説明

ハイブリッド車両の駆動力伝達装置

【課題】エンジンの駆動による走行時に、電動モータが回転不能になり、その回転不能状態において走行方向の切り換えが行なわれた場合にも問題なく走行することができるようにしたハイブリッド車両の駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】エンジンを駆動源として回転駆動される前輪と、減速機付き電動モータを駆動源として回転駆動される後輪とを備え、上記電動モータにおける減速機の出力軸18から後輪に至るトルク伝達経路に機械式の2方向クラッチ19を組込んでエンジンの駆動による走行時に後輪から出力軸に回転トルクが伝達されるのを防止する。減速機の出力軸と、出力軸に嵌合された駆動ギヤ21との間に動力の伝達と遮断とを行なうクラッチ22を設け、エンジンの駆動による走行時、クラッチを係合解除状態にして駆動ギヤを回転自在とし、後輪からの回転により2方向クラッチが係合した際に駆動ギヤをフリー回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンにより駆動輪を駆動し、減速機付き電動モータによって補助駆動輪を駆動するハイブリッド車両の駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよび電動モータを備え、その電動モータを発進時や、加速時等の負荷が大きいときにアシストとして用いるようにしたハイブリッド車両の駆動力伝達装置として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。
【0003】
上記特許文献1に記載された駆動力伝達装置においては、電動モータの回転を減速する減速機の出力軸から補助駆動輪に至るトルク伝達経路に2方向クラッチを組込み、エンジンの駆動による通常走行時に、その2方向クラッチによって補助駆動輪から減速機側への回転トルクの伝達を遮断するようにしている。
【0004】
ここで、2方向クラッチとして、図8(I)に示すスプラグタイプの2方向クラッチを採用している。この2方向クラッチおいては、外輪80と内輪81の間に径の異なる2つの保持器82、83を組込み、その各保持器82、83に形成されたポケット84にスプラグ85を組込み、大径の外側保持器82と小径の内側保持器83の相対回転によりスプラグ85を周方向に傾動させて外輪80の円筒形内径面86と内輪81の円筒形外径面87にスプラグ85の両端のカム面を係合させるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−291774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載されたハイブリッド車両の駆動力伝達装置においては、電動モータを停止し、エンジンの駆動による前進走行時、2方向クラッチのスプラグ85は、図8(II)に示すように、前進方向に傾倒して、内輪81から外輪80への回転伝達を遮断している。その遮断において、電動モータが何等かの異常により回転不能になり、その回転不能状態で車両の走行方向の切り換え、すなわち、前進走行から後進方向への切り換えが行なわれると、補助駆動輪から内輪81に伝達される回転(図8(III)に示す矢印で示す方向の回転)によりスプラグ85は直ちに係合し、補助駆動輪から内輪81に伝達される回転を外輪80に伝達しようとする。
【0007】
このとき、電動モータは回転不能であるため、外輪80は回転せず、車両が走行不能となる可能性がある。
【0008】
また、エンジンの駆動による車両の前進走行時に電動モータが回転不能となり、その回転不能状態で車両の走行方向の切り換えが行なわれた場合も、上記と同様に車両が走行不能となる可能性がある。
【0009】
この発明の課題は、エンジンの駆動による車両の走行時に、電動モータが回転不能になり、その回転不能状態において車両の走行方向の切り換えが行なわれた場合にも車両を問題なく走行することができるようにしたハイブリッド車両の駆動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、エンジンを駆動源として回転駆動される駆動輪と、減速機付き電動モータを駆動源として回転駆動される補助駆動輪とを備え、前記電動モータにおける減速機の出力軸から補助駆動輪に至るトルク伝達経路に機械式の2方向クラッチを組込んだハイブリッド車両の駆動力伝達装置において、前記減速機の出力軸と、その出力軸に嵌合されて出力軸の回転を2方向クラッチに伝達する駆動ギヤとの間に、動力の伝達と遮断とを行なうクラッチを設けた構成を採用したのである。
【0011】
上記のように、減速機の出力軸と駆動ギヤとの間にクラッチを設けることにより、そのクラッチを係合解除状態に切り換えると、駆動ギヤは減速機の出力軸に対してフリーに回転し得る状態となる。このため、エンジンの駆動による車両の走行状態で電動モータが回転不能になり、その回転不能状態で車両の走行方向の切り換えが行なわれ、補助駆動輪からの回転により2方向クラッチが係合したとしても、駆動ギヤはフリー回転するため、車両を問題なく走行させることができる。
【0012】
ここで、クラッチとして、出力軸の軸端部にスライド自在に嵌合されたスライドギヤと、静止部材に支持されて駆動ギヤの内径面に形成されたフランジと軸方向で対向し、通電によりフランジにスライドギヤを吸着させる電磁石と、上記スライドギヤをフランジから離反する方向に向けて付勢する離反ばねとを有し、上記出力軸の軸端部の外周にスライドギヤの内径面に形成された内歯に噛合する外歯を設け、駆動ギヤの内径面にスライドギヤの外径面に形成された外歯に噛合する内歯を形成し、その駆動ギヤの内歯と出力軸の外歯の一方をスライドギヤのスライド領域にわたる長さとし、他方をスライドギヤがフランジに吸着されたときのみ噛合する長さとした構成からなるもの採用することができる。
【0013】
上記の構成からなるクラッチにおいては、電動モータの駆動による車両の走行時は電磁石に通電し、エンジンの駆動による車両の走行時は電磁石に対する通電を遮断する。
【0014】
ここで、電磁石に通電すると、スライドギヤがフランジに吸着され、そのスライドギヤが駆動輪の内歯および出力軸の外歯のそれぞれと噛合し、出力軸の回転を駆動ギヤに伝達することができ、補助駆動輪を駆動することができる。
【0015】
一方、電磁石に対する通電を解除すると、離反ばねの押圧によりスライドギヤがフランジから離反する方向に移動し、駆動ギヤの内歯または出力軸の外歯に対する噛み合いが解除し、駆動ギヤは出力軸に対してフリーに回転し得る状態となり、補助駆動輪から出力軸への回転伝達を遮断することができる。
【0016】
また、クラッチとして、出力軸の軸端部にスライド自在に嵌合され、かつ、回り止めされたクラッチ板と、静止部材に支持されて駆動ギヤの内径面に形成されたフランジと軸方向で対向し、通電によりフランジにクラッチ板を吸着させる電磁石と、上記クラッチ板をフランジから離反する方向に向けて付勢する離反ばねとを有し、上記クラッチ板とフランジの対向面に、そのクラッチ板がフランジに吸着された時に互いに噛み合う歯を設けた構成からなるものを採用することができる。
【0017】
上記の構成からなるクラッチにおいて、電磁石に通電すると、クラッチ板がフランジに吸着されて、クラッチ板に形成された歯とフランジに設けられた歯が噛み合い、出力軸の回転を駆動ギヤに伝達することができる。
【0018】
一方、電磁石に対する通電を解除すると、離反ばねの押圧によりクラッチ板がフランジから離反する方向に移動して、歯の噛み合いが解除し、駆動ギヤは出力軸に対してフリーに回転し得る状態となる。
【0019】
この発明に係るハイブリッド車両の駆動力伝達装置において、2方向クラッチは、スプラグタイプのクラッチであってもよく、あるいは、ローラタイプのクラッチであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
上記のように、この発明においては、減速機の出力軸と駆動ギヤとの間に設けたクラッチを係合解除することにより、駆動ギヤは減速機の出力軸に対してフリーに回転し得る状態となるため、エンジンの駆動による車両の走行状態で電動モータが回転不能になり、その回転不能状態で車両の走行方向の切り換えが行なわれ、補助駆動輪からの回転により2方向クラッチが係合したとしても、駆動ギヤはフリー回転するため、車両を問題なく走行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両10は、車体前部に駆動輪としての前輪11が左右に設けられている。また、車体後部には補助駆動輪としての後輪12が設けられている。
【0022】
さらに、車体には、エンジン13と、減速機付き電動モータ16とが搭載され、上記エンジン13の回転はトランスミッション14およびディファレンシャル15を介して前輪11に伝達される。一方、電動モータ16における減速機17の出力軸18の回転は2方向クラッチ19およびディファレンシャル20を介して後輪12に伝達される。
【0023】
図2および図3は電動モータ16のトルク伝達系を示し、減速機17の出力軸18には駆動ギヤ21が嵌合され、その駆動ギヤ21と出力軸18との間に動力の伝達と遮断とを行なうクラッチ22が設けられている。
【0024】
クラッチ22は、出力軸18の軸端部にスライド自在に嵌合されたスライドギヤ23と、駆動ギヤ21の内径面に形成されたフランジ24に対して軸方向に対向配置された電磁石25と、上記スライドギヤ23をフランジ24から離反する方向に向けて付勢する離反ばね26とからなっている。
【0025】
スライドギヤ23は、その内径面に形成された内歯27と出力軸18の軸端部の外径面に設けられた外歯28の噛合によって軸方向にスライド自在とされ、かつ、出力軸18に対して回り止めされている。
【0026】
また、スライドギヤ23の外径面には外歯29が形成され、一方、駆動ギヤ21の内径面には上記外歯29に対して噛合可能な内歯30が設けられている。上記内歯30は、スライドギヤ23がフランジ24に吸着されたときのみスライドギヤ23の外歯29と噛合する長さとされている。このため、離反ばね26の押圧によりスライドギヤ23がフランジ24から離反する位置まで移動すると、外歯29と内歯30の噛み合いが解除するようになっている。
【0027】
電磁石25は、電磁コイル25aと、その電磁コイル25aを支持するコア25bからなり、上記コア25bはハウジング31に支持され、上記電磁コイル25aに通電すると、スライドギヤ23に磁気吸引力が付与され、スライドギヤ23がフランジ24に吸着されるようになっている。その吸着を可能とするため、フランジ24に複数の円弧状のスリット32が同一円上に形成されている。
【0028】
なお、実施の形態では、出力軸18の外歯28をスライドギヤ23のスライド領域にわたる長さとし、駆動ギヤ21の内歯30をスライドギヤ23がフランジ24に吸着されたときのみ噛合する長さとしたが、上記と逆に、駆動ギヤ21の内歯30をスライドギヤ23のスライド領域にわたる長さとし、出力軸18の外歯28をスライドギヤ23がフランジ24に吸着されたときのみ噛合する長さとしてもよい。
【0029】
出力軸18の軸端部および電磁石25のコア25bの外径面には一対の軸受33、34が嵌合され、その一対の軸受33、34によって駆動ギヤ21の内径面の両端部が回転自在に支持されている。
【0030】
図3および図4に示すように、2方向クラッチ19は、外輪35と、その内側に組込まれた内輪36と、上記外輪35の円筒形内面35aと内輪36の円筒形外面36a間に組込まれたスプラグ37と、そのスプラグ37を保持する保持器38とからなる。
【0031】
外輪35と内輪36は軸受39を介して相対的に回転自在に支持され、その外輪35に設けられた入力ギヤ40は駆動ギヤ21に噛合している。
【0032】
保持器38は、径の異なる2つの保持器38a、38bからなり、その外側保持器38aは外輪35の円筒形内面35aに固定されて外輪35と一体に回転するようになっている。
【0033】
一方、内側保持器38bは軸受41によって内輪36に回転自在に支持されている。この内側保持器38bには径方向外方に延びるスイッチピン42が固定され、そのスイッチピン42は外側保持器38aに形成された周方向に長い長孔43内に挿入され、上記スイッチピン42が長孔43の周方向両端に当接する範囲内において外側保持器38aと内側保持器38bは相対的に回転自在とされている。
【0034】
外側保持器38aと内側保持器38bには径方向で対向する複数のポケット44が周方向に間隔をおいて形成され、径方向で対向するポケット44内のそれぞれにスプラグ37が組込まれている。
【0035】
スプラグ37は、正転用カム面37aと逆転用カム面37bを両端のそれぞれに有し、内側保持器38bのポケット44内に組込まれた弾性部材46によって
ポケット44の周方向の中央位置に保持されている。
【0036】
内側保持器38bの一端部は外側保持器38aの端部より外側に位置し、その内側保持器38bの一端部外周にフランジ47と、そのフランジ47の外側に円筒面48とが形成され、上記円筒面48に係合溝49が設けられている。
【0037】
円筒面48にはサブギヤ50がスライド自在に嵌合され、そのサブギヤ50は係合溝49に組込まれた皿ばね等の弾性部材51によってフランジ47に押付けられている。
【0038】
サブギヤ50は駆動ギヤ21に噛合し、外周の歯数は入力ギヤ40の歯数より多くなっている。このため、駆動ギヤ21が回転すると、サブギヤ50はフランジ47との接触部で滑りを生じつつ入力ギヤ40より遅れて回転する。
【0039】
図2および図3に示すように、内輪36には、ディファレンシャル20のディファレンシャルケース52が固定され、上記内輪36からそのディファレンシャルケース52に回転トルクが伝達されると、その回転トルクはディファレンシャル機構53を介して図1に示す後輪12のアクスル54に伝達されるようになっている。
【0040】
実施の形態で示すハイブリッド車両の駆動力伝達装置は上記の構造からなり、
電動モータ16の駆動によって車両を走行させる場合は、図3に示すクラッチ22の電磁コイル25aに通電した後、電動モータ16を駆動する。
【0041】
ここで、電磁コイル25aに通電すると、スライドギヤ23に磁気吸引力が付与され、そのスライドギヤ23がフランジ24に向けて移動して、上記フランジ24に吸着される。その吸着により、図3に示すように、スライドギヤ23の外歯29が駆動ギヤ21の内歯30に噛合する。
【0042】
そこで、電動モータ16を駆動すると、その電動モータ16の回転は減速機17により減速されて出力軸18が回転し、その回転はスライドギヤ23を介して駆動ギヤ21伝達され、その駆動ギヤ21から入力ギヤ40およびサブギヤ50に伝達される。
【0043】
このため、外輪35およびその外輪35に固定された外側保持器38aが一方向に回転すると共に、サブギヤ50とフランジ47の接触によって内側保持器38bも外輪35と同方向に回転する。
【0044】
このとき、サブギヤ50の歯数は入力ギヤ40の歯数より多いため、サブギヤ50はフランジ47との接触部で滑りを生じつつ入力ギヤ40より遅れて回転し、外輪35に固定された外側保持器38aと内側保持器38bが相対回転する。
【0045】
外側保持器38aと内側保持器38bの相対回転により、スプラグ37は外側保持器38aの回転方向に倒れて、図4(II)に示すように、外輪35の円筒形内面35aと内輪36の円筒形外面36aに係合する。
【0046】
外側保持器38aと内側保持器38bが所定角度相対回転すると、外側保持器38aに形成された長孔43の一端がスイッチピン42に当接し、外側保持器38aの回転は上記スイッチピン42から内側保持器38bに伝達されて内側保持器38bは外側保持器38aと一体に回転し、スプラグ37は係合状態に保持される。また、サブギヤ50はフランジ47との接触部で滑りを生じつつ回転する。
【0047】
2方向クラッチ19におけるスプラグ37の係合により、そのスプラグ37を介して外輪35の回転が内輪36に伝達される。また、内輪36の回転はその内輪36に固定されたディファレンシャルケース52からディファレンシャル機構53を介して図1に示すアクスル54に伝達されて後輪12が回転し、車両が走行する。
【0048】
車両の走行を電動モータ16からエンジン13に切換える場合は、電磁コイル25aに対する通電を解除し、かつ、図示省略した発進クラッチを結合状態として、そのエンジン13の回転をトランスミッション14に入力し、前輪11を回転させる。
【0049】
この場合、駆動力の切換えと同時に電動モータ16を停止すると、補助駆動輪としての後輪12は路面との接触により回転し、その回転は2方向クラッチ19の内輪36に伝達されて、内輪36が回転する。その内輪36の回転は、図4(II)に示すスプラグ37を係合解除させる方向の回転であるため、内輪36の回転は外輪35に伝達されず、内輪36はフリー回転する。
【0050】
電動モータ16からエンジン13への動力の切り換えに際し、上記のように、電磁コイル25aに対する通電を解除すると、離反ばね26の押圧によりスライドギヤ23がフランジ24から離反する方向に移動し、図5に示すように、スライドギヤ23の外歯29と駆動ギヤ21の内歯30の噛み合いが解除し、駆動ギヤ21は出力軸18に対して回転自在となる。
【0051】
このため、エンジン13の駆動による車両の走行状態で電動モータ16が回転不能になり、その回転不能状態で車両の走行方向の切り換えが行なわれると、後輪12からの回転により2方向クラッチ19のスプラグ37が外輪35の円筒形内面35aおよび内輪36の円筒形外面36aに係合して外輪35が回転し、その回転は駆動ギヤ21に伝達され、駆動ギヤ21がフリー回転して、電動モータ16への動力の伝達は遮断されることになり、車両は問題なく走行する。
【0052】
図3に示す例においては、スライドギヤ23の軸方向への移動によって出力軸18と駆動ギヤ21とを結合および結合解除させるようにしたクラッチ22を示したが、クラッチ22はこれに限定されるものではない。
【0053】
例えば、図6に示すように、出力軸18の軸端部にクラッチ板55を嵌合し、その嵌合面間に形成したスプライン56により、クラッチ板55をスライド自在とし、かつ、回り止めし、そのクラッチ板55と駆動ギヤ21の内径面に形成されたフランジ24の対向面に互いに噛合可能な歯57、58を設け、上記フランジ24に対向させた電磁石25の電磁コイル25aに対する通電によりクラッチ板55をフランジ24に吸着させて歯57、58を噛み合わせ、フランジ24との間に組込まれた離反ばね59の押圧によりクラッチ板55をフランジ24から離反させて、歯57、58の噛み合いを解除させるようにしたクラッチであってもよい。
【0054】
また、図3に示す実施の形態では、2方向クラッチ19としてスプラグタイプのものを示したが、図7(I)、(II)に示すように、入力ギヤ40の内径面に固定される外輪61の内径面に内輪62の円筒形外面63との間で周方向の両端に向けて対向間隔が次第に小さくなるくさび状空間を形成するカム面64を設け、上記外輪61と内輪62間に組込まれた保持器65には上記カム面64と対向する位置にポケット66を形成し、そのポケット66内にローラ67と、そのローラ67をポケット66の周方向の略中央位置に保持する弾性部材68を組込んだローラタイプの2方向クラッチ19を用いるようにしてもよい。
【0055】
上記ローラタイプの2方向クラッチ19を採用する場合、保持器65の端部にフランジ69と、その外側に円筒面70とを設け、上記円筒面70にサブギヤ50を嵌合し、そのサブギヤ50を図3に示す場合と同様に、弾性部材51でもってフランジ69に押し付ける。
【0056】
また、保持器65に径方向外方に向くスイッチピン71を固定し、そのスイッチピン71を外輪61に形成した長孔72内に挿入し、その長孔72の両端にスイッチピン71が当接する範囲内において外輪61と保持器65を相対的に回転自在とする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明に係るハイブリッド車両の駆動力伝達装置の実施の形態を示す全体の構成図
【図2】図1の電動モータのトルク伝達系を示す断面図
【図3】図2の一部分を拡大して示す断面図
【図4】(I)は図3のIV−IV線に沿った断面図、(II)はスプラグの係合状態を示す断面図
【図5】クラッチの係合解除状態を示す断面図
【図6】クラッチの他の例を示す断面図
【図7】(I)は2方向クラッチの他の例を示す縦断正面図、(II)は(I)のVII−VII線に沿った断面図
【図8】従来の2方向クラッチを示し、(I)は中立状態を示す断面図、(II)は前進走行時の係合状態を示す断面図、(III)は後進走行状態の係合状態を示す断面図
【符号の説明】
【0058】
11 前輪(駆動輪)
12 後輪(補助駆動輪)
13 エンジン
16 減速機付き電動モータ
17 減速機
18 出力軸
19 2方向クラッチ
21 駆動ギヤ
22 クラッチ
23 スライドギヤ
24 フランジ
25 電磁石
26 離反ばね
27 スライドギヤの内歯
28 出力軸の外歯
29 スライドギヤの外歯
30 駆動ギヤの内歯
35 外輪
35a 円筒形内面
36 内輪
36a 円筒形外面
37 スプラグ
38 保持器
38a 外側保持器
38b 内側保持器
44 ポケット
46 弾性部材
55 クラッチ板
57 歯
58 歯
59 離反ばね
61 外輪
62 内輪
63 円筒形外面
64 カム面
65 保持器
66 ポケット
67 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを駆動源として回転駆動される駆動輪と、減速機付き電動モータを駆動源として回転駆動される補助駆動輪とを備え、前記電動モータにおける減速機の出力軸から補助駆動輪に至るトルク伝達経路に機械式の2方向クラッチを組込んだハイブリッド車両の駆動力伝達装置において、
前記減速機の出力軸と、その出力軸に嵌合されて出力軸の回転を2方向クラッチに伝達する駆動ギヤとの間に、動力の伝達と遮断とを行なうクラッチを設けたことを特徴とするハイブリッド車両の駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記クラッチが、前記出力軸の軸端部にスライド自在に嵌合されたスライドギヤと、静止部材に支持されて前記駆動ギヤの内径面に形成されたフランジと軸方向で対向し、通電によりフランジにスライドギヤを吸着させる電磁石と、前記スライドギヤをフランジから離反する方向に向けて付勢する離反ばねとを有し、前記出力軸の軸端部の外周にスライドギヤの内径面に形成された内歯に噛合する外歯を設け、駆動ギヤの内径面にスライドギヤの外径面に形成された外歯に噛合する内歯を形成し、その駆動ギヤの内歯と出力軸の外歯の一方をスライドギヤのスライド領域にわたる長さとし、他方をスライドギヤがフランジに吸着されたときのみ噛合する長さとした構成からなる請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記駆動ギヤの内径面の両端部を出力軸および電磁石の外径面のそれぞれに嵌合された一対の軸受によって回転自在に支持した請求項2に記載のハイブリッド車両の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記クラッチが、前記出力軸の軸端部にスライド自在に嵌合され、かつ、回り止めされたクラッチ板と、静止部材に支持されて前記駆動ギヤの内径面に形成されたフランジと軸方向で対向し、通電によりフランジにクラッチ板を吸着させる電磁石と、前記クラッチ板をフランジから離反する方向に向けて付勢する離反ばねとを有し、前記クラッチ板と前記フランジの対向面に、そのクラッチ板がフランジに吸着された時に互いに噛み合う歯を設けた構成からなる請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記2方向クラッチが、外輪の円筒形内面と内輪の円筒形外面間に径の異なる2つの保持器を組込み、その大径の外側保持器を外輪の円筒形内面に固定し、その外側保持器と小径の内側保持器に径方向で対向するポケットを設け、そのポケット内にスプラグと、そのスプラグをポケットの周方向の略中央位置に保持する弾性部材とを組込み、前記外側保持器に対する内側保持器の相対回転によりスプラグを傾動させて外輪の円筒形内面と内輪の円筒形外面に係合させるようにしたスプラグタイプの2方向クラッチからなる請求項1乃至4のいずれかの項に記載のハイブリッド車両の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記2方向クラッチが、外輪の内側に内輪を組込み、その外輪の内周に内輪の円筒形外面との間で周方向の両端が狭小のくさび形空間を形成するカム面を設け、そのカム面と円筒形外面間に組込まれたローラを保持器で保持し、前記外輪に対する保持器の相対回転によってローラをカム面および円筒形外面に係合させるようにしたローラタイプの2方向クラッチからなる請求項1乃至4のいずれかの項に記載のハイブリッド車両の駆動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−18098(P2010−18098A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179110(P2008−179110)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】