説明

ピストンリング側面の塗装装置及び塗装法

【課題】優れた生産性で自動操作によりピストンリングの側面に塗装を行う。
【解決手段】水平な公転軸(7c)により鉛直面内で回転可能であり、その面上で外周部(7b)に回転可能な複数の保持部(7a)を有するターンテーブル(7)と、水平な自転軸(3a)により単独で回転可能に保持部(7a)に装着されかつピストンリング(1)を支持する取付台(3)と、取付台(3)に支持されかつ回転するピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を加熱する加熱装置(12)と、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に塗料(5)を塗布する塗装装置(13)とをピストンリング側面塗装装置に設ける。水平な自転軸(3a)を回転させピストンリング(1)を自転して、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱すると共に、加熱された側面(1a, 1b)にほぼ同時に塗料(5)を塗布するので、側面(1a, 1b)への加熱と塗装とを連続的かつ自動的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンリングの側面に耐熱性樹脂を塗装して、耐熱性皮膜を形成する塗装装置及び塗装法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼室内で燃料の爆発によりピストンの往復動を反復させる内燃機関では、ピストンの往復動に伴い、ピストンリングは、ピストンリングを装着するピストンのリング溝の内面に繰り返し衝突する。また、内燃機関の稼動中、周方向に回転するピストンリングの側面は、リング溝の内面上を摺動する。燃料の爆発により、ガソリンエンジンのトップリング及びリング溝は、250℃近くの温度に加熱され、ディーゼルエンジンでは更に高温に加熱される。アルミニウム合金製のピストンでは、高温下でピストンリングがリング溝の表面に衝突すると、ピストンの表面の一部が疲労破壊し、表面剥離を生じてアルミニウム合金の金属小片が剥離する。剥離する金属小片は、ピストンリングとリング溝との間に脱落し、叩かれ若しくは摩擦を受けて又は金属小片の剥離により出現するアルミニウム合金の新生表面には、更にピストンリングの側面による衝突及び摩擦を受けて、アルミニウム合金がピストンリング側面に移着する現象(マイグレーション)が起こる。これを「アルミニウム凝着」と呼ぶ。アルミニウム凝着が進行すると、ピストンリング自体がリング溝に固着して、ピストンリングの気密性能が損なわれ、高圧の燃焼ガスが燃焼室からクランク室へ流出する所謂「ブローバイ」と云われる現象が起こり、エンジン出力の低下を招く。また、ブローバイガスによりオイルの燃焼及びスラッジ化の弊害が生じ、オイルリング本来の動きが束縛され、オイルリングの気密機能も低下又は喪失するため、オイル消費量が増大する難点を招く。ピストンリングの固着にまで至らなくても、アルミニウム凝着によるピストンリング側面の盛り上がり又はリング溝の荒れにより、やはりピストンリングの側面とリング溝表面との間の気密性が損なわれ、ブローバイの増加を招来する。
【0003】
アルミニウム凝着を防止するために、アルミニウム合金のピストン材とピストンリングとの直接接触を防止する方法が従来から多数提案されている。例えば、下記特許文献1は、リング溝の表面に陽極酸化処理(アルマイト処理)を施して酸化皮膜を形成し、更に酸化皮膜の微細孔中に潤滑性物質を充填する方法を開示する。アルマイト処理によりリング溝の表面に形成される酸化アルミニウムを主成分とする硬質の酸化皮膜は、アルミニウム粉の脱落を防止し、ピストンリングの凝着を阻止する。しかしながら、リング溝にアルマイト処理を施す技術は、大型の設備と高い製造コストとを要し、また、リング溝の作製時に形成されるリング溝に加工傷が発生し、加工傷の上に硬質のアルマイト皮膜が形成されるため、アルマイト表面が粗く、ピストンリングの接触面の気密性が低下し、初期ブローバイ量が増大する難点がある。
【0004】
そこで、下記特許文献2及び3は、皮膜を形成するピストンリングを示す。特許文献2では、ピストンリングの側面にリン酸塩皮膜又は四三酸化鉄皮膜を形成し、その上に二硫化モリブデン、黒鉛、炭素、窒化ホウ素等の固体潤滑材を分散させた四フッ化エチレン樹脂又はオキシベンゾイルポリエステル樹脂等の耐熱・耐摩耗性樹脂皮膜が形成される。特許文献3では、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリイミド等の耐熱樹脂中に二硫化モリブデン等の固体潤滑材を分散させた皮膜がピストンリングの側面に形成される。前記ピストンリングに形成される皮膜は、固体潤滑材自らが劈開して、リング溝とピストンリングの側面との間に発生するアルミニウム凝着を防止する作用がある。前記樹脂皮膜は、樹脂皮膜成分を溶剤に溶解した溶液中に固体潤滑材を混合して作成される塗料をピストンリングの側面に塗布し、その後溶剤を蒸発乾燥し、皮膜を焼成する簡便かつ容易な方法により形成できるため、ピストンリングのアルミニウム凝着対策として専ら使われる。
【0005】
しかしながら、ピストンリングの円環状の塗装面を水平に配置しスプレーガンを水平に移動して塗装する場合に、従来の塗装法では材料歩留まり又は生産性の低下による高コストを招来するため、前記塗装法を改善するピストンリングの塗装法又は塗装装置の更なる改善案が提案されている。
【0006】
下記特許文献4は、円筒状の塗装治具の外周に軸方向に等間隔をおいて複数のピストンリングを固定し、塗装治具と共にピストンリングを予熱した後、塗装工程では治具を軸中心に回転させ、回転軸に平行に移動する一対の塗装ガンによってピストンリングの両側面へ同時に塗装するピストンリングの新たな塗装法、塗装装置及び塗装治具を開示し、上記課題を解決するものである。この塗装法では、円筒状治具の外周に塗料吸収シートを介在させて、円筒状治具外周面に塗料の付着を防止できるため、円筒状治具を繰り返し使用できるうえ、シートが塗料を吸収するので、ピストンリングの内周部への塗料バリの付着を防止できる等の利点がある。また、この塗装法では、ピストンリングの両側面を同時に塗装できる利点があるが、整列治具にピストンリングを並べる治具詰めに多くの工数を必要とする難点がある。また、自由状態のピストンリングは、真円を形成しないため、整列治具とピストンリングとの間に塗料吸収用の紙シートを介在させても、シートの表面とピストンリングの内周面との間に必ず隙間が形成されるため、塗料バリの発生を防止することができない。また、予熱後、円筒状治具の一方向から塗料の塗布を開始するため、塗装の開始時と終了時とでは塗料を塗布するピストンリングに温度差が生じ、塗装終了時にピストンリングの温度が低いと、ピストンリングの回転により外周方向に塗料が流れて、塗膜の膜厚が不均一になるおそれがある。逆に、塗装開始時にピストンリングの温度が高過ぎると、塗膜の密着性が損なわれることもある。角度を付けて形成されるピストンリングの外周摺動面側から塗料を吹き付けるため、従来法に比べて塗料が不均一に乗る傾向がある。
【0007】
下記特許文献5は、静電塗装機を用い固体潤滑材入りの有機樹脂皮膜を形成するピストンリングを開示する。特許文献5に開示される静電塗装法では、従来に比べて、塗料の無駄が少なくかつ膜厚の均一性に優れると考えられる。しかしながら、静電塗装の可能な塗料がピストンリングのアルミニウム凝着を防止する性能を発揮するとは限らず、塗膜の不要なピストンリングの外周摺動面又は内周摺動面にも、ピストンリングの側面と同様の厚さで塗装される難点もある。
【0008】
下記特許文献6及び7は、回転可能なターンテーブルと、ターンテーブルの回転とは別に、ターンテーブル上に回転可能に設けられた複数のワーク用回転台と、ワークに塗料を吹き付ける吹き付け機構と、ターンテーブルの外側に設けられた吹き付け機構と、吹き付け機構の回転方向前後に設けられた予熱用及び後加熱用の加熱部とを備える塗装装置を開示する。この塗装装置によりピストンリングを塗装するとき、前ステージで高周波誘導加熱装置によりピストンリングを予熱した後、ターンテーブルを回転させて、塗料吹き付け機構を備えたステージで塗装が行われる。特許文献6及び7の塗装装置は、塗装直前に各ピストンリングを別個に予熱するので、特許文献4のように、最初に塗装するピストンリングと最後に塗装するピストンリングに温度差が発生する問題を解消でき、塗装ガンの塗料噴霧可能な範囲内で一定の回転速度で塗装できるため、塗膜の密着性不良及び不均一な塗膜厚を抑制できると考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−170546号公報
【特許文献2】実開昭60−82552号公報
【特許文献3】特開昭62−233458号公報
【特許文献4】特開平7−119834号公報
【特許文献5】特開平9−317887号公報
【特許文献6】特開平10−328603号公報
【特許文献7】特開平11−253849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献6及び7に開示される塗装装置では、ターンテーブルを用い、塗料塗布の前ステージに予熱機構を必要とするため、ターンテーブルの回転中又は塗装中に、小径で肉薄の熱容量の小さいピストンリングの温度が低下するので、塗料流れが発生する可能性が高い。この場合に、ピストンリングの温度低下を防止するため、ピストンリングの予熱温度を上昇すると、ピストンリングの外周面に被着した硬質クロムめっき皮膜に硬度低下を生ずる可能性がある。塗装開始時の被塗装物の下地温度が高過ぎると、一般的に塗膜の密着性が低下するため、予熱温度を一概に高くすることはできない。その上、気温によるピストンリングの温度変化等も考慮すると、空調設備に費用が嵩む問題がある。更に、ピストンリングの両側面を塗装するには、塗装装置を2回用いる必要があり、生産性が低下する難点もある。
【0011】
本発明は、自動操作によりピストンリングの側面に塗装を行う生産性に優れる塗装装置及び塗装法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、ピストンリングの側面に制御された厚さで塗膜を形成できる塗装装置及び塗装法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、皮膜の密着性及び歩留まりに優れると共に、均一な膜厚でピストンリングの側面に塗装できる塗装装置及び塗装法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のピストンリング側面塗装装置は、外周部(7b)に回転可能な複数の保持部(7a)を有しかつ水平な公転軸(7c)の周りに鉛直面内で回転可能なターンテーブル(7)と、水平な自転軸(3a)の周りに単独で回転可能に保持部(7a)に装着されかつピストンリング(1)を支持する取付台(3)と、取付台(3)に支持されかつ回転するピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を加熱する加熱装置(12)と、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に塗料(5)を塗布する塗装装置(13)とを備える。水平な自転軸(3a)を回転させピストンリング(1)を自転して、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱すると共に、加熱された側面(1a, 1b)にほぼ同時に塗料(5)を塗布するので、側面(1a, 1b)への加熱と塗装とを連続的かつ自動的に行うことができる。従って、最適な温度に加熱されたピストンリング(1)の側面(1a, 1b)に確実に塗料(5)を塗布できるので、ピストンリング(1)の側面に塗膜が強固に付着して、良好な密着性と改善された歩留まりが得られる。また、ピストンリング(1)の温度低下による塗料流れ又は不均一温度による塗膜厚さのバラツキを抑制できるので、膜厚及び外観の点で良好な塗膜品質が得られる。ターンテーブルと共に公転する保持部(7a)に取付台(3)を取り付けると共に、ピストンリング(1)を自転可能な取付台(3)に取り付けて、ターンテーブル(7)を公転させることにより、ピストンリング(1)の加熱と塗装とを同一のステージで行うことができるので、生産性に優れる。また、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を同時に加熱して塗装できるため、高周波電源等の設備費を安価に抑制できる利点がある。
【0015】
また、「加熱装置」は、原理、作用及び構造の如何を問わず、ピストンリングの側面を直接又は間接的に、接触して又は非接触に加熱して、温度を上昇させる装置であり、高周波誘導加熱装置の加熱用コイル、赤外線加熱装置のランプ等使用可能な全ての加熱手段を含む。「塗装装置」は、ピストンリングの側面に塗料(5)を塗布する装置であって、噴霧装置、ブラシ等使用可能な従来の全ての塗装手段を含む。
【0016】
本発明のピストンリング側面塗装法は、水平な公転軸(7c)を有しかつ鉛直に配置されるターンテーブル(7)に設けられる保持部(7a)に取付台(3)を配置し、取付台(3)にピストンリング(1)を鉛直に装着する工程と、公転軸(7c)の周りに取付台(3)と共にターンテーブル(7)を鉛直面上で公転させて、取付台(3)を加熱装置(12)及び塗装装置(13)に接近させる工程と、取付台(3)と共にピストンリング(1)を回転軸(3a)の周りに自転させながら、加熱装置(12)によりピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を加熱して、塗装装置(13)により塗料(5)を側面(1a,1b)に塗布する工程と、公転軸(7c)の周りで取付台(3)と共にターンテーブル(7)を鉛直面上で公転させて、取付台(3)をリング除去装置(14)に接近させると共に、取付台(3)の自転を停止する工程と、リング除去装置(14)により取付台(3)からピストンリング(1)を除去する工程とを含む。本発明のピストンリング側面塗装法では、取付台(3)にピストンリング(1)を装着する工程からリング除去装置(14)により取付台(3)からピストンリング(1)を除去する工程までを連続的かつ自動的に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のピストンリング側面の塗装装置及び塗装法では、下記の作用及び効果が得られる。
<1> 加熱塗装装置により回転するピストンリングの側面を加熱すると同時に、側面への塗装を行えるので、強固な密着性、均一な膜厚さ及び初期の塗膜品質を有する塗膜を側面に形成することができる。
<2> 蒸発開始温度の高い塗料を塗装する場合でも、ピストンリングを高速で回転しながら熱容量の小さいピストンリングの側面を継続的に加熱しかつその温度低下を抑制しつつ、側面での外周摺動面への塗料の流れを防止しかつ側面の周方向に均一な厚さの塗膜を形成できる。
<3> ピストンリングの側面の温度低下を抑制できるので、1回の処理で塗膜の厚膜化が可能である。
<4> ピストンリングの側面に連続的かつ自動的に塗装を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明によるピストンリング側面塗装装置及び塗装法の最良の実施の形態を図1〜図4について具体的に説明する。
【0019】
図3に示すように、本発明のピストンリング側面の塗装装置及び塗装法により形成されるピストンリング(1)は、例えば、上面と下面とからなる一対の側面(1a, 1b)と、ピストンに形成されるリング溝内の内面に対向する内周面(1d)と、図示しないシリンダの内壁に摺動接触するバレル面を形成する外周面(1c)とを有する。側面(1a, 1b)には、樹脂材料の塗布によりポリアミドイミド樹脂皮膜(2a, 2b)がそれぞれ形成される。
【0020】
図1の側面図に示す本発明のピストンリング側面塗装装置の実施の形態は、複数の保持部(7a)が設けられる外周部(7b)を備えかつ垂直に配置されるターンテーブル(インデックスターンテーブル)(7)と、ターンテーブル(7)に設けられる複数の保持部(7a)に各々に単独で独立して回転可能に装着された回転軸(3a)に取り付けられたピストンリング(1)を垂直に支持する取付台(3)と、取付台(3)に支持されかつ回転するピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱すると同時に、対応する側面(1a, 1b)に塗料(5)を塗布する加熱塗装装置(11)とを備える。
【0021】
図1及び図2に示すように、ターンテーブル(7)は、水平に配置される公転軸(7c)と、公転軸(7c)から径方向外側に延伸する放射状に形成される6本のアーム(7d)と、各アーム(7d)の外周部(7b)に設けられる保持部(7a)とを備える。ターンテーブル(7)は、図示しない軸受装置により垂直に配置される水平に配置される公転軸(7c)の周りで垂直面上に回転可能に支持されるので、縦型のピストンリング側面塗装装置となる。また、公転軸(7c)は、図示しない押圧ローラ等の動力伝達装置を介してサーボモータ、ステッピングモータ等の電動モータ又は空動モータ等の機械作動モータにより正確な回転角度と回転速度で回転される。必要に応じてロータリエンコーダを前記モータに設けて公転軸(7c)の回転角度位置及び回転速度を検出しかつ制御してもよい。ターンテーブル(7)のアーム(7d)は、一定の角度間隔で公転軸(7c)から径方向外側に延伸する。ターンテーブル(7)は、公転軸(7c)に連結される図示しない公転用モータにより、水平面上で反時計方向に回転される。
【0022】
図2に示すように、保持部(7a)に垂直面上で単独で回転可能に装着される取付台(3)は、保持部(7a)に回転可能にかつ水平に支持される自転軸(3a)と、自転軸(3a)の一端に設けられるヘッダ(3b)と、ヘッダ(3b)から径方向外側に延伸してヘッダ(3b)に取り付けられかつピストンリング(1)の内周面(1d)を着脱自在に装着できる3本のスポーク(3c)とを備える。自転軸(3a)は、保持部(7a)に取り付けられる図示しないサーボモータ、ステッピングモータ等の電動モータ又は空動モータ等の機械作動モータにより正確な回転角度と回転速度で回転される。必要に応じてロータリエンコーダを前記モータに設けて自転軸(3a)の回転角度位置及び回転速度を検出しかつ制御してもよい。例えば、ゴムローラ等の押圧ローラを介して保持部(7a)に回転力を付与する自転用モータ(7e)を設けることもできる。取付台(3)は、ヘッダ(3b)を介して保持部(7)の自転軸(3a)に取り付けられるが、自転軸(3a)は、図示しない軸受により回転可能に保持され、自転軸(3a)の他端に取り付けられるゴムローラは、自転用モータ(7e)に取り付けられるゴムローラに回動可能に接触する。
【0023】
取付台(3)のスポーク(3d)の外端部に同心状にピストンリング(1)を装着し、取付台(3)及びピストンリング(1)は、高速で回転される。図示しないが、ピストンリング(1)を取付台(3)に装着するとき、ピストンリング(1)の弾力に抗してピストンリング(1)を径方向外側に拡張し、ピストンリング(1)の内周面(1d)を各スポーク(3c)のV字形状の外端部に当接させて、ピストンリング(1)自身の弾力性によりピストンリング(1)を取付台(3)上に支持することができる。スポーク(3c)は、2〜4本が必要であるが、切欠部(「合い口部」という)が設けられかつ自由状態ではカム形状を形成するピストンリング(1)の内周面(1d)の極力中心にスポーク(3c)の中心を配置するには、スポーク(3c)は、約120度の角度間隔で設けられる3本が好ましい。また、隣り合うスポーク(3c)が形成する120度の角度のほぼ中間に合い口部を配置して、ピストンリング(1)を取付台(3)に取り付けることが望ましい。
【0024】
図1に示すように、ターンテーブル(7)は、リング装着装置(10)によりピストンリング(1)が装着された取付台(3)とピストンリング(1)が除去された取付台(3)を着脱する装着ステージ(20)と、加熱装置(12)、塗装装置(13)によりピストンリング(1)を加熱しかつピストンリング(1)に塗料(5)を塗布する加熱塗装ステージ(21)と、リング除去装置(14)により塗装済のピストンリング(1)を取付台(3)から取り外す除去ステージ(22)と、ピストンリング(1)が除去された取付台(3)を洗浄装置(15)により洗浄する洗浄ステージ(23)との5つの作業ステージを有する。本明細書では、「ステージ」は、ターンテーブルの公転を一旦停止させてピストンリングに必要な作業を行う作業ステーションであり、各作業ステージでは、ピストンリングを取り付け、加熱塗装し、除去する位置をそれぞれリング装着ステージ、加熱塗装ステージ、除去ステージと呼ぶ。対応する各装置を備える「作業ステージ」は、取付台(3)又はピストンリング(1)の装着、ピストンリング(1)への加熱と塗料(5)の塗布、ピストンリング(1)の除去を実際に行う領域を意味し、各作業ステージでは、対応する処理をピストンリング(1)に行うため、必要に応じて、ターンテーブル(7)の回転を停止又は減速し、設定時間が経過した後に正確に各ステージ(20〜23)を順次巡回するように、ターンテーブル(7)が制御される。
【0025】
図1に示す塗装装置は、装着ステージ(20)の前段には、装置外部から未塗装のピストンリング(1)の供給を受け、ピストンリング(1)を取付台に装着するリング装着装置(10)及びリング装着装置(10)に搬入するリング供給装置(9)が設けられる。リング供給装置(9)は、搬送コンベア(9a)を駆動して、リング装着装置(10)に未塗装のピストンリング(1)を搬送する。リング装着装置(10)は、リング供給装置(9)から供給されるピストンリング(1)を取付台(3)に着脱自在に装着すると共に、搬送コンベア(10a)の駆動によりピストンリング(1)が装着された取付台(3)を垂直面上で単独で回転可能にターンテーブル(7)の保持部(7a)の回転軸(3a)にヘッド(3C)を介して装着する。
【0026】
加熱塗装ステージ(21)の後段には、除去ステージ(22)が設けられ、除去ステージ(22)は、塗装済のピストンリング(1)を取付台(3)から取り外すと共に、搬送コンベア(14a)の駆動により塗装済のピストンリング(1)を装置外部へ搬出するリング除去装置(14)が設けられる。また、除去ステージ(22)の後段に設けられる洗浄ステージ(23)には、除去ステージ(22)にてピストンリング(1)が除去された取付台(3)を洗浄する洗浄装置(15)が設けられる。洗浄ステージ(23)で洗浄される取付台(3)は、装着ステージ(20)でターンテーブル(7)の保持部(7a)から取り外されて、リング装着装置(10)に再び移動される。
【0027】
図2に示すように、加熱塗装ステージ(21)には、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱する加熱装置(12)と、ピストンリング(1)の前方及び後方にそれぞれ配置されてピストンリング(1)の対応する側面(1a, 1b)の温度を測定する一対の温度センサ(8)と、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)が所定の温度に加熱されたときに、側面(1a, 1b)に塗料(5)を噴霧する塗装装置(13)が設けられる。加熱装置(12)は、高周波誘導加熱装置を構成する加熱板(12a)を有し、加熱板(12a)の間に形成される間隙(13b)内に回転するピストンリング(1)の円周の一部が配置される。各温度センサ(8)は、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)の温度を検出する放射温度計センサであるが、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を一定時間加熱した後に塗装する場合には、温度センサ(8)を省略してもよい。
【0028】
図2に示すように、加熱塗装ステージ(21)の塗装装置(13)は、ピストンリング(1)の一方の側面(1a)に塗料(5)を噴霧し付着させる第1のスプレイ(13a)と、ピストンリング(1)の他方の側面(1b)に塗料(5)を噴霧し付着させる第2のスプレイ(13b)とを備える。取り付ける場所が相違するが、第1のスプレイ(13a)と第2のスプレイ(13b)は、基本的に同一の構成を有する。塗料タンク(4)から供給される塗料(5)に高圧空気を混合してノズル装置(6)から霧状の塗料(5)を噴出するスプレイを塗装装置(13)に用いると、ピストンリング(1)のほぼ中心に配置される自転軸(3a)の周りにピストンリング(1)を回転させながら、回転するピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)の相対する位置からピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に向けて塗料(5)を噴霧することができる。従って、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)以外の無駄な表面又は空間に噴霧する割合が減少して、塗料の無駄を低減できる。また、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に対し、ほぼ垂直な方向から塗布できるので、ピストンリング(1)の外周面(1c)及び内周面(1d)の塗膜付着量を抑制することができる。
【0029】
図2に示す実施の形態では、保持部(7a)内で取付台(3)と共に自転軸(3a)の周りに時計方向に回転、即ち自転可能にピストンリング(1)を取付台(3)に装着し、加熱装置(12)の加熱板(12a)により加熱されるピストンリング(1)の側面(1a, 1b)の温度を温度センサ(8)により測定し、温度センサ(8)が、所定の温度に側面(1a, 1b)が加熱されたことを検出したとき又は側面(1a, 1b)の加熱開始後一定時間経過したときに、塗装装置(13)の第1のスプレイ(13a)及び第2のスプレイ(13b)により塗料(5)をピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に同時に又は時間差をもって塗布することができる。
【0030】
加熱塗装ステージ(21)では、別途実験により求められる加熱条件に従って図示しない制御装置により制御される。高周波誘導加熱を行う加熱塗装装置(11)により、周波数の選定によりピストンリング(1)の側面の極表面のみを加熱できるので、外周摺動面にクロムめっき等の皮膜を形成したピストンリング(1)の側面でも、クロムめっきの硬度が劣化せず、より高い下地温度で塗布を開始でき、塗料(5)の選択の自由度が広くなる。ピストンリング(1)の側面を所定の温度に加熱できれば、加熱装置(12)は、どのような手段でもよいが、生産性の向上及び塗布時のピストンリング(1)の側面の温度低下を抑制するため、継続的にピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱するので、ピストンリング(1)の母材を樹脂で形成するとき、赤外線ヒータ又はハロゲンランプによりピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱することが望ましく、赤外線ヒータやハロゲンランプによる加熱では、ピストンリング(1)の昇温速度を上げる為に集光式ランプが良い。金属材料によりピストンリング(1)の母材を形成するとき、制御の容易な高周波誘導加熱が好ましい。ピストンリング(1)の塗装後に、ピストンリングの冷却時に「塗料流れ」の生じない加熱出力を加熱装置(13)から発生することが必要である。本発明では、蒸発開始温度の高い塗料を塗装する場合でも、熱容量の少ないピストンリング(1)を継続的に加熱しかつピストンリング(1)を高速で回転しながら、ピストンリング(1)の温度低下を抑制して、ピストンリング(1)の外周面(1c)への塗料の流れを防止しかつピストンリングの周方向に均一な厚さの塗膜を形成できる。また、ピストンリング(1)の温度低下を抑制できるので、1回の処理で塗膜の厚膜化が可能である。この場合、塗装終了時のピストンリング(1)の温度が塗装開始時のピストンリング(1)の温度以上に昇温することが望ましい。塗膜の密着性は、塗布開始時のピストンリング(1)の下地温度で決まり、塗膜の硬度は到達温度で決まるから、塗膜形成後に樹脂皮膜を硬化する焼成等を行う場合は、寧ろ焼成温度以下で樹脂皮膜が硬化する温度に上がるように加熱装置(12)の出力を設定して、取り扱いを容易にすることが望ましい。外周面に硬質クロムめっき等の耐摩耗性皮膜を形成する場合は、耐摩耗性皮膜の硬度に影響しない温度以下に加熱する。本実施の形態では、生産性の観点から、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)が0.2〜3秒で40〜60℃まで加熱される昇温速度に設定すると良い。但し、ピストンリング(1)の昇温速度は、ピストンリング(1)の大きさ又は加熱開始時の温度により異なるから、各ピストンリング(1)に適合する加熱装置(12)で出力を予め求める必要がある。
【0031】
このように、加熱装置(12)の加熱板(12a)によりピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱する直後又は加熱中に、一定の最適な温度範囲内にあるピストンリング(1)の側面(1a, 1b)に塗装装置(13)による塗装を開始しかつ終了できるので、強固な密着性、均一な膜厚さ及び初期の塗膜品質を有する塗膜を形成することができる。加熱条件と同様に、予め実験により求められる噴霧条件及び噴霧開始のタイミング等に従い図示しない制御装置により、塗装装置(13)が制御される。温度センサ(8)によりピストンリング(1)の各側面(1a, 1b)からの放射温度を検出し、その検出信号に基づいて塗装装置(13)から塗料(5)を噴霧すれば、皮膜の密着性や外観を改善しかつ不均一な膜厚を減少できる。
【0032】
加熱装置(12)による予め定められた予熱時間の経過時に又は温度センサ(8)により温度を測定して、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)が予め定められた温度に加熱されたとき、第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)による塗料(5)の塗布を開始する。本実施の形態では、ピストンリング(1)が若干偏芯して回転するため、第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)が最適であるが、偏芯を補償する装置であれば、ハケ等で塗料を塗布してもよい。下地用皮膜を設けないと密着性が劣る塗膜を形成するとき、ピストンリング(1)の各側面(1a, 1b)に対向する第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)の各々に2つの噴霧ノズルを設け、一方の噴霧ノズルを下地皮膜形成に使用すれば、全塗膜を密着性よく塗装することができる。
【0033】
本発明の実施の形態に使用するピストンリング(1)は、鋳鉄、鋼、ステンレス鋼、チタン合金、アルミ合金を含む金属系素材が多く用いられるが、本発明の塗装装置及び塗装法に用いられるピストンリングはそれらに限定されない。しかしながら、ピストンリング(1)の回転時の塗料流れを防止するには、ピストンリング(1)の側面を約40〜60℃以上に加熱する必要がある。
【0034】
塗膜(2a, 2b)の密着性を増加するには、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に予め化成処理皮膜を形成すると良い。鉄鋼材料では、リン酸塩処理やシュウ酸塩処理が効果的である。クロム含有率の高いステンレス鋼では、予め窒化処理すると、化成処理皮膜が形成され易い。未窒化処理の側面には黒染め処理を使用できる。チタン製又はアルミニウム合金製のピストンリングでは、陽極酸化処理が望ましい。しかしながら、塗膜(2a, 2b)の密着性が幾分低下しても、ピストンリングの使用に際して不具合でなければ下地処理を設けなくても有効である。
【0035】
塗膜(2a, 2b)の硬化後に形成される樹脂皮膜は、ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)又はポリイミド、ポリアミドイミドのSiOハイブリッド樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂又はこれらを少なくとも一種類含む混合物又は複合物に従来から用いられる固体潤滑剤、硬質粒子若しくはカーボンブラック等の少なくとも一種類の粒子を分散させた樹脂を含む従来から耐アルミニウム凝着防止に用いられる樹脂皮膜を用いることができる。この場合も、予め塗装実験を行い、塗布開始温度等を決める必要がある。
【0036】
図1及び図2に示すピストンリング側面塗装装置を使用して、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を塗装する際に、まず、搬送コンベア(10a)を駆動してピストンリング(1)をリング装着装置(10)に送る。リング装着装置(10)はピストンリング(1)の内周面(1d)を3本のスポーク(3c)のV字形状の先端部に当接させて、ピストンリング(1)を取付台(3)に着脱自在に装着する。次に、装着ステージ20で装着ステージ(20)に有る保持部(7a)の回転軸(3a)にリング装着装置(10)に有るピストンリングが装着される取付台(3)を、ヘッド(3d)を介して取り付ける。ピストンリング(1)の取付台(3)への装着作業及びターンテーブル(7)の保持部(7a)への取付台(3)の装着作業は、リング装着装置(10)により全て自動的に行われる。ピストンリング(1)を装着した取付台(3)を保持部(7a)の回転軸(3a)に装着した後、ターンテーブル(7)を回転し、装着ステージ(20)から加熱塗装ステージ(21)にピストンリング(1)を回転台(3)、保持部(7a)ごと搬送する。加熱塗装ステージ(21)では、保持部(7a)の自転軸(3a)の他端に設けられる図示しないゴムローラがターンテーブル(7)の裏側に設けられる自転用モータ(7e)のシャフトに連結されたゴムローラに回転可能に接触し、ピストンリング(1)は自転する。
【0037】
加熱塗装ステージ(21)では、自転用モータ(7e)の駆動により取付台(3)と共にピストンリング(1)を自転させながら、加熱装置(12)の加熱板(12a)によりピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を同時に又は時間差をもって均一に加熱する。そのとき、一対の温度センサ(8)は、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)の温度を測定して、側面(1a, 1b)が所定の温度に加熱されたとき温度センサ(8)が出力信号を発生し又は加熱開始後一定時間経過したときに、塗装装置(13)は、取付台(3)上で加熱されたピストンリング(1)の一方の側面(1a)及び他方の側面(1b)に塗料(5)を付着させる。
【0038】
第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)による塗装の終了後に、ターンテーブル(7)を回転して、加熱塗装ステージ(21)から除去ステージ(22)にピストンリング(1)を回転台(3)、保持部(7a)ごと搬送して、両側面(1a, 1b)を塗装したピストンリング(1)をリング除去装置(14)により取付台(3)から取り外し、搬送コンベア(14a)を駆動してリング除去装置(14)を矢印方向に移動させ、塗装済のピストンリング(1)を装置外部へ搬出する。その後、ターンテーブル(7)を回転して、塗装済のピストンリング(1)が取り外された取付台(3)を除去ステージ(22)から洗浄ステージ(23)に搬送し、自転用モータ(7e)の駆動により取付台(3)を回転しながら、洗浄装置(15)により取付台(3)を洗浄する。従って、本発明では、ピストンリング(1)の側面に連続的かつ自動的に塗装を行うことができる。また、加熱塗装ステージ(21)の各々での塗装条件を個別に設定して、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)に対する塗膜の厚さ及び種類を自由に組み合わせることができる。片面にのみ塗装が必要ない場合でも、本発明の塗装装置を使用できる。同一の重力の影響の下でピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に同時に又は時間差をもって逆方向から塗布するので、図3に示すように同品質の塗膜(2a, 2b)を形成することができる。従って、最適な温度に加熱されたピストンリング(1)の側面(1a, 1b)に確実に塗料(5)を塗布でき、ピストンリング(1)の表面に塗膜が強固に付着して、良好な密着性と改善された歩留まりが得られる。また、ピストンリング(1)の温度低下による塗料流れ又は不均一温度による塗膜厚さのバラツキを抑制できるので、膜厚及び外観の点で良好な塗膜品質が得られる。自転可能にピストンリング(1)を取付台(3)に取り付けると共に、公転可能に取付台(3)をターンテーブル(7)の保持部(7a)に取り付けて、取付台(3)をターンテーブル(7)上で公転させ、ピストンリング(1)の加熱塗装を連続的に行うことができる。
【0039】
一般的な塗装では、被塗装物の予熱温度が高過ぎると、その下地上で溶剤の気化が瞬時に発生し、塗膜の密着性が低下する。また、塗膜の内部に発生する気泡が増加して、多孔質な塗膜や表面粗さの悪い塗膜が形成される。更に、発火の危険性もあるため、あまり予熱を行わない。加熱装置(12)と塗装装置(13)とを加熱塗装装置(11)を構成するハウジング(図示せず)内に設けると、高周波加熱出力の調整により予熱開始から塗布開始までのピストンリング(1)の温度をほぼ一定に保持して、所期の効果を得ることができる。また、温度センサ(8)によりピストンリング(1)の側面(1a, 1b)の温度を測定し、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)が所定の温度に達したとき温度センサ(8)の出力信号により又は加熱開始後一定時間経過時に、塗布を開始すれば、塗布開始時のピストンリング(1)の温度を一層一定の範囲に保持して、塗装皮膜の密着性のバラツキを低減することができる。温度センサ(8)の測温値は、ピストンリング(1)の合い口部が通過する際に、瞬間的に低下するため、ピストンリング(1)の合い口部が温度センサ(8)の測定箇所を通過する際に正確なピストンリング(1)の温度が表示されないから、温度センサ(8)による加熱塗装装置(11)の出力制御を行わない。温度センサ(8)が測温する温度に基づいて塗布を開始するとき、合い口部の測温値を除く平均温度が予め設定した塗装開始の温度(望ましくは40〜60℃)に達したとき、塗装を開始するとよい。また、予め定められた予熱時間に基づいて塗布を開始するとき、予熱前のピストンリング(1)の温度により到達温度が異なるから、ピストンリング(1)の温度を変えて予熱実験を予め行い、ピストンリング(1)が塗装開始時に最適な温度(望ましくは40〜60℃)となる予熱条件、即ち加熱塗装装置(11)の出力と予熱時間を予め求める必要がある。
【0040】
本発明のピストンリング側面塗装法では、加熱塗布ステージ(21)を設けて、ターンテーブル(7)を常に一定の方向、例えば反時計方向に連続的に回転して、ピストンリング(1)の側面(1a, 1b)の塗装を行うことが効率的である。
【0041】
塗装装置(13)は、ピストンリング(1)の各側面(1a, 1b)に向かって水平に噴霧するノズル装置(6)を有するスプレイが使用される。このように、加熱装置(12)によりピストンリング(1)の側面(1a, 1b)を加熱した直後に、最適な一定範囲内の表面温度を有するピストンリング(1)に塗装装置(13)により塗装を開始しかつ終了できるので、強固な密着性、均一な膜厚さ及び初期の塗膜品質を有する塗膜を形成することができる。加熱条件と同様に、予め実験により求められる噴霧条件及び噴霧開始のタイミング等に従い図示しない制御装置により、塗装装置(13)が制御される。温度センサ(8)によりピストンリング(1)の各側面(1a, 1b)からの放射温度を検出し、その検出信号に基づいて塗装装置(13)から塗料(5)を噴霧すれば、皮膜の密着性や外観を改善しかつ不均一な膜厚を減少できる。
【0042】
図4は、円板状のターンテーブル(7)の外周部(7b)に直接回転台(3)を設けた他の縦型のピストンリング側面塗装装置の例を示す。図1と図4では、各作業ステージ(20〜23)の互いに逆の配置順序になるため、ターンテーブル(7)の回転方向も互いに逆となる。
【0043】
図4に示すピストンリング側面塗装装置では、垂直に配置されるターンテーブル(7)が時計方向に回転し、取付台(3)にピストンリング(1)を装着する装着ステージ(20)と、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を加熱してこれらに塗料(5)を噴霧し付着させる加熱塗装ステージ(21)と、取付台(3)からピストンリング(1)を取り外す除去ステージ(22)と、取付台(3)のスポーク(3c)の先端を洗浄する洗浄ステージ(23)と、2つの予備ステージの合計6つの作業ステージがターンテーブル(7)に設けられる。設定時間の経過後に正確に各作業ステージ(20〜23)を順次巡回するようにターンテーブル(7)が制御される。
【0044】
図4に示すピストンリング側面塗装装置に設けられる加熱塗装ステージ(21)は、単一の加熱装置(11)と、第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)を備える塗装装置(13)を有する。第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)は、図4に示すように、ピストンリング(1)の各側面(1a, 1b)に対して直角に配置され、水平に塗料(5)を噴霧するように設置される。相手方の噴霧による影響を回避するため、ピストンリング(1)の各側面(1a, 1b)に対して第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)を互いに対向しかつ垂直方向及び水平方向に変位して設置される。また、図示しないが、第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)の各ノズル装置(6)のピストンリング(1)に対する噴霧方向の反対側には、噴霧塗料(5)を吸引する捕集装置の吸入口が設置される。図4に示すように、図1に示す実施の形態と同様に、高周波誘導加熱を行う加熱装置(12)は、回転するピストンリング(1)の円弧の一部が通過する間隙(13b)を形成して、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に対向して配置される一対の加熱板(12a)を有する。別途実験により求めた加熱塗装装置(11)の加熱条件及び第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)の噴霧条件及び噴霧開始のタイミングに従って、図示しない制御装置により第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)の動作が制御される。このとき、温度センサ(8)によりピストンリング(1)の各側面(1a, 1b)からの放射温度を検出し、温度センサ(8)の検出信号に基づいて第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)から塗料(5)を噴霧すれば、ほぼ均一の膜厚で強固な密着性と良好な外観を有する皮膜を形成できる。
【0045】
図4に示す塗装装置を使用してピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に塗装を行う際に、まず、装着ステージ(20)にてピストンリング(1)の内周面(1d)を3本のスポーク(3c)のV字形状の先端部に当接させて、ピストンリング(1)を取付台(3)に装着する。単一の加熱塗装ステージ(21)でピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に塗料(5)を塗布するため、図4に示す塗装装置では、ターンテーブル(7)の保持部(7a)に回転可能に取付台(3)が固定される。ピストンリング(1)の取付台(3)への装着は、図1の実施の形態と同様に、リング装着装置(10)により全自動で行われる。ピストンリング(1)を取付台(3)に装着した後、ターンテーブル(7)を時計方向に回転し、装着ステージ(20)から加熱塗装ステージ(21)に取付台(3)を搬送する。加熱塗装ステージ(21)では、取付台(3)の自転軸(3a)の他端に取り付けられた円板が駆動ベルトに作動連結されて回転される。駆動ベルトを高速で回転させて、ピストンリング(1)を回転させると同時に、加熱塗装装置(11)を稼働させ、一対の加熱板(12a)によりピストンリング(1)を加熱する。加熱開始後に、第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)により塗料タンク(4)から供給される塗料(5)の塗布を開始する。加熱塗装ステージ(21)でのピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)の塗装を終了した後に、ターンテーブル(7)を時計方向に回転させて、両側面(1a, 1b)に塗膜を形成したピストンリング(1)を除去ステージ(22)に搬送し、リング除去装置(14)により取付台(3)からピストンリング(1)を取り外して塗装済のピストンリング(1)を回収する。
【0046】
ピストンリング(1)をターンテーブル上に固定された取付台(3)に直接装着する第2の実施の形態の塗装装置は、第1の実施の形態の塗装装置に比較して更に有効である。一般的に、小径で薄幅になるほど、ピストンリング(1)の自己張力は低減するが、第2の実施の形態の塗装装置では、第1の実施の形態の塗装装置のようにピストンリングの積み変えが無いので、ピストンリング(1)の取付台(3)からの脱落の危険性を減少できる。
【0047】
前記のように、本発明では、最適な温度に加熱されたピストンリング(1)に確実に塗装できるので、ピストンリング(1)の表面に塗膜が強固に付着して、良好な密着性と改善された歩留まりが得られる。また、ピストンリング(1)の温度低下による塗料流れ又は不均一温度による塗膜厚さのバラツキを抑制できるので、膜厚さ及び外観の点で良好な塗膜品質が得られる。更に、加熱塗装装置(11)、温度センサ(8)及び塗装装置(13)を2組設ければ、1回の操作でピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を同時に塗装でき、生産性を向上できる。
【0048】
以上のように、本発明のピストンリング側面塗装装置では、加熱装置(12)、塗装装置(13)及び温度センサ(8)を単一の加熱塗装ステージに設けて、塗装開始時及び塗装中にピストンリング(1)の側面(1a, 1b)の表面温度を制御できるので、全ピストンリング(1)の塗膜(2a, 2b)の品質を改善しかつ膜厚のバラツキも低減することができる。また、図1及び図4に示す縦型のピストンリング側面塗装装置でピストンリング(1)を垂直面内で回転させて、ピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)を同時に塗装できるので、生産性は高い。従って、本発明では、同一アイテムの各ピストンリング(1)を同一条件で塗装できるために、品質のバラツキの少ない塗膜(2a, 2b)を形成することができる。
【実施例】
【0049】
呼称外径87mm、厚さ1.2mm、幅3.1mmの形状を有しかつ外周面摺動面にクロムめっきを施し、側面にはリン酸マンガン下地処理をピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)に行って、予めリン酸マンガン皮膜を形成した軟鋼製のピストンリング(1)を鉛直面内で回転する図4に示す縦型の塗装装置のターンテーブル(7)に装着した。ピストンリング(1)を215rpmで回転させると同時に、加熱塗装装置(11)を稼働させ、一対の加熱板(12a)によりピストンリング(1)を加熱した。加熱を開始してから約1秒後に、第1及び第2のスプレイ(13a, 13b)により塗料タンク(4)から供給される塗料(5)の塗布を開始した。塗布時間は約4秒である。なお、塗布開始時のピストンリング(1)の側面温度は、温度センサ(8)での計測で約48℃であり、塗布終了時のピストンリング(1)の側面温度は約55℃であった。加熱塗装ステージ(21)でのピストンリング(1)の両側面(1a, 1b)の塗装が終了した後に、ターンテーブル(7)を時計方向に回転して、両側面(1a, 1b)に塗装したピストンリング(1)を除去ステージ(22)に搬送し、リング除去装置(14)により取付台(3)からピストンリング(1)を取り外して塗装済のピストンリング(1)を回収した。最長時間を要する加熱塗装ステージ(21)の稼動時間に合わせて回転されるターンテーブル(7)の移動時間は、概ね8秒であった。両側面(1a, 1b)に固体潤滑剤を含有したポリアミドイミド皮膜を形成した約100本のピストンリング(1)について、膜厚、皮膜密着性及び外観を検査したが、如何なる不具合も観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、被塗装物の両面に塗料を塗布する塗装装置に良好に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明によるピストンリング側面塗装装置の第1の実施の形態を示す平面図
【図2】図1の噴霧装置を示す斜視図
【図3】塗装後のピストンリングの断面図
【図4】図1の変更実施の形態を示す正面図
【符号の説明】
【0052】
(1)・・ピストンリング、 (1a)・・一方の側面、 (1b)・・他方の側面、 (1c)・・外周面、 (1d)・・内周面、 (2a, 2b)・・塗膜、 (3)・・取付台、 (3a)・・自転軸、 (3b)・・ヘッダ、 (3c)・・スポーク、 (4)・・塗料タンク、 (5)・・塗料、 (6)・・ノズル装置、 (7)・・ターンテーブル、 (7a)・・保持部、 (7b)・・外周部、 (7c)・・公転軸、 (7d)・・アーム、 (7e)・・自転用モータ、 (8)・・温度センサ、 (9)・・リング搬送装置、 (9a)・・搬送コンベア、 (10)・・リング装着装置、 (10a)・・搬送コンベア、 (11)・・加熱塗装装置、 (12)・・加熱装置、 (12a)・・加熱板、 (12b)・・間隙、 (13)・・噴霧装置、 (13a)・・第1のスプレイ、 (13b)・・第2のスプレイ、 (14)・・リング除去装置、 (14a)・・搬送コンベア、 (15)・・洗浄装置、 (20)・・装着ステージ、 (21)・・加熱塗布ステージ、 (22)・・除去ステージ、 (23)・・洗浄ステージ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に回転可能な複数の保持部を有しかつ水平な公転軸の周りに鉛直面内で回転可能なターンテーブルと、
水平な自転軸の周りに単独で回転可能に保持部に装着されかつピストンリングを支持する取付台と、
取付台に支持されかつ回転するピストンリングの両側面を加熱する加熱装置と、
ピストンリングの両側面に塗料を塗布する塗装装置とを備えることを特徴とするピストンリング側面塗装装置。
【請求項2】
ターンテーブルは、一定の角度間隔で公転軸から径方向外側に延伸する複数のアームと、各アームの外周部に設けられる保持部とを備え、
取付台は、保持部に回転可能にかつ水平に支持される自転軸に着脱自在に取り付けられるヘッダと、ヘッダから径方向外側に延伸してヘッダに取り付けられかつピストンリングを着脱自在に装着できる複数のスポークとを備える請求項1に記載のピストンリング側面塗装装置。
【請求項3】
ターンテーブルは、外周部に保持部を設けて径方向外側に突出する放射状又は円板状に形成され、
取付台は、保持部に回転可能にかつ水平に支持される自転軸に着脱自在に取り付けられるヘッダと、ヘッダから径方向外側に延伸してヘッダに取り付けられかつピストンリングを着脱自在に装着できる複数のスポークとを備える請求項1に記載のピストンリング側面塗装装置。
【請求項4】
ターンテーブルの保持部に取り付けられる取付台上にピストンリングを着脱自在に装着するリング装着装置と、
側面を塗装したピストンリングを取付台から取り外すリング除去装置とを備えた請求項1〜3の何れか1項に記載のピストンリング側面塗装装置。
【請求項5】
加熱装置は、取付台に取り付けられて回転するピストンリングの両側面に隣接して配置されて両側面を加熱する加熱板を有し、
塗装装置は、加熱されかつ回転するピストンリングの対応する各側面に同時に又は時差をもって塗料を吹き付ける第1のスプレイ及び第2のスプレイを有する請求項1〜4の何れか1項に記載のピストンリング側面塗装装置。
【請求項6】
水平な公転軸を有しかつ鉛直に配置されるターンテーブルに設けられる保持部に取付台を配置し、取付台にピストンリングを鉛直に装着する工程と、
公転軸の周りに取付台と共にターンテーブルを鉛直面上で公転させて、取付台を加熱装置及び塗装装置に接近させる工程と、
取付台と共にピストンリングを回転軸の周りに自転させながら、加熱装置によりピストンリングの両側面を加熱して、塗装装置により塗料を側面に塗布する工程と、
公転軸の周りで取付台と共にターンテーブルを鉛直面上で公転させて、取付台をリング除去装置に接近させると共に、取付台の自転を停止する工程と、
リング除去装置により取付台からピストンリングを除去する工程とを含むことを特徴とするピストンリング側面塗装法。
【請求項7】
取付台にピストンリングを鉛直に装着する工程は、ピストンリングを取り付けた取付台をターンテーブルの保持部に装着してピストンリングを鉛直に配置する工程又は鉛直に配置されるターンテーブルの保持部に装着された取付台にピストンリングを取り付ける工程を含む請求項6に記載のピストンリング側面塗装法。
【請求項8】
リング装着装置により取付台にピストンリングを装着する工程と、リング除去装置により取付台からピストンリングを除去する工程とを同時に行う請求項6又は7に記載のピストンリング側面塗装法。
【請求項9】
塗料を塗布する工程は、回転するピストンリングの対応する各側面に加熱と同時に又は時差をもって塗料を吹き付けるピストンリング側面塗装法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−155125(P2008−155125A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346759(P2006−346759)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000139023)株式会社リケン (101)
【Fターム(参考)】