説明

低電力磁気ランダムアクセスメモリセル

【課題】 低電力磁気ランダムアクセスメモリセルを提供する。
【解決手段】 本発明は、熱アシスト書き込み操作又はスピントルクトランスファー(STT)に基づいた書き込み操作を実施するのに適した磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルに関する。このMRAMは、磁気トンネル接合を備える。磁気トンネル接合が、上部電極と、第1磁化方向を有する第1強磁性層と第1磁化方向に対して調節可能な第2磁化方向を有する第2強磁性層との間に形成されたトンネル障壁層と、前端層と、第2強磁性層が上に堆積された磁性層又は金属層とから構成される。第2強磁性層が、前端層とトンネル障壁層との間に形成されていて、約0.5nm〜約2nmの厚さを有する。その結果、当該磁気トンネル接合は、約100%より大きい磁気抵抗を有する。本明細書で開示するMRAMセルは、従来のMRAMセルに比べて電力消費が低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱アシスト書き込み操作又はスピントルクトランスファー(STT)に基づいた書き込み操作を実施するのに適しており、高い磁気抵抗を有する一方で、小さい磁場又はスピン分極書き込み電流で書き込みを実施できる磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気トンネル接合(MTJ)に基づいた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルは、周囲温度で強い磁気抵抗を有する磁気トンネル接合の発見により、改めて注目を浴びている。実際、これらのMRAMセルには、速度(書き込み及び読み出し操作の時間を数ナノ秒にすることができる)、不揮発性、及び電離放射線に対する感受性など多くの利点がある。したがって、例えばDRAM、SRAM、及びFLASHなど、コンデンサの帯電状態に基づいたより従来型の技術を使用するメモリの代わりに徐々に用いられるようになってきている。
【0003】
MRAMセルは、それらの最も単純な実装形態では、薄い絶縁層によって離隔された2つの強磁性層を備える磁気トンネル接合から製造することができる。2つの強磁性層の一方は、典型的にはいわゆる基準層であり、固定磁化を有することを特徴とする。他方の強磁性層は、典型的にはいわゆる記憶層であり、MRAMセルの書き込み操作中に変えることができる磁化方向を特徴とする。
【0004】
MRAMセルの書き込み操作中、記憶層の磁化方向は、基準層の磁化方向に対して平行又は反平行になるように整列させることができ、それによりMRAMセルのトンネル接合抵抗を変える。記憶層の磁化方向が基準層の磁化方向と平行に向けられるとき、トンネル接合抵抗は小さく、一方、記憶層の磁化方向が基準層の磁化方向と反平行に向けられる場合、トンネル接合抵抗は大きい。
【0005】
特許文献1に、磁気トンネル接合が一端で第1電流線に電気的に接続され、第2電流線が第1電流線に直交して配設されたMRAMセルが開示されている。MRAMセルの書き込み操作は、第1磁場を発生する第1磁場電流を第1電流線に通電するステップと、第2磁場を発生する第2磁場電流を第2電流線に通電するステップとを含む。第1及び第2磁場は、記憶層の磁化方向を切り換えるようなものである。複数のMRAMセルを備えるアレイでは、第1磁場と第2磁場を併用して、第1電流線と第2電流線の交点に位置するセルのみに書き込みが行われる。MRAMセルの他の書き込み操作法は、いわゆる磁場スイッチング、ストナー・ウォールファールス(Stoner−Wohlfarth)スイッチング、トグルスイッチング、及び歳差スイッチングを含む。
【0006】
基準層及び記憶層は、典型的には、Fe、Co、又はNiなどの3d金属又はこれらの合金から成る。アモルファス形態及び平坦な界面を得るために、層組成物にホウ素を添加することができる。絶縁層は、典型的には、アルミナ(Al)又は酸化マグネシウム(MgO)からなる。基準層は、特許文献2に記載されているものなど合成反強磁性層から製造することができる。
【0007】
通常、磁気トンネル接合は、典型的には1.5以上の高いアスペクト比を有する異方性形態を有して、MRAMセルの双安定機能、同じ線及び/又は列の上に位置された選択MRAMセルと半選択セルの間の良好な書き込み選択性、及びMRAMセル内に書き込まれた情報の良好な熱安定性及び/又は時間的安定性を実現する。
【0008】
特許文献3に、図1に示されるものなど熱アシストスイッチング(TAS)に基づいたMRAMセル、及びTASに基づいたMRAMセルへの書き込み操作が開示されている。TAS−MRAMセル1は磁気トンネル接合2を備え、磁気トンネル接合2は、上から下に、第2強磁性層又は記憶層23と、トンネル障壁層22と、第1強磁性層、すなわち基準層21とから製造される。反強磁性記憶層24が、記憶層23の上に堆積されて、低温しきい値では記憶層23の磁化をピン止めし、高温しきい値では自由にする。磁気トンネル接合2はさらに反強磁性基準層25を備え、反強磁性基準層25は、基準層21の下に堆積されて、基準層21の磁化をピン止めする。TAS−MRAMセル1はまた、基準層21の側で磁気トンネル接合2に接続された電流線4と、前端層とを備え、前端層は、酸化ケイ素や低誘電率誘電体材料など誘電体からなる層を1層又は複数層備え、場合によっては他の導電層、又はトランジスタなど他の半導体素子も備える。図1では、記憶層23の側で磁気トンネル接合2に接続されたCMOS選択トランジスタ3によって前端層が表されている。
【0009】
また、特許文献3には、選択トランジスタが飽和モードにあるときに磁気トンネル接合2を通してスピン分極書き込み電流31を通電するステップを含むTASスピントルクトランスファー(STT)書き込み操作が開示されている。スピン分極書き込み電流31は、記憶層23で局所スピントルクを誘起し、記憶層23の磁化を切り換える。TAS−STT書き込み操作はさらに、磁気トンネル接合2を加熱し、それと同時に(又は短時間遅延後に)記憶層23の磁化方向を切り換えるステップを含むことができる。磁気トンネル接合2を加熱するステップは、磁気トンネル接合2を高温しきい値に加熱するのに十分に高い大きさでスピン分極書き込み電流31を通電することによって実施できる。
【0010】
磁場線が必要ないので、TAS−STT書き込み操作で書き込みが行われるTAS−MRAMセル1のサイズは従来のMRAMセルに比べて減少させることができる。TAS−MRAMセル1の他の利点は、記憶層磁化を切り換えるのに必要なスピン分極書き込み電流の大きさが従来のMRAMセルに比べて低いので、書き込み操作が速く、電力消費が低いことである。したがって、TAS−STT書き込み操作と組み合わせたTAS−MRAMセル1は、高密度のMRAMベースデバイスを実現するための最も有望な手段と考えられる。
【0011】
スピン分極書き込み電流は、磁気トンネル接合の面積又は記憶層の体積に反比例して増減する。したがって、記憶層のサイズを減少させることによって、記憶層の磁化方向を切り換えるのに必要なスピン分極書き込み電流の大きさを減少させることができる。しかし、記憶層の厚さ(したがって体積)の減少は、磁気トンネル接合の磁気抵抗の減少をもたらす。
【0012】
図1に示されるものなど従来のMRAMセルでは、磁気トンネル接合が、トンネル障壁層と上部電極の間に配設された記憶層を備える。したがって、磁気トンネル接合の製造中、トンネル障壁層の上に記憶層を成長させる。図2に、MRAMセルの磁気トンネル接合の磁気抵抗(TMR)が記憶層の厚さに対してプロットされている。Co70Fe30合金(黒い星)とCo60Fe20B20合金(白い星)から成る記憶層に関して磁気抵抗を測定した。図2から分かるように、磁気抵抗は、厚さが約2〜3.5nmの記憶層に関しては約150%の値を有し、記憶層の厚さが2nm未満に減少されると急速に減少する。Co70Fe30合金から成る記憶層に関しては約1.5nmの記憶層厚さで、またCo60Fe20B20合金から成る記憶層に関しては1.2nmで、磁気抵抗が0%に低下する。したがって、スピン分極書き込み電流の大きさを減少させるために記憶層の厚さを減少させることは、磁気抵抗を犠牲にし、したがってMRAMセルの読み出しマージンを犠牲にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5640343号明細書
【特許文献2】米国特許第5583725号明細書
【特許文献3】米国特許第6950335号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明は、これらの欠点を克服することを狙いとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、熱アシスト書き込み操作又はスピントルクトランスファーに基づいた書き込み操作を実施するのに適した磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルであって、磁気トンネル接合を備えることができ、磁気トンネル接合が、上部電極と、第1磁化方向を有する第1強磁性層と、第1磁化方向に対して調節することができる第2磁化方向を有する第2強磁性層と、第1強磁性層と第2強磁性層の間のトンネル障壁層と、前端層とを備え、第2強磁性層が前端層とトンネル障壁層の間にあり、磁気トンネル接合が磁性層又は金属層を備え、磁性層又は金属層の上に第2強磁性層が堆積され、第2強磁性層が約0.5nm〜約2nmの厚さを有し、磁気トンネル接合が約100%よりも大きい磁気抵抗を有する磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルに関する。
【0016】
さらに別の実施形態では、磁気トンネル接合にスピン分極電流を通電することによって、第2強磁性層の第2磁化方向を可逆に調節することができる。
【0017】
さらに別の実施形態では、第2強磁性層は、Fe、Ni、Co、Cr、V、Si、及びBのうちの1つ、又はこれらの任意の組合せを有する合金から製造され得る。
【0018】
さらに別の実施形態では、磁気トンネル接合はさらに、第2強磁性層と接触する下層を備えることができる。
【0019】
さらに別の実施形態では、下層は、Ta、Ti、Cu、Ru、NiFe、TiW、NiFeCr、CoSiのうちの1つを含む、又はTaN、TiN、CuN、TiWN、CoSiNのうちの1つを含む金属多結晶合金から製造され得る。
【0020】
さらに別の実施形態では、下層は、約1nm〜約100nmの厚さを有することができる。
【0021】
さらに別の実施形態では、磁性層又は金属層が反強磁性記憶層を備える。
【0022】
さらに別の実施形態では、前記磁性層又は金属層が底部電極を備える。
【0023】
また、本発明は、MRAMセルを製造するための方法であって、
磁性層又は金属層の上に第2強磁性層を堆積するステップと、
第2強磁性層の上にトンネル障壁層を堆積するステップと、
トンネル障壁層の上に第1強磁性層を堆積するステップと
を含み、
第2強磁性層を約0.5nm〜約2nmの厚さで堆積することができる方法に関する。
【0024】
一実施形態では、磁気トンネル接合がさらに底部電極を備えることができ、方法がさらに、底部電極を堆積するステップと、底部電極の上に第2強磁性層を堆積するステップとを含むことができる。
【0025】
別の実施形態では、磁気トンネル接合はさらに反強磁性記憶層を備えることができ、方法がさらに、底部電極と第2強磁性層との間に反強磁性記憶層を堆積するステップを含むことができる。
【0026】
さらに別の実施形態では、方法はさらに、金属多結晶合金から成る下層を堆積するステップを含むことができ、第2強磁性層を堆積する前記ステップが、下層の上に第2強磁性層を堆積するステップを含む。
【0027】
さらに別の実施形態では、下層は、約1nm〜約100nmの厚さで堆積することができる。
【0028】
さらに別の実施形態では、第2強磁性層は、下層の結晶学的構造が第2強磁性層の結晶学的構造と合致するように堆積することができる。
【0029】
さらに別の実施形態では、前記第2強磁性層は、約0.2nm rms未満の粗さ及び約15nmよりも小さい粒径で堆積することができる。
【0030】
本明細書で開示するMRAMセルは、記憶層の磁化方向を切り換えるのに必要なスピン分極書き込み電流の大きさを、従来のMRAMセルで必要な電流の大きさに比べて2分の1以下に減少させることができるようにし、しかも約100%以上の磁気抵抗を有する。
【0031】
本明細書で開示するMRAMセルを製造するための方法は、堆積される記憶層の形態学的特性及び結晶学的構造のより良い制御を可能にする。例えば、記憶層の細粒構造を得ることができ、それにより、記憶層の磁化を切り換えるのに必要な磁場を、従来の磁気トンネル接合の記憶層に比べて減少させることができる。開示するMRAMセル及び方法の他の利点は、以下の詳細な説明で見ることができる。
【0032】
本発明は、例として提示する図面に示される実施形態の説明により、より良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】記憶層を有する磁気トンネル接合を備える従来の磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルの概略図である。
【図2】記憶層の厚さに対してプロットされた従来のMRAMセルで測定される磁気抵抗を示す図である。
【図3】一実施形態による、第2強磁性層を有する磁気トンネル接合を備えるMRAMセルを示す図である。
【図4】第2強磁性層の厚さに対する図3のMRAMセルで測定される磁気抵抗を示す図である。
【図5】磁気トンネル接合を流れるスピン分極書き込み電流密度の強度に対する図3のMRAMセルのスイッチングレートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図3は、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セル10を示す。MRAMセル10は磁気トンネル接合2を備え、磁気トンネル接合2は、上から下へ、第1磁化方向を有する第1強磁性層21と、トンネル障壁層22と、第1磁化方向に対して調節することができる第2磁化方向を有する第2強磁性層23とを備える。上部電極又は電流線4が、第1強磁性層21の側で磁気トンネル接合2に電気的に接続される。図3にはCMOS選択トランジスタ3によって表されている前端層が、第2強磁性層23の側で、場合によっては底部電極5を介して磁気トンネル接合2に電気的に接続される。前端層は、例えば、単結晶シリコンの上に配設された酸化ケイ素や低誘電率誘電体材料など誘電体からなる層を1層又は複数層備えることができる。前端層は、他の導電層、又は選択トランジスタ3や任意の他のスイッチングデバイスなど他の半導体素子を含むこともある。
【0035】
図3の磁気トンネル接合2の構成では、トンネル障壁層22、電流線4、及び底部電極5に対する第2強磁性層23と第1強磁性層21の位置が、図1の従来のTAS−MRAMセル1の構成と逆になっている。特に、第2強磁性層23が前端層3とトンネル障壁層22との間に位置される。
【0036】
一実施形態によれば、第2強磁性層23は、Fe、Ni、Co、Cr、Vのうちの1つを母材とする合金、又はそれらの任意の元素の組合せを含む強磁性材料から製造される。合金はさらにSi及び/又はホウ素(B)を含むことができる。好ましくは、第2強磁性層23は、CoFeBSi合金から成り、ここでxは原子重量で0%〜25%にあり、yは原子重量で0%〜10%にある。第1強磁性層21は、Fe、Co、又はNiを母材とする合金から成り、ここでCo及び/又はFe合金はさらにBを含むことができる。トンネル障壁層22は、例えばとりわけ酸化アルミニウムAlと酸化マグネシウムMgOを含む群から選択される酸化物から製造された絶縁層でよい。あるいは、トンネル障壁層22は、半導電性の層(例えばシリコンもしくはゲルマニウム又はGaAsを母材とする層)でよく、又は異種金属/酸化物層でよく、例えば、ハードドライブ用の磁気抵抗リーダーヘッドの文脈で開発される電流狭窄路を有する層である。これらは、例えば、酸化されたAl1−xCu合金(xは原子重量で0.5〜10%)から構成され、金属銅穴を開けられたアモルファスアルミナ層を製造する。
【0037】
一実施形態によれば、第2強磁性層又は記憶層23は、その磁化方向を可逆に調節可能である。スピントルクトランスファー(STT)方式に基づく書き込み操作は、選択トランジスタ3が飽和モードに設定されているときに、電流線4でスピン分極書き込み電流31を磁気トンネル接合2に通電するステップを含む。スピン分極書き込み電流31は第1強度で流され、この第1強度は、スピン分極書き込み電流31によって誘起される局所スピントルクに従って記憶層23の磁化を可逆に調節するのに適している。記憶層23の磁化は、第1強磁性層又は基準層21の固定された第1磁化に対して調節される。
【0038】
一変形形態では、書き込み操作はさらに、磁気トンネル接合2を加熱するステップを含む。これは、第1強度よりも高い第2強度でスピン分極書き込み電流31を通電することによって達成することができ、磁気トンネル接合2は高温しきい値まで加熱され、その温度で、記憶層23の磁化を自由に調節することができるようになる。次いで、スピン分極書き込み電流31の大きさが第1強度まで減少され、それにより、記憶層23の磁化はスピン分極書き込み電流31によって整列されたままとなり、磁気トンネル接合2の温度は低温しきい値に達し、その温度で、記憶層磁化は書き込まれた状態で固定される。次いで、選択トランジスタ3を遮断モードに設定することによってスピン分極書き込み電流31をオフすることができる。
【0039】
別の実施形態では、書き込み操作は外部磁場に基づいており、記憶層23の磁化方向を整列させるために適合された磁場を発生するような強度及び極性で電流線4に磁場電流(図示せず)を通電するステップを含む。これは、磁場電流が磁気トンネル接合2を通って流れないように選択トランジスタ3を遮断モードにして行われる。また、磁場に基づいた書き込み操作は、磁気トンネル接合2を加熱するステップを含むこともできる。例えば、選択トランジスタ3が飽和モードであるときに、第1ビット線4を介して磁気トンネル接合2に加熱電流(図示せず)を通電することができる。磁気トンネル接合が所定の高いしきい値温度に達すると、記憶層23の磁化は外部磁場内で整列される。そのような熱アシストスイッチング書き込み操作は、より詳細には特許文献3に説明されている。
【0040】
一実施形態によれば、磁気トンネル接合2はさらに、底部電極5と記憶層23の間に配設された反強磁性記憶層24を備える。反強磁性記憶層24は、低温しきい値では記憶層23の磁化方向をピン止め又は固定するように記憶層23に交換結合する。高温しきい値では、記憶層23の磁化は、反強磁性記憶層24によってもはやピン止めされず、スピン分極書き込み電流31の下で自由に調節することができる。反強磁性記憶層は、IrMnやFeMnなどマンガンを母材とする合金、又は任意の他の適切な材料から製造することができる。高温しきい値は、典型的には約120℃以上の温度である。磁気トンネル接合2はさらに反強磁性基準層25を備えることができ、反強磁性基準層25は、好ましくは基準層21と電流線4の間に配設され、高温しきい値で基準層21の磁化をピン止めする。反強磁性基準層25は、好ましくはマンガン(Mn)を母材とする合金から製造され、例えばPtMn、NiMn、IrMn、及びFeMnのうちの1つを含む。
【0041】
別の実施形態(図示せず)によれば、基準層21が3層合成反強磁性ピンド層を備え、この3層合成反強磁性ピンド層は、典型的には第1強磁性基準層と第2強磁性基準層を備え、これらの強磁性基準層は、共にFe、Co、又はNiを母材とする合金から製造され、それらの間に例えばルテニウムからなる非強磁性基準層を挿入することによって反強磁性結合される。あるいは、記憶層23を合成フェリ磁性体自由層及び3層合成反強磁性構造から製造することもできる。
【0042】
さらに別の実施形態では、MRAMセル10は、本出願人による同時係属中の米国特許第6950335号明細書に記載されるものなど、自己参照型セルとして使用される。この構成では、第1強磁性層21が記憶層として使用され、したがって書き込み操作中、第1強磁性層21の磁化方向を例えば外部磁場によって初期安定方向から切換え後の安定方向に切り換えることができる。第2強磁性層23はセンス層として使用され、したがって読み出し操作中、第2強磁性層23の磁化方向を例えば外部磁場によって自由に整列させることができる。
【0043】
MRAMセル10が自己参照型セルとして使用される場合、センス層として使用される薄い第2強磁性層23は、その磁化を整列させるのに必要なスイッチング磁場がより低く、整列された第2強磁性層23の磁化によって誘起される磁場は、従来の自己参照型MRAMセルに比べて、(ここでは記憶層として使用される)第1強磁性層21の磁化に対する影響が小さい。
【0044】
一実施形態によれば、MRAMセル1の磁気トンネル接合2を製造する方法は、反強磁性記憶層24を堆積するステップと、反強磁性記憶層24の上に第2強磁性層23を堆積するステップとを含む。この方法はさらに、第2強磁性層23の上にトンネル障壁層22を堆積するステップと、トンネル障壁層22の上に第1強磁性層21を堆積するステップとを含む。さらに、この方法は、第1強磁性層21の上に反強磁性基準層25を堆積するステップと、反強磁性基準層25の上に上部電極層4を堆積するステップとを含む。
【0045】
一実施形態では、この方法はさらに、底部電極5を堆積するステップと、底部電極5の上に第2強磁性層23を堆積するステップとを含む。これは、例えば、磁気トンネル接合2が反強磁性層24を備えない場合、又は反強磁性層24が磁気トンネル接合内で第2強磁性層23よりも下の別の位置に配設される場合に実施できる。
【0046】
あるいは、第2強磁性層23が磁性層又は金属層とトンネル障壁層22との間にあるという条件で、第2強磁性層23を任意の他の磁性層又は金属層(図示せず)の上に堆積することができる。実際、大きなトンネル磁気抵抗など磁気トンネル接合の磁気特性を保つためには、磁性層又は金属層を第2強磁性層23とトンネル障壁層22の間に挿間してはならない。一実施形態では、第2強磁性層23を堆積するステップは、スパッタリング堆積法を使用して、Co原子、Fe原子、及び場合によってはB原子を含む強磁性層を堆積するステップを含む。堆積法はスパッタリングに限定されず、任意の物理気相成長(PVD)、例えばMBE(分子線エピタキシ)、PLD(パルスレーザ堆積)などでもよい。第2強磁性層23は、前端層3とトンネル障壁層22の間に位置されるので、反強磁性層24や底部電極5など磁性層又は金属層の上に堆積することができる。このとき、堆積された第2強磁性層23は、従来の磁気トンネル接合のようにトンネル障壁層22の上に堆積される場合に比べて厚さを小さくすることができる。
【0047】
一実施形態によれば、第2強磁性層23は、約0.5nm〜約2nm、又は約1〜約10層の単原子層の厚さで堆積される。
【0048】
別の実施形態によれば、MRAMセルを製造する方法はさらに、下層6を堆積するステップを含む。下層6は、Ta、Ti、Cu、Ru、NiFe、TiW、NiFeCr、及びCoSiのうちの1つを含む金属多結晶合金から製造することができる。あるいは、下層6は、TaN、TiN、CuN、TiWN、CoSiNのうちの1つなど窒化物から製造することができる。窒化物から製造される下層6は、アモルファス又はセミアモルファス形態を実現することができる。下層6は、好ましくは約1nm〜約100nmの厚さで堆積することができる。次いで、下層6の上に第2強磁性層23が堆積される。
【0049】
第2強磁性層23が下層6の上に堆積されるとき、第2強磁性層23の成長のより良い成長を実現することができる。とりわけ、約0.2nm rms未満の粗さ及び約15nm未満の粒径を有する第2強磁性層23を、第2強磁性層23と結晶学的構造が合致する下層6の上に堆積することができる。この堆積法は、第2強磁性層23内の粒径の分散に対する制御を可能にする。第2強磁性層23の細粒構造は、第2強磁性層23の磁化を切り換えるために従来の磁気トンネル接合の記憶層に比べて低い磁場を使用することができるようにする。
【0050】
図4に、磁気トンネル接合2に関して測定された磁気抵抗(TMR)が、堆積された第2強磁性層23の厚さに対してプロットされている。300℃(白い星)及び340℃(黒い星)でアニールされたCo70Fe30合金から成る第2強磁性層23に関して、測定された磁気抵抗値が表されている。Co60Fe20B20合金から成る第2強磁性層23に関する磁気抵抗値も、300℃(白い円)及び340℃(黒い円)でアニールされたときについて表されている。アニーリングは、すべての場合に約1テスラの印加磁場の下で1時間30分にわたって行った。約1.2〜2.4nmの間で厚さを変化させた第2強磁性層23に関して、約100%〜120%の磁気抵抗が測定されている。とりわけ、図3のグラフは、厚さ約1.2nmの第2強磁性層23に関して約100%の磁気抵抗値を得ることができることを示す。
【0051】
さらなる測定(図示せず)で、Co70Fe30合金又はC60Fe20B20からなり、厚さ約0.5nm〜約2nmの第2強磁性層23に関して、約100%よりも大きい磁気抵抗値を得ることができることが示されている。その際、第2強磁性層23は、約280℃〜約360℃の温度で、約30分〜2時間30分のアニーリング時間にわたって、約0.5テスラ〜約2テスラの印加磁場の下でアニールした。図5に、厚さ約3nmの第2強磁性層又は記憶層23(白い円)を備える磁気トンネル接合1と、厚さ約1.2nm(黒い三角形)の記憶層23を備える磁気トンネル接合1に関するスピン分極書き込み電流密度31の関数として、MRAMセル1のスイッチングレートがプロットされている。この図では、スピン分極書き込み電流密度31が、持続時間約10nsの電流パルスとして磁気トンネル接合2に流されている。図5は、スピン分極書き込み電流31を約2×10A/cmの第1強度で磁気トンネル接合2に通電することによって、厚さ1.2nmの記憶層23の磁化を完全に切り換えることができること(スイッチングレート100%)を示す。厚さ3nmの記憶層23の場合、完全なスイッチング(100%)を実施するためには、スピン分極書き込み電流31の第1強度が6×10A/cmよりも高くなければならない。
【0052】
したがって、本明細書で開示する磁気トンネル接合2は、第2強磁性層23が約1nm〜2.4nmの厚さを有するときに、約100%〜120%の磁気抵抗値を実現できるようにする。とりわけ、第2強磁性層23の厚さが約0.5nm〜2nmであるときに約100%以上の磁気抵抗値を実現することができる。
【0053】
厚さ約3nmの第2強磁性層23に関してはスピン分極書き込み電流31を約6×10A/cmよりも高い第1強度で通電することによって、また第2強磁性層23の厚さが約1.2nmであるときにはスピン分極書き込み電流31を約2×10A/cmよりも高い大きさで通電することによって、第2強磁性層23の磁化を切り換えることができる。その結果、第2強磁性層23の磁化方向を切り換えるのに必要とされるスピン分極書き込み電流31の大きさは、第2強磁性層23の厚さが典型的には3nm超である従来のMRAMセルで必要とされる電流の大きさの2分の1以下にすることができる。さらに、TAS−MRAMセル1がTAS書き込み操作を使用して書き込みを行われる場合、高い磁気抵抗を、第2強磁性層23の低いスイッチング磁化と組み合わせることができる。低いスイッチング磁化は、第2強磁性層23の磁化方向を切り換えるのに必要なスピン分極書き込み電流31の大きさをさらに極力小さくできるようにする。
【0054】
同様に、外部磁場を用いて書き込みを実施するとき、本明細書で開示するMRAMセル10は従来のMRAMセルに比べて電力消費が低い。実際、薄い第2強磁性層23は、従来のMRAMセルで使用されるよりも低い外部磁場、したがって低い磁場電流を使用できるようにする。典型的には2nmよりも厚い第2強磁性層23の場合、外部磁場は、第2磁化で渦流状態を発生する可能性がより高くなる。したがって、第2磁化は、空間的により不均質になり、スイッチングのためにより高い磁場電流を必要とする。
【0055】
本明細書で開示した磁気トンネル接合2を備えるMRAMセル1を複数備えるアレイから、磁気メモリデバイス(図示せず)を製造することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 MRAMセル
2 磁気トンネル接合
21 第1強磁性層、基準層
22 トンネル障壁層
23 第2強磁性層、記憶層
24 反強磁性記憶層
25 反強磁性基準層
3 選択トランジスタ、前端層
31 スピン分極書き込み電流
4 上部電極、電流線
5 底部電極
6 下層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱アシスト書き込み操作又はスピントルクトランスファーに基づいた書き込み操作を実施するために適した磁気ランダムアクセスメモリセルにおいて、
当該磁気ランダムアクセスメモリセルは、磁気トンネル接合を備え、この磁気トンネル接合は、上部電極と、第1磁化方向を有する第1強磁性層と、前記第1磁化方向に対して調節され得る、第2磁化方向を有する第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間のトンネル障壁層と、前端層とから構成され、
前記第2強磁性層は、前記前端層と前記トンネル障壁層の間にあり、
さらに、前記磁気トンネル接合は、磁性層又は金属層を有し、前記第2強磁性層が、前記磁性層又は金属層上に堆積されていて、
前記第2強磁性層は、約0.5nm〜約2nmの厚さを有し、前記磁気トンネル接合は、約100%より大きい磁気抵抗を有する、磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項2】
前記第2強磁性層の前記第2磁化方向は、スピン分極電流を前記磁気トンネル接合に通電することによって可逆に調節され得る、請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項3】
前記第2強磁性層は、Fe、Ni、Co、Cr、V、Si及びBのうちの1つを有する合金から製造されるか又はこれらの任意の組合せを有する合金から製造される、請求項1に記載のMRAMセル。
【請求項4】
前記磁性層又は金属層は、前記第2強磁性層と接触する下層を有する、請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項5】
前記下層は、Ta、Ti、Cu、Ru、NiFe、TiW、NiFeCr、CoSiのうちの1つを有する金属多結晶合金又はTaN、TiN、CuN、TiWN、CoSiNのうちの1つを有する金属多結晶合金から成る、請求項4に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項6】
複数の磁気ランダムアクセスメモリセルをから成る磁気メモリデバイスにおいて、
各磁気ランダムアクセスメモリセルは、磁気トンネル接合を備え、この磁気トンネル接合は、上部電極と、第1磁化方向を有する第1強磁性層と前記第1磁化方向に対して調節可能な第2磁化方向を有する第2強磁性層との間に形成されたトンネル障壁層と、前端層と、前記第2強磁性層が堆積されている磁性層又は金属層とから構成され、
前記第2強磁性層は、前記前端層と前記トンネル障壁層との間に形成され且つ約0.5nm〜約2nmの厚さを有する結果、前記磁気トンネル接合は、約100%より大きい磁気抵抗を有する、磁気メモリデバイス。
【請求項7】
磁気トンネル接合を備える磁気ランダムアクセスメモリセルを製造するための方法であって、
前記磁気トンネル接合は、上部電極と、第1磁化方向を有する第1強磁性層と前記第1磁化方向に対して調節可能な第2磁化方向を有する第2強磁性層との間に形成されたトンネル障壁層と、前端層と、前記第2強磁性層が堆積されている磁性層又は金属層とから構成され、
前記第2強磁性層は、前記前端層と前記トンネル障壁層との間に形成され且つ約0.5nm〜約2nmの厚さを有する結果、前記磁気トンネル接合は、約100%より大きい磁気抵抗を有する当該方法において、
当該方法は、
前記第2強磁性層を磁性層又は金属層上に堆積するステップと、
前記トンネル障壁層前を前記第2強磁性層上に堆積するステップと、
前記第1強磁性層を前記トンネル障壁層上に堆積するステップとから成り、
前記第2強磁性層が、約0.5nm〜約2nmの厚さで堆積される方法。
【請求項8】
さらに、前記磁気トンネル接合は、底部電極を備え、さらに、前記方法は、前記底部電極を堆積するステップと、前記第2強磁性層を前記底部電極上に堆積するステップとを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらに、前記方法は、金属多結晶合金から成る下層を堆積するステップを有し、前記第2強磁性層を堆積する前記ステップは、前記第2強磁性層を前記下層上に堆積するステップから成る、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第2強磁性層は、約0.2nm rms未満の粗さで且つ約15nm未満の粒径で堆積される、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−151476(P2012−151476A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−7603(P2012−7603)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(509096201)クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム (33)
【Fターム(参考)】