説明

プラズマCVD成膜装置およびそれを用いた成膜方法

【課題】長時間成膜を行った場合でも高品質の薄膜を安定して形成することができるプラズマCVD成膜装置およびそれを用いた成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜を行うための成膜室2を備え、成膜室2内にカソード電極3と、カソード電極3に対向して配置されたアノード電極4とを設けているプラズマCVD成膜装置1において、カソード電極3とアノード電極4との間に配置されたメッシュ状電極7を備え、メッシュ状電極7にパルス状電圧を印加し、パルス状電圧の波形Pがアノード電極4の電圧に対して負の電位となる負電圧と、0Vまたは正電圧とを交互に印加するように形成されていることを特徴とするプラズマCVD成膜装置1およびそれを用いた成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD法によって薄膜を形成する成膜装置およびそれを用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン薄膜およびダイヤモンド状のカーボン薄膜などを形成する方法として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)が広く用いられている。このプラズマCVDには、容量結合型CVD、誘導結合型CVD、マイクロ波CVD、ECR−CVDなど多くの成膜方法が存在する。これらの中で特に容量結合型CVDの成膜方法は、平行平板に形成された一対の電極から構成されており、他の方法と比較して簡単な構造となっている。そのため、この容量結合型CVDは多くの分野で用いられている。
【0003】
このような容量結合型の成膜装置は、装置内に設けられた成膜室(真空槽)と、この成膜室の中に設けられたカソード電極およびアノード電極とを備えている。カソード電極およびアノード電極は平板形状に形成されている。また、カソード電極およびアノード電極は、この平板形状の平面部分を互いに向き合わせて、かつ互いに対して平行に配置されている。このような装置を用いて、成膜室内に原料ガスを充填し、カソード電極とアノード電極との間に成膜を行う対象物を設置する。その後、カソード電極とアノード電極との間に高周波電圧を印加し、プラズマを発生させて、対象物に薄膜を形成する方法が広く用いられている。
【0004】
特に、プラズマCVD法によってシリコン薄膜を形成する方法は、薄膜型の太陽電池などに用いられている。このような太陽電池は、バルク結晶シリコン太陽電池など他の種類の太陽電池に比べて少ない原料でシリコン薄膜を形成でき、フレキシブル基板にシリコン薄膜を形成できるという利点を有している。
【0005】
また、シリコン薄膜は水素で希釈したシランガスをプラズマ中で分解することによって基板上に堆積されるものであり、さらに基板温度およびシランガスの希釈率などを制御することによって、水素化アモルファスシリコン薄膜および微結晶シリコン薄膜が形成されることとなる。
【0006】
また薄膜を形成する際に、不純物元素を含むポスフィンおよびジボランガスを原料ガスに添加することによって、n型およびp型の半導体膜が形成されることとなる。太陽電池は、n型半導体膜、不純物をドープしないi型半導体膜およびp型半導体膜を積層することによって作製されている。
【0007】
プラズマCVDでは基板にイオンを入射することにより半導体膜が形成されるが、このイオンが入射時に基板上に既に堆積されている半導体膜に衝撃を加え、半導体膜に欠陥が発生するおそれがある。このような欠陥が含まれる半導体膜を使用する場合、この欠陥が、光で励起された電子とホールとの再結合を促し、半導体膜の特性に影響を与えることとなる。この欠陥の発生を防ぐため、プラズマCVDでは、イオンの入射により半導体膜に加えられる衝撃を抑えることが必要となる。
【0008】
また、原料ガスに含まれるシランガスをプラズマ中で分解して生成された前駆体のうちのSiH2が半導体膜の中に入ると、このSiH2前駆体が光劣化の原因物質となるおそれがある。また、SiH2前駆体は成膜室内にパウダーと呼ばれる粉状物を発生させる原因となり、このパウダーが成膜室内に溜まると、装置の清掃に非常に手間を要することとなる。
【0009】
これに対して、特許文献1および特許文献2では、カソード電極とアノード電極との間にメッシュ状電極を設け、成膜する基板を設置したアノード電極に対して負の電位となる電圧をメッシュ状電極に印加する装置およびそれを用いた方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−289530号公報
【特許文献2】特開2006−19593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された装置および方法では、長時間に渡って成膜が行われた場合、メッシュ状電極にSi系薄膜など絶縁性の薄膜が堆積され、カソード電極とアノード電極との間に電圧をかけてもプラズマが正常に発生せず、成膜対象物に薄膜が形成され難くなるおそれがある、また異常放電が発生するおそれがある。
【0011】
そこで本発明の課題は、長時間成膜を行った場合でも高品質の薄膜を安定して形成することができるプラズマCVD成膜装置およびそれを用いた成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題を解決するために本発明のプラズマCVD成膜装置は、成膜を行うための成膜室を備え、該成膜室内にカソード電極と、該カソード電極に対向して配置されたアノード電極とを設けているプラズマCVD成膜装置において、前記カソード電極と前記アノード電極との間に配置されたメッシュ状電極を備え、該メッシュ状電極にパルス状電圧を印加し、該パルス状電圧の波形が前記アノード電極の電圧に対して負の電位となる負電圧と、0Vまたは正電圧とを交互に印加するように形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、前記パルス状電圧の最大負電圧が−800V〜−200Vであり、前記パルス状電圧の周波数が1kHz〜250kHzであり、前記パルス状電圧の一周期の時間に対する前記パルス状電圧の0Vまたは正電圧を印加する時間の比が2%〜20%になっている。
【0014】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、前記カソード電極または前記アノード電極のいずれか一方が成膜対象物を取付けるための導電性のホルダーとして構成され、容量結合型放電が行われる構成となっている。
【0015】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、Si系薄膜を形成するために、原料ガスにSi系化合物ガスが用いられている。
【0016】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、n型半導体またはp型半導体を作製するために、原料ガスに不純物ガスが添加されている。
【0017】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、前記対象物が基板であり、該基板自体が導電性であるか、または前記基板の表面が導電性になっており、前記基板は、アースされ、または電源に接続されるように前記ホルダーに電気的に接続されている。
【0018】
本発明のプラズマCVD成膜装置は、成膜を行うための成膜室を備え、該成膜室内にカソード電極と、該カソード電極と対向してかつ略平行に配置されたアノード電極とを設けているプラズマCVD成膜装置において、前記カソード電極と前記アノード電極との間で、かつ前記カソード電極および前記アノード電極に対してワイヤーを略平行に並べて配置することによって形成されたラダー状電極を備え、該ラダー状電極にパルス状電圧を印加し、該パルス状電圧の波形が前記アノード電極の電圧に対して負の電位となる負電圧と、0Vまたは正電圧とを交互に印加するように形成されていることを特徴としている。
【0019】
本発明の成膜方法は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置を用いるステップを含んでいる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプラズマCVD成膜装置およびそれを用いた成膜方法によれば、以下の効果を得ることができる。本発明のプラズマCVD成膜装置は、成膜を行うための成膜室を備え、該成膜室内にカソード電極と、該カソード電極に対向して配置されたアノード電極とを設けているプラズマCVD成膜装置において、前記カソード電極と前記アノード電極との間に配置されたメッシュ状電極を備え、該メッシュ状電極にパルス状電圧を印加し、該パルス状電圧の波形が前記アノード電極の電圧に対して負の電位となる負電圧と、0Vまたは正電圧とを交互に印加するように形成されていることを特徴としている。そのため、長時間に渡って成膜を行った場合などに、前記メッシュ状電極に負電圧を印加して溜まった正電荷が、0Vまたは正電圧を印加することにより除電されることとなる。従って、前記メッシュ電極に絶縁膜が堆積した場合でも、帯電しないこととなる。その結果、前記カソード電極と前記アノード電極との間に安定した電圧をかけて、安定してプラズマを発生させることができ、また異常放電の発生を防止することができる。よって、安定した成膜を行うことができる。
【0021】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、前記パルス状電圧の最大負電圧が−800V〜−200Vであり、前記パルス状電圧の周波数が1kHz〜250kHzであり、前記パルス状電圧の一周期の時間に対する前記パルス状電圧の0Vまたは正電圧を印加する時間の比が2%〜20%になっており、このような条件を満たすことにより異常放電の発生を確実に防ぐことができ、前記メッシュ状電極に確実に電圧をかけて、安定した成膜を行うことができる。
【0022】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、前記カソード電極または前記アノード電極のいずれか一方が成膜対象物を取付けるための導電性のホルダーとして構成され、容量結合型放電が行われる構成となっており、平行平板の電極から構成される容量結合型の成膜装置の構造は、他のプラズマCVDの成膜方法のものと比較して簡単であるため、前記プラズマCVD成膜装置を作製し易くすることができる。
【0023】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、Si系薄膜を形成するために、原料ガスにSi系化合物ガスが用いられており、上述のように安定した成膜を行うことによって高品質のSi系薄膜を形成することができる。
【0024】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、n型半導体またはp型半導体を作製するために、原料ガスに不純物ガスが添加されており、上述のように安定した成膜を行うことによって高品質のn型半導体およびp型半導体を作製することができる。
【0025】
本発明のプラズマCVD成膜装置では、前記対象物が基板であり、該基板自体が導電性であるか、または前記基板の表面が導電性になっており、前記基板は、アースされ、または電源に接続されるように前記ホルダーに電気的に接続されており、前記成膜室内で発生するプラズマと前記アノード電極との間が絶縁されず、前記カソード電極と前記アノード電極との間が、絶縁膜により遮られなくなり、高周波に対する容量が小さくなることを防止できる。よって、前記基板に対して安定して成膜を行うことができる。
【0026】
本発明のプラズマCVD成膜装置は、成膜を行うための成膜室を備え、該成膜室内にカソード電極と、該カソード電極と対向してかつ略平行に配置されたアノード電極とを設けているプラズマCVD成膜装置において、前記カソード電極と前記アノード電極との間で、かつ前記カソード電極および前記アノード電極に対してワイヤーを略平行に並べて配置することによって形成されたラダー状電極を備え、該ラダー状電極にパルス状電圧を印加し、該パルス状電圧の波形が前記アノード電極の電圧に対して負の電位となる負電圧と、0Vまたは正電圧とを交互に印加するように形成されていることを特徴としている。そのため、長時間に渡って成膜を行った場合などに、前記ラダー状電極に負電圧を印加して溜まった正電荷が、0Vまたは正電圧を印加することにより除電されることとなる。従って、前記メッシュ電極に絶縁膜が堆積した場合でも、帯電しないこととなる。その結果、前記カソード電極と前記アノード電極との間に安定した電圧をかけて、安定してプラズマを発生させることができ、また異常放電の発生を防止することができる。よって、安定した成膜を行うことができる。
【0027】
本発明の成膜方法は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置を用いるステップを含んでいる。そのため、上述したような安定した成膜が行われることによって高品質の薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の実施形態のプラズマCVD成膜装置およびそれを用いた成膜方法に関して、太陽電池の基板へのSi系薄膜の成膜を用いて説明するものとする。図1は本発明の実施に用いた容量結合型プラズマCVD成膜装置1における電極構成を示す模式図である。プラズマCVD成膜装置1内には成膜室2が設けられ、成膜室2には真空ポンプ(図示せず)が圧力コントローラ(図示せず)を介して取付けられている。成膜室2の中にカソード電極3とアノード電極4とが設けられている。
【0029】
カソード電極3およびアノード電極4は、ステンレス製であり、略円板形状に形成されている。また、カソード電極3およびアノード電極4は、略円板形状の平面部分を互いに向かい合わせて、かつ互いに略平行に配置されている。カソード電極3はコンデンサ5を介して高周波電源6に接続されており、アノード電極4は高周波電源6に直接に接続されている。アノード電極4は成膜対象の基板Bを取付けるためのホルダーとして構成されており、いわゆる平行平板の容量結合型の成膜装置となっている。このような成膜装置は他のプラズマCVDの成膜方法のものと比較して簡単であり、プラズマCVD成膜装置1は作製し易い構造となっている。
【0030】
アノード電極4には基板5を任意の温度に加熱するためのヒーター(図示せず)が設けられている。アノード電極4と基板Bとが電気的に接続されるように、基板Bの外表面が導電性を有するような構成となっている。従って、成膜室2内で発生するプラズマとアノード電極4との間が絶縁されず、カソード電極3とアノード電極4との間が、絶縁膜により遮られなくなり、高周波に対する容量が小さくなることを防止できる。よって、基板Bに対して安定して成膜を行うことができる。
【0031】
また、本発明のプラズマCVD成膜装置1はメッシュ状電極7を備えている。このメッシュ状電極7は、金属製のワイヤーを編むことにより構成されており、メッシュ状電極7の外形は略円板形状となっている。また、メッシュ状電極7は、カソード電極3とアノード電極4との間で、アノード電極4寄りに配置されている。
【0032】
さらに、メッシュ状電極7は、略円板形状の2つの平面部分をそれぞれカソード電極3とアノード電極4とに向かい合わせて、かつアノード電極4近傍でカソード電極3およびアノード電極4に対してそれぞれ略平行になるように配置されている。メッシュ状電極7は直流パルス電源8に接続されており、アノード電極4もまた直流パルス電源8に接続されている。また、アノード電極4はアース9と接続されている。さらに、プラズマCVD成膜装置1は成膜に用いる原料ガスを制御するためのマスフローコントローラ(図示せず)を備えている。Si系薄膜を形成するための原料ガスには水素およびシランなどのSi系化合物が用いられ、マスフローコントローラにより基板Bの温度およびシランガスの希釈率が制御されて、アモルファスSiおよび微結晶SiなどのSi系薄膜が形成されることとなる。このような構成において、高品質のSi系薄膜が形成されることとなる。
【0033】
図2はメッシュ状電極7に印加されるパルス状電圧の波形Pを示しており、縦軸は電圧の大きさVを表し、横軸は時間Tを表している。パルス状電圧の波形Pは、時間t1の間に負電圧である電圧v1を印加し、時間t2の間に0Vまたは正電圧である電圧v2を印加している。また、パルス状電圧の波形Pは周期t0で電圧v1と電圧v2とを1回ずつ交互に印加するように形成されており、この周期はt0=t1+t2の関係となっている。
【0034】
次に本発明のプラズマCVD成膜装置1を用いた成膜方法の説明を行う。ホルダーとして構成されたアノード電極4に基板Bを取付ける。成膜室2内の圧力を圧力コントローラにより任意の圧力に設定する。原料ガスをカソード電極3の表面からシャワー状に供給する。高周波電願6によりカソード電極3に電圧を印加し、カソード電極3とアノード電極4との間にプラズマを発生させる。このとき、パルス状電圧をメッシュ状電極7に印加する。
【0035】
このような手順を経て、基板Bの外表面に薄膜が形成されることとなる。また、メッシュ状電極7にはパルス状電圧が印加されており、負電圧である電圧v1を印加しているときは正電荷が蓄積されるが、0Vまたは正電圧である電圧v2を印加しているときこの蓄積された正電荷が除電されることとなる。
【0036】
そのため、長時間に渡って成膜を行った場合などに、メッシュ状電極7に負電圧を印加して溜まった正電荷が、0Vまたは正電圧を印加することにより除電されることとなる。従って、前記メッシュ電極に絶縁膜が堆積した場合でも、帯電しないこととなる。その結果、カソード電極3とアノード電極4との間に安定した電圧をかけて、安定してプラズマを発生させることができ、また異常放電の発生を防止することができる。よって、安定した成膜を行うことができ、高品質の薄膜を形成することができる。
【実施例1】
【0037】
カソード電極3およびアノード電極4は直径180mmの円板形状に形成されており、カソード電極3とアノード電極4との間の電極間距離は20mmになっている。メッシュ状電極7は直径0.2mmのステンレス製ワイヤーを0.65mm間隔の格子状に編みこんだ形状となっており、メッシュ状電極7の外形は直径180mmの円板形状となっている。また、メッシュ状電極7は、アノード電極4と5mmの距離を空けた位置に配置されている。基板Bは、アノード電極4と電気的に接続させるため、厚さ50μmのポリイミドフィルムにスパッタ法を用いて厚さ200nmのAg電極を表面に形成して作製されている。
【0038】
次にパルス状電圧は、周波数を100kHzとし、電圧v1を−200Vとし、電圧v2を10Vとし、電圧v2を印加する時間をt2とし、一周期の時間をt0とすると、パルス状電圧の一周期の時間t0に対するパルス状電圧の0Vまたは正電圧を印加する時間t2の比であるいわゆるデューティー比t2/t0が10%になっている。
【0039】
このようなプラズマCVD成膜装置1を用いて基板Bを成膜する際には、シランガス10sccmと水素ガス300sccmとを、原料ガスとして成膜室2内に充填する。成膜室2内の圧力を3torrになるように制御する。高周波電源6により周波数27MHzで15Wの電力をカソード電極3に供給する。成膜時間を100分とし、成膜を10回繰り返す。
【0040】
このような成膜を行った際に直流パルス電源8に流れた電流について、1回目の成膜での実行値が0.6Aであり、この値は成膜を10回繰り返しても変化せず、安定して成膜が行われていることを示す結果となった。
【0041】
成膜を10回繰り返した内の1回目に形成された薄膜を測定した。薄膜の厚さは1.8μmになっていた。ラマン分光測定により測定した波数520cm-1の結晶Si散乱強度Icと波数480cm-1のアモルファスSi散乱強度Iaとの比Ic/Iaが8.0と大きくなっており、微結晶Si系薄膜であることを確認できる値になっていた。そして2回目以降に形成された薄膜も同様の値を示しており、繰返し成膜を行っても変化がなく、再現性の良い成膜ができることが確認できた。
【0042】
(比較例1)
メッシュ状電極7に電圧−200Vの直流電圧を印加する以外は、実施例1と同様にして基板Bに成膜を行った。
【0043】
このような成膜を行った際に直流パルス電源8に流れた電流について、1回目の成膜での実行値が0.7Aであり、2回目以降の成膜での実行値は減少して、8回目以降の成膜での実行値は0.1A以下となりほとんど電流の流れていない状態となっていた。従って、安定して成膜が行われていないことを示す結果となった。
【0044】
成膜を10回繰り返した内の1回目に形成された薄膜を測定した。薄膜の厚さは1.8μmになっていた。ラマン分光測定により測定した波数520cm-1の結晶Si散乱強度Icと波数480cm-1のアモルファスSi散乱強度Iaとの比Ic/Iaの値が8.0と大きくなっており、微結晶Si膜であることを確認できる値になっていた。しかしながら、2回目以降に形成された薄膜の厚さおよびIc/Iaの値は減少し、8回目に形成された薄膜の厚さは1.4μmと薄くなり、Ic/Iaの値は4.5と小さくなっていた。従って、成膜の速度が減少し、結晶性が劣化しており、繰返し成膜を行う際の再現性が良くないことが確認できた。
【0045】
(比較例2)
メッシュ状電極7を設けていない以外は、実施例1と同様にして基板Bに成膜を行った。
【0046】
成膜を10回繰り返した内の1回目に形成された薄膜を測定した。薄膜の厚さは2.3μmになっていた。ラマン分光測定により測定した波数520cm-1の結晶Si散乱強度Icと波数480cm-1のアモルファスSi散乱強度Iaとの比Ic/Iaの値が4.5となっていた。そして2回目以降に形成された薄膜も同様の値を示していた。従って、実施例1と比較して成膜の速度がはやいが、薄膜の結晶性が劣っていることが確認できた。
【実施例2】
【0047】
パルス状電圧の電圧v1を−1000V,−800V,−400V,−200Vと変化させる以外は実施例1と同様にして、100分間の成膜を行い、このとき直流パルス電源8に流れた電流の測定を行った。電圧v1が−800V,−400V,−200Vのとき、直流パルス電源8に流れた電流の実行値はそれぞれ、1.0A,0.9A,0.6Aとなった。また、電圧v1が−1000Vのときには異常放電が発生する結果となった。従って、実施例2より、パルス状電圧の最大電圧v1が−800V以上(負電圧である最大電圧v1の絶対値が800V以下)である場合、異常放電の発生を確実に防ぐことができることがわかった。さらに、この測定の結果全体からパルス状電圧の最大電圧v1が−800V〜−200Vの範囲においては、安定して成膜を行うことができることが確認できた。
【実施例3】
【0048】
パルス状電圧の電圧v2を印加する時間t2と周期t0とのデューティー比t2/t0を1%,2%,5%,10%,20%と変化させる以外は実施例1と同様にして、100分間の成膜を行い、このとき直流パルス電源8に流れた電流の測定を行った。デューティー比t2/t0が2%,5%,10%,20%のとき、直流パルス電源8に流れた電流の実行値はそれぞれ、0.3A,0.6A,0.7A,0.8Aとなった。また、デューティー比t2/t0が1%のとき、直流パルス電源8に流れた電流の実行値が0.1A以下とバイアス電圧がかかっておらず、安定して成膜が行われていないことを示す結果となった。従って、実施例3より、前記パルス状電圧の一周期の時間に対するパルス状電圧の0Vまたは正電圧を印加する時間の比であるデューティー比t2/t0が2%以上になっている場合、安定した成膜を行うことができるということがわかった。さらに、この測定の結果全体からパルス状電圧のデューティー比t2/t0が2%〜20%の範囲においては、安定して成膜を行うことができることが確認できた。
【実施例4】
【0049】
パルス状電圧の周波数を0.1kHz,1kHz,10kHz,100kHz,250kHzと変化させる以外は実施例1と同様にして、100分間の成膜を行い、このとき直流パルス電源8に流れた電流の測定を行った。周波数が1kHz,10kHz,100kHz,250kHzのとき、直流パルス電源8に流れた電流の実行値はそれぞれ、0.3A,0.5A,0.6A,0.6Aとなった。また、周波数が0.1kHzのとき、直流パルス電源8に流れた電流の実行値が0.1A以下とバイアス電圧がかかっておらず、安定して成膜が行われていないことを示す結果となった。従って、実施例4より、パルス状電圧の周波数が1kHz以上である場合、安定した成膜を行うことができるということがわかった。さらに、この測定の結果全体からパルス状電圧の周波数が1kHz〜250kHzの範囲においては、安定して成膜を行うことができることが確認できた。
【0050】
(変形例1)
本発明の変形例として、カソード電極3、アノード電極4およびメッシュ状電極7を円板形状以外の形状に形成してもよく、さらに容量結合型以外の方式のプラズマCVD成膜装置に用いてもよい。様々な方式のプラズマCVD成膜装置で高品質の薄膜を形成することができる。
【0051】
(変形例2)
本発明の変形例として、Si系薄膜以外の他の種類の薄膜を作成してもよく、様々な種類の高品質の薄膜を形成することができる。
【0052】
(変形例3)
本発明の変形例として、基板自体が導電性を有するような構造となっていてもよく、基板Bの外表面に導電性を持たせるための加工を施さなくとも、基板Bが、アースされ、または電源に接続されるようにホルダーに電気的に接続されることとなる。そのため、成膜室2内で発生するプラズマとアノード電極4との間が絶縁されないことにより、成膜する部分の高周波に対する容量が小さくならず、基板Bに対しても安定して成膜を行うことができる。
【0053】
(変形例4)
本発明の変形例として、メッシュ状に電極の代わりに金属製のワイヤーをラダー形状(はしご形状)に編んで形成されたラダー状電極(図示せず)を用いてもよく、このような形状の電極を用いたても、メッシュ状電極を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0054】
(変形例5)
本発明の変形例として、不純物元素を含むポスフィンおよびジボランガスなどを原料ガスに添加して、n型半導体またはp型半導体を作製してもよく、高品質のn型半導体およびp型半導体を提供することができる。
【0055】
(変形例6)
本発明の変形例として、太陽電池に限らず多様な製品に用いてもよく、多様な製品で高品質な薄膜を形成することが可能となる。
【0056】
なお、本発明のプラズマCVD成膜装置およびそれを用いた成膜方法は、上述した実施形態、実施例および変形例に限定されるものではなく、本発明の効果が発揮できる構成などを適宜採用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態における容量結合型のプラズマCVD成膜装置の電極構成模式図である。
【図2】本発明の実施形態におけるメッシュ状電極に印加されるパルス状電圧の波形を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
1 プラズマCVD成膜装置
2 成膜室
3 カソード電極
4 アノード電極
5 コンデンサ
6 高周波電源
7 メッシュ状電極
8 直流パルス電源
9 アース
B 基板
P パルス状電圧の波形
V,v1,v2 電圧
T,t1,t2 時間
0 周期

Ia 波数480cm-1のアモルファスSi散乱強度
Ic 波数520cm-1の結晶Si散乱強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜を行うための成膜室を備え、該成膜室内にカソード電極と、該カソード電極に対向して配置されたアノード電極とを設けているプラズマCVD成膜装置において、
前記カソード電極と前記アノード電極との間に配置されたメッシュ状電極を備え、該メッシュ状電極にパルス状電圧を印加し、該パルス状電圧の波形が前記アノード電極の電圧に対して負の電位となる負電圧と、0Vまたは正電圧とを交互に印加するように形成されていることを特徴とするプラズマCVD成膜装置。
【請求項2】
前記パルス状電圧の最大負電圧が−800V〜−200Vであり、前記パルス状電圧の周波数が1kHz〜250kHzであり、前記パルス状電圧の一周期の時間に対する前記パルス状電圧の0Vまたは正電圧を印加する時間の比が2%〜20%になっていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項3】
前記カソード電極または前記アノード電極のいずれか一方が成膜対象物を取付けるための導電性のホルダーとして構成され、容量結合型放電が行われる構成となっていることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項4】
Si系薄膜を形成するために、原料ガスにSi系化合物ガスが用いられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項5】
n型半導体またはp型半導体を作製するために、原料ガスに不純物ガスが添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項6】
前記対象物が基板であり、該基板自体が導電性であるか、または前記基板の表面が導電性になっており、前記基板は、アースされ、または電源に接続されるように前記ホルダーに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項7】
成膜を行うための成膜室を備え、該成膜室内にカソード電極と、該カソード電極と対向してかつ略平行に配置されたアノード電極とを設けているプラズマCVD成膜装置において、
前記カソード電極と前記アノード電極との間で、かつ前記カソード電極および前記アノード電極に対してワイヤーを略平行に並べて配置することによって形成されたラダー状電極を備え、該ラダー状電極にパルス状電圧を印加し、該パルス状電圧の波形が前記アノード電極の電圧に対して負の電位となる負電圧と、0Vまたは正電圧とを交互に印加するように形成されていることを特徴とするプラズマCVD成膜装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置を用いるステップを含む成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−97037(P2009−97037A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269420(P2007−269420)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】