ハイブリッド駆動装置
【課題】高速走行領域における動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができるハイブリッド駆動装置を実現する。
【解決手段】差動歯車装置Dが、第一モードでは、それぞれ異なる3つの回転要素に入力部材I、出力部材O、及び入力部材Iからのトルクの反力受けとなる第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動機構を形成し、第二モードでは、それぞれ異なる4つの回転要素に入力部材I、出力部材O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第二差動機構を形成し、第三モードでは、それぞれ異なる3つの回転要素に入力部材I、出力部材O、及び入力部材Iからのトルクの反力受けとなる第二回転電機MG2が駆動連結された第三差動機構を形成し、入力部材Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力部材Iに駆動連結される。
【解決手段】差動歯車装置Dが、第一モードでは、それぞれ異なる3つの回転要素に入力部材I、出力部材O、及び入力部材Iからのトルクの反力受けとなる第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動機構を形成し、第二モードでは、それぞれ異なる4つの回転要素に入力部材I、出力部材O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第二差動機構を形成し、第三モードでは、それぞれ異なる3つの回転要素に入力部材I、出力部材O、及び入力部材Iからのトルクの反力受けとなる第二回転電機MG2が駆動連結された第三差動機構を形成し、入力部材Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力部材Iに駆動連結される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置として、例えば、下記の特許文献1に記載の装置が既に知られている。このハイブリッド駆動装置は、差動歯車装置として、3つの回転要素を有するシングルピニオン型の第一遊星歯車装置と4つの回転要素を有するラビニヨ型の第二遊星歯車装置とを備えている。また、このハイブリッド駆動装置は、低速モード、中速モード、及び高速モードの3つのモードを切り替え可能に備えている。そして、低速モードでは、第一遊星歯車装置を分配機構として機能させ、エンジンの回転及びトルクを第一回転電機と第二回転電機及び第二遊星歯車装置とに分配し、後者に分配された回転を第二遊星歯車装置により回転を減速すると共にトルクを増幅して出力軸に伝達する。中速モードでは、第一遊星歯車装置と第二遊星歯車装置とを組み合わせて4つの回転要素を有して一体的に動作する差動歯車装置とし、当該差動歯車装置により、エンジンの回転及びトルクを第一回転電機と出力軸とに分配し、第二回転電機はトルクアシストを行う。高速モードでは、第一遊星歯車装置を分配機構として機能させ、エンジンの回転及びトルクを第一回転電機と第二回転電機及び第二遊星歯車装置とに分配し、後者に分配された回転を直結状態とした第二遊星歯車装置により同速のまま出力軸に伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3991970号公報(第9−14頁、第1−6図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置では、高速モードでは、出力軸の回転速度が上昇するに従って、反力受けとして機能する第一回転電機の回転速度が下降するため、出力軸の回転速度が高い高速走行領域において第一回転電機の回転速度が負となると、第一回転電機が力行する必要がある。そして、このように第一回転電機を力行させるためには、第二回転電機により発電して第一回転電機に電力を供給する必要がある。この状態では、第一回転電機が力行することにより発生させたトルクの一部が、動力伝達系の下流側(出力軸側)にある第二回転電機により発電のために消費されることによる動力循環が発生し、装置全体としてのエネルギ効率が悪化するという問題がある。
【0005】
また、上記の特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置では、中速モードから高速モードへの切り替えを、中速モードを構成する差動歯車装置の4つの回転要素の回転速度が同じとなるシンクロポイントで行う。しかし、高速モードの伝達効率が中速モードよりも高くなるのは、当該シンクロポイントを過ぎた後、第二回転電機の回転速度がゼロとなるポイントである。このため、上記のハイブリッド駆動装置では、中速モードの伝達効率の方が未だ高速モードよりも高い領域において高速モードへ切り替えることになり、エネルギ効率の悪化の要因となる問題がある。
【0006】
そこで、高速走行領域における動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができるハイブリッド駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の特徴構成は第一モード、第二モード、及び第三モードを切り替え可能に備え、前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が駆動連結された第一差動機構を形成し、前記第一回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記出力部材の回転速度に比例して前記第二回転電機の回転速度が定まる状態で前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、前記第二モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、前記第一回転電機、及び前記第二回転電機が駆動連結された第二差動機構を形成し、前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第二回転電機が駆動連結された第三差動機構を形成し、前記第二回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記入力部材の回転速度に比例して前記第一回転電機の回転速度が定まる状態で前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結される点にある。
【0008】
なお、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。但し、差動歯車装置又は差動機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、当該差動歯車装置又は差動機構が備える3つ以上の回転要素に関して互いに他の回転要素を介することなく駆動連結されている状態を指すものとする。また、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。更に、本願では、「差動機構」とは、差動動作を行う少なくとも3つの回転要素の組み合わせにより構成され、各モードに応じて差動歯車装置が備える複数の回転要素の中から選択されて組み合わされることにより形成される。また、「回転速度の順」は、高速側から低速側に向かう順、又は低速側から高速側に向かう順のいずれかであり、各差動歯車機構の回転状態によりいずれともなり得るが、いずれの場合にも回転要素の順は変わらない。
【0009】
この特徴構成によれば、出力部材の回転速度の上昇に伴って、第一モード、第二モード、第三モードの順にモード切替を行うことにより、出力部材の回転速度が高い高速領域において動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができる。すなわち、この構成によれば、高速領域で主に用いられる第三モードにおいて、第三差動機構が動力分配装置として機能し、第二回転電機が反力受けとなって入力部材(エンジン)の回転及びトルクを出力部材に伝達することができる。この際、第一回転電機は、入力部材の回転速度に比例して回転速度が定まる状態で入力部材に駆動連結されるため、反力受けとして機能する第二回転電機が力行する場合に、入力部材(エンジン)の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができる。従って、動力伝達系における出力部材側にある第二回転電機が力行して発生させたトルクが第一回転電機により用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。またこの際、第一回転電機が発生する発電のためのトルクが直接的に入力部材に伝達されるため、第三差動機構を介して出力部材及び第二回転電機に伝達される入力部材(エンジン)のトルクが、第一回転電機から入力部材に伝達されるトルクの分だけ減衰することになる。そのため、第二回転電機が力行して発生する反力トルクを小さくすることができる。従って、高速領域におけるハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。
【0010】
また、出力部材の回転速度が低い低速領域で主に用いられる第一モードでは、第一差動機構が動力分配装置として機能し、第一回転電機が反力受けとなって入力部材(エンジン)の回転及びトルクを出力部材に伝達することができる。この際、第二回転電機は、出力部材にトルクを伝達して入力部材からのトルクを補助することができる。更に、第二モードでは、差動歯車装置が少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力部材、出力部材、第一回転電機、及び第二回転電機が駆動連結された4つの回転要素を有する第二差動機構を形成するので、第一モードと第三モードとの切り替えの間で第二モードを用いることにより、反力受けとなる回転電機が入れ替わる第一モードと第三モードとの間のモード切替を適切に行うことができる。
【0011】
ここで、前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構を更に形成し、前記第三モード用連結機構により前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結され、前記第三モード用連結機構は、前記第一差動機構の少なくとも一部を用いて形成されると好適である。
【0012】
この構成によれば、第三モードにおいて、第三モード用連結機構により入力部材の回転を増速して第一回転電機に伝達することができる。従って、回転速度が比較的高い状態で第一回転電機に発電を行わせることができるので、第一回転電機による発電効率を高めることが容易になる。またこの際、第一回転電機の発電によるトルクが増幅されて入力部材に伝達されるため、上述したように第三差動機構を介して出力部材及び第二回転電機に伝達される入力部材(エンジン)のトルクを減衰する効果をより高めることができる。従って、第二回転電機による反力トルクを小さくすることができ、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。更に、第三モード用連結機構が、第一モードにおいて差動歯車装置が形成する第一差動機構の少なくとも一部を用いて形成されるので、差動歯車装置の一部の構成を第一モードと第三モードとで異なる機能に共用することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0013】
また、前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構を更に形成し、前記第一モード用連結機構により前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、前記第一モード用連結機構は、前記第三差動機構の少なくとも一部を用いて形成されると好適である。
【0014】
この構成によれば、第一モードにおいて、第一モード用連結機構により第二回転電機の回転を減速すると共にトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。従って、第二回転電機から出力部材に比較的大きいトルクを伝達することができ、第二回転電機によるトルクアシストの効果を高めることが容易になる。更に、第一モード用連結機構が、第三モードにおいて差動歯車装置が形成する第三差動機構の少なくとも一部を用いて形成されるので、差動歯車装置の一部の構成を第一モードと第三モードとで異なる機能に共用することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0015】
また、前記第二モードでは、前記第二差動機構は、回転速度の順で、前記第二回転電機に駆動連結された回転要素と前記出力部材に駆動連結された回転要素とが、前記入力部材に駆動連結された回転要素を挟んで反対側に位置する状態とされ、前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化し、前記第二モードと前記第三モードとの切り替えは前記第二回転電機の回転速度がゼロとなる点で行い、前記第三モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が負であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化すると好適である。
【0016】
なお、本願において、各部材の回転及びトルクの方向に関して、「正方向」とは入力部材がエンジンの回転によって回転している状態での各部材の回転方向と同じ方向であり、「負方向」とはその逆方向である。また、各部材の回転速度が「正」とは各部材が正方向に回転している状態であり、回転速度が「負」とは各部材が負方向に回転している状態であり、回転速度が「ゼロ」とは各部材の回転が停止している状態である。
【0017】
この構成によれば、第二モードでは、第二回転電機に駆動連結された回転要素が、回転速度の順で入力部材に駆動連結された回転要素を挟んで出力部材に駆動連結された回転要素とは反対側に位置するので、入力部材の回転速度を変化させなくても第二回転電機の回転速度を下降させることにより出力部材の回転速度を上昇させることができる。この際、第二回転電機の回転速度が正の状態で第二モードを実行し、第二回転電機に負トルクを出力させて発電を行わせつつ第二回転電機の回転速度を下降させることにより出力部材の回転速度を上昇させる。そして、第二回転電機が発電も力行も行わなくなる回転速度がゼロの点で第三モードへの切り替えを行う。これにより、第二モードの伝達効率が高い領域を最大限利用でき、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。また、第三モードでは、第二回転電機が負回転しつつ負トルクを出力して力行することにより、出力部材の回転速度を更に上昇させ、出力部材を高い回転速度で回転させることができる。このとき、上記のとおり入力部材(エンジン)の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができるので、動力循環が発生することを抑制できる。従って、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。
【0018】
また、前記第一モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が正方向に変化し、前記第一モードと前記第二モードとの切り替えは前記第一回転電機の回転速度がゼロとなる点で行うと好適である。
【0019】
この構成によれば、第一モードでは、第二回転電機の回転速度が正の状態で当該第二回転電機の回転速度を上昇させることにより出力部材の回転速度も上昇させることができる。そして、第一回転電機が発電も力行も行わなくなる回転速度がゼロの点で第二モードへの切り替えを行う。これにより、第一モードの伝達効率が高い領域を最大限利用でき、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。
【0020】
また、前記第二差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有すると好適である。
【0021】
この構成によれば、第二モードにおいて、第一回転電機による正方向のトルクの出力、及び第二回転電機による負方向のトルクの出力の少なくとも一方を行うことにより、当該トルクの出力を行う回転電機の一方を反力受けとして機能させ、入力部材(エンジン)の回転及びトルクを出力部材に伝達することができる。また、反力受けとして機能しない方の回転電機は入力部材のトルクアシストを行うことができる。この際、特に第二回転電機に負方向のトルクを出力させて反力受けとして機能させる構成とすれば、第二モードから第三モードの移行に際して、第二回転電機のトルクを負方向のまま維持して出力部材の回転速度を上昇させ続けることができるので、当該モード移行をより円滑に行うことができる。
【0022】
また、前記第三差動機構が、回転速度の順に、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有すると好適である。
【0023】
この構成によれば、反力受けとなる第二回転電機が回転速度の順で入力部材を挟んで出力部材とは反対側に位置するので、第二回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。この際、入力部材の回転速度を増速して出力部材に伝達することができるので、第三モードを、出力部材の回転速度が高い高速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0024】
また、前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する構成とすると好適である。
【0025】
この構成によれば、反力受けとなる第一回転電機が回転速度の順で入力部材を挟んで出力部材とは反対側に位置するので、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。
【0026】
或いは、前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、を有する構成としても好適である。
【0027】
この構成によれば、回転速度の順で入力部材と反力受けとなる第一回転電機との間に出力部材が位置するので、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。この際、入力部材のトルクを増幅して出力部材に伝達することができるので、第一モードを、特に車両の発進時等のような、出力部材の回転速度が低い低速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0028】
また、前記差動歯車装置は、3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と、4つの回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、前記第一差動機構及び前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置により形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成されると好適である。
【0029】
この構成によれば、第一モードの第一差動機構と、第二モードの第二差動機構と、第三モードの第三差動機構とを、第一差動歯車装置及び第二差動歯車装置の一方又は双方により形成することができ、更に、第三モードの第三モード用連結機構を第一差動歯車装置により形成することができる。従って、限られた差動歯車装置の構成を有効に利用して各モードを実現するための機構を形成することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0030】
また、前記差動歯車装置は、それぞれ3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記出力部材が駆動連結され、前記第三差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、前記第一差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成されると好適である。
【0031】
この構成によれば、第一モードの第一差動機構と、第二モードの第二差動機構と、第三モードの第三差動機構とを、第一差動歯車装置、第二差動歯車装置、及び第三差動歯車装置の一部又は全部の組み合わせにより形成することができ、更に、第三モードの第三モード用連結機構を第一差動歯車装置により形成することができる。従って、限られた差動歯車装置の構成を有効に利用して各モードを実現するための機構を形成することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0032】
本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置のもう一つの特徴構成は前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素を有する第一差動歯車装置と、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素、及び第四回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、前記第二回転電機が前記第二差動歯車装置の第四回転要素に駆動連結され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第二差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第四回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、前記第一差動歯車装置の第二回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結される点にある。
【0033】
この特徴構成によれば、第一クラッチ及び第二ブレーキを係合状態とすることにより第一モードを実現でき、第一クラッチ及び第二クラッチを係合状態とすることにより第二モードを実現でき、第二クラッチ及び第一ブレーキを係合状態とすることにより第三モードを実現できる。そして、第一モードでは、第一差動歯車装置の第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に入力部材が駆動連結され、第三回転要素に第二回転電機が駆動連結され、更に第一差動歯車装置の第三回転要素には第二差動歯車装置を介して出力部材が駆動連結される。またこの際、第二差動歯車装置の第一回転要素が非回転部材に固定され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結される。従って、第一モードでは、第一回転電機が反力トルクを出力することで第一差動歯車装置が動力分配を行う第一差動機構として機能し、第二差動歯車装置が第二回転電機と出力部材とを駆動連結する第一モード用連結機構として機能する。そして、前記第一差動機構により第二回転電機側へ分配された入力部材の回転及びトルクを、第二回転電機の回転及びトルクと合わせて第一モード用連結機構により減速及びトルク増幅して出力部材に伝達することができる。よって、第一モードにおいて、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができ、更に当該入力部材及び第二回転電機のトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。これにより、第一モードを、出力部材の回転速度が比較的低く、高いトルクが要求される低速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0034】
また、第二モードでは、第一差動歯車装置と第二差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第二差動機構が形成され、この第二差動機構の回転速度の順における第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結される。そして、第一回転電機及び第二回転電機の一方が反力トルクを出力することで第二差動機構が動力分配装置として機能する。また、反力受けとして機能しない方の回転電機は入力部材のトルクアシストを行うことができる。この際、特に第二回転電機に負方向のトルクを出力させて反力受けとして機能させる構成とすれば、第二モードから第三モードの移行に際して、第二回転電機のトルクを負方向のまま維持して出力部材の回転速度を上昇させ続けることができるので、当該モード移行をより円滑に行うことができる。
【0035】
更に、第三モードでは、第二差動歯車装置の第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結され、更に第二差動歯車装置の第三回転要素には第一差動歯車装置を介して第一回転電機が駆動連結される。またこの際、第一差動歯車装置の第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に入力部材が駆動連結され、第三回転要素が非回転部材に固定される。従って、第三モードでは、第二回転電機が反力トルクを出力することで第二差動歯車装置が動力分配を行う第三差動機構として機能し、第一差動歯車装置が第一回転電機と入力部材とを駆動連結する第三モード用連結機構として機能する。そして、第二回転電機の回転速度を変化させることにより、第三差動機構によって入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。更にこの際、入力部材の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができるので、第二回転電機を力行させる場合にも動力循環が発生することを抑制できると共に第二回転電機が発生する反力トルクを小さくすることができる。これにより、第三モードを、出力部材の回転速度が比較的高い高速領域で用いるのに適したモードとすることができる。以上のとおり、この特徴構成によれば、出力部材の回転速度の上昇に伴って、第一モード、第二モード、第三モードの順にモード切替を行って適切に車両を走行させることができると共に、出力部材の回転速度が高い高速領域において動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができる。
【0036】
本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の更にもう一つの特徴構成は、前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素をそれぞれ有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素及び前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第一回転要素及び前記第三差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、前記第二回転電機が前記第三差動歯車装置の第三回転要素に駆動連結され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第三差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、前記第二差動歯車装置の第三回転要素と前記第三差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結される点にある。
【0037】
この特徴構成によれば、第一クラッチ及び第二ブレーキを係合状態とすることにより第一モードを実現でき、第一クラッチ及び第二クラッチを係合状態とすることにより第二モードを実現でき、第二クラッチ及び第一ブレーキを係合状態とすることにより第三モードを実現できる。そして、第一モードでは、第一差動歯車装置と第二差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第一差動機構が形成され、この第一差動機構の回転速度の順における第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、更に第一差動機構の第二回転要素には第三差動歯車装置を介して第二回転電機が駆動連結される。またこの際、第三差動歯車装置の第一回転要素が非回転部材に固定され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に第二回転電機が駆動連結される。従って、第一モードでは、第一回転電機が反力トルクを出力することで第一差動機構が動力分配装置として機能し、第三差動歯車装置が第二回転電機と出力部材とを駆動連結する第一モード用連結機構として機能する。そして、前記第一差動機構では、回転速度の順で入力部材と反力受けとなる第一回転電機との間に出力部材が位置するので、入力部材のトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。更に、第一モード用連結機構により第二回転電機の回転及びトルクを減速及びトルク増幅して出力部材に伝達することができる。よって、第一モードにおいて、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができ、更に当該入力部材及び第二回転電機のトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。これにより、第一モードを、出力部材の回転速度が比較的低く、高いトルクが要求される低速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0038】
また、第二モードでは、第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第二差動機構が形成され、この第二差動機構の回転速度の順における第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結される。そして、第一回転電機及び第二回転電機の一方が反力トルクを出力することで第二差動機構が動力分配装置として機能する。また、反力受けとして機能しない方の回転電機は入力部材のトルクアシストを行うことができる。この際、特に第二回転電機に負方向のトルクを出力させて反力受けとして機能させる構成とすれば、第二モードから第三モードの移行に際して、第二回転電機のトルクを負方向のまま維持して出力部材の回転速度を上昇させ続けることができるので、当該モード移行をより円滑に行うことができる。
【0039】
更に、第三モードでは、第二差動歯車装置と第三差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第三差動機構が形成され、この第三差動機構の回転速度の順における第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結され、更に第三差動機構の第三回転要素には第一差動歯車装置を介して第一回転電機が駆動連結される。またこの際、第一差動歯車装置の第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に入力部材が駆動連結され、第三回転要素が非回転部材に固定される。従って、第三モードでは、第二回転電機が反力トルクを出力することで第三差動機構が動力分配装置として機能し、第一差動歯車装置が第一回転電機と入力部材とを駆動連結する第三モード用連結機構として機能する。そして、第二回転電機の回転速度を変化させることにより、第三差動機構によって入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。更にこの際、入力部材の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができるので、第二回転電機を力行させる場合にも動力循環が発生することを抑制できると共に第二回転電機が発生する反力トルクを小さくすることができる。これにより、第三モードを、出力部材の回転速度が比較的高い高速領域で用いるのに適したモードとすることができる。以上のとおり、この特徴構成によれば、出力部材の回転速度の上昇に伴って、第一モード、第二モード、第三モードの順にモード切替を行って適切に車両を走行させることができると共に、出力部材の回転速度が高い高速領域において動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図である。
【図2】本発明の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のシステム構成を示す模式図である。
【図3】第一の実施形態に係る各モードでのクラッチ及びブレーキの作動状態を示す作動表である。
【図4】第一の実施形態に係る第一分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図5】第一の実施形態に係る第一分配モードから第二分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図6】第一の実施形態に係る第二分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図7】第一の実施形態に係る第二分配モードから第三分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図8】第一の実施形態に係る第三分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図9】第一の実施形態に係るEVモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図10】第一の実施形態に係るシリーズモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図11】第一の実施形態に係る第一パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図12】第一の実施形態に係る第二パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図13】第一の実施形態に係る理論伝達効率と入出力回転速度比との関係を示したグラフである。
【図14】本発明の第二の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図である。
【図15】第二の実施形態に係る各モードでのクラッチ及びブレーキの作動状態を示す作動表である。
【図16】第二の実施形態に係る第一分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図17】第二の実施形態に係る第一分配モードから第二分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図18】第二の実施形態に係る第二分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図19】第二の実施形態に係る第二分配モードから第三分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図20】第二の実施形態に係る第三分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図21】第二の実施形態に係るEVモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図22】第二の実施形態に係るシリーズモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図23】第二の実施形態に係る第一パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図24】第二の実施形態に係る第二パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図25】第二の実施形態に係る理論伝達効率と入出力回転速度比との関係を示したグラフである。
【図26】本発明のその他の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図である。
【図27】その他の実施形態に係る第一分配モードから第二分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
1.第一の実施形態
まず、本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図であるが、この図では中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。また、図2に示すハイブリッド駆動装置Hのシステム構成を示す模式図では、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示し、破線は電力の伝達経路を示し、白抜きの矢印は油圧の伝達経路を示している。
【0042】
図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに駆動連結される入力軸Iと、車輪W(図2参照)に駆動連結される出力軸Oと、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、差動歯車装置Dと、を備えている。そして、このハイブリッド駆動装置Hは、クラッチC1、C2、及びブレーキB1、B2といった係合要素の係合状態を切り替えて差動歯車装置Dの複数の回転要素の連結関係を変更することによって、第一分配モード、第二分配モード、及び第三分配モードを含む複数のモードを切り替え可能に備えている。ここで、第一から第三の3つの分配モードは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のいずれかが入力軸Iからのトルクの反力受けとなり、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクを当該反力受けとなる回転電機と出力軸Oとに分配して伝達する動力分配を行うモードである。なお、本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。また、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モードが、それぞれ本発明における「第一モード」、「第二モード」、「第三モード」に相当する。以下、このハイブリッド駆動装置Hの各部の構成について詳細に説明する。
【0043】
1−1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
まず、ハイブリッド駆動装置Hの各部の機械的構成について説明する。図1に示すように、入力軸Iは、エンジンEに駆動連結される。ここで、エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸Iは、エンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸と一体回転するように駆動連結されている。なお、入力軸Iが、エンジンEの出力回転軸に対して、ダンパ、クラッチ、トルクコンバータ等の他の部材を介して駆動連結された構成としても好適である。本実施形態においては、入力軸IはエンジンEの出力回転軸と一体的に回転するため、入力軸Iの回転(回転速度)はエンジンEの回転(回転速度)と同じであり、エンジンEのトルクが入力軸Iのトルクとなる。
【0044】
出力軸Oは、図2に示すように、出力用差動歯車装置DFを介して車輪W(駆動輪)に駆動連結されている。本実施形態においては、出力軸Oは、入力軸Iと同軸上に配置されている。更には、図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、並びに差動歯車装置Dが、入力軸Iと同軸上に配置されており、全体が同軸配置された一軸構成とされている。これらの構成は、図示しないハイブリッド車両の車体に固定されたケースCS内に収容されている。本実施形態においては、このケースCSが本発明における「非回転部材」に相当する。
【0045】
第一回転電機MG1は、ケースCSに固定されたステータSt1と、このステータSt1の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo1と、を有している。第一回転電機MG1のロータRo1は、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1の第一サンギヤS1と一体回転するように駆動連結されている。また、第二回転電機MG2は、ケースCSに固定されたステータSt2と、このステータSt2の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo2と、を有している。第二回転電機MG2のロータRo2は、差動歯車装置Dを構成する第二差動歯車装置P2の第三リングギヤR3と一体回転するように駆動連結されている。
【0046】
図2に示すように、第一回転電機MG1は第一インバータ22を介して、第二回転電機MG2は第二インバータ23を介して、それぞれバッテリ21に電気的に接続されている。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果すことが可能とされている。後述するように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ回転方向(回転速度)とトルクの向きとの関係に応じてモータ又はジェネレータとして機能する。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ21に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2に供給する。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ21に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。そして、第一回転電機MG1の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第一回転電機制御ユニット33及び第一インバータ22を介して行われ、第二回転電機MG2の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第二回転電機制御ユニット34及び第二インバータ23を介して行われる。なお、バッテリ21は、蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
【0047】
本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hが備える差動歯車装置Dは、第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の2つに分けられる。そして、差動歯車装置Dは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の係合状態を切り替えることによって、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の複数の回転要素の連結関係を変更し、各モードを実行するための差動機構及び連結機構を形成する。具体的には、後述するように、第一分配モードでは、差動歯車装置Dは第一差動機構DM1及び第一モード用連結機構CM1を形成し、第二分配モードでは、差動歯車装置Dは第二差動機構DM2を形成し、第三分配モードでは、差動歯車装置Dは第三差動機構DM3及び第三モード用連結機構CM3を形成する。以下、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の構成について図1に基づいて詳細に説明する。
【0048】
第一差動歯車装置P1は、3つの回転要素を備えており、ここでは、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第一差動歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持する第一キャリヤCA1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第一サンギヤS1及び第一リングギヤR1とを回転要素として有している。第一サンギヤS1は、第一回転電機MG1のロータRo1と一体回転するように駆動連結されている。第一キャリヤCA1は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。また、第一キャリヤCA1は、第二クラッチC2により第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に選択的に駆動連結される。第一リングギヤR1は、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定されると共に、第一クラッチC1により第二差動歯車装置P2の第三リングギヤR3及び第二回転電機MG2のロータRo2に選択的に駆動連結される。これらの第一差動歯車装置P1の3つの回転要素は、回転速度の順に、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1となっている。従って、本実施形態においては、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1が、それぞれ第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0049】
第二差動歯車装置P2は、4つの回転要素を備えており、ここでは、第一遊星歯車機構P21と第二遊星歯車機構P22との組み合わせにより構成されている。第一遊星歯車機構P21及び第二遊星歯車機構P22は、いずれもシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。そして、第二差動歯車装置P2は、第一遊星歯車機構P21及び第二遊星歯車機構P22がそれぞれの有する3つの回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように駆動連結することにより、全体として4つの回転要素を備えて一体的に動作する差動機構を構成している。第一遊星歯車機構P21は、複数のピニオンギヤを支持する第二キャリヤCA2と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第二サンギヤS2及び第二リングギヤR2とを回転要素として有している。第二遊星歯車機構P22は、複数のピニオンギヤを支持する第三キャリヤCA3と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第三サンギヤS3及び第三リングギヤR3とを回転要素として有している。そして、第二サンギヤS2と第三サンギヤS3とが一体回転するように駆動連結されているとともに、第二リングギヤR2と第三キャリヤCA3とが一体回転するように駆動連結されている。
【0050】
そして、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3は第二ブレーキB2によりケースCSに選択的に固定される。第二キャリヤCA2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されている。第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3は、第二クラッチC2により第一差動歯車装置P1の第一キャリヤCA1及び入力軸Iと選択的に駆動連結される。第三リングギヤR3は、第二回転電機MG2のロータRo2と一体回転するように駆動連結されている。また、第三リングギヤR3は、第一クラッチC1により第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1と選択的に駆動連結される。第二差動歯車装置P2を構成するこれら4つの回転要素は、回転速度の順に、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3、第二キャリヤCA2、第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3となっている。従って、本実施形態においては、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3、第二キャリヤCA2、第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3が、それぞれ第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3、第四回転要素E4となっている。
【0051】
また、ハイブリッド駆動装置Hは、係合要素として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の4つを備えている。本実施形態においては、これらの係合要素として、いずれも油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキ等の摩擦係合要素を用いる。図2に示すように、これらの係合要素C1、C2、B1、B2へは、主制御ユニット31からの制御指令により動作する油圧制御装置35から油圧が供給され、当該油圧により各係合要素C1、C2、B1、B2の係合又は解放が制御される。この油圧制御装置35へは、図示しないオイルポンプにより発生した油圧が供給される。
【0052】
1−2.ハイブリッド駆動装置の制御システムの構成
図2に示すように、ハイブリッド駆動装置Hは、各部を制御するための主制御ユニット31を備えている。主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、第二回転電機制御ユニット34、及び油圧制御装置35との間で、相互に情報伝達が可能な状態で接続されている。エンジン制御ユニット32は、エンジンEの各部を制御することにより、エンジンEが所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第一回転電機制御ユニット33は、第一インバータ22を制御することにより、第一回転電機MG1が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第二回転電機制御ユニット34は、第二インバータ23を制御することにより、第二回転電機MG2が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。油圧制御装置35は、図示しないオイルポンプから供給される油圧を調整し、各係合要素C1、C2、B1、B2に分配供給することにより、これらの係合又は解放を制御する。このような各係合要素C1、C2、B1、B2の係合又は解放は、主制御ユニット31からの制御指令に基づいて行われ、それによってモードの切り替えが行われる。
【0053】
また、主制御ユニット31は、ハイブリッド駆動装置Hを搭載する車両の各部の情報を取得するために、車両の各部に設けられたセンサ等からの情報を取得可能に構成されている。図示の例では、主制御ユニット31は、第一回転センサSe1、第二回転センサSe2、第一電流センサSe3、第二電流センサSe4、バッテリ状態検出センサSe5、車速センサSe6、アクセル操作検出センサSe7、及びブレーキ操作検出センサSe8からの情報を取得可能に構成されている。第一回転センサSe1は、第一回転電機MG1のロータRo1の回転速度を検出する。第二回転センサSe2は、第二回転電機MG2のロータRo2の回転速度を検出する。第一電流センサSe3は、第一回転電機MG1の3相のコイルに流れる電流を検出する。第二電流センサSe4は、第二回転電機MG2の3相のコイルに流れる電流を検出する。バッテリ状態検出センサSe5は、バッテリ21の充電量等の状態を検出するためのセンサであり、例えば電圧センサや電流センサ等により構成される。車速センサSe6は、車速を検出するために出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。アクセル操作検出センサSe7は、アクセルペダル24の操作量を検出するためのセンサである。ブレーキ操作検出センサSe8は、図示しないホイールブレーキに連動するブレーキペダル25の操作量を検出するためのセンサである。
【0054】
主制御ユニット31は、各センサSe1〜Se8で取得される情報を用いて、後述する複数の動作モードの選択を行う。そして、主制御ユニット31は、油圧制御装置35を介して、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の係合状態を制御することにより、動作モードの切り替えを行う。また、主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、及び第二回転電機制御ユニット34を介して、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2の動作状態を協調制御することにより、選択された動作モードに応じて適切な車両の走行が行われるように制御する。この際、主制御ユニット31は、第一回転センサSe1及び第二回転センサSe2により検出される回転速度や、第一電流センサSe3及び第二電流センサSe4により検出される電流に基づいて、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のそれぞれの動作状態を制御する。
【0055】
本実施形態では、主制御ユニット31は、各種制御を実行するための機能部として、バッテリ状態検出部41、モード選択部42、切替制御部43を備えている。主制御ユニット31が備えるこれらの各手段は、CPU等の演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により実装されて構成されている。また、主制御ユニット31は、記憶部44を備えており、この記憶部44内には、車速及び要求駆動力に応じて動作モードを決定するために用いられる制御マップ45が格納されている。
【0056】
バッテリ状態検出部41は、バッテリ状態検出センサSe5から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、バッテリ21の充電量等のバッテリ状態を推定して検出する。ここで、バッテリ充電量は、一般にSOC(state of charge:充電状態)と呼ばれるものであり、例えば、バッテリ21の充電容量に対する充電残量の比率として求められる。
【0057】
モード選択部42は、車両の各部の状態に応じて、制御マップ45に従い適切な動作モードの選択を行う。本実施形態においては、モード選択部42は、車速及び要求駆動力などの走行条件に応じて、後述する複数の動作モードの中から適切な動作モードを選択する。各動作モードの内容については、後で詳細に説明する。ここで、要求駆動力は、運転者が車両に対して要求する駆動力を表す値であり、アクセル操作検出センサSe7及びブレーキ操作検出センサSe8からの出力に基づいて、モード選択部42が演算して取得する。車速は、車速センサSe6により検出する。なお、モード選択の際に参照される走行条件としては、車速及び要求駆動力の他にも、バッテリ充電量、冷却水温度、油温等の各種条件を用いても好適である。
【0058】
切替制御部43は、モード選択部42により選択された動作モードに応じて油圧制御装置35の動作を制御することにより、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2のそれぞれの係合又は解放を行う。これにより、切替制御部43は、ハイブリッド駆動装置Hの動作モードを切り替える制御を行う。
【0059】
1−3.切り替え可能に備えられる複数のモード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能なモードについて説明する。図3は、各モードでの各係合要素C1、C2、B1、B2の作動状態を示す作動表である。この図において、「●」は各係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。なお、「(●)」は当該係合要素が係合状態と解放状態のどちらでも良いことを示している。本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hは、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モード、EVモード、シリーズモード、第一パラレルモード、及び第二パラレルモードの7つのモードを切り替え可能に備えている。
【0060】
第一分配モード、第二分配モード、及び第三分配モードは、いずれも、差動機構を用いて入力軸I(エンジンE)のトルクを一方の回転電機MG1、MG2と出力軸Oとに分配すると共に、当該一方の回転電機MG1、MG2が反力トルクを出力することにより、入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達する動力分配モードである。このとき、反力トルクを出力する方の回転電機MG1、MG2が反力受けとなる。これらの動力分配モードでは、反力受けとなる回転電機MG1、MG2の回転速度を変化させることにより、入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力軸Oに伝達する電気的無段変速を行うことができる。第一パラレルモード及び第二パラレルモードは、いずれも、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達する動作モードである。これらのパラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比は各モードによって固定となる。これらのモードの他にも、ハイブリッド駆動装置Hは、EVモード及びシリーズモードが選択可能である。これらの各モードの詳細については後述する。
【0061】
図4〜図12は、各モードでの第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。また、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の各回転要素に対応している。そして、これらの図において、実線で示される直線が第一差動歯車装置P1の動作状態を示し、破線で示される直線が第二差動歯車装置P2の動作状態を示している。これらの速度線図上において、「○」は第一回転電機MG1の回転速度、「△」は入力軸I(エンジンE)の回転速度、「☆」は出力軸Oの回転速度、「□」は第二回転電機MG2の回転速度をそれぞれ示している。また、「×」はブレーキB1、B2により回転要素がケースCSに固定された状態を示し、「=」は2つの回転要素が一体回転するように連結された状態を示している。なお、C1、C2の符号が付された「=」は、クラッチC1、C2により一体回転するように連結された状態を示している。
【0062】
図4〜図12において、各回転要素の回転速度を示す点に隣接配置された矢印は、各動作モードでの車両の加速時に各回転要素に作用するトルクの向きを示しており、上向き矢印が正方向のトルクを表し、下向き矢印が負方向のトルクを表している。そして、「TE」はエンジンEから入力軸Iを介して差動歯車装置Dの回転要素に伝達される入力トルクTE、「T1」は第一回転電機MG1から差動歯車装置Dの回転要素に伝達されるMG1トルクT1、「T2」は第二回転電機MG2から差動歯車装置Dの回転要素に伝達されるMG2トルクT2、「TO」は車輪W側から出力軸Oを介して差動歯車装置Dの回転要素に伝達される走行抵抗TOを示している。以下、複数の動作モードのそれぞれについて、ハイブリッド駆動装置Hの動作状態を詳細に説明する。
【0063】
1−4.第一分配モード
第一分配モードは、上述した動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したモードである。第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動機構DM1を形成する。そして、第一回転電機MG1が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、出力軸Oの回転速度に比例して第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。本実施形態においては、第一差動機構DM1が、3つの回転要素を有する第一差動歯車装置P1により形成される。そして、第一差動機構DM1は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第一分配モードでは、この第一差動機構DM1が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0064】
更に、第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、第一差動機構DM1に加えて、回転速度の順に、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構CM1を更に形成する。そして、この第一モード用連結機構CM1により第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。第二回転電機MG2は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。本実施形態においては、第一モード用連結機構CM1は、第二差動歯車装置P2により形成される。後述するように、第三分配モードでは、第三差動機構DM3は第二差動歯車装置P2により形成されるため、この第一モード用連結機構CM1は、第三差動機構DM3の全部を用いて形成されることになる。
【0065】
図3に示すように、第一分配モードは、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合状態、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。図4は、この第一分配モードの速度線図を示している。この図4に示すように、第一分配モードでは、第一差動歯車装置P1により形成される第一差動機構DM1は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結される。そして、第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルク(MG1トルクT1)を出力することにより、第一キャリヤCA1に伝達された入力トルクTEが回転速度の順で他方端となる第一リングギヤR1に分配されて伝達される。この際、第一差動機構DM1は入力トルクTEを減衰して出力軸O側の回転要素(出力回転要素)である第一リングギヤR1に伝達する。このとき第一サンギヤS1に分配されたトルクは、第一回転電機MG1に伝達される。また、第一リングギヤR1に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達されるとともに、第二差動歯車装置P2により形成される第一モード用連結機構CM1を介して出力軸Oに伝達される。
【0066】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1に伝達される。また、第一回転電機MG1は、第一分配モードの全域で負方向のMG1トルクT1を出力し、当該MG1トルクT1が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0067】
第一分配モードでは、第二差動歯車装置P2により形成される第一モード用連結機構CM1は、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に出力軸Oが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS1及び第三サンギヤS3が第二ブレーキB2によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第三リングギヤR3に第一リングギヤR1及び第二回転電機MG2が駆動連結されている。従って、この第一分配モードでは、第一モード用連結機構CM1は、第一差動機構DM1の出力回転要素である第一リングギヤR1の回転を減速するとともに、第一リングギヤR1に伝達されたトルクを増幅して出力軸Oに伝達する。上記のとおり、第一リングギヤR1には、第一差動機構DM1により分配された入力トルクTEの一部と、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2とが伝達される。従って、第一モード用連結機構CM1は、これらのトルクを増幅して出力軸Oに伝達する。
【0068】
第一分配モードでは、図4に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度も正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は負方向に変化(下降)し、第二回転電機MG2の回転速度は正方向に変化(上昇)する。そして、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点で、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行う。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない点となっている。本実施形態では、この点を便宜上「無電気変換点」という。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2は、基本的に出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図13を用いて説明する。
【0069】
以上に説明したように、第一分配モードは、入力軸I(エンジンE)から第一差動機構DM1の出力回転要素である第一リングギヤR1に伝達された入力トルクTE及び第二回転電機MG2が出力したMG2トルクT2を、第一モード用連結機構CM1により増幅して出力軸Oに伝達することができるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域(低車速領域)であって出力軸Oに大きいトルクを伝達する必要がある状態で使用される低速用モードとして適している。本実施形態では、第一分配モードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。車両の発進時には、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一回転電機MG1の回転速度を下降させると共に第二回転電機MG2の回転速度を上昇させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点では、第一差動機構DM1と第一モード用連結機構CM1とが速度線図上で重なる。そして、この状態で第二クラッチC2を係合し、第二ブレーキB2を解放することにより、第一分配モードから第二分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第一分配モードから第二分配モードへの切り替え後には、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方のトルクの向きが反転し、図5に実線矢印で示すように、第一回転電機MG1が正方向のトルクを出力し、第二回転電機MG2が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図5に示す破線矢印は、第一分配モードでの第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のトルクの方向を示している。
【0070】
1−5.第二分配モード
第二分配モードは、上述した動力分配モードの一つであり、出力軸Oに伝達可能なトルク及び回転速度が3つの動力分配モードの中で中間であるため、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域での使用に適したモードである。第二分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第二差動機構DM2を形成する。本実施形態においては、第二差動機構DM2が第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される。そして、第二差動機構DM2は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第二分配モードでは、この第二差動機構DM2が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。この第二分配モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のいずれを反力受けとして機能させることも可能であるが、本実施形態においては、第二回転電機MG2を、入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとする。そして、第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。
【0071】
図3に示すように、第二分配モードは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図6は、この第二分配モードの速度線図を示している。この図6に示すように、第二分配モードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第一差動歯車装置P1を表す線と第二差動歯車装置P2を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される第二差動機構DM2は、回転速度の順で第一回転要素となる第一サンギヤS1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に第一回転電機MG1が駆動連結され、第二回転要素となる第二キャリヤCA2に出力軸Oが駆動連結され、第三回転要素となる第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に入力軸Iが駆動連結され、第四回転要素となる第一リングギヤR1及び第三リングギヤR3に第二回転電機MG2が駆動連結される。
【0072】
従って、第二差動機構DM2は、回転速度の順で、第二回転電機MG2に駆動連結された第四回転要素と出力軸Oに駆動連結された第二回転要素とが、入力軸Iに駆動連結された第三回転要素を挟んで反対側に位置する状態となっている。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、入力軸Iから伝達された入力トルクTEが出力軸Oに分配されて伝達される。この際、第二差動機構DM2は入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。そして第一リングギヤR1及び第三リングギヤR3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。また、第二差動機構DM2は、回転速度の順で出力軸Oに駆動連結された第二回転要素を挟んで、入力軸Iが駆動連結された第三回転要素と第一回転電機MG1が駆動連結された第一回転要素とが反対側に位置する状態となっている。従って、第一回転電機MG1が入力トルクTEと同じ方向のMG1トルクT1を出力することにより、入力トルクTEのアシストを行うことができる。
【0073】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第二分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0074】
第二分配モードでは、図6に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度も正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は正方向に変化(上昇)し、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。そして、図7に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行う。なお、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない無電気変換点となっている。第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第一回転電機MG1は、基本的に出力するMG1トルクT1をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図13を用いて説明する。
【0075】
以上に説明したように、第二分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力することにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達すると共に、第一回転電機MG1により入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行うことができる。このため、第二分配モードは、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域(中車速領域)で使用される中速用モードとして適している。本実施形態では、第二分配モードは、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロの状態から、図7に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。そして、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で第一ブレーキB1を係合し、第一クラッチC1を解放することにより、第二分配モードから第三分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第一ブレーキB1の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第二分配モードから第三分配モードへの切り替え後には、第一回転電機MG1のトルクの向きが反転し、図7に実線矢印で示すように、第一回転電機MG1が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図7に示す破線矢印は、第二分配モードでの第一回転電機MG1のトルクの方向を示している。一方、第二回転電機MG2は、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えの前後でトルクの方向は変化せず、回転方向が反転する。すなわち、第二回転電機MG2は、第二分配モードから第三分配モードに切り替えることにより回転速度が正から負に変化する。本実施形態の構成によれば、上記のように、第二分配モードにおいて、第二回転電機MG2を反力受けとして機能させ、負方向のトルクを出力させる構成としているので、第二分配モードから第三分配モードへの移行に際して、第二回転電機MG2のトルクを負方向のまま維持して出力軸Oの回転速度を上昇させ続けることができるので、モード移行をより円滑に行うことができる。
【0076】
1−6.第三分配モード
第三分配モードは、上述した動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したモードである。第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第三差動機構DM3を形成する。そして、第二回転電機MG2が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、入力軸Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。本実施形態においては、第三差動機構DM3が、4つの回転要素を有する第二差動歯車装置P2により形成される。そして、第三差動機構DM3は、回転速度の順に、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸I及び第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第三分配モードでは、この第三差動機構DM3が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0077】
更に、第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、第三差動機構DM3に加えて、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構CM3を更に形成する。そして、この第三モード用連結機構CM3により第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクにより回転されて発電を行う。本実施形態においては、第三モード用連結機構CM3は、第一差動歯車装置P1により形成される。上述したように、第一分配モードでは、第一差動機構DM1は第一差動歯車装置P1により形成されるため、この第三モード用連結機構CM3は、第一差動機構DM1の全部を用いて形成されることになる。
【0078】
図3に示すように、第三分配モードは、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が係合状態、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図8は、この第三分配モードの速度線図を示している。この図8に示すように、第三分配モードでは、第二差動歯車装置P2の4つの回転要素のうち、第二回転要素E2、第三回転要素E3、及び第四回転要素E4、の3つの回転要素を実質的に用いる。そして、第二差動歯車装置P2により形成される第三差動機構DM3は、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第三リングギヤR3に第二回転電機MG2が駆動連結される。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に伝達された入力トルクTEが回転速度の順で他方端となる第二キャリヤCA2に分配されて伝達される。この際、第三差動機構DM3は入力トルクTEを減衰して出力軸O側の回転要素(出力回転要素)である第二キャリヤCA2に伝達する。このとき第三リングギヤR3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。一方、第一回転電機MG1へは、第三モード用連結機構CM3を介して、第三差動機構DM3を介することなく直接的に入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが伝達される。
【0079】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第三分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に負方向のMG1トルクT1を出力し、第三モード用連結機構CM3を介して入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクを用いて発電を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。
【0080】
第三分配モードでは、第一差動歯車装置P1により形成される第三モード用連結機構CM3は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に入力軸Iが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1が第一ブレーキB1によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結されている。従って、この第三分配モードでは、第三モード用連結機構CM3は、入力軸Iの回転を増速して第一回転電機MG1に伝達すると共に、第一回転電機MG1の回生トルクであるMG1トルクT1を増幅して入力軸Iに伝達する。この際、第三モード用連結機構CM3は、第三差動機構DM3を介することなく直接的に第一回転電機MG1を入力軸Iに駆動連結する機能を果たす。従って、第一回転電機MG1には、入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが直接的に伝達される。従って、力行する第二回転電機MG2に供給する電力を第一回転電機MG1が発電する場合に、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。またこの際、発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1が直接的に入力軸Iに伝達されるため、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが、第一回転電機MG1から入力軸Iに伝達されるトルクの分だけ減衰することになる。そのため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換される量を少なくすることができるので、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。
【0081】
第三分配モードでは、図8に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度は負となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。なお、第一回転電機MG1の回転速度は、入力軸Iの回転速度に比例して定まるため、入力軸Iの回転速度が変化しなければ、第一回転電機MG1の回転速度も変化しない。
【0082】
以上に説明したように、第三分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力するために負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態となることにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。このため、第三分配モードでは、出力軸Oの回転速度が上昇しても第二回転電機MG2の回転方向及びトルクの方向は変化せず、第二回転電機MG2が力行する状態は維持される。また、第三分配モードでは、入力トルクTEを第一回転電機MG1に直接的に伝達して第一回転電機MG1に発電を行わせることができる。そのため、上記のように、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。また発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1によって、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが減衰するため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。以上より、第三分配モードは、出力軸Oの回転速度が高い高速領域(高車速領域)で使用される高速用モードとして適している。
【0083】
1−7.EVモード
EVモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達する電動車両モードである。このEVモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1はトルクを出力しない非駆動状態とされ、第二回転電機MG2のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させる。この際、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力を消費して力行する。図3に示すように、EVモードは、第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。
【0084】
図9は、このEVモードの速度線図を示している。この図9に示すように、EVモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、第二差動歯車装置P2では、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三リングギヤR3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、EVモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、EVモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。一方、入力軸I(エンジンE)及び第一回転電機MG1の出力トルクはゼロとされ、これらの回転速度もゼロとされる。よって、第一差動歯車装置P1の各回転要素の回転速度もゼロとされる。
【0085】
このEVモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図9に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。
【0086】
1−8.シリーズモード
シリーズモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させると共に、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクを第一回転電機MG1に伝達して発電を行わせるモードである。このシリーズモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1は発電のみを行い、出力軸Oへは第二回転電機MG2のトルクのみを伝達する。この際、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1が発電した電力を消費して力行する。図3に示すように、シリーズモードは、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態で実現される。
【0087】
図10は、このシリーズモードの速度線図を示している。この図10に示すように、シリーズモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、第二差動歯車装置P2では、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三リングギヤR3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。また、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1がケースCSに固定される。これにより、第一差動歯車装置P1では、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1の回転が停止され、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1に伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクが減衰されて第一回転電機MG1に伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、シリーズモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、シリーズモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。そして、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電のためにのみ用いられる。
【0088】
このシリーズモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図10に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。一方、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電必要量に応じて制御される。第一回転電機MG1による発電必要量は、第二回転電機MG2の力行のために必要な電力やバッテリ21の充電量等に応じて定まる。
【0089】
1−9.第一パラレルモード
第一パラレルモードは、上述した2つのパラレルモードの一つであり、後述する第二パラレルモードよりも大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第一パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第二回転電機MG2は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第一パラレルモードでは、第二回転電機MG2は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第一回転電機MG1は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図3に示すように、第一パラレルモードは、第二クラッチC2及び第二ブレーキB2が係合状態、第一ブレーキB1が解放状態で実現される。なお、第一クラッチC1は係合状態と解放状態のどちらでもよい。
【0090】
図11は、この第一パラレルモードの速度線図を示している。この図11に示すように、第一パラレルモードでは、第二クラッチC2を係合状態とすることにより入力軸Iが第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に駆動連結される。この状態で、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、第二差動歯車装置P2では、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二キャリヤCA2よりも他方端側となる第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に駆動連結された入力軸Iの回転、並びにそれより更に他方端側となる第三リングギヤR3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が共に減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)及び第二回転電機MG2のトルクが共に増幅されて出力軸Oに伝達される。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第二回転電機MG2から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。ここで、第二回転電機MG2から出力軸Oまでの変速比は、入力軸Iから出力軸Oまでの変速比よりも大きいため、第二回転電機MG2のトルクは入力軸I(エンジンE)よりも大きく増幅されて出力軸Oに伝達される。
【0091】
この第一パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第二回転電機MG2は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0092】
1−10.第二パラレルモード
第二パラレルモードは、上述した2つのパラレルモードの一つであり、上述した第一パラレルモードよりも高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第二パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第一回転電機MG1は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第二パラレルモードでは、第一回転電機MG1は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第二回転電機MG2は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図3に示すように、第二パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が係合状態、第二ブレーキB2が解放状態で実現される。
【0093】
図12は、この第二パラレルモードの速度線図を示している。この図12に示すように、第二パラレルモードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を係合状態とすることにより第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となる。この状態で、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1及び第二差動歯車装置P2の第三リングギヤR3がケースCSに固定される。これにより、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1及び第三リングギヤR3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二キャリヤCA2よりも一方端側となる、第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて出力軸Oに伝達される。また、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二キャリヤCA2よりも他方端側となる、第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1の回転は減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクは減衰され、第一回転電機MG1のトルクは増幅されて出力軸Oに伝達される。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第一回転電機MG1から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。
【0094】
この第二パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第一回転電機MG1は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG1トルクT1を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第一回転電機MG1は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第一回転電機MG1は正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0095】
1−11.ハイブリッド駆動装置の理論伝達効率について
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける3つの動力分配モードの理論伝達効率について説明する。図13は、3つの動力分配モードのそれぞれについての理論伝達効率(縦軸)と入出力回転速度比(横軸)との関係を示したグラフである。入出力回転速度比は、出力軸Oの回転速度と入力軸Iの回転速度との比であり、ここでは、入力軸Iの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値としている。理論伝達効率は、入力軸I(エンジンE)の出力(仕事率)が出力軸Oに伝達されるまでの伝達効率に関し、歯車等の機械的な伝動部材を介して機械的に伝達される際の伝達効率を100%と仮定し、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2により一旦電力に変換されて伝達される際の伝達効率を90%と仮定して計算した伝達効率としている。従って、入力トルクTEに対する反力受けとして機能する第一回転電機MG1又は第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなり、電気変換が行われない無電気変換点において、理論伝達効率は100%となる。そして、第一回転電機MG1又は第二回転電機MG2の回転速度の絶対値が大きくなり、エンジンE(入力軸I)の出力(仕事率)が電力に変換される割合が高くなるに従って理論伝達効率は低くなる。
【0096】
そして、図13に示される山形の3つの線L1〜L3が各モードの理論伝達効率を表しており、線L1が第一分配モード、線L2が第二分配モード、線L3が第三分配モードを表している。また、この図の上部に記載した各モードの範囲は、当該モードが選択される入出力回転速度比の範囲を表している。この図に示すように、入出力回転速度比が大きい領域で第一分配モードを選択し、入出力回転速度比が小さい領域で第三分配モードを選択し、入出力回転速度比がこれらの中間の領域で第二分配モードを選択する。そして、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる同期切替点(図5参照)となっており、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる同期切替点(図7参照)となっている。この図13から明らかなように、本実施形態では、入出力回転速度比の値に応じて、3つのモードの中で最も理論伝達効率が高いモードが選択されるようになっている。従って、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hによれば、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モードを、同期切替点において順に切り替えることにより、高いエネルギ効率で車両を走行させることができる。
【0097】
2.第二の実施形態
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図14は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図14は、図1と同様に、軸対称の構成を一部省略して示している。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、差動歯車装置Dの構成が上記第一の実施形態とは異なっており、これに伴って、特に第一分配モードにおける各部の動作が上記第一の実施形態と異なっている。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの制御システムの構成は、上記第一の実施形態と同様であるため(図2参照)、説明は省略する。その他にも、特に説明しない点については上記第一の実施形態と同様とする。
【0098】
2−1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
まず、ハイブリッド駆動装置Hの各部の機械的構成について説明する。図14に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、差動歯車装置Dの構成が上記第一の実施形態とは異なっている。すなわち、本実施形態に係る差動歯車装置Dは、第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の3つに分けられる。そして、差動歯車装置Dは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の係合状態を切り替えることによって、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の複数の回転要素の連結関係を変更し、各モードを実行するための差動機構及び連結機構を形成する。本実施形態においても、上記第一の実施形態と同様に、第一分配モードでは、差動歯車装置Dは第一差動機構DM1及び第一モード用連結機構CM1を形成し、第二分配モードでは、差動歯車装置Dは第二差動機構DM2を形成し、第三分配モードでは、差動歯車装置Dは第三差動機構DM3及び第三モード用連結機構CM3を形成する。以下、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の構成について図1に基づいて詳細に説明する。
【0099】
第一差動歯車装置P1は、3つの回転要素を備えており、ここでは、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第一差動歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持する第一キャリヤCA1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第一サンギヤS1及び第一リングギヤR1とを回転要素として有している。第一サンギヤS1は、第一回転電機MG1のロータRo1と一体回転するように駆動連結されている。第一キャリヤCA1は、入力軸I及び第二差動歯車装置P2の第二キャリヤCA2と一体回転するように駆動連結されている。第一リングギヤR1は、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定されると共に、第一クラッチC1により第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2に選択的に駆動連結される。これらの第一差動歯車装置P1の3つの回転要素は、回転速度の順に、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1となっている。従って、本実施形態においては、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1が、それぞれ第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0100】
第二差動歯車装置P2は、3つの回転要素を備えており、ここでは、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第二差動歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持する第二キャリヤCA2と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第二サンギヤS2及び第二リングギヤR2とを回転要素として有している。第二サンギヤS2は、第一クラッチC1により第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1に選択的に駆動連結されると共に、第二クラッチC2により第三差動歯車装置P3の第三サンギヤS3及び第二回転電機MG2のロータRo2に選択的に駆動連結される。第二キャリヤCA2は、入力軸I及び第一差動歯車装置P1の第一キャリヤCA1と一体回転するように駆動連結されている。第二リングギヤR2は、出力軸O及び第三差動歯車装置P3の第三リングギヤR3と一体回転するように駆動連結されている。これらの第二差動歯車装置P2の3つの回転要素は、回転速度の順に、第二リングギヤR2、第二キャリヤCA2、第二サンギヤS2となっている。従って、本実施形態においては、第二リングギヤR2、第二キャリヤCA2、第二サンギヤS2が、それぞれ第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0101】
第三差動歯車装置P3は、3つの回転要素を備えており、ここでは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第三差動歯車装置P3は、複数対のピニオンギヤを支持する第三キャリヤCA3と、一対のピニオンギヤの一方に噛み合う第三サンギヤS3と、一対のピニオンギヤの他方に噛み合う第三リングギヤR3とを回転要素として有している。第三サンギヤS3は、第二回転電機MG2のロータRo2と一体回転するように駆動連結されている。また、第三サンギヤS3は、第二クラッチC2により第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2に選択的に駆動連結される。第三キャリヤCA3は、第二ブレーキB2によりケースCSに選択的に固定される。第三リングギヤR3は、出力軸O及び第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2と一体回転するように駆動連結されている。これらの第三差動歯車装置P3の3つの回転要素は、回転速度の順に、第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3、第三サンギヤS3となっている。従って、本実施形態においては、第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3、第三サンギヤS3が、それぞれ第三差動歯車装置P3の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0102】
2−2.切り替え可能に備えられる複数のモード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能なモードについて説明する。図15は、各モードでの各係合要素C1、C2、B1、B2の作動状態を示す作動表である。本実施形態においても、ハイブリッド駆動装置Hは、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モード、EVモード、シリーズモード、第一パラレルモード、及び第二パラレルモードの7つのモードを切り替え可能に備えている。また、図16〜図24は、各モードでの第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の動作状態を表す速度線図である。これらの図の記述方法は、上記第一の実施形態において説明したのと同様である。但し、図16〜図24において、実線で示される直線が第一差動歯車装置P1の動作状態を示し、一点鎖線で示される直線が第二差動歯車装置P2の動作状態を示し、破線で示される直線が第三差動歯車装置P3の動作状態を示している。以下、複数の動作モードのそれぞれについて、ハイブリッド駆動装置Hの動作状態を詳細に説明する。
【0103】
2−3.第一分配モード
第一分配モードは、動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したモードである。第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動機構DM1を形成する。そして、第一回転電機MG1が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、出力軸Oの回転速度に比例して第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。本実施形態においては、第一差動機構DM1が、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される。そして、第一差動機構DM1は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、を有する。この第一分配モードでは、この第一差動機構DM1が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0104】
更に、第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、第一差動機構DM1に加えて、回転速度の順に、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構CM1を更に形成する。そして、この第一モード用連結機構CM1により第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。第二回転電機MG2は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。本実施形態においては、第一モード用連結機構CM1は、第三差動歯車装置P3により形成される。後述するように、第三差動歯車装置P3は、第三分配モードでは、第三差動機構DM3の一部を構成するため、この第一モード用連結機構CM1は、第三差動機構DM3の一部を用いて形成されることになる。
【0105】
図15に示すように、第一分配モードは、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合状態、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。図16は、この第一分配モードの速度線図を示している。この図16に示すように、第一分配モードでは、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第一差動歯車装置P1を表す線と第二差動歯車装置P2を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される第一差動機構DM1は、4つの回転要素のうち、第一サンギヤS1、第二リングギヤR2、第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2、の3つの回転要素を実質的に用いる。第一差動機構DM1は、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二リングギヤR2に出力軸Oが駆動連結される。更に、この第二リングギヤR2に対して回転速度の順で一方側となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結され、回転速度の順で他方側となる第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に入力軸I(エンジンE)が駆動連結される。そして、第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルク(MG1トルクT1)を出力することにより、入力トルクTEが第二リングギヤR2に分配されて出力軸Oに伝達される。この際、第一差動機構DM1は入力トルクTEとMG1トルクT1とを合成し、入力トルクTEに対して増幅したトルクを第二リングギヤR1及び出力軸Oに伝達する。このとき第一サンギヤS1に分配されたトルクは、第一回転電機MG1に伝達される。一方、第二回転電機MG2は、第一モード用連結機構CM1を介して、第一差動機構DM1を介することなく直接的に出力軸OにMG2トルクT2を伝達する。
【0106】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に伝達される。また、第一回転電機MG1は、第一分配モードの全域で正方向のMG1トルクT1を出力し、当該MG1トルクT1が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第一回転電機MG1は、負回転しつつ正方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0107】
第一分配モードでは、第三差動歯車装置P3により形成される第一モード用連結機構CM1は、回転速度の順で中間となる第三リングギヤR3に出力軸Oが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第三キャリヤCA3が第二ブレーキB2によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第三サンギヤS3に第二回転電機MG2が駆動連結されている。従って、この第一分配モードでは、第一モード用連結機構CM1は、第二回転電機MG2の回転を減速するとともに、第二回転電機MG2のMG2トルクT2を増幅して出力軸Oに伝達する。
【0108】
第一分配モードでは、図16に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は負、第二回転電機MG2の回転速度は正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は正方向に変化(上昇)し、第二回転電機MG2の回転速度も正方向に変化(上昇)する。そして、図17に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点で、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行う。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない無電気変換点となっている。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2は、基本的に出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図25を用いて説明する。
【0109】
以上に説明したように、第一分配モードは、第一差動機構DM1により入力トルクTEとMG1トルクT1とを合成して入力トルクTEに対して増幅したトルクを出力軸Oに伝達すると共に、第二回転電機MG2のMG2トルクT2を第一モード用連結機構CM1により増幅して出力軸Oに伝達することができるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域(低車速領域)であって出力軸Oに大きいトルクを伝達する必要がある状態で使用される低速用モードとして適している。本実施形態では、第一分配モードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、図17に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。車両の発進時には、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一回転電機MG1の回転速度を上昇させると共に第二回転電機MG2の回転速度を上昇させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点では、第一差動機構DM1と第一モード用連結機構CM1とが速度線図上で重なる。そして、この状態で第二クラッチC2を係合し、第二ブレーキB2を解放することにより、第一分配モードから第二分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第一分配モードから第二分配モードへの切り替え後には、第二回転電機MG2のトルクの向きが反転し、図17に実線矢印で示すように、第二回転電機MG2が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図17に示す破線矢印は、第一分配モードでの第二回転電機MG2のトルクの方向を示している。一方、第一回転電機MG1は、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えの前後でトルクの方向は変化せず、回転方向が反転する。すなわち、第一回転電機MG1は、第一分配モードから第二分配モードに切り替えることにより回転速度が正から負に変化する。本実施形態の構成によれば、このように、第一分配モードから第二分配モードへの移行に際して、第一回転電機MG1のトルクを正方向のまま維持して出力軸Oの回転速度を上昇させ続けることができるので、モード移行をより円滑に行うことができる。
【0110】
2−4.第二分配モード
第二分配モードは、動力分配モードの一つであり、出力軸Oに伝達可能なトルク及び回転速度が3つの動力分配モードの中で中間であるため、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域での使用に適したモードである。第二分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第二差動機構DM2を形成する。本実施形態においては、第二差動機構DM2が第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3との組み合わせにより形成される。そして、第二差動機構DM2は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第二分配モードでは、この第二差動機構DM2が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。この第二分配モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のいずれを反力受けとして機能させることも可能であるが、本実施形態においては、第二回転電機MG2を、入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとする。そして、第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。
【0111】
図15に示すように、第二分配モードは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図18は、この第二分配モードの速度線図を示している。この図18に示すように、第二分配モードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第一差動歯車装置P1を表す線と第二差動歯車装置P2を表す線と第三差動歯車装置P3を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの3つの差動歯車装置P1〜P3の組み合わせにより形成される第二差動機構DM2は、回転速度の順で第一回転要素となる第一サンギヤS1及び第三キャリヤCA3に第一回転電機MG1が駆動連結され、第二回転要素となる第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3に出力軸Oが駆動連結され、第三回転要素となる第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に入力軸Iが駆動連結され、第四回転要素となる第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に第二回転電機MG2が駆動連結される。
【0112】
従って、第二差動機構DM2は、回転速度の順で、第二回転電機MG2に駆動連結された第四回転要素と出力軸Oに駆動連結された第二回転要素とが、入力軸Iに駆動連結された第三回転要素を挟んで反対側に位置する状態となっている。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、入力軸Iから伝達された入力トルクTEが出力軸Oに分配されて伝達される。この際、第二差動機構DM2は入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。そして第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。また、第二差動機構DM2は、回転速度の順で出力軸Oに駆動連結された第二回転要素を挟んで、入力軸Iが駆動連結された第三回転要素と第一回転電機MG1が駆動連結された第一回転要素とが反対側に位置する状態となっている。従って、第一回転電機MG1が入力トルクTEと同じ方向のMG1トルクT1を出力することにより、入力トルクTEのアシストを行うことができる。
【0113】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第二分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0114】
第二分配モードでは、図18に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度も正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は正方向に変化(上昇)し、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。そして、図19に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行う。なお、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない無電気変換点となっている。第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第一回転電機MG1は、基本的に出力するMG1トルクT1をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図25を用いて説明する。
【0115】
以上に説明したように、第二分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力することにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達すると共に、第一回転電機MG1により入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行うことができる。このため、第二分配モードは、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域(中車速領域)で使用される中速用モードとして適している。本実施形態では、第二分配モードは、図17に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロの状態から、図19に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。そして、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で第一ブレーキB1を係合し、第一クラッチC1を解放することにより、第二分配モードから第三分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第一ブレーキB1の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第二分配モードから第三分配モードへの切り替え後には、第一回転電機MG1のトルクの向きが反転し、図19に実線矢印で示すように、第一回転電機MG1が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図19に示す破線矢印は、第二分配モードでの第一回転電機MG1のトルクの方向を示している。一方、第二回転電機MG2は、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えの前後でトルクの方向は変化せず、回転方向が反転する。すなわち、第二回転電機MG2は、第二分配モードから第三分配モードに切り替えることにより回転速度が正から負に変化する。本実施形態の構成によれば、上記のように、第二分配モードにおいて、第二回転電機MG2を反力受けとして機能させ、負方向のトルクを出力させる構成としているので、第二分配モードから第三分配モードの移行に際して、第二回転電機MG2のトルクを負方向のまま維持して出力軸Oの回転速度を上昇させ続けることができるので、モード移行をより円滑に行うことができる。
【0116】
2−5.第三分配モード
第三分配モードは、動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したモードである。第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第三差動機構DM3を形成する。そして、第二回転電機MG2が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、入力軸Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。本実施形態においては、第三差動機構DM3が、第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3との組み合わせにより形成される。そして、第三差動機構DM3は、回転速度の順に、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸I及び第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第三分配モードでは、この第三差動機構DM3が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0117】
更に、第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、第三差動機構DM3に加えて、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構CM3を更に形成する。そして、この第三モード用連結機構CM3により第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクにより回転されて発電を行う。本実施形態においては、第三モード用連結機構CM3は、第一差動歯車装置P1により形成される。上述したように、第一差動歯車装置P1は、第一分配モードでは、第一差動機構DM1の一部を形成するため、この第三モード用連結機構CM3は、第一差動機構DM1の一部を用いて形成されることになる。
【0118】
図15に示すように、第三分配モードは、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が係合状態、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図20は、この第三分配モードの速度線図を示している。この図20に示すように、第三分配モードでは、第二クラッチC2が係合状態とされることにより、第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第二差動歯車装置P2を表す線と第三差動歯車装置P3を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3との組み合わせにより形成される第三差動機構DM3は、4つの回転要素のうち、第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3、第二キャリヤCA2、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3、の3つの回転要素を実質的に用いる。第三差動機構DM3は、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3に第二回転電機MG2が駆動連結される。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、第二キャリヤCA2に伝達された入力トルクTEが回転速度の順で他方端となる第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3に分配されて伝達される。この際、第三差動機構DM3は入力トルクTEを減衰して第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3、並びに出力軸Oに伝達する。このとき第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。一方、第一回転電機MG1へは、第三モード用連結機構CM3を介して、第三差動機構DM3を介することなく直接的に入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが伝達される。
【0119】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第三分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に負方向のMG1トルクT1を出力し、第三モード用連結機構CM3を介して入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクを用いて発電を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。
【0120】
第三分配モードでは、第一差動歯車装置P1により形成される第三モード用連結機構CM3は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に入力軸Iが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1が第一ブレーキB1によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結されている。従って、この第三分配モードでは、第三モード用連結機構CM3は、入力軸Iの回転を増速して第一回転電機MG1に伝達すると共に、第一回転電機MG1の回生トルクであるMG1トルクT1を増幅して入力軸Iに伝達する。この際、第三モード用連結機構CM3は、第三差動機構DM3を介することなく直接的に第一回転電機MG1を入力軸Iに駆動連結する機能を果たす。従って、第一回転電機MG1には、入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが直接的に伝達される。従って、力行する第二回転電機MG2に供給する電力を第一回転電機MG1が発電する場合に、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。またこの際、発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1が直接的に入力軸Iに伝達されるため、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが、第一回転電機MG1から入力軸Iに伝達されるトルクの分だけ減衰することになる。そのため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換される量を少なくすることができるので、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。
【0121】
第三分配モードでは、図20に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度は負となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。なお、第一回転電機MG1の回転速度は、入力軸Iの回転速度に比例して定まるため、入力軸Iの回転速度が変化しなければ、第一回転電機MG1の回転速度も変化しない。
【0122】
以上に説明したように、第三分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力するために負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態となることにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。このため、第三分配モードでは、出力軸Oの回転速度が上昇しても第二回転電機MG2の回転方向及びトルクの方向は変化せず、第二回転電機MG2が力行する状態は維持される。また、第三分配モードでは、入力トルクTEを第一回転電機MG1に直接的に伝達して第一回転電機MG1に発電を行わせることができる。そのため、上記のように、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。また発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1によって、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが減衰するため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。以上より、第三分配モードは、出力軸Oの回転速度が高い高速領域(高車速領域)で使用される高速用モードとして適している。
【0123】
2−6.EVモード
EVモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達する電動車両モードである。このEVモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1はトルクを出力しない非駆動状態とされ、第二回転電機MG2のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させる。この際、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力を消費して力行する。図15に示すように、EVモードは、第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。
【0124】
図21は、このEVモードの速度線図を示している。この図21に示すように、EVモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第三差動歯車装置P3の第三キャリヤCA3がケースCSに固定される。これにより、第三差動歯車装置P3では、回転速度の順で一方端となる第三キャリヤCA3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三サンギヤS3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第三リングギヤR3に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2以外の2つの回転要素が自由に回転可能な状態となることで、実質的に第三差動歯車装置P3と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、EVモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、EVモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。一方、入力軸I(エンジンE)及び第一回転電機MG1の出力トルクはゼロとされ、これらの回転速度もゼロとされる。よって、第一差動歯車装置P1の各回転要素の回転速度もゼロとされる。
【0125】
このEVモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図21に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。
【0126】
2−7.シリーズモード
シリーズモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させると共に、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクを第一回転電機MG1に伝達して発電を行わせるモードである。このシリーズモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1は発電のみを行い、出力軸Oへは第二回転電機MG2のトルクのみを伝達する。この際、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1が発電した電力を消費して力行する。図15に示すように、シリーズモードは、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態で実現される。
【0127】
図22は、このシリーズモードの速度線図を示している。この図22に示すように、シリーズモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第三差動歯車装置P3の第三キャリヤCA3がケースCSに固定される。これにより、第三差動歯車装置P3では、回転速度の順で一方端となる第三キャリヤCA3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三サンギヤS3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第三リングギヤR3に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。また、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1がケースCSに固定される。これにより、第一差動歯車装置P1では、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1の回転が停止され、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1に伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクが減衰されて第一回転電機MG1に伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2以外の2つの回転要素が自由に回転可能な状態となることで、実質的に第三差動歯車装置P3と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、シリーズモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、シリーズモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。そして、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電のためにのみ用いられる。
【0128】
このシリーズモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図22に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。一方、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電必要量に応じて制御される。第一回転電機MG1による発電必要量は、第二回転電機MG2の力行のために必要な電力やバッテリ21の充電量等に応じて定まる。
【0129】
2−8.第一パラレルモード
第一パラレルモードは、2つのパラレルモードの一つであり、後述する第二パラレルモードよりも大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第一パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第二回転電機MG2は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第一パラレルモードでは、第二回転電機MG2は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第一回転電機MG1は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図15に示すように、第一パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第二ブレーキB2が係合状態、第一ブレーキB1が解放状態で実現される。
【0130】
図23は、この第一パラレルモードの速度線図を示している。この図23に示すように、第一パラレルモードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を係合状態とすることにより第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となる。この状態で、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第一サンギヤS1及び第三キャリヤCA3がケースCSに固定される。これにより、回転速度の順で一方端となる第一サンギヤS1及び第三キャリヤCA3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3よりも他方端側となる、第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に駆動連結された入力軸Iの回転、並びにそれより更に他方端側となる第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が共に減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)及び第二回転電機MG2のトルクが共に増幅されて出力軸Oに伝達される。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第二回転電機MG2から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。ここで、第二回転電機MG2から出力軸Oまでの変速比は、入力軸Iから出力軸Oまでの変速比よりも大きいため、第二回転電機MG2のトルクは入力軸I(エンジンE)よりも大きく増幅されて出力軸Oに伝達される。
【0131】
この第一パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第二回転電機MG2は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0132】
2−9.第二パラレルモード
第二パラレルモードは、2つのパラレルモードの一つであり、上述した第一パラレルモードよりも高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第二パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第一回転電機MG1は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第二パラレルモードでは、第一回転電機MG1は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第二回転電機MG2は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図15に示すように、第二パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が係合状態、第二ブレーキB2が解放状態で実現される。
【0133】
図24は、この第二パラレルモードの速度線図を示している。この図24に示すように、第二パラレルモードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を係合状態とすることにより第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となる。この状態で、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3よりも一方端側となる、第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて出力軸Oに伝達される。また、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3よりも他方端側となる、第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1の回転は減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクは減衰され、第一回転電機MG1のトルクは増幅されて出力軸Oに伝達される。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第一回転電機MG1から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。
【0134】
この第二パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第一回転電機MG1は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG1トルクT1を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第一回転電機MG1は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第一回転電機MG1は正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0135】
2−10.ハイブリッド駆動装置の理論伝達効率について
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける3つの動力分配モードの理論伝達効率について説明する。図25は、3つの動力分配モードのそれぞれについての理論伝達効率(縦軸)と入出力回転速度比(横軸)との関係を示したグラフである。この図の記述方法は、上記第一の実施形態における図13と同様である。この図に示すように、本実施形態においても、入出力回転速度比が大きい領域で第一分配モードを選択し、入出力回転速度比が小さい領域で第三分配モードを選択し、入出力回転速度比がこれらの中間の領域で第二分配モードを選択する。そして、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる同期切替点(図17参照)となっており、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる同期切替点(図19参照)となっている。この図25から明らかなように、本実施形態では、入出力回転速度比の値に応じて、3つのモードの中で最も理論伝達効率が高いモードが選択されるようになっている。従って、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hによれば、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モードを、同期切替点において順に切り替えることにより、高いエネルギ効率で車両を走行させることができる。
【0136】
3.その他の実施形態
(1)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、いずれも、第一分配モードから第二分配モードへの切り替えに際して係合する係合要素(第二クラッチC2)の両側の係合部材の回転速度が同じ状態となる同期切替点において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる場合を例として説明した。これは、上記第一の実施形態においては、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1との速度線図上での位置が一致するように、第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の歯数比が設定され、上記第二の実施形態においては、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第三差動歯車装置P3の第一回転要素E1との速度線図上での位置が一致するように、第一差動歯車装置P1及び第三差動歯車装置P3の歯数比が設定されていることによる。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一分配モードから第二分配モードへの同期切替点において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとならない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このようなハイブリッド駆動装置Hの例を、図26及び図27に示す。この図26に示すハイブリッド駆動装置Hは、上記第二の実施形態に類似するが、第三差動歯車装置P3がシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている点で相違している。このような第三差動歯車装置P3の構成の相違により、このハイブリッド駆動装置Hでは、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第三差動歯車装置P3の第一回転要素E1との速度線図上での位置が異なっている。これにより、図27に示すように、第一分配モードから第二分配モードへの同期切替点において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとならず、負となっている。また、当該同期切替点において第一回転電機MG1の回転速度が正となるように構成しても好適である。このような構成であっても、第一分配モードから第二分配モードへの同期切替点は、依然として無電気変換点の近傍にあるため、上記第一の実施形態及び第二の実施形態に比べて、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率が大きく悪化することはない。なお、図示は省略するが、上記第一の実施形態と同様のハイブリッド駆動装置Hの構成において、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1との速度線図上での位置が異なる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0137】
(2)上記第一の実施形態では、第二差動歯車装置P2が、2つの遊星歯車機構P21、P22のサンギヤS2、S3同士を駆動連結すると共に一方のリングギヤR2と他方のキャリヤCA3とを駆動連結することにより、4つの回転要素を有する差動歯車装置として構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、4つの回転要素を有する差動歯車装置であれば、他にも各種の具体的構成を用いることが可能である。例えば、2つの遊星歯車機構の一方のキャリヤと他方のリングギヤとを駆動連結すると共に、一方のリングギヤと他方のキャリヤとを駆動連結して構成された4つの回転要素を有する差動歯車装置や、シングルピニオン型の遊星歯車機構とダブルピニオン型の遊星歯車機構とがキャリヤ及びリングギヤを共用してなるいわゆるラビニヨ型の遊星歯車装置を用いることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0138】
(3)上記第一の実施形態における第一差動歯車装置P1、並びに上記第二の実施形態における第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2が、いずれもシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、上記第二の実施形態における第三差動歯車装置P3がダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、いずれかのシングルピニオン型の遊星歯車機構をダブルピニオン型の遊星歯車機構に置き換え、或いはダブルピニオン型の遊星歯車機構をシングルピニオン型の遊星歯車機構に置き換えることも、本発明の好適な実施形態の一つである。いずれの場合にも、回転速度の順に応じた連結関係が上記の実施形態と同様になるようにすると好適である。
【0139】
(4)上記の各実施形態では、いずれも差動歯車装置が遊星歯車機構の組み合わせにより構成されている場合の例について説明した。しかし、本発明に係る差動歯車装置の実施形態はこれに限定されるものではない。したがって、例えば、複数の傘歯車を組み合わせた構成等のように、他の形態の歯車機構を用いて差動歯車装置を構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0140】
(5)また、上記の各実施形態において説明した差動歯車装置Dの具体的構成及びこれらの各回転要素に対する係合要素の配置構成は単なる例示であり、上記以外の構成によっても本発明の構成を実現することが可能な全ての構成が、本発明の範囲に含まれる。
【0141】
(6)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、ハイブリッド駆動装置Hが、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モード、EVモード、シリーズモード、第一パラレルモード、及び第二パラレルモードの7つのモードを切り替え可能に備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。従って、ハイブリッド駆動装置Hが、第一分配モード、第二分配モード、及び第三分配モードの3つのみを切り替え可能に備える構成とし、或いはこれら3つのモードと、残りの4つのモードの中の一部のモードとを切り替え可能に備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、上記第一の実施形態及び第二の実施形態において説明したモードとは異なるモードを更に切り替え可能に備える構成としてもよい。
【0142】
(7)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第一分配モードにおいて、第二回転電機MG2が第一モード用連結機構CM1を介して出力軸Oに駆動連結された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、出力軸Oの回転速度に比例して第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結されていればよい。例えば、第一分配モードにおいて第二回転電機MG2が出力軸Oと一体回転するように駆動連結される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0143】
(8)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第三分配モードにおいて、第一回転電機MG1が第三モード用連結機構CM3を介して入力軸Iに駆動連結された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、入力軸Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結されていればよい。例えば、第三分配モードにおいて第一回転電機MG1が入力軸Iと一体回転するように駆動連結される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0144】
(9)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第二分配モードにおいて、第二回転電機MG2が入力軸Iからの入力トルクTEの反力受けとされる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第二分配モードにおいて第一回転電機MG1を入力軸Iからの入力トルクTEの反力受けとすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1が発電を行う場合には、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行い、第一回転電機MG1が力行する場合には、当該第一回転電機MG1が消費する電力の発電を行う。
【0145】
(10)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の4つの係合要素として多板式クラッチや多板式ブレーキ等の摩擦係合要素を用いる構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、これら複数の係合要素の全部又は一部に、噛み合い式係合要素を用いても好適である。ここで、噛み合い式係合要素とは、各係合要素の両側の係合部材の噛合部が互いに噛み合うことにより係合する装置であり、係合状態を維持するために油圧や電磁力等の係合力を別途に必要としない装置である。このような噛み合い式係合要素としては、例えば、手動変速装置に一般的に用いられるシンクロ機構やドグクラッチ機構等が好適に用いられる。上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、各係合要素は、両側の係合部材の回転速度が同じ状態で、更には当該係合要素がトルクを伝達しない状態で係合することが可能となっている。そのため、各係合要素に噛み合い式係合要素を用いても良好に係合状態の切り替えを行うことができる。そして、各係合要素を噛み合い式係合要素とすれば、これらを摩擦係合要素とする場合に比べて、係合圧又は解放圧を発生させるための油圧が必要とされないため、油圧ポンプによる駆動力の損失を抑制でき、ハイブリッド駆動装置Hの伝達効率を高めることが容易になる。なお、噛み合い式係合要素の係合状態の切り替えは、油圧を用いて行うことができるが、油圧供給を不要とするために、これらの係合状態の切り替えを電磁アクチュエータにより行う構成としても好適である。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0147】
H:ハイブリッド駆動装置
E:エンジン
I:入力軸(入力部材)
O:出力軸(出力部材)
W:車輪
CS:ケース(非回転部材)
MG1:第一回転電機
MG2:第二回転電機
D:差動歯車装置
DM1:第一差動機構
DM2:第二差動機構
DM3:第三差動機構
CM1:第一モード用連結機構
CM3:第三モード用連結機構
P1:第一差動歯車装置
P2:第二差動歯車装置
P3:第三差動歯車装置
E1:第一回転要素
E2:第二回転要素
E3:第三回転要素
E4:第四回転要素
C1:第一クラッチ
C2:第二クラッチ
B1:第一ブレーキ
B2:第二ブレーキ
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置として、例えば、下記の特許文献1に記載の装置が既に知られている。このハイブリッド駆動装置は、差動歯車装置として、3つの回転要素を有するシングルピニオン型の第一遊星歯車装置と4つの回転要素を有するラビニヨ型の第二遊星歯車装置とを備えている。また、このハイブリッド駆動装置は、低速モード、中速モード、及び高速モードの3つのモードを切り替え可能に備えている。そして、低速モードでは、第一遊星歯車装置を分配機構として機能させ、エンジンの回転及びトルクを第一回転電機と第二回転電機及び第二遊星歯車装置とに分配し、後者に分配された回転を第二遊星歯車装置により回転を減速すると共にトルクを増幅して出力軸に伝達する。中速モードでは、第一遊星歯車装置と第二遊星歯車装置とを組み合わせて4つの回転要素を有して一体的に動作する差動歯車装置とし、当該差動歯車装置により、エンジンの回転及びトルクを第一回転電機と出力軸とに分配し、第二回転電機はトルクアシストを行う。高速モードでは、第一遊星歯車装置を分配機構として機能させ、エンジンの回転及びトルクを第一回転電機と第二回転電機及び第二遊星歯車装置とに分配し、後者に分配された回転を直結状態とした第二遊星歯車装置により同速のまま出力軸に伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3991970号公報(第9−14頁、第1−6図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置では、高速モードでは、出力軸の回転速度が上昇するに従って、反力受けとして機能する第一回転電機の回転速度が下降するため、出力軸の回転速度が高い高速走行領域において第一回転電機の回転速度が負となると、第一回転電機が力行する必要がある。そして、このように第一回転電機を力行させるためには、第二回転電機により発電して第一回転電機に電力を供給する必要がある。この状態では、第一回転電機が力行することにより発生させたトルクの一部が、動力伝達系の下流側(出力軸側)にある第二回転電機により発電のために消費されることによる動力循環が発生し、装置全体としてのエネルギ効率が悪化するという問題がある。
【0005】
また、上記の特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置では、中速モードから高速モードへの切り替えを、中速モードを構成する差動歯車装置の4つの回転要素の回転速度が同じとなるシンクロポイントで行う。しかし、高速モードの伝達効率が中速モードよりも高くなるのは、当該シンクロポイントを過ぎた後、第二回転電機の回転速度がゼロとなるポイントである。このため、上記のハイブリッド駆動装置では、中速モードの伝達効率の方が未だ高速モードよりも高い領域において高速モードへ切り替えることになり、エネルギ効率の悪化の要因となる問題がある。
【0006】
そこで、高速走行領域における動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができるハイブリッド駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の特徴構成は第一モード、第二モード、及び第三モードを切り替え可能に備え、前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が駆動連結された第一差動機構を形成し、前記第一回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記出力部材の回転速度に比例して前記第二回転電機の回転速度が定まる状態で前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、前記第二モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、前記第一回転電機、及び前記第二回転電機が駆動連結された第二差動機構を形成し、前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第二回転電機が駆動連結された第三差動機構を形成し、前記第二回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記入力部材の回転速度に比例して前記第一回転電機の回転速度が定まる状態で前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結される点にある。
【0008】
なお、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。但し、差動歯車装置又は差動機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、当該差動歯車装置又は差動機構が備える3つ以上の回転要素に関して互いに他の回転要素を介することなく駆動連結されている状態を指すものとする。また、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。更に、本願では、「差動機構」とは、差動動作を行う少なくとも3つの回転要素の組み合わせにより構成され、各モードに応じて差動歯車装置が備える複数の回転要素の中から選択されて組み合わされることにより形成される。また、「回転速度の順」は、高速側から低速側に向かう順、又は低速側から高速側に向かう順のいずれかであり、各差動歯車機構の回転状態によりいずれともなり得るが、いずれの場合にも回転要素の順は変わらない。
【0009】
この特徴構成によれば、出力部材の回転速度の上昇に伴って、第一モード、第二モード、第三モードの順にモード切替を行うことにより、出力部材の回転速度が高い高速領域において動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができる。すなわち、この構成によれば、高速領域で主に用いられる第三モードにおいて、第三差動機構が動力分配装置として機能し、第二回転電機が反力受けとなって入力部材(エンジン)の回転及びトルクを出力部材に伝達することができる。この際、第一回転電機は、入力部材の回転速度に比例して回転速度が定まる状態で入力部材に駆動連結されるため、反力受けとして機能する第二回転電機が力行する場合に、入力部材(エンジン)の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができる。従って、動力伝達系における出力部材側にある第二回転電機が力行して発生させたトルクが第一回転電機により用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。またこの際、第一回転電機が発生する発電のためのトルクが直接的に入力部材に伝達されるため、第三差動機構を介して出力部材及び第二回転電機に伝達される入力部材(エンジン)のトルクが、第一回転電機から入力部材に伝達されるトルクの分だけ減衰することになる。そのため、第二回転電機が力行して発生する反力トルクを小さくすることができる。従って、高速領域におけるハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。
【0010】
また、出力部材の回転速度が低い低速領域で主に用いられる第一モードでは、第一差動機構が動力分配装置として機能し、第一回転電機が反力受けとなって入力部材(エンジン)の回転及びトルクを出力部材に伝達することができる。この際、第二回転電機は、出力部材にトルクを伝達して入力部材からのトルクを補助することができる。更に、第二モードでは、差動歯車装置が少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力部材、出力部材、第一回転電機、及び第二回転電機が駆動連結された4つの回転要素を有する第二差動機構を形成するので、第一モードと第三モードとの切り替えの間で第二モードを用いることにより、反力受けとなる回転電機が入れ替わる第一モードと第三モードとの間のモード切替を適切に行うことができる。
【0011】
ここで、前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構を更に形成し、前記第三モード用連結機構により前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結され、前記第三モード用連結機構は、前記第一差動機構の少なくとも一部を用いて形成されると好適である。
【0012】
この構成によれば、第三モードにおいて、第三モード用連結機構により入力部材の回転を増速して第一回転電機に伝達することができる。従って、回転速度が比較的高い状態で第一回転電機に発電を行わせることができるので、第一回転電機による発電効率を高めることが容易になる。またこの際、第一回転電機の発電によるトルクが増幅されて入力部材に伝達されるため、上述したように第三差動機構を介して出力部材及び第二回転電機に伝達される入力部材(エンジン)のトルクを減衰する効果をより高めることができる。従って、第二回転電機による反力トルクを小さくすることができ、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。更に、第三モード用連結機構が、第一モードにおいて差動歯車装置が形成する第一差動機構の少なくとも一部を用いて形成されるので、差動歯車装置の一部の構成を第一モードと第三モードとで異なる機能に共用することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0013】
また、前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構を更に形成し、前記第一モード用連結機構により前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、前記第一モード用連結機構は、前記第三差動機構の少なくとも一部を用いて形成されると好適である。
【0014】
この構成によれば、第一モードにおいて、第一モード用連結機構により第二回転電機の回転を減速すると共にトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。従って、第二回転電機から出力部材に比較的大きいトルクを伝達することができ、第二回転電機によるトルクアシストの効果を高めることが容易になる。更に、第一モード用連結機構が、第三モードにおいて差動歯車装置が形成する第三差動機構の少なくとも一部を用いて形成されるので、差動歯車装置の一部の構成を第一モードと第三モードとで異なる機能に共用することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0015】
また、前記第二モードでは、前記第二差動機構は、回転速度の順で、前記第二回転電機に駆動連結された回転要素と前記出力部材に駆動連結された回転要素とが、前記入力部材に駆動連結された回転要素を挟んで反対側に位置する状態とされ、前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化し、前記第二モードと前記第三モードとの切り替えは前記第二回転電機の回転速度がゼロとなる点で行い、前記第三モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が負であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化すると好適である。
【0016】
なお、本願において、各部材の回転及びトルクの方向に関して、「正方向」とは入力部材がエンジンの回転によって回転している状態での各部材の回転方向と同じ方向であり、「負方向」とはその逆方向である。また、各部材の回転速度が「正」とは各部材が正方向に回転している状態であり、回転速度が「負」とは各部材が負方向に回転している状態であり、回転速度が「ゼロ」とは各部材の回転が停止している状態である。
【0017】
この構成によれば、第二モードでは、第二回転電機に駆動連結された回転要素が、回転速度の順で入力部材に駆動連結された回転要素を挟んで出力部材に駆動連結された回転要素とは反対側に位置するので、入力部材の回転速度を変化させなくても第二回転電機の回転速度を下降させることにより出力部材の回転速度を上昇させることができる。この際、第二回転電機の回転速度が正の状態で第二モードを実行し、第二回転電機に負トルクを出力させて発電を行わせつつ第二回転電機の回転速度を下降させることにより出力部材の回転速度を上昇させる。そして、第二回転電機が発電も力行も行わなくなる回転速度がゼロの点で第三モードへの切り替えを行う。これにより、第二モードの伝達効率が高い領域を最大限利用でき、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。また、第三モードでは、第二回転電機が負回転しつつ負トルクを出力して力行することにより、出力部材の回転速度を更に上昇させ、出力部材を高い回転速度で回転させることができる。このとき、上記のとおり入力部材(エンジン)の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができるので、動力循環が発生することを抑制できる。従って、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。
【0018】
また、前記第一モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が正方向に変化し、前記第一モードと前記第二モードとの切り替えは前記第一回転電機の回転速度がゼロとなる点で行うと好適である。
【0019】
この構成によれば、第一モードでは、第二回転電機の回転速度が正の状態で当該第二回転電機の回転速度を上昇させることにより出力部材の回転速度も上昇させることができる。そして、第一回転電機が発電も力行も行わなくなる回転速度がゼロの点で第二モードへの切り替えを行う。これにより、第一モードの伝達効率が高い領域を最大限利用でき、ハイブリッド駆動装置のエネルギ効率を高めることができる。
【0020】
また、前記第二差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有すると好適である。
【0021】
この構成によれば、第二モードにおいて、第一回転電機による正方向のトルクの出力、及び第二回転電機による負方向のトルクの出力の少なくとも一方を行うことにより、当該トルクの出力を行う回転電機の一方を反力受けとして機能させ、入力部材(エンジン)の回転及びトルクを出力部材に伝達することができる。また、反力受けとして機能しない方の回転電機は入力部材のトルクアシストを行うことができる。この際、特に第二回転電機に負方向のトルクを出力させて反力受けとして機能させる構成とすれば、第二モードから第三モードの移行に際して、第二回転電機のトルクを負方向のまま維持して出力部材の回転速度を上昇させ続けることができるので、当該モード移行をより円滑に行うことができる。
【0022】
また、前記第三差動機構が、回転速度の順に、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有すると好適である。
【0023】
この構成によれば、反力受けとなる第二回転電機が回転速度の順で入力部材を挟んで出力部材とは反対側に位置するので、第二回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。この際、入力部材の回転速度を増速して出力部材に伝達することができるので、第三モードを、出力部材の回転速度が高い高速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0024】
また、前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する構成とすると好適である。
【0025】
この構成によれば、反力受けとなる第一回転電機が回転速度の順で入力部材を挟んで出力部材とは反対側に位置するので、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。
【0026】
或いは、前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、を有する構成としても好適である。
【0027】
この構成によれば、回転速度の順で入力部材と反力受けとなる第一回転電機との間に出力部材が位置するので、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。この際、入力部材のトルクを増幅して出力部材に伝達することができるので、第一モードを、特に車両の発進時等のような、出力部材の回転速度が低い低速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0028】
また、前記差動歯車装置は、3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と、4つの回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、前記第一差動機構及び前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置により形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成されると好適である。
【0029】
この構成によれば、第一モードの第一差動機構と、第二モードの第二差動機構と、第三モードの第三差動機構とを、第一差動歯車装置及び第二差動歯車装置の一方又は双方により形成することができ、更に、第三モードの第三モード用連結機構を第一差動歯車装置により形成することができる。従って、限られた差動歯車装置の構成を有効に利用して各モードを実現するための機構を形成することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0030】
また、前記差動歯車装置は、それぞれ3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記出力部材が駆動連結され、前記第三差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、前記第一差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成されると好適である。
【0031】
この構成によれば、第一モードの第一差動機構と、第二モードの第二差動機構と、第三モードの第三差動機構とを、第一差動歯車装置、第二差動歯車装置、及び第三差動歯車装置の一部又は全部の組み合わせにより形成することができ、更に、第三モードの第三モード用連結機構を第一差動歯車装置により形成することができる。従って、限られた差動歯車装置の構成を有効に利用して各モードを実現するための機構を形成することができる。従って、差動歯車装置の構成要素を少なくしてハイブリッド駆動装置の小型化を図ることができる。
【0032】
本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置のもう一つの特徴構成は前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素を有する第一差動歯車装置と、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素、及び第四回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、前記第二回転電機が前記第二差動歯車装置の第四回転要素に駆動連結され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第二差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第四回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、前記第一差動歯車装置の第二回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結される点にある。
【0033】
この特徴構成によれば、第一クラッチ及び第二ブレーキを係合状態とすることにより第一モードを実現でき、第一クラッチ及び第二クラッチを係合状態とすることにより第二モードを実現でき、第二クラッチ及び第一ブレーキを係合状態とすることにより第三モードを実現できる。そして、第一モードでは、第一差動歯車装置の第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に入力部材が駆動連結され、第三回転要素に第二回転電機が駆動連結され、更に第一差動歯車装置の第三回転要素には第二差動歯車装置を介して出力部材が駆動連結される。またこの際、第二差動歯車装置の第一回転要素が非回転部材に固定され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結される。従って、第一モードでは、第一回転電機が反力トルクを出力することで第一差動歯車装置が動力分配を行う第一差動機構として機能し、第二差動歯車装置が第二回転電機と出力部材とを駆動連結する第一モード用連結機構として機能する。そして、前記第一差動機構により第二回転電機側へ分配された入力部材の回転及びトルクを、第二回転電機の回転及びトルクと合わせて第一モード用連結機構により減速及びトルク増幅して出力部材に伝達することができる。よって、第一モードにおいて、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができ、更に当該入力部材及び第二回転電機のトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。これにより、第一モードを、出力部材の回転速度が比較的低く、高いトルクが要求される低速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0034】
また、第二モードでは、第一差動歯車装置と第二差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第二差動機構が形成され、この第二差動機構の回転速度の順における第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結される。そして、第一回転電機及び第二回転電機の一方が反力トルクを出力することで第二差動機構が動力分配装置として機能する。また、反力受けとして機能しない方の回転電機は入力部材のトルクアシストを行うことができる。この際、特に第二回転電機に負方向のトルクを出力させて反力受けとして機能させる構成とすれば、第二モードから第三モードの移行に際して、第二回転電機のトルクを負方向のまま維持して出力部材の回転速度を上昇させ続けることができるので、当該モード移行をより円滑に行うことができる。
【0035】
更に、第三モードでは、第二差動歯車装置の第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結され、更に第二差動歯車装置の第三回転要素には第一差動歯車装置を介して第一回転電機が駆動連結される。またこの際、第一差動歯車装置の第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に入力部材が駆動連結され、第三回転要素が非回転部材に固定される。従って、第三モードでは、第二回転電機が反力トルクを出力することで第二差動歯車装置が動力分配を行う第三差動機構として機能し、第一差動歯車装置が第一回転電機と入力部材とを駆動連結する第三モード用連結機構として機能する。そして、第二回転電機の回転速度を変化させることにより、第三差動機構によって入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。更にこの際、入力部材の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができるので、第二回転電機を力行させる場合にも動力循環が発生することを抑制できると共に第二回転電機が発生する反力トルクを小さくすることができる。これにより、第三モードを、出力部材の回転速度が比較的高い高速領域で用いるのに適したモードとすることができる。以上のとおり、この特徴構成によれば、出力部材の回転速度の上昇に伴って、第一モード、第二モード、第三モードの順にモード切替を行って適切に車両を走行させることができると共に、出力部材の回転速度が高い高速領域において動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができる。
【0036】
本発明に係る、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置の更にもう一つの特徴構成は、前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素をそれぞれ有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素及び前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第一回転要素及び前記第三差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、前記第二回転電機が前記第三差動歯車装置の第三回転要素に駆動連結され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第三差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、前記第二差動歯車装置の第三回転要素と前記第三差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結される点にある。
【0037】
この特徴構成によれば、第一クラッチ及び第二ブレーキを係合状態とすることにより第一モードを実現でき、第一クラッチ及び第二クラッチを係合状態とすることにより第二モードを実現でき、第二クラッチ及び第一ブレーキを係合状態とすることにより第三モードを実現できる。そして、第一モードでは、第一差動歯車装置と第二差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第一差動機構が形成され、この第一差動機構の回転速度の順における第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、更に第一差動機構の第二回転要素には第三差動歯車装置を介して第二回転電機が駆動連結される。またこの際、第三差動歯車装置の第一回転要素が非回転部材に固定され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に第二回転電機が駆動連結される。従って、第一モードでは、第一回転電機が反力トルクを出力することで第一差動機構が動力分配装置として機能し、第三差動歯車装置が第二回転電機と出力部材とを駆動連結する第一モード用連結機構として機能する。そして、前記第一差動機構では、回転速度の順で入力部材と反力受けとなる第一回転電機との間に出力部材が位置するので、入力部材のトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。更に、第一モード用連結機構により第二回転電機の回転及びトルクを減速及びトルク増幅して出力部材に伝達することができる。よって、第一モードにおいて、第一回転電機の回転速度を変化させることにより入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができ、更に当該入力部材及び第二回転電機のトルクを増幅して出力部材に伝達することができる。これにより、第一モードを、出力部材の回転速度が比較的低く、高いトルクが要求される低速領域で用いるのに適したモードとすることができる。
【0038】
また、第二モードでは、第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第二差動機構が形成され、この第二差動機構の回転速度の順における第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結される。そして、第一回転電機及び第二回転電機の一方が反力トルクを出力することで第二差動機構が動力分配装置として機能する。また、反力受けとして機能しない方の回転電機は入力部材のトルクアシストを行うことができる。この際、特に第二回転電機に負方向のトルクを出力させて反力受けとして機能させる構成とすれば、第二モードから第三モードの移行に際して、第二回転電機のトルクを負方向のまま維持して出力部材の回転速度を上昇させ続けることができるので、当該モード移行をより円滑に行うことができる。
【0039】
更に、第三モードでは、第二差動歯車装置と第三差動歯車装置との組み合わせにより4つの回転要素を有する第三差動機構が形成され、この第三差動機構の回転速度の順における第二回転要素に出力部材が駆動連結され、第三回転要素に入力部材が駆動連結され、第四回転要素に第二回転電機が駆動連結され、更に第三差動機構の第三回転要素には第一差動歯車装置を介して第一回転電機が駆動連結される。またこの際、第一差動歯車装置の第一回転要素に第一回転電機が駆動連結され、第二回転要素に入力部材が駆動連結され、第三回転要素が非回転部材に固定される。従って、第三モードでは、第二回転電機が反力トルクを出力することで第三差動機構が動力分配装置として機能し、第一差動歯車装置が第一回転電機と入力部材とを駆動連結する第三モード用連結機構として機能する。そして、第二回転電機の回転速度を変化させることにより、第三差動機構によって入力部材の回転速度を無段階に変速して出力部材に伝達する電気的無段変速を行うことができる。更にこの際、入力部材の回転及びトルクを第一回転電機に直接的に伝達して第一回転電機に発電を行わせることができるので、第二回転電機を力行させる場合にも動力循環が発生することを抑制できると共に第二回転電機が発生する反力トルクを小さくすることができる。これにより、第三モードを、出力部材の回転速度が比較的高い高速領域で用いるのに適したモードとすることができる。以上のとおり、この特徴構成によれば、出力部材の回転速度の上昇に伴って、第一モード、第二モード、第三モードの順にモード切替を行って適切に車両を走行させることができると共に、出力部材の回転速度が高い高速領域において動力循環の発生を抑制することができ、エネルギ効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図である。
【図2】本発明の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のシステム構成を示す模式図である。
【図3】第一の実施形態に係る各モードでのクラッチ及びブレーキの作動状態を示す作動表である。
【図4】第一の実施形態に係る第一分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図5】第一の実施形態に係る第一分配モードから第二分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図6】第一の実施形態に係る第二分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図7】第一の実施形態に係る第二分配モードから第三分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図8】第一の実施形態に係る第三分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図9】第一の実施形態に係るEVモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図10】第一の実施形態に係るシリーズモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図11】第一の実施形態に係る第一パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図12】第一の実施形態に係る第二パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図13】第一の実施形態に係る理論伝達効率と入出力回転速度比との関係を示したグラフである。
【図14】本発明の第二の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図である。
【図15】第二の実施形態に係る各モードでのクラッチ及びブレーキの作動状態を示す作動表である。
【図16】第二の実施形態に係る第一分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図17】第二の実施形態に係る第一分配モードから第二分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図18】第二の実施形態に係る第二分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図19】第二の実施形態に係る第二分配モードから第三分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【図20】第二の実施形態に係る第三分配モードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図21】第二の実施形態に係るEVモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図22】第二の実施形態に係るシリーズモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図23】第二の実施形態に係る第一パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図24】第二の実施形態に係る第二パラレルモードでの差動歯車装置の速度線図である。
【図25】第二の実施形態に係る理論伝達効率と入出力回転速度比との関係を示したグラフである。
【図26】本発明のその他の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図である。
【図27】その他の実施形態に係る第一分配モードから第二分配モードへの切替時の差動歯車装置の速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
1.第一の実施形態
まず、本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図であるが、この図では中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。また、図2に示すハイブリッド駆動装置Hのシステム構成を示す模式図では、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示し、破線は電力の伝達経路を示し、白抜きの矢印は油圧の伝達経路を示している。
【0042】
図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに駆動連結される入力軸Iと、車輪W(図2参照)に駆動連結される出力軸Oと、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、差動歯車装置Dと、を備えている。そして、このハイブリッド駆動装置Hは、クラッチC1、C2、及びブレーキB1、B2といった係合要素の係合状態を切り替えて差動歯車装置Dの複数の回転要素の連結関係を変更することによって、第一分配モード、第二分配モード、及び第三分配モードを含む複数のモードを切り替え可能に備えている。ここで、第一から第三の3つの分配モードは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のいずれかが入力軸Iからのトルクの反力受けとなり、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクを当該反力受けとなる回転電機と出力軸Oとに分配して伝達する動力分配を行うモードである。なお、本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。また、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モードが、それぞれ本発明における「第一モード」、「第二モード」、「第三モード」に相当する。以下、このハイブリッド駆動装置Hの各部の構成について詳細に説明する。
【0043】
1−1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
まず、ハイブリッド駆動装置Hの各部の機械的構成について説明する。図1に示すように、入力軸Iは、エンジンEに駆動連結される。ここで、エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸Iは、エンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸と一体回転するように駆動連結されている。なお、入力軸Iが、エンジンEの出力回転軸に対して、ダンパ、クラッチ、トルクコンバータ等の他の部材を介して駆動連結された構成としても好適である。本実施形態においては、入力軸IはエンジンEの出力回転軸と一体的に回転するため、入力軸Iの回転(回転速度)はエンジンEの回転(回転速度)と同じであり、エンジンEのトルクが入力軸Iのトルクとなる。
【0044】
出力軸Oは、図2に示すように、出力用差動歯車装置DFを介して車輪W(駆動輪)に駆動連結されている。本実施形態においては、出力軸Oは、入力軸Iと同軸上に配置されている。更には、図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、並びに差動歯車装置Dが、入力軸Iと同軸上に配置されており、全体が同軸配置された一軸構成とされている。これらの構成は、図示しないハイブリッド車両の車体に固定されたケースCS内に収容されている。本実施形態においては、このケースCSが本発明における「非回転部材」に相当する。
【0045】
第一回転電機MG1は、ケースCSに固定されたステータSt1と、このステータSt1の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo1と、を有している。第一回転電機MG1のロータRo1は、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1の第一サンギヤS1と一体回転するように駆動連結されている。また、第二回転電機MG2は、ケースCSに固定されたステータSt2と、このステータSt2の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo2と、を有している。第二回転電機MG2のロータRo2は、差動歯車装置Dを構成する第二差動歯車装置P2の第三リングギヤR3と一体回転するように駆動連結されている。
【0046】
図2に示すように、第一回転電機MG1は第一インバータ22を介して、第二回転電機MG2は第二インバータ23を介して、それぞれバッテリ21に電気的に接続されている。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果すことが可能とされている。後述するように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ回転方向(回転速度)とトルクの向きとの関係に応じてモータ又はジェネレータとして機能する。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ21に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2に供給する。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ21に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。そして、第一回転電機MG1の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第一回転電機制御ユニット33及び第一インバータ22を介して行われ、第二回転電機MG2の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第二回転電機制御ユニット34及び第二インバータ23を介して行われる。なお、バッテリ21は、蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
【0047】
本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hが備える差動歯車装置Dは、第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の2つに分けられる。そして、差動歯車装置Dは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の係合状態を切り替えることによって、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の複数の回転要素の連結関係を変更し、各モードを実行するための差動機構及び連結機構を形成する。具体的には、後述するように、第一分配モードでは、差動歯車装置Dは第一差動機構DM1及び第一モード用連結機構CM1を形成し、第二分配モードでは、差動歯車装置Dは第二差動機構DM2を形成し、第三分配モードでは、差動歯車装置Dは第三差動機構DM3及び第三モード用連結機構CM3を形成する。以下、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の構成について図1に基づいて詳細に説明する。
【0048】
第一差動歯車装置P1は、3つの回転要素を備えており、ここでは、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第一差動歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持する第一キャリヤCA1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第一サンギヤS1及び第一リングギヤR1とを回転要素として有している。第一サンギヤS1は、第一回転電機MG1のロータRo1と一体回転するように駆動連結されている。第一キャリヤCA1は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。また、第一キャリヤCA1は、第二クラッチC2により第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に選択的に駆動連結される。第一リングギヤR1は、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定されると共に、第一クラッチC1により第二差動歯車装置P2の第三リングギヤR3及び第二回転電機MG2のロータRo2に選択的に駆動連結される。これらの第一差動歯車装置P1の3つの回転要素は、回転速度の順に、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1となっている。従って、本実施形態においては、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1が、それぞれ第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0049】
第二差動歯車装置P2は、4つの回転要素を備えており、ここでは、第一遊星歯車機構P21と第二遊星歯車機構P22との組み合わせにより構成されている。第一遊星歯車機構P21及び第二遊星歯車機構P22は、いずれもシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。そして、第二差動歯車装置P2は、第一遊星歯車機構P21及び第二遊星歯車機構P22がそれぞれの有する3つの回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように駆動連結することにより、全体として4つの回転要素を備えて一体的に動作する差動機構を構成している。第一遊星歯車機構P21は、複数のピニオンギヤを支持する第二キャリヤCA2と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第二サンギヤS2及び第二リングギヤR2とを回転要素として有している。第二遊星歯車機構P22は、複数のピニオンギヤを支持する第三キャリヤCA3と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第三サンギヤS3及び第三リングギヤR3とを回転要素として有している。そして、第二サンギヤS2と第三サンギヤS3とが一体回転するように駆動連結されているとともに、第二リングギヤR2と第三キャリヤCA3とが一体回転するように駆動連結されている。
【0050】
そして、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3は第二ブレーキB2によりケースCSに選択的に固定される。第二キャリヤCA2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されている。第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3は、第二クラッチC2により第一差動歯車装置P1の第一キャリヤCA1及び入力軸Iと選択的に駆動連結される。第三リングギヤR3は、第二回転電機MG2のロータRo2と一体回転するように駆動連結されている。また、第三リングギヤR3は、第一クラッチC1により第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1と選択的に駆動連結される。第二差動歯車装置P2を構成するこれら4つの回転要素は、回転速度の順に、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3、第二キャリヤCA2、第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3となっている。従って、本実施形態においては、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3、第二キャリヤCA2、第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3が、それぞれ第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3、第四回転要素E4となっている。
【0051】
また、ハイブリッド駆動装置Hは、係合要素として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の4つを備えている。本実施形態においては、これらの係合要素として、いずれも油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキ等の摩擦係合要素を用いる。図2に示すように、これらの係合要素C1、C2、B1、B2へは、主制御ユニット31からの制御指令により動作する油圧制御装置35から油圧が供給され、当該油圧により各係合要素C1、C2、B1、B2の係合又は解放が制御される。この油圧制御装置35へは、図示しないオイルポンプにより発生した油圧が供給される。
【0052】
1−2.ハイブリッド駆動装置の制御システムの構成
図2に示すように、ハイブリッド駆動装置Hは、各部を制御するための主制御ユニット31を備えている。主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、第二回転電機制御ユニット34、及び油圧制御装置35との間で、相互に情報伝達が可能な状態で接続されている。エンジン制御ユニット32は、エンジンEの各部を制御することにより、エンジンEが所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第一回転電機制御ユニット33は、第一インバータ22を制御することにより、第一回転電機MG1が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第二回転電機制御ユニット34は、第二インバータ23を制御することにより、第二回転電機MG2が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。油圧制御装置35は、図示しないオイルポンプから供給される油圧を調整し、各係合要素C1、C2、B1、B2に分配供給することにより、これらの係合又は解放を制御する。このような各係合要素C1、C2、B1、B2の係合又は解放は、主制御ユニット31からの制御指令に基づいて行われ、それによってモードの切り替えが行われる。
【0053】
また、主制御ユニット31は、ハイブリッド駆動装置Hを搭載する車両の各部の情報を取得するために、車両の各部に設けられたセンサ等からの情報を取得可能に構成されている。図示の例では、主制御ユニット31は、第一回転センサSe1、第二回転センサSe2、第一電流センサSe3、第二電流センサSe4、バッテリ状態検出センサSe5、車速センサSe6、アクセル操作検出センサSe7、及びブレーキ操作検出センサSe8からの情報を取得可能に構成されている。第一回転センサSe1は、第一回転電機MG1のロータRo1の回転速度を検出する。第二回転センサSe2は、第二回転電機MG2のロータRo2の回転速度を検出する。第一電流センサSe3は、第一回転電機MG1の3相のコイルに流れる電流を検出する。第二電流センサSe4は、第二回転電機MG2の3相のコイルに流れる電流を検出する。バッテリ状態検出センサSe5は、バッテリ21の充電量等の状態を検出するためのセンサであり、例えば電圧センサや電流センサ等により構成される。車速センサSe6は、車速を検出するために出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。アクセル操作検出センサSe7は、アクセルペダル24の操作量を検出するためのセンサである。ブレーキ操作検出センサSe8は、図示しないホイールブレーキに連動するブレーキペダル25の操作量を検出するためのセンサである。
【0054】
主制御ユニット31は、各センサSe1〜Se8で取得される情報を用いて、後述する複数の動作モードの選択を行う。そして、主制御ユニット31は、油圧制御装置35を介して、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の係合状態を制御することにより、動作モードの切り替えを行う。また、主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、及び第二回転電機制御ユニット34を介して、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2の動作状態を協調制御することにより、選択された動作モードに応じて適切な車両の走行が行われるように制御する。この際、主制御ユニット31は、第一回転センサSe1及び第二回転センサSe2により検出される回転速度や、第一電流センサSe3及び第二電流センサSe4により検出される電流に基づいて、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のそれぞれの動作状態を制御する。
【0055】
本実施形態では、主制御ユニット31は、各種制御を実行するための機能部として、バッテリ状態検出部41、モード選択部42、切替制御部43を備えている。主制御ユニット31が備えるこれらの各手段は、CPU等の演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により実装されて構成されている。また、主制御ユニット31は、記憶部44を備えており、この記憶部44内には、車速及び要求駆動力に応じて動作モードを決定するために用いられる制御マップ45が格納されている。
【0056】
バッテリ状態検出部41は、バッテリ状態検出センサSe5から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、バッテリ21の充電量等のバッテリ状態を推定して検出する。ここで、バッテリ充電量は、一般にSOC(state of charge:充電状態)と呼ばれるものであり、例えば、バッテリ21の充電容量に対する充電残量の比率として求められる。
【0057】
モード選択部42は、車両の各部の状態に応じて、制御マップ45に従い適切な動作モードの選択を行う。本実施形態においては、モード選択部42は、車速及び要求駆動力などの走行条件に応じて、後述する複数の動作モードの中から適切な動作モードを選択する。各動作モードの内容については、後で詳細に説明する。ここで、要求駆動力は、運転者が車両に対して要求する駆動力を表す値であり、アクセル操作検出センサSe7及びブレーキ操作検出センサSe8からの出力に基づいて、モード選択部42が演算して取得する。車速は、車速センサSe6により検出する。なお、モード選択の際に参照される走行条件としては、車速及び要求駆動力の他にも、バッテリ充電量、冷却水温度、油温等の各種条件を用いても好適である。
【0058】
切替制御部43は、モード選択部42により選択された動作モードに応じて油圧制御装置35の動作を制御することにより、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2のそれぞれの係合又は解放を行う。これにより、切替制御部43は、ハイブリッド駆動装置Hの動作モードを切り替える制御を行う。
【0059】
1−3.切り替え可能に備えられる複数のモード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能なモードについて説明する。図3は、各モードでの各係合要素C1、C2、B1、B2の作動状態を示す作動表である。この図において、「●」は各係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。なお、「(●)」は当該係合要素が係合状態と解放状態のどちらでも良いことを示している。本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hは、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モード、EVモード、シリーズモード、第一パラレルモード、及び第二パラレルモードの7つのモードを切り替え可能に備えている。
【0060】
第一分配モード、第二分配モード、及び第三分配モードは、いずれも、差動機構を用いて入力軸I(エンジンE)のトルクを一方の回転電機MG1、MG2と出力軸Oとに分配すると共に、当該一方の回転電機MG1、MG2が反力トルクを出力することにより、入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達する動力分配モードである。このとき、反力トルクを出力する方の回転電機MG1、MG2が反力受けとなる。これらの動力分配モードでは、反力受けとなる回転電機MG1、MG2の回転速度を変化させることにより、入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力軸Oに伝達する電気的無段変速を行うことができる。第一パラレルモード及び第二パラレルモードは、いずれも、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸Oの回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達する動作モードである。これらのパラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比は各モードによって固定となる。これらのモードの他にも、ハイブリッド駆動装置Hは、EVモード及びシリーズモードが選択可能である。これらの各モードの詳細については後述する。
【0061】
図4〜図12は、各モードでの第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。また、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の各回転要素に対応している。そして、これらの図において、実線で示される直線が第一差動歯車装置P1の動作状態を示し、破線で示される直線が第二差動歯車装置P2の動作状態を示している。これらの速度線図上において、「○」は第一回転電機MG1の回転速度、「△」は入力軸I(エンジンE)の回転速度、「☆」は出力軸Oの回転速度、「□」は第二回転電機MG2の回転速度をそれぞれ示している。また、「×」はブレーキB1、B2により回転要素がケースCSに固定された状態を示し、「=」は2つの回転要素が一体回転するように連結された状態を示している。なお、C1、C2の符号が付された「=」は、クラッチC1、C2により一体回転するように連結された状態を示している。
【0062】
図4〜図12において、各回転要素の回転速度を示す点に隣接配置された矢印は、各動作モードでの車両の加速時に各回転要素に作用するトルクの向きを示しており、上向き矢印が正方向のトルクを表し、下向き矢印が負方向のトルクを表している。そして、「TE」はエンジンEから入力軸Iを介して差動歯車装置Dの回転要素に伝達される入力トルクTE、「T1」は第一回転電機MG1から差動歯車装置Dの回転要素に伝達されるMG1トルクT1、「T2」は第二回転電機MG2から差動歯車装置Dの回転要素に伝達されるMG2トルクT2、「TO」は車輪W側から出力軸Oを介して差動歯車装置Dの回転要素に伝達される走行抵抗TOを示している。以下、複数の動作モードのそれぞれについて、ハイブリッド駆動装置Hの動作状態を詳細に説明する。
【0063】
1−4.第一分配モード
第一分配モードは、上述した動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したモードである。第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動機構DM1を形成する。そして、第一回転電機MG1が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、出力軸Oの回転速度に比例して第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。本実施形態においては、第一差動機構DM1が、3つの回転要素を有する第一差動歯車装置P1により形成される。そして、第一差動機構DM1は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第一分配モードでは、この第一差動機構DM1が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0064】
更に、第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、第一差動機構DM1に加えて、回転速度の順に、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構CM1を更に形成する。そして、この第一モード用連結機構CM1により第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。第二回転電機MG2は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。本実施形態においては、第一モード用連結機構CM1は、第二差動歯車装置P2により形成される。後述するように、第三分配モードでは、第三差動機構DM3は第二差動歯車装置P2により形成されるため、この第一モード用連結機構CM1は、第三差動機構DM3の全部を用いて形成されることになる。
【0065】
図3に示すように、第一分配モードは、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合状態、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。図4は、この第一分配モードの速度線図を示している。この図4に示すように、第一分配モードでは、第一差動歯車装置P1により形成される第一差動機構DM1は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結される。そして、第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルク(MG1トルクT1)を出力することにより、第一キャリヤCA1に伝達された入力トルクTEが回転速度の順で他方端となる第一リングギヤR1に分配されて伝達される。この際、第一差動機構DM1は入力トルクTEを減衰して出力軸O側の回転要素(出力回転要素)である第一リングギヤR1に伝達する。このとき第一サンギヤS1に分配されたトルクは、第一回転電機MG1に伝達される。また、第一リングギヤR1に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達されるとともに、第二差動歯車装置P2により形成される第一モード用連結機構CM1を介して出力軸Oに伝達される。
【0066】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1に伝達される。また、第一回転電機MG1は、第一分配モードの全域で負方向のMG1トルクT1を出力し、当該MG1トルクT1が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0067】
第一分配モードでは、第二差動歯車装置P2により形成される第一モード用連結機構CM1は、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に出力軸Oが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS1及び第三サンギヤS3が第二ブレーキB2によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第三リングギヤR3に第一リングギヤR1及び第二回転電機MG2が駆動連結されている。従って、この第一分配モードでは、第一モード用連結機構CM1は、第一差動機構DM1の出力回転要素である第一リングギヤR1の回転を減速するとともに、第一リングギヤR1に伝達されたトルクを増幅して出力軸Oに伝達する。上記のとおり、第一リングギヤR1には、第一差動機構DM1により分配された入力トルクTEの一部と、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2とが伝達される。従って、第一モード用連結機構CM1は、これらのトルクを増幅して出力軸Oに伝達する。
【0068】
第一分配モードでは、図4に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度も正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は負方向に変化(下降)し、第二回転電機MG2の回転速度は正方向に変化(上昇)する。そして、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点で、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行う。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない点となっている。本実施形態では、この点を便宜上「無電気変換点」という。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2は、基本的に出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図13を用いて説明する。
【0069】
以上に説明したように、第一分配モードは、入力軸I(エンジンE)から第一差動機構DM1の出力回転要素である第一リングギヤR1に伝達された入力トルクTE及び第二回転電機MG2が出力したMG2トルクT2を、第一モード用連結機構CM1により増幅して出力軸Oに伝達することができるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域(低車速領域)であって出力軸Oに大きいトルクを伝達する必要がある状態で使用される低速用モードとして適している。本実施形態では、第一分配モードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。車両の発進時には、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一回転電機MG1の回転速度を下降させると共に第二回転電機MG2の回転速度を上昇させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点では、第一差動機構DM1と第一モード用連結機構CM1とが速度線図上で重なる。そして、この状態で第二クラッチC2を係合し、第二ブレーキB2を解放することにより、第一分配モードから第二分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第一分配モードから第二分配モードへの切り替え後には、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方のトルクの向きが反転し、図5に実線矢印で示すように、第一回転電機MG1が正方向のトルクを出力し、第二回転電機MG2が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図5に示す破線矢印は、第一分配モードでの第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のトルクの方向を示している。
【0070】
1−5.第二分配モード
第二分配モードは、上述した動力分配モードの一つであり、出力軸Oに伝達可能なトルク及び回転速度が3つの動力分配モードの中で中間であるため、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域での使用に適したモードである。第二分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第二差動機構DM2を形成する。本実施形態においては、第二差動機構DM2が第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される。そして、第二差動機構DM2は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第二分配モードでは、この第二差動機構DM2が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。この第二分配モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のいずれを反力受けとして機能させることも可能であるが、本実施形態においては、第二回転電機MG2を、入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとする。そして、第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。
【0071】
図3に示すように、第二分配モードは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図6は、この第二分配モードの速度線図を示している。この図6に示すように、第二分配モードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第一差動歯車装置P1を表す線と第二差動歯車装置P2を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される第二差動機構DM2は、回転速度の順で第一回転要素となる第一サンギヤS1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に第一回転電機MG1が駆動連結され、第二回転要素となる第二キャリヤCA2に出力軸Oが駆動連結され、第三回転要素となる第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に入力軸Iが駆動連結され、第四回転要素となる第一リングギヤR1及び第三リングギヤR3に第二回転電機MG2が駆動連結される。
【0072】
従って、第二差動機構DM2は、回転速度の順で、第二回転電機MG2に駆動連結された第四回転要素と出力軸Oに駆動連結された第二回転要素とが、入力軸Iに駆動連結された第三回転要素を挟んで反対側に位置する状態となっている。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、入力軸Iから伝達された入力トルクTEが出力軸Oに分配されて伝達される。この際、第二差動機構DM2は入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。そして第一リングギヤR1及び第三リングギヤR3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。また、第二差動機構DM2は、回転速度の順で出力軸Oに駆動連結された第二回転要素を挟んで、入力軸Iが駆動連結された第三回転要素と第一回転電機MG1が駆動連結された第一回転要素とが反対側に位置する状態となっている。従って、第一回転電機MG1が入力トルクTEと同じ方向のMG1トルクT1を出力することにより、入力トルクTEのアシストを行うことができる。
【0073】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第二分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0074】
第二分配モードでは、図6に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度も正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は正方向に変化(上昇)し、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。そして、図7に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行う。なお、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない無電気変換点となっている。第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第一回転電機MG1は、基本的に出力するMG1トルクT1をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図13を用いて説明する。
【0075】
以上に説明したように、第二分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力することにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達すると共に、第一回転電機MG1により入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行うことができる。このため、第二分配モードは、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域(中車速領域)で使用される中速用モードとして適している。本実施形態では、第二分配モードは、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロの状態から、図7に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。そして、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で第一ブレーキB1を係合し、第一クラッチC1を解放することにより、第二分配モードから第三分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第一ブレーキB1の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第二分配モードから第三分配モードへの切り替え後には、第一回転電機MG1のトルクの向きが反転し、図7に実線矢印で示すように、第一回転電機MG1が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図7に示す破線矢印は、第二分配モードでの第一回転電機MG1のトルクの方向を示している。一方、第二回転電機MG2は、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えの前後でトルクの方向は変化せず、回転方向が反転する。すなわち、第二回転電機MG2は、第二分配モードから第三分配モードに切り替えることにより回転速度が正から負に変化する。本実施形態の構成によれば、上記のように、第二分配モードにおいて、第二回転電機MG2を反力受けとして機能させ、負方向のトルクを出力させる構成としているので、第二分配モードから第三分配モードへの移行に際して、第二回転電機MG2のトルクを負方向のまま維持して出力軸Oの回転速度を上昇させ続けることができるので、モード移行をより円滑に行うことができる。
【0076】
1−6.第三分配モード
第三分配モードは、上述した動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したモードである。第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第三差動機構DM3を形成する。そして、第二回転電機MG2が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、入力軸Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。本実施形態においては、第三差動機構DM3が、4つの回転要素を有する第二差動歯車装置P2により形成される。そして、第三差動機構DM3は、回転速度の順に、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸I及び第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第三分配モードでは、この第三差動機構DM3が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0077】
更に、第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、第三差動機構DM3に加えて、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構CM3を更に形成する。そして、この第三モード用連結機構CM3により第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクにより回転されて発電を行う。本実施形態においては、第三モード用連結機構CM3は、第一差動歯車装置P1により形成される。上述したように、第一分配モードでは、第一差動機構DM1は第一差動歯車装置P1により形成されるため、この第三モード用連結機構CM3は、第一差動機構DM1の全部を用いて形成されることになる。
【0078】
図3に示すように、第三分配モードは、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が係合状態、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図8は、この第三分配モードの速度線図を示している。この図8に示すように、第三分配モードでは、第二差動歯車装置P2の4つの回転要素のうち、第二回転要素E2、第三回転要素E3、及び第四回転要素E4、の3つの回転要素を実質的に用いる。そして、第二差動歯車装置P2により形成される第三差動機構DM3は、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第三リングギヤR3に第二回転電機MG2が駆動連結される。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に伝達された入力トルクTEが回転速度の順で他方端となる第二キャリヤCA2に分配されて伝達される。この際、第三差動機構DM3は入力トルクTEを減衰して出力軸O側の回転要素(出力回転要素)である第二キャリヤCA2に伝達する。このとき第三リングギヤR3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。一方、第一回転電機MG1へは、第三モード用連結機構CM3を介して、第三差動機構DM3を介することなく直接的に入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが伝達される。
【0079】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第三分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に負方向のMG1トルクT1を出力し、第三モード用連結機構CM3を介して入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクを用いて発電を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。
【0080】
第三分配モードでは、第一差動歯車装置P1により形成される第三モード用連結機構CM3は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に入力軸Iが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1が第一ブレーキB1によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結されている。従って、この第三分配モードでは、第三モード用連結機構CM3は、入力軸Iの回転を増速して第一回転電機MG1に伝達すると共に、第一回転電機MG1の回生トルクであるMG1トルクT1を増幅して入力軸Iに伝達する。この際、第三モード用連結機構CM3は、第三差動機構DM3を介することなく直接的に第一回転電機MG1を入力軸Iに駆動連結する機能を果たす。従って、第一回転電機MG1には、入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが直接的に伝達される。従って、力行する第二回転電機MG2に供給する電力を第一回転電機MG1が発電する場合に、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。またこの際、発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1が直接的に入力軸Iに伝達されるため、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが、第一回転電機MG1から入力軸Iに伝達されるトルクの分だけ減衰することになる。そのため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換される量を少なくすることができるので、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。
【0081】
第三分配モードでは、図8に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度は負となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。なお、第一回転電機MG1の回転速度は、入力軸Iの回転速度に比例して定まるため、入力軸Iの回転速度が変化しなければ、第一回転電機MG1の回転速度も変化しない。
【0082】
以上に説明したように、第三分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力するために負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態となることにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。このため、第三分配モードでは、出力軸Oの回転速度が上昇しても第二回転電機MG2の回転方向及びトルクの方向は変化せず、第二回転電機MG2が力行する状態は維持される。また、第三分配モードでは、入力トルクTEを第一回転電機MG1に直接的に伝達して第一回転電機MG1に発電を行わせることができる。そのため、上記のように、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。また発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1によって、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが減衰するため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。以上より、第三分配モードは、出力軸Oの回転速度が高い高速領域(高車速領域)で使用される高速用モードとして適している。
【0083】
1−7.EVモード
EVモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達する電動車両モードである。このEVモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1はトルクを出力しない非駆動状態とされ、第二回転電機MG2のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させる。この際、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力を消費して力行する。図3に示すように、EVモードは、第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。
【0084】
図9は、このEVモードの速度線図を示している。この図9に示すように、EVモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、第二差動歯車装置P2では、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三リングギヤR3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、EVモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、EVモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。一方、入力軸I(エンジンE)及び第一回転電機MG1の出力トルクはゼロとされ、これらの回転速度もゼロとされる。よって、第一差動歯車装置P1の各回転要素の回転速度もゼロとされる。
【0085】
このEVモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図9に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。
【0086】
1−8.シリーズモード
シリーズモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させると共に、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクを第一回転電機MG1に伝達して発電を行わせるモードである。このシリーズモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1は発電のみを行い、出力軸Oへは第二回転電機MG2のトルクのみを伝達する。この際、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1が発電した電力を消費して力行する。図3に示すように、シリーズモードは、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態で実現される。
【0087】
図10は、このシリーズモードの速度線図を示している。この図10に示すように、シリーズモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、第二差動歯車装置P2では、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三リングギヤR3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。また、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1がケースCSに固定される。これにより、第一差動歯車装置P1では、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1の回転が停止され、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1に伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクが減衰されて第一回転電機MG1に伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、シリーズモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、シリーズモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。そして、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電のためにのみ用いられる。
【0088】
このシリーズモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図10に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。一方、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電必要量に応じて制御される。第一回転電機MG1による発電必要量は、第二回転電機MG2の力行のために必要な電力やバッテリ21の充電量等に応じて定まる。
【0089】
1−9.第一パラレルモード
第一パラレルモードは、上述した2つのパラレルモードの一つであり、後述する第二パラレルモードよりも大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第一パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第二回転電機MG2は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第一パラレルモードでは、第二回転電機MG2は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第一回転電機MG1は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図3に示すように、第一パラレルモードは、第二クラッチC2及び第二ブレーキB2が係合状態、第一ブレーキB1が解放状態で実現される。なお、第一クラッチC1は係合状態と解放状態のどちらでもよい。
【0090】
図11は、この第一パラレルモードの速度線図を示している。この図11に示すように、第一パラレルモードでは、第二クラッチC2を係合状態とすることにより入力軸Iが第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に駆動連結される。この状態で、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、第二差動歯車装置P2では、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二キャリヤCA2よりも他方端側となる第二リングギヤR2及び第三キャリヤCA3に駆動連結された入力軸Iの回転、並びにそれより更に他方端側となる第三リングギヤR3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が共に減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)及び第二回転電機MG2のトルクが共に増幅されて出力軸Oに伝達される。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第二回転電機MG2から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。ここで、第二回転電機MG2から出力軸Oまでの変速比は、入力軸Iから出力軸Oまでの変速比よりも大きいため、第二回転電機MG2のトルクは入力軸I(エンジンE)よりも大きく増幅されて出力軸Oに伝達される。
【0091】
この第一パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第二回転電機MG2は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0092】
1−10.第二パラレルモード
第二パラレルモードは、上述した2つのパラレルモードの一つであり、上述した第一パラレルモードよりも高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第二パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第一回転電機MG1は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第二パラレルモードでは、第一回転電機MG1は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第二回転電機MG2は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図3に示すように、第二パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が係合状態、第二ブレーキB2が解放状態で実現される。
【0093】
図12は、この第二パラレルモードの速度線図を示している。この図12に示すように、第二パラレルモードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を係合状態とすることにより第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となる。この状態で、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1及び第二差動歯車装置P2の第三リングギヤR3がケースCSに固定される。これにより、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1及び第三リングギヤR3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二キャリヤCA2よりも一方端側となる、第一キャリヤCA1、第二リングギヤR2、及び第三キャリヤCA3に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて出力軸Oに伝達される。また、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二キャリヤCA2よりも他方端側となる、第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1の回転は減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクは減衰され、第一回転電機MG1のトルクは増幅されて出力軸Oに伝達される。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第一回転電機MG1から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。
【0094】
この第二パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第一回転電機MG1は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG1トルクT1を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第一回転電機MG1は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第一回転電機MG1は正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0095】
1−11.ハイブリッド駆動装置の理論伝達効率について
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける3つの動力分配モードの理論伝達効率について説明する。図13は、3つの動力分配モードのそれぞれについての理論伝達効率(縦軸)と入出力回転速度比(横軸)との関係を示したグラフである。入出力回転速度比は、出力軸Oの回転速度と入力軸Iの回転速度との比であり、ここでは、入力軸Iの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値としている。理論伝達効率は、入力軸I(エンジンE)の出力(仕事率)が出力軸Oに伝達されるまでの伝達効率に関し、歯車等の機械的な伝動部材を介して機械的に伝達される際の伝達効率を100%と仮定し、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2により一旦電力に変換されて伝達される際の伝達効率を90%と仮定して計算した伝達効率としている。従って、入力トルクTEに対する反力受けとして機能する第一回転電機MG1又は第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなり、電気変換が行われない無電気変換点において、理論伝達効率は100%となる。そして、第一回転電機MG1又は第二回転電機MG2の回転速度の絶対値が大きくなり、エンジンE(入力軸I)の出力(仕事率)が電力に変換される割合が高くなるに従って理論伝達効率は低くなる。
【0096】
そして、図13に示される山形の3つの線L1〜L3が各モードの理論伝達効率を表しており、線L1が第一分配モード、線L2が第二分配モード、線L3が第三分配モードを表している。また、この図の上部に記載した各モードの範囲は、当該モードが選択される入出力回転速度比の範囲を表している。この図に示すように、入出力回転速度比が大きい領域で第一分配モードを選択し、入出力回転速度比が小さい領域で第三分配モードを選択し、入出力回転速度比がこれらの中間の領域で第二分配モードを選択する。そして、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる同期切替点(図5参照)となっており、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる同期切替点(図7参照)となっている。この図13から明らかなように、本実施形態では、入出力回転速度比の値に応じて、3つのモードの中で最も理論伝達効率が高いモードが選択されるようになっている。従って、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hによれば、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モードを、同期切替点において順に切り替えることにより、高いエネルギ効率で車両を走行させることができる。
【0097】
2.第二の実施形態
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図14は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図である。なお、この図14は、図1と同様に、軸対称の構成を一部省略して示している。この図に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、差動歯車装置Dの構成が上記第一の実施形態とは異なっており、これに伴って、特に第一分配モードにおける各部の動作が上記第一の実施形態と異なっている。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの制御システムの構成は、上記第一の実施形態と同様であるため(図2参照)、説明は省略する。その他にも、特に説明しない点については上記第一の実施形態と同様とする。
【0098】
2−1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
まず、ハイブリッド駆動装置Hの各部の機械的構成について説明する。図14に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、差動歯車装置Dの構成が上記第一の実施形態とは異なっている。すなわち、本実施形態に係る差動歯車装置Dは、第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の3つに分けられる。そして、差動歯車装置Dは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の係合状態を切り替えることによって、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の複数の回転要素の連結関係を変更し、各モードを実行するための差動機構及び連結機構を形成する。本実施形態においても、上記第一の実施形態と同様に、第一分配モードでは、差動歯車装置Dは第一差動機構DM1及び第一モード用連結機構CM1を形成し、第二分配モードでは、差動歯車装置Dは第二差動機構DM2を形成し、第三分配モードでは、差動歯車装置Dは第三差動機構DM3及び第三モード用連結機構CM3を形成する。以下、差動歯車装置Dを構成する第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の構成について図1に基づいて詳細に説明する。
【0099】
第一差動歯車装置P1は、3つの回転要素を備えており、ここでは、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第一差動歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持する第一キャリヤCA1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第一サンギヤS1及び第一リングギヤR1とを回転要素として有している。第一サンギヤS1は、第一回転電機MG1のロータRo1と一体回転するように駆動連結されている。第一キャリヤCA1は、入力軸I及び第二差動歯車装置P2の第二キャリヤCA2と一体回転するように駆動連結されている。第一リングギヤR1は、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定されると共に、第一クラッチC1により第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2に選択的に駆動連結される。これらの第一差動歯車装置P1の3つの回転要素は、回転速度の順に、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1となっている。従って、本実施形態においては、第一サンギヤS1、第一キャリヤCA1、第一リングギヤR1が、それぞれ第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0100】
第二差動歯車装置P2は、3つの回転要素を備えており、ここでは、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第二差動歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持する第二キャリヤCA2と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第二サンギヤS2及び第二リングギヤR2とを回転要素として有している。第二サンギヤS2は、第一クラッチC1により第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1に選択的に駆動連結されると共に、第二クラッチC2により第三差動歯車装置P3の第三サンギヤS3及び第二回転電機MG2のロータRo2に選択的に駆動連結される。第二キャリヤCA2は、入力軸I及び第一差動歯車装置P1の第一キャリヤCA1と一体回転するように駆動連結されている。第二リングギヤR2は、出力軸O及び第三差動歯車装置P3の第三リングギヤR3と一体回転するように駆動連結されている。これらの第二差動歯車装置P2の3つの回転要素は、回転速度の順に、第二リングギヤR2、第二キャリヤCA2、第二サンギヤS2となっている。従って、本実施形態においては、第二リングギヤR2、第二キャリヤCA2、第二サンギヤS2が、それぞれ第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0101】
第三差動歯車装置P3は、3つの回転要素を備えており、ここでは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第三差動歯車装置P3は、複数対のピニオンギヤを支持する第三キャリヤCA3と、一対のピニオンギヤの一方に噛み合う第三サンギヤS3と、一対のピニオンギヤの他方に噛み合う第三リングギヤR3とを回転要素として有している。第三サンギヤS3は、第二回転電機MG2のロータRo2と一体回転するように駆動連結されている。また、第三サンギヤS3は、第二クラッチC2により第二差動歯車装置P2の第二サンギヤS2に選択的に駆動連結される。第三キャリヤCA3は、第二ブレーキB2によりケースCSに選択的に固定される。第三リングギヤR3は、出力軸O及び第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2と一体回転するように駆動連結されている。これらの第三差動歯車装置P3の3つの回転要素は、回転速度の順に、第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3、第三サンギヤS3となっている。従って、本実施形態においては、第三キャリヤCA3、第三リングギヤR3、第三サンギヤS3が、それぞれ第三差動歯車装置P3の第一回転要素E1、第二回転要素E2、第三回転要素E3となっている。
【0102】
2−2.切り替え可能に備えられる複数のモード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能なモードについて説明する。図15は、各モードでの各係合要素C1、C2、B1、B2の作動状態を示す作動表である。本実施形態においても、ハイブリッド駆動装置Hは、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モード、EVモード、シリーズモード、第一パラレルモード、及び第二パラレルモードの7つのモードを切り替え可能に備えている。また、図16〜図24は、各モードでの第一差動歯車装置P1、第二差動歯車装置P2、及び第三差動歯車装置P3の動作状態を表す速度線図である。これらの図の記述方法は、上記第一の実施形態において説明したのと同様である。但し、図16〜図24において、実線で示される直線が第一差動歯車装置P1の動作状態を示し、一点鎖線で示される直線が第二差動歯車装置P2の動作状態を示し、破線で示される直線が第三差動歯車装置P3の動作状態を示している。以下、複数の動作モードのそれぞれについて、ハイブリッド駆動装置Hの動作状態を詳細に説明する。
【0103】
2−3.第一分配モード
第一分配モードは、動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したモードである。第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動機構DM1を形成する。そして、第一回転電機MG1が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、出力軸Oの回転速度に比例して第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。本実施形態においては、第一差動機構DM1が、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される。そして、第一差動機構DM1は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、を有する。この第一分配モードでは、この第一差動機構DM1が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0104】
更に、第一分配モードでは、差動歯車装置Dが、第一差動機構DM1に加えて、回転速度の順に、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構CM1を更に形成する。そして、この第一モード用連結機構CM1により第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結される。第二回転電機MG2は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。本実施形態においては、第一モード用連結機構CM1は、第三差動歯車装置P3により形成される。後述するように、第三差動歯車装置P3は、第三分配モードでは、第三差動機構DM3の一部を構成するため、この第一モード用連結機構CM1は、第三差動機構DM3の一部を用いて形成されることになる。
【0105】
図15に示すように、第一分配モードは、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合状態、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。図16は、この第一分配モードの速度線図を示している。この図16に示すように、第一分配モードでは、第一クラッチC1が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第一差動歯車装置P1を表す線と第二差動歯車装置P2を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2との組み合わせにより形成される第一差動機構DM1は、4つの回転要素のうち、第一サンギヤS1、第二リングギヤR2、第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2、の3つの回転要素を実質的に用いる。第一差動機構DM1は、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二リングギヤR2に出力軸Oが駆動連結される。更に、この第二リングギヤR2に対して回転速度の順で一方側となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結され、回転速度の順で他方側となる第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に入力軸I(エンジンE)が駆動連結される。そして、第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルク(MG1トルクT1)を出力することにより、入力トルクTEが第二リングギヤR2に分配されて出力軸Oに伝達される。この際、第一差動機構DM1は入力トルクTEとMG1トルクT1とを合成し、入力トルクTEに対して増幅したトルクを第二リングギヤR1及び出力軸Oに伝達する。このとき第一サンギヤS1に分配されたトルクは、第一回転電機MG1に伝達される。一方、第二回転電機MG2は、第一モード用連結機構CM1を介して、第一差動機構DM1を介することなく直接的に出力軸OにMG2トルクT2を伝達する。
【0106】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に伝達される。また、第一回転電機MG1は、第一分配モードの全域で正方向のMG1トルクT1を出力し、当該MG1トルクT1が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第一回転電機MG1は、負回転しつつ正方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第二回転電機MG2は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0107】
第一分配モードでは、第三差動歯車装置P3により形成される第一モード用連結機構CM1は、回転速度の順で中間となる第三リングギヤR3に出力軸Oが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第三キャリヤCA3が第二ブレーキB2によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第三サンギヤS3に第二回転電機MG2が駆動連結されている。従って、この第一分配モードでは、第一モード用連結機構CM1は、第二回転電機MG2の回転を減速するとともに、第二回転電機MG2のMG2トルクT2を増幅して出力軸Oに伝達する。
【0108】
第一分配モードでは、図16に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は負、第二回転電機MG2の回転速度は正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は正方向に変化(上昇)し、第二回転電機MG2の回転速度も正方向に変化(上昇)する。そして、図17に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点で、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行う。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない無電気変換点となっている。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2は、基本的に出力するMG2トルクT2をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第一分配モードと第二分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図25を用いて説明する。
【0109】
以上に説明したように、第一分配モードは、第一差動機構DM1により入力トルクTEとMG1トルクT1とを合成して入力トルクTEに対して増幅したトルクを出力軸Oに伝達すると共に、第二回転電機MG2のMG2トルクT2を第一モード用連結機構CM1により増幅して出力軸Oに伝達することができるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域(低車速領域)であって出力軸Oに大きいトルクを伝達する必要がある状態で使用される低速用モードとして適している。本実施形態では、第一分配モードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、図17に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。車両の発進時には、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一回転電機MG1の回転速度を上昇させると共に第二回転電機MG2の回転速度を上昇させることにより、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させる。第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点では、第一差動機構DM1と第一モード用連結機構CM1とが速度線図上で重なる。そして、この状態で第二クラッチC2を係合し、第二ブレーキB2を解放することにより、第一分配モードから第二分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第二クラッチC2の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第一分配モードから第二分配モードへの切り替え後には、第二回転電機MG2のトルクの向きが反転し、図17に実線矢印で示すように、第二回転電機MG2が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図17に示す破線矢印は、第一分配モードでの第二回転電機MG2のトルクの方向を示している。一方、第一回転電機MG1は、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えの前後でトルクの方向は変化せず、回転方向が反転する。すなわち、第一回転電機MG1は、第一分配モードから第二分配モードに切り替えることにより回転速度が正から負に変化する。本実施形態の構成によれば、このように、第一分配モードから第二分配モードへの移行に際して、第一回転電機MG1のトルクを正方向のまま維持して出力軸Oの回転速度を上昇させ続けることができるので、モード移行をより円滑に行うことができる。
【0110】
2−4.第二分配モード
第二分配モードは、動力分配モードの一つであり、出力軸Oに伝達可能なトルク及び回転速度が3つの動力分配モードの中で中間であるため、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域での使用に適したモードである。第二分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第二差動機構DM2を形成する。本実施形態においては、第二差動機構DM2が第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3との組み合わせにより形成される。そして、第二差動機構DM2は、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第二分配モードでは、この第二差動機構DM2が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。この第二分配モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のいずれを反力受けとして機能させることも可能であるが、本実施形態においては、第二回転電機MG2を、入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとする。そして、第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行う。
【0111】
図15に示すように、第二分配モードは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図18は、この第二分配モードの速度線図を示している。この図18に示すように、第二分配モードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合状態とされることにより、第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第一差動歯車装置P1を表す線と第二差動歯車装置P2を表す線と第三差動歯車装置P3を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの3つの差動歯車装置P1〜P3の組み合わせにより形成される第二差動機構DM2は、回転速度の順で第一回転要素となる第一サンギヤS1及び第三キャリヤCA3に第一回転電機MG1が駆動連結され、第二回転要素となる第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3に出力軸Oが駆動連結され、第三回転要素となる第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に入力軸Iが駆動連結され、第四回転要素となる第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に第二回転電機MG2が駆動連結される。
【0112】
従って、第二差動機構DM2は、回転速度の順で、第二回転電機MG2に駆動連結された第四回転要素と出力軸Oに駆動連結された第二回転要素とが、入力軸Iに駆動連結された第三回転要素を挟んで反対側に位置する状態となっている。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、入力軸Iから伝達された入力トルクTEが出力軸Oに分配されて伝達される。この際、第二差動機構DM2は入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。そして第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。また、第二差動機構DM2は、回転速度の順で出力軸Oに駆動連結された第二回転要素を挟んで、入力軸Iが駆動連結された第三回転要素と第一回転電機MG1が駆動連結された第一回転要素とが反対側に位置する状態となっている。従って、第一回転電機MG1が入力トルクTEと同じ方向のMG1トルクT1を出力することにより、入力トルクTEのアシストを行うことができる。
【0113】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第二分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に正方向のMG2トルクT2を出力し、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ正方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。
【0114】
第二分配モードでは、図18に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度も正となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第一回転電機MG1の回転速度は正方向に変化(上昇)し、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。そして、図19に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行う。なお、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない無電気変換点となっている。第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第一回転電機MG1は、基本的に出力するMG1トルクT1をゼロとする。このように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の双方が発電も力行もしない状態となる動作点で第二分配モードと第三分配モードとの切り替えを行うことにより、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。この点については、後で図25を用いて説明する。
【0115】
以上に説明したように、第二分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力することにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達すると共に、第一回転電機MG1により入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの補助を行うことができる。このため、第二分配モードは、出力軸Oの回転速度が中程度の中速領域(中車速領域)で使用される中速用モードとして適している。本実施形態では、第二分配モードは、図17に示すように、第一回転電機MG1の回転速度がゼロの状態から、図19に示すように、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなるまでの間で使用される。そして、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる点で第一ブレーキB1を係合し、第一クラッチC1を解放することにより、第二分配モードから第三分配モードに切り替えられる。このモード切り替えは、切り替え時に係合する第一ブレーキB1の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第二分配モードから第三分配モードへの切り替え後には、第一回転電機MG1のトルクの向きが反転し、図19に実線矢印で示すように、第一回転電機MG1が負方向のトルクを出力する状態となる。なお、図19に示す破線矢印は、第二分配モードでの第一回転電機MG1のトルクの方向を示している。一方、第二回転電機MG2は、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えの前後でトルクの方向は変化せず、回転方向が反転する。すなわち、第二回転電機MG2は、第二分配モードから第三分配モードに切り替えることにより回転速度が正から負に変化する。本実施形態の構成によれば、上記のように、第二分配モードにおいて、第二回転電機MG2を反力受けとして機能させ、負方向のトルクを出力させる構成としているので、第二分配モードから第三分配モードの移行に際して、第二回転電機MG2のトルクを負方向のまま維持して出力軸Oの回転速度を上昇させ続けることができるので、モード移行をより円滑に行うことができる。
【0116】
2−5.第三分配モード
第三分配モードは、動力分配モードの一つであり、3つの動力分配モードの中で最も高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したモードである。第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に入力軸I、出力軸O、及び第二回転電機MG2が駆動連結された第三差動機構DM3を形成する。そして、第二回転電機MG2が入力軸Iからの入力トルクTEに対する反力トルクを出力する反力受けとなる。また、入力軸Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。本実施形態においては、第三差動機構DM3が、第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3との組み合わせにより形成される。そして、第三差動機構DM3は、回転速度の順に、出力軸Oが駆動連結された回転要素と、入力軸I及び第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、第二回転電機MG2が駆動連結された回転要素と、を有する。この第三分配モードでは、この第三差動機構DM3が、入力軸I(エンジンE)のトルクを分配する動力分配装置として機能する。
【0117】
更に、第三分配モードでは、差動歯車装置Dが、第三差動機構DM3に加えて、回転速度の順に、第一回転電機MG1が駆動連結された回転要素と、入力軸Iが駆動連結された回転要素と、ケースCSに固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構CM3を更に形成する。そして、この第三モード用連結機構CM3により第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結される。第一回転電機MG1は、入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクにより回転されて発電を行う。本実施形態においては、第三モード用連結機構CM3は、第一差動歯車装置P1により形成される。上述したように、第一差動歯車装置P1は、第一分配モードでは、第一差動機構DM1の一部を形成するため、この第三モード用連結機構CM3は、第一差動機構DM1の一部を用いて形成されることになる。
【0118】
図15に示すように、第三分配モードは、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が係合状態、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が解放状態で実現される。図20は、この第三分配モードの速度線図を示している。この図20に示すように、第三分配モードでは、第二クラッチC2が係合状態とされることにより、第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となり、速度線図上で第二差動歯車装置P2を表す線と第三差動歯車装置P3を表す線とが同一直線状となる。そして、これらの第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3との組み合わせにより形成される第三差動機構DM3は、4つの回転要素のうち、第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3、第二キャリヤCA2、第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3、の3つの回転要素を実質的に用いる。第三差動機構DM3は、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二キャリヤCA2に入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3に第二回転電機MG2が駆動連結される。そして、第二回転電機MG2が入力トルクTEに対する反力トルク(MG2トルクT2)を出力することにより、第二キャリヤCA2に伝達された入力トルクTEが回転速度の順で他方端となる第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3に分配されて伝達される。この際、第三差動機構DM3は入力トルクTEを減衰して第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3、並びに出力軸Oに伝達する。このとき第二サンギヤS2及び第三サンギヤS3に分配されたトルクは、第二回転電機MG2に伝達される。一方、第一回転電機MG1へは、第三モード用連結機構CM3を介して、第三差動機構DM3を介することなく直接的に入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが伝達される。
【0119】
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態(一般に最適燃費特性に沿う状態)になるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に伝達される。また、第二回転電機MG2は、第三分配モードの全域で負方向のMG2トルクT2を出力し、当該MG2トルクT2が入力トルクTEに対する反力トルクとなる。このとき、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態であり、モータとして機能する。一方、第一回転電機MG1は、基本的に負方向のMG1トルクT1を出力し、第三モード用連結機構CM3を介して入力軸I(エンジンE)から伝達されるトルクを用いて発電を行う。このとき、第一回転電機MG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生する回生状態であり、ジェネレータとして機能する。
【0120】
第三分配モードでは、第一差動歯車装置P1により形成される第三モード用連結機構CM3は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に入力軸Iが駆動連結され、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1が第一ブレーキB1によりケースCSに固定され、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に第一回転電機MG1が駆動連結されている。従って、この第三分配モードでは、第三モード用連結機構CM3は、入力軸Iの回転を増速して第一回転電機MG1に伝達すると共に、第一回転電機MG1の回生トルクであるMG1トルクT1を増幅して入力軸Iに伝達する。この際、第三モード用連結機構CM3は、第三差動機構DM3を介することなく直接的に第一回転電機MG1を入力軸Iに駆動連結する機能を果たす。従って、第一回転電機MG1には、入力軸I(エンジンE)からの入力トルクTEが直接的に伝達される。従って、力行する第二回転電機MG2に供給する電力を第一回転電機MG1が発電する場合に、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。またこの際、発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1が直接的に入力軸Iに伝達されるため、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが、第一回転電機MG1から入力軸Iに伝達されるトルクの分だけ減衰することになる。そのため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、入力軸I(エンジンE)から伝達される入力トルクTEによる仕事が電力に変換される量を少なくすることができるので、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。
【0121】
第三分配モードでは、図20に示すように、第一回転電機MG1の回転速度は正、第二回転電機MG2の回転速度は負となっている。そして、出力軸Oの回転速度(車速)が正方向に変化(上昇)するのに伴って、第二回転電機MG2の回転速度は負方向に変化(下降)する。なお、第一回転電機MG1の回転速度は、入力軸Iの回転速度に比例して定まるため、入力軸Iの回転速度が変化しなければ、第一回転電機MG1の回転速度も変化しない。
【0122】
以上に説明したように、第三分配モードは、第二回転電機MG2が反力トルクを出力するために負回転しつつ負方向のトルクを発生する力行状態となることにより、入力トルクTEを減衰して出力軸Oに伝達する。このため、第三分配モードでは、出力軸Oの回転速度が上昇しても第二回転電機MG2の回転方向及びトルクの方向は変化せず、第二回転電機MG2が力行する状態は維持される。また、第三分配モードでは、入力トルクTEを第一回転電機MG1に直接的に伝達して第一回転電機MG1に発電を行わせることができる。そのため、上記のように、第二回転電機MG2が力行して発生させたトルクが第一回転電機MG1の発電に用いられることがなく、動力循環が発生することを抑制できる。また発電のために第一回転電機MG1が発生するMG1トルクT1によって、第三差動機構DM3を介して出力軸O及び第二回転電機MG2に伝達される入力軸I(エンジンE)の入力トルクTEが減衰するため、第二回転電機MG2が力行して発生する反力トルクをその分小さくすることができる。従って、第三分配モードでのハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。以上より、第三分配モードは、出力軸Oの回転速度が高い高速領域(高車速領域)で使用される高速用モードとして適している。
【0123】
2−6.EVモード
EVモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達する電動車両モードである。このEVモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1はトルクを出力しない非駆動状態とされ、第二回転電機MG2のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させる。この際、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力を消費して力行する。図15に示すように、EVモードは、第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が解放状態で実現される。
【0124】
図21は、このEVモードの速度線図を示している。この図21に示すように、EVモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第三差動歯車装置P3の第三キャリヤCA3がケースCSに固定される。これにより、第三差動歯車装置P3では、回転速度の順で一方端となる第三キャリヤCA3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三サンギヤS3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第三リングギヤR3に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2以外の2つの回転要素が自由に回転可能な状態となることで、実質的に第三差動歯車装置P3と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、EVモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、EVモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。一方、入力軸I(エンジンE)及び第一回転電機MG1の出力トルクはゼロとされ、これらの回転速度もゼロとされる。よって、第一差動歯車装置P1の各回転要素の回転速度もゼロとされる。
【0125】
このEVモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図21に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。
【0126】
2−7.シリーズモード
シリーズモードは、入力軸Iと出力軸Oとの間の回転及びトルクの伝達が遮断された状態で、第二回転電機MG2の回転及びトルクを出力軸Oに伝達して車両を走行させると共に、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクを第一回転電機MG1に伝達して発電を行わせるモードである。このシリーズモードでは、エンジンE及び第一回転電機MG1は発電のみを行い、出力軸Oへは第二回転電機MG2のトルクのみを伝達する。この際、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1が発電した電力を消費して力行する。図15に示すように、シリーズモードは、第一ブレーキB1及び第二ブレーキB2が係合状態、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態で実現される。
【0127】
図22は、このシリーズモードの速度線図を示している。この図22に示すように、シリーズモードでは、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第三差動歯車装置P3の第三キャリヤCA3がケースCSに固定される。これにより、第三差動歯車装置P3では、回転速度の順で一方端となる第三キャリヤCA3の回転が停止され、回転速度の順で他方端となる第三サンギヤS3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が減速されて、回転速度の順で中間となる第三リングギヤR3に駆動連結された出力軸Oに伝達される。従って、第二回転電機MG2のトルクが増幅されて出力軸Oに伝達される。また、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一差動歯車装置P1の第一リングギヤR1がケースCSに固定される。これにより、第一差動歯車装置P1では、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1の回転が停止され、回転速度の順で中間となる第一キャリヤCA1に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて、回転速度の順で他方端となる第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1に伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクが減衰されて第一回転電機MG1に伝達される。この際、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が解放状態とされているので、第二差動歯車装置P2の第二リングギヤR2以外の2つの回転要素が自由に回転可能な状態となることで、実質的に第三差動歯車装置P3と第一差動歯車装置P1とが分離され、第二回転電機MG2及び出力軸Oの回転及び駆動力が、第一回転電機MG1及び入力軸Iに伝達されない分離状態となる。従って、シリーズモードでは、入力軸I及び第一回転電機MG1と、出力軸O及び第二回転電機MG2との間の回転及びトルクの伝達は遮断される。これにより、シリーズモードでは、第二回転電機MG2の回転及びトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることができる。そして、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電のためにのみ用いられる。
【0128】
このシリーズモードでは、第二回転電機MG2は、車速及び要求駆動力等に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。ここで、車両の前進時には、図22に示すように、第二回転電機MG2は、正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して力行する。また、図示は省略するが、車両の後進時には、第二回転電機MG2は、負回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して力行する。一方、車両の減速時には、第二回転電機MG2は回生制動を行い、発電する。この回生制動に際して、車両の前進時には、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力し、車両の後進時には、第二回転電機MG2は負回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力する。一方、入力軸I(エンジンE)の回転及びトルクは、第一回転電機MG1による発電必要量に応じて制御される。第一回転電機MG1による発電必要量は、第二回転電機MG2の力行のために必要な電力やバッテリ21の充電量等に応じて定まる。
【0129】
2−8.第一パラレルモード
第一パラレルモードは、2つのパラレルモードの一つであり、後述する第二パラレルモードよりも大きいトルクを出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が低い低速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第一パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第二回転電機MG2は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第一パラレルモードでは、第二回転電機MG2は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第一回転電機MG1は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図15に示すように、第一パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第二ブレーキB2が係合状態、第一ブレーキB1が解放状態で実現される。
【0130】
図23は、この第一パラレルモードの速度線図を示している。この図23に示すように、第一パラレルモードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を係合状態とすることにより第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となる。この状態で、第二ブレーキB2を係合状態とすることにより、第一サンギヤS1及び第三キャリヤCA3がケースCSに固定される。これにより、回転速度の順で一方端となる第一サンギヤS1及び第三キャリヤCA3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3よりも他方端側となる、第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に駆動連結された入力軸Iの回転、並びにそれより更に他方端側となる第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3に駆動連結された第二回転電機MG2の回転が共に減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)及び第二回転電機MG2のトルクが共に増幅されて出力軸Oに伝達される。この第一パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第二回転電機MG2から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。ここで、第二回転電機MG2から出力軸Oまでの変速比は、入力軸Iから出力軸Oまでの変速比よりも大きいため、第二回転電機MG2のトルクは入力軸I(エンジンE)よりも大きく増幅されて出力軸Oに伝達される。
【0131】
この第一パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第二回転電機MG2は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG2トルクT2を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第二回転電機MG2は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第二回転電機MG2は正回転しつつ負方向のMG2トルクT2を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0132】
2−9.第二パラレルモード
第二パラレルモードは、2つのパラレルモードの一つであり、上述した第一パラレルモードよりも高い回転速度を出力軸Oに伝達可能であるため、出力軸Oの回転速度が高い高速領域での使用に適したパラレルモードである。そして、第二パラレルモードは、入力軸Iの回転速度に比例して出力軸O及び第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で、入力軸I(エンジンE)のトルクが出力軸Oに伝達されるモードである。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)のトルクのみを出力軸Oに伝達して車両を走行させることが可能であり、第一回転電機MG1は必要に応じてトルクを出力することができる。すなわち、第二パラレルモードでは、第一回転電機MG1は、必要に応じて力行してエンジンEのトルクを補助し、或いはエンジンEのトルクの一部を用いて発電してバッテリ21を充電する。なお、第二回転電機MG2は、出力トルクをゼロとし、回転を停止する。図15に示すように、第二パラレルモードは、第一クラッチC1、第二クラッチC2、及び第一ブレーキB1が係合状態、第二ブレーキB2が解放状態で実現される。
【0133】
図24は、この第二パラレルモードの速度線図を示している。この図24に示すように、第二パラレルモードでは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2を係合状態とすることにより第一差動歯車装置P1と第二差動歯車装置P2と第三差動歯車装置P3とが、4つの回転要素を有して一体的に動作する状態となる。この状態で、第一ブレーキB1を係合状態とすることにより、第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3がケースCSに固定される。これにより、回転速度の順で一方端となる第一リングギヤR1、第二サンギヤS2、及び第三サンギヤS3の回転が停止され、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3よりも一方端側となる、第一キャリヤCA1及び第二キャリヤCA2に駆動連結された入力軸Iの回転が増速されて出力軸Oに伝達される。また、回転速度の順で出力軸Oが駆動連結された第二リングギヤR2及び第三リングギヤR3よりも他方端側となる、第一サンギヤS1に駆動連結された第一回転電機MG1の回転は減速されて出力軸Oに伝達される。従って、入力軸I(エンジンE)のトルクは減衰され、第一回転電機MG1のトルクは増幅されて出力軸Oに伝達される。この第二パラレルモードでは、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達される回転の変速比、及び第一回転電機MG1から出力軸Oに伝達される回転の変速比は固定される。
【0134】
この第二パラレルモードでは、エンジンEは、車速に応じて定まる回転速度で回転しつつ、要求トルク等に応じて適切な正方向の入力トルクTEを出力するように制御される。第一回転電機MG1は、車両側からの要求トルクに対して出力軸Oに伝達される入力トルクTEが不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ正方向のMG1トルクT1を出力して出力軸Oに伝達される入力トルクTEを補助する。また、第一回転電機MG1は、バッテリ21の電力が不足する場合等には、必要に応じて正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して発電し、バッテリ21を充電する。更に、車両の減速時にも、第一回転電機MG1は正回転しつつ負方向のMG1トルクT1を出力して回生制動を行い、発電する。この際、エンジンEへの燃料供給は停止される。
【0135】
2−10.ハイブリッド駆動装置の理論伝達効率について
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける3つの動力分配モードの理論伝達効率について説明する。図25は、3つの動力分配モードのそれぞれについての理論伝達効率(縦軸)と入出力回転速度比(横軸)との関係を示したグラフである。この図の記述方法は、上記第一の実施形態における図13と同様である。この図に示すように、本実施形態においても、入出力回転速度比が大きい領域で第一分配モードを選択し、入出力回転速度比が小さい領域で第三分配モードを選択し、入出力回転速度比がこれらの中間の領域で第二分配モードを選択する。そして、第一分配モードと第二分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる同期切替点(図17参照)となっており、第二分配モードと第三分配モードとの切り替えが行われる切替点の入出力回転速度比は、第二回転電機MG2の回転速度がゼロとなる同期切替点(図19参照)となっている。この図25から明らかなように、本実施形態では、入出力回転速度比の値に応じて、3つのモードの中で最も理論伝達効率が高いモードが選択されるようになっている。従って、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hによれば、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モードを、同期切替点において順に切り替えることにより、高いエネルギ効率で車両を走行させることができる。
【0136】
3.その他の実施形態
(1)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、いずれも、第一分配モードから第二分配モードへの切り替えに際して係合する係合要素(第二クラッチC2)の両側の係合部材の回転速度が同じ状態となる同期切替点において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる場合を例として説明した。これは、上記第一の実施形態においては、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1との速度線図上での位置が一致するように、第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2の歯数比が設定され、上記第二の実施形態においては、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第三差動歯車装置P3の第一回転要素E1との速度線図上での位置が一致するように、第一差動歯車装置P1及び第三差動歯車装置P3の歯数比が設定されていることによる。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一分配モードから第二分配モードへの同期切替点において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとならない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このようなハイブリッド駆動装置Hの例を、図26及び図27に示す。この図26に示すハイブリッド駆動装置Hは、上記第二の実施形態に類似するが、第三差動歯車装置P3がシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている点で相違している。このような第三差動歯車装置P3の構成の相違により、このハイブリッド駆動装置Hでは、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第三差動歯車装置P3の第一回転要素E1との速度線図上での位置が異なっている。これにより、図27に示すように、第一分配モードから第二分配モードへの同期切替点において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとならず、負となっている。また、当該同期切替点において第一回転電機MG1の回転速度が正となるように構成しても好適である。このような構成であっても、第一分配モードから第二分配モードへの同期切替点は、依然として無電気変換点の近傍にあるため、上記第一の実施形態及び第二の実施形態に比べて、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率が大きく悪化することはない。なお、図示は省略するが、上記第一の実施形態と同様のハイブリッド駆動装置Hの構成において、第一回転電機MG1が駆動連結された第一差動歯車装置P1の第一回転要素E1と第二差動歯車装置P2の第一回転要素E1との速度線図上での位置が異なる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0137】
(2)上記第一の実施形態では、第二差動歯車装置P2が、2つの遊星歯車機構P21、P22のサンギヤS2、S3同士を駆動連結すると共に一方のリングギヤR2と他方のキャリヤCA3とを駆動連結することにより、4つの回転要素を有する差動歯車装置として構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、4つの回転要素を有する差動歯車装置であれば、他にも各種の具体的構成を用いることが可能である。例えば、2つの遊星歯車機構の一方のキャリヤと他方のリングギヤとを駆動連結すると共に、一方のリングギヤと他方のキャリヤとを駆動連結して構成された4つの回転要素を有する差動歯車装置や、シングルピニオン型の遊星歯車機構とダブルピニオン型の遊星歯車機構とがキャリヤ及びリングギヤを共用してなるいわゆるラビニヨ型の遊星歯車装置を用いることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0138】
(3)上記第一の実施形態における第一差動歯車装置P1、並びに上記第二の実施形態における第一差動歯車装置P1及び第二差動歯車装置P2が、いずれもシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、上記第二の実施形態における第三差動歯車装置P3がダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、いずれかのシングルピニオン型の遊星歯車機構をダブルピニオン型の遊星歯車機構に置き換え、或いはダブルピニオン型の遊星歯車機構をシングルピニオン型の遊星歯車機構に置き換えることも、本発明の好適な実施形態の一つである。いずれの場合にも、回転速度の順に応じた連結関係が上記の実施形態と同様になるようにすると好適である。
【0139】
(4)上記の各実施形態では、いずれも差動歯車装置が遊星歯車機構の組み合わせにより構成されている場合の例について説明した。しかし、本発明に係る差動歯車装置の実施形態はこれに限定されるものではない。したがって、例えば、複数の傘歯車を組み合わせた構成等のように、他の形態の歯車機構を用いて差動歯車装置を構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0140】
(5)また、上記の各実施形態において説明した差動歯車装置Dの具体的構成及びこれらの各回転要素に対する係合要素の配置構成は単なる例示であり、上記以外の構成によっても本発明の構成を実現することが可能な全ての構成が、本発明の範囲に含まれる。
【0141】
(6)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、ハイブリッド駆動装置Hが、第一分配モード、第二分配モード、第三分配モード、EVモード、シリーズモード、第一パラレルモード、及び第二パラレルモードの7つのモードを切り替え可能に備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。従って、ハイブリッド駆動装置Hが、第一分配モード、第二分配モード、及び第三分配モードの3つのみを切り替え可能に備える構成とし、或いはこれら3つのモードと、残りの4つのモードの中の一部のモードとを切り替え可能に備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、上記第一の実施形態及び第二の実施形態において説明したモードとは異なるモードを更に切り替え可能に備える構成としてもよい。
【0142】
(7)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第一分配モードにおいて、第二回転電機MG2が第一モード用連結機構CM1を介して出力軸Oに駆動連結された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、出力軸Oの回転速度に比例して第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態で第二回転電機MG2が出力軸Oに駆動連結されていればよい。例えば、第一分配モードにおいて第二回転電機MG2が出力軸Oと一体回転するように駆動連結される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0143】
(8)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第三分配モードにおいて、第一回転電機MG1が第三モード用連結機構CM3を介して入力軸Iに駆動連結された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、入力軸Iの回転速度に比例して第一回転電機MG1の回転速度が定まる状態で第一回転電機MG1が入力軸Iに駆動連結されていればよい。例えば、第三分配モードにおいて第一回転電機MG1が入力軸Iと一体回転するように駆動連結される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0144】
(9)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第二分配モードにおいて、第二回転電機MG2が入力軸Iからの入力トルクTEの反力受けとされる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第二分配モードにおいて第一回転電機MG1を入力軸Iからの入力トルクTEの反力受けとすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1が発電を行う場合には、入力軸I(エンジンE)から出力軸Oに伝達されるトルクの不足分を補うトルクアシストを行い、第一回転電機MG1が力行する場合には、当該第一回転電機MG1が消費する電力の発電を行う。
【0145】
(10)上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2の4つの係合要素として多板式クラッチや多板式ブレーキ等の摩擦係合要素を用いる構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、これら複数の係合要素の全部又は一部に、噛み合い式係合要素を用いても好適である。ここで、噛み合い式係合要素とは、各係合要素の両側の係合部材の噛合部が互いに噛み合うことにより係合する装置であり、係合状態を維持するために油圧や電磁力等の係合力を別途に必要としない装置である。このような噛み合い式係合要素としては、例えば、手動変速装置に一般的に用いられるシンクロ機構やドグクラッチ機構等が好適に用いられる。上記第一の実施形態及び第二の実施形態では、各係合要素は、両側の係合部材の回転速度が同じ状態で、更には当該係合要素がトルクを伝達しない状態で係合することが可能となっている。そのため、各係合要素に噛み合い式係合要素を用いても良好に係合状態の切り替えを行うことができる。そして、各係合要素を噛み合い式係合要素とすれば、これらを摩擦係合要素とする場合に比べて、係合圧又は解放圧を発生させるための油圧が必要とされないため、油圧ポンプによる駆動力の損失を抑制でき、ハイブリッド駆動装置Hの伝達効率を高めることが容易になる。なお、噛み合い式係合要素の係合状態の切り替えは、油圧を用いて行うことができるが、油圧供給を不要とするために、これらの係合状態の切り替えを電磁アクチュエータにより行う構成としても好適である。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0147】
H:ハイブリッド駆動装置
E:エンジン
I:入力軸(入力部材)
O:出力軸(出力部材)
W:車輪
CS:ケース(非回転部材)
MG1:第一回転電機
MG2:第二回転電機
D:差動歯車装置
DM1:第一差動機構
DM2:第二差動機構
DM3:第三差動機構
CM1:第一モード用連結機構
CM3:第三モード用連結機構
P1:第一差動歯車装置
P2:第二差動歯車装置
P3:第三差動歯車装置
E1:第一回転要素
E2:第二回転要素
E3:第三回転要素
E4:第四回転要素
C1:第一クラッチ
C2:第二クラッチ
B1:第一ブレーキ
B2:第二ブレーキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
第一モード、第二モード、及び第三モードを切り替え可能に備え、
前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が駆動連結された第一差動機構を形成し、前記第一回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記出力部材の回転速度に比例して前記第二回転電機の回転速度が定まる状態で前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、
前記第二モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、前記第一回転電機、及び前記第二回転電機が駆動連結された第二差動機構を形成し、
前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第二回転電機が駆動連結された第三差動機構を形成し、前記第二回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記入力部材の回転速度に比例して前記第一回転電機の回転速度が定まる状態で前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結されるハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構を更に形成し、前記第三モード用連結機構により前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結され、
前記第三モード用連結機構は、前記第一差動機構の少なくとも一部を用いて形成される請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構を更に形成し、前記第一モード用連結機構により前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、
前記第一モード用連結機構は、前記第三差動機構の少なくとも一部を用いて形成される請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記第二モードでは、前記第二差動機構は、回転速度の順で、前記第二回転電機に駆動連結された回転要素と前記出力部材に駆動連結された回転要素とが、前記入力部材に駆動連結された回転要素を挟んで反対側に位置する状態とされ、
前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化し、前記第二モードと前記第三モードとの切り替えは前記第二回転電機の回転速度がゼロとなる点で行い、前記第三モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が負であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化する請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記第一モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が正方向に変化し、前記第一モードと前記第二モードとの切り替えは前記第一回転電機の回転速度がゼロとなる点で行う請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
前記第二差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項7】
前記第三差動機構が、回転速度の順に、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から6のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項8】
前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から7のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項9】
前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から7のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項10】
前記差動歯車装置は、3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と、4つの回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、
前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、
前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、
前記第一差動機構及び前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置により形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成される請求項2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項11】
前記差動歯車装置は、それぞれ3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、
前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、
前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記出力部材が駆動連結され、
前記第三差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、
前記第一差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成される請求項2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項12】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素を有する第一差動歯車装置と、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素、及び第四回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、
前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、
前記第二回転電機が前記第二差動歯車装置の第四回転要素に駆動連結され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第二差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第四回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、
前記第一差動歯車装置の第二回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結されるハイブリッド駆動装置。
【請求項13】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素をそれぞれ有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、
前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素及び前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第一回転要素及び前記第三差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、
前記第二回転電機が前記第三差動歯車装置の第三回転要素に駆動連結され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第三差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、
前記第二差動歯車装置の第三回転要素と前記第三差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結されるハイブリッド駆動装置。
【請求項1】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
第一モード、第二モード、及び第三モードを切り替え可能に備え、
前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が駆動連結された第一差動機構を形成し、前記第一回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記出力部材の回転速度に比例して前記第二回転電機の回転速度が定まる状態で前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、
前記第二モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも4つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、前記第一回転電機、及び前記第二回転電機が駆動連結された第二差動機構を形成し、
前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、少なくとも3つの回転要素を有すると共にそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材、前記出力部材、及び前記第二回転電機が駆動連結された第三差動機構を形成し、前記第二回転電機が前記入力部材からのトルクの反力受けとなり、前記入力部材の回転速度に比例して前記第一回転電機の回転速度が定まる状態で前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結されるハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記第三モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第三モード用連結機構を更に形成し、前記第三モード用連結機構により前記第一回転電機が前記入力部材に駆動連結され、
前記第三モード用連結機構は、前記第一差動機構の少なくとも一部を用いて形成される請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記第一モードでは、前記差動歯車装置が、回転速度の順に、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、非回転部材に固定された回転要素と、を有する第一モード用連結機構を更に形成し、前記第一モード用連結機構により前記第二回転電機が前記出力部材に駆動連結され、
前記第一モード用連結機構は、前記第三差動機構の少なくとも一部を用いて形成される請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記第二モードでは、前記第二差動機構は、回転速度の順で、前記第二回転電機に駆動連結された回転要素と前記出力部材に駆動連結された回転要素とが、前記入力部材に駆動連結された回転要素を挟んで反対側に位置する状態とされ、
前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化し、前記第二モードと前記第三モードとの切り替えは前記第二回転電機の回転速度がゼロとなる点で行い、前記第三モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が負であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が負方向に変化する請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記第一モードでは、前記第二回転電機は、回転速度が正であって前記出力部材の回転速度が正方向に変化するのに伴って回転速度が正方向に変化し、前記第一モードと前記第二モードとの切り替えは前記第一回転電機の回転速度がゼロとなる点で行う請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
前記第二差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項7】
前記第三差動機構が、回転速度の順に、前記出力部材が駆動連結された回転要素と、前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から6のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項8】
前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から7のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項9】
前記第一差動機構が、回転速度の順に、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素と、前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結された回転要素と、前記入力部材が駆動連結された回転要素と、を有する請求項1から7のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項10】
前記差動歯車装置は、3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と、4つの回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、
前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、
前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、
前記第一差動機構及び前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置により形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成される請求項2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項11】
前記差動歯車装置は、それぞれ3つの回転要素を有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、
前記第一差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記第一回転電機が駆動連結され、
前記第二差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記入力部材及び前記出力部材が駆動連結され、
前記第三差動歯車装置のそれぞれ異なる回転要素に前記出力部材及び前記第二回転電機が駆動連結され、
前記第一差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第二差動機構が前記第一差動歯車装置と前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三差動機構が前記第二差動歯車装置と前記第三差動歯車装置との組み合わせにより形成され、前記第三モード用連結機構が前記第一差動歯車装置により形成される請求項2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項12】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素を有する第一差動歯車装置と、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素、及び第四回転要素を有する第二差動歯車装置と、を備え、
前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、
前記第二回転電機が前記第二差動歯車装置の第四回転要素に駆動連結され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第二差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第四回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、
前記第一差動歯車装置の第二回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結されるハイブリッド駆動装置。
【請求項13】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、差動歯車装置と、を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記差動歯車装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素をそれぞれ有する第一差動歯車装置と第二差動歯車装置と第三差動歯車装置とを備え、
前記入力部材が前記第一差動歯車装置の第二回転要素及び前記第二差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記出力部材が前記第二差動歯車装置の第一回転要素及び前記第三差動歯車装置の第二回転要素に駆動連結され、
前記第一回転電機が前記第一差動歯車装置の第一回転要素に駆動連結され、
前記第二回転電機が前記第三差動歯車装置の第三回転要素に駆動連結され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素が第一ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第三差動歯車装置の第一回転要素が第二ブレーキにより非回転部材に選択的に固定され、
前記第一差動歯車装置の第三回転要素と前記第二差動歯車装置の第三回転要素とが第一クラッチにより選択的に駆動連結され、
前記第二差動歯車装置の第三回転要素と前記第三差動歯車装置の第三回転要素とが第二クラッチにより選択的に駆動連結されるハイブリッド駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2011−105118(P2011−105118A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261706(P2009−261706)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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