ポンプ
【課題】液体の供給量を所定の供給量とする場合に、回転体が1回転当たりに送り出す液体の量を増減させて対応できるようにすることで、動力機械の動力が無駄に使われるのを回避する。
【解決手段】ポンプは、動力機械によって回転駆動される歯車2、3と、歯車2、3を収容するとともに、液体の流入孔21aと流出孔とが形成されたハウジングとを備えており、歯車2、3の回転動作によって流入孔21aからハウジング内に流入させた液体を、流出孔から送り出すように構成されている。歯車3を、ハウジングの内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させる。ハウジングの内面に近接した歯先の数を増やすと、歯車3の1回転当たりに送り出される液体の量が増加し、少なくすると、1回転当たりに送り出される液体の量が減少して歯車3を回転させるのに要する動力が少なくなる。
【解決手段】ポンプは、動力機械によって回転駆動される歯車2、3と、歯車2、3を収容するとともに、液体の流入孔21aと流出孔とが形成されたハウジングとを備えており、歯車2、3の回転動作によって流入孔21aからハウジング内に流入させた液体を、流出孔から送り出すように構成されている。歯車3を、ハウジングの内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させる。ハウジングの内面に近接した歯先の数を増やすと、歯車3の1回転当たりに送り出される液体の量が増加し、少なくすると、1回転当たりに送り出される液体の量が減少して歯車3を回転させるのに要する動力が少なくなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を回転させることによって液体を送るように構成されたポンプに関し、特に回転体の1回転当たりの液体の送り出し量を変化可能にした可変容量形ポンプの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、自動車のエンジンにはオイルポンプが設けられている(特許文献1参照)。特許文献1のオイルポンプは、いわゆる歯車式と呼ばれているオイルポンプであり、具体的には、エンジンのクランクシャフトに直結されて回転駆動される歯車形状の回転体と、この回転体を収容するハウジングとを備えている。そして、回転体がクランクシャフトにより駆動されて回転動作すると、ハウジングに形成されたオイル流入孔からハウジング内に流入したオイルが、流出孔から流出してエンジンの各部に供給される。
【0003】
また、エンジンの各部を潤滑するにあたっては、基本的には、エンジンの回転数が高いほどオイルの供給量を増やす必要があるが、その供給量はエンジンの回転数に比例して増やさなくてもよく、エンジンの運転状態が高回転領域にあったとしても、所定量以上の供給は不要であることが知られている。
【0004】
ところが、上記特許文献1のオイルポンプの回転体は、クランクシャフトに同期して回転するようになっている。従って、回転体の回転動作によって送り出されるオイル量は、エンジンの回転数に比例するように増えていくことになる。つまり、エンジンの運転状態が高回転領域にあるときには、回転体の回転動作によって送り出されるオイル量は、実際にエンジンの各部が要求しているオイル量よりも大幅に多くなりがちである。
【0005】
このことに対し、特許文献1のポンプでは、エンジンの運転状態が高回転領域にあるときに、回転体の回転動作によって送り出されたオイルのうち、一部をオイルポンプ内に形成されたバイパスルートに流すことによって、エンジンの各部へのオイル供給量をエンジンの各部が要求しているオイル量に近づけるようにしている。
【特許文献1】特許第3122348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のポンプでは、回転体の回転動作によって回転体よりも下流側へ送られたオイルの一部を、エンジンの各部に供給することなくバイパスルートに流すようにしている。つまり、バイパスルートに流しているオイル量に相当する分だけ、回転体を回転させるのに要するエンジンの動力が無駄に使われており、その結果、燃費が悪化するとともに、特に高回転時のエンジンの出力低下を招くことになる。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液体の供給量を所定の供給量とする場合に、回転体が1回転当たりに送り出す液体の量を増減させて対応できるようにすることで、動力機械の動力が無駄に使われるのを回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明では、動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、上記ハウジングには、上記回転体を、該回転体の歯先と該ハウジングの内面との離間距離が変化する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられている構成とする。
【0009】
第2の発明では、動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、上記ハウジングには、上記回転体を、上記ハウジングの内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられている構成とする。
【0010】
第3の発明では、第1または2の発明において、回転体変位部は、ハウジング内の液圧で動作する構成とする。
【0011】
第4の発明では、第1の発明において、ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて上記従動歯車の歯先と上記ハウジングの内面との離間距離を変化させるように構成されているものとする。
【0012】
第5の発明では、第2の発明において、ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて、上記ハウジングの内面に近接した上記従動歯車の歯先の数を増減させるように構成されているものとする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、回転体変位部で回転体を変位させることにより、回転体の歯先とハウジングの内面との離間距離を変化させることができる。この離間距離を短くすると、ハウジングの内面が回転体の歯先に近くなるので、回転体の1回転当たりに送り出される液体の量を増加させることができ、長くするとハウジングの内面が回転体の歯先から離れるので、1回転当たりに送り出される液体の量を減少させることができる。回転体の1回転当たりに送り出される液体の量が減少すれば、その分回転体を回転させるのに要する動力を少なくすることができ、これにより、動力機械の動力が無駄に使われるのを回避しながら、液体の供給量を所定の供給量とすることができる。
【0014】
第2の発明によれば、回転体変位部で回転体を変位させることにより、ハウジングの内面に近接した歯先の数を増減させることができる。ハウジングの内面に近接した歯先の数を増やすと、回転体の1回転当たりに送り出される液体の量を増加させることができ、少なくすると、1回転当たりに送り出される液体の量を減少させることができる。回転体の1回転当たりに送り出される液体の量が減少すれば、その分回転体を回転させるのに要する動力を少なくすることができ、よって、第1の発明と同様な効果を奏することができる。
【0015】
第3の発明によれば、ハウジング内の液圧を利用して回転体を変位させることができるので、回転体を変位させるための動力源を別途設けなくとも、回転体が1回転当たりに送り出す液体の量を変化させることができる。
【0016】
第4、5の発明によれば、駆動歯車の駆動軸を利用して従動歯車を変位させることにより、従動歯車が1回転当たりに送り出す液体の量を変化させることができるので、ポンプの構造をシンプルにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るオイルポンプ1を示すものである。オイルポンプ1は、エンジン(動力機械)の各部へ潤滑用及び冷却用のオイルを供給する役割を担っている。オイルポンプ1は、図示しないが、エンジンのシリンダブロックに配設されており、エンジンの下部に位置するオイルパン内にあるオイルストレーナを介して、オイルパンに貯留されているオイルを汲み上げ、汲み上げたオイルをエンジンの各部に繋がる配管に流して、エンジンの各部へ供給するように構成されている。
【0019】
尚、以下の説明では説明の便宜を図るため、特に示さない限り、「上」及び「下」はそれぞれ各図に示すように紙面上でオイルポンプ1の上側及び下側を意味し、「左」及び「右」は各図に示すように紙面上でオイルポンプ1の左側及び右側を意味するものとする。
【0020】
図2及び図3に示すように、上記オイルポンプ1は、駆動歯車2及び従動歯車3を有する歯車ユニット4と、歯車ユニット4を所定方向に付勢する付勢部材としての引っ張りバネ5と、これら歯車ユニット4及び引っ張りバネ5を収容するハウジング10とを有している。図1に示すように、ハウジング10は、全体として円柱形状とされており、厚肉な円形板状の本体部材11と、薄肉な円形板状の蓋部材12とで構成されている。尚、ハウジング10の形状は、上記した円柱形状に限られるものではない。
【0021】
本体部材11における蓋部材12で覆われる面には、図2に示すように、歯車ユニット4が収容される歯車収容凹部13が形成されている。この歯車収容凹部13は、本体部材11の中心を通ってオイルポンプ1の上下方向に長く延びている。図4に示すように、歯車収容凹部13の上下方向中央部近傍に歯車ユニット4が配置され、その左側には、本体部材11の中心線と平行に延びる駆動軸15を有する上記駆動歯車2が位置し、右側には、同様に延びる回転軸16を有する上記従動歯車3が位置している。
【0022】
歯車収容凹部13の左側面には、上下方向の中央部に、左側へ向けて湾曲する左側湾曲面13aが形成されている。この左側湾曲面13aは、駆動歯車2の歯先円の左半分を構成する円弧と略同じ形状とされており、駆動歯車2の左側略半分は左側湾曲面13aで覆われるようになっている。歯車収容凹部13の左側面の左側湾曲面13aよりも上側部分及び下側部分は、上下方向に略平坦に延びている。
【0023】
歯車収容凹部13の右側面には、左側湾曲面13aと対向する位置に右側へ向けて湾曲する右側湾曲面13bが形成されている。この右側湾曲面13bは、全体として左側湾曲面13aよりも緩く湾曲している。右側湾曲面13bにおける上側領域13cは、従動歯車3の歯先円の1/4を構成する円弧と略同じ形状とされている。右側湾曲面13bにおける下側領域13dは、従動歯車3の歯先円よりも大きな半径の円弧形状とされている。歯車収容凹部13の右側面の右側湾曲面13bよりも上側部分及び下側部分は、それぞれ、左側面の上側部分及び下側部分と略平行に延びるように形成された上側平坦面13e及び下側平坦面13fで構成されている。
【0024】
本体部材11の右側には、歯車収容凹部13の駆動歯車2及び従動歯車3よりも上側の上側空間S1と下側の下側空間S2とを連通させるバイパス通路を形成するための溝17が形成されている。この溝17は、下側平坦面13fに開口して上方へ向けて右側湾曲面13dの右側を回り込むように延び、上側平坦面13eに開口している。溝17の上側の中途部には、右側へ向けて延びるリリーフ弁収容溝18が連なっている。リリーフ弁収容溝18には、コイルバネ19と、バイパス通路を開閉するためのリリーフ弁20とが収容されるようになっている。リリーフ弁20はコイルバネ19により左側へ付勢され、オイルポンプ1の停止時には、リリーフ弁収容溝18から左側へ飛び出しており、このリリーフ弁20によってバイパス通路が閉じられている。コイルバネ19の付勢力は、後述するが、オイルポンプ1の作動時に上側空間S1の液圧が所定以上の高い圧力になったときに、リリーフ弁20を右側へ移動させてリリーフ弁収容溝18内に収めてバイパス通路を開くことができる程度に設定されている。
【0025】
また、図5にも示すように、本体部材11の下端部には、下方へ突出する上流管21が設けられている。この上流管21には、オイルストレーナから延びるオイル配管(図示せず)の下流端が接続されるようになっている。上流管21の内部には、オイル流入孔21aが形成されている。このオイル流入孔21aは、歯車収容凹部13の下側空間S2に連通している。
【0026】
本体部材11の上端部には、上方へ突出する下流管22が設けられている。この下流管22には、エンジンの各部にオイルを導くオイル配管(図示せず)の上流端が接続されるようになっている。下流管22の内部には、オイル流出孔22aが形成されている。このオイル流出孔22aは、歯車収容凹部13の上側空間S1に連通している。
【0027】
また、本体部材11の蓋部材12で覆われる面には、左側湾曲面13aよりも上方に、引っ張りバネ5の一端部が固定されるピン25が突設されている。
【0028】
また、図2及び図6に示すように、歯車収容凹部13の底面には、中心よりも左側に駆動歯車2の駆動軸15を受ける有底の軸受孔26が本体部材11の中心線方向に延びるように形成されている。さらに、歯車収容凹部13の底面には、本体側窪み27が成形されている。この本体側窪み27は、詳細は後述するが、軸受孔26を中心として上下方向に広がる扇形に近い形状とされている。
【0029】
図6に示すように、蓋部材12の裏面には、本体側窪み27と対向する部位に、本体側窪み27と同形状の蓋側窪み30が形成されている。また、図1や図7に示すように、蓋部材12には、ピン25を収容するピン収容部31が表側へ突出するように形成されるとともに、引っ張りバネ5を収容する引っ張りバネ収容部32が表側へ突出するように形成されている。さらに、後述する歯車ユニット4に突設された突出部38を収容する突出部収容部33も形成されている。
【0030】
また、図6に示すように、蓋部材12には、本体部材11の軸受孔26に対向する部位に、軸受孔35が貫通形成されている。軸受孔35の周縁部は、蓋部材12の表側へ突出している。
【0031】
上記駆動軸15と駆動歯車2とは一体化されている。図2に示すように、駆動歯車2には、8つの歯が外周面に周方向に並ぶように設けられている。各歯は、駆動歯車2の軸方向両端に亘って形成されている。図6に示すように、駆動軸15の両端部は、駆動歯車2の軸方向両端面から突出している。
【0032】
上記回転軸16と従動歯車3とは一体化されている。従動歯車3は、駆動歯車2と同じ形状とされ、8つの歯が外周面に周方向に並ぶように設けられている。回転軸16の両端部は、従動歯車3の軸方向両端面から突出しており、その突出長さは、駆動軸15の駆動歯車2からの突出長さよりも短く設定されている。
【0033】
歯車ユニット4は、駆動歯車2と従動歯車3とを一体化するための第1プレート(支持部材)36及び第2プレート(支持部材)37を有している。第1プレート36は、駆動歯車2と従動歯車3とが並ぶ方向に長く形成されている。図7にも示すように、第1プレート36の厚みは、本体側窪み27の深さと同じに設定されている。図6にも示すように、第1プレート36の長手方向両端部には、貫通孔36a、36bがそれぞれ形成され、これら貫通孔36a、36bに駆動軸15の一端部及び従動軸16の一端部がそれぞれ回転可能に挿入されている。この状態で駆動軸15の一端部は貫通孔36aから突出する一方、回転軸16の一端部は、貫通孔36bから突出しないようになっている。
【0034】
第2プレート37は、第1プレート36と同様に長く延びる形状とされ、両端部に貫通孔37a、37bを有している。第2プレート37の厚みは、蓋側窪み部30の深さと同じに設定されている。貫通孔37a、37bには、駆動軸15の他端部及び従動軸16の他端部がそれぞれ回転可能に挿入されている。この状態で駆動軸15の他端部は貫通孔37aから突出する一方、回転軸16の他端部は、貫通孔37bから突出しないようになっている。図2や図3に示すように、この第2プレート37の長手方向中間部には、駆動軸15の他端部の突出方向に突出する突出部38が形成されている。この突出部38に引っ張りバネ5の他端部が固定されるようになっている。
【0035】
上記歯車ユニット4は、第1プレート36が本体側窪み27に入るようにして本体部材11の歯車収容凹部13に収容される。このとき、図6に示すように、駆動軸15の一端部が軸受孔26に挿入支持され、歯車ユニット4は、駆動軸15周りに回動可能となる。この歯車ユニット4の回動動作に対応するように、本体側窪み27は、第1プレート36の駆動軸15周りの回動軌跡に対応した扇形状とされている。また、引っ張りバネ5の一端部をピン25に固定し、他端部を第2プレート37の突出部38に固定すると、歯車ユニット4は、上方へ付勢された状態となる。
【0036】
そして、図6や図7に示すように、本体部材11に蓋部材12が取り付けられると、歯車収容凹部13及び溝17の開放側が閉塞されるとともに、ピン25、引っ張りバネ5及び突出部38がピン収容部31、引っ張りバネ収容部32及び突出部収容部33にそれぞれ収容される。また、駆動軸15の他端部は蓋部材12の貫通孔35から外方へ突出する。この駆動軸15の他端部には、図示しないが、エンジンのクランクシャフト(出力軸)の回転力がチェーンを介して伝達されるようになっている。また、第1プレート36は、蓋部材12の蓋側窪み30に入る。このとき、歯車ユニット4が引っ張りバネ5で上方へ付勢されているので、第1プレート36の周縁部が本体側窪み27の上縁部に当接するとともに、第2プレート37の周縁部が蓋側窪み30の上縁部に当接し、これにより、図4に示すように、歯車ユニット4が上端位置となる。
【0037】
歯車ユニット4が上端位置まで回動した状態にあるときには、従動歯車3の右上約1/4が右側湾曲面13bの上側領域13cで覆われるようになる。従動歯車3の右上に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13bの上側領域13cに対し近接している。両者の離間距離は、潤滑に最低限必要な薄い油膜ができる程度の最小離間距離である。歯車ユニット4が上端位置にあるときには、従動歯車3の少なくとも3つの歯の歯先が、右側湾曲面13bの上側領域13cに対し、最小離間距離を持って対向するようになっている。また、従動歯車3の右下に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13bの下側領域13dに対し、上記最小離間距離よりも大きく離れて対向している。
【0038】
歯車ユニット4は上端位置から図8に示す下端位置まで駆動軸15周りに下方へ回動するようになっている。下端位置になると、第1プレート36の周縁部が本体側窪み27の下縁部に当接するとともに、第2プレート37の周縁部が蓋側窪み30の下縁部に当接し、これにより、下端位置が決定されるようになっている。つまり、本体側窪み27及び蓋側窪み30の周縁部は、歯車ユニット4の回動範囲を規制するストッパとして機能するようになっている。
【0039】
歯車ユニット4が下端位置まで回動した状態にあるときには、従動歯車3の右下約1/4が右側湾曲面13bの下側領域13dで覆われるようになる。歯車ユニット4が下端位置にあるときには従動歯車3の2つの歯先が、右側湾曲面13bの下側領域13dに対し、上記最小離間距離を持って対向するようになっている。
【0040】
このように、本発明の回転体としての従動歯車3は、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位するようになっており、本発明の回転体変位部は、上記第1プレート36、第2プレート37、引っ張りバネ5、窪み27、30、軸受孔26、35、駆動歯車2及び駆動軸15で構成されている。
【0041】
また、駆動歯車2の左側半分は、左側湾曲面13aで覆われるようになる。駆動歯車2における左側の歯の歯先は、左側湾曲面13aに対し、上記最小離間距離を持って対向している。
【0042】
また、引っ張りバネ5の付勢力は、オイルポンプ1の作動時における歯車収容凹部13内の上側空間S1の液圧が所定値以下の場合(後述する)には歯車ユニット4が上端位置に留まったままとなるように設定されている。
【0043】
次に、上記のように構成されたオイルポンプ1の動作について説明する。尚、歯車収容凹部13にはオイルが満たされた状態となっている。
【0044】
駆動歯車2及び従動歯車3が停止している場合には、図4に示すように、歯車ユニット4は上端位置にある。エンジンが始動してクランクシャフトが回転すると、駆動軸15に固定されている駆動歯車2はX方向に回転駆動される。この駆動歯車2の回転動作により、従動歯車3はY方向に回転する。
【0045】
駆動歯車2及び従動歯車3が回転すると、下側空間S2内のオイルが歯により掻き上げられて上側空間S1に流入し、この上側空間S1に流入したオイルは、オイル流出孔21aから流出してエンジンの各部に供給される。下側空間S2にはオイルパン内のオイルが新たに流入してくる。
【0046】
エンジンが例えばアイドリング状態にあるときには、歯車ユニット4が上記のように引っ張りバネ5で付勢されていることから、上端位置にあり、従動歯車3の少なくとも2つの歯先と右側湾曲面13bの上側領域13cとの離間距離は、上記最小離間距離となっている。よって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は多くなり、アイドリング時のオイル供給量は十分に確保される。
【0047】
エンジンの回転数が高まると、駆動歯車2及び従動歯車3の単位時間当たりの回転数が比例して高まる。これにより、上側空間S1に流入するオイル量が増えて、上側空間S1内の液圧が下側空間S2内の液圧よりも高まる。この上側空間S1及び下側空間S2の液圧は、歯車ユニット4に作用し、歯車ユニット4には、引っ張りバネ5に抗する下方向への力が働くことになる。ここで、引っ張りバネ5の付勢力は、例えば、エンジンの回転数が1000回転/分程度になったときに歯車ユニット4に働く下向きの力と釣り合うように設定しておく。
【0048】
このように付勢力を設定しておくと、エンジンの回転数が1000回転/分よりも高くなったときに、上側空間S1と下側空間S2との液圧の差によりに歯車ユニット4に働く力が引っ張りバネ5の付勢力よりも大きくなり、歯車ユニット4が下方向(オイルの流れと逆方向)へ回動して、従動歯車3が下方へ変位する。すると、従動歯車3の歯のうち、
2つだけが、右側湾曲面13bに対し、上記最小離間距離を持って対向するようになる。このように、ハウジング13の内面に近接した歯先の数が減ると、従動歯車3によって掻き上げるオイル量が減少する。このことで、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は少なくなるが、駆動歯車2及び従動歯車3の回転数は高まっているので、オイルポンプ1全体として見たときには、オイル供給量が増えていくことになる。また、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなることで、従動歯車3を回転させるのに要する動力はその分少なくて済む。
【0049】
上記した歯車ユニット4の下方向への変位は、引っ張りバネ5で付勢されていることから緩やかで、かつ、無段階に行われることになる。よって、オイル供給量も緩やかに、かつ、無段階に変化することになる。
【0050】
エンジンの回転数が例えば2400回転/分程度まで高まると、上側空間S1の液圧がさらに高まり、図8に示すように、歯車ユニット4は下端位置に達する。このとき、バイパス通路のリリーフ弁20に対し、上側空間S1の液圧が作用し、図9に示すように、リリーフ弁20は、右方向へ移動してリリーフ弁収容溝18に収納される。これにより、バイパス通路が開き、上側空間S1のオイルがバイパス通路を経て下側空間S2に流れ込む。
【0051】
以上説明したように、この実施形態1に係るオイルポンプ1によれば、ハウジング10に収容した従動歯車3を、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させて、従動歯車3の1回転当たりに送り出されるオイルの量を増減させることができる。これにより、エンジンの動力が無駄に使われるのを回避しながら、オイル供給量をエンジンの各部が要求する量にすることができるので、エンジンの燃費を向上させることができるとともに、エンジンの高回転時の出力を向上させることができる。
【0052】
また、歯車ユニット4をハウジング10内の液圧を利用して回動させることができるので、歯車ユニット4を変位させるための動力源等を別途設けずに済む。
【0053】
また、引っ張りバネ5が、歯車ユニット4を、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増える方向に付勢しているので、エンジンが低回転状態でハウジング10内の液圧が低いときに、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイルの量を多くすることができ、低回転時におけるオイルの供給量を十分に確保することができる。
【0054】
尚、実施形態1では、バイパス通路を設けているが、このバイパス通路は省略してもよい。
【0055】
また、図10に示す変形例1のように、歯車収容凹部13の右側湾曲面13bの下側領域13dを上記した形状よりも大きく湾曲させて、歯車ユニット4が下端位置にあるときに、従動歯車3の全ての歯の歯先と下側領域13dとの離間距離を上記最小離間距離よりも長くなるようにしてもよい。つまり、この変形例1では、従動歯車3が、従動歯車3の歯先とハウジング10の内面との離間距離が変化する方向に変位することになる。
【0056】
変形例1のように、歯車ユニット4が下端位置にあるときに、従動歯車3の全ての歯の歯先と右側湾曲面13bとの離間距離を上記最小離間距離よりも長くすると、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量を一層少なくすることができる。
【0057】
また、図11に示す変形例2のように、右側湾曲面13bに、従動歯車3の変位方向に延びる溝40を形成してもよい。この溝40の始点は、右側湾曲面13bの上側領域13cよりも下に位置している。溝40の幅は、下側へ行くほど広くなっている。このため、従動歯車3が下方へ変位していくにしたがって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなる。
【0058】
また、図12に示す変形例3のように、右側湾曲面13bに変形例2の溝40と同様に延びる第1溝41及び第2溝42を設けてもよい。第1溝41の始点は、第2溝42の始点よりも上に位置付けられている。したがって、この変形例3のものにおいても、従動歯車3は下へ変位していくにしたがって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなる。
【0059】
また、変形例2、3のような溝40〜42を設ける場合には、溝40〜42の深さを下側へ行くほど深くするようにしてもよい。また、図示しないが、溝の数は、3つ以上であってもよい。また、溝の幅は、長手方向中間部が広くなるようにしてもよい。溝の深さについても、長手方向中間部が深くなるようにしてもよい。また、溝の幅は、長手方向中間部が狭くなるようにしてもよい。また、溝の深さについても、長手方向中間部が浅くなるようにしてもよい。
【0060】
《発明の実施形態2》
図13〜15は、本発明の実施形態2に係るものである。この実施形態2のオイルポンプ1は、歯車ユニット4の付勢部材による付勢方向と、ハウジング10の内面形状とが実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分を詳細に説明する。
【0061】
ハウジング10の歯車収容凹部13における右側面の上下方向中間部には、右側湾曲面13gが形成されている。この右側湾曲面13gは、実施形態1の右側湾曲面13bとは上下反対となった形状である。すなわち、下側領域13hは、従動歯車3の歯先円の1/4を構成する円弧と略同じ形状とされ、上側領域13iは、従動歯車3の歯先円よりも大きな半径の円弧形状とされている。
【0062】
歯車ユニット4が下端位置まで回動した状態にあるときには、従動歯車3の右下約1/4が右側湾曲面13gの下側領域13hで覆われるようになる。従動歯車3の右下に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13gの下側領域13hに対し近接している。両者の離間距離は、上記最小離間距離である。歯車ユニット4が下端位置にあるときには従動歯車3の3つの歯の歯先が、右側湾曲面13gの下側領域13hに対し、上記最小離間距離を持って対向している。また、従動歯車3の右上に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13gの上側領域13iに対し、上記最小離間距離よりも大きく離れて対向している。
【0063】
歯車ユニット4が下端位置から図15に示す上端位置まで回動すると、従動歯車3の右上約1/4が右側湾曲面13gの上側領域13iで覆われるようになる。歯車ユニット4が上端位置にあるときには従動歯車3の2つの歯の歯先だけが、右側湾曲面13gの上側領域13iに対し、上記最小離間距離を持って対向している。つまり、この実施形態2においても、従動歯車3は、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位するようになっている。
【0064】
また、本体部材11の蓋部材12で覆われる面には、左側湾曲面13aよりも下方に、引っ張りバネ5の一端部が固定されるピン45が突設されている。尚、図示しないが、ピン45及び引っ張りバネ47の位置に対応して、蓋部材12の収容部の形状及び位置が設定されている。
【0065】
また、リリーフ弁20を付勢するコイルバネ46の付勢力は、実施形態1のコイルバネ19よりも弱く設定され、また、引っ張りバネ47の付勢力は、実施形態1の引っ張りバネ5よりも強く設定されている。具体的には、コイルバネ46の付勢力は、エンジンの回転数が例えば1000回転/分程度まで高まったときにおける上側空間S1の液圧がリリーフ弁20に対し作用したときに、リリーフ弁20をリリーフ弁収容溝18に収容できるように設定されている。
【0066】
次に、上記のように構成されたオイルポンプ1の動作について説明する。
【0067】
駆動歯車2及び従動歯車3が停止している場合には、図13に示すように、歯車ユニット4は下端位置にある。エンジンが例えばアイドリング状態にあるときには、歯車ユニット4が上記のように引っ張りバネ47で付勢されていることから、下端位置にあり、従動歯車3の3つの歯先と右側湾曲面13gの下側領域13hとの離間距離は、上記最小離間距離となっている。よって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は多くなり、アイドリング時のオイル供給量は十分に確保される。
【0068】
エンジンの回転数が高まると、上側空間S1に流入するオイル量が増えて、上側空間S1内の液圧が高まる。この液圧は、リリーフ弁20に作用する。エンジンの回転数が1000回転/分よりも高くなったときには、図14に示すように、リリーフ弁20は、右方向へ移動してリリーフ弁収容溝18に収納される。これにより、バイパス通路が開き、上側空間S1のオイルがバイパス通路を流れて下側空間S2に流れ込む。その結果、下側空間S2の液圧が高まる。
【0069】
エンジンの回転数が例えば2400回転/分程度まで高まると、バイパス通路を介して上側空間S1から下側空間S2に流れるオイルの量がさらに増えるとともに、下側空間S2の液圧が高まる。これにより、歯車ユニット4が上方向(オイルの流れ方向)へ回動して、従動歯車3が上方へ変位する。すると、従動歯車3の歯のうち、2つだけが、右側湾曲面13gに対し、上記最小離間距離を持って対向するようになる。このことで、従動歯車3によって掻き上げるオイル量が減少して、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は少なくなるが、駆動歯車2及び従動歯車3の回転数は高まっているので、オイルポンプ1全体として見たときには、オイル供給量が増えていくことになる。また、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなることで、従動歯車3を回転させるのに要する動力はその分少なくて済む。
【0070】
以上説明したように、この実施形態2に係るオイルポンプ1によれば、実施形態1のものと同様に、エンジンの動力が無駄に使われるのを回避しながら、オイル供給量をエンジンの各部が要求する量にすることができるので、エンジンの燃費を向上させることができるとともに、エンジンの高回転時の出力を向上させることができる。
【0071】
《発明の実施形態3》
図16〜図18は、本発明の実施形態3に係るものである。このオイルポンプ1は、ハウジング10に設けられた可動部材50を変位させることで、駆動歯車2が1回転当たりに送り出すオイル量を増減させることができるようになっている点で、実施形態1のものとは異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0072】
ハウジング10の歯車収容凹部13の左側湾曲面13jは、駆動歯車2の歯先円よりも大きく湾曲するとともに、駆動歯車2の歯先から左側へ離れて形成されている。また、本体部材11の左側下部には、歯車収容凹部13よりも小さい左側凹部51が形成されている。左側凹部51は、略上下方向に長く延びており、全体として、上側が下側よりも左側に位置するように僅かに傾斜している。この左側凹部51には、上下方向に伸縮するコイルバネ52が収容されている。さらに、本体部材11には、歯車収容凹部13と左側凹部51の上端部とを連通させる切欠部53が形成されている。
【0073】
上記可動部材50は、駆動歯車2と左側湾曲面13jとの間に配置されている。この可動部材50は、左側湾曲面13jに沿うように湾曲して延びる本体部55と、本体部55の左側湾曲面13jに沿う部分から突出する突出部56とで構成されている。本体部55は、駆動歯車2の歯先に対向する対向面55aと、対向面55aの上縁部から左側湾曲面13jへ向けて延びる液圧作用面55bと、対向面55aの下縁部から左側湾曲面13jへ向けて延びる下端面55cと、左側湾曲面13jに沿うように形作られた被案内面55dとを有している。対向面55aは、駆動歯車2の歯先円の円弧よりも緩く湾曲している。また、被案内面55dは、左側湾曲面13j上を摺動するようになっている。
【0074】
突出部56は、本体部材11の切欠部53から左側凹部51内へ突出するように形成されている。突出部56の肉厚は、切欠部53の幅寸法(図16の上下方向の寸法)よりも狭く設定されており、突出部56は、切欠部53をその幅方向に移動可能となっている。これにより、可動部材50は、左側湾曲面13jに案内されながら、その上下方向に変位可能となる。
【0075】
可動部材50が変位する際の軌跡は、左側湾曲面13jの形状で設定されるようになっている。この左側湾曲面13jの形状は、可動部材50が上端位置にあるとき(図16に示す)に対向面55aと駆動歯車2の左下に位置する歯の歯先とが近接して両者の離間距離が最も短くなり、可動部材50が上端位置から下方向へ変位していくと、図18に示すように、対向面55aが駆動歯車2の左下に位置する歯の歯先から離れて、両者の離間距離が長くなるように形状設定されている。
【0076】
また、突出部56は、コイルバネ52の上端側と接しており、このコイルバネ52により、上方、即ち、可動部材50の対向面55aと駆動歯車2の歯先との離間距離が短くなる方向に付勢されている。このコイルバネ52の付勢力は、オイルポンプ1の作動時における歯車収容凹部13内の上側空間S1の液圧が所定値以下の場合(後述する)には可動部材50が上端位置に留まったままとなるように設定されている。
【0077】
また、引っ張りバネ5及びコイルバネ52の付勢力は、後述するオイルポンプ1の動作時に、可動部材50が下方へ変位するよりも先に歯車ユニット4が下方へ回動するように設定されている。
【0078】
次に、上記のように構成されたオイルポンプ1の動作について説明する。
【0079】
エンジンが例えばアイドリング状態にあるときには、可動部材50が上記のようにコイルバネ52で付勢されていることから、図16に示すように、上端位置にあり、駆動歯車2の歯先と可動部材50の対向面55aとは近接している。よって、駆動歯車2が1回転当たりに送り出すオイル量は多くなり、アイドリング時のオイル供給量は十分に確保される。従動歯車3についても、実施形態1で説明したように、1回転当たりに送り出すオイル量は多くなる。
【0080】
エンジンの回転数が高まると、図17に示すように、歯車ユニット4が下方へ回動して、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなる。
【0081】
エンジンの回転数がさらに高まると、上側空間S1の液圧が高まり、この液圧が可動部材50の液圧作用面55bに作用する。すると、可動部材50には、コイルバネ52の付勢力に抗する下方向への力が働くことになる。ここで、コイルバネ52の付勢力は、例えば、エンジンの回転数が1000回転/分程度になったときに可動部材50に働く力と釣り合うように設定しておく。
【0082】
このように付勢力を設定しておくと、エンジンの回転数が1000回転/分よりも高くなったときに、液圧により可動部材50に働く力がコイルバネ52の付勢力よりも大きくなり、可動部材50が左側湾曲面13jに案内されながら下方へ変位していく。すると、図18に示すように、駆動歯車2の歯先と可動部材50の対向面55aとの離間距離が長くなる。この離間距離が長くなると、駆動歯車2の歯によって掻き上げるオイル量が減少する。このことで、駆動歯車2が1回転当たりに送り出すオイル量は少なくなり、駆動歯車2を回転させるのに要する動力はその分少なくて済む。
【0083】
以上説明したように、この実施形態3に係るオイルポンプ1によれば、実施形態1と同様に、エンジンの動力が無駄に使われるのを回避しながら、オイル供給量をエンジンの各部が要求する量にすることができるので、エンジンの燃費を向上させることができるとともに、エンジンの高回転時の出力を向上させることができる。
【0084】
尚、上記実施形態3では、歯車ユニット4を下方へ回動させた後に、可動部材50を下方へ変位させるようにしているが、これに限らず、可動部材50を歯車ユニット4よりも先に変位させてもよいし、歯車ユニット4の回動と可動部材50の変位とが同時に開始されるようにしてもよい。
【0085】
また、実施形態1の変形例1〜3の構造は、実施形態2、3にも適用することができる。
【0086】
また、実施形態1〜3では2つの歯車2、3を配置しているが、歯車の数は1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0087】
また、実施形態1〜3では2つの歯車2、3の歯先円直径の大きさを等しくしているが、これに限らず、互いに異ならせてもよい。この場合、駆動歯車2と従動歯車3の歯数が互いに異なることになり、この歯数の設定によって従動歯車3を減速駆動することもできるし、増速駆動することもできる。また、歯車2、3の歯の形状は任意であり、歯車2、3の有する歯の数はいくつであってもかまわない。
【0088】
また、実施形態1〜3では付勢部材をコイルバネ5で構成しているが、これに限らず、例えば、ゴム等の弾性部材で構成してもよい。
【0089】
また、上記実施形態1、2では、オイルポンプ1のオイル流入側が下に位置するように構成しているが、これに限らず、オイル流入側が上や上下方向の中間位置となるように構成してもよい。
【0090】
また、本発明に係るポンプは、例えば自動変速機等の動力機械に設けてもよい。また、本発明は、オイル以外にも例えば水等を送るポンプにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明に係るポンプは、例えば、自動車に搭載されるエンジンに配設するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施形態1に係るオイルポンプの斜視図である。
【図2】オイルポンプの分解斜視図である。
【図3】蓋部材を取り外した状態のオイルポンプの斜視図である。
【図4】蓋部材を取り外した状態のオイルポンプの平面図である。
【図5】図2におけるV−V線断面図である。
【図6】図1におけるVI−VII線断面図である。
【図7】図1におけるVII−VII線断面図である。
【図8】歯車ユニットが下端位置まで回動した状態の図4相当図である。
【図9】歯車ユニットが下端位置まで回動し、かつ、リリーフ弁が開いた状態の図4相当図である。
【図10】実施形態1の変形例1に係る図9相当図である。
【図11】実施形態1の変形例2に係る図5相当図である。
【図12】実施形態1の変形例3に係る図5相当図である。
【図13】実施形態2に係るオイルポンプの図4相当図である。
【図14】リリーフ弁が開いた状態の図13相当図である。
【図15】リリーフ弁が開き、かつ、歯車ユニットが上端位置まで回動した状態の図13相当図ある。
【図16】実施形態3に係るオイルポンプの図4相当図である。
【図17】歯車ユニットが下端位置まで回動した状態の図16相当図である。
【図18】歯車ユニットが下端位置まで回動し、かつ、可動部材が下端位置まで変位した状態の図4相当図である。
【符号の説明】
【0093】
1 オイルポンプ
2 駆動歯車
3 従動歯車(回転体)
10 ハウジング
15 駆動軸
16 回転軸
21a オイル流入孔
22a オイル流出孔
26 軸受孔(軸受部)
35 貫通孔(軸受部)
36 第1プレート(支持部材)
37 第2プレート(支持部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を回転させることによって液体を送るように構成されたポンプに関し、特に回転体の1回転当たりの液体の送り出し量を変化可能にした可変容量形ポンプの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、自動車のエンジンにはオイルポンプが設けられている(特許文献1参照)。特許文献1のオイルポンプは、いわゆる歯車式と呼ばれているオイルポンプであり、具体的には、エンジンのクランクシャフトに直結されて回転駆動される歯車形状の回転体と、この回転体を収容するハウジングとを備えている。そして、回転体がクランクシャフトにより駆動されて回転動作すると、ハウジングに形成されたオイル流入孔からハウジング内に流入したオイルが、流出孔から流出してエンジンの各部に供給される。
【0003】
また、エンジンの各部を潤滑するにあたっては、基本的には、エンジンの回転数が高いほどオイルの供給量を増やす必要があるが、その供給量はエンジンの回転数に比例して増やさなくてもよく、エンジンの運転状態が高回転領域にあったとしても、所定量以上の供給は不要であることが知られている。
【0004】
ところが、上記特許文献1のオイルポンプの回転体は、クランクシャフトに同期して回転するようになっている。従って、回転体の回転動作によって送り出されるオイル量は、エンジンの回転数に比例するように増えていくことになる。つまり、エンジンの運転状態が高回転領域にあるときには、回転体の回転動作によって送り出されるオイル量は、実際にエンジンの各部が要求しているオイル量よりも大幅に多くなりがちである。
【0005】
このことに対し、特許文献1のポンプでは、エンジンの運転状態が高回転領域にあるときに、回転体の回転動作によって送り出されたオイルのうち、一部をオイルポンプ内に形成されたバイパスルートに流すことによって、エンジンの各部へのオイル供給量をエンジンの各部が要求しているオイル量に近づけるようにしている。
【特許文献1】特許第3122348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のポンプでは、回転体の回転動作によって回転体よりも下流側へ送られたオイルの一部を、エンジンの各部に供給することなくバイパスルートに流すようにしている。つまり、バイパスルートに流しているオイル量に相当する分だけ、回転体を回転させるのに要するエンジンの動力が無駄に使われており、その結果、燃費が悪化するとともに、特に高回転時のエンジンの出力低下を招くことになる。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液体の供給量を所定の供給量とする場合に、回転体が1回転当たりに送り出す液体の量を増減させて対応できるようにすることで、動力機械の動力が無駄に使われるのを回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明では、動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、上記ハウジングには、上記回転体を、該回転体の歯先と該ハウジングの内面との離間距離が変化する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられている構成とする。
【0009】
第2の発明では、動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、上記ハウジングには、上記回転体を、上記ハウジングの内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられている構成とする。
【0010】
第3の発明では、第1または2の発明において、回転体変位部は、ハウジング内の液圧で動作する構成とする。
【0011】
第4の発明では、第1の発明において、ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて上記従動歯車の歯先と上記ハウジングの内面との離間距離を変化させるように構成されているものとする。
【0012】
第5の発明では、第2の発明において、ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて、上記ハウジングの内面に近接した上記従動歯車の歯先の数を増減させるように構成されているものとする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、回転体変位部で回転体を変位させることにより、回転体の歯先とハウジングの内面との離間距離を変化させることができる。この離間距離を短くすると、ハウジングの内面が回転体の歯先に近くなるので、回転体の1回転当たりに送り出される液体の量を増加させることができ、長くするとハウジングの内面が回転体の歯先から離れるので、1回転当たりに送り出される液体の量を減少させることができる。回転体の1回転当たりに送り出される液体の量が減少すれば、その分回転体を回転させるのに要する動力を少なくすることができ、これにより、動力機械の動力が無駄に使われるのを回避しながら、液体の供給量を所定の供給量とすることができる。
【0014】
第2の発明によれば、回転体変位部で回転体を変位させることにより、ハウジングの内面に近接した歯先の数を増減させることができる。ハウジングの内面に近接した歯先の数を増やすと、回転体の1回転当たりに送り出される液体の量を増加させることができ、少なくすると、1回転当たりに送り出される液体の量を減少させることができる。回転体の1回転当たりに送り出される液体の量が減少すれば、その分回転体を回転させるのに要する動力を少なくすることができ、よって、第1の発明と同様な効果を奏することができる。
【0015】
第3の発明によれば、ハウジング内の液圧を利用して回転体を変位させることができるので、回転体を変位させるための動力源を別途設けなくとも、回転体が1回転当たりに送り出す液体の量を変化させることができる。
【0016】
第4、5の発明によれば、駆動歯車の駆動軸を利用して従動歯車を変位させることにより、従動歯車が1回転当たりに送り出す液体の量を変化させることができるので、ポンプの構造をシンプルにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るオイルポンプ1を示すものである。オイルポンプ1は、エンジン(動力機械)の各部へ潤滑用及び冷却用のオイルを供給する役割を担っている。オイルポンプ1は、図示しないが、エンジンのシリンダブロックに配設されており、エンジンの下部に位置するオイルパン内にあるオイルストレーナを介して、オイルパンに貯留されているオイルを汲み上げ、汲み上げたオイルをエンジンの各部に繋がる配管に流して、エンジンの各部へ供給するように構成されている。
【0019】
尚、以下の説明では説明の便宜を図るため、特に示さない限り、「上」及び「下」はそれぞれ各図に示すように紙面上でオイルポンプ1の上側及び下側を意味し、「左」及び「右」は各図に示すように紙面上でオイルポンプ1の左側及び右側を意味するものとする。
【0020】
図2及び図3に示すように、上記オイルポンプ1は、駆動歯車2及び従動歯車3を有する歯車ユニット4と、歯車ユニット4を所定方向に付勢する付勢部材としての引っ張りバネ5と、これら歯車ユニット4及び引っ張りバネ5を収容するハウジング10とを有している。図1に示すように、ハウジング10は、全体として円柱形状とされており、厚肉な円形板状の本体部材11と、薄肉な円形板状の蓋部材12とで構成されている。尚、ハウジング10の形状は、上記した円柱形状に限られるものではない。
【0021】
本体部材11における蓋部材12で覆われる面には、図2に示すように、歯車ユニット4が収容される歯車収容凹部13が形成されている。この歯車収容凹部13は、本体部材11の中心を通ってオイルポンプ1の上下方向に長く延びている。図4に示すように、歯車収容凹部13の上下方向中央部近傍に歯車ユニット4が配置され、その左側には、本体部材11の中心線と平行に延びる駆動軸15を有する上記駆動歯車2が位置し、右側には、同様に延びる回転軸16を有する上記従動歯車3が位置している。
【0022】
歯車収容凹部13の左側面には、上下方向の中央部に、左側へ向けて湾曲する左側湾曲面13aが形成されている。この左側湾曲面13aは、駆動歯車2の歯先円の左半分を構成する円弧と略同じ形状とされており、駆動歯車2の左側略半分は左側湾曲面13aで覆われるようになっている。歯車収容凹部13の左側面の左側湾曲面13aよりも上側部分及び下側部分は、上下方向に略平坦に延びている。
【0023】
歯車収容凹部13の右側面には、左側湾曲面13aと対向する位置に右側へ向けて湾曲する右側湾曲面13bが形成されている。この右側湾曲面13bは、全体として左側湾曲面13aよりも緩く湾曲している。右側湾曲面13bにおける上側領域13cは、従動歯車3の歯先円の1/4を構成する円弧と略同じ形状とされている。右側湾曲面13bにおける下側領域13dは、従動歯車3の歯先円よりも大きな半径の円弧形状とされている。歯車収容凹部13の右側面の右側湾曲面13bよりも上側部分及び下側部分は、それぞれ、左側面の上側部分及び下側部分と略平行に延びるように形成された上側平坦面13e及び下側平坦面13fで構成されている。
【0024】
本体部材11の右側には、歯車収容凹部13の駆動歯車2及び従動歯車3よりも上側の上側空間S1と下側の下側空間S2とを連通させるバイパス通路を形成するための溝17が形成されている。この溝17は、下側平坦面13fに開口して上方へ向けて右側湾曲面13dの右側を回り込むように延び、上側平坦面13eに開口している。溝17の上側の中途部には、右側へ向けて延びるリリーフ弁収容溝18が連なっている。リリーフ弁収容溝18には、コイルバネ19と、バイパス通路を開閉するためのリリーフ弁20とが収容されるようになっている。リリーフ弁20はコイルバネ19により左側へ付勢され、オイルポンプ1の停止時には、リリーフ弁収容溝18から左側へ飛び出しており、このリリーフ弁20によってバイパス通路が閉じられている。コイルバネ19の付勢力は、後述するが、オイルポンプ1の作動時に上側空間S1の液圧が所定以上の高い圧力になったときに、リリーフ弁20を右側へ移動させてリリーフ弁収容溝18内に収めてバイパス通路を開くことができる程度に設定されている。
【0025】
また、図5にも示すように、本体部材11の下端部には、下方へ突出する上流管21が設けられている。この上流管21には、オイルストレーナから延びるオイル配管(図示せず)の下流端が接続されるようになっている。上流管21の内部には、オイル流入孔21aが形成されている。このオイル流入孔21aは、歯車収容凹部13の下側空間S2に連通している。
【0026】
本体部材11の上端部には、上方へ突出する下流管22が設けられている。この下流管22には、エンジンの各部にオイルを導くオイル配管(図示せず)の上流端が接続されるようになっている。下流管22の内部には、オイル流出孔22aが形成されている。このオイル流出孔22aは、歯車収容凹部13の上側空間S1に連通している。
【0027】
また、本体部材11の蓋部材12で覆われる面には、左側湾曲面13aよりも上方に、引っ張りバネ5の一端部が固定されるピン25が突設されている。
【0028】
また、図2及び図6に示すように、歯車収容凹部13の底面には、中心よりも左側に駆動歯車2の駆動軸15を受ける有底の軸受孔26が本体部材11の中心線方向に延びるように形成されている。さらに、歯車収容凹部13の底面には、本体側窪み27が成形されている。この本体側窪み27は、詳細は後述するが、軸受孔26を中心として上下方向に広がる扇形に近い形状とされている。
【0029】
図6に示すように、蓋部材12の裏面には、本体側窪み27と対向する部位に、本体側窪み27と同形状の蓋側窪み30が形成されている。また、図1や図7に示すように、蓋部材12には、ピン25を収容するピン収容部31が表側へ突出するように形成されるとともに、引っ張りバネ5を収容する引っ張りバネ収容部32が表側へ突出するように形成されている。さらに、後述する歯車ユニット4に突設された突出部38を収容する突出部収容部33も形成されている。
【0030】
また、図6に示すように、蓋部材12には、本体部材11の軸受孔26に対向する部位に、軸受孔35が貫通形成されている。軸受孔35の周縁部は、蓋部材12の表側へ突出している。
【0031】
上記駆動軸15と駆動歯車2とは一体化されている。図2に示すように、駆動歯車2には、8つの歯が外周面に周方向に並ぶように設けられている。各歯は、駆動歯車2の軸方向両端に亘って形成されている。図6に示すように、駆動軸15の両端部は、駆動歯車2の軸方向両端面から突出している。
【0032】
上記回転軸16と従動歯車3とは一体化されている。従動歯車3は、駆動歯車2と同じ形状とされ、8つの歯が外周面に周方向に並ぶように設けられている。回転軸16の両端部は、従動歯車3の軸方向両端面から突出しており、その突出長さは、駆動軸15の駆動歯車2からの突出長さよりも短く設定されている。
【0033】
歯車ユニット4は、駆動歯車2と従動歯車3とを一体化するための第1プレート(支持部材)36及び第2プレート(支持部材)37を有している。第1プレート36は、駆動歯車2と従動歯車3とが並ぶ方向に長く形成されている。図7にも示すように、第1プレート36の厚みは、本体側窪み27の深さと同じに設定されている。図6にも示すように、第1プレート36の長手方向両端部には、貫通孔36a、36bがそれぞれ形成され、これら貫通孔36a、36bに駆動軸15の一端部及び従動軸16の一端部がそれぞれ回転可能に挿入されている。この状態で駆動軸15の一端部は貫通孔36aから突出する一方、回転軸16の一端部は、貫通孔36bから突出しないようになっている。
【0034】
第2プレート37は、第1プレート36と同様に長く延びる形状とされ、両端部に貫通孔37a、37bを有している。第2プレート37の厚みは、蓋側窪み部30の深さと同じに設定されている。貫通孔37a、37bには、駆動軸15の他端部及び従動軸16の他端部がそれぞれ回転可能に挿入されている。この状態で駆動軸15の他端部は貫通孔37aから突出する一方、回転軸16の他端部は、貫通孔37bから突出しないようになっている。図2や図3に示すように、この第2プレート37の長手方向中間部には、駆動軸15の他端部の突出方向に突出する突出部38が形成されている。この突出部38に引っ張りバネ5の他端部が固定されるようになっている。
【0035】
上記歯車ユニット4は、第1プレート36が本体側窪み27に入るようにして本体部材11の歯車収容凹部13に収容される。このとき、図6に示すように、駆動軸15の一端部が軸受孔26に挿入支持され、歯車ユニット4は、駆動軸15周りに回動可能となる。この歯車ユニット4の回動動作に対応するように、本体側窪み27は、第1プレート36の駆動軸15周りの回動軌跡に対応した扇形状とされている。また、引っ張りバネ5の一端部をピン25に固定し、他端部を第2プレート37の突出部38に固定すると、歯車ユニット4は、上方へ付勢された状態となる。
【0036】
そして、図6や図7に示すように、本体部材11に蓋部材12が取り付けられると、歯車収容凹部13及び溝17の開放側が閉塞されるとともに、ピン25、引っ張りバネ5及び突出部38がピン収容部31、引っ張りバネ収容部32及び突出部収容部33にそれぞれ収容される。また、駆動軸15の他端部は蓋部材12の貫通孔35から外方へ突出する。この駆動軸15の他端部には、図示しないが、エンジンのクランクシャフト(出力軸)の回転力がチェーンを介して伝達されるようになっている。また、第1プレート36は、蓋部材12の蓋側窪み30に入る。このとき、歯車ユニット4が引っ張りバネ5で上方へ付勢されているので、第1プレート36の周縁部が本体側窪み27の上縁部に当接するとともに、第2プレート37の周縁部が蓋側窪み30の上縁部に当接し、これにより、図4に示すように、歯車ユニット4が上端位置となる。
【0037】
歯車ユニット4が上端位置まで回動した状態にあるときには、従動歯車3の右上約1/4が右側湾曲面13bの上側領域13cで覆われるようになる。従動歯車3の右上に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13bの上側領域13cに対し近接している。両者の離間距離は、潤滑に最低限必要な薄い油膜ができる程度の最小離間距離である。歯車ユニット4が上端位置にあるときには、従動歯車3の少なくとも3つの歯の歯先が、右側湾曲面13bの上側領域13cに対し、最小離間距離を持って対向するようになっている。また、従動歯車3の右下に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13bの下側領域13dに対し、上記最小離間距離よりも大きく離れて対向している。
【0038】
歯車ユニット4は上端位置から図8に示す下端位置まで駆動軸15周りに下方へ回動するようになっている。下端位置になると、第1プレート36の周縁部が本体側窪み27の下縁部に当接するとともに、第2プレート37の周縁部が蓋側窪み30の下縁部に当接し、これにより、下端位置が決定されるようになっている。つまり、本体側窪み27及び蓋側窪み30の周縁部は、歯車ユニット4の回動範囲を規制するストッパとして機能するようになっている。
【0039】
歯車ユニット4が下端位置まで回動した状態にあるときには、従動歯車3の右下約1/4が右側湾曲面13bの下側領域13dで覆われるようになる。歯車ユニット4が下端位置にあるときには従動歯車3の2つの歯先が、右側湾曲面13bの下側領域13dに対し、上記最小離間距離を持って対向するようになっている。
【0040】
このように、本発明の回転体としての従動歯車3は、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位するようになっており、本発明の回転体変位部は、上記第1プレート36、第2プレート37、引っ張りバネ5、窪み27、30、軸受孔26、35、駆動歯車2及び駆動軸15で構成されている。
【0041】
また、駆動歯車2の左側半分は、左側湾曲面13aで覆われるようになる。駆動歯車2における左側の歯の歯先は、左側湾曲面13aに対し、上記最小離間距離を持って対向している。
【0042】
また、引っ張りバネ5の付勢力は、オイルポンプ1の作動時における歯車収容凹部13内の上側空間S1の液圧が所定値以下の場合(後述する)には歯車ユニット4が上端位置に留まったままとなるように設定されている。
【0043】
次に、上記のように構成されたオイルポンプ1の動作について説明する。尚、歯車収容凹部13にはオイルが満たされた状態となっている。
【0044】
駆動歯車2及び従動歯車3が停止している場合には、図4に示すように、歯車ユニット4は上端位置にある。エンジンが始動してクランクシャフトが回転すると、駆動軸15に固定されている駆動歯車2はX方向に回転駆動される。この駆動歯車2の回転動作により、従動歯車3はY方向に回転する。
【0045】
駆動歯車2及び従動歯車3が回転すると、下側空間S2内のオイルが歯により掻き上げられて上側空間S1に流入し、この上側空間S1に流入したオイルは、オイル流出孔21aから流出してエンジンの各部に供給される。下側空間S2にはオイルパン内のオイルが新たに流入してくる。
【0046】
エンジンが例えばアイドリング状態にあるときには、歯車ユニット4が上記のように引っ張りバネ5で付勢されていることから、上端位置にあり、従動歯車3の少なくとも2つの歯先と右側湾曲面13bの上側領域13cとの離間距離は、上記最小離間距離となっている。よって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は多くなり、アイドリング時のオイル供給量は十分に確保される。
【0047】
エンジンの回転数が高まると、駆動歯車2及び従動歯車3の単位時間当たりの回転数が比例して高まる。これにより、上側空間S1に流入するオイル量が増えて、上側空間S1内の液圧が下側空間S2内の液圧よりも高まる。この上側空間S1及び下側空間S2の液圧は、歯車ユニット4に作用し、歯車ユニット4には、引っ張りバネ5に抗する下方向への力が働くことになる。ここで、引っ張りバネ5の付勢力は、例えば、エンジンの回転数が1000回転/分程度になったときに歯車ユニット4に働く下向きの力と釣り合うように設定しておく。
【0048】
このように付勢力を設定しておくと、エンジンの回転数が1000回転/分よりも高くなったときに、上側空間S1と下側空間S2との液圧の差によりに歯車ユニット4に働く力が引っ張りバネ5の付勢力よりも大きくなり、歯車ユニット4が下方向(オイルの流れと逆方向)へ回動して、従動歯車3が下方へ変位する。すると、従動歯車3の歯のうち、
2つだけが、右側湾曲面13bに対し、上記最小離間距離を持って対向するようになる。このように、ハウジング13の内面に近接した歯先の数が減ると、従動歯車3によって掻き上げるオイル量が減少する。このことで、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は少なくなるが、駆動歯車2及び従動歯車3の回転数は高まっているので、オイルポンプ1全体として見たときには、オイル供給量が増えていくことになる。また、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなることで、従動歯車3を回転させるのに要する動力はその分少なくて済む。
【0049】
上記した歯車ユニット4の下方向への変位は、引っ張りバネ5で付勢されていることから緩やかで、かつ、無段階に行われることになる。よって、オイル供給量も緩やかに、かつ、無段階に変化することになる。
【0050】
エンジンの回転数が例えば2400回転/分程度まで高まると、上側空間S1の液圧がさらに高まり、図8に示すように、歯車ユニット4は下端位置に達する。このとき、バイパス通路のリリーフ弁20に対し、上側空間S1の液圧が作用し、図9に示すように、リリーフ弁20は、右方向へ移動してリリーフ弁収容溝18に収納される。これにより、バイパス通路が開き、上側空間S1のオイルがバイパス通路を経て下側空間S2に流れ込む。
【0051】
以上説明したように、この実施形態1に係るオイルポンプ1によれば、ハウジング10に収容した従動歯車3を、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させて、従動歯車3の1回転当たりに送り出されるオイルの量を増減させることができる。これにより、エンジンの動力が無駄に使われるのを回避しながら、オイル供給量をエンジンの各部が要求する量にすることができるので、エンジンの燃費を向上させることができるとともに、エンジンの高回転時の出力を向上させることができる。
【0052】
また、歯車ユニット4をハウジング10内の液圧を利用して回動させることができるので、歯車ユニット4を変位させるための動力源等を別途設けずに済む。
【0053】
また、引っ張りバネ5が、歯車ユニット4を、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増える方向に付勢しているので、エンジンが低回転状態でハウジング10内の液圧が低いときに、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイルの量を多くすることができ、低回転時におけるオイルの供給量を十分に確保することができる。
【0054】
尚、実施形態1では、バイパス通路を設けているが、このバイパス通路は省略してもよい。
【0055】
また、図10に示す変形例1のように、歯車収容凹部13の右側湾曲面13bの下側領域13dを上記した形状よりも大きく湾曲させて、歯車ユニット4が下端位置にあるときに、従動歯車3の全ての歯の歯先と下側領域13dとの離間距離を上記最小離間距離よりも長くなるようにしてもよい。つまり、この変形例1では、従動歯車3が、従動歯車3の歯先とハウジング10の内面との離間距離が変化する方向に変位することになる。
【0056】
変形例1のように、歯車ユニット4が下端位置にあるときに、従動歯車3の全ての歯の歯先と右側湾曲面13bとの離間距離を上記最小離間距離よりも長くすると、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量を一層少なくすることができる。
【0057】
また、図11に示す変形例2のように、右側湾曲面13bに、従動歯車3の変位方向に延びる溝40を形成してもよい。この溝40の始点は、右側湾曲面13bの上側領域13cよりも下に位置している。溝40の幅は、下側へ行くほど広くなっている。このため、従動歯車3が下方へ変位していくにしたがって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなる。
【0058】
また、図12に示す変形例3のように、右側湾曲面13bに変形例2の溝40と同様に延びる第1溝41及び第2溝42を設けてもよい。第1溝41の始点は、第2溝42の始点よりも上に位置付けられている。したがって、この変形例3のものにおいても、従動歯車3は下へ変位していくにしたがって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなる。
【0059】
また、変形例2、3のような溝40〜42を設ける場合には、溝40〜42の深さを下側へ行くほど深くするようにしてもよい。また、図示しないが、溝の数は、3つ以上であってもよい。また、溝の幅は、長手方向中間部が広くなるようにしてもよい。溝の深さについても、長手方向中間部が深くなるようにしてもよい。また、溝の幅は、長手方向中間部が狭くなるようにしてもよい。また、溝の深さについても、長手方向中間部が浅くなるようにしてもよい。
【0060】
《発明の実施形態2》
図13〜15は、本発明の実施形態2に係るものである。この実施形態2のオイルポンプ1は、歯車ユニット4の付勢部材による付勢方向と、ハウジング10の内面形状とが実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分を詳細に説明する。
【0061】
ハウジング10の歯車収容凹部13における右側面の上下方向中間部には、右側湾曲面13gが形成されている。この右側湾曲面13gは、実施形態1の右側湾曲面13bとは上下反対となった形状である。すなわち、下側領域13hは、従動歯車3の歯先円の1/4を構成する円弧と略同じ形状とされ、上側領域13iは、従動歯車3の歯先円よりも大きな半径の円弧形状とされている。
【0062】
歯車ユニット4が下端位置まで回動した状態にあるときには、従動歯車3の右下約1/4が右側湾曲面13gの下側領域13hで覆われるようになる。従動歯車3の右下に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13gの下側領域13hに対し近接している。両者の離間距離は、上記最小離間距離である。歯車ユニット4が下端位置にあるときには従動歯車3の3つの歯の歯先が、右側湾曲面13gの下側領域13hに対し、上記最小離間距離を持って対向している。また、従動歯車3の右上に位置する歯の歯先は、右側湾曲面13gの上側領域13iに対し、上記最小離間距離よりも大きく離れて対向している。
【0063】
歯車ユニット4が下端位置から図15に示す上端位置まで回動すると、従動歯車3の右上約1/4が右側湾曲面13gの上側領域13iで覆われるようになる。歯車ユニット4が上端位置にあるときには従動歯車3の2つの歯の歯先だけが、右側湾曲面13gの上側領域13iに対し、上記最小離間距離を持って対向している。つまり、この実施形態2においても、従動歯車3は、ハウジング10の内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位するようになっている。
【0064】
また、本体部材11の蓋部材12で覆われる面には、左側湾曲面13aよりも下方に、引っ張りバネ5の一端部が固定されるピン45が突設されている。尚、図示しないが、ピン45及び引っ張りバネ47の位置に対応して、蓋部材12の収容部の形状及び位置が設定されている。
【0065】
また、リリーフ弁20を付勢するコイルバネ46の付勢力は、実施形態1のコイルバネ19よりも弱く設定され、また、引っ張りバネ47の付勢力は、実施形態1の引っ張りバネ5よりも強く設定されている。具体的には、コイルバネ46の付勢力は、エンジンの回転数が例えば1000回転/分程度まで高まったときにおける上側空間S1の液圧がリリーフ弁20に対し作用したときに、リリーフ弁20をリリーフ弁収容溝18に収容できるように設定されている。
【0066】
次に、上記のように構成されたオイルポンプ1の動作について説明する。
【0067】
駆動歯車2及び従動歯車3が停止している場合には、図13に示すように、歯車ユニット4は下端位置にある。エンジンが例えばアイドリング状態にあるときには、歯車ユニット4が上記のように引っ張りバネ47で付勢されていることから、下端位置にあり、従動歯車3の3つの歯先と右側湾曲面13gの下側領域13hとの離間距離は、上記最小離間距離となっている。よって、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は多くなり、アイドリング時のオイル供給量は十分に確保される。
【0068】
エンジンの回転数が高まると、上側空間S1に流入するオイル量が増えて、上側空間S1内の液圧が高まる。この液圧は、リリーフ弁20に作用する。エンジンの回転数が1000回転/分よりも高くなったときには、図14に示すように、リリーフ弁20は、右方向へ移動してリリーフ弁収容溝18に収納される。これにより、バイパス通路が開き、上側空間S1のオイルがバイパス通路を流れて下側空間S2に流れ込む。その結果、下側空間S2の液圧が高まる。
【0069】
エンジンの回転数が例えば2400回転/分程度まで高まると、バイパス通路を介して上側空間S1から下側空間S2に流れるオイルの量がさらに増えるとともに、下側空間S2の液圧が高まる。これにより、歯車ユニット4が上方向(オイルの流れ方向)へ回動して、従動歯車3が上方へ変位する。すると、従動歯車3の歯のうち、2つだけが、右側湾曲面13gに対し、上記最小離間距離を持って対向するようになる。このことで、従動歯車3によって掻き上げるオイル量が減少して、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量は少なくなるが、駆動歯車2及び従動歯車3の回転数は高まっているので、オイルポンプ1全体として見たときには、オイル供給量が増えていくことになる。また、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなることで、従動歯車3を回転させるのに要する動力はその分少なくて済む。
【0070】
以上説明したように、この実施形態2に係るオイルポンプ1によれば、実施形態1のものと同様に、エンジンの動力が無駄に使われるのを回避しながら、オイル供給量をエンジンの各部が要求する量にすることができるので、エンジンの燃費を向上させることができるとともに、エンジンの高回転時の出力を向上させることができる。
【0071】
《発明の実施形態3》
図16〜図18は、本発明の実施形態3に係るものである。このオイルポンプ1は、ハウジング10に設けられた可動部材50を変位させることで、駆動歯車2が1回転当たりに送り出すオイル量を増減させることができるようになっている点で、実施形態1のものとは異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0072】
ハウジング10の歯車収容凹部13の左側湾曲面13jは、駆動歯車2の歯先円よりも大きく湾曲するとともに、駆動歯車2の歯先から左側へ離れて形成されている。また、本体部材11の左側下部には、歯車収容凹部13よりも小さい左側凹部51が形成されている。左側凹部51は、略上下方向に長く延びており、全体として、上側が下側よりも左側に位置するように僅かに傾斜している。この左側凹部51には、上下方向に伸縮するコイルバネ52が収容されている。さらに、本体部材11には、歯車収容凹部13と左側凹部51の上端部とを連通させる切欠部53が形成されている。
【0073】
上記可動部材50は、駆動歯車2と左側湾曲面13jとの間に配置されている。この可動部材50は、左側湾曲面13jに沿うように湾曲して延びる本体部55と、本体部55の左側湾曲面13jに沿う部分から突出する突出部56とで構成されている。本体部55は、駆動歯車2の歯先に対向する対向面55aと、対向面55aの上縁部から左側湾曲面13jへ向けて延びる液圧作用面55bと、対向面55aの下縁部から左側湾曲面13jへ向けて延びる下端面55cと、左側湾曲面13jに沿うように形作られた被案内面55dとを有している。対向面55aは、駆動歯車2の歯先円の円弧よりも緩く湾曲している。また、被案内面55dは、左側湾曲面13j上を摺動するようになっている。
【0074】
突出部56は、本体部材11の切欠部53から左側凹部51内へ突出するように形成されている。突出部56の肉厚は、切欠部53の幅寸法(図16の上下方向の寸法)よりも狭く設定されており、突出部56は、切欠部53をその幅方向に移動可能となっている。これにより、可動部材50は、左側湾曲面13jに案内されながら、その上下方向に変位可能となる。
【0075】
可動部材50が変位する際の軌跡は、左側湾曲面13jの形状で設定されるようになっている。この左側湾曲面13jの形状は、可動部材50が上端位置にあるとき(図16に示す)に対向面55aと駆動歯車2の左下に位置する歯の歯先とが近接して両者の離間距離が最も短くなり、可動部材50が上端位置から下方向へ変位していくと、図18に示すように、対向面55aが駆動歯車2の左下に位置する歯の歯先から離れて、両者の離間距離が長くなるように形状設定されている。
【0076】
また、突出部56は、コイルバネ52の上端側と接しており、このコイルバネ52により、上方、即ち、可動部材50の対向面55aと駆動歯車2の歯先との離間距離が短くなる方向に付勢されている。このコイルバネ52の付勢力は、オイルポンプ1の作動時における歯車収容凹部13内の上側空間S1の液圧が所定値以下の場合(後述する)には可動部材50が上端位置に留まったままとなるように設定されている。
【0077】
また、引っ張りバネ5及びコイルバネ52の付勢力は、後述するオイルポンプ1の動作時に、可動部材50が下方へ変位するよりも先に歯車ユニット4が下方へ回動するように設定されている。
【0078】
次に、上記のように構成されたオイルポンプ1の動作について説明する。
【0079】
エンジンが例えばアイドリング状態にあるときには、可動部材50が上記のようにコイルバネ52で付勢されていることから、図16に示すように、上端位置にあり、駆動歯車2の歯先と可動部材50の対向面55aとは近接している。よって、駆動歯車2が1回転当たりに送り出すオイル量は多くなり、アイドリング時のオイル供給量は十分に確保される。従動歯車3についても、実施形態1で説明したように、1回転当たりに送り出すオイル量は多くなる。
【0080】
エンジンの回転数が高まると、図17に示すように、歯車ユニット4が下方へ回動して、従動歯車3が1回転当たりに送り出すオイル量が少なくなる。
【0081】
エンジンの回転数がさらに高まると、上側空間S1の液圧が高まり、この液圧が可動部材50の液圧作用面55bに作用する。すると、可動部材50には、コイルバネ52の付勢力に抗する下方向への力が働くことになる。ここで、コイルバネ52の付勢力は、例えば、エンジンの回転数が1000回転/分程度になったときに可動部材50に働く力と釣り合うように設定しておく。
【0082】
このように付勢力を設定しておくと、エンジンの回転数が1000回転/分よりも高くなったときに、液圧により可動部材50に働く力がコイルバネ52の付勢力よりも大きくなり、可動部材50が左側湾曲面13jに案内されながら下方へ変位していく。すると、図18に示すように、駆動歯車2の歯先と可動部材50の対向面55aとの離間距離が長くなる。この離間距離が長くなると、駆動歯車2の歯によって掻き上げるオイル量が減少する。このことで、駆動歯車2が1回転当たりに送り出すオイル量は少なくなり、駆動歯車2を回転させるのに要する動力はその分少なくて済む。
【0083】
以上説明したように、この実施形態3に係るオイルポンプ1によれば、実施形態1と同様に、エンジンの動力が無駄に使われるのを回避しながら、オイル供給量をエンジンの各部が要求する量にすることができるので、エンジンの燃費を向上させることができるとともに、エンジンの高回転時の出力を向上させることができる。
【0084】
尚、上記実施形態3では、歯車ユニット4を下方へ回動させた後に、可動部材50を下方へ変位させるようにしているが、これに限らず、可動部材50を歯車ユニット4よりも先に変位させてもよいし、歯車ユニット4の回動と可動部材50の変位とが同時に開始されるようにしてもよい。
【0085】
また、実施形態1の変形例1〜3の構造は、実施形態2、3にも適用することができる。
【0086】
また、実施形態1〜3では2つの歯車2、3を配置しているが、歯車の数は1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0087】
また、実施形態1〜3では2つの歯車2、3の歯先円直径の大きさを等しくしているが、これに限らず、互いに異ならせてもよい。この場合、駆動歯車2と従動歯車3の歯数が互いに異なることになり、この歯数の設定によって従動歯車3を減速駆動することもできるし、増速駆動することもできる。また、歯車2、3の歯の形状は任意であり、歯車2、3の有する歯の数はいくつであってもかまわない。
【0088】
また、実施形態1〜3では付勢部材をコイルバネ5で構成しているが、これに限らず、例えば、ゴム等の弾性部材で構成してもよい。
【0089】
また、上記実施形態1、2では、オイルポンプ1のオイル流入側が下に位置するように構成しているが、これに限らず、オイル流入側が上や上下方向の中間位置となるように構成してもよい。
【0090】
また、本発明に係るポンプは、例えば自動変速機等の動力機械に設けてもよい。また、本発明は、オイル以外にも例えば水等を送るポンプにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明に係るポンプは、例えば、自動車に搭載されるエンジンに配設するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施形態1に係るオイルポンプの斜視図である。
【図2】オイルポンプの分解斜視図である。
【図3】蓋部材を取り外した状態のオイルポンプの斜視図である。
【図4】蓋部材を取り外した状態のオイルポンプの平面図である。
【図5】図2におけるV−V線断面図である。
【図6】図1におけるVI−VII線断面図である。
【図7】図1におけるVII−VII線断面図である。
【図8】歯車ユニットが下端位置まで回動した状態の図4相当図である。
【図9】歯車ユニットが下端位置まで回動し、かつ、リリーフ弁が開いた状態の図4相当図である。
【図10】実施形態1の変形例1に係る図9相当図である。
【図11】実施形態1の変形例2に係る図5相当図である。
【図12】実施形態1の変形例3に係る図5相当図である。
【図13】実施形態2に係るオイルポンプの図4相当図である。
【図14】リリーフ弁が開いた状態の図13相当図である。
【図15】リリーフ弁が開き、かつ、歯車ユニットが上端位置まで回動した状態の図13相当図ある。
【図16】実施形態3に係るオイルポンプの図4相当図である。
【図17】歯車ユニットが下端位置まで回動した状態の図16相当図である。
【図18】歯車ユニットが下端位置まで回動し、かつ、可動部材が下端位置まで変位した状態の図4相当図である。
【符号の説明】
【0093】
1 オイルポンプ
2 駆動歯車
3 従動歯車(回転体)
10 ハウジング
15 駆動軸
16 回転軸
21a オイル流入孔
22a オイル流出孔
26 軸受孔(軸受部)
35 貫通孔(軸受部)
36 第1プレート(支持部材)
37 第2プレート(支持部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、
上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、
上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、
上記ハウジングには、上記回転体を、該回転体の歯先と該ハウジングの内面との離間距離が変化する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられていることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、
上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、
上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、
上記ハウジングには、上記回転体を、上記ハウジングの内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられていることを特徴とするポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポンプにおいて、
回転体変位部は、ハウジング内の液圧で動作することを特徴とするポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載のポンプにおいて、
ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、
回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて上記従動歯車の歯先と上記ハウジングの内面との離間距離を変化させるように構成されていることを特徴とするポンプ。
【請求項5】
請求項2に記載のポンプにおいて、
ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、
回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて、上記ハウジングの内面に近接した上記従動歯車の歯先の数を増減させるように構成されていることを特徴とするポンプ。
【請求項1】
動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、
上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、
上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、
上記ハウジングには、上記回転体を、該回転体の歯先と該ハウジングの内面との離間距離が変化する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられていることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
動力機械によって回転駆動され、複数の歯が外周面に周方向に並ぶように設けられた回転体と、
上記回転体を収容するとともに、液体の流入孔と流出孔とが上記回転体の回転軸の周方向に離れて形成されたハウジングとを備え、
上記回転体の回転動作によって上記流入孔から上記ハウジング内に流入させた液体を、上記流出孔から送り出すように構成されたポンプにおいて、
上記ハウジングには、上記回転体を、上記ハウジングの内面に近接した歯先の数が増減する方向に変位させるように構成された回転体変位部が設けられていることを特徴とするポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポンプにおいて、
回転体変位部は、ハウジング内の液圧で動作することを特徴とするポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載のポンプにおいて、
ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、
回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて上記従動歯車の歯先と上記ハウジングの内面との離間距離を変化させるように構成されていることを特徴とするポンプ。
【請求項5】
請求項2に記載のポンプにおいて、
ハウジング内には、駆動歯車と従動歯車とが収容され、
回転体変位部は、上記駆動歯車の駆動軸と上記従動歯車の回転軸とを支持する支持部材と、該駆動軸を上記ハウジングに対し回転可能に支持する軸受部とを有し、上記従動歯車を上記駆動軸周りに回動させて、上記ハウジングの内面に近接した上記従動歯車の歯先の数を増減させるように構成されていることを特徴とするポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−264291(P2009−264291A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116060(P2008−116060)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】
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