説明

リン含有アクリル樹脂及びその製造方法、アクリル樹脂組成物、樹脂フィルム、プリプレグ、樹脂付金属箔、金属箔張積層板、ならびにプリント配線板

【課題】難燃性に優れるアクリル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂組成物を、アクリル樹脂に由来する基及び下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物に由来する基がエポキシ基に由来する連結基を介して結合しているリン含有アクリル樹脂と、熱硬化性樹脂と、を含んで構成し、さらにフィラを含み、繊維基材と、前記繊維基材に含浸されたアクリル樹脂組成物と、を有するプリプレグであり、プリプレグ又は前記プリプレグを2枚以上積層した積層体を加熱及び加圧して得られる基板と、前記基板の少なくとも一方面上に設けられた金属箔と、を有する金属箔張積層板及び、金属箔張積層板に回路加工して得られるプリント配線板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有アクリル樹脂及びその製造方法、アクリル樹脂組成物、樹脂フィルム、プリプレグ、樹脂付金属箔、金属箔張積層板、ならびにプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末電子機器の急速な普及に伴って、電子機器の小型化・薄型化が進んでいる。その中に搭載されるプリント配線板も高密度化・薄型化の要求が高まっている。さらに、携帯電話に代表される電子機器の高機能化により、カメラ等をはじめとした様々な高性能モジュールや高密度プリント配線板間の接続が必要となってきた。
【0003】
半導体素子を接着する接着材料や、各種電子部品を搭載した実装基板などの電子材料には、接着性、耐熱性、屈曲性、電気絶縁性及び長期信頼性が要求されている。これらの要求を満たす電子材料として、アクリル系樹脂等に硬化剤を配合した接着材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。一方、環境問題の観点から、はんだの鉛フリー化が進み、はんだの溶融温度が高温化しており、基板にはより高い耐熱性が要求されるとともに、材料にもハロゲンフリーの要求が高まり、臭素系難燃剤の使用が難しくなってきている。
また、アクリル系樹脂を成分として含み、耐熱性や難燃性、折り曲げ性に優れ、ハロゲンフリーである樹脂付き銅箔や樹脂フィルム及びプリプレグ等の配線板材料が検討されている(例えば。特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−283535号公報
【特許文献2】特開2007−297599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のアクリル系樹脂を含む接着剤では十分な難燃性を達成することが困難な場合があった。難燃性向上のために、難燃剤を増量した場合には、難燃剤をアクリル樹脂中に均一に分散させることが困難な場合があり、十分な難燃化は難しかった。さらに、難燃性フィラの増量によりワニスのライフなどの特性が低下する場合があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、難燃性に優れるリン含有アクリル樹脂及びアクリル樹脂組成物を提供することを課題とする。また前記アクリル樹脂組成物を用いて形成される樹脂フィルム、プリプレグ、樹脂付金属箔、金属箔張積層板、及び配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
<1> アクリル樹脂に由来する基及び下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物に由来する基が、エポキシ基に由来する連結基を介して結合しているリン含有アクリル樹脂と、熱硬化性樹脂と、を含むアクリル樹脂組成物。
【0008】
【化1】



【0009】
<2> 更に前記リン含有フェノール化合物を含む前記<1>に記載のアクリル樹脂組成物。
【0010】
<3> 前記リン含有アクリル樹脂は、前記リン含有フェノール化合物及びエポキシ基を有するアクリル樹脂の反応生成物である前記<1>又は<2>に記載のアクリル樹脂組成物。
【0011】
<4> 前記反応生成物は、前記リン含有フェノール化合物及びエポキシ基を有するアクリル樹脂を、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基のモル数(EP)に対する、前記リン含有フェノール化合物に含まれる水酸基のモル数(OH)の比(OH/EP)を4以上で反応させて得られる前記<3>に記載のアクリル樹脂組成物。
【0012】
<5> 前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂である前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物。
【0013】
<6> さらにフィラを含む前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物。
【0014】
<7> アクリル樹脂に由来する基と、下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物に由来する基とが、エポキシ基に由来する連結基を介して結合しているリン含有アクリル樹脂。
【0015】
【化2】



【0016】
<8> 重量平均分子量が50,000〜1,500,000である前記<7>に記載のリン含有アクリル樹脂。
【0017】
<9> 金属箔と、前記金属箔上に形成された前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物を含む樹脂層と、を有する樹脂付金属箔。
【0018】
<10> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物からなる樹脂フィルム。
【0019】
<11> 繊維基材と、前記繊維基材に含浸された前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物と、を有するプリプレグ。
【0020】
<12> 前記<11>に記載のプリプレグ又は前記プリプレグを2枚以上積層した積層体を加熱及び加圧して得られる基板と、前記基板の少なくとも一方面上に設けられた金属箔と、を有する金属箔張積層板。
【0021】
<13> 前記<12>に記載の金属箔張積層板に回路加工して得られるプリント配線板。
【0022】
<14> 下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物と、エポキシ基を有するアクリル樹脂とを反応させる工程を含むリン含有アクリル樹脂の製造方法。
【0023】
【化3】

【0024】
<15> 前記エポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基のモル数(EP)に対する、前記リン含有フェノール化合物に含まれる水酸基のモル数(OH)の比(OH/EP)が4以上である前記<14>に記載のリン含有アクリル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、難燃性に優れるリン含有アクリル樹脂及びアクリル樹脂組成物を提供することができる。また前記アクリル樹脂組成物を用いて形成される樹脂フィルム、プリプレグ、樹脂付金属箔、金属箔張積層板、及びプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0027】
<アクリル樹脂組成物>
本発明のアクリル樹脂組成物は、アクリル樹脂に由来する基及び上記化学式で表されるリン含有フェノール化合物に由来する基が、エポキシ基に由来する連結基を介して結合しているリン含有アクリル樹脂の少なくとも1種と、熱硬化性樹脂の少なくとも1種とを含み、必要に応じて他の成分を含んで構成される。
リン含有アクリル樹脂を含むことで難燃性に優れたアクリル樹脂組成物を構成することができる。またリン含有アクリル樹脂は、熱硬化性樹脂(好ましくは、エポキシ樹脂)や難燃剤等との相溶性に優れ、均一性に優れるアクリル樹脂組成物を構成することができる。これは、例えば、アクリル樹脂中にリン含有フェノール化合物を導入されたことにより、アクリル樹脂の極性が高くなったためと考えることができる。
【0028】
アクリル樹脂組成物は、リン含有アクリル樹脂に加えて、上記化学式で表されるリン含有フェノール化合物を、未反応状態の化合物単体として含むことが好ましい。これにより更に難燃性が向上する。
【0029】
<リン含有アクリル樹脂>
本発明のリン含有アクリル樹脂は、アクリル樹脂の少なくとも1種に由来する基と、下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物に由来する基とが、エポキシ基に由来する連結基を介して結合している。アクリル樹脂とリン含有フェノール化合物とが共有結合していることで難燃性に優れるアクリル樹脂を構成することができる。
尚、アクリル樹脂に由来する基とは、アクリル樹脂を構成する分子から水素原子が少なくとも1つ取り除かれた残基を意味し、リン含有フェノール化合物に由来する基とは、リン含有フェノール化合物から水素原子が少なくとも1つ取り除かれた残基を意味する。リン含有フェノール化合物から取り除かれる水素原子の位置は特に制限されない。中でもフェノール性水酸基の水素原子であることが好ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
前記リン含有アクリル樹脂は、難燃性と相溶性の観点から、前記リン含有フェノール化合物とエポキシ基を有するアクリル樹脂との反応生成物であることが好ましい。
前記反応生成物は、リン含有アクリル樹脂のみを含むものであっても、リン含有アクリル樹脂に加えて、未反応のリン含有フェノール化合物や、エポキシ基を有するアクリル樹脂をさらに含むものであってもよい。
【0032】
リン含有アクリル樹脂に加えて、未反応のリン含有フェノール化合物や、エポキシ基を有するアクリル樹脂をさらに含む反応生成物(以下、「アクリル樹脂懸濁物」ともいう)は、リン含有フェノール化合物とエポキシ基を有するアクリル樹脂とを後述するようにして反応させることで得ることができる。
またリン含有アクリル樹脂のみを含む反応生成物は、リン含有フェノール化合物とエポキシ基を有するアクリル樹脂とを後述するようにして反応させた後、濾過及び再沈の少なくとも一方の後処理を行うことで得ることができる。
【0033】
(リン含有フェノール化合物)
前記化学式で表されるリン含有フェノール化合物は、優れた難燃性を有する化合物であり、例えば、三光株式会社より市販品として入手することができる。
【0034】
(アクリル樹脂)
前記アクリル樹脂は、エポキシ基に由来する連結基を介して、前記リン含有フェノール化合物と共有結合を形成可能なアクリル樹脂であれば特に制限はない。本発明においては、入手容易性の観点からエポキシ基を有するアクリル樹脂であることが好ましい。
【0035】
前記エポキシ基を有するアクリル樹脂(以下、「アクリルエポキシ樹脂」ということがある)としては、アクリル酸系モノマー及びメタクリル酸系モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるアクリル樹脂であって、分子中にエポキシ基を有するものであれば特に制限はない。さらに前記エポキシ基を有するアクリル樹脂は、エポキシ基を有するモノマーを含むモノマー混合物を重合して得られるアクリルエポキシ樹脂であっても、反応性基を有するアクリル樹脂に高分子反応でエポキシ基を導入して得られるアクリルエポキシ樹脂であってもよい。さらに、反応性基を有するアクリル樹脂とエポキシ樹脂とを反応させて得られるアクリルエポキシ樹脂であってもよい。
【0036】
前記エポキシ基を有するモノマーとしては、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を含み、アクリル酸系モノマー及びメタクリル酸系モノマーと共重合可能な官能基を有するものであれば特に制限はなく、通常用いられるエポキシ基含有モノマーを用いることができる。
具体的には例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、アクリル酸−4−エポキシブチル、アクリル酸−3−エポキシブチル、メタクリル酸−4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−エポキシブチル、アクリル酸−5−エポキシペンチル、アクリル酸−4−エポキシペンチル、アクリル酸−7−エポキシヘプチル、アクリル酸−6−エポキシヘプチル、メタクリル酸−7−エポキシヘプチル、メタクリル酸−6−エポキシヘプチル、アクリル酸−3−メチル−4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−6−エポキシヘキシル、アクリル酸−β−メチルグリシジル、メタクリル酸―β−メチルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、アクリル酸−3−メチル−4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−6−エポキシヘキシル、メタクリル酸−5−メチル−6−エポキシヘキシル等のエポキシ基含有モノマーなどを挙げることができる。これらは1種単独でも、又は2種以上を混合して用いることができる。
これらのうち、後述するアクリル樹脂組成物を構成した場合の保存安定性の点でメタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルが好ましく、メタクリル酸グリシジルがより好ましい。
【0037】
また、前記エポキシ基含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリル樹脂の低吸湿性、耐熱性及び安定性を損なわないものであれば、特に限定されない。
具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ナフチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル,メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル等のメタクリル酸エステル類;4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン,α−フルオロスチレン、α−クロルスチレン、α−ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、スチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド類などが挙げられる。
その中でも、低吸湿性、耐熱性及び安定性の観点から、アクリル酸エステル類及びメタクリル酸エステル類から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イルから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。これらは1種単独でも、2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
さらに反応性基を有するアクリル樹脂を構成可能なモノマーとしては、分子内にカルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、及びアミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と、少なくとも1つの重合性の炭素−炭素2重結合とを有する官能基含有モノマーであれば特に制限はない。
官能基含有モノマーとして具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸‐2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、N−メチロールメタクリルアミド、(o−,m−,p−)ヒドロキシスチレン等のヒドロキシ基含有モノマー;無水マレイン酸等の酸無水物基含有モノマー;アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマーなどを挙げることができる。
【0039】
また、前記官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、前記エポキシ基含有モノマーと共重合可能なモノマーと同様である。
【0040】
反応性基を有するアクリル樹脂としては、難燃性及び耐熱性の観点から、カルボキシル基含有モノマー及びヒドロキシ基含有モノマーの少なくとも1種、並びに、アクリル酸エステル類及びメタクリル酸エステル類の少なくとも1種を共重合して得られる共重合体であって、反応性基の含有量が15〜15000mmol/kgであることが好ましく、カルボキシル基含有モノマー及びヒドロキシ基含有モノマーの少なくとも1種、並びに、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、及びアクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イルから選ばれる少なくとも1種を共重合して得られる共重合体であって、反応性基の含有量が30〜14000mmol/kgであることがより好ましい。
【0041】
前記反応性基を有するアクリル樹脂にエポキシ基を導入する方法としては、通常用いられるエポキシ含有化合物を特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、エピハロヒドリン等を挙げることができる。
【0042】
また前記反応性基を有するアクリル樹脂と反応させるエポキシ樹脂としては、通常用いられるエポキシ樹脂を特に制限なく用いることができる。中でもエポキシ当量が100〜6000であるエポキシ樹脂であることが好ましく、エポキシ当量が140〜5500であるエポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂として具体的には例えば、ビスフェノールA、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、オルトクレゾールノボラック型フェノール樹脂等の多価フェノール又は1,4−ブタンジオール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル、アミン、アミド又は複素環式窒素塩基を有する化合物のN−グリシジル誘導体、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0044】
反応性基を有するアクリル樹脂とエポキシ樹脂とを反応させてアクリルエポキシ樹脂を構成する場合、反応性基を有するアクリル樹脂とエポキシ樹脂の比率は特に制限されない。相溶性の観点から、アクリル樹脂に含まれる反応性基のモル数に対して、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基のモル数が0.01〜20となるような比率であることが好ましく、0.1〜15となるような比率であることがより好ましい。
【0045】
反応性基を有するアクリル樹脂とエポキシ樹脂との反応方法としては、通常用いられる方法を特に制限はなく適用することができるが、反応性基を有するアクリル樹脂とエポキシ樹脂を含む混合物を加熱して反応させることが好ましい。
反応温度及び反応時間は反応性基を有するアクリル樹脂及びエポキシ樹脂の構造等に応じて適宜選択することができる。反応温度としては常温以上であれば特に制限はないが、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。また、反応時間は反応温度に応じて適宜選択することができるが、例えば、1〜20時間とすることができ、2〜10時間であることが好ましい。
【0046】
本発明におけるエポキシ基を有するアクリル樹脂は、難燃性及び耐熱性の観点や柔軟性及びライフの観点から、エポキシ基の含有量が30mmol/kg〜10,000mmol/kgであることが好ましく、50mmol/kg〜5,000mmol/kgであることがより好ましく、60mmol/kg〜4,000mmol/kgであることがさらに好ましい。
また重量平均分子量としては、50000〜1500000であることが好ましく、300,000〜1,500,000であることがより好ましく、500,000〜1,200,000であることがさらに好ましい。
【0047】
さらに前記エポキシ基を有するアクリル樹脂は、難燃性及び耐熱性の観点から、アクリル酸グリシジル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも一方、ならびに、アクリル酸エステル類及びメタクリル酸エステル類の少なくとも1種を共重合して得られる共重合体であって、エポキシ基の含有量が30mmol/kg〜10,000mmol/kgであることが好ましく、アクリル酸グリシジル及びメタクリル酸グリシジルの少なくとも一方、ならびに、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、及びアクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イルから選ばれる少なくとも1種を共重合して得られる共重合体であって、エポキシ基の含有量が60mmol/kg〜4,000mmol/kgであることがより好ましい。
【0048】
また前記エポキシ基を有するアクリル樹脂は、合成とエポキシ樹脂との反応性の観点から、カルボキシル基及びヒドロキシ基の少なくとも一方を有するアクリル樹脂とエポキシ当量が100〜6000であるエポキシ樹脂とから得られ、エポキシ基の含有量が30mmol/kg〜10,000mmol/kgであることもまた好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチル及びメタクリル酸ヒドロキシエチルから選ばれる少なくとも1種、ならびに、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、及びアクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イルから選ばれる少なくとも1種を共重合して得られるカルボキシル基を有するアクリル樹脂とエポキシ当量が100〜6000であるエポキシ樹脂とから得られ、エポキシ基の含有量が60mmol/kg〜4,000mmol/kgであることがより好ましい。
【0049】
リン含有アクリル樹脂は、リン含有フェノール化合物とエポキシ基を有するアクリル樹脂(アクリルエポキシ樹脂)とが共有結合して形成される部分構造を含んでいることが好ましい。前記部分構造としては、リン含有フェノール化合物のフェノール性水酸基とエポキシ基が開環付加してなる部分構造を好ましく挙げることができる。
前記リン含有フェノール化合物は2つのフェノール性水酸基を有するが、どちらか一方のフェノール性水酸基のみがアクリルエポキシ樹脂と共有結合を形成していても、2つのフェノール性水酸基がアクリルエポキシ樹脂と共有結合をそれぞれ形成していてもよい。さらに2つのフェノール性水酸基がアクリルエポキシ樹脂と共有結合をそれぞれ形成している場合、それぞれのフェノール性水酸基が共有結合を形成するアクリルエポキシ樹脂は、同一の分子であっても、異なる分子であってもよい。
【0050】
本発明のリン含有アクリル樹脂においては、後述するアクリル樹脂組成物における安定性と相溶性の観点から、リン含有フェノール化合物がどちらか一方のフェノール性水酸基のみでアクリルエポキシ樹脂と共有結合を形成している態様であることが好ましく、リン含有フェノール化合物のどちらか一方のフェノール性水酸基のみがアクリルエポキシ樹脂のエポキシ基と開環付加している態様であることがより好ましい。
【0051】
本発明においては、アクリルエポキシ樹脂のエポキシ基とリン含有フェノール化合物のフェノール性水酸基とが開環付加した部分構造を有することが好ましいが、リン含有アクリル樹脂の安定性と相溶性の観点から、アクリルエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基のうち、5モル%以上がリン含有フェノール化合物と開環付加していることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましい。
【0052】
本発明のリン含有アクリル樹脂の重量平均分子量としては特に制限はないが、耐熱性、曲げ性、相溶性の観点から、50,000〜1,500,000であることが好ましく、300,000〜1,500,000であることがより好ましく、500,000〜1,300,000であることがさらに好ましい。
【0053】
また、前記リン含有フェノール化合物と、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂との反応においては、必要に応じて、硬化促進剤や有機溶剤等を用いてもよい。
前記硬化促進剤は、エポキシ基と水酸基の反応を触媒可能な化合物であれば特に制限はない。具体的には例えば、トリフェニルホスフィン、イミダゾール等を挙げることができる。
また前記有機溶剤としては、前記反応を高度に阻害しないものであれば特に制限はなく、アルコール系、エーテル系、ケトン系、アミド系、芳香族炭化水素系、エステル系、ニトリル系などの有機溶剤を用いることができる。さらに有機溶剤は1種単独でも、2種以上の混合物であってもよい。
【0054】
前記リン含有フェノール化合物と、前記アクリルエポキシ樹脂との反応方法としては、通常用いられる方法を特に制限はなく適用することができるが、リン含有フェノール化合物とアクリルエポキシ樹脂を含む混合物を加熱して反応させることが好ましい。
反応温度及び反応時間はアクリルエポキシ樹脂の構造等に応じて適宜選択することができる。反応温度としては常温以上であれば特に制限はないが、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。また、反応時間は反応温度に応じて適宜選択することができるが、例えば、1時間〜20時間とすることができ、2時間〜10時間であることが好ましい。
【0055】
またリン含有フェノール化合物とアクリルエポキシ樹脂の反応条件は、リン含有フェノール化合物とアクリルエポキシ樹脂の反応状態を確認し、それに基づいて選択してもよい。具体的には例えば、アクリルエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の残存量を確認して(例えば、H−NMR法)、その結果に基づいて反応温度、反応時間等を選択することができる。
【0056】
さらにリン含有フェノール化合物とアクリルエポキシ樹脂の反応方法として、具体的には例えば、アクリル樹脂と、リン含有フェノール化合物と、硬化促進剤と、溶剤とを含むワニスを攪拌しながら加温するバッチ式の方法や、リン含有フェノール化合物をカラムとしてアクリル樹脂を連続的に流しながら反応する連続槽型の方法等が挙げられる。
【0057】
前記リン含有フェノール化合物及び前記エポキシ基を有するアクリル樹脂の反応比率としては、特に制限はないが、反応生成物のゲル化抑制の観点から、前記リン含有フェノール化合物に含まれる水酸基のモル数(OH)の前記エポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基のモル数(EP)に対する比(OH/EP)が、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、6以上12以下であることがさらに好ましい。
比(OH/EP)が4以上であることで、反応生成物のゲル化を効果的に抑制することができる。
【0058】
また、前記リン含有フェノール化合物と、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂との反応においては、必要に応じて、硬化促進剤や有機溶剤等を用いてもよい。硬化促進剤、有機溶剤、及び反応条件については、既述のリン含有アクリル樹脂の場合と同様である。
【0059】
本発明のアクリル樹脂組成物における、前記リン含有フェノール化合物及びアクリルエポキシ樹脂との反応生成物の重量平均分子量としては特に制限はないが、耐熱性、曲げ性、相溶性の観点から、50,000〜1,500,000であることが好ましく、300,000〜1,500,000であることがより好ましく、500,000〜1,300,000であることがさらに好ましい。
【0060】
本発明のアクリル樹脂組成物における、前記リン含有フェノール化合物及びエポキシ基を有するアクリル樹脂との反応生成物の含有率としては特に制限はないが、耐熱性、曲げ性及び難燃性の観点から、アクリル樹脂組成物の全固形分に対して1質量%〜70質量%であることが好ましく、5質量%〜60質量%であることがより好ましく、15質量%〜50質量%であることがさらに好ましい。
含有率が1質量%以上であることで、相溶性が向上する。また70質量%以下であることで難燃性が低下することを抑制できる。
【0061】
(熱硬化性樹脂)
本発明のアクリル樹脂組成物は、前記リン含有アクリル樹脂に加えて、熱硬化性樹脂の少なくとも1種をさらに含む。前記熱硬化性樹脂としては、前記アクリルエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂であれば特に制限はなく、通常用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂として具体的には例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、トリアジン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シアネートエステル系樹脂、及びこれら樹脂の変性系などを挙げることができる。これらの樹脂は1種単独でも、2種類以上を併用してもよい。
本発明における熱硬化性樹脂は、耐熱性の観点から、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、及びトリアジン系樹脂から選ばれる樹脂であることが好ましく、エポキシ系樹脂であることがより好ましい。
【0062】
前記エポキシ系樹脂(以下、単に「エポキシ樹脂」ということがある)としては、ビスフェノールA、ノボラック型フェノール樹脂、オルトクレゾールノボラック型フェノール樹脂等の多価フェノール及び1,4−ブタンジオール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル、アミン、アミド、又は複素環式窒素塩基を有する化合物のN−グリシジル誘導体、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
また前記ポリイミド樹脂としては、可溶性ポリイミド等が挙げられる。
【0063】
本発明のアクリル樹脂組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、耐熱性と絶縁性の観点から、アクリル樹脂組成物の全固形分に対して10質量%〜90質量%であることが好ましく、20質量%〜80質量%であることがより好ましい。
【0064】
(フィラ)
アクリル樹脂組成物は、少なくとも1種のフィラを更に含むことが好ましい。
フィラとしては無機フィラであっても有機フィラであってもよいが、無機フィラであることが好ましい。
前記無機フィラとしては通常用いられる添加型の無機フィラをアクリル樹脂組成物に対して特に制限なく用いることができる。具体的には、シリカ、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、HP−360)などが挙げられる。
【0065】
本発明のアクリル樹脂組成物は、前記反応生成物及び熱硬化性樹脂に加えて、必要に応じて硬化剤、有機溶剤、難燃剤、流動調整剤、カップリング剤、硬化促進剤、酸化防止剤、無機フィラ等をさらに含んでいてもよい。
【0066】
前記硬化剤は、前記熱硬化性樹脂の種類等に応じて、従来公知の化合物から適宜選択して用いることができる。例えば熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合の硬化剤としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、フェノールノボラックやクレゾールノボラック等の多官能性フェノール等を挙げることができる。これらは1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記硬化剤の含有比率としては、熱硬化性樹脂に対して3質量%〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましい。
【0067】
また本発明においては、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応等を促進させる目的で促進剤を含んでいてもよい。また促進剤の種類や配合量は特に限定するものではない。
促進剤の具体例としては、例えばイミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩などが挙げられる。これらは1種単独でも、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
前記有機溶剤としては通常用いられる有機溶剤を特に制限なく用いることができる。具体的には、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、アミド系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ニトリル系溶剤等を挙げることができる。これらは1種単独でも、2種類以上を併用した混合溶剤として用いてもよい。
【0069】
前記難燃剤としては通常用いられる添加型の難燃剤を特に制限なく用いることができる。中でも添加型の難燃剤としてはリンを含有するフィラが好ましい。リンを含有するフィラとしては、OP930(クラリアント製商品名、リン含有量23.5%)、HCA−HQ(三光(株)製商品名、リン含有量9.6%)、ポリリン酸メラミンであるPMP−100(リン含有量カタログ値14.5%)、PMP−200(リン含有量カタログ値10.6%)及びPMP−300(リン含有量カタログ値12.0%)(以上、日産化学工業(株)製、商品名)が挙げられる。
前記リン含有フェノール化合物及びエポキシ基を有するアクリル樹脂の反応生成物を含むことで、アクリル樹脂組成物中にHCA−HQをさらに添加してもアクリル樹脂組成物中の相溶性を良好な状態に保つことができる。
【0070】
前記流動調整剤としては、通常用いられる添加型の流動調整剤を特に制限なく用いることができる。具体的には、アエロジル、ポリラウリルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ2−エチルエキシルアクリレートなどのアクリル酸エステル重合体;ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなどのシリコーンポリマーなどが挙げられる。
【0071】
前記カップリング剤としては通常用いられるカップリング剤をアクリル樹脂組成物に対して、1〜10質量%程度添加することができる。具体的にはシリコーン系カップリング剤、アミン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤などが挙げられる。
【0072】
前記酸化防止剤としては通常用いられる添加型の酸化防止剤をアクリル樹脂組成物に対して、0.01〜20質量%程度添加することができる。具体的には、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、有機硫黄化合物系酸化防止剤などが挙げられ、より具体的にはヨシノックスBB(エーピーアイコーポレーション(株)製)を用いることができる。
【0073】
<樹脂付金属箔>
本発明の樹脂付金属箔は、金属箔と、前記金属箔上に形成された前記アクリル樹脂組成物を含む樹脂層とを有する。前記アクリル樹脂組成物を含む樹脂層を有することで、難燃性、接着性、硬化後の曲げ性に優れる。
前記金属箔としては、金箔、銅箔、アルミニウム箔など特に制限されないが、一般的には銅箔が用いられる。
前記金属箔の厚みとしては、1μm〜35μmであれば特に制限されないが、20μm以下の金属箔を用いることで折り曲げ性がより向上する。
また、金属箔として、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両面に0.5μm〜15μmの銅層と10μm〜300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔、又はアルミニウムと銅箔とを複合した2層構造複合箔を用いることもできる。
【0074】
樹脂付金属箔は、上記樹脂組成物を金属箔上に塗布することにより樹脂層を形成することで製造することができる。
上記樹脂層は、例えば、下記のようにして得られる。まず、アクリル樹脂組成物に含まれる上述の各成分を、有機溶媒中で混合、溶解、分散して、樹脂ワニスを作製する。有機溶媒としては、樹脂を溶解できるものであればよく、例えば、メチルイソブチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンを用いることができる。
【0075】
塗布は、公知の方法により実施することができる。塗布方法として、具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚みに樹脂層を形成するための塗布方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調整した樹脂ワニスを塗布するダイコート法等を適用することができる。例えば、乾燥前の樹脂層の厚みが50μm〜500μmである場合、ダイコート法を用いることが好ましい。
【0076】
樹脂付金属箔の製造条件は特に制限されないが、乾燥後の樹脂層において、樹脂ワニスに使用した有機溶媒が80質量%以上揮発していることが好ましい。乾燥温度は80〜180℃程度であり、乾燥時間はワニスのゲル化時間との兼ね合いで決めることができ、特に制限はない。樹脂ワニスの塗布量は、乾燥後の樹脂層の厚みが1μm〜100μmとなるように塗布することが好ましく、5μm〜80μmとなることがより好ましい。樹脂層の厚みが100μmを超えると塗布時に発泡し易くなる傾向がある。
【0077】
<樹脂フィルム>
樹脂フィルムは、前記アクリル樹脂組成物のワニスを離型基材上に塗布し、乾燥後、離型基材を除去することで製造することができる。離型基材としては、乾燥時の温度に耐えうるものであれば特に制限はなく、一般的に用いられる離型剤付きのポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、離型剤付きのアルミニウム箔等の金属箔を用いることができる。
【0078】
樹脂組成物のワニスの離型基材への塗布は、上述した塗布方法と同様の方法を用いることができる。乾燥温度は、80℃〜180℃程度であり、乾燥時間はワニスのゲル化時間との兼ね合いで決めることができ、特に制限はない。樹脂ワニスの塗布量は、得られる樹脂フィルムの厚みが、1μm〜100μmとなるように塗布することが好ましく、5μm〜80μmとなることがより好ましい。樹脂フィルムの厚みが100μmを超えると塗布時に発泡し易くなる傾向がある。
【0079】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグは、繊維基材と前記繊維基材に含浸された前記アクリル樹脂組成物と有して構成される。かかる構成であることで寸法安定性と曲げ性に優れる。
プリプレグを構成する繊維基材としては、金属箔張り積層板や多層プリント配線板を製造する際に用いられるものであれば特に制限されないが、通常織布や不織布等の繊維基材が用いられる。繊維基材の材質としては、ガラス、アルミナ、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維や、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維等及びこれらの混抄系がある。中でも特にガラス繊維の織布が好ましく用いられる。これにより屈曲性のある任意に折り曲げ可能なプリント配線板を得ることができる。さらに、製造プロセスでの温度、吸湿等に伴う基板の寸法変化を小さくすることも可能となる。
【0080】
また、繊維基材の厚さも特に限定されないが、さらに良好な可とう性を付与する観点から、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。繊維基材の厚みの下限は特に制限されないが、通常20μm程度である。
【0081】
前記プリプレグにおいて、前記アクリル樹脂組成物の含浸量は、繊維基材及びアクリル樹脂組成物の総質量に対して30質量%〜90質量%であることが好ましい。
【0082】
前記プリプレグは、上記と同様にワニスとして調製された前記アクリル樹脂組成物を、繊維基材に含浸し、80℃〜180℃の加熱によりワニスから溶剤を除去して製造することができる。前記プリプレグにはワニスに使用した溶剤が残存していてもよいが、ワニスに含まれていた溶剤のうち80質量%以上が除去されていることが好ましい。また加熱により溶剤を除去する乾燥時間については特に制限されない。
またアクリル樹脂組成物を繊維基材に含浸する方法に特に制限はなく、例えば、塗工機により塗布する方法を挙げることができる。
【0083】
<金属箔張積層板>
本発明の金属箔張積層板は、前記プリプレグ又は前記プリプレグを2枚以上積層した積層体を加熱及び加圧して得られるシート状の基板と、前記基板の少なくとも一方面上に密着して設けられた金属箔とを有して構成される。
金属箔張積層板及びプリント配線板の柔軟性を高めるため、基板の厚みは10μm〜200μmであることが好ましい。
また金属箔は、上述した樹脂付金属箔における金属箔と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0084】
金属箔張積層板は、1枚のプリプレグの少なくとも一方面上、又は、所定枚数(好ましくは6枚以下、より好ましくは2枚以下)のプリプレグを積層した積層体の少なくとも一方面上に金属箔を重ね、これを加熱及び加圧することにより製造することができる。
このとき、加熱する温度及び圧力は特に限定されないが、加熱する温度は通常80℃〜250℃(好ましくは130℃〜230℃)で、圧力は通常0.5MPa〜8.0MPa(好ましくは1.5MPa〜5.0MPa)の範囲である。また、加熱及び加圧には、真空プレスが好適に用いられる。
【0085】
金属箔張積層板の実施形態は、上記のような態様に限定されない。例えば、プリプレグを用いずに同様の構成のものとしてもよいし、基板の両面に金属箔を設けてもよい。
【0086】
また上述した樹脂付金属箔を使用して金属箔張積層板を構成することもできる。例えば、2枚の樹脂付き金属箔の樹脂面が繊維基材に接するように積層した積層体を加熱加圧して成形することにより金属箔張積層板を作製することができる。このときの加熱温度が80℃〜250℃で、圧力が0.5MPa〜8.0MPaであることが好ましく、加熱温度が130℃〜230℃で、圧力が1.5MPa〜5.0MPaであることがより好ましい。
【0087】
さらに上述した樹脂フィルムを使用して金属箔張積層板を構成することもできる。例えば、金属箔/樹脂フィルム/繊維基材/樹脂フィルム/金属箔の順に積層した積層体を、加熱加圧して成形することにより金属箔張積層板を作製することができる。このときの加熱温度が80℃〜250℃で、圧力が0.5MPa〜8.0MPaであることが好ましく、加熱温度が130℃〜230℃で、圧力が1.5MPa〜5.0MPaであることがより好ましい。
【0088】
以上のようにして作製される金属箔張積層板の厚さは、200μm以下であることが好ましく、20μm〜180μmであることがより好ましい。この厚さが200μmを超えると、可とう性が低下し、曲げ加工時にクラックが発生しやすくなる可能性がある。また、厚さが20μmを下回る金属箔張積層板は、極めて製造し難い。
【0089】
<プリント配線板>
本発明のプリント配線板は、前記金属箔張積層体を回路加工することで製造することができる。金属箔張積層板の回路加工には通常のフォトリソによる方法が適用できる。
このようにして得られるプリント配線板は、難燃性と柔軟性に優れ、任意に折り曲げることが可能である。
さらに得られたプリント配線板の金属箔上に、Bステージの樹脂フィルムを積層し、さらに樹脂付金属箔を積層することで、多層プリント配線板を得ることが可能である。
本発明のプリント配線板の好ましい態様としては、例えば、特開2009−214525号公報の段落番号0064や、特開2009−275086号公報の段落番号0056〜0059に記載のプリント配線板と同様のものを挙げることができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0091】
[アクリルエポキシ樹脂合成例1]
アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル(日立化成工業(株)製:FA−513AS)258g、アクリル酸ブチル(BA)200g、メタクリル酸ブチル(BMA)312g、メタクリル酸2エチルヘキシル(2EHMA)186g、メタクリル酸グリシジル(GMA)44gを混合し、得られた混合液にさらに過酸化ラウロイル2g、n−オクチルメルカプタン0.16gを溶解させて、単量体混合液とした。
撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノールKH−20)を0.04g、イオン交換水を2,000g加えて撹拌しながら上記単量体混合溶液を加え、撹拌回転数250rpm、窒素雰囲気下において60℃で2時間、次いで100℃で1時間重合させ、樹脂粒子を得た(重合率は、重量法で99%であった)。得られた樹脂粒子の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。測定条件は、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムにはGelpackGL−A100M(日立化成工業(株)製)を用い、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量を算出して求めた。その結果、466,000だった。この樹脂粒子を水洗、脱水、乾燥し、メチルエチルケトンに加熱残分が35質量%となるように溶解し、アクリルエポキシ樹脂1のワニスを作製した。
【0092】
得られたアクリルエポキシ樹脂のエポキシ当量を以下のようにして測定したところ、3370であった。
[アクリル樹脂のエポキシ当量の測定]
100mLのフラスコにアクリル樹脂ワニスを固形分が3〜4gになるよう量り、酢酸20mL、臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液(臭化テトラエチルアンモニウム100gと酢酸400mLの混合液)を10mL、クリスタルバイオレットを4〜5滴加えた。この溶液を0.1mol/Lの過塩素酸酢酸溶液で滴定した。同様にブランクを滴定した。エポキシ当量は以下の式により算出した。
エポキシ当量=1,000×実際に量りとったワニスの質量[g]×ワニスの固形分濃度[−]/((滴定量[mL]−ブランク滴定量[mL])×0.1mol/L)
【0093】
[アクリルエポキシ樹脂合成例2]
アクリル酸エチル(EA)800g、アクリル酸ブチル(BA)50g、アクリロニトリル(AN)50g、メタクリル酸グリシジル(GMA)100gを混合し、得られた混合液にさらに過酸化ラウロイル2g、n−オクチルメルカプタン0.16gを溶解させて、単量体混合液とした。
撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノールKH−20)を0.04g、イオン交換水を2,000g加えて撹拌しながら上記単量体混合溶液を加え、撹拌回転数250rpm、窒素雰囲気下において60℃で2時間、次いで100℃で1時間重合させ、樹脂粒子を得た(重合率は、重量法で99%であった)。得られた樹脂粒子の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。測定条件は、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムにはGelpackGL−A100M(日立化成工業(株)製)を用い、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量を算出して求めた。その結果、618,000だった。またエポキシ当量は、1912であった。
この樹脂粒子を水洗、脱水、乾燥し、メチルイソブチルケトンに加熱残分が25質量%となるように溶解し、アクリルエポキシ樹脂2のワニスを作製した。
【0094】
[アクリルエポキシ樹脂合成例3]
アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル(日立化成工業(株)製:FA−513AS)299g、アクリル酸ブチル(BA)649g、アクリル酸(AA)52gを混合し、得られた混合液にさらに過酸化ラウロイル2g、n−オクチルメルカプタン0.16gを溶解させて、単量体混合液とした。
撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノールKH−20)を0.04g、イオン交換水を2,000g加えて撹拌しながら上記単量体混合溶液を加え、撹拌回転数250rpm、窒素雰囲気下において60℃で2時間、次いで100℃で1時間重合させ、樹脂粒子を得た(重合率は、重量法で99%であった)。得られた樹脂粒子の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。測定条件は、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムにはGelpackGL−A100M(日立化成工業(株)製)を用い、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量を算出して求めた。その結果、497,000だった。この樹脂粒子を水洗、脱水、乾燥し、メチルエチルケトンに加熱残分が35質量%となるように溶解してアクリル樹脂溶解物を得た。
【0095】
このアクリル樹脂溶解物とエポキシ樹脂と硬化促進剤とを下記組成となるように配合し、樹脂固形分が25質量%となるようメチルエチルケトンを加えて樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、窒素ガスを導入しながら攪拌、110℃まで加温し、そのまま
4時間保持してアクリル樹脂とエポキシ樹脂とを反応させた。その後、室温中で室温になるまで放置し、アクリルエポキシ樹脂3のワニスを作製した。
【0096】
(組成)
アクリル樹脂溶解物(加熱残分35%) : 500.0質量部
EXA−4710(エポキシ樹脂、エポキシ当量:170) : 1.0質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 1.7質量部
【0097】
[アクリルエポキシ樹脂合成例4]
アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル(日立化成工業(株)製:FA−513AS)287g、アクリル酸ブチル(BA)623g、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)90gを混合し、得られた混合液にさらに過酸化ラウロイル2g、n−オクチルメルカプタン0.16gを溶解させて、単量体混合液とした。
撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノールKH−20)を0.04g、イオン交換水を2,000g加えて撹拌しながら上記単量体混合溶液を加え、撹拌回転数250rpm、窒素雰囲気下において60℃で2時間、次いで100℃で1時間重合させ、樹脂粒子を得た(重合率は、重量法で99%であった)。得られた樹脂粒子の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。測定条件は、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムにはGelpackGL−A100M(日立化成工業(株)製)を用い、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量を算出して求めた。その結果、563,000だった。この樹脂粒子を水洗、脱水、乾燥し、メチルエチルケトンに加熱残分が35質量%となるように溶解してアクリル樹脂溶解物を得た。
【0098】
このアクリル樹脂溶解物とエポキシ樹脂と硬化促進剤とを下記組成となるように配合し、樹脂固形分が25質量%となるようメチルエチルケトンを加えて樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、窒素ガスを導入しながら攪拌、110℃まで加温し、そのまま
4時間保持してアクリル樹脂とエポキシ樹脂とを反応させた。その後、室温中で室温になるまで放置し、アクリルエポキシ樹脂4のワニスを作製した。
【0099】
(組成)
アクリル樹脂溶解物(加熱残分35%) : 500.0質量部
EXA−4710(エポキシ樹脂、エポキシ当量:170) : 1.0質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 1.7質量部
【0100】
<合成例1>
アクリルエポキシ樹脂合成例1で作製したアクリルエポキシ樹脂1のワニスを用いて、リン含有フェノール化合物(三光(株)製、HCA−HQ−HS)、硬化促進剤を下記組成となるように配合し、樹脂固形分25質量%の樹脂組成物を調製した。
(組成)
アクリルエポキシ樹脂(エポキシ当量:3,370) : 59.1質量部
HCA−HQ−HS(OH当量:162) : 40.4質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 0.5質量部
【0101】
得られた樹脂組成物を、窒素ガスを導入しながら攪拌、110℃まで加温し、そのまま4時間保持してエポキシ基とリン含有フェノール化合物とを反応させアクリル樹脂懸濁物を作製した。
このときリン含有フェノール化合物の水酸基の総モル数(OH)の、エポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ基の総モル数(EP)に対する比(OH/EP)は14.2であった。
得られたアクリル樹脂懸濁物をろ過し、反応生成物であるリン含有アクリル樹脂の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。測定条件は、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムにはGelpackGL−A100M(日立化成工業(株)製)を用い、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量を算出して求めた。その結果、496,000であった。
【0102】
<合成例2>
アクリルエポキシ樹脂合成例2で作製したアクリルエポキシ樹脂2のワニスを用いて、リン含有フェノール化合物(三光(株)製、HCA−HQ−HS)、硬化促進剤を下記組成となるように配合し、樹脂固形分25質量%に調製した他は、合成例1と同様にしてアクリル樹脂懸濁物2を作製した。
(組成)
アクリルエポキシ樹脂(エポキシ当量:1912) : 45.1質量部
HCA−HQ−HS(OH当量:162) : 54.4質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 0.5質量部
【0103】
このときリン含有フェノール化合物の水酸基の総モル数(OH)の、エポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ基の総モル数(EP)に対する比(OH/EP)は14.2であった。
得られたアクリル樹脂懸濁物をろ過し、反応生成物であるリン含有アクリル樹脂の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。リン含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、656,000であった。
【0104】
<合成例3>
アクリルエポキシ樹脂合成例1で作製したアクリルエポキシ樹脂1のワニスを用いて、リン含有フェノール化合物(三光(株)製、HCA−HQ−HS)、硬化促進剤を下記組成となるように配合し、樹脂固形分25質量%に調製した他は合成例1と同様にしてアクリル樹脂懸濁物3を作製した。
(組成)
アクリルエポキシ樹脂(エポキシ当量:3370) : 71.9質量部
HCA−HQ−HS (OH当量:162) : 27.6質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 0.5質量部
【0105】
このときリン含有フェノール化合物の水酸基の総モル数(OH)の、エポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ基の総モル数(EP)に対する比(OH/EP)は8.0であった。
得られたアクリル樹脂懸濁物をろ過し、反応生成物であるリン含有アクリル樹脂の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。リン含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、496,000であった。
【0106】
<合成例4>
アクリルエポキシ樹脂合成例2で作製したアクリルエポキシ樹脂2のワニスを用いて、リン含有フェノール化合物(三光(株)製、HCA−HQ−HS)、硬化促進剤を下記組成となるように配合し、樹脂固形分25質量%に調製した他は合成例1と同様にしてアクリル樹脂懸濁物4を作製した。
(組成)
アクリルエポキシ樹脂(エポキシ当量:1912) : 59.3質量部
HCA−HQ−HS(OH当量:162) : 40.2質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 0.5質量部
【0107】
このときリン含有フェノール化合物の水酸基の総モル数(OH)の、エポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ基の総モル数(EP)に対する比(OH/EP)は8.0であった。
得られたアクリル樹脂懸濁物をろ過し,反応生成物であるリン含有アクリル樹脂の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。リン含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、656,000であった。
【0108】
<合成例5>
アクリルエポキシ樹脂合成例3で作製したアクリルエポキシ樹脂3のワニスを用いて、リン含有フェノール化合物(三光(株)製、HCA−HQ−HS)、硬化促進剤を下記組成となるように配合し、樹脂固形分25質量%に調製した他は合成例1と同様にしてアクリル樹脂懸濁物3を作製した。
(組成)
アクリルエポキシ樹脂(アクリルエポキシ樹脂3) : 71.9質量部
HCA−HQ−HS (OH当量:162) : 27.6質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 0.5質量部
【0109】
このときリン含有フェノール化合物の水酸基の総モル数(OH)の、エポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ基の総モル数(EP)に対する比(OH/EP)は8.0であった。
得られたアクリル樹脂懸濁物をろ過し、反応生成物であるリン含有アクリル樹脂の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。リン含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、532,000であった。
【0110】
<合成例6>
アクリルエポキシ樹脂合成例4で作製したアクリルエポキシ樹脂4のワニスを用いて、リン含有フェノール化合物(三光(株)製、HCA−HQ−HS)、硬化促進剤を下記組成となるように配合し、
樹脂固形分25質量%に調製した他は合成例1と同様にしてアクリル樹脂懸濁物6を作製した。
(組成)
アクリルエポキシ樹脂(アクリルエポキシ樹脂4) : 71.9質量部
HCA−HQ−HS (OH当量:162) : 27.6質量部
トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) : 0.5質量部
【0111】
このときリン含有フェノール化合物の水酸基の総モル数(OH)の、エポキシ基を有するアクリル樹脂のエポキシ基の総モル数(EP)に対する比(OH/EP)は8.0であった。得られたアクリル樹脂懸濁物をろ過し、反応生成物であるリン含有アクリル樹脂の重量平均分子量を、GPCを用いて測定した。リン含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、602,000であった。
【0112】
<合成例7>
アクリルエポキシ樹脂合成例1で作製したアクリルエポキシ樹脂1のワニスを用いて、リン含有フェノール化合物(三光(株)製、HCA−HQ−HS)、硬化促進剤を下記組成となるように配合し、樹脂固形分25質量%に調製して、以下のようにしてアクリル樹脂懸濁物7を作製した。
(組成)
アクリルエポキシ樹脂(エポキシ当量:3370) : 86.2質量部
HCA−HQ−HS(OH当量:162) : 13.3質量部
トリフェニルホスフィン : 0.5質量部
【0113】
得られた樹脂組成物をフラスコ中に入れ、加温せずに室温のまま4時間攪拌した。その後、室温中で放置した。
アクリルエポキシ樹脂とリン含有フェノール化合物は実質的に反応していなかった。
【0114】
(アクリル樹脂懸濁物の評価ワニスAの作製)
合成例で作製したアクリル樹脂懸濁物と下記の材料を配合し,樹脂固形分27質量%に調製して評価ワニスAを作製した。
【0115】
(組成)
熱硬化性樹脂ワニス : 27.9質量部
エポキシ樹脂(DIC(株)製、EXA−4710) : 14.5質量部
硬化剤(DIC(株)製、KA−1165) : 10.1質量部
硬化促進剤(四国化成工業(株)製、2PZ−CN) : 0.04質量部
難燃剤(クラリアント社製、OP930) : 7.4質量部
充填剤(昭和電工(株)製、HP−360) : 6.3質量部
充填剤((株)アドマテックス製、SC−2050KC) : 31.5質量部
難燃剤(大塚化学(株)製、SPB−100) : 2.0質量部
カップリング剤 : 0.2質量部
(日立化成コーテッドサンド(株)製、SC−8000)
【0116】
<実施例1>
合成例1で作製したアクリル樹脂懸濁物を用いてアクリル樹脂懸濁物1の評価ワニスAを作製した。
【0117】
<実施例2>
合成例2で作製したアクリル樹脂懸濁物を用いてアクリル樹脂懸濁物2の評価ワニスAを作製した。
【0118】
<実施例3>
合成例3で作製したアクリル樹脂懸濁物を用いてアクリル樹脂懸濁物3の評価ワニスAを作製した。
【0119】
<実施例4>
合成例4で作製したアクリル樹脂懸濁物を用いてアクリル樹脂懸濁物4の評価ワニスAを作製した。
【0120】
<実施例5>
合成例5で作製したアクリル樹脂懸濁物を用いてアクリル樹脂懸濁物5の評価ワニスAを作製した。
【0121】
<実施例6>
合成例6で作製したアクリル樹脂懸濁物を用いてアクリル樹脂懸濁物6の評価ワニスAを作製した。
【0122】
<比較例1>
合成例7で作製したアクリル樹脂懸濁物を用いてアクリル樹脂懸濁物7の評価ワニスAを作製した。
【0123】
<プリプレグの作製>
厚さ19μmのガラスクロス(日東紡(株)製、#1027)に乾燥後の厚みが60μmとなるように、上記で得られた評価ワニスを縦型塗工機を用いて塗工し、110〜160℃の乾燥炉中で滞留時間10〜30分間乾燥して、プリプレグをそれぞれ作製した。
【0124】
<樹脂付き銅箔の作製>
厚みが18μmの銅箔(日本電解(株)製、HLA18)の上に、上記で得られた評価ワニスを乾燥後の樹脂の厚みが60μmになるように横型塗工機で塗布し、80〜140℃の乾燥炉を滞留時間5〜15分で加熱、乾燥して樹脂付き銅箔をそれぞれ得た。
【0125】
<金属箔張積層板の作製>
(1)コア基板の作製
得られたプリプレグを厚さ18μmの銅箔(日本電解(株)製、HLA18)の粗化面で挟み、170℃、90分、4.0MPaのプレス条件で加熱加圧処理して、両面銅張積層板をそれぞれ作製した。両面銅張積層板の外側の銅箔は両面エッチングした。
【0126】
(2)4層板の作製
上記(1)で作製したコア基板を上記で得た樹脂付き銅箔の樹脂面で挟み、170℃、90分、4.0MPaのプレス条件で加熱加圧処理して両面銅張積層板をそれぞれ作製した。両面銅張積層板の外側の銅箔は両面エッチングした。
【0127】
<評価>
上記で得られたリン含有アクリル樹脂、金属箔張積層板について、以下のような評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0128】
[ワニスのライフの評価]
アクリル樹脂懸濁物を室温中で12時間静置し、フィラの沈降が無いか目視で観察し、下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
○ : 沈降物が認められなかった。
× : 沈降物を観察された。
【0129】
[難燃性の評価]
上記で作製した金属箔張積層板に全面エッチングを施し、UL94V及びUL94VTM法に従い、難燃性を評価した。
【0130】
[燃焼距離の測定]
燃焼距離は難燃性評価後のサンプルの着火部を下端、炭化した最上部を上端とし、下端から上端までの長さを燃焼距離(単位:mm)として測定した。
燃焼距離が短いほど難燃性が高いと判断した。
【0131】
【表1】

【0132】
表1より、本発明のアクリル樹脂懸濁物を用いることで、難燃性とワニスのライフが向上することが分かった。
【0133】
<実施例7>
合成例1で作製したアクリル樹脂懸濁物を再沈することで得た反応生成物を用いて、以下のようにしてリン含有アクリル樹脂(反応生成物)を含む評価ワニスBを作製した。
【0134】
(反応生成物の評価ワニスBの作製)
合成例1で作製したアクリル樹脂懸濁物をメタノールを用いて再沈させ、5〜6回メタノールで洗浄した後、樹脂固形を乾燥した。次いでメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いて樹脂固形分35質量%に調製した。
その後、下記組成となるように各材料を配合し、樹脂固形分50質量%に調製して評価ワニスBを作製した。
【0135】
(組成)
熱硬化性樹脂ワニス : 27.6質量部
エポキシ樹脂(DIC(株)製、EXA−4710) : 14.3質量部
硬化剤(DIC(株)製、KA−1165) : 10.0質量部
硬化促進剤(四国化成工業(株)製、2PZ−CN) : 0.04質量部
難燃剤(クラリアント社製、OP930) : 7.3質量部
充填剤(昭和電工(株)製、HP−360) : 6.2質量部
充填剤((株)アドマテックス製、SC−2050KC) : 31.2質量部
難燃剤(三光(株)製、HCA−HQ−HS) : 1.1質量部
難燃剤(大塚化学(株)製、SPB−100) : 2.0質量部
カップリング剤 : 0.2質量部
(日立化成コーテッドサンド(株)製、SC−8000)
【0136】
<実施例8>
合成例2で作製したアクリル樹脂懸濁物を再沈することで得た反応生成物を用いてアクリル樹脂反応生成物の評価ワニスBを作製した。
【0137】
<実施例9>
合成例3で作製したアクリル樹脂懸濁物を再沈することで得た反応生成物を用いてアクリル樹脂反応生成物の評価ワニスBを作製した。
【0138】
<実施例10>
合成例4で作製したアクリル樹脂懸濁物を再沈することで得た反応生成物を用いてアクリル樹脂反応生成物の評価ワニスBを作製した。
【0139】
<比較例2>
合成例5で作製したアクリル樹脂懸濁物を再沈することで得た反応生成物を用いてアクリル樹脂反応生成物の評価ワニスBを作製した。
【0140】
得られた評価ワニスBを用いたこと以外は、上記と同様にして、プリプレグ、樹脂付き銅箔、及び金属箔張積層板(コア基板及び4層板)を作製した。
【0141】
[エポキシ樹脂との相溶性の評価]
合成例で作製したアクリル樹脂懸濁物をろ過することで得た反応生成物と、エポキシ樹脂(DIC(株)製;EPICLON840、または東都化成(株)製;YDF−8170C)とを樹脂の質量比で1:1となるよう混合して、アクリル樹脂組成物ワニスとした。尚、固形分が40質量%となるようにメチルエチルケトンを加えた。
相溶性をワニスでの相溶性と樹脂フィルムとしたときの透明性とで、下記評価基準に従って評価した。
樹脂フィルムは、PETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、A63−50)に評価ワニスを乾燥後の厚みが50μm〜70μmとなるよう塗布し、80℃10分乾燥の後、130℃10分乾燥して評価用樹脂フィルムを形成した。
〜評価基準〜
○ : 相溶性が良好で透明であった。
× : 相溶性が悪く白濁していた。
【0142】
評価ワニスBを用いて作製した金属箔張積層板を用いたこと以外は、上記と同様にして難燃性の評価と燃焼距離の測定を行なった。結果を表2に示した。
【0143】
【表2】



【0144】
表2より、本発明のアクリル樹脂反応物を用いることで、難燃性とエポキシ樹脂との相溶性が向上することが分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂に由来する基及び下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物に由来する基が、エポキシ基に由来する連結基を介して結合しているリン含有アクリル樹脂と、熱硬化性樹脂と、を含むアクリル樹脂組成物。
【化1】



【請求項2】
更に前記リン含有フェノール化合物を含む請求項1に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン含有アクリル樹脂は、前記リン含有フェノール化合物及びエポキシ基を有するアクリル樹脂の反応生成物である請求項1又は請求項2に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記反応生成物は、前記リン含有フェノール化合物及びエポキシ基を有するアクリル樹脂を、前記エポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基のモル数(EP)に対する、前記リン含有フェノール化合物に含まれる水酸基のモル数(OH)の比(OH/EP)を4以上で反応させて得られる請求項3に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項6】
さらにフィラを含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項7】
アクリル樹脂に由来する基と、下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物に由来する基とが、エポキシ基に由来する連結基を介して結合しているリン含有アクリル樹脂。
【化2】



【請求項8】
重量平均分子量が50,000〜1,500,000である請求項7に記載のリン含有アクリル樹脂。
【請求項9】
金属箔と、前記金属箔上に形成された請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物を含む樹脂層と、を有する樹脂付金属箔。
【請求項10】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物からなる樹脂フィルム。
【請求項11】
繊維基材と、前記繊維基材に含浸された請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のアクリル樹脂組成物と、を有するプリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグ又は前記プリプレグを2枚以上積層した積層体を加熱及び加圧して得られる基板と、前記基板の少なくとも一方面上に設けられた金属箔と、を有する金属箔張積層板。
【請求項13】
請求項12に記載の金属箔張積層板に回路加工して得られるプリント配線板。
【請求項14】
下記化学式で表されるリン含有フェノール化合物と、エポキシ基を有するアクリル樹脂とを反応させる工程を含むリン含有アクリル樹脂の製造方法。
【化3】

【請求項15】
前記エポキシ基を有するアクリル樹脂に含まれるエポキシ基のモル数(EP)に対する、前記リン含有フェノール化合物に含まれる水酸基のモル数(OH)の比(OH/EP)が4以上である請求項14に記載のリン含有アクリル樹脂の製造方法。


【公開番号】特開2011−225853(P2011−225853A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73668(P2011−73668)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】