説明

ハイブリッド車両用動力伝達装置

【課題】エンジンと動力合成機構とが直接接続されず、動力合成機構から出力軸への駆動力の伝達が遮断可能なハイブリッド車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置1は、エンジン2に選択的に連結され同軸心の主入力軸11,12と、第1主入力軸11に選択的に連結されるギヤ17a,17bと、第1主入力軸11と平行な第3主入力軸15と、第3主入力軸15に選択的に連結されるギヤ18a,18bと、出力同期クラッチSOにより選択的に出力軸19と連結されギヤ17a,18aと噛合するギヤ20aと、出力軸19と固定されギヤ17b,18bと噛合するギヤ19aと、第1主入力軸11に接続されたサンギヤ9s、電動機3に接続されたリングギヤ9r、及びギヤ17aに連結されたキャリア9cを互いに差動回転可能に構成し、キャリア9cを介して出力軸19に合成動力を伝達する動力合成機構9を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両用動力伝達装置として、内燃機関と電動機とからそれぞれ出力された動力を合成して駆動輪に伝達可能であると共に、電動機で回生運転を行うことが可能なものがある。このようなものとして、内燃機関の出力から入力された動力を、内燃機関の出力軸と同軸心に配置された複数の軸に選択的に伝達し、内燃機関の出力軸に平行な出力軸から出力する方式が、従来から知られている。例えば、特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置は、エンジンの出力軸がキャリアを介してピニオンギヤに接続され、電動機がリングギヤに接続され、第1の入力軸がサンギヤに接続されたプラネタリギヤから構成された動力分配装置を備えている。そして、第1の入力軸と同軸心に第2の入力軸が、第1の入力軸と平行にカウンタ軸が、それぞれ配置されている。第1の入力軸に2速用及び4速用の駆動ギヤが、2速用及び4速用の駆動ギヤが、第2の入力軸に1速用及び3速用の駆動ギヤが、それぞれ固定されている。カウンタ軸には、2速用及び4速用の従動ギヤを当該カウンタ軸に選択的に連結する第1のクラッチ機構と、1速用及び3速用の従動ギヤを当該カウンタ軸に選択的に連結する第2のクラッチ機構とが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−290677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置においては、車両停止状態からエンジンを始動させるとき、エンジンが直接プラネタリギヤに接続されているので、電動機による駆動力を加えないと加速力を確保しながらの発進が困難であるという不都合がある。また、車両停止時に電動機に回生運転を行わせる場合、エンジンからの駆動力が出力軸に伝達されるという不都合がある。また、高速段での車両走行時に、電動機の回転数が非常に高くなるという不都合がある。
【0005】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置において、内燃機関と動力合成機構とが直接接続されず、動力合成機構から出力軸への駆動力の伝達が遮断可能なハイブリッド車両用動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置であって、前記内燃機関から動力が入力される内燃機関出力軸と、前記内燃機関出力軸と平行に配置され、第1主クラッチによって選択的に、該内燃機関出力軸と連結される第1主入力軸と、前記第1主入力軸と同軸心に配置され、第2主クラッチによって選択的に前記内燃機関出力軸と連結される第2主入力軸と、前記第2主入力軸と平行に配置され、該第2主入力軸と常時接続される第3主入力軸と、前記第1主入力軸と平行に配置され、カウンタ軸を介して被駆動部に動力を出力する出力軸と、前記第1主入力軸に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第1クラッチによって選択的に当該第1主入力軸と連結される第1駆動ギヤ及び第2駆動ギヤと、前記第3主入力軸に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第2クラッチによって選択的に、当該第1主入力軸と連結される第3駆動ギヤ及び第4駆動ギヤと、前記出力軸に、同軸状かつ回転自在に設けられ、出力同期クラッチによって選択的に当該出力軸と連結され、前記第1駆動ギヤ及び前記第3駆動ギヤと噛合する第1従動ギヤと、前記出力軸に固定され、前記第2駆動ギヤ及び前記第4駆動ギヤと噛合する第2従動ギヤと、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成した動力合成機構とを備え、前記第1回転要素は前記第1主入力軸に接続され、前記第2回転要素は前記第1駆動ギヤに連結され、前記第3回転要素は前記電動機に接続され、前記第2回転要素は、前記第1回転要素から伝達される動力と前記第3回転要素から伝達される動力とを合成し、前記第1駆動ギヤ及び前記第1従動ギヤを介して前記出力軸に伝達するように構成され、前記第2主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第2主入力軸を連結させ、前記第2クラッチにより前記第3主入力軸に前記第4駆動ギヤを連結させ、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することにより変速段を確立することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、内燃機関と動力合成機構とが直接接続されていないので、特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置と比較して、車両停止状態から内燃機関を始動させるとき、電動機による駆動力を加えることなく、加速力を確保した車両の良好な発進を行うが可能となる。
【0008】
さらに、第1主クラッチにより内燃機関出力軸に第1主入力軸を連結させると共に、第1クラッチによって該第1主入力軸に第1副入力軸を連結させた状態で、内燃機関から動力を内燃機関出力軸に入力すると共に、第3回転要素が回転するように電動機を力行運転させる。このとき、動力合成機構の第2回転要素は、内燃機関から第1主入力軸及び第1駆動ギヤを介して第1回転要素に伝達される動力と、電動機から第3回転要素に伝達される動力とを合成して出力軸に伝達し、この合成動力が被駆動部に出力される。
【0009】
さらに、前記状態で、内燃機関から第1回転要素に伝達された動力を、第2回転要素と第3回転要素に分配することも可能である。このとき、第2回転要素を介して被駆動部に動力が出力されると共に、第3回転要素を介して電動機で回生運転が行われる。このように、電動機で回生運転を行いながら、走行することができる。
【0010】
さらに、出力同期クラッチにより第2回転要素と出力軸との接続を遮断することが可能であるので、出力軸に動力を伝達することなく、内燃機関を始動させて、回生運転を行うことが可能である。また、電動機の回転数が高い場合に、出力同期クラッチにより前記接続を遮断することによって、電動機の回転数を抑制することが可能である。
【0011】
さらに、前記変速段を確立したとき、電動機の回転数が非常に高くなることを抑制することが可能となる。
【0012】
また、前記第2主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第2主入力軸を連結させ、前記第2クラッチにより前記第3主入力軸に前記第4駆動ギヤを連結させると共に、前記第1クラッチにより前記第1主入力軸に前記第1駆動ギヤを連結させ、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することにより変速段を確立し、該変速段を確立する場合において、前記電動機の回転数が所定回転数を超えたとき、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を解除することが好ましい。
【0013】
この場合、当該変速段を確立したとき、電動機の回転数が非常に高くなることを抑制することが可能となる。
【0014】
また、前記変速段を確立する場合において、前記電動機の電気エネルギーを蓄積する蓄電器の充電量が所定充電量より低いとき、前記第1主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第1主入力軸を連結させると共に、前記第1クラッチにより前記第1主入力軸に前記第1駆動ギヤを連結させることが好ましい。
【0015】
この場合、当該変速段を確立したとき、電動機の回転数が非常に高くなることを抑制することが可能となる。
【0016】
また、前記第2主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第2主入力軸を連結させ、前記第2クラッチにより前記第3主入力軸に前記第4駆動ギヤを連結させると共に、前記第1クラッチにより前記第1主入力軸に前記第1駆動ギヤを連結させ、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することにより変速段を確立し、該変速段を確立する場合において、前記電動機の回転数が所定回転数を超えたとき、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を解除することが好ましい。
【0017】
この場合、当該変速段を確立した場合において、蓄電器の充電量が低いとき、電動機の回生運転により蓄電器を充電することが可能となる。
【0018】
また、前記第1主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第1主入力軸を連結させ、前記第1クラッチにより前記第1主入力軸に前記第2駆動ギヤを連結させ、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することにより、変速段を確立することが好ましい。
【0019】
この場合、当該変速段を確立したとき、電動機の回転数が非常に高くなることを抑制することが可能となる。
【0020】
また、前記変速段を確立する場合において、前記電動機の電気エネルギーを蓄積する蓄電器の充電量が所定充電量より低いとき、前記第1主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第1主入力軸を連結させると共に、前記第2クラッチにより前記第3主入力軸に前記第3駆動ギヤを連結させることが好ましい。
【0021】
この場合、当該変速段を確立した場合において、蓄電器の充電量が低いとき、電動機の回生運転により蓄電器を充電することが可能となる。
【0022】
また、前記第1主クラッチにより前記内燃機関出力軸と前記第1主入力軸とが連結し、前記内燃機関が運転を停止し、前記電動機が運転を行う状態において、前記内燃機関の運転を開始するとき、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することが好ましい。
【0023】
この場合、前記状態において、内燃機関の運転を開始するとき、内燃機関の駆動力が出力軸に伝達されないので、ショックなく内燃機関を始動することが可能となる。
【0024】
また、当該ハイブリッド車両用動力伝達装置を搭載した車両が停止し、前記内燃機関が運転を行う状態において、前記電動機が回生運転を行う場合、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することが好ましい。
【0025】
この場合、前記状態において、電動機が回生運転を行う場合、電動機による駆動力が出力軸に伝達されないので、ショックなく回生運転を開始することが可能となる。
【0026】
また、前記出力軸に要求される要求動力を設定する要求動力設定手段と、該要求動力設定手段が設定した要求動力に応じて、前記内燃機関及び前記電動機の運転を行う制御手段とを備えることが好ましい。
【0027】
この場合、制御手段により内燃機関及び前記電動機の運転が好適に行われ、要求される要求動力を出力軸から出力することができる。
【0028】
また、前記制御手段は、前記内燃機関の適正運転領域内で前記内燃機関の運転を行い、前記第1回転要素から前記第2回転要素に伝達される前記内燃機関の動力と前記要求動力を比較し、前記内燃機関の動力が前記要求動力に満たないときは、前記電動機が力行運転を行い、前記内燃機関の動力が前記要求動力を超えるときは、前記電動機が回生運転を行うように制御することが好ましい。
【0029】
この場合、内燃機関が適正運転領域内で運転を行うので、内燃機関を好適に使用することができ、内燃機関の燃料消費や寿命等が良好なものとなる。さらに、内燃機関の動力と要求動力との差分の正負に応じて、電動機が力行運転又は回生運転を行うので、常に要求動力を出力軸から出力することができる。
【0030】
また、前記制御手段は、前記電動機が定格出力又は最高回転数を超えて運転するとき、該電動機を定格出力又は最高回転数で運転を行うように制御することが好ましい。
【0031】
この場合、電動機が定格出力以下及び最高回転数以下で運転を行うので、電動機を好適に使用することができ、電動機の寿命等が良好なものとなる。
【0032】
また、前記第2主入力軸に補機を連結し、該補機を前記内燃機関出力軸の駆動力によって駆動可能に構成したことが好ましい。
【0033】
この場合、補機用の駆動装置を設けることなく、補機が駆動可能となる。
【0034】
また、前記動力合成機構は、シングルピニオン型の3つの回転要素として、サンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤの間で当該両ギヤに噛合された複数のプラネタリギヤを回転自在に支持するキャリアとを同軸心に備えた遊星歯車装置であり、前記第1回転要素は前記キャリアであり、前記第2回転要素は前記サンギヤであり、前記第3回転要素は前記リングギヤであるであることが好ましい。
【0035】
この場合、動力合成機構を簡易な構成とすることができ、コンパクト化、低コスト化が可能となる。さらに、動力を分配することも可能となる。また、伝達効率を高効率化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置を備えた車両の全体構成を概略的に示す図。
【図2】動力伝達装置のEV走行モードの高速段における動作状態を示す図。
【図3】動力伝達装置のエンジン走行モードの高速段における動作状態を示す図。
【図4】動力伝達装置の合成走行モードの高速段における動作状態を示す図。動力合成機構の動作を説明する共線図。
【図5】動力伝達装置のエンジン走行モードの低速段における動作状態を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置を備えた車両の構成を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置1を図1乃至図5を参照して説明する。
【0038】
まず、図1を参照して動力伝達装置1の構成を説明する。動力伝達装置1は、動力発生源として、内燃機関であるエンジン2と電動機(モータ・ジェネレータ)3とを備えるハイブリッド車両に搭載される。動力伝達装置1は、エンジン2又は/及び電動機3の動力(駆動力)を被駆動部である一対の駆動輪4,4に伝達して、該駆動輪4,4を駆動し得るように構成されている。さらに、動力伝達装置1は、エンジン2又は/及び電動機3の動力を、駆動輪4,4だけでなく、車両に搭載された補機5に伝達して、該補機5を駆動し得るように構成されている。補機5は、例えばエアコンのコンプレッサ、ウォータポンプ、オイルポンプなどである。
【0039】
エンジン2は、ガソリン、軽油、アルコールなどの燃料を燃焼させることにより動力(トルク)を発生する内燃機関であり、発生した動力を外部に出力するための出力軸2aを有する。このエンジン2は、通常の自動車のエンジンと同様に、図示しない吸気路に備えたスロットル弁の開度を制御する(エンジン2の吸入空気量を制御する)ことによって、該エンジン2が出力軸2aを介して出力する動力が調整される。また、エンジン2に代えて、燃料電池を使用してもよい。
【0040】
電動機3は、本実施形態では3相のDCブラシレスモータであり、そのハウジング(図示省略)内に回転自在に支承された中空のロータ(回転体)3aと、該ロータ3aの周囲でハウジングに固定されたステータ(固定子)3bとを有する。ロータ3aには、複数の永久磁石が装着され、ステータ3bには、3相分のコイル(電機子巻線)3baが装着されている。なお、電動機3のステータ3bは、動力伝達装置1の外装ケース等、車体に対して静止した不動部に設けられたハウジングに固設されている。
【0041】
この電動機3のコイル3baは、インバータ回路を含む駆動回路であるパワー・ドライブ・ユニット(以下、「PDU」という)6を介して直流電源としてのバッテリ(蓄電器、二次電池)7に電気的に接続されている。また、PDU6は、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)8に電気的に接続されている。
【0042】
ECU8は、PDU6の他に、図示しないがエンジン2等に電気的に接続されており、エンジン2及び電動機3を含む動力伝達装置1の動作制御を行う。ECU8は、車速やエンジン2の回転数等から駆動輪4,4に伝達することが要求される動力を設定する要求動力設定手段として機能すると共に、該要求動力設定手段が設定した要求動力に応じて、エンジン2や電動機3を駆動させる制御手段として機能する。ECU8により、PDU6を介してコイル3baに流れる電流を制御することによって、電動機3がロータ3aから出力する動力(トルク)が調整される。この場合、PDU6を制御することによって、電動機3は、バッテリ7から供給される電力によってロータ3aに力行トルクを発生する力行運転を行い、モータとして機能する。即ち、ステータ3bに供給された電力が、動力に変換され、ロータ3aに出力される。また、PDU6を制御することによって、電動機3は、外部からロータ3aに与えられる回転エネルギーによって発電し、その発電エネルギーをバッテリ7に充電しつつ、ロータ3aに回生トルクを発生する回生運転を行い、ジェネレータとして機能する。即ち、ロータ3aに入力された動力が、ステータ3bで電力に変換される。
【0043】
なお、ECU8は、CPU、RAM、ROM、インターフェイス回路等を含む電子回路ユニットであり、あらかじめ実装されたプログラムにより規定される制御処理を実行することで、動力伝達装置1の動作制御を行う。この場合、ECU8の制御処理により実現される機能として、電動機3の運転をPDU6を介して制御する機能の他、エンジン2の運転を図示しないスロットル弁用のアクチェエータなどエンジン制御用のアクチュエータを介して制御する機能と、後述する各種クラッチや各種同期クラッチのスリーブの動作を図示しないアクチュエータもしくは駆動回路を介して制御する機能とが含まれる。
【0044】
動力伝達装置1は、エンジン2の駆動力と電動機3との駆動力を合成するための動力合成機構9を備える。
【0045】
エンジン2の出力軸2aには、該出力軸2aに平行に配置され、エンジン2からの動力が第1主クラッチCM1を介して入力される第1主入力軸11が連結されている。第1主入力軸11は、エンジン2側から電動機3側に亘って延在している。第1主入力軸11は、第1主クラッチCM1により、エンジン2の出力軸2aと接続、遮断される。
【0046】
第1主クラッチCM1は、ECU8の制御の下で、エンジン2の出力軸2aが第1主入力軸11と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構(接続状態と遮断状態とに選択的に動作可能なクラッチ機構)である。第1主クラッチCM1を接続状態に動作させると、第1主入力軸11が出力軸2aと結合され、出力軸2aから第1主入力軸11への動力伝達が可能となる。また、第1主クラッチCM1を遮断状態に動作させると、第1主入力軸11と出力軸2aとの接続が遮断され、出力軸2aから第1主入力軸11への動力伝達が遮断される。
【0047】
第1主入力軸11に対して、第2主入力軸12が同軸心に配置されている。第2主入力軸12は、第2主クラッチCM2により、エンジン2の出力軸2aと接続、遮断される。
【0048】
第2主クラッチCM2は、ECU8の制御の下で、エンジン2の出力軸2aが第2主入力軸12と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構である。第2主クラッチCM2を接続状態に動作させると、第2主入力軸12が出力軸2aと結合され、出力軸2aから第2主入力軸12への動力伝達が可能となる。また、第2主クラッチCM2を遮断状態に動作させると、第2主入力軸12と出力軸2aとの接続が遮断され、出力軸2aから第2主入力軸12への動力伝達が遮断される。第1主クラッチCM1及び第2主クラッチCM2は、乾式クラッチが好ましいが、湿式クラッチでもよい。第1主クラッチCM1と第2主クラッチCMとは、第1主入力軸11にその軸心方向に隣接して配置されている。
【0049】
第2主入力軸12に対して平行に入力伝達軸13が配置されている。そして、第2主入力軸12と入力伝達軸13とは、ギヤ対14を介して常時結合されている。このギヤ対14は、第2主入力軸12上に固定されたギヤ12aと入力伝達軸13上に固定されたギヤ13aとが噛合して構成されている。
【0050】
入力伝達軸13に対して、ひいては第1主入力軸11に対して平行に第3主入力軸15が配置されている。そして、第3主入力軸15と入力伝達軸13とは、ギヤ対16を介して常時結合されている。このギヤ対16は、第3主入力軸15上に固定されたギヤ15aと入力伝達軸13上に固定された前記ギヤ13aとが噛合して構成されている。
【0051】
第1主入力軸11に対して、第1副入力軸17が同軸心に配置されている。第1副入力軸17は、第2主入力軸12より電動機3側に配置されている。第1主入力軸11と第1副入力軸17とは、第1同期クラッチ(第1クラッチ)S1を介して接続されている。第1同期クラッチS1は、第1副入力軸17に設けられ、3速ギヤ(第1駆動ギヤ)17a又は5速ギヤ(第2駆動ギヤ)17bと第1主入力軸11との接続、切断が切替可能に構成されている。即ち、3速ギヤ17a及び5速ギヤ17bは、第1主入力軸11に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第1同期クラッチS1によって選択的に第1主入力軸11と連結される。
【0052】
第1同期クラッチS1は、シンクロクラッチなどの周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを第1副入力軸17の軸方向に移動させることによって、3速ギヤ17a又は5速ギヤ17bを第1主入力軸11と選択的に連結させる。スリーブが図中左側へ移動した場合、3速ギヤ17aと第1主入力軸11とが連結される。一方、スリーブが図中右側へ移動した場合、5速ギヤ17bと第1主入力軸11とが連結される。
【0053】
第3主入力軸15に対して、第3副入力軸18が同軸心に配置されている。そして、第3主入力軸15と第3副入力軸18とは、第2同期クラッチ(第2クラッチ)S2を介して接続されている。第2同期クラッチS2は、第3副入力軸18に設けられ、2速ギヤ(第3駆動ギヤ)18a又は4速ギヤ(第4駆動ギヤ)18bと第3主入力軸15との接続、切断が切替可能に構成されている。即ち、2速ギヤ18a及び4速ギヤ18bは、第3主入力軸15に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第2同期クラッチS2によって選択的に第3主入力軸15と連結される。
【0054】
第2同期クラッチS2は、シンクロクラッチなどの周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを第3副入力軸18の軸方向に移動させることによって、2速ギヤ18a又は4速ギヤ18bを第3主入力軸15と選択的に連結させる。スリーブが図中左側へ移動した場合、2速ギヤ18aと第3主入力軸15とが連結される。一方、スリーブが図中右側へ移動した場合、4速ギヤ18bと第3主入力軸15とが連結される。
【0055】
第1主入力軸11及び第3主入力軸15に対して平行に出力軸19が配置されている。出力軸19に対して、副出力軸20が同軸心に配置されている。そして、出力軸19と副出力軸20とは、出力同期クラッチSOを介して接続されている。出力同期クラッチSOは、副出力軸20に設けられ、低速ギヤ(第1従動ギヤ)20aと出力軸19との接続、切断が切替可能に構成されている。
【0056】
出力同期クラッチSOは、シンクロクラッチなどの周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを副出力軸20の軸方向に移動させることによって、低速ギヤ20aを出力軸19と選択的に連結させる。スリーブが図中の位置に存する場合、低速ギヤ20aと出力軸19とが切断される。一方、スリーブが図中右側へ移動した場合、低速ギヤ20aと出力軸19とが連結される。
【0057】
そして、副出力軸20と第1副入力軸17とは、3速ギヤ対21を介して結合されている。この3速ギヤ対21は、副出力軸20上に固定された低速ギヤ20aと第1副入力軸17上に固定された3速ギヤ17aとが噛合して構成されている。さらに、副出力軸20と第3副入力軸18とは、2速ギヤ対22を介して結合されている。この2速ギヤ対22は、副出力軸20上に固定された低速ギヤ20aと第3副入力軸18上に固定された2速ギヤ18aとが噛合して構成されている。
【0058】
出力軸19と第1副入力軸17とは、5速ギヤ対23を介して結合されている。この5速ギヤ対23は、出力軸19上に固定された高速ギヤ(第2従動ギヤ)19aと第1副入力軸17上に固定された5速ギヤ17bとが噛合して構成されている。さらに、出力軸19と第3副入力軸18とは、4速ギヤ対24を介して結合されている。この4速ギヤ対24は、出力軸19上に固定された高速ギヤ19aと第3副入力軸18上に固定された4速ギヤ18bとが噛合して構成されている。
【0059】
そして、出力軸19上にはファイナルギヤ19bが固定されている。なお、出力軸19の両端部は、それぞれ図示しない軸受に回転自在に支持されている。
【0060】
動力合成機構9は、電動機3の内側に設けられている。なお、電動機3を構成するロータ3a、ステータ3b及びコイル3baの一部又は全部を、第1主入力軸11の軸線方向と直交する方向(周方向)に動力合成機構9と重なるように配置することにより、動力伝達装置1の小型化を図ることが可能となり、好ましい。
【0061】
動力合成機構9は、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能な差動装置により構成されている。動力合成機構9を構成する差動装置は、本実施形態では、シングルピニオン型の遊星歯車装置であり、3つの回転要素として、サンギヤ(第1要素)9sと、リングギヤ(第3要素)9rと、これらのサンギヤ9s及びリングギヤ9rの間で当該両ギヤ9r,9sに噛合された複数のプラネタリギヤ9pを回転自在に支持するキャリア(第2要素)9cとを同軸心に備えている。これらの3つの回転要素9s,9r,9cは、周知のように、互いの間で動力を伝達可能であると共に、それぞれの回転数(回転速度)の間の関係を一定の共線関係に保ちつつ回転する。
【0062】
サンギヤ9sは、第1主入力軸11と連動して回転するように、該第1主入力軸11の電動機3側の一端部に固定され、該第1主入力軸11に連結されている。リングギヤ9rは、電動機3のロータ3aと連動して回転するように該ロータ3aの内側に連結されている。キャリア9cは、第1副入力軸17と連動して回転するように、該第1副入力軸17の電動機3側の一端部に固定され、該第1副入力軸17に連結されている。
【0063】
さらに、第2主入力軸12に対して、補機5の入力軸5aが平行に配置されている。そして、第2主入力軸12と補機5の入力軸5aとは、ベルト機構25を介して結合されている。このベルト機構25は、第2主入力軸12上に固定されたギヤ12bと入力軸5a上に固定されたギヤ5bとがベルト25aを介して連結されて構成されている。補機5の入力軸5aには、補機用クラッチ26が介設されており、ギヤ5bと補機5の入力軸5aとが補機用クラッチ26を介して同軸心に連結されている。
【0064】
補機用クラッチ26は、ECU8の制御の下で、ギヤ5bと補機5の入力軸5aとの間を接続又は遮断するように動作するクラッチである。この場合、補機用クラッチ26を接続状態に動作させると、ギヤ5bと補機5の入力軸5aとが互いに一体に回転するように補機用クラッチ26を介して結合される。また、エアコンディショナーなどを駆動させない状態がある場合に、補機用クラッチ26を遮断状態に動作させると、該補機用クラッチ26によるギヤ5bと補機5の入力軸5aとの間の結合が解除される。この状態では、第2主入力軸12と補機5の入力軸5aへの動力伝達が遮断される。また、図示しないが、蓄圧装置に蓄圧しておけば、駆動不可能である場合にも、オイルポンプとして役割を果たすことが可能となる。
【0065】
なお、ファイナルギヤ19b以降の構成として、例えば、出力軸19に対して、カウンタ軸27が平行に配置されている。そして、出力軸19とカウンタ軸27とは、カウンタギヤ対28を介して結合されている。このカウンタギヤ対28は、出力軸19上に固定されたファイナルギヤ19bとカウンタ軸27上に固定されたギヤ27aとが噛合して構成されている。
【0066】
カウンタ軸27は、駆動輪4,4の間の差動歯車ユニット29を介して該駆動輪4,4に連結されている。差動歯車ユニット29は、駆動輪4,4にそれぞれ車軸30,30を介して連結された図示しないサイドギヤを内蔵するギヤケース29aと、このギヤケース29aの外周に固定されたギヤ29bとを備える。そして、該差動歯車ユニット29のギヤ29bに、カウンタ軸27上に固定されたギヤ27bが噛合されている。これにより、カウンタ軸27は、駆動輪4,4と連動して回転するように、差動歯車ユニット29を介して駆動輪4,4に連結されている。また、カウンタ軸27上には、図示しないパーキング機構のギヤと噛合するパーキングギヤ27cも固定されている。なお、カウンタ軸27の両端部は、それぞれ図示しない軸受に回転自在に支持されている。
【0067】
さらに、入力伝達軸13には、該入力伝達軸13上に回転自在に後退ギヤ13bが設けられている。入力伝達軸13とカウンタ軸27とは、図示を省略したが、後退ギヤ対を介して結合されている。この後退ギヤ対は、入力伝達軸13上に固定された後退ギヤ13bとカウンタ軸27上に固定されたギヤ27dとが噛合して構成されている。
【0068】
入力伝達軸13には、後退ギヤ13bと入力伝達軸13との連結、切断を切替可能な後退同期クラッチSRが設けられている。後退同期クラッチSRは、周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを入力伝達軸13の軸方向に移動させることによって、後退ギヤ13bと入力伝達軸13との連結、切断を行う。スリーブが図中に示す位置に存する場合、後退ギヤ13bと入力伝達軸13とは切断されている。スリーブが図中左側へ移動した場合、後退ギヤ13bと入力伝達軸13とが連結される。
【0069】
後退同期クラッチSRにより後退ギヤ13bと入力伝達軸13とを連結すると、エンジン2の駆動時に出力軸2aが回転する方向(以下、「正転方向」という)に回転する(以下、「正転する」という)第2主入力軸12の回転が反転されてカウンタ軸27に伝達され、該カウンタ軸27は正転方向と反対方向(以下、「逆転方向」という)に回転する(以下、「逆転する」という)。よって、後退同期クラッチSRにより後退ギヤ13bと入力伝達軸13とを連結すると、エンジン2の出力軸2aが正転している場合、車軸30,30は逆転し、駆動輪4,4は車両を後退方向させる方向に回転する。他方、後退ギヤ13bと入力伝達軸13との連結が遮断されると、エンジン2の出力軸2aが正転している場合、車軸30,30は正転し、駆動輪4,4は車両を前進させる方向に回転する。
【0070】
以上のように構成された動力伝達装置1において、エンジン2の出力軸2aから出力された動力は、第1主クラッチCM1が接続状態(以下、「ON状態」という)にあるとき、第1同期クラッチS1の状態に応じた動力伝達経路を経由して、出力軸19に伝達される。具体的には、第1同期クラッチS1が3速段確立状態にあるときには、第1主入力軸11から3速ギヤ対21を介して出力軸19に伝達され得る。第1同期クラッチS1が5速段確立状態にあるときには、第1主入力軸11から5速ギヤ対23を介して出力軸19に伝達される。一方、第2主クラッチCM2がON状態にあるとき、第2同期クラッチS2の状態に応じた動力伝達経路を経由して、出力軸19に伝達される。具体的には、第2同期クラッチS2が2速段確立状態にあるときには、第2主入力軸12からギヤ対14、入力伝達軸13、ギヤ対16、第3主入力軸15及び2速ギヤ対22を介して出力軸19に伝達される。第2同期クラッチS2が4速段確立状態にあるときには、第2主入力軸12からギヤ対14、入力伝達軸13、ギヤ対16、第2主入力軸12及び4速ギヤ対24を介して出力軸19に伝達される。このように、第1主クラッチCM1又は第2主クラッチCM2の何れかがON状態のとき、第1同期クラッチS1や第2同期クラッチS2の設定状態に応じて、2速段から5速段の計前進4速でエンジン2のみを駆動源とした走行が可能である。
【0071】
第1主クラッチCM1がON状態にあるとき、エンジン2の出力軸2aから出力された動力は、第1主入力軸11を介してサンギヤ9sから動力合成機構9に入力される。そして、第1、第2同期クラッチS1,S2が共に遮断状態(以下、「OFF状態」という)にあり、出力同期クラッチSOがON状態にあるとき、動力合成機構9に入力された動力は、キャリア9c、第1副入力軸17及び3速ギヤ対21を介して出力軸19に伝達される。このとき、2速段時の減速比よりも減速比が大きく、擬似1速段を得ることができる。これにより、擬似1速段を含めた計5速の前進走行がエンジン2のみを駆動源として可能である。
【0072】
さらに、第1主クラッチCM1がON状態にあり、且つ第1同期クラッチS1が3速段確立状態にあるとき、エンジン2の出力軸2aから出力された動力は、第1主入力軸11、第1副入力軸17を介してキャリア9cから動力合成機構9に入力される。また、電動機3から出力された動力も、リングギヤ9rを介して動力合成機構9に入力される。
【0073】
第2主クラッチCM2がON状態であり、後退同期クラッチSRがON状態にあるとき、エンジン2の出力軸2aから出力された動力は、第2主入力軸12、ギヤ対14、入力伝達軸13及び前記後退ギヤ対を介して出力軸19に入力され、出力軸19が逆転する。これにより、後進走行がエンジン2のみを駆動源として可能となる。
【0074】
そして、動力合成機構9のキャリア9cから出力される動力は、第1同期クラッチS1が3速段確立状態にあり、且つ出力同期クラッチSOが接続状態にあるとき、第2副入力軸17、3速ギヤ対21及び副出力軸20を介して出力軸19に伝達される。この動力合成機構9から出力される動力は、エンジン2から動力合成機構9を介することなく出力軸19に伝達される動力の補助(アシスト)も行う。また、エンジン2を停止して、電動機3の駆動力のみによっても、動力合成機構9から動力は出力され得る。なお、リングギヤ9rが逆転するときは、電動機3で回生運転が行われることになる。
【0075】
次に、本実施形態の動力伝達装置1の動作を説明する。動力伝達装置1の動作モードは、種々様々の動作モードを有する。
【0076】
本実施形態では、車両の主要なモードとして、エンジン2のみを車両の動力発生源とするエンジン(E)モードと、電動機3のみを車両の動力発生源とするEVモードと、エンジン2と電動機3との双方を運転して動力を合成する合成(E/M)モードとがある。合成モードには、エンジン2と電動機3とから出力され合成された動力を動力源とするアシストモードと、エンジン2の出力を電動機3に分配して電動機3が回生運転を行う回生モードとがある。回生モードでは、電動機3の回生運転によりバッテリ7が充電を行われる。EVモードでは、バッテリ7に蓄積された電気エネルギーを消費して電動機3が動力を出力する。
【0077】
そして、本実施形態では、ECU8が車両のアクセル操作量や車速等から所定のマップ等を用いて車両の要求動力(要求駆動力)を設定し、この要求動力に応じて、各モードや変速段を選択する。さらに、ECU8は、選択したモードや変速段等に応じて、動力伝達装置1を制御する。
【0078】
例えば、ECU8は、エンジン2を適正運転領域、例えば燃費が良好となる領域で運転させたときに該エンジン2から出力され動力合成機構9に入力される動力(以下、「適正運転動力」という)が要求動力に満たないとき、アシストモードを選択する。このとき、ECU8は、要求動力に対する不足分をバッテリ7から電力が供給されるように制御する。ただし、不足分を補うために、定格出力又は最高回転数を超えて電動機3を運転させる必要が生じる場合、電動機3を定格出力又は最高回転数で運転させ、エンジン2の出力を増加させる。また、ECU8は、適正運転動力が要求動力を超えるとき、回生モードを選択し、ギヤ等による伝達ロスを除いた差分の動力(エネルギー)をバッテリ7に充電させる。ECU8は、バッテリ7の充電レベル(SOC)が所定充電レベルより低いときも、バッテリ7の充電を促進するために、回生モードを選択し、エンジン2の出力を増加させる。
【0079】
以下、動力伝達装置1の動作モード遷移の一例を説明する。なお、以降の説明において、エンジン2及び電動機3の運転制御や、各種クラッチや各種同期クラッチの状態設定制御は、ECU8が行っている。
【0080】
〔EV待機モードから擬似1速段発進モードへ〕
図2は、EV待機モードから擬似ロー発進モードへの動力伝達装置1の遷移状態を示している。なお、図2乃至図5の表中欄内の矢印は、左欄と同一であり、変化していないことを示している。
【0081】
EV待機モードの3速段では、第1主クラッチCM1、第2主クラッチCM2、第2同期クラッチS2及び後退同期クラッチSRはOFF状態に、第1同期クラッチS1は3速段確立状態に、出力同期クラッチSOはON状態に、エンジン2は運転停止状態に、電動機3は運転準備状態に設定されている。
【0082】
そして、この状態から車両を発進させるとき、出力同期クラッチSOをOFF状態に設定し、第1副入力軸17と出力軸19との連結を遮断する。そして、第1主クラッチCM1をON状態に設定して、エンジン2の出力軸2aと第1主入力軸11とを連結した後、エンジン2を始動し、出力同期クラッチSOをON状態に設定する。エンジン2の回転により電動機3のロータ3aは一旦正転するが、その後、エンジン2の回転が定常化すると、ロータ3aは静止し、ニュートラル状態となる。そして、第1同期クラッチS1をOFF状態に、出力同期クラッチSOを接続状態に設定した後、第1主クラッチCM1をON状態に設定すると、車両は擬似1速段で発進する。
【0083】
このように、キャリア9cが接続された第1副入力軸17と出力軸19との接続を遮断可能な出力同期クラッチSOを設けているので、キャリア9cをロックさせる必要なく、且つショックを伴うことなく、擬似1速段発進を行うことができる。
【0084】
〔ニュートラル状態での発電〕
図3は、エンジン走行モードからニュートラルでの発電状態への動力伝達装置1の遷移状態を示している。エンジン走行モードの1速段プレ2速段では、第1主クラッチCM1及び出力同期クラッチSOはON状態に、第2主クラッチCM2、第1同期クラッチS1及び後退同期クラッチSRはOFF状態に、第2同期クラッチS2は2速段確立状態に、エンジン2は正転状態に、電動機3は逆転状態に設定されている。
【0085】
そして、この状態から、出力同期クラッチSOをOFF状態に設定して、第1副入力軸17と出力軸19との連結を遮断すると、出力軸19への駆動力の伝達が全て遮断され、ニュートラル状態となる。このとき、第1主入力軸11の正転と共にサンギヤ9sが正転しており、これに伴いキャリア9c及びリングギヤ9rが正転し、リングギヤ9rに固定された電動機3のロータ3aが正転する。
【0086】
そして、第1同期クラッチS1を3速段確立状態に設定すると、キャリア9cからの動力を出力軸19に伝達可能として、エンジン2に正転方向のトルクを発生させると、電動機3に逆転方向のトルクが作用し、電動機3で発電が行われる。
【0087】
このように、キャリア9cが接続された第1副入力軸17と出力軸19との接続を遮断可能な出力同期クラッチSOを設けているので、第1同期クラッチS1を3速段確立状態に設定した状態で、ショックを伴うことなく、発電を行うことができる。
【0088】
〔エンジン走行モードとE/V走行モード〕
図4(a)は、4速段におけるエンジン走行モードとE/V走行モードでの動力伝達装置1の遷移状態を示している。E/V走行モードの4速段プレ3速段では、第2主クラッチCM2及び出力同期クラッチSOがON状態に、第1主クラッチCM1及び後退同期クラッチSRがOFF状態に、第1同期クラッチS1が3速段確立状態に、第2同期クラッチS2が4速段確立状態に、電動機3が正転状態に、エンジン2を正転状態に設定されている。このとき、図4(b)に共線図を示すように、エンジン2と電動機3のトルク合成(動力合成)が行われる。なお、図4では、正転方向を「+」で、逆転方向を「−」でそれぞれ表している。
【0089】
具体的にはエンジン2からのトルクTeは、第2主入力軸12、ギヤ対14、入力伝達軸13、ギヤ対16、第3主入力軸15、第3副入力軸17及び4速ギヤ対24を介して出力軸19に伝達される。一方、エンジン2からは、第1主入力軸11を介してサンギヤ9sにトルクTsが入力されている。そのため、出力軸19の回転に寄与するエンジン2がトルクは、Te−Tsとなる。このとき、リングギヤ9rは正転しており、電動機3には逆回転方向のトルクTmが作用して発電が行われる。そして、動力合成機構9では、仮想支点を支点とするトルクの釣り合いによって、キャリア9cからトルクTcが出力される。そして、トルクTe−TsとトルクTcの和であるトルクTrが出力軸19を回転させる。ただし、このとき、リングギヤ9r、即ち、電動機3の回転数が高くなっている。
【0090】
そこで、車速が3速段の範囲以上であり、5速段を選択する必要がない程度に加速要求が高い場合には、この状態から、電動機3のトルクを抜きながら、出力同期クラッチSOをOFF状態に設定し、第1副入力軸17と出力軸19との連結を遮断して、出力軸19から電動機3への駆動力の伝達を遮断し、エンジン2の駆動力のみで走行する。そして、電動機3の回転数を第1主入力軸11の回転数に合わせて、第1主クラッチCM1をON状態に設定する。
【0091】
すると、電動機3の回転数が、第1主入力軸11の回転数と同一となって低くなり、電動機3に逆回転方向のトルクが作用するため発電も行われる。このように、出力同期クラッチSOをOFF状態にして、出力軸19と電動機3との接続を遮断することによって、電動機9の回転数が高くなることを抑制できる。
【0092】
なお、バッテリ7の充電レベルが所定レベルより低いときは、出力同期クラッチSOをON状態に設定したままとして、バッテリ7の充電を促進する。
【0093】
〔エンジン走行モードとE/V走行モード〕
図5は、5速段におけるエンジン走行モードとE/V走行モードでの動力伝達装置1の遷移状態を示している。E/V走行モードの5速段プレ4速段では、第1主クラッチCM1がON状態に、第1主クラッチCM1、出力同期クラッチSO及び後退同期クラッチSRがOFF状態に、第1同期クラッチS1が5速段確立状態に、第2同期クラッチS2が4速段確立状態に、エンジン2が正転状態に設定されている。これにより、エンジン2からの動力は、第1主入力軸11及び5速ギヤ対23を介して出力軸19に伝達される。そして、第1同期クラッチS1が5速段確立状態に設定されているので、電動機3と出力軸19との接続は遮断されている。一方、エンジン2からの動力は、第1主入力軸11を介してサンギヤ9sを正転させ、これにより、電動機3は正転し回転数が高くなるが、トルクは発生しない。
【0094】
そして、加速要求が低く、5速走行を続行する場合、あるいは、バッテリ7の充電レベルが所定レベルより低い場合は、この状態から、第2同期クラッチS2をOFF状態を経て2速段確定状態に設定する。その後、第2主クラッチCM2をON状態に設定する。
【0095】
すると、エンジン2からの動力は、第2主入力軸12、ギヤ対16、第3主入力軸15、第3副入力軸18、2速ギヤ対22、副出力軸20、3速ギヤ対21及び第1副入力軸17を介してキャリア9cに伝達される。そのため、電動機3の回転数が低くなり、電動機3に逆回転方向のトルクが作用するため発電も行われる。このように、アイドル状態の副出力軸20を介してエンジン2と電動機3とを接続することによって、電動機9の回転数が高くなることを抑制できると共に発電可能となる。
【0096】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置51を図6を参照して説明する。なお、カウンタ軸27以降の構成は、図1と同じであるため、図6では省略している。
【0097】
動力伝達装置51は、動力伝達装置1と類似するので、異なる構成についてのみ説明する。動力伝達装置51は、動力伝達装置1と同様に、前進5段後進1段の変速を確保している。
【0098】
動力伝達装置51は、動力伝達装置1が備えていた第1及び第2同期クラッチS1,S2の代わりに、クラッチとしての第1乃至第4湿式クラッチC1〜C4を備えている。
【0099】
エンジン2の出力軸2aには、エンジン2からの駆動力が第1主クラッチCM1を介して入力される第1主入力軸52が連結されている。
【0100】
入力伝達軸13に対して平行に第3主入力軸53が配置されている。そして、第3主入力軸53と入力伝達軸13とは、ギヤ対54を介して結合されている。このギヤ対54は、第3主入力軸53上に固定されたギヤ53aと入力伝達軸13上に固定されたギヤ13aとが噛合して構成されている。
【0101】
第1主入力軸52に対して、2本の副入力軸、すなわち第1副入力軸55及び第2副入力軸56がそれぞれ同軸心に隣接して配置されている。そして、第1主入力軸52と第1副入力軸55とは、第1湿式クラッチ(第1クラッチ)C1を介して連結、又はプラネタリギヤを介して伝達可能に配置されている。また、第1主入力軸52と第2副入力軸56とは、第2湿式クラッチ(第1クラッチ)C2を介して連結されている。第1湿式クラッチC1と第2湿式クラッチC2とは第1主入力軸52に軸心方向に隣接して配置されている。
【0102】
第1湿式クラッチC1は、ECU8の制御の下で、第1主入力軸52が第1副入力軸55と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構である。第2湿式クラッチC2は、ECU8の制御の下で、第1主入力軸52が第2副入力軸56と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構である。この場合、第1湿式クラッチC1を接続状態に動作させると、第1副入力軸55が第1主入力軸52と接続される。この状態では、第1主入力軸52から第1副入力軸55への動力伝達のみが可能となり、第1主入力軸52から第2副入力軸56へ動力伝達は遮断される。また、第2湿式クラッチC2を接続状態に動作させると、第2副入力軸56が第1主入力軸52と接続される。この状態では、第1主入力軸52から第2副入力軸56へ動力伝達が可能となり、第1主入力軸52から第1副入力軸55へは動力伝達は抑制される。なお、第1湿式クラッチC1と第2湿式クラッチC2が共に接続状態に動作することはなく、第1湿式クラッチC1と第2湿式クラッチC2の何れか一方のみが選択的に接続状態に動作する。
【0103】
第3主入力軸53に対して、2本の副入力軸、すなわち第3副入力軸57及び第4副入力軸58がそれぞれ同軸心に隣接して配置されている。そして、第3主入力軸53と第3副入力軸57とは、第3湿式クラッチ(第2クラッチ)C3を介して連結、又はプラネタリギヤを介して伝達可能に配置されている。また、第3主入力軸53と第4副入力軸58とは、第4湿式クラッチ(第2クラッチ)C4を介して連結されている。第3湿式クラッチC3と第4湿式クラッチC4とは第3主入力軸53に軸心方向に隣接して配置されている。
【0104】
第3湿式クラッチC3は、ECU8の制御の下で、第3主入力軸53が第3副入力軸57と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構である。第4湿式クラッチC4は、ECU8の制御の下で、第3主入力軸53が第4副入力軸58と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構である。この場合、第3湿式クラッチC3を接続状態に動作させると、第3副入力軸57が第3主入力軸53と接続される。この状態では、第3主入力軸53から第3副入力軸57への動力伝達のみが可能となり、第3主入力軸53から第4副入力軸58へ動力伝達は遮断される。また、第4湿式クラッチC4を接続状態に動作させると、第4副入力軸58が第3主入力軸53と接続される。この状態では、第3主入力軸53から第4副入力軸58へ動力伝達が可能となり、第3主入力軸53から第3副入力軸57へは動力伝達は抑制される。なお、第3湿式クラッチC3と第4湿式クラッチC4が共に接続状態に動作することはなく、第3湿式クラッチC3と第4湿式クラッチC4の何れか一方のみが選択的に接続状態に動作する。
【0105】
そして、副出力軸20と第1副入力軸55とは、3速ギヤ対59を介して結合されている。この3速ギヤ対59は、副出力軸20上に固定された低速ギヤ20aと第1副入力軸55上に固定された3速ギヤ(第1駆動ギヤ)55aとが噛合して構成されている。さらに、副出力軸20と第3副入力軸57とは、2速ギヤ対60を介して結合されている。この2速ギヤ対60は、副出力軸20上に固定された低速ギヤ20aと第3副入力軸57上に固定された2速ギヤ(第3駆動ギヤ)57aとが噛合して構成されている。
【0106】
出力軸19と第2副入力軸56とは、5速ギヤ対61を介して結合されている。この5速ギヤ対61は、出力軸19上に固定された高速ギヤ19aと第2副入力軸56上に固定された5速ギヤ(第2駆動ギヤ)56aとが噛合して構成されている。さらに、出力軸19と第4副入力軸58とは、4速ギヤ対62を介して結合されている。この4速ギヤ対62は、出力軸19上に固定された高速ギヤ19aと第4副入力軸58上に固定された4速ギヤ(第4駆動ギヤ)58aとが噛合して構成されている。即ち、3速ギヤ55a及び5速ギヤ57aは、第1主入力軸52に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第1、第2湿式クラッチC1,C2によって選択的に第1主入力軸52と連結される。2速ギヤ57a及び4速ギヤ58aは、第3主入力軸53に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第3,4湿式クラッチC3,C4によって選択的に第3主入力軸53と連結される。
【0107】
以上のように構成された動力伝達装置51において、エンジン2の出力軸2aから出力された動力は、第1主クラッチCM1がON状態にあるとき、第1、第2湿式クラッチC1,C2の状態に応じた動力伝達経路を経由して、出力軸19に伝達される。具体的には、第1湿式クラッチC1がON状態にあるときには、第1主入力軸52から3速ギヤ対59を介して出力軸19に伝達され得る。第2湿式クラッチC2がON状態にあるときには、第1主入力軸52から5速ギヤ対61を介して出力軸19に伝達される。一方、第2主クラッチCM2がON状態にあるとき、第3、第4湿式クラッチC3,C4の状態に応じた動力伝達経路を経由して、出力軸19に伝達される。具体的には、第3湿式クラッチC3がON状態にあるときには、第2主入力軸12からギヤ対14、入力伝達軸13、ギヤ対54、第3主入力軸53及び2速ギヤ対60を介して出力軸19に伝達される。第4湿式クラッチC4がON状態にあるときには、第2主入力軸12からギヤ対14、入力伝達軸13、ギヤ対54、第2主入力軸53及び4速ギヤ対62を介して出力軸19に伝達される。このように、第1主クラッチCM1又は第2主クラッチCM2の何れかがON状態のとき、第1乃至第4湿式クラッチC1〜C4の設定状態に応じて、2速段から5速段の計4速段でエンジン2のみを駆動源とした走行が可能である。
【0108】
第1主クラッチCM1がON状態にあるとき、エンジン2の出力軸2aから出力された動力は、第1主入力軸11を介してサンギヤ9sから動力合成機構9に入力される。第2主クラッチCM2がON状態であり、第1湿式クラッチC1がON状態にあるとき、エンジン2の出力軸2aから出力された動力は、第1主入力軸52、第1副入力軸55を介してキャリア9cから動力合成機構9に入力される。また、電動機3から出力された動力も、リングギヤ9rを介して動力合成機構9に入力される。
【0109】
そして、動力合成機構9のキャリア9cから出力される動力は、第1湿式クラッチC1がON状態にあり、且つ出力同期クラッチSOが接続状態にあるとき、第1副入力軸55、3速ギヤ対59及び副出力軸20を介して出力軸19に伝達される。この動力合成機構9から出力される動力は、エンジン2から動力合成機構9を介することなく出力軸19に伝達される動力の補助(アシスト)も行う。また、エンジン2が駆動することなく、電動機3の駆動力のみによっても、動力合成機構9から動力は出力され得る。なお、リングギヤ9rが逆転するときは、電動機3で回生運転が行われることになる。
【0110】
動力伝達装置51の動作モードは、動力伝達装置1と同じ動作モードを有するので、その説明は省略する。
【0111】
なお、本発明に係る動力伝達装置は、上述したものに限定されない。例えば、前記各実施形態では、第1主入力軸11,52がサンギヤ9sに接続されている場合について説明した。しかし、第2主入力軸12をサンギヤ9sに接続してもよい。
【0112】
また、第1副入力軸55に低速ギヤ(3速ギヤ)55aが、第2副入力軸56に高速ギヤ(5速ギヤ)56aが、それぞれ配置されている場合について説明した。しかし、第1副入力軸55に高速ギヤを、第2副入力軸56に低速ギヤをそれぞれ配置してもよい。また、第1副入力軸17,55、第2副入力軸56に奇数段用のギヤ17a,17b,55a,56aが、第3副入力軸18,57、第4副入力軸58に偶数段用のギヤ18a,18b,57a,58aが、それぞれ配置されている場合について説明した。しかし、第1副入力軸17,55、第2副入力軸56に偶数段用のギヤを、第3副入力軸18,57、第4副入力軸58に奇数段用のギヤをそれぞれ配置してもよい。
【0113】
また、動力合成機構9は、シングルピニオン型の遊星歯車装置により構成する場合について説明したが、遊星歯車装置以外の差動装置を使用してもよい。また、サンギヤ9sに第1主入力軸11,52を、キャリア9cに第1副入力軸17,55を、リングギヤ9rに電動機3のロータ3aをそれぞれ接続する場合について説明した。しかし、これらの接続は、これらに限定するものではなく、その接続を変更してもよい。また、動力合成機構9にダブルピニオン型の遊星歯車装置や電磁クラッチ式の差動装置を使用してもよい。
【符号の説明】
【0114】
1,51…動力伝達装置、2…エンジン(内燃機関)、2a…エンジンの出力軸(内燃機関出力軸)、3…電動機、3a…ロータ(回転体)、3b…ステータ(固定子)、3ba…コイル(電機子巻線)、4…駆動輪(被駆動部)、5…補機、7…バッテリ(蓄電器)、8…ECU(要求動力設定手段、制御手段)、9…動力合成機構、9c…キャリア(第2回転要素)、9p…プラネタリギヤ、9r…リングギヤ(第3回転要素)、9s…サンギヤ(第1回転要素)、11,52…第1主入力軸、12…第2主入力軸、13…入力伝達軸、13b…後退ギヤ、14…ギヤ対、15,53…第3主入力軸、16,54…ギヤ対、17,55…第1副入力軸、17a,55a…3速ギヤ(第1駆動ギヤ)、56…第2副入力軸、17b,56a…5速ギヤ(第2駆動ギヤ)、18,57…第3副入力軸、18a,57a…2速ギヤ(第3駆動ギヤ)、58…第4副入力軸、18b,58a…4速ギヤ(第4駆動ギヤ)、19…出力軸、19a…高速ギヤ(第2従動ギヤ)、20…副出力軸、20a…低速ギヤ(第1従動ギヤ)、21,59…3速ギヤ対、22,60…2速ギヤ対、23,61…5速ギヤ対、24,62…4速ギヤ対、27…カウンタ軸、29…差動歯車ユニット、30…車軸、C1…第1湿式クラッチ(第1クラッチ)、C2…第2湿式クラッチ(第1クラッチ)、C3…第3湿式クラッチ(第2クラッチ)、C4…第4湿式クラッチ(第2クラッチ)、CM1…第1主クラッチ(第1主クラッチ)、CM2…第2主クラッチ(第2主クラッチ)、S1…第1同期クラッチ(第1クラッチ)、S2…第2同期クラッチ(第2クラッチ)、SO…出力同期クラッチ、SR…後退同期クラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置であって、
前記内燃機関から動力が入力される内燃機関出力軸と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、第1主クラッチによって選択的に、該内燃機関出力軸と連結される第1主入力軸と、
前記第1主入力軸と同軸心に配置され、第2主クラッチによって選択的に前記内燃機関出力軸と連結される第2主入力軸と、
前記第2主入力軸と平行に配置され、該第2主入力軸と常時接続される第3主入力軸と、
前記第1主入力軸と平行に配置され、カウンタ軸を介して被駆動部に動力を出力する出力軸と、
前記第1主入力軸に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第1クラッチによって選択的に当該第1主入力軸と連結される第1駆動ギヤ及び第2駆動ギヤと、
前記第3主入力軸に、同軸状かつ回転自在に設けられ、第2クラッチによって選択的に、当該第1主入力軸と連結される第3駆動ギヤ及び第4駆動ギヤと、
前記出力軸に、同軸状かつ回転自在に設けられ、出力同期クラッチによって選択的に当該出力軸と連結され、前記第1駆動ギヤ及び前記第3駆動ギヤと噛合する第1従動ギヤと、
前記出力軸に固定され、前記第2駆動ギヤ及び前記第4駆動ギヤと噛合する第2従動ギヤと、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成した動力合成機構とを備え、
前記第1回転要素は前記第1主入力軸に接続され、
前記第2回転要素は前記第1駆動ギヤに連結され、
前記第3回転要素は前記電動機に接続され、
前記第2回転要素は、前記第1回転要素から伝達される動力と前記第3回転要素から伝達される動力とを合成し、前記第1駆動ギヤ及び前記第1従動ギヤを介して前記出力軸に伝達するように構成され、
前記第2主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第2主入力軸を連結させ、前記第2クラッチにより前記第3主入力軸に前記第4駆動ギヤを連結させ、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することにより変速段を確立することを特徴とするハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第2主入力軸を連結させ、前記第2クラッチにより前記第3主入力軸に前記第4駆動ギヤを連結させると共に、前記第1クラッチにより前記第1主入力軸に前記第1駆動ギヤを連結させ、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することにより変速段を確立し、
該変速段を確立する場合において、前記電動機の回転数が所定回転数を超えたとき、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を解除することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第1主入力軸を連結させ、前記第1クラッチにより前記第1主入力軸に前記第2駆動ギヤを連結させ、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することにより、変速段を確立することを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記変速段を確立する場合において、前記電動機の電気エネルギーを蓄積する蓄電器の充電量が所定充電量より低いとき、前記第1主クラッチにより前記内燃機関出力軸に前記第1主入力軸を連結させると共に、前記第2クラッチにより前記第3主入力軸に前記第3駆動ギヤを連結させることを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項5】
前記第1主クラッチにより前記内燃機関出力軸と前記第1主入力軸とが連結し、前記内燃機関が運転を停止し、前記電動機が運転を行う状態において、前記内燃機関の運転を開始するとき、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項6】
当該ハイブリッド車両用動力伝達装置を搭載した車両が停止し、前記内燃機関が運転を行う状態において、前記電動機が回生運転を行う場合、前記出力同期クラッチにより前記第1従動ギヤと前記出力軸との連結を遮断することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項7】
前記出力軸に要求される要求動力を設定する要求動力設定手段と、
該要求動力設定手段が設定した要求動力に応じて、前記内燃機関及び前記電動機の運転を行う制御手段とを備えることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記内燃機関の適正運転領域内で前記内燃機関の運転を行い、
前記第1回転要素から前記第2回転要素に伝達される前記内燃機関の動力と前記要求動力を比較し、前記内燃機関の動力が前記要求動力に満たないときは、前記電動機が力行運転を行い、前記内燃機関の動力が前記要求動力を超えるときは、前記電動機が回生運転を行うように制御することを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記電動機が定格出力又は最高回転数を超えて運転するとき、該電動機を定格出力又は最高回転数で運転を行うように制御することを特徴とする請求項7又は8に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項10】
前記動力合成機構は、シングルピニオン型の3つの回転要素として、サンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤの間で当該両ギヤに噛合された複数のプラネタリギヤを回転自在に支持するキャリアとを同軸心に備えた遊星歯車装置であり、
前記第1回転要素は前記キャリアであり、前記第2回転要素は前記サンギヤであり、前記第3回転要素は前記リングギヤであるであることを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−269661(P2010−269661A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122201(P2009−122201)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】