説明

プラスチック基板の固定方法、回路基板およびその製造方法

【課題】単体では強度や剛性が不足しているプラスチック基板であっても回路基板を簡便に製造することができるようにする。
【解決手段】支持基板上に粘着材を塗布または貼付して該支持基板上に粘着材層を形成し;前記粘着材層に対し粘着力制御処理を選択的に施し、前記粘着材層中に弱粘着力領域と該弱粘着力領域よりも粘着力が強い強粘着力領域の少なくとも2つの領域を形成し;複数の粘着力領域が設けられた前記粘着材層に対し、プラスチック基板を真空度300Torr以下の環境下で圧着し;前記粘着材層に圧接した前記プラスチック基板の面とは反対側の面上であって、前記弱粘着力領域の直上に相当する領域内に回路を形成し;前記回路を形成したプラスチック基板の領域を、前記粘着材層の弱粘着力領域を剥離層として切り出し、プラスチック基板上に回路を有する回路基板を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基板と回路基板の製造方法に関する。具体的には、プラスチック基板を用いた薄膜積層デバイスおよび、液晶表示素子の製造方法に関し、特にプラスチック基板上に回路パターンが形成された液晶表示素子、有機EL表示素子、プラズマ表示素子(PDP)、エレクトロクロミック表示素子、エレクトロルミネッセンス表示素子、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)や、二次元画像検出器などの各種センサー、プリント配線基板等各種薄膜積層デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶表示素子に代表されるフラットパネルディスプレイの軽量化を図るために、基板を薄くすることが検討されており、現在の液晶表示装置は厚みが0.5mm〜1.1mm程度のガラス基板を用いて製造されている。しかし、これよりも薄いガラス基板を用いると、製造工程中や使用中に割れやすくなる等の問題点がある。この解決方法の一つとして、ガラス基板に代えてプラスチック基板を用いた液晶表示素子の開発が進められている。
【0003】
プラスチック基板の製造方法として、例えば特許文献1には、プラスチック基板単体をシート状にして搬送する方法、または、ロール状にして連続的に送り出して液晶表示素子を製造する方法が開示されている。しかしながら、プラスチック基板の場合には、剛性が小さくいわゆる腰がない点や、熱変形温度が低い点や、表面硬度が低く傷が付きやすい点や、加熱工程においてそりや膨張収縮等のような変形を生じやすい点等により、基板単体で搬送させる場合とロール状で送り出す場合のいずれの場合においても、液晶表示素子の製造はガラス基板を用いる場合に比べてさらに困難なものとなっている。
【0004】
そこで例えば、特許文献2には、プラスチック基板を額縁状の枠に固定した形で工程搬送を行って、液晶表示素子を製造する方法が開示されている。しかしながら、額縁状の枠内にプラスチック基板を固定した形で製造する方法では、プラスチック基板が額縁の内部でたわみ、表面平坦性の確保が困難になる。このため、液晶表示素子製造工程中の各種装置で額縁内部の平坦性を補助する必要が生じ、例えば特殊なステージ形状の設計等が要求される等の問題点がある。
【0005】
また、特許文献3では、プラスチック基板の周辺部を圧着した形で製造し、後で圧着部を切断する方法が提案されている。しかしながら、プラスチック基板を固定するための支持体がプラスチック基板よりも分厚いプラスチックフィルムに限られており、より搬送安定性のある例えばガラス等の支持体を用いることができない。
【0006】
さらに、特許文献4では、支持基板全体に繰り返し脱着可能な程度の粘着力を有する粘着材層を設け、そこにプラスチック基板を張り合わせて液晶表示素子(アクティブマトリックス基板や対向基板)を製造する方法が提案されている。この方法では、アクティブマトリックス基板等を製造した後、治具を用いてアクティブマトリックス基板や対向基板を支持基板から剥離する。その後、アクティブマトリックス基板と対向基板を張り合わせる工程、分断工程、液晶注入工程、封入工程を順次行うことにより、液晶表示素子を完成させる。しかしながら、このように全体に均一な粘着力を付与した支持基板を用いても、製造工程中は基板の剥がれが発生せずかつ製造工程終了後にはスムーズにプラスチック基板を剥離するというトレードオフの関係にある粘着性を実現するのは非常に困難である。また、真空中で固定していないために目には見えないような微小な気泡を内包しており、高温、真空工程において気泡の膨張による表面の凹凸やひどい場合には膜剥がれが生じることが懸念される。このため、適用できる温度はせいぜい150℃程度で、高性能な薄膜積層デバイスを形成するには低すぎる温度範囲でしか使用できないものであった。
【0007】
また、特許文献5では、支持基板上に樹脂材料を均一に塗布してプラスチック基板を形成し、該プラスチック基板上にそれぞれ積層することによりアクティブマトリックス基板と対向基板を作製し、これらを張り合わせた後に支持基板をエッチング等により除去して液晶表示装置を製造する方法が提案されている。この方法では、支持基板上に樹脂材料を均一に塗布してプラスチック基板を形成している。このため、上記特許文献4と同様の問題を抱えている。なお、特許文献5では、支持基板とプラスチック基板との間にエッチングストップ層などの中間層を設けることも提案されているが、中間層として粘着材層を設けることは提案されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平3−5718号公報
【特許文献2】特開昭60−41018号公報
【特許文献3】特開昭58−147713号公報
【特許文献4】特開平8−86993号公報
【特許文献5】特開2002−72905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来技術の課題に鑑みて、本発明は、単体では強度や剛性が不足しているプラスチック基板であっても回路基板を簡便に製造することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下の[1]〜[9]に記載される手段によれば上記課題を解決しうることを見出した。
[1] 支持基板上に粘着材を塗布または貼付して該支持基板上に粘着材層を形成する第1の工程と、
前記粘着材層に対し粘着力制御処理を選択的に施し、前記粘着材層中に弱粘着力領域と該弱粘着力領域よりも粘着力が強い強粘着力領域の少なくとも2つの領域を形成する第2の工程と、
複数の粘着力領域が設けられた前記粘着材層に対し、プラスチック基板を真空度300Torr以下の環境下で圧着する第3の工程と、
を含むことを特徴とするプラスチック基板の固定方法。
[2] 前記弱粘着力領域の粘着力が、0.01〜0.4ニュートンであることを特徴とする[1]に記載のプラスチック基板の固定方法。
[3] 前記強粘着力領域の粘着力が、0.5ニュートン以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載のプラスチック基板の固定方法。
[4] 前記第2の工程における粘着力制御処理が、酸素プラズマ処理、オゾン処理、およびUV光照射処理からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
[5] 前記強粘着力領域が、支持基板の周縁部に配置されていることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
[6] 前記弱粘着力領域が、支持基板の周縁部を除く中央部に配置されていることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
[7] 前記第3の工程における真空度が、30Torr以下であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
【0011】
[8] [1]〜[7]のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法における第1の工程、第2の工程および第3の工程を含み、さらに、
前記粘着材層に圧接した前記プラスチック基板の面とは反対側の面上であって、前記弱粘着力領域の直上に相当する領域内に回路を形成する第4の工程と、
前記回路を形成したプラスチック基板の領域を、前記粘着材層の弱粘着力領域を剥離層として切り出し、プラスチック基板上に回路を有する回路基板を得る第5の工程と、
を含むことを特徴とする回路基板の製造方法。
[9] [8]の製造方法によって製造された回路基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、支持基板に粘着材を塗布または貼付してプラスチック基板を固定しているため、単体では強度や剛性が不足しているプラスチック基板であっても薄膜積層デバイスを製造することが可能である。また、薄膜積層デバイスを形成しない周辺部分の粘着力を強くしてデバイスを形成する中央部分の粘着力を弱くしているため、全工程を通じて膜剥がれ等のトラブルを防止しかつデバイス特性を損なうことなくスムーズに切り出すことが可能である。さらに、粘着材層つき支持基板にプラスチック基板を固定する際に300Torr以下の真空状態で圧着するために圧着界面に気泡を導入することがなく、大気中で圧着する場合よりも圧着力が小さくて済み、かつプラスチック基板表面へ与えるダメージが軽減されるばかりではなく、より高温、高真空条件下でも膜剥がれが発生せず高性能薄膜積層デバイスの製造が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において、本発明のプラスチック基板の固定方法などについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(使用材料)
本発明における支持基板とは、粘着材を用いてプラスチック基板を固定しデバイスを形成してプラスチック基板を切り離すまでの全工程において、熱や減圧等の諸要因からプラスチック基板の変形および剥がれを防止してスムーズな作業をすることができる堅牢な基板を意味する。このような支持基板としては、ガラス基板、シリコンウエハ、厚手のプラスチック基板等が挙げられるが、耐熱性、耐薬品性、耐圧性、耐光性に関して問題が無ければその材料種は特に限定されない。支持基板の厚みは特に制限されないが、通常は10μm〜1mm、好ましくは25μm〜750μm、さらに好ましくは50μm〜500μmである。
【0015】
本発明におけるプラスチック基板とは、薄膜積層デバイスを形成する工程に耐え得る耐熱性、耐薬品性、耐圧性、耐光性を有するものであれば、その材料種は特に限定されない。片面もしくは両面に、有機膜単独、無機膜単独または有機/無機融合膜等の薄膜等が積層されたものであっても構わない。プラスチック基板を構成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリイミドフィルムを挙げることができる。
【0016】
本発明における粘着材とは、支持基板とプラスチック基板を固定した状態で搬送する際に、支持基板およびプラスチック基板に対する十分な粘着力が確保されると同時に、工程終了後にはプラスチック基板を剥離できる材料を意味する。このように一時的な接着および剥離が可能な粘着材としては、シリコーンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、二トリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。これらのうち、粘着性、耐熱性、耐薬品性、表面平滑性、耐光性等を考慮すると、シリコーンゴムおよびブチルゴムが好ましい。
【0017】
(第1の工程)
本発明のプラスチック基板の固定方法では、第1の工程として、支持基板上に粘着材を塗布または貼付して該支持基板上に粘着材層を形成する工程を実施する。本明細書では、支持体上に粘着材を塗布または貼付した治具を固定治具と呼ぶ。
粘着材層は、支持基板上にシート状のものを張り合わせることによって形成してもよいし、液体状のモノマーを塗布した後に必要に応じて加熱処理、UV照射処理等により重合させ粘着力を付与することにより形成したものでもあってもよい。これらの形成方法は、支持基板とプラスチック基板を固定するために必要な粘着力や支持基板の形状等により自由に使い分けることができる。
【0018】
本発明の第1の工程では、第3の工程においてプラスチック基板を圧着する領域全体に少なくとも粘着材層を形成する。この条件を満たすものであれば、粘着材層の形成領域は、支持基板上の全面であってもよいし、一部領域であっても構わない。
【0019】
(第2の工程)
本発明のプラスチック基板の固定方法では、第2の工程として、粘着材層に対し粘着力制御処理を選択的に施し、粘着材層中に弱粘着力領域と該弱粘着力領域よりも粘着力が強い強粘着力領域の少なくとも2つの領域を形成する工程を実施する。
粘着力は支持基板やプラスチック基板の材質、厚み、表面状態、搬送される工程条件等により異なるため、常に支持基板とプラスチック基板の粘着性が最良な範囲になるようにその都度調整を行う必要がある。ここでいう粘着力とは、20mm幅の帯状に圧着した粘着材とプラスチック基板のテスト試料を用い、180度引き剥がし法で一端側から引き剥がすときの力(ニュートン)を意味する。
【0020】
粘着材の粘着力は、加熱による粘着材の重合度の変化等を用いて調整することができるが、この方法では部分的に粘着力が異なる構造を形成することは困難である。このように部分的に粘着力が異なる構造を形成するためには、あらかじめ粘着材全面を全工程を通してプラスチック基板が剥がれない程度の十分な粘着力に調整した後に、マスク等を用いて必要な部分の粘着力だけを弱める方法を採用することが好ましい。粘着力を弱める方法としては、酸素プラズマ処理、オゾン処理およびUV光照射処理が好ましい。これらの方法を一つまたは二つ以上組み合わせて用いることにより粘着力を自由に制御することができる。
【0021】
通常はプラスチック基板の中央部分に薄膜積層デバイスを形成するため、固定治具の周辺部分はデバイス形成の全工程においてプラスチック基板が膜剥がれを起こさない程度に強い粘着力を有することが必要である。デバイス形成において加熱工程の温度が低いほど粘着力は低くても構わないが、より高いデバイス特性を有する素子を製造する場合は200℃〜250℃程度の加熱工程が必要であり、プラスチック基板の膜剥がれを防止するためには少なくとも0.5ニュートン以上の粘着力が必要となる。一方、デバイスが形成される中央部分は、デバイス形成後にプラスチック基板を周辺部分から切り離しかつ固定治具から剥離する必要があり、その際の引っ張り応力等によりデバイスの特性を劣化させること無く速やかにプラスチック基板が剥離できるように周辺部分よりも弱い粘着力を有することが必要となる。この場合の粘着力は低いほど剥離する場合のデバイス特性の劣化を軽減できるが、粘着力がゼロの場合はデバイス形成工程、特に高温工程において容易にプラスチック基板の局所的な凹凸が生じ、デバイスの特性に重大な影響を与えてしまう。従って、周辺部の粘着力に依存するが、有限の粘着力を有する方が好ましい。このような理由から、固定治具の周辺部分の粘着力は0.5ニュートン以上が好ましく、中央部分の粘着力は0.4ニュートン以下であることが好ましい。また、2つの領域の粘着力の差は、0.2ニュートン以上であることが好ましく、0.5ニュートン以上であることがより好ましく、1.0ニュートン以上であることがさらに好ましい。
【0022】
このように第2の工程では、粘着材層中に弱粘着力領域と該弱粘着力領域よりも粘着力が強い強粘着力領域を少なくとも形成するが、さらにこれ以外にも粘着力が異なる領域を1つ以上形成しても構わない。例えば上記の具体例では、中央部分の弱粘着力領域とその周辺部分の強粘着力領域の他に、さらに強粘着力領域よりも粘着力が強い領域を設けたり、さらに弱粘着力領域よりも粘着力が弱い領域を設けたり、強粘着力領域と弱粘着力領域の中間の粘着力を有する領域を設けてもよい。このような領域は、例えば周辺部分の強粘着力領域内に設けられていてもよい。製造コスト等の点から好ましいのは、第2の工程において強粘着力領域と弱粘着力領域の2つの領域を形成する態様である。
【0023】
(第3の工程)
本発明のプラスチック基板の固定方法では、第3の工程として、複数の粘着力領域が設けられた粘着材層に対し、プラスチック基板を真空度300Torr以下の環境下で圧着する工程を実施する。
大気中でプラスチック基板を固定治具に固定する場合、気泡を取り入れてしまうとデバイス作製工程の高温工程もしくは真空工程において気泡が膨張し、膜剥がれや凹凸の発生を引き起こす原因となる。気泡の混入を避けるためにプラスチック基板を固定治具に圧着する際に強い力をかけると、プラスチック基板表面には容易に傷が発生してしまう。この様な理由から、気泡の混入を防止するためには真空中で支持基板およびプラスチック基板を圧着して固定することが好ましい。プラスチック基板を圧着する際の真空度は、300Torr以下が好ましく、30Torr以下がより好ましく、1Torr以下がさらに好ましい。
【0024】
通常プラスチック基板や粘着材には水分や有機溶剤が含まれている場合が多い。この様な状態のまま真空中で貼り合わせを行ってもデバイス作製工程の高温工程もしくわ真空工程でガスとして徐々に放出され、張り合わせ界面に溜まって気泡を生じさせる場合がある。従って、プラスチック基板や粘着材は、張り合わせる前にこれらが耐えられる範囲で真空加熱工程を通して十分に水分や有機溶剤を除去しておくことが好ましい。
【0025】
第3の工程では、プラスチック基板を少なくとも強粘着力領域と弱粘着力領域の2つの領域に粘着するように圧着する。通常は、プラスチック基板のサイズに応じた粘着材層を第1および第2の工程で形成しておき、第3の工程で粘着材層の上にプラスチック基板を圧着する。本発明では、少なくとも強粘着力領域と弱粘着力領域の2つの領域を含むユニットを支持基板上に複数形成しておき、各ユニットにそれぞれプラスチック基板を圧着させてもよい。このとき、各ユニットやそれに対応するプラスチック基板は、互いに同じサイズであってもよいし、違うサイズであってもよい。
【0026】
(第4の工程)
以上の第1〜第3の工程により製造された固定プラスチック基板を用いて、さらに第4の工程と第5の工程を実施することにより回路基板を製造することができる。本発明の回路基板の製造方法では、第4の工程として、粘着材層に圧接したプラスチック基板の面とは反対側の面上であって、弱粘着力領域の直上に相当する領域内に回路を形成する工程を実施する。
【0027】
便宜上、粘着材層に圧接したプラスチック基板の面を下面といい、その反対面を上面というとき、回路基板は上面に形成する。また、回路基板は、上面のうち弱粘着力領域の直上に相当する領域に形成する。すなわち、弱粘着力領域に圧着している下面領域の裏に相当する上面領域に回路基板を形成する。
【0028】
第4の工程では、通常の回路基板の製造に用いられている方法を適宜選択して実施する。通常薄膜積層デバイスを形成する場合、各薄膜層を成膜して積層化するためにCVD、スパッタ、蒸着等の真空成膜装置を連続して用いる場合が多い。例えばアモルファスシリコンTFTを作製する場合、活性層であるアモルファスシリコンはCVDを用いてシランガスと水素ガスの混合ガスを減圧条件下で加熱した基板の上に成膜する。この時の減圧条件は10-1Torrのオーダー以下であることが一般的である。また、加熱温度は150℃以上であってもよい。本発明では、このときの加熱温度に耐えうる耐熱性を有するプラスチック基板を選択して使用する。本発明では、10-1Torrオーダー以下の減圧条件と150℃以上の温度条件を採用した場合であっても、第3の工程において気泡の混入を防いでいるため、気泡の膨張によるプラスチック基板の凹凸出現や膜剥がれを回避することができる。
【0029】
(第5の工程)
本発明の回路基板の製造方法では、第5の工程として、回路を形成したプラスチック基板の領域を、粘着材層の弱粘着力領域を剥離層として切り出し、プラスチック基板上に回路を有する回路基板を得る工程を実施する。
この工程は、弱粘着力領域と接着している領域でプラスチック基板を切り出すものである。例えば、図1および図2に示すように、中央部に弱粘着力領域2を有し、外縁部に強粘着力領域3を有する態様において、図1の点線領域内に回路を形成した場合、当該点線に沿ってプラスチック基板4を切り出すことによって、第5の工程を実施することができる。このとき、切れ込みを入れた点線領域は、弱粘着力領域2のみを介して支持基板6と接合しているため、比較的弱い力で簡単に支持基板6から回路形成済みプラスチック基板を脱着することができる。切り出しの手段については特に制限されないが、カッター、レーザー裁断などを採用することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0031】
<実施例1>
(A)固定治具形成工程
シリコーンゴムモノマー(信越化学工業株式会社製、X-34-632T-A、B混合液)をガラス支持基板(30cm×50cm、厚み1cm)上に塗布した後、電気炉内で室温から150℃まで徐々に昇温して1時間加熱することによりシリコーンゴムの重合を行った。こうして得られた支持基板上の粘着材層の厚みは300μmで粘着力は6ニュートン(N)であった。
【0032】
(B)粘着力制御工程
この後、金属製マスクを粘着材層の上に乗せドライエッチング装置内に導入して酸素プラズマ処理を行った。ここで用いた金属製マスクの開口部は24cm×40cmであり、開口部がガラス支持基板の中央に位置するように設置した。また、酸素プラズマ処理の条件は酸素流量50sccm、圧力0.5Torr、電力300Wで10分間とした。酸素プラズマ処理後、マスクを剥がして周辺部のマスクが乗せられていた領域と中央部の酸素プラズマに暴露されていた領域の粘着力を測定したところ、それぞれ6ニュートン(N)および0.1ニュートン(N)であった。
【0033】
(C)プラスチック基板固定工程
両面をチッ化珪素の500nmの膜でコートされた膜厚50μmのポリイミド基板を支持基板に固定するために真空加熱圧着装置を用いて行った。圧着は、真空度0.2Torr、圧着力100キロニュートンで1分間保持することにより行った(以下支持基板1と呼ぶ)。プラスチック基板と支持基板との密着性は良好で、気泡等の混入は全く視認できなかった。
【0034】
(D)デバイス形成工程
前記プラスチック基板の上に、薄膜積層デバイスの一つであるアモルファスシリコンTFTを以下の手順で形成した。
固定基板1をスパッタ装置内に導入し真空度が4×10-5Torrになるまで真空引きを行い、300nmの厚みになるように調整してクロムの薄膜を成膜した。これをゲート電極として用いるために、フォトレジスト工程(レジスト塗布、プリベイク、露光、現像、ポストベイク、エッチング、レジスト剥離、洗浄、乾燥)により所定の電極パターンを形成した。次に、プラズマCVD装置の成膜室内に導入し、200℃に保ったまま真空引きを行いシランガスとアンモニアガスを導入してチッ化珪素薄膜を積層させた。成膜の条件は、シランガスの流量5sccm、アンモニアガスの流量20sccm、成膜中の真空度0.5Torr、電力30W、成膜時間30分間とした。
【0035】
引き続き同装置の異なる成膜室に移動させ、200℃に保ったまま真空引きを行いシランガスと水素ガスを導入してアモルファスシリコン薄膜を積層させた。成膜の条件は、シランガス流量2.5sccm、水素ガス流量30sccm、成膜時の真空度0.5Torr、電力8W、成膜時間50分間とした。
次にプラズマCVD装置からすばやく取り出して抵抗加熱蒸着装置に導入し、300nmのアルミニウム薄膜を成膜した。こうして得られた積層膜を最終的なTFTの形状にするために前記フォトレジスト工程を繰り返し、カッターを用いてプラスチック基板を弱い粘着力の領域で切り出すことによりプラスチック基板上に形成されたアモルファスシリコンTFTを得た(デバイス1)。
アモルファスシリコンTFTを形成する全工程において、プラスチック基板の剥がれや気泡混入等による凹凸は発生しなかった。
【0036】
(E)TFT特性測定
アジレント社製半導体パラメーターアナライザー(4156C)およびベクターセミコン社製セミオートマチックプローバー(AX−2000)を用いてTFT特性を測定した結果、デバイス1の電界移動度は0.5cm2/Vsであった。
【0037】
<実施例2>
実施例1の(A)において、シリコーンゴムモノマーを用いる代わりにシリコーン系粘着材両面テープ(寺岡製作所社製、760H♯25)をガラス支持基板上に貼付した。このとき、片面の保護フィルムを剥がした両面テープとガラス支持基板を貼付した。貼付は、実施例1(C)に記載した真空加熱圧着装置を用いて同条件で行った。貼付後、取り出してもう一方の面の保護フィルムを剥がして測定した支持基板上の粘着力は8.8ニュートンであった。この後、実施例1の(B)と同じ条件で金属製マスクを粘着材層の上に乗せドライエッチング装置内に導入して酸素プラズマ処理を行った。周辺部のマスクが乗せられていた領域と中央部の酸素プラズマに暴露されていた領域の粘着力を測定したところ、それぞれ8.8ニュートンおよび0.4ニュートンであった。
【0038】
実施例1の(C)、(D)と全く同じ工程を経てアモルファスシリコンTFTを製造した(デバイス2)。実施例1の(E)と同じ方法でデバイス2のTFT特性を測定した結果、電界移動度は0.5cm2/Vsであった。
【0039】
<比較例1>
実施例1において(B)の粘着材制御工程を行わない以外は全く同じ方法でアモルファスシリコンTFTを作製した(デバイス3)。プラスチック基板圧着前の粘着材の粘着力は、周辺部および中央部とも同じで6ニュートンであった。しかしながら、最終工程でプラスチック基板を剥離する際に、粘着力が強すぎるため容易に剥がすことはできなかった。さらに力を加えて剥離しようとすると、TFTがプラスチック基板から剥がれ落ちてしまい結局TFTの電気特性を測定することはできなかった。
【0040】
<比較例2>
実施例1において(B)の粘着材制御工程で金属製マスクを用いないで全面を酸素プラズマ処理した以外は全く同じ方法でアモルファスシリコンTFTの作製を試みた(デバイス4)。プラスチック基板圧着前の粘着材の粘着力は、周辺部および中央部とも同じで0.1ニュートンであった。プラスチック基板と支持基板との密着性は良好で気泡等の混入は全く視認できなかった。しかしながら、CVDによるチッ化珪素薄膜成膜過程においてプラスチック基板が支持基板4と剥離したためそれに引き続く工程の実施を断念した。
【0041】
<比較例3>
実施例1の(C)プラスチック基板固定工程で大気圧下で圧着した以外は全く同じ方法でアモルファスシリコンTFTを作製した(デバイス5)。酸素プラズマ処理後、マスクを剥がして周辺部のマスクが乗せられていた領域と中央部の酸素プラズマに暴露されていた領域の粘着力を測定したところ、それぞれ6ニュートン(N)および0.1ニュートン(N)であった。プラスチック基板と支持基板との密着性は良好で気泡等の混入は全く視認できなかった。しかしながら、CVDによるチッ化珪素薄膜成膜過程においてプラスチック基板が支持基板4と剥離したためそれに引き続く工程の実施を断念した。
【0042】
表1に上記の結果をまとめて示す。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、単体では強度や剛性が不足しているプラスチック基板であっても薄膜積層デバイスを製造することが可能である。また、本発明によれば、全製造工程を通じて膜剥がれ等のトラブルを防止しかつデバイス特性を損なうことなくスムーズに回路基板を製造することができる。さらに、高温、高真空の製造過程を経て高性能な薄膜積層デバイスを製造することも可能である。よって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による固定治具にプラスチック基板を張り合わせたときの粘着材の粘着力の分布およびプラスチック基板の切り出し位置を示す上面図である。
【図2】本発明による固定治具にプラスチック基板を張り合わせたときの粘着材の粘着力の分布およびプラスチック基板の切り出し位置を示す構造断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 強粘着力領域
2 弱粘着力領域(薄膜積層デバイス形成領域)
3 プラスチック基板切り出し位置
4 プラスチック基板
5 粘着材
6 支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に粘着材を塗布または貼付して該支持基板上に粘着材層を形成する第1の工程と、
前記粘着材層に対し粘着力制御処理を選択的に施し、前記粘着材層中に弱粘着力領域と該弱粘着力領域よりも粘着力が強い強粘着力領域の少なくとも2つの領域を形成する第2の工程と、
複数の粘着力領域が設けられた前記粘着材層に対し、プラスチック基板を真空度300Torr以下の環境下で圧着する第3の工程と、
を含むことを特徴とするプラスチック基板の固定方法。
【請求項2】
前記弱粘着力領域の粘着力が、0.01〜0.4ニュートンであることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック基板の固定方法。
【請求項3】
前記強粘着力領域の粘着力が、0.5ニュートン以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック基板の固定方法。
【請求項4】
前記第2の工程における粘着力制御処理が、酸素プラズマ処理、オゾン処理、およびUV光照射処理からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
【請求項5】
前記強粘着力領域が、支持基板の周縁部に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
【請求項6】
前記弱粘着力領域が、支持基板の周縁部を除く中央部に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
【請求項7】
前記第3の工程における真空度が、30Torr以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のプラスチック基板の固定方法における第1の工程、第2の工程および第3の工程を含み、さらに、
前記粘着材層に圧接した前記プラスチック基板の面とは反対側の面上であって、前記弱粘着力領域の直上に相当する領域内に回路を形成する第4の工程と、
前記回路を形成したプラスチック基板の領域を、前記粘着材層の弱粘着力領域を剥離層として切り出し、プラスチック基板上に回路を有する回路基板を得る第5の工程と、
を含むことを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8の製造方法によって製造された回路基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−251080(P2007−251080A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75975(P2006−75975)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】