説明

パンタグラフ変位測定装置及びトロリ線硬点検出方法

【課題】パタンマッチング処理の精度を向上させることを可能とするパンタグラフ変位測定装置及びトロリ線硬点検出方法を提供する。
【解決手段】ラインセンサカメラ2によってマーカを撮影した画像を処理することによりパンタグラフの加速度を求める画像処理部5Aが、入力画像を作成する入力画像作成部5aと、テンプレートを設定するテンプレート設定部5bと、入力画像を分割する画像分割処理部5cと、テンプレートの拡縮を行うテンプレート拡大・縮小処理部5dと、入力画像上のマーカのピクセル位置を検出するパタンマッチング処理部5eと、マーカのピクセル位置をパンタグラフの実際の変位に変換するパンタグラフ変位計算部5fと、パンタグラフの変位に対して平滑化処理を行うフィルタリング処理部5gと、パンタグラフの加速度を出力する加速度出力部5hとを有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフ変位測定装置及びトロリ線硬点検出方法に関し、特に硬点計測用のマーカを取り付けたパンタグラフをラインセンサカメラで撮影した画像を用いてパタンマッチング処理によりトロリ線の硬点を計測するパンタグラフ変位測定装置及びトロリ線硬点検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道設備においては、検査項目の一つとしてトロリ線の硬点の計測が挙げられる。例えば、トロリ線はちょう架線にハンガで吊り下げられた状態になっている。このハンガが設置されている箇所や、その他、トロリ線の接続箇所や曲線引がある部分などは他の部分に比べトロリ線の重量が部分的に増加しており、「トロリ線の硬点」と呼ばれる。
【0003】
このトロリ線の硬点を、車両の屋根上に設置されトロリ線に摺動する集電装置であるパンタグラフが通過するとき、トロリ線の重量によりパンタグラフが急激に下降する場合がある。このような場合、トロリ線がパンタグラフから離線し、アークと呼ばれる放電現象が発生する。このときトロリ線にはアークによって生じる熱によって局所的な摩耗が生じる。そのため、トロリ線の硬点においては、他の部分に比較して摩耗の進行が早まることが考えられる。
【0004】
以上のことから、トロリ線の硬点を検出することは、電気鉄道設備を保守し、運用・管理する上で重要な事項となっている。
【0005】
上述したように、トロリ線の硬点においてパンタグラフには鉛直方向に大きな加速度が生じる。したがって、トロリ線の硬点を検出するためにはトロリ線と変位が等価であるパンタグラフの鉛直方向の加速度を監視すればよい。パンタグラフの加速度は、パンタグラフの変位を測定し、これを二階微分することによって求めることができる。
【0006】
従来、パンタグラフの変位測定方法として以下のようなものが知られている。
(イ)レーザセンサ方式
この方式は、パンタグラフをミラー等によりレーザで走査し、反射波の位相差や反射したレーザの形状の変形などにより、パンタグラフの変位を測定する方式である。
(ロ)光切断センサ方式
この方式は、パンタグラフに縞状の光を投光し、パンタグラフの形状に応じて凹凸になった縞を受光し、パンタグラフの変位を測定する方式である。
(ハ)画像処理方式
この方式は、車両の屋根上に設置したラインセンサカメラでパンタグラフを撮影し、撮影した画像に対して処理用コンピュータにおいてモデルマッチングやパタンマッチング等の処理を行い、パンタグラフの変位を測定する方式である(例えば、特許文献1,2参照)。
【0007】
上記の方式のうち、画像処理方式は、ラインセンサカメラにより撮影したパンタグラフの画像の中から、予め用意しておいたパンタグラフのモデルとマッチングする画像上のピクセル位置を抽出し、ラインセンサカメラからパンタグラフまでの距離や撮影器具のレンズの焦点距離などに基づき、画像上のピクセル位置からパンタグラフの実際の高さを算出するものである。
【0008】
この画像処理方式は、撮影したパンタグラフの画像の中から、予め取得したパンタグラフのモデルとマッチングするピクセル位置を検出したり、車両の屋根上に設置されたパンタグラフに白黒の縞模様のマーカを取り付け、ラインセンサカメラによって撮影した画像からパタンマッチングによってマーカ位置、すなわちパンタグラフの位置を検出したりしている。
【0009】
そして、画像上のパンタグラフの位置を検出した後、パンタグラフまでの距離やレンズの焦点距離などの関係から、画像上のピクセル位置を実際のパンタグラフ変位へと変換する。こうして求めたパンタグラフの変位を二階微分することで、加速度を算出している。また、特許文献2のように、ラインセンサカメラを用いることで空間分解能を上げ、精度を向上させることができる。この方式は、レーザセンサ方式や光切断方式に比べて装置が小型になるので、測定専用に製造された検測車だけでなく、営業車にも搭載できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−250774号公報
【特許文献2】特開2008−104312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ラインセンサカメラを用いた方式では、図13に示すように、パンタグラフ1aに取り付けられたマーカ4を撮影するために、ラインセンサカメラ2は、車両1の屋根上に斜め上方を見上げるように設置される。
【0012】
ここで、図13に示すように、ラインセンサカメラ2からパンタグラフ1aまでの距離が長い場合、このラインセンサカメラ2のカメラ仰角θAは小さくなる。一方、ラインセンサカメラ2からパンタグラフ1aまでの距離が短い場合、このラインセンサカメラ2のカメラ仰角θBは大きくなる。以下、図13中実線で示すラインセンサカメラ、破線で示すラインセンサカメラ2をそれぞれラインセンサカメラ2A、2Bと呼称する。
【0013】
ラインセンサカメラ2A、ラインセンサカメラ2Bによって撮影したマーカ4の入力画像例をそれぞれ図14(a)、図14(b)に示す。ラインセンサカメラ2Aを用いた場合、図14(a)に示すように、カメラ仰角θAが小さいので、入力画像6A内においてマーカの軌跡Mはほぼ同一幅であり、パンタグラフ1aの高さによる分解能の違いはほとんどない。これに対し、図14(b)に示すようにラインセンサカメラ2Bを用いた場合、カメラ仰角θBが大きいので、マーカの軌跡Mは高さによって異なり、入力画像6B内でパンタグラフ1aの高さによる分解能に差が生じる。
【0014】
なお、図14中、時刻TIの範囲に対応する画像はパンタグラフ1aが図13に示すIの位置にある場合、時刻TIIの範囲に対応する画像はパンタグラフ1aが図13に示すIIの位置にある場合、時刻TIIIの範囲に対応する画像はパンタグラフ1aが図13に示すIIIの位置にある場合を示している。
【0015】
例えば、図14中に破線で囲んで示すように、パンタグラフ1aがII(=時刻TII)に示す位置にあるときに取得したマーカ4の画像をパタンマッチング用のテンプレート7として取得した場合、図14(a)に示すようにラインセンサカメラ2Aによって撮影した画像6Aに対してパタンマッチング処理を行う場合ではパタンマッチングが成功する可能性が高いのに対し、図14(b)に示すようにラインセンサカメラ2Bによって撮影した画像6Bに対してパタンマッチング処理を行う場合ではテンプレート7のサイズが合わずにパタンマッチングが失敗する可能性があるという問題があった。
【0016】
このようなことから本発明は、パタンマッチング処理の精度を向上させることを可能とするパンタグラフ変位測定装置及びトロリ線硬点検出方法を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための第1の発明に係るパンタグラフ変位測定装置は、列車の屋根上に設置されパンタグラフを撮影する撮影手段と、前記撮影手段によって撮影された入力画像を画像処理することによりパンタグラフの変位を取得する画像処理手段とを備えたパンタグラフ変位測定装置において、前記画像処理手段が、前記撮影手段から入力される画像信号を用いて入力画像を作成する入力画像作成手段と、テンプレートを設定するテンプレート設定手段と、キャリブレーション手段によって得られた各画素の分解能に基づいて前記入力画像を所定数の区間に分割する画像分割処理手段と、前記入力画像上の前記区間ごとの分解能に基づいて前記テンプレートの拡大又は縮小を行うテンプレート拡大・縮小処理手段と、前記テンプレートと前記入力画像とから前記マーカのピクセル位置を検出するパタンマッチング処理手段と、前記マーカのピクセル位置に基づいて前記パンタグラフの実際の変位を算出するパンタグラフ変位計算手段と、前記パンタグラフの変位のデータに対して平滑化処理を行うフィルタリング処理手段と、前記平滑化処理手段によって平滑化された前記パンタグラフの変位データに基づいて算出した前記パンタグラフの加速度を出力する加速度出力手段とを有することを特徴とする。
【0018】
なお、ここでいう「キャリブレーション手段」とは、例えば特願2009−011648によるキャリブレーション方法を用いて各画素の分解能を求める手段のことをいうものとする。
【0019】
第2の発明に係るパンタグラフ変位測定装置は、第1の発明に係るパンタグラフ変位測定装置において、前記パタンマッチング処理手段が、直前のラインに対して行ったパタンマッチング処理の結果に基づいて、前記入力画像の所定の範囲に対してのみパタンマッチング処理を行うことを特徴とする。
【0020】
第3の発明に係るパンタグラフ変位測定装置は、第1の発明に係るパンタグラフ変位測定装置において、前記パタンマッチング処理手段が、前記入力画像から検出した前記テンプレートとの相関値に応じて前記テンプレートの移動量を設定することを特徴とする。
【0021】
第4の発明に係るパンタグラフ変位測定装置は、第1乃至第3のいずれかの発明に係るパンタグラフ変位測定装置において、前記パタンマッチング処理手段が、前記入力画像中のマーカの軌跡が隣接する二つの前記区間に跨っている場合に、直前のラインにおいて検出した前記マーカの位置を基準にして、前記マーカの軌跡が一つの前記区間に含まれるように前記区間の位置を自動で修正することを特徴とする。
【0022】
第5の発明に係るパンタグラフ変位測定装置は、第1乃至第4のいずれかの発明に係るパンタグラフ変位測定装置において、前記パタンマッチング処理手段が、前記マーカの軌跡の中心位置を大まかに検出し、前記中心位置から前記テンプレートの幅の半分の範囲の平均輝度値を算出し、その値をしきい値として前記マーカの軌跡を抽出することを特徴とする。
【0023】
なお、ここでいう「大まか」とは、パタンマッチング処理においてマッチング結果に誤差を生じない範囲でマーカ中心位置を検出する程度をいうものとする。
【0024】
第6の発明に係るトロリ線硬点検出方法は、列車の屋根上に設置されパンタグラフを撮影する撮影手段と、前記撮影手段によって撮影された入力画像を画像処理することによりパンタグラフの変位を取得する画像処理手段とを備えたパンタグラフ変位測定装置を用いてトロリ線の硬点を検出するトロリ線硬点検出方法において、予めテンプレートを設定する第一の工程と、前記撮影手段から入力される画像信号を用いて入力画像を作成する第二の工程と、キャリブレーション手段によって得られた各画素の分解能に基づいて前記入力画像を所定数の区間に分割する第三の工程と、前記入力画像上の前記区間ごとの分解能に基づいて前記テンプレートの拡大又は縮小を行う第四の工程と、前記テンプレートと前記入力画像とからパタンマッチング処理により前記マーカのピクセル位置を検出する第五の工程と、前記マーカのピクセル位置に基づいて前記パンタグラフの実際の変位を算出する第六の工程と、前記パンタグラフの変位のデータに対して平滑化処理を行う第七の工程と、前記平滑化処理手段によって平滑化された前記パンタグラフの変位データに基づいて算出した前記パンタグラフの加速度を出力する第八の工程とからなることを特徴とする。
【0025】
なお、ここでいう「キャリブレーション手段」とは、例えば特願2009−011648によるキャリブレーション方法を用いて各画素の分解能を求める手段のことをいうものとする。
【0026】
第7の発明に係るトロリ線硬点検出方法は、第6の発明に係るトロリ線硬点検出方法において、前記第五の工程を、直前のラインに対して行ったパタンマッチング処理の結果に基づいて、前記入力画像の所定の範囲に対してのみ行うことを特徴とする。
【0027】
第8の発明に係るトロリ線硬点検出方法は、第6の発明に係るトロリ線硬点検出方法において、前記第五の工程を、前記入力画像から検出した前記テンプレートとのピクセル位置ごとの相関値に基づいて前記テンプレートの移動量を設定して行うことを特徴とする。
【0028】
第9の発明に係るトロリ線硬点検出方法は、第6乃至第8のいずれかのトロリ線硬点検出方法において、前記第五の工程を、前記入力画像中のマーカの軌跡が隣接する二つの前記区間に跨っている場合に、直前のラインにおいて検出した前記マーカの位置を基準にして、前記マーカの軌跡が一つの前記区間に含まれるように前記区間の位置を自動で修正して行うことを特徴とする。
【0029】
第10の発明に係るトロリ線硬点検出方法は、第6乃至第9のいずれかのトロリ線硬点検出方法において、前記第五の工程を、前記マーカの軌跡の中心位置を大まかに検出し、前記中心位置から前記テンプレートの幅の半分の範囲の平均輝度値を算出し、その値をしきい値として行うことを特徴とする。
【0030】
なお、ここでいう「大まか」とは、パタンマッチング処理においてマッチング結果に誤差を生じない範囲でマーカ中心位置を検出する程度をいうものとする。
【発明の効果】
【0031】
上述した第1の発明に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、列車の屋根上に設置されパンタグラフを撮影する撮影手段と、撮影手段によって撮影された入力画像を画像処理することによりパンタグラフの変位を取得する画像処理手段とを備えたパンタグラフ変位測定装置において、画像処理手段が、撮影手段から入力される画像信号を用いて入力画像を作成する入力画像作成手段と、テンプレートを設定するテンプレート設定手段と、キャリブレーション手段によって得られた各画素の分解能に基づいて入力画像を所定数の区間に分割する画像分割処理手段と、入力画像上の区間ごとの分解能に基づいてテンプレートの拡大又は縮小を行うテンプレート拡大・縮小処理手段と、テンプレートと入力画像とからマーカのピクセル位置を検出するパタンマッチング処理手段と、マーカのピクセル位置に基づいてパンタグラフの実際の変位を算出するパンタグラフ変位計算手段と、パンタグラフの変位のデータに対して平滑化処理を行うフィルタリング処理手段と、平滑化処理手段によって平滑化されたパンタグラフの変位データに基づいて算出したパンタグラフの加速度を出力する加速度出力手段とを有するので、適切な画像分割数を自動的に求め、パタンマッチング処理を適切に行ってマーカのピクセル位置を高精度に検出し、トロリ線の硬点を求めることができる。
【0032】
また、第2の発明に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、パタンマッチング処理手段が、直前のラインに対して行ったパタンマッチング処理の結果に基づいて、入力画像の所定の範囲に対してのみパタンマッチング処理を行うので、処理時間を短縮することができるとともに、ノイズ等の検出の確率を低減することができる。
【0033】
また、第3の発明に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、前記パタンマッチング処理手段が、入力画像から検出したテンプレートとの相関値に応じてテンプレートの移動量を設定するので、相関値が低い場合に比較して相関値が高い場合にテンプレートの移動量を小さく設定することで、パタンマッチング処理を効率的に行うことができる。
【0034】
また、第4の発明に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、パタンマッチング処理手段が、入力画像中のマーカの軌跡が隣接する二つの区間に跨っている場合に、直前のラインにおいて検出したマーカの位置を基準にして、マーカの軌跡が一つの区間に含まれるように区間の位置を自動で修正するので、パタンマッチングの処理範囲内に区切り位置が存在することにより処理範囲内でテンプレートの切り替え処理が発生することを防止し、パタンマッチング処理を効率的に行うことができる。
【0035】
また、第5の発明に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、パタンマッチング処理手段が、マーカの軌跡の中心位置を大まかに検出し、中心位置からテンプレートの幅の半分の範囲の平均輝度値を算出し、その値をしきい値としてマーカの軌跡を抽出するので、画像の区切り位置においてテンプレートサイズが変更されることによりパタンマッチング結果が数ピクセルずれてしまうことを防止し、区切り位置における誤差をなくすことができるとともに、画像全体の輝度の変化に対して、安定してエッジ抽出を行うことができる。
【0036】
また、第6の発明に係るトロリ線硬点検出方法によれば、列車の屋根上に設置されパンタグラフを撮影する撮影手段と、撮影手段によって撮影された入力画像を画像処理することによりパンタグラフの変位を取得する画像処理手段とを備えたパンタグラフ変位測定装置を用いてトロリ線の硬点を検出するトロリ線硬点検出方法において、予めテンプレートを設定する第一の工程と、撮影手段から入力される画像信号を用いて入力画像を作成する第二の工程と、キャリブレーション手段によって得られた各画素の分解能に基づいて入力画像を所定数の区間に分割する第三の工程と、入力画像上の区間ごとの分解能に基づいてテンプレートの拡大又は縮小を行う第四の工程と、テンプレートと入力画像とからパタンマッチング処理によりマーカのピクセル位置を検出する第五の工程と、マーカのピクセル位置に基づいてパンタグラフの実際の変位を算出する第六の工程と、パンタグラフの変位のデータに対して平滑化処理を行う第七の工程と、平滑化処理手段によって平滑化されたパンタグラフの変位データに基づいて算出したパンタグラフの加速度を出力する第八の工程とからなるので、適切な画像分割数を自動的に求め、パタンマッチング処理を適切に行ってマーカのピクセル位置を高精度に検出し、トロリ線の硬点を求めることができる。
【0037】
また、第7の発明に係るトロリ線硬点検出方法によれば、第五の工程を、直前のラインに対して行ったパタンマッチング処理の結果に基づいて、入力画像の所定の範囲に対してのみ行うので、処理時間を短縮することができるとともに、ノイズ等の検出の確率を低減することができる。
【0038】
また、第8の発明に係るトロリ線硬点検出方法によれば、第五の工程を、入力画像から検出したテンプレートとのピクセル位置ごとの相関値に基づいてテンプレートの移動量を設定して行うので、相関値が低い場合はテンプレートの移動量を大きく設定し、相関値が高い場合はテンプレートの移動量を小さく設定することで、パタンマッチング処理を効率的に行うことができる。
【0039】
また、第9の発明に係るトロリ線硬点検出方法によれば、第五の工程を、入力画像中のマーカの軌跡が隣接する二つの区間に跨っている場合に、直前のラインにおいて検出したマーカの位置を基準にして、マーカの軌跡が一つの区間に含まれるように区間の位置を自動で修正して行うので、パタンマッチングの処理範囲内に区切り位置が存在することにより処理範囲内でテンプレートの切り替え処理が発生することを防止し、パタンマッチング処理を効率的に行うことができる。
【0040】
また、第10の発明に係るトロリ線硬点検出方法によれば、第五の工程を、マーカの軌跡の中心位置を大まかに検出し、中心位置からテンプレートの幅の半分の範囲の平均輝度値を算出し、その値をしきい値として行うので、画像の区切り位置においてテンプレートサイズが変更されることによりパタンマッチング結果が数ピクセルずれてしまうことを防止し、区切り位置における誤差をなくすことができるとともに、画像全体の輝度の変化に対して、安定してエッジ抽出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1に係るパンタグラフ変位測定装置の設置例を示す説明図である。
【図2】本発明の実施例1に係るパンタグラフ変位測定装置のマーカの正面図である。
【図3】本発明の実施例1に係るパンタグラフ変位測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例1における入力画像の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例1におけるテンプレートの例を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例1において画像を分割する例を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例1に係るパンタグラフ測定処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例3において入力画像中のテンプレートとの相関値の高低を示す説明図である。
【図9】本発明の実施例4においてパタンマッチングの処理範囲に区切り位置が存在する場合の例を示す説明図である。
【図10】図9に示す区切り位置を設定し直した例を示す説明図である。
【図11】本発明の実施例5において区間毎に設定されるテンプレートサイズの例を示す説明図である。
【図12】本発明の実施例5において入力画像上のマーカの白色部分の軌跡である白色領域のエッジを抽出する例を示す説明図である。
【図13】パンタグラフ変位測定装置の設置例を示す説明図である。
【図14】図14(a)はラインセンサカメラの仰角が小さい場合の入力画像の例を示す説明図、図14(b)はラインセンサカメラの仰角が大きい場合の入力画像の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る画像処理を用いたトロリ線の硬点測定におけるパタンマッチング精度の向上方法の詳細を説明する。
【実施例1】
【0043】
(画像の区間毎に拡大・縮小させたテンプレートを用いたパタンマッチング)
図1乃至図7を用いて本発明に係るパンタグラフ変位測定装置の第1の実施例について説明する。図1は本実施例に係るパンタグラフ変位測定装置の設置例を示す説明図、図2は本実施例で用いるマーカの正面図、図3は本実施例に係るパンタグラフ変位測定装置の概略構成を示すブロック図、図4は入力画像の例を示す説明図、図5はテンプレートの例を示す説明図、図6は入力画像を分割する例を示す説明図、図7は本実施例に係るパンタグラフ測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0044】
図1に示すように、本実施例においてパンタグラフ高さ測定装置は、車両1の屋根上に固定される撮影手段としてのラインセンサカメラ2、照明装置3、マーカ4と、車両1の内部に設置される処理用コンピュータ5とを備えて構成されている。
【0045】
ラインセンサカメラ2は、車両1の屋根上にパンタグラフ1aを撮影するように設置されている。即ち、ラインセンサカメラ2は、その光軸が斜め上方に向くように、且つその走査線方向がパンタグラフ1aの長手方向と直交するようにその向きを設定されている。このラインセンサカメラ2によって取得した画像信号は処理用コンピュータ5に入力される。
【0046】
照明装置3は、ラインセンサカメラ2によって撮影する箇所に対して光を照射するようにその向き及び照射角度を設定されている。
【0047】
マーカ4は、光を反射する素材と光を反射しない素材とで形成され、パンタグラフ1aのラインセンサカメラ2側の端面にラインセンサカメラ2によって撮影可能な範囲で任意の位置に設置される。本実施例において用いるマーカ4は、図2に示すように二本の光を反射する素材からなる白色部分4wと三本の光を反射しない素材からなる黒色部分4bとを交互に配して構成されている。このマーカ4の大きさは任意に決定する。
【0048】
処理用コンピュータ5は、ラインセンサカメラ2から入力された画像を解析してパンタグラフ1aの鉛直方向の変位を検出するものであり、演算処理手段としての演算処理部5Aとモニタ5Bとを有している。
【0049】
演算処理部5Aは、図3に示すように入力画像作成部5a、テンプレート設定部5b、画像分割処理部5c、テンプレート拡大・縮小処理部5d、パタンマッチング処理部5e、パンタグラフ変位計算部5f、フィルタリング処理部5g、加速度出力部5h、及びメモリm1,m2を備えている。
【0050】
入力画像作成手段としての入力画像作成部5aは、ラインセンサカメラ2から入力される画像信号を時系列的に並べてなる図4に示すような入力画像6を作成する。図4に示すように、マーカ4は照明装置3の光を反射するため、入力画像6においてマーカ4の白色部分の軌跡は黒色領域(図中、ドットを付して示す部分)6bの中に帯状の白色領域6aとして表示される。この入力画像6は、メモリm1,m2を経て、必要に応じてテンプレート設定部5b又は画像分割処理部5cへ送られる。
【0051】
テンプレート設定手段としてのテンプレート設定部5bは、図4に示すような入力画像6から図5に示すようなマーカパタンをマッチング用のテンプレート(以下、基準テンプレートという)7Aとして予め取得する。詳しくは、パタンマッチング処理部5eにおける処理の際に入力画像6中のマーカ4を抽出するために用いるマーカパタンを基準テンプレート7Aとして予め取得し、これをメモリm2に登録する。基準テンプレート7Aはメモリm2を経てテンプレート拡大・縮小処理部5dへ送られる。
【0052】
図5に示すように、基準テンプレート7Aは基準テンプレート7A作成用に予め取得した画像からマーカ部分を抽出して得られる白色領域7aと黒色領域7bとからなる一次元の輝度値データである。このとき、基準テンプレート7Aとしては、マーカ4の白色部分4wとその外側の黒色部分4bとの境界で画像を区切るよりも、図5に示すように白色部分4wの両側の黒色部分4bを一部含むように画像を区切ることが望ましい。このようにすることで、基準テンプレート7Aの特徴量が増え、誤検出を低減することができる。なお、テンプレート設定部5bでは、基準テンプレート7Aとともに、オフセット幅WOSとテンプレートサイズWT(図4参照)を同時に登録しておく。
【0053】
画像分割処理手段としての画像分割処理部5cは、入力画像作成部5aから入力された入力画像6に対して図6に示すような区切り位置8を設け、入力画像6を所定数の区間A1,A2,・・・,ANに分割する(以下、任意の区間を区間Aiという)。全ての区間Aiの情報はメモリm2を経てテンプレート拡大・縮小処理部5dへ送られる。このとき、区間の数Nについては、例えば、特願2009−011648におけるキャリブレーション方法により予め求めた各画素の分解能に基づいて自動的に算出するものとし、且つ、最も分解能が低くなる区間が、最も分解能が高くなる区間の分解能の1.1倍以上にならないように設定するものとする。このようにすることにより、正確に分解能を算出することができる。
【0054】
ここで、本実施例において区間の数Nとして、最も分解能が低くなる区間が最も分解能が高くなる区間の分解能の1.1倍以上にならないように設定した理由は、テンプレートサイズWTに関する検証実験の結果に基づく。すなわち、マーカ4を撮影した画像から取得した基準テンプレート7AのサイズWTを変化させ、基準テンプレート7Aを取得した画像に対してパタンマッチングを行った場合にどの程度拡大又は縮小したものまでマッチングが成功するかを調べた結果に基づいている。
【0055】
テンプレート拡大・縮小処理手段としてのテンプレート拡大・縮小処理部5dは、テンプレート設定部5bから入力された基準テンプレート7Aと画像分割処理部5cから入力された区間Aiの情報とに基づいて、それぞれの区間Ai毎に基準テンプレート7Aを拡大又は縮小してそのサイズWTを変更する処理を行う。区間Ai毎にサイズWTを変更されたテンプレート(以下、拡縮テンプレートという)7Biのデータはメモリm2を経てパタンマッチング処理部5eへ送られる。
【0056】
詳しくは、それぞれの区間Ai毎に、基準テンプレート7Aに対する拡大・縮小率(以下、拡縮率という)を計算し、画像を拡大・縮小するのに一般的な手法であるバイリニア補間を用いて基準テンプレート7Aを拡大又は縮小し、それぞれの区間Aiに応じた拡縮テンプレート7Biを作成する。拡縮テンプレート7BiのサイズWTiについては、基準テンプレート7Aの登録時にそのサイズWTも登録しているので、基準テンプレート7AのサイズWTに拡縮率を乗算することで求めることができる。
【0057】
ここで、拡縮率については下記の式(1)〜(3)から求める。なお、画像のピクセル位置から実際の高さに変換するための近似式(4)は、例えば、特願2009−011648のキャリブレーション方法によって得られたものを用いる。
【0058】
pn={a(n+1)2+b(n+1)+c}−(an2+bn+c) ・・・(1)
pori={a(ori+1)2+b(ori+1)+c}−{a(ori)2+b(ori)+c} ・・・(2)
scale=pori/pn ・・・(3)
y=ax2+bx+c ・・・(4)
ここで、「a」,「b」,「c」はピクセル位置から実際の変位を求めるための近似式(4)の係数、「pn」は拡大・縮小したいピクセル位置nでの分解能[mm/pix]、「pori」は基準テンプレート7Aのピクセル位置oriでの分解能[mm/pix]、「scale」は拡縮率である。
【0059】
本実施例において分解能は1ピクセル当たりの高さ[mm]として求めることができる。すなわち、ピクセル位置nの高さ[mm]と一つ隣のピクセル位置n+1の高さ[mm]をそれぞれ求め、その後、ピクセル位置n+1における高さからピクセル位置nにおける高さを減算することで、分解能[mm/pix]を求めることができる。
【0060】
なお、拡縮テンプレート7BiのサイズWTiが基準テンプレート7AのサイズWTと同一の場合は拡縮率を1とすることはいうまでもない。
【0061】
パタンマッチング処理手段としてのパタンマッチング処理部5eは、画像分割処理部5cから入力された区間Aiの情報と、テンプレート拡大・縮小処理部5dから入力された拡縮テンプレート7Biのデータとに基づいて各区間Ai毎にパタンマッチング処理を行い、入力画像6上のマーカ4のピクセル位置を検出する。パタンマッチング処理部5eによって得られたマーカ4のピクセル位置はメモリm2を経てパンタグラフ変位計算部5fへ送られる。
【0062】
パンタグラフ変位計算手段としてのパンタグラフ変位計算部5fは、パタンマッチング処理部5eから入力された入力画像6上のマーカ4のピクセル位置に基づいて、入力画像6上のマーカ4の変位を実際のパンタグラフ1aの変位に変換する。なお、入力画像6上のパンタグラフ1aの軌跡の変位を実際のパンタグラフ1aの変位に変換するための計算式は、例えば、特願2009−011648等によって得られる近似式を予め求め、これを使用するものとする。パンタグラフ変位計算部5fによって得られた実際のパンタグラフ1aの変位データはメモリm2を経てフィルタリング処理部5gへ送られる。
【0063】
フィルタリング処理手段としてのフィルタリング処理部5gは、パンタグラフ変位計算部5fから入力された変位データに対して平滑化処理を行う。パンタグラフ1aの実際の変位には、画像の量子化誤差が乗った状態となっている。そこで、実際の変位のデータにフィルタリング処理を施し、変位データの平滑化を行う。これにより、変位データに含まれる量子化誤差を低減する。平滑化された変位データ(以下、平滑化変位データという)はメモリm2を介して加速度出力部5hへ送られる。
【0064】
加速度出力手段としての加速度出力部5hは、フィルタリング処理部5gから入力された平滑化変位データに対して二階微分を行い、マーカ4、すなわち、パンタグラフ1aの鉛直方向の加速度を算出する。詳しくは、フィルタリング処理で平滑化された変位データを二階微分することで加速度を求め、これをモニタ5Bに出力する。ここで、本実施例では、例えばパンタグラフ1aの加速度が20G以上となる位置を硬点として検出する。算出された加速度のデータはメモリm2を介してモニタ5Bに出力・表示される。
【0065】
以下、図7に基づいて本実施例の処理用コンピュータ5におけるトロリ線硬点検出処理の流れを簡単に説明する。
【0066】
図7に示すように、まず、処理用コンピュータ5では、テンプレート設定部5bにおいて基準テンプレート7Aを登録する処理(ステップP1)を行い、続いて、入力画像作成部5aにおいてラインセンサカメラ2から出力される画像信号を時系列的に並べてなる入力画像6を作成する処理(ステップP2)を行った後、画像分割処理部5cにおいて図6に示すように入力画像6を所望の数Nの区間A1,A2,・・・,ANに分割する処理(ステップP3)を行う。
【0067】
続いて、テンプレート拡大・縮小処理部5dにおいてステップP1で登録した基準テンプレート7Aに対しそれぞれの区間Aiに応じて拡大又は縮小する処理(ステップP4)を行い、続いて、パタンマッチング処理部5eにおいて入力画像6の各区間Ai毎に拡大又は縮小させた拡縮テンプレート7Biと入力画像6とを比較して入力画像6上のマーカ4の位置(ピクセル位置)を検出するパタンマッチング処理(ステップP5)を行った後、一つの区間Aiに対するパタンマッチング処理が終了したか否かの判定(ステップP6)を行う。判定の結果、区間Aiが終了していない場合(NO)はステップP7に移行する。一方、区間Aiが終了した場合(YES)はステップP4に戻る。
【0068】
ステップP7では、全ての入力画像のデータに対してパタンマッチング処理が終了したか否かの判定を行う。判定の結果、全ての入力画像のデータに対してパタンマッチング処理が終了した場合(YES)はステップS8に移行する。一方、全ての入力画像のデータに対してパタンマッチング処理が終了していない場合(NO)はステップP5に戻る。
【0069】
ステップP8では、パンタグラフ変位計算部5fにおいて検出したマーカ位置に基づいて全ての入力画像6に対して、入力画像6上のマーカ4のピクセル位置を実際のパンタグラフ1aの変位に変換する処理を行う。
【0070】
続いて、フィルタリング処理部5gにおいてフィルタリング処理(ステップP9)を行い、最後に、加速度出力部5hにおいてパンタグラフの加速度を出力する処理(ステップP10)を行う。
【0071】
このように構成される本実施例に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、図13(b)のように、カメラ仰角θBが大きい状態で撮影した入力画像6に対し、この入力画像6を図6に示すように所定数Nの区間A1,A2,・・・,ANに分割し、それぞれの区間Aiの分解能を基準にして基準テンプレート7Aを拡大・縮小させてなる拡縮テンプレート7Biを用いてパタンマッチング処理を行うようにしたので、高精度にパタンマッチング処理を行うことが可能になる。また、キャリブレーション結果を利用することで、キャリブレーションを行った部分の分解能を画素毎に正確に計算することができる。
【実施例2】
【0072】
(パタンマッチング処理範囲の削減による処理時間の効率化)
本発明に係るパンタグラフ変位測定装置の第2の実施例について説明する。本実施例は、実施例1とはパタンマッチング処理部5eにおける処理が異なるものである。その他の構成は実施例1において説明したものと概ね同様であり、以下、同様の作用を奏する処理部には同一の符合を付して重複する説明は省略し、異なる点を中心に説明する。
【0073】
本実施例では、図7に示したステップP5の処理として、以下の処理を行う。
まず、入力画像6の1ライン目に対しては実施例1と同様のパタンマッチング処理を行い、検出したマーカ位置をメモリm2に保存する。その後、2ライン目以降のラインに対してはその直前のラインに対してパタンマッチング処理を行った結果得られたマーカのピクセル位置を基準とする±NP[pix]の範囲に対してのみパタンマッチング処理を行う。
【0074】
要するに、一度入力画像6上にマーカ4の軌跡を検出したら、次のラインではそのピクセル位置を基準とする所定の範囲に対してのみパタンマッチング処理を行う。このときパタンマッチング処理を行う範囲±NP[pix]は、ラインセンサカメラ2による撮影における単位時間当たりのマーカの移動量(パンタグラフの上下変位幅)を考慮して決定すればよい。
【0075】
即ち、列車が50km/hを超える速度で走行する区間にカテナリちょう架式又は剛体ちょう架式によりちょう架する場合は、トロリ線の勾配は5/1000、その他の場合は15/1000以下としなければならないと「普通鉄道構造規則第62条」に定められている。勾配が5/1000とは、1000mの距離で5m高さが変化するということを表す。
【0076】
ラインセンサカメラ2のサンプリング周波数を1000Hz(1秒間に1000ライン(1ms間隔)の画像を撮影)と設定しているとして説明すると、例えば、車両1が時速50km/hで走行する場合、1秒間に進む距離は約13.888mであり、1msでは約0.013888mとなる。パンタグラフ1aの上下変位による勾配が15/1000である場合を考えると、単位時間(1ms)当たりのパンタグラフの高さの変動は約0.00021mmとなる。
【0077】
これに対し、本実施例では硬点を検出する基準となる加速度を20Gとしている。これは単位時間(1ms)当たり0.1mm変化した場合の加速度である。上述した「普通鉄道構造規則第62条」を考慮すると、単位時間当たり10mmの変化を見込めば十分であるので、直前のラインで検出されたマーカ4のピクセル位置を基準として、画像の分解能に応じて1msで10mm変化した場合のピクセル幅NP[pix]を計算し、その範囲をパタンマッチングを行う範囲とすればよい。なお、本実施例ではピクセル幅NP[pix]を算出する条件として単位時間当たり10mmの変化を見込む例を示したが、ピクセル幅NP[pix]を算出する条件としてはこれに限らず、必要に応じて任意に設定してよい。
【0078】
ラインセンサカメラ2でパンタグラフ1aを撮影した場合、撮影の単位時間当たりにおけるパンタグラフ1aの上下変位幅が小さいのでマーカ4の移動量も小さくなる。このように、一度パタンマッチング処理によりマーカ4のピクセル位置を検出したら、その位置を基準にして範囲±NP[pix]内でパタンマッチング処理を行えばよい。ラインセンサカメラ2で撮影した入力画像6の幅を「WIDTH」とすると、本実施例においてパタンマッチング処理に掛かる時間tは実施例1においてパタンマッチング処理に掛かる時間t0を用いて下式(5)で表される。
【0079】
【数1】

【0080】
このように、本実施例に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、パタンマッチングで検出した直前のラインのマーカ4のピクセル位置を基準として、±NP[pix]の範囲に対してのみパタンマッチング処理を行うことで、実施例1に比較して処理時間を短縮することができる。さらに、パタンマッチング処理を行う範囲を狭くすることで、ノイズなどを検出する可能性を低減することができる。
【実施例3】
【0081】
(相関値を基準にしたテンプレートの移動量の変化による処理時間の効率化)
図8を用いて本発明に係るパンタグラフ変位測定装置の第3の実施例について説明する。図8は入力画像におけるテンプレートとの相関値の高低を示す説明図である。
【0082】
本実施例は、実施例1とはパタンマッチング処理部5eにおける処理が異なるものである。その他の構成は実施例1において説明したものと概ね同様であり、以下、図1乃至図7に示し上述した構成と同様の作用を奏する処理部については同一の符合を付して重複する説明は省略し、異なる点を中心に説明する。
【0083】
図8に示すように、入力画像6と拡縮テンプレート7Biとの相関値Rは入力画像6中に撮影されているマーカの軌跡の部分において最も高く(R=RH)、その他の箇所では低く(R=RL)なる。また、実際の入力画像6に対し、マーカ4が撮影されている部分は一部である。
【0084】
したがって、本実施例では、図8に示す入力画像6に対してパタンマッチングを行うときに、まず登録した基準テンプレート7Aと似ているかどうかの指標である相関値Rを計算し、拡縮テンプレート7Biの移動量を相関値Rに応じて変更しつつ、パタンマッチング処理を行うようにする。
【0085】
すなわち、本実施例では、図7に示したステップS5の処理として、実施例1において説明したステップP5の処理を行う前に以下の処理を行う。
【0086】
まず、入力画像6の各ピクセル位置iに対して基準テンプレート7Aとの相関値Rを計算する。相関値Rは下記の式(6)を計算することで求めることができる。なお、ラインセンサカメラ2は一次元の画像を撮影するカメラのため、計算は一次元用になっている。
【0087】
【数2】

【0088】
ここで、Rは相関値、Lはテンプレート画像の幅(探索画像の幅より小さくする)、Wiは探索画像のピクセル位置iにおける輝度値、Tiはテンプレート画像のピクセル位置iにおける輝度値である。
【0089】
次に、相関値Rに応じてパタンマッチング処理の際に拡縮テンプレート7Biを移動させる量を設定する。詳しくは、相関値Rが低い範囲に対するパタンマッチング処理に比較して、相関値Rが高い範囲に対するパタンマッチング処理の際に拡縮テンプレート7Biの移動量が小さくなるように、拡縮テンプレート7Biの移動量を設定する。
【0090】
相関値は最大で1、最低で0になる。本実施例においてパタンマッチング処理を行った場合、相関値Rは低いところで0.8程度、高いところで0.99などの値となると考えられる。そこで、相関値Rに応じて相関値Rが0.05増えるごとに移動量を1[pix]ずつ増し、相関値Rが0.95以上の場合は拡縮テンプレート7Biの移動量を1[pix]、相関値Rが0.9〜0.85の場合は拡縮テンプレート7Biの移動量を2[pix]とするなど、相関値Rに基づいてパタンマッチング処理の際の拡縮テンプレート7Biの移動量を設定すればよい。
【0091】
本実施例では、上述したように拡縮テンプレート7Biの移動量を設定した後、実施例1において説明したステップP5の処理を行う。
【0092】
なお、この相関値Rの移動量を変更するためのしきい値(本実施例では0.05)は手動で設定する。また、拡縮テンプレート7Biの移動量は上述に限定されるものではなく、必要に応じて任意で設定してよい。
【0093】
このように構成される本実施例に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、1[pix]毎にパタンマッチング処理を行う実施例1に比較して、相関値Rの高低に応じて移動量を変更することによって、パタンマッチング処理を効率的に行うことができる。
【実施例4】
【0094】
(画像の区切り位置における処理の効率化)
図9及び図10を用いて本発明に係るパンタグラフ変位測定装置の第4の実施例について説明する。図9はパタンマッチングの処理範囲に区切り位置が存在する場合の例を示す説明図、図10は図9に示す区切り位置を設定し直した例を示す説明図である。
【0095】
本実施例は、実施例1、実施例2に比較して図7に示すステップP5におけるパタンマッチング処理の方法が異なるものである。その他の構成は実施例1、実施例2に示したものと概ね同様であり、以下、実施例1、実施例2において説明した構成と同様の作用を奏する処理部については同様の符合を付して重複する説明は省略し、異なる点を中心に説明する。
【0096】
上述した実施例2では、直前のラインに対するパタンマッチング処理によって検出したマーカ4のピクセル位置を基準にして、パタンマッチング処理を行う範囲を限定することで、処理の効率化を図った。しかし、実施例2においては、図9に示すように入力画像6のパタンマッチングの処理範囲(前のラインに対するパタンマッチング処理によって得られたマーカ4のピクセル位置を基準として±NP[pix]の範囲)B内に区切り位置8が存在する場合、区間(本実施例では区間Ai,Ai+1)毎に拡縮テンプレート7Biの拡縮率を切り換えなければならない。
【0097】
そこで、本実施例では、パタンマッチング処理を行う際、図9に示すようにパタンマッチングの処理範囲B内に区切り位置8が含まれる場合には、処理範囲B内に区切り位置8が含まれないように自動的に区切り位置8を設定し直すとともに、新たに設定した区間Aiに対応するように拡縮テンプレート7Biのサイズを設定し直す処理を行う。
【0098】
具体的には、本実施例では図7に示し上述したステップP5の処理として、以下の処理を行う。まず、入力画像6の1ライン目に対しては実施例1と同様のパタンマッチング処理を行い、検出したマーカ4のピクセル位置をメモリm2に保存する。続いて、2ライン目以降に対しては直前のラインに対するパタンマッチング処理によって検出したマーカ4のピクセル位置を基準にして、パタンマッチングの処理範囲Bを±NP[pix]に設定する。
【0099】
その後、直前のラインから得られたマーカ4のピクセル位置P[pix]に対し、P±NP[pix]の処理範囲Bに含まれる区切り位置8の有無を調べ、ここに区切り位置8が含まれていなければ直前のラインと同じ拡縮テンプレート7Biを使用してパタンマッチングを行う。
【0100】
一方、P±NP[pix]の範囲に区切り位置8が含まれている場合は、直前のラインから得られたマーカ4のピクセル位置を基準にして区間Aiを設定し、その区間Aiに合わせて拡縮テンプレート7Biの拡縮率を計算し、新たな拡縮テンプレート7Biを設定する。このような処理を行った後、実施例1において説明したパタンマッチング処理を行う。なお、拡縮テンプレート7Biの拡縮率と区切り位置8の位置の計算は実施例1において説明した方法により算出する。
【0101】
なお、本実施例においては、基準テンプレート7Aの設定は手動で、その後の拡縮テンプレート7Biの設定は各画像位置の分解能を基準にして自動で行う。
【0102】
上述した本実施例に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、パタンマッチングの処理範囲内に区切り位置が存在する場合には、直前のラインから得られたマーカ4のピクセル位置を基準として、処理範囲内に区切り位置8が含まれないように、新たに拡縮テンプレート7Biと区切り位置8の位置を自動で設定するようにしたので、実施例2の効果に加えて、パタンマッチング処理をより高効率に行うことができる。
【実施例5】
【0103】
(テンプレートサイズ変更による区切り位置の精度向上)
図11乃至図12を用いて本発明に係るパンタグラフ変位測定装置の第5の実施例について説明する。図11は区間毎に設定されるテンプレートサイズの例を示す説明図、図12は入力画像上のマーカ4の白色部分4wの軌跡である白色領域6aのエッジを抽出する例を示す説明図である。
【0104】
実施例1から実施例4の方法でパタンマッチングを行った場合、図11に示すように、マーカ4の軌跡(以下、マーカ軌跡という)Mと区間Ai,Ai+1間の区切り位置8とが交差すると、一つのマーカ軌跡Mに対して二つの区間Ai,Ai+1で二通りの拡縮テンプレート7Bi,7Bi+1を用いてパタンマッチング処理を行うこととなる。その結果、区切り位置8でパタンマッチングの結果が数ピクセルずれるおそれがある。加速度を計算する上で、数ピクセルのずれは大幅な誤差に繋がる。
【0105】
そこで、本実施例では、マーカ軌跡Mと区間Ai,Ai+1間の区切り位置8とが交差するような場合においては、拡縮テンプレート7Biを用いて予めパタンマッチング処理を行い、マーカ軌跡Mのピクセル位置を大まかに検出して、その後、検出されたマーカ軌跡Mのピクセル位置を基準にしてマーカ軌跡Mのエッジを抽出する。これにより、マーカ軌跡Mと区間Ai,Ai+1間の区切り位置8とが交差することによる誤差の発生を防止する。
【0106】
なお、マーカ軌跡Mのエッジの抽出は、任意のしきい値を用いて行うことが可能であるが、しきい値を定数とすると入力画像6が全体的に暗くなったり明るくなったりした場合に正確にエッジを抽出することができなくなる。そこで、処理範囲内の輝度の平均値を計算し、これをしきい値とすると好適である。このようにすることにより、画像の輝度値が全体的に変化しても安定してエッジ抽出を行うことができる。
【0107】
すなわち、本実施例では図7に示すステップP5の処理として、以下の処理を行う。
【0108】
まず、マーカ軌跡Mと区間Ai,Ai+1間の区切り位置8とが交差するような場合、拡縮テンプレート7Biを用いたパタンマッチング処理によりマーカ中心位置PCを大まかに検出する。続いて、図12に示すように、マーカ中心位置PCから現在のテンプレートサイズWTの半分の範囲で輝度の平均値BAを算出する。その後、輝度の平均値BAよりも輝度値が高い領域の最大のピクセル位置(最も高い位置のエッジ)PEを求め、その位置をマーカ軌跡Mのピクセル位置として抽出する。
【0109】
なお、本実施例でいう「大まか」とは、パタンマッチング処理においてマッチング結果に誤差を生じない程度にマーカ中心位置を検出する範囲のこととする。テンプレートサイズWTの誤差の許容範囲は、実験的に±10%程度になる。
【0110】
このように構成される本実施例に係るパンタグラフ変位測定装置によれば、パタンマッチングによってマーカ位置を大まかに検出し、検出したマーカ4のピクセル位置を基準としてマーカ4のエッジを抽出することにより、入力画像6に設定される区切り位置において、テンプレートサイズが変更されることがなく、画像の区切り位置におけるテンプレートサイズWTの変化によるパタンマッチング結果のずれをなくし、精度を向上させることができる。また、パタンマッチングで検出したマーカ中心位置から現在のテンプレートサイズWTの半分の範囲の平均輝度値を計算し、その値をエッジ抽出のしきい値として用いることにより、入力画像6全体の輝度の変化に対して安定してエッジ抽出を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、パンタグラフ変位測定装置及びトロリ線硬点検出方法に適用可能であり、特に硬点計測用のマーカを取り付けたパンタグラフをラインセンサカメラで撮影した画像を用いてパタンマッチング処理によりトロリ線の硬点を計測するパンタグラフ変位測定装置及びトロリ線硬点検出方法に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0112】
1 車両、2 ラインセンサカメラ、3 照明装置、4 マーカ、4w 白色部分、4b 黒色部分、5 処理用コンピュータ、5A 演算処理装置、5B モニタ、5a 入力画像作成部、5b テンプレート設定部、5c 画像分割処理部、5d テンプレート拡大・縮小処理部、5e パタンマッチング処理部、5f パンタグラフ変位計算部、5g フィルタリング処理部、5h 加速度出力部、6 入力画像、6a 白色領域、6b 黒色領域、7 テンプレート、7a 白色領域、7b 黒色領域、8 区切り位置、 A1,A2,…,Ai,…AN 区間、WT テンプレートサイズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の屋根上に設置されパンタグラフを撮影する撮影手段と、前記撮影手段によって撮影された入力画像を画像処理することによりパンタグラフの変位を取得する画像処理手段とを備えたパンタグラフ変位測定装置において、前記画像処理手段が、前記撮影手段から入力される画像信号を用いて入力画像を作成する入力画像作成手段と、テンプレートを設定するテンプレート設定手段と、キャリブレーション手段によって得られた各画素の分解能に基づいて前記入力画像を所定数の区間に分割する画像分割処理手段と、前記入力画像上の前記区間ごとの分解能に基づいて前記テンプレートの拡大又は縮小を行うテンプレート拡大・縮小処理手段と、前記テンプレートと前記入力画像とから前記マーカのピクセル位置を検出するパタンマッチング処理手段と、前記マーカのピクセル位置に基づいて前記パンタグラフの実際の変位を算出するパンタグラフ変位計算手段と、前記パンタグラフの変位のデータに対して平滑化処理を行うフィルタリング処理手段と、前記平滑化処理手段によって平滑化された前記パンタグラフの変位データに基づいて算出した前記パンタグラフの加速度を出力する加速度出力手段とを有することを特徴とするパンタグラフ変位測定装置。
【請求項2】
前記パタンマッチング処理手段が、直前のラインに対して行ったパタンマッチング処理の結果に基づいて、前記入力画像の所定の範囲に対してのみパタンマッチング処理を行うことを特徴とする請求項1記載のパンタグラフ変位測定装置。
【請求項3】
前記パタンマッチング処理手段が、前記入力画像から検出した前記テンプレートとの相関値に応じて前記テンプレートの移動量を設定することを特徴とする請求項1記載のパンタグラフ変位測定装置。
【請求項4】
前記パタンマッチング処理手段が、前記入力画像中のマーカの軌跡が隣接する二つの前記区間に跨っている場合に、直前のラインにおいて検出した前記マーカの位置を基準にして、前記マーカの軌跡が一つの前記区間に含まれるように前記区間の位置を自動で修正することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のパンタグラフ変位測定装置。
【請求項5】
前記パタンマッチング処理手段が、前記マーカの軌跡の中心位置を大まかに検出し、前記中心位置から前記テンプレートの幅の半分の範囲の平均輝度値を算出し、その値をしきい値として前記マーカの軌跡を抽出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のパンタグラフ変位測定装置。
【請求項6】
列車の屋根上に設置されパンタグラフを撮影する撮影手段と、前記撮影手段によって撮影された入力画像を画像処理することによりパンタグラフの変位を取得する画像処理手段とを備えたパンタグラフ変位測定装置を用いてトロリ線の硬点を検出するトロリ線硬点検出方法において、予めテンプレートを設定する第一の工程と、前記撮影手段から入力される画像信号を用いて入力画像を作成する第二の工程と、キャリブレーション手段によって得られた各画素の分解能に基づいて前記入力画像を所定数の区間に分割する第三の工程と、前記入力画像上の前記区間ごとの分解能に基づいて前記テンプレートの拡大又は縮小を行う第四の工程と、前記テンプレートと前記入力画像とからパタンマッチング処理により前記マーカのピクセル位置を検出する第五の工程と、前記マーカのピクセル位置に基づいて前記パンタグラフの実際の変位を算出する第六の工程と、前記パンタグラフの変位のデータに対して平滑化処理を行う第七の工程と、前記平滑化処理手段によって平滑化された前記パンタグラフの変位データに基づいて算出した前記パンタグラフの加速度を出力する第八の工程とからなることを特徴とするトロリ線硬点検出方法。
【請求項7】
前記第五の工程を、直前のラインに対して行ったパタンマッチング処理の結果に基づいて、前記入力画像の所定の範囲に対してのみ行うことを特徴とする請求項6記載のトロリ線硬点検出方法。
【請求項8】
前記第五の工程を、前記入力画像から検出した前記テンプレートとのピクセル位置ごとの相関値に基づいて前記テンプレートの移動量を設定して行うことを特徴とする請求項6記載のトロリ線硬点検出方法。
【請求項9】
前記第五の工程を、前記入力画像中のマーカの軌跡が隣接する二つの前記区間に跨っている場合に、直前のラインにおいて検出した前記マーカの位置を基準にして、前記マーカの軌跡が一つの前記区間に含まれるように前記区間の位置を自動で修正して行うことを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載のトロリ線硬点検出方法。
【請求項10】
前記第五の工程を、前記マーカの軌跡の中心位置を大まかに検出し、前記中心位置から前記テンプレートの幅の半分の範囲の平均輝度値を算出し、その値をしきい値として行うことを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のトロリ線硬点検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−266341(P2010−266341A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118285(P2009−118285)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】