説明

ハイブリッド型産業車両

【課題】車両の減速時に、減速度を制限することなくバッテリ状態により変化するバッテリ充電電力制限超過を抑制する。
【解決手段】ECU19は、アクセルポジションセンサ20及びブレーキセンサ21の検出信号に基づいて要求減速度を演算し、要求減速度に基づいて走行電力を演算する。また、走行電力及びバッテリ13の充電電力に基づいて減速度ベース要求発電電力を演算し、走行モータ14の使用電力及びバッテリ13の充電電力に基づいて実電力ベース要求発電電力を演算する。そして、演算された減速度ベース要求発電電力と、実電力ベース要求発電電力とから決定した総合発電電力にて発電モータ12を制御する。ECU19は、発電電力制御時に、エンジン11の回転数を荷役レバーポジションセンサ23の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数以上となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド型産業車両に係り、詳しくはエンジンに連結された発電モータによりバッテリを充電し、バッテリに充電された電力あるいは発電モータにより発電された電力を用いて走行モータを駆動させることで走行制御を行うとともに、エンジン及び発電モータを用いて荷役ポンプを駆動させることで荷役制御を行うハイブリッド型産業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド型産業車両として、荷役ポンプをエンジン及び該エンジンの同軸上に接続された発電モータにより駆動するとともに、エンジン及び発電モータを制御することによりバッテリの充放電及び走行モータへの電力供給を行う、いわゆる走行シリーズ方式・荷役パラレル方式のハイブリッド型フォークリフトが知られている。
【0003】
一般に、フォークリフトのように荷役を行う産業車両では、アクセル操作量に応じて車速を一義的に決定するという構成を採用する場合が多い。これは、荷物の積降により負荷が増減した場合であっても、同じアクセル操作量で所望の車速を実現できるためである。
【0004】
また、ハイブリッド型フォークリフトでは、走行モータに対して加速度指令、減速度指令を行うことにより車両の車速変化を制御している。この時、車速を制御するために必要となる走行モータ電力は加速度指令や減速度指令に応じて変化するため、走行に必要な走行モータ電力と発電モータが発電する発電モータ電力との差分がバッテリに流入出する。そして、走行モータ電力の変化に対してエンジン及び発電機の制御遅れや応答遅れが生じた場合には、バッテリから大電力を引くことがあり、また、車速が高速である状態から大きな減速を要求された際には、走行モータ電力が急激に変化して、大きな回生電力が発生することとなり、バッテリに大電力を戻してしまうことがある。
【0005】
しかし、バッテリに流入出可能な電力量にはバッテリ状態により制限値が設けられており、車速制御の際にはこの制限値を守ることが必要になる。例えば、車両の加速時においてバッテリに流入出する電力を上記制限値の範囲となるように制御するには、走行モータに供給される電力を制限する(加速を鈍らせる)ことで実現できる。一方で、車両の減速時においては車両を運転者の意図したタイミングで止まらせる必要があり、走行モータに供給される電力を制限することでバッテリに流入出する電力が上記制限値の範囲となるように制御することができない。
【0006】
従来、所望の車両減速度を保ちながらもバッテリ電力が定格値等の設定値を超過することを防止し得るハイブリッド型フォークリフトが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、ブレーキオン、アクセルオフ及びスイッチバックの少なくともいずれかの操作が実行されることを検知すると、回生電力制御へ移行し、バッテリへの充電量低減処理を行う必要があるか否かを判定する。充電量低減処理が必要と判定されると、充電量低減処理として、(1)エンジン出力指令値を0にする、(2)フューエルカットを行う、(3)発電機(発電モータ)をそれまでの回転数が保持されるか、または回転数が所定速度よりも小さな速度で下降するようにバッテリに蓄積された電力により駆動する、の処理のうち少なくとも一つを実行する。そして、充電量低減処理から復帰することができる状態になったと判定されると、充電量低減処理を終了して通常の制御に復帰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−40211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、回生電力制御の際に必要に応じてバッテリへの充電量低減処理を行うことにより、バッテリが過充電になるのを防止することができる。しかし、充電量低減処理として採用されている上記の処理では、発電モータによる発電電力を目的値に制御することに関しては配慮がなされていない。なぜならば、エンジン出力指令値を0にする処理や、フューエルカットを行う処理を採用した場合は、発電モータの発電電力は惰性回転による回転力で行われることになり、荷役要求がある場合に必要なポンプ回転量を確保することができない場合が生じる。そのため、必要なポンプ回転量を確保するにはバッテリの電力を使用して発電モータによりポンプを回転させる必要があり、電力を無駄に消費することになる場合がある。また、走行モータの回生駆動時にバッテリに充電される電力が、充電が許容される最大の電力値(許容充電電力)を超えるか否かに関しては特に配慮はなされていない。フォークリフトでは、荷物の積降により車両重量が無負荷時に比べ約1.5〜2倍になることもある。車両重量が大きく変化すると、走行モータの回生電力も大きく変化し、バッテリへの充電電力も大きく変化する。そのため、回生時にバッテリへの充電電力となる走行モータの回生電力と発電モータの発電電力との和がバッテリの許容充電電力を超えないように制御する必要がある。
【0009】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両の減速時に、減速度を制限することなくバッテリ状態により変化するバッテリ充電電力制限超過を抑制することができる走行シリーズ方式のハイブリッド型産業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、エンジンに連結された発電モータによりバッテリを充電し、前記バッテリに充電された電力あるいは前記発電モータにより発電された電力を用いて走行モータを駆動させるとともに、前記エンジン及び前記発電モータを用いて荷役ポンプを駆動するハイブリッド型産業車両である。そして、制動要求量検出手段と、荷役要求量検出手段と、前記制動要求量検出手段の検出信号に基づき要求減速度を演算する減速度演算手段と、前記要求減速度に基づき走行電力を演算する走行電力演算手段と、前記走行電力及び前記バッテリの充電電力に基づいて減速度ベース要求発電電力を演算する第1発電電力演算手段と、前記走行モータの使用電力及び前記バッテリの充電電力に基づいて実電力ベース要求発電電力を演算する第2発電電力演算手段とを備えている。また、前記減速度ベース要求発電電力と前記実電力ベース要求発電電力とから決定した総合発電電力にて前記発電モータを制御する発電電力制御手段と、前記エンジンの回転数を前記荷役要求量検出手段の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数以上となるように制御するエンジン回転数制御手段とを備えている。
【0011】
ここで、「制動要求量検出手段」とは、運転者による制動要求量を検出する手段であって、例えば、アクセル開度センサやブレーキ開度センサを意味する。また、「荷役要求量検出手段」とは、運転者による荷役要求量(荷役をどれくらいの速度で行いたいか)を検出する手段であって、例えば、フォークリフトの荷役レバーポジションセンサを意味する。
【0012】
この発明では、車両の走行中に運転者により制動操作が行われると、減速度演算手段により要求減速度が演算される。走行電力演算手段は、前記要求減速度に基づき走行電力を演算する。第1発電電力演算手段は、走行電力及びバッテリの充電電力に基づいて減速度ベース要求発電電力を演算する。第2発電電力演算手段は、走行モータの使用電力及びバッテリの充電電力に基づいて実電力ベース要求発電電力を演算する。発電電力制御手段は、減速度ベース要求発電電力と実電力ベース要求発電電力とから決定した総合発電電力にて前記発電モータを制御する。エンジン回転数制御手段は、エンジンの回転数を荷役要求量検出手段の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数以上となるように制御する。発電モータを減速度ベース要求発電電力となるように制御することはフィードフォワード制御に相当し、発電モータを実電力ベース要求電力となるように制御することはフィードバック制御に相当する。
【0013】
発電モータの発電電力を走行モータの使用電力(実電力)に基づいて、走行モータの回生電力と発電モータの発電電力との和がバッテリの許容充電電力を超えないようにフィードバック制御を行った場合、走行モータの使用電力が小さくならないと発電モータへの要求発電電力が小さくならない。その結果、発電モータの発電電力を適切な値に制御するのに遅れが発生し易い。しかし、この発明では、走行モータの減速制御時に発電モータがフィードフォワード制御とフィードバック制御の利点を生かした適切な制御で制御されるため、減速時に、減速度を制限することなくバッテリ状態により変化するバッテリ充電電力制限超過を抑制することができる。また、エンジン回転数制御手段は、エンジン回転数を荷役要求量検出手段の検出信号に基づいて演算される荷役要求回転数以上となるように制御するため、荷役性能を確保した状態で適切な減速制御を行うことができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記エンジン回転数制御手段は、前記荷役要求量検出手段の検出信号に基づいて演算される前記荷役要求エンジン回転数と前記エンジンの燃費が良い状態で前記発電モータを前記総合発電電力となるように駆動させる発電要求エンジン回転数とから決定した総合エンジン回転数にて前記エンジンを制御する。この発明では、荷役要求がある場合、エンジン回転数を荷役要求量検出手段の検出信号に基づいて演算されるエンジンの要求回転数に単純に制限する場合に比べて、エンジンを燃費の良い状態で駆動することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両の減速時に、減速度を制限することなくバッテリ状態により変化するバッテリ充電電力制限超過を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態のハイブリッド型フォークリフトの構成を示すブロック図。
【図2】減速時の制御動作を示すフローチャート。
【図3】別の実施形態のハイブリッド型フォークリフトの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を走行シリーズ方式・荷役パラレル方式のハイブリッド型フォークリフトに具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
図1に示すように、ハイブリッド型フォークリフト10は、エンジン11、発電モータ12、バッテリ13及び走行モータ14を備えている。エンジン11には発電モータ12が連結され、発電モータ12には荷役シリンダ15に荷役バルブ16を介して作動油を供給する荷役ポンプ17が連結されている。
【0018】
発電モータ12及び走行モータ14はPCU(パワーコントロールユニット)18を介してバッテリ13に接続されている。PCU18は、インバータ、昇圧コンバータ及び制御装置を備え、発電モータ12で発電された電力をバッテリ13に充電したりあるいは走行モータ14に供給したり、あるいはバッテリ13の電力を発電モータ12や走行モータ14に供給する。PCU18は、走行モータ14で必要な電力として発電モータ12で発電された電力を優先的に供給し、足りない電力をバッテリ13から供給するようにインバータや昇圧コンバータを制御する。
【0019】
発電モータ12はエンジン11によって駆動される際に発電機として機能し、バッテリ13の電力を受けて駆動される際にモータとして機能する。発電モータ12が発電機として機能する際は、エンジン11は発電モータ12及び荷役ポンプ17の駆動源となり、発電モータ12がモータとして機能する際は、エンジン11及び発電モータ12の双方、あるいは発電モータ12が単独で荷役ポンプ17の駆動源となる。発電モータ12には交流発電機が使用され、発電時に界磁電流を制御することにより発電量が制御される。
【0020】
フォークリフト全体の制御を行うECU19には、エンジン11、荷役バルブ16及びPCU18が電気的に接続されている。また、ECU19にはアクセルポジションセンサ20、ブレーキセンサ21、ディレクションスイッチ22、荷役要求量検出手段としての荷役レバーポジションセンサ23、エンジン回転数センサ24、走行モータ回転数センサ25、バッテリ13の充電量を検出する充電量センサ26等のセンサ及びスイッチが電気的に接続されている。
【0021】
アクセルポジションセンサ20はアクセル開度(アクセル操作量)を検出し、ブレーキセンサ21はブレーキ開度(ブレーキ操作量)を検出するため、それらの操作量に基づき制動要求量を演算でき、アクセルポジションセンサ20及びブレーキセンサ21は制動要求量検出手段を構成する。
【0022】
ECU19は、アクセルポジションセンサ20及びブレーキセンサ21の検出信号に基づき要求減速度を演算する減速度演算手段を構成する。要求減速度は、アクセル開度及びブレーキ開度と減速度との関係を示す関係式又はマップを用いて演算される。
【0023】
ECU19は、減速時に、減速度演算手段により演算された要求減速度に基づいて、要求減速度に対応する発電モータ12の発電電力Pg(Power generator)[kW]を算出する。
【0024】
車両の走行時に走行モータ14が必要とする走行電力Pm(Power motor)[kW]は、発電モータ12が発電する発電電力Pg[kW]と、バッテリ13の充電電力W[kW]とを用いて次式で表される。
【0025】
Pm=W+Pg・・・(1)
また、車両の運動方程式より、走行モータ14の走行電力Pm[kW]は、モータ軸でのトルクT[Nm]と、走行モータ14の回転数N[rpm]を用いて次式で表わされる。
【0026】
Pm=N*T/(60/2π*1000)・・・(2)
ECU19は、減速度演算手段により演算された要求減速度及び式(2)を用いて車両が減速した場合にバッテリ13に戻される走行電力Pm[kW]を演算する。この演算の際には回転慣性重量[kg]などが考慮される。そして、式(2)で算出した走行電力Pmを式(1)に代入して、減速度ベース要求発電電力Pg1[kW]を算出する。
【0027】
さらにECU19は、車速変化により変わる走行モータ14が実際に使用する電力に基づき、実電力ベース要求発電電力Pg2[kW]を演算する。
そして、Pg1とPg2とから総合発電電力Pg3を算出する。
【0028】
ECU19は、減速時に演算された要求減速度に基づき走行電力を演算する走行電力演算手段と、前記走行電力及びバッテリ13の充電電力に基づいて減速度ベース要求発電電力を演算する第1発電電力演算手段と、走行モータ14の使用電力及びバッテリ13の充電電力に基づいて実電力ベース要求発電電力を演算する第2発電電力演算手段とを構成する。
【0029】
また、ECU19は、減速度ベース要求発電電力と実電力ベース要求発電電力とから決定した総合発電電力にて発電モータ12を制御する発電電力制御手段を構成する。
また、ECU19は、エンジンの回転数を荷役レバーポジションセンサ23の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数以上となるように制御するエンジン回転数制御手段を構成する。ECU19は、荷役レバーポジションセンサ23の検出信号に基づいて、荷役ポンプ17の回転に必要なエンジン11の荷役要求エンジン回転数を関係式又はマップを用いて演算する。そして、その荷役要求エンジン回転数と、エンジン11の燃費が良い状態で発電モータ12を総合発電電力となるように駆動させる発電要求エンジン回転数とから決定した総合エンジン回転数にてエンジン11を制御する。
【0030】
制動要求量検出手段(アクセルポジションセンサ20及びブレーキセンサ21)と、荷役レバーポジションセンサ23と、走行モータ回転数センサ25と、減速度演算手段、走行電力演算手段、第1発電電力演算手段、第2発電電力演算手段、発電電力制御手段、エンジン回転数制御手段として機能するECU19とで発電制御装置が構成される。
【0031】
ハイブリッド型フォークリフト10の走行動作は、走行モータ14と、走行モータ14によって駆動される走行ユニット(図示せず)とにより行われる。走行モータ14は、PCU18を介してバッテリ13あるいは発電モータ12から供給される駆動電力により駆動される。また、走行減速時には走行モータ14により回生電力が発生し、この回生電力がPCU18を介してバッテリ13に充電されるように構成されている。
【0032】
ハイブリッド型フォークリフト10の荷役作業は、荷役ポンプ17と、図示しないフォークを昇降させる荷役シリンダ15と、荷役ポンプ17から供給される作動油を荷役シリンダ15に適宜分配するための荷役バルブ16を介して行われる。
【0033】
次に発電制御装置の作用を説明する。
ECU19からの指令に基づいてエンジン11が駆動され、発電モータ12と荷役ポンプ17とが回転駆動され、発電モータ12で発生した電力はPCU18を介してバッテリ13に充電される。荷役ポンプ17は、エンジン11の駆動軸の回動中は常時駆動されており、荷役バルブ16に作動油が送られる。ECU19は、荷役レバーポジションセンサ23からの信号に基づき、荷役バルブ16の開度を指示して荷役シリンダ15を作動させ、荷役作業を行う。荷役作業を行わない場合には、作動油は荷役バルブ16を通過して図示しない作動油タンクに還流する。
【0034】
ハイブリッド型フォークリフト10を走行させる場合には、ECU19は、アクセルポジションセンサ20からの信号に基づき、PCU18を介してバッテリ13からアクセルの踏み量に応じた駆動電力を走行モータ14に供給する。この駆動電力によって走行モータ14が駆動し、走行モータ14に連結された走行ユニットにより走行動作が行われる。走行減速時には、走行モータ14で発生した回生電力がPCU18を介してバッテリ13に充電される。そして、バッテリ13に充電される電力が、バッテリ13の充電量及びバッテリ13の定格値を超過したり、充電が許容される最大の電力値(許容充電電力)を超過したりしないように、発電モータ12の発電電力制御が実行される。
【0035】
次に減速時における発電モータ12の発電電力制御について、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
ECU19は、ステップS1でアクセルポジションセンサ20及びブレーキセンサ21の検出信号を読み込み、ステップS2でアクセル開度及びブレーキ開度から要求減速度を算出する。次にECU19は、ステップS3で要求減速度に対応する発電電力、すなわち減速度ベース要求発電電力を算出する。詳述すると、ECU19は、要求減速度に基づき走行電力を演算し、その走行電力及びバッテリ13の充電電力に基づいて減速度ベース要求発電電力を演算する。すなわち、ステップS3においてECU19は、走行電力演算手段及び第1発電電力演算手段として機能する。
【0036】
ECU19は、ステップS4で走行モータ14の使用電力(実使用電力)及びバッテリ13の充電電力に基づいて実電力ベース要求発電電力を算出する。実使用電力はPCU18に内蔵された電圧センサで検出した電圧値と、PCU18から走行モータ14に出力される電流の指令値とから算出される。ステップS4においてECU19は、第2発電電力演算手段として機能する。
【0037】
次にECU19は、ステップS5で要求減速度に基づく発電電力(減速度ベース要求発電電力)と実電力ベース要求発電電力とから総合発電電力を決定する。詳述すると、減速度ベース要求発電電力と実電力ベース要求発電電力を調停して発電モータ12で発電すべき発電電力を決定する。減速度ベース要求発電電力と実電力ベース要求発電電力との調停は、減速度ベース要求発電電力と実電力ベース要求発電電力とを予め設定された割合で平均することにより行われ、例えば、減速度ベース要求発電電力の50%と、実電力ベース要求発電電力の50%との和が発電モータ12で発電すべき発電電力に決定される。
【0038】
ECU19は、ステップS6で発電モータ12へ要求電力を指令する。ステップS6で決定された発電電力が正の場合は、その値まで発電力を制限するために必要な界磁電流が発電モータ12に供給される。ステップS6で決定された発電電力が負の場合は、その電力を消費するように発電モータ12を力行してエンジンブレーキで消費する。界磁電流の値や力行時に供給される電力の値は予め実験で求めて記憶されているマップから求められる。
【0039】
次にECU19は、ステップS7でマップから燃費の良いエンジン回転数を算出し、ステップS8で荷役レバーポジションセンサ23の検出信号を入力して荷役に必要な要求回転数を算出する。次にECU19は、ステップS9で荷役に必要な荷役要求エンジン回転数と燃費の良いエンジン回転数との調停を行う。調停は、荷役に必要な荷役要求エンジン回転数が燃費の良いエンジン回転数より大きければ、荷役に必要な荷役要求エンジン回転数をエンジン回転数に決定し、荷役に必要な荷役要求エンジン回転数が燃費の良いエンジン回転数以下であれば、燃費の良いエンジン回転数をエンジン回転数に決定する。そして、ステップS10で決定されたエンジン回転数となるようにエンジン出力指令を出力する。なお、エンジン回転数を荷役に必要な荷役要求エンジン回転数より大きな値に決定した場合は、荷役バルブ16を制御して、余分な作動油を作動油タンクに戻す。
【0040】
以上により、減速時の1回の発電制御が行われる。そして、ECU19は所定周期でステップS1〜ステップS10の制御動作を繰り返す。
すなわち、運転者のアクセル・ブレーキ操作から演算される要求減速度に応じて発電要求を絞ることで、バッテリ13に流入する電力を絞る。要求減速度が大きいときには、エンジンへ11の燃料供給を停止し、発電モータ12でエンジン11の回転数を上昇させる際のエンジンフリクション(エンジンブレーキ)で、走行回生によってバッテリ13に流入する電力を絞り、バッテリ13を保護するとともに減速度を確保する。
【0041】
発電モータ12の発電電力を走行モータ14の使用電力(実電力)に基づいて、走行モータ14の回生電力と発電モータ12の発電電力との和がバッテリ13の許容充電電力を超えないようにフィードバック制御を行った場合、走行モータ14の使用電力が小さくならないと発電モータ12への要求発電電力が小さくならない。その結果、発電モータ12の発電電力を適切な値に制御するのに遅れが発生し易い。一方、要求減速度に基づく発電電力となるように発電モータ12の発電電力を制御する場合、すなわち、フィードフォワード制御の場合は、車重の変動により発電電力が変動する。フォークリフトの場合は、荷物の積降により車重が荷無し時に比べ約1.5〜2倍になることもあるため、荷の重量を検出してその補正を行わない場合は、発電電力が予想と大きくずれる場合がある。
【0042】
しかし、この実施形態では、走行モータ14の減速制御時に、要求減速度に基づく減速度ベース要求発電電力と実電力ベース要求発電電力とを調停して発電モータ12で発電すべき発電電力を決定する。すなわち、発電モータ12がフィードフォワード制御とフィードバック制御の利点を生かした適切な制御で制御されるため、減速時に、減速度を制限することなくバッテリ状態により変化するバッテリ充電電力制限超過を抑制することができる。
【0043】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ハイブリッド型フォークリフト10の発電制御装置を構成するECU19は、減速度演算手段、走行電力演算手段、第1発電電力演算手段、第2発電電力演算手段、及び発電電力制御手段を構成し、制動要求量検出手段(アクセルポジションセンサ20及びブレーキセンサ21)の検出信号から要求減速度を演算する。その要求減速度に基づいて走行電力を演算し、走行電力及びバッテリ13の充電電力に基づいて減速度ベース要求発電電力を演算する。また、ECU19は、走行モータ14の使用電力及びバッテリ13の充電電力に基づいて実電力ベース要求発電電力を演算し、減速度ベース要求発電電力と、実電力ベース要求発電電力とから決定した総合発電電力にて発電モータ12を制御する。したがって、走行モータ14の減速制御時に発電モータ12がフィードフォワード制御とフィードバック制御の利点を生かした適切な制御で制御され、車両の減速時に、減速度を制限することなくバッテリ状態により変化するバッテリ充電電力制限超過を抑制することができる。また、追加部品を必要とせず、ECU19の制御プログラムを変更することにより実施できるため、追加部品を必要とする場合に比べて、低コストで実施することができる。また、制御プログラムの変更は、従来のフィードバック制御の一部を改良することで対応することができる。
【0044】
(2)ECU19は、エンジンの回転数を荷役要求量検出手段(荷役レバーポジションセンサ23)の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数以上となるように制御するエンジン回転数制御手段を構成する。そして、ECU19は、エンジンの回転数を荷役レバーポジションセンサ23の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数以上となるように制御するため、荷役性能を確保した状態で適切な減速制御を行うことができる。
【0045】
(3)ECU19は、荷役レバーポジションセンサ23の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数と、エンジン11の燃費が良い状態で発電モータ12を調停後の発電電力となるように駆動させるエンジン回転数とを調停して、調停後の回転数となるようにエンジン回転数を制限する。したがって、荷役要求がある場合、エンジン回転数を荷役レバーポジションセンサ23の検出信号に基づいて演算されるエンジン11の荷役要求エンジン回転数に単純に制限する場合に比べて、エンジン11を燃費の良い状態で駆動することができる。
【0046】
(4)ECU19は、減速時に要求減速度に対応する発電電力を演算する際、車両の運動方程式を用いた式で演算し、その際、減速度によって生じる力を車重と減速度との積ではなく、回転慣性重量も配慮した式を用いている。したがって、要求減速度に対応する発電電力をより適切に算出することができる。
【0047】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ PCU18を設けずに、図3に示すように、発電モータ用インバータ27及び走行モータ用インバータ28を設け、ECU19により発電モータ用インバータ27及び走行モータ用インバータ28を制御する構成にしてもよい。ECU19は、発電モータ12の発電時には、発電された電力が発電モータ用インバータ27を介してバッテリ13に充電されるように発電モータ用インバータ27を制御し、発電モータ12の力行時にはバッテリ13の電力が発電モータ用インバータ27を介して発電モータ12に供給されるように発電モータ用インバータ27を制御する。また、ECU19は、走行モータ14の駆動時には、走行モータ14を目的の回転速度で駆動するための電力をバッテリ13から走行モータ14へ供給するように走行モータ用インバータ28を制御し、走行モータ14の回生動作時には回生電力がバッテリ13に効率良く充電されるように走行モータ用インバータ28を制御する。
【0048】
○ エンジン11の出力軸と発電モータ12の回転軸を直結する構成に代えて、出力軸がクラッチを介して発電モータ12の回転軸を駆動する構成にしてもよい。この場合、発電モータ12の力行のみで荷役ポンプ17を駆動する場合、クラッチを切った状態で発電モータ12駆動することにより、無駄な電力消費を防ぐことができる。
【0049】
○ エンジンブレーキにより電力を捨てる場合、発電モータ12で駆動する負荷を大きくしてもよい。例えば、パワーステアリング用モータを搭載している車両の場合、パワーステアリング用モータを駆動して電力を捨てるようにしてもよい。この場合、より大きな電力を捨てることができる。
【0050】
○ エンジンブレーキにより電力を捨てる場合、エンジン11への燃料を完全にカットする方法に限らず、エンジン11へ若干の燃料を供給するようにしてもよい。
○ エンジン11、発電モータ12及び荷役ポンプ17等の機器のレイアウトは図示したものに限定されない。例えば、発電モータ12をエンジン11と同軸上に配置せず、エンジン11の側部に配設して、ギヤやベルト等の動力伝達手段を介してエンジン11と発電モータ12とを連結する構成としてもよい。
【0051】
○ ステップS9で荷役に必要な荷役要求エンジン回転数と燃費の良いエンジン回転数との調停を行う場合、燃費に関係なく、エンジン回転数を荷役に必要な荷役要求エンジン回転数に決定してもよい。
【0052】
○ 減速時に要求減速度に対応する発電電力を演算するための式として、例えば、回転慣性重量を配慮しない式を用いてもよい。
○ 減速時に要求減速度に対応する発電電力を演算する際、車両の運動方程式を用いて導かれる式を用いて演算を行うのではなく、予め実験で求められた減速度と発電電力との関係を示すマップあるいは関係式を用いて演算してもよい。
【0053】
○ 制動要求量検出手段として必ずしもアクセルポジションセンサ20及びブレーキセンサ21の両者を設ける必要はない。例えば、アクセルポジションセンサ20を設けずにブレーキセンサ21で検出されたブレーキ開度のみから要求減速度を演算したり、アクセルポジションセンサ20の検出信号からアクセル開度の変化量を演算し、アクセル開度の変化量から要求減速度を演算したりしてもよい。
【0054】
○ アクセル操作とブレーキ操作とを一つの操作手段で行う構成とし、その操作手段の操作量を制動要求量検出手段で検出する構成とする。そして、その制動要求量検出手段の検出信号に基づいて要求減速度を演算するようにしてもよい。
【0055】
○ ステップS5において、減速度に基づく減速度ベース要求発電電力と実電力ベース要求発電電力とを調停して発電モータ12で発電すべき発電電力を決定する際、両者の単純な平均、すなわち、減速度ベース要求発電電力の50%と、実電力ベース要求発電電力の50%との和を発電モータ12で発電すべき発電電力に決定しなくてもよい。
【0056】
○ ECU19は、所定周期でステップS1〜ステップS10を実行するのではなく、ステップS1とステップS2との間にアクセル開度及びブレーキ開度が前回と異なっているか否かの判断を行うステップを設ける。そして、アクセル開度及びブレーキ開度の少なくとも一方が前回と異なる場合はステップS2以降を実行し、アクセル開度及びブレーキ開度が前回と同じ場合は、ステップS2以降を実行せずにその回の処理を終了するようにしてもよい。
【0057】
○ 走行モータ14に供給される電流を検出する電流センサを設け、実使用電力を算出する際、走行モータ14に供給される電流値として、電流センサで検出した値を使用してもよい。
【0058】
○ 積載された荷の重量を検出する重量検出手段を設け、減速時に要求減速度に対応する減速度ベース要求発電電力を演算する際に、車重に荷の重量を加算して、荷の重量変動を反映させるようにしてもよい。この場合、ステップS5において、発電モータ12で発電すべき発電電力をより適切な値に決定することができる。
【0059】
○ バッテリ13には、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池等の各種の二次電池を使用してよい。
○ フォークリフトに限らず、荷役作業や他の作業を行うためのハイブリッド型産業車両に適用してもよい。
【0060】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記第1発電電力演算手段は、減速時に前記減速度演算手段により演算された減速度に対応する減速度ベース要求発電電力の演算式として、車両の運動方程式を用いて導かれる式を用いて演算を行う。
【0061】
(2)前記技術的思想(1)に記載の発明において、減速度によって生じる力を車重と減速度との積ではなく、車重及び回転慣性重量の和と減速度との積によって演算する。
(3)技術的思想(1)及び技術的思想(2)に記載の発明において、荷の重量を検出する重量検出手段を設け、減速時に要求減速度に対応する減速度ベース要求発電電力を演算する際に、車重に荷の重量を加算する。
【符号の説明】
【0062】
10…ハイブリッド型産業車両としてのハイブリッド型フォークリフト、11…エンジン、12…発電モータ、13…バッテリ、14…走行モータ、17…荷役ポンプ、19…減速度演算手段、走行電力演算手段、第1発電電力演算手段、第2発電電力演算手段、発電電力制御手段及びエンジン回転数制御手段としてのECU、20…制動要求量検出手段としてのアクセルポジションセンサ、21…同じくブレーキセンサ、23…荷役要求量検出手段としての荷役レバーポジションセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結された発電モータによりバッテリを充電し、前記バッテリに充電された電力あるいは前記発電モータにより発電された電力を用いて走行モータを駆動させるとともに、前記エンジン及び前記発電モータを用いて荷役ポンプを駆動するハイブリッド型産業車両であって、
制動要求量検出手段と、
荷役要求量検出手段と、
前記制動要求量検出手段の検出信号に基づき要求減速度を演算する減速度演算手段と、
前記要求減速度に基づき走行電力を演算する走行電力演算手段と、
前記走行電力及び前記バッテリの充電電力に基づいて減速度ベース要求発電電力を演算する第1発電電力演算手段と、
前記走行モータの使用電力及び前記バッテリの充電電力に基づいて実電力ベース要求発電電力を演算する第2発電電力演算手段と、
前記減速度ベース要求発電電力と前記実電力ベース要求発電電力とから決定した総合発電電力にて前記発電モータを制御する発電電力制御手段と、
前記エンジンの回転数を前記荷役要求量検出手段の検出信号に基づいて演算される荷役要求エンジン回転数以上となるように制御するエンジン回転数制御手段と
を備えていることを特徴とするハイブリッド型産業車両。
【請求項2】
前記エンジン回転数制御手段は、前記荷役要求量検出手段の検出信号に基づいて演算される前記荷役要求エンジン回転数と前記エンジンの燃費が良い状態で前記発電モータを前記総合発電電力となるように駆動させる発電要求エンジン回転数とから決定した総合エンジン回転数にて前記エンジンを制御する請求項1に記載のハイブリッド型産業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−116241(P2011−116241A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275435(P2009−275435)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】