説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】加速時の燃費を改善しつつ良好な加速性能を確保可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】運転者の要求トルクをエンジン(2)と電動機(6)とに配分する際に、ハイブリッド電気自動車(1)が所定の加速要求状態にないと判定したときには、電動機(6)に配分されるトルクを電動機(6)の連続定格出力トルクの範囲内に制限する一方、ハイブリッド電気自動車(1)が上記加速要求状態にあると判定したときには、上記制限を解除し電動機(6)に配分されるトルクを電動機(6)の短時間定格出力トルクの範囲内に制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の動力源としてエンジンと電動機とが搭載されたハイブリッド電気自動車において、運転者の要求トルクをエンジンと電動機とに配分してエンジン及び電動機を制御するためのハイブリッド電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンと電動機とを車両に搭載し、エンジンの駆動力と電動機の駆動力とをそれぞれ車両の駆動輪に伝達可能としたハイブリッド電気自動車が開発され実用化されている。このハイブリッド電気自動車では、アクセルペダルの操作量などに基づき運転者の要求トルクが求められ、求められた要求トルクが、ハイブリッド電気自動車の運転状態などに応じて電動機とエンジンとに配分される。
【0003】
このようなハイブリッド電気自動車において、例えば側道から幹線道路への進入時や追い越し車線への車線変更時などで急加速しようとした場合、キックダウン制御により変速機の変速段を低速側にシフトダウンすることにより、急加速に必要な駆動力を駆動輪に伝達させて急加速の要求に応えるようにしている。
また、このようなキックダウン制御による駆動力の確保に代えて、急加速の要求があったときに、通常時の要求トルク設定用マップを、より一層大きい要求トルクが設定される大トルク設定マップに切り換えるようにしたハイブリッド電気自動車の制御装置が特許文献1によって提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−094688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
急加速の要求があったときに、キックダウン制御によって変速段をシフトダウンするようにした場合、変速段のシフトダウンに伴ってエンジン回転数が上昇することにため、エンジンの燃料消費量が増大する。この結果、エンジンの燃費が悪化するという問題が生じる。
また、このような問題を回避するため、変速段をシフトダウンすることなく急加速の要求に対応しようとしても、急加速の要求に対して十分な加速性能が得られないという問題が生じる。更に、この場合にも急加速の要求に対応して可能な範囲で要求トルクを増大させると、増大した要求トルクがエンジン及び電動機に配分されるので、エンジンの燃料消費量が増大し、燃費が悪化することになる。
【0006】
また、特許文献1の制御装置においては、より大きい要求トルクを設定可能な大トルク設定マップに切り換えるようにしているので、急加速の要求に対応した加速性能を得ることができるものの、要求トルクの増大に伴ってエンジンへの配分トルクも増大するので、エンジンの燃料消費量が増大し、燃費が悪化することになる。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加速時の燃費を改善しつつ良好な加速性能を確保可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド電気自動車の制御装置は、走行用の動力源として搭載されたエンジンと、走行用の動力源として搭載された電動機と、運転者の要求トルクを上記エンジンと上記電動機とに配分するトルク配分手段と、上記トルク配分手段によって上記エンジンに配分されたトルクに基づき上記エンジンを制御するエンジン制御手段と、上記トルク配分手段によって上記電動機に配分されたトルクに基づき上記電動機を制御する電動機制御手段とを備えたハイブリッド電気自動車の制御装置であって、上記トルク配分手段は、上記運転者が所定の加速要求を行っている加速要求状態に上記ハイブリッド電気自動車があるか否かを判定する加速要求判定手段と、上記ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にないと上記加速要求判定手段が判定したときには、上記電動機に配分されるトルクを上記電動機の連続定格出力トルクの範囲内に制限する一方、上記ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にあると上記加速要求判定手段が判定したときには、上記電動機に配分されるトルクに対する上記連続定格出力トルクの範囲内への制限を解除するトルク制限手段とを備えることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
このように構成されたハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、トルク配分手段が運転者の要求トルクを走行用の動力源であるエンジンと電動機とに配分し、配分されたトルクに基づき、エンジン制御手段及び電動機制御手段がエンジン及び電動機をそれぞれ制御する。そして、運転者が所定の加速要求を行っている加速要求状態にハイブリッド電気自動車がない場合、電動機に配分されるトルクが、トルク制限手段によって電動機の連続定格出力トルクの範囲内に制限される。一方、ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にある場合、トルク制限手段による上記制限が解除されることにより、電動機の連続定格出力トルクを超えるトルクを電動機に配分して出力させることが可能となる。
【0009】
また、上記ハイブリッド電気自動車の制御装置において、上記トルク制限手段は、上記加速要求状態にあると上記加速要求判定手段が判定したときには上記制限を解除し、上記電動機に配分されるトルクを上記電動機の短時間定格出力トルクの範囲内に制限することを特徴とする(請求項2)。
【0010】
このように構成されたハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にあって、電動機への配分トルクに対する連続定格出力トルクの範囲内への制限を解除すると、トルク制限手段は電動機に配分されるトルクを電動機の短時間定格出力トルクの範囲内に制限する。
これにより、電動機の連続定格出力トルクを超えるトルクを電動機に配分可能となると共に、電動機に配分されるトルクを電動機の短時間定格出力トルクの範囲内に制限して、過剰なトルクが電動機に配分されるのを確実に防止する。
【0011】
また、上記ハイブリッド電気自動車の制御装置において、上記トルク制限手段は、上記加速要求状態にあると上記加速要求判定手段が判定して上記制限を解除した後、所定時間が経過すると、再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限することを特徴とする(請求項3)。
【0012】
このように構成されたハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にあって、トルク制限手段が電動機への配分トルクに対する連続定格出力トルクの範囲内への制限を解除しても、所定時間が経過すると、トルク制限手段は再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限する。
【0013】
このようなハイブリッド電気自動車の制御装置において、上記トルク制限手段は、上記所定時間の経過後に再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限する際には、上記電動機に配分されるトルクの上限値を上記連続定格出力トルクまで漸減させて、上記連続定格出力トルクの範囲内への制限に移行することを特徴とする(請求項4)。
【0014】
このように構成されたハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、一旦電動機の連続定格出力トルクの範囲内への上記制限を解除し、所定時間が経過して再び電動機に配分されるトルクを連続定格出力トルクの範囲内に制限する際には、電動機に配分されるトルクの上限値を上記連続定格出力トルクまで漸減させることにより、連続定格出力トルクの範囲内への制限に移行する。
【0015】
また、上記ハイブリッド電気自動車の制御装置において、上記トルク制限手段は、上記制限を解除した後、所定時間が経過する前に上記運転者が加速を要求していないと上記加速要求判定手段が判定すると、再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限することを特徴とする(請求項5)。
【0016】
このように構成されたハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にあって、トルク制限手段が電動機の短時間定格出力トルクの範囲内への上記制限を解除した後、所定時間が経過する前であっても、運転者が加速を要求しなくなると、トルク制限手段は再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、ハイブリッド電気自動車が所定の加速要求状態にある場合、電動機に配分されるトルクに対する連続定格出力トルクの範囲内への制限が解除されることにより、電動機の連続定格出力トルクを超えるトルクが電動機に配分可能となる。このため、従来は加速要求に対応してエンジン側にも配分していたトルクを電動機で賄うことが可能となり、エンジンの出力トルク増大に伴う燃料消費量の増大に起因した燃費の悪化を防止することができる。
また、電動機の出力トルクが増大することによって加速要求に対応したトルクを確保可能となり、駆動力確保のための変速段のシフトダウンが不要となるので、電動機を主体とした加速と相俟って、ハイブリッド電気自動車のスムーズな加速が可能となる。
【0018】
また、請求項2のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にあるときには、電動機の連続定格出力トルクを超えるトルクを電動機に配分可能となるが、このとき電動機に配分されるトルクを電動機の短時間定格出力トルクの範囲内に制限するので、過剰なトルクが電動機に配分されるのを確実に防止することが可能となる。この結果、過剰なトルクの発生に起因した電動機の異常な温度上昇、劣化、破損などの不具合を確実に防止することができる。
【0019】
また、請求項3のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にあって、電動機への配分トルクに対する連続定格出力トルクの範囲内への制限を解除しても、所定時間が経過すると、トルク制限手段は再び電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限する。これにより、連続定格出力を超えるトルクが長時間にわたって電動機に配分されるのを確実に防止し、電動機の異常な温度上昇、劣化、破損などの不具合を防止することができる。
【0020】
また、請求項4のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、所定時間が経過して再び電動機に配分されるトルクを連続定格出力トルクの範囲内に制限する際には、電動機に配分されるトルクの上限値を上記連続定格出力トルクまで漸減させて、連続定格出力トルクの範囲内への制限に移行するようにしたので、所定時間の経過に伴い電動機の出力トルクが突然減少するようなことがなくなり、電動機の出力トルクの急変に起因した運転フィーリングの悪化を防止することができる。
【0021】
また、請求項5のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、所定時間が経過する前に運転者が加速を要求しなくなると、トルク制限手段は再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限するので、加速要求がないにも関わらず電動機に配分されるトルクに対する制限が解除される事態を確実に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたハイブリッド電気自動車の全体構成図である。
【図2】図1のハイブリッド電気自動車において、車両ECUが実行するトルク配分制御に対応したブロック図である。
【図3】車両ECUにおいて、トルク配分部がトルク制限部及び走行状態判定部を用いて実行するアシストモード切換制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたハイブリッド電気自動車1の全体構成図である。
ディーゼルエンジンであるエンジン2の出力軸にはクラッチ4の入力軸が連結され、クラッチ4の出力軸は永久磁石式同期電動機(以下電動機という)6の回転軸を介して変速機8の入力軸が連結されている。また、変速機8の出力軸は、プロペラシャフト10、差動装置12及び駆動軸14を介して左の駆動輪16及び右の駆動輪18にそれぞれ連結されている。なお、本実施形態において変速機8は、前進6段の自動変速機で構成されており、前進変速段のうち5速及び6速がオーバドライブの変速段となっている。
【0024】
上記のような構成により、クラッチ4が接続されているときには、エンジン2の出力軸と電動機6の回転軸の両方が、変速機8を介して左右の駆動輪16,18と機械的に連結可能となり、クラッチ4が切断されているときには電動機6の回転軸のみが変速機8を介して左右の駆動輪16,18と機械的に連結可能となる。
【0025】
電動機6は、バッテリ20に蓄えられた直流電力がインバータ22によって交流電力に変換されて供給されることによりモータとして作動する。電動機6の駆動トルクは、変速機8によって適切な速度に変速された後に左右の駆動輪16,18に伝達される。また、ハイブリッド電気自動車1の減速時には、電動機6が発電機として作動し、ハイブリッド電気自動車1の運動エネルギが変速機8を介し電動機6に伝達されて交流電力に変換される。そして、このとき電動機6が発生する回生制動トルクが変速機8を介して左右の駆動輪16,18に伝達される。
このように電動機8が発電機として作動することによって得られた交流電力は、インバータ22によって直流電力に変換された後、バッテリ20に充電され、ハイブリッド電気自動車1の運動エネルギが電気エネルギとして回収されるようになっている。
【0026】
一方、エンジン2の駆動トルクは、クラッチ4が接続されているときに電動機6の回転軸を経由して変速機8に伝達され、適切な速度に変速された後に左右の駆動輪16,18に伝達されるようになっている。従って、エンジン2の駆動トルクが左右の駆動輪16,18に伝達されているときに電動機6がモータとして作動する場合には、エンジン2の駆動トルクと電動機6の駆動トルクとがそれぞれ変速機8を介して左右の駆動輪16,18に伝達されることになる。即ち、クラッチ4が接続されているときには、ハイブリッド電気自動車1の駆動のために左右の駆動輪16,18に伝達されるべき駆動トルクの一部をエンジン2から供給すると共に、残部を電動機6から供給することが可能となる。
【0027】
また、バッテリ20の充電率(以下SOCという)が低下してバッテリ20を充電する必要があるときには、電動機6が発電機として作動すると共に、エンジン2の駆動力の一部を用いて電動機6を駆動することにより発電が行われる。こうして発電された交流電力は、インバータ22によって直流電力に変換された後に、バッテリ20に充電される。
【0028】
車両ECU24は、ハイブリッド電気自動車1やエンジン2の運転状態、及びエンジンECU(エンジン制御手段)26、インバータECU(電動機制御手段)28並びにバッテリECU30からの情報などに応じて、クラッチ4の接続及び切断制御及び変速機8の変速段切換制御を行うと共に、これらの制御状態やハイブリッド電気自動車1の発進、加速、減速など様々な運転状態に合わせてエンジン2や電動機6を適切に運転するための統合制御を行う。
そして、このような制御を行うために、車両ECU24にはアクセルペダル32の踏込量を検出するアクセル開度センサ34のほか、電動機6の出力軸に装着されて電動機6の回転数を検出する電動機回転数センサ36、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数センサ38、及び変速機8の出力軸の回転速度に基づきハイブリッド電気自動車1の走行速度を検出する車速センサ40などが接続されている。
【0029】
エンジンECU26は、エンジン2の始動・停止制御やアイドル制御、或いは排ガス浄化装置(図示せず)の再生制御など、エンジン2自体の運転に必要な各種制御を行うと共に、車両ECU24によって設定されたエンジン2に必要とされるトルクをエンジン2が発生するよう、エンジン2の燃料の噴射量や噴射時期などを制御する。
【0030】
一方、インバータECU28は、車両ECU24によって設定された電動機6が発生すべきトルクに基づきインバータ22を制御することにより、電動機6をモータ作動または発電機作動させて電動機6の運転を制御する。また、電動機6やインバータ22の温度を検出する温度センサ(図示せず)からの出力信号を受けて、電動機6の温度を車両ECU24に送るほか、電動機6やインバータ22の作動状態を監視して、その情報を車両ECU24に送っている。
【0031】
バッテリECU30は、バッテリ20の温度や、バッテリ20の電圧、インバータ22とバッテリ20との間に流れる電流などを検出すると共に、これらの検出結果からバッテリ20のSOCを求めると共に、バッテリ20の作動状態を監視している。そして、求めたSOCやバッテリ20の作動状態を上記検出結果と共に車両ECU24に送っている。
このように構成されたハイブリッド電気自動車1において、ハイブリッド電気自動車1を走行させる際に車両ECU24を中心として行われる制御の概要は以下の通りである。
【0032】
ハイブリッド電気自動車1が走行しているとき、車両ECU24はアクセル開度センサ34によって検出されたアクセルペダル32の踏込量と変速機8で選択されている変速段とに基づき、運転者の要求トルクを求める。この要求トルクは、アクセルペダル32の踏込量に応じて、エンジン2及び電動機6からなるパワートレーンから出力すべき駆動トルクである。車両ECU24は、後述するトルク配分制御を実行することにより、要求トルクをエンジン2と電動機6とに配分し、配分したトルクをエンジンECU26やインバータECU28に指示すると共に、必要に応じて変速機8やクラッチ4を制御する。
【0033】
エンジンECU26及びインバータECU28は、車両ECU24が配分したトルクの指令を受けてエンジン2及び電動機6をそれぞれ制御する。そして、エンジン2及び電動機6のそれぞれに0(kg・m)ではないトルクが配分された場合は、エンジン2及び電動機6の出力トルクが変速機8を介して左右の駆動輪16,18に伝達される。また、電動機6にトルクが配分されない場合、即ち電動機6に0(kg・m)のトルクが配分された場合は、電動機6からトルクは発生せず、エンジン2のみによって要求トルクが出力される。一方、電動機6にのみトルクが配分された場合、即ちエンジン2に0(kg・m)のトルクが配分された場合は、クラッチ4が切断された状態で電動機6により要求トルクの出力が行われる。こうしてパワートレーンから出力されたトルクが変速機8を介して左右の駆動輪16,18に伝達され、ハイブリッド電気自動車1が走行する。
【0034】
なお、上述のようにエンジン2及び電動機6のいずれかにトルクが配分されない場合、これを制御上ではエンジン2または電動機6に0(kg・m)のトルクが配分されると見なすことができる。そこで、以下のトルク配分の制御に関する説明では、エンジン2及び電動機6にトルクを配分すると述べた場合、エンジン2及び電動機6のいずれかにトルクが配分されない場合も含むものとする。
【0035】
次に、車両ECU24が要求トルクをエンジン2と電動機6とに配分するために実行するトルク配分制御ついて詳細に説明する。図2は、車両ECU24が実行するトルク配分制御に対応したブロック図である。図2に示すように、車両ECU24はトルク配分制御を実行するため、運転者の要求トルクを求めて設定する要求トルク設定部42と、要求トルク設定部42で設定された要求トルクをエンジン2及び電動機6に配分するトルク配分部(トルク配分手段)44とを備えるほか、上述した変速機8の制御を行うための変速制御部46を備えている。
【0036】
要求トルク設定部42は、アクセル開度センサ34が検出したアクセルペダル32の踏込量と、変速機8で選択されている変速段とに基づき、運転者の要求トルクを求める。なお、ここで用いる変速段の情報は、変速機8の制御を行う変速制御部46から得ている。そして、要求トルク設定部42で設定された要求トルクはトルク配分部44に送られる。
【0037】
トルク配分部44は、要求トルク設定部42から送られてきた要求トルクと、電動機回転数センサ36が検出した電動機6の回転数(以下、電動機回転数という)とに基づき、予め定められているトルク配分ルールを用い、エンジン2及び電動機6にトルクを配分する。このようなトルクの配分により、エンジン2の出力すべきトルクと、電動機6の出力すべきトルクとを設定するため、トルク配分部44はトルク設定部44aを有している。
【0038】
ここで、電動機6に過剰なトルクが配分されてしまうと、電動機6の異常な温度上昇や劣化、或いは破損などの不具合を招くおそれがあるため、電動機6に配分されるトルクが過剰なトルクとならないように制限する必要がある。そこで、トルク配分部44は、トルク設定部44aによって電動機に配分されるトルクを制限するためのトルク制限部(トルク制限手段)44bを有している。
【0039】
トルク制限部44bによるトルクの制限は、ハイブリッド電気自動車1の運転者が後述する所定の加速要求を行っている加速要求状態など、ハイブリッド電気自動車1が予め定められている特定運転状態にある場合と、この特定運転状態ではない通常運転状態にある場合とで異なっている。なお本実施形態では、このようなトルクの制限内容の違いに対応し、ハイブリッド電気自動車1が上記通常運転状態にある場合にトルク制限部44bが行うトルク配分の制限を通常モード、ハイブリッド電気自動車1が上記特定運転状態にある場合にトルク制限部44bが行うトルク配分の制限をアシストモードと称している。
以下では、これら通常モード及びアシストモードにおけるトルク配分の制限について詳しく説明する。
【0040】
電動機6には、連続的に使用されたときに出力可能な最大トルクである連続定格出力トルクと、予め定められた短時間の間で出力可能な最大トルクである短時間定格出力トルクとが仕様により定められている。
そこで、本実施形態においてトルク制限部44bは、ハイブリッド電気自動車1が上記通常運転状態にある場合に、通常モードによるトルク配分の制限を行い、電動機6に配分されるトルクが、電動機6の連続定格出力トルクを超えることがないよう、トルク設定部44aが電動機に配分するトルクを電動機6の連続定格出力トルクの範囲内に制限する。
【0041】
従って、通常モードにおいてトルク設定部44aがエンジン2及び電動機6に要求トルクを配分する際には、トルク配分ルールに従い、電動機6の連続定格出力トルクを超えない範囲で、電動機6にトルクを配分すると共に、残りをエンジン2に配分する。
なお、このときトルク配分ルールに従って電動機6に配分されるトルクが0(kg・m)である場合には、要求トルクの全部がエンジン2に配分される。また、要求トルクが電動機6の連続定格出力トルク以下である場合に、トルク配分ルールに従ってエンジン2に配分されるトルクが0(kg・m)である場合には、要求トルクの全部が電動機6に配分される。
【0042】
一方、ハイブリッド電気自動車1が上述した特定運転状態にある場合には、トルク制限部44bがアシストモードによるトルク配分の制限を行い、電動機6への配分トルクに対する連続定格出力トルクの範囲内への制限を解除し、トルク設定部44aが電動機に配分するトルクを電動機6の短時間定格出力トルクの範囲内に制限する。従って、アシストモードにおいてトルク設定部44aがエンジン2及び電動機6に要求トルクを配分する際には、トルク配分ルールに従い、電動機6の短時間定格出力トルクを超えない範囲で、電動機6にトルクを配分すると共に、残りをエンジン2に配分する。
【0043】
アシストモードの場合、エンジン2に配分されるトルクについては、原則としてアシストモードに移行する前に通常モードでエンジン2に配分されていたトルクに保持され、加速要求によって増大したトルク分を含む残りのトルクが、電動機6の短時間定格出力トルクを超えない範囲で電動機6に配分されるようになっている。電動機6に配分されるトルクへの制限については、設定された要求トルクから電動機6に配分されたトルクそのものを電動機6の短時間定格出力トルクを超えない範囲に制限するようにしても良いし、電動機6に配分されるトルクが常に短時間定格出力トルクを超えることのないように要求トルクの設定を制限することで、結果的に電動機6への配分トルクを電動機6の短時間定格出力トルクを超えない範囲に制限するようにしても良い。
なお、アシストモードでは、このようなトルクの配分方法に代えて、要求トルクから電動機6の短時間定格出力トルクを超えない範囲でまず電動機6にトルクを配分し、電動機6に配分されたトルクだけでは要求トルクに不足する場合に、不足分をエンジン2に配分するようにしても良い。
【0044】
このように、アシストモードではトルク設定部44aが電動機6に配分するトルクを電動機6の短時間定格出力トルクの範囲内に制限することにより、電動機6の連続定格出力トルクを超えるトルクを電動機6から出力させることが可能となる。従って、例えばハイブリッド電気自動車1が上記加速要求状態にある場合には、電動機6から電動機6の連続定格出力トルクを超えるトルクを得ることにより、運転者の加速要求に対応したトルクの増大分を電動機6で賄うことが可能となる。
【0045】
この結果、エンジン2に配分されるトルクの増大に伴うエンジン2の燃料消費量増大に起因した燃費の悪化を防止することができる。
また、電動機6の出力トルクを増大させることによって、加速要求に対応したトルクを確保することが可能となるので、加速に必要な駆動力を確保するための変速段8のシフトダウンが不要となり、電動機6を主体とした加速と相俟って、ハイブリッド電気自動車1のスムーズな加速が可能となる。
【0046】
このようにアシストモードでは、電動機6の連続定格出力トルクを超えるトルクが電動機6から出力されることになるが、アシストモードが長時間継続すると、電動機6が短時間定格出力トルクを出力可能な上限運転時間を超過する可能性がある。そこで、トルク配分部44は、アシストモードが適切に選択されるようにするため、アシストモード切換制御を実行する。そして、このアシストモード切換制御を行うため、トルク配分部44は、トルク制限部44bに加え、ハイブリッド電気自動車1が上記加速要求状態を含む上記特定運転状態にあるか否かを判定する走行状態判定部(加速要求判定手段)44cを有している。
【0047】
以下では、トルク配分部44がこれらトルク制限部44b及び走行状態判定部44cを用いて実行するアシストモード切換制御について詳細に説明する。図3は、トルク配分部44がトルク制限部44b及び走行状態判定部44cを用いて実行するアシストモード切換制御のフローチャートである。ハイブリッド電気自動車1の図示しないキースイッチが投入されると、トルク配分部44は図3のフローチャートに従って所定の制御周期でアシストモード切換制御を実行する。
【0048】
アシストモード切換制御を開始すると、トルク配分部44はステップS1において、トルク制限部44bに記憶しているフラグFの値を判定する。フラグFの値は、アシストモードが選択されているときに1となり、アシストモードが選択されない通常モードのときに0となるようになっている。電動機6への配分トルクの制限については通常モードが初期設定されており、フラグFの初期値は0となっているので、トルク配分部44はステップS1の判定によって処理をステップS2に進める。
【0049】
ステップS2においてトルク配分部44は、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にあるか否かを走行状態判定部44cに判定させる。本実施形態の場合、車速センサ40によって検出されたハイブリッド電気自動車1の走行速度が所定速度(例えば40km/h)以上であると共に、エンジン回転数センサ38によって検出されたエンジン2の回転数(以下、エンジン回転数とする)が所定回転数(例えば2500rpm)以下であるときに、ハイブリッド電気自動車1が上記適合状態にあると判定するようにしている。
【0050】
このような適合状態の判定を行うのは、次のような理由によるものである。上述したように、アシストモードでは電動機6の連続定格出力トルクを超えるトルクを電動機6に配分可能とするが、このような状態が頻発することは、例えアシストモードの継続時間を適切に調整しても、電動機6にとっては好ましいものではない。そこで、本実施形態ではアシストモードが選択される運転状態を絞り込み、主として側道から幹線道路への合流時や追い越し時の加速時などのように、ある程度速度が上昇した走行状態にある場合にアシストモードが適用されるようにしている。
【0051】
このような走行状態の絞り込みを行うため、ステップS2でトルク配分部44は、ハイブリッド電気自動車1の走行速度が所定速度(例えば40km/h)以上であるか否かを走行状態判定部44cに判定させている。また、高回転域では電動機6からトルクを出力させることができないため、ステップS2でトルク配分部44は、エンジン回転数が所定回転数以下であるか否かいついても走行状態判定部44cに判定させている。
【0052】
走行速度が所定速度以上であると共にエンジン回転数が所定回転以下であって、ハイブリッド電気自動車1が上記適合状態にあると、ステップS2において走行状態判定部44cが判定した場合、トルク配分部44は処理をステップS3に進める。
ステップS3乃至S5の処理は、トルク配分部44が走行状態判定部44cを用いて行う処理であり、ステップS3においてトルク配分部44は、アクセル開度センサ34によって検出されたアクセルペダル32の踏込量θacが所定の基準踏込量θo以上であるか否かを走行状態判定部44cに判定させる。このステップS3の処理は、走行状態判定部44cにより運転者の加速要求が大きいか否かを判定するものである。そして、踏込量θacが基準踏込量θo以上であって、運転者の加速要求が大きいと走行状態判定部44cが判定すると、トルク配分部44は処理をステップS4に進める。
【0053】
ステップS4においてトルク配分部44は、アクセル開度センサ34によって検出されたアクセルペダル32の踏込量θacに基づいて求めた踏込量θacの変化率Racが基準変化率Ro以上であるか否かを、走行状態判定部44cに判定させる。
ステップS4の処理は、運転者によるアクセルペダル34の踏み込みが急であるか否かを判定するものであり、ここで用いられる基準変化率Roは、例えば2%/msに設定される。即ち、本実施形態では、変化率Racが2%/ms以上のときに、運転者によるアクセルペダル34の踏み込みが急であると判定する。なお、変化率Racは、踏込量θacが増大方向、即ちアクセルペダル32がより踏み込まれる状態にあるときに正の値となる。
【0054】
従って、走行状態判定部44cは、ステップS3及びS4の処理により、運転者が急加速を要求している状態、即ち所定の加速要求状態にハイブリッド電気自動車1があるか否かを判定している。そして、ステップS3及びS4の処理により、ハイブリッド電気自動車1が所定の加速要求状態にあると走行状態判定部44cが判定すると、トルク配分部44は処理をステップS5に進め、変速制御部46からの情報に基づき、変速機8において現在選択されている変速段が4速以上であるか否かを、走行状態判定部44cに判定させる。
【0055】
前述のステップS2において、ハイブリッド電気自動車1の走行速度が40km/h以上であって、エンジン回転数が2500rpm以下であると判定しているので、ほとんどの場合は選択されている変速段が4速となる。しかし、このステップS5において選択されている変速段が4速であることを確認することにより、エンジン回転数及び電動機回転数が高回転域となることがないことを再確認している。そして、選択されている変速段が4速以上であると走行状態判定部44cがステップS5で判定すると、トルク配分部44はステップS6に処理を進める。
【0056】
ステップS6においてトルク配分部44は、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値を1とする。こうしてフラグFの値が1とされることにより、トルク制限部44bは、電動機6への配分トルクに対する制限のモードを通常モードからアシストモードに切り換える。更に、次のステップS7でトルク配分部44は、アシストモードの継続時間をカウントするためにトルク制限部44bに設けられているタイマTaのカウントを開始させ、その制御周期を終了する。
【0057】
従って、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードに対する適合状態にあるときに、アクセルペダル32の踏込量θacが基準踏込量θo以上であると共に、踏込量θacの変化率Racが基準変化率Ro以上であって、変速機8で選択されている変速段が4速以上であると走行状態判定部44cが判定したときに、トルク制限部44bがアシストモードを選択することになる。
即ち、前述したように、運転者が所定の加速要求を行っている加速要求状態にハイブリッド電気自動車1があると走行状態判定部44cが判定し、変速機8で選択されている変速段が4速以上であると、トルク制限部44bはアシストモードを選択する。
【0058】
なお、選択されている変速段が4速以上であると判定するのは、上述したように、エンジン回転数及び電動機回転数が高回転域となることがないことを確認するためである。即ち、変速機8で3速以下の変速段が選択されている場合には、電動機6がトルクを出力可能な回転数領域を超えて電動機回転数が上昇する可能性があるので、これを避けるため、選択されている変速段が4速以上であることを確認しているのである。
【0059】
このようにして、ハイブリッド電気自動車1が加速要求状態にあるときにアシストモードが選択されることにより、前述したように電動機6に配分されるトルクに対する連続定格出力トルクの範囲内への制限が解除され、電動機6から短時間定格出力トルクの範囲内で連続定格出力トルクを超えるトルクを出力させることが可能となる。
【0060】
トルク制限部44bによるこのようなトルク配分に対する制限の変更に対応し、トルク設定部44aは要求トルク設定部42が設定した要求トルクから、前述したようにして短時間定格出力トルクの範囲内で電動機6にトルクを配分すると共に、残りのトルクをエンジン2に配分する。
こうしてトルク設定部44aによってエンジン2及び電動機6に配分されたトルクは、前述したようにそれぞれエンジンECU26及びインバータECU28に指示される。そして、エンジンECU26及びインバータECU28は、トルク設定部44aによって配分され指示されたトルクに基づきエンジン2及び電動機6をそれぞれ制御する。
【0061】
このように、ハイブリッド電気自動車1が加速要求状態にあるときに、電動機6の連続定格出力トルクを超えるトルクを電動機6から得ることができるので、この加速要求に対応して増大するトルクを電動機6で賄うことが可能となる。この結果、エンジン2への配分トルクの増大に伴う燃料消費量増大に起因した燃費の悪化を防止することができる。
また、電動機6の出力トルクが増大することによって加速要求に対応したトルクを確保可能となり、駆動力確保のための変速段8のシフトダウンが不要となるので、電動機6を主体とした加速と相俟って、ハイブリッド電気自動車1のスムーズな加速が可能となる。
更に、アシストモードが選択されているときには、電動機6に配分されるトルクを電動機6の短時間定格出力トルクの範囲内に制限するので、過剰なトルクが電動機6に配分されるのを確実に防止することができる。この結果、電動機6による過剰なトルクの発生に起因した電動機6の異常な温度上昇、劣化、或いは破損などの不具合を防止することができる。
【0062】
次の制御周期に移行すると、トルク配分部44は再びステップS1から処理を開始し、前述したように、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値をステップS1において判定する。フラグFの値は、前回の制御周期におけるステップS7の処理により1に変更されているので、ステップS1における判定によってトルク配分部44はステップS10に処理を進める。
【0063】
ステップS10でトルク配分部44は、アクセルペダル32の踏込量θacの変化量Δθacが基準変化量Δθo以上であるか否かを、走行状態判定部44cに判定させる。変化量Δθacは、所定時間(例えば1秒)前にアクセル開度センサ34が検出したアクセルペダル32の踏込量から、現時点でアクセル開度センサ34が検出したアクセルペダル32の踏込量を減じたものである。従って、ステップS10で走行状態判定部44cは、所定時間内にアクセルペダル32の踏み込みが所定量(Δθo)以上戻されたか否かを判定しており、これにより運転者に加速を要求しなくなったか否かを判定する。そして、変化量Δθacが基準変化量Δθo未満であって、運転者には加速を中止する意志がないと走行状態判定部44cが判定した場合、トルク配分部44は処理をステップS13に進める。
【0064】
ステップS13に処理が進むと、トルク配分部44は、トルク制限部44bが有するタイマTaのカウント時間taがモード継続時間to以上となったか否かを判定する。このモード継続時間toは、アシストモードの継続時間であって、短時間定格出力トルクを電動機6から出力させることが可能な運転時間(例えば10秒間)に基づき、ある程度の余裕を考慮して、この運転時間より短めの時間(例えば5秒間)に設定されている。
タイマTaのカウント時間taがモード継続時間toに達していない場合、トルク配分部44はステップS13の判定によってその制御周期を終了し、次の制御周期で再びステップS1から処理を開始する。
【0065】
この場合、フラグFの値は依然として1のままであるので、トルク配分部44は処理をステップS1からステップS10に進める。従って、アクセルペダル32の踏込量θacの変化量Δθacが基準変化量Δθo未満であって、タイマTaのカウント時間taがモード継続時間toに達していない場合、即ち運転者には加速を中止する意志がなく、アシストモードの継続時間がモード継続時間toに達していない状態である限り、トルク制限部44bにおけるフラグFの値は1に保持されアシストモードが選択される。
【0066】
一方、運転者が加速を要求しなくなり、所定時間内にアクセルペダル32の踏み込みが所定量(Δθo)以上戻された場合、ステップS10における走行状態判定部44cの判定により、トルク配分部44が処理をステップS11に進める。また、運転者に加速を中止する意志がなく、アクセルペダル32の踏込量θacの変化量Δθacが基準変化量Δθo未満の状態が継続していても、タイマTaのカウント時間taがモード継続時間toに達した場合には、ステップS13の判定により、同じくトルク配分部44が処理をステップS11に進める。
【0067】
ステップS11においてトルク配分部44は、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値を0に変更し、処理をステップS12に進める。フラグFの値が0とされることにより、トルク制限部44bは電動機6への配分トルクに対する制限のモードをアシストモードから通常モードに切り換える。こうしてアシストモードが終了するので、ステップS12でトルク配分部44は、トルク制限部44bのタイマTaのカウントを停止させ、これをリセットした後、その制御周期を終了する。
通常モードを選択すると、トルク制限部44bは、電動機6に配分されるトルクが電動機6の連続定格出力トルクを超えることがないよう、トルク設定部44aが電動機に配分するトルクを電動機6の連続定格出力トルクの範囲内に制限する。
【0068】
なお、ステップS11においてフラグFの値が0とされて、電動機6への配分トルクに対する制限のモードを通常モードに切り換えると、トルク制限部44bは、電動機6への配分トルクに対する制限を直ちに短時間定格出力トルクから連続定格出力トルクに切り換えるのではなく、短時間定格出力トルクで電動機6を運転可能な時間の範囲内で、短時間定格出力トルクから電動機6への配分トルクに対する制限値を漸減させて連続定格出力トルクに近付けていく。これにより、制限のモードの切り換えに伴って電動機6の出力トルクが突然減少するようなことがなくなり、電動機6の出力トルクの急変に伴う運転フィーリングの悪化を防止することができる。
【0069】
このように、運転者が加速を要求しなくなった場合、及びアシストモードの継続時間がモード継続時間toに達した場合には、アシストモードが終了され、通常モードが選択されることになる。
即ち、運転者が加速を要求しない場合には、加速に必要となる大きな要求トルクが設定されることがなくなるため、電動機6に連続定格出力トルクを上回る過大なトルクの出力を許容する必要がない。そこで、このような場合、電動機6への配分トルクに対する制限のモードをアシストモードから通常モードに切り換えることにより、加速要求がないにも関わらず電動機6に配分されるトルクに対する連続定格出力トルクの範囲内への制限が解除されるような事態を確実に回避するようにしている。
【0070】
また、アシストモードの継続時間がモード継続時間toに達した場合も、電動機6が短時間定格出力トルクを出力可能な運転時間を超えて、連続定格出力トルクを上回るトルクを電動機6が出力することのないよう、電動機6への配分トルクに対する制限のモードがアシストモードから通常モードに切り換えられる。これにより、連続定格出力を超えるトルクが長時間にわたって電動機6に配分されるのを確実に防止し、電動機6の異常な温度上昇、劣化、或いは破損などの不具合を防止するようにしている。
【0071】
次の制御周期においてもステップS1から処理が再開されるが、前の制御周期のステップS11でフラグFの値が0とされた場合には、ステップS1の判定によりトルク配分部44が処理をステップS2に進める。
前述したように、ステップS2でトルク配分部44は、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にあるか否かを、走行状態判定部44cに判定させる。そして、ハイブリッド電気自動車1が上記適合状態にあると、ステップS2において走行状態判定部44cが判定した場合、トルク配分部44はステップS3に処理を進める。
【0072】
アクセルペダル32の踏込量θacが基準踏込量θo以上であると共に、踏込量θacの変化率Racが基準変化率Ro以上であり、変速機8で選択されている変速段が4速以上である場合の処理は前述したとおりである。即ち、このような場合、トルク配分部44はステップS6において、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値を1とする。トルク制限部44bは、こうしてフラグFの値が1とされたことによりアシストモードを選択する。
【0073】
一方、アクセルペダル32の踏込量θacが基準踏込量θoに達していない場合、ステップS3における走行状態判定部44cの判定により、トルク配分部44はその制御周期を終了する。また、踏込量θacの変化率Racが基準変化率Roに達していない場合にも、ステップS4における走行状態判定部44cの判定により、トルク配分部44はその制御周期を終了する。更に、変速機8で選択中の変速段が3速以下の場合にも、ステップS5における走行状態判定部44cの判定により、トルク配分部44はその制御周期を終了する。
【0074】
即ち、ステップS3において、ハイブリッド電気自動車1が前述の加速要求状態にないと走行状態判定部44cが判定した場合や、ステップS4において、選択中の変速段が3速以下であって、エンジン回転数及び電動機回転数が高回転域となる可能性があると走行状態判定部44cが判定した場合には、ステップS6の処理によるアシストモードの選択が行われずに、その制御周期が終了することになる。この場合、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値は0のままなので、次の制御周期でも処理はステップS1からステップS2に進められる。
従って、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードに対する適合状態にあるときに、ハイブリッド電気自動車1が前述の加速要求状態にない場合や、ハイブリッド電気自動車1が加速要求状態にあっても、選択中の変速段が3速以下である場合には、トルク制限部44bが通常モードを選択することになる。
【0075】
次に、走行状態判定部44cがステップS2において、アシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にハイブリッド電気自動車1がないと判定した場合の処理について説明する。前述したように、ステップS2では、アシストモードが適用される運転状態をある程度絞り込むために、ハイブリッド電気自動車1が所定の適合状態にあるか否かの判定を行っている。しかしながら、ハイブリッド電気自動車1が上記適合状態にない場合であっても、アシストモードを適用するのが好ましい場合がある。そこで、このような状況に対応するため、トルク配分部44はステップS2でハイブリッド電気自動車1が上記適合状態にないと判定した後の処理を行う。
【0076】
走行状態判定部44cにより、ステップS2においてハイブリッド電気自動車1がアシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にないと判定されると、トルク配分部44は処理をステップS8に進める。
ステップS8においてトルク配分部44は、変速制御部46からの情報に基づき、変速機8に対してシフトダウンの要求が発せられているか否かを、走行状態判定部44cに判定させる。そして、変速機8に対してシフトダウンの要求が発せられている場合には、ステップS8の判定によりトルク配分部44が処理をステップS9に進め、変速機8におけるシフトダウンを中止して現在選択中の変速段を引き続き選択するよう、トルク制限部44bを介して変速制御部46に指示する。変速制御部46は、この指示を受けてシフトダウンを中止し、現在選択中の変速段を引き続き選択する。
【0077】
この後、トルク配分部44はステップS9からステップS4に処理を進めるが、ステップS4の処理内容は前述したとおりである。
即ち、アクセルペダル32の踏込量θacの変化率Racが基準変化率Ro以上であると共に、変速機8で選択されている変速段が4速以上の場合には、トルク制限部44bが記憶しているフラグの値がステップS6において1とされることによりアシストモードが選択される。一方、踏込量θacの変化率Racが基準変化率Roに達していない場合、或いは変速機8で選択されている変速段が3速以下の場合には、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値が0のままでその制御周期が終了するので、通常モードが選択された状態が継続する。
【0078】
このように、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にない場合であっても、変速機8のシフトダウンが行われようとしているときに、運転者が急加速を要求している場合には、シフトダウンを行わう代わりに、電動機6から連続定格出力トルクを超えるトルクを出力可能とすることにより、要求された加速を実現するようにしている。このようにすることで、シフトダウンによるエンジン回転数の上昇に伴う燃料消費量の増大をなくしてエンジン2の燃費を改善すると共に、電動機6のトルクによるスムーズな加速が得られるようにしている。なお、この場合にステップS5で選択中の変速段が4速以上であると判定する理由は前述したとおりであって、これにより電動機6がトルクを出力可能な回転数領域を超えて電動機回転数が上昇するのを回避している。
【0079】
このようにステップS8からステップS9、S4及びS5の処理を経てフラグFの値が1とされることによりアシストモードが選択された場合も、次の制御周期においてはトルク配分部44が処理をステップS1からステップS10に進める。従って、アクセルペダル32の踏込量θacの変化量Δθacが基準変化量Δθo未満の状態が継続し、タイマTaのカウント時間taがモード継続時間toに達していない場合には、アシストモードの選択が継続する。
一方、運転者が加速を要求しなくなり、所定時間内にアクセルペダル32の踏み込みが所定量(Δθo)以上戻された場合、或いはアクセルペダル32の踏込量θacの変化量Δθacが基準変化量Δθo未満の状態が継続していても、タイマTaのカウント時間taがモード継続時間toに達した場合には、トルク配分部44がステップS11に処理を進め、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値を0とする。こうしてフラグFの値が0とされることにより、トルク制限部44bはアシストモードに代えて通常モードを選択する。
【0080】
なお、上述のようにステップS8及びS9の処理を経てステップS6でフラグFの値が1とされることによりアシストモードが選択された場合、図3のフローチャートには記載されていないが、上述のようにしてトルク配分部44がステップS11に処理を進めてフラグFの値を0とする際に、ステップS9でトルク制限部44bを介して発せられた変速段の保持指令を解除するのが好ましい。
また、ステップS8及びS9の処理を経てステップS4に進んだ場合に、上述のようにステップS4またはS5の判定によって、フラグFの値を1に変更することなく、その制御周期を終了するときにも、図3のフローチャートには記載されていないが、ステップS9でトルク制限部44bを介して発せられた変速段の保持指令を解除するのが好ましい。
【0081】
次に、上述のようにして処理がステップS8に進められたときに、変速制御部46からの情報に基づき、変速機8に対してシフトダウンの要求が発せられていないと走行状態判定部44cが判定した場合、トルク配分部44はステップS5に処理を進める。
ステップS5でトルク配分部44は、前述したように、変速機8において現在選択されている変速段が4速以上であるか否かを、走行状態判定部44cに判定させる。そして、変速機8で選択中の変速段が4速以上である場合、トルク配分部44はステップS6において、トルク制限部44bが記憶しているフラグの値を1とする。こうしてフラグFの値が1とされることにより、トルク制限部44bはアシストモードを選択する。一方、変速機8で選択中の変速段が3速以下の場合には、トルク制限部44bが記憶しているフラグFの値が0のままでその制御周期が終了するので、通常モードが選択された状態が継続する。
【0082】
ステップS8に処理が進むのは、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にないとステップS2で判定された場合であって、このような場合にはハイブリッド電気自動車1の走行速度が40km/h未満であるか、エンジン回転数が2500rpmを超過した状態にある。このような状態で4速以上の変速段が選択される可能性は低いが、このような状態にあっても4速以上の変速段が選択されている場合には、40km/h未満の走行速度に対応して変速機8のシフトダウンが行われる可能性がある。
【0083】
そこで、このような状況下で、現時点ではシフトダウンの要求がなされていない場合でも、4速以上の変速段が選択されている場合には、アシストモードを選択して電動機6から連続定格出力トルクを超えるトルクを出力可能とすることにより、シフトダウンを行わずに必要なトルクを確保できるようにしている。このようにすることで、シフトダウンによるエンジン回転数の上昇に伴う燃料消費量の増大をなくしてエンジン2の燃費を改善するようにしている。
【0084】
以上のようにして、トルク配分部44がトルク制限部44b及び走行状態判定部44cを用いてアシストモード切換制御を実行することにより、変速機8で4速以上の変速段を選択して走行しているときに、幹線道路への合流や追い越しなどで運転者がハイブリッド電気自動車1を加速しようとしてアクセルペダル32を大きく踏み込むと、アシストモードが選択されることにより、電動機6から連続定格出力トルクを超えるトルクが出力可能となる。これにより、運転者の加速要求に対応して増大するトルクを電動機6で賄うことが可能となり、エンジン2の出力トルク増大に伴う燃料消費量増大に起因した燃費の悪化を防止することができる。
【0085】
また、このとき、電動機6の出力トルクが増大することによって、加速要求に対応したトルクを確保することが可能となるので、加速に必要な駆動力を確保するための変速段8のシフトダウンが不要となり、電動機6を主体とした加速と相俟って、ハイブリッド電気自動車1のスムーズな加速が可能となる。
更に、アシストモードが選択されているときには、電動機6に配分されるトルクを電動機6の短時間定格出力トルクの範囲内に制限するので、過剰なトルクが電動機6に配分されるのを確実に防止することができる。この結果、電動機6による過剰なトルクの発生に起因した電動機6の異常な温度上昇、劣化、或いは破損などの不具合を防止することができる。
【0086】
また、アシストモードが選択されてもモード継続時間toが経過すると、トルク制限部44bはアシストモードを終了して通常モードを選択することにより、電動機6に配分されるトルクが再び連続定格出力トルクの範囲内に制限されるようになるので、連続定格出力を超えるトルクが長時間にわたって電動機6に配分されるのを確実に防止し、電動機6の異常な温度上昇、劣化、或いは破損などの不具合を防止することができる。
【0087】
以上で本発明の一実施形態に係るハイブリッド電気自動車の制御装置についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、アシストモード切換制御では、図3に示すフローチャートのステップS2において、走行状態判定部44cにより、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にあるか否かを判定するようにした。この判定はアシストモードが適用される運転状態をある程度絞り込むために行うものであることから、電動機6の仕様などに応じ、適用される運転状態の範囲を拡大したり限定したりすることが可能である。従って、上記適合状態を定める走行速度やエンジン回転数などの条件については上記実施形態のものに限定されるものではなく、様々に変更が可能である。
【0088】
また、上記実施形態では、変速機8で選択中の変速段が4速以上である場合に限り、アシストモードが選択されるようにした。これは、3速以下の変速段が選択されている場合に、電動機6がトルクを出力可能な回転数領域を超えて電動機回転数が上昇する可能性があるので、これを避けるために行うものである。従って、電動機6や変速機8の仕様などに応じ、アシストモードを選択可能な変速段を変更することが可能である。
【0089】
また、上記実施形態では、ハイブリッド電気自動車1がアシストモードへの切り換えを可能とする所定の適合状態にない場合であっても、変速機8にシフトダウンの要求がなされている場合や、変速機8で選択中の変速段が4速以上である場合にアシストモードを選択可能とした。しかしながら、ハイブリッド電気自動車1が上記適合状態にない場合については、常に通常モードが選択されるようにしても良い。或いは、ハイブリッド電気自動車1が上記適合状態にない場合、変速機8にシフトダウンの要求がなされているときにはアシストモードを選択可能とする一方、変速機8で選択中の変速段が4速以上である場合には通常モードが選択されるようにしても良い。
【0090】
なお、上記実施形態では、エンジン2をディーゼルエンジンとすると共に、変速機8を5速及び6速をオーバドライブとする前進6段の自動変速機とした。しかしながら、これらエンジン2及び変速機8の形式については、これに限定されるものではなく、様々な形式のものを適用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 ハイブリッド電気自動車
2 エンジン
6 電動機
26 エンジンECU(エンジン制御手段)
28 インバータECU(電動機制御手段)
44 トルク配分部(トルク配分手段)
44a トルク設定部
44b トルク制限部(トルク制限手段)
44c 走行状態判定部(加速要求判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力源として搭載されたエンジンと、
走行用の動力源として搭載された電動機と、
運転者の要求トルクを上記エンジンと上記電動機とに配分するトルク配分手段と、
上記トルク配分手段によって上記エンジンに配分されたトルクに基づき上記エンジンを制御するエンジン制御手段と、
上記トルク配分手段によって上記電動機に配分されたトルクに基づき上記電動機を制御する電動機制御手段と
を備えたハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
上記トルク配分手段は、
上記運転者が所定の加速要求を行っている加速要求状態に上記ハイブリッド電気自動車があるか否かを判定する加速要求判定手段と、
上記ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にないと上記加速要求判定手段が判定したときには、上記電動機に配分されるトルクを上記電動機の連続定格出力トルクの範囲内に制限する一方、上記ハイブリッド電気自動車が上記加速要求状態にあると上記加速要求判定手段が判定したときには、上記電動機に配分されるトルクに対する上記連続定格出力トルクの範囲内への制限を解除するトルク制限手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
上記トルク制限手段は、上記加速要求状態にあると上記加速要求判定手段が判定したときには上記制限を解除し、上記電動機に配分されるトルクを上記電動機の短時間定格出力トルクの範囲内に制限することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
上記トルク制限手段は、上記加速要求状態にあると上記加速要求判定手段が判定して上記制限を解除した後、所定時間が経過すると、再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
上記トルク制限手段は、上記所定時間の経過後に再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限する際には、上記電動機に配分されるトルクの上限値を上記連続定格出力トルクまで漸減させて、上記連続定格出力トルクの範囲内への制限に移行することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項5】
上記トルク制限手段は、上記制限を解除した後、所定時間が経過する前に上記運転者が加速を要求していないと上記加速要求判定手段が判定すると、再び上記電動機に配分されるトルクを上記連続定格出力トルクの範囲内に制限することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−79451(P2011−79451A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234190(P2009−234190)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】