説明

乗用型作業車の停止制御方法、乗用型作業車の安全装置及びそれを備えた乗用型作業車

【課題】草刈機などの乗用型作業車を使用した各種作業において、搭乗者に障害物が所要の距離まで接近した場合に、障害物が搭乗者に接触したり衝突するのを未然に回避または防止する。また、搭乗者に障害物が衝突するなどして、搭乗者が搭乗状態で異常な動きをした場合に、搭乗者が受けるダメージを最小限に止める。
【解決手段】乗用型草刈機は、安全装置(S)を備えている。安全装置(S)は、座席(1)に座っている搭乗者に対して障害物が所要の距離まで接近したときに障害物を検出するセンサ部材と、搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出するセンサ部材(2)と、各センサ部材が障害物を検出したときに走行駆動系を中立にするか、または後退動させる停止制御手段(ガススプリング(3),制御部材(43),操作レバー(5),アーム部材(40),制御ロッド(45))を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型作業車の停止制御方法、乗用型作業車の安全装置及びそれを備えた乗用型作業車に関するものである。更に詳しくは、草刈機などの乗用型作業車を使用した作業において、搭乗者に対し障害物が接触したり衝突するのを未然に回避または防止できるものに関する。また、例えば搭乗者が障害物に衝突するなどして座席と障害物の間に挟まれたような場合でも、直ちに作業車の前進走行を止めるか、または後退させて脱出を容易にし、搭乗者が受けるダメージを最小限に止めるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばゴルフ場や果樹園などの比較的広い草地を有するところでは、作業者が搭乗するタイプの草刈機やスイーパーなどの作業車が主に使用されている。このような場所では、障害物がなく平坦で見晴らしの良いところばかりでなく、枝が張り出した樹木の間を走行しながら作業をしなければならないことも多い。また、作業車には、樹木などを傷めないため、あるいは作業車が枝などを避けながらできるだけ樹木に近づくためにキャビンが設けられていないものが多い。このため、走行作業中に運転操作を過って搭乗者が樹木の枝に接触したり衝突する事故も多く、一部のケースでは搭乗者が枝と座席の背もたれとの間に挟まって脱出できず、大怪我をするという重大な事故も報告されている。
【0003】
乗用型作業車において、万一の事故の際に搭乗者や周囲の安全を図るものとしては、例えば特許文献1に記載された搭乗式草刈機の安全装置がある。
この安全装置は、座席にかかる搭乗者の荷重負荷を検出する手段を有し、搭乗者が作業時にバランスを崩すなどして草刈機から転落したり降りた場合に、その荷重負荷の変化を検出して、草刈機の原動機を停止させるようにしたものである。
【0004】
【特許文献1】特開2002−127949
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の搭乗式草刈機においては、例えば草刈り作業において、搭乗者に木の枝などの障害物が衝突したような場合、搭乗者がその衝撃で草刈機から転落したり降りたりすれば草刈機は停止し、周囲の人や物に対して被害や損害を与えることを防止することができる。
しかしながら、従来のものは、搭乗者に障害物が衝突することを防止することはできない。また、例えば搭乗者が座席に座ったままで障害物と座席の背もたれとの間に挟まってしまった場合は、座席にかかる荷重負荷に変化が生じないので、草刈機の車輪に伝わる動力が直ちに解除されることはなく、しかも挟まれた搭乗者はその動力で背もたれに押し付けられたまま脱出ができず、このため大きなダメージを負ってしまう可能性が高い。
【0006】
(本発明の目的)
本発明の目的は、草刈機などの乗用型作業車を使用した各種作業において、搭乗者に障害物が所要の距離まで接近した場合に、直ちに作業車の車輪に伝わる動力を解除して前進走行を停止させ、障害物が搭乗者に接触したり衝突するのを未然に回避または防止できる乗用型作業車の停止制御方法、乗用型作業車の安全装置及びそれを備えた乗用型作業車を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、草刈機などの乗用型作業車を使用した各種作業において、搭乗者に障害物が衝突するなどして、搭乗者が搭乗状態で異常な動きをした場合に、直ちに作業車の車輪に伝わる動力を解除して前進走行を停止させ、搭乗者が受けるダメージを最小限に止めることができる乗用型作業車の停止制御方法、乗用型作業車の安全装置及びそれを備えた乗用型作業車を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、上記作業において、万一、搭乗者が障害物に衝突するなどして座席と障害物の間に挟まれたような場合、直ちに作業車の前進走行を止めて搭乗者が容易に脱出できるか、または搭乗者を容易に救出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、作業車で作業中に、座席に座っている搭乗者に対して障害物が所要の距離まで接近したときに、障害物を検出することによって走行駆動系を中立とするか、または後退動させる、乗用型作業車の停止制御方法である。
【0010】
本発明は、座席に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出することによって走行駆動系を中立とするか、または後退動させる、乗用型作業車の停止制御方法である。
【0011】
本発明は、座席に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きに起因する上記座席の一部または全部の動きを検出することによって走行駆動系を中立とするか、または後退動させる、
乗用型作業車の停止制御方法である。
【0012】
本発明に係る乗用型作業車の停止制御方法は、足踏みによる走行駆動系の走行操作を無効とするのがより好ましい。
【0013】
本発明は、座席に座っている搭乗者に対して障害物が所要の距離まで接近したときに障害物を検出する検出手段と、該検出手段が障害物を検出したときに走行駆動系を中立にするか、または後退動させる停止制御手段とを備えている、乗用型作業車の安全装置である。
【0014】
本発明は、座席に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出する検出手段と、該検出手段が上記搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出したときに走行駆動系を中立にするか、または後退動させる停止制御手段とを備えている、乗用型作業車の安全装置である。
【0015】
本発明は、座席に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きに伴って一部または全部が所定の可動範囲で動く座席と、該座席の動きを検出する検出手段と、該検出手段が上記座席の動きを検出したときに走行駆動系を中立にするか、または後退動させる停止制御手段とを備えている、乗用型作業車の安全装置である。
【0016】
本発明は、停止制御手段は、走行駆動系を操作する操作手段と、該操作手段を動かす手段を有しており、検出手段が上記座席の動きを検出したときに、上記操作手段が動かされて中立または後退位置に停止するよう構成されているのが好ましい。
【0017】
本発明に係る乗用型作業車の安全装置は、足踏みによる走行駆動系の走行操作を無効にする手段を備えているのが好ましい。
【0018】
本発明は、本発明に係る安全装置を備えている、乗用型作業車である。
【0019】
乗用型作業車としては、草刈機、芝刈機、スイーパー、管理機、トラクター、田植機など、走行型の各種作業機械や農業機械があげられるが、これらに限定するものではない。
【0020】
搭乗者の搭乗状態での異常な動きとは、座席に座っている通常の運転状態ではない動きであって、特に限定はしないが、例えば搭乗者が障害物に当たって後方や側方あるいは前方に押されたり倒れたり飛ばされるような動きである。
【0021】
一部または全部が所定の可動範囲で動く座席の構造としては、例えば座席全部が一体となって前後にスライドしたり後方へ倒れるなどして動くものと、座部は固定で背もたれのみが角度が変わるなどして動くもの、あるいはそれらを複合したものなどであるが、これらに限定するものではない。なお、座席の可動する部分自体を検出手段とすることもできる。
【0022】
(作用)
本発明に係る安全装置及びそれを備えた乗用型作業車の作用を説明する。なお、ここでは、説明で使用する各構成要件のそれぞれに、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、特許請求の範囲の各請求項に記載した符号と同様に、あくまで説明の理解を容易にするためであって、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。
【0023】
座席に座っている搭乗者に対して障害物が所要の距離まで接近したときに、障害物を検出するものでは、草刈機などの乗用型作業車(A)で走行作業中に、搭乗者に対して、張り出した木の枝などの障害物が所要の距離まで接近した場合、障害物がセンサなどの検出手段(2)に接触するなどして、検出手段(2)がそれを検出すると、油圧モータなどの走行駆動系に対して停止制御手段(3,43,4,40,45)(またはこれを構成する操作手段(5,40,45)と、操作手段を動かす手段(3,30,43))が機械的(または電気的)な制御や操作を行い、走行駆動系を中立(または停止状態)とするか、油圧モータの動力を利用し後退動させる。これにより、障害物が搭乗者に対して接触したり衝突することを未然に回避または防止できる。
【0024】
また、座席に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出するものでは、草刈機などの乗用型作業車(A)で走行作業中に、例えば座席(1)に座っている搭乗者が、張り出した木の枝などの障害物に接触または衝突した場合、その際の衝撃を受けたことに伴う搭乗者の受動的な動き、あるいは障害物を察知した搭乗者が座席(1)の背もたれ(10)側へ瞬間的にのけぞる動作のように障害物から逃げようとする(または障害物を除けようとする)能動的な動きによって、センサなどの検出手段(2)が、上記搭乗者の搭乗状態での異常な動き(転落は含まない)を検出する。
また、所定の可動範囲で動く座席を有するものでは、例えば上記搭乗者の動きによって座席全部や一部(座席の背もたれなど)が動く。座席が動く方向は、限定はしないが、通常は作業車(A)の進行方向とは逆方向である。
【0025】
検出手段(2)が搭乗者の搭乗状態での異常な動きや座席(1)の動きを検出すると、油圧モータなどの走行駆動系に対して停止制御手段(3,43,4,40,45)(またはこれを構成する操作手段(5,40,45)と、操作手段を動かす手段(3,30,43))が機械的(または電気的)な制御や操作を行い、走行駆動系を中立状態(または停止状態)とするか、油圧モータの動力を利用し後退動させる。なお、後退動させる場合は、作業車(A)が必要以上に後退して搭乗者や周囲に危険が及ぶことを防止するために所要の距離後退後に制動をかけたり中立にして作業車(A)を停止させるようにしてもよい。
【0026】
走行駆動系が中立になる場合は、停止後の作業車(A)は簡単に動かすことができる。仮に搭乗者が障害物と座席(1)の背もたれ(10)に挟まれている場合、その状況からでも搭乗者が比較的容易に脱出することが可能であり、また周囲の人が搭乗者を容易に救出することができ、搭乗者が受けるダメージを最小限に止めることができる。
【0027】
また、停止制御手段(3,43,4,40,45)が走行駆動系を後退動させる場合は、上記のように搭乗者が障害物と座席(1)の背もたれ(1)に一旦は挟まれても、その状況から作業車(A)が後退して搭乗者を挟む力が解除されるか緩むため、搭乗者がさらに容易に脱出することが可能であり、多くの場合で周囲の人の助けも必要ない。
【0028】
さらに、足踏みによる走行駆動系の走行操作を無効にする手段(7)を備えたものは、例えば事故に遭った搭乗者が足踏み式の操作ペダル(6)を操作したまま硬直状態になった場合でも、確実に走行駆動系を中立にするか、または後退動させることができる。
【発明の効果】
【0029】
(a)座席に座っている搭乗者に対して障害物が所要の距離まで接近したときに、障害物を検出するものでは、草刈機などの乗用型作業車で走行作業中に、搭乗者に対して、張り出した木の枝などの障害物が所要の距離まで接近した場合、障害物がセンサなどの検出手段に接触するなどして、検出手段がそれを検出すると、油圧モータなどの走行駆動系に対して停止制御手段が機械的または電気的な制御や操作を行い、走行駆動系を中立とするか、油圧モータの動力を利用し後退動させる。これにより、障害物が搭乗者に対して接触したり衝突することを未然に回避または防止できる。
【0030】
(b)本発明によれば、草刈機などの乗用型作業車を使用した各種作業において、搭乗者に障害物が衝突するなどして、検出手段が搭乗者の搭乗状態での異常な動きやそれに伴う座席の動きを検出すると、走行駆動系を中立状態とするか、後退動させることにより、直ちに作業車の車輪に伝わる前進方向の動力を解除し、前進走行を止めることができる。これにより、上記事故の際の搭乗者が受けるダメージを最小限に止めることができる。
また、上記事故によって、万一、搭乗者が障害物と座席の背もたれとの間に挟まってしまった場合でも、走行駆動系が後退動することによって搭乗者を挟む力を解除するか緩めることができるので、搭乗者が上記状況から脱出しやすくなり、仮に脱出できない場合でも、周囲の人が搭乗者を救出する際の作業が容易にできる。
【0031】
(c)足踏みによる走行駆動系の走行操作を無効にする手段を備えたものは、例えば事故に遭った搭乗者が足踏み式の操作ペダルを操作したまま硬直状態になった場合でも、確実に走行駆動系を中立にするか、または後退動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明を図に示した実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0033】
図1は本発明に係る乗用型草刈機の一実施の形態を示す斜視図、
図2は本発明に係る安全装置の構成を示す斜視説明図、
図3は安全装置の要部拡大斜視図、
図4は安全装置の各部の動作を示す説明図で、(a)は動作前(前進走行中)の側面視説明図、(b)は動作後の側面視説明図である。
【0034】
乗用型作業車である乗用型草刈機Aは、後輪90を駆動輪とし、前輪91を操舵輪とする四輪走行車であり、後部に搭載されているエンジンEで油圧ポンプ(図示省略)を回し、その作動油で駆動される油圧モータ(図示省略)の動力で前進・後退をする構造である。また、前進及び後退の操作は、互いに連動する構造の後述する操作レバー5または操作ペダル6によって行う。
【0035】
操作レバー5が中立位置(N)では油圧モータが停止し、前進位置(F)では油圧モータが正回転し、後進位置(R)では油圧モータが逆回転するようになっている。また、前進位置と後進位置では、操作レバー5(または操作ペダル6)の移動量によって油圧モータの回転数すなわち作業車の速度が調節できる(図4参照)。車体の中央底部には、水平回転するカッターを有する刈取部8を有している。そして、車体の中央部には安全装置Sを備えている。
【0036】
安全装置Sは、座席1、検出手段であるセンサ部材2、2a、停止制御手段を構成するガススプリング3、油圧モータを操作する操作レバー5と操作ペダル6及び操作ペダル6を足踏みにより操作したときにそれによる走行操作を無効にする手段を構成するガススプリング7を備えている。次に、安全装置Sの上記各部について詳細に説明する。
【0037】
車体の上部に固定されている座席1の背もたれ10の背面側には、センサ部材2を取り付けるための取付台具20が設けられている。取付台具20の上部には、門型(下方が開いている縦コ字状)に形成されたセンサ部材2が両下端部を軸支して上部側が前後方向(図4で左右方向)へ所要の角度範囲で回動できるように取り付けられている。センサ部材2は、常態(外力が作用しない状態)においては、付勢手段で前方回動方向へ付勢され、図4(a)に示される位置で停止している。
【0038】
また、車体の座席1に座った搭乗者から見て左側先部には、センサ部材2aが設けられている。センサ部材2aは棒状体であり、下側の基部が前後方向に回動可能に取り付けられている。センサ部材2aは、常態においては付勢手段で垂直に立つように付勢されている。センサ部材2、2aは上記のように付勢手段で付勢されているが、付勢しない構造とすることもできる。
【0039】
なお、センサ部材2または2aが作動すると、蓄力されているガススプリング3のロッド30のロックを解除する。これについては、後で説明する。
また、本実施の形態では座席1は固定されているが、例えば背もたれ10が単独でまたは座部(符号省略)と一体となって前後に回動する構造として、背もたれ10が所定量後方へ動いたときに、センサ部材2がその動きを検出する構造とすることもできる。要は、搭乗者の搭乗状態での普通ではない異常な動きを検出できればよい。
【0040】
座席1の右下側(図4において手前下側)には、油圧モータと共に走行駆動系を構成する操作部Cが設けられている。操作部Cは、前方へやや下り傾斜した操作盤50を備えている。操作盤50には、操作レバー5のガイド溝51内の位置を表す表示パネル52(図4(a)、(b)の右上側に説明図として表している)が設けられている。なお、詳細な説明は省略するが、操作レバー5の位置は、操作レバー5の回動力を制動するブレーキドラム41の摩擦力によって、実質的に任意の位置に固定できるようになっている。
【0041】
操作盤50の下側にはブレーキドラム41が設けられ、ブレーキドラム41の回転中心にはレバー軸4が設けられている。レバー軸4には、レバー軸4を軸受管49に通してブレーキドラム41の直径方向にアーム部材40が固着されており、アーム部材40の上部には操作レバー5が固着されている。アーム部材40の下端部には、前後方向にほぼ水平に配されたガススプリング7のロッド70の先端具がピン71によって縦方向に回動可能に取り付けられている。
【0042】
アーム部材40のうちレバー軸4とロッド70の先端具の取り付け部との間には、後述する制御部材43と当接可能な停止ピン48が表面側へ突出して設けられている。
ガススプリング7のロッド70は、常態においては伸張した状態(図4(a)に示す状態)となっており、後述するガススプリング3の作動によるアーム部材40の回動によって押されて縮小する。
なお、ガススプリング3、7のロッド30、70の動きの表現で「伸縮」の用語を使用するが、これはガススプリングの全体をみたときに伸縮するという意味であり、ロッド自体が伸縮するという意味ではない(ロッド自体は進退動する)ことはいうまでもない。
【0043】
ガススプリング7のシリンダー72の基端具には、操作ペダル6の動きをガススプリング7に伝えるためのロッド61の一端部がピン73によって縦回動方向へは動かないように取り付けられている。なお、操作ペダル6は、ピン62を介してフレーム(符号省略)に前後方向へ回動可能に取り付けられている。上記ロッド61は、操作ペダル6と一体となって縦方向に回動するアーム60を介して進退するようになっており、ガススプリング7もロッド61と共に進退する(主に図2参照)。
【0044】
上記アーム部材40の上端部寄り(操作レバー5取付部近傍)には、軸42によって制御部材43の上端部が縦方向へ回動可能に取り付けられている。制御部材43の下端部には、前方側へやや下り傾斜して配されたガススプリング3のシリンダー32の基端具がピン33によって縦方向に回動可能に取り付けられている。なお、軸42は固定側であるフレームに設けてもよい。
また、軸42には、制御部材43の上端部と共に、油圧モータ(図示省略)の作動油の流路や流量を制御する制御ロッド45の一端が縦方向に回動可能に取り付けられている(図2参照)。
【0045】
制御部材43のうちガススプリング3が取り付けられている下側は、アーム部材40の動きに干渉しないようにしてある。
また、符号46はブレーキをかけたときに操作レバー5が中立になるように操作する制御部材である。制御部材46の上端部は軸47により縦方向に回動可能に取り付けられ、下端部は他端側がブレーキペダルにつながっているロッド(何れも図示省略)の一端側がつながれている。この構造により、ブレーキペダルが操作されロッドが引かれると、制御部材46は軸47を中心として反時計回りに回動する。そして、制御部材46の下端縁で停止ピン48が押され、操作レバー5が動いて中立位置(N)に移動する。
【0046】
また、ガススプリング3のロッド30の先端具は、ピン34によってフレームに縦方向へ回動可能に取り付けられている。ガススプリング3には、常態においてはロッド30が縮んだ状態でロックがかかっており、ロッド30が伸張する方向の力が蓄力されている(図4(a)参照)。ロッド30の蓄力が開放されたときの反発力は、ガススプリング7のロッド70の反発力より勝っている。
また、ガススプリング3と上記センサ部材2、2aとの間には、それぞれ操作ワイヤを保護チューブに通したワイヤ入チューブ(何れも図示省略)が設けられており、これによりセンサ部材2とセンサ部材2aの動きがガススプリング3のロック機構部に伝わるようになっている。
【0047】
なお、本実施の形態に係る乗用型草刈機Aでは、検出手段としてセンサ部材2とセンサ部材2aの両方を設けたが、何れか一方のみを設けたタイプとすることもできる。
【0048】
(作用)
図1ないし図4を参照して、本実施の形態に係る乗用型草刈機Aの作用を説明する。
乗用型草刈機Aは、上記したように操作レバー5または操作レバー5と連動する操作ペダル6を操作することにより、油圧モータの作動油の流路や流量を制御し、作業車の進行方向や速度を調節することができる。
【0049】
例えば図4(a)に示すように操作レバー5を前進位置(F)に入れた状態では、乗用型草刈機Aは前進走行をする。なお、ガススプリング3はロッド30に上記したようにロックがかかっているが、操作レバー5または操作ペダル6の操作は、後述する所定の可動範囲で自由に行うことができる。すなわち、操作レバー5または操作ペダル6の操作によってアーム部材40はレバー軸4を中心として回動する。
【0050】
アーム部材40を、図4(a)に示す状態から右回り方向へ回動させようとしたときには、停止ピン48がすぐに制御部材43に当たり(このときが前進走行の最高速度となる)、アーム部材40は回動できない。また、アーム部材40を左回り方向へ回動させたときには、軸42は左回り方向へ下がるように動き、ガススプリング3もシリンダー32の基部側が下がる方向へ動くので、制御部材43はアーム部材40の動きには干渉しない。したがって、操作レバー5または操作ペダル6の操作により、操作レバー5は図4(a)に示す前進位置(F)から、中立位置(N)さらに図4(b)に示す後進位置(R)へ動くことができ、油圧モータをそれに対応して操作できる。
【0051】
そして、乗用型草刈機Aの上記前進走行中に、例えば張り出した木の枝などの障害物が車体の前部に設けられているセンサ部材2aに接触しないで、違う方向から座席1に座っている搭乗者に接触または衝突した場合(障害物がセンサ部材2aに接触した場合については、後述する)、その際の衝撃を受けたことに伴う搭乗者の後方への動き(搭乗状態での普通ではない異常な動き)によってセンサ部材2が矢印f方向(図4(b)に図示)へ動き、ワイヤが引かれてガススプリング3のシリンダー32のロックが解除され、伸張方向の蓄力が開放される。これによって、制御部材43が軸42を中心として左回り方向(反時計回り)へ回動し、ガススプリング3のストロークエンドまでアーム部材40を左回り方向へ回転させる。
【0052】
また、操作レバー5も同じ方向へ回動し、図4(b)に示すように、後進位置(R)にやや入った位置で停止する。なお、操作レバー5の停止位置は、本実施の形態のように微速となる後進位置(R)でなく、中立位置(N)にすることもできるし、後進の速度をやや速くする位置に設定することもできる。この調整をする場合は、位置調整機構などを介しガススプリング3のシリンダー32の取付位置(ピン34の位置)を図4において左右方向に調節すればよい。すなわち、例えば本実施の形態の位置から図4においてやや左方向へ移動させると、アーム部材40の反時計回りの回転角が小さくなるので、操作レバー5の停止位置を図4(b)の位置よりやや右回り方向へずらして中立位置(N)に設定することができる。
【0053】
また、ガススプリング3のロッド30の反発力(バネ力)がロッド70の反発力より勝っているため、上記したように上記ガススプリング3の作動と同時にアーム部材40が図4において反時計回りに回ってロッド70はやや縮小する。これにより、操作ペダル6の動きがロッド61を介してガススプリング7のシリンダー72側に伝わっても、ロッド70の反発力ではロッド30で押されているアーム部材40を回動させることはできず、ロッド70の縮小により力が吸収されるので操作レバー5を動かすことはできない。
【0054】
操作レバー5が上記位置(図4(b)に示す位置)で停止すると、制御ロッド45を介して油圧モータが操作されて、乗用型草刈機Aの走行方向が前進走行から微速後進に切り替わる。
これにより、例えば上記事故によって搭乗者が障害物と座席1の背もたれ10に挟まれたとしても、その状況から乗用型草刈機Aが後退して搭乗者を挟む力が解除されるか緩むため、搭乗者は容易に脱出することができる。また、周囲の人が搭乗者を容易に救出することができ、搭乗者が受けるダメージを最小限に止めることができる。なお、乗用型草刈機Aは、後退動後直ちに、あるいは所要時間経過後にエンジンEが停止する仕様とすることもできる。
【0055】
さらに、上記したように操作ペダル6による操作が無効になっているので、例えば事故に遭った搭乗者が足踏み式の操作ペダル6を操作したまま硬直状態になった場合(通常であれば、前進高速方向)でも、確実に走行駆動系を中立にするか、または後退動させることができる。
【0056】
また、搭乗者に対して、張り出した木の枝などの障害物が所要の距離まで接近し、障害物がセンサ部材2aに接触すると、センサ部材2aが倒れてワイヤが引かれ、各部は上記と同様に作用する。センサ部材2aが搭乗者に対する障害物の接近を検出した場合では、障害物が搭乗者に接触したり衝突する前に乗用型草刈機Aは停止または停止後に後退動するので、搭乗者に危険が及びにくく、搭乗者がダメージを受けることを未然に回避または防止することができる。
【0057】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまで説明上のものであって限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示されている実施の形態に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る乗用型草刈機の一実施の形態を示す斜視図。
【図2】本発明に係る安全装置の構成を示す斜視説明図。
【図3】安全装置の要部拡大斜視図。
【図4】安全装置の各部の動作を示す説明図で、(a)は動作前(前進走行中)の側面視説明図、(b)は動作後の側面視説明図。
【符号の説明】
【0059】
A 乗用型草刈機
S 安全装置
1 座席
10 背もたれ
2 センサ部材
2a センサ部材
20 取付台具
C 操作部
3 ガススプリング
30 ロッド
32 シリンダー
33 ピン
34 ピン
4 レバー軸
40 アーム部材
41 ブレーキドラム
42 軸
43 制御部材
45 制御ロッド
46 制御部材
47 軸
48 停止ピン
49 軸受管
5 操作レバー
50 操作盤
51 ガイド溝
52 表示パネル
6 操作ペダル
60 アーム
61 ロッド
62 ピン
7 ガススプリング
70 ロッド
71 ピン
72 シリンダー
73 ピン
8 刈取部
90 後輪
91 前輪
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車で作業中に、座席(1)に座っている搭乗者に対して障害物が所要の距離まで接近したときに、障害物を検出することによって走行駆動系を中立とするか、または後退動させる、
乗用型作業車の停止制御方法。
【請求項2】
作業車で作業中に、座席(1)に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出することによって走行駆動系を中立とするか、または後退動させる、
乗用型作業車の停止制御方法。
【請求項3】
作業車で作業中に、座席(1)に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きに起因する上記座席(1)の一部または全部の動きを検出することによって走行駆動系を中立とするか、または後退動させる、
乗用型作業車の停止制御方法。
【請求項4】
足踏みによる走行駆動系の走行操作を無効とする、
請求項1、2または3記載の乗用型作業車の停止制御方法。
【請求項5】
座席(1)に座っている搭乗者に対して障害物が所要の距離まで接近したときに障害物を検出する検出手段(2a)と、
該検出手段(2a)が障害物を検出したときに走行駆動系を中立にするか、または後退動させる停止制御手段(3,43,5,40,45)と、
を備えている、
乗用型作業車の安全装置。
【請求項6】
座席(1)に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出する検出手段(2)と、
該検出手段(2)が上記搭乗者の搭乗状態での異常な動きを検出したときに走行駆動系を中立にするか、または後退動させる停止制御手段(3,43,5,40,45)と、
を備えている、
乗用型作業車の安全装置。
【請求項7】
座席(1)に座っている搭乗者の搭乗状態での異常な動きに伴って一部または全部が所定の可動範囲で動く座席(1)と、
該座席(1)の動きを検出する検出手段と、
該検出手段が上記座席(1)の動きを検出したときに走行駆動系を中立にするか、または後退動させる停止制御手段(3,43,5,40,45)と、
を備えている、
乗用型作業車の安全装置。
【請求項8】
停止制御手段は、走行駆動系を操作する操作手段(5,40,45)と、該操作手段(5,40,45)を動かす手段(3,30,43)を有しており、検出手段(2)が上記座席(1)の動きを検出したときに、上記操作手段(5,40,45)が動かされて中立または後退位置に停止するよう構成されている、
請求項5、6または7記載の乗用型作業車の安全装置。
【請求項9】
足踏みによる走行駆動系の走行操作を無効にする手段(7)を備えている、
請求項5、6、7または8記載の乗用型作業車の安全装置。
【請求項10】
請求項5、6、7、8または9の何れかに記載の安全装置(S)を備えている、
乗用型作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−278330(P2007−278330A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102522(P2006−102522)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(393000984)株式会社オーレック (19)
【Fターム(参考)】