説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】回生協調ブレーキ制御時のショックを抑制することを目的とする。
【解決手段】動力源としてエンジン及びモータジェネレータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、所定の低車速域で、車速に応じた大きさのクリープトルクを駆動トルクとして発生させるクリープトルク発生手段(S10)と、回生協調ブレーキ制御時に前記回生制動トルクが0になるまでは、車速にかかわらずクリープトルクの大きさをハイブリッド車両の駆動系のバックラッシュを抑制可能な0に近い所定のガタ詰めトルクに制限するクリープトルク制限手段(S8)と、回生制動力が0になった後は、クリープトルクをガタ詰めトルクから車速に応じた大きさのクリープトルクへと変化させるときの変化率を制限するクリープトルク変化率制限手段(S9)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両の制御装置は、駆動トルクが負トルクから正トルクに切り替わるときのショックを抑制するために、駆動トルクが0に近づくにつれて駆動トルクの変化量が小さくなるように制御していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−51832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ブレーキ減速時にいわゆる回生協調ブレーキ制御を実施する場合は、車両停止間際にモータジェネレータによる回生制動トルクを0まで低下させて、トルクコンバータを備えた車両がアイドリング時に発生する駆動トルク(以下「クリープトルク」という。)を発生させて運転性を確保する必要がある。このとき、駆動トルクが負トルクから正トルクに切り替わるので、変速ギヤのバックラッシュによるギヤガタショックが発生する。そのため、駆動トルクを比較的小さなトルクに制限してギヤのガタ詰めを実施することが望ましい。
【0005】
しかしながら、回生制動トルクとクリープトルクとの合計トルクでギヤのガタ詰めを実施しようとすると、回生制動トルクが急変してしまうことがある。回生制動トルクからクリープトルクに切り替わるときは、回生制動トルクを低下させつつブレーキ油圧を増加させてブレーキによる摩擦制動トルクを増加させているときである。そのため、回生制動トルクが急変してしまうと、ブレーキ油圧の応答が追いつかずに加速度変動が生じてショックが発生するという問題点があった。
【0006】
本発明はこのような問題点に着目してなされたものであり、回生協調ブレーキ制御時のショックを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、動力源としてエンジン及びモータジェネレータを備えるハイブリッド車両の制御装置である。そして、ドライバの要求制動力を実現するように、前記モータジェネレータの回生制動トルクと、ハイブリッド車両の前後各輪に設けられた摩擦制動装置の摩擦制動トルクと、によって車両を制動させる回生協調ブレーキ制御を実施する制動力制御手段と、所定の低車速域で、車速に応じた大きさのクリープトルクを駆動トルクとして発生させるクリープトルク発生手段と、回生協調ブレーキ制御時に回生制動トルクが0になるまでは、車速にかかわらずクリープトルクの大きさを前記ハイブリッド車両の駆動系のバックラッシュを抑制可能な0に近い所定のガタ詰めトルクに制限するクリープトルク制限手段と、回生制動力が0になった後は、クリープトルクをガタ詰めトルクから車速に応じた大きさのクリープトルクへと変化させるときの変化率を制限するクリープトルク変化率制限手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回生協調ブレーキ制御時において回生制動トルクに対しての補正は実施せず、クリープトルクに対しての上限値及び変化率を制限する補正のみを実施してギヤのガタ詰めを実施する。そのため、回生制動トルクが補正されて回生制動トルクが急変するのを防止でき、回生協調ブレーキ制御時のショックの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態によるフロントエンジン・リアドライブ方式のハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による統合コントローラで実行される処理について説明するブロック図である。
【図3】定常目標駆動トルク算出マップを示す図である。
【図4】目標アシストトルク算出マップを示す図である。
【図5】目標走行モード選択マップについて説明する図である。
【図6】目標発電トルク算出部の詳細について説明するブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態による回生協調ブレーキ制御について説明するフローチャートである。
【図8】目標クループトルク算出テーブルを示す図である。
【図9】本発明の一実施形態によるクリープトルク変化率算出処理について説明するフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態による回生協調ブレーキ制御の動作を説明するタイムチャートである。
【図11】本発明の一実施形態による回生協調ブレーキ制御時にアクセルペダルが踏み込まれたときの動作を説明するタイムチャートである。
【図12】本発明の他の実施形態によるフロントエンジン・リアドライブ方式のハイブリッド車両の概略構成図である。
【図13】本発明の他の実施形態によるフロントエンジン・リアドライブ方式のハイブリッド車両の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態によるフロントエンジン・リアドライブ方式のハイブリッド車両(以下「FRハイブリッド車両」という。)の概略構成図である。
【0012】
FRハイブリッド車両は、動力源としてのエンジン1及びモータジェネレータ2と、電力源としてのバッテリ3と、動力源の出力を後輪47に伝達するための複数の部品からなる駆動系4と、エンジン1、モータジェネレータ2及び駆動系4の部品を制御するための複数のコントローラ等からなる制御系5と、を備える。
【0013】
エンジン1は、ガソリンエンジンである。ディーゼルエンジンを使用することもできる。
【0014】
モータジェネレータ2は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータである。モータジェネレータ2は、バッテリ3からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、ロータが外力により回転しているときにステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機としての機能と、を有する。
【0015】
バッテリ3は、モータジェネレータ2などの各種の電気部品に電力を供給するとともに、モータジェネレータ2で発電された電力を蓄える。
【0016】
FRハイブリッド車両の駆動系4は、第1クラッチ41と、自動変速機42と、第2クラッチ43と、プロペラシャフト44と、終減速差動装置45と、ドライブシャフト46と、を備える。
【0017】
第1クラッチ41は、エンジン1とモータジェネレータ2との間に設けられる。第1クラッチ41は、第1ソレノイドバルブ411によって油流量及び油圧を制御して連続的にトルク容量を変化させることのできる湿式多板クラッチである。第1クラッチ41は、トルク容量を変化させることで、締結状態、スリップ状態(半クラッチ状態)及び解放状態の3つの状態に制御される。
【0018】
自動変速機42は、前進7段・後進1段の有段変速機である。自動変速機42は、4組の遊星歯車機構と、遊星歯車機構を構成する複数の回転要素に接続されてそれらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(3組の多板クラッチ、4組の多板ブレーキ、2組のワンウェイクラッチ)と、を備える。各摩擦締結要素への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素の締結・解放状態を変更することで変速段が切り替わる。
【0019】
第2クラッチ43は、第2ソレノイドバルブ431によって油流量及び油圧を制御して連続的にトルク容量を変化させることのできる湿式多板クラッチである。第2クラッチ43は、トルク容量を変化させることで、締結状態、スリップ状態(半クラッチ状態)及び解放状態の3つの状態に制御される。本実施形態では、自動変速機42が備える複数の摩擦締結要素の一部を第2クラッチ43として流用する。
【0020】
プロペラシャフト44は、自動変速機42の出力軸と終減速差動装置45の入力軸とを接続する。
【0021】
終減速差動装置45は、終減速装置と差動装置とを一体化したものであり、プロペラシャフト44の回転を減速させた上で左右のドライブシャフト46に伝達する。また、カーブ走行時など、左右のドライブシャフト46の回転速度に速度差を生じさせる必要があるときには、自動的に速度差を与えて円滑な走行ができるようにする。左右のドライブシャフト46の先端にはそれぞれ後輪47が取り付けられる。
【0022】
FRハイブリッド車両の制御系5は、統合コントローラ51と、エンジンコントローラ52と、モータコントローラ53と、インバータ54と、第1クラッチコントローラ55と、変速機コントローラ56と、ブレーキコントローラ57と、を備える。各コントローラは、CAN(Controller Area Network)通信線58に接続されており、CAN通信によって互いにデータを送受信できるようになっている。
【0023】
統合コントローラ51には、アクセルストロークセンサ60、車速センサ61、エンジン回転センサ62、モータジェネレータ回転センサ63、変速機入力回転センサ64、変速機出力回転センサ65、SOC(State Of Charge)センサ66、車輪速センサ67及びブレーキストロークセンサ68などのFRハイブリッド車両の走行状態を検出するための各種センサの検出信号が入力される。
【0024】
アクセルストロークセンサ60は、ドライバの要求駆動トルクを示すアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル操作量」という。)を検出する。車速センサ61は、FRハイブリッド車両の走行速度(以下「車速」という。)を検出する。エンジン回転センサ62は、エンジン回転速度を検出する。モータジェネレータ回転センサ63は、モータジェネレータ回転速度を検出する。変速機入力センサ64は、自動変速機42の入力軸421の回転速度(以下「変速機入力回転速度」という。)を検出する。変速機出力センサ65は、自動変速機42の出力軸422の回転速度を検出する。SOCセンサ66は、バッテリ蓄電量を検出する。車輪速センサ67は、4輪の各車輪速を検出する。ブレーキストロークセンサ68は、ブレーキペダルの踏み込み量(以下「ブレーキ操作量という。」)を検出する。
【0025】
統合コントローラ51は、FRハイブリッド車両全体の消費エネルギを管理し、FRハイブリッド車両を最高効率で走行させるために、入力された各種センサの検出信号に基づいて各コントローラに出力するための制御指令値を算出する。具体的には、制御指令値として目標エンジントルク、目標モータジェネレータトルク、目標第1クラッチトルク容量、目標第2クラッチトルク容量、目標変速段及び回生協調制御指令などを算出し、各コントローラへ出力する。
【0026】
エンジンコントローラ52には、統合コントローラ51で算出された目標エンジントルクがCAN通信線58を介して入力される。エンジンコントローラ52は、エンジントルクが目標エンジントルクとなるようにエンジン1の吸入空気量(スロットル弁の開度)や燃料噴射量を制御する。
【0027】
モータコントローラ53には、統合コントローラ51で算出された目標モータジェネレータトルクがCAN通信線58を介して入力される。モータコントローラ53は、モータジェネレータトルクが目標モータジェネレータトルクとなるようにインバータ54を制御する。
【0028】
インバータ54は、直流と交流の2種類の電気を相互に変換する電流変換機である。インバータ54は、モータトルクが目標モータジェネレータトルクとなるようにバッテリ3からの直流を任意の周波数の三相交流に変換してモータジェネレータ2に供給する。一方、モータジェネレータ2が発電機として機能するときは、モータジェネレータ2からの三相交流を直流に変換してバッテリ3に供給する。
【0029】
第1クラッチコントローラ55には、統合コントローラ51で算出された目標第1クラッチトルク容量がCAN通信線58を介して入力される。第1クラッチコントローラ55は、第1クラッチ41のトルク容量が目標第1クラッチトルク容量となるように第1ソレノイドバルブ411を制御する。
【0030】
変速機コントローラ56には、統合コントローラ51で算出された目標第2クラッチトルク容量及び目標変速段がCAN通信線58を介して入力される。変速機コントローラ56は、第2クラッチ43のトルク容量が目標第2クラッチトルク容量となるように第2ソレノイドバルブ431を制御する。また、自動変速機42の変速段が目標変速段となるように自動変速機42の各摩擦締結要素への供給油圧を制御する。
【0031】
ブレーキコントローラ57には、統合コントローラ51からの回生協調制御指令が入力される。ブレーキコントローラ57は、ブレーキペダルの踏み込み時にブレーキ操作量から算出される要求制動力に対して、モータジェネレータによる回生制動トルクだけでは不足する場合は、その不足分をブレーキによる摩擦制動トルクで補うように、回生協調制御指令に基づき回生協調ブレーキ制御を実施する。
【0032】
図2は、統合コントローラ51で実行される処理について説明するブロック図である。
【0033】
目標駆動トルク算出部100には、変速機入力回転速度と、アクセル操作量と、が入力される。目標駆動トルク算出部100は、図3に示す定常目標駆動トルク算出マップを参照し、変速機入力回転速度とアクセル操作量とに基づいてエンジン1の定常目標駆動トルクを算出する。同時に、図4に示す目標アシストトルク算出マップを参照し、変速機入力回転速度とアクセル操作量とに基づいてモータジェネレータ2の目標アシストトルクを算出する。
【0034】
目標走行モード選択部200には、車速と、アクセル操作量と、バッテリ蓄電量と、が入力される。目標走行モード選択部200は、目標走行モード選択マップを備え、これらの入力値に基づいて、EV(Electric Vehicle)走行モード又はHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行モードのいずれか一方を目標走行モードとして選択する。目標走行モード選択マップの詳細については図5を参照して後述する。
【0035】
なお、EV走行モードは、第1クラッチ41を解放し、モータジェネレータ2のみを動力源としてFRハイブリッド車両を駆動する走行モードである。
【0036】
HEV走行モードは、第1クラッチ41を締結し、エンジン1を動力源として含みながらFRハイブリッド車両を駆動する走行モードであって、エンジン走行モード、モータアシスト走行モード及び発電走行モードの3つの走行モードを備える。
【0037】
エンジン走行モードは、エンジン1のみを動力源としてFRハイブリッド車両を駆動するモードである。モータアシスト走行モードは、エンジン1とモータジェネレータ2の2つを動力源としてFRハイブリッド車両を駆動するモードである。発電走行モードは、エンジン1のみを動力源としてFRハイブリッド車両を駆動するとともに、モータジェネレータ2を発電機として機能させるモードである。
【0038】
目標発電トルク算出部300には、バッテリ充電量とエンジン回転速度とが入力され、これらに基づいて目標発電トルクを算出する。目標発電トルク算出部300の詳細については図6を参照して後述する。
【0039】
動作点指令部400には、アクセル操作量と、目標駆動トルクと、目標アシストトルクと、目標走行モードと、車速と、目標発電トルクと、が入力される。動作点指令部400は、これらの入力値に基づいて、目標エンジントルク、目標モータジェネレータトルク、目標第1クラッチトルク容量、目標第2クラッチトルク容量及び目標変速段を算出し、各コントローラへ出力する。
【0040】
図5は、目標走行モード選択マップについて説明する図である。
【0041】
目標走行モード選択マップには、実線で示したEVモードからHEVモードへの走行モード切替線(以下「エンジン始動線」という。)と、破線で示したHEVモードからEVモードへの走行モード切替線(以下「エンジン停止線」という。)と、が設定される。このエンジン始動線及びエンジン停止線は、バッテリ蓄電量によって変化し、バッテリ蓄電量が低下するほど、エンジン始動線及びエンジン停止線が図中下方に移動する。
【0042】
そして、車速とアクセル操作量とによって決まる運転点がエンジン始動線をEVモード側からHEVモード側に跨いだときに、目標走行モードがEVモードからHEVモードに変更される。逆に、車速とアクセル操作量とによって決まる運転点がエンジン停止線をHEVモード側からEVモード側に跨いだときに、目標走行モードがHEVモードからEVモードに変更される。
【0043】
図6は、目標発電トルク算出部300の詳細について説明するブロック図である。
【0044】
目標発電トルク算出部300は、第1目標発電トルク算出部310と、第2目標発電トルク算出部320と、目標発電トルク出力部330と、を備える。
【0045】
第1目標発電トルク算出部310には、バッテリ蓄電量が入力される。第1目標発電トルク算出部310は、第1目標発電トルク算出テーブルを備え、バッテリ蓄電量に基づいて第1目標発電トルクを算出する。
【0046】
第2目標発電トルク算出部320には、演算によって算出された現在のエンジントルクと、現在のエンジン回転速度と、が入力される。第2目標発電トルク算出部320は、エンジントルクとエンジン回転速度とで規定されるエンジン動作点のマップを備え、現在のエンジントルク及び現在のエンジン回転速度に基づいて、現在のエンジン回転速度を維持したままエンジントルクをエンジン動作点マップ上の最良燃費線まで増大させるために必要なエンジントルクを算出し、この算出したエンジントルクを第2目標発電トルクとする。
【0047】
一例を示すと、現在のエンジン動作点がエンジン動作点マップ上のA点であれば、矢印に沿ってB点まで増大させるために必要なエンジントルクが第2目標発電トルクとなる。
【0048】
目標発電トルク出力部330は、第1目標発電トルクと第2目標発電トルクを比較し、小さいほうを目標発電トルクとして出力する。
【0049】
ところで、ブレーキ減速時に回生協調ブレーキ制御を実施する場合は、停止する前にモータジェネレータによる回生制動トルク(発電トルク)を0にして、クリープ走行が可能なクリープトルクを出力する必要がある。このとき、駆動トルクが負トルクから正トルクに切り替わるので、変速ギヤのバックラッシュによるギヤガタショックが発生する。そのため、駆動トルクを比較的小さなトルクに制限してギヤのガタを詰める必要がある。
【0050】
しかしながら、回生制動トルクとクリープトルクとの合計トルクでギヤのガタ詰めを実施しようとすると、回生制動トルクが急変してしまうことがある。回生制動トルクからクリープトルクに切り替わるときは、回生制動トルクを低下させつつブレーキによる摩擦制動トルクを増加させるためにブレーキ油圧を増加させているときなので、回生制動トルクが急変してしまうと、ブレーキ油圧の応答が追いつかずに加速度変動が生じてショックが発生する。
【0051】
そこで本実施形態では、回生制動トルクが急変しないように、クリープトルクの上限値及び変化率を制御してギヤのガタ詰めを実施し、このような加速度変動によるショックの発生を抑制する。以下、この本実施形態による回生協調ブレーキ制御について説明する。
【0052】
図7は、本実施形態による回生協調ブレーキ制御について説明するフローチャートである。統合コントローラ51は、このルーチンを所定の演算周期(例えば10ms)ごとに繰り返し実行する。
【0053】
ステップS1において、統合コントローラは、減速コースト中かを判定する。具体的には、アクセル操作量が0で、かつブレーキ操作量が0より大きいかを判定する。統合コントローラは、減速コースト中であればステップS2に処理を移行し、そうでなければステップS5に処理を移行する。
【0054】
ステップS2において、統合コントローラは、回生制動トルクが0より小さいかを判定する。統合コントローラは、回生制動トルクが0より小さければステップS3に処理を移行し、そうでなければステップS5に処理を移行する。
【0055】
ステップS3において、統合コントローラは、車速が所定の補正開始車速より小さいかを判定する。補正開始車速は、クリープトルクが0以下の車速域のいずれかに設定する。本実施形態ではクリープトルクが0となる車速を補正開始車速としている。
【0056】
ステップS4において、統合コントローラは、クリープトルク補正フラグを1に設定する。
【0057】
ステップS5において、統合コントローラは、クリープトルク補正フラグを0に設定する。
【0058】
ステップS6において、統合コントローラは、図8に示す目標クループトルク算出テーブルを参照し、車速に基づいて目標クリープトルクを算出する。
【0059】
ステップS7において、統合コントローラは、クリープトルク補正フラグが1に設定されているか否かを判定する。統合コントローラは、クリープトルク補正フラグが1であればステップS8に処理を移行し、0であればステップS9に処理を移行する。
【0060】
ステップS8において、統合コントローラは、クリープトルクの上限を所定のギヤガタ詰めトルクに制限する。ギヤガタ詰めトルクは、自動変速機42や終減速差動装置45といった駆動系4のバックラッシュを抑制するために、0に近いトルクに設定する。
【0061】
ステップS9において、統合コントローラは、クリープトルク変化率制限処理を実施する。クリープトルク変化率制限処理は、クリープトルクを目標クリープトルクへと変化させるときのクリープトルクの変化率の上限値を設定する処理である。クリープトルク変化率制限処理の詳細については、図9を参照して後述する。
【0062】
ステップS10において、統合コントローラは、クリープトルク変化率制限処理によって設定した上限値を限度とする変化率でクリープトルクを目標クリープトルクへと変化させる。このとき、クリープトルクの上限がギヤガタ詰めトルクに制限されていれば、ギヤガタ詰めトルクに達して時点でクリープトルクをそのギヤガタ詰めトルクに維持する。
【0063】
図9は、クリープトルク変化率算出処理について説明するフローチャートである。
【0064】
ステップS90において、統合コントローラは、クリープトルク補正フラグが1に設定されているか否かを判定する。統合コントローラは、クリープトルク補正フラグが1であればステップS91に処理を移行し、0であればステップS93に処理を移行する。
【0065】
ステップS91において、統合コントローラは、カウントタイマtを0に戻す。
【0066】
ステップS92において、統合コントローラは、クリープトルクの変化率に上限を設けない。
【0067】
ステップS93において、統合コントローラは、クリープトルクと目標クリープトルクとに差があるか否かを判定する。統合コントローラは、クリープトルクと目標クリープトルクとに差があればステップS94に処理を移行し、そうでなければステップS98に処理を移行する。
【0068】
ステップS94において、統合コントローラは、カウントタイマtを算出する。具体的には、前回算出したカウントタイマtに演算周期Δtを加算して算出する。カウントタイマtの初期値は0である。
【0069】
ステップS95において、統合コントローラは、カウントタイマtが所定時間tlimより小さいか否かを判定する。統合コントローラは、カウントタイマが所定時間tlimより小さければステップS96に処理を移行し、所定時間tlim以上であればステップS97に処理を移行する。
【0070】
ステップS96において、統合コントローラは、クリープトルクの変化率の上限値を所定のガタ詰め変化率に設定する。
【0071】
ステップS97において、統合コントローラは、クリープトルクの変化率の上限値を所定の復帰変化率に設定する。復帰変化率は、ガタ詰め変化率よりも大きい値である。
【0072】
ステップS98において、統合コントローラは、クリープトルクの変化率に上限を設けない。
【0073】
図10は、本実施形態による回生協調ブレーキ制御の動作を説明するタイムチャートである。
【0074】
時刻t1で、車速が補正開始車速(クリープトルクが0となる車速)より小さくなると、減速コースト中かつ回生制動トルクが0より小さいのでクリープトルク補正フラグが1に設定される。
【0075】
時刻t2で、クリープトルクがギヤガタ詰めトルクに達すると、クリープトルク補正フラグが1なので、クリープトルクがギヤガタ詰めトルクに維持される。
【0076】
時刻t3で、回生制動トルクが0になると、クリープトルク補正フラグが0に設定される。そうすると、その時点からタイマのカウントが実施され、カウントタイマtが所定時間tlimより大きくなる時刻t4までは、クリープトルクの変化率の上限値が所定のガタ詰め変化率に制限される。その結果、ガタ詰め変化率を上限とする変化率でクリープトルクが目標クリープトルクへと変化させられる。
【0077】
そして、時刻t4からは、クリークトルクが目標クリープトルクとなるまで、クリープトルクの変化率の上限値が所定の復帰変化率に制限され、復帰変化率を上限とする変化率でクリープトルクが目標クリープトルクへと変化させられる。
【0078】
このように、本実施形態によれば、回生協調ブレーキ制御時において回生制動トルクに対しての補正は実施せず、クリープトルクに対しての上限値及び変化率を制限する補正のみを実施してギヤのガタ詰めを実施するので、回生制動トルクが急変することがない。そのため、ギヤガタショックの発生を抑制できるとともに、回生制動トルクの急変によるブレーキ油圧の応答遅れの発生を防止でき、加速度変動によるショックの発生を防止できる。
【0079】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0080】
例えば、図11のタイムチャートに示すように、時刻t4で回生協調ブレーキ制御中にアクセルペダルが踏み込まれたときには、クリープトルクの変化率制限を解除するようにしても良い。これにより、目標駆動トルクの増加に合わせて駆動トルクを上昇させることができるので、加速感が悪化するのを抑制できる。
【0081】
また、クリープトルクが0以上の領域で回生協調ブレーキ制御を実施すると、駆動トルクが正トルクから負トルクへ変化するため、ギヤガタショックが発生しやすくなる。そこで、クリープトルクが0以上の領域でブレーキペダルが踏み込まれたときには、回生協調ブレーキ制御を禁止するようにしても良い。これにより、駆動トルクが正トルクから負トルクへ変化しないので、ギヤガタショックの発生を防止できる。
【0082】
また、上記実施形態で説明したギヤガタ詰めトルク、所定時間tlim、及び復帰変化率の大きさを車両の減速度に応じて変化させるようにしても良い。具体的には、車両減速度が小さいときほど、ギヤガタ詰めトルクを小さくし、所定時間tlimを長くし、復帰変化率を小さくする。
【0083】
これは、車両減速度が小さいときほどドライバがショックを感じやすくなるためであり、上記のようにギヤガタ詰めトルク、所定時間tlim、及び復帰変化率を設定することで、より確実にショックの発生を抑制することができる。
【0084】
また、車両減速度が大きいときに、所定時間tlimを長いままにし、復帰変化率を小さいままにしておくと、車両停止後もクリープトルクが小さいままとなって車両停止時の車両慣性による加速度変動が生じる。そこで、上記のようにギヤガタ詰めトルク、所定時間tlim、及び復帰変化率を設定することで、このような加速度変動を防止できる。
【0085】
さらに、FRハイブリッド車両の第2クラッチ43は、図12に示すように、モータジェネレータ22と自動変速機42との間に別途に設けても良いし、図13に示すように、自動変速機42の後方に別途に設けても良い。またこれらに限らず、第2クラッチ43は、モータジェネレータ22から後輪47までの間に設けてあれば良い。
【符号の説明】
【0086】
1 エンジン
2 モータジェネレータ
51 統合コントローラ(制動力制御手段)
S8 クリープトルク制限手段
S10 クリープトルク発生手段
S96、S97 クリープトルク変化率制限手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてエンジン及びモータジェネレータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
ドライバの要求制動力を実現するように、前記モータジェネレータの回生制動トルクと、前記ハイブリッド車両の前後各輪に設けられた摩擦制動装置の摩擦制動トルクと、によって車両を制動させる回生協調ブレーキ制御を実施する制動力制御手段と、
所定の低車速域で、車速に応じた大きさのクリープトルクを駆動トルクとして発生させるクリープトルク発生手段と、
前記回生協調ブレーキ制御時に前記回生制動トルクが0になるまでは、車速にかかわらず前記クリープトルクの大きさを前記ハイブリッド車両の駆動系のバックラッシュを抑制可能な0に近い所定のガタ詰めトルクに制限するクリープトルク制限手段と、
前記回生制動力が0になった後は、前記クリープトルクを前記ガタ詰めトルクから車速に応じた大きさのクリープトルクへと変化させるときの変化率を制限するクリープトルク変化率制限手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記クリープトルク変化率制限手段は、
前記回生制動力が0になった後、所定時間が経過するまでは、前記クリープトルクの変化率を所定のガタ詰め変化率に制限し、前記所定時間が経過した後は、前記クリープトルクの変化率を前記ガタ詰め変化率よりも大きい所定の復帰変化率に制限する、
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記クリープトルク変化率制限手段は、前記ハイブリッド車両の減速度が小さいときほど前記所定時間を長くし、前記復帰変化率を小さくする、
ことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
要求駆動力が増加したときは、前記クリープトルク変化率制限手段による変化率の制限を解除する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記クリープトルク発生手段によってクリープトルクを発生させている場合に、要求性動力が0から増加したときは、前記回生協調ブレーキ制御を禁止する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記クリープトルク制限手段は、前記ハイブリッド車両の減速度が小さいときほど前記ガタ詰めトルクを小さくする、
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−91581(P2012−91581A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238823(P2010−238823)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】