説明

ナノパターン製造方法およびナノパターン基板、半導体メモリセル

【課題】
製造の複雑さを過度に増大させることなく、分子レベルで微細パターンの表面ラフネスを制御できる製造方法を提供すること。
【解決手段】
本発明のナノパターンの製造方法は基板に光異性化化合物を有する配向膜を形成する工程と、前記配向膜上に、主鎖および側鎖を有する液晶性高分子を含有する液晶層を形成する工程と、直線偏光している紫外線を前記配向膜に照射して、前記紫外線により光異性化した光異性化化合物に対応して前記液晶層の液晶性高分子の主鎖を所定方向に配向させる工程と、前記液晶層をマスクとして、前記基板の異方性ドライエッチングを行い、前記液晶性高分子の側鎖の長さに対応した一定のピッチの凸部を有するナノパターンを形成する工程とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造技術に関し、例えばダブルゲート電界効果型トランジスタ(FET)のフィン部を形成するのに適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に集積回路上のコンポーネント密度を上げるために、より小型のトランジスタを製造することが好ましい。構造的にも3次元シリコン層を使用した立体構造のトランジスタが各社で研究されており、フィン型のトランジスタはその一つである。フィン型のトランジスタは、垂直のフィンが複数個並び、各フィンが10nm以下でかつ、それが周期的に並ぶ構造が必要とされる。
【0003】
上記のような微細パターンは、いわゆる側壁イメージ転写を行うことによって製造することが検討されている(例えば特許文献1)。作製可能な大きさのレジストパターンを転写したSOGにSiN等を蒸着し、ドライエッチングによるフラット化プロセスを経て、SOGの側壁に残ったSiN膜をマスクに基板を加工する方法である。現状では、最もエッジラフネスの少ない微細パターンが得られる方法として、研究開発の場面では利用されている。しかしながら、光リソグラフィープロセスに比べて格段にプロセスが煩雑であり、したがって製造コストは大きなものとなり、大量生産には現実的ではない。
【0004】
ところで、現在液晶表示装置の分野で、配向膜として高分子配向膜を用いて、液晶の配向制御をしようとする試みがある。感光性の側鎖型高分子膜に直線偏光性の紫外線を照射して、感光性基の2量化を行い任意の配向特性を有する配向膜を得るものである(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−175480公報
【特許文献2】特開平11−181127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,上記の問題を解決するため、製造の複雑さを過度に増大させることなく、分子レベルで微細パターンの表面ラフネスを制御できる製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のナノパターン製造方法は、基板に光異性化化合物を有する配向膜を形成する工程と、配向膜上に、主鎖および側鎖を有する液晶性高分子を含有する液晶層を形成する工程と、直線偏光している紫外線を配向膜に照射して、紫外線により光異性化した光異性化化合物に対応して液晶層の液晶性高分子の主鎖を所定方向に配向させる工程と、液晶層をマスクとして、基板の異方性ドライエッチングを行い、液晶性高分子の側鎖の長さに対応した一定のピッチの凸部を有するナノパターンを形成する工程とを備えることを特徴とする。なお、前記ドライエッチング時に液晶性高分子の主鎖を取り除き、側鎖を残すことも可能である。
【0007】
また、配向膜を形成する工程の前に基板表面にSOG膜を形成することもできる。なお、液晶性高分子はスメクティック液晶相を形成する高分子であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造の複雑さを過度に増大させることなく、分子レベルで微細パターンの表面ラフネスを制御できる製造方法を提供することができ、基板加工やその基板を用いた精密部品に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は感光性の側鎖型高分子を配向、2量化して、パターン毎にドライエッチング耐性に差を設けることにより上記微細パターンの形成に応用できることを見出した。
【0010】
以下に実施形態を図面に従って説明する。
【0011】
[図1]は本発明の一実施形態のナノパターンの製造過程を示す全体の流れを概念的に表した図である。[図1](a)は基板1上に配向膜2を表面に形成した図である。基板1は半導体に用いられるSiや、後述のドライエッチングを考慮して、SiNやBSG膜をSi表面に形成したものを用いる。配向膜2は光異性化化合物を含有する。光異性化化合物とは、直線偏光によって分子軸配向変化を起こす分子のことである。
【0012】
ここでいう分子軸配向変化とは、直線偏光の光エネルギーを吸収したのちに、その分子軸の方向が変わる現象である。このための光異性化化合物としては、C=C、C=N、N=Nから選ばれた少なくとも一つの二重結合を含み、その二重結合が非芳香族性である分子が有効に使用される。この光異性化化合物の吸収する光の波長は可視光域のものにとどまらず、肉眼では観察されない紫外線や赤外線の領域のものも含まれる。この光異性化化合物の層に、化合物が吸収する波長範囲を含む直線偏光を照射すると容易に分子軸配向変化を起こす。この直線偏光照射による分子軸配向変化現象は以下のように解釈される。即ち、非芳香族性の二重結合を持つ最も単純な分子であるエチレンの基底状態では、2つの炭素原子と4つの水素原子が同一平面にあるのに対して、光励起状態においては、2組のH−C−H原子団が形成する平面はお互いに直交したねじれ構造となることがよく知られている。光異性化化合物も同様に、光励起状態においては上記の二重結合がなす平面性が消失し、それに伴って生じるねじれ構造を経て基底状態に戻る過程で分子軸配向変化が起こるものと推定される。
【0013】
光異性化化合物の具体例としては非芳香族性のN=N結合を有する化合物であるアゾベンゼン、アゾナフタレン、ビスアゾ化合物、ホルマザンなどの芳香族アゾ化合物、さらには、アゾキシベンゼンを基本骨格とするものが挙げられる。また非芳香族性のC=N結合を有する化合物である芳香族シッフ塩基、芳香族ヒドラゾン類なども挙げることができる。
【0014】
光異性化化合物を含む配向膜2の膜厚は5μm以下が望ましく、1nm〜0.1μmが好適である。配向膜2を形成する方法は一般的な方法を用いることができ、加水分解を利用した表面処理や、LB膜法、スピンコートによる塗布法、ウェット表面処理、ドライ表面処理によって形成することが可能である。スピンコートによる塗布法の場合、スピンコータの回転数は、500〜5000rpmが好適である。また、スピンコータの回転数は、500〜2000rpmがさらに望ましい。スピンコート後の乾燥は、一般に広く使われるホットプレートにより行うことができる。なお、レベリングに使用されるホットプレート温度は、30℃〜130℃が好適である。また、レベリングに使用されるホットプレート温度は、30℃〜80℃がさらに望ましい。
【0015】
[図1](b)は(a)で作製した配向膜2の上に液晶層3を形成した図である。液晶層3で用いられる液晶性高分子は液晶表示装置に使用されるいわゆるネマティック型の液晶材料ではなく、スメクティック相になる液晶材料を用いる。液晶性高分子は側鎖にメソゲン成分として多用されているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基を有した、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、シロキサンなどの構造を主鎖に有する高分子である。また、必要に応じて、側鎖のメソゲン成分に桂皮酸基(または、その誘導体基)などの感光性基を導入した構造としてもよい。これらの液晶性高分子を溶液状に塗布(スピンコート)し、乾燥させて液晶層3を形成する。
【0016】
液晶性高分子をスメクティック相とするのは、層状に液晶性高分子を配列させるためである。液晶性高分子は液体、ネマティック相、コレステリック相、スメクティック相、固体と降温過程を経て温度ごとに相転移を呈し、液晶材料に応じた相転移温度で液晶層3を形成する。なお、液晶性高分子を塗布した後、焼成処理を行ってもよい。焼成条件は相転移温度より高い温度が好ましく、配向膜2の配向が液晶層3へ作用しやすくなる。一度、液晶層3にて配向が得られれば室温へ降温した後も、配向状態は維持される。一般的には、剛直な側鎖を持つ液晶性高分子の相転移温度は室温以上である場合が多く、降温後は配向状態を維持しつつ、固体となることが多い。
【0017】
また、スメクティック相を壊さない範囲で、例えば、液晶の熱安定性を増大させるため、3環の化合物や2環化合物等を添加してもよい。さらにまた、液晶性高分子に光重合性のネマティック相のモノマー液晶を添加し、モノマーを光重合・高分子かさせることにより、液晶相3を一様なスメクティック相とすることができる。
【0018】
また、スメクティック相は配向状態によりSmA、SmB、SmCと呼ばれる形態をとりうるが、液晶層3内の秩序性にすぐれたSmBが好適である。
【0019】
[図1](c)は基板の上部から紫外線を照射している図である。4は偏光板、5はマスクである。(a)で形成した配向膜2に直線偏光を照射することにより面内の構造異方性を誘起する。すなわち、光異性化化合物に直線偏光を照射すると,トランス−シス−トランス異性化サイクルを経て,最終的にその遷移モーメントを偏光方向と直交するように再配置される。光異性化の方向をそろえるためには直線偏光を照射することが必要であり、偏光板を透過させて電場ベクトルのそろった偏光を照射することが重要である。照射する紫外線としては投影露光装置(ステッパー)の光源として用いられる波長436nmのg線と波長356nmのi線が好ましい。液晶層3の液晶性高分子の配向は配向膜2における光異性化化合物の光異性化の共同現象として発現する。公知の液晶の光配向技術と同一であり、スメクティック液晶の配向パターンを所望の方向にそろえることが可能である。液晶性高分子の配向方法、すなわち界面分子配向機構は種々の原因の複合であり、発明者らは、本発明の一態様として用いる配向膜2は光異性化化合物が一軸配向し、かつ異方性をもち、更に応力により発生する電荷が液晶分子と効果的に作用するため、液晶性高分子の配向を与えるものと考えている。
【0020】
[図1](d)は直線偏光紫外線を照射させた部分に対応して液晶性高分子が配向した図である。液晶性高分子の主鎖は紙面の表裏方向に配向し、図中の楕円は液晶性高分子の主鎖に結合する側鎖を表している。液晶の配向の規則性を上げるには液晶層3の厚さは50nm〜200nmが望ましい。200nmを超えると照射した偏光紫外線が減衰して光異性化化合物へ十分エネルギーが到達しない可能性が高く好ましくない。また、基板に対して垂直方向の液晶材料の規則性に乱れが生じるからである。一方50nmより小さいと異方性ドライエッチング時の選択比が十分に得られず好ましくない。なお、基板上の配向膜2の光異性化化合物を直線偏光により配向させた後、液晶層を形成しても同様の効果が期待できる。
【0021】
[図1](e)は異方性ドライエッチングを施し、基板1へパターンを転写している図である。ここでいう転写とは、上層をマスクとして、その幅やピッチなどのパターンを同等のパターンあるいは反転したパターンで下層に移し変える処理である。配向膜2の直線偏光を照射した部分に対応する液晶性高分子がメソゲン分子長の2倍長さのピッチで配向する。ポリマー側鎖は芳香環を含む剛直分子であるのに対し、ポリマー主鎖は炭素どうしの単結合であるため、側鎖部と主鎖部でドライエッチング耐性に違いが生じ、基板に対するエッチング選択比が生じる。すなわち、このステップでは所望の凸部の幅、ピッチ(ライン&スペース)にあわせて、側鎖であるメソゲン分子の長さを調製することによって液晶層3を基板1に対するマスクとすることができる。
【0022】
なお、異方性ドライエッチングの選択比は僅かであり、基板1の種類やドライエッチング装置の条件によってはエッチングの深さが不十分になることもありうる。その際は基板1と配向膜2の間に感光性塗布ガラス材料を形成することもできる。例えばSOGのようなエッチング耐性のある感光性塗布ガラス材料を形成し、液晶層3のパターンを一度SOGに転写してもよい。SOGに転写後、SOGをマスクとして基板へドライエッチングにて再転写することができる。SOG層は30nm〜100nm程度であり、本発明の方法ではメソゲン分子長の2倍のピッチのラインパターンを周期的に得ることができる。なお、異方性ドライエッチングのガスとしてはCFやSF、Clなどが用いられる。異方性ドライエッチング処理後の基板1あるいはSOGの凸部の幅はほぼ液晶性高分子の側鎖(メソゲン分子)の2倍長さとなり、そのピッチは上記マスクによって適宜調整可能である。
【0023】
このようなプロセスで形成されたなのパターン基板はFETの半導体層のフィン部として使用することができる。例えば半導体基板、埋め込み絶縁膜、半導体層が順次積層されたSOI(Silicon on Insulator)基板を用意し、上記プロセスによって半導体層に凸部を形成した後、凸部の側面にCVD法などによりゲート絶縁膜を堆積し、デュアルドープPoly−Siをパターニングすることでゲート電極を形成する。そしてソース領域、ドレイン領域、コンタクトプラグなどを順次形成し、FinFETを製造することができる。
【0024】
また、従来のフォトリソグラフィーのプロセスと併せて本発明のプロセスを用いることも有効である。例えば、液晶層3を形成した後、その上層にポジ型のフォトレジストを塗布し、周期的パターンが必要な部位にのみレジストを感光させて、液晶層3を露出させた後、光異性化のための偏光を液晶層3の下層である配向膜2に対して照射することにより、液晶層3の特定の部位にのみスメクティック相を形成し、基板1の加工をすることが可能である。
【0025】
<実施例1>
SOI基板上にSOGを塗布したものを用意した。SOG基板上に[化1]で表されるアゾベンゼンを側鎖に有する光異性化化合物を10nmの膜厚で塗布し配向膜を形成した。塗布後、[化2]で表される液晶性高分子を膜厚50nmで塗布し液晶層を形成した。基板に水銀ランプを光源とする紫外線を365nmのバンドパスフィルターを通じ、偏光制御した光を上記の配向膜に照射することにより液晶層の液晶性高分子がスメクティック相に配向したパターンを得た。ドライエッチングによりこの配向パターンをSOG層に転写し、さらにこのSOG層をマスクにしてSOI基板に転写したところ10nmピッチで4nmの溝を得た。
【化1】

【化2】

【0026】
<実施例2>
SOI基板上にSOGを塗布したものを用意した。[化3]に示した光異性化化合物であるアゾベンゼンシリル化剤をディップ法により吸着し配向膜を形成した。吸着後の基板上に[化4]で示した液晶性高分子を塗布し液晶層を形成した。その後レジストOEBRを1μm膜厚で塗布し5μm角のエリアを露光・現像しパターンを得た。露出した液晶層の上から偏光制御したi線を配向膜に対して照射し、液晶層の5μm角エリアにスメクティック相を形成した。ドライエッチングにより5μm角内のみの液晶層の配向パターンをSOGに転写し、その後SOGをマスクにして再度ドライエッチングすることにより下地のSOI基板に10nmピッチで4nmの溝を転写することに成功した。
【化3】

【化4】

【0027】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるのではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態にわたる全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、製造の複雑さを過度に増大させることなく、分子レベルで微細パターンの表面ラフネスを制御できる製造方法を提供し、半導体製造の分野、特にダブルゲート電界効果型トランジスタ(FET)のフィン部の形成などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の製造過程を概念的に表した図
【符号の説明】
【0030】
1…基板
2…配向膜
3…液晶層
4…偏光版
5…マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に光異性化化合物を有する配向膜を形成する工程と、
前記配向膜上に、主鎖および側鎖を有する液晶性高分子を含有する液晶層を形成する工程と、
直線偏光している紫外線を前記配向膜に照射して、前記紫外線により光異性化した光異性化化合物に対応して前記液晶層の液晶性高分子の主鎖を所定方向に配向させる工程と、
前記液晶層をマスクとして、前記基板の異方性ドライエッチングを行い、前記液晶性高分子の側鎖の長さに対応した一定のピッチの凸部を有するナノパターンを形成する工程と
を備えることを特徴とするナノパターンの製造方法。
【請求項2】
前記ドライエッチングを行い、
前記液晶性高分子の主鎖を取り除き、側鎖を残すことを特徴とする
請求項1に記載のナノパターン製造方法。
【請求項3】
前記配向膜を形成する工程の前に、
前記基板表面にSOG膜を形成することを特徴とする
請求項1、2に記載のナノパターン製造方法。
【請求項4】
前記液晶性高分子はスメクティック液晶相を形成する高分子であることを特徴とする
請求項1〜3に記載のナノパターン製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の製造方法を用いて作製されることを特徴とするナノパターン基板。
【請求項6】
請求項1〜4の製造方法を用いて作製されるナノパターンをフィンとして備えた電界効果型トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−256854(P2007−256854A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84187(P2006−84187)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】