説明

レーザ照射方法及びレーザ照射装置

【課題】容易に、結晶化の溶融状態、結晶粒径及び粒径バラツキを所望の状態にしたシリコン膜を形成することができるレーザ照射方法を提供する。
【解決手段】レーザ照射方法は、マルチモードのレーザ光を発振させる発振ステップ(S102)と、レーザ光を光ファイバーで伝送する伝送ステップ(S104)と、光ファイバーから出射したレーザ光を重畳し細長い形状に整形する整形ステップ(S106)と、整形されたレーザ光を短軸方向に走査しながらアモルファスシリコン膜に照射することで、ポリシリコン膜に結晶化する照射ステップ(S108)とを含み、照射ステップ(S108)では、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとし、K>4の条件を満足する走査速度と照射パワー密度とで照射することで、レーザ照射領域に所定の溶融状態での結晶を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型のガラス基板に形成されたアモルファスシリコン膜にレーザ光を照射して、結晶粒の結晶化を行うレーザ照射方法およびレーザ照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示装置や有機EL(Electro Luminescence)表示装置などの表示装置は、縦横同一又は異なるピッチに配列された薄膜トランジスタ(画素トランジスタ)のスイッチングにより、画像を映し出している。この薄膜トランジスタは、ガラスや溶融石英などの基板上のアモルファスシリコン膜がポリシリコン膜に結晶化されたものである。
【0003】
そして、この基板上に薄膜トランジスタを形成するためには、ガラス基板にアモルファスシリコン膜を形成した後、膜内部に存在する水素を熱処理して脱水素を行う。その後、アモルファスシリコン膜にエキシマレーザを照射することにより、アモルファスシリコン膜をポリシリコン膜にする結晶化が行われている。この結晶化により、結晶内を移動できる電子の速度(移動度)が大きくなるため、薄膜トランジスタのスイッチング速度が速くなり、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置の画像が鮮明に見える。
【0004】
しかし、アモルファスシリコン膜を完全に溶融させると、結晶粒径が大きくなり、その結果、移動度も大きくなる。その反面、アモルファスシリコン膜を完全に溶融させると、結晶粒径のバラツキが大きくなり、移動度のバラツキが大きくなる。さらに、エキシマレーザの照射により得られるポリシリコン膜は、レーザ1ショット毎のバラツキの影響を受け、結晶粒径のバラツキが大きい。そのため、エキシマレーザの照射により得られるポリシリコン膜は、移動度のバラツキ、画質ムラなどの表示装置の性能劣化が生じ易い。
【0005】
そのため、結晶粒径のバラツキを低減するために、レーザ発振器から発振するレーザ光として、固体レーザの第2高調波を使った連続波レーザを用いて完全溶融させて結晶化する方法や、連続波レーザを用いて部分溶融させて結晶粒径のバラツキを低減させる方法が提案されている。完全溶融させる方法での連続波レーザは、パルスレーザでなくYAG、YLF、YVO4レーザなどが用いられる。また、大型ガラス基板に対して全面にバラツキが少ないレーザ光が照射されるように、複数のレーザ発振器を光ファイバーで伝送し、夫々のレーザ光を光学系で長尺ビームに整形し結晶化を行う方法も提案されている。
【0006】
図8Aは、特許文献1に記載された従来のレーザ照射装置が備える長軸方向にビーム整形する光学系構成を示す図である。図8Bは、当該従来のレーザ照射装置が備える短軸方向に整形する光学系の構成を示す図である。
【0007】
図8Aに示すように、レーザ光53は、可視光連続発振レーザ光を発振する可視光レーザ発振器51から発振された後、光ファイバー52により伝送され、ビーム整形を行う光学ユニット54で結合される。光学ユニット54は、長軸方向のみを平行光線にするシリンドリカルレンズ55と、平行光線をトップハット形状に整形するDOE56(回折光学素子)とから構成されている。また、図8Bは、短軸方向のビーム整形を示す。光ファイバー52から発したレーザ光53は、DOE56により集光点に集められる。
【0008】
また、図9は、図8Aに示された従来のレーザ照射装置により整形された長軸方向のビーム形状を示す図である。図10は、図8Bに示された従来のレーザ照射装置により整形された横軸方向のビーム形状を示す図である。図9及び図10において、横軸はビーム長さを示し、縦軸は照射パワー密度を示している。
【0009】
図8Aの構成によるビーム整形方法は、例えば複数の可視光レーザ発振器51のレーザ光を夫々に光ファイバー52に入光させ、夫々のレーザ光53を重ね合わせることなくシリンドリカルレンズ55及びDOE56によって整形し、照射面でこれらの個々に整形され、ライン上に配列されたラインビームで照射する方法である。そのため、図9に示すように、整形された各レーザ光53の裾野部だけが重なり合う。また、特許文献1においては、使用される光ファイバー52は、シングルモード光ファイバーが用いられる。
【0010】
一方、特許文献2では、連続波を使ってパワー変動の影響が少なく安定で高スループットが得られる照射パワー密度条件範囲の広いレーザ照射方法が提案されている。
【0011】
特許文献2の方法は、ラインビームの短軸ビーム幅を2〜10μmに集光し、走査速度が500〜1000mm/sにすることで、レーザ照射領域に良好な結晶化を行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−118409号公報
【特許文献2】特開2005−217209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来の技術では、個々のレーザ発振器から発するレーザ光が重畳することなくライン状に配列されているため、個々のレーザパワーのバラツキが例えば±1%であるとすれば、整形されたライン状のビームの均一性にもまた±1%のバラツキが生じる。その結果、ラインビームに整形された場合、その均一性の時間的な照射パワー密度の変化を±1%以下に抑えることができないことになる。
【0014】
また、レーザ発振器がシングルモード発振している場合や光ファイバーがシングルモードで伝送されている場合に、夫々のレーザ発振器、夫々の光ファイバーからのレーザ光は重なり合うと非常に干渉を起こし易い。上記従来の技術の場合、個々のレーザ光がラインビームに整形されるときに個々のビームの裾野部のみで重なり合うため、この部分に干渉が生じ、干渉ノイズ(スペックル)が発生し、ラインビームの均一性(空間分布)を更に劣化させる可能性があるという問題を有している。
【0015】
一方、パワー変動の少ない安定なレーザ照射を行う方法としての上記従来の技術では、短軸の集光径を2〜10μmに集光し、走査速度を500〜1000mm/sでレーザ照射する。この方法では、集光径を2〜10μmに集光するために、例えば顕微鏡の対物レンズが使用されている。つまり、短焦点で焦点深度の小さい集光レンズを用いる必要があるため、焦点距離を一定にするオートフォーカス機構を有し装置構成が複雑となる。そのため、大型ガラス基板への照射になると、大型ガラス基板を装填した走査ステージの走行精度を維持しながら500〜1000mm/sの速度で移動するため、走査ステージも大掛かりとなるという問題を有している。
【0016】
また、走査速度及び照射パワー密度を安定照射条件内で設定しても、その組み合わせにより結晶の溶融状態、結晶粒径の大きさ、粒径バラツキなどが異なり、照射条件を変えた時には、表示装置の性能との相関を調査し、確認する必要があるなどの多大な労力を有するという問題を有している。
【0017】
本発明の目的は、上記従来の技術の問題点を解決するものであって、容易に、結晶化の溶融状態、結晶粒径及び粒径バラツキを所望の状態にしたシリコン膜を形成することができるレーザ照射方法およびレーザ照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の一態様にかかるレーザ照射方法は、複数のレーザ光を発振させるレーザ発振ステップと、前記複数のレーザ光を重畳して整形するビーム整形ステップと、整形された前記レーザ光を走査しながら照射対象物のアモルファスシリコン膜に照射することで、ポリシリコン膜に結晶化させる照射ステップとを含み、前記照射ステップは、前記アモルファスシリコン膜に対し、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとした場合に、K>4の条件を満たすことを特徴とする。
【0019】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様にかかるレーザ照射方法は、複数のレーザ光を発振させるレーザ発振ステップと、前記複数のレーザ光を重畳して整形するビーム整形ステップと、整形された前記レーザ光を走査しながら照射対象物のアモルファスシリコン膜に照射する照射ステップとを含み、前記照射ステップは、前記アモルファスシリコン膜に対し、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとした場合に、K<=4の条件を満たすことを特徴とする。
【0020】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様にかかるレーザ照射装置は、複数のレーザ光を発振させるレーザ発振器と、前記複数のレーザ光を重畳して整形するビーム整形器と、整形された前記レーザ光を走査しながら照射対象物のアモルファスシリコン膜に照射することで、ポリシリコン膜に結晶化させる照射手段と、前記照射手段を、前記アモルファスシリコン膜に対し、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとした場合に、K>4の条件を満たすように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるレーザ照射方法およびレーザ照射装置によれば、容易に、結晶化の溶融状態、結晶粒径及び粒径バラツキを所望の状態にしたシリコン膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】本実施の形態におけるレーザ照射装置1の構成を示す図
【図1B】本実施の形態におけるレーザ照射装置1の構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態におけるレーザ照射方法を説明するフローチャート
【図3】本実施の形態における光学ユニット30により整形されたビーム形状を模式的に示す図
【図4】本実施の形態における光学ユニット30により整形されたビーム形状を模式的に示す図
【図5A】整形ビームの走査速度200mm/s、照射パワー密度50KW/cm2とした場合の照射状態を示す図
【図5B】整形ビームの走査速度200mm/s、照射パワー密度60KW/cm2とした場合の照射状態を示す図
【図5C】整形ビームの走査速度200mm/s、照射パワー密度80KW/cm2とした場合の照射状態を示す図
【図6】走査速度と照射パワー密度とを変化させた場合の測定結果を示す図
【図7】K値と照射パワー密度との関係を示す図
【図8A】従来のレーザ照射装置が備える長軸方向にビーム整形する光学系構成を示す図
【図8B】従来のレーザ照射装置が備える短軸方向にビーム整形する光学系構成を示す図
【図9】従来のレーザ照射装置により整形された長軸方向のビーム形状を示す図
【図10】従来のレーザ照射装置により整形された短軸方向のビーム形状を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
図1A及び図1Bは、本発明の実施の形態におけるレーザ照射装置1の構成を示す図である。具遺体的には、図1Aは、本発明の一実施例であるレーザ照射装置1の長軸方向に整形する光学系の構成を示す図であり、図1Bは、当該レーザ照射装置1の短軸方向に整形する光学系の構成を示す図である。
【0025】
また、図2は、本発明の実施の形態におけるレーザ照射方法を説明するフローチャートである。
【0026】
図1A及び図1Bに示すように、レーザ照射装置1は、複数のレーザ発振器10(同図では、4つのレーザ発振器10)と、複数のマルチモード光ファイバー20(同図では、4つのマルチモード光ファイバー20)と、光学ユニット30とを備えている。
【0027】
レーザ発振器10のそれぞれは、マルチモードの連続波レーザ光を発振するレーザ発振器である。また、マルチモード光ファイバー20は、レーザ発振器10が発振したマルチモードの連続波レーザ光をそれぞれ伝送する光ファイバーである。また、光学ユニット30は、複数のマルチモード光ファイバー20のそれぞれから出射したレーザ光を重畳し、細長い形状に整形するビーム整形器である。
【0028】
つまり、図2に示すように、マルチモード光ファイバー20で結合された可視光連続発振レーザ光であるレーザ光40は、レーザ発振器10から発振(図2のS102)した後、マルチモード光ファイバー20により伝送され(図2のS104)、ビーム整形を行う光学ユニット30に結合される(図2のS106)。
【0029】
また、図1A及び図1Bに示すように、光学ユニット30は、シリンドリカルレンズ31と、1対のシリンドリカルレンズ32と、フィールドレンズ33と、フィールドレンズ34と、絞り35と、縮小投影レンズ36と、コリメータレンズ37と、集光レンズ38とを備えている。
【0030】
つまり、夫々のマルチモード光ファイバー20からのレーザ光40は、長軸方向のみを平行光線にするシリンドリカルレンズ31、および1対のシリンドリカルレンズ32により平行光線化されて均一化され、フィールドレンズ33により後方のフィールドレンズ34上で重ね合わされて平均化される。その後、レーザ光40は、ほぼ平行光のまま絞り35により長軸方向のビーム長さが調整され、縮小投影レンズ36により絞り35位置での寸法が縮小されて、照射対象物の加工面上に結像される(図2のS106)。
【0031】
この光学系は、一般的にケーラー照明と呼ばれる。マルチモードのレーザ発振器10、マルチモード光ファイバー20でレーザ光の可干渉性を少なくし、さらに1対のシリンドリカルレンズ32、フィールドレンズ34によりレーザ光40を重畳させることで、可干渉性を減少させるほか、レーザ出力の安定性、長軸ビームの均一性を向上させることができる。
【0032】
一方、図1Bに示す短軸方向の整形光学系では、マルチモード光ファイバー20からのレーザ光40は、コリメータレンズ37により平行光線にされた後、集光レンズ38により図1Aの絞り35位置で結像され、その後、縮小投影レンズ36により照射面上に集光される。
【0033】
ここで、照射されるレーザ光40の短軸方向の長さは、30μm以上である。マルチモード光ファイバー20の径を例えば100μmとすると、コリメータレンズ37と集光レンズ38との結像比を1:1として、絞り35位置での集光径を100μmに結像した場合の縮小投影レンズ36の縮小率は3〜4となり、レーザ光40の短軸方向の長さを約30μm以上のビーム径にすることが可能である。このような短軸方向の構成を、一般的にクリティカル照明と呼ぶ。
【0034】
図3及び図4は、本実施の形態における光学ユニット30により整形されたビーム形状を模式的に示す図である。具体的には、図1Aの構成で図3のような長軸方向のビーム形状に整形され、図1Bの構成で図4のような短軸方向のビーム形状に整形される。
【0035】
図3及び図4の横軸はビーム長さ、縦軸は照射パワー密度を表す。ビーム長さの定義としては、長軸方向では、最大値を100%とした場合の95%のパワー値でのビーム長さとし、短軸方向では、最大値を100%とした場合の50%のパワー値でのビーム長さとする。
【0036】
また、照射パワー密度(エネルギ密度)の算出は、照射位置でのパワーを短軸、長軸のビーム長さで割ったものであり、以下のように表される。
【0037】
照射パワー密度(W/cm2)=(照射面パワーW)/(短軸ビーム長さcm×長軸ビーム長さcm)
【0038】
光学ユニット30で整形された場合、長軸方向の照射パワー密度のバラツキは、約±3%程度にすることができる。
【0039】
一方、一般的なマルチモードのレーザ発振器10は、時間的にパワーが±1%ほどバラツキをもつ。しかし、図1A及び図1Bに示した光学系の構成では、例えば4つのマルチモードのレーザ発振器10が使用された場合、整形されたレーザ光でのパワー変動Wは統計学の中心極限定理から、以下の関係となる。
【0040】
W=±1%/√4=±0.5%
【0041】
使用されるレーザ発振器が多ければ多いほど重畳され、その分パワー変動は小さくなり、パワーのバラツキが空間的、時間的に変動の少ない状態で照射することができる。
【0042】
次に、図2に示すように、レーザ照射装置1は、レーザ光を照射し、レーザ照射領域に所定の溶融状態での結晶を形成する(図2のS108)。以下に、このレーザ照射装置1が所定の溶融状態での結晶を形成する処理について、詳述する。
【0043】
まず、波長532nmの連続波レーザを照射し、ガラス基板上に絶縁膜を介して約50nmの膜厚で形成したアモルファスシリコン膜に、整形ビームの短軸方向の寸法を約30μm、長軸方向のビーム長さを300μmとし、走査速度及び照射パワー密度を変化させて結晶化実験を行った結果について説明する。
【0044】
まず、走査速度を200mm/sで一定とし、照射パワー密度を50KW/cm2に変化させた時の照射状態を図5Aに示し、60KW/cm2に変化させた時の照射状態を図5Bに示し、80KW/cm2に変化させた時の照射状態を図5Cに示す。図5A、図5B、及び図5Cの照射では、整形ビームの長軸方向の寸法は約300μmであり、短軸方向にビームを紙面上から下に向かって照射した加工状態を示したものである。
【0045】
図5Aにおいては、照射パワー密度が小さいため、照射跡はビームエッジ部(端部)で薄れている。この状態は、結晶化された部分が非常に少なく、不完全照射となっている。
【0046】
図5Bにおいては、エッジ部が明確であり、巨視的観察からでは未照射部分はなくビーム全域に照射されている。この状態は、微視的に見ると、結晶は部分溶融(結晶、非結晶のアモルファスシリコン膜が混在している)状態である(図示せず)。
【0047】
図5Cにおいては、エッジ部が明確であり、ビーム跡中央部には成長した結晶粒による凸凹が見られる。この状態での結晶は、微視的に完全溶融し、アモルファスシリコン膜がポリシリコン膜に結晶化した状態となっている(図示せず)。このように、照射パワー密度の違いにより、結晶の溶融状態、さらには結晶化の状態が異なったものになる。
【0048】
図6は、図5A〜図5Cに示した状態をさらに明確にするために、照射パワー密度及び走査速度を変化させ、測定点を増やした場合の測定結果を示す図である。照射パワー密度及び走査速度は、制御手段(図示せず)によってレーザ発振器10等を制御することで、変化させている。
【0049】
図6では、黒丸印が不完全照射状態を表しており、三角印が部分溶融状態を表しており、白丸印が完全溶融状態を表している。また、夫々2本の2点鎖線、点線、実線で囲まれた範囲がそれらの状態を満足する走査速度及び照射パワー密度を示した範囲になる。
【0050】
図6において、例えば、点線で囲まれた領域が、部分溶融結晶が実現できた範囲である。点線領域より下の条件(走査速度を遅くする)では、レーザ光が照射された完全溶融状態であり、点線領域より上の条件では不完全照射となる。
【0051】
また、図6において、白丸、実線で囲まれた領域が、完全溶融結晶が実現できる範囲である。この領域より左側(照射パワー密度が小さい)条件では、レーザ光が照射されるシリコン膜が非晶質の場合、多結晶化はするが、結晶粒の小さいアモルファスシリコン膜が残った状態、いわゆる微結晶状態(部分溶融状態)である。さらに照射パワー密度が小さい条件では、シリコン膜は溶融せず、非晶質のままである。発明者が実験を行った範囲では、各結晶化状態または溶融状態が行える照射パワー密度は、走査速度の増加と共に増加している。
【0052】
しかし、図6のような表記方法では、不完全照射、部分溶融、完全溶融の何れの状態でも走査速度が増加するに従い、必要とする照射パワー密度は増加し、夫々の状態に結晶化が行える照射パワー密度範囲が広くなっているかどうかは判別しにくい。また、走査速度、照射パワー密度を安定照射条件内で設定しても、その組み合わせにより結晶の溶融状態、結晶粒径の大きさ、粒径バラツキなどが同じ状態になっているかも判別しにくい。
【0053】
そこで、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係を、走査速度ごとに図7に示す。図7において、縦軸はK値、横軸は照射パワー密度である。また、走査速度Vと、照射パワー密度Pと、K値との関係は、K=P/√Vとした。
【0054】
図7は、K値と照射パワー密度との関係を示す図であり、不完全照射、部分溶融、完全溶融の状態をK値により判別できることを説明する図である。
【0055】
すなわち、K<=4の場合、照射後の結晶は、不完全照射のためアモルファスシリコンのままである。レーザ照射による結晶化はできていないが、例えばアモルファスシリコン膜に含まれる水素を取り除くために、レーザによる結晶化の前の熱処理として、この条件下でレーザ照射が行われる。その場合、脱水素熱処理をしない状態でレーザ照射によりK値を4以上の照射パワー密度で照射すると、急激な結晶化によりシリコン膜が突沸したようになる場合があり、この現象を防ぐためにも、K値で照射条件を管理することが必要である。
【0056】
また、4<K<5の場合、部分溶融状態となり、結晶化はするが、結晶粒の小さいポリシリコンと非晶質のアモルファスシリコンとが混在した状態である(微結晶状態)。薄膜トランジスタに形成したときの電子の移動度は小さいものの、結晶粒径のバラツキが小さいため移動度のバラツキが小さく、表示装置にした時には色むらの少ない性能となる。そのため、性能として大きな移動度を必要としない場合、すなわち高速にスイッチングを行わなくても画素のONとOFFとの切り替えができる自発光式のEL表示装置が照射対象物である場合には、4<K<5の条件のレーザ照射が適している。
【0057】
また、K>=5の場合、完全溶融状態となり、アモルファスシリコン膜はポリシリコン膜となる。結晶粒径が大きく、そのため薄膜トランジスタに形成した場合の電子の移動度は大きく、高速にスイッチングできる。液晶の配向を変える速度が遅い液晶表示装置は、この状態を狙ったレーザ照射方法で、薄膜トランジスタを結晶粒径の大きく成長させた結晶により、電子の移動度を高める必要がある。これにより、高速に画素のON、OFFスイッチングを行い、切り替えを速くして、画質を鮮明に繰り出すことができる。そのため、K>=5の条件は、液晶表示装置が照射対象物である場合のレーザ照射に適している。
【0058】
このように、レーザ照射装置1は、細長い形状に整形されたレーザ光を、レーザ光の長軸方向と交差する短軸方向に走査しながら、移動ステージ上に装填された基板に縦横同一又は異なるピッチに配列されたトランジスタを構成するアモルファスシリコン膜に照射することで、ポリシリコン膜に結晶化する照射手段を備えている。なお、当該照射手段は、レーザ照射装置1が備えるレーザ発振器10、マルチモード光ファイバー20及び光学ユニット30が、それぞれの機能を発揮することによって実現される。
【0059】
そして、レーザ照射装置1は、当該照射手段を、アモルファスシリコン膜に対し、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとした場合に、K<=4、4<K<5、K<5のいずれかの条件を満たすように制御する制御手段を備えている。
【0060】
具体的には、当該制御手段は、照射対象物が有機EL表示装置である場合に、照射手段を4<K<5の条件を満たすことでアモルファスシリコン膜に部分溶融状態の結晶を形成するように制御する。また、制御手段は、照射対象物が液晶表示装置である場合に、照射手段をK>=5の条件を満たすことでアモルファスシリコン膜に完全溶融状態の結晶を形成するように制御する。また、制御手段は、照射手段をK<=4の条件を満たすことでアモルファスシリコン膜を結晶化させずに熱処理するように制御する。
【0061】
以上のように、K値は、必要とする表示装置の種類、必要な移動度または結晶粒径に基づいて設定され、それを満足する照射パワー密度を設定すれば、同じ結晶溶融状態を再現できる。液晶表示装置や有機EL表示装置の製造が混在するような製造装置にあっても、K値を変えることで夫々の表示装置の製造に対応できる。なお、一旦、照射パワー密度が設定されれば、走査速度はK値から一意的に決定される。
【0062】
また、図7から、走査速度が大きくなると、その傾き(照射パワー密度に対するK値の変化量)が小さくなっていることが判る。つまり、高速にレーザ光を照射することで、照射パワー密度のバラツキの影響が出にくい安定した照射条件で照射を行うことができる。
【0063】
このように、本実施の形態におけるレーザ照射装置及びレーザ照射方法によれば、細長い形状に整形されたレーザ光を、レーザ照射領域において目的とする溶融状態に応じて、3状態のいずれかの状態を満足する走査速度と照射パワー密度とを選択して短軸方向に走査しながらアモルファスシリコン膜に照射する。これにより、レーザ照射領域に所望の溶融状態での結晶を形成させることができる。
【0064】
このため、個々のレーザ光がラインビームに整形されるときの干渉ノイズの発生を抑え、ビームの均一性を向上させることができる。また、短焦点で焦点深度の小さい集光レンズを用いないため、焦点距離を一定にするオートフォーカス機構が不要な装置構成が可能である。そのため、大型ガラス基板への照射において、大型ガラス基板を装填した走査ステージの走行精度を維持しながら500〜1000mm/sの速度で移動する場合でも、走査ステージが大掛かりなものにはならない。また、走査速度及び照射パワー密度を安定照射条件内で設定し、その組み合わせをかえた場合でも結晶の溶融状態、結晶粒径の大きさ、及び粒径バラツキなどが再現でき、安定した表示装置性能を得ることができる。
【0065】
これらにより、容易に、結晶化の溶融状態、結晶粒径及び粒径バラツキを所望の状態にしたポリシリコン膜を形成することができる。
【0066】
また、走査速度及び照射パワー密度を変化させて、4<K<5を満たすようにレーザ光を照射することで、照射対象物が有機EL表示装置の場合に、部分溶融状態での結晶を形成させることができる。また、走査速度及び照射パワー密度を変化させて、K>=5を満たすようにレーザ光を照射することで、照射対象物が液晶表示装置の場合に、完全溶融状態での結晶を形成させることができる。このため、容易に、所望の溶融状態での結晶を形成させることができる。
【0067】
以上、本発明に係るレーザ照射装置及びレーザ照射方法について、上記実施の形態を用いて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0068】
例えば、本実施の形態では、レーザ光40の波長532nmの連続発振レーザ光を用いているが、波長300nm〜900nmのレーザ光を用いてもよい。
【0069】
また、本実施の形態では、レーザ光40の長軸方向長さを300μmとしているが、長軸方向の長さを限定するものはない。レーザ発振器のパワーが許す限り長くすることができ、逆に1画素に存在するトランジスタ部分のみを照射できる長さであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、結晶粒径のバラツキが少ないシリコン膜や、結晶粒径が大きいシリコン膜が安定に得られこととなり、表示装置の種類、性能に適した薄膜半導体基板を得ることができる。その結果、液晶表示装置あるいは有機EL表示装置に代表される表示装置の製造装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 レーザ照射装置
10 レーザ発振器
20 マルチモード光ファイバー
30 光学ユニット
31 シリンドリカルレンズ
32 シリンドリカルレンズ
33 フィールドレンズ
34 フィールドレンズ
35 絞り
36 縮小投影レンズ
37 コリメータレンズ
38 集光レンズ
40 レーザ光
51 可視光レーザ発振器
52 光ファイバー
53 レーザ光
54 光学ユニット
55 シリンドリカルレンズ
56 DOE

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーザ光を発振させるレーザ発振ステップと、
前記複数のレーザ光を重畳して整形するビーム整形ステップと、
整形された前記レーザ光を走査しながら照射対象物のアモルファスシリコン膜に照射することで、ポリシリコン膜に結晶化させる照射ステップとを含み、
前記照射ステップは、前記アモルファスシリコン膜に対し、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとした場合に、K>4の条件を満たす
レーザ照射方法。
【請求項2】
前記照射対象物が有機EL表示装置である場合に、前記照射ステップは、4<K<5の条件を満たす
請求項1に記載のレーザ照射方法。
【請求項3】
前記照射ステップは、4<K<5の条件を満たすことで前記アモルファスシリコン膜に部分溶融状態の結晶を形成する
請求項2に記載のレーザ照射方法。
【請求項4】
前記照射対象物が液晶表示装置である場合に、前記照射ステップは、K>=5の条件を満たす
請求項1に記載のレーザ照射方法。
【請求項5】
前記照射ステップは、K>=5の条件を満たすことで前記アモルファスシリコン膜に完全溶融状態の結晶を形成する
請求項4に記載のレーザ照射方法。
【請求項6】
複数のレーザ光を発振させるレーザ発振ステップと、
前記複数のレーザ光を重畳して整形するビーム整形ステップと、
整形された前記レーザ光を走査しながら照射対象物のアモルファスシリコン膜に照射する照射ステップとを含み、
前記照射ステップは、前記アモルファスシリコン膜に対し、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとした場合に、K<=4の条件を満たす
レーザ照射方法。
【請求項7】
前記照射ステップは、K<=4の条件を満たすことで前記アモルファスシリコン膜を結晶化させずに熱処理する
請求項6に記載のレーザ照射方法。
【請求項8】
前記照射ステップでは、前記レーザ光の短軸方向の長さを30μm以上として前記アモルファスシリコン膜に照射する
請求項1〜7のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項9】
複数のレーザ光を発振させるレーザ発振器と、
前記複数のレーザ光を重畳して整形するビーム整形器と、
整形された前記レーザ光を走査しながら照射対象物のアモルファスシリコン膜に照射することで、ポリシリコン膜に結晶化させる照射手段と、
前記照射手段を、前記アモルファスシリコン膜に対し、走査速度V(mm/s)と照射パワー密度P(KW/cm2)との関係をK=P/√Vとした場合に、K>4の条件を満たすように制御する制御手段と、を備えた
レーザ照射装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記照射対象物が有機EL表示装置である場合に、前記照射手段を4<K<5の条件を満たすように制御する
請求項9に記載のレーザ照射装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記照射対象物が液晶表示装置である場合に、前記照射手段をK>=5の条件を満たすように制御する
請求項9に記載のレーザ照射装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2012−182394(P2012−182394A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45695(P2011−45695)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】