説明

プラズマ処理装置及びコンタクトプローブの表面改質方法

【課題】コンタクトプローブの先端部に抵抗率が10−2Ω・m以下、硬度が600Hv以上のDLC膜を被覆する技術及びプラズマ処理装置を提供し、この導電性DLCを被覆したコンタクトプローブ及びこのプローブを用いたプローブカードを提供する。
【解決手段】コンタクトプローブ基材の先端部に加わる高電界を緩和する構造の支持手段にコンタクトプローブ基材を挟止し、プラズマ処理装置内で前記プローブ基材表面をクリーニングする工程と、前記基材表面に窒素イオンと炭素イオンを照射して基材金属の窒化物と炭化物の混合被膜を形成する工程と、炭化水素ガス放電プラズマを発生させ、コンタクトプローブの先端部に導電性DLC被膜を形成する工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI等の半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられるプローブカード用コンタクトプローブの表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の半導体集積回路を構成する半導体ウエハの製造工程において、半導体ウエハ上の集積回路等の電気的諸特性を測定するためにプローブカードが使用される。プローブカードに用いられる測定用コンタクトプローブには、耐摩耗性、可撓性等が要求されることからタングステン、レニウムタングステン、銅ベリリウム、パラジウム銀系合金などが素材として用いられる。
【0003】
一方、プローブカードによる測定対象物であるLSI等の半導体集積回路の電極パッドには、一般的にアルミニウムやアルミニウム合金が採用されている。これらの電極パッドに接触する微細なコンタクトプローブの先端部は通電時に加熱され、プローブの先端部に電極パッドから剥がれたアルミニウム屑が付着して酸化され、接触抵抗が増大するため正確な電気諸特性が測定できなくなる。従って、コンタクト回数に応じてアルミニウム酸化物を毎回除去しなければならないと云う煩わしさがあった。また、頻繁にプローブカードを交換する必要があった。
【0004】
この問題を解決する方法として前記コンタクトプローブの少なくとも先端部にアルミニウムが凝着し難いダイヤモンドライクカーボン膜(以下、DLC膜と略記する)をコーティングする技術が開発されてきた。従来の製造方法によるDLC膜は、一般的に電気的に絶縁性膜であるか高抵抗膜である。従って、低抵抗のDLC膜を得るために導電性微粒子を含むDLC膜や金属元素を添加したDLC膜が開発されてきた。
【0005】
特許文献1では、タングステンまたはレニウムタングステンからなるプローブの先端部の少なくとも接触部に金属を含むDLC膜を形成する技術が開示されている。前記混入金属としては、タングステン、モリブデン、金、銀、ニッケル、コバルト、クロム、パラジウム、ロジウム、鉄、インジウム、スズ、鉛、アルミニウム、タンタル、チタン、銅、マンガン、白金、ビスマス、亜鉛、カドミウムのうちの少なくとも1種類の元素を含むものとされ、その含有量は1重量%以上50重量%以下とされている。
【0006】
しかし、特許文献1によれば、カーボンだけからなるDLC膜の抵抗率は251.6Ω・m、タングステンを12.5重量%含むDLC膜の抵抗率は34.11Ω・m、モリブデンを12.5重量%含むDLC膜の抵抗率は5.82Ω・mで、タングステンだけからなるコンタクトプローブの抵抗率10−6Ω・mオーダーに比較して極めて大きいことが示されている。実際のプローブ先端の接触部における電気抵抗は数十Ωから数kΩになり、接触部が発熱するという課題があった。発熱を抑制するには、コンタクトプローブ先端部のDLC膜の抵抗率を10−2Ω・m以下に低減する必要がある。
【0007】
また、プラズマ処理装置内で前記コンタクトプローブの先端部に負のバイアス電圧を印加して密着性に優れたDLC被膜を形成する場合、前記コンタクトプローブの先端部に高電界が集中するためコンタクトプローブの先端部に異常放電が発生し、コンタクトプローブの先端部が損傷を受けるという課題があった。
【0008】
更に、低効率が10−2Ω・m以下の導電性DLC被膜を形成するためには、前記コンタクトプローブの先端部を250℃乃至450℃に保持してDLC被膜を形成する必要があるが、微細なコンタクトプローブの先端部を加熱する方法及びその温度を制御する方法が確立されていないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−289874号公報(日本電子材料(株))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて発明されたもので、前記コンタクトプローブの少なくとも先端部に抵抗率が10−2Ω・m以下、硬度が600Hv以上のDLC膜をコーティングする技術及びプラズマ処理装置を提供し、長期間安定に使用できるコンタクトプローブの表面改質方法、及びこの表面改質方法によって製造されたコンタクトプローブ、及び該コンタクトプローブを用いたプローブカードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係るプラズマ処理装置は、プラズマ処理容器と、該プラズマ処理容器内を真空排気する真空排気手段と、原料ガスを導入する原料ガス導入手段と、前記プラズマ処理容器内に放電プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、被加工物を支持する支持手段と、前記被加工物の表面にプラズマを接触させて表面改質するためのバイアス電圧を印加するバイアス電源とを備えたプラズマ処理装置において、前記支持手段がコンタクトプローブ基材を挟止する構造であって、前記コンタクトプローブの先端部の周囲に切欠部を有する構造の支持手段であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係るプラズマ処理装置は、請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記支持手段が前記コンタクトプローブ基材を挟止する構造であって、コンタクトプローブの先端部の周囲に切欠部を有し、前記コンタクトプローブの先端部と前記支持手段の放電プラズマに対向する面とがほぼ同一面となるように狭止されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3に係るプラズマ処理装置は、請求項1又は2記載のプラズマ処理装置において、前記支持手段に電気的に絶縁された加熱手段及び温度制御装置が付随していることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4に係るプラズマ処理装置は、請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記放電プラズマ発生手段が低インダクタンス誘導結合型高周波アンテナであることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5に係るプラズマ処理装置は、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記バイアス電源が電圧1kV乃至15kVの負のパルス電圧を出力するパルス電源であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項6に係るプラズマ処理装置は、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記バイアス電源が電圧200V乃至1kVの負の脈流電圧又は直流電圧を出力する電源であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項7に係るコンタクトプローブの表面改質方法は、プラズマ処理容器内に前記コンタクトプローブ基材を挟止した前記支持手段を設置し、前記プラズマ処理容器内にアルゴンガスを導入して、プラズマ発生手段によって放電プラズマを発生させ、該放電プラズマに前記コンタクトプローブ基材の少なくとも先端部を接触させ、前記支持具とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加してプローブ基材表面をクリーニングする工程(a)と、窒素又は窒素化合物ガスと炭化水素ガスを含む放電プラズマを発生させ、前記支持具とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加して前記基材表面に窒素イオンと炭素イオンを照射して基材金属の窒化物と炭化物の混合被膜を形成する工程(b)と、更に炭化水素ガスを導入して放電プラズマを発生させ、前記支持具とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加して前記混合被膜表面に導電性ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成する工程(c)とからなることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項8に係るコンタクトプローブの表面改質方法は、請求項7に記載のコンタクトプローブ表面改質方法に関し、前記工程(a)から(c)において、前記負のバイアス電圧が波高値1kV乃至15kVの負のパルス電圧であることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項9に係るコンタクトプローブの表面改質方法は、請求項7に記載のコンタクトプローブ表面改質方法に関し、前記工程(c)において、前記負のバイアス電圧が200V乃至1kVの負の脈流電圧又は直流電圧であることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項10に係るプコンタクトローブの表面改質方法は、請求項7から9のいずれかに記載のプローブ表面改質方法の工程(c)において、前記プローブ基材の温度を250℃乃至450℃に保持してダイヤモンドライクカーボン被膜を形成することを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項11に係るコンタクトプローブの表面改質方法は、請求項7から10のいずれかに記載のコンタクトプローブ表面改質方法において、前記導電性ダイヤモンドライクカーボン被膜の電気抵抗率が10−2Ω・m乃至10−5Ω・m、硬度が600Hv乃至2000Hvの導電性ダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項12に係るプローブカードは本発明の請求項1から6のいずれかに記載のプラズマ処理装置及び/又は請求項7から11のいずれかに記載の表面改質方法によって表面改質されたコンタクトプローブを用いて製造する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって、前記コンタクトプローブの少なくとも先端部に抵抗率が10−2Ω・m以下、硬度が600Hv以上のDLC膜をコーティングできるプラズマ処理装置及びコンタクトプローブの表面改質方法を提供し、このプラズマ処理装置及びコンタクトプローブの表面改質方法によって、長期間安定に使用できるコンタクトプローブの製造を可能にし、このプローブを用いたプローブカードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の模式図である。
【図2】本発明に係る被加工物支持手段の一実施形態の斜視図である。
【図3】本発明に係るコンタクトプローブの表面改質方法の概略工程図である。
【図4】本発明に係る導電性DLC皮膜のXRDによる評価結果を示す図である。
【図5】本発明に係る導電性DLC皮膜の抵抗率と基材温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係るプラズマ処理装置は、プラズマ処理容器と、該プラズマ処理容器内を真空排気する真空排気手段と、原料ガスを導入する原料ガス導入手段と、前記プラズマ処理容器内に放電プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、被加工物を支持する支持手段と、前記被加工物の表面にプラズマを接触させて表面改質するためのバイアス電圧を印加するバイアス電源とを備えたプラズマ処理装置において、前記支持手段がコンタクトプローブ基材を挟止する構造であって、前記コンタクトプローブの先端部の周囲に切欠部を有する構造の支持手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置である。
【0026】
本発明に係るプラズマ処理装置の模式図を図1に示す。プラズマ発生手段は、前記プラズマ処理容器21内に低インダクタンス誘導結合型高周波アンテナ22がフィードスルー32を介して導入されている。前記誘導結合型高周波アンテナは整合器24を介して高周波電源23に接続されている。原料ガスはガス導入口33から導入され、真空排気手段(図示せず)によって排気口34から排気され、原料ガス圧力が調整される。前記支持手段25は前記誘導結合型高周波アンテナ22に対向して設置され、その一方の面に被加工物であるコンタクトプローブ26が挟止され、他方の面には絶縁板30を挟んで加熱板29が取り付けられている。前記支持手段はアルミニウム等の電気伝導及び熱伝導に優れた材料で構成され、フィードスルー32を介してバイアス電源28に接続されている。また、加熱板はフィードスルー32を介して温度制御装置31に接続されている。
【0027】
本発明に係る前記支持手段25の一実施形態の斜視図を図2に示す。前記支持手段は支持具25aと支持具25bから構成され、両者間にコンタクトプローブ26が挟止された構造とする。コンタクトプローブ26の先端部261の周囲に切欠部27を設ける。前記コンタクトプローブの先端部261と前記支持手段25の放電プラズマに対向する面251とがほぼ同一面となるように狭止する。
【0028】
このような構成とすることによって、コンタクトプローブ基材に高電圧のバイアス電圧、例えば5kV以上の負のパルス電圧を印加した時にコンタクトプローブの先端部261に高電界が集中するのを緩和することができる。従って、プローブ先端部261へのスパーク放電等による損傷を回避できる効果がある。この構成の他の効果は、支持手段25を所定温度に加熱することによって、熱伝導と輻射熱によって前記コンタクトプローブ及びその先端部261の温度を所定温度に保持することができることである。
【0029】
前記コンタクトプローブの先端部261と前記支持手段25の放電プラズマに対向する面251とがほぼ同一面となるように狭止するということは、完全に同一面である必要はなく、上記二つの効果が発揮できる範囲であれば、前記コンタクトプローブの先端部261が支持手段25の放電プラズマに対向する面251よりも突出していてもよいことを意味している。前記コンタクトプローブの先端部261が支持手段25の面251より若干沈降していることが望ましい。
【0030】
前記切欠部27の役割は、プローブ先端部に発生する高電界を緩和すると同時にプローブ先端部の周囲にイオン照射を可能にし、導電性DLC被膜の形成に不可欠なものである。その形状は、図2に示すような溝形状とすることができるが、溝形状に特定されるものではなく、前記二つの効果を損なわない形状、例えば、コンタクトプローブの先端部を中心とする円筒状、或いは楕円筒状とすることができる。また、切欠部の大きさ及び深さも特定されるものではなく、印加するバイアス電圧やDLC被膜の被覆領域を考慮して設計される事項である。
【0031】
加熱手段としては電気加熱プレート、或いはランプ加熱を採用することができる。前記放電プラズマ発生手段は棒状又はコの字形の低インダクタンス誘導結合型高周波アンテナ(LIA:Low Inductance Antenna)を採用することができる。LIAによるICPでは密度が1011個/cm以上の放電プラズマが容易に得られ、導電性DLC被膜を形成するのに好適である。高周波電力の周波数は特に限定されるものではないが、13.56MHz乃至54MHzの高周波電力が好適である。
【0032】
前記バイアス電源28は、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加して基材表面に高エネルギーイオンを照射するためのもので、出力電圧1kV〜15kV、パルス幅2μs〜10μs、繰り返し周波数1kHz〜4kHzの負のパルス電圧を発生するパルス電源である。また、導電性DLC被膜を形成する工程では、1keV以下の低エネルギーイオンを照射することができ、電圧200V〜1000V、周波数10kHz〜100kHzの負の脈流電圧、又は直流電圧を発生するバイアス電源を使用することができる。
【0033】
本発明に係るコンタクトプローブの表面改質方法は、前記プラズマ処理容器内に設置した支持手段にコンタクトプローブ基材を挟止し、プラズマ処理容器内にアルゴンガスを導入して、プラズマ発生手段によって放電プラズマを発生させ、該放電プラズマに前記コンタクトプローブ基材の少なくとも先端部を接触させ、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加してプローブ基材表面をクリーニングする工程(a)と、窒素又は窒素化合物ガスと炭化水素ガスを含む放電プラズマを発生させ、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加して前記基材表面に窒素イオンと炭素イオンを照射して基材金属の窒化物と炭化物の混合被膜を形成する工程(b)と、更に炭化水素ガスを導入して放電プラズマを発生させ、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加して前記混合被膜表面に導電性DLC被膜を形成する工程(c)とからなる。
【0034】
本発明に係るコンタクトプローブの表面改質方法の概略工程を図3に示す。工程(a)では、コンタクトプローブ基材の表面をクリーニングする工程でアルゴンガス又はアルゴンと水素の混合ガスの放電プラズマ中で前記支持手段とコンタクトプローブ基材に5〜15kVの負のパルス電圧を印加し、アルゴンイオン及び水素イオンを照射してクリーニング処理を行う。一般的に金属基材の表面には絶縁物である金属酸化物が存在するが、これを除去する。
【0035】
工程(b)では、窒素化合物ガス、例えば窒素ガスと炭化水素ガスの放電プラズマを発生させ、窒素イオン及び炭素イオンを前記コンタクトプローブ基材に5〜15kVの負のパルス電圧を印加してイオン照射する。一例としてタングステンプローブ基材11の場合、基材表面に窒素及び炭素との化合物、WN,WC及びWCN等の混合物被膜12が形成される。これらの混合物被膜は基材11とこの表面に製膜する導電性DLC被膜13との密着性の改善と導電性DLC被膜13の成長に不可欠な工程である。窒素ガスと炭化水素ガスの混合割合は基材の材質によって調整することが望ましい。また、工程の前半では10keV以上の高エネルギー窒素イオンを照射し、後半では10keV以下の低エネルギー炭素イオンを照射して傾斜機能被膜を形成することができる。
【0036】
工程(c)では、炭化水素ガスを導入して放電プラズマを発生させ、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧、例えば負のパルス電圧を印加して前記混合被膜表面に導電性DLC被膜を積層する。負のパルス電圧としては、1kV乃至10kV、デュティ比0.3%乃至10%のパルス電圧を用いることができる。前記導電性DLC被膜の電気抵抗率は10−2Ω・m以下であることが望ましく10−3Ω・m乃至10−5Ω・mである。また、硬度は600Hv乃至2000Hvの導電性DLC被膜であることが望ましい。
【0037】
本発明に係る工程(a)では、コンタクトプローブ基材表面をスパッタエッチするため、また、工程(b)では窒素イオン及び炭素イオンを注入するため、前記負のバイアス電圧は波高値が1kV以上、好ましくは5kV乃至15kVの負のパルス電圧であることが望ましい。更に、工程(c)では、前記負のバイアス電圧として前記負の高電圧パルスに加えて、200V乃至1kVの負の脈流電圧又は直流電圧を印加して導電性DLC被膜を形成することができる。
【0038】
本発明によれば、工程(c)においては、前記プローブ基材の温度を250℃乃至450℃に保持して導電性DLC被膜を形成する。発明者らの実験結果によれば、抵抗率10−2Ω・m以下、硬度1000Hv以上の導電性DLC被膜を得るには基材温度が前記温度範囲であることが不可欠である。
【0039】
上記表面改質方法によって表面改質したコンタクトプローブを用いれば、集積回路等の電極パッド金属が凝着しない、且つ耐摩耗性に優れたプローブカードを提供することができる。
【実施例1】
【0040】
以下、コンタクトプローブの表面改質方法について図1を用いて説明する。プラズマ処理装置21内に誘導結合型高周波アンテナ22を設置し、該高周波アンテナに対向して前記コンタクトプローブ基材26を挟止した支持手段25を配置した。支持手段の背面に絶縁板30を介して加熱板29を取り付けた。コンタクトプローブにはレニウム入りタングステン基材を使用し、その温度は温度制御装置31によって所定温度に保持した。
【0041】
工程(a)では、前記プラズマ処理装置内を予め高真空に排気して十分ガス出しした後、ガス導入口33から水素ガス20%とアルゴンガス80%の混合ガスを導入して圧力0.6パスカルに調整し、周波数13.56MHz、出力1kWの高周波電力を誘導結合型高周波アンテナ22に給電して放電プラズマを発生させた。前記支持手段25及びコンタクトプローブ基材26に10kVの負のパルス電圧を印加して前記コンタクトプローブ基材表面をクリーニングした。前記支持手段25及びコンタクトプローブ基材26は300℃に保持した。
【0042】
次ぎに工程(b)では、原料ガスとして窒素ガス70%とアセチレンガス30%の混合ガスを導入してガス圧力を0.5パスカルに調整し、前記高周波アンテナ22に700Wの電力を給電して放電プラズマを発生させた。支持手段25には−15kV、パルス幅5μs、繰り返し周波数1kHzのパルス電圧を印加した。前記支持手段及びコンタクトプローブ基材はイオン照射によって加熱されるため、加熱板29に加える電力を制御してほぼ300℃に保持した。この条件で10分間イオン照射した後、窒素ガス30%、アセチレンガス70%に混合割合を変えて、10分間イオン照射した。
【0043】
工程(c)では、原料ガスとしてメタンガス70%とアセチレンガス30%の混合ガスを導入してガス圧力を0.8パスカルに調整し、前記高周波アンテナ22に700Wの電力を給電して放電プラズマを発生させた。支持手段25には−5kV、パルス幅5μs、繰り返し周波数2kHzのパルス電圧を印加した。前記支持手段及びコンタクトプローブ基材の温度は220℃から450℃まで変化させてDLC被膜を形成した。前記製膜条件で15分間製膜して厚さ0.2μmの導電性DLC膜を得た。
【0044】
本発明に係る導電性DLC膜の物性及び電気特性を評価するために、前記コンタクトプローブ先端部へのDLC被膜形成と同時にシリコン基板の酸化膜上に導電性DLC膜を形成し、その特性を評価した。XRDによるX線解析結果を図4に示す。24度と45度近辺のブロードなピークはsp結合のグラファイト微結晶によるものであり、50度付近の鋭いピークはsp結合のダイヤモンド微結晶(200面)によるものである。本発明によるDLC膜は非晶質炭素の中にsp結合のグラファイト微結晶とsp結合のダイヤモンド微結晶が混在しているものであることが明らかになった。
【0045】
4探針測定器Napson、RT−7による抵抗率の測定結果を図5に示す。DLC被膜の抵抗率は基板温度220℃では2×10−2Ω・m、400℃で1.2×10−4Ω・mで、基板温度が高くなると抵抗率が低下することが分かる。基板温度が高いほど微結晶の割合が増加することによるものと考えられる。
【実施例2】
【0046】
工程(a)及び工程(b)は実施例1と同条件で行い、工程(c)では、原料ガスとしてメタンガス70%とアセチレンガス30%の混合ガスを導入してガス圧力を0.8パスカルに調整し、前記高周波アンテナ22に700Wの電力を給電して放電プラズマを発生させた。支持手段25及びコンタクトプローブ基材26には−900V、パルス幅15μs、繰り返し周波数33kHzのパルス電圧を印加した。前記支持手段及びコンタクトプローブ基材の温度は250℃から450℃まで変化させてDLC被膜を形成した。前記製膜条件で15分間製膜して厚さ0.25μmの導電性DLC膜を得た。
【0047】
4探針法による抵抗率の測定結果を図5に示す。実施例1と同様に基板温度とともに抵抗率が低下することが明らかになった。
【0048】
上記実施例では、放電プラズマ発生手段にLIAによるICP放電プラズマを用いたが、これに特定されるものではなくプラズマ密度が1011個/cm程度以上の放電プラズマが発生できるプラズマ発生手段、例えばCCP放電プラズマ、ECR放電プラズマ、直流グロー放電等によるプラズマ発生手段を採用することができ、導電性DLC被膜の成膜方法としてプラズマイオン注入成膜法(PBIID)、プラズマCVD法、スパッタ法、真空アーク蒸着法等を用いることができることは云うまでもない。また、工程(c)における原料ガスはメタンガスとアセチレンガスに限定さえるものではなく、エタン、エチレン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素ガス、或いはこれらの混合ガスを用いることができる。
【0049】
更に、上記実施例では、コンタクトブローブにレニウム入りタングステン基材を使用した実施例について説明したが、銅合金やアルミニウム合金のコンタクトプローブ基材にも適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
11、26 コンタクトプローブ基材
12 窒化物・炭化物混合被膜
13 導電性DLC被膜
21 プラズマ処理容器
22 誘導結合型アンテナ
23 高周波電源
24 整合器
25 支持手段
27 切欠部
28 バイアス電源
29、加熱板
31 温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理容器と、該プラズマ処理容器内を真空排気する真空排気手段と、原料ガスを導入する原料ガス導入手段と、前記プラズマ処理容器内に放電プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、被加工物を支持する支持手段と、前記被加工物の表面にプラズマを接触させて表面改質するためのバイアス電圧を印加するバイアス電源とを備えたプラズマ処理装置において、前記支持手段がコンタクトプローブ基材を挟止する構造であって、前記コンタクトプローブの先端部の周囲に切欠部を有する構造の支持手段であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記支持手段が前記コンタクトプローブ基材を挟止する構造であって、コンタクトプローブの先端部の周囲に切欠部を有し、前記コンタクトプローブの先端部と前記支持手段の放電プラズマに対向する面とがほぼ同一面となるように狭止されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記支持手段に電気的に絶縁された加熱手段及び温度制御装置が付随していることを特徴とする請求項1及び2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記放電プラズマ発生手段が低インダクタンス誘導結合型高周波アンテナであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記バイアス電源が電圧1kV乃至15kVの負のパルス電圧を出力するパルス電源であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記バイアス電源が電圧200V乃至1kVの負の脈流電圧又は直流電圧を出力するバイアス電源であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
プラズマ処理容器内に前記コンタクトプローブ基材を挟止した前記支持手段を設置し、前記プラズマ処理容器内にアルゴンガスを導入して、プラズマ発生手段によって放電プラズマを発生させ、該放電プラズマに前記コンタクトプローブ基材の少なくとも先端部を接触させ、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加してプローブ基材表面をクリーニングする工程(a)と、窒素又は窒素化合物ガスと炭化水素ガスを含む放電プラズマを発生させ、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加して前記基材表面に窒素イオンと炭素イオンを照射して基材金属の窒化物と炭化物の混合被膜を形成する工程(b)と、更に炭化水素ガスを導入して放電プラズマを発生させ、前記支持手段とコンタクトプローブ基材に負のバイアス電圧を印加して前記混合被膜表面に導電性ダイヤモンドライクカーボン被膜を形成する工程(c)とからなることを特徴とするコンタクトプローブの表面改質方法。
【請求項8】
前記工程(a)から(c)において、前記負のバイアス電圧が波高値1kV乃至15kVの負のパルス電圧であることを特徴とする請求項7に記載のコンタクトプローブの表面改質方法。
【請求項9】
前記工程(c)において、前記負のバイアス電圧が200V乃至1kVの負の脈流電圧又は直流電圧であることを特徴とする請求項7に記載のコンタクトプローブの表面改質方法。
【請求項10】
前記工程(c)において、前記支持手段及びプローブ基材の温度を250℃乃至450℃に保持してダイヤモンドライクカーボン被膜を形成することを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のプローブの表面改質方法。
【請求項11】
前記導電性ダイヤモンドライクカーボン被膜の電気抵抗率が10−2Ω・m乃至10−5Ω・m、硬度が600Hv乃至2000Hvの導電性ダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載のコンタクトプローブの表面改質方法。
【請求項12】
上記請求項1から6のいずれかに記載のプラズマ処理装置及び/又は請求項7から11のいずれかに記載の表面改質方法によって表面改質されたコンタクトプローブ及びこのプローブを用いて製造されたプローブカード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−21223(P2012−21223A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173995(P2010−173995)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(303029317)株式会社プラズマイオンアシスト (17)
【Fターム(参考)】