説明

プラズマ処理装置

【課題】プラズマ中で発生した不要物質を速やかに排気することができ、かつ基板上での処理の均一性が良く、さらに生産性の高いプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】真空容器内に、カソード電極ユニットと、基板保持機構とを備え、カソード電極ユニットに電源が接続されたプラズマ処理装置であって、カソード電極ユニットは、カソード板6と、カソード板に隣接する第1の排気室7と、該第1の排気室に隣接する給気室8と、給気室に隣接する第2の排気室9とを備え、給気室は、ガス流入口13を備え、第2の排気室は、ガス排出口16を備え、カソード板は、カソード板を貫通する複数の給気孔11および複数の排気孔12を備え、複数の給気孔と給気室は、第1の排気室を貫通する複数の給気流路14により連結され、第1の排気室と第2の排気室は、給気室を貫通する複数の排気流路15により連結される構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ中で発生した不要物質を除去しつつ均一な処理を可能としたプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより太陽光発電が注目されてきており、各種の太陽電池が開発、実用化されてきている。中でもシリコン原料の使用量が少なく大量生産に向いている薄膜シリコン型太陽電池は生産規模が拡大されつつある。しかし、薄膜シリコン型太陽電池には光照射により経時的に発電効率が低下する、いわゆる光劣化という問題があり、エネルギー変換効率向上へ向けたさらなる改善が求められている。
【0003】
薄膜シリコン型太陽電池に用いられる水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)薄膜は、シランガス(SiH)を原料としたプラズマCVD法により成膜されることが多い。シランガスはプラズマ内で分解され、主要成膜種であるSiHラジカルなどが生成し、成膜種が基板に到達することにより薄膜が形成される。ところが、プラズマ内ではSiHラジカルなどの成膜種以外に、高次シラン(Si、m≧4)やパーティクルといった不要物質も生成される。このような不要物質が膜中に混入することが原因となり光劣化を引き起こすといわれている。このような不要物質が膜中に混入すると、結合手を4個持つシリコン原子1つにつき2つの水素原子および2つのシリコン原子と結合しているシリコン原子の数が増加する。すなわち、いわゆるSi−H結合濃度が膜中で増加する。非特許文献1によると、膜中のSi−H結合濃度と光劣化の度合いには相関関係があり、光劣化を防ぐためには膜中Si−H結合濃度を小さくする必要があるとされている。よって、光劣化を防止するためには高次シランやパーティクルといった不要物質を膜中に混入させない工夫が必要である。
【0004】
図7は従来の一般的な平行平板型プラズマCVD装置の概略断面図である。真空容器1の内部にはカソード電極26と接地電極27が対向して配置され、真空容器1に接続した真空排気装置17により容器内を低圧に保つ。カソード電極26にはシャワーヘッド状の給気孔11が設けられ、真空容器1内に給気孔11からシランガスなどの原料ガスを供給した上で、カソード電極26に接続した電源19により電力を供給してプラズマ2を発生させる。プラズマ2によって原料ガスを分解することにより発生した成膜種を用いて、接地電極27上に保持した基板4上に薄膜を形成する。
【0005】
図7のような一般的な平行平板型プラズマCVD装置の場合、接地電極27上に設置した基板4表面の近傍までプラズマ2が広がって存在する。上述した高次シランやパーティクルといった不要物質は主にプラズマの内部で生成されるため、不要物質が膜中に混入する頻度は高くなってしまう。そのため、発生した不要物質を速やかに排気するための工夫がこれまでになされてきた。
【0006】
例えば特許文献1では、多孔高周波電極と多孔接地電極を対面配置して多孔高周波電極と多孔接地電極の孔内にプラズマを発生させ、多孔高周波電極と多孔接地電極の孔内に基板側からガスを導通させている。孔内に生じる高速のガス流れによるガス粘性力をラージクラスタと呼ばれる不要物質に働かせることにより、不要物質を除去して高品質なa−Si:H膜を形成できるとしている。
【0007】
また、特許文献2では、放電用平行電極の一方の表面にガス導入口およびガス排気口を設けている。基板と反対方向へ排気することにより、プラズマ中における拡散長の短い重い核種をガス流を利用して選択的に排気する作用があるとしている。
【0008】
特許文献3では、RF電極またはアース電極のどちらか一方であって基板と対向する側の電極の表面に、内径がデバイ長さ以下の複数のガス排気口を全面にわたって分布させる方法が開示されている。この複数のガス排気口を備える電極の内部にはガス室が形成され、電極表面には前記ガス室からプラズマ空間へガスを放出するための複数のガス吹き出し口が設けられ、隣接するガス吹き出し口の間にプラズマ空間内のガスを排気するためのガス排気口が設けられており、ガス排気口から延びる排気ノズルは電極の表面から裏面まで貫通する構造となっている。このような電極構成により、プラズマ空間内にガスが均等に供給され、また均等に排気されるため、ガス濃度に偏りが生じることなくプラズマ密度を均一にすることができ、表面処理をムラなく行うことができるとしている。
【0009】
特許文献4では、ガス供給用の複数のガス吐出口を有するガス供給体とガス排気用の複数のガス吸入口を有するガス排気体を備えるプラズマCVD装置の構成が開示されている。ガス吐出口とガス吸入口は、基板の前面空間に生成されたプラズマ中に材料ガスを供給し、かつ化学反応で生成された不要物質を速やかに排気できるように、互いに近接した位置関係で形成されている。これにより基板の前面空間でガスを速やかに吸引して外部へ排気できるため、プラズマ中にて生じた不要物質が反応容器内に残留する時間を短くでき、不要物質が薄膜に与える悪影響を防止し、薄膜品質を向上できるとしている。
【0010】
しかしながら、発生した不要物質を速やかに排気しつつ基板上での処理を均一性良くかつ生産性良く実施しようとした場合、次のような問題があった。
まず特許文献1の方法では、ガスの導入は基板側に設置したガス導入パイプに設けたガス導入口から行うものとなっており、ガスの導入は基板の周辺からとなってしまうため、特に大面積基板への処理を考えた場合においてガスを基板面内に均一に導入するのが困難であるという問題がある。
また特許文献2の方法は、複数のガス導入用小穴同士を電極内部のガス通路によって連結する構成である。このガス通路は複数の排ガス用穴を避ける形で敷設する必要があり、排ガス用穴を多数設けようとした場合ガス通路は非常に幅の狭いものとなってしまい、ガス通路の長手方向での圧損が大きくなる。さらにガス通路へのガスの導入は電極の端部からとなるため、電極の端部と中央部とでガスの供給量が均一にならないという問題がある。
【0011】
特許文献3の方法は、プラズマ空間内のガスを排気するためのガス排気口から延びる排気ノズルが、電極の表面から裏面まで貫通する構造となっている。このため、ガス排気口を電極表面に多数設けようとした場合、電極内部空間のほとんどが排気ノズルで占有されることになり、供給ガスのためのガス室を設けるスペースが確保できなくなってしまうという問題があった。
【0012】
特許文献4の方法では、電極内部における電極表面側から順に排気用空間、その隣にガス導入空間を備える構成である。ガス導入空間に供給されたガスは複数のパイプ状通路を通って分散状態で電極表面から供給できるとされている。しかし、排気の流れを考えると、ガス吸入口から排気用空間に流れ込んだガスは電極端部方向から真空ポンプなどのガス排気系へ導かれる構造となっており、結果として電極端部からの排気に比べて電極中央部からの排気が弱くなってしまい、排気の流れが電極面内において均一にならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開WO2006/022179号公報
【特許文献2】特開2007−214296号公報
【特許文献3】特開平6−124906号公報
【特許文献4】特開2000−12471号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】応用物理 第71巻 第7号(2002)、p.823−832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、発生した不要物質を速やかに排気することができ、かつ基板上での処理の均一性が良く、さらに生産性の高いプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、内部を減圧に保持する真空排気装置を備えた真空容器内に、カソード電極ユニットと、該カソード電極ユニットに対向して基板を保持する基板保持機構とを備え、該カソード電極ユニットに電源が接続されたプラズマ処理装置であって、前記カソード電極ユニットは、カソード板と、該カソード板に隣接する第1の排気室と、該第1の排気室に隣接する給気室と、該給気室に隣接する第2の排気室とを備え、前記給気室は、ガス流入口を備え、前記第2の排気室は、ガス排出口を備え、前記カソード板は、該カソード板を貫通する複数の給気孔および複数の排気孔を備え、前記複数の給気孔と前記給気室は、前記第1の排気室を貫通する複数の給気流路により連結され、前記第1の排気室と前記第2の排気室は、前記給気室を貫通する複数の排気流路により連結される、プラズマ処理装置を提供する。
【0017】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記給気室のガス流入口を、前記給気室と前記第2の排気室を隔てる隔壁に設けた、プラズマ処理装置を提供する。
また、本発明の好ましい形態によれば、前記カソード板が、厚さ方向に分割可能である、
プラズマ処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下に説明するとおり、プラズマCVDなどのプラズマ処理プロセスにおいて、プラズマ内で発生した処理に不要または処理に悪影響を与える物質を速やかに系外に排出することができ、かつガスの給気および排気の流れを均一にすることにより処理の均一性に優れ、また排気孔密度を高めることにより生産性に優れるプラズマ処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のプラズマ処理装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明におけるカソード電極ユニットの概略断面斜視図である。
【図3】本発明のプラズマ処理装置の別の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明におけるカソード電極ユニットの別の一例を示す概略断面斜視図である。
【図5】本発明のプラズマ処理装置のさらに別の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明のプラズマ処理装置のさらに他の一例を示す概略断面図である。
【図7】従来の平行平板型プラズマ処理装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の最良の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明のプラズマ処理装置の一例を示す概略断面図である。本発明のプラズマ処理装置は、真空容器1の内部に、プラズマ2を発生させるためのカソード電極ユニット3と、前記カソード電極ユニット3に対向して基板4を保持する基板保持機構5を備える。
【0022】
図2は、前記カソード電極ユニット3の概略断面斜視図である。前記カソード電極ユニット3は、カソード板6と、カソード板6に隣接して配置される第1の排気室7と、第1の排気室7に隣接して配置される給気室8と、給気室8に隣接して配置される第2の排気室9とを備えている。
前記カソード板6は、カソード電極ユニット3の構成要素の中で最も前記基板4に近い位置に配置され、前記基板4に対して平行に配置される板状の構成物である。前記カソード板6は、成膜空間10にガスを供給するための複数の給気孔11を備える。前記給気孔11は、前記カソード板6及び第1の排気室7を貫通する給気流路14により給気室8に連通するように形成される。また、前記カソード板6は成膜空間10からガスを排気するための複数の排気孔12を備える。排気孔12は、前記カソード板6を貫通して第1の排気室7に連通するように形成される。給気孔11の内径は、大きすぎるとプラズマ2が給気孔11内部に入り込んで給気孔11内部に膜が形成され詰まってしまい、また小さすぎると十分な量のガスが通過できなかったり給気孔11の形成にコストがかかりすぎてしまったりするため、0.2mm以上1.5mm以下が好ましく、0.4mm以上1.1mm以下がより好ましい。排気孔12の内径は、大きすぎるとプラズマ2が第1の排気室7の内部にまで侵入して排気室7の内壁面を汚してしまう恐れがあり、また小さすぎると排気コンダクタンスが小さくなり十分な排気能力が得られなくなってしまうため、5mm以上15mm以下が好ましく、8mm以上12mm以下がより好ましい。カソード板6の厚さは任意のものでよいが、薄すぎると機械的強度が弱く変形する恐れがあり、厚すぎると排気孔12の長さが長くなり排気コンダクタンスが悪くなる恐れがあるため、5mm以上20mm以下が好ましい。
前記給気室8は、給気室8内にガスを供給するためのガス流入口13を備える。ガス流入口13にはガス供給管22が接続され、必要なガスが供給される。ガス流入口13は1箇所であっても良いが、基板4の全面へできる限り均一にガスを供給するという観点から、複数箇所設けることが好ましい。ガス流入口13から流入したガスは、給気室8内に拡散する。ガスを基板4の前面へ均一に供給するためには、給気室8内での圧力差をできる限り小さくした方が好ましい。そのためには、給気室8の容積はできるだけ大きくした方が好ましいが、大きすぎるとカソード電極ユニット3が大きなものとなるためメンテナンス性や経済性が悪化する。したがって、給気室8の容積に影響する給気室8の高さは、10mm以上35mm以下が好ましく、15mm以上25mm以下がより好ましい。
前記カソード板6の複数の給気孔11は、前記第1の排気室7を貫通する複数の給気流路14により、前記給気室8と連結される。この給気流路14により、前記給気室8内のガスが前記複数の給気孔11に送られ、給気孔11から成膜空間10にガスが供給される。複数の給気流路14は、細い中空パイプなどを用いて形成することができる。前記第1の排気室7の容積をできるだけ大きく保つため、用いる中空パイプの外径はできる限り小さいほうが好ましいが、供給するガスが必要量通過するために十分な内径を確保することが好ましい。したがって、給気流路14として中空パイプを用いる場合、その外径は0.5mm以上1.5mm以下が好ましく、0.7mm以上1.3mm以下がより好ましい。
成膜空間10で使用されたガスおよび成膜空間10で発生した不要物質は、前記カソード板6の排気孔12により成膜空間10から排出される。これらの排出されたガスおよび不要物質は、一旦前記第1の排気室7に入る。第1の排気室7の容積は、小さすぎると複数の排気孔12からの均一な排気が困難となり、また大きすぎるとカソード電極ユニット3が大きくなりメンテナンス性や経済性が悪化する。そのため、第1の排気室7の高さは、10mm以上30mm以下が好ましく、15mm以上25mm以下がより好ましい。
前記第1の排気室7と前記第2の排気室9とは、前記給気室8を貫通する複数の排気流路15により連通している。第1の排気室7に流れ込んだガスおよび不要物質は、この排気流路15を通って第2の排気室9に流れ込む。複数の排気流路15の断面形状は任意の形状で構わないが、製作の容易さなどを考慮して円筒形であることが好ましい。排気流路15の個数は、前記カソード板6に設けた排気孔12と同数でも構わないが、例えば前記排気孔12を高密度に多数設けた場合、排気流路15を同数設けようとすると給気室8の容積が十分に確保できない場合が生じることがある。そのような時は、排気流路15の数を排気孔12の数よりも少なくすることが好ましい。また、排気流路15の内径を排気孔12の内径よりも小さくしてもよい。ただし、排気流路15の数が少なすぎたり、排気流路15の内径が小さすぎたりすると、排気のコンダクタンスが小さくなりすぎてしまい排気能力が十分確保できない場合がある。したがって、排気流路15の内径は排気孔12の内径の0.5〜1倍、排気流路15の数は排気孔12の数の0.5〜1倍であることが好ましい。本発明では、上述したようにカソード板6に排気孔12を高密度に多数設けることができるため、カソード板6の全面にわたって均一にガスを排気することができ、大面積基板でも均一な成膜が可能となる。また、本発明のカソード電極ユニット3ではカソード板6に設けた排気孔12の内部にプラズマを入り込ませた状態で成膜することも可能である。排気孔12の内部に入り込んだプラズマはホローカソード効果によって密度の高いスポット状のプラズマとなる。このときカソード板6に設けた排気孔12を高密度に多数設けることによって、密度の高いスポット状のプラズマを多数発生させることができるため、高い成膜速度を実現することができ、生産性が向上する。
第2の排気室9の容積は、複数の排気流路15からガスおよび不要物質を均等に排出するためにできるだけ大きい方が好ましいが、大きすぎるとカソード電極ユニット3が大きくなりメンテナンス性や経済性が悪化する。そのため、第2の排気室9の高さは、20mm以上40mm以下が好ましく、25mm以上35mm以下がより好ましい。
第2の排気室9に流れ込んだガスおよび不要物質は、第2の排気室9に設けられたガス排出口16から真空排気装置17へと送られる。ガス排出口16は1箇所でも構わないが、特に大面積基板を処理するためのカソード電極ユニット3の場合は、ガスおよび不要物質を均一に成膜空間10から排出するために、複数のガス排出口16を分散させて配置することが好ましい。
前記カソード電極ユニット3は、真空容器1とは電気的に絶縁して固定されている。例えば、図1のように絶縁物18を介して真空容器1に固定するなどすればよい。
【0023】
前記カソード電極ユニット3には、プラズマ2を発生させるための電力を印加する電源19が接続される。電源19としては高周波電源、パルス電源、DC電源など任意のものを使用してよい。また、高周波電源を用いる場合の周波数も任意に選択して構わないが、VHF帯の高周波電源を用いると低電子温度かつ高密度のプラズマを生成しやすいため好ましい。また高周波電源19の出力にパルス変調や振幅変調などをかけてもよい。
前記基板保持機構5にはヒーターなどの基板加熱機構20を備えていてもよい。また、カソード電極ユニット3の側面にはカソード電極と1mm程度の空間を挟んでアースシールド21を設けることが好ましい。アースシールド21を設けることにより、カソード電極ユニット3の側面での不要なプラズマ生成を防ぐことができるため、好ましい。
図3は本発明のプラズマ処理装置の別の一例を示す概略断面図である。また、図4は本発明におけるカソード電極ユニットの別の一例を示す概略断面斜視図である。前記給気室8へのガス流入口13は、図1のように給気室8の側面に設けても構わないが、図3および図4に示すように前記給気室8と前記第2の排気室9とを隔てる隔壁に設けることが、より好ましい。特に1m角以上の大面積基板を処理するためのカソード電極ユニット3の場合、ガス流入口13が給気室8の側面にしかないと基板4の中央部よりも周辺部でガスの供給量が多くなってしまう場合がある。これに対し、給気室8と前記第2の排気室9との隔壁に、基板4の面内方向に複数のガス流入口13を分散させて設けると、基板4の面内方向に均一にガスを導入することができるため、好ましい。
本発明においては、前記カソード板6は、厚さ方向に分割可能であることが、メンテナンス性の観点から好ましい。図5はカソード板6を厚さ方向に分割した場合のプラズマ処理装置の断面図である。図5は分割枚数を2枚とした場合の例であるが、分割枚数は2枚以上であれば特に制限されない。前記複数の給気流路14は、前述の通り細い中空パイプなどで形成することができる。多数の細いパイプなどで前記給気室8と前記カソード板6の給気孔11を連結しているため、組み立てには手間と時間を要する。一方前記カソード板6は、プラズマ処理を行うことにより汚れてくることがある。特にプラズマCVDを行う場合、カソード板6にも薄膜が付着するため、定期的なカソード板6の清掃や交換が必要となる。この時、カソード板6を分割可能としておけば、カソード板6の取り外しが必要となったとき、カソード板の基板側部分6aのみを取り外し、カソード板の第1の排気室側部分6bをカソード電極ユニット3に残しておくことで、前記複数の給気流路14の分解や再組み立てが不要となり、メンテナンスの手間や時間を削減できるため、好ましい。
なお、真空容器1には真空排気装置17とは別の補助真空排気装置23が接続されていても構わない。
図6は、本発明のプラズマ処理装置のさらに他の一例を示す概略断面図である。図6のように、前記カソード電極ユニット3と前記基板保持機構5との間に、アノード電極24を備えていてもよい。アノード電極24の電位は接地電位にすることが好ましい。またアノード電極24は、前記カソード板6と平行に近接して配置し、アノード電極24における前記カソード電極6の排気孔12に対向する位置に貫通孔25を設けることが好ましい。このようなアノード電極24を配置することで、プラズマ2をカソード板6の排気孔12内に局在させて発生させることができ、基板4へのプラズマダメージを防ぐことができるため、好ましい。前記カソード板6とアノード電極24との距離は近すぎるとカソード板6とアノード電極24とが接触して電気的に短絡する恐れがあり、遠すぎるとカソード板6の排気孔12内にプラズマ2を確実に局在させることができないため、0.5mm以上3mm以下が好ましく、0.8mm以上1.5mm以下がより好ましい。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
次に、上で述べたプラズマ処理装置をプラズマCVDによるアモルファスシリコン薄膜の形成に適用した場合について説明する。
【0025】
図1のプラズマ処理装置を用いて、プラズマCVDによりアモルファスシリコン薄膜を作成した。基板4として100mm角のガラス基板を用いた。カソード板6は185mm角の大きさとし、厚さ20mmのものを使用した。カソード板6には直径10mmの排気孔12を169個格子状に配置した。またカソード板6には直径0.5mmの給気孔11を72個格子状に配置した。また、給気室8を貫通する複数の排気流路15として、内径10mmの円筒状排気経路を85本設けた。
原料ガスとしてシランガス30sccmをガス供給管22を通じてカソード板6に設けたガス給気孔8から成膜空間10へ供給し、真空容器1内部の圧力を30Paに調節した。電源19として周波数60MHzの高周波電源を用いた。カソード電極ユニット3に50Wの電力を供給して、500nmの厚さのアモルファスシリコン薄膜を形成した。この時、基板4の表面に形成された薄膜の膜厚分布は±10%以内であった。
(実施例2)
図3のプラズマ処理装置を用いて、実施例1と同様にしてアモルファスシリコン薄膜を作成した。実施例1とは給気室8のガス流入口13が給気室8と第2の排気室9とを隔てる隔壁に設けていることが異なり、他は同一条件でアモルファスシリコン薄膜を形成した。この時、基板4の表面に形成された500nmの厚さのアモルファスシリコン薄膜の膜厚分布は±7%以内であった。
(実施例3)
図5のプラズマ処理装置を用いて、実施例2と同様にしてアモルファスシリコン薄膜を作成した。実施例2とはカソード板6が厚さ方向に分割可能であることが異なる。成膜後、カソード板9の表面への着膜が観察されたが、カソード板9の基板側部分のみを取り外し、清掃後もとに戻すことにより、カソード電極ユニット3の分解が不要でメンテナンス時間を大幅に短縮できることを確認した。
(比較例)
図7に示す従来の平行平板型プラズマ処理装置を用いて、実施例1と同様の条件にてアモルファスシリコン薄膜を作成した。この時、基板4の表面に形成された500nmの厚さのアモルファスシリコン薄膜の膜厚分布は±15%以内であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、プラズマ処理装置のうちのプラズマCVD装置に限らず、プラズマエッチング装置やプラズマ表面改質装置などその他のプラズマ処理装置にも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0027】
1 真空容器
2 プラズマ
3 カソード電極ユニット
4 基板
5 基板保持機構
6 カソード板
7 第1の排気室
8 給気室
9 第2の排気室
10 成膜空間
11 給気孔
12 排気孔
13 ガス流入口
14 給気流路
15 排気流路
16 ガス排出口
17 真空排気装置
18 絶縁物
19 電源
20 基板加熱機構
21 アースシールド
22 ガス供給管
23 補助真空排気装置
24 アノード電極
25 貫通孔
26 カソード電極
27 接地電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を減圧に保持する真空排気装置を備えた真空容器内に、
カソード電極ユニットと、
該カソード電極ユニットに対向して基板を保持する基板保持機構とを備え、
該カソード電極ユニットに電源が接続されたプラズマ処理装置であって、
前記カソード電極ユニットは、
カソード板と、
該カソード板に隣接する第1の排気室と、
該第1の排気室に隣接する給気室と、
該給気室に隣接する第2の排気室とを備え、
前記給気室は、ガス流入口を備え、
前記第2の排気室は、ガス排出口を備え、
前記カソード板は、該カソード板を貫通する複数の給気孔および複数の排気孔を備え、
前記複数の給気孔と前記給気室は、前記第1の排気室を貫通する複数の給気流路により連結され、
前記第1の排気室と前記第2の排気室は、前記給気室を貫通する複数の排気流路により連結される、
プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記給気室のガス流入口を、前記給気室と前記第2の排気室を隔てる隔壁に設けた、
請求項1のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記カソード板が、厚さ方向に分割可能である、
請求項1または2のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−209456(P2012−209456A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74641(P2011−74641)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】