説明

ディーゼルエンジン

【課題】簡素な構成により燃焼温度を過度に低下させることなく高負荷時のNO排出量を低減したディーゼルエンジンを提供する。
【解決手段】ストイキ近傍の所定の空燃比範囲において有効な三元触媒90が排気管路40に設けられたディーゼルエンジン10を、出力トルクが所定値以上となる高負荷領域において空燃比λが三元触媒90の有効範囲内となるように燃料噴射量及び吸入空気量を制御する高負荷制御を行なうエンジン制御装置100を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるディーゼルエンジンに関し、簡素な構成により燃焼温度を過度に低下させることなく高負荷時のNO排出量を低減したものに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンにおいては、一般的なガソリンエンジンに対して、通常空燃比がリーンでありかつ圧縮比が高いため、窒素酸化物(NO)の発生が問題となる。
一般的なガソリンエンジンにおいては、空燃比がほぼストイキの状態で有効となる三元触媒を用いて、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)とともにNOを処理しているが、リーン燃焼を行なうディーゼルエンジンにおいては、排ガス中に酸素が多く残存するため、通常三元触媒の適用は困難である。
【0003】
ディーゼルエンジンから排出されるNOの低減に関する従来技術として、例えば、排ガスの一部を抽出して吸気側に導入する排ガス再循環(EGR)や、エンジンの圧縮比を低くすることによって、燃焼温度の低下を図ることが行なわれている。
【0004】
また、例えば特許文献1には、通常運転時に発生するNOを、NO吸収剤に吸着させるとともに、ポスト噴射等を行なう還元運転時に放出させるようにしたNO吸蔵還元触媒(LNT)が記載されている。
また、特許文献2には、尿素水溶液を用いてNOを処理する尿素選択還元触媒(SCR)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2600492号
【特許文献2】特開2001−20724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
将来的にディーゼルエンジンの排ガスのさらなる低エミッション化が要望されている。
しかし、EGR量を過度に増大させると、エンジン筒内での酸素濃度が低下し、燃料の過濃領域が増加することによって、スート(煤)が増加してしまう。
また、圧縮比を過度に低下させると、始動性及び始動時のエンジン安定性、排ガスなどの悪化の原因となる。
また、NO吸蔵還元触媒や尿素選択還元触媒等のデバイスを付加すると、構造が複雑化しコストが高くなる。
さらに、NO吸蔵還元触媒を適用した場合、定期的にポスト噴射等によって還元処理を行なう必要があることから、燃料消費量が増大する。
また、尿素選択還元触媒を適用した場合、尿素水溶液の供給インフラが必要となるほか、アンモニアが外部へ排出されるスリップへの対応が必要となる。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡素な構成により燃焼温度を過度に低下させることなく高負荷時のNO排出量を低減したディーゼルエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、ストイキ近傍の所定の空燃比範囲において有効な三元触媒が排気管路に設けられたディーゼルエンジンであって、出力トルクが所定値以上となる高負荷領域において空燃比が前記三元触媒の有効範囲内となるように燃料噴射量及び吸入空気量を制御する高負荷制御を行なうエンジン制御装置を備えることを特徴とするディーゼルエンジンである。
これによれば、NO排出量が増加する高負荷時に空燃比を実質ストイキ化し、三元触媒によってNOを処理することが可能となる。
これによって、EGR量増大、低圧縮比化を過度に促進したり、NO吸蔵還元触媒や尿素選択還元触媒等の複雑かつ高コストな後処理装置の付加を行なうことなく、高負荷時のNO排出量を低減することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記排気管路から排ガスの一部を抽出して吸気管路に導入するEGR装置と、前記吸気管路に設けられたスロットルバルブとを備え、前記エンジン制御装置は、前記高負荷制御の実行時に、前記EGR装置による排ガスの前記吸気管路への導入を行なうとともに、前記スロットルバルブによってエンジンの吸入新気量を低減させることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンである。
これによれば、EGR及びスロットルバルブによる吸入新気量の低減を併用して実質ストイキ状態とすることによって、EGR量が過度に多くなって燃焼温度が低下することによる失火や、スートの増加を防止することができる。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記エンジン制御装置は、前記高負荷制御の実行時に、非実行時に対してメイン燃料噴射後のポスト燃料噴射量を増加させることを特徴とする請求項2に記載のディーゼルエンジンである。
これによれば、新気絞り及びEGR量の増加のみでは空燃比がリーンである場合に、ポスト燃料噴射によってストイキ化することができる。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記エンジン制御装置は、前記高負荷制御の実行時に、非実行時に対して燃料噴射時期を遅延させることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のディーゼルエンジンである。
これによれば、着火遅れ時間を長期化し、スートが発生しやすい拡散燃焼の割合を下げてスートが発生しにくい膨張行程側に着火時期をシフトさせ、空燃比をリッチ化すると増加しやすいスートの発生量を低減することができる。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記排気管路における前記三元触媒よりもエンジン側の領域に配置され、排ガス中の粒子状物質を捕捉するディーゼルパティキュレートフィルタと、前記ディーゼルパティキュレートフィルタから出た排ガスを前記三元触媒の入口側から出口側にバイパスさせるバイパス管路を備えることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のディーゼルエンジンである。
これによれば、ディーゼルパティキュレートフィルタの再生時に、ディーゼルパティキュレートフィルタから排出される高温の排ガスをバイパスさせることによって、三元触媒を保護して焼損などを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、簡素な構成により燃焼温度を過度に低下させることなく高負荷時のNO排出量を低減したディーゼルエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用したディーゼルエンジンの実施例の構成を示す図である。
【図2】図1のディーゼルエンジンの高負荷制御を示すフローチャートである。
【図3】ディーゼルエンジンにおける空燃比λとスート発生量との相関を示すグラフである。
【図4】ディーゼルエンジンにおける燃料のメイン噴射時期と熱発生率履歴との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、簡素な構成により燃焼温度を過度に低下させることなく高負荷時のNO排出量を低減したディーゼルエンジンを提供する課題を、排気系に三元触媒を設けるとともに、新気絞り及びEGRによってストイキ運転を行なって三元触媒によるNO処理を図るとともに、噴射時期をリタードさせてスート発生を抑制することによって解決した。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を適用したディーゼルエンジンの実施例について説明する。
図1は、実施例のディーゼルエンジンの構成を示す模式図である。
エンジン10は、ターボチャージャ20、インテークシステム30、エキゾーストシステム40、燃料供給装置50、EGR装置60、酸化触媒(DOC)70、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)80、三元触媒90、エンジン制御ユニット(ECU)100等を備えて構成されている。
【0016】
エンジン10は、例えば、乗用車等の自動車の走行用動力源として用いられる4ストロークのディーゼルエンジンである。
エンジン10は、クランクシャフト11、ピストン12、シリンダブロック13、ヘッド14、燃焼室15、グロープラグ16、グローコントローラ17等を備えて構成されている。
クランクシャフト11は、エンジン10の出力軸である。
ピストン12は、シリンダ内を往復運動し、コンロッドを介して燃焼圧力をクランクシャフト11に伝達する部材である。
シリンダブロック13は、ピストン12が収容されるシリンダ部及びクランクシャフト11が回転可能に支持されるクランクケース部を一体に形成したものである。
シリンダブロック13は、クランク角センサ13a及び水温センサ13bを備えている。
クランク角センサ13aは、クランクシャフト11の角度位置を検出するものである。
水温センサ13bは、エンジン10内のウォータージャケット内を循環する冷却水温を検出するものである。
ヘッド14は、シリンダブロック13のピストン12の冠側の端部に設けられ、吸気ポート、排気ポート及びこれらに設けられた吸気バルブ及び排気バルブを開閉する動弁駆動機構等を備えている。
燃焼室15は、ピストン12の冠面とヘッド14のこれに対向する部分との間に形成されている。
グロープラグ16は、先端部が燃焼室15内に露出した状態でヘッド14に設けられた予備加熱装置である。
グローコントローラ17は、ECU100の制御に応じてグロープラグ16への通電量を制御するものである。
【0017】
ターボチャージャ20は、エンジン10の排ガス(既燃ガス)のエネルギを用いて、エンジン10が吸入する燃焼用空気(新気)を圧縮するものである。
ターボチャージャ20は、コンプレッサ21、タービン22、アクチュエータ23、負圧制御弁24等を備えている。
コンプレッサ21は、燃焼用空気を圧縮する遠心型圧縮機である。
タービン22は、コンプレッサ21と同軸に設けられ、エンジン10の排ガスによって駆動されるとともに、コンプレッサ21を駆動するものである。タービン22は、タービンホイールの周囲のノズルに設けられる可動式のべーンによってジオメトリを連続的に変更可能な可変ジオメトリ式のものである。
アクチュエータ23は、タービン22の可動ベーンを駆動する負圧式のアクチュエータである。
負圧制御弁24は、図示しない負圧源からの負圧を、ECU100の制御に従ってアクチュエータ23に導入する電磁弁である。
ターボチャージャ20は、ECU100が設定する目標過給圧に対して、実際の過給圧が低い場合には、可動式のベーンを閉じてノズルを絞ることによってタービン22の回転数を高め、過給圧を高める制御が行われる。
【0018】
インテークシステム30は、エンジン10に燃焼用空気を導入するものである。
インテークシステム30は、インテークダクト31、エアクリーナ32、エアフローメータ33、インタークーラ34、スロットルバルブ35、アクチュエータ36、インテークチャンバ37、吸気圧センサ38、インテークマニホールド39等を備えて構成されている。
【0019】
インテークダクト31は、大気から燃焼用空気を導入し、ターボチャージャ20のコンプレッサ21を経由してエンジン10に供給する空気流路である。
エアクリーナ32は、空気を濾過して埃等を除去するフィルタエレメントを備えている。エアクリーナ32を通過した空気はターボチャージャ20のコンプレッサ21に導入され、圧縮される。
エアフローメータ33は、エアクリーナ32の出口部に設けられ、空気流量を検出するセンサを備えている。また、エアフローメータ33には、吸気温度を検出する吸気温度センサが内蔵されている。
【0020】
インタークーラ34は、ターボチャージャ20のコンプレッサ21を出た空気を、走行風との熱交換によって冷却する熱交換器である。
スロットルバルブ35は、インタークーラ34の下流側に設けられ、エンジン10の吸入空気量を調節するものである。
アクチュエータ36は、ECU100からの制御信号に応じてスロットルバルブ35を開閉駆動するものである。
インテークチャンバ37は、スロットルバルブ35を通過した空気が導入される空気室であって、インテークマニホールド39を介してエンジン10の吸気ポートに接続されている。
吸気圧センサ38は、インテークチャンバ37に設けられ、エンジン10の吸気圧力と実質的に等しいインテークチャンバ37内の圧力を検出するものである。
インテークマニホールド39は、インテークチャンバ37からエンジン10の各気筒の吸気ポートに空気を導入する分岐管路である。
【0021】
エキゾーストシステム40は、エキゾーストマニホールド41、エキゾーストパイプ42等を備えて構成されている。
エキゾーストマニホールド41は、エンジン10の各気筒の排気ポートから排出される排ガスを集合させてターボチャージャ20のタービン22に導入する管路である。
エキゾーストパイプ42は、タービン22から出た排気を車外に排出する管路である。エキゾーストパイプ42には、DOC70、DPF80、三元触媒90等の排ガス後処理装置が設けられている。
【0022】
燃料供給装置50は、エンジン10の燃焼室15内に燃料を供給するものである。燃料供給装置50は、サプライポンプ51、吸入調量電磁弁52、燃料温度センサ53、コモンレール54、燃圧センサ55、インジェクタ56等を備えたコモンレール式の高圧燃料噴射装置である。
【0023】
サプライポンプ51は、例えばインナカム式の圧送系を備え、燃料である軽油を加圧してコモンレール54に供給するものである。
吸入調量電磁弁52は、サプライポンプ51の燃料の吸入量を調整するものであって、ECU100からの制御信号に応じて駆動される。
燃料温度センサ53は、サプライポンプ51における燃料の温度を検出するものである。
【0024】
コモンレール54は、サプライポンプ51が吐出した高圧の燃料を貯留する蓄圧器である。
燃圧センサ55は、コモンレール54内の燃料の圧力(燃圧)を検出するものである。上述した吸入調量電磁弁52は、燃圧センサ55の出力を用いたフィードバック制御により、燃圧が例えばエンジン回転数及び負荷に応じて設定される所定の目標値となるようにその開度を調節される。
インジェクタ56は、コモンレール54から供給される燃料を各気筒の燃焼室15内に噴射するものである。インジェクタ56は、例えばピエゾ素子やソレノイド等のアクチュエータによって開閉される弁体を有し、ECU100からの噴射パルス信号に応じて開弁される。インジェクタ56の噴射タイミング及び噴射量はECU100によって制御されている。
インジェクタ56は、メイン噴射、メイン噴射に先立って少量の燃料を噴射するパイロット噴射、メイン噴射の後に少量の燃料を噴射するポスト噴射などを行なう。
【0025】
EGR装置60は、燃焼温度を抑制してNOxの排出量を低減することを目的とし、エキゾーストパイプ42から抽出したエンジン10の排ガスの一部を、インテークダクト31内に還流させるものである。
EGR装置60は、EGR通路61、EGR制御弁62、EGRクーラ63等を備えて構成されている。
EGR通路61は、エキゾーストパイプ42における三元触媒90の出口側の領域から排ガスを抽出し、これをインテークダクト31におけるエアフローメータ33とターボチャージャ20のコンプレッサ21との中間の部分に導入する管路である。
EGR制御弁62は、ECU100の制御に応じてEGR通路61の排ガス流量(EGR量)を調節するものである。
EGRクーラ63は、EGR通路61を流れる排ガスを走行風との熱交換によって冷却するものである。
【0026】
DOC70は、エキゾーストパイプ42に設けられ、排ガス中の主として炭化水素(HC)を酸化処理するものである。DOC70は、例えばコーディエライトハニカム構造体等のセラミック製担体の表面に、白金やパラジウム等の貴金属やアルミナ等の金属酸化物を担持させて形成されている。
DOC70には、入口部分の排ガス温度を検出する温度センサ71が設けられている。
【0027】
DPF80は、エキゾーストパイプ42のDOC70よりも下流側に設けられ、排ガスを濾過して粒子状物質(PM)を捕集するフィルタを備えている。ここで、PMには、スート(煤)、有機溶剤可溶性成分(SOF)、サルフェート(SO)等が含まれる。
フィルタは、例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスをハニカム構造に形成し、ガス流路となる多数のセルを、入口側、出口側が互い違いとなるように端面に封をして形成されたいわゆるクローズドタイプ(ウォールフロータイプ)のものである。
DPF80は、入口圧力と出口圧力との間の差圧を検出する差圧センサ81、及び、出口の排ガス温度を検出する温度センサ82を備えている。
【0028】
三元触媒90は、DPF80の出口側に配置され、ストイキ運転時に排ガス中のNO,CO,HCを処理するものである。
三元触媒90は、例えばアルミナ等の担体に、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の貴金属を担持させた触媒コンバータを備えている。
また、三元触媒90に隣接して、DPF80から出た排ガスを、三元触媒90を通過させることなく三元触媒90の出口側にバイパスさせるバイパス管路91が設けられている。
【0029】
ECU100は、上述したエンジン10及びその補機類を統括的に制御するものであって、CPU等の情報処理装置、ROMやRAM等の記憶装置、入出力インターフェイス、及び、A/D変換器、タイマ、カウンタ、各種ロジック回路等の周辺回路を備えている。
ECU100には、上述した各種センサのほか、アクセルペダルセンサ101、大気圧センサ102の出力が入力される。
アクセルペダルセンサ101は、ドライバが操作するアクセルペダルのポジションを検出することによって、ドライバ要求トルクを検出する要求トルク検出手段である。
大気圧センサ102は、車両の周囲雰囲気における大気圧を検出するものである。
【0030】
ECU100は、アクセルペダルセンサ101の出力に応じて設定される要求トルクに応じて、エンジン10の目標トルクを設定し、これに基づいてスロットルバルブ35の開度、燃料供給装置50の燃料噴射量及び時期、燃圧等を制御する。
【0031】
また、ECU100は、ドライバ要求トルクあるいは目標トルクが所定の閾値以上となる高負荷領域において、空燃比がストイキ又はリッチ領域となるように吸入空気量及び燃料噴射量を制御して排ガスを実質的に無酸素状態とし、三元触媒90を用いてNO処理を行なう高負荷制御を行なっている。
図2は実施例のディーゼルエンジンにおける高負荷制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0032】
<ステップS01:運転領域判別>
ECU100は、ドライバ要求トルク又はこれに基づいて設定されるエンジン10の目標トルクを検出する。
その後、ステップS02に進む。
【0033】
<ステップS02:高負荷領域判断>
ECU100は、ドライバ要求トルク又は目標トルクが、所定の閾値以上である場合には、高負荷領域であると判断してステップS03に進む。
一方、ドライバ要求トルク又は目標トルクが閾値未満である場合には、高負荷領域ではないと判断してステップS01に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0034】
<ステップS03:リッチ化制御>
ECU100は、EGR装置60のEGR制御弁62を開いてEGR量を増加するとともに、スロットルバルブ35の開度を小さくして吸入新気量を絞ることによって、エンジン10の空燃比が三元触媒90の有効範囲内となるようリッチ化を図るリッチ化制御を実行する。
このとき、単純に空燃比をストイキ領域までリッチ化すると、スートの発生量が増大する問題がある。
図3は、ディーゼルエンジンにおける空燃比λとスート発生量との相関を示すグラフである。
図3において、横軸は空燃比λを示し、縦軸はスート発生量を示している。
このように、空燃比λが1近傍のストイキ領域では、リーン領域に対してスートの発生量が急増することがわかる。
【0035】
そこで、実施例においては、メイン噴射の燃料噴射時期をリタード(遅延化)させることによってスートの発生量低減を図っている。
図4は、ディーゼルエンジンにおける燃料のメイン噴射時期と熱発生率履歴との相関を示すグラフである。
図4において、横軸はクランク角を示し、縦軸は熱発生率を示している。
図4に示すように、メイン噴射の燃料噴射時期をリタードさせることによって、着火遅れ時間を長期化し、上死点近傍の拡散燃焼の割合を下げて、膨張行程側に着火時期をシフトさせることができる。
ここで、スートは上死点近傍の拡散燃焼において発生しやすく、膨張行程での燃焼で発生しにくいことから、燃料噴射時期をリタードさせることによって、図3に示すように、スートの発生量を効果的に低減することができる。
その後、ステップS04に進む。
【0036】
<ステップS04:所定時間経過判断>
ECU100は、現在実行中のリッチ化制御の開始時からの時間が所定時間を経過しているか判断し、経過している場合はステップS05に進み、経過していない場合はステップS03に戻り、それ以降の処理を繰り返す。
【0037】
<ステップS05:ストイキ領域判断>
ECU100は、現在のエンジン10の空燃比λを検出し、空燃比λが三元触媒90の有効範囲内である実質的なストイキ領域にある場合は、三元触媒90によるNOの処理が可能な状態であると判断して一連の処理を終了(リターン)する。
一方、空燃比λがリーン状態であり、三元触媒90の有効範囲から外れている場合は、ステップS06に進む。
【0038】
<ステップS06:ポスト噴射実行>
ECU100は、現在メイン噴射に引き続いて行なわれるポスト噴射が未実行の場合には、ポスト噴射を開始し、現在ポスト噴射が実行中である場合にはその噴射量を増量する。
その後、ステップS05に戻ってそれ以降の処理を繰り返す。
【0039】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)NO発生量が増加しやすい高負荷運転時に、空燃比を実質ストイキ状態までリッチ化し、三元触媒でNOを処理することによって、EGR量増加や低圧縮比化を過度に行なって燃焼温度を低下させたり、NO吸蔵還元触媒、尿素SCRなどの複雑かつ高価な後処理装置を設けることなく、高負荷時のNO排出量を低減することが可能となる。
(2)EGR装置60によるEGR量の増加、及びスロットルバルブ35による吸入新気量の低減を併用して実質ストイキ状態とすることによって、EGR量が過度に多くなって燃焼温度が低下することによる失火や、スートの増加を防止することができる。
(3)EGR及び新気絞りのみでは未だリーン状態である場合に、ポスト燃料噴射量を増加させることによって、適切に実質ストイキ状態とすることができる。
(4)実質ストイキ状態で運転する際に、メイン噴射の噴射時期を遅延させることによって、着火遅れ時間を長期化し、スートが発生しやすい拡散燃焼の割合を下げてスートが発生しにくい膨張行程側に着火時期をシフトさせ、空燃比をリッチ化すると増加しやすいスートの発生量を低減することができる。
(5)DPF80から出た排ガスが三元触媒90をバイパスするバイパス管路91を設けたことによって、アフター噴射等によるDPF80の再生時に、DPF80から排出される高温の排ガスをバイパスさせることによって、三元触媒90を保護して焼損などを防止することができる。
【0040】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)ディーゼルエンジン及びその補機類の構成は上述した実施例のものに限らず、適宜変更することが可能である。
例えば、実施例のEGR装置は、ターボチャージャのタービン及び各種後処理装置の出側から排ガスを抽出してコンプレッサ上流側に導入するする低圧EGR装置であったが、本発明におけるEGR装置はこれに限らず、タービン上流側から排ガスを抽出してコンプレッサ下流側に導入する高圧EGRを行なうものであってもよい。
また、これらの低圧EGRと高圧EGRとを併用してもよい。
(2)実施例ではNO吸蔵還元触媒及び尿素SCRは設けていないが、これらを設ける構成としてもよい。この場合、従来技術に対して触媒の担持量や、再生処理に要する燃料消費量を低減することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 エンジン 11 クランクシャフト
12 ピストン 13 シリンダブロック
13a クランク角センサ 13b 水温センサ
14 ヘッド 15 燃焼室
16 グロープラグ 17 グローコントローラ
20 ターボチャージャ 21 コンプレッサ
22 タービン 23 アクチュエータ
24 負圧制御弁
30 インテークシステム 31 インテークダクト
32 エアクリーナ 33 エアフローメータ
34 インタークーラ 35 スロットルバルブ
36 アクチュエータ 37 インテークチャンバ
38 吸気圧センサ 39 インテークマニホールド
40 エキゾーストシステム 41 エキゾーストマニホールド
42 エキゾーストパイプ
50 燃料供給装置 51 サプライポンプ
52 吸入調量電磁弁 53 燃料温度センサ
54 コモンレール 55 燃圧センサ
56 インジェクタ
60 EGR装置 61 EGR通路
62 EGR制御弁 63 EGRクーラ
70 酸化触媒(DOC) 71 温度センサ
80 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
81 差圧センサ 82 温度センサ
90 三元触媒 91 バイパス管路
100 エンジン制御ユニット(ECU)
101 アクセルペダルセンサ 102 大気圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストイキ近傍の所定の空燃比範囲において有効な三元触媒が排気管路に設けられたディーゼルエンジンであって、
出力トルクが所定値以上となる高負荷領域において空燃比が前記三元触媒の有効範囲内となるように燃料噴射量及び吸入空気量を制御する高負荷制御を行なうエンジン制御装置を備えること
を特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記排気管路から排ガスの一部を抽出して吸気管路に導入するEGR装置と、
前記吸気管路に設けられたスロットルバルブとを備え、
前記エンジン制御装置は、前記高負荷制御の実行時に、前記EGR装置による排ガスの前記吸気管路への導入を行なうとともに、前記スロットルバルブによってエンジンの吸入新気量を低減させること
を特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記エンジン制御装置は、前記高負荷制御の実行時に、非実行時に対してメイン燃料噴射後のポスト燃料噴射量を増加させること
を特徴とする請求項2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記エンジン制御装置は、前記高負荷制御の実行時に、非実行時に対して燃料噴射時期を遅延させること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
前記排気管路における前記三元触媒よりもエンジン側の領域に配置され、排ガス中の粒子状物質を捕捉するディーゼルパティキュレートフィルタと、
前記ディーゼルパティキュレートフィルタから出た排ガスを前記三元触媒の入口側から出口側にバイパスさせるバイパス管路を備えること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のディーゼルエンジン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−167562(P2012−167562A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27259(P2011−27259)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】