説明

スパッタリング装置、スパッタリング装置を用いた成膜装置、およびそれらの成膜方法

【課題】基板サイズの大型化により、基板を水平搬送でき、基板を略垂直に立てて成膜でき、かつ膜厚均一性がよく、低コストのターゲットや電源を利用でき、蒸着装置とのクラスタ化に適したスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】処理真空チャンバ(10)を有するスパッタリング装置であって、処理真空チャンバ内にカソード電極(60)が設けられ、カソード電極上にスパッタリングターゲット材料(61)が設けられ、処理真空チャンバ内に基板が上面搬送され、カソード電極は矩形であり、基板が垂直方向に立てられた状態でカソード電極が基板面と平行に走査されることで、スパッタリングターゲット材料が基板に成膜されるスパッタリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置、スパッタリング装置を用いた成膜装置およびそれらの成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機デバイスが新たな産業分野として注目されている。たとえば表示デバイスや照明デバイスとして有機ELが、有機ELや電子ペーパー,RFIDなどの駆動素子として有機トランジスタが、太陽電池として有機薄膜太陽電池などが開発されている。特に有機ELは表示デバイスや照明デバイスの大型化とともに、製造基板サイズの大型化の要求があり、基板サイズは現状の第4.5世代製造ライン(ガラス基板寸法:730mm×920mm)から、基板寸法で2.9倍以上となる第5.5〜第6世代(基板寸法は1300mm×1500mm〜1500mm×1800mm)へ拡大し、さらには第8世代ライン(ガラス基板寸法:2200mm×2500mm)にも及ぶ見込みである。
【0003】
有機ELの成膜で一般的な真空蒸着法における基板搬送方法としては、下から蒸着するために蒸着面を下にして搬送する下面搬送がある。下面搬送では、下面は蒸着面であり蒸着面を保持できず、表示面として使われない枠部分を保持等して搬送する必要がある。または、基板の大型化にともない、基板をトレイに入れて垂直に搬送する垂直搬送も提案されている。公知例としては特許文献1および特許文献2が挙げられる。
【0004】
しかしながら、下面搬送では、枠部分のみ保持の搬送のために、基板の大型化に伴いタワミが大きくなる。タワミが大きくなると枠部分の保持力しかないので、特別な保持機構が必要となる。また、保持力が不足すると落下の危険性も高まる。さらに、タワミの問題は、搬送だけでなく、下面蒸着時においてもシャドウマスクのタワミにも影響し、両者の影響が相まって高精細な蒸着ができないという課題がある。
【0005】
一方、垂直搬送ではタワミの問題は解消できるが、搬送用トレイが必要でそのトレイも大型し、トレイによる搬送時の発塵やトレイの回収・洗浄機構が必要になるなどの課題がある。
【0006】
これらの問題を解決するため、基板を搬送ロボットで上面搬送し、真空チャンバ内で前記基板を受渡し、その後前記基板を略垂直に立ててライン状の蒸着源を上下に移動させて蒸着するクラスタ型の有機EL製造装置が提案されている。これにより、基板のタワミやトレイを用いることの課題を解決することができる。公知例としては特許文献3が挙げられる。
【0007】
上記搬送の問題に加えて表示デバイスや照明デバイスの大形化は、有機ELの上部電極の低抵抗化という新たな要求を生んでいる。特に大形のテレビや照明を製造する場合、ボトムエミッション構造では低コスト、高反射率のAl電極を、トップエミッション方式では、ITOやIZOなどの透明電極を数100nm程度まで厚く成膜する必要がある。
【0008】
Al電極は従来、坩堝を用いた抵抗加熱蒸着や誘導加熱蒸着、EB蒸着により成膜されていたが、いずれも下面蒸着のため、下面搬送が用いられてきた。また基板サイズが小さかったため、蒸着源と基板間距離を十分にあけて膜厚均一性を確保してきた。しかしながら上面搬送と、基板を略垂直に立てて成膜方法では、坩堝内のAl融液の保持が難しく、坩堝を斜めに保持するなどの特別な工夫を必要とする。またAl融液は反応性や濡れ性が高く、坩堝からの濡れ上がりによる漏出などが起きやすく、さらに蒸気圧が低いので高い蒸着温度が必要である。このような課題から厚いAl膜を形成することは非常に難しい。
そのため蒸着で形成した薄いバッファ層上に、厚いAlをスパッタリング膜で積層することが望まれる。スパッタリング膜を単独で用いずバッファ層を用いるのは、スパッタリングで発生する高エネルギー粒子による有機層のダメージを防止するためである。
【0009】
一方、ITOやIZOは一般に蒸着だけで成膜するのは困難で、やはり蒸着で形成したバッファ層上にスパッタリングで成膜されるのが通常である。
【0010】
スパッタリング装置では、液晶製造装置などで上面搬送と、基板を略垂直に立てる成膜方法は一般的であるが、基板サイズの大形化に伴い、DC放電方式では膜厚分布の増大の課題が指摘されており、AC放電方式などの新たな成膜方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−147488号公報
【特許文献2】特開2004−259638号公報
【特許文献3】特開2010−62043号公報
【特許文献4】特開2005−290550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
AC放電方式は複数のターゲットを隣接して複数並べ、隣接する2つのターゲットを対としてその間を交互にカソード電位,アノード電位とすることで、交互にスパッタリングを行う方式である。基板が大型化してもターゲットの隣接する位置にアノード電位を確保することができるため、比較的均一な放電分布を得ることができ、膜厚分布が改善する。
しかしながら、ターゲット対とターゲット対の間では放電しないため、ターゲット対毎に周期的な膜厚分布が原理的に発生する。また複数のターゲットを用いるため複数のカソード電極が必要となり、さらにターゲット対毎にAC電源が必要なため、1枚のターゲットを用いるDC放電やRF放電に比べターゲットコストや電源、装置コストが増大する課題がある。
【0013】
本発明は、上面搬送と、基板を略垂直に立てるクラスタ型のスパッタリング装置において、簡易な方法で膜厚分布を改善し、また、装置コストやターゲット等のランニングコストを低減することを第一の目的とする、また、上面搬送し、基板を垂直に立ててライン状の蒸着源で成膜するクラスタ型の蒸着装置と整合性よく連結できるスパッタリング装置を提供し、蒸着膜の薄いバッファ層上に厚いスパッタリング膜を成膜することで、有機層へのダメージを防止し、低抵抗の上部電極膜を形成できる有機デバイス製造装置を実現する方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)処理真空チャンバを有するスパッタリング装置であって、処理真空チャンバ内にカソード電極が設けられ、カソード電極上にスパッタリングターゲット材料が設けられ、処理真空チャンバ内に基板が上面搬送され、カソード電極は矩形であり、基板が垂直方向に立てられた状態でカソード電極が基板面と平行に走査されることで、スパッタリングターゲット材料が基板に成膜されるスパッタリング装置。
(2)上記(1)において、カソード電極の長手方向は処理真空チャンバの垂直方向に配置され、カソード電極が水平方向に走査されることで、スパッタリングターゲット材料が基板に成膜されるスパッタリング装置。
(3)上記(1)において、カソード電極の長手方向は処理真空チャンバの水平方向に配置され、カソード電極が垂直方向に走査されることで、スパッタリングターゲット材料が基板に成膜されるスパッタリング装置。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかにおいて、カソード電極は、平行平板方式であるスパッタリング装置。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかにおいて、カソード電極は、DC電源またはRF電源に接続されているスパッタリング装置。
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかにおいて、基板の寸法は、1300mm×1500mm以上であるスパッタリング装置。
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかにおいて、スパッタリング装置はパターニング用メタルを有し、パターニング用メタルは、基板上に成膜されるスパッタリングターゲット材料をパターニングし、パターニング用メタルは、処理真空チャンバと同電位に接続されるスパッタリング装置。
(8)上記(7)において、処理真空チャンバ内に基板は二枚設けられ、二枚の基板の内の一方の基板がパターニング用メタルとアライメントされている間に、二枚の基板の内の他方の基板が垂直に立てられ、スパッタリングターゲット材料が他方の基板に成膜されるスパッタリング装置。
(9)上記(8)において、長手方向が処理真空チャンバの垂直方向に配置されたカソード電極が二つの基板の前を交互に水平方向に走査されることで、スパッタリングターゲット材料が二つの基板に成膜されるスパッタリング装置。
(10)上記(8)において、長手方向が処理真空チャンバの水平方向に配置されたカソード電極が垂直方向に走査されることで、スパッタリングターゲット材料が二つの基板に成膜されることを特徴とするスパッタリング装置。
(11)上記(1)乃至(10)のいずれかのスパッタリング装置と、スパッタリング装置のカソード電極をライン状蒸着源に置き換えた蒸着装置と、スパッタリング装置および蒸着装置を連結する搬送チャンバと、スパッタリング装置内の基板および蒸着装置内の基板を搬入および搬出する搬送ロボットと、を有し、搬送ロボットは、蒸着装置内でライン状蒸着源によって蒸着材料が成膜された基板を蒸着装置から搬出し、スパッタリング装置に搬入し、スパッタリング装置内で、蒸着材料が成膜された基板にスパッタリングターゲット材料が成膜される成膜装置。
(12)上記(11)において、スパッタリング装置内の基板上に形成された蒸着材料およびスパッタリングターゲット材料は、有機ELの上部電極となる成膜装置。
(13)上記(11)または(12)において蒸着材料およびスパッタリングターゲット材料はAlである成膜装置。
(14)処理真空チャンバを有するスパッタリング装置の成膜方法であって、処理真空チャンバ内にカソード電極が設けられ、カソード電極上にスパッタリングターゲット材料が設けられ、処理真空チャンバ内に基板が上面搬送され、カソード電極は矩形であり、基板が垂直に立てられた状態でカソード電極が基板面と平行に走査されて、スパッタリングターゲット材料が基板に成膜されるスパッタリング装置の成膜方法。
(15)上記(14)のスパッタリング装置を用いた成膜装置の成膜方法であって、スパッタリング装置のカソード電極をライン状蒸着源に置き換えた蒸着装置と、スパッタリング装置および蒸着装置を連結する搬送チャンバと、スパッタリング装置内の基板および蒸着装置内の基板を搬入および搬出する搬送ロボットと、を有し、搬送ロボットは、前記蒸着装置内でライン状蒸着源によって蒸着材料が成膜された基板を前記蒸着装置から搬出し、スパッタリング装置に搬入し、スパッタリング装置内で、蒸着源が成膜された基板にスパッタリングターゲット材料が成膜される成膜装置の成膜方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上面搬送と、基板を垂直に立てて成膜するスパッタリング装置において、基板が大形化しても膜厚分布がよいスパッタリング装置を実現することができる。上記した以外の課題,構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施例のスパッタリング装置を模式的に示す概略図である。
【図2】一実施例のスパッタリング装置のカソード電極の概略図である。
【図3】一実施例のスパッタリング装置を模式的に示す概略図である。
【図4】一実施例の蒸着装置を模式的に示す概略図である。
【図5】一実施例のスパッタリング装置と蒸着装置をクラスタ化して連結した有機デバイス製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0018】
<スパッタリング装置の実施形態一>
図1は、本発明の一実施形態のスパッタリング装置の構造を模式的に示す概略図である。図1のように、処理真空チャンバ10の水平方向および処理真空チャンバ10の垂直方向を規定する。図1におけるスパッタリング装置は概略、処理真空チャンバ10,搬送チャンバ(図示せず)との間に真空を維持するためにゲート弁20,基板受け渡し部30,基板を略垂直に立てるための駆動部40,パターニング用メタル50,カソード電極60,カソード電極60の上に設置されたスパッタリングターゲット材料(図示せず)で構成される。カソード電極60は、略垂直に立てられた基板と正対し、カソード電極60の長手方向が処理真空チャンバ10内の垂直方向に配置されている。カソード電極60の長手方向が立てられた基板の高さ方向の辺より長く、基板の高さ方向の辺と略垂直なもう一方の辺より短い略矩形状で左右に走査可能な平行平板方式である。カソード電極60の短辺側を走査方向の基板長より短くすることで、カソード電極60全体が基板全面を走査できるようにする。この際、走査速度を一定に保つことで、高い膜厚均一性を得ることが可能である。カソード電極60の長手方向についても、カソード電極背面の永久磁石63(図2)の均一配置や、必要によりカソード電極60の前のシールド電極62(図2)に補正板を取り付けることにより、高い膜厚均一性を得ることが可能である。カソード電極60として矩形カソードを用いる平行平板方式以外に、円筒カソードを用いるロータリー式でもよい。ターゲットコストを低くすること、成膜速度を速くできること、電極を厚く形成できることを考慮して平行平板方式が望ましい。カソード電極60の形状は、基板と対向する領域が少なくとも矩形、または円筒であればよく、端面などを含め厳密な矩形や円筒である必要はない。カソード電極60の端部が湾曲していても良いし、テーパー形状となっていても良い。カソード電極60の断面形状が長方形,台形となっていてもよい。図1では、カソード電極60の走査方向が1軸(水平方向の往復運動のみ)となるので、カソード電極60の駆動機構が単純になる。
【0019】
まず、ゲート弁20が開けられ、処理真空チャンバ10に連結された搬送チャンバ(図示せず)の搬送ロボットにより上面搬送にて基板が基板受け渡し部30に搬入される。搬送ロボットは、櫛歯状ハンドを上下二段に2本有し、例えば上は搬入用、下は搬出用とし、一つの動作で搬入出処理を同時に行うことができる。なお、本発明の成膜方式は上面搬送以外に下面搬送でも垂直搬送でも適用可能であるが、前記したように上面搬送により、下面搬送で生じる基板の大型化に伴うタワミを抑制できる。
【0020】
次に、搬入された基板を駆動部40により、略垂直に立てたのち、パターニング用メタル50とのアライメントを行う。パターニング用メタル50として、メタルマスクやメタルフレームが挙げられる。メタルマスクは、画素単位の微小開口パターンに用いられ、厚さ0.1mm程度の薄い金属シート状である。メタルフレームは、パネル単位の格子状の金属枠であり、厚さ数mm程度の金属構造物である。パターニング用メタル50は、成膜する膜を画素毎、またはパネル毎に分割パターニングするために用いられると同時に、処理真空チャンバ10と同電位に設置され、スパッタリングの際のアノード電位としても機能する。パターニング用メタル50と処理真空チャンバ10とを必ずしも同電位にする必要はなく、意図的にパターニング用メタル50に電位をかけてもよい。パターニング用メタル50と処理真空チャンバ10とを同電位にすることにより、安定で均一な分布の放電が得られ、膜厚均一性が向上する。
【0021】
次に、カソード電極60を処理真空チャンバ10内で基板面と平行に走査し、基板全面に上部電極膜を成膜する。成膜は基板面の前を少なくとも1回、望ましくは往復で2回カソード電極60を走査することにより行うが、3回以上走査して行うことも可能である。
本実施例の構成により、上部電極膜の厚みを数nm〜数μmまで幅広く成膜できる。有機EL用の上部電極膜であれば、スパッタリングにより成膜された上部電極膜の厚みは100nm〜300nmとなる。上部電極膜の最大膜厚と最小膜厚との差が上部電極膜の平均膜厚の2%以内となる上部電極膜が容易に得られる。
【0022】
基板受け渡し部30は1箇所でもよいが、本実施例では処理真空チャンバ10内に2箇所設けた。これにより、1枚の基板をアライメントしている間にもう1枚をスパッタリング成膜することが可能であり、生産性が向上する。つまり、1つの成膜チャンバでアライメントと成膜を交互に行うことにより、生産性を向上することができる。この場合、カソード電極60は2枚の基板の中央をホームポジションとし、左右に往復走査して成膜することで無駄な走査をすることなく効率的な成膜が可能である。
【0023】
図2はカソード電極60の概略図である。カソード電極60は、シールド電極62およびマグネトロン放電のための背面の永久磁石63で構成される。スパッタリングターゲット材料61はカソード電極60上で矩形状あるいは、四隅をR加工した略矩形状のものを用いる。カソード電極60は長手方向が基板の高さ方向の辺より長く、基板の高さ方向と略垂直なもう一方の辺より短い。スパッタリングターゲット材料61はカソード電極60上で1枚の構成が望ましいが、分割ターゲットを用いても構わない。スパッタリングターゲット材料61としては、アルミニウム,アルミニウム合金,銀,銀合金,マグネシウム合金などの金属、ITO,IZO,AZOなどの透明電極、SiO2やSi34などの酸化物、窒化物,IGZOなどの酸化物半導体などが挙げられる。
【0024】
スパッタリングターゲット材料61の周りは処理真空チャンバ10と同電位に設置されたシールド電極62で囲まれる。カソード電極60の背面には磁場でプラズマを閉じ込めるための永久磁石63が配される。永久磁石63は固定でもよいが、エロージョン部を均一化し、スパッタリングターゲット材料61の利用効率を向上できるように揺動式としてもよい。カソード電極60の電源線および冷却水はカソード電極60を真空中で走査できるように、フレキシブル配管64などを介して供給される。あるいは、カソード電極60の電源線および冷却水を内蔵したロボットアームにカソード電極60を取り付け、ロボットアームとカソード電極60の間を、固定配管を介して接続してもよい。カソード電極60はDCまたはRF電源に接続されている(図示せず)。カソード電極60をDC電源に接続することにより、低コスト、高レートの成膜が可能となる。カソード電極60をRF電源に接続することにより、金属だけでなく絶縁膜も成膜できる。このように、最低で1台のDC電源やRF電源を用い、インライン型のスパッタリング装置で用いられる安価な略矩形状スパッタリングターゲット材料61と略矩形状カソード電極60を用いることで、装置コストやランニングコストを抑えることができる。
【0025】
<スパッタリング装置の実施形態2>
図3は、本発明の別な一実施形態のスパッタリング装置の構造を模式的に示す概略図である。図1におけるスパッタリング装置と概略同じであるが、略垂直に立てられた基板と正対し、長手方向が立てられた基板の幅より長く、それと略垂直なもう一方の辺より短い略矩形状で上下に走査可能な平行平板方式のカソード電極60と、カソード電極60の上に設置されたスパッタリングターゲット材料(図示せず)で構成される。この場合、カソード電極60はスパッタリング装置の左右の基板の前に交互に移動した後、基板面と平行に上下方向に走査し、成膜を行う。第5.5〜第6世代以上の基板に対応した処理真空チャンバ10のサイズは非常に大きいので、図3のようにカソード電極60の長手方向が処理真空チャンバ10内の水平方向に配置されていれば、スパッタリングターゲット交換のメンテナンスの際、カソード電極60を処理真空チャンバ10の下まで下ろしてカソード電極60上のスパッタリングターゲット材料61を取替える作業がしやすくなる。
【0026】
<スパッタリング装置と蒸着装置のクラスタ化の実施形態>
図4は、本発明の一実施例の蒸着装置を模式的に示す概略図である。基本的なチャンバの構造は、図1に示したスパッタリング装置と同じであるが、カソード電極60の代わりに、複数の蒸着源を一列に並べたリニア蒸着源70に置き換えている点が異なる。リニア蒸着源70は略矩形状であり、リニア蒸着源70の長手方向は立てられた基板の高さ方向の辺より長く、基板の高さ方向と略垂直なもう一方の辺より短い。蒸着源には、PBNやアルミナなどのセラミック坩堝などを抵抗加熱または誘導加熱したものなどを用いることができる。リニア蒸着源70を処理真空チャンバ10内で基板面と平行または垂直に走査し、基板全面に上部電極膜(蒸着材料)を成膜する。有機EL用の上部電極であれば、蒸着により成膜された上部電極膜の膜厚は10nm〜20nmとなる。蒸着により成膜された上部電極膜の膜厚は、スパッタリングにより成膜された上部電極膜の膜厚より小さくなる。電源線や冷却水もスパッタリング装置と同様のフレキシブル配管(図示せず)や、カソード電極60の電源線および冷却水を内蔵したロボットアームと固定配管を介して接続することにより蒸着源に供給することができる。これにより、スパッタリング装置と蒸着装置を同一の処理真空チャンバ10を用いて作成することが可能であり、整合性よく連結することができる。図3のスパッタリング装置のチャンバ構造で、カソード電極60を複数の蒸着源を一列に並べたリニア蒸着源70に置き換えた蒸着装置としてもよい。略矩形状カソード電極60をライン状リニア蒸着源70に置き換えることで、同じクラスタ型の処理真空チャンバ10の設計で、蒸着装置とスパッタリング装置を製造することができる。
【0027】
<有機デバイス製造装置の実施形態>
図5は、本発明の一実施例のスパッタリング装置と蒸着装置をクラスタ化して連結した有機デバイス製造装置の模式図である。本実施形態では有機EL用の装置の例を示す。有機ELデバイス製造装置は、基板カセット130から基板を搬入するロード室80、基板上に有機層およびバッファ層、上部電極を成膜する蒸着装置またはスパッタリング装置の処理真空チャンバ10、ロード室80あるいは次工程(封止工程)との間の設置された受け渡し室90とそれらの間のゲート弁20、基板を真空中から取り出すアンロード室100,受け渡し室90,アンロード室100内にある搬送ロボット110から構成される。処理真空チャンバ10内には基板受け渡し部30、基板を略垂直に立てるための駆動部(図示せず)、パターニング用メタル50(図示せず)、略矩形状のリニア蒸着源70またはカソード電極60で構成される。ロード室80およびアンロード室100は、真空を維持するためにゲート弁20と搬送チャンバ120より基板を受取り、旋回して受け渡し室90に基板を搬入する搬送ロボット110からなる。搬送チャンバ120はスパッタリング装置,蒸着装置などを連結する。搬送チャンバ120を介して処理真空チャンバ10をクラスタ化して連結することで、有機EL等の有機デバイスに適した蒸着膜とスパッタリング膜を積層した上部電極を成膜できる。各受け渡し室90は前後にゲート弁20を有し、当該ゲート弁20の開閉を制御し真空を維持しながらロード室80から処理真空チャンバ10の各クラスタへ基板を受け渡し、最後にアンロード室100から基板を取り出す。本実施例の有機EL製造装置では計10個の処理真空チャンバ10を連結し、下部電極,ホール注入層,ホール輸送層,赤,緑,青の発光層,電子輸送層,電子注入層,バッファ層、および上部電極を成膜することが可能である。図4における蒸着装置によりAlの上部電極膜を成膜してから、図1や図3におけるスパッタリング装置によりAlの上部電極膜を成膜して、積層された上部電極を形成することにより、大面積,高速の蒸着が困難なAlを用いた上部電極を第5.5〜第6世代以上の大型基板へ適用でき、スパッタリングが有機層に与えるダメージを軽減できる。
【符号の説明】
【0028】
10 処理真空チャンバ
20 ゲート弁
30 基板受け渡し部
40 駆動部
50 パターニング用メタル
60 カソード電極
61 スパッタリングターゲット材料
62 シールド電極
63 永久磁石
64 フレキシブル配管
70 リニア蒸着源
80 ロード室
90 受け渡し室
100 アンロード室
110 搬送ロボット
120 搬送チャンバ
130 基板カセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理真空チャンバを有するスパッタリング装置であって、
前記処理真空チャンバ内にカソード電極が設けられ、
前記カソード電極上にスパッタリングターゲット材料が設けられ、
前記処理真空チャンバ内に基板が搬送され、
前記基板が垂直方向に立てられた状態で前記カソード電極が前記基板面と平行に走査されることで、前記スパッタリングターゲット材料が前記基板に成膜されるスパッタリング装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記カソード電極の長手方向は前記処理真空チャンバの垂直方向に配置され、
前記カソード電極が水平方向に走査されることで、前記スパッタリングターゲット材料が基板に成膜されるスパッタリング装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記カソード電極の長手方向は前記処理真空チャンバの水平方向に配置され、
前記カソード電極が垂直方向に走査されることで、前記スパッタリングターゲット材料が基板に成膜されるスパッタリング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記カソード電極は、平行平板方式またはロータリー方式であるスパッタリング装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記カソード電極は、DC電源またはRF電源に接続されているスパッタリング装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記基板の寸法は、1300mm×1500mm以上であるスパッタリング装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記スパッタリング装置はパターニング用メタルを有し、
前記パターニング用メタルは、前記基板上に成膜される前記スパッタリングターゲット材料をパターニングし、
前記パターニング用メタルは、前記処理真空チャンバと同電位に接続されるスパッタリング装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記処理真空チャンバ内に前記基板は二枚設けられ、
前記二枚の基板の内の一方の基板が前記パターニング用メタルとアライメントされている間に、前記二枚の基板の内の他方の基板が垂直に立てられ、前記スパッタリングターゲット材料が前記他方の基板に成膜されるスパッタリング装置。
【請求項9】
請求項8において、
長手方向が前記処理真空チャンバの垂直方向に配置された前記カソード電極が前記二つの基板の前を交互に水平方向に走査されることで、前記スパッタリングターゲット材料が前記二つの基板に成膜されるスパッタリング装置。
【請求項10】
請求項8において、
長手方向が前記処理真空チャンバの水平方向に配置された前記カソード電極が垂直方向に走査されることで、前記スパッタリングターゲット材料が前記二つの基板に成膜されることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかのスパッタリング装置と、
前記スパッタリング装置のカソード電極をライン状蒸着源に置き換えた蒸着装置と、
前記スパッタリング装置および前記蒸着装置を連結する搬送チャンバと、
前記スパッタリング装置内の基板および前記蒸着装置内の基板を搬入および搬出する搬送ロボットと、を有し、
前記搬送ロボットは、前記蒸着装置内でライン状蒸着源によって蒸着材料が成膜された基板を前記蒸着装置から搬出し、前記スパッタリング装置に搬入し、
前記スパッタリング装置内で、前記蒸着材料が成膜された基板に前記スパッタリングターゲット材料が成膜される成膜装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記スパッタリング装置内の基板上に形成された前記蒸着材料および前記スパッタリングターゲット材料は、有機ELの上部電極となる成膜装置。
【請求項13】
請求項11または12において、
前記蒸着材料および前記スパッタリングターゲット材料はAlである成膜装置。
【請求項14】
処理真空チャンバを有するスパッタリング装置の成膜方法であって、
前記処理真空チャンバ内にカソード電極が設けられ、
前記カソード電極上にスパッタリングターゲット材料が設けられ、
前記処理真空チャンバ内に基板が上面搬送され、
前記カソード電極は矩形であり、
前記基板が垂直に立てられた状態で前記カソード電極が前記基板面と平行に走査されて、前記スパッタリングターゲット材料が前記基板に成膜されるスパッタリング装置の成膜方法。
【請求項15】
請求項14のスパッタリング装置を用いた成膜装置の成膜方法であって、
前記スパッタリング装置のカソード電極をライン状蒸着源に置き換えた蒸着装置と、
前記スパッタリング装置および前記蒸着装置を連結する搬送チャンバと、
前記スパッタリング装置内の基板および前記蒸着装置内の基板を搬入および搬出する搬送ロボットと、を有し、
前記搬送ロボットは、前記蒸着装置内でライン状蒸着源によって蒸着材料が成膜された基板を前記蒸着装置から搬出し、前記スパッタリング装置に搬入し、
前記スパッタリング装置内で、前記蒸着材料が成膜された基板に前記スパッタリングターゲット材料が成膜される成膜装置の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−1920(P2013−1920A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131786(P2011−131786)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】