説明

ハイブリッド電気自動車の充放電制御装置

【課題】車両停車中にゼロトルク制御が行われたときにSOC維持制御を適切に実行でき、もってバッテリのSOCを所定許容範囲内に保持することによりエネルギ効率が悪い強制充電や強制放電の実行を回避できるハイブリッド電気自動車の充放電制御装置を提供する。
【解決手段】PレンジまたはNレンジでの車両停車中においてゼロトルク制御を実行していないときには(S10がNo)、クラッチC1及びクラッチC2を切断状態に保持して油圧ポンプ駆動のためのエンジン負荷を軽減する一方(S12)、ゼロトルクを実行中のときには(S10がYes)、電動機3側のクラッチC2のみを接続状態に切り換え(S16)、SOC維持制御を実行してバッテリ5のSOCを所定許容範囲内の中央値である50%近傍の狭い制御幅内で変動させる(S18)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン及び電動機を走行用動力源として走行するハイブリッド電気自動車に係り、詳しくは電動機への要求トルクを零としたゼロトルク制御中に微小な充放電電流が発生してバッテリの残存容量が増減してしまう現象を防止する充放電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンと電動機とを車両に搭載し、エンジンの駆動力と電動機の駆動力とをそれぞれ車両の駆動輪に伝達可能としたハイブリッド電気自動車が開発され実用化されている。
このようなハイブリッド電気自動車の一例として、例えば特許文献1に記載されたものを挙げることができる。当該特許文献1に記載のハイブリッド電気自動車では、エンジンから変速機に伝達される駆動力をクラッチにより断接可能とし、そのクラッチの出力軸と変速機の入力軸との間に電動機の回転軸を連結している。
【0003】
そして、例えば車両発進時にはクラッチを切断してバッテリからの電力供給により電動機をモータ作動させ、電動機の駆動力のみで車両を発進させる一方、発進後の車両走行時にはクラッチを接続してエンジンの駆動力を変速機を介して駆動輪に伝達している。
また、車両減速時には電動機をジェネレータ作動させて回生制動力を発生させ、制動エネルギを電力に変換してバッテリを充電するようにしている。
【0004】
このようなハイブリッド電気自動車では、例えばエンジンをアイドル運転させた車両停車時或いは高速道路での定速走行時などのように、車両の運転状態によっては電動機による駆動力や制動力を必要としない場合があり、この場合の電動機はモータ及びジェネレータのいずれとしても作動せずに、クラッチを介したエンジンからの駆動力或いは駆動輪側から逆伝達される駆動力を受けて回転している。しかし、例えば電動機として永久磁石式同期電動機などを用いている場合、その作動原理から電動機への要求トルクを零としても実際のトルクを完全に零のまま維持することは困難であり、電動機とバッテリとの間に微小な電流が流れてしまう。
【0005】
このため、上記車両停車時や定速走行時などのように要求トルクを零としたゼロトルク制御が長時間継続した場合、バッテリと電動機との間に微小な電流が継続して流れることにより、バッテリの残存容量を表すSOC(State of charge)が次第に減少或いは増加していくことになる。そして、バッテリのSOCが減少しすぎた場合には、電動機をジェネレータ作動させてバッテリを強制充電する制御が実行され、バッテリのSOCが増加しすぎた場合には、電動機をモータ作動させると共に、電動機側のトルク配分を増大させてバッテリを強制放電させる制御が実行され、これによりSOCを所定許容範囲内に保持している。
【0006】
しかし、バッテリの強制充電は、エンジンが発生した運動エネルギを電気エネルギに変換するものであるためエネルギ効率が低下し、強制放電は、本来エンジンが発生した運動エネルギで車両を駆動可能であるにも拘わらず電気エネルギを用いるため、これもエネルギ効率を低下させる要因となり、何れの場合も可能な限り回避することが望ましい。
そこで、上記特許文献1の技術では、電動機への要求トルクを零に設定したゼロトルク制御時に、電動機に微小な駆動トルクと回生トルクとを交互に発生させるSOC維持制御を実行することにより、バッテリのSOCを所定許容範囲内に維持し、もって上記強制充電や強制放電の実行を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−216762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載されているようなハイブリッド電気自動車では、エンジンと電動機との間に介装されるクラッチとして乾式クラッチ或いは湿式クラッチが適用される。
断接状態の切換にアクチュエータを用いた乾式クラッチでは、接続状態の保持にも切断状態の保持にも何ら機構的な制限がない。このため、車両停車時にクラッチを接続状態に保持するように制御しており、上記車両停車中にゼロトルク制御が実行されたとき、アイドル運転中のエンジンの駆動力が電動機に伝達されているため、何ら支障なく電動機に駆動トルクや回生トルクを発生させてSOC維持制御を行うことができる。
【0009】
しかしながら、湿式クラッチではエンジンの駆動力により油圧ポンプを駆動して発生する油圧を作用させて接続方向に切り換える構成のため、接続状態を保持している間は油圧ポンプを駆動するエンジン負荷が増大し続けてしまう。そこで、車両停車中にはエンジン負荷の増大による燃費悪化を防止すべく、クラッチを切断状態に保持するように制御している。
このときの湿式クラッチは完全に切断されることなく、いわゆる連れ回り現象を生じて僅かながらエンジンの駆動力を電動機側に伝達している。このため、電動機が回転してゼロトルク制御時に微小電流を発生し、SOC維持制御による対処が必要になる。ところが、連れ回り現象で伝達される僅かな駆動力では、SOC維持制御を実行したとしても電動機に所期の駆動トルクや回生トルクを発生できず、バッテリのSOCを所定許容範囲内に維持することは困難となる。
【0010】
この不具合を解消するには、湿式クラッチを接続してエンジンの駆動力を電動機に確実に伝達する必要があるが、上記のように湿式クラッチは車両停車中に切断状態に切り換えられているため、そのままではSOC維持制御を実行できない。結果としてゼロトルク制御により発生した微小電流によるバッテリの過放電や過充電を防止するために、エネルギ効率が悪い強制充電や強制放電が実行されてしまうという問題があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両停車中にゼロトルク制御が行われたときにSOC維持制御を適切に実行でき、もってバッテリのSOCを所定許容範囲内に保持することによりエネルギ効率が悪い強制充電や強制放電の実行を回避することができるハイブリッド電気自動車の充放電制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、エンジンと電動機とを湿式クラッチを介して接続し、湿式クラッチの切断時にバッテリからの電力供給で電動機により発生された駆動力を変速機の変速機構を介して駆動輪側に伝達して車両を走行させ、湿式クラッチの接続時にはエンジンの駆動力またはエンジンの駆動力及び電動機の駆動力を変速機の変速機構を介して駆動輪側に伝達して車両を走行させる一方、変速機を非走行レンジに切り換えた車両停車中には湿式クラッチを切断状態に保持するハイブリッド電気自動車の制御装置において、バッテリの残存容量を検出するバッテリ残存容量検出手段と、バッテリ残存容量検出手段により検出されたバッテリの残存容量が所定許容範囲内から外れたときに、残存容量を所定許容範囲内に戻すべく電動機を制御してバッテリの強制充電または強制放電を行う強制充放電制御手段と、変速機を非走行レンジに切り換えた車両停車中で、且つ電動機に要求されるトルクが零に設定された所定運転状態にあると判定したとき、湿式クラッチを接続状態に切り換えると共に、強制充電または強制放電に必要な電動機のトルクより絶対値が小さい回生側及び駆動側の微小トルクを電動機に交互に発生させることにより、バッテリの残存容量を所定許容範囲内に維持する残存容量維持制御を実行する残存容量制御手段とを備えたものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、湿式クラッチとしてエンジンに第1クラッチ及び第2クラッチを並列的に接続すると共に、変速機構として第1クラッチに第1変速機構を接続すると共に第2クラッチに第2変速機構を接続して変速機をデュアルクラッチ式変速機として構成し、第2クラッチと第2変速機構との間に電動機を介装する一方、非走行レンジでの車両停車中には第1クラッチ及び第2クラッチを切断状態に保持するようにし、残存容量制御手段が、電動機への要求トルクを零に設定した所定運転状態にあると判定したとき、第2クラッチのみを接続状態に切り換えて残存容量維持制御を実行するものである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車の充放電制御装置によれば、非走行レンジでの車両停車中に湿式クラッチを切断状態に保持する一方、電動機への要求トルクを零に設定した所定運転状態と判定したときには、湿式クラッチを接続状態に切り換えてエンジンと電動機とを連結すると共に、強制充電または強制放電に必要な電動機のトルクより絶対値が小さい回生側及び駆動側の微小トルクを電動機に交互に発生させる残存容量維持制御を実行して、バッテリの残存容量を所定許容範囲内に維持するようにした。
【0014】
湿式クラッチはエンジンの駆動力により油圧ポンプを駆動して発生する油圧の作用により接続方向に切り換えられるが、車両停車中には切断状態に保持することから油圧を作用させる必要がなく、油圧ポンプを駆動するエンジン負荷の増大による燃費悪化を防止でき、一方、電動機への要求トルクを零に設定した所定運転状態では、湿式クラッチを接続状態に切り換えてエンジンと電動機とを連結することから、回生側及び駆動側の微小トルクを交互に電動機に発生させる残存容量維持制御を適切に実行でき、もってバッテリの残存容量を確実に所定許容範囲内に維持することによりエネルギ効率が悪い強制充電や強制放電の実行を回避することができる。
【0015】
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車の充放電制御装置によれば、請求項1に加えて、第1クラッチ及び第1変速機構からなる動力伝達系と、第2クラッチ、電動機及び第2変速機構からなる動力伝達系とを備えたデュアルクラッチ式変速機を構成して、非走行レンジでの車両停車中には第1クラッチ及び第2クラッチを切断状態に保持し、電動機への要求トルクを零に設定した所定運転状態になると、第2クラッチのみを接続状態に切り換えて残存容量維持制御を実行するようにした。
このように残存容量維持制御を実行するために必要な第2クラッチのみを接続し、第1クラッチ側は切断状態を継続しているため、油圧ポンプ駆動のためのエンジン負荷の増加、ひいてはそれに伴う燃料消費を最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態のハイブリッド電気自動車の充放電制御装置を示す全体構成図である。
【図2】ECUが実行する制御切換ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】ECUが実行するSOC維持制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】SOC維持制御によるSOCの制御状況を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をデュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド電気自動車の充放電制御装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のハイブリッド電気自動車の充放電制御装置を示す全体構成図である。車両には走行用動力源としてディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1が搭載されている。エンジン1は、加圧ポンプによりコモンレールに蓄圧した高圧燃料を各気筒の燃料噴射弁に供給し、各燃料噴射弁の開弁に伴って筒内に噴射する所謂コモンレール式機関として構成されている。
【0018】
エンジン1の出力軸1aは車両後方(図の右方)に突出し、自動変速機(以下、単に変速機という)2の入力軸2aに接続されている。変速機2は前進6段(1速段〜6速段)及び後退1段を備えており、エンジン1の動力は入力軸2aを介して変速機2に入力された後に、変速段に応じて変速されて出力軸2bから差動装置12及び駆動軸13を介して左右の駆動輪14に伝達されるようになっている。
言うまでもないが、変速機2の変速段は上記に限ることなく任意に変更可能である。
【0019】
変速機2は、所謂デュアルクラッチ式変速機として構成されており、走行用動力源としての電動機3を内蔵している。当該デュアルクラッチ式変速機の詳細は、例えば特開2009−035168号公報などに記載されているため、本実施形態では概略説明にとどめる。このため、図1では変速機2を実際の機構とは異なる模式的な表現で示しており、以下の説明でも変速機2の構成及び作動状態を概念的に述べる。
周知のようにデュアルクラッチ式変速機は、奇数変速段と偶数変速段とを相互に独立した動力伝達系として設け、何れか一方で動力伝達しているときに他方を次に予測される次変速段に予め切り換えておくことで、動力伝達を中断することなく次変速段への切換を完了するシステムである。
【0020】
即ち、図1に示すように、エンジン1の出力軸1aに対して変速機2の入力軸を介してクラッチC1(第1クラッチ)及びクラッチC2(第2クラッチ)が並列的に接続されている。クラッチC1には奇数変速段(1,3,5速段)からなる奇数歯車機構G1(第1変速機構)が接続され、クラッチC2には電動機3を介して偶数変速段(2,4,6速段)からなる偶数歯車機構G2(第2変速機構)が接続されている。これらの歯車機構G1,G2の出力側は上記した共通の出力軸2bに連結されている。なお、図1では説明の便宜上、後退変速段を省略している。
【0021】
図示はしないが、電動機3は内外2重に配設されたロータ及びステータから構成され、ロータを回転可能に支持する回転軸がクラッチC2の出力側に接続されている。電動機3にはインバータ4を介して走行用のバッテリ5が電気的に接続され、後述するように、インバータ4により電動機3の力行制御及び回生制御が行われるようになっている。
即ち、力行制御では、バッテリ5に蓄えられた直流電力がインバータ4により交流電力に変換されて電動機3に供給され、電動機3がモータとして作動して駆動力を偶数歯車機構G2に入力する。また、車両減速時の回生制御では、駆動輪14側からの逆駆動により電動機3がジェネレータとして作動して回生制動力を発生すると共に、発電した交流電力がインバータ4により直流電力に変換されてバッテリ5に充電される。
【0022】
クラッチC1及びクラッチC2は湿式多板クラッチとして構成され、それぞれのクラッチC1,C2には一体的に油圧室6が形成されている。各油圧室6は電磁弁7が介装された油路8を介してオイルパン9に接続され、オイルパン9内に貯留された作動油がエンジン1により駆動される図示しない油圧ポンプから所定圧の作動油として供給される。電磁弁7の開弁時にはオイルパン9から油路8を介して油圧室6に作動油が供給され、油圧室6内で発生した油圧により対応するクラッチC1,C2が切断状態から接続状態に切り換えられる。
一方、電磁弁7が閉弁すると、作動油の供給中止により油圧室6内の油圧が低下し、クラッチC1,C2は図示しないプレッシャスプリングにより接続状態から切断状態に切り換えられる。
【0023】
また、変速機2の奇数歯車機構G1及び偶数歯車機構G2にはそれぞれギヤシフトユニット10が設けられている。図示はしないがギヤシフトユニット10は、歯車機構G1,G2内の各変速段に対応するシフトフォークを作動させる複数の油圧シリンダ、及び各油圧シリンダを作動させる複数の電磁弁を内蔵している。ギヤシフトユニット10は油路11を介して上記したオイルパン9と接続されており、各電磁弁の開閉に応じてオイルパン9からの作動油が対応する油圧シリンダに供給され、その油圧シリンダが作動してシフトフォークを切換操作すると、切換操作に応じて対応する歯車機構G1,G2の変速段が切り換えられる。
【0024】
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタなどを備えたECU(制御ユニット)21が設置されており、エンジン1、変速機2、電動機3、クラッチC1及びクラッチC2の総合的な制御を行う。
ECU21の入力側には、エンジン1の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ22、クラッチC1の出力側の回転速度Nc1を検出するクラッチ回転速度センサ23、クラッチC2の出力側の回転速度Nc2(=電動機3の回転速度)を検出するクラッチ回転速度センサ24、歯車機構G1,G2の変速段を検出するギヤ位置センサ25、アクセルペダル26の開度θaccを検出するアクセルセンサ27、及び変速機2の出力軸2bに設けられて車速Vを検出する車速センサ28、運転席に設けられたセレクトレバー29の操作位置を検出するレバー位置センサ30などのセンサ類が接続されている。
【0025】
また、ECU21の出力側には、上記したインバータ4,クラッチC1,C2の電磁弁7、ギヤシフトユニット10の各電磁弁などが接続されると共に、図示はしないが、コモンレール蓄圧用の加圧ポンプや各気筒の燃料噴射弁などが接続されている。なお、このように単一のECU21で総合的に制御することなく、例えばECU21とは別にエンジン制御専用のECUを備えるようにしてもよい。
【0026】
ECU21は、アクセルセンサ27により検出されたアクセル開度θaccや車速センサ28により検出された車速Vなどの検出情報に基づき、運転者の要求トルクを車両加速時や定速走行時には正の値として、車両減速時には負の値として算出する。そして、求めた要求トルク、車両の走行状態、エンジン1及び電動機3の運転状態、或いはバッテリ5のSOC(残存容量)などに基づき走行モード(エンジン単独走行、電動機単独走行、エンジン・電動機併用走行)を選択し、選択した走行モードに基づき要求トルクを達成すべくエンジン1や電動機3を運転すると共に、適宜変速機2の変速制御を実行する。
【0027】
走行モードとしてエンジン単独走行を選択したときには、クラッチC1またはクラッチC2の何れか一方を接続することにより、対応する側の歯車機構G1,G2の何れかの変速段を介してエンジン1の駆動力を駆動輪14側に伝達して車両を走行させる。
また、走行モードとしてエンジン・電動機併用走行を選択したときには、エンジン単独走行と同様に、クラッチC1とクラッチC2との何れか一方を接続してエンジン1の駆動力を駆動輪14側に伝達すると共に、同時に電動機3をモータとして作動させる。
【0028】
これにより、クラッチC1の接続時には、奇数歯車機構G1を介して伝達されるエンジン1の駆動力と偶数歯車機構G2を介して伝達される電動機3の駆動力とが合流した後に駆動輪14側に伝達され、またクラッチC2の接続時には、エンジン1の駆動力及び電動機3の駆動力が共に偶数歯車機構G2を介して駆動輪14側に伝達される。
走行モードとして電動機単独走行を選択したときには、クラッチC1及びクラッチC2を共に切断し、電動機3をモータとして作動させる。これにより、電動機3の駆動力が偶数歯車機構G2の何れかの変速段を介して駆動輪14側に伝達される。なお、このとき本実施形態ではエンジン1をアイドル運転に保持しているが、これに限ることはなくエンジン1を一時的に停止させてもよい。
【0029】
また、何れの走行モードにおいても車両が減速すると、電動機3をジェネレータ作動させて回生制動力を発生させると共に、電動機3により発電された交流電力をインバータ4によって直流電力に変換してバッテリ5に充電する。
そして、減速後に車両が停車すると、ECU21はクラッチC1及びクラッチC2を切断状態に保持し、エンジン1をアイドル運転させると共に、電動機3への要求トルクとして零を設定する。このときのクラッチC1及びクラッチC2の切断は、燃費悪化への対策である。
即ち、これらの湿式多板クラッチC1,C2を接続状態に保持するには油圧室6内に油圧を作用させ続ける必要があり、油圧ポンプを駆動するために車両停車中は常にエンジン負荷が増大して燃費が悪化してしまう。そこで、本実施形態では、車両停車中にはクラッチC1及びクラッチC2を切断状態に保持することにより燃費悪化を防止しているのである。
【0030】
一方、変速機2の変速制御は所定のシフトマップから求めた目標変速段に基づき実行されるが、デュアルクラッチ式変速機では、目標変速段への変速に先だって車両の加減速などから予測した次変速段への切換が行われる(以下、この操作をプレシフトと称する)。このときの変速制御についても、上記特開2009−035168号公報などに記載されているため詳細は述べないが、例えば車両加速時には、まず動力伝達中の現変速段に隣接する高ギヤ側の変速段が次変速段として予測され、この次変速段へのプレシフト要求に基づき、動力伝達を中断している歯車機構G1,G2が予め次変速段に切り換えられる。
【0031】
その後、車両加速に伴って上昇中の車速Vが上記シフトマップ上の次変速段へのシフトアップ線を越えると、目標変速段を現変速段から次変速段に変更した上で、クラッチC1,C2の断接状態を切り換えることにより目標変速段を達成する。このようなプレシフトにより次変速段への切換を完了しておくことで、クラッチC1,C2の断接状態を切り換えるだけで動力伝達を中断することなく変速が完了する。
【0032】
そして、電動機単独走行を継続した場合などにはバッテリ5のSOCが減少して過放電状態となる可能性があり、このような事態を回避するため、ECU21はバッテリ5の強制充電を行う(強制充放電制御手段)。
即ち、例えばバッテリ5のSOCが30%未満となった場合、走行モードをエンジン単独走行に切り換えた上で、電動機3をジェネレータ作動させる。エンジン1の駆動力は変速機2を介して駆動輪14側に伝達されて車両を走行させると共に、その駆動力の一部が電動機3の駆動のために使用され、電動機3により発電された交流電力がインバータ4によって直流電力に変換されてバッテリ5に充電され、バッテリ5のSOCが回復する。
【0033】
一方、車両減速に伴う電動機3の回生制動が頻繁に行われると、バッテリ5のSOCが増加して過充電状態となる可能性があり、このような事態を回避するため、ECU21はバッテリ5の強制放電を行う(強制充放電制御手段)。
即ち、例えばバッテリ5のSOCが70%を超えた場合、走行モードを電動機単独走行に切り換えた上で、電動機3をモータ作動させる。バッテリ5の直流電力はインバータ4により交流電力に変換されて電動機3によって消費され、バッテリ5のSOCが適正値まで低下する。
【0034】
このように、バッテリ5のSOCが30%以上で70%以下という所定許容範囲を逸脱した場合には、バッテリ5の強制放電や強制充電が行われ、バッテリ5のSOCが上記所定許容範囲内となるようにエンジン2及び電動機6が制御される。なお、強制充電や強制放電の制御内容は上記に限ることはなく、例えば、何れの場合も走行モードをエンジン・電動機併用走行に切り換えて、電動機3をジェネレータ作動若しくはモータ作動させるようにしてもよい。
ところで、上記したように車両の停車中には電動機3の駆動力を発生させる必要がないことから、電動機3への要求トルクとして零を設定しており、また、エンジン1を高効率で運転可能な車両の定速走行時には、走行モードとしてエンジン単独走行を選択して同じく電動機3への要求トルクとして零を設定している(以下、これらの制御をゼロトルク制御という)。
【0035】
そして、電動機3として永久磁石式同期電動機などを用いた場合、ゼロトルク制御中に実際のトルクを完全に零に維持できず、電動機3とバッテリ5との間に微小電流が継続して流れることから、バッテリ5の過充電や過放電を防止するためにエネルギ効率が悪い強制充電や強制放電が実行されてしまう。その対策として、電動機3に微小な駆動トルクと回生トルクとを交互に発生させてSOCを所定許容範囲内に維持するSOC維持制御が特許文献1で提案されている。
車両の定速走行時には、駆動輪14側から逆伝達される駆動力を受けて電動機3が回転しているため、何ら支障なく電動機3に駆動トルクや回生トルクを発生させてSOC維持制御(残存容量維持制御)を実行できる。
【0036】
しかしながら、車両停車中には、油圧ポンプ駆動によるエンジン負荷の増大を防止するためにクラッチC1と共にクラッチC2が切断状態に保持されており、クラッチC2の連れ回り現象により電動機3は回転して微小電流を発生させているものの、連れ回り現象により伝達される僅かな駆動力ではSOC維持制御で要求される所期の駆動トルクや回生トルクを発生できない。
【0037】
よって、クラッチC2を接続してエンジン1の駆動力を電動機3に確実に伝達する必要があるが、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、車両停車中のクラッチC2は切断状態に保持されているため、そのままではSOC維持制御を実行できず、エネルギ効率が悪い強制充電や強制放電の実行を回避できないという問題があった。
そこで、本実施形態では、車両停車中であってもゼロトルク制御中のときには通常時と異なるクラッチ制御を実行しており、以下、当該対策のためにECU21が実行する処理を詳述する。
【0038】
ECU21は車両のイグニションスイッチがオンされているときに、図2に示す制御切換ルーチンを所定の制御インターバルで実行している。
まず、ステップS2で車速センサ28により検出された車速Vに基づき車両が停車したか否かを判定し、No(否定)のときには一旦ルーチンを終了する。また、ステップS2の判定がYes(肯定)のときにはステップS4に移行し、レバー位置センサ30により検出されたセレクトレバー29の操作位置を判定する。セレクトレバー29が走行レンジであるD(ドライブ)レンジのときには、ステップS6に移行してPレンジまたはNレンジからDレンジに切り換えた後のECU21による初回の制御周期であるか否かを判定する。例えば信号待ちなどでブレーキ操作により停車した場合には、停車当初よりセレクトレバー29はDレンジのままであるため、ステップS6でNoの判定を下してステップS8に移行する。
【0039】
ステップS8では、発進後の変速に備え、奇数歯車機構G1を第3速に、偶数歯車機構G2を発進段である第2速に切り換えると共に、クラッチC1及びクラッチC2を共に切断状態に切り換え、その後にルーチンを終了する。クラッチC1,C2の切断により車両停車中の油圧ポンプ駆動のためのエンジン負荷が軽減され、同時に車両の発進準備が整う。そして、運転者によりアクセル操作が行われると、クラッチC2が接続状態に切り換えられ、アクセル操作に応じてエンジン1の駆動力が増加して車両が発進する。
なお、このときには必ずしも発進変速段への切換を行う必要はなく、例えば偶数歯車機構G2をニュートラルに保持し、アクセル操作が行われた時点で偶数歯車機構G2を発進変速段に切り換えるようにしてもよい。
【0040】
また、ステップS4でセレクトレバー29がPレンジまたはNレンジであると判定したときには、ステップS10に移行してゼロトルク制御中であるか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS12に移行する。例えば、渋滞などで比較的長く停車するためにセレクトレバー29がDレンジからPレンジまたはNレンジに切り換えられ、且つゼロトルク制御中でないときに、ECU21はステップS4からステップS10を経てステップS12に移行する。ステップS12では奇数歯車機構G1及び偶数歯車機構G2をニュートラルに切り換えると共に、クラッチC1及びクラッチC2を共に切断状態に切り換える。
従って、この場合もクラッチC1,C2の切断により、車両停車中の油圧ポンプ駆動のためのエンジン負荷が軽減される。続くステップS14ではSOC維持制御を中止する。当該制御の詳細は以下に述べるが、SOC維持制御を開始していないときには、そのままルーチンを終了する。
【0041】
一方、ゼロトルク制御中であるとして上記ステップS10でYesの判定を下したときには、ステップS16に移行して奇数歯車機構G1及び偶数歯車機構G2をニュートラルに切り換えると共に、クラッチC1を切断状態に、クラッチC2を接続状態に切り換える。続くステップS18ではSOC維持制御を開始した後、ルーチンを終了する(残存容量制御手段)。
そして、車両発進のために運転者によりセレクトレバー29がPレンジまたはNレンジからDレンジに切り換えられると、ECU21はステップS4からステップS6に移行する。このときにはDレンジへの切換後の初回の制御周期のため、ステップS6でYesの判定を下してステップS12に移行する。
【0042】
ステップS12ではクラッチC2を切断状態に切り換え、続くステップS14ではSOC維持制御を中止する。その後に再びステップS6に移行すると、2回目の制御周期であることからNoの判定を下し、ステップS8に移行して偶数歯車機構G2を第2速に切り換えて車両発進に備える。
一方、上記ステップS18によるSOC維持制御の開始、及びステップS14によるSOC維持制御の中止に応じて、ECU12は図3に示すSOC維持制御ルーチンを実行する。
まず、ステップS22ではバッテリ5のSOCが予め設定された充電判定値SOC0以上であるか否かを判定する。例えば充電判定値SOC0としては、上記強制充電や強制充電を必要としないSOCの所定許容範囲の中央値、即ち、30%から70%の中央値である50%が設定されている。なお、SOCの算出には周知の手法を用いることができ、例えばバッテリ5を充電する際の入力電流やバッテリ5を放電させる際の出力電流を逐次積算することにより現在のSOCを推定する。
【0043】
ステップS22の判定がYesのときにはステップS24で電動機3に駆動側の微小トルクを発生させ、続くステップS26でバッテリ5のSOCが予め設定された所定量、例えば0.8%減少したか否かを判定する。ステップS26の判定がYesになるとステップS28に移行して電動機3への要求トルクを零に戻した後、ステップS30でSOCの増減方向を判定する。SOCが減少中のときにはそのままルーチンを終了し、SOCが増加中のときにはステップS40に移行してSOC維持制御を実行した後にルーチンを終了する(残存容量制御手段)。例えばSOC維持制御としては、特許文献1の記載されたものと同様の処理が実行される。即ち、図4のタイムチャートで示すように、電動機3に回生側と駆動側との微小トルクを交互に発生させながら、50%近傍の狭い制御幅内でバッテリ5のSOCを増加側及び減少側で共に、例えば0.8%の変動量をもって変動させる。
【0044】
また、バッテリ5のSOCが充電判定値SOC0未満であるとしてステップS22でNoの判定を下したときには、ステップS32で電動機3に回生側の微小トルクを発生させ、続くステップS34でバッテリ5のSOCが予め設定された所定量、例えば0.8%増加したか否かを判定する。ステップS34の判定がYesになるとステップS36で電動機3への要求トルクを零に戻した後、ステップS38でSOCの増減方向を判定する。SOCが増加中のときにはそのままルーチンを終了し、SOCが減少中のときには上記ステップS40に移行してSOC維持制御を実行した後にルーチンを終了する(残存容量制御手段)。
なお、このようにSOC維持制御の要否判定に先だって、電動機3に駆動側または回生側の微小トルクを一時的に発生させているのは、バッテリ5のSOCを故意に放電側または充電側に変化させることにより、SOC維持制御が頻繁に開始及び終了する事態を防止する趣旨である。
【0045】
以上のように本実施形態では、車両停車中においてセレクトレバー29がDレンジにあるとき、及びPレンジまたはNレンジであってもゼロトルク制御を実行中でないときには、例えば先行技術のようなハイブリッド電気自動車と同様にクラッチC1及びクラッチC2を共に切断状態に保持することから、車両停車中の油圧ポンプを駆動するためのエンジン負荷を軽減することができる。
そして、PレンジまたはNレンジによる車両停車中でゼロトルク制御を実行中のときには、電動機3側のクラッチC2を接続することから、エンジン1の駆動を利用して電動機3に回生側と駆動側との微小トルクを交互に発生させるSOC維持制御を適切に実行することができる。このため、バッテリ5のSOCを所定許容範囲の中央値である50%近傍に維持でき、エネルギ効率が悪い強制充電や強制放電の実行を確実に回避することができる。
【0046】
また、このときには停車発電制御に必要なクラッチC2側のみを接続し、クラッチC1側は切断状態を継続しているため、油圧ポンプ駆動のためのエンジン負荷の増加、ひいてはそれに伴う燃料消費を最小限に抑制した上で、上記作用効果を得ることができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では前進6段のデュアルクラッチ式変速機2を備えたハイブリッド電気自動車に適用したが、変速機2の形式はこれに限るものではない。例えば、奇数歯車機構G1や偶数歯車機構G2を構成する変速段や、各変速段の配列、並びに各変速段における切換機構などを任意に変更してもよい。
【0047】
また、デュアルクラッチ式変速機2に代えて一般的な変速機を適用するようにしてもよい。この場合には、PレンジまたはNレンジによる車両停車中でゼロトルク制御を実行していないときには、クラッチ(本実施形態のクラッチC2に相当)を切断することによりエンジン負荷を軽減する一方、ゼロトルク制御を実行中のときにはクラッチを接続してSOC維持制御を実行するように構成すればよい。
【0048】
また、上記実施形態では、強制充電や強制充電を行う必要がないSOCの所定許容範囲の中央値である50%を閾値として設定し、現在のバッテリ5のSOCが50%以上のときに増加側と減少側とのSOC変動量を共に0.8%に設定したSOC維持制御を実行した。
しかし、本発明はこれらの設定に限定されるものではなく各設定を任意に変更してもよい。例えば、SOCを判定するための閾値を所定許容範囲の中央値以外に設定したり、所定許容範囲とは関係ない値に設定したりしてもよい。また、SOC維持制御で適用する増加側及び減少側のSOC変動量に関しても、上記設定から任意に変更してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 エンジン
2 変速機
3 電動機
5 バッテリ
14 駆動輪
21 ECU
(バッテリ残存容量検出手段、強制充放電制御手段、残存容量制御手段)
G1 奇数歯車機構(第1変速機構)
G2 偶数歯車機構(第2変速機構)
C1 クラッチ(第1クラッチ)
C2 クラッチ(第2クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電動機とを湿式クラッチを介して接続し、該湿式クラッチの切断時にバッテリからの電力供給で上記電動機により発生された駆動力を変速機の変速機構を介して駆動輪側に伝達して車両を走行させ、上記湿式クラッチの接続時には上記エンジンの駆動力または該エンジンの駆動力及び上記電動機の駆動力を上記変速機の変速機構を介して駆動輪側に伝達して上記車両を走行させる一方、上記変速機を非走行レンジに切り換えた車両停車中には上記湿式クラッチを切断状態に保持するハイブリッド電気自動車の制御装置において、
上記バッテリの残存容量を検出するバッテリ残存容量検出手段と、
上記バッテリ残存容量検出手段により検出された上記バッテリの残存容量が所定許容範囲内から外れたときに、該残存容量を上記所定許容範囲内に戻すべく上記電動機を制御して上記バッテリの強制充電または強制放電を行う強制充放電制御手段と、
上記変速機を非走行レンジに切り換えた車両停車中で、且つ上記電動機に要求されるトルクが零に設定された所定運転状態にあると判定したとき、上記湿式クラッチを接続状態に切り換えると共に、上記強制充電または強制放電に必要な上記電動機のトルクより絶対値が小さい回生側及び駆動側の微小トルクを上記電動機に交互に発生させることにより、上記バッテリの残存容量を上記所定許容範囲内に維持する残存容量維持制御を実行する残存容量制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の充放電制御装置。
【請求項2】
上記湿式クラッチとして上記エンジンに第1クラッチ及び第2クラッチを並列的に接続すると共に、上記変速機構として上記第1クラッチに第1変速機構を接続すると共に上記第2クラッチに第2変速機構を接続して上記変速機をデュアルクラッチ式変速機として構成し、該第2クラッチと第2変速機構との間に上記電動機を介装する一方、上記非走行レンジでの車両停車中には上記第1クラッチ及び第2クラッチを切断状態に保持するようにし、
上記残存容量制御手段は、上記電動機への要求トルクを零に設定した所定運転状態にあると判定したとき、上記第2クラッチのみを接続状態に切り換えて上記残存容量維持制御を実行することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の充放電制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−116394(P2012−116394A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269388(P2010−269388)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】