説明

モータ駆動用インバータ制御装置

【課題】小型・軽量・低コスト化を実現しつつ、電源電流の高調波規制も満足するモータ駆動用インバータ制御装置を提供する。
【解決手段】極めて小容量のリアクタとインバータの直流母線間には極めて小容量のコンデンサが設けられたモータ駆動用インバータで、インバータ印加電圧値の時系列変化から電圧歪み量を演算し、その結果に応じて指示回転数を補正することにより、電源歪みが生じた場合においてもモータ異常停止を回避し、駆動維持を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小容量リアクタおよび小容量コンデンサを用いたモータ駆動用インバータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汎用インバータなどで用いられている一般的なモータ駆動用インバータ制御装置として、図6に示すようなモータ駆動用インバータ制御装置がよく知られている。
【0003】
図6において、主回路は直流電源装置113と、インバータ2とモータ3とから構成されており、直流電源装置113については、交流電源1と、整流回路7と、インバータ2の直流電圧源のために電気エネルギーを蓄積する平滑コンデンサ112と、交流電源1の力率改善用リアクタ111から構成されている。
【0004】
一方、制御演算部では、外部から与えられたモータ3の速度指令に基づいてモータ3の各相電圧指令値を作成するPWM信号生成部9と、PWM信号生成部9で作成された各相電圧指令値に基づいてインバータ2をPWM制御するベースドライバ10から構成されている。
【0005】
ここで、交流電源1が220V(電源周波数50Hz)、インバータ2の入力が1.5kW、平滑コンデンサ112が1500μFのとき、力率改善用リアクタ111が5mHおよび20mHの場合における電源電流の高調波成分と電源周波数に対する次数との関係を図7に示す。
【0006】
図7はIEC(国際電気標準会議)規格と併せて示したもので、力率改善用リアクタ111が5mHの場合には特に第3高調波成分がIEC規格のそれを大きく上回っているが、20mHの場合には40次までの高調波成分においてIEC規格をクリアしていることがわかる。
【0007】
そのため特に高負荷時においてもIEC規格をクリアするためには、力率改善用リアクタ111のインダクタンス値をさらに大きくするなどの対策を取る必要があり、インバータ装置の大型化や重量増加、さらにはコストUPを招くという不都合があった。
【0008】
そこで、力率改善用リアクタ111のインダクタンス値の増加を抑え、電源高調波成分の低減と高力率化を達成する直流電源装置として、例えば図8に示すような特許文献1に記載されている直流電源装置が提案されている。
【0009】
図8において、交流電源1の電源電圧を、ダイオードD1〜D4をブリッジ接続してなる全波整流回路の交流入力端子に印加し、その出力をリアクトルLinを介して中間コンデンサCに充電し、この中間コンデンサCの電荷を平滑コンデンサCDに放電して、負荷抵抗RLに直流電圧を供給する。
【0010】
この場合、リアクトルLinの負荷側と中間コンデンサCを接続する正負の直流電流経路にトランジスタQ1を接続し、このトランジスタQ1をベース駆動回路G1で駆動する構成となっている。
【0011】
また、ベース駆動回路G1にパルス電圧を印加するパルス発生回路I1、I2と、ダミー抵抗Rdmとをさらに備えており、パルス発生回路I1、I2は、それぞれ電源電圧の
ゼロクロス点を検出する回路と、ゼロクロス点の検出から電源電圧の瞬時値が中間コンデンサCの両端電圧と等しくなるまでダミー抵抗Rdmにパルス電流を流すパルス電流回路とで構成されている。
【0012】
ここで、パルス発生回路I1は電源電圧の半サイクルの前半にてパルス電圧を発生させ、パルス発生I2は電源電圧の半サイクルの後半にてパルス電圧を発生させるようになっている。
【0013】
なお、トランジスタQ1をオン状態にしてリアクトルLinに強制的に電流を流す場合、中間コンデンサCの電荷がトランジスタQ1を通して放電することのないように逆流防止用ダイオードD5が接続され、さらに、中間コンデンサCの電荷を平滑コンデンサCDに放電する経路に、逆流防止用ダイオードD6と、平滑効果を高めるリアクトルLdcが直列に接続されている。
【0014】
上記の構成によって、電源電圧の瞬時値が中間コンデンサCの両端電圧を超えない位相区間の一部または全部においてトランジスタQ1をオン状態にすることによって、装置の大型化を抑えたままで、高調波成分の低減と高力率化を達成することができる(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−266674号公報
【非特許文献1】インバータドライブハンドブック編集委員会編「インバータドライブハンドブック」日刊工業新聞社出版、1995年初版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記従来の構成では、容量の大きな平滑用コンデンサCDとリアクトルLin(特許文献1では1500μF、6.2mH時のシミュレーション結果について記載されている)とを依然として有したままであり、さらに中間コンデンサCとトランジスタQ1とベース駆動回路G1とパルス発生回路I1、I2とダミー抵抗Rdmと逆流防止用ダイオードD5、D6と平滑効果を高めるリアクトルLdcとを具備することで、装置の大型化や部品点数の増加に伴うコストUPを招くという課題を有していた。
【0016】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、小型・軽量・低コストでありながら、モータの駆動性能も悪化させることのない高品位なモータ駆動用インバータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明は、交流電源を入力とする整流回路と直流電力から交流電力に変換するインバータとモータと前記インバータの動作をコントロールする制御演算部とを備え、前記整流回路はダイオードブリッジと、前記ダイオードブリッジの交流入力側または直流出力側に接続される極めて小容量のリアクタで構成され、前記インバータの直流母線間には極めて小容量のコンデンサとインバータ印加電圧検出手段を配し、前記制御演算部には、前記モータの指示回転数を決定する指示回転数決定部と、前記インバータ印加電圧検出手段で得られるインバータ印加電圧値の時系列変化から電圧歪み量を演算するインバータ印加電圧歪み量演算部と、前記指示回転数決定部で得られる指示回転数を前記インバータ印加電圧歪み量演算部で得られる電圧歪み量に応じて補正する指示回転数補正部を設けたものである。
【0018】
これによって、小容量コンデンサおよび小容量リアクタを用いることで小型・軽量・低コストのモータ駆動用インバータ制御装置を実現するとともに、電源電圧歪みが生じた場合においてもモータの異常停止を回避し、動作を維持し続けることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のモータ駆動用インバータ制御装置は、小容量リアクタおよび小容量コンデンサを用いることで小型・軽量・低コストのモータ駆動用インバータ制御装置を実現でき、さらに電源電圧歪みが生じてもモータの回転動作を維持し続けることができるため、エアコンの圧縮機駆動に本制御装置を適用した場合、圧縮機モータの異常停止を回避させることで快適性の維持が図れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
第1の発明は、交流電源を入力とする整流回路と直流電力から交流電力に変換するインバータとモータと前記インバータの動作をコントロールする制御演算部とを備え、前記整流回路はダイオードブリッジと、前記ダイオードブリッジの交流入力側または直流出力側に接続される極めて小容量のリアクタで構成され、前記インバータの直流母線間には極めてコンデンサとインバータ印加電圧検出手段を配し、前記制御演算部には、前記モータの指示回転数を決定する指示回転数決定部と、前記インバータ印加電圧検出手段で得られるインバータ印加電圧値の時系列変化から電圧歪み量を演算するインバータ印加電圧歪み量演算部と、指示回転数補正部を設け、前記指示回転数補正部において前記指示回転数決定部で得られる指示回転数を前記インバータ印加電圧歪み量演算部で得られる電圧歪み量に応じて補正するものである。
【0021】
これにより、小型・軽量・低コストでありながら電源歪みが生じた場合においてもモータ異常停止を回避可能な信頼性の高いモータ駆動用インバータ制御装置を実現することができる。
【0022】
第2の発明は、第1の発明において、前記インバータ印加電圧歪み量演算部で得られる電圧歪み量を、前記交流電源の半周期毎におけるインバータ印加電圧値の増加から減少、または減少から増加への変化の回数とするものである。
【0023】
これにより、交流電源電圧の周期毎に発生しない突発的な歪みが発生した場合においても、小型・軽量・低コストでありながら信頼性の高いモータ駆動用インバータ制御装置を実現することができる。
【0024】
第3の発明は、第1の発明において、前記インバータ印加電圧歪み量演算部で得られる電圧歪み量を、前記交流電源の半周期毎におけるインバータ印加電圧値の最大値どうし、または最小値どうしの時間間隔の変化量とするものである。
【0025】
これにより、交流電源電圧の周期間隔、すなわち周波数が不規則になるような歪みが発生した場合においても、信頼性の高いモータ駆動用インバータ制御装置を実現することができる。
【0026】
第4の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明において、リアクタとコンデンサとの共振周波数が電源周波数の40倍よりも大きくなるように、リアクタおよびコンデンサの組み合わせを決定するものであり、電源電流の高調波成分を抑制し、IEC規格をクリアすることができる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0028】
(実施の形態1)
本発明の第1の実施の形態を示すモータ駆動用インバータ制御装置のシステム構成図を
図1に示す。
【0029】
モータ駆動用インバータ制御装置は、交流電源1、交流電力を直流電力に変換するダイオードブリッジ7、2mH以下の小容量リアクタ11、100μF以下の小容量コンデンサ12、ブラシレスモータ3に供給する駆動電圧を生成、出力するインバータ2及びインバータ2を制御する制御部6を有する。
【0030】
ブラシレスモータ3は、中性点を中心にY結線された3相巻線4u、4v、4wが取付けられた固定子4と、磁石が装着された回転子5とからなる。U相巻線4uの非結線端にU相端子8uが、V相巻線4vの非結線端にV相端子8vが、W相巻線4wの非結線端にW相端子8wが接続されている。
【0031】
インバータ2は一対のスイッチング素子からなるハーフブリッジ回路をU相用、V相用、W相用として3相分有する。ハーフブリッジ回路の一対のスイッチング素子は、小容量コンデンサ12の高圧側端と低圧側端の間に直列接続され、ハーフブリッジ回路に直流電圧が印加される。
【0032】
U相用のハーフブリッジ回路は、高圧側(上アーム)のスイッチング素子13u及び低圧側(下アーム)のスイッチング素子13xよりなる。V相用のハーフブリッジ回路は、高圧側スイッチング素子13v及び低圧側スイッチング素子13yよりなる。W相用のハーフブリッジ回路は、高圧側スイッチング素子13w及び低圧側スイッチング素子13zよりなる。
【0033】
また、各スイッチング素子と並列にフリーホイールダイオード14u、14v、14w、14x、14y、14zが接続されている。
【0034】
インバータ2におけるスイッチング素子13uとスイッチング素子13xの相互接続点、スイッチング素子13vとスイッチング素子13yの相互接続点、スイッチング素子13wとスイッチング素子13zの相互接続点にブラシレスモータ3の端子8u、8v、8wがそれぞれ接続される。
【0035】
インバータ2に印加されている直流電圧は、上述したインバータ2内のスイッチング素子のスイッチング動作によって三相の交流電圧に変換され、それによりブラシレスモータ3が駆動される。また、インバータ2の母線には母線電流検出器15が配されている。
【0036】
制御部6は、マイクロコンピュータやシステムLSI等により構成可能なもので、PWM信号生成部9、ベースドライバ10、相電流変換部20、モータ位相推定部17、回転子速度検出部18、電流指令演算部19、指示回転数決定部21、指示回転数補正部22、インバータ印加電圧歪み量演算部23の各機能ブロックを有している。
【0037】
相電流変換部20は母線電流検出器15に流れるインバータ母線電流を観察し、そのインバータ母線電流をブラシレスモータ3の相電流に変換する。
【0038】
モータ位相推定部17は、相電流変換部20により変換されたブラシレスモータ3の相電流と、PWM信号生成部9で演算される出力電圧と、インバータ印加電圧検出手段16により検出されるインバータ2への印加電圧の情報により、ブラシレスモータ3の位相を推定する。さらに、回転子速度検出部18は、推定された位相からブラシレスモータ3の速度を推定する。
【0039】
電流指令演算部19では、推定されたブラシレスモータ3の速度と目標速度との偏差情
報に基づいて回転子速度が目標速度となるように通電すべき電流指令実行値を、PI演算などを用いて導出し、PWM信号生成部9がブラシレスモータ3を駆動するためのPWM信号を生成する。
【0040】
最終的にPWM信号はベースドライバ10に出力され、各スイッチング素子13u、13v、13w、13x、13y、13zがPWM信号に従い駆動され、正弦波状の交流を生成する。
【0041】
このように本実施の形態では、正弦波状の相電流を流すことによりブラシレスモータ3の正弦波駆動を実現している。
【0042】
さらに、ブラシレスモータ3の目標速度に関して説明する。ブラシレスモータ3の目標速度は通常、指示回転数決定部21で決められるが、本発明の実施の形態ではインバータ印加電圧歪み量演算部23における結果によって、目標速度を指示回転数補正部22で補正する構成とした。
【0043】
この目標速度の補正は、フィルタ演算の追加や制御ゲインの最適化などにより、極力外乱に対してロバスト性に優れた制御系を構築した上で、その限界を超えるようなインバータ印加電圧の歪などへの対策として行われることを目的としている。
【0044】
図2は、本発明のモータ駆動用インバータ制御装置の第1の動作結果であり、ブラシレスモータ3の動作中における交流電源1の電源電圧波形とインバータ印加電圧とモータ相電流波形を示したものである。
【0045】
本発明におけるコンデンサ12は極めて容量の小さいものを用いているため、ブラシレスモータ3に電流が流れるとインバータ印加電圧は電源周波数fs(=50Hz)の2倍の周期(=10msec)で大きく脈動する。
【0046】
さらに、コンデンサ12が極めて容量の小さいものであるために、図3のように電源電圧波形において歪みが生じていると、その歪みが直接インバータ印加電圧に現れてくる。このインバータ印加電圧の歪みは、システムの制御安定性を劣化させる要因となりかねない。
【0047】
例えば、上述したように、モータ位相推定部17におけるブラシレスモータ3の位相の推定演算に、インバータ印加電圧検出手段16により検出されるインバータ2への印加電圧の情報が用いられるため、インバータ印加電圧に電源周波数より高い周波数成分の歪みが生じた場合、位相の推定演算結果が不安定になり、実際のものから外れてしまう可能性がある。
【0048】
モータ位相推定部17での位相の推定演算結果に誤差が生じると、ブラシレスモータ3の各相への最適タイミングでの励磁ができなくなり、このような不安定な状態でブラシレスモータ3を高速回転や高トルク回転をさせようとすると、過電流による異常停止に至ってしまう。
【0049】
そこで、上述した問題を解消すべくインバータ印加電圧歪み量演算部23における結果によって、目標速度を指示回転数補正部22で目標速度を補正する構成とし、ブラシレスモータ3が高速回転や高トルク回転領域で駆動している際にインバータ印加電圧に歪みが生じていると認識された場合、指示回転数決定部21で決められた目標速度を下げる補正を行うようにした。
【0050】
これによって、インバータ印加電圧に電源周波数より高い周波数成分の歪みが生じた場合でもブラシレスモータ3を過大電流などによる異常停止させることなく、駆動維持が図れる。
【0051】
このことは、例えば、本インバータ制御装置をエアコンの圧縮機モータ駆動に適応させた場合、圧縮機モータの異常停止によって快適性が損なわれるような状態を回避し、冷房あるいは暖房能力を絞ったとしても快適性が損なわれるまでには至らない状態であり続けることができる。
【0052】
(実施の形態2)
本発明の第2の実施の形態では、実施の形態1のモータ駆動用インバータ制御装置において、インバータ印加電圧歪み量演算部23で得られる電圧歪み量は、交流電源1の半周期毎におけるインバータ印加電圧値の増加から減少、または減少から増加への変化の回数とするようにした。
【0053】
インバータ印加電圧歪み量演算部23におけるインバータ印加電圧の歪み量の演算方法について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0054】
インバータ印加電圧検出手段16により検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が入力される(S1)と、次にストアされている前回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−1)をロードする(S2)。
【0055】
現在、インバータ印圧が増加中であるか否かを記憶しておくVinv増加フラグがセットされていて(S3のYes)、かつ、今回検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が前回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−1)以上であった場合(S4のYes)は、引き続き増加中ということでVinv増加フラグを再セットする(S5)。
【0056】
Vinv増加フラグがセットされていて(S3のYes)、かつ、今回検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が前回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−1)未満であった場合(S4のNo)は、インバータ印加電圧が増加中であった状態から減少に転じたということで、Vinv増加フラグをクリアし(S6)、インバータ印加電圧の歪み量を示すVinv歪みカウンタをインクリメントする(S7)。
【0057】
Vinv増加フラグがクリアされていて(S3のNo)、かつ、今回検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が前回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−1)以上であった場合(S8のYes)は、インバータ印加電圧が減少中であった状態から増加に転じたということで、Vinv増加フラグをセットし(S9)、インバータ印加電圧の歪み量を示すVinv歪みカウンタをインクリメントする(S10)。
【0058】
Vinv増加フラグがクリアされていて(S3のNo)、かつ、今回検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が前回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−1)未満であった場合(S8のNo)は、引き続き減少中ということでVinv増加フラグを再クリアする(S11)。
【0059】
最後に、今回検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)を次回の演算のためにストアしておく(S12)。
【0060】
なお、Vinv歪みカウンタは前記交流電源1の半周期となる時間経過毎にクリアされるようにし(S13、S14)、この期間におけるインバータ印加電圧の歪み量が、随時更新されるようにした。
【0061】
また、インバータ印加電圧検出手段16により検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が入力された後に、ノイズ成分を除去するためにローパスフィルタ演算を挿入するなどして、制御安定性を向上させることも可能である。
【0062】
これによって、交流電源電圧の周期毎に常時発生していない突発的な歪みが生じた場合においても、モータ異常停止を回避可能な信頼性の高いモータ駆動用インバータ制御装置を実現することができる。
【0063】
(実施の形態3)
本発明の第3の実施の形態では、実施の形態1のモータ駆動用インバータ制御装置において、インバータ印加電圧歪み量演算部23で得られる電圧歪み量は、交流電源1の半周期毎におけるインバータ印加電圧値の最大値どうし、または最小値どうしの時間間隔の変化量とするようにした。
【0064】
インバータ印加電圧歪み量演算部23におけるインバータ印加電圧の歪み量の演算方法について図5のフローチャートを用いて説明する。
【0065】
インバータ印加電圧検出手段16により検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が入力される(S1)と、次にストアされている前回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−1)と、前々回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−2)とをロードする(S2)。
【0066】
前回検出されたインバータ印加電圧Vinv(n−1)が前々回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−2)以上で(S3のYes)、かつ、今回検出されたインバータ印加電圧Vinv(n)が前回検出したインバータ印加電圧Vinv(n−1)未満であった場合(S4のYes)は、インバータ印加電圧歪み量演算部23内に設けたフリーランタイマのカウント値から前回ストアされたインバータ印加電圧Vinv最大値間隔を減算し、その結果をインバータ印加電圧の歪み量とする(S5)。
【0067】
さらに、インバータ印加電圧の歪み量が演算された後は、フリーランタイマのカウント値を今回計測されたインバータ印加電圧Vinv最大値間隔としてストアし(S6)、カウント値をクリアする(S7)。
【0068】
なお、上記説明ではインバータ印加電圧Vinv最大値間隔を計測する例を用いたが、インバータ印加電圧の最小値を捉え、その時間間隔を計測するようにしてもよい。
【0069】
これによって、交流電源電圧の周期間隔、すなわち周波数が不規則になるような歪みが発生した場合においても、モータ異常停止を回避可能な信頼性の高いモータ駆動用インバータ制御装置を実現することができる。
【0070】
(実施の形態4)
本発明に係る小容量コンデンサおよび小容量リアクタの仕様決定に関する具体的な方法について以下に説明する。
【0071】
本発明のモータ駆動用インバータ制御装置では、電源電流の高調波成分を抑制してIEC規格をクリアするために、小容量コンデンサと小容量リアクタとの共振周波数fLC(LC共振周波数)を電源周波数fsの40倍よりも大きくなるように小容量コンデンサと小容量リアクタの組み合わせを決定する。
【0072】
ここで、小容量コンデンサの容量をC[F]、小容量リアクタのインダクタンス値をL[H]とすると、LC共振周波数fLCは次式のように表される。
【0073】
【数1】

【0074】
即ち、fLC>40fsを満たすように小容量コンデンサと小容量リアクタの組み合わせを決定するものである(IEC規格では電源電流の高調波成分において第40次高調波まで規定されているため)。
【0075】
以上により、小容量コンデンサおよび小容量リアクタの組み合わせを決定することで、電源電流の高調波成分を抑制して、IEC規格をクリアすることが可能となる。
【0076】
なお、実施の形態1から実施の形態3で説明した本発明は、インバータ回路を使用してモータを駆動するモータ駆動用インバータ制御装置に適用できる。例えば、インバータ回路を搭載した空気調和機、冷蔵庫、電気洗濯機、電気乾燥機、電気掃除機、送風機、ヒートポンプ給湯器等である。いずれの製品についても、モータ駆動用インバータ装置を小型化、軽量化により、製品の設計の自由度が向上し、安価な製品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明にかかるモータ駆動用インバータ制御装置は、小容量リアクタおよび小容量コンデンサを用いることで小型・軽量・低コストのモータ駆動用インバータ制御装置を実現でき、電源歪みが生じた場合においてもモータ異常停止を回避することが可能で、駆動維持によって再起動シーケンス実行の時間的ロスを省けるので、小型のモータ駆動装置を必要とする情報機器(特にハードディスクなどのストレージユニット)等にも広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態1を示すモータ駆動用インバータ制御装置のシステム構成図
【図2】本発明の実施の形態1における第1の動作結果を示す図
【図3】本発明の実施の形態1における第2の動作結果を示す図
【図4】本発明の実施の形態2におけるインバータ印加電圧歪み量演算部での制御フローチャート
【図5】本発明の実施の形態3におけるインバータ印加電圧歪み量演算部での制御フローチャート
【図6】一般的なモータ駆動用インバータ制御装置のシステム構成図
【図7】図6のモータ駆動用インバータ装置における電源電流の高調波成分と電源周波数に対する次数との関係を示した線図
【図8】従来の直流電源装置のシステム構成図
【符号の説明】
【0079】
1 交流電源
2 インバータ
3 ブラシレスモータ
4 固定子
4u〜4w 巻線
5 回転子
6 制御部
7 ダイオードブリッジ
8u〜8w 端子
9 PWM信号生成部
10 ベースドライバ
11 小容量リアクタ
12 小容量コンデンサ
13u〜13w 上アームスイッチング素子
13x〜13z 下アームスイッチング素子
14u〜14w、14x〜14z フリーホイールダイオード
15 母線電流検出器
16 インバータ印加電圧検出手段
17 モータ位相推定部
18 回転子速度検出部
19 電流指令演算部
20 相電流変換部
21 指示回転数決定部
22 指示回転数補正部
23 インバータ印加電圧歪み量演算部
111 リアクタ
112 平滑コンデンサ
113 直流電源装置
D1〜D6 ダイオード
Lin、Ldc リアクトル
C 中間コンデンサ
CD 平滑コンデンサ
Q1 トランジスタ
G1 ベース駆動回路
I1、I2 パルス発生回路
RL 負荷抵抗
Rdm ダミー抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を入力とする整流回路と、直流電力から交流電力に変換するインバータと、モータと前記インバータの動作をコントロールする制御演算部とを備え、前記整流回路はダイオードブリッジと、前記ダイオードブリッジの交流入力側または直流出力側に接続されるリアクタで構成され、前記インバータの直流母線間にコンデンサとインバータ印加電圧検出手段を配し、前記制御演算部には、前記モータの指示回転数を決定する指示回転数決定部と、前記インバータ印加電圧検出手段で得られるインバータ印加電圧値の時系列変化から電圧歪み量を演算するインバータ印加電圧歪み量演算部と、前記指示回転数決定部で得られる指示回転数を前記インバータ印加電圧歪み量演算部で得られる電圧歪み量に応じて補正する指示回転数補正部を設けたモータ駆動用インバータ制御装置。
【請求項2】
前記インバータ印加電圧歪み量演算部で得られる電圧歪み量を、前記交流電源の半周期毎におけるインバータ印加電圧値の増加から減少、または減少から増加への変化の回数とする請求項1に記載のモータ駆動用インバータ制御装置。
【請求項3】
前記インバータ印加電圧歪み量演算部で得られる電圧歪み量を、前記交流電源の半周期毎におけるインバータ印加電圧値の最大値どうし、または最小値どうしの時間間隔の変化量とする請求項1に記載のモータ駆動用インバータ制御装置。
【請求項4】
前記リアクタと前記コンデンサとの共振周波数が前記電源周波数の40倍よりも大きくなるように、前記リアクタおよび前記コンデンサの組み合わせを決定する請求項1〜3のいずれか1項に記載のモータ駆動用インバータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−131001(P2009−131001A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301511(P2007−301511)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】