説明

ポリマー除去方法およびポリマー除去装置

【課題】基板の表面に形成された絶縁膜や金属膜などの膜減りを生じることなく、その基板の表面からポリマーを良好に除去することができる、ポリマー除去方法およびポリマー除去装置を提供する。
【解決手段】基板の周囲の雰囲気が窒素ガス雰囲気に置換された後、その窒素ガス雰囲気下において、基板の表面にポリマーをエッチング作用により除去するためのふっ酸ベーパが供給される。そして、そのふっ酸ベーパの供給と並行して、基板が回転されるとともに加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面からポリマーを除去するためのポリマー除去方法およびポリマー除去装置に関する。基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の多層配線構造では、配線抵抗の低減を図るため、アルミニウム配線に代えて、銅配線が用いられてきている。また、配線間容量の低減を図るため、配線間絶縁膜として、酸化シリコン膜よりも比誘電率の低い低誘電率絶縁膜(いわゆるLow−k膜。酸化シリコンよりも比誘電率が低い材料からなる絶縁膜をいう。)が用いられてきている。
銅膜のエッチングによる微細なパターニングが困難であることから、銅配線は、いわゆるダマシン法によって形成される。すなわち、低誘電率絶縁膜には、銅配線を埋設するための配線溝と、この配線溝の底面に接続され、低誘電率絶縁膜を厚さ方向に貫通するバイアホールとが形成される。配線溝およびバイアホールには、銅が一括して埋め込まれる。これにより、配線溝に埋設された銅配線が得られ、バイアホールに埋設された銅を介して、下層の銅配線とその上層の銅配線との電気的な接続が達成される。
【0003】
配線溝およびバイアホールは、低誘電率絶縁膜上にハードマスクが形成された後、ドライエッチングが行われ、低誘電率絶縁膜におけるハードマスクから露出した部分が除去されることにより形成される。配線溝およびバイアホールの形成後、アッシングが行われ、低誘電率絶縁膜上から不要となったハードマスクが除去される。ドライエッチング時およびアッシング時には、低誘電率絶縁膜やハードマスクの成分を含む反応生成物が、ポリマーとなって、低誘電率絶縁膜の表面(配線溝およびバイアホールの内面を含む。)などに付着する。そのため、アッシング後には、基板(半導体ウエハ)にポリマー除去液が供給されて、基板からポリマーを除去するためのポリマー除去処理が行われる。
【特許文献1】特開2003−174018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリマー除去処理では、ポリマー除去液として、たとえば、ポリマーをエッチング作用により除去可能な薬液が用いられる。この場合、ポリマーを残すことなく除去するために、薬液は、高いエッチング能力を有している必要がある。
しかしながら、エッチング能力の高い薬液が用いられると、低誘電率絶縁膜が薬液による浸食を受け、低誘電率絶縁膜の膜減りを生じる。また、酸素を含む雰囲気下において、高いエッチング能力を有する薬液を用いたポリマー除去処理が行われると、銅配線における低誘電率絶縁膜から露出した部分が酸化され、その酸化された部分が薬液による浸食を受けるという問題も生じる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、基板の表面に形成された絶縁膜や金属膜などの膜減りを生じることなく、その基板の表面からポリマーを良好に除去することができる、ポリマー除去方法およびポリマー除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、基板の表面からポリマーを除去するためのポリマー除去方法であって、前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する雰囲気置換工程と、前記基板を回転させる基板回転工程と、前記基板を加熱する基板加熱工程と、前記不活性ガス雰囲気下において開始され、前記基板回転工程および前記基板加熱工程と並行して、前記基板の前記表面に前記ポリマーを除去するための薬液を含む蒸気を供給する蒸気供給工程とを含む、ポリマー除去方法である。
【0007】
この方法によれば、基板の周囲の雰囲気が不活性ガス雰囲気に置換された後、その不活性ガス雰囲気下において、基板の表面にポリマーを(エッチング作用により)除去するための薬液を含む蒸気が供給される。そして、その蒸気の供給と並行して、基板が回転されるとともに加熱される。
基板が回転されることにより、薬液を含む蒸気が基板の表面の全域にむらなく供給される。また、薬液を含む蒸気によるエッチングでは、エッチングレートの温度依存性が極めて大きいので、基板の加熱により、ポリマーのエッチングレートを大きくし、基板の表面に形成された絶縁膜のエッチングレートを小さくすることができる。さらに、不活性ガス雰囲気下で薬液を含む蒸気の供給が行われることにより、基板の表面に形成されている絶縁膜や金属膜などの酸化が防止される。その結果、絶縁膜や金属膜などの膜減りを生じることなく、基板の表面からポリマーを良好に除去することができる。そのうえ、薬液を含む蒸気を用いた処理では、薬液の消費量が少ないので、プロセスのコストを著しく抑制することができる。
【0008】
薬液を含む蒸気とは、薬液そのものの蒸気(薬液蒸気)であってもよいし、この薬液蒸気を不活性ガスなどのキャリアガス中に混合したものであってもよい。
前記ポリマー除去方法は、請求項2に記載のように、前記蒸気供給工程後、前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する処理後雰囲気置換工程と、前記蒸気供給工程後、前記基板を冷却する基板冷却工程とをさらに含むことが好ましい。
【0009】
基板の表面に対する薬液を含む蒸気の供給終了後、基板の周囲の雰囲気が不活性ガス雰囲気に置換される。これにより、基板の周囲から薬液を含む蒸気が排除されるので、基板が収容されている処理室から基板が搬出される際に、薬液を含む蒸気が処理室の外部に流出するのを防止することができる。
また、薬液を含む蒸気の供給時に加熱された基板が高温のまま処理室から搬出されると、基板の温度が処理室外で室温(約23℃)まで急激に低下し、基板の表面に形成されている金属膜などが酸化する。基板の表面に対する薬液を含む蒸気の供給終了後、基板が冷却されるので、その冷却後に基板を処理室から搬出すれば、処理室外で基板の温度が急激に低下するのを防止することができ、温度の急激な低下による金属膜などの酸化が生じるのを防止することができる。
【0010】
なお、前記基板冷却工程は、前記処理後雰囲気置換工程と並行して行われてもよい。これにより、処理後雰囲気置換工程および基板冷却工程を含む一連の処理に要する時間を短縮することができる。
請求項3に記載のように、前記基板冷却工程では、前記基板に冷却用ガスが供給されてもよい。すなわち、基板に冷却用ガスが供給されることにより、基板の冷却が達成されてもよい。また、冷却用ガスが不活性ガスであれば、冷却用ガスの供給により、基板の冷却とともに、基板の周囲の雰囲気の不活性ガス雰囲気への置換を達成することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、基板の表面からポリマーを除去するためのポリマー除去装置であって、前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する雰囲気置換機構と、前記不活性ガス雰囲気下に置かれた前記基板を回転させる基板回転機構と、前記不活性ガス雰囲気下に置かれた前記基板を加熱する基板加熱機構と、前記基板回転機構により回転され、かつ、前記基板加熱機構により加熱されている前記基板の前記表面に、前記ポリマーを除去するための薬液を含む蒸気を供給する蒸気供給機構とを含む、ポリマー除去装置である。
【0012】
このポリマー除去装置において、請求項1に記載のポリマー除去方法を実施することができる。その結果、請求項1に関連して述べた効果と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るポリマー除去装置の図解的な断面図である。
ポリマー除去装置1は、基板の一例としての半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)Wからポリマーを除去するために用いられる。
ポリマー除去装置1は、略直方体形状の処理チャンバ11を備えている。
【0014】
処理チャンバ11内には、1枚のウエハWを載置状態で保持するためのウエハ保持台12が設けられている。ウエハ保持台12は、鉛直方向に延びる回転軸13の上端に固定されている。回転軸13には、回転軸13をその中心軸線まわりに回転させるウエハ回転機構14が結合されている。ウエハ回転機構14は、モータなどを含む。
ウエハ保持台12の内部には、ウエハ保持台12に保持されたウエハWを加熱するためのヒータ15が埋設されている。また、ウエハ保持台12上には、ヒータ15による加熱時に基板の温度をその面内で均一化するための(ウエハWの面内における温度分布差を小さくするための)均熱リング16が設けられている。均熱リング16は、ウエハ保持台12上におけるウエハWの保持位置(載置位置)を取り囲むリング状に形成されている。
【0015】
ウエハ保持台12に関連して、ウエハ保持台12に対してウエハWを昇降させるための複数本(たとえば、3本)のリフトピン17が設けられている。複数本のリフトピン17は、処理チャンバ11の底壁18に挿通され、処理チャンバ11外において、共通の支持部材19に支持されている。支持部材19には、シリンダなどを含むリフトピン昇降機構20が結合されている。リフトピン昇降機構20によって、複数本のリフトピン17は、その先端がウエハ保持台12の上方に突出する位置と、ウエハ保持台12の下方に退避する位置との間で一体的に昇降される。
【0016】
処理チャンバ11の一方側の側壁21には、処理チャンバ11内に対するウエハWの搬入/搬出のためのゲート22が形成されている。側壁21の外側には、ゲート22を開閉するためのゲートシャッタ23が設けられている。ゲートシャッタ23には、シリンダなどを含むゲート開閉機構24が結合されている。ゲート開閉機構24によって、ゲートシャッタ23は、側壁21の外面に密着して、ゲート22を密閉する閉鎖位置と、側壁21の側方へ離間しつつ下降して、ゲート22を大きく開放する開放位置とに変位される。
【0017】
処理チャンバ11の側壁21と対向する側壁25を貫通して、窒素ガスを処理チャンバ11内に導入するための側方導入管26が設けられている。側方導入管26には、側方窒素ガスバルブ27を介して窒素ガス(N)が供給されるようになっている。側方導入管26の処理チャンバ11内に臨む端面は、側壁25の内面とほぼ面一となっている。そして、側壁25の内面には、その内面のほぼ全域を覆うサイズの拡散板28が設けられている。拡散板28は、処理チャンバ11内に臨む多数の吐出口(図示せず)を有している。側方導入管26に供給される窒素ガスは、拡散板28の多数の吐出口から分散して吐出されることにより、処理チャンバ11内において、側壁25の内面と平行な面内(ウエハWの表面と垂直な面内)でほぼ均一な流速となるシャワー状に拡散する。
【0018】
処理チャンバ11の上壁29を貫通して、ふっ酸ベーパ(HFベーパ)、ヘリウムガス(He)および窒素ガス(N)を処理チャンバ11内に選択的に導入するための上方導入管30が設けられている。上方導入管30には、ふっ酸ベーパバルブ31、ヘリウムガスバルブ32および上方窒素ガスバルブ33を介して、それぞれふっ酸ペーパ、ヘリウムガスおよび窒素ガスが選択的に供給されるようになっている。上方導入管30の処理チャンバ11内に臨む端面は、上壁29の内面とほぼ面一となっている。そして、上壁29の内面には、ウエハWよりも大きな径を有する円板状の拡散板34が設けられている。この拡散板34は、処理チャンバ11内に臨む多数の吐出口(図示せず)を有している。上方導入管30に選択的に供給されるふっ酸ペーパ、ヘリウムガスおよび窒素ガスは、拡散板34の多数の吐出口から分散して吐出されることにより、処理チャンバ11内において、上壁29の内面と平行な面内(ウエハWの表面と平行な面内)でほぼ均一な流速となるシャワー状に拡散する。
【0019】
処理チャンバ11の底壁18には、ウエハ保持台12の周囲を取り囲む平面視円環状の周囲排気口35が形成されている。周囲排気口35には、先端が排気源(図示せず)に接続された排気管36の基端が接続されている。排気管36の途中部には、周囲排気バルブ37が介装されている。周囲排気バルブ37が開かれると、処理チャンバ11内の雰囲気が周囲排気口35から排気され、周囲排気バルブ37が閉じられると、その周囲排気口35からの排気が停止される。
【0020】
また、処理チャンバ11の底壁18には、周囲排気口35とゲート22(側壁21)との間において、側壁21に沿って延びる平面視略長方形状のゲート側排気口38が形成されている。ゲート側排気口38には、先端が排気源(図示せず)に接続された排気管39の基端が接続されている。排気管39の途中部には、ゲート側排気バルブ40が介装されている。ゲート側排気バルブ40が開かれると、処理チャンバ11内の雰囲気がゲート側排気口38から排気され、ゲート側排気バルブ40が閉じられると、そのゲート側排気口38からの排気が停止される。
【0021】
図2は、ポリマー除去装置の電気的構成を示すブロック図である。
ポリマー除去装置1は、たとえば、マイクロコンピュータで構成される制御部41を備えている。マイクロコンピュータには、CPU、RAMおよびROMなどが含まれる。
制御部41は、予め定められたプログラムに従って、ウエハ回転機構14、ヒータ15、リフトピン昇降機構20およびゲート開閉機構24の駆動を制御し、側方窒素ガスバルブ27、ふっ酸ベーパバルブ31、ヘリウムガスバルブ32、上方窒素ガスバルブ33、周囲排気バルブ37およびゲート側排気バルブ40の開閉を制御する。
【0022】
図3は、ポリマー除去装置で実施されるポリマー除去方法の各工程の流れを示す図である。
たとえば、微細パターンの形成のためのドライエッチングおよびアッシングを受けたウエハWは、その表面からポリマーを除去するために、図示しない搬送ハンドにより、ポリマー除去装置1(処理チャンバ11)内に搬入される(ステップS1:ウエハ搬入)。
【0023】
このウエハWの搬入に先立ち、ゲート開閉機構24が駆動されて、ゲートシャッタ23が開放位置に変位され、ゲート22が開放される。ゲート22が開放されている間、側方窒素ガスバルブ27が開かれて、側方導入管26から処理チャンバ11内に窒素ガスが導入される。また、ゲート側排気バルブ40が開かれて、処理チャンバ11内の雰囲気がゲート側排気口38から排気される。これにより、処理チャンバ11内には、ウエハ保持台12のゲート22と反対側、つまり側壁25側からゲート22へ向かう窒素ガスの気流が形成され、この気流によって、処理チャンバ11の外部の雰囲気が処理チャンバ11内に流入することが防止される。このとき、ふっ酸ベーパバルブ31、ヘリウムガスバルブ32、上方窒素ガスバルブ33および周囲排気バルブ37は閉じられている。
【0024】
また、ウエハWの搬入に先立ち、リフトピン昇降機構20が駆動されて、リフトピン17は、その先端がウエハ保持台12の上方に突出する位置に配置されている。そして、搬送ハンドにより処理チャンバ11内に搬入されるウエハWは、搬送ハンドからリフトピン17上に受け渡される。
その後、搬送ハンドが処理チャンバ11内から退避されると、ゲート開閉機構24が駆動されて、ゲートシャッタ23が閉鎖位置に変位され、ゲート22がゲートシャッタ23により密閉される。ゲート22が密閉されると、側方窒素ガスバルブ27およびゲート側排気バルブ40が閉じられて、上方窒素ガスバルブ33および周囲排気バルブ37が開かれる。これにより、上方導入管30から処理チャンバ11内に窒素ガスが導入されるとともに、処理チャンバ11内の雰囲気が周囲排気口35から急速に排気される。その結果、処理チャンバ11内の雰囲気は、上方導入管30から導入される窒素ガスの雰囲気に短時間で置換される(ステップS2:処理前雰囲気置換)。
【0025】
処理チャンバ11内の雰囲気の窒素ガス雰囲気への置換と並行して、リフトピン昇降機構20が駆動され、リフトピン17は、その先端がウエハ保持台12の下方に退避する位置に下降される。このリフトピン17の下降により、リフトピン17上のウエハWがウエハ保持台12上に移載される。
その後、上方窒素ガスバルブ33が閉じられて、ふっ酸ベーパバルブ31が開かれる。これにより、上方導入管30から処理チャンバ11内にふっ酸ベーパが導入され、このふっ酸ベーパがウエハWの表面に供給される(ステップS3:HFベーパ処理)。その結果、ふっ酸ベーパが有するエッチング作用により、ウエハWの表面からポリマーが除去される。
【0026】
ふっ酸ベーパの供給と並行して、ウエハ回転機構14が駆動されて、ウエハWが回転される(ステップS31:ウエハ回転)。ウエハWの回転速度は、たとえば、150rpmである。ウエハWが回転されることにより、ふっ酸ペーパがウエハWの表面の全域にむらなく供給される。
また、ふっ酸ペーパの供給と並行して、ヒータ15が駆動されて、ウエハWが加熱される(ステップS32:ウエハ加熱)。この加熱により、ウエハWの温度は、たとえば、40℃まで上昇する。なお、ウエハWの温度の面内均一性を向上させるために、ウエハ保持台12におけるウエハWと対向する部分が複数の領域に分割され、各領域にヒータ15が埋設されて、各ヒータ15の温度が個別に制御されてもよい。
【0027】
ふっ酸ベーパの供給が所定時間にわたって行われると、リフトピン昇降機構20が駆動されて、リフトピン17が上昇され、ウエハWがウエハ保持台12に対して上方に離間する位置(たとえば、図示しない搬送ハンドとのウエハWの受け渡しが可能な位置)まで持ち上げられる。そして、ふっ酸ベーパバルブ31が閉じられ、ヘリウムガスバルブ32が開かれる。このとき、周囲排気バルブ37は開かれたままである。これにより、上方導入管30から処理チャンバ11内に常温(室温と同じ。約23℃)のヘリウムガスが導入され、このヘリウムガスがウエハWの表面に供給される。その結果、高温のウエハWは、常温のヘリウムガスにより冷却される(ステップS4:ウエハ冷却)。
【0028】
ウエハWの温度が常温程度まで下がると、ヘリウムガスバルブ32が閉じられ、上方窒素ガスバルブ33が開かれて、上方導入管30から処理チャンバ11内に窒素ガスが導入される。このとき、周囲排気バルブ37は開かれたままである。そのため、処理チャンバ11内の雰囲気は、上方導入管30から導入される窒素ガスの雰囲気に急速に置換されていく(ステップS5:処理後雰囲気置換)。
【0029】
処理チャンバ11内の雰囲気が窒素ガス雰囲気に置換されると、ゲート開閉機構24が駆動されて、ゲートシャッタ23が開放位置に変位され、ゲート22が開放される。また、ゲート22が開放されると、上方窒素ガスバルブ33および周囲排気バルブ37が閉じられ、側方窒素ガスバルブ27およびゲート側排気バルブ40が開かれる。これにより、処理チャンバ11内に、側壁25側からゲート22へ向かう窒素ガスの気流が形成され、この気流によって、処理チャンバ11の外部の雰囲気が処理チャンバ11内に流入することが防止される。この状態で、図示しない搬送ハンドにより、リフトピン17上のウエハWが処理チャンバ11から搬出されていく(ステップS6:ウエハ搬出)。
【0030】
処理チャンバ11から搬出されたウエハWは、図示しないリンス・乾燥処理チャンバに搬入される。そして、リンス・乾燥処理チャンバにおいて、ウエハWの表面にリンス液(たとえば、純水)が供給されることにより、ウエハWの表面からふっ酸が洗い流される。その後、リンス・乾燥処理チャンバでは、ウエハWが高速回転されることにより、ウエハWの表面からリンス液が除去される。
【0031】
以上のように、ウエハWの周囲の雰囲気が窒素ガス雰囲気に置換された後、その窒素ガス雰囲気下において、ウエハWの表面にポリマーをエッチング作用により除去するためのふっ酸ベーパが供給される。そして、そのふっ酸ベーパの供給と並行して、ウエハWが回転されるとともに加熱される。
ウエハWが回転されることにより、ふっ酸ベーパがウエハWの表面の全域にむらなく供給される。また、ふっ酸ベーパによるエッチングでは、エッチングレートの温度依存性が極めて大きいので、ウエハWの加熱により、ポリマーのエッチングレートを大きくし、ウエハWの表面に形成された絶縁膜(たとえば、低誘電率絶縁膜)のエッチングレートを小さくすることができる。さらに、窒素ガス雰囲気下でふっ酸ベーパの供給が行われることにより、ウエハWの表面に形成されている絶縁膜や金属膜などの酸化が防止される。その結果、絶縁膜や金属膜などの膜減りを生じることなく、ウエハWの表面からポリマーを良好に除去することができる。そのうえ、ふっ酸ベーパを用いた処理では、ふっ酸の消費量が少ないので、プロセスのコストを著しく抑制することができる。
【0032】
ウエハWの表面に対するふっ酸ベーパの供給終了後には、ウエハWの周囲の雰囲気が窒素ガス雰囲気に置換される。これにより、ウエハWの周囲からふっ酸ベーパが排除されるので、ウエハWが収容されている処理チャンバ11からウエハWが搬出される際に、ふっ酸ベーパが処理チャンバ11の外部に流出するのを防止することができる。
また、ふっ酸ベーパの供給時に加熱されたウエハWが高温のまま処理チャンバ11から搬出されると、ウエハWの温度が処理チャンバ11外で室温(約23℃)まで急激に低下し、ウエハWの表面に形成されている金属膜などが酸化する。ウエハWの表面に対するふっ酸ベーパの供給終了後、ウエハWが冷却されるので、その冷却後にウエハWを処理チャンバ11から搬出すれば、処理チャンバ11外でウエハWの温度が急激に低下するのを防止することができ、温度の急激な低下による金属膜などの酸化が生じるのを防止することができる。
【0033】
なお、ウエハWを冷却するために、ウエハWに対して常温のヘリウムガスが供給されるとしたが、このウエハWを冷却するための冷却用ガスは、常温のヘリウムガスに限らず、常温の窒素ガスなどの他の種類の不活性ガスであってもよい。たとえば、冷却用ガスが窒素ガスであれば、ウエハWに対するふっ酸ベーパの供給終了後に、窒素ガスが処理チャンバ11内に供給されることにより、ウエハWの冷却とともに、ウエハWの周囲の雰囲気の窒素ガス雰囲気への置換を達成することができる。その結果、ウエハWの表面からポリマーを除去するための一連の処理に要する時間を短縮することができる。
【0034】
処理チャンバ11内に導入される不活性ガスとしては、窒素ガスおよびヘリウムガス以外に、窒素ガスとヘリウムとの混合ガス、アルゴンガス、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスなどを例示することができる。
さらに、冷却用ガスによるウエハWの冷却に加えて、図1に二点鎖線で示すように、処理チャンバ11の上壁29に冷却装置42が設けられて、この冷却装置42により、処理チャンバ11の全体が冷却されてもよい。また、冷却用ガスによるウエハWの冷却に代えて、ウエハ保持台12に対して上方に離間する位置までリフトピン17によって持ち上げられたウエハWに、低温に維持された石英板からなる石英プレート(図示せず)を対向させることによって、ウエハWを冷却してもよい。冷却装置42や石英プレートは、冷却水が流通される冷却配管を含む構成であってもよいし、ペルチエ素子などを含む構成であってもよい。
【0035】
ウエハWの冷却は、予め設定した時間だけ行われてもよいし、ウエハWの温度を検出するための温度センサが処理チャンバ11内に設けられ、その温度センサによる検出温度が常温に下がるまで行われてもよい。このような温度センサとしては、たとえば、ウエハ保持台12に設けられ、ウエハWに接触して、ウエハWの温度を検出する構成(接触式)のものが用いられてもよいし、ウエハWから離間して設けられ、ウエハWの温度を非接触状態で検出す構成(放射式)のものが用いられてもよい。
【0036】
また、ウエハWの表面に薬液の一例としてのふっ酸のベーパを供給して、ウエハWの表面からポリマーを除去する方法を取り上げたが、薬液としては、ふっ酸以外に、水酸化アンモニウム(NHOH)、塩酸(HCl)、フッ化アンモン(NHF)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)を例示することができる。
【0037】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るポリマー除去装置の図解的な断面図である。
【図2】図2は、ポリマー除去装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、ポリマー除去装置で実施されるポリマー除去方法の各工程の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ポリマー除去装置
12 ウエハ保持台(基板回転機構)
13 回転軸(基板回転機構)
14 ウエハ回転機構(基板回転機構)
15 ヒータ(基板加熱機構)
30 上方導入管(雰囲気置換機構、蒸気供給機構)
31 ふっ酸ベーパバルブ(蒸気供給機構)
33 上方窒素ガスバルブ(雰囲気置換機構)
35 周囲排気口(雰囲気置換機構)
36 排気管(雰囲気置換機構)
37 周囲排気バルブ(雰囲気置換機構)
W ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面からポリマーを除去するためのポリマー除去方法であって、
前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する雰囲気置換工程と、
前記基板を回転させる基板回転工程と、
前記基板を加熱する基板加熱工程と、
前記不活性ガス雰囲気下において開始され、前記基板回転工程および前記基板加熱工程と並行して、前記基板の前記表面に前記ポリマーを除去するための薬液を含む蒸気を供給する蒸気供給工程とを含む、ポリマー除去方法。
【請求項2】
前記蒸気供給工程後、前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する処理後雰囲気置換工程と、
前記蒸気供給工程後、前記基板を冷却する基板冷却工程とを含む、請求項1に記載のポリマー除去方法。
【請求項3】
前記基板冷却工程では、前記基板に冷却用ガスが供給される、請求項2に記載のポリマー除去方法。
【請求項4】
基板の表面からポリマーを除去するためのポリマー除去装置であって、
前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する雰囲気置換機構と、
前記不活性ガス雰囲気下に置かれた前記基板を回転させる基板回転機構と、
前記不活性ガス雰囲気下に置かれた前記基板を加熱する基板加熱機構と、
前記基板回転機構により回転され、かつ、前記基板加熱機構により加熱されている前記基板の前記表面に、前記ポリマーを除去するための薬液を含む蒸気を供給する蒸気供給機構とを含む、ポリマー除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−194036(P2009−194036A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30910(P2008−30910)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】