説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】燃料劣化に起因するエンジンの始動不良の発生を抑制することができると共に燃費の低下も抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】通常は、燃料の劣化が判定された際に充電閾値を高くなるように変更するが、燃料タンク内の燃料残量が所定の第1の閾値量よりも少ないことが検出された際には、所定の充電閾値の変更を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてエンジン(内燃機関)とモータ(電動機)とを備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特にモータに給電を行うバッテリを外部の商用電源で充電可能なプラグインハイブリッド車両の制御装置として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンとモータとを組み合わせて車両の駆動力を得るようにしたハイブリッド車両が開発され、実用化が進んでいる。また近年は、モータに給電を行うバッテリが外部の商用電源で充電可能なプラグインハイブリッド車両の開発、実用化も進んでいる。
【0003】
プラグインハイブリッド車両には、モータのみを動力源として駆動輪を駆動させるEVモードと、モータを動力源とすると共にエンジンをモータの電力供給源(発電機)として用いるシリーズモード、或いはエンジンとモータとの両方を動力源とするパラレルモードと、が運転状況に応じて切り替わるようになっているものがある。これにより、燃料消費量を著しく抑制することができる。
【0004】
ところでエンジンに使用される燃料は、燃料タンクや配管内に長期間滞留させると、徐々に劣化してしまう。例えば、燃料の揮発成分が蒸発してしまい、燃料成分の割合が不適切になることがあり、このような燃料劣化に起因してエンジン始動時に不具合が生じてしまう虞がある。
【0005】
つまりハイブリッド車両では、ガソリン車に比べて燃料消費量を少なく抑えることができるという利点がある一方で、燃料がタンク内等に長期間停留して上述したような不具合が生じ易くなってしまうという問題がある。特に、上述したようなEVモードとシリーズモード或いはパラレルモードとが運転状況によって切り替わるプラグインハイブリッド車両では、エンジンにおける燃料消費量を著しく抑制することができる反面、その分だけ燃料劣化に起因する問題も発生し易くなってしまう。
【0006】
このような問題を解決するために、燃料が劣化している場合に燃料の使用頻度を高め、劣化した燃料の消費を促進するようにしたものがある。具体的には、モータ(電動機)のみを駆動源として車両走行が実行されている場合(EVモード)において、燃料が劣化していることが検出されると、エンジン(内燃機関)を運転させてその駆動力を利用して車両走行させるようにする(パラレルモードに切り替える)ようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−255680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような技術を採用することで、劣化した燃料消費を促進させることはできる。しかしながら、燃料消費量が極めて少ないというハイブリッド車両の利点を生かすことができなくなってしまう。例えば、タンク容量の上限近傍まで燃料が残っている場合、燃料を消費するまでの走行距離はかなりの距離になる。そして、その間は、エンジンを動力源とする走行が強いられることになる。つまり、この間は、燃料が劣化していない通常走行時に比べて燃費が著しく低下してしまうことになる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、燃料劣化に起因するエンジンの始動不良の発生を抑制することができると共に燃費の低下も抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、バッテリから供給される電力によって作動し、車両に駆動力を与える車両駆動用モータと、燃料タンクから供給される燃料によって作動し、前記車両又はジェネレータに駆動力を与える車両駆動用又はジェネレータ駆動用エンジンと、前記バッテリの充電値を検出する充電状態検出手段と、前記燃料の劣化を判定する燃料劣化判定手段と、前記充電値が所定の充電閾値より大きい際は前記エンジンを停止して前記モータの駆動力により前記車両を走行させる第1の走行モードを選択し、前記充電値が所定の充電閾値以下の際は前記エンジンを駆動させながら前記車両を走行させる第2の走行モードを選択する選択手段と、前記燃料劣化判定手段により前記燃料の劣化が判定された際は、前記所定の充電閾値を高くなるように変更する変更手段と、前記燃料タンク内の燃料残量を検出する燃料量検出手段と、前記燃料量検出手段によって前記燃料タンク内の燃料残量が所定の第1の閾値量よりも少ないことが検出された際に前記変更を禁止する変更禁止手段と、を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置にある。
【0011】
かかる本発明では、燃料の劣化が生じた場合に、変更手段によって充電閾値が変更されることにより、劣化した燃料の消費を促進することができるが、燃料残量に基づいて閾値の変更が禁止されるようにしている。これにより、必要以上の燃料の消費を抑制することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、所定期間内に給油実施予定の有無を判定する給油予定判定手段を更に備え、前記変更禁止手段は、前記燃料検出手段によって前記燃料タンク内の燃料残量が前記所定の第1の閾値量以上であって前記所定の第1の閾値量よりも大きい所定の第2の閾値量以下であると検出され、且つ、前記給油予定判定手段により給油実施予定ありと判定された際に、前記変更を禁止することを特徴とする第1の態様のハイブリッド車両の制御装置にある。
【0013】
かかる第2の態様では、必要以上の燃料の消費をより確実に抑えることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、前記給油予定判定手段は、運転者によるスイッチ操作の結果に基づいて給油の実施予定の有無を判定することを特徴とする第1又は2の態様のハイブリッド車両の制御装置にある。
【0015】
かかる第3の態様では、給油の実施予定の有無をより確実に判定することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、前記所定の第1の閾値量は、給油警告ランプが点灯するときの燃料残量であることを特徴とする第1〜3の何れか一つの態様のハイブリッド車両の制御装置にある。
【0017】
かかる第4の態様では、閾値の変更を禁止するタイミングをドライバーに容易に伝えることができる。
【発明の効果】
【0018】
かかる本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、燃料が劣化したとの判定がなされた場合に、その燃料の使用量を促進するようにしたので、燃料の劣化に伴うエンジンの始動不良の発生等を抑制することができる。また燃料の消費を促進するものの著しい燃費の低下は抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の概略図である。
【図2】SOC及び要求出力と運転状態との関係を示すマップの一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】エンジンの駆動時間と燃料噴射量の補正量との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る選択制御の一例を示すフローチャートである。
【図6】燃料残量と第1及び第2の閾値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るハイブリッド車両(以下、単に「車両」ともいう)10は、いわゆるプラグインハイブリッド車両であり、フロントモータ11及びリアモータ12と、エンジン13とを、走行用の駆動源として備えている。フロントモータ11の駆動力は前駆動伝達機構14を介して前輪15に伝達される。リアモータ12の駆動力は後駆動伝達機構16を介して後輪17に伝達される。フロントモータ11には、フロント(Fr)モータインバータ18を介してバッテリ19が接続されており、リアモータ12には、リア(Re)モータインバータ20を介してバッテリ19が接続されている。そして乗員のペダル操作に応じた電力が、バッテリ19からこれらインバータ18,20を介して各モータ11,12に供給される。さらに、バッテリ19には、DC/DCコンバータ21を介して補機類を駆動するサブバッテリ(12Vバッテリ)22が接続されている。サブバッテリ22の充電量が低下するとバッテリ19によって充電が行なわれる。またバッテリ19には車載充電器23が接続されており、外部の商用電源によってもバッテリ19を充電することができる。
【0022】
エンジン13は、燃料タンク24から供給される燃料が燃焼されることにより駆動される。このエンジン13には出力系25を介してジェネレータ26に接続されている。ジェネレータ26は、ジェネレータインバータ27を介してバッテリ19(及びフロントモータ11)に接続されている。また出力系25は、ジェネレータ26に接続される一方で、クラッチ28を介して前駆動伝達機構14にも接続されている。
【0023】
そして車両10の運転状態に応じてエンジン13が駆動されると、エンジン13の駆動力が出力系25を介してまずはジェネレータ26に伝達されるようになっている。ジェネレータ26は、エンジン13の駆動力により作動し、ジェネレータ26で発電された電力が、フロントモータ11及びバッテリ19に適宜供給される。また車両10の運転状態に応じてクラッチ28が接続されると、エンジン13の駆動力が前駆動伝達機構14を介して前輪15にも伝達されるようになっている。
【0024】
このように本実施形態に係る車両10は、車両10の運転状態に応じて、モータ11,12を駆動源とする第1の走行モードであるEV走行モードと、モータ11,12とエンジン13との両方を駆動源とする第2の走行モードと、の何れかが適宜選択されるようになっている。また第2の走行モードとしては、具体的には、エンジン13をモータ11,12の電力供給源として用いるシリーズ走行モードと、モータ11,12とエンジン13との両方の駆動力により車両の各車輪15,17を駆動させるパラレル走行モードと、が含まれる。
【0025】
より具体的には、第1の走行モードであるEV走行モードでは、エンジン13への燃料供給が停止されており、エンジン13が駆動されることはなくフロントモータ11及びリアモータ12のみの駆動力によって車両10を走行させる。
【0026】
第2の走行モードの一つであるシリーズ走行モードでは、EV走行モードと同様に、フロントモータ11及びリアモータ12の駆動力によって車両10を走行させるが、エンジン13を駆動させてバッテリ19(及びフロントモータ11)に電力を供給する電力供給源(発電機)としてエンジン13を利用する。すなわちシリーズ走行モードでは、エンジン13は駆動されるがクラッチ28は断状態にされて出力系25と前駆動伝達機構14との間で動力が伝わらない状態になっており、エンジン13の駆動力は出力系25を介してジェネレータ26にのみに伝達される。
【0027】
第2の走行モードの一つであるパラレル走行モードでは、各モータ11,12とエンジン13との両方を駆動源として車両10を走行させる。例えば、高速走行等においてエンジンで走行した方がモータで走行するよりも効率が高くなる場合に、クラッチ28を接続させて、エンジン13の駆動力を前駆動伝達機構14に伝達させる。つまりパラレル走行モードでは、エンジン13に各モータ11,12の駆動力を付加して(もしくは、エンジン13単独の駆動力で)、車両10を走行させる。
【0028】
ここで、これらの走行モードの選択の基準となる車両10の運転状態は、バッテリ19の充電状態(以下、「SOC(State of Charge)」ともいう)と運転者の要求出力との関係で特定されている。そして車両10の運転状態と走行モードとの関係は、例えば、図2に示すようなマップとして予め設定されている。図2に示す例では、SOCがX(%)以上で要求出力がY(kW)以下である運転状態Aには、第1の走行モードであるEV走行モードが設定され、SOCがX(%)よりも低いか要求出力がY(kW)よりも大きい運転状態Bには、第2の走行モードであるシリーズ走行モード又はパラレル走行モードの何れかが設定されている。なお実際には、シリーズ走行モードが設定される運転状態とパラレル走行モードが設定される運転状態とは運転状態Bの範囲内でさらに区分けされている。どのような区分けとするかは、車両10の特性等を考慮して適宜設定されればよい。
【0029】
また車両10には、車両10に搭載された各種装置を総括的に制御する制御装置30が設けられている。制御装置30は、車両10に設けられた各種センサからの信号に基づいて車両10の運転状態を把握し、それに基づいて各種装置を総括的に制御する。例えば、上述した車両10の運転状態に応じた走行モードの選択も、この制御装置30によって行われる。
【0030】
以下、本発明に係る制御装置30による走行モードの選択制御について説明する。
【0031】
制御装置30は、図3に示すように、フロントモータ11及びリアモータ12の駆動を制御するモータ制御部31と、エンジン13の駆動を制御するエンジン制御部32を備えると共に、車両10の運転状態に応じて走行モードを適宜選択する選択制御部33を備えている。
【0032】
選択制御部33は、SOC検出手段(充電状態検出手段)34と、要求出力演算手段35と、選択手段36と、を備えると共に、燃料劣化判定手段37と、変更手段38及び変更禁止手段39と、を備える。
【0033】
SOC検出手段34は、バッテリ19のSOCを検出する。バッテリ19には、例えば、電圧センサや電流センサ等であるバッテリセンサ40が設けられている。SOC検出手段34は、このバッテリセンサ40からの情報に基づいて、バッテリ19のSOCを検出(演算)する。
【0034】
要求出力演算手段35は、アクセルポジションセンサ41の検出結果に基づいて、運転者が要求する出力(要求出力)を演算により求める。
【0035】
選択手段36は、SOC検出手段34の検出結果と、要求出力演算手段35の演算結果とから、車両10の運転状態を特定し、その運転状態に応じた走行モードを選択する。上述したように本実施形態では、車両10の運転状態が、バッテリ19のSOCと運転者の要求出力との関係で特定されており、車両10の運転状態と各走行モードとの関係は、図2に示すようなマップとして記憶部42に記憶されている。そして選択手段36は、SOC検出手段34の検出結果と、要求出力演算手段35の演算結果とから記憶部42に記憶されているマップを参照して車両10の運転状態に応じた走行モードを選択する。例えば、図2に示すマップの場合、選択手段36は、SOCがX(%)以上で要求出力がY(kW)以下であれば、第1の走行モードであるEV走行モードを選択し、SOCがX(%)よりも低いか要求出力がY(kW)よりも大きい場合には、第2の走行モードであるシリーズ走行モード又はパラレル走行モードの何れかを適宜選択する。
【0036】
燃料劣化判定手段37は、所定のタイミングで、燃料タンク24内に残っている燃料の劣化を判定する。具体的には、燃料劣化判定手段37は、燃料タンク24内に残っている燃料の劣化度合が所定度合よりも高い場合に「劣化あり」と判定し、所定度合以下であれば「劣化なし」と判定する。この燃料劣化判定手段37は、例えば、エンジン13の始動時に、エンジン13の冷態時の燃料補正学習値と、温帯時の燃料補正学習値とに基づいて燃料の劣化の有無を判定する。
【0037】
ここで、エンジン13がフィードバック制御されている場合、例えば、図4に示すように、燃料噴射量は所定の空燃比となるように適宜補正される。燃料タンク24内の燃料が劣化してその低温揮発成分が蒸発していると、燃料噴射量の補正量は通常よりも増加する。図4の冷態時燃料補正学習領域における補正量は、実線が燃料の劣化がない場合の例であり、点線が燃料の劣化がある場合の例である。
【0038】
図4の例からも分かるように、燃料の劣化による燃料噴射量の補正量の増加は、エンジン13の冷態時に特に顕著に表れる。そこで、本実施形態では、燃料劣化判定手段37が、エンジン13の冷態時における燃料噴射量の補正量に基づいて燃料の劣化度合を求め、その劣化度合の大きさによって燃料の劣化の有無を判定している。
【0039】
まずは、エンジン13始動直後でエンジン13の冷態時に、冷態時燃料補正学習値を算出する。エンジン13始動直後からエンジン13が所定温度、例えば、60℃程度になるまでの間(冷態時燃料補正学習領域)の補正量の平均値を、冷態時燃料補正学習値として算出する。さらにエンジン13の暖気完了後に、エンジン13が所定温度、例えば、80℃程度になるまでの間(通常燃料補正学習領域)の補正量の平均値を、通常時燃料補正学習値として算出する。これら冷態時補正学習値と通常時補正学習値とから下記式(1)に基づいて、燃料の劣化度合としての燃料劣化学習値(%)を算出する。
【0040】
【数1】

【0041】
そして燃料劣化判定手段37は、この燃料劣化学習値に基づいて燃料の劣化を判定する。すなわち燃料劣化判定手段37は、燃料劣化学習値が所定値以上である場合、つまり冷態時燃料補正学習値が通常時燃料補正学習値よりも所定値以上大きい場合に、燃料の劣化ありと判定する。例えば、本実施形態では、燃料劣化判定手段37は、燃料劣化学習値が1.10[%]以上である場合に、燃料の劣化ありと判定する。
【0042】
変更手段38は、このように燃料劣化判定手段37によって算出された燃料劣化学習値が所定値よりも大きい場合、つまり燃料の劣化ありと判定された場合に、選択手段36によって第1の走行モードが選択される運転状態と第2の走行モードが選択される運転状態との境界値(閾値)を、第2の走行モードが選択される運転状態の範囲が広がるように変更する。本実施形態では、変更手段38は、図2に示すマップにおける運転状態Aと運転状態Bとの通常時の閾値である所定の充電閾値(SOCの値X)及び所定の要求出力閾値(要求出力の値Y)を、運転状態Bの範囲が広がるように、変更後の所定の充電閾値(SOCの値X1)及び変更後の所定の要求出力閾値(要求出力の値Y1)に変更する。
【0043】
変更禁止手段39は、燃料タンク24に設けられる燃料レベルセンサ(燃料量検出手段)43によって、燃料残量が第1の閾値量(例えば、給油警告ランプが点灯する値)より小さい値であることが検出された場合に上述した変更手段38による閾値の変更を禁止する。すなわち本実施形態では、変更手段38は、燃料レベルセンサ43によって燃料残量が第1の閾値量以上であることが検出された場合にのみ、上述した閾値の変更を実施する。
【0044】
また本発明に係る制御装置30は、選択制御部33を構成する給油予定判定手段44をさらに備える。給油予定判定手段44は、燃料劣化判定手段37によって燃料の劣化ありと判定された場合に、その後所定期間内に給油の実施予定があるか否かを判定する。例えば、本実施形態では、給油予定判定手段44は、運転者によって給油予定スイッチ45の操作があったか否かによって給油の実施予定があるか否かを判定する。勿論、この判定方法は、特に限定されるものではない。
【0045】
燃料レベルセンサ43によって燃料残量が第1の閾値量よりも大きい値である第2の閾値量よりも少ないことが検出された場合には、変更手段38は、給油予定判定手段44の判定結果に応じて上述した閾値の変更を実施する。すなわち燃料残量が第1の閾値量以上であり第2の閾値よりも少ない場合、変更手段38は、給油予定判定手段44によって給油予定なしと判定された場合にのみ、上述した閾値の変更を実施する。
【0046】
このように変更手段38によってマップが変更された場合には、上述した選択手段36は、変更されたマップに基づいて車両10の運転状態に応じた走行モードを選択する。選択手段36によって走行モードが選択されると、モータ制御部31及びエンジン制御部32が、選択された走行モードに応じて演算される出力分担に基づいて、各モータ11,12及びエンジン13の駆動を制御する。
【0047】
このようなハイブリッド車両の制御装置30によれば、長期間燃料が消費されず、燃料が劣化した場合に、大幅な燃費の低下を抑えつつ劣化した燃料の消費を促進することができる。
【0048】
次に、このような制御装置30による走行モード選択制御の一例を、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0049】
車両10の走行中などの所定のタイミングでエンジン13が始動されると、ステップS1で燃料劣化判定手段37が上述したような方法により燃料タンク24内の燃料の劣化を判定する。ここで、燃料劣化判定手段37によって「劣化あり」と判定された場合には(ステップS1:Yes)、ステップS2で燃料レベルセンサ43の検出結果から燃料残量が第1の閾値量以上であるか否かが判定される。そして燃料残量が第1の閾値量以上である場合には(ステップS2:Yes)、さらに燃料レベルセンサ43の検出結果から、燃料タンク24内の燃料残量が第1の閾値量よりも大きい第2の閾値量以上であるか否かが判定される(ステップS3)。
【0050】
なお、第1の閾値量及び第2の閾値量は、何れの値に設定してもよいが、例えば、本実施形態では、図6に示すように、満タン(燃料残量100%)に対して、燃料残量10%程度を第1の閾値量とし、燃料残量40%程度を第2の閾値量としている。
【0051】
ここで、燃料残量が第2の閾値量以上である場合には(ステップS3:Yes)、変更手段38が上述した閾値の変更を行い燃料消費促進モードに移行する(ステップS4)。そして、この燃料消費促進モードでは、モータ制御部31及びエンジン制御部32は、変更手段38によって変更されたマップを参照してモータ11,12及びエンジン13を制御する。これにより、エンジン13を駆動する期間が長くなり、劣化した燃料の消費が促進される。燃料残量が第2の閾値量以上である場合、つまり劣化した燃料が比較的多く残っている場合には、劣化した燃料を速やかに消費することが好ましい。
【0052】
なおステップS4で燃料消費促進モードに移行するにあたっては、その旨を運転者に対して報知することが好ましい。報知の方法は特に限定されないが、例えば、「燃料が劣化したため、燃料消費促進モードへ移行します。」といったコメントを運転者に対して表示すればよい。
【0053】
またステップS1で燃料劣化判定手段37によって「燃料の劣化なし」と判定された場合には(ステップS1:No)、燃料の消費を促進する必要は無いため、ステップS5に進み、変更禁止手段39によって変更手段38による閾値の変更が禁止される。つまり燃料消費促進モードへの移行が禁止され、変更手段38によるマップの変更が実施されることはなく、通常のマップで各モータ11,12及びエンジン13が制御される。
【0054】
またステップS2で燃料残量が第1の閾値量(例えば、給油警告ランプが点灯する値)よりも少なかった場合にも(ステップS2:No)、ステップS5に進み、燃料消費促進モードへの移行が禁止され変更手段38によるマップの変更が実施されることはない。燃料残量が第1の閾値量よりも少ない場合、まもなく給油が実施されることは明らかである。そして給油が実施されれば、燃料残量よりも多い新たな燃料が燃料タンク24内に供給されることになる。これにより燃料タンク24内の燃料の劣化状態は大幅に改善される。したがって、燃料残量が第1の閾値よりも少ない場合には、変更手段38によるマップの変更が行われないようにしている。これにより必要以上の燃費の低下が抑えられる。
【0055】
またステップS3で燃料残量が第2の閾値量よりも小さい場合、つまり燃料残量が第1の閾値量以上の量であり第2の閾値量よりも少ない量である場合には、ステップS6に進み、給油予定判定手段44が、その後所定期間内に給油の実施予定があるか否かを判定する。本実施形態では、給油予定判定手段44は、給油予定スイッチ(SW)45の操作があったか否かによって給油の実施予定があるか否かを判定する。つまり、給油予定スイッチ45の操作があった場合に「給油実施予定あり」と判定する。
【0056】
そして、運転者によって給油予定スイッチ45が操作されず給油予定判定手段44によって「給油実施予定なし」と判定された場合には(ステップS6:No)、上述のように変更手段38が閾値の変更を行い燃料消費促進モードに移行する(ステップS4)。
【0057】
なおステップS6で、給油予定判定手段44によって「給油実施予定あり」と判定された場合には(ステップS6:Yes)、ステップS5に進み、変更禁止手段39によって燃料消費促進モードへの移行は禁止されて変更手段38によるマップの変更は行われない。燃料残量が第2の閾値量よりも少ない場合、給油が実施されれば、給油によって新たに供給される燃料によって燃料タンク24内の燃料の劣化度合は十分に改善する。したがって、燃料残量が第2の閾値量よりも少なく且つ運転者による給油の実施予定がある場合には、変更手段38によるマップの変更が行われないようにしている。
【0058】
なおステップS6で、給油の実施予定があるか否かの判定を行うにあたっては、運転者に対して給油の実施(給油予定スイッチ45の操作)を促す報知を行うことが好ましい。報知の方法は特に限定されないが、例えば、「燃料が劣化しました。現在の走行中に給油を実施しますか?」といったコメントを運転者に対して表示する。これにより運転者が給油を実施すれば、燃料の消費を促進させることなく燃料の劣化状態を改善することができる。
【0059】
以上のように、本発明の制御装置30によれば、燃料タンク24内の燃料が長期間に亘って消費されずに燃料の劣化が生じた場合に、燃料の消費が促進される。これにより、給油のタイミングが早まり、燃料の劣化状態の改善を図ることができる。また燃料が劣化した場合に、単に燃料を消費させるのではなく、必要に応じて第1の走行モードと第2の走行モードとの閾値を変更することで燃料の消費を促進するようにしている。したがって、急激な燃費の低下を抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。本発明は、その目的を逸脱しない範囲で適宜変更が可能なものである。
【0061】
例えば、上述の実施形態では、ステップS6で、運転者による給油予定スイッチの操作があったか否かによって給油の実施予定の有無を判定するようにしたが、給油の実施予定の有無の判定方法は、これに限定されるものではない。例えば、車両がナビゲーションシステムを備えている場合には、ナビゲーションシステムと連動して給油の実施予定の有無を判定するようにしてもよい。具体的には、給油予定判定手段が、燃料残量に基づいて算出される残走行可能距離D1と、ナビゲーションシステムにおいて予め設定された目的地までの距離D2との関係が、D1<D2を満たしている場合に、給油の実施予定ありと判定するようにしてもよい。
【0062】
例えば、上述の実施形態では、冷態時燃料補正学習値と通常時燃料補正学習値とから燃料劣化の有無を判定するようにしたが、燃料の劣化の判定方法は特に限定されるものではない。また、冷態時燃料補正学習値に基づくことなく燃料の劣化の判定を行う場合には、劣化の判定を行うタイミングもエンジン13の始動時である必要はない。
【0063】
また上述の実施形態では、運転状態に応じて、EV走行モード、シリーズ走行モード又はパラレル走行モードの何れかの走行モードを選択可能なハイブリッド車両を例示して説明したが、ハイブリッド車両はこれに限定されるものではない。ハイブリッド車両は、例えば、EV走行モード又はシリーズ走行モードの一方を運転状態に応じて選択できるものであってもよいし、例えば、EV走行モード又はパラレル走行モードの一方を選択できるものであってもよい。
【0064】
また上述の実施形態では、変更手段は、燃料劣化判定手段によって燃料の劣化が判定(検出)された際に、バッテリのSOCの充電閾値と、要求出力閾値とのそれぞれを変更するようにしたが、必ずしもこれらの両方を変更することを要さず、少なくともバッテリのSOCの充電閾値を変更すればよい。
【符号の説明】
【0065】
10 車両(ハイブリッド車両)
11 フロントモータ
12 リアモータ
13 エンジン
14 前駆動伝達機構
15 前輪
16 後駆動伝達機構
17 後輪
18 フロントモータインバータ
19 バッテリ
20 リアモータインバータ
21 DC/DCコンバータ
22 サブバッテリ
23 車載充電器
24 燃料タンク
25 出力系
26 ジェネレータ
27 ジェネレータインバータ
28 クラッチ
30 制御装置
31 モータ制御部
32 エンジン制御部
33 選択制御部
34 SOC検出手段(充電状態検出手段)
35 要求出力演算手段
36 選択手段
37 燃料劣化判定手段
38 変更手段
39 変更禁止手段
40 バッテリセンサ
41 アクセルポジションセンサ
42 記憶部
43 燃料レベルセンサ(燃料量検出手段)
44 給油予定判定手段
45 給油予定スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリから供給される電力によって作動し、車両に駆動力を与える車両駆動用モータと、
燃料タンクから供給される燃料によって作動し、前記車両又はジェネレータに駆動力を与える車両駆動用又はジェネレータ駆動用エンジンと、
前記バッテリの充電値を検出する充電状態検出手段と、
前記燃料の劣化を判定する燃料劣化判定手段と、
前記充電値が所定の充電閾値より大きい際は前記エンジンを停止して前記モータの駆動力により前記車両を走行させる第1の走行モードを選択し、前記充電値が前記所定の充電閾値以下の際は前記エンジンを駆動させながら前記車両を走行させる第2の走行モードを選択する選択手段と、
前記燃料劣化判定手段により前記燃料の劣化が判定された際は、前記所定の充電閾値を高くなるように変更する変更手段と、
前記燃料タンク内の燃料残量を検出する燃料量検出手段と、
前記燃料量検出手段によって前記燃料タンク内の燃料残量が所定の第1の閾値量よりも少ないことが検出された際に前記変更手段による前記所定の充電閾値の変更を禁止する変更禁止手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
所定期間内に給油実施予定の有無を判定する給油予定判定手段を更に備え、
前記変更禁止手段は、前記燃料検出手段によって前記燃料タンク内の燃料残量が前記所定の第1の閾値量以上であって前記所定の第1の閾値量よりも大きい所定の第2の閾値量以下であると検出され、且つ、前記給油予定判定手段により給油実施予定ありと判定された際に、前記変更を禁止する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記給油予定判定手段は、運転者によるスイッチ操作の結果に基づいて給油の実施予定の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記所定の第1の閾値量は、給油警告ランプが点灯するときの燃料残量である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−30668(P2012−30668A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171150(P2010−171150)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】