説明

ハイブリッド車両の駆動制御装置

【課題】第2モータ/ジェネレータの出力負担を軽減させること。
【解決手段】第1モータ/ジェネレータ20の回転軸21、エンジン10の出力軸11並びに第2モータ/ジェネレータ30の回転軸31及び駆動輪側に向けた出力軸50が各々連結されるサンローラ41、キャリア43及び第1ディスク44と、これらと共通の第1回転中心軸R1を有する第2ディスク45と、第2回転中心軸R2を有すると共に、サンローラ41、第1ディスク44及び第2ディスク45の夫々との間の接触部を介した動力伝達が可能で且つキャリア43に保持された遊星ボール42と、を有し、遊星ボール42の傾転角を変えることで、第1ディスク44の回転速度をサンローラ41の回転速度で除したプラネタリギヤ比ρの変更が可能な動力分割機構40を備え、要求駆動力の発生に要する第2モータ/ジェネレータ30の出力トルクが小さくなるようにプラネタリギヤ比ρを制御すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともエンジンと回転電機を動力源とする駆動システムを備えたハイブリッド車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力源にエンジンと回転電機を備えたハイブリッド車両が知られている。また、この種のハイブリッド車両において、入力された動力を所定の分配比で分配して出力させることの可能な動力分割機構が配設されたものも知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、エンジンの出力軸が連結されたキャリアと、第1モータ/ジェネレータの回転軸が連結されたサンギヤと、第2モータ/ジェネレータの回転軸が連結されたリングギヤと、を有する遊星歯車機構からなる分配機構(動力分割機構)を備え、且つ、その第2モータ/ジェネレータの回転軸を駆動輪側にも連結したハイブリッド車両の駆動システムが開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、エンジンの動力を第1モータ/ジェネレータと駆動輪側とに所定の分配比率で分配する動力分割機構を備えたハイブリッド車両の駆動システムが開示されている。この駆動システムにおいては、その動力分割機構として、エンジンに連結されたキャリアと、第1モータ/ジェネレータに連結されたサンギヤと、駆動輪側に連結されたリング部と、円錐状の当接面を有するピニオン部と、を備えた遊星円錐機構を採用している。この駆動システムは、その分配比率を所定車速以上のときに変更させることによって、エンジンを最適燃費線上で運転させる。
【0005】
ここで、共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な複数の回転要素と、その第1回転中心軸と平行な別の第2回転中心軸を有し、第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置した転動部材と、を備え、対向させて配置した2つの回転要素で各転動部材を挟持すると共に、各転動部材を別の回転要素の外周面上に配置し、その転動部材を傾転させることで変速比を無段階に変化させる所謂トラクション遊星ギヤ機構の無段変速機が知られている。この無段変速機においては、各転動部材を夫々の回転軸を介して回転自在に保持する更に別の回転要素も備えている。例えば、下記の特許文献3には、回転要素としての入力ディスクと出力ディスクとで挟持された複数のボール(転動部材)を有し、そのボールの傾転角を調整して変速比を無段階に変える無段変速機構と、この無段変速機構の出力軸に回転要素の1つが連結された遊星歯車機構(差動機構)と、を備えた無段変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−170533号公報
【特許文献2】特開2009−040132号公報
【特許文献3】特表2006−519349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1の駆動システムにおいては、第2モータ/ジェネレータの出力とエンジンの出力を併用した車両の発進や走行が可能である。但し、この駆動システムにおいては、その動力分割機構の入出力間の回転比(変速比)が固定されているので、その発進や走行の際の要求駆動力に対する第2モータ/ジェネレータの出力の分担が大きくなる場合、大容量の第2モータ/ジェネレータを用意する必要があり、これに伴い二次電池の大容量化も必要になる。また、この駆動システムは、第2モータ/ジェネレータの出力だけで車両を発進させたり走行させたりすることも可能であり、その際に要求駆動力の全てを第2モータ/ジェネレータの出力で負担しなければならず、更に大容量の第2モータ/ジェネレータや二次電池が必要になる。このようなことから、この駆動システムは、第2モータ/ジェネレータや二次電池が大型化して、システム全体の大型化や重量増加、高コスト化を招く可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、第2モータ/ジェネレータの出力負担の軽減が可能なハイブリッド車両の駆動制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為、本発明は、第1回転電機の回転軸、エンジンの出力軸並びに第2回転電機の回転軸及び駆動輪側に向けた出力軸が各々連結される第1から第3の回転要素と、該第1から第3の回転要素と共通の第1回転中心軸を有する第4回転要素と、前記第1回転中心軸とは異なる第2回転中心軸を有すると共に、前記第1回転要素、前記第3回転要素及び前記第4回転要素の夫々との間の接触部を介した動力伝達が可能で且つ前記第2回転要素に保持された転動部材と、を有し、前記転動部材の傾転角を変えることで、前記第3回転要素の回転速度を前記第1回転要素の回転速度で除したプラネタリギヤ比ρの変更が可能な差動機構を備えたハイブリッド車両の駆動制御装置において、要求駆動力の発生に要する前記第2回転電機の出力トルクが小さくなるように前記プラネタリギヤ比ρを制御することを特徴としている。
【0010】
ここで、前進駆動時にはその要求駆動力の発生に要する前記第2回転電機の出力トルクが小さくなるように前記プラネタリギヤ比ρを小さくすることが望ましい。
【0011】
前記プラネタリギヤ比ρは、該プラネタリギヤ比ρの変更可能領域内で最も小さくする、前進駆動時の要求駆動力が所定の閾値を超えたときに小さくする又は当該要求駆動力が大きくなるほど小さくすることが望ましい。
【0012】
また、後進駆動時にはその要求駆動力の発生に要する前記第2回転電機の出力トルクが小さくなるように前記プラネタリギヤ比ρを大きくすることが望ましい。
【0013】
後進駆動時の前記プラネタリギヤ比ρは、該プラネタリギヤ比ρの変更可能領域内で最も大きくする、後進駆動時の要求駆動力が所定の閾値を超えたときに大きくする又は当該要求駆動力が大きくなるほど大きくすることが望ましい。
【0014】
また、前記差動機構は、前記第1から第3の回転要素の回転速度を第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素の順に配置して直線で表す共線図で、前記第2回転要素の回転速度軸が前記第1回転要素の回転速度軸と前記第3回転要素の回転速度軸の間を1:ρの関係で内分させたものを用いて当該第1から第3の回転要素の間の差動回転動作が制御されるものであり、前記プラネタリギヤ比ρは、前記共線図上で制御することが望ましい。
【0015】
また、前記差動機構は、前記第1回転要素としてのサンローラと、前記第2回転要素としてのキャリアと、前記第3回転要素としての第1ディスクと、前記第4回転要素としての第2ディスクと、前記転動部材としての遊星ボールと、を有するものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置は、要求駆動力の発生に要する第2回転電機の出力トルクが小さくなるようにプラネタリギヤ比ρを制御する。これが為、第2回転電機の容量を小さくしても、その第2回転電機は、要求駆動力の発生に要する出力トルクを出力できる。従って、このようなプラネタリギヤ比ρの制御を行うことで、第2回転電機の小型化や軽量化、低コスト化が可能になる。また、第2回転電機の小容量化に伴い、この第2回転電機との間で電力の授受を行う二次電池の小型化や低コスト化、その間の電気回路の簡素化や低コスト化も可能になる。また、第2回転電機の出力トルクを小さくできるので、温度低下により二次電池の許容出力限界値が更に低くなる冷間時においても、その出力トルクの出力に十分な電力を二次電池から供給できる。故に、この駆動制御装置は、冷間時の発進性能や走行性能を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明に係るハイブリッド車両の駆動システムとそれに対する駆動制御装置とを示す図である。
【図2】図2は、駆動システムの共線図である。
【図3】図3は、前方発進時の駆動システムのパワーフローを示す図である。
【図4】図4は、前方発進時のプラネタリギヤ比変更制御の共線図である。
【図5】図5は、モータトルクのみの後方発進時の駆動システムのパワーフローを示す図である。
【図6】図6は、モータトルクのみの後方発進時におけるプラネタリギヤ比変更制御の共線図である。
【図7】図7は、エンジントルクも用いた後方発進時の駆動システムのパワーフローを示す図である。
【図8】図8は、エンジントルクも用いた後方発進時におけるプラネタリギヤ比変更制御の共線図である。
【図9】図9は、前方発進時のプラネタリギヤ比変更制御の変形例の共線図である。
【図10】図10は、エンジントルクも用いた後方発進時におけるプラネタリギヤ比変更制御の変形例の共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
[実施例]
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置の実施例を図1から図10に基づいて説明する。
【0020】
図1の符号1は、本実施例の駆動制御装置(電子制御装置:ECU)を示す。その駆動制御装置1は、本実施例のハイブリッド車両の駆動システムに対する制御を行うものである。最初に、この駆動制御装置1が適用されるハイブリッド車両、より詳しくはハイブリッド車両の駆動システムについて図1に基づき詳述する。
【0021】
図1に示す駆動システムは、複数種類の動力源と、この動力源の動力を駆動力として駆動輪(図示略)に伝える動力伝達システムと、を備える。その動力源としては、熱エネルギを変換した機械エネルギを動力とする機械動力源と、電気エネルギを変換した機械エネルギを動力とする電気動力源と、が用意されている。
【0022】
先ず、この駆動システムは、機械動力源として、出力軸(クランクシャフト)11から機械的な動力(エンジントルク)を出力するエンジン10を備える。そのエンジン10としては、内燃機関や外燃機関等が考えられる。このエンジン10は、駆動制御装置1による燃料噴射や点火等の動作を可能にする。
【0023】
また、この駆動システムは、第1及び第2の回転電機20,30であって、モータ、力行駆動可能なジェネレータ又は力行及び回生の双方の駆動が可能なモータ/ジェネレータの内の何れかとして構成されたものを電気動力源とする。ここでは、モータ/ジェネレータを例に挙げて説明する。従って、以下においては、その第1及び第2の回転電機20,30を各々第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30(MG1,MG2)と云う。その第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30は、例えば永久磁石型交流同期電動機として構成されたものであり、図示しないインバータを介した駆動制御装置1による力行駆動等の動作を可能にする。この第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30は、力行駆動時に、図示しない二次電池からインバータを介して供給された電気エネルギを機械エネルギに変換し、図示しないロータと同軸上の回転軸21,31から機械的な動力(モータトルク)を出力する。一方、回生駆動時には、回転軸21,31から機械的な動力(モータトルク)が入力された際に機械エネルギを電気エネルギに変換する。その電気エネルギは、インバータを介して電力として二次電池に蓄えたり、他方のモータ/ジェネレータの力行駆動時の電力として使ったりすることができる。
【0024】
動力伝達システムには、入力された動力を所定の分配比で分配して出力させることの可能な動力分割機構40が用意されている。その動力分割機構40は、複数の回転要素の間の差動回転動作を可能にする差動機構として構成されたものである。ここでは、共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な複数の回転要素と、その第1回転中心軸と平行な別の第2回転中心軸を有し、第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置した回転要素としての転動部材と、を備え、対向させて配置した2つの回転要素で各転動部材を挟持すると共に、各転動部材を別の回転要素の外周面上に配置し、その転動部材を傾転させることで変速比を無段階に変化させる所謂トラクション遊星ギヤ機構を例に挙げて説明する。このトラクション遊星ギヤ機構においては、各転動部材を夫々の回転軸を介して回転自在に保持する更に別の回転要素も備えている。
【0025】
この動力分割機構40は、回転要素として、サンローラ41と、複数の遊星ボール42と、キャリア43と、第1及び第2の回転部材44,45と、を備える。この中でサンローラ41とキャリア43と第1及び第2の回転部材44,45は、共通の第1回転中心軸R1を有している。一方、遊星ボール42は、その第1回転中心軸R1とは別の第2回転中心軸R2を有しており、その第2回転中心軸R2を中心とする回転(自転)と第1回転中心軸R1周りの回転(公転)とを行う。以下においては、特に言及しない限り、その第1回転中心軸R1に沿う方向を軸線方向と云い、その第1回転中心軸R1周りの方向を周方向と云う。また、その第1回転中心軸R1に直交する方向を径方向と云い、その中でも、内方に向けた側を径方向内側と、外方に向けた側を径方向外側と云う。
【0026】
サンローラ41は、動力分割機構40の回転中心に位置しており、第1回転中心軸R1を中心軸とする例えば円筒状の回転体として構成する。このサンローラ41は、その外周面が遊星ボール42の自転の際の転動面となる。このサンローラ41は、自らの回転動作によって夫々の遊星ボール42を転動させる場合もあれば、夫々の遊星ボール42の転動動作に伴って回転する場合もある。
【0027】
夫々の遊星ボール42は、トラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンに相当するものであり、サンローラ41の径方向外側部分(ここでは外周面)に第1回転中心軸R1を中心にして放射状に略等間隔で配置する。更に、夫々の遊星ボール42は、そのサンローラ41の径方向外側部分と第1及び第2の回転部材44,45の夫々の径方向内側部分(ここでは内周面)との間に各々接触させた状態で配設する。遊星ボール42は、その接触部を介してサンローラ41と第1回転部材44と第2回転部材45との間の動力伝達を可能にする。この遊星ボール42は、サンローラ41と第1及び第2の回転部材44,45との間で自転を行う転動部材として配設されたものであるので、完全な球状体であることが好ましいが、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。
【0028】
この遊星ボール42は、その中心を通って貫通させた支持軸42aによって回転自在に支持する。例えば、遊星ボール42は、支持軸42aの外周面との間に配設した軸受(図示略)によって、支持軸42aに対する相対回転(つまり自転)ができるようにしている。従って、この遊星ボール42は、支持軸42aを中心にしてサンローラ41の外周面上を転動することができる。
【0029】
この支持軸42aは、その中心軸(第2回転中心軸R2)が第1回転中心軸R1を含む傾転平面上に来るよう配設する。この支持軸42aの基準となる位置は、図1に示すように、その中心軸が例えば第1回転中心軸R1と平行になる位置である。この支持軸42aは、傾転平面上において、その基準位置とそこから傾斜させた位置との間を揺動(傾転)させることができる。この傾転動作は、遊星ボール42の外周曲面から突出させた支持軸42aの両端部に取り付けたシフト機構によって行う。
【0030】
シフト機構は、その支持軸42aの両端部に夫々取り付けた傾転用アーム46を動作させることによって、支持軸42aと共に遊星ボール42を傾転させるものである。
【0031】
その傾転用アーム46は、支持軸42aと遊星ボール42に傾転力を作用させ、その遊星ボール42の第2回転中心軸R2、即ち支持軸42aの中心軸を傾斜させる為の部材である。1本の支持軸42aと1個の遊星ボール42には、一対の傾転用アーム46が用意される。例えば、この傾転用アーム46は、第1回転中心軸R1に対して垂直方向へと延ばした形に成形及び配設する。そして、この傾転用アーム46は、その径方向外側の端部側を支持軸42aの端部に夫々取り付ける。一対の傾転用アーム46は、一方が径方向外側に移動し、他方が径方向内側に移動することで、支持軸42aと遊星ボール42に傾転力を作用させる。また、この傾転用アーム46は、キャリア43の円板部43aに形成した溝に動作可能な状態で収めて保持される。その溝は、傾転用アーム46の本数と位置に合わせ、第1回転中心軸R1を中心にして放射状に形成される。従って、夫々の傾転用アーム46、支持軸42a及び遊星ボール42は、そのキャリア43と共に回転する。
【0032】
シフト機構には、図示しないが、更に、その傾転用アーム46を径方向外側又は径方向内側に動かす押動部材と、この押動部材を動作させる駆動部が設けられている。傾転力は、押動部材を軸線方向に移動させ、この押動部材の押動力を傾転用アーム46の径方向内側部分に加えることで発生させる。例えば、支持軸42aを支持する一対の傾転用アーム46の径方向内側の先端部は、その軸線方向にて夫々に対向する壁面が径方向内側に向けて先細り形状になっている。また、押動部材においては、その軸線方向の両端部の夫々の壁面が各傾転用アーム46の先細り面との接触面となり、その接触面が径方向外側に向けた先細り形状になっている。これにより、傾転用アーム46は、押動部材の押動力が加わった際に径方向外側へと押し上げられるので、支持軸42aを傾斜させ、これに連動して遊星ボール42を傾転させる。その遊星ボール42の傾転角は、例えば図1の基準位置を0度とする。駆動部は、例えば電動モータ等の電動アクチュエータや油圧アクチュエータなどであり、その動作が駆動制御装置1によって制御される。
【0033】
キャリア43は、サンローラ41や第1及び第2の回転部材44,45に対する相対回転が可能な回転部材である。このキャリア43は、第1回転中心軸R1を中心軸とする一対の円板部43aを有している。その夫々の円板部43aは、遊星ボール42、支持軸42a及び傾転用アーム46等を軸線方向にて挟む位置に配設する。そして、各円板部43aは、複数本の図示しない棒状の支持部で一体化する。これにより、キャリア43は、遊星ボール42、支持軸42a及び傾転用アーム46をサンローラ41に対して軸線方向へと相対移動させぬように保持する。また、このキャリア43は、前述した各円板部43aの溝によって、自らの回転に伴い第1回転中心軸R1を中心に遊星ボール42、支持軸42a及び傾転用アーム46を回転させる。
【0034】
第1及び第2の回転部材44,45は、第1回転中心軸R1を中心軸とする円環状(リング状)又は円盤状(ディスク状)に成形したものであり、軸線方向で対向させて各遊星ボール42を挟み込むように配設する。ここでは、円盤状の第1及び第2の回転部材44,45を例として挙げるので、以下、第1及び第2の回転部材44,45を第1及び第2のディスク44,45と云う。具体的に、この第1及び第2のディスク44,45は、各遊星ボール42の径方向外側の外周曲面と接触する接触面を有している。その夫々の接触面は、遊星ボール42の外周曲面の曲率と同等の曲率の凹円弧面を成している。ここでは、第1回転中心軸R1から各遊星ボール42との接触部分までの距離が同じ長さになるように夫々の接触面を形成して、第1及び第2のディスク44,45の各遊星ボール42に対する夫々の接触角が同じ角度になるようにしている。その接触角とは、基準から各遊星ボール42との接触部分までの角度のことである。ここでは、径方向を基準にしている。その夫々の接触面は、遊星ボール42の外周曲面に対して点接触又は線接触している。尚、その線接触における接触線の向きは、上述した遊星ボール42の傾転平面に対する直交方向である。また、夫々の接触面は、第1及び第2のディスク44,45に対して遊星ボール42に向けた軸線方向の力を加えた際に、その遊星ボール42に対して径方向内側で且つ斜め方向の力が加わるように形成されている。
【0035】
この動力分割機構40においては、夫々の遊星ボール42の傾転角が0度のときに、第1ディスク44と第2ディスク45とが同一回転数(同一回転速度)で回転する。つまり、このときには、第1ディスク44と第2ディスク45の回転比(回転数の比)が1になっている。一方、夫々の遊星ボール42を基準位置から傾転させた際には、支持軸42aの中心軸から第1ディスク44との接触部分までの距離が変化すると共に、支持軸42aの中心軸から第2ディスク45との接触部分までの距離が変化する。これが為、第1ディスク44又は第2ディスク45の内の何れか一方が基準位置のときよりも高速で回転し、他方が低速で回転するようになる。例えば第2ディスク45は、図1の上方の遊星ボール42を時計回り方向に傾転させ、且つ、下方の遊星ボール42を反時計回り方向に傾転させたときに第1ディスク44よりも低回転になり(増速)、上方の遊星ボール42を反時計回り方向に傾転させ、且つ、下方の遊星ボール42を時計回り方向に傾転させたときに第1ディスク44よりも高回転になる(減速)。従って、この動力分割機構40においては、その傾転角を変えることによって、第1ディスク44と第2ディスク45との間の回転比を無段階に変化させることができる。
【0036】
この動力分割機構40には、第1又は第2のディスク44,45の内の少なくとも何れか一方を各遊星ボール42に押し付けて、第1及び第2のディスク44,45と各遊星ボール42との間に挟圧力を発生させる押圧部(図示略)が設けられている。その押圧部は、軸線方向の力(押圧力)を発生させることで、その間に挟圧力を生じさせる。その押圧力は、各遊星ボール42を介したサンローラ41と第1ディスク44と第2ディスク45との間のトルク伝達を維持し得る大きさとする。例えば、この押圧部は、電動アクチュエータや油圧アクチュエータ等の駆動源であってもよく、配設対象の第1又は第2のディスク44,45の回転に伴い押圧力を発生させるトルクカム等の機構であってもよい。この動力分割機構40においては、その押圧部を動作させて押圧力を発生させることで、第1及び第2のディスク44,45と各遊星ボール42との間に挟圧力が生じ、その間に摩擦力(トラクション力)が発生する。
【0037】
この動力分割機構40では、その摩擦力によって、サンローラ41の回転に伴い夫々の遊星ボール42が転動し、その夫々の遊星ボール42の自転による回転トルクが第1及び第2のディスク44,45に伝わって、これらを回転させる。その際には、キャリア43が夫々の遊星ボール42、支持軸42a及び傾転用アーム46と共に第1回転中心軸R1を中心にして回転している。また、この動力分割機構40では、第1ディスク44の回転に伴う各遊星ボール42の自転による回転トルクがサンローラ41と第2ディスク45に伝わって、これらを回転させる。また、この動力分割機構40では、第2ディスク45の回転に伴う各遊星ボール42の自転による回転トルクがサンローラ41と第1ディスク44に伝わって、これらを回転させる。更に、この動力分割機構40においては、キャリア43の回転に連動して夫々の遊星ボール42が公転しながら自転し、その自転による回転トルクがサンローラ41並びに第1及び第2のディスク44,45に伝わって、これらを回転させる。
【0038】
本実施例においては、この動力分割機構40と動力源(エンジン10、第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30)とを次のように繋いでいる。
【0039】
先ず、エンジン10は、その出力軸11をキャリア43(第2回転要素)に連結する。その出力軸11とキャリア43は、一体になって回転する。また、第1モータ/ジェネレータ20は、その回転軸21をサンローラ41(第1回転要素)に連結する。その回転軸21とサンローラ41は、一体になって回転する。また、第2モータ/ジェネレータ30は、その回転軸31を第1ディスク44(第3回転要素)に連結する。その回転軸31と第1ディスク44は、一体になって回転する。ここで、この駆動システムにおいては、略円筒状に近い動力分割機構40の外周側を覆うように第2モータ/ジェネレータ30を配置している。つまり、この駆動システムは、第2モータ/ジェネレータ30のロータの内方に第1回転中心軸R1を共通にして動力分割機構40を配設している。更に、この駆動システムにおいては、その第1ディスク44に駆動輪側に向けたシステム上の出力軸50が連結されている。
【0040】
このように構成した駆動システムは、第1から第3の回転要素(サンローラ41、キャリア43、リングギヤに相当する第1ディスク44)の回転速度(回転数)を直線で表す共線図を用いて駆動制御装置1が制御する。図2に示す共線図は、サンローラ41、キャリア43、第1ディスク44の順に座標軸を配置して、これらの回転速度を直線で表したものである。この共線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度を示しており、左から順に、サンローラ軸、キャリア軸、第1ディスク軸となる。この縦軸は、横軸よりも上方が正回転、下方が負回転となる。また、横軸は、サンローラ41、キャリア43、第1ディスク44の回転速度の比(回転比)の関係を示している。この共線図においては、キャリア軸がサンローラ軸と第1ディスク軸の間を1:ρの関係で内分させる位置に定められている。そのρは、サンローラ41の回転速度Vsに対する第1ディスク44の回転速度Vrの比(回転比)であって、所謂プラネタリギヤ比と云われるものである(ρ=Vr/Vs)。
【0041】
尚、その図2の共線図は、下記の前方発進時のものであり、第1ディスク44の回転速度が横軸よりも下で、この第1ディスク44の回転速度よりもサンローラ41の回転速度が高い。
【0042】
ところで、この駆動システムの搭載されたハイブリッド車両においては、エンジントルクのみを用いて前方へと発進させることができる。この前方発進時の駆動システムのパワーフローを図3に示す。このときの駆動システムにおいては、エンジン10の動力(1)が動力分割機構40に入力され、そこから出力された動力(1)の一部(α)が第1モータ/ジェネレータ20(MG1)に伝達されると共に、その残り(1−α)が駆動輪側に出力される。その際には、第1モータ/ジェネレータ20が回生制御されて発電し、入力された動力(α)に相当する電力が第2モータ/ジェネレータ30に供給される(電気パス)。第2モータ/ジェネレータ30は、その電力を動力(α)に変換し、駆動輪側に出力する。このように、このときの駆動システムは、エンジン10の動力(1)の一部(α)により発電された電力で第2モータ/ジェネレータ30の動力(α)を発生させているので、エンジントルク(エンジン10の動力(1))のみで前方発進時の要求駆動力を発生させる。
【0043】
ここで、このときの駆動システムの機械伝達分のトルクTmecと電気伝達分のトルクTeleとを下記の式1,2に示す。「Teng」は、エンジントルクである。「Tout」は、この駆動システムにおける駆動輪側への出力トルクであって、前方発進時の要求駆動力に相当するものである。その機械伝達分のトルクTmecとは、図3のパワーフローにおける下側のルートで、つまりエンジン10→動力分割機構40→駆動輪側のルートで伝わるトルクである。一方、電気伝達分のトルクTeleとは、そのパワーフローにおける上側のルートで、つまりエンジン10→動力分割機構40→第1モータ/ジェネレータ20→第2モータ/ジェネレータ30→駆動輪側のルートで伝わるトルクである。
【0044】
Tmec={1/(1+ρ)}*Teng … (1)
Tele=Tout−{1/(1+ρ)}*Teng … (2)
【0045】
その各式から明らかなように、プラネタリギヤ比ρを小さくすることで、機械伝達分のトルクTmecを増加させる一方、電気伝達分のトルクTeleを減少させることができる。つまり、この駆動システムにおいては、動力分割機構40のプラネタリギヤ比ρを小さくすることによって、前方発進時の要求駆動力に相当する出力トルクToutの出力条件を保ったままで、第1モータ/ジェネレータ20や第2モータ/ジェネレータ30等の電気系統への依存度を低減することができる。より具体的に述べるとすれば、この駆動システムは、プラネタリギヤ比ρを小さくすることで、第1モータ/ジェネレータ20に入力される動力(α)が小さくなるので、前方発進時の要求駆動力に対する第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクの分担割合を減少させ、その第2モータ/ジェネレータ30の負担を軽減することができる。従って、本実施例の駆動制御装置1には、前方発進時の第2モータ/ジェネレータ30の負担を軽減する為、前方発進時の要求駆動力の発生に要する第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクが小さくなるように、前方発進時に動力分割機構40における遊星ボール42の傾転角を制御させ、図4に示すようにプラネタリギヤ比ρの変更可能領域内でプラネタリギヤ比ρを小さくさせる。その図4においては、プラネタリギヤ比ρの変更前を一点鎖線、変更後を実線で示しており、キャリア43と第1ディスク44の回転速度を変えずにプラネタリギヤ比ρを小さくしている。尚、この図4では、プラネタリギヤ比ρを小さくする際にキャリア43の回転速度(エンジン回転数)を変えていないが、その回転速度を変えつつプラネタリギヤ比ρを小さくしてもよい。
【0046】
ここで、第2モータ/ジェネレータ30は、出力させるモータトルクが小さければ、それに合わせて容量を減らすことができ、小型化や軽量化、低コスト化が可能になる。また、その第2モータ/ジェネレータ30の小容量化は、この第2モータ/ジェネレータ30と二次電池との間で電力の授受を行う電気回路の簡素化及び低コスト化を可能にし、そこで受け渡しされる電力量(換言するならば二次電池の要求出力)の低下により二次電池の小型化や低コスト化も可能にする。
【0047】
また、この駆動システムは、前方発進時の第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくできるので、温度低下により二次電池の許容出力限界値が更に低くなる冷間時においても、そのモータトルクの出力に十分な電力を二次電池から供給でき、前方発進時の発進性能が向上する。
【0048】
このように、この駆動システムは、前方発進時にプラネタリギヤ比ρが小さくなるよう動力分割機構40の制御動作を設定することで、前方発進時の第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくできる。従って、この駆動システムにおいては、容量の小さい第2モータ/ジェネレータ30の採用が可能になり、第2モータ/ジェネレータ30の小型化や軽量化、低コスト化を図ることができる。また、この駆動システムにおいては、第2モータ/ジェネレータ30の小容量化に伴い、この第2モータ/ジェネレータ30との間で電力の授受を行う二次電池の小型化や低コスト化、その間の電気回路の簡素化や低コスト化も可能になる。そして、更に、この駆動システムは、冷間時に前方発進させる際の発進性能を向上させることもできる。
【0049】
以下、その前方発進時のプラネタリギヤ比ρについて例示する。
【0050】
例えば、プラネタリギヤ比ρは、前方発進時に変更可能領域内で最も小さくなるように設定してもよい。
【0051】
また、第2モータ/ジェネレータ30は、その容量如何で、第1モータ/ジェネレータ20から動力(α)に相当する電力が供給されたとしても、モータトルクの許容出力上限値に達してしまい、動力(α)を出力できない場合がある。例えば、その可能性は、前方発進時の要求駆動力が大きくなるほどに高くなる。これが為、この場合のプラネタリギヤ比ρは、第2モータ/ジェネレータ30の要求動力と実際の動力との差や要求モータトルクと実際のモータトルクとの差に応じて設定してもよい。その設定の際には、その差が大きいほどプラネタリギヤ比ρを小さくする。例えば、少なくともその差の分だけモータトルクを減少させることのできるプラネタリギヤ比ρを設定する。ここで、その要求動力や要求モータトルクは、プラネタリギヤ比ρが同じであれば前方発進時の要求駆動力に比例して大きくなる。従って、その要求駆動力が所定の閾値を超えたときにプラネタリギヤ比ρを小さくするよう構成してもよい。その所定の閾値としては、例えば第2モータ/ジェネレータ30が許容出力上限値に達するときの要求駆動力を設定する。
【0052】
また、例えば、この駆動システムの開発過程で第2モータ/ジェネレータ30の負担を現状よりも軽減させることが望まれる場合がある。この場合のプラネタリギヤ比ρは、その現状の駆動システムの値よりも小さい値に制御されるよう設定する。
【0053】
また、例えば、登坂路の勾配が大きくなるほど前方発進時の要求駆動力も大きくなるので、その要求駆動力が大きくなるほど第2モータ/ジェネレータ30の要求モータトルクも大きくなる。これが為、前方発進時のプラネタリギヤ比ρは、前方発進時の要求駆動力が大きくなるほど小さい値に制御されるよう設定してもよい。
【0054】
次に、後方発進時について説明する。
【0055】
この駆動システムの搭載されたハイブリッド車両においては、後方発進時に、二次電池からの供給電力で第2モータ/ジェネレータ30を力行駆動させ、その第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクによって発進させる。そして、このハイブリッド車両では、そのモータトルクで要求駆動力を発生させることができない場合にエンジン10を始動させ、そのエンジントルクも利用して後方発進させる。
【0056】
第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクのみの後方発進時における駆動システムのパワーフローを図5に示す。この後方発進時には、動力(1)に相当する電力が二次電池から第2モータ/ジェネレータ30に供給される。第2モータ/ジェネレータ30は、その電力を動力(1)に変換し、駆動輪側に出力する。このときの共線図は、図6の通りであり、第1ディスク44の回転速度が横軸よりも下で、この第1ディスク44の回転速度よりもサンローラ41の回転速度が高く、キャリア43の回転速度が0になっている。ここで、この共線図上でプラネタリギヤ比ρを大きくすることによってレバー比(1:ρ)が変化するので、第1モータ/ジェネレータ20に抗する第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクが小さくなり、その負担を減らすことができる。換言するならば、例えば、図6の例示では、プラネタリギヤ比ρを大きくすると共に、第2モータ/ジェネレータ30の回転数(第1ディスク44の回転速度)を上昇させているので、この変更前よりも小さいモータトルクで変更前と同じ動力を発生させることができる。従って、本実施例の駆動制御装置1には、この後方発進時の第2モータ/ジェネレータ30の負担を軽減する為、この後方発進時の要求駆動力の発生に要する第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクが小さくなるように、後方発進時に動力分割機構40における遊星ボール42の傾転角を制御させ、図6に示すようにプラネタリギヤ比ρの変更可能領域内でプラネタリギヤ比ρを大きくさせる。尚、その図6においては、サンローラ41とキャリア43の回転速度を変えずにプラネタリギヤ比ρを大きくした場合を例示しているので、プラネタリギヤ比ρの変更前の線が変更後の線に隠れている。
【0057】
一方、エンジントルクも利用した後方発進時の駆動システムのパワーフローを図7に示す。この後方発進時には、エンジン10の動力(1)が動力分割機構40に入力され、そこから出力された動力(1)の一部(α)が第1モータ/ジェネレータ20(MG1)に伝達されると共に、その残り(1−α)が駆動輪側に出力される。その際には、第1モータ/ジェネレータ20が回生制御されて発電し、入力された動力(α)に相当する電力が第2モータ/ジェネレータ30に供給される(電気パス)。更に、その第2モータ/ジェネレータ30には、動力(β)に相当する電力が二次電池から第2モータ/ジェネレータ30に供給される。第2モータ/ジェネレータ30は、これらの電力を動力(α+β)に変換し、駆動輪側に出力する。これにより、このときの駆動システムは、エンジン10の動力(1)と二次電池の電力による第2モータ/ジェネレータ30の動力(β)とによって、後方発進時の要求駆動力を発生させる。
【0058】
ここで、この後方発進時の駆動システムにおいては、第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクのみでの後方発進時であるのかエンジントルクも利用した後方発進時であるのかに拘わらず、第1モータ/ジェネレータ20のモータトルクTmg1が下記の式3の如く表され、第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクTmg2が下記の式4の如く表される。
【0059】
Tmg1={ρ/(1+ρ)}*Teng … (3)
Tmg2=Tout+{1/(1+ρ)}*Teng … (4)
【0060】
その式4から明らかなように、エンジントルクも利用した後方発進時には、プラネタリギヤ比ρを大きくすることで、第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクTmg2を減少させることができる。つまり、この駆動システムにおいては、その後方発進時に動力分割機構40のプラネタリギヤ比ρを大きくすることによって、後方発進時の要求駆動力に相当する出力トルクToutの出力条件を保ったままで、この後方発進時の要求駆動力に対する第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクの分担割合を減少させ、第2モータ/ジェネレータ30の負担を軽減することができる。従って、本実施例の駆動制御装置1には、この後方発進時においても、第2モータ/ジェネレータ30の負担を軽減する為、この後方発進時の要求駆動力の発生に要する第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクが小さくなるように、図8に示すようにプラネタリギヤ比ρの変更可能領域内でプラネタリギヤ比ρを大きくさせる。その図8においては、プラネタリギヤ比ρの変更前を一点鎖線、変更後を実線で示している。尚、この図8では、キャリア43の回転速度(エンジン回転数)を変えずにプラネタリギヤ比ρを大きくしているが、その回転速度を変えつつプラネタリギヤ比ρを大きくしてもよい。
【0061】
このように、この駆動システムは、後方発進時にプラネタリギヤ比ρが大きくなるよう動力分割機構40の制御動作を設定することで、前方発進時のときと同じように後方発進時の第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくできるので、第2モータ/ジェネレータ30の小容量化が可能になる。従って、この駆動システムにおいては、第2モータ/ジェネレータ30の小型化や軽量化、低コスト化、この第2モータ/ジェネレータ30との間で電力の授受を行う二次電池の小型化や低コスト化、その間の電気回路の簡素化や低コスト化も可能になる。そして、更に、この駆動システムは、冷間時に後方発進させる際の発進性能を向上させることもできる。
【0062】
以下、後方発進時のプラネタリギヤ比ρについて例示する。
【0063】
例えば、プラネタリギヤ比ρは、後方発進時に変更可能領域内で最も大きくなるように設定してもよい。
【0064】
また、前方発進時で説明したように、モータトルクの許容出力上限値に達してしまい、第2モータ/ジェネレータ30が動力(α)を出力できない場合がある。これが為、この場合のプラネタリギヤ比ρは、第2モータ/ジェネレータ30の要求動力と実際の動力との差や要求モータトルクと実際のモータトルクとの差に応じて設定してもよい。その設定の際には、その差が大きいほどプラネタリギヤ比ρを大きくする。例えば、少なくともその差の分だけモータトルクを減少させることのできるプラネタリギヤ比ρを設定する。この場合においても、後方発進時の要求駆動力が所定の閾値を超えたときにプラネタリギヤ比ρを大きくするよう構成してもよい。その所定の閾値としては、例えば第2モータ/ジェネレータ30が許容出力上限値に達するときの要求駆動力を設定する。
【0065】
また、前方発進時で説明したように、開発過程で第2モータ/ジェネレータ30の負担を現状よりも軽減させることが望まれる場合、プラネタリギヤ比ρは、その現状の駆動システムの値よりも大きい値に制御されるよう設定する。
【0066】
また、後方発進時のプラネタリギヤ比ρは、後方発進時の要求駆動力が大きくなるほど大きな値に制御されるよう設定してもよい。
【0067】
ところで、本実施例においては、前方又は後方へと発進させる際のプラネタリギヤ比ρの制御動作について説明したが、その発進後の前方又は後方への走行時においても同様のプラネタリギヤ比ρの変更制御を行ってもよい。つまり、前方走行時には前方発進時と同じようにプラネタリギヤ比ρを小さくし、後方走行時には後方発進時と同じようにプラネタリギヤ比ρを大きくすればよい。このように制御しても、この駆動システムは、前方走行時又は後方走行時の第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくできるので、発進の際と同様の効果を得ることができる。尚、前方への発進や走行を行うときのことを前進駆動時と称し、後方への発進や走行を行うときのことを後進駆動時と称する。
【0068】
更に、この駆動システムの動力分割機構40においては、第1モータ/ジェネレータ20が連結される第1回転要素としてサンローラ41を適用し、第2モータ/ジェネレータ30の回転軸31と駆動輪側に向けたシステム上の出力軸50とが連結される第3回転要素として第1ディスク44を適用した。これが為、この例示においては、前進駆動時の第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくする為にプラネタリギヤ比ρを小さくした。また、後進駆動時には、第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくする為にプラネタリギヤ比ρを大きくした。このような駆動システムに対して、動力分割機構は、そのような第1回転要素として第1ディスク44を用いると共に、そのような第3回転要素としてサンローラ41を用いたものであってもよい。この場合の前進駆動時の共線図と後進駆動時の共線図は、夫々に図9及び図10の通りである。この場合には、前進駆動時の第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくする為にプラネタリギヤ比ρを大きくする。また、後進駆動時には、第2モータ/ジェネレータ30のモータトルクを小さくする為にプラネタリギヤ比ρを小さくする。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置は、第2モータ/ジェネレータの出力負担を軽減させる技術に有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 駆動制御装置
10 エンジン
11 出力軸
20 第1モータ/ジェネレータ(第1回転電機)
21 回転軸
30 第2モータ/ジェネレータ(第2回転電機)
31 回転軸
40 動力分割機構
41 サンローラ
42 遊星ボール
43 キャリア
44 第1ディスク
45 第2ディスク
50 出力軸
R1 第1回転中心軸
R2 第2回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転電機の回転軸、エンジンの出力軸並びに第2回転電機の回転軸及び駆動輪側に向けた出力軸が各々連結される第1から第3の回転要素と、該第1から第3の回転要素と共通の第1回転中心軸を有する第4回転要素と、前記第1回転中心軸とは異なる第2回転中心軸を有すると共に、前記第1回転要素、前記第3回転要素及び前記第4回転要素の夫々との間の接触部を介した動力伝達が可能で且つ前記第2回転要素に保持された転動部材と、を有し、前記転動部材の傾転角を変えることで、前記第3回転要素の回転速度を前記第1回転要素の回転速度で除したプラネタリギヤ比ρの変更が可能な差動機構を備えたハイブリッド車両の駆動制御装置において、
要求駆動力の発生に要する前記第2回転電機の出力トルクが小さくなるように前記プラネタリギヤ比ρを制御することを特徴としたハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前進駆動時にはその要求駆動力の発生に要する前記第2回転電機の出力トルクが小さくなるように前記プラネタリギヤ比ρを小さくすることを特徴とした請求項1記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記プラネタリギヤ比ρは、該プラネタリギヤ比ρの変更可能領域内で最も小さくする、前進駆動時の要求駆動力が所定の閾値を超えたときに小さくする又は当該要求駆動力が大きくなるほど小さくすることを特徴とした請求項2記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項4】
後進駆動時にはその要求駆動力の発生に要する前記第2回転電機の出力トルクが小さくなるように前記プラネタリギヤ比ρを大きくすることを特徴とした請求項1,2又は3に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項5】
後進駆動時の前記プラネタリギヤ比ρは、該プラネタリギヤ比ρの変更可能領域内で最も大きくする、後進駆動時の要求駆動力が所定の閾値を超えたときに大きくする又は当該要求駆動力が大きくなるほど大きくすることを特徴とした請求項4記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項6】
前記差動機構は、前記第1から第3の回転要素の回転速度を第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素の順に配置して直線で表す共線図で、前記第2回転要素の回転速度軸が前記第1回転要素の回転速度軸と前記第3回転要素の回転速度軸の間を1:ρの関係で内分させたものを用いて当該第1から第3の回転要素の間の差動回転動作が制御されるものであり、
前記プラネタリギヤ比ρは、前記共線図上で制御することを特徴とした請求項1から5の内の何れか1つに記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項7】
前記差動機構は、前記第1回転要素としてのサンローラと、前記第2回転要素としてのキャリアと、前記第3回転要素としての第1ディスクと、前記第4回転要素としての第2ディスクと、前記転動部材としての遊星ボールと、を有するものであることを特徴とした請求項1から6の内の何れか1つに記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−121493(P2012−121493A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274983(P2010−274983)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】