説明

ベルト式無段変速機

【課題】ベルト式無段変速機のベルト滑りを抑制し、ベルトおよびプーリの損傷を防止する。
【解決手段】インプットシャフト速度センサ94とベルト速度センサ98により、プーリの回転速度とベルトの周速度を監視し、これらが一致しなくなったとき、ベルト滑りの発生を判断する。ベルト滑りが発生したとき、前進クラッチ54を解放し、変速機構18と原動機12を分断する。これにより、滑りを解消し、滑りによるベルトまたはプーリの損傷を防止する。再度前進クラッチ54を接続する際、ベルトとプーリの相対速度が一致するよう、移動シーブ64を移動させて変速比を変更する。ベルトの滑り解消後、早期に通常の走行状態に復帰することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機に関し、特に変速比の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用変速機としてベルト式無段変速機が普及している。ベルト式無段変速機は、回転軸が平行に配置された2個のプーリと、これら2個のプーリに巻き掛けられたベルトとを有し、プーリに対するベルト巻き掛かり半径を変更して変速作用を得るものである。個々のプーリは、対向する円錐面を有する2個のシーブを有し、円錐面で形成されるV字形状の溝にベルトが配置され、ベルトは、2個のシーブの円錐面に挟持されている。2個のシーブはその間の距離を変更することができ、これによりV溝の幅が拡縮されて、ベルトの巻き掛かり半径が変更する。これにより、変速比を変更することができる。ベルト式無段変速機が下記特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1は、ベルトとプーリの間に滑りが生じた場合、ベルトとプーリの接触面が損傷し、耐久性を低下させる可能性について言及されている。特許文献1においては、ベルトを挟持するシーブに加える油圧が目標値に達しない場合、目標油圧を高め、ベルトの挟持力を増加し、ベルトの滑りを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−132717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1では、ベルトの挟持力を増加してベルトの滑りを防止しているが、より過酷な条件においては、ベルトの滑りが発生する場合がある。このような条件としては、例えば、急制動時の車輪がロックした状態が挙げられる。車輪がロックしたにもかかわらず、エンジンは慣性で回転し続けようとし、その速度差により、ベルトとプーリの間で滑りが生じる。ベルト挟持力の増加には限界があり、十分にベルトの滑りを防止できず、ベルトまたはプーリが損傷する場合がある。
【0006】
本発明は、ベルトの挟持力の増加とは別の手法により、ベルトの滑りを抑え、ベルト滑りによるベルトまたはプーリの損傷を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るベルト式無段変速機は、原動機の出力軸と一方のプーリとの間に設けられたクラッチ機構と、前記一方のプーリの回転速度を取得するプーリ速度取得手段と、前記クラッチ機構より原動機側の回転速度を取得する原動機側速度取得手段と、ベルトの速度を取得するベルト速度取得手段と、取得されたプーリの回転速度とベルトの速度とに基づき、プーリとベルトの間での滑りの発生を検知する滑り検知手段と、変速機構の変速比を制御する変速比制御手段と、クラッチ機構の動作を制御するクラッチ制御手段と、を有する。
【0008】
滑り検知手段により滑りの発生が検知されると、クラッチ制御手段はクラッチ機構を遮断状態に制御し、遮断後、変速比制御手段は、このとき取得された原動機側速度とベルトの速度とに基づき、プーリとベルトの間で滑りの生じない変速比となるよう変速機構を制御し、変速比が変更された後、クラッチ制御手段はクラッチ機構を接続状態とする。
【発明の効果】
【0009】
変速機構へのトルク入力またはトルク出力を遮断することによりベルトの滑りが防止される。また、トルク遮断中に変速を変更してベルト滑りの発生しない状態でトルク伝達可能な接続状態とし、再走行可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の無段変速機の概略構成を示す骨格図である。
【図2】ベルトの構成を示す図である。
【図3】ベルト速度センサを移動させるための送りねじ機構を示す図である。
【図4】ベルト滑りの防止に係る構成を示すブロック図である。
【図5】ベルト滑りに対応して制御がなされたときのベルト周速度の変化の様子を示す図である。
【図6】ベルト滑りに係る制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。以下の説明においては、ベルト式無段変速機の一例として、ベルト式無段変速機構に加え、トルクコンバータ、前後進切換機構、減速機構、終減速機構を一体にしたトランスアクスルを示す。本発明の要部は、ベルト式無段変速機構および前後進切換機構にあり、他の部分については、以下で示す構成以外の構成により代替した、また一部または全てを省略した変速機についても、本発明に属する。
【0012】
図1は、変速機構としてベルト式無段変速機構を採用した横置き形式のトランスアクスル10の概略構成を示す骨格図である。横置き形式とは、車両の左右方向に、トランスアクスルの主な動力伝達軸を配置する形式をいい、多くの場合、出力軸が左右方向に配置されたエンジン等の原動機と組み合わせて用いられる。また、原動機およびトランスアクスルを車両前部に配置し、前輪を駆動する、いわゆるFF車に適用することができ、また車両後部に配置して後輪を駆動する車両にも適用できる。
【0013】
トランスアクスル10は、ガソリンエンジン等の原動機12に結合されており、原動機と一体となって動力装置を構成している。トランスアクスル10は、原動機12の動力の伝達される順序に従って、トルクコンバータ14、前後進切換機構16、変速機構18、減速機構20、終減速機構22を含む。終減速機構22からは、左右の駆動輪24に向けて、それぞれドライブシャフト26が延び、これに結合されている。
【0014】
トルクコンバータ14は、流体継手の一種であり、車両が停止しているときも、原動機12をアイドリング可能とすることを一つの目的として設けられている。トルクコンバータを採用する他の目的としてトルク増幅作用の利用がある。トルクコンバータのトルク増幅作用に、変速機構18によるトルク増幅作用が合成され、トランスアクスル全体としてより大きなトルク増幅比を得ることが可能となる。また、従来の多段自動変速機と同様の極低速時のクリープ現象を発生させることが可能となり、運転者による速度制御を容易にする。
【0015】
前後進切換機構16は、車両の前進と後進を切り換える機構である。ガソリンエンジンのように原動機12自身が逆転できない場合、この機構により、以降の動力伝達軸の回転方向を逆転させ、車両の後進を可能としている。前後進切換機構16の詳細な構成及び作用については後述する。変速機構18は、入力軸の回転速度を変換して出力軸に伝える機構であり、連続的に変速比を変更できる無段変速機構である。具体的には、変速機構18は、二つのプーリ28,30に巻き渡されたベルト32を含み、それぞれのプーリにおけるベルト32の巻き掛かり半径を変更することにより変速作用を実現している。変速機構18のより詳細な構成及び作用については後述する。減速機構20は、変速機構により変速された回転速度を、更に減速する機構である。上記構成の無段変速機は、変速比を大きくとれないため、これのみでは原動機12の回転速度を車両の駆動に適した速度まで減速することができない。減速機構20は、原動機12の回転速度を後述の終減速機構と共に、十分な速度まで減速するための機構である。減速機構20は、例えば、はす歯歯車のギア対またはギア列で構成され、固定の減速比で、動力伝達を行う。また、減速機構は、チェーンとスプロケット等の巻き掛け式の動力伝達機構を採用することもできる。終減速機構22は、終減速ギア対34および差動機構36を含む。終減速ギア対34は減速機構20と同様に固定された減速比で動力伝達を行う。差動機構36は、左右の駆動輪24の回転速度差を吸収する機能を有する。
【0016】
さらに、上記の各機構について詳細に説明する。原動機12の出力軸38(ガソリンエンジンにあってはクランクシャフト)の端には、ドライブプレート40が結合されている。トルクコンバータ14は、このドライブプレート40に結合される。トルクコンバータ14は、直結クラッチ付きの3要素1段2相形のトルクコンバータであり、その構造は当業者においてよく知られたものであるので、ここでの説明は省略する。トルクコンバータ14の出力側(例えばタービンライナ)は、前後進切換機構16から延びるインプットシャフト42に結合されている。
【0017】
前後進切換機構16は、サンギア44とリングギア46の間に2段のピニオン48,50が配置されたダブルピニオン形式の遊星歯車機構である。サンギア44は、インプットシャフト42上に同軸配置され、これと一体となって回転する。リングギア46は、サンギア44の外側にインプットシャフト42と同軸に配置される。ピニオン48,50は、互いに噛み合い、また内側のピニオン48がサンギア44と、外側のピニオン50がリングギア46と噛み合っている。また、ピニオン48,50は、共に共通のキャリア52上に自転可能に支持されている。キャリア52は、インプットシャフト42の軸線回りに回転可能に支持されており、この回転によってピニオン48,50は公転運動を行う。また、インプットシャフト42上には、インプットシャフト42とキャリア52を接続・分離する前進クラッチ54が設けられ、リングギア46の周囲にはリングギア46の動きを止める、後進ブレーキ56が設けられている。キャリア52は、変速機構18のプライマリシャフト58に結合されている。
【0018】
車両前進時には、前進クラッチ54を接続状態とし、後進ブレーキ56を解放する。前進クラッチ54の接続により、インプットシャフト42からの入力はキャリア52を介してプライマリシャフト58に伝達される。一方、後進時には前進クラッチ54を分離し、後進ブレーキ56によりリングギア46の回転を止める。この状態でサンギア44が回転すると、キャリア52はサンギア44と逆方向に回転する。よって、プライマリシャフト58は、インプットシャフト42と逆方向に回転し、車両を後進させることができる。前進クラッチ54を分離し、かつ後進ブレーキ56を解放すると、インプットシャフト42とプライマリシャフト58は分離された状態となる。このとき、原動機12のトルクは、変速機構18に伝達されず、また車輪24の回転は変速機構18から原動機12に向けて伝達されず、トルク伝達が遮断された状態になる。
【0019】
変速機構18は、平行に配置されたプライマリシャフト58およびセカンダリシャフト60と、これらのシャフト上にそれぞれ配置されたプライマリプーリ28およびセカンダリプーリ30と、さらにこれらのプーリに巻き渡されたベルト32を含む。プライマリプーリ28は、円錐面をそれぞれ有する二つのシーブ62,64を含み、これらのシーブは、円錐面を対向させるように、プライマリシャフト58と同軸に配置される。一方のシーブ62は、プライマリシャフト58に固定され、または一体に形成され、プライマリシャフトと共に回転する。このシーブ62を固定シーブ62と記す。もう一方のシーブ64は、プライマリシャフト58上を、このシャフトに沿って移動可能であり、かつ回転方向においてはシャフト58と共に回転する。このシーブ64を移動シーブ64と記す。二つのシーブ62,64の対向する円錐面によりV字形状の溝66が形成されている。移動シーブ64の背面には、この移動シーブの軸方向に駆動する油圧アクチュエータ68が設けられている。移動シーブ64の移動により、V字溝66の幅が拡縮する。セカンダリプーリ30は、プライマリプーリ28と同様、固定シーブ70と移動シーブ72を含み、二つのシーブの円錐面によりV字形状の溝74が形成されている。移動シーブ72を移動させるために、移動シーブ72の背面に油圧アクチュエータ76が配置されている。
【0020】
ベルト32は、二つのプーリのそれぞれにおいてV字溝66,74に挟まれるように配置され、二つのプーリ28,30に巻き渡されている。ベルト32は、図2に示すように、周方向に配列されたエレメント78と、エレメント78を束ねる2本のリング80を含む。それぞれのリング80は、薄板のリング材を積層して構成されている。エレメント78の側面が各シーブ62,64,70,72の円錐面に接し、各プーリ28,30に挟持されている。移動シーブ64,72を移動させてV字溝66,74の幅を拡縮すると、これに応じてベルト32の巻き掛かり半径が変更される。巻き掛かり半径は、無段階に変更可能であり、これにより、連続的に変速比を変更可能な無段変速機構を得ることができる。また、移動シーブ64,72の移動は、ベルト32が弛まず、またベルト32が所定の力で挟持されるように同期して制御される。
【0021】
セカンダリシャフト76上には駆動側減速ギア82が設けられ、このギア82は中間シャフト84上の被駆動側減速ギア86に噛み合っている。これらのギア82,86により減速機構20が構成される。中間シャフト84上には、さらに終減速ピニオン88が設けられ、これは、デフケース90に結合される終減速リングギア92と噛み合っている。終減速ピニオン88と終減速リングギア92により、終減速ギア対34が構成される。差動機構の構成は、当業者には、よく知られた構成であるので、説明は省略する。
【0022】
インプットシャフト42の回転速度を検出するためのインプットシャフト速度センサ94が、インプットシャフト42に隣接して配置されている。また、セカンダリプーリ30の回転速度を検出するためのセカンダリプーリ速度センサ96が、セカンダリシャフト60に隣接して配置されている。これらの速度センサ94,96は、例えば周知のギャップセンサとすることができ、シャフト42,60に周方向に配列して設けられた歯車状の凹凸形状を検出することによりシャフト42,60の回転速度を検出する。プライマリシャフト58は、前後進切換機構16が前進状態または後進状態に制御されているときには、インプットシャフト42と一定の関係を持って回転している。したがって、インプットシャフト速度センサ94により取得された回転速度から、プライマリシャフト58およびプライマリプーリ28の速度を算出することができる。前述のように前進状態においては、プライマリシャフト58とインプットシャフト42は一体となって回転しているので、インプットシャフト42とプライマリプーリ28の回転速度は一致する。セカンダリシャフト60とセカンダリプーリ30は一体に回転しており、セカンダリシャフト60の回転速度からセカンダリプーリ30の回転速度を取得することができる。
【0023】
ベルト32の周速度を検出するためのベルト速度検出センサ98が、ベルト32の、プライマリプーリ28に巻き掛かっている部分の外周側の面に対向する位置に配置されている。ベルト32のエレメント78は、図2に示すように、外周側の面に凹部100が形成されたエレメント78aと、凹部が設けられていないエレメント78bを含む。ベルト速度検出センサ98は、この凹部100を検出するものである。凹部100を有するエレメント78aは、一定の個数おきに配置され、この間隔は予め既知であり、センサ98の凹部100の検出周期からベルトの周速度を算出することができる。図2に示すベルト32にでは、凹部を有するエレメント78aは、3個おきに配置されるが、この個数については、適宜設定することができる。また、凹部に限らず、ベルトの周方向において、既知の間隔で設けられた検出可能な目印、マーカーを採用することができる。例えば、凹部に替えて凸部を設け、これを検出するようにしてもよい。また、光の反射率の異なる部分を設け、これを検出するようにしていもよい。
【0024】
前述のように、ベルト32は変速比を変更するために、プーリに対する巻き掛かり半径が変更されるようになっている。したがって、ベルト速度センサ98もこのベルト32の動きに移動させる必要がある。図3には、そのための構成が示されいてる。ベルト速度センサ100は、送りねじ機構102により、固定シーブ62の円錐母線に平行に移動可能に設けられている。送りねじ機構102は、ねじ棒104と、モータ106と一体となった送りナットを含む。送りナットは、モータ106に内蔵され、ねじ棒104にねじ結合している。ねじ棒104の先端にベルト速度センサ98が固定され、更にセンサ98には回り止めロッド108が固定されている。回り止めロッド108は、モータ106のケースに固定されたスリーブを貫通し、ベルト速度センサ98およびねじ棒104の回転を規制している。モータ106の回転により送りナットが回転し、この回転運動が、ねじ棒104の軸方向の運動に変換される。ベルト速度センサ98の進退は、変速機構18の変速比の制御に対応して制御され、センサ98の先端が常にベルト32の外周面から所定の距離の位置となるように維持される。
【0025】
図4は、本実施形態のベルト滑り防止にかかる構成を示すブロック図である。プーリ回転速度取得手段110は、インプットシャフト速度センサ94を含み、センサの出力する凹凸形状を示す信号に基づきプーリの回転速度を算出する。ベルト速度取得手段112は、ベルト速度センサ98を含み、センサの出力する凹凸形状に対応した信号に基づきベルトの周速度を算出する。ベルトの巻き掛かり半径は、変速比の関数であるから、ベルトの巻き掛かり位置におけるプーリの周速度が算出できる。滑り検知手段114においては、このプーリの周速度とベルトの周速度を比較して、ベルトとプーリの速度が一致しているか、否かにより滑りが生じているかを検知する。つまり、ベルト速度と、ベルト巻き掛かり位置におけるプーリの速度に相対速度が生じている場合、ベルト滑りが発生しているとする。
【0026】
ベルト滑りが発生した場合、クラッチ制御手段116は、前後進切換機構16の接続されていた前進クラッチ54または後進ブレーキ56を解放し、インプットシャフト42とプライマリシャフト58を分断する。このとき、前後進切換機構16は、前進クラッチ54、後進ブレーキ56のいずれも解放した状態となっている。これにより、変速機構18と原動機12の間のトルク伝達が遮断される。このように、前後進切換機構16は、変速機構18への、または変速機構18からのトルク伝達を遮断するトルク遮断機能を有するクラッチ機構として機能する。
【0027】
クラッチ機構切断後、変速比制御手段118は、インプットシャフト回転速度、すなわちクラッチ機構より原動機側の回転速度とベルト速度取得手段により取得したベルト速度とからクラッチ機構を再度接続状態としたとき、ベルトの滑りが生じない変速比を求め、この変速比に変速機構を制御する。原動機側の回転速度を検出する手段120は、インプットシャフト速度センサ94を含む。再接続時、ベルト滑りが生じない変速比は、インプットシャフトの回転速度から、クラッチ機構を再接続したときのプライマリプーリ28の回転速度を算出し、この回転速度とベルト周速度が一致する巻き掛かり半径を求めて算出される。変速機構18がこの変速比となった状態で、クラッチ機構を接続状態とする。このとき、プーリの回転速度とベルトの周速度は同期しているので、ベルトの滑りは発生しない。
【0028】
図5および図6を用いて、ベルト滑りが生じた時の制御についてより詳細に説明する。ベルト滑りは急ブレーキ時に発生しやすいことが知られており、以下、この状況を例に挙げて説明する。ベルトの周速度Vbelt、プライマリプーリ回転速度Npri 、セカンダリプーリ回転速度Nsec を取得する(S100)。プライマリプーリ回転速度Npri とセカンダリプーリ回転速度Nsec から変速比γを算出する(S102)。さらに、変速比γとベルト巻き掛かり半径rpri ,rsec の関係を予め対応付けておき、この対応関係に基づきプライマリプーリおよびセカンダリプーリのそれぞれにおけるベルト巻き掛かり半径rpri ,rsec を算出する(S102)。
【0029】
プライマリプーリとセカンダリプーリのベルト巻き掛かり半径を比較し、両者が等しいか、セカンダリプーリの半径が小さい場合には、ステップS100に戻る(S104)。これは、ベルトの滑りは、通常プライマリプーリ側で、プライマリプーリの巻き掛かり半径が小さい場合に生じるためである。ステップS104においては、巻き掛かり半径rpri ,rsec を比較したが、変速比γと巻き掛かり半径は所定の関係を有しているので、変速比γを用いて条件を設定してもよい。具体的には、変速比γが1未満のときには、ステップS100に戻るようにすることができる。次に、ベルトの周速度Vbeltとベルト巻き掛かり半径におけるプライマリプーリの周速度Vプーリpri が比較され(S106)、これが等しければ、つまり滑りが生じていなければステップS100に戻る。ベルト滑りが生じなければ、ステップS100〜S106が繰り返される。
【0030】
ブレーキ操作がなされると、車輪と固定の速度比で回転しているセカンダリプーリ30も減速する。この減速が急であると、原動機12の回転部分の慣性によるトルクがベルトとプーリの摩擦力によるトルクを上回り、このときベルトとプーリ間で滑りが発生する。ベルト滑りが生じるとステップS106で、ベルト周速度Vbeltとプライマリプーリ周速度Vプーリpri が等しくなくなる。この時点が図5の時刻t1 である。ステップS104でプライマリプーリの巻き掛かり半径が小さいときに限定されているので、ステップS106で判定されたベルトの滑りは、プライマリプーリ上で生じたものである。ベルトの周速度Vbeltは、時刻t1 から、車輪の回転速度の減少と共に実線に示すように減速する。一方、ステップS106でベルト滑りが検出されると、前進クラッチ54が解放され、またエンジン回転速度Neが、予め定められた、ベルト滑り発生時の回転速度に制御される(S108)。前進クラッチ54の解放により、原動機12の慣性トルクが、変速機構18に作用しなくなり、ベルト32の滑りはすぐに解消され、ベルト32およびプライマリプーリ28の接触面の損傷は抑制される。図5に示す一点鎖線は、前進クラッチ54が解放している期間に、仮に前進クラッチを接続したとしたときの仮想的なプライマリプーリの巻き掛かり半径上の周速度Vプーリpri である。このとき、ベルト32からの影響はないものとしている。
【0031】
前進クラッチ54が解放されると、そのときのベルト周速度Vbeltとインプットシャフト42の回転速度Ninput を取得し(S110)、さらに変速比γにおけるプライマリおよびセカンダリプーリの巻き掛かり半径rpri ,rsec を算出する(S110)。この巻き掛かり半径とベルト周速度から、プライマリプーリ上のベルトの角速度ωbeltpri をωbeltpri =Vbelt/rpri により算出する(S110)。一方、解放状態にある前進クラッチ54を仮に接続したときの、プライマリプーリの仮想角速度ωプーリpri も算出する(S112)。これは、前進クラッチ54を係合すると、プライマリプーリとインプットシャフトは一体になって回転するので、プライマリプーリの仮想角速度ωプーリpri は、ωプーリpri =2π/Ninput より求めることができる。
【0032】
プライマリプーリの仮想角速度ωプーリpri ,ベルトの角速度ωbeltpri を比較し(S114)、これらが一致しなかった場合、プライマリプーリの油圧アクチュエータ68への供給油圧Ppri を減少させ、これにより変速比γを増加させ(ロー側)、ベルトの角速度ωbeltpri を増加させる(S116)。これにより、セカンダリプーリにおけるベルトの巻き掛かり半径が増加し、図5に示すように、一旦低下したベルトの周速度Vbeltが増加する。ステップS114の条件が成立するまで、ステップS110〜S116を繰り返す。ステップS114の条件が成立すると、前進クラッチ54を接続し、原動機の制御を通常状態に復帰させる(S118)。この時点が図5の時刻t2 である。
【0033】
ステップS102で変速比γに基づき巻き掛かり半径rpri ,rsec を求めたが、移動プーリのストロークを取得し、このストロークと巻き掛かり半径の関係を予め求めておくことにより、半径rpri ,rsec を求めるようにすることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個のプーリにベルトを巻き渡し、プーリに対するベルトの巻き掛かり半径を変更して変速比を連続的に変更可能な変速機構を有するベルト式無段変速機において、
原動機の出力軸と一方のプーリとの間に設けられたクラッチ機構と、
前記一方のプーリの回転速度を取得するプーリ速度取得手段と、
前記クラッチ機構より原動機側の回転速度を取得する原動機側速度取得手段と、
ベルトの速度を取得するベルト速度取得手段と、
取得されたプーリの回転速度とベルトの速度とに基づき、プーリとベルトの間での滑りの発生を検知する滑り検知手段と、
変速機構の変速比を制御する変速比制御手段と、
クラッチ機構の動作を制御するクラッチ制御手段と、
を有し、
滑り検知手段により滑りの発生が検知されると、クラッチ制御手段はクラッチ機構を遮断状態とし、
遮断後、変速比制御手段は、このとき取得された原動機側速度とベルトの速度とに基づき、プーリとベルトの間で滑りの生じない変速比となるよう変速機構を制御し、
変速比が変更された後、クラッチ制御手段はクラッチ機構を接続状態とする、
ベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−276083(P2010−276083A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127900(P2009−127900)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】