説明

パターン形成基材の製造方法

【課題】機能性材料からなる層のパターンが高い解像度で形成されたパターン形成基材を製造する方法の提供。
【解決手段】光照射によって分解して撥水性が低下する光分解性材料からなる撥水性の薄膜(A)を基材表面に形成し、ついで薄膜(A)に光照射し光照射部の光分解性材料を分解して、光照射部の機能性材料を含む液に対する親液性を調整し、ついで光照射部に機能性材料を含む液を塗布して、基材表面に機能性材料からなる層のパターンを形成することを特徴とするパターン形成基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面の機能性材料を含む液に対する親液性を光照射により簡便に調整し、機能性材料を含む液を塗布して機能性材料からなる層のパターンが形成されたパターン形成基材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子、集積回路、有機ELディスプレイ用デバイス等の微細デバイスの製造方法としては、真空蒸着、スパッタリング等によって基板上に機能性材料の薄膜を形成させ、該薄膜をフォトリソグラフィによってパターン化する手法が用いられる。しかしフォトリソグラフィの工程は複雑であることから、エネルギー、材料等の利用効率が低く、設備が高価となる問題があった。
【0003】
低コスト、低エネルギーで実施できるパターン形成方法が提案されており、たとえば、機能性材料の溶液をインクジェット印刷、スクリーン印刷等の方法でパターン形成する技術が利用されている。
【0004】
インクジェット印刷は、必要な箇所に必要な量だけの材料を付与することができる低環境負荷のプロセスとして注目されている。インクジェット方式で材料のパターンを形成する際、機能性材料を含む液と基材との間に相性があり、該液の基材に対する接触角が大きい場合には、該液が表面ではじかれてダマになったり、ラインエッジが凸凹になったりする。逆に該液の基材に対する接触角が小さいと、濡れ広がってしまう。解像度の高いパターンを形成するには適度な接触角が必要である。清浄な基材は通常インクに対する接触角が小さく、ある程度の撥液処理をする必要があった(特許文献1、特許文献2参照)。
一方、基材表面に撥水性の薄膜(A)を形成し、光照射によって撥水性を低下させる方法が知られている(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−326559号公報
【特許文献2】特開2005−57140号公報
【特許文献3】国際公開第2005/054256号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、機能性材料からなる層のパターンが高い解像度で形成されたパターン形成基材を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の本発明により達成できる。
1:機能性材料を含む液を塗布して機能性材料からなる層のパターンが形成されたパターン形成基材を製造する方法であって、光照射によって分解して撥水性が低下する光分解性材料からなる撥水性の薄膜(A)を基材表面に形成し、ついで該薄膜(A)に光照射し光照射部の光分解性材料を分解して、該光照射部の機能性材料を含む液に対する親液性を調整し、ついで該光照射部に機能性材料を含む液を塗布して、基材表面に機能性材料からなる層のパターンを形成することを特徴とするパターン形成基材の製造方法。
【0008】
2:光照射部の機能性材料を含む液に対する接触角は、30度以上60度以下である上記1に記載のパターン形成基材の製造方法。
3:インクジェット方式により前記光照射部に機能性材料を含む液を塗布する上記1または2に記載のパターン形成基材の製造方法。
4:機能性材料からなる層が導電性薄膜である上記1〜3のいずれかに記載のパターン形成基材の製造方法。
【0009】
5:光分解性材料からなる撥水性の薄膜(A)を、下式(1)で表される含フッ素化合物、該含フッ素化合物の加水分解物、および該含フッ素化合物の部分加水分解縮合物から選ばれる1種以上の化合物を基材表面に塗布することにより形成する上記1〜4のいずれかに記載のパターン形成基材の製造方法。
ただし、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、または、加水分解性の基を持たない1価の基を示し、かつ、4つの基のうち少なくとも1つは、R基またはR基を部分構造とする基(ただし、R基は、水素原子の2個以上がフッ素置換された、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基を示す。)を示す。
は、水素原子、または、加水分解性基を持たない1価有機基を示す。
は、加水分解性基、または、加水分解性基を部分構造として持つ1価有機基を示す。
Aは、光照射により分解する連結基を示す。
【0010】
【化1】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材表面の機能性材料を含む液に対する親液性を光照射により簡便に調整し、機能性材料からなる層のパターンが高い解像度で形成されたパターン形成基材を簡便に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に、撥水性の薄膜(A)を基材表面に形成し、ついで該薄膜(A)に光照射し光分解性材料を分解して接触角を調整する場合の例における基材表面を模式的に示す断面図を示す。
【0013】
本発明においては、まず、光照射によって分解して撥水性が低下する光分解性材料からなる撥水性の薄膜(A)を基材表面に形成する。光照射前の薄膜(A)表面の水に対する接触角は90度以上が好ましく、100度以上がより好ましく、105度以上が特に好ましい。光照射前の基材表面の撥水性が高いほど、光照射後の撥水親水性の度合いを調整できるため、すなわち機能性材料を含む液に対する親液性を調整できるため、種々の機能性材料を含む液に適用できる。なお、本明細書では、該接触角は、実施例に記載する静滴法による測定値で表す。
【0014】
薄膜(A)は基材の表面に接して形成してもよく、基材上に形成された1または2以上の中間層を介して形成していてもよい。基材の材質としては、ガラス、石英ガラス、シリコンウェハ、プラスチック板、または金属板等が好ましい。
【0015】
本発明における光分解性材料としては、光吸収により分解する部分構造と撥水性を発揮する部分構造とを必須とする有機材料が好ましい。該有機材料は光照射後に機能性材料を含む液に対する親液性(以下、単に「親液性」ともいう。)を示すようになるが、親液性を発揮する部分構造は、光照射により形成されても、光照射前から存在していてもよく、光照射により形成される構造であるのが好ましい。
【0016】
親液性を発揮する部分構造としては、−OH、−NH、−NH(CH)、−COOH、−C(O)NH、−SOH,−SH、等の基が挙げられる。
【0017】
光照射により分解する部分構造としては、エーテル性酸素原子(−O−)、−NH−、−N(CH)−、−C(O)O−、−OSO−、−OC(O)NH−、または−S−等が挙げられる。これらの基は、分解反応により親液性を発揮する基に変換される。たとえば、−O−はOHに、−NH−は−NHに、−N(CH)−は−NH(CH)に、−C(O)O−は―COOHに、−NHC(O)−は−C(O)NHに、―OSO−は−SOHに、−OC(O)NH−は(脱COを伴い)−NHに、−S−は−SHに変化する。上記部分構造の中でも、−O−、−NH−、−C(O)O−、−OSO−が好ましく、光照射後の薄膜が親液性に優れた薄膜となりうることから−C(O)O−、−OSO−が特に好ましい。なおこれらの基の向きは該基の両端に結合する構造に応じて適宜変更されうる。
【0018】
撥水性を発揮する部分構造としては、フッ素原子を有する基または長鎖のアルキル基が好ましく、フッ素原子を有する基が好ましい。
【0019】
フッ素原子を有する基としては、フッ素原子を有する炭化水素基、炭素−炭素単結合間にエーテル性酸素原子が挿入された炭化水素基、または、炭素−炭素単結合間にチオエーテル性のイオウ原子が挿入された炭化水素基が挙げられる。フッ素原子を有する炭化水素基は、飽和の基であっても、不飽和の基であってもよい。またフッ素原子を有する基の構造は、直鎖構造、分岐構造、環構造、または部分的に環を有する構造が挙げられ、直鎖構造が好ましい。分岐構造である場合には、分岐部分の炭素原子数は1〜4が好ましい。
【0020】
フッ素原子を有する基としては、1価の基が好ましく、水素原子の2個以上がフッ素置換された、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基(以下、該基をR基といい、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基をR基という。)が特に好ましい。
【0021】
基のフッ素原子数は、((R基中のフッ素原子数)/(R基中の水素原子数))×100(%)の値が60%以上となる数が好ましく、特に80%以上となる数が好ましい。R基は、水素原子のすべてがフッ素置換された、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基(すなわち、R基がペルフルオロ化された基。以下、該基をRFF基と記す。)が好ましい。
【0022】
基の炭素原子数は1〜20が好ましく、4〜16がより好ましく、6〜12が特に好ましい。炭素原子数が該範囲であると、優れた撥水性を発揮する利点がある。
【0023】
基としては、C2n+1−、C2n−1−、CClFn−12n−2−、またはC2p+1O(C2qO)2r−で表されるRFF基、およびCHFn−12n−2−で表されるR基が好ましく、該RFF基が特に好ましい。ただし、nは1〜20の整数を示し、4〜16の整数がより好ましく、6〜12の整数が特に好ましい。pは1〜3の整数、qは2または3、rは1〜3の整数、sは0〜4の整数であることが好ましい。
【0024】
基の具体例としては、以下の基が挙げられる。
F(CF−、F(CF−、F(CF−、CFCFCF=CF−、CFCFCFCFCF=CF−、CFCFCFCFCFCFCF=CF−、HCFCFCFCF−、HCFCFCFCFCFCF−、HCFCFCFCFCFCFCFCF−、ClCFCFCFCF−、ClCFCFCFCFCFCF−、ClCFCFCFCFCFCFCFCF−。
CFCFOCFCFOCF−、CFCFOCFCFOCFCF−、CFCFOCFCFOCFCFOCFCFOCF−、CFCFOCFCFOCFCFOCFCFOCFCF−。
CFCFCFOCF−、CFCFCFOCFCF−、CFCFCFOCF(CF)−、CFCFCFOCF(CF)CF−、CFCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)−、CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)CF−。CFCFCFOCF=CF−、CFCFCFOCF(CF)CFOCF=CF−。
【0025】
本発明における光分解性材料からなる薄膜(A)は、下式(1)で表される含フッ素化合物、該含フッ素化合物の加水分解物、および該含フッ素化合物の部分加水分解縮合物から選ばれる1種以上の化合物(以下、化合物(1)と記す。)、または化合物(1)と他の成分を含む組成物を基材表面に塗布することにより形成するのが好ましい。化合物(1)は基材表面に塗布されると、分子間、他の成分、または基材や中間層表面の反応性基と反応して、膜を形成する化合物である。
【0026】
ただし、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、または、加水分解性の基を持たない1価の基を示し、かつ、4つの基のうち少なくとも1つは、R基またはR基を部分構造とする基(ただし、R基は前記と同じ意味を示す。)を示す。
は、水素原子、または、加水分解性基を持たない1価有機基を示す。
は、加水分解性基、または、加水分解性基を部分構造として持つ1価有機基。
Aは、光照射により分解する連結基を示す。
【0027】
【化2】

【0028】
化合物(1)中の基のうち、R〜Rの少なくとも1つは撥水性を発揮する基である。撥水性を発揮する基が、R基を部分構造とする基である場合には、式R−B−で表される基(Rは前述のR基を示し、Bはフッ素原子を含まない2価連結基を示す。)が好ましく、式RFF−B−で表される基(RFFは前述のRFF基を示す。)が特に好ましい。Bは、R基またはRFF基とベンゼン環を連結する基である。
【0029】
Bとしては、(飽和または不飽和の)2価炭化水素基、または、該2価炭化水素基の片末端に、エーテル性酸素原子、(置換または非置換の)イミノ結合、エステル結合、ケト基(−C(O)−)もしくは(置換または非置換の)アミド結合が結合した基が好ましい。これらのうち、ベンゼン環と結合するBの原子が、エーテル性酸素原子、窒素原子、カルボニル炭素原子、または不飽和炭素原子である場合には、ベンゼン環と共鳴構造をとり、化合物(1)の光吸収特性を向上できるため好ましい。
【0030】
Bの具体例としては、−CH=CH−、−CHCH=CH−、または−CHCHCH=CH−、−(CHO−、−(CHNH−、−(CHN(CH)−、−(CHOC(O)−、−(CHC(O)O−、−(CHC(O)−、−(CHC(O)NH−で表される基が好ましい。ただし、tは0〜4の整数を示す。これらのうちBとしては、−(CHO−(この場合のtは1〜4の整数を示す。)がより好ましく、式−(CHO−で表される基(ただし、該基はO−でベンゼン環と連結することを示す。)が特に好ましい。
【0031】
さらに、式RFF−B−で表される基としては、式C2n+1(CHO−で表される基が特に好ましい。ただし、nは1〜20の整数を示し、4〜16が好ましく、6〜12が特に好ましい。この場合のtは1〜4の整数を示す。
【0032】
化合物(1)中のR基は、入手容易性および経済性の観点からは1個が好ましいことから、R〜Rの1個がR基またはR基を部分構造とする基であり、残余のR〜RはR基を含有しない基であるのが好ましい。
【0033】
〜RがR基を含有しない基である場合、水素原子、または、加水分解性の基を持たない1価の基である。加水分解性の基を持たない1価の基である場合には、化合物(1)の光吸収特性を向上できるため、ベンゼン環と共鳴構造をとりうる基であることが好ましい。ベンゼン環と共鳴構造をとりうる基としては、ベンゼン環に結合する原子が非共有電子対を持つヘテロ原子である基、またはベンゼン環に結合する炭素原子が多重結合を構成している基が好ましい。そのような基としては、−O−R、−OC(O)−R、−NR、−NO、−NHC(O)R、−SR、−(CO)−R、−(CO)O−R、−CR=CR、−CN、−C(O)NR、またはフェニル基から選択される基が好ましい。上記置換基中のRは水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。分子の平面性が失われ、吸収波長が低波長化したり吸光度が低下するのをさけるために、加水分解性の基を持たない1価の基は、立体障害の少ない基が好ましく、原子数2〜6の基がより好ましい。
【0034】
さらに、R〜Rは水素原子を必須とすることが好ましい。R〜Rは2個が水素原子であり、残余の1個がR基を部分構造とする基またはR基であり、残余の1個が水分解性の基を持たない1価の基であるのが好ましい。
【0035】
は、−A−Rとベンゼン環を連結する−CHR−なる2価基を形成する基であり、水素原子が好ましい。Rが1価有機基である場合は、低級アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0036】
Aは、光照射により分解する部分構造のうち、分解によって親液性を発揮する基に変化する基が好ましく−O−、−NH−、−N(CH)−、−OC(O)−、−NHC(O)−、−OC(O)NH−、−OSO−が挙げられ、−OC(O)−が好ましい。なお、該基(A)の向きは、右側にRが、左側にCHRが結合する。Aが−OC(O)−である場合には、光分解後の薄膜が親液性に優れた薄膜となりうる。
【0037】
中の加水分解性基は、基材に処理したときに薄膜(A)を形成させる基である。加水分解性基としては、加水分解性シリル基が好ましい。加水分解性シリル基としては、Siに加水分解性の官能基(X)が1〜3個結合した基が好ましく、式−Si(R623−mで表される基が特に好ましい。R部分の構造は基材の種類等に応じて適宜変更できる。
【0038】
Xとしては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子(特に塩素原子)またはアルコキシ基がより好ましく、化合物(1)のハンドリングがよいことからアルコキシ基が最も好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数1〜3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。mはSiに結合する加水分解性の官能基(X)の数を示し、該数が多いほど基材に対する薄膜の密着性が優れることから、mは2または3が好ましく、3が特に好ましい。すなわち、式−Si(R623−mで表される基は、トリアルコキシシリル基が好ましい。R62は、低級アルキル基が好ましく、メチル基が好ましい。
【0039】
中の加水分解性基は、2価の連結基を介してAと連結するのが好ましく、Rの具体例としては、−R61−Si(R623−mで表される基が好ましい。R61としては炭素数1〜10のアルキレン基、または該アルキレン基の炭素−炭素結合間に−C(O)−または−NH−が挿入された基を示し、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基が特に好ましい。アルキレン基としては、直鎖のアルキレン基が好ましい。R61は光分解反応後に光処理基材に残余する基であることから、R61の炭素数が多すぎると光分解しても親液性が発揮されにくいおそれがある。
【0040】
式(1)で表される含フッ素化合物としては、下記化合物(1−1)が好ましい。
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
20:アルコキシ基。
、B:前記と同じ意味。
:−OC(O)−。
61:炭素数1〜10のアルキレン基。
X:加水分解性基。
【0041】
【化3】

【0042】
式(1)で表される含フッ素化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。な
お、以下において、メチル基をMe、エチル基をEtと表記する場合がある。
【0043】
【化4】

【0044】
化合物(1)の加水分解物とは、式(1)中の加水分解性基の一部または全部を加水分解して水酸基に変換した化合物をいう。たとえば、式(1)中の加水分解性基が式−Si(R623−m(ただし、式中の記号は前記と同じ意味を示す。)である場合には、加水分解性基であるXの一部または全部が水酸基に変換された化合物をいう。
【0045】
化合物(1)の部分加水分解縮合物とは、前記化合物(1)の加水分解物の水酸基の一部が分子間または他の化合物と加水分解縮合して形成する化合物をいう。部分加水分解縮合物は、化合物(1)の水酸基に由来する少なくとも1個の水酸基が存在する化合物である。他の化合物としては、水酸基と加水分解縮合する基を有する化合物(1)以外の化合物であり、式SiX(Xは加水分解性基を示す。)で表される化合物が好ましい。
【0046】
化合物(1)を用いて薄膜(A)を基材表面に形成する方法としては、基材表面に化合物(1)を付着させる公知の方法が適用できる。
化合物(1)は、溶媒に溶解させて溶液とするのが好ましい。化合物(1)を基材表面に付着する方法としては、化合物(1)を含む溶液を、基材表面に塗布する方法が好ましく、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、または手塗り等の塗布方法で塗布する方法が挙げられる。塗布は、室温下または加熱下で行うことが好ましい。また塗布後の基材は、大気中または窒素気流中等で乾燥されることが好ましい。該乾燥は室温で行うのが好ましい。乾燥を加熱下で行う場合には、基材の材質の耐熱性によって温度および時間を適宜変更するのが好ましい。
【0047】
薄膜(A)の厚さは、100nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、5nm以下が特に好ましい。該膜厚の薄膜(A)であると、光照射時に光が効率よく吸収され、分解反応が効率よく進行する利点がある。
【0048】
本発明においては、ついで、薄膜(A)に光照射し光照射部の光分解性材料を分解して、光照射部の機能性材料を含む液に対する親液性を調整する。
【0049】
光照射に用いる光は、波長250nm以上の光が好ましく、波長300nm以上の光がより好ましく、波長350nm以上の光が特に好ましい。該波長の上限は400nmが好ましい。波長250nm以上の光は、基材を分解する恐れが少ない利点がある。該照射時間は、光の波長、光の強度・光源の種類、薄膜(A)を形成する材料の種類等に応じて、適宜変更しうる。
【0050】
光照射の光源には、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ナトリウムランプ、窒素等の気体レーザー、有機色素溶液の液体レーザー、無機単結晶に希土類イオンを含有させた固体レーザー等を用いることが好ましい。単色光を照射したい場合には、光源にレーザーを用いるのが好ましい。レーザー光以外の光源を用いて単色光を得たい場合には、広帯域の線スペクトルまたは連続スペクトルを、バンドパスフィルター、カットオフフィルター等の光学フィルターを使用して、必要な波長を有する光を取り出すのが好ましい。光源は、一度に大面積に照射できることから、高圧水銀ランプまたは超高圧水銀ランプが好ましい。
【0051】
本発明においては、光照射することによって、薄膜(A)の光照射部は撥水性が低下する。光照射は、薄膜(A)の全面に行ってもよく、一部に行ってもよい。光照射を薄膜の一部に行う方法としては、所定のパターンを有するフォトマスクを介して光照射を行う方法、レーザー光を用いて薄膜(A)の一部にのみ光照射を行う方法が挙げられ、前者の方法は、一度に大きな面積を照射できるため好ましい。
光照射は、基材が光照射に用いる光を透過する波長の光であれば、基材のどちらの面側から行ってもよく、通常は基材の薄膜(A)面側から光照射を行うのが好ましい。
【0052】
光照射部の機能性材料を含む液に対する接触角は、30度以上60度以下であることが好ましい。機能性材料を含む液に対する接触角が30度より小さいと、液が基板上で塗れ広がりすぎるため、形状の乱れた機能性材料からなる層のパターンが形成される傾向がある。また60度よりも大きいと、吐出した液滴が基材に着弾し既に基材上にある液滴と接した際にその液滴に取り込まれてしまうことにより、機能性材料からなる層のパターンに断線等の不具合が生じる傾向がある。該接触角は、40度以上60度以下がより好ましく、45度以上55度以下が特に好ましい。
【0053】
本発明においては、ついで光照射部に機能性材料を含む液を塗布する。
機能性材料としては、導電性薄膜を形成する材料、カラーフィルターを形成する着色材料、電子デバイスまたは有機ディスプレイを形成するセラミック材料、有機半導体材料等が挙げられる。
【0054】
導電性薄膜を形成する材料は、Au、Ag、Pt、Cu、Pd、Ru、Cr、Rh、In、Fe、Ni、Al等の金属;PdO、SnO、In、ZnO、TiO、PbO、Sb、CdIn、CdSnO、ZnSnO等の酸化物半導体;、酸化物半導体に不純物をドーパントさせた材料;HfB、ZrB、LaB、CeB、YB、GdB等の導電性ホウ化物;TiC、ZrC、HfC、TaC等の導電性炭化物;TiN、ZrN、HfN等の導電性窒化物;Si、Ge等の半導体;導電性ポリマーから選択される。
【0055】
導電性薄膜を形成する材料を含む液としては、上記の材料からなる微粒子を分散媒に分散した液が用いられる。使用する分散媒としては、上記微粒子を分散できるもので、凝集を起こさないものであれば特に限定されない。そのような分散媒として、具体的には、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、トルエン、キシレン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン等の炭化水素系化合物;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系化合物;プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン等の極性化合物を挙げることができる。これらのうち、微粒子の分散性と分散液の安定性の点で、水、アルコール類、炭化水素系化合物、エーテル系化合物が好ましく、水、炭化水素系化合物がより好ましい。これらの分散媒は、単独でも、あるいは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0056】
カラーフィルターを形成する着色材料は、赤、緑、青の各着色材料があり、例えば、該着色材料を含む液として、有機顔料、感光性樹脂、分散剤、溶剤等を含むインクを用いることができる。このインクの調製に適した溶剤としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−メトキシエチルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒は、単独でも、あるいは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0057】
電子デバイスまたは有機ディスプレイを形成するセラミック材料としては、無機粉末が挙げられる。無機粉末としては、例えば、Al、AlN、Si、SiCを主成分とする材料、少なくともSiOおよびBaO、CaO、SrO、MgOなどのアルカリ土類金属酸化物を含有する金属酸化物による混合物からなる材料が挙げられる。混合物としては、ZnO、PbO、Pb、ZrO、TiO等の金属酸化物を配合した組成物が挙げられる。
【0058】
電子デバイスまたは有機ディスプレイを形成するセラミック材料を含む液としては、上記無機粉末のスラリーを用いることができる。無機粉末に、樹脂バインダーと、可塑剤とを、水または有機溶剤に混合し、ボールミルで混練して調製することが好ましい。樹脂バインダーとしてはポリイソブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート等が挙げられ、可塑剤としてはジブチルフタレートやジオクチルフタレート等が挙げられる。有機溶剤を用いる場合はトルエン、IPA、アセトン、ブチルセルソルブ等が用いられる。
無機粉末のスラリーを基材に塗布した後、焼成することにより絶縁体が得られる。
【0059】
有機半導体は代表的には基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、ドレイン電極、ソース電極、有機半導体層からなる。有機半導体材料としてはペンタセンやフラーレン、液晶性化合物、オリゴチオフェン系化合物等の低分子化合物、フルオレン−チオフェンコポリマー等のポリチオフェン系化合物等の高分子化合物が挙げられる。有機半導体材料を含む液としては、上記有機半導体材料を溶剤に溶解した液を用いることができる。そのような溶剤として、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、トルエン、キシレン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン等の炭化水素系化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、ジクロロペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン等のハロゲン系化合物が挙げられる。
【0060】
機能性材料を含む液を塗布するには、インクジェット方式やスクリーン印刷等を採用でき、任意の液滴を定量吐出でき、特に数10ng程度の液滴を形成できるインクジェット方式を採用することが好ましい。インクジェット方式としては、圧電素子等の機械的エネルギーを利用して溶液を吐出するいわゆるピエゾジェット方式、ヒーターの熱エネルギーを利用して気泡を発生させ、該気泡の生成に基づいて溶液を吐出するいわゆるバブルジェット(登録商標)方式等いずれでも構わない。
【0061】
本発明の製造方法によって得られる機能性材料からなる層のパターンが形成されたパターン形成基材としては、例えば、液晶ディスプレイのカラーフィルター基板;液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子線ディスプレイ等各種ディスプレイの駆動用電極がパターニングされた基板;電子源の構成部品がパターニングされた基板等が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例においては、ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R−225と記す。)としては、旭硝子社製商品名AK−225を用いた。水あるいは有機溶媒に対する接触角は、静滴法を用い基材に水滴を3ケ所乗せ、測定された接触角3点の平均値として求めた。
【0063】
[ガラス基板の前処理]
スライドガラスを、5分間UVオゾン処理し、洗浄済みガラス基材を得た。該洗浄済みガラス基材の水に対する接触角は5度以下であった。
【0064】
[撥水性基材の製造]
ガラス製容器に、国際公開第2005/054256号パンフレットの合成例(2−3)と同様にして得た下記化合物(a)の1質量部、トルエンの100質量部および洗浄済みガラス基材を入れ、100℃で1時間静置した。ガラス基材を取り出し、アセトンで5回、R−225で5回洗浄し風乾して撥水性基材(a)を作製した。撥水性基材(a)の水に対する接触角は108度であった。撥水性基材(a)の市販の銀インク(ハリマ化成株式会社製、Agナノペースト NPS−J−90)に対する接触角は65度であった。
【0065】
【化5】

【0066】
[光照射]
撥水性基材(a)の化合物(a)による処理面上から、超高圧水銀ランプを用いて、撥水性基材(a)の全面に光照射した。照度は365nmにおいて100mW/cmとした。
【0067】
[光処理基材の製造]
撥水性基材(a)に1分間光照射した後に、アセトンで5回洗浄し、つぎにR−225で5回洗浄し、風乾して、光処理基材(1)を得た。光処理基材(1)の水および上記銀インクに対する接触角測定を行った。
同様に撥水性基材(a)に光照射を2分間、3分間、5分間、10分間、15分間行い、洗浄、風乾して、光処理基材(2)〜(6)を得て、接触角測定を行った。各光処理基材について、光照射時間毎の接触角測定結果を表1にまとめて示す。
【0068】
【表1】

【0069】
[インクの塗布試験]
インクジェットプリンタ(マイクロジェット社製、MJP−1500V)を用いて、撥水性基材(a)に、上記銀インクを塗布し、線の描画を行い、サンプル0を得た。サンプル0について光学顕微鏡を用いて、線の形成状況を観察した。光学顕微鏡像を図2に示す。
【0070】
同様にして、光処理基材(1)に銀インクを塗布し、線の描画を行い、サンプル1を得た。光学顕微鏡像を図3に示す。
同様にして、光処理基材(2)に銀インクを塗布し、線の描画を行い、サンプル2を得た。光学顕微鏡像を図4に示す。
同様にして、光処理基材(3)に銀インクを塗布し、線の描画を行い、サンプル3を得た。光学顕微鏡像を図5に示す。
同様にして、光処理基材(4)に銀インクを塗布し、線の描画を行い、サンプル4を得た。光学顕微鏡像を図6に示す。
同様にして、光処理基材(5)に銀インクを塗布し、線の描画を行い、サンプル5を得た。光学顕微鏡像を図7に示す。
同様にして、光処理基材(6)に銀インクを塗布し、線の描画を行い、サンプル6を得た。光学顕微鏡像を図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法により得られたパターン形成基材は、金属配線板;液晶ディスプレイのカラーフィルター基板;液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子線ディスプレイ等各種ディスプレイの駆動用電極がパターニングされた基板;電子源の構成部品がパターニングされた基板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】撥水性の薄膜(A)を基材表面に形成し、該薄膜(A)に光照射し光分解性材料を分解して接触角を調整する場合の例における基材表面を模式的に示す断面図。
【図2】撥水性基材(a)に銀インクを塗布して得られたサンプル0の光学顕微鏡像。
【図3】光処理基材(1)に銀インクを塗布して得られたサンプル1の光学顕微鏡像。
【図4】光処理基材(2)に銀インクを塗布して得られたサンプル2の光学顕微鏡像。
【図5】光処理基材(3)に銀インクを塗布して得られたサンプル3の光学顕微鏡像。
【図6】光処理基材(4)に銀インクを塗布して得られたサンプル4の光学顕微鏡像。
【図7】光処理基材(5)に銀インクを塗布して得られたサンプル5の光学顕微鏡像。
【図8】光処理基材(6)に銀インクを塗布して得られたサンプル6の光学顕微鏡像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性材料を含む液を塗布して機能性材料からなる層のパターンが形成されたパターン形成基材を製造する方法であって、
光照射によって分解して撥水性が低下する光分解性材料からなる撥水性の薄膜(A)を基材表面に形成し、
ついで該薄膜(A)に光照射し光照射部の光分解性材料を分解して、該光照射部の機能性材料を含む液に対する親液性を調整し、
ついで該光照射部に機能性材料を含む液を塗布して、基材表面に機能性材料からなる層のパターンを形成することを特徴とするパターン形成基材の製造方法。
【請求項2】
光照射部の機能性材料を含む液に対する接触角は、30度以上60度以下である請求項1に記載のパターン形成基材の製造方法。
【請求項3】
インクジェット方式により前記光照射部に機能性材料を含む液を塗布する請求項1または2に記載のパターン形成基材の製造方法。
【請求項4】
機能性材料からなる層が導電性薄膜である請求項1〜3のいずれかに記載のパターン形成基材の製造方法。
【請求項5】
光分解性材料からなる撥水性の薄膜(A)を、下式(1)で表される含フッ素化合物、該含フッ素化合物の加水分解物、および該含フッ素化合物の部分加水分解縮合物から選ばれる1種以上の化合物を基材表面に塗布することにより形成する請求項1〜4のいずれかに記載のパターン形成基材の製造方法。
ただし、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、または、加水分解性の基を持たない1価の基を示し、かつ、4つの基のうち少なくとも1つは、R基またはR基を部分構造とする基(ただし、R基は、水素原子の2個以上がフッ素置換された、アルキル基、アルケニル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有するアルケニル基から選ばれる基を示す。)を示す。
は、水素原子、または、加水分解性基を持たない1価有機基を示す。
は、加水分解性基、または、加水分解性基を部分構造として持つ1価有機基を示す。
Aは、光照射により分解する連結基を示す。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−733(P2008−733A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175460(P2006−175460)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】