆動機構14yは、リニアモータ構造で構成されている。具体的には、Yテーブル12yに固定されたYモータ可動子15yとベース11に固定されたYモータ固定子16yの間に発生させる推力によりYテーブル12yにY動を行わせるようにされている。
【0021】
またYテーブル12yには、後述のような第2の位置決め制御におけるY動をYテーブル12yに行わせるとともに、位置決め後のYテーブル12yの停止状態を安定化させてドリフトを抑制するための制動をYテーブル12yに加えるY制動機構17yが設けられている。Y制動機構17yは、ベース11に制動面部材として固定して設けたYブレーキレール18yの上面を制動面19yとし、この制動面19yを押圧することでYテーブル12yのY動用の推力を得るとともにYテーブル12yの制動用の制動力を得るようにされている。
【0022】
Xテーブル12xは、XYZ座標におけるX方向で移動するテーブルであり、案内手段としてベース11に固定して設けられたレール状のXガイド13xに拘束されてX方向に移動できるようにされている。この場合、Xガイド13xは、ベース11のX方向側端部に1系統ずつ、合計2系統で設けるのが通常である。
【0023】
このXテーブル12xには、後述のような第1の位置決め制御におけるX動(X方向移動)をXテーブル12xに行わせるためのX駆動機構14xが設けられている。X駆動機構14xは、リニアモータ構造で構成されている。具体的には、Xテーブル12xに固定されたXモータ可動子15xとベース11に固定されたXモータ固定子16xの間に発生させる推力によりXテーブル12xにX動を行わせるようにされている。
【0024】
またXテーブル12xには、後述のような第2の位置決め制御におけるX動をXテーブル12xに行わせるとともに、位置決め後のXテーブル12xの停止状態を安定化させてドリフトを抑制するための制動をXテーブル12xに加えるX制動機構17xが設けられている。X制動機構17xは、ベース11に制動面部材として固定して設けたXブレーキレール18xの上面を制動面19xとし、この制動面19xを押圧することでXテーブル12xのX動用の推力を得るとともにXテーブル12xの制動用の制動力を得るようにされている。
【0025】
トップテーブル12tは、XYZ座標におけるY方向とX方向のそれぞれで移動するテーブルであり、Yテーブル12yのY動に応じてY動を行い、またXテーブル12xのX動に応じてX動を行うようにされている。具体的にはトップテーブル12tは、その下面に図示を省略のサブテーブルが一体的に組み合わされている。そしてサブテーブルは、案内手段としてYテーブル12yに固定して設けられた2本のレール状のXサブガイド20xに拘束されてX方向に移動できるようにされている。一方、トップテーブル12tは、案内手段としてXテーブル12xに固定して設けられた2本のレール状のYサブガイド20yに拘束されてY方向に移動できるようにされている。したがってトップテーブル12tは、サブテーブルを介してXサブガイド20xに拘束された状態でXテーブル12xのX動によりX方向に移動し、Yサブガイド20yに拘束された状態でYテーブル12yのY動によりY方向に移動することになる。このトップテーブル12tは、その上に試料ホルダ21が設けられており、その試料ホルダ21に検査対象のウェーハ22を保持できるようにされている。
【0026】
なお図2の例では、Y駆動機構14yおよびY制動機構17yとYブレーキレール18yのセットをYガイド13yと同様に2系統で設け、またX駆動機構14xおよびX制動機構17xとXブレーキレール18xのセットをXガイド13xと同様に2系統で設けているが、このことは必ずしも必要でない。すなわち十分な駆動力や制動力を得ることができれば1系統だけとしてもよく、1系統だけとする場合にはベース11やYテーブル12yの中央部に設けるようにしてもよい。
【0027】
ここで、ステージ機構2は、以上のようにテーブルとしてYテーブル12y、Xテーブル12x、トップテーブル12tを備え、またそれらに関連する要素を備えているが、図1ではこれを簡略化し、Xテーブル12xについてだけ示してある。
【0028】
以上のようなステージ機構2では、Yテーブル12yのY方向での位置決めとXテーブル12xのX方向での位置決めのそれぞれがなされ、これらの組合せとしてトップテーブル12tのXY両方向についての位置決めがなされ、そのトップテーブル12tの位置決めにより試料ホルダ21に保持のウェーハ22の位置決めがなされる。この場合、Yテーブル12yの位置決めは、トップテーブル12tの位置決めにおける目標位置から定まるY方向の目標位置にYテーブル12yを移動させることでなされ、またXテーブル12xの位置決めは、トップテーブル12tの位置決めにおける目標位置から定まるX方向の目標位置にXテーブル12xを移動させることでなされる。
【0029】
位置検出器3は、トップテーブル12tの位置を検出する要素であり、レーザ干渉法でトップテーブル12tの位置を検出するようにされている。そのためにトップテーブル12tには、位置検出器3から照射されるレーザ光を反射するバー状のXミラー23とYミラー24が設けられている。
【0030】
図3に、位置決め制御装置4の構成例を模式化して示す。位置決め制御装置4は、駆動制御部31、制動制御部32、および統合制御部33を備えている。
【0031】
駆動制御部31は、第1の位置決め制御用の制御部であり、駆動機構14(Y駆動機構14y、X駆動機構14x)の動作状態を制御することで第1の位置決め制御を行う。第1の位置決め制御では、目標位置から所定距離だけ離れた位置を仮目標位置とし、位置検出器3で得られるトップテーブル12tの現在位置情報に基づいて駆動機構14をサーボ制御することでテーブル12(Yテーブル12y、Xテーブル12x)の移動と停止を制御してテーブル12を仮目標位置に位置決めさせる。こうした第1の位置決め制御のために駆動制御部31は、駆動機構14のサーボ制御のための演算を行って駆動機構14に対する駆動指令(Yモータ可動子15yやXモータ可動子15xに対するモータ駆動指令)を生成するサーボ制御部31sおよびサーボ制御部31sの駆動指令を増幅して出力するアンプ31aを有している。
【0032】
制動制御部32は、第2の位置決め制御用の制御部であり、制動機構17(Y制動機構17y、X制動機構17x)の動作状態を制御することで第2の位置決め制御を行う。第2の位置決め制御では、第1の位置決め制御による位置決め状態で制動機構17を作動させることでテーブル12(Yテーブル12y、Xテーブル12x)を仮目標位置から目標位置へ移動させて最終的な位置決めをなさせる。つまり第1の位置決め制御による位置決めがなされた後、位置検出器3で得られるトップテーブル12tの現在位置情報に基づいて制動機構17をサーボ制御することでテーブル12を仮目標位置から目標位置へ移動させて最終的な位置決めをなさせる。こうした第2の位置決め制御のために制動制御部32は、制動機構17のサーボ制御のための演算を行って制動機構17に対する動作指令を生成するサーボ制御部32sおよびサーボ制御部32sの動作指令を増幅して出力するアンプ32aを有している。
【0033】
統合制御部33は、駆動制御部31と制動制御部32の切替え、つまり第1の位置決め制御と第2の位置決め制御の切替えを制御する。その切替え制御は、位置検出器3で得られるトップテーブル12tの現在位置情報に基づいてなされる。
【0034】
以下では制動機構17の構成例について説明する。制動機構17にはY制動機構17yとX制動機構17xがあるが、これらは基本的に同一の構成とされる。したがってここではX制動機構17xについて説明し、Y制動機構17yについてはその説明を援用するものとする。
【0035】
図4に、X制動機構17xの構成例を模式化して示す。X制動機構17xは、押圧アクチェータ41、動力伝達部材42、および押圧部材43を主な要素としてなり、Xテーブル12xに嵌め込むようにして組付けられている(図2)。
【0036】
押圧アクチェータ41は、押圧部材43に押圧動作を行わせるための押圧作動力44を発生させる押圧作動手段として機能する。押圧アクチェータ41は、適宜なアクチェータを用いて構成することができるが、電圧の印加により伸縮変位を生じることで押圧作動力を発生させることのできるアクチェータを用いて構成するのが好ましく、本実施形態でもそのようにしている。具体的には、ピエゾアクチェータ45を動力源として用いている。ピエゾアクチェータ45は、ピエゾ素子を積層状態で実装した構造とされ、電圧を印加することにより先端部の作動部46に軸方向で変位(伸縮変位)と力を発生させる。そして作動部46における変位と力は、補助動力伝達部材47により方向を変えるようにして動力伝達部材42に伝えられ、さらに動力伝達部材42により押圧部材43に伝えられ、押圧部材43に後述のような押圧動作を行わせる。
【0037】
ここで、作動部46に発生する変位と力は、大きな変位を許容すれば得られる力が小さくなり、大きな力を得ようとすれば変位を小さくする必要があるという関係にある。したがって作動部46の変位を一定範囲に抑えた状態で作動部46の変位と力を動力伝達部材42に伝えるようにすることで、適切な大きさの押圧作動力44を得ることができる。
【0038】
動力伝達部材42は、押圧アクチェータ41による押圧作動力44を押圧部材43に伝達する要素であり、てこ構造で形成されている。具体的には、Xテーブル12xに固定の支点48を挟んで力点側アーム部42aと作用点側アーム部42bを同軸的に有し、さらに作用点側アーム部42bの先端部に作用点側アーム部42bの軸方向と直交する向きにした作用点部42cを有する構造とされ、力点側アーム部42aで受ける押圧アクチェータ41からの押圧作動力44を作用点部42cで押圧部材43に伝えるようにされている。
【0039】
押圧部材43は、凸な球面状とされた押圧面49を有しており、押圧アクチェータ41からの押圧作動力44に応じた押圧力51でXブレーキレール18xの制動面19xを押圧面49で押圧できるようにされている。また押圧部材43は、押圧力51が制動面19xの法線Pに対し所定の角度θで傾いて作用するようにされている。このため押圧力51から、角度θに応じて、法線方向の分力が得られるとともに、制動面19xの面内の分力が得られる。そして法線方向の分力を制動力52として働かせることでXブレーキレール18xとの間でXテーブル12xに制動を加えることができ、その一方で、制動面19xの面内の分力を推力53として働かせることでXテーブル12xにX動を生じさせることができる。
【0040】
ここで、推力53によるXテーブル12xのX動は、推力53の大きさに応じた移動距離についてなされることになる。具体的には以下のとおりである。押圧部材43は、制動力52により位置固定された状態でXブレーキレール18xの制動面19xを押圧する。つまり押圧アクチェータ41の作動で押圧部材43が制動面19xに対する押圧動作を行った際に押圧した部位に固定された状態で押圧部材43が制動面19xを押圧する。この状態にあって推力53は、動力伝達部材42の作用点側アーム部42bに対し荷重として作用し、これに伴って作用点側アーム部42bに変形(歪み)を生じ、その作用点側アーム部42bの変形がXテーブル12xにX動を生じさせる。したがって推力53によるXテーブル12xのX動は、推力53で負荷される荷重による作用点側アーム部42bの変形量(歪み量)に応じた移動距離でなされることになる。なお、その移動距離については、作用点側アーム部42bを適切な長さとすることで、数十μオーダまで可能であることが実験的に確認されている。
【0041】
押圧部材43による押圧力51は、上述のように押圧アクチェータ41にピエゾアクチェータ45を用いる場合、ピエゾアクチェータ45に印加する電圧に相関し、したがって押圧力51から得られる制動力52と推力53もそれぞれピエゾアクチェータ45に印加する電圧に相関し、印加電圧を大きくするのに応じて制動力52と推力53が大きくなる。こうした印加電圧と制動力の関係の例を図5に示し、印加電圧と推力の関係の例を図6に示す。
【0042】
図5は、印加電圧を横軸に取り、制動力を縦軸に取った場合の印加電圧と制動力の関係の例を示している。なお、図の例では印加電圧と制動力が比例する場合となっているが、必ずしもこのような比例関係になるとは限らない。ただ、印加電圧を大きくすれば制動力が大きくなるという傾向は変わらない。制動力は、テーブルの停止状態を安定化させてドリフトを抑制するための制動に働くが、印加電圧が小さければ制動力も小さく、ドリフト抑制効果は低くなる。有効なドリフト抑制効果を確保するのに必要な最小限の制動力(最小制動力)を予め設定し、それに対応する最小印加電圧Vmin‐aを決定する。一方、図3の制動制御部32におけるアンプ32aが出力可能な最大電圧として最大印加電圧Vmaxを決定する。そして最小印加電圧Vmin‐aと最大印加電圧Vmaxの間を制動制御部32において使用可能な印加電圧の範囲とすることにより有効なドリフト抑制効果を確保しつつ印加電圧を変動させることができる。
【0043】
図6は、印加電圧を横軸に取り、推力を縦軸に取った場合の印加電圧と推力の関係の例を示している。なお、図の例では印加電圧と推力が比例する場合となっているが、必ずしもこのような比例関係になるとは限らない。ただ、印加電圧を大きくすれば推力が大きくなるという傾向は変わらない。推力は、その大きさに応じて動力伝達部材42に変形を生じさせ、その変形に応じた移動距離でテーブルに移動を生じさせる。この場合、動力伝達部材42に変形を生じさせるのに必要な最小限の推力があるので、その必要最小限の推力(最小推力)を予め設定し、それに対応する最小印加電圧Vmin‐bを決定する。そして最小印加電圧Vmin‐bと上記の最大印加電圧Vmax(これは最大推力を与えることになる)の間を制動制御部32において使用可能な印加電圧の範囲とすることにより、その範囲で印加電圧の変動させることでテーブルの移動距離を変化させることができる。つまり最小印加電圧Vmin‐bが最小印加電圧Vmin‐a以上であれば、有効なドリフト抑制効果を確保した状態で、最小推進力に対応する最小移動距離と最大推力に対応する最大移動距離までの間で移動距離を制御しながらテーブルに移動を行わせることが可能となる。
【0044】
以下では、以上のようなステージ装置1でなされる位置決め(Yテーブル12yとXテーブル12xそれぞれの位置決めを通じてなされるトップテーブル12tの位置決め)について説明する。位置決めは位置決め制御装置4による制御の下でなされ、位置決め制御装置4による位置決め制御は、図7にその流れを示すように、ステップ101〜ステップ116の各処理過程を含む。
【0045】
位置決め制御は、テーブル12(Yテーブル12yとXテーブル12x)に制動機構17(Y制動機構17y、X制動機構17x)による制動が加えられている一方で、駆動機構14(Y駆動機構14y、X駆動機構14x)への通電(駆動指令)がオフとされている状態で開始されるのが通常である。
【0046】
ステップ101では、目標位置の設定がなされる。目標位置の設定は、自動または手動で行われる。自動的な目標位置の設定は、位置決め制御装置4あるいはその上位装置が有している位置情報(これは図3におけるトップテーブル12t上のウェーハ22に関して適宜に設定される座標での座標値を用いて記述される)を用いて目標位置の座標値を指定することでなされる。ここで位置情報とは、ウェーハ22に形成されている素子や集積回路における各種パターンの形状や寸法の検査において検査対象となるパターンのチップ(素子や集積回路のチップ)上での位置に関する情報や検査対象となるチップのウェーハ上での位置に関する情報である。一方、手動による目標位置の設定は、トップテーブル12t上のウェーハ22を表示している画面上でオペレータがカーソルを操作するなどして目標位置の座標値を指定することでなされる。
【0047】
ステップ102では、仮目標位置の設定がなされる。仮目標位置の設定では、目標位置から所定の距離偏差Lだけ離れた位置を仮目標位置とする。仮目標位置の設定がなされたらステップ103〜ステップ108の第1の位置決め制御を実行する。
【0048】
第1の位置決め制御を実行するには、まずステップ103で制動解除を行う。具体的には、制動機構17への通電をオフにして、押圧部材43のブレーキレール18(Yブレーキレール18y、Xブレーキレール18x)への押圧を解除する。次いでステップ104で駆動制御を起動させる。具体的には、駆動制御部31を起動させて駆動機構14への通電をオンとする。
【0049】
ステップ105では、テーブルの現在位置を取得する。現在位置の取得では、位置検出器3で検出されるトップテーブル12tの現在位置からYテーブル12yとXテーブル12xそれぞれの現在位置を求める。
【0050】
ステップ106では、目標位置と現在位置の偏差を判定する。具体的には、現在位置と目標位置の偏差が予め設定の許容範囲(位置決め幅w1)にあるかを判定する。許容範囲でないと判定された場合にはステップ107に進む。
【0051】
ステップ107では、駆動機構14のサーボ制御を行う。サーボ制御では、まずサーボ演算を行い、それからその演算結果に基づいてテーブル12を移動させる。サーボ演算では、現在位置から仮目標位置までの移動量を所定の速度パターンにより補間する位置補間演算や位置、速度、推力の制御ループの演算を行う。ただし、これらの補間や制御ループ演算は、それぞれの制御周期での割り込み処理として実装されるため、実際には全てが同じタイミングで実行されるということではない。このようなステップ107の処理を終えたらステップ105に戻り、ステップ107までの処理をステップ106での判定が肯定的になるまで繰り返す。
【0052】
一方、ステップ106で許容範囲であると判定された場合、つまりテーブル12の仮目標位置への位置決めがなされた場合にはステップ108に進み、駆動機構14への通電をオフとして駆動制御部31による駆動機構14の制御をオフにして、第1の位置決め制御を終了する。
【0053】
第1の位置決め制御を終了したら、第2の位置決め制御に移り、ステップ109〜ステップ115の第2の位置決め制御を実行する。第2の位置決め制御を実行するには、まずステップ109で制動制御部32による制動機構17の制御をオンにし、次いでステップ110でステップ105の場合と同様にしてテーブルの現在位置を取得する。
【0054】
ステップ111では、目標位置と現在位置の偏差を判定する。具体的には、現在位置と目標位置の偏差が予め設定の許容範囲(位置決め幅w2)にあるかを判定する。許容範囲でないと判定された場合にはステップ112に進む。
【0055】
ステップ112では、制動機構17のサーボ制御のためのサーボ演算を行う。サーボ演算では、現在位置から目標位置までの移動量を満たすことのできる推力を制動機構17に発生させるのに必要な印加電圧Vを求める。
【0056】
ステップ113では、ステップ112で求めた印加電圧Vについて判定する。具体的には、印加電圧Vが許容範囲(上述の最小印加電圧Vmin‐bと最大印加電圧Vmaxの範囲)にあるかを判定する。印加電圧Vが許容範囲であると判定された場合にはステップ114に進み、制動機構17を作動させる。具体的には、図4のピエゾアクチェータ45に印加電圧Vを印加し、その印加電圧Vに応じた押圧力51で押圧部材43をブレーキレール18(Yブレーキレール18y、Xブレーキレール18x)に押圧させる。これにより、押圧力51の分力として得られる制動力52による制動が加えられた状態にあって、押圧力51の分力として得られる推力53の大きさに応じた移動量でテーブル12が目標位置に向けて移動する。このようなステップ112の処理を終えたらステップ110に戻り、ステップ114までの処理をステップ111での判定が肯定的になるまで繰り返す。
【0057】
一方、ステップ113で印加電圧Vが許容範囲でない判定された場合にはステップ115に進む。ステップ115では、仮目標位置の変更設定を行う。仮目標位置の変更設定は、印加電圧Vが許容範囲に収まる条件で可能な移動量(これは上述のように印加電圧Vに応じた固定的な量である)でテーブル12を目標位置に移動させることができるように、ステップ102で設定の仮目標位置を変更するためになされる。したがって仮目標位置の変更設定では、印加電圧Vが最小印加電圧Vmin‐bより小さい場合には目標位置との距離偏差Lを大きくして新たな仮目標位置を設定し、印加電圧Vが最大印加電圧Vmaxより大きい場合には目標位置との距離偏差Lを小さくして新たな仮目標位置を設定する。このようなステップ115の処理を終えたらステップ103に戻り、ステップ115までの処理をステップ113での判定が肯定的になるまで繰り返す。
【0058】
ステップ111に戻って、ステップ111で許容範囲であると判定された場合、つまりテーブル12の目標位置への位置決めがなされた場合にはステップ116に進み、制動固定を行う。具体的には、位置決め時点での押圧作動力(これはステップ114で印加した電圧で定まる)を保持し、その保持押圧作動力に応じた制動力によりテーブル12の停止状態を安定化させる。この制動固定がなされると第2の位置決め制御が終了し位置決めが完了となる。
【0059】
以上のような位置決め処理におけるテーブル12の位置の時間応答波形の例を図8に示す。図の例では、1つの目標位置に対する位置決めを行った後、次の目標位置に対する位置決めがなされる場合としてある。図における時間応答曲線Sに見られるように、テーブルは、まず制動解除状態で駆動機構によるテーブルの移動と停止を通じてなされる第1の位置決め制御により仮目標位置に位置決めし、それから駆動制御オフの状態で制動機構によるテーブルの移動と停止を通じてなされる第2の位置決め制御により目標位置に位置決めし、それ以後は、次の位置決めが開始されるまで、制動が固定状態で保持される。
【0060】
以下では制動機構の他の構成例について説明する。制動機構は、図4のような構成の他に、図9に示すような構成とすることも可能である。図9の(a)の例の制動機構60は、ブレーキレール18の制動面19の法線Pに対し所定の角度θで傾いて作用するようにして図外の押圧作動手段が発生させる押圧作動力61を動力伝達部材62で直接的に押圧部材63に伝えるようになっている。このため法線Pに対し所定の角度θで傾いた押圧力64が得られ、この押圧力64の各分力として制動力65と推力66が得られる。
【0061】
図9の(b)の例の制動機構70では、ブレーキレール18の制動面19の法線Pと平行な状態で作用するようにして図外の押圧作動手段が発生させる押圧作動力71を動力伝達部材72で押圧部材73に伝えるようにするとともに、動力伝達部材72と押圧部材73の間に圧縮ばね74と圧縮ばね75を介在させている。これら圧縮ばね74と圧縮ばね75は、圧縮ばね74のばね定数<圧縮ばね75のばね定数といったように、ばね定数が異ならされており、したがって押圧作動力71による押圧力76は、法線Pに対し所定の角度θで傾いた状態になり、この押圧力76の各分力として制動力77と推力78が得られる。
【0062】
図9の(c)の例の制動機構80は、基本的には図9の(b)の制動機構70と同じである。すなわち、ブレーキレール18の制動面19の法線Pと平行な状態で作用するようにして図外の押圧作動手段が発生させる押圧作動力81を動力伝達部材82で押圧部材83に伝えるようにするとともに、動力伝達部材82と押圧部材83の間に圧縮ばね84と圧縮ばね85を介在させている。ただ、これら圧縮ばね84と圧縮ばね85は、ばね定数を同じとされている。その代わりに、予圧調整部材86を伝達部材82と圧縮ばね85の間に介在させることで圧縮ばね85を圧縮ばね84よりも強く予圧するようにしている。このため押圧作動力81による押圧力87は、法線Pに対し所定の角度θで傾いた状態になり、この押圧力87の各分力として制動力88と推力89が得られる。
【0063】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、これらは代表的な例に過ぎず、本発明はその趣旨を逸脱することのない範囲で様々な形態で実施することができる。例えば以上の実施形態はSEMにおける試料ステージに関した場合であったが、これに限られず、本発明は様々な用途のステージ装置に適用することができる。また以上の実施形態では、ベースにブレーキレールを設け、そのブレーキレールで制動面を得るようにしていたが、必ずしもこのようにする必要はなく、ブレーキレール以外で制動面を得るようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】一実施形態によるステージ装置の全体構成を示す図である。
【図2】ステージ機構の構成例を示す図である。
【図3】位置決め制御装置の構成例を示す図である。
【図4】制動機構の構成例を示す図である。
【図5】制動機構における印加電圧と制動力の関係の例を示す図である。
【図6】制動機構における印加電圧と推力の関係の例を示す図である。
【図7】位置決め制御における処理の流れを示す図である。
【図8】位置決め処理におけるテーブルの位置の時間応答波形の例を示す図である。
【図9】制動機構の他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 ステージ装置
11 ベース(静止体)
12 テーブル
13 ガイド(案内手段)
14 駆動機構
17 制動機構
19 制動面
41 押圧アクチェータ(押圧作動手段)
42 動力伝達部材
43 押圧部材
44 押圧作動力
51 押圧力
52 制動力
53 推力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内手段により拘束されて静止体上を一定の方向に移動できるようにされたテーブルおよび前記テーブルの移動を駆動する駆動機構を備え、前記テーブルの移動を制御することで前記テーブルの目標位置への位置決めを行うようにされているステージ装置において、
押圧作動力を発生させる押圧作動手段、前記静止体に設けられた制動面を前記押圧作動手段からの前記押圧作動力に応じた押圧力で押圧する押圧部材、および前記押圧部材に前記押圧作動力を伝達する動力伝達部材を有し、前記押圧部材は、前記押圧力を前記制動面の法線に対し傾けて作用させるようにされ、それにより前記押圧力から前記法線方向の分力として制動力を得るとともに、前記制動面内の分力として推力を得るようにされ、そして前記推力により、当該推力に応じた移動距離について前記テーブルに移動を生じさせた後、前記制動力により前記テーブルの停止状態を安定化させるようにされてなる制動機構を備えていることを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
第1の位置決め制御の行った後に第2の位置決め制御を行うことで前記テーブルの目標位置への位置決めを行うようにされており、前記第1の位置決め制御は、前記目標位置から所定距離だけ離れた位置を仮目標位置とし、前記駆動機構による前記テーブルの移動を制御して前記テーブルを前記仮目標位置に位置決めさせるようにしてなし、前記第2の位置決め制御は、前記第1の位置決め制御による位置決め状態で前記制動機構を作動させることで前記テーブルを前記仮目標位置から前記目標位置へ移動させることでなすようにされていることを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記第2の位置決め制御では、前記押圧作動力を調整することで前記テーブルの移動量を制御するようにし、前記目標位置への位置決めがなされた後は当該位置決め時点での押圧作動力を保持し、その保持押圧作動力に応じた制動力により前記テーブルの停止状態を安定化させるようにされていることを特徴とする請求項2に記載のステージ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−259534(P2009−259534A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105826(P2008−105826)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】