説明

プラスチック部品を製造するための方法と、このプラスチック部品を有する装置

【課題】特殊プラスチックの利用に比べて費用削減を達成することのできるプラスチック部品製造方法と、この方法で製造されたプラスチック部品を含む装置を提供する。
【解決手段】プラスチック部品製造方法において、プラスチック成形材料が溶融温度以上の成形温度に加熱され、プラスチック成形材料が溶融温度以上で熱間成形可能であり、成形温度にあるプラスチック成形材料が成形部品へと成形され、成形部品の温度がプラスチックの種類に依存した転換温度に調整され、この転換温度が溶融温度よりも低く、限定された転換時間の間、成形部品が転換温度に放置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック部品を製造するための方法であって、プラスチック成形材料が溶融温度以上の成形温度に加熱され、プラスチック成形材料が溶融温度以降で熱間成形可能であり、成形温度にあるプラスチック成形材料が成形部品へと成形され、成形部品の温度がプラスチックの種類に依存した転換温度に調整され、この転換温度が溶融温度よりも低く、限定された転換時間の間、成形部品が転換温度に放置されることを含む方法に関する。本発明はさらに、請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法により製造されたプラスチック部品を含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融温度を超えてプラスチック成形材料を加熱し、熱間成形性に至るまでプラスチック成形材料を軟化させることは、先行技術により公知である。引き続くプラスチック部品への成形はしばしば射出成形法または別の熱間成形法によって行われる。プラスチック成形材料をプラスチック部品へと成形後、プラスチック部品は大抵、遅滞なく室温に冷却され、この状態で放置される。
【0003】
先行技術によりさらにプラスチック部品を自動車分野で使用することが公知であり、その際プラスチック部品は特別な条件のもとで240℃までの温度となることがある。それに加えてプラスチック部品は自動車内での利用時しばしば化学的影響、例えばエンジン冷却器分野では100°を超える高温の水‐グリコール混合物、油冷却器分野では高温のエンジン油、燃料分野ではガソリンとディーゼル、特にディーゼルヒータの場合高温のディーゼルおよびその他の作動液にも曝されている。特に、このように先鋭化した条件に曝された部材は、特別高度に安定化されたプラスチック、例えばPPSまたはPA6T/66から製造される。特殊に最適化されたこれらのプラスチックは相応に価格が高い。これらプラスチックの材料価格は、事情によっては、ポリアミド、特にPA6、PA66等の従来のプラスチックの価格よりも数倍高い。材料費の高まりの他に、安定性の低い標準プラスチックにおけるよりも場合によっては加工費が高まるという他の諸欠点が現れる。部品製造業者、例えば自動車納入産業、場合によっては単に1つの製造業者から提供される特別高価なプラスチックが使用されるやプラスチック製造業者への特殊な依存関係から他の諸欠点が生じる。
【0004】
さらに、事前に製造された成形部品の塗料による被覆、プラズマによる表面処理または放射硬化等の措置が先行技術により公知である。これらの措置は同様に化学抵抗および熱的負荷容量の向上に役立つが、しかし一般に支出を要し、それゆえに高価である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、特殊プラスチックの利用に比べて費用削減を達成することのできるプラスチック部品製造方法と、この方法で製造されたプラスチック部品を含む装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明に係る方法に関して、プラスチック成形材料が溶融温度以上の成形温度に加熱され、プラスチック成形材料が溶融温度以上で熱間成形可能であり、成形温度にあるプラスチック成形材料が成形部品へと成形され、成形部品の温度がプラスチックの種類に依存した転換温度に調整され、この転換温度が溶融温度よりも低く、限定された転換時間の間、成形部品が転換温度に放置されることを含む方法によって解決される。
【発明の実施の形態】
【0007】
溶融温度よりも低い転換温度を調整し、限定された転換時間の間転換温度に成形部品を放置することによって、成形部品への構成後にプラスチックの分子構造および/または結晶構造が変化することが可能となり、そのためプラスチック部品の部分的にかなりの特性向上が達成可能である。これらの向上は機械的特性にも、高温における分子構造の熱に起因した破壊もしくは変質に対する抵抗にも関係する。熱間成形とはこの場合、熱の作用を受けて軟化するプラスチック物質のあらゆる成形、特に例えば注型技術等の一次成形法のことである。
【0008】
成形部品の温度を転換温度に調整することは好ましくは空気をアニーリング媒体として例えば熱風炉内で行われる。他の好ましいアニーリング媒体は溶融金属、油浴、または特別好ましくは塩浴であり、これらでもってプロセス時間は空気に比べて場合によっては特に25%低減可能である。成形部品は主に液状アニーリング媒体に浸漬される。その他のプロセス条件は空気をアニーリング媒体として使った場合と同じである。
【0009】
有利な構成においてプラスチック成形材料は少なくとも部分的に、少なくとも部分結晶質の熱可塑性プラスチックからなり、特に例えば繊維等の添加剤が設けられている。部分結晶性によってプラスチック成形材料は、本発明に係る方法に従って分子構造の転換を実行するのに特別良好に適している。
【0010】
本発明に係る方法の好ましい実施においてプラスチック成形材料は実質的にポリアミドからなる。実験が示したように、まさにポリアミドの場合本発明に係る方法によって機械的特性、化学的抵抗および温度抵抗の向上が達成可能である。ポリアミド66が特別好ましい。しかし、ポリアミド6、ポリアミド46、または、少なくとも1つの成分、特に2つの成分がポリアミド6、ポリアミド66およびポリアミド46の群からなるポリマーブレンドとすることもできる。基本的に、前記ポリアミドもしくはブレンドまたはコポリマー内でのそれらの組合せのすべてにおいて本発明に係る方法によって相応する向上が達成可能でなければならない。というのも、ポリアミドは部分結晶質であり、さまざまな結晶質相と非晶質相を有するからである。本発明に係る方法で達成される向上について従来推測されただけの説明によれば、限定された時間にわたる本発明に係る温度処理によってプラスチックの内部で相転移によって特定の機械的、化学的に特別安定した結晶質相が構成される場合であろう。
【0011】
しかし選択的実施においてプラスチック成形材料はポリエチレンまたはポリプロピレンとすることもできる。これは、例えばホース内で使用されるようなポリアミド12とすることもできる。ここで本発明に係る製造は、結晶性の高まりに基づいて、案内される媒体に対して気密性もしくは遮蔽作用の向上をもたらすことができる。さらに、ポリオキシメチレンとすることができ、そこではこの物質の元々摩擦学的に好ましい性質が本発明に係る方法によるさらなる結晶性向上によってさらに最適化される。同様に、本発明に係る方法によって高温における機械的および/または化学的性質および/または安定性の向上を達成することのできるあらゆる別のプラスチックが考えられる。
【0012】
本発明に係る方法の好ましい実施において、転換温度は溶融温度より概ね50°以上低くはない。特別好ましくは、転換温度は溶融温度より30°以上低くはなく、さらに好ましくは概ね15°以上低くはなく、特別好ましくは概ね10°以上低くはない。プラスチックの種類に応じて一般に特別適した転換温度が存在し、この転換温度は一般に溶融温度以下、しかし比較的その近傍であると確認することができる。任意のあらゆる高い温度がプラスチックの処理成果をもたらすのではないことが確認された。むしろ、溶融温度から過度に離反した処理温度は有効な効果を何ら示すことができず、成形されたプラスチック部品の変質を生じ得るだけである。例えば専門家には一般に知られているように、ポリアミドは160℃以降の温度範囲では急速に黄色に変色し、相応に変質し、すなわち脆化しひび割れる。それゆえに、ポリアミド成形部品の溶融温度の僅か下で熱処理時に逆の効果は決して予想することができなかった。
【0013】
有利な構成では、プラスチック成形材料が本方法のステップcの前に中間温度、特に室温に冷却されるようにすることができる。これにより、プラスチックの相もしくはその分子構造の形成メカニズムに応じて向上を達成することができる。好ましくはさらに、方法ステップcは特定の温度変化率で転換温度が達成されるように実施することができる。これにより、特定の事例において一定した温度によるだけでなく温度変化推移によってプラスチックの相転移を促進しておくことのできる事情が考慮される。
【0014】
一般に好ましくは、ステップbにおける成形は注型成形法、特に射出成形法で行われ、これにより本発明に係る方法は通常のシリーズ生産と結び付けることができる。
【0015】
有利には、プラスチック成形材料が注型内にある間に、ステップcにおいて転換温度の調整を行うようにしておくことができる。これにより、例えば特殊な炉等の他の道具が避けられ、特別迅速なプロセス経過が可能となり、それに対して、場合によって特別に構成される射出成形型によって一層高い支出が必要となる。
【0016】
特別好ましくは、プラスチック成形材料の成形とプロセスに起因した冷却との直後に転換温度への加熱が行われ、加熱前、成形プロセスに由来するかなりの余熱がプラスチック成形材料中になお含まれており、従ってエネルギー節約に役立つ。有利な実施において、成形されたプラスチック成形材料は転換温度を調整するために炉内、特に熱風炉内に運ばれる。これにより全体として、既存の製造プロセスに、場合によっては既存の射出成形型にさえ、本発明に係る製造方法を統合することが可能となる。融点近傍の転換温度でアニーリングする間にプラスチック部品の望ましくない変形に対抗するために、プラスチック部品はアニーリング中、好適な支持型またはホルダ内に挿入しておくことができる。熱風炉の代わりに、別のあらゆる任意の加熱方式、例えば赤外照射による加熱、または‐材料の適性に応じて‐マイクロ波照射による加熱を選択することもできる。
【0017】
有利には、方法ステップcおよび/またはdもしくはアニーリングは、一部で高い転換温度において酸化が起きることのないように、例えば窒素またはアルゴン等の保護ガス雰囲気中で推移させることができる。
【0018】
有利には、転換時間が概ね1分未満でない。特別好ましくは、転換時間が概ね5分未満ではなく、さらに好ましくは概ね30分未満ではない。特別好ましくは、時間は100分未満ではなく、特に概ね120分未満ではない。選択されたプラスチックに関し、最後に指摘した時間範囲内に材料特性の最善状態が与えられていた。一般に、プラスチックの特性向上を達成するのにいかなる転換時間が十分であるかは使用されるプラスチックの種類に依存している。一般に好ましくは、転換時間は概ね3時間以上でない。これにより一方で、低価値のプラスチックの価値を高めることに起因した費用節約がエネルギー消費または別の支出によって再び無にされることのないことが確保されている。他方で、転換温度レベルでのプラスチックの価値向上と競合する、例えば共有結合の回復不能なひび割れ等のプロセスが激増することは避けられる。これが激増すると、結果的に得られるプラスチック部品の特性劣化を生じ得る結果となろう。
【0019】
特別有利な実施においてプラスチック成形材料は、場合によっては核形成剤として役立つ結晶化促進剤、特にガラス繊維または鉱物ナノ粒子の成分を含む。これにより、結果的に得られるプラスチック部品の特性はさらに最適化することができる。その際、転換温度においてプラスチックの種類に応じて非晶質相からの好ましい結晶相の結晶化がごくゆっくりとまたは僅かに促進されて起きるだけであるとのモデルでの解明実験に最適化は依拠している。それに対して多くの事例において不都合な特性を有する結晶質相から好ましい特性を有する結晶質相への転換は転換温度において十分に優先的に経過できる。熱間成形の過程で非晶質相に比べて極力高い割合で不都合な結晶質相をまずプラスチック部品内に生成するのに、混合された結晶化促進剤が役立つ。
【0020】
本発明の課題は、装置に関しては、請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法により製造されたプラスチック部品を含む装置によって解決される。というのも、本発明に係るプラスチック部品が装置内で利用されており、プラスチック部品用に特別高価な原料の場合に可能であろうよりも安価に装置を製造できるからである。
【0021】
好ましい実施において装置は自動車用熱交換器である。特別好ましくは、プラスチック部品が自動車用給気冷却器のハウジング部品である。特に給気冷却器のプラスチック部品は運転時にきわめて高い概ね240℃までの温度に曝されている。まさにこれらのまったく大容積の、そのため材料集約的な部材の場合、従来はごく高価な特殊プラスチックのみを使用することが技術の現状であった。
【0022】
選択的にプラスチック部品は自動車用主エンジン冷却器の冷却材箱のハウジング部品とすることができる。同様に、プラスチック部品は好ましくは油冷却器のハウジング部品、自動車室内ヒータの一部、サーモスタットの部材、燃料ヒータの部材、特に油、冷却材または空気を案内するための管路、またはファンのロータとすることもできる。同様に、プラスチック部品は、特に自動車の空調装置冷凍回路中の管路、特にホースとすることができる。
【0023】
指摘した各部材はすべて、使用されるプラスチックの機械的安定性、化学的安定性または熱安定性に関する特別な要求条件について例示したものである。特に自動車分野での前記部材およびその他の部材の場合、技術の現状による専門業界は、普通に安定化された従来のプラスチック、すなわち特別な高価な添加剤なしのプラスチックが適しておらず、高度に安定化されて特別な特殊特性を有する高価なプラスチックにその都度手を出さざるを得ないとの見解である。
【0024】
本発明に係る方法および本発明に係る装置のその他の利点および特徴は以下に述べる実施例と従属請求項から明らかとなる。
【実施例】
【0025】
好ましい第1実施例によれば、プラスチック成形材料は製造業者BASF AG社の製品Ultramid(登録商標)PA66‐GF30(製品コード:A3HG6HRsw)からなる。これはガラス繊維強化ポリアミド66である。この市販のプラスチック成形材料はまず、場合によって必要となる予備乾燥後、注型温度に加熱される。ISO 11357‐1/‐3により決定されたこのプラスチックの溶融温度は260℃である。本方法において最初に加熱される推奨注型温度は概ね290℃である。注型の推奨温度は概ね85℃である。
【0026】
その注型温度に加熱されたポリマーはまずそれ自体周知の如くに通常の圧力において、85℃に予熱された注型に注入され、注型部品の形状は自動車の熱交換器ハウジング部品、特に給気冷却器の容器部品である。注型と注入されるプラスチック成形材料との間の通常高い温度差によって、こうして流し込まれたプラスチック部品は少なくともその縁領域が通常迅速に、100℃より多少上の温度に冷却される。特に、240〜250℃の温度範囲は比較的迅速に通過され、それに対して概ね160℃の範囲は著しくゆっくりと通過される。最初に指摘した温度範囲ではポリアミド66の場合結晶子のα相の形成が優先的に起き、それに対して後者の概ね160℃の温度範囲ではγ結晶子の形成が優先的に起きる。従って、固化され冷却されたプラスチック部品は高い割合のγ結晶質相および非晶質相、すなわち晶出していない相を有すると予想することができる。それゆえに、プラスチック部品内の機械的、化学的に特別安定したα相の割合は比較的僅かである。しかしながらこれは、本発明に係る方法の過程で現れる好ましい効果について科学的にまだ確認されていない解明実験であるにすぎない推測である。しかしながら、本発明により処理されたポリアミドについて、およびポリプロピレンについても、比較を行う定量的X線広角測定から、それらの特定結晶質相の割合が未処理試料に比べて著しく高まっていることが判明した。さらに、未処理試料に比べて破壊応力も引張強さも同時に向上しているので、ポリアミド66の場合α相が高まり、同時にγ結晶質相が低下している徴候がある。
【0027】
それ自体なお知られている次の方法ステップにおいて、成形され約100℃に冷やされたプラスチック部品が注型から取り出される。
【0028】
その直後に、エネルギー利用向上を目的にまだ温かいプラスチック部品は加熱炉内に移され、そこで250℃の温度に加熱される。この温度は転換温度と称され、本例ではプラスチック成形材料の融点より10℃低い。250℃の温度レベルにプラスチック部品は少なくとも5分間、ここでは概ね120分間放置される。次にプラスチック部品は熱風炉から取り出され、他の措置なしに室温に冷却される。
【0029】
熱風炉内でアニーリングによって再処理された注型部品は、注型から進出直後に室温に冷却される先行技術による未再処理注型部品に比べて、著しく向上した機械的性質と化学的影響、温度影響に対する抵抗力とを有する。ガラス繊維強化ポリアミド66からなる本発明により再処理されたプラスチック部品は200℃よりかなり高い温度で利用することができる。温度に起因した材料変質は、同じプラスチック成形材料からなる未再処理プラスチック部品に比べて数倍向上している。実施された実験の結果、概ね190℃の連続使用温度において、しかし200℃を超える温度でも、極端な場合240℃までの温度でさえ、温度安定性の向上が顕著であり、Ultramid(登録商標)PA66‐GF30からなる本発明により再処理されたプラスチック部品はこれらの利用分野では給気冷却器のハウジングとして、本来そこで使用される著しく高価な特殊プラスチックの代わりに利用することができる。このような特殊プラスチックは特にPPSまたはPA6T/66である。
【0030】
本発明による安価な再処理によってこのように好ましい特性が達成できることは従来の専門知識によれば予想できなかった。このことが妥当するのは、特に、前記プラスチックからなる注型部品が好適な最低転換温度以下の温度、例えば210℃の温度ではごく迅速に変質を受ける事実のゆえにである。溶融温度よりも僅かに低いだけの転換温度での本発明に係るアニーリングがはじめて材料を相応に安定させる。この安定化は、既に言及した科学的にまだ証明されていない解明式において、非晶質材料および/またはγ結晶質材料から機械的、化学的抵抗力を有するα結晶質相への転換に帰すことができる。確認された効果の他の理由または選択的理由はポリマーの再架橋にもあり得る。発見された効果について事後的に追及される説明にかかわりなく、それらの発生は予測できなかったのであり、殊に従来のポリアミド66は知られているように既に160℃より上の温度においてたちまち黄色に変色し、別の材料変質現象を示すからなおのことそうである。
【0031】
前記プラスチック成形材料は、溶融温度より概ね30℃低い、つまり概ね230℃以降の転換温度において材料特性の向上を示す。転換温度が概ね5〜10℃よりもさらに溶融温度に近似するのは望ましくない。というのも、さもないと強い軟化が始まり、成形部品が許容外に大きな形状変化を受けるからである。
【0032】
本例では、処理されたプラスチック部品が負荷実験を施され、未処理の但し同じく射出成形法で製造された部品と比較された。負荷は‐実際には殆ど現れない‐130℃の高温の水‐グリコール混合物(50:50、標準エンジン冷却材)内でプラスチック部品を1000時間貯蔵することにあった。この処理後、未処理プラスチック部品の破壊強さは出発値の18%に低下したが、本発明により処理したものは34%に低下した。破断伸びでは、未処理部品の値は31%に低下し、本発明により処理した部品は55%に低下した。そのことから明らかとなるように130℃高温水‐グリコール混合物に対する抵抗力はほぼ2倍である。そのことは実務において、或るプラスチック部品を例えば冷却器ハウジング用に利用できるか否かにとって決定的で有り得る。
【0033】
好ましい第2実施例においてプラスチック成形材料はTicona社によって製造された原料Celstran(登録商標)PA66 GF50‐02P11‐14からなる。このポリアミド66も融点もしくは軟化点が概ね260℃である。ここでも、溶融温度よりも概ね10°低い温度で少なくとも数分間にわたってアニーリングすると、事前に成形されたプラスチック部品の材料特性が著しく向上する。プラスチック部品の成形は第1実施例におけると同様に射出成形法に関して製造業者の推奨するプロセスデータに従って通常の条件で行われる。
【0034】
融点の僅か下の温度でのアニーリングによる本発明に係る向上は、融点が代表的には概ね220℃にあるPA6群のプラスチックについても実験で確認された。その場合、好ましい転換温度は概ね210℃であろう。
【0035】
好ましい第3実施例では、プラスチック成形材料はガラス繊維のないポリアミド66、つまりBASF社の製品名称“A3Ksw”のUltramid(登録商標)からなる。ここでも、融点よりも10°低い温度で30分間にわたるアニーリング、120分間にわたるアニーリングでも、材料特性の向上がもたらされた。それに加えて、結晶構造の著しい変化が構造分析測定によって確認された。
【0036】
好ましい第4実施例では、プラスチック成形材料はガラス繊維のないポリアミド6からなる。ここでも、融点よりも10°低い温度で30分間にわたるアニーリング、120分間にわたるアニーリングでも、材料特性の向上がもたらされた。それに加えて、結晶構造の著しい変化が構造分析測定によって確認された。
【0037】
好ましい第5実施例では、プラスチック成形材料はポリプロピレン、つまり製造業者Sabicの“Stamylan P4935”からなる。ポリプロピレンの場合にも、融点よりも10°低い温度で30分間にわたるアニーリング、120分間にわたるアニーリングでも、材料特性の向上がもたらされた。それに加えて、アニーリングしていない比較試料に比べて結晶構造の著しい変化が構造分析測定によって確認された。
【0038】
本発明に係る製造方法に基づく好ましい効果はポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリテレフタル酸エチレン(PET)、ポリテレフタル酸ブチレン(PBT)、ポリアミド46(製造業者:DSM、オランダ)からなるプラスチック、また一般に、特に芳香族成分および/またはハロゲン化成分、例えばフッ素または塩素を含有した多数の少なくとも部分結晶質の熱可塑性プラスチックについても存在する。従って、これらの素材等級について、本発明に係る製造方法によって、同じ等級の高度安定化ポリマーにおいてのみ本来現れるような特性を標準安定化ポリマーに備えることができる。従って、簡略して表現するなら、本発明に係る方法によって簡単かつ安価なプラスチックの分子構造もしくは結晶構造を変えることによって、プラスチック部品の従来の製造方法では本来高度安定化プラスチック、つまり特別手間をかけて添加剤を配合したプラスチックでのみ達成することができるような材料特性を達成することができよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック部品を製造するための方法であって、
(a)プラスチック成形材料が溶融温度以上の成形温度に加熱され、プラスチック成形材料が溶融温度以降で熱間成形可能であり、
(b)成形温度にあるプラスチック成形材料が成形部品へと成形され、
(c)成形部品の温度がプラスチックの種類に依存した転換温度に調整され、この転換温度が溶融温度よりも低く、
(d)限定された転換時間の間、成形部品が転換温度に放置されること
を含む方法。
【請求項2】
プラスチック成形材料が少なくとも部分的に、少なくとも部分結晶質の熱可塑性プラスチックからなり、特に例えば繊維等の添加剤が設けられていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
プラスチック成形材料が実質的にポリアミドからなることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
プラスチック成形材料が実質的にポリアミド66であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
プラスチック成形材料が実質的にポリアミド6であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
プラスチック成形材料が実質的にポリアミド46であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項7】
プラスチック成形材料が実質的にポリアミド12であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項8】
プラスチック成形材料は、少なくとも1つの成分、特に2つの成分がポリアミド6、ポリアミド66およびポリアミド46の群からなるポリマーブレンドであることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項9】
プラスチック成形材料が、少なくとも成分のなかに、特に完全に、ポリエチレンを含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
プラスチック成形材料が、少なくとも成分のなかに、特に完全に、ポリプロピレンを含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
プラスチック成形材料が、少なくとも成分のなかに、特に完全に、ポリオキシメチレン(POM)を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項12】
転換温度が溶融温度より概ね50°以上低くはないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
転換温度が溶融温度より概ね30°以上低くはないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
転換温度が溶融温度より概ね15°以上低くはないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
転換温度が溶融温度より概ね10°以上低くはないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
プラスチック成形材料がステップcの前に中間温度、特に室温に冷却されることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
限定された冷却率で冷却が行われることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
プラスチック成形材料がステップcにおいて、限定された温度変化率で転換温度とされることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
ステップbにおける成形が注型成形法、特に射出成形法で行われることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
プラスチック成形材料が注型内にある間に、ステップcにおいて転換温度の調整が行われることを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
プラスチック成形材料の成形とプロセスに起因した冷却との直後に転換温度への加熱が行われ、加熱前に、成形プロセスに由来するかなりの余熱がプラスチック成形材料中になお含まれていることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
成形されたプラスチック成形材料が、転換温度を調整するために炉内、特に熱風炉内に運ばれることを特徴とする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
プラスチック部品が、少なくとも方法ステップcおよび/またはdの間、保護ガス雰囲気内にあることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
転換時間が概ね1分未満ではないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
転換時間が概ね5分未満ではないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
転換時間が概ね30分未満ではないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
転換時間が概ね100分未満ではなく、特に概ね120分未満ではないことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
転換時間が概ね3時間以上ではないことを特徴とする、請求項1〜27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
プラスチック成形材料が結晶化促進剤、特にガラス繊維または鉱物粒子、主にナノ粒子の成分を含むことを特徴とする、先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法により製造されたプラスチック部品を含む装置。
【請求項31】
装置が自動車用熱交換器であることを特徴とする、請求項30記載の装置。
【請求項32】
プラスチック部品が自動車用給気冷却器のハウジング部品であることを特徴とする、請求項30または31記載の装置。
【請求項33】
プラスチック部品が自動車用主エンジン冷却器の冷却材箱のハウジング部品であることを特徴とする、請求項30または31記載の装置。
【請求項34】
プラスチック部品が油冷却器のハウジング部品であることを特徴とする、請求項30または31記載の装置。
【請求項35】
プラスチック部品が自動車室内ヒータのヒータコアの部材であることを特徴とする、請求項30または31記載の装置。
【請求項36】
プラスチック部品がサーモスタットの部材であることを特徴とする、請求項30記載の装置。
【請求項37】
プラスチック部品が燃料ヒータの部材であることを特徴とする、請求項30記載の装置。
【請求項38】
装置が、特に油、冷却材または空気を案内するための管路であることを特徴とする、請求項30記載の装置。
【請求項39】
プラスチック部品がファンのロータであることを特徴とする、請求項30記載の装置。
【請求項40】
プラスチック部品が、特に自動車の空調装置冷凍回路中の管路、特にホースであることを特徴とする、請求項30記載の装置。

【公表番号】特表2008−534320(P2008−534320A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503407(P2008−503407)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002598
【国際公開番号】WO2006/103013
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(594042033)ベール ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー (222)
【Fターム(参考)】