説明

ディスク型MEMS振動子

【課題】ディスク下面に犠牲層の残渣が発生せず、きれいに除去されるようにする。
【解決手段】ディスク型の振動子構造体1と、該振動子構造体1の両側に前記ディスク型振動子構造体の外周部に対して所定の空隙gを有して、それぞれ対向して配置される一対の駆動電極2,2と、該駆動電極2,2に同相の交流バイアス電圧を印加する手段と、前記ディスク型振動子構造体1と前記駆動電極2,2との間の静電容量に対応した出力を得る検出手段とを備えた静電駆動型のディスク型振動子において、前記ディスク型振動子構造体1がディスクの中心に貫通孔1aを有し、ワイン・グラス・モードで振動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSで製造されるディスク型振動子(レゾネータ)に係り、とくに本発明は、ディスクの中央に貫通孔を形成して、ディスク下面にエッチング液が浸透し易くした振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のディスク型MEMS振動子は、図4に示すように、ディスク(円盤)形状の振動体(ディスク)10と、この振動体10の両側に、この振動体10の外周部10aに対して所定の空隙gを有して、それぞれ対向して配置された駆動電極20,20と、この駆動電極20,20に同相の交流バイアス電圧を印加する手段と、前記振動体10と前記駆動電極20,20との間の静電容量に対応した出力を得る検出電極30,30とを備え、前記振動体10は、その外周部10aに突出して形成された支持部40,40により支持されている。
【0003】
そして、このようなディスク型振動子(レゾネータ;Resonator)は、半導体(シリコン)基板上にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems の略、微小電気機械システム)によりシリコン膜を形成して製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−152501号公報
【非特許文献1】M.A.Abdelmoneum, M.U.Demirci, and C.T.-O.Ngyen, "Stem-less wine-glass-mode disk micromechanical resonators," in Proc.IEEE Int, Conf,Micro-Electro-Mechanical Systems,Kyoto.Japan,2003,pp698-701
【非特許文献2】M.A.Abdelmoneum, M.U.Demirci,and C.T.-C.Ngyen, "NickelVibrating Micromechanical Disk Resonator With Solid Dielectric Capacitive-Transducer Gap," in Proc.IEEE Int. Frequency Control Symp.,Miami,Florida, June 5-7,2006,pp839-847
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の従来のディスク型MEMS振動子の製造方法では、その製造方法の最終工程に、フッ酸系のエッチャント(エッチング液)を用いたエッチング処理等で先の工程で形成した犠牲層をエッチングして除去し、すでに形成した振動子構造体(ディスク型振動体)と駆動電極及び検出電極とを離間させ、さらに、振動子構造体の下面を半導体基板より離間させて静電振動子の振動子構造体を形成する工程がある。
【0006】
しかしながら、犠牲層をウェットエッチングする工程において、ディスクには、開口等が形成されていないため、ディスク下面にエッチング液が十分浸透せず、ディスク下面にある犠牲層が除去し難くなり、その一部が残渣として残ってしまうという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明のディスク型振動子では、ディスク型の振動子構造体と、該振動子構造体の両側に前記ディスク型振動子構造体の外周部に対して所定の空隙を有して、それぞれ対向して配置される一対の駆動電極と、該駆動電極に同相の交流バイアス電圧を印加する手段と、前記ディスク型振動子構造体と前記駆動電極との間の静電容量に対応した出力を得る検出手段とを備えた静電駆動型のディスク型振動子において、前記ディスク型振動子構造体がディスクの中心に貫通孔を有し、ワイン・グラス・モードで振動されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明では、前記貫通孔の横断面形状が、正方形、円形、十字形、または長方形であることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明では、正方形、十字形または長方形の前記貫通孔の横断面形状が、各角部に丸みを有する横断面形状であることを特徴とする。
【0010】
さらにまた、本発明では、前記貫通孔の各横断面形状の外径円の半径が、前記ディスクの半径の1/20から1/10であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明では、前記振動子構造体が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、単結晶ダイヤモンドまたは多結晶ダイヤモンドからなることを特徴とする。
【0012】
本発明では、前記ディスク型振動子が、MEMSにより製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ディスクの中心に貫通孔を形成したので、この貫通孔を介してエッチング液がディスクの下面に浸透し易くなり、ディスク下面に犠牲層の残渣が発生せず、きれいに除去されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のディスク型MEMS振動子の概念的構成図である。
【図2】本発明のディスク型MEMS振動子のディスクの中心に形成する貫通孔の横断面形状を示し、(a)は円形、(b)は正方形、(c)は十字(クロス)形、及び(d)は長方形、の貫通孔をそれぞれ示す。また(e)は、(a)〜(d)に示す角部にそれぞれ丸みを形成した実施例を示す。
【図3】本発明のディスク型MEMS振動子の製造方法の各工程(a)〜(f)を示す図であって、それぞれの図(a)〜(f)は図1に示すIII−III矢視断面図を示す。
【図4】従来例のディスク型MEMS振動子の概念的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施例
ディスク型MEMS振動子
図1は、本発明のディスク型MEMS振動子の概念的構成図である。
【0016】
図1に示すように、本発明のディスク型MEMS振動子Rは、弾性体からなるディスク形状の振動体(ディスク;振動子構造体)1と、振動体1の外周部から突出し形成され、この振動体1を、例えば2点で支持する、支持部4と、この振動体1の両側に、この振動体1の外周部1aに対して所定の空隙gを有して、それぞれ対向して配置された一対の駆動電極2,2と、これら一対の駆動電極2,2に同相の交流バイアス電圧を印加する交流電源(図示せず)と、振動体1と駆動電極2,2との空隙gの静電容量に対応した出力を得る一対の検出電極3,3を備え、振動体1の中心には、図2に示すような横断面形状を有する貫通孔1aが形成されている。
【0017】
このようなディスク型MEMS振動子では、所定の周波数を有する電気的な信号を交流電源から駆動電極2,2に印加すると、静電結合により、振動体(ディスク)1が所定の周波数でワイングラス振動モード(Wine-Glass-Vibrating-Mode)で振動する。また、検出電極3,3は、振動体1の電気的な振動を、静電結合により検出し、この検出した信号を検出器(図示せず)に出力する。ここで、この振動体1の中心及び2点の支持部4(節:ノード)は、振動しない。
【0018】
本発明は、とくに振動時に振動体1の振動しない中心に貫通して形成した貫通孔1aに関する。
【0019】
本発明に用いる弾性体からなるディスク形状の振動体1は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、単結晶ダイヤモンドまたは多結晶ダイヤモンドから構成されている。
【0020】
また、本発明のディスク型MEMS振動子1の中心に、これを貫通して形成する貫通孔1aの横断面形状は、図2に示すように、(a)円形、(b)正方形、(c)十字(クロス)形、(d)長方形をしている。なお、図2(e)に示すように、前出正方形、十字形、長方形の各角を丸めた横断面形状としてもよい。
【0021】
さらに、図2に示す、貫通孔1aの各横断面形状の外接円の半径r1のディスク1の半径r2に対する比率を1/20から1/10とする。
【0022】
本発明のディスク型MEMS振動子1では、表1に示すような種類と、ディスク半径(r2)、貫通孔半径(r1)、ディスク厚(t)をもつ従来例のディスク型振動子(図4参照、貫通孔1aがないもの)と、ディスクの中心に半径r1;2μmの貫通孔1aを形成してディスク型振動子(図1参照)を2種類ずつ(ディスク型振動子(貫通孔なし)A,Bならびにディスク型振動子(貫通孔あり)A,B)を用意した。
【0023】
【表1】

【0024】
そして、表2に示すように、犠牲層除去工程における、エッチング不良(残渣不良、オーバーエッチング不良)の発生率を貫通孔のないディスク型振動子(図4参照)と中心に貫通孔を形成したディスク型振動子(図1参照)について、それぞれ任意にサンプリングした100チップで比較した。この表2から明らかなように、本発明のように、ディスク1の中心に貫通孔1aを形成したことにより、犠牲層の残渣不良を含めたエッチング不良率が35%から2%に大巾に向上した。
【0025】
【表2】

【0026】
また、表3に示すように、従来例のディスク型振動子と中心に貫通孔を形成したディスク型振動子の共振特性の比較をR1(Motional Resistance:動インピーダンス)を用いて実施した。
【0027】
表3から明らかなように、表1に示す半径27μm、32μmのディスク型振動子A,Bに対して、それぞれ半径r1;2μm(ディスクの半径r2に対する比率が1/10から1/20)の円形横断面の貫通孔1aを形成しても、共振特性の劣化は認められないことが確認できた。一方、ディスクの半径r2に対し、半径r1が1/10〜1/20の範囲を外れる貫通孔1aをディスクに形成すると、共振特性が劣化することが確認できた。
【0028】
【表3】

【0029】
以上の実証結果から見て、振動体(ディスク)1の中心に貫通孔1aを形成することにより、ディスク型振動子の共振特性を劣化させずに、かつ、貫通孔1aからエッチャント(エッチング液)がディスクの下面に浸透し易くなるので、犠牲層の除去に対して優れたエッチング効果を有するMEMS振動子(レゾネータ)が得られるようになる。
【0030】
ディスク型MEMS振動子の製造方法
次に、図3に示す工程図に基づいて、本発明のディスク型MEMS振動子のMEMSによる製造方法を説明する。
【0031】
まず、図3(a)に示すように、Siからなる半導体基板5を用意し、その表面5a上にPSG(リンシリケートガラス)等からなる第1絶縁膜6を成膜して形成し、この第1絶縁膜6の表面上に窒化シリコン等からなる第2絶縁膜7をCVD、スパッタリング等により成膜して形成する。
【0032】
次いで、図3(b)に示すように、前出の第2絶縁膜7の表面上に、導電性を付与するためにリンまたはボロンをドープしたポリシリコン膜(Doped poly Si)等からなる第1導電層8をCVD、スパッタリング等で成膜して形成し、次いで、レジスト塗布、露光、現像によるパターニングマスクの形成工程及びこのパターニングマスクを用いたエッチング工程を含むパターニング処理でパターニングすることにより、所定形状のそれぞれ一対の駆動電極2及び検出電極3が位置する部位を形成する。
【0033】
また、図3(c)に示すように、PSG等からなる犠牲層9を導電層8の表面上にCVD、スパッタリング等により成膜し、その表面にポリシリコン膜(Doped poly Si)等からなる導電層10をCVD等で成膜し、さらに、導電層10の表面にNSG(非ドープシリケートガラス)からなる第1酸化膜11をCVD、スパッタリング等で形成する。その後、上述したのと同様に、パターニング処理を施して、ディスク状の振動子構造体を形成する。同時に振動子構造体の中心に所定寸法の貫通孔をエッチング等により形成する。なお、この工程(c)において、犠牲層9の表面を化学機械研磨法(CMP)等で平坦化してもよい。
【0034】
次に、図3(d)に示すように、NSGからなる第2酸化膜12を第1酸化膜11の表面上にCVD、スパッタリング等で形成した後、上述したと同様のパターニング処理を施す。
【0035】
さらに、図3(e)に示すように、リン等をドープしたポリシリコン膜からなる第2導電層13を第2酸化膜12の表面にCVD、スパッタリング等で成膜し、上述と同様のパターニング処理を施して駆動電極2及び検出電極3を形成する。
【0036】
最後に、図3(f)に示すように、フッ酸系のエッチャントを用いたエッチング処理等で犠牲層9ならびに第1酸化膜11及び第2酸化膜12を除去して、振動子構造体(振動体1)10と駆動電極2及び検出電極3とを離間するとともに、前出工程で、振動子構造体10の上面から下面を貫通して所定形状及び寸法の貫通孔が形成されているので、振動子構造体10の下面を十分エッチングして、犠牲層9の残渣を除去して、振動子構造体10の下面を基板5の上面より離間して振動子構造体R(ディスク型MEMS振動子)が製造される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のディスク型MEMS振動子は、共振器、SAWデバイス、センサー、アクチュエータ等に広く利用できる。
【符号の説明】
【0038】
R ディスク型MEMS振動子(レゾネータ)
1,10 振動体(ディスク)
2,20 駆動電極
3,30 検出電極
4,40 支持部
5 基板
6 第1絶縁膜
7 第2絶縁膜
8 第1導電層
9 犠牲層
10 振動子構造体
11 第1酸化膜
12 第2酸化膜
13 第2導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク型の振動子構造体と、該振動子構造体の両側に前記ディスク型振動子構造体の外周部に対して所定の空隙を有して、それぞれ対向して配置される一対の駆動電極と、該駆動電極に同相の交流バイアス電圧を印加する手段と、前記ディスク型振動子構造体と前記駆動電極との間の静電容量に対応した出力を得る検出手段とを備えた静電駆動型のディスク型振動子において、前記ディスク型振動子構造体がディスクの中心に貫通孔を有し、ワイン・グラス・モードで振動されることを特徴とするディスク型振動子。
【請求項2】
前記貫通孔の横断面形状が、正方形、円形、十字形または長方形であることを特徴とする請求項1に記載のディスク型振動子。
【請求項3】
正方形、十字形または長方形の前記貫通孔の横断面形状が、各角部に丸みを有する横断面形状であることを特徴とする請求項2に記載のディスク型振動子。
【請求項4】
前記貫通孔の各横断面形状の外径円の半径が、前記ディスクの半径の1/20から1/10であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のディスク型振動子。
【請求項5】
前記振動子構造体が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、単結晶ダイヤモンドまたは多結晶ダイヤモンドからなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のディスク型振動子。
【請求項6】
前記ディスク型振動子が、MEMSにより製造されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のディスク型振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−39507(P2012−39507A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179495(P2010−179495)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】